説明

リチウムイオン伝導性材料、リチウムイオン伝導性電解質膜、リチウムイオン伝導性電解質膜−電極接合体及びリチウムイオンポリマー電池

【課題】イオン伝導性が高く、耐久性及び安全性に優れたリチウムイオン伝導性電解質膜の提供。
【解決手段】リチウムイオン伝導作用部位含有構造体(A)及び多官能基含有構造体(B)の結合体と、リチウムイオン電解質(C)と、を含有し、前記結合体は、前記構造体(B)が、複数の前記構造体(A)と結合してなり、前記構造体(A)は、アニオン性、ノニオン性、カチオン性又は双性の官能基を有する鎖状分子であり、前記構造体(B)は、三つ以上の不飽和結合を有する化合物を少なくとも含む架橋剤が結合されてなる、略球状の三次元構造体であり、且つその表面に前記構造体(A)が結合して層構造をなし、前記層構造の空隙部に、前記リチウムイオン電解質(C)が含まれているリチウムイオン伝導性材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン伝導性材料、該リチウムイオン伝導性材料を使用したリチウムイオン伝導性電解質膜、該リチウムイオン伝導性材料又はリチウムイオン伝導性電解質膜を使用したリチウムイオン伝導性電解質膜−電極接合体、及び該リチウムイオン伝導性電解質膜−電極接合体を備えたリチウムイオンポリマー電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、1991年に初めて量産されて以来、ノートパソコン、携帯電話、デジタルカメラなどのデジタル携帯機器に搭載されている。そして、今後はハイブリッド自動車(HEV)、電気自動車(EV)などの車載用途をはじめ、医療、情報分野などの様々な分野への展開が予想されている。そこで、このような今後の展開に応えるべく、リチウムイオン電池には、性能、製造技術及び管理技術のさらなる向上が求められている。
【0003】
近年、改めて高エネルギー密度と高電圧を有する蓄電池として、リチウムイオン二次電池が注目されている。一般に、リチウムイオン二次電池は、マンガン酸リチウム、リン酸鉄リチウム、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム等のリチウム含有複合酸化物を活物質とする正極と、コークス、黒鉛、ハードカーボン等の炭素材料を活物質とする負極と、電極間の絶縁性とリチウムイオンの移動経路を確保するポリエチレン製、ポリプロピレン製のセパレーターと、セパレーターに含侵された非プロトン性溶媒等のリチウムイオン伝導性電解質と、六フッ化リン酸リチウム、過塩素酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム等のリチウム塩と、から構成されている。
【0004】
リチウムイオン伝導性電解質として最も一般的な電解液は、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートなどの有機溶媒を主たる構成成分とし、このようなリチウムイオン二次電池は、有機溶媒が漏れて引火し、火災等の大きな事故を引き起こす危険性があり、必ずしも安全であるとは言えない。また、過負荷がかかると電解液が電極と反応して、電池容量が低下してしまうことがある。すなわち、用途が多様化するリチウムイオン二次電池において、電池の安全性と信頼性の向上は急務の課題であり、単純な有機溶媒のみの系に代わる新たな電解質の開発に大きな期待が寄せられている。
【0005】
リチウムイオン二次電池用の電解質には、高いリチウムイオン伝導性、難燃性、高耐久性等を兼ね備えることが要求される。これらの性能を実現するために、これまでに、種々の電解液、あるいはゲル電解質やポリマー電解質などの固体電解質が開示されている(特許文献1〜8参照)。例えば、電解液に界面活性剤等の添加剤を添加することで、電極活物質表面に形成される固体電解質界面膜を制御し、電解液の副反応を抑制することで、電池の耐久性が向上することが確認されている。また、アクリレート基やメタクリレート基を有するモノマーを重合して得られるポリマーを用いた電解質は、多くの電解液を保持でき、ゲル電解質として使用することで、様々な電池特性が向上することが確認されている。そして、固体電解質の中では、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド骨格を有する化合物は、最も盛んに研究されているリチウムイオン伝導性材料の一つである。これらリチウムイオン伝導性材料は、ガラス転移温度が低く、分子運動によるリチウムイオン伝導が可能であるが、高温では柔らかくなって電解質強度が低下したり、低温では分子運動が鈍り、イオン伝導性が急激に低下することが多くの事例で確認されている。これに対して、塩モノマー成分によるイオン的な相互作用を利用することによって、低温でのイオン伝導性を促進することが報告されている。また、櫛型構造の高分子化合物や、側鎖にウレタン結合が導入された高分子化合物を利用することにより、高いイオン伝導性と膜強度とを両立できるとの報告もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2002/093679号パンフレット
【特許文献2】特許第4427213号公報
【特許文献3】特開2004−87196号公報
【特許文献4】特開2000−313800号公報
【特許文献5】特開平11−080296号号公報
【特許文献6】特許第2669299号公報
【特許文献7】特許第4240894号公報
【特許文献8】特開2003−213066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような中、リチウムイオン二次電池の安全性を向上させるために、電解質が含有する電解液の量を削減したり、電解液を含有しない固形状電解質を使用することによる、液漏れの抑制が検討されている。しかし固形状電解質は、一般的に電解液系よりもイオン伝導性が低く、電気自動車用途に必要な急速充放電への対応が非常に困難であるという問題点があった。また、イオン伝導性を向上させるために、電解質中のリチウム塩濃度を高くすると、電解液系では粘度が上昇して作業性が悪化し、逆にイオン伝導性が低下してしまうという問題点があった。また、固形状電解質では、電解質強度が低下して、形状が崩れてしまい、特に成膜性を維持することが非常に困難であり、耐久性が低いという問題点があった。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、イオン伝導性が高く、耐久性及び安全性に優れたリチウムイオン伝導性電解質膜、該リチウムイオン伝導性電解質膜の製造に好適なリチウムイオン伝導性材料、該リチウムイオン伝導性材料又はリチウムイオン伝導性電解質膜を使用したリチウムイオン伝導性電解質膜−電極接合体、及び該リチウムイオン伝導性電解質膜−電極接合体を備えたリチウムイオンポリマー電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、
本発明は、リチウムイオン伝導作用部位含有構造体(A)及び多官能基含有構造体(B)の結合体と、リチウムイオン電解質(C)と、を含有するリチウムイオン伝導性材料であって、前記結合体は、前記多官能基含有構造体(B)が、複数の前記リチウムイオン伝導作用部位含有構造体(A)と結合してなり、前記リチウムイオン伝導作用部位含有構造体(A)は、アニオン性、ノニオン性、カチオン性又は双性の官能基を有する鎖状分子であり、前記多官能基含有構造体(B)は、三つ以上の不飽和結合を有する化合物を少なくとも含む架橋剤が結合されてなる、略球状の三次元構造体であり、且つその表面に前記リチウムイオン伝導作用部位含有構造体(A)が結合して層構造をなし、前記層構造の空隙部に、前記リチウムイオン電解質(C)が含まれていることを特徴とするリチウムイオン伝導性材料を提供する。
また、本発明は、かかるリチウムイオン伝導性材料において、前記リチウムイオン伝導作用部位含有構造体(A)及び/又は前記多官能基含有構造体(B)が、下記一般式(I)で表される金属−酸素結合による架橋構造を含む金属−酸素結合型構造体(D)を重合成分として含むものであり、前記リチウムイオン伝導作用部位含有構造体(A)及び多官能基含有構造体(B)が、重合性不飽和二重結合及び/又は金属−酸素結合を介して結合し、前記結合体が粒子状構造であることを特徴とするリチウムイオン伝導性材料を提供する。
【0010】
【化1】

(式中、Mはそれぞれ独立にケイ素原子、チタン原子、アルミニウム原子、バナジウム原子、ジルコニウム原子、スズ原子又はクロム原子であり;Rは炭素数1〜100の二価の炭化水素基若しくはアルキレンオキシド又は酸素原子であり;R、R、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、フェニル基、アセトナート基、アセチルアセトナート基、アセテート基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシキ基、イソプロポキシキ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニル基、アリル基、水酸基又は式「−O−M−」で表される基であり、少なくとも一つはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシキ基、イソプロポキシキ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニル基、アリル基、水酸基又は式「−O−M−」で表される基であり;n、n、n及びnは0又は1であり、「n+n+2」及び「n+n+2」はMの原子価に一致し;mは1以上の整数であり、mが2以上である場合には、複数のMはそれぞれ互いに同一でも異なっていても良く、複数のR、R及びRはそれぞれ互いに同一でも異なっていても良く、複数のn及びnはそれぞれ互いに同一でも異なっていても良い。)
また、本発明は、かかるリチウムイオン伝導性材料において、日本工業規格(JIS)の粘度測定法(JIS K 7117−2)に従い、回転数50rpm、温度20℃で測定した時の粘度が、10〜10000mPa・sであることを特徴とするリチウムイオン伝導性材料を提供する。
また、本発明は、かかるリチウムイオン伝導性材料において、前記リチウムイオン伝導作用部位含有構造体(A)の分子量M、及び前記多官能基含有構造体(B)の分子量Mが、M/M=0.01〜100の関係を満たすことを特徴とするリチウムイオン伝導性材料を提供する。
また、本発明は、かかるリチウムイオン伝導性材料において、さらに、リチウムイオン伝導性液体(E)を含有することを特徴とするリチウムイオン伝導性材料を提供する。
また、本発明は、かかるリチウムイオン伝導性材料において、さらに、添加剤(F)として、ルイス酸(F1)、リン酸エステル(F2)及び無機粒子(F3)からなる群より選択される少なくとも一種を含有することを特徴とするリチウムイオン伝導性材料を提供する。
また、本発明は、かかるリチウムイオン伝導性材料を使用したことを特徴とするリチウムイオン伝導性電解質膜を提供する。
また、本発明は、かかるリチウムイオン伝導性電解質膜において、前記リチウムイオン伝導性材料が、多孔質基材(G)に含浸されていることを特徴とするリチウムイオン伝導性電解質膜を提供する。
また、本発明は、かかるリチウムイオン伝導性材料を電極上に形成し、乾燥又は紫外線硬化させて成膜した後、該膜上に対電極を配置して熱硬化することにより、リチウムイオン伝導性電解質膜を前記電極及び対電極と接合したことを特徴とするリチウムイオン伝導性電解質膜−電極接合体を提供する。
また、本発明は、かかるリチウムイオン伝導性電解質膜の一方の面に正極が、他方の面に負極がそれぞれ接合されたことを特徴とするリチウムイオン伝導性電解質膜−電極接合体を提供する。
また、本発明は、かかるリチウムイオン伝導性電解質膜−電極接合体を備えたことを特徴とするリチウムイオンポリマー電池を提供する。
また、本発明は、かかるリチウムイオンポリマー電池において、前記リチウムイオン伝導性電解質膜−電極接合体をラミネートセルに組んでなる複数の単位セルが、積層及び連結されたことを特徴とするリチウムイオンポリマー電池を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、イオン伝導性が高く、耐久性及び安全性に優れたリチウムイオン伝導性電解質膜が得られる。かかるリチウムイオン伝導性電解質膜は、本発明のリチウムイオン伝導性材料を使用することで、リチウムイオンを従来よりも高濃度で含みながら、高いイオン伝導性を有し、且つ耐久性に優れる。また、難燃性の固形状電解質であるため、火災や液漏れの心配が無く、安全性に優れる。そして、このようなリチウムイオン伝導性材料又はリチウムイオン伝導性電解質膜を使用したリチウムイオン伝導性電解質膜−電極接合体を備えたリチウムイオンポリマー電池は、充放電特性、安全性及び信頼性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳しく説明する。なお、本発明において、Mは数平均分子量を、Mは質量平均分子量をそれぞれ表す。
【0013】
[リチウムイオン伝導性材料]
本発明のリチウムイオン伝導性材料は、リチウムイオン伝導作用部位含有構造体(A)(以下、構造体(A)と略記することがある)及び多官能基含有構造体(B)(以下、構造体(B)と略記することがある)の結合体と、リチウムイオン電解質(C)と、を含有するリチウムイオン伝導性材料であって、
前記結合体は、前記構造体(B)が、複数の前記構造体(A)と結合してなり、
前記構造体(A)は、アニオン性、ノニオン性、カチオン性又は双性の官能基を有する鎖状分子であり、
前記構造体(B)は、三つ以上の不飽和結合を有する化合物を少なくとも含む架橋剤が結合されてなる、略球状の三次元構造体であり、且つその表面に前記構造体(A)が結合して層構造をなし、
前記層構造の空隙部に、前記リチウムイオン電解質(C)が含まれていることを特徴とする。
【0014】
<リチウムイオン伝導作用部位含有構造体(A)>
構造体(A)は、アニオン性、ノニオン性、カチオン性又は双性の官能基を有する鎖状分子であり、その複数が後述する一つの構造体(B)と結合することで、構造体(B)の三次元構造体表面で層構造を形成する。
【0015】
構造体(A)は、直鎖状及び分岐鎖状のいずれでも良いが、直鎖状であることが好ましい。
また、構造体(A)は、高分子であることが好ましく、具体的には、分子量Mが1000〜1000000であることが好ましい。1000以上とすることで、後述するリチウムイオン伝導性電解質膜の強度がより向上し、実用性が一層高いものとなる。また、1000000以下とすることで、構造体(A)の溶解性がより向上し、粘度がより低下するなど、取り扱い性が一層良好となる。
【0016】
本発明において、「リチウムイオン伝導作用」とは、リチウムイオンの移動(伝導)に大きな影響を与える作用をいう。その作用には、(i)リチウムイオンと、リチウムイオンが配位し得る部位を有し、分子運動している分子鎖との間で生じる相互作用、(ii)リチウムイオンと、リチウムイオンとの親和性が低い部位(例えば、正電荷部位)を有する分子鎖との間で生じる反発(例えば、クーロン反発)による相互作用の二種類がある。本発明においては、前記リチウムイオン伝導作用を有する部位を「リチウムイオン伝導作用部位」という。
前記リチウムイオン伝導作用は、前記二種類の相互作用のうち、いずれか一方のみによって生じる場合と、両方によって生じる場合とがある。
【0017】
リチウムイオン伝導作用が、二種類の相互作用のうち、いずれか一方のみによって生じる場合としては、リチウム塩にリチウムイオン配位部位を有する分子鎖が近付き、リチウムイオンをカウンターアニオンから引き離してリチウムイオン配位部位に配位させ(ステップ1)、次に分子運動によって配位部位が動き、近傍の別の配位部位にリチウムイオンが移動する(ステップ2)という二段階のステップを生じる場合が例示できる。
【0018】
リチウムイオン伝導作用が、二種類の相互作用の両方によって生じる場合としては、リチウム塩にリチウムイオン反発部位を有する分子鎖が近付き、リチウムイオンからカウンターアニオンを引き離し(ステップ1)、近傍の別のリチウムイオン反発部位がこのリチウムイオンに近付くことによって、これらが反発し合い、リチウムイオンが移動する(ステップ2)という二段階のステップを生じる場合と、リチウムイオン配位部位を有する分子鎖に第一のリチウムイオンが配位し(ステップ1)、続いて第二のリチウムイオンが第一のリチウムイオンの近傍に近づき、これらリチウムイオンがクーロン力によって反発し合い、リチウムイオンが移動する(ステップ2)、という二段階のステップを生じる場合が、それぞれ例示できる。
【0019】
ここで、「リチウムイオン配位部位」とは、リチウムイオンを配位し得る部位のことである。具体的には、非共有電子対を有する原子団から構成される官能基が例示できる。そして、該官能基としては、カルボニル基、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、シアノ基、イミノ基、エーテル結合、エステル結合等が例示できる。
【0020】
また、「リチウムイオン配位部位」としては、負電荷を有する原子団から構成される官能基も例示できる。しかし、1価の正電荷を有するリチウムイオンと負電荷を有する前記官能基との相互作用が強過ぎる場合には、前記官能基に配位したリチウムイオンが離れにくくなり、リチウムイオンの移動(伝導)が妨げられることがある。また、相互作用が弱過ぎる場合には、前記官能基に配位したリチウムイオンがすぐに離れてしまい、分子鎖の運動にリチウムイオンがついてこられないことがある。
このような理由から、リチウムイオン配位部位としては、非共有電子対を有する原子団から構成される官能基が好ましい。
【0021】
したがって、「リチウムイオン配位部位のリチウムイオン伝導作用」とは、リチウムイオン配位部位を有する分子鎖が分子運動することに伴って、近傍のリチウムイオンがリチウムイオン配位部位へ動いて、リチウムイオンが伝導することを促す作用をいう。また、「リチウムイオン伝導」は、リチウムイオン単独の伝導以外に、リチウムイオンが配位しているリチウムイオン配位部位を有する分子鎖の移動(拡散)も含む概念である。
【0022】
一方、「リチウムイオン反発部位」とは、物理化学的な力(例えば、正電荷同士のクーロン力)によってリチウムイオンを遠ざけようとする部位(反発し得る部位)のことである。そして、当該部位としては、リチウムイオン単体と反発する部位だけでなく、リチウムイオンが配位している状態のリチウムイオン伝導体(リチウムイオンの配位子又はリチウムイオンの包含体)と反発する部位も例示できる。
リチウムイオン反発部位として、具体的には、正電荷を有する原子団から構成される官能基、疎水性基が例示できる。そして、正電荷を有する原子団から構成される官能基としては、クロリドやブロミド等の四級アンモニウム塩(四級アンモニウムの塩化物や臭化物)が例示でき、前記疎水性基としては、フェニル基等が例示できる。
なお、リチウムイオンが既に配位している部位は、該リチウムイオンの正電荷によって他のリチウムイオンを反発し得ることから、リチウムイオン反発部位となり得る。
【0023】
したがって、「リチウムイオン反発部位のリチウムイオン伝導作用」とは、リチウムイオン反発部位を有する分子鎖が分子運動することに伴って、近傍のリチウムイオンがリチウムイオン反発部位から遠ざかるように動いて、リチウムイオンが伝導することを促す作用をいう。さらに、「リチウムイオン伝導」は、配位したリチウムイオンと遊離したリチウムイオン(リチウムイオン団)との相互作用(クーロン反発)に伴う、遊離したリチウムイオン(リチウムイオン団)の移動(拡散)も含む概念である。
【0024】
好ましい構造体(A)として、具体的には、リチウムイオン配位部位及び重合性不飽和二重結合を有するアニオン性又はノニオン性のリチウムイオン伝導作用部位含有化合物、リチウムイオン反発部位及び重合性不飽和二重結合を有するカチオン性のリチウムイオン伝導作用部位含有化合物、リチウムイオン配位部位、リチウムイオン反発部位及び重合性不飽和二重結合を有する双性のリチウムイオン伝導作用部位含有化合物が例示できる。ここで、重合性不飽和二重結合は、後述する構造体(B)との結合を形成し得る部位である。
【0025】
(リチウムイオン配位部位及び重合性不飽和二重結合を有するアニオン性のリチウムイオン伝導作用部位含有化合物)
リチウムイオン配位部位及び重合性不飽和二重結合を有するアニオン性のリチウムイオン伝導作用部位含有化合物(以下、アニオン性化合物と略記することがある)としては、p−スチレンスルホン酸ナトリウム、2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、ビニルスルホン酸ナトリウム、2−(メタクリロイルオキシ)エチルスルホン酸ナトリウム、3−スルホプロピルメタクリル酸カリウム、4,4’−ジアミノスチルベン−2,2’−ジスルホン酸ジナトリウム、ビス(3−スルホプロピル)イタコン酸ジカリウム、3−アリロキシー2−ヒドロキシー1−プロパンスルホン酸ナトリウム、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、マレイン酸ナトリウム等のモノマーである原料化合物(A)が重合したオリゴマー又はポリマーが例示できる。
前記オリゴマー又はポリマーは、一種の前記モノマーが単独で重合したものでも良いし、二種以上の前記モノマーが共重合したものでも良い。
【0026】
(リチウムイオン配位部位及び重合性不飽和二重結合を有するノニオン性のリチウムイオン伝導作用部位含有化合物)
リチウムイオン配位部位及び重合性不飽和二重結合を有するノニオン性のリチウムイオン伝導作用部位含有化合物(以下、ノニオン性化合物と略記することがある)としては、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルアクリレート、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、ジエチルアリルマロネート、エチレングリコールモノアセトアセテートモノメタクリレート、アリルアセトアセテート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、3−メトキシアクリロニトリル、3−(ジメチルアミノ)アクリロニトリル、アリルメチルカーボネート、4−ビニル−1,3−ジオキソラン−2−オン、ジ(エチレングリコール)ジアクリレート、トリ(エチレングリコール)ジビニルエーテル、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジメタクリレート、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート、グリセロールプロポキシレートトリアクリレート、ジ(トリメチロールプロパン)テトラアクリレート、トリス[2−(アクリロイルオキシ)エチル]イソシヤヌレート、ジアリルカーボネート、ジアリルカーボネート等のモノマーである原料化合物(A)が重合したオリゴマー又はポリマーを、リチウムイオンにカチオン交換したものが例示できる。
前記オリゴマー又はポリマーは、一種の前記モノマーが単独で重合したものでも良いし、二種以上の前記モノマーが共重合したものでも良い。
【0027】
(リチウムイオン反発部位及び重合性不飽和二重結合を有するカチオン性のリチウムイオン伝導作用部位含有化合物)
リチウムイオン反発部位及び重合性不飽和二重結合を有するカチオン性のリチウムイオン伝導作用部位含有化合物(以下、カチオン性化合物と略記することがある)としては、2−メタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリド、3−アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、2−アクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリド、3−メタクリル酸アミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、メタクリル酸ジメチルアミノエチルベンジルクロライド、ポリ(エチレングリコール)フェニルエーテルアクリレート、アリルフェニルカーボネート、ジビニルベンゼン、スチレン等のモノマーである原料化合物(A)が重合したオリゴマー又はポリマーを、リチウム塩のカウンターアニオンにアニオン交換したものが例示できる。
なお、疎水性基であるフェニル基は、極性物質である前記リチウムイオン伝導体を反発し得る。
また、ポリ(エチレングリコール)フェニルエーテルアクリレート、アリルフェニルカーボネートは、ノニオン性化合物にも分類され得る。
前記オリゴマー又はポリマーは、一種の前記モノマーが単独で重合したものでも良いし、二種以上の前記モノマーが共重合したものでも良い。
【0028】
(リチウムイオン配位部位、リチウムイオン反発部位及び重合性不飽和二重結合を有する双性のリチウムイオン伝導作用部位含有化合物)
リチウムイオン配位部位、リチウムイオン反発部位及び重合性不飽和二重結合を有する双性のリチウムイオン伝導作用部位含有化合物(以下、双性化合物と略記することがある)は、アニオン性及びカチオン性の両方の性質を有する化合物であり、具体的には、1−(3−スルホプロピル)−2−ビニルピリジニウムヒドロキシド分子内塩、(ビニルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリド、リン酸2−(メタクリロイルオキシ)エチル2−(トリメチルアンモニオ)エチル等のモノマーである原料化合物(A)が重合したオリゴマー又はポリマーにおいて、リチウムイオン及び/又はリチウム塩のカウンターアニオンを配位させたものが例示できる。また、双性化合物には、双性イオン塩が含まれていても良い。
双性イオン塩としては、PSSハイドレート−オクタキス(テトラメチルアンモニウム)塩、ドデシルジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、(メトキシカルボニルスルファモイル)トリエチルアンモニウムヒドロキシド分子内塩、1−(ジメチルカルバモイル)−4−(2−スルホエチル)ピリジニウムヒドロキシド分子内塩、ヘキサデシルジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、オクタデシルジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、テトラデシルジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、テトラブチルアンモニウムアセタート、1−(3−スルホプロピル)ピリジニウムヒドロキサイド分子内塩、アセチル(キノリン−1−イウム−1−イル)アザニド、(トリメチルアンモニオ)アセタート、3−メチル−5−オキソ−2,5−ジヒドロ−1,2,3−オキサジアゾール−3−イウム−2−イド−4−カルボン酸、1,2,2−トリメチルジアザン−2−イウム−1−イド、1,2,2,2−テトラメチルジアザン−2−イウム−1−イド、1,1,1−トリメチルジアザン−1−イウム−2−スルホナート等が例示できる。
【0029】
構造体(A)は、一種のみでも良いし、二種以上でも良く、二種以上である場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0030】
<多官能基含有構造体(B)>
多官能基含有構造体(B)(以下、構造体(B)と略記することがある)は、三つ以上の不飽和結合を有する化合物を少なくとも含む架橋剤(以下、原料化合物(B)と略記することがある)が結合されてなる、略球状の三次元構造体である。
三つ以上の不飽和結合を有する化合物としては、1,3,5−トリアクリロイルヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジン、ジ(トリメチロールプロパン)テトラアクリレート、グリセロールプロポキシレートトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシレートトリアクリレート、トリメチロールプロパンプロポキシレートトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリス[2−(アクリロイロキシ)エチル]イソシアヌレート、1,3,5−トリアリル−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、2,4,6−トリアリロキシ−1,3,5−トリアジン等のモノマー;一種以上の前記モノマーが重合したオリゴマー又はポリマーが例示できる。
三つ以上の不飽和結合を有する化合物は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。
【0031】
前記架橋剤は、さらに、二つの不飽和結合を有する化合物を含んでいても良い。
二つの不飽和結合を有する化合物としては、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールエトキシレートジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールプロポキシレートジアクリレート、1,6−ヘキサンジイルビス[オキシ(2−ヒドロキシー3,1−プロパンジイル)]ビスアクリレート、3−(アクリロイロキシ)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピル3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロピオネートジアクリレート、ビス[2−(メタクリロイロキシ)エチル]ホスファート、ビスフェノールAプロポキシレートジアクリレート、ジウレタンジメタクリレート、グリセロール1,3−ジグリセロレートジアクリレート、ヒドロキシピバリルヒドロキシピバレートビス[6−(アクリロイロキシ)ヘキサノエート]、N,N’−(1,2−ジヒドロキシエチレン)ビスアクリルアミド、N,N’―エチレンビス(アクリルアミド)、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールプロポキシレートジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレートモノステアレート、ポリ(プロピレングリコール)ジアクリレート、ポリ(プロピレングリコール)ジメタクリレート、プロピレングリコールグリセロレートジアクリレート、トリ(プロピレングリコール)ジアクリレート、トリ(プロピレングリコール)グリセロレートジアクリレート、トリメチロールプロパンエトキシレートメチルエーテルジアクリレート、2,2’,6,6’−テトラブロモビスフェノールAジアリルエーテル、2,2’−ジアリルビスフェノールA、アリルエーテル、ジアリルカーボネート、マレイン酸ジアリル、ジアリルスクシネート、トリメチロールプロパンジアリルエーテル等のモノマー;一種以上の前記モノマーが重合したオリゴマー又はポリマーが例示できる。
【0032】
また、二つの不飽和結合を有する化合物としては、重合性不飽和二重結合を有するシラン化合物(以下、「シラン化合物」と略記することがある)も例示できる。該シラン化合物は、構造体(B)の機械的強度を向上させることができる点で好ましいものである。
前記シラン化合物としては、例えば、3−(アクリロイルオキシ)プロパントリメトキシシラン、3−(メタクリロイルオキシ)プロパントリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメチル−1,3−ジビニルジシロキサン、ジアリルジメチルシラン、2,4,6,8−テトラメチル−2,4,6,8−テトラビニルシクロテトラシロキサン等のモノマー;一種以上の前記モノマーが重合したオリゴマー又はポリマーが例示できる。
【0033】
二つの不飽和結合を有する化合物は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。
【0034】
粒子形態である貴金属もしくは遷移金属、あるいはこれらの酸化物又は窒化物などの無機物質によりあらかじめ修飾することで、構造体(A)及び構造体(B)の結合体の核形成を促進することも出来る。
【0035】
前記架橋剤は、三つ以上の不飽和結合を有する化合物及び二つの不飽和結合を有する化合物以外に、その他の化合物を含んでいても良いが、含んでいないことが好ましい。
【0036】
構造体(B)は、略球状の三次元構造体であり、その表面には構造体(A)が結合して層構造をなしている。ここで、構造体(B)及び構造体(A)の結合は、共有結合でも良いし、非共有結合でも良い。非共有結合としては、水素結合、イオン結合、双極子相互作用による結合、ファンデルワールス力による結合が例示できる。
【0037】
構造体(B)は、構造体(A)と結合して、構造体(A)由来の表面層を有する粒子を形成するが、この粒子同士がさらに結合することで連続体を形成していることが好ましい。このような粒子の連続体において、その架橋密度や粒子間結合強度を調整することで、リチウムイオン伝導性材料の強度や可撓性も適宜調整できる。
また、前記粒子は、表面にリチウムイオン配位部位及び/又はリチウムイオン反発部位を有しており、このような構造をとることにより、リチウムイオン伝導性材料の機械的強度が向上し、かつ効率的にリチウムイオンが伝導される。
【0038】
前記粒子は、例えば、構造体(B)に含まれる結合性官能基の種類が多いほど、粒子径が大きくなる傾向がある。さらに、構造体(B)の分子内における結合性官能基の鎖長が長いほど、粒子径が大きくなる傾向がある。
【0039】
前記粒子の連続体は、前記粒子同士が結合することによって形成されたものである。ここで、「結合」とは、上記の構造体(B)及び構造体(A)の結合と同様である。
前記粒子の連続体が形成され易いのは、例えば、後述するリチウムイオン伝導性材料の製造方法において、リチウムイオン伝導性材料を形成するための組成物を硬化させるに際し、紫外線(UV)硬化及び/又は熱硬化を長時間行った場合や、低温で行った場合である。
【0040】
前記粒子は球状粒子であることが好ましいが、不定形粒子であっても良い。ここで「不定形粒子」とは、外形が曲面のみで構成されておらず、一部又は全部に角のある箇所を有する粒子のことを指す。
【0041】
前記粒子の平均粒子径は、1〜500nmであることが好ましい。下限値以上とすることで、均一層とは異なる状態となり、より効率的にリチウムイオンを伝導できる。また、上限値以下とすることで、リチウムイオン伝導を担う粒子の合計の表面積が大きくなり、より高い伝導度が得られ、さらに、粒子の間隙が大きくなり過ぎないことにより、強度がより向上する。このように、平均粒子径の範囲を上記範囲とすることにより、十分な強度を確保しつつ、伝導経路を十分に確保できる。
【0042】
前記粒子の粒子径は、使用する原料の構造、分子量又は濃度、あるいは溶媒の種類、反応温度等の条件を調整することで制御できる。
また、粒子径は、例えば、電界放射形走査電子顕微鏡(FE−SEM)等の電子顕微鏡写真から直接求めることもできるが、小角X線散乱等の手段によって求めることもできる。
【0043】
また、構造体(A)が構造体(B)に結合して形成している層構造(構造体(A)由来の層構造)の厚さは、1〜3000nmであることが好ましい。
【0044】
前記粒子は、粒子径には分布があっても良い。すなわち、均一な粒子径の粒子の連続体であっても良いし、不均一な粒子径の粒子の連続体であっても良い。ここで、粒子径が均一であると、粒子径にもよるが、幾何学的に間隙ができ易く、より高い伝導度を発現できることがある。一方、粒子径が不均一であると、密なパッキングが可能であり、電解質の強度がより向上する。したがって、使用状況に応じて粒子径分布を選択することが好ましい。
【0045】
前記粒子は、リチウムイオン伝導性材料の一次粒子の表面に、さらに該一次粒子とは異なる成分の二次粒子が存在する複合粒子であっても良い。また、前記複合粒子の表面及び/又は内部には、リチウムイオン伝導路が形成されていることが好ましい。
【0046】
構造体(A)の鎖状高分子によって構成される空隙部を有する層の表面及び/又は内部には、リチウムイオン伝導路が形成されていることが好ましい。このように、前記複合粒子が互いに結合した粒子の連続体構造とすることにより、本発明の一層優れた効果が得られる。
【0047】
前記粒子が複合粒子である場合、一次粒子の平均粒子径は、1〜300nmであることが好ましい。
【0048】
前記複合粒子は、後述するリチウムイオン伝導性材料の製造方法において、リチウムイオン伝導性材料を形成するための組成物を硬化させるに際し、硬化条件を漸次変化させることによって形成できる。具体的には、まずUV硬化で仮硬化を行った後で、熱硬化を行う際の温度を徐々に昇温させる方法が挙げられる。該昇温の方法としては、例えば、−70℃から30℃へ24時間で昇温させる方法が例示できる。
一方、UV硬化を行わず、一定温度で熱硬化のみを行うことによって、均一な一次粒子を形成することができる。この場合の熱硬化の条件としては、温度を0℃で一定に保って24時間反応させる条件が例示できる。
【0049】
前記複合粒子において、前記一次粒子の粒子径は、1〜1000nmであることが好ましく、構造体(A)由来の層構造の厚さは、1〜5000nmであることが好ましい。このような範囲とすることで、粒子間により適切な相互作用が生じるようになり、有効なイオン伝導経路が一層形成され易くなる。
また、構造体(A)においては、これを構成する原料化合物(A)のうち、結合性官能基を一つのみ有するものが50質量%以上であることが好ましい。このような範囲とすることで、構造体(A)のリチウムイオン伝導を担う分子鎖が剛直になったり、短くなったりするのを防止する一層優れた効果が得られ、リチウムイオンがより効率的に伝導される。
また、構造体(B)においては、これを構成する原料化合物(B)のうち、三つ以上の結合性官能基を有するものが30質量%以上であることが好ましい。このような範囲とすることで、構造体(B)が粒子状構造をより形成し易くなり、電解質の強度が一層向上するとともに、有効なリチウムイオン伝導経路が一層容易に形成される。
また、構造体(A)においては、例えば、不飽和二重結合を有する分子鎖が一分子中に二つ以上含まれている場合、前記不飽和二重結合を有する分子鎖が、共通して結合している分岐開始原子から炭素原子三つ以上を介した距離だけ、前記不飽和二重結合が離れていることが好ましい。そして、不飽和二重結合を有する分子鎖は、ヘテロ原子を有することが好ましい。このような構造とすることで、分子鎖が柔軟に動き、リチウムイオンがより効率的に伝導される。
【0050】
前記複合粒子の構造は、例えば、後述する金属−酸素結合数等によって調整でき、さらに、リチウムイオン伝導性材料を形成するための前記組成物の熱硬化時の温度を制御することによっても調整できる。例えば、熱硬化時の温度を低温に制御して(0℃〜10℃)、長時間硬化反応させることによって粒子径を小さくできる。熱硬化時の温度を低温にするほど、粒子径を小さくでき、粒子の連続体は密になり、構造体(B)、又は構造体(A)及び構造体(B)の結合体は硬くなる。
【0051】
前記リチウムイオン伝導路は、リチウムイオン伝導性材料を形成するための前記組成物の熱硬化の温度を制御することによって、所望の大きさに調整できる。通常、熱硬化開始剤として、10時間半減期温度が50℃以下のものを使用して、熱硬化温度を室温から60℃以下の温度まで、12時間以上かけて段階的に昇温することによって、一次粒子の平均粒子径が1〜300nm、前記層構造の平均厚さが1〜3000nmである粒子の連続体が得られ易い傾向がある。この時、粒子間隙(粒子同士の隙間)が1〜100nmとなり、分子層内部の間隙だけでなく、分子層表面(粒子同士の隙間)を効率的にリチウムイオンが伝導し得る。
【0052】
構造体(B)は、一種のみでも良いし、二種以上でも良く、二種以上である場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0053】
<リチウムイオン電解質(C)>
本発明のリチウムイオンイオン伝導性材料において、リチウムイオン電解質(C)は、構造体(A)由来の層構造の空隙部に含まれる。
リチウムイオン電解質(C)としては、リチウムイオン電池で使用される公知の電解質が挙げられ、好ましいものとして具体的には、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、六フッ化リン酸リチウム、六フッ化ひ酸リチウム、過塩素酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ヘキサメチルジシラザンリチウム、1,1,2,2,3,3−ヘキサフルオロプロパン−1,3−ジスルホンイミドリチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、ステアリン酸リチウム等が例示できる。
リチウムイオン電解質(C)は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。
【0054】
<金属−酸素結合型構造体(D)>
本発明のリチウムイオンイオン伝導性材料は、構造体(A)及び/又は構造体(B)が、下記一般式(I)で表される金属−酸素結合による架橋構造を含む金属−酸素結合型構造体(D)(以下、金属−酸素結合型構造体(D)と略記することがある)を重合成分として含むものが好ましい。すなわち、構造体(A)及び/又は構造体(B)が、これらを構成する必須成分である前記原料化合物(A)及び/又は(B)と共に、さらに、金属−酸素結合型構造体(D)が重合して形成されたものであることが好ましい。金属−酸素結合型構造体(D)をさらに重合させることによって、構造体(B)の構造的強度、構造体(A)及び構造体(B)の前記結合体の構造的強度並びにイオン伝導性をより高めることができる。
【0055】
【化2】

(式中、Mはそれぞれ独立にケイ素原子、チタン原子、アルミニウム原子、バナジウム原子、ジルコニウム原子、スズ原子又はクロム原子であり;Rは炭素数1〜100の二価の炭化水素基若しくはアルキレンオキシド又は酸素原子であり;R、R、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、フェニル基、アセトナート基、アセチルアセトナート基、アセテート基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシキ基、イソプロポキシキ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニル基、アリル基、水酸基又は式「−O−M−」で表される基であり、少なくとも一つはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシキ基、イソプロポキシキ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニル基、アリル基、水酸基又は式「−O−M−」で表される基であり;n、n、n及びnは0又は1であり、「n+n+2」及び「n+n+2」はMの原子価に一致し;mは1以上の整数であり、mが2以上である場合には、複数のMはそれぞれ互いに同一でも異なっていても良く、複数のR、R及びRはそれぞれ互いに同一でも異なっていても良く、複数のn及びnはそれぞれ互いに同一でも異なっていても良い。)
【0056】
式中、Rは、炭素数1〜100の二価の炭化水素基若しくはアルキレンオキシド又は酸素原子である。前記炭化水素基及びアルキレンオキシドにおいて、炭素数が100より多くなると架橋が不十分となり、リチウムイオン伝導性材料の耐膨潤性、耐熱性が不十分となる。
の二価の炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでも良く、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基のいずれでも良いが、直鎖状であることが好ましい。Rのアルキレンオキシドは、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでも良いが、直鎖状であることが好ましい。
【0057】
前記脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基及び不飽和脂肪族炭化水素基のいずれでも良いが、飽和脂肪族炭化水素基であることが好ましく、直鎖状の飽和脂肪族炭化水素基であることがより好ましい。
前記脂肪族炭化水素基は、炭素数が1〜20であることが好ましく、1〜10であることがより好ましい。
前記脂肪族炭化水素基の特に好ましいものとしては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基等が例示できる。
【0058】
前記芳香族炭化水素基は、単環式及び多環式のいずれでも良いが、単環式であることが好ましく、フェニレン基が特に好ましい。
【0059】
また、Rの二価の炭化水素基は、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基が結合した2価の基でも良く、このようなものとしては、芳香族炭化水素の二個の水素原子が2価の脂肪族炭化水素基で置換された二価の基が好ましい。ここで、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基としては、上記で説明したものの中から、炭素数の総数が100以下となる組み合わせを選択すれば良い。好ましいものとして具体的には、ベンゼンの1位及び4位の水素原子がアルキレン基で置換されたものが例示でき、該アルキレン基としては、炭素数が1〜5であるものが好ましく、炭素数が1〜3であるものがより好ましく、エチレン基が特に好ましい。
【0060】
は、ヘテロ原子を有していても良い。ここで、「ヘテロ原子を有する」とは、Rの少なくとも一つの水素原子又は炭素原子が、ヘテロ原子又はヘテロ原子を有する基で置換されていることを指す。また、ヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が例示できる。なかでも、Rの少なくとも一つの炭素原子が、酸素原子(−O−)、エステル結合(−C(=O)−O−)、アミド結合(−NH−C(=O)−)で置換されたものは、これらの結合形成の容易性、構造体の柔軟性、原料の入手容易性の観点から好ましい。特に飽和脂肪族炭化水素基の炭素原子が酸素原子(−O−)で置換されたアルキレンオキシドはイオン伝導性の観点から好ましい。
【0061】
上記のなかでもRとしては、耐酸性が高く、極めて安定であることから、アルキレンオキシドが好ましい。さらに、屈曲可能な構造であるため、リチウムイオン伝導性材料に適度な柔軟性を付与でき、緻密性なども調整できることから、直鎖状のアルキレンオキシドであることが特に好ましい。これらのイオン伝導性、柔軟性、緻密性等は、アルキレンオキシドの分子長で調整できる。
【0062】
式中、Mは、それぞれ独立にケイ素原子、チタン原子、アルミニウム原子、バナジウム原子、ジルコニウム原子、スズ原子又はクロム原子であり、ケイ素原子であることが好ましい。
【0063】
式中、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、フェニル基、アセトナート基、アセチルアセトナート基、アセテート基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシキ基、イソプロポキシキ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニル基、アリル基、水酸基又は式「−O−M−」で表される基であり、少なくとも一つはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシキ基、イソプロポキシキ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニル基、アリル基、水酸基又は式「−O−M−」で表される基である。ここで、R〜Rのいずれかが、式「−O−M−」で表される基である場合には、金属−酸素結合型構造体(D)が、他の金属−酸素結合型構造体(D)と結合していることを示す。
【0064】
式中、n、n、n及びnは、Mに結合しているR、R、R及びRの数をそれぞれ示し、0又は1である。そして、「n+n+2」及び「n+n+2」はMの原子価に一致する。すなわち、R、R、R及びRの総数は、これらが結合しているMの原子価と同じであり、R、R、R及びRの総数は、これらが結合しているMの原子価と同じである。例えば、Mがケイ素原子である場合、これに結合しているR、R、R及びRの総数は4である(R及びRの総数は2である)。このように、Mの種類によっては、R、R、R及びRのいずれかは存在しない。
【0065】
式中、mは、1以上の整数である。
が2以上である場合には、複数のMはそれぞれ互いに同一でも異なっていても良い。
また、mが2以上である場合には、複数のRはそれぞれ互いに同一でも異なっていても良く、同様に、複数のR及びRも、それぞれ互いに同一でも異なっていても良い。この場合、例えば、金属−酸素結合型構造体(D)は、Rとして炭素数1〜100の二価の炭化水素基と酸素原子とを両方含むものであっても良く、このようなものとして、一般式「−M−R’−M−O−(式中、R’は炭素数1〜100の二価の炭化水素基を表す)」で表される繰り返しの基本骨格を有するものが例示できる。
また、mが2以上である場合には、複数のnはそれぞれ互いに同一でも異なっていても良く、同様に、複数のnもそれぞれ互いに同一でも異なっていても良い。
【0066】
金属−酸素結合型構造体(D)は、例えば、Rが酸素原子(O)であり、且つR〜Rが「−O−M−」である場合のように、無機化合物の場合もあれば、有機化合物を複合した有機無機複合体の場合もある。有機化合物を複合する場合は、無機物が有する耐熱性と、有機物が有する柔軟性とを両方兼ね備えたリチウムイオン伝導性材料を形成できる。このような化合物を使用する場合には、架橋構造間の分子構造設計により、イオン伝導性や柔軟性をはじめとする各膜物性の調整が可能である。
【0067】
金属−酸素結合型構造体(D)のうち、例えば、Mがケイ素原子であるケイ素−酸素結合型構造体や、これを形成するための架橋性の原料化合物は、そのまま市販されているものもあり、さらに、不飽和結合を有するものは、対応するシリル化合物のヒドロシリル化反応により合成でき、水酸基やアミノ基等を有するものも同様に合成できる。
【0068】
金属−酸素結合型構造体(D)の好ましいものとして、具体的には、ビス(トリエトキシシリル)メタン、1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタン、1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,6−ビス(トリエトキシシリル)ヘキサン、1,8−ビス(トリエトキシシリル)オクタン、1,8−ビス(ジエトキシメチルシリル)オクタン、1,8−ビス(エチルジメトキシシリル)オクタン、1,8−ビス(エトキシジメチルシリル)オクタン、1,9−ビス(トリエトキシシリル)ノナン、1,4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(トリメトキシシリルメチル)ベンゼン、ビス(トリメトキシシリルエチル)ベンゼン、3−(アクリロイルオキシ)プロパントリメトキシシラン、3−(メタクリロイルオキシ)プロパントリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン及びn−ブチルトリメトキシシラン、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラエトキシド、アルミニウムテトライソプロポキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリエトキシド、バナジウムオキシトリエトキシド、バナジウムトリイソプロポキシド、ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシド、テトラブトキシスズ等の金属アルコキシドが加水分解されたモノマーが重縮合した重縮合体が例示できる。そして、上記の金属アルコキシドのうち、前記一般式(I)で表されるものをそのまま金属−酸素結合型構造体(D)として使用しても良い。
また、スズジアセテート、クロムアセチルアセトナート、クロムアセテートヒドロキシド、前記金属アルコキシドのアルコキシ基が他のアルコキシ基で置換されたものも、金属アルコキシドと同様に使用できる。
【0069】
さらに、金属−酸素結合型構造体(D)の好ましいものとしては、ケイ酸や、少なくとも一つの水酸基が塩を形成しているケイ酸塩をモノマーとして重縮合したものも例示できる。
前記ケイ酸塩としては、ケイ酸のアルカリ金属塩が例示でき、ケイ酸リチウムが好ましい。
【0070】
さらに、金属−酸素結合型構造体(D)は、オリゴマーが重縮合したものでも良く、好ましいオリゴマーとして、各種市販品も利用でき、例えば、ケイ素−酸素結合型構造体を形成するためのものとしては、KC−89、KR−500、KR−212、KR−213、KR−9218(いずれも信越化学工業社製)等が例示できる。
【0071】
さらに、上記の各種モノマー及びオリゴマーを併用して、金属−酸素結合型構造体(D)としても良い。
【0072】
金属−酸素結合型構造体(D)は、一種の原料化合物(前記モノマー又はオリゴマー)が重縮合したものでも良く、二種以上の原料化合物(前記モノマー及び/又はオリゴマー)が重縮合したものでも良い。二種以上が重縮合したものである場合、これら原料の組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0073】
金属−酸素結合型構造体(D)は、前記原料化合物由来のアルコキシ基又は該アルコキシ基が加水分解された水酸基が少量なら残存していても良いが、水酸基の残存数が少ないものほど好ましく、水酸基が残存せずに、すべて重縮合反応したものが最も好ましい。水酸基の残存数が少なく、金属−酸素結合を形成しているほど、金属−酸素結合型構造体(D)は緻密な構造をとり、リチウムイオン伝導性材料の耐熱性、機械的強度が向上する。
【0074】
金属−酸素結合型構造体(D)は、原料化合物(A)及び/又は(B)と、金属−酸素結合及びそれ以外の結合のいずれを介して結合していても良い。
また、構造体(A)及び構造体(B)は、重合性不飽和二重結合及び/又は金属−酸素結合を介して結合していることが好ましい。すなわち、金属−酸素結合型構造体(D)が使用された場合、構造体(A)及び構造体(B)の前記結合体は、構造体(A)が直接構造体(B)に結合せず、金属−酸素結合型構造体(D)を介して構造体(B)に結合した部位を有していても良い。
【0075】
本発明においては、適切な金属−酸素結合型構造体(D)を使用することで、シリカ架橋粒子を形成することもでき、その架橋密度や粒子間結合強度を調整することで、リチウムイオン伝導性材料の強度、可撓性を適宜調整することもできる。
このような適切な金属−酸素結合型構造体(D)としては、金属−酸素結合型構造体(D)形成時の重合温度が300℃以下であるもの、金属−酸素結合構造体(D)にアルコキシ基又は不飽和二重結合が一つ以上残存しているものが例示できる。
このような金属−酸素結合型構造体(D)は、前記原料化合物(A)及び(B)存在下での分散性が良好であり、これらの重合が容易に進行し、形成されるリチウムイオン伝導性材料の構造がより均一で好ましいものとなる。
【0076】
金属−酸素結合型構造体(D)は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0077】
<リチウムイオン伝導性液体(E)>
本発明のリチウムイオン伝導性材料は、さらに、リチウムイオン伝導性液体(E)を含有することが好ましい。
リチウムイオン伝導性液体(E)は、本発明のイオン伝導性材料において、構造体(A)及び構造体(B)の前記結合体に含浸されるか、該結合体の一部又は全てを浸漬した状態で含まれる。
【0078】
リチウムイオン伝導性液体(E)としては、公知のリチウムイオン電池の電解質で使用される可塑剤(溶媒)が挙げられ、好ましいものとして具体的には、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、スルホラン、1,2,3−プロパントリカルボニトリル、1,2,2,3−プロパンテトラカルボニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、1,3,5−シクロヘキサントリカルボニトリル、炭酸エチルメチル、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が例示できる。
【0079】
また、リチウムイオン伝導性液体(E)としては、極性部位を有する低分子液体、イオン性液体も好ましいものとして挙げられる。
前記低分子液体としては、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、2−シアノエチルトリエトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、グリセロールエトキシレート等が例示できる。
前記イオン性液体としては、1−ブチル−1−メチルピペリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−ブチル−1−メチルピペリジニウムヘキサフルオロフォスファート、1−ブチル−1−メチルピペリジニウムテトラフルオロボレート、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、1−ブチル−1−メチルピペリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムビス(フルオロスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド等が例示できる。そして、これらのうち、塩は、イオン伝導の対象であるリチウムイオンに対するカウンターイオン(カウンターリチウムイオン)を有するものが好ましい。
【0080】
また、リチウムイオン伝導性液体(E)としては、双性イオン塩を溶解したり、構造体(A)及び構造体(B)の前記結合体に保持されるものが好ましい。このようなリチウムイオン伝導性液体(E)を使用することで、リチウムイオンの伝導をより効率的に行うことができる。このようなリチウムイオン伝導性液体(E)としては、双性イオン塩であるPSSハイドレート−オクタキス(テトラメチルアンモニウム)塩、ドデシルジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、(メトキシカルボニルスルファモイル)トリエチルアンモニウムヒドロキシド分子内塩、1−(ジメチルカルバモイル)−4−(2−スルホエチル)ピリジニウムヒドロキシド分子内塩、ヘキサデシルジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、オクタデシルジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、テトラデシルジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド分子内塩、テトラブチルアンモニウムアセタート、1−(3−スルホプロピル)ピリジニウムヒドロキサイド分子内塩、アセチル(キノリン−1−イウム−1−イル)アザニド、(トリメチルアンモニオ)アセタート、3−メチル−5−オキソ−2,5−ジヒドロ−1,2,3−オキサジアゾール−3−イウム−2−イド−4−カルボン酸、1,2,2−トリメチルジアザン−2−イウム−1−イド、1,2,2,2−テトラメチルジアザン−2−イウム−1−イド、1,1,1−トリメチルジアザン−1−イウム−2−スルホナート等が例示できる。
【0081】
リチウムイオン伝導性液体(E)は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて適宜選択すれば良い。
【0082】
<添加剤(F)>
本発明のリチウムイオン伝導性材料は、さらに、添加剤(F)として、ルイス酸(F1)、リン酸エステル(F2)及び無機粒子(F3)からなる群より選択される少なくとも一種を含有することが好ましい。リチウムイオン伝導性材料は、添加剤(F)を含有することにより、リチウムイオン伝導性が一層向上する。
添加剤(F)は、本発明のイオン伝導性材料において、構造体(A)及び構造体(B)の前記結合体に含浸された状態で含まれる。
【0083】
ルイス酸(F1)としては、トリス(トリメチルシリル)ボレート、2,4,6−トリメトキシボロキシン、トリメチルボレート等が例示できる。
リン酸エステル(F2)としては、トリエチルフォスファート、トリプロピルフォスファート、トリブチルフォスファート、リン酸トリス(トリメチルシリル)エステル、トリス(2−ブトキシエチル)フォスファート、トリメチルシリルポリフォスファート等が例示できる。
無機粒子(F3)としては、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸鉄、チタン酸鉛等が例示できる。
【0084】
本発明のリチウムイオン伝導性材料は、日本工業規格(JIS)の粘度測定法(JIS K 7117−2)に従い、回転数50rpm、温度20℃で測定した時の粘度が、10〜10000mPa・s(cP)であることが好ましい。
【0085】
本発明のリチウムイオン伝導性材料は、構造体(A)の分子量M、及び構造体(B)の分子量Mが、M/M=0.01〜100の関係を満たすことが好ましい。このような数値範囲とすることにより、粒子間により適切な結合が生じ、粒子の前記表面層をリチウムイオンがより効率的に移動できる。
【0086】
<リチウムイオン伝導性材料の製造方法>
本発明のリチウムイオン伝導性材料は、原料化合物(A)、原料化合物(B)(架橋剤)及びリチウムイオン電解質(C)、並びに必要に応じて、金属−酸素結合型構造体(D)、リチウムイオン伝導性液体(E)、添加剤(F)等のその他の成分が配合された組成物を重合(硬化)させることで製造できる。
重合方法は特に限定されず、公知の方法が適用できる。例えば、前記組成物に市販の光重合開始剤と熱重合開始剤を添加し、紫外線等を照射することによって、前記組成物を仮重合させ、続く加熱処理によって本重合させる二段階の重合方法が好適である。
【0087】
前記組成物中には、上記の成分以外に、さらに必要に応じて、各種添加剤を配合しても良い。前記添加剤としては、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱重合禁止剤、レベリング剤、界面活性剤、保存安定剤、可塑剤、滑剤、溶媒、フィラー、濡れ性改良剤等が例示できる。
【0088】
前記組成物における光重合開始剤の配合量は、前記組成物に含まれる前記重合性不飽和二重結合の種類や量にもよるが、0.5〜20質量%であることが好ましく、0.5〜10質量%であることがより好ましく、0.5〜5質量%であることが特に好ましい。
前記組成物における熱重合開始剤の配合量も、前記組成物に含まれる前記重合性不飽和二重結合の種類や量にもよるが、1〜20質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましく、1〜5質量%であることが特に好ましい。
【0089】
前記組成物における各原料化合物の配合量は、目的に応じて適宜調整すれば良いが、通常は、以下の通りである。ただし、反応溶媒は原料化合物には含まれないものとする。本発明においては、リチウムイオン伝導性電解質膜の構造体として残存する化合物の配合比が重要となり、リチウムイオン伝導に寄与しない反応溶媒は、最終的に除去してしまうため、その量は適宜調節すれば良い。
前記組成物における原料化合物(A)の配合量は、1〜80質量%であることが好ましく、5〜75質量%であることがより好ましく、10〜70質量%であることが特に好ましい。
また、前記組成物における原料化合物(B)の配合量は、1〜60質量%であることが好ましく、5〜55質量%であることがより好ましく、10〜50質量%であることが特に好ましい。
【0090】
前記組成物におけるリチウムイオン電解質(C)の配合量は、原料化合物(A)に対しては、5〜800質量%であることが好ましく、50〜600質量%であることがより好ましく、100〜400質量%であることが特に好ましい。また、原料化合物(B)に対しては、10〜500質量%であることが好ましく、50〜400質量%であることがより好ましく、100〜300質量%であることが特に好ましい。そして、原料化合物(A)及び原料化合物(B)に対して、共に上記数値範囲内の配合量であることが好ましい。リチウムイオン電解質(C)の配合量が上記数値範囲であることにより、リチウムイオン伝導性がより向上する。
【0091】
前記組成物における金属−酸素結合型構造体(D)の配合量は、原料化合物(A)、原料化合物(B)及びリチウムイオン電解質(C)の総配合量に対して、0〜50質量%であることが好ましく、0〜45質量%であることがより好ましく、0〜40質量%であることが特に好ましい。
【0092】
前記組成物におけるリチウムイオン伝導性液体(E)の配合量は、原料化合物(A)、原料化合物(B)及びリチウムイオン電解質(C)の総配合量に対して、5〜500質量%であることが好ましく、10〜400質量%であることがより好ましく、50〜300質量%であることが特に好ましい。このような範囲とすることにより、リチウムイオン伝導性液体(E)のリチウムイオン伝導性材料外部への漏れ出しをより防止でき、リチウムイオン伝導性材料のイオン伝導性をより高めることができる。
【0093】
前記組成物における添加剤(F)の配合量は、リチウムイオン伝導性材料の用途又は形態等に応じて、適宜調整すれば良い。
【0094】
[リチウムイオン伝導性電解質膜]
本発明のリチウムイオン伝導性電解質膜は、上記本発明のリチウムイオン伝導性材料を使用したことを特徴とする。
本発明のリチウムイオン伝導性電解質膜は、本発明のリチウムイオン伝導性材料を膜状に形成することで製造できる。この時、リチウムイオン伝導性材料の製造時に使用した、リチウムイオン伝導性液体(E)に該当しない溶媒は、乾燥により除去することが好ましい。そして、溶媒は減圧乾燥により除去することが好ましい。
リチウムイオン伝導性材料を膜状に形成する方法としては、平板基材上に、スピンコーター等を使用して前記リチウムイオン伝導性材料を均一に塗布し、UV照射や加熱処理等によって硬化させる方法が例示できる。
また、リチウムイオン伝導性電解質膜の製造方法としては、原料化合物(A)等が配合された、リチウムイオン伝導性材料を形成するための前記組成物を、平板基材上に均一に塗布し、上記の重合方法で前記組成物を重合させてリチウムイオン伝導性材料とし、これをさらに乾燥させて溶媒を除去することでリチウムイオン伝導性電解質膜とする一貫法が、好ましい製造方法として例示できる。前記組成物の塗布方法は、リチウムイオン伝導性材料の塗布方法と同様である。
【0095】
リチウムイオン伝導性電解質膜の製造には、多孔質基材(G)に含浸されているリチウムイオン伝導性材料を使用することが好ましい。このようにすることで、多孔質基材(G)で強化され、機械的強度が高められたリチウムイオン伝導性電解質膜が得られる。
【0096】
<多孔質基材(G)>
多孔質基材(G)は、有機材料からなるものでも良いし、無機材料からなるものでも良い。これら材料には、レーヨンや精製セルロースのようなセルロース系繊維、絹のようなフィブリル化を起こし易い繊維も含まれる。
【0097】
有機材料としては、ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ポリイミド、ポリアリレート系液晶ポリマー等の高分子化合物が例示できる。なかでも、フッ素樹脂、ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン又はポリイミドからなる高分子材料は、膜厚や孔径の異なる様々な種類のものが市販されているので好適である。
【0098】
無機材料としては、ガラス、シリカ、アルミナ、カーボン、炭化ケイ素等が例示できる。
【0099】
多孔質基材(G)は、複数種類の材料からなるものでも良い。また、多孔質基材(G)は、親水化処理されたものが好ましい。
【0100】
多孔質基材(G)の形態(形状)としては、上記各材料からなる繊維をシート状に成形した不織布、織布が例示できる。織布は平織り、斜文織、朱子織、からみ織り等のいずれの織り方で織られていても良い。織布はまた、個々の繊維を直接織ったものでも良く、繊維を束ねて形成させたもの(例えば、ガラス糸等の無機糸)を織ったものでも良い。シート状の多孔質基材は、二種以上の繊維を組み合わせて構成されていても良い。
【0101】
多孔質基材(G)の空孔は、平均孔径が0.01〜10μmであることが好ましい。孔径が小さ過ぎると、リチウムイオン伝導性材料や、これを形成するための前記組成物が充填され難くなり、リチウムイオン伝導性が低下する。また、孔径が大き過ぎると、膜の強度が低下して、破損するおそれがある。
【0102】
多孔質基材(G)の空孔率は、リチウムイオン伝導性材料の強度、あるいはリチウムイオン伝導性材料又は前記組成物の充填率との兼ね合いにより一概には言えないが、通常は10〜98%であることが好ましく、20〜97%であることがより好ましい。
多孔質基材(G)の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良いが、通常は0.3〜100μmであることが好ましく、0.5〜80μmであることがより好ましい。
【0103】
多孔質基材(G)で強化されたリチウムイオン伝導性電解質膜を製造する場合には、リチウムイオン伝導性材料を形成するための前記組成物を多孔質基材に含浸させ、次いで、オーブン等を使用して加熱することで、前記組成物を加熱硬化させ、さらに、焼成すれば良い。硬化時の条件は、多孔質基材(G)を使用しない場合と同様で良い。
【0104】
[リチウムイオン伝導性電解質膜−電極接合体]
本発明のリチウムイオン伝導性電解質膜−電極接合体(以下、膜−電極接合体と略記することがある)は、上記本発明のリチウムイオン伝導性電解質膜の一方の面に正極が、他方の面に負極がそれぞれ接合されたことを特徴とする。
前記正極及び負極には、通常のリチウムイオン二次電池に使用される公知のものが適用できる。
リチウムイオン伝導性電解質膜と正極との接合は、これらが電気化学的に接続されていれば、その形態は特に限定されない。具体例としては、リチウムイオン伝導性電解質膜と正極とを物理的に接触させる方法が挙げられる。
リチウムイオン伝導性電解質膜と負極との接合も、正極の場合と同様である。
【0105】
本発明の膜−電極接合体は、例えば、上記本発明のリチウムイオン伝導性材料を電極(正極又は負極)上に形成し、乾燥又は紫外線硬化させて成膜した後、該膜上に対電極(負極又は正極)を配置して熱硬化することにより、リチウムイオン伝導性電解質膜を前記電極及び対電極と接合することで製造できる。リチウムイオン伝導性材料の乾燥とは、上記のリチウムイオン伝導性電解質膜の製造方法の場合と同様に、リチウムイオン伝導性材料の形成時に使用した、リチウムイオン伝導性液体(E)に該当しない溶媒を除去することを指す。そして、この製造方法においては、上記のリチウムイオン伝導性電解質膜の製造方法の場合と同様に、原料化合物(A)等が配合された前記組成物を電極上に均一に塗布して重合させることでリチウムイオン伝導性材料を形成し、対電極を配置して熱硬化することにより、リチウムイオン伝導性電解質膜を前記電極及び対電極と接合する一貫法が、好ましい製造方法として例示できる。
【0106】
[リチウムイオンポリマー電池]
本発明のリチウムイオンポリマー電池(リチウムイオン二次電池)は、上記本発明の膜−電極接合体を備えたことを特徴とする。
本発明のリチウムイオンポリマー電池としては、電池の外装体として電池缶の代わりにラミネートフィルムを使用し、前記膜−電極接合体をラミネートセルに組んで構成した薄型電池が好ましく、この薄型電池を単位セルとして、複数の前記単位セルが積層され、連結されたものが好ましい。このような構成とすることにより、前記単位セルが電気的に直列に接続されるので、一層高出力の電池となる。
【0107】
前記ラミネートセルは、樹脂等からなる袋又はケースで、前記膜−電極接合体を密閉するように包み、封止できるものであれば特に限定されず、公知のものが使用できる。
【0108】
前記単位セルは、単独で機能するリチウムイオンポリマー電池である。積層する単位セルの数や連結方法は、リチウムイオンポリマー電池の用途や形態に応じて、適宜調整すれば良い。
【0109】
本発明のリチウムイオン伝導性材料は、構造体(A)由来の層構造の空隙部に、リチウムイオン電解質(C)が含まれており、このようなリチウムイオン伝導性材料から構成されたリチウムイオン伝導性電解質膜は、この空隙部をリチウムイオンが伝道することにより、高いイオン伝導性を有する。また、通常は、低温において分子の運動性が低下してイオン伝導性が低下する傾向があり、特に、電解質が高粘度であったり固形状であると、この傾向が顕著に見られるが、本発明のリチウムイオン伝導性電解質膜では、低温でも高いイオン伝導性を有する。さらに、リチウムイオンを従来よりも高濃度で含みながら、高いイオン伝導性を有し、且つ耐久性に優れる。そして、固形状電解質であるため、火災や液漏れの心配が無く、安全性に優れる。このような、リチウムイオン伝導性電解質膜を使用した本発明のリチウムイオンポリマー電池は、充放電特性、安全性及び信頼性に優れたものでる。
【実施例】
【0110】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0111】
<リチウムイオン伝導性材料及びリチウムイオン伝導性電解質膜の作製>
[実施例1]
(硬化性組成物の作製)
グローブボックス内で高純度アルゴン(99.9999%)雰囲気下、メタクリル酸ナトリウム(0.22g、和光純薬社製)、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート(0.25g、アルドリッチ社製、M:950)、2−アクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリド(0.21g、アルドリッチ社製)、リン酸2−(メタクリロイルオキシ)エチル2−(トリメチルアンモニオ)エチル(0.17g、アルドリッチ社製)、ジ(トリメチロールプロパン)テトラアクリレート(0.43g、アルドリッチ社製、M:466)、マレイン酸ジアリル(0.37g、東京化成社製)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(3.09g、東京化成社製)をサンプル瓶に入れ、N,N−ジメチルホルムアミド(1.41g、アルドリッチ社製、無水)、アセトニトリル(9.24g、アルドリッチ社製、無水)を加え、室温で3時間撹拌した。
次に、光重合開始剤(KR−02、0.13g、ライトケミカル社製)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(0.27g、和光純薬社製)、酢酸エチル(0.47g、アルドリッチ社製、無水)、ジクロロメタン(3.26g、アルドリッチ社製、無水)加え、0℃で12時間撹拌し、リチウムイオン伝導性材料を作製するための硬化性組成物(1)を得た。
【0112】
(リチウムイオン伝導性材料及びリチウムイオン伝導性電解質膜の作製)
得られた硬化性組成物(1)の溶液(8.43g、無色透明溶液)をテフロン(登録商標)基板状にキャストし、アプリケーターを使用して、塗布した硬化性組成物(1)の厚さを180〜200μmに調整した。そして、UV照射した後、室温で24時間静置した。次いでフィルムを剥がし、再度UV照射して、リチウムイオン伝導性材料(1)を仮硬化させて膜を得た。そして、フッ素樹脂フィルムを新たに前記膜に被せ、オーブンを使用して室温から60℃まで段階的に昇温し、24時間加熱して、本硬化させた。次いで、減圧下、真空乾燥させて溶媒を留去することで、硬化性組成物(1)からリチウムイオン伝導性材料(1)を介する一貫法により、淡黄色透明のリチウムイオン伝導性電解質膜(M1)を得た。
【0113】
[実施例2]
(ケイ素−酸素結合型構造体の作製)
3−(アクリロイルオキシ)プロパントリメトキシシラン(10.6g、東京化成社製)、ビニルトリメトキシシラン(21.0g、東京化成社製)、ビス(エトキシジメチルシリル)オクタン(26.2g、アヅマックス社製)、ビス(トリエトキシシリル)オクタン(24.1g、ジェレスト社製)、テトラエトキシシラン(42.9g、東京化成社製)、テトラメトキシシラン(9.2g、東京化成社製)をフラスコに計量した。エタノール(33.8g、和光純薬社製)、メタノール(27.6g、和光純薬社製)を加え、0℃で30分間撹拌した。次いで、0.01N塩酸(7.8g)、エタノール(30.9g、和光純薬社製)、メタノール(21.6g、和光純薬社製)を混合した溶液を添加し、0℃で2時間撹拌し、40℃に昇温後、さらに4時間撹拌した。続いて、フッ化カリウム(0.124g、和光純薬社製)、エタノール(15.2g、和光純薬社製)、メタノール(10.3g、和光純薬社製)を混合した溶液を添加し、40℃で2時間撹拌し、80℃に昇温後、さらに4時間撹拌した。得られた混合溶液を0℃に冷却した後、40℃真空にて残存アルコール、水を分留した。得られた溶液を再度0℃に冷却し、ジエチルエーテル200mLを加えて、0℃で1時間撹拌した後、メンブレンフィルター(ミリポア社製、オムニポアメンブレン孔径0.2μm)を使用して濾過した。さらにもう一度濾過した後、得られた濾液から40℃真空にてジエチルエーテルを分留し、金属−酸素結合型構造体(D)として、ケイ素−酸素結合型構造体(1)(79.2g、無色透明液体)を得た。
【0114】
(硬化性組成物の作製)
グローブボックス内で高純度アルゴン(99.9999%)雰囲気下、メタクリル酸ナトリウム(0.21g、和光純薬社製)、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート(0.27g、アルドリッチ社製、M:950)、2−アクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリド(0.23g、アルドリッチ社製)、リン酸2−(メタクリロイルオキシ)エチル2−(トリメチルアンモニオ)エチル(0.19g、アルドリッチ社製)、ジ(トリメチロールプロパン)テトラアクリレート(0.41g、アルドリッチ社製、M:466)、マレイン酸ジアリル(0.34g、東京化成社製)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(3.13g、東京化成社製)をサンプル瓶に入れ、N,N−ジメチルホルムアミド(1.56g、アルドリッチ社製、無水)、アセトニトリル(8.96g、アルドリッチ社製、無水)を加え、室温で3時間撹拌した。
次に、上記で得られたケイ素−酸素結合型構造体(1)(0.41g、無色透明液体)を加え、0℃で12時間攪拌した。
次に、光重合開始剤(KR−02、0.14g、ライトケミカル社製)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(0.29g、和光純薬社製)、酢酸エチル(0.52g、アルドリッチ社製、無水)、ジクロロメタン(3.32g、アルドリッチ社製、無水)加え、0℃で12時間撹拌し、リチウムイオン伝導性材料を作製するための硬化性組成物(2)を得た。
【0115】
(リチウムイオン伝導性材料及びリチウムイオン伝導性電解質膜の作製)
得られた硬化性組成物(2)の溶液(8.66g、無色透明溶液)をテフロン(登録商標)基板状にキャストし、アプリケーターを使用して、塗布した硬化性組成物(2)の厚さを180〜200μmに調整した。以下、実施例1と同様の方法で、リチウムイオン伝導性材料(2)を介して、淡黄色透明のリチウムイオン伝導性電解質膜(M2)を得た。
【0116】
[実施例3]
(硬化性組成物の作製)
グローブボックス内で高純度アルゴン(99.9999%)雰囲気下、メタクリル酸ナトリウム(0.24g、和光純薬社製)、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート(0.29g、アルドリッチ社製、M:950)、2−アクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリド(0.21g、アルドリッチ社製)、リン酸2−(メタクリロイルオキシ)エチル2−(トリメチルアンモニオ)エチル(0.18g、アルドリッチ社製)、ジ(トリメチロールプロパン)テトラアクリレート(0.45g、アルドリッチ社製、M:466)、マレイン酸ジアリル(0.32g、東京化成社製)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(3.29g、東京化成社製)をサンプル瓶に入れ、N,N−ジメチルホルムアミド(1.34g、アルドリッチ社製、無水)、アセトニトリル(9.41g、アルドリッチ社製、無水)を加え、室温で3時間撹拌した。そして、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(1.21g、三菱マテリアル電子化成社製)、プロピレンカーボネート(0.53g、東京化成社製)、エチレンカーボネート(0.07g、東京化成社製)を加え、室温で12時間攪拌した。
次に、実施例2で得られたケイ素−酸素結合型構造体(1)(0.32g、無色透明液体)を加え、0℃で12時間攪拌した。
次に、光重合開始剤(KR−02、0.15g、ライトケミカル社製)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(0.30g、和光純薬社製)、酢酸エチル(0.51g、アルドリッチ社製、無水)、ジクロロメタン(3.23g、アルドリッチ社製、無水)加え、0℃で12時間撹拌し、リチウムイオン伝導性材料を作製するための硬化性組成物(3)を得た。
【0117】
(リチウムイオン伝導性材料及びリチウムイオン伝導性電解質膜の作製)
得られた硬化性組成物(3)の溶液(12.08g、無色透明溶液)をテフロン(登録商標)基板状にキャストし、アプリケーターを使用して、塗布した硬化性組成物(3)の厚さを180〜200μmに調整した。以下、実施例1と同様の方法で、リチウムイオン伝導性材料(3)を介して、淡黄色透明のリチウムイオン伝導性電解質膜(M3)を得た。
【0118】
[実施例4]
(硬化性組成物の作製)
グローブボックス内で高純度アルゴン(99.9999%)雰囲気下、メタクリル酸ナトリウム(0.19g、和光純薬社製)、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート(0.31g、アルドリッチ社製、M:950)、2−アクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリド(0.22g、アルドリッチ社製)、リン酸2−(メタクリロイルオキシ)エチル2−(トリメチルアンモニオ)エチル(0.17g、アルドリッチ社製)、ジ(トリメチロールプロパン)テトラアクリレート(0.49g、アルドリッチ社製、M:466)、マレイン酸ジアリル(0.33g、東京化成社製)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(3.22g、東京化成社製)をサンプル瓶に入れ、N,N−ジメチルホルムアミド(1.25g、アルドリッチ社製、無水)、アセトニトリル(9.32g、アルドリッチ社製、無水)を加え、室温で3時間撹拌した。そして、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(フルオロスルホニル)イミド(1.37g、三菱マテリアル電子化成社製)、プロピレンカーボネート(0.51g、東京化成社製)、エチレンカーボネート(0.10g、東京化成社製)を加え、室温で12時間攪拌した。
次に、実施例2で得られたケイ素−酸素結合型構造体(1)(0.32g、無色透明液体)を加え、0℃で12時間攪拌した。さらに、トリス(トリメチルシリル)ボレート(0.21g、東京化成社製)、2,4,6−トリメトキシボロキシン(0.17g、東京化成社製)、リン酸トリス(トリメチルシリル)エステル(0.09g、東京化成社製)、トリエチルフォスファート(0.03g、東京化成社製)を加え、室温で3時間攪拌した。
次に、光重合開始剤(KR−02、0.16g、ライトケミカル社製)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(0.35g、和光純薬社製)、酢酸エチル(0.60g、アルドリッチ社製、無水)、ジクロロメタン(3.31g、アルドリッチ社製、無水)加え、0℃で12時間撹拌し、リチウムイオン伝導性材料を作製するための硬化性組成物(4)を得た。
【0119】
(リチウムイオン伝導性材料及びリチウムイオン伝導性電解質膜の作製)
得られた硬化性組成物(4)の溶液(12.08g、無色透明溶液)をテフロン(登録商標)基板状にキャストし、アプリケーターを使用して、塗布した硬化性組成物(4)の厚さを180〜200μmに調整した。以下、実施例1と同様の方法で、リチウムイオン伝導性材料(4)を介して、淡黄色透明のリチウムイオン伝導性電解質膜(M4)を得た。
【0120】
[実施例5]
(硬化性組成物の作製)
実施例4と同様の方法で、リチウムイオン伝導性材料を作製するための硬化性組成物(5)を得た。
【0121】
(リチウムイオン伝導性材料及びリチウムイオン伝導性電解質膜の作製)
得られた硬化性組成物(5)の溶液(3.73g、無色透明溶液)をN,N−ジメチルホルムアミド(0.60g、無水、アルドリッチ社製)に溶解させ、得られた溶液を、フッ素樹脂フィルム上でポリエチレン/ポリプロピレン製多孔質膜(厚さ:1〜60μm、空孔率:30〜95%、平均孔径:0.01〜10μm)に含浸させた。含浸後の膜にフッ素樹脂フィルムを被せ、その上からアプリケーターで膜厚がおよそ60μmになるようにレベリングし、室温で48時間室温静置した。次いでフィルムを剥がし、UV照射して、硬化性組成物(5)を仮硬化させた。そして、フッ素樹脂フィルムを新たに前記膜に被せ、2枚のガラス板でフッ素樹脂フィルムを介して前記膜を挟み、室温で24時間静置した。次いで、オーブンを使用して、80℃で24時間加熱して本硬化させた後、減圧下、真空乾燥させて溶媒を留去することで、硬化性組成物(5)からリチウムイオン伝導性材料(5)を介する一貫法により、無色半透明のリチウムイオン伝導性電解質膜(M5)を得た。
【0122】
[比較例1]
(硬化性組成物の作製)
グローブボックス内で高純度アルゴン(99.9999%)雰囲気下、メタクリル酸ナトリウム(0.25g、和光純薬社製)、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート(0.28g、アルドリッチ社製、M:950)、2−アクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリド(0.24g、アルドリッチ社製)、リン酸2−(メタクリロイルオキシ)エチル2−(トリメチルアンモニオ)エチル(0.21g、アルドリッチ社製)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(3.14g、東京化成社製)をサンプル瓶に入れ、N,N−ジメチルホルムアミド(1.40g、アルドリッチ社製、無水)、アセトニトリル(9.19g、アルドリッチ社製、無水)を加え、室温で3時間撹拌した。その後は実施例1と同様の方法で、リチウムイオン伝導性材料を作製するための硬化性組成物(R1)を得た。
【0123】
(リチウムイオン伝導性材料及びリチウムイオン伝導性電解質膜の作製)
得られた硬化性組成物(R1)の溶液(8.25g、無色透明溶液)をテフロン(登録商標)基板状にキャストし、アプリケーターを使用して、塗布した硬化性組成物(R1)の厚さを180〜200μmに調整した。以下、実施例1と同様の方法で、硬化性組成物(R1)からリチウムイオン伝導性材料(R1)を介する一貫法により、淡黄色透明のリチウムイオン伝導性電解質膜(MR1)を得た。
【0124】
[比較例2]
(硬化性組成物の作製)
グローブボックス内で高純度アルゴン(99.9999%)雰囲気下、ジ(トリメチロールプロパン)テトラアクリレート(1.21g、アルドリッチ社製、M:466)、マレイン酸ジアリル(0.56g、東京化成社製)とリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(3.09g、東京化成社製)をサンプル瓶に入れ、N,N−ジメチルホルムアミド(1.41g、アルドリッチ社製、無水)、アセトニトリル(9.24g、アルドリッチ社製、無水)を加え、室温で3時間撹拌した。その後は実施例1と同様の方法で、リチウムイオン伝導性材料を作製するための硬化性組成物(R2)を得た。
【0125】
(リチウムイオン伝導性材料及びリチウムイオン伝導性電解質膜の作製)
得られた硬化性組成物(R2)の溶液(8.43g、無色透明溶液)をテフロン(登録商標)基板状にキャストし、アプリケーターを使用して、塗布した硬化性組成物(R2)の厚さを180〜200μmに調整した。以下、実施例1と同様方法で、硬化性組成物(R2)からリチウムイオン伝導性材料(R2)を介する一貫法により、淡黄色透明のリチウムイオン伝導性電解質膜(MR2)を得た。
【0126】
[比較例3]
(硬化性組成物の作製)
グローブボックス内で高純度アルゴン(99.9999%)雰囲気下、ジ(トリメチロールプロパン)テトラアクリレート(0.49g、アルドリッチ社製、M:466)、マレイン酸ジアリル(0.36g、東京化成社製)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(1.52g、東京化成社製)をサンプル瓶に入れ、N,N−ジメチルホルムアミド(1.20g、アルドリッチ社製、無水)、アセトニトリル(5.43g、アルドリッチ社製、無水)を加え、室温で3時間撹拌した。次に、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(0.18g、和光純薬社製)、酢酸エチル(0.36g、アルドリッチ社製、無水)、ジクロロメタン(1.87g、アルドリッチ社製、無水)を加え、0℃で12時間撹拌した後、50〜80℃で12時間加熱撹拌した。
また、メタクリル酸ナトリウム(0.23g、和光純薬社製)、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート(0.27g、アルドリッチ社製、M:950)、2−アクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロリド(0.20g、アルドリッチ社製)、リン酸2−(メタクリロイルオキシ)エチル2−(トリメチルアンモニオ)エチル(0.16g、アルドリッチ社製)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(1.57g、東京化成社製)を別のサンプル瓶に入れ、N,N−ジメチルホルムアミド(1.33g、アルドリッチ社製、無水)、アセトニトリル(5.52g、アルドリッチ社製、無水)を加え、室温で3時間撹拌した。次に、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(0.21g、和光純薬社製)、酢酸エチル(0.35g、アルドリッチ社製、無水)、ジクロロメタン(2.2.9g、アルドリッチ社製、無水)を加え、0℃で12時間撹拌した後、50〜80℃で12時間過熱撹拌した。
そして、2つのサンプル瓶の中身を混合して一つにまとめ、室温で3時間撹拌し、リチウムイオン伝導性材料を作製するための硬化性組成物(R3)を得た。
【0127】
(リチウムイオン伝導性材料及びリチウムイオン伝導性電解質膜の作製)
得られた硬化性組成物(R3)の溶液(7.82g、無色透明溶液)をテフロン(登録商標)基板状にキャストし、アプリケーターを使用して、塗布した硬化性組成物(R3)の厚さを180〜200μmに調整した。その後、室温で24時間静置した。次にオーブンを使用して室温から60℃まで段階的に昇温し、24時間加熱し、本硬化させた。そして、減圧下、真空乾燥させて溶媒を留去することにより、硬化性組成物(R3)からリチウムイオン伝導性材料(R3)を介する一貫法により、淡黄色透明のリチウムイオン伝導性電解質膜(MR3)を得た。
【0128】
[比較例4]
(硬化性組成物の作製)
グローブボックス内で高純度アルゴン(99.9999%)雰囲気下、ポリ(エチレンオキシド)(3.30g、アルドリッチ社製、M:600,000)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(2.16g、東京化成社製)をサンプル瓶に入れ、アセトニトリル(109.2g、アルドリッチ社製、無水)を加え、室温で12時間撹拌し、リチウムイオン伝導性材料を作製するための硬化性組成物(R4)を得た。
【0129】
(リチウムイオン伝導性材料及びリチウムイオン伝導性電解質膜の作製)
得られた硬化性組成物(R4)の溶液(2.07g、無色透明溶液)をテフロン(登録商標)基板状にキャストし、アプリケーターを使用して、塗布した硬化性組成物(R4)の厚さを150〜250μmに調整した。次いで、室温で24時間室温静置した後、オーブンを使用して80℃で6時間加熱した。そして、減圧下、真空乾燥させて溶媒を留去することにより、硬化性組成物(R4)からリチウムイオン伝導性材料(R4)を介する一貫法により、無色半透明のリチウムイオン伝導性電解質膜(MR4)を得た。
【0130】
[比較例5]
(硬化性組成物の作製)
比較例4と同様の方法で、リチウムイオン伝導性材料を作製するための硬化性組成物(R5)を得た。
【0131】
(リチウムイオン伝導性材料及びリチウムイオン伝導性電解質膜の作製)
得られた硬化性組成物(R5)の溶液(1.90g、無色透明溶液)をN,N−ジメチルホルムアミド(0.54g、無水、アルドリッチ社製)に溶解させ、得られた溶液を、フッ素樹脂フィルム上でポリエチレン/ポリプロピレン製多孔質膜(厚さ:1〜60μm、空孔率:30〜95%、平均孔径:0.01〜10μm)に含浸させた。含浸後の膜にフッ素樹脂フィルムを被せ、その上からアプリケーターで膜厚がおよそ60μmになるようにレベリングした。そして、フッ素樹脂フィルムを新たに前記膜に被せ、2枚のガラス板でフッ素樹脂フィルムを介して前記膜を挟み、室温で24時間静置した。次いで、オーブンを使用して、80℃で24時間加熱した後、減圧下、真空乾燥させて溶媒を留去することにより、硬化性組成物(R5)からリチウムイオン伝導性材料(R5)を介する一貫法により、無色半透明のリチウムイオン伝導性電解質膜(MR5)を得た。
【0132】
[比較例6]
(リチウムイオン伝導性電解質膜の作製)
硬化性組成物の溶液に代えて、リチウム塩含有有機電解液である六フッ化リン酸リチウム溶液(プロピレンカーボネート:エチレンカーボネート=1:1)(1.0M、1.28g、キシダ化学社製、以下、リチウムイオン伝導性材料(6)と略記することがある)を、フッ素樹脂フィルム上でポリエチレン/ポリプロピレン製多孔質膜(厚さ:1〜60μm、空孔率:30〜95%、平均孔径:0.01〜10μm)に含浸させることにより、無色半透明のリチウムイオン伝導性電解質膜(MR6)を得た。
【0133】
<リチウムイオン伝導性材料の評価>
(粘度の評価)
マルチレンジ粘度計TVB−22H形粘度計(東機産業社製)を使用し、日本工業規格(JIS)の粘度測定法(JIS K 7117−2)に従い、回転数50rpm、温度20℃の測定条件で、リチウムイオン伝導性材料(1)〜(5)及び(R1)〜(R6)の粘度を測定した。なお、ここでは、得られた硬化性組成物を硬化させる具体的な操作を行う前の完全硬化していない状態にあるものを「リチウムイオン伝導性材料」として、その粘度を測定した。そして、同一条件で5回測定し、その平均値を採用した。評価結果を表1に示す。なお、表1において、例えば、「(A)+(B)」との表記は、構造体(A)と構造体(B)が、これが結合した状態で含有されていることを示し、「(A),(B)」との表記は、構造体(A)と構造体(B)が結合せずに含有されていることを示す。
【0134】
【表1】

【0135】
<リチウムイオン伝導性電解質膜の評価>
(形態の評価)
リチウムイオン伝導性電解質膜(M1)〜(M5)を、FE−SEMにより観察したところ、いずれにおいても粒子径が40〜70nm(ナノメートル)程度の不定形である一次粒子が確認された。さらに、その一次粒子表面に、厚さが10〜100nm程度の鎖状高分子による分子層が存在する、複合粒子の連続体構造が含まれていることを確認した。
一方、リチウムイオン伝導性電解質膜(MR1)〜(MR6)を、FE−SEMにより観察したところ、(MR2)及び(MR3)においては、粒子径が50〜80nm程度の不定形である一次粒子が確認されたが、その一次粒子表面に、(M1)〜(M5)で見られたような分子層は確認できなかった。そして、(MR1)及び(MR4)〜(MR6)においては、一次粒子すら確認できなかった。
【0136】
(膜厚方向における全リチウムイオン伝導度比の評価)
リチウムイオン伝導性電解質膜(M1)〜(M5)、(MR1)〜(MR6)を電気化学セル(宝泉社製、HSセル又はCR2032型コインセル)にセットし、SUS板で挟みこんで密着させ、対称型セルを作製した。
次いで、前記対称型セルに電気化学インピーダンス測定装置(ソーラトロン社製、12608W型電気化学測定システム)を接続し、周波数0.01Hz〜1MHzの領域でインピーダンスを測定して、サンプルの全リチウムイオン伝導度を測定した。
そして、代表的なリチウムイオン伝導性物質であるポリエチレンオキシド(アルドリッチ社製、体積平均分子量 〜600,000)に、代表的なリチウム塩であるビス(トリフルオロメタン)スルホンイミドリチウム塩(アルドリッチ社製)を加えてリチウムイオン伝導性電解質膜とし、これについて、同様の条件でインピーダンスを測定した。この測定値を基準として、各リチウムイオン伝導性電解質膜の表面方向におけるインピーダンス測定値を割った比(全リチウムイオン伝導度比)を算出した。評価結果を表2に示す。
【0137】
(輸率の評価)
リチウムイオン伝導性電解質膜の輸率(t)は、以下に示すように、直流分極測定と交流インピーダンス測定の併用によって算出した。
すなわち、リチウムイオン伝導性電解質膜(M1)〜(M5)、(MR1)〜(MR6)を上記の全リチウムイオン伝導度測定時と同様の電気化学セルにセットし、リチウム箔で挟みこんで密着させ、対称型セルを作製した。
次いで、このセルを80℃で5時間保持してエージングを行い、交流インピーダンスを測定した(初期、0)。次に直流分極測定を行った(ΔV)。そして、電流が一定になったことを確認して、再度交流インピーダンスを測定した(定常状態、s)。
次いで、前記直流分極測定値(ΔV)、初期と定常状態のそれぞれにおける界面抵抗値(Ri、Ri)及び電流値(I、I)を下記式(1)に代入して、輸率(t)を求めた。評価結果を表2に示す。
【0138】
【数1】

【0139】
(膜強度の評価)
1辺が4cmの正方形に切断したリチウムイオン伝導性電解質膜(M1)〜(M5)、(MR1)〜(MR6)を正極(パイオトレック社製、コバルト酸リチウム)と負極(パイオトレック社製、天然グラファイト)で挟み、精密プレス機を使用して40℃、1kNの条件下、3分間プレスした。
初期の膜厚(d)に対するプレス後の膜厚(d)の減少変化率(−Δd)を下記式(2)から、初期の膜面積(S)に対するプレス後の膜面積(S)の変化率(ΔS)を下式(3)から、それぞれ算出し、膜強度評価の指標とした。評価結果を表3に示す。
【0140】
【数2】

【0141】
(形状保持安定性の評価)
1辺が5cmの正方形に切断したリチウムイオン伝導性電解質膜(M1)〜(M5)、(MR1)〜(MR6)を、一般的なリチウムイオン伝導性電解液であるプロピレンカーボネート中に浸漬して、25℃で1日静置した。その後、60℃で6時間加熱を行った後、25℃まで冷却して6時間静置した。次いで、80℃で6時間加熱を行った後、0℃まで冷却して6時間静置した。この操作を1サイクルとし、3サイクル行った。
次いで、リチウムイオン伝導性電解質膜をプロピレンカーボネートから取り出し、表面の液体を取り除いた後、すばやく寸法を測定した。浸漬前の寸法(l)に対する浸漬後の寸法(l)の変化率(Δl)を下記式(4)から寸法膨潤率として算出し、4辺の平均値を形状保持安定性評価の指標とした。評価結果を表3に示す。
【0142】
【数3】

【0143】
【表2】

【0144】
【表3】

【0145】
<電極の作製>
以下に示す各種電極を作製(準備)した。
(市販品電極)
標準電極として、市販品の正極(パイオトレック社製、コバルト酸リチウム、67μm)及び負極(パイオトレック社製、天然グラファイト、61μm)を使用して、そのまま後述する評価に供した。
【0146】
(コーティング電極の作製)
グローブボックス内で高純度アルゴン(99.9999%)雰囲気下、実施例1〜5又は比較例1〜5で得られた硬化性組成物、あるいは比較例6で使用した六フッ化リン酸リチウム溶液を、それぞれ正極(パイオトレック社製、コバルト酸リチウム、67μm)及び負極(パイオトレック社製、天然グラファイト、61μm)上にパスツールピペットを使用して滴下した。そして、アプリケーターでリチウムイオン伝導性材料の厚さをおよそ100μmになるように調整した。
次いで、実施例1〜5及び比較例1〜2で得られた硬化性組成物に関しては、UV照射を行い仮硬化させた。その後、全ての電極に関して、室温から80℃まで徐々に昇温し、24時間加熱して、本硬化させた。そして、加熱後、減圧下で真空乾燥させることにより溶媒を留去した後、電極を直径16mmの大きさとなるように切り出し、コーティング正極及び負極をそれぞれ得た。
【0147】
(スラリー電極の作製)
グローブボックス内で高純度アルゴン(99.9999%)雰囲気下、リン酸鉄リチウム(0.65g)、高導電性カーボンブラック(0.13g、ケッチェン)、実施例1〜5又は比較例1〜5で得られた硬化性組成物(0.245g)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(0.083g、東京化成社製)、あるいは比較例6で使用した六フッ化リン酸リチウム溶液(0.214g)をそれぞれサンプル瓶に入れ、アセトニトリル(9.21g、アルドリッチ社製、無水)を加え、室温で6時間撹拌し、正極電極スラリーを得た。
同様にして、人造黒鉛(0.52g)、高導電性カーボンブラック(0.14g、ケッチェン)、実施例1〜5又は比較例1〜5で得られた硬化性組成物(0.35g)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(0.11g、東京化成社製)、あるいは比較例6で使用した六フッ化リン酸リチウム溶液(0.231g)をサンプル瓶に入れ、アセトニトリル(9.31g、アルドリッチ社製、無水)を加え、室温で6時間撹拌し、負極電極スラリーを得た。
【0148】
前記正極電極スラリーをアルミニウム箔(厚さ20μm)上に、前記負極電極スラリーを銅箔(厚さ20μm)上に、それぞれ塗布した。そして、アプリケーターで前記電極スラリーの厚さをおよそ100μmになるように調整した後、実施例1〜5及び比較例1〜2で得られた硬化性組成物を含むものに関しては、UV照射を行い仮硬化させた。その後、全ての電極に関して、110℃で12時間乾燥させ、本硬化させた。そして、加熱後、減圧下で真空乾燥させることにより溶媒を留去し、電極を直径16mmの大きさとなるように切り出し、スラリー正極及びスラリー負極をそれぞれ得た。
【0149】
<膜−電極接合体の評価>
(充放電特性の評価)
リチウムイオン伝導性電解質膜(M1)〜(M5)、(MR1)〜(MR6)を、それぞれ前記市販品電極(正極(パイオトレック社製、コバルト酸リチウム)及び負極(パイオトレック社製、天然グラファイト))、前記コーティング電極(正極及び負極)、又は前記スラリー電極(正極及び負極)で挟みこんで密着させ、非対称型ラミネートセルを作製した。
次いで、電池充放電装置(HJ−SM8システム、北斗電工社製)を使用し、前記非対称型ラミネートセルについて、電流密度0.1mA/cmで定電流測定を行い、初期容量(a)と、100サイクル後の容量(b)を測定し、これら測定値を下記式(5)に代入して容量維持率(m)(%)を求め、前記非対称型ラミネートセルの充放電特性を評価した。評価結果を表4に示す。
【0150】
【数4】

【0151】
【表4】

【0152】
以上の結果から、実施例1〜5のリチウムイオン伝導性電解質膜(M1)〜(M5)は、比較例1〜5のリチウムイオン伝導性電解質膜(MR1)〜(MR5)よりも高いイオン電導性を有し、耐久性も同等以上であることが確認できた。また、リチウムイオン伝導性液体を含む実施例3〜5のリチウムイオン伝導性電解質膜(M3)〜(M5)は、電解液系の比較例6のリチウムイオン伝導性電解質膜(MR6)にも匹敵するイオン電導性を有していた。
また、三次元計測X線CT装置を使用して、実施例1〜5のリチウムイオン伝導性材料(1)〜(5)の三次元構造を測定した結果、粒子状構造が三次元的に連なって配列していることが確認できた。一方、比較例1〜6リチウムイオン伝導性材料(R1)〜(R6)では、粒子状構造や三次元的な構造配列を確認できなかった。
そして、実施例1〜5の膜−電極接合体は、比較例1〜6の膜−電極接合体に対して、電池性能が同等以上で、極めて優れることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明は、リチウムイオン二次電池の分野で利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン伝導作用部位含有構造体(A)及び多官能基含有構造体(B)の結合体と、リチウムイオン電解質(C)と、を含有するリチウムイオン伝導性材料であって、
前記結合体は、前記多官能基含有構造体(B)が、複数の前記リチウムイオン伝導作用部位含有構造体(A)と結合してなり、
前記リチウムイオン伝導作用部位含有構造体(A)は、アニオン性、ノニオン性、カチオン性又は双性の官能基を有する鎖状分子であり、
前記多官能基含有構造体(B)は、三つ以上の不飽和結合を有する化合物を少なくとも含む架橋剤が結合されてなる、略球状の三次元構造体であり、且つその表面に前記リチウムイオン伝導作用部位含有構造体(A)が結合して層構造をなし、
前記層構造の空隙部に、前記リチウムイオン電解質(C)が含まれていることを特徴とするリチウムイオン伝導性材料。
【請求項2】
前記リチウムイオン伝導作用部位含有構造体(A)及び/又は前記多官能基含有構造体(B)が、下記一般式(I)で表される金属−酸素結合による架橋構造を含む金属−酸素結合型構造体(D)を重合成分として含むものであり、
前記リチウムイオン伝導作用部位含有構造体(A)及び多官能基含有構造体(B)が、重合性不飽和二重結合及び/又は金属−酸素結合を介して結合し、前記結合体が粒子状構造であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン伝導性材料。
【化1】

(式中、Mはそれぞれ独立にケイ素原子、チタン原子、アルミニウム原子、バナジウム原子、ジルコニウム原子、スズ原子又はクロム原子であり;Rは炭素数1〜100の二価の炭化水素基若しくはアルキレンオキシド又は酸素原子であり;R、R、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、フェニル基、アセトナート基、アセチルアセトナート基、アセテート基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシキ基、イソプロポキシキ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニル基、アリル基、水酸基又は式「−O−M−」で表される基であり、少なくとも一つはメトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシキ基、イソプロポキシキ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、ビニル基、アリル基、水酸基又は式「−O−M−」で表される基であり;n、n、n及びnは0又は1であり、「n+n+2」及び「n+n+2」はMの原子価に一致し;mは1以上の整数であり、mが2以上である場合には、複数のMはそれぞれ互いに同一でも異なっていても良く、複数のR、R及びRはそれぞれ互いに同一でも異なっていても良く、複数のn及びnはそれぞれ互いに同一でも異なっていても良い。)
【請求項3】
日本工業規格(JIS)の粘度測定法(JIS K 7117−2)に従い、回転数50rpm、温度20℃で測定した時の粘度が、10〜10000mPa・sであることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン伝導性材料。
【請求項4】
前記リチウムイオン伝導作用部位含有構造体(A)の分子量M、及び前記多官能基含有構造体(B)の分子量Mが、M/M=0.01〜100の関係を満たすことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のリチウムイオン伝導性材料。
【請求項5】
さらに、リチウムイオン伝導性液体(E)を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のリチウムイオン伝導性材料。
【請求項6】
さらに、添加剤(F)として、ルイス酸(F1)、リン酸エステル(F2)及び無機粒子(F3)からなる群より選択される少なくとも一種を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のリチウムイオン伝導性材料。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のリチウムイオン伝導性材料を使用したことを特徴とするリチウムイオン伝導性電解質膜。
【請求項8】
前記リチウムイオン伝導性材料が、多孔質基材(G)に含浸されていることを特徴とする請求項7に記載のリチウムイオン伝導性電解質膜。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のリチウムイオン伝導性材料を電極上に形成し、乾燥又は紫外線硬化させて成膜した後、該膜上に対電極を配置して熱硬化することにより、リチウムイオン伝導性電解質膜を前記電極及び対電極と接合したことを特徴とするリチウムイオン伝導性電解質膜−電極接合体。
【請求項10】
請求項7又は8に記載のリチウムイオン伝導性電解質膜の一方の面に正極が、他方の面に負極がそれぞれ接合されたことを特徴とするリチウムイオン伝導性電解質膜−電極接合体。
【請求項11】
請求項9又は10に記載のリチウムイオン伝導性電解質膜−電極接合体を備えたことを特徴とするリチウムイオンポリマー電池。
【請求項12】
前記リチウムイオン伝導性電解質膜−電極接合体をラミネートセルに組んでなる複数の単位セルが、積層及び連結されたことを特徴とする請求項11に記載のリチウムイオンポリマー電池。

【公開番号】特開2012−54071(P2012−54071A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−194982(P2010−194982)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】