説明

リチウムイオン伝導性無機物質

【課題】電池の充放電電圧をより高めることができ、且つ、電池の充放電特性をより高めることが可能なリチウムイオン伝導性無機物質を提供する。
【解決手段】リチウムイオン伝導性無機物質は、酸化物基準の質量%で、ZrO成分を2.6〜52.0%含有する。このリチウムイオン伝導性無機物質は、正極層及び負極層と、これら正極層及び負極層の間に介在する固体電解質を含んだ固体電解質層と、を備えるリチウムイオン二次電池に用いられることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン伝導性無機物質に関し、特にリチウムイオン二次電池の固体電解質や、リチウム空気電池及びリチウム海水電池の隔壁に好ましく用いられる、リチウムイオン伝導性無機物質に関する。
【背景技術】
【0002】
無機固体電解質を用い、電極にも有機物を用いない全固体電池は、有機電解液の漏液や有機電解液からのガス発生の心配がないため、安全な電池として期待されている。この全固体電池は、液系の電池と比較して電池反応以外の副反応が生じることが少ないため、液系の電池に比べて長寿命化が期待できる。
【0003】
全固体電池の一例として、固体電解質層の両側に正極層と負極層とがそれぞれ積層及び焼結されたものが挙げられ、これら固体電解質層、正極層及び負極層に含まれる固体電解質として、リチウムイオン伝導性を有する無機物質が用いられている。
【0004】
また、負極側にリチウム化合物を用い、正極側に触媒を配置したリチウム空気電池やリチウム海水電池は、原理的に正極によって容量が制限されないため、より小型で大容量の電池を形成できる点で期待されている。これらリチウム空気電池やリチウム海水電池の隔壁にも、リチウムイオン伝導性無機物質が用いられている。
【0005】
ここで、特許文献1には、固体電解質層のイオン伝導性や化学的な安定性を高めるために、固体電解質層を構成するリチウムイオン伝導性無機物質として、LATP(Li1.3Al0.3Ti1.7(PO)結晶と同じ結晶構造を有する結晶を含有するガラスセラミックスを用いた、リチウムイオン二次電池が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、隔壁(耐水層)のイオン伝導性や化学的な安定性を高めるために、隔壁を構成するリチウムイオン伝導性無機物質として、LATP(Li1.3Al0.3Ti1.7(PO)を含有するガラスセラミックスを用いたリチウム空気電池が開示されている。
【0007】
また、非特許文献1には、固体電解質を構成するリチウムイオン伝導性無機物質として、LATPとは結晶構造の異なるLZP(LiZr(PO)に含まれるLiの一部をScに置換した無機物質を用いた、リチウムイオン二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−134305号公報
【特許文献2】特開2010−192313号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】T.Salkus、外5名、「Synthesys, structure, and elecreic properties of Li1+xScxZr2−x(PO4)3 (x=0.1,0.2,0.3) ceramics」、Lithanian Journal of Physics、2006年、第46巻、第3号、p.363−366
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1で開示されているリチウムイオン二次電池や、特許文献2で開示されているリチウム空気電池では、リチウムイオン伝導性無機物質が分解し易いため、充放電電圧を大きく出来ない問題点があった。また、非特許文献1で開示されているリチウムイオン二次電池では、リチウムイオン伝導性無機物質のイオン伝導性が十分でないため、リチウムイオン二次電池の充放電特性をより高めることが求められていた。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、電池の充放電電圧をより高めることができ、且つ、電池の充放電特性をより高めることが可能なリチウムイオン伝導性無機物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、リチウムイオン伝導性無機物質にZrO成分を所定の含有量の範囲で含ませることで、高い導電率を有するLATP(Li1.3Al0.3Ti1.7(PO)と同様の結晶構造を有しながらも、還元によるリチウムイオン伝導性無機物質の分解が起こり難くなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
(1) 酸化物基準の質量%で、ZrO成分を2.6〜52.0%含有するリチウムイオン伝導性無機物質。
【0014】
(2) ガラスセラミックスである請求項1記載のリチウムイオン伝導性無機物質。
【0015】
(3) セラミックスである請求項1記載のリチウムイオン伝導性無機物質。
【0016】
(4) Li1+x+z2−x3−zSi12
(0<X≦1、
0<Z<1、
M=Al、Sc、Y、Ga、Laの中から選ばれる1種以上、
A=Ti、Zr、Ge、Snの中から選ばれる1種以上)
の結晶相を含有する請求項1から3のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性無機物質。
【0017】
(5) 酸化物基準の質量%で
LiO成分 3.0〜9.5%
成分 24〜55%
AO成分 21〜51%
成分 0%超〜24%
の成分を含有する(ここで、Aは、Zr、Ti、Ge、Snの中から選ばれる1種以上であり、Mは、Al、Y、Sc、Ga、Laの中から選ばれる1種以上である)請求項1から4のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性無機物質。
【0018】
(6) 酸化物基準の質量%で、SiO成分の含有量が18%以下である請求項1から5のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性無機物質。
【0019】
(7) 酸化物基準の質量比で
/(ZrO+Y) 0.001〜0.14
又は
Sc/(ZrO+Sc) 0.001〜0.10
を満たす請求項1から6のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性無機物質。
【0020】
(8) 25℃におけるリチウムイオン伝導度が1.0×10−8S・cm−1以上である請求項1から7のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性無機物質。
【0021】
(9) 25℃におけるLiに対する電位が0.3V以上1.5V以下の範囲で、還元電流の電流密度が10μA/cm未満である請求項1から8のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性無機物質。
【0022】
(10) 正極層及び負極層と、前記正極層及び前記負極層の間に介在し、請求項1から9のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性セラミックスから形成される固体電解質を含む固体電解質層と、を備えるリチウムイオン二次電池。
【0023】
(11) 厚さが0.5μm〜1000μmであり、請求項1から10のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性セラミックスを含む、一次電池又は二次電池用の固体電解質。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、電池の充放電電圧をより高めることができ、且つ、電池の充放電特性をより高めることが可能なリチウムイオン伝導性無機物質を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】リチウムイオン伝導性無機物質に含まれるTiを6mol%Y−94mol%Zrに置換したときの、イオン伝導度の組成依存性を示すグラフである。
【図2】リチウムイオン伝導性無機物質に含まれるTiを6mol%Y−94mol%Zrに置換したときの還元電流の電流密度の組成依存性を示すグラフである。
【図3】リチウムイオン伝導性無機物質Li1.4+xAl0.2Zr1.8−xSi0.22.812における、xとリチウムイオン伝導性無機物質の抵抗値の関係を示すグラフである。
【図4】リチウムイオン伝導性無機物質Li1.3+xAl0.2Zr1.70.1Si3−x12における、Si含有量xとイオン伝導率の関係を示すグラフである。
【図5】リチウムイオン伝導性無機物質Li1.3+xAlZr1.9−x0.1Si0.22.812における、Alの含有量xとイオン伝導度の関係を示すグラフである。
【図6】本発明の実施例47〜50の全固体二次電池に対する、充放電試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明のリチウムイオン伝導性無機物質は、構成成分としてZrO成分を2.6〜52.0%含有する。リチウムイオン伝導性無機物質にZrO成分を所定の含有量の範囲で含ませることで、還元によるリチウムイオン伝導性無機物質の分解が起こり難くなり、分解による生成物を通じた電子の伝導が低減される。それとともに、リチウムイオン二次電池やリチウム空気電池、リチウム海水電池における電位窓が広げられる。従って、電池の充放電電圧をより高めることができ、且つ、電池の充放電特性をより高めることが可能なリチウムイオン伝導性無機物質を提供できる。
【0027】
以下、本発明のリチウムイオン伝導性無機物質の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0028】
本発明のリチウムイオン伝導性無機物質に含まれる各成分の含有量は、特に明記しない限りは酸化物基準の質量%で表す。ここで、「酸化物換算組成」は、リチウムイオン伝導性無機物質の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が溶融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量を100質量%として、リチウムイオン伝導性無機物質中に含有される各成分を表記した組成である。
【0029】
<リチウムイオン伝導性無機物質>
ここで、リチウムイオン伝導性無機物質は、酸化物基準の質量%で、ZrO成分を2.6〜52.0%含有する。これにより、還元によるリチウムイオン伝導性無機物質の分解が起こり難くなることで、分解による生成物を通じた電子の伝導が低減される。そのため、高い充放電特性を得ながらも、充放電時の電圧のより高められた電池を得ることができる。
【0030】
より好ましくは、リチウムイオン伝導性無機物質は、酸化物基準の質量%で、LiO成分を3.0〜9.5%、P成分を24〜55%、AO成分を21〜51%及びM成分を0%超〜24%の成分を含有する(ここで、Aは、Zr、Ti、Ge、Snの中から選ばれる1種以上であり、Mは、Al、Y、Sc、Ga、Laの中から選ばれる1種以上である)。これにより、LiO成分やAO成分、P成分が必須成分として含まれることで、リチウムイオン伝導性無機物質に高い導電率を有するLATP(Li1.3Al0.3Ti1.7(PO)と同様のイオン伝導性を有する結晶が形成され易くなり、且つ、この結晶構造が安定して存在し易くなるため、リチウムイオン伝導性無機物質のイオン伝導性を高めることができる。
【0031】
以下、リチウムイオン伝導性無機物質を構成する成分と、リチウムイオン伝導性無機物質の物性について説明する。
【0032】
ZrOは、リチウムイオン伝導性を有する結晶に対して、還元によるリチウムイオン伝導性無機物質の分解を起こり難くできる必須成分である。特に、ZrOを2.6%以上含有することで、リチウムイオン伝導性無機物質の分解による電子の伝導を低減できる。そのため、ZrOの含有量は、好ましくは2.6%、より好ましくは10.0%、最も好ましくは20.0%を下限とする。一方で、ZrOの含有量を52.0%以下にすることで、Li1+x+z2−x3−zSi12の結晶相を生成し易くできる。そのため、ZrOの含有量は、好ましく52.0%、より好ましくは47.0%、最も好ましくは45.0%を上限とする。
【0033】
LiOは、リチウムイオン伝導性無機物質にリチウムイオン伝導性を付与する必須成分である。そのため、LiOの含有量は、好ましくは3.0%、より好ましくは3.5%、最も好ましくは4.0%を下限とする。一方で、LiOを9.5%以下にすることで、リチウムイオン伝導性無機物質の化学的耐久性を高めて電池の形態安定性を高めることができる。そのため、LiOの含有量は、好ましくは9.5%、より好ましくは9.0%、最も好ましくは8.5%を上限とする。
【0034】
は、Li1+x+z2−x3−zSi12の結晶相を形成するのに必須の成分である。そのため、Pの含有量は、好ましくは24%、より好ましくは31%、最も好ましくは45%を下限とする。一方で、Pを55%以下にすることで、他の結晶相やガラス相の形成を抑えることで、形成される結晶のリチウムイオン伝導度を低下し難くできる。そのため、Pの含有量は、好ましくは55%、より好ましくは53%、最も好ましくは51%を上限とする。
【0035】
AO(Aは、Zr、Ti、Ge、Snの中から選ばれる少なくとも1種である。)は、リチウムイオン伝導性無機物質の結晶化を促進する必須成分である。そのため、AOの含有量は、好ましくは21%、より好ましくは26%、最も好ましくは36%を下限とする。一方で、AOを42%以下にすることで、形成される結晶のリチウムイオン伝導度を低下し難くできる。そのため、AOの含有量は、好ましくは51%、より好ましくは49%、最も好ましくは42%を上限とする。
【0036】
(Mは、Al、Y、Sc、Ga、Laの中から選ばれる少なくとも1種である。)は、形成される結晶のAO成分と部分的に置換することで、結晶のイオン伝導性を調整でき、且つ結晶の機械的強度等を調整できる成分である。そのため、Mの含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは2%、さらに好ましくは5%を下限とする。一方で、Mを24%以下にすることで、他の結晶相やガラス相の形成を抑えることにより、リチウムイオン伝導性無機物質のイオン伝導性の低下を抑えられる。そのため、Mの含有量は、好ましくは24%、より好ましくは22%、さらに好ましくは20%を上限とする。
特に、Mの中でも、Al及びYの両方を含有することが、高いイオン伝導度を得るためにはより好ましく、Alを1%〜3%含有し、且つYを0.5%〜5%含有することがさらに好ましい。
【0037】
SiOは、リチウムイオン伝導性無機物質の機械的強度を高める成分であり、また、Pと部分的に置換することで、イオン伝導性を向上させる成分である。そのため、SiOを0%超含有してもよい。一方で、SiOを18%以下にすることで、ガラス相が形成され難くなるため、所望の結晶相を形成し易くすることができる。また、結晶同士が隣接し易くなるため、イオン伝導性の低下を抑えることができる。そのため、SiOの含有量は、好ましくは18%、より好ましくは11%、最も好ましくは4%を上限とする。
【0038】
本発明のリチウムイオン伝導性無機物質は、Y/(ZrO+Y)が0.001以上0.14以下であることが好ましい。又は、本発明のリチウムイオン伝導性無機物質は、Sc/(ZrO+Sc)が0.001以上0.10以下であることが好ましい。特に、Y/(ZrO+Y)又はSc/(ZrO+Sc)を0.001以上にすることで、リチウムイオン伝導性無機物質のイオン伝導性が高められるため、電池の充放電特性をより高めることができる。従って、酸化物換算での質量比Y/(ZrO+Y)及びSc/(ZrO+Sc)は、それぞれ好ましくは0.001、より好ましくは0.005、最も好ましくは0.010を下限とする。一方で、Y/(ZrO+Y)を0.14以下にし、又は、Sc/(ZrO+Sc)を0.10以下にすることで、高価なYやScの使用が低減されるため、電池の材料コストを低減できる。従って、酸化物換算での質量比Y/(ZrO+Y)は、好ましくは0.14、より好ましくは0.12、最も好ましくは0.10を上限とする。また、酸化物換算での質量比Sc/(ZrO+Sc)は、好ましくは0.10、より好ましくは0.08、最も好ましくは0.05を上限とする。
【0039】
このほか、リチウムイオン伝導性無機物質には、LiF、SrO及びVから選ばれる少なくとも1種以上を0%超用いてもよい。これにより、リチウムイオン伝導性向上、機械的強度向上、電子伝導性付与等の様々な特性をリチウムイオン伝導性無機物質に付与できる。一方で、これら成分の1種以上の含有量は、高いリチウムイオン伝導性を確保する観点から、好ましくは10%、より好ましくは5%、最も好ましくは3%を上限とする。
【0040】
一方、本発明のリチウムイオン伝導性無機物質では、S成分、MgO、CaO及びKOの含有は極力低減することが好ましい。特に、S成分を低減することで、電池からの硫化水素等の有害ガスの発生を低減できる。また、MgO、CaO、KO成分を低減することで、いわゆる混合アルカリ効果によってリチウムイオンの流路が失われることを抑制できる。一方で、これら成分の1種以上の含有量は、好ましくは5%、より好ましくは3%を上限とし、最も好ましくは含有しない。
【0041】
このようなリチウムイオン伝導性無機物質の具体例としては、例えばLi1+x+z2−x3−zSi12(0<X≦1、0<Z<1、M=Al、Sc、Y、Ga、Laの中から選ばれる1種以上、A=Ti、Zr、Ge、Snの中から選ばれる1種以上)の結晶相を含有する無機物質が挙げられる。その中でも特に、Li1+x+z(Al,Y)2−x3−zSi12(0.10<X<0.70、0<Z<1、A=Zr、Ti、Ge、Snの中から選ばれる1種以上)の結晶相を含有する無機物質がより好ましく、Li1+x+z(Al,Y)(Ti,Zr)2−x3−zSi12(0.30<X<0.60、0.25<Z<0.60)の結晶相を含有する無機物質が最も好ましい。これにより、リチウムイオン伝導性無機物質のイオン伝導率を高めることができるため、より充放電特性の高い電池を得易くすることができる。
【0042】
このリチウムイオン伝導性無機物質は、上述の結晶相を含んだガラスセラミックスであることが好ましい。これにより、リチウムイオン伝導性無機物質に含まれる結晶粒子の密着性が高められるため、リチウムイオン伝導性無機物質のイオン伝導性や化学的な安定性を高めることができる。一方で、このリチウムイオン伝導性無機物質は、上述の結晶相を含んだセラミックスであってもよい。これにより、リチウムイオン伝導性無機物質の粉砕が容易になるため、特に電極層を形成する際に、電極活物質等との混合を行い易くできる。なお、本発明のリチウムイオン伝導性無機物質は、全固体二次電池を作製する際に、少なくとも一部に非晶質の相が形成されていることが好ましいが、全固体二次電池を作製している間の加熱によって、その全量が多晶質になっていてもよい。
【0043】
本実施態様のリチウムイオン伝導性無機物質は、高いリチウムイオン伝導性を有することが好ましい。より具体的には、25℃におけるリチウムイオン伝導度(イオン伝導率)が1.0×10−8S・cm−1以上であることが好ましい。これにより、リチウムイオン伝導性無機物質を介したリチウムイオンの伝導がスムーズに行われるため、電池の充放電効率をより高めることができる。ここで、リチウムイオン伝導性無機物質のイオン伝導率は、好ましくは1.0×10−8S・cm−1、より好ましくは1.0×10−7S・cm−1、最も好ましくは1.0×10−5S・cm−1を下限とする。なお、このイオン伝導率が1×10−10未満の場合、リチウムイオンの伝導は実質的に起こらない。
【0044】
また、本実施態様のリチウムイオン伝導性無機物質は、還元が起こり難いことが好ましい。より具体的には、25℃におけるLiに対する電位が0.3V以上1.5V以下の範囲で、還元電流の電流密度が10μA/cm未満であることが好ましい。これにより、25℃のLiに対する電位で1.5V以下の範囲にまで電位窓が広げられることで、電池により高い電圧で充放電を行っても、リチウムイオン伝導性無機物質の還元によるリチウムイオン伝導性無機物質の分解が起こり難くなり、分解による生成物を通じた電子の伝導が低減される。そのため、電池の充放電電圧を高め、且つ、電池の充放電特性をも高めることができる。ここで、リチウムイオン伝導性無機物質のこの還元電流の電流密度は、好ましくは10μA/cm未満、より好ましくは5μA/cm未満、最も好ましくは3μA/cm未満とする。
【0045】
本実施態様のリチウムイオン伝導性無機物質は、厚さが0.5μm以上1000μm以下の範囲内であることが好ましい。特に、リチウムイオン二次電池において、固体電解質層を構成するリチウムイオン伝導性無機物質の厚さを0.5μm以上にすることで、正極層と負極層の短絡を低減することができる。また、リチウム空気電池やリチウム海水電池において、隔壁を構成するリチウムイオン伝導性無機物質の厚さを0.5μm以上にすることで、隔壁を通じた水分の電池内部への侵入を低減できる。従って、リチウムイオン伝導性無機物質の厚さは、好ましくは0.5μm、より好ましくは1.0μm、最も好ましくは2.0μmを下限とする。一方で、リチウムイオン伝導性無機物質の厚さを1000μm以下にすることで、リチウムイオン伝導性無機物質を介したリチウムイオンの伝導性を確保することができる。従って、リチウムイオン伝導性無機物質の厚さは、好ましくは1000μm、より好ましくは500μm、最も好ましくは300μmを上限とする。
【0046】
リチウムイオン伝導性無機物質を粉末にして用いる場合、粉末の平均粒子径(D50)は、20μm以下であることが好ましい。これにより、溶媒の排出や、溶媒による空隙の粉砕を進め易くできる。従って、この平均粒子径(D50)は、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、5μm以下が最も好ましい。一方で、この平均粒子径(D50)の下限は、粉砕に要する時間を低減できる観点から、0.05μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましく、0.2μm以上が最も好ましい。その一方で、特にリチウムイオン伝導性無機物質をガラスセラミックスから構成した場合には、電池の機械的強度を高められる観点で、板状に成形されたリチウムイオン伝導性無機物質を用いてもよい。なお、本明細書における「平均粒子径」は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置によって測定される体積基準の平均径をいう。
【0047】
[全固体二次電池]
本発明のリチウムイオン伝導性無機物質は、全固体二次電池に好ましく用いることができる。全固体二次電池は、正極層及び負極層と、それらの間に介在する固体電解質層と、を有しており、これら正極層、負極層及び固体電解質層の少なくともいずれかの層に、固体電解質としてリチウムイオン伝導性無機物質が含まれることが好ましい。これにより、固体電解質の還元による生成物が低減するため、全固体二次電池の充放電特性をより高めることができる。その中でも特に、正極層、負極層及び固体電解質層の全ての層に、固体電解質としてリチウムイオン伝導性無機物質が含まれることがより好ましい。これにより、全固体二次電池の電位窓が広げられるため、全固体二次電池の充放電電圧をより高めることができる。
【0048】
<固体電解質層>
本実施態様の固体電解質層は、リチウムイオン伝導性無機物質から形成されることが好ましい。より具体的には、リチウムイオン伝導性無機物質の含有量を80%以上にすることが好ましい。これにより、固体電解質層中にリチウムイオンの伝導する経路が形成され易くなるため、固体電解質層のリチウムイオン伝導性をより高めることができる。そのため、固体電解質層におけるリチウムイオン伝導性無機物質の含有量は、好ましくは80%、より好ましくは90%、最も好ましくは95%を下限とする。一方で、リチウムイオン伝導性無機物質の含有量の上限は特に限定されず、100%であってもよい。
【0049】
この固体電解質層は、リチウムイオン伝導性無機物質にリチウム伝導性の無機バインダーを混合し、焼結して形成することが好ましい。これにより、固体電解質層全体のイオン伝導性を高めることができる。ここで、リチウムイオン伝導性の無機バインダーとしては、非晶質又は多晶質のLiPO、70LiPO−30LiPO、LiO−SiO、LiO−SiO−P−B−BaO等が挙げられる。その中でも特に、LiO−P系ガラス及びLiO−P−M’系のガラス(PがSiに置換されたものも含む。M’はAl、Bである。)から選択される1種以上が好ましく、LiPOを溶融後に急冷することで非晶質にしたものが最も好ましい。特に、LiPOを溶融後に急冷して非晶質にしたものは、イオン伝導度が8.8×10−9と決して高いわけではないが、Tgが約280℃と低く、且つ結晶化も起こり難いため、このバインダーと本発明のリチウムイオン伝導性無機物質とを混合して600℃に加熱することで、高いイオン伝導性を有する固体電解質を形成できる。固体電解質層に含まれるリチウム伝導性の無機バインダーの含有量は、固体電解質層の全質量に対して、好ましくは20%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限とする。
【0050】
<正極層及び負極層>
本実施態様における正極層は、上述のリチウムイオン伝導性無機物質と、正極活物質と、導電助剤とを含有することが好ましい。また、本実施態様における負極層は、上述のリチウムイオン伝導性無機物質と、負極活物質と、導電助剤とを含有することが好ましい。これにより、リチウムイオン伝導性無機物質によるリチウムイオン伝導性が高められることで、リチウムイオン伝導性無機物質の含有量を低減させても固体電解質層との間でリチウムイオンのやりとりが行われ易くなるため、電極活物質をリチウムイオン伝導性無機物質と導電助剤の双方に隣接し易くできる。なお、本明細書では、正極層及び負極層を電極層と総称し、正極活物質及び負極活物質を電極活物質と総称する。
【0051】
本実施態様の電極層は、リチウムイオン伝導性無機物質の含有量が質量%で20%〜80%であることが好ましい。特に、リチウムイオン伝導性無機物質の含有量を20%以上にすることで、リチウムイオン伝導性無機物質によって形成されるリチウムイオンの移動経路が確保され易くなるため、電池の充放電特性や電池容量をより高め易くできる。そのため、電極層におけるリチウムイオン伝導性無機物質の含有量は、好ましくは20%、より好ましくは40%、最も好ましくは50%を下限とする。一方で、リチウムイオン伝導性無機物質の含有量を90%以下にすることで、導電助剤によって形成される電子の移動経路が確保され易くなるため、電池の充放電特性や電池容量の低下を抑えることができる。そのため、電極層におけるリチウムイオン伝導性無機物質の含有量は、好ましくは90%、より好ましくは80%、最も好ましくは70%を上限とする。
【0052】
(正極活物質及び負極活物質)
正極活物質は、例えばNASICON型のLiV(POオリビン型のLiMtPO(但し、JはAl、Mg、Wから選ばれる少なくとも1種以上であり、MtはNi、Co、Fe、Mnから選ばれる1種以上、0.9≦x≦1.5、0≦y≦0.2)、層状酸化物、又はスピネル型酸化物であることが好ましい。その中でも特に、LiMtO及び/又はLiMt(但し、MtはFe、Ni、Co及びMnの中から選ばれる1種以上)からなることがより好ましい。これにより、リチウムイオン伝導性無機物質と正極活物質とが接合し易くなり、リチウムイオン伝導性無機物質と正極活物質との間でのリチウムイオンの受け渡しが行われ易くなるため、全固体二次電池の充放電特性をより高めることができる。正極活物質の具体例としては、例えばLiCoPO、LiCoO、LiMnを用いることができる。特に、LiMtO及び/又はLiMtからなることで、二次元又は三次元的にリチウムイオンが貯蔵される部分とリチウムイオンが伝導する部分との接合面ができる。さらに微量成分としてMgを添加することで、正極活物質の熱分解を抑制することで、放電容量を向上できる。
【0053】
一方で、負極活物質は、NASICON型、オリビン型、スピネル型の結晶を含む酸化物、ルチル型酸化物、アナターゼ型酸化物、若しくは非晶質金属酸化物、又は金属合金等から選ばれる少なくとも1種以上であることが好ましい。その中でも特に、Li1+x+zAlTiSi3−z12(但しx、y、zは0≦x≦0.8、0≦z≦0.6、yは0≦y≦0.6を満たす)、LiTi12、TiOからなることがより好ましい。これにより、リチウムイオン伝導性無機物質と負極活物質とが接合し易くなり、リチウムイオン伝導性無機物質と正極活物質との間でのリチウムイオンの受け渡しが行われ易くなるため、全固体二次電池の充放電特性をより高めることができる。特に、LiTiO及び/又はTiOからなることで、負極電位を低くできることで、電池の電圧を高くできる。負極活物質の具体例としては、例えばLi(PO、LiFe(PO、LiFePO、LiTi12、SiOx(0.25≦x≦2)、CuSnを用いることができる。
【0054】
これら正極活物質及び負極活物質の含有量は、含まれる電極層の材料(すなわち、正極材料又は負極材料)全体に対し、1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。特にこの含有量を1質量%以上にすることで、二次電池の電池容量を高めることができる。そのため、正極活物質及び負極活物質の含有量は、好ましくは1質量%、より好ましくは2質量%、最も好ましくは4質量%を下限とする。一方で、この含有量を20質量%以下にすることで、電極層の電子伝導性を確保し易くできる。そのため、正極活物質及び負極活物質の含有量は、好ましくは20質量%、より好ましくは15質量%、最も好ましくは10質量%を上限とする。
【0055】
この電極層は、上述の構成に加え、リチウム伝導性の無機バインダーを混合し、焼結して形成することが好ましい。これにより、電極層全体のイオン伝導性を高めることができる。ここで、リチウムイオン伝導性の無機バインダーとしては、非晶質又は多晶質のLiPO、70LiPO−30LiPO、LiO−SiO、LiO−SiO−P−B−BaO等が挙げられる。その中でも特に、LiO−P系ガラス及びLiO−P−M’系のガラス(PがSiに置換されたものも含む。M’はAl、Bである。)から選択される1種以上が好ましく、LiPOを溶融後に急冷することで非晶質にしたものが最も好ましい。特に、LiPOを溶融後に急冷して非晶質にしたものは、イオン伝導度が8.8×10−9と決して高いわけではないが、Tgが約280℃と低く、且つ結晶化も起こり難いため、このバインダーと上記電極層を構成する物質とを混合して600℃に加熱することで、高いイオン伝導性を有する固体電解質を形成できる。電極層に含まれるリチウム伝導性の無機バインダーの含有量は、電極層の全質量に対して、好ましくは20%、より好ましくは10%、最も好ましくは5%を上限とする。
【0056】
(導電助剤)
導電助剤は、炭素、並びにNi、Fe、Mn、Co、Mo、Cr、Ag及びCuの少なくとも1種以上からなる金属及びこれらの合金を用いることできる。また、チタンやステンレス、アルミニウム等の金属や、白金、銀、金、ロジウム等の貴金属を用いてもよい。このような電子伝導性の高い材料を導電助剤として用いることで、電極層中に形成された狭い電子伝導経路を通じて伝導できる電流量が増大するため、全固体二次電池の充放電特性を高めることができる。
【0057】
導電助剤の含有率は、電池容量と電極層の電子伝導性のバランスを考慮し、含まれる電極層の電極材料(すなわち、正極材料又は負極材料)全体に対し、1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、2質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、4質量%以上10質量%以下であることが最も好ましい。
【0058】
なお、本発明のリチウムイオン伝導性無機物質を用いた全固体電池は、固体電解質層、正極層及び負極層のうち1種又は2種を従来公知のものとしてもよく、こうした従来公知のものと本実施態様の固体電解質層、正極層及び/又は負極層の構成とを組み合わせてもよい。しかしながら、固体電解質層、正極層及び負極層のいずれも本実施態様のものにすることにより、より電位窓が広げられることで、リチウムイオン伝導性無機物質の電気分解が低減されるため、より充放電電圧の高い全固体電池を形成できる。
【0059】
また、本発明のリチウムイオン伝導性無機物質を用いたリチウムイオン伝導性無機物質、電極活物質及び導電助剤の含有量とこれらの組成は、固体電解質層及び/又は電極層を削り出して、電界放出形透過電子顕微鏡(FE−TEM)に搭載されたエネルギー損出分析装置若しくはX線分析装置、又は電界放出形走査顕微鏡(FE−SEM)に搭載されたX線分析装置を用いて特定することが可能である。このような定量分析や点分析を用いることで、例えば固体電解質層中における所望のリチウムイオン伝導性無機物質の存在の有無や、その含有量及び組成がわかる。ここで、X線分析装置を用いた場合、LiO成分は直接分析できないが、他の構成成分から電荷を算出することで、LiO成分の含有量を推定することが可能である。
【0060】
(集電体)
本実施態様の全固体二次電池には、正極層及び/又は負極層に集電体を設けてもよい。これにより、集電体を通じて電気を取り出し易くなるため、全固体二次電池への充電や、全固体二次電池からの放電を行い易くできる。集電体の具体的態様としては、正極層及び/又は負極層に薄膜状の金属層が積層又は接合されたものであってもよく、原料組成物に金属層や導電体の前駆体を積層した後で焼成したものであってもよい。なお、電極層自体の電子伝導性が高ければ、集電体は設けなくてもよい。
【0061】
[リチウム空気電池及びリチウム海水電池]
本発明のリチウムイオン伝導性無機物質は、リチウム空気電池やリチウム海水電池にも好ましく用いることができる。ここで、リチウム空気電池及びリチウム海水電池は、例えば、集電体が取り付けられた空気極と、集電体が取り付けられた負極複合体との間に、電解質を満たした起電体を容器に収容し、酸素透過体で封じた構造を有する。ここで、負極複合体は、負極をリチウムイオン伝導性無機物質からなる隔壁で被覆されるように構成する。これにより、負極を電解液等に含まれる水分から保護しつつ、リチウムイオン伝導性無機物質の内部をリチウムイオンが伝導することで、電池反応を進めることができる。なお、負極による隔壁の還元を低減するために、負極と隔壁との間に緩衝層を設けてもよい。
【0062】
このうち、負極の材質は、例えばリチウム金属や、リチウムを主成分とする合金又は化合物を用いることができる。ここで、リチウムと合金を形成する金属には、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、ヒ素、アンチモン、ビスマス、銀、金、亜鉛、カドミウム、水銀等がある。化合物としては、例えばLi3−xN(M=Co,Cu,Fe等)がある。
【0063】
また、電解質は、リチウムイオンを含む公知のpH緩衝液を用いてもよいが、上述の固体電解質層から構成してもよい。
【0064】
また、正極は、リチウム空気電池用又はリチウム海水電池用として公知のものを採用しうる。例えばリチウム空気電池用の正極(空気極)としては、炭素からなる粉末又は繊維に白金等の触媒材料の粒子を担持させた成形体を用いることができる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明について、具体的な実施例を挙げて説明する。
【0066】
[実施例1〜14]
一般式Li1.4+0.06xAl0.2Ti(1.8−x)Zr0.94x0.06xSi0.22.812で表されるリチウムイオン伝導性無機物質において、リチウムイオン伝導性無機物質に含まれるTiを6mol%Y−94mol%Zrに置換したときのイオン伝導度と耐還元性を評価した。ここで、Tiから6mol%Y−94mol%Zrへの置換量x、リチウムイオン伝導性無機物質の酸化物換算組成、イオン伝導度及び還元電流の電流密度の値を表1に示す。また、置換量xとイオン伝導度の関係を図1に示し、置換量xと還元電流の関係を図2に示す。なお、実施例1及び2は、置換量xを0にしたときの比較例である。
【0067】
リチウムイオン伝導性無機物質は、LiCO、TiO、HPO、Al(PO、ZrO、Y及びSiOを原料として用い、これら原料を表1に記載された化学量論比になるように混合した後、1480℃で5時間にわたり一次焼成した。得られた一次焼成物を、直径10mmのYTZボールを用いて、遊星ボールミルで平均粒子径(D50)が1μm以下になるまで粉砕した。粉砕した試料1gを錠剤成型器で直径20mmに打錠し、これをSUS304からなる金型に挟んで196MPaの圧力で冷間プレスした後、1300℃で1時間にわたり二次焼成した。二次焼成後の錠剤の両面から約10μmを900番の耐水研磨紙で研磨して表面を除去した後、エタノールで洗浄し、両面のうち各々Φ13mmの範囲に金スパッタを行って電極を付けた。このようにして得られた錠剤のイオン伝導率の測定は、インピーダンス測定装置(ソーラトロン社製 型番SI1260)を用いて、錠剤に交流電圧をかけたときのインピーダンスを測定することで行った。インピーダンスの測定は、1000kHzから0.1Hzまでの範囲で行った。
【0068】
一方で、耐水研磨紙で研磨する工程までを上述の工程で行い、一方の面に金スパッタを行い、他方の面にポリマー電解質とLi金属を押着した後、真空パックして評価試料を作製した。この評価試料について、Li金属からの電位を3Vから1Vまで2mV/secで走引し、還元電流の電流密度の最大値を評価した。なお、イオン伝導率及び還元電流の電流密度の測定は、全て25℃で行った。
【0069】
【表1】

【0070】
表1及び図1より、Li1.4+0.06xAl0.2Ti(1.8−x)Zr0.94x0.06xSi0.22.812で表されるリチウムイオン伝導性無機物質のイオン伝導度が、xが0.4以下の範囲内では殆ど変動がなく、xをそれより大きくするとイオン伝導度が大きく低下することが明らかになった。しかし、Tiと6mol%Y−94mol%Zrとを完全に置換した場合(x=1.8)でも、イオン伝導度は1×10−6S/cmを有していた。このことから、本発明のリチウムイオン伝導性無機物質は、Li1.4Al0.2Ti1.8Si0.22.812と同様の骨格を持っているため、TiをZrに置換しても高いイオン伝導率が得られることが推察される。
【0071】
また、表2及び図2より、Li1.4+0.06xAl0.2Ti(1.8−x)Zr0.94x0.06xSi0.22.812で表されるリチウムイオン伝導性無機物質の還元電流の電流密度が、xを0より大きくしたときに、還元電流の電流密度が10μA/cm未満になることが明らかになった。また、xを0.2以上にしたときに、xを0にしたときの1/2以下まで減少したことが明らかになった。また、xを0.4以上にしたときに、xを0にしたときの1/10程度まで減少したことが明らかになった。このことから、本発明のリチウムイオン伝導性無機物質は、イオン伝導率の低下を抑えながらも、Tiの還元による還元電流を大きく抑制できることが推察される。
【0072】
[実施例15〜21]
一般式Li1.4+xAl0.2Zr1.8−xSi0.22.812で表されるリチウムイオン伝導性無機物質において、リチウムイオン伝導性無機物質のZr及びYの含有量を変動させたときのリチウムイオン伝導性無機物質の抵抗値、すなわち粒内抵抗(R)とリチウムイオン伝導性無機物質の全体の抵抗(R+R)を評価し、その抵抗値からイオン伝導率を求めた。ここで、ZrからYへの置換量x、リチウムイオン伝導性無機物質の酸化物換算組成、及びリチウムイオン伝導性無機物質の抵抗値を表2に示す。また、置換量xと抵抗値の関係を図3に示す。
【0073】
リチウムイオン伝導性無機物質は、LiCO、TiO、HPO、Al(PO、ZrO、Y及びSiOを原料として用い、これら原料を表2に記載された化学量論比になるように混合した後、1480℃で5時間にわたり一次焼成した。得られた一次焼成物を、直径10mmのYTZボールを用いて、遊星ボールミルで平均粒子径(D50)が1μm以下になるまで粉砕した。粉砕した試料1gを錠剤成型器で直径20mmに打錠し、これをSUS304からなる金型に挟んで196MPaの圧力で冷間プレスした後、1300℃で1時間にわたり二次焼成した。二次焼成後の錠剤の両面から約10μmを900番の耐水研磨紙で研磨して表面を除去した後、エタノールで洗浄し、両面のうち各々Φ13mmの範囲に金スパッタを行って電極を付けた。このようにして得られた錠剤の抵抗及びイオン伝導率の測定は、実施例1〜14と同様にして、錠剤に交流電圧をかけたときのインピーダンスを測定することで行った。インピーダンスの測定は、1000kHzから0.1Hzまでの範囲で行った。
【0074】
【表2】

【0075】
表2及び図3より、xが0の場合であっても、粒内抵抗(R)が大きくなるため、全体の抵抗(R+R)が高く、リチウムイオン伝導性無機物質のイオン伝導率も高いことが明らかになった。また、xが0超0.08以下の範囲では、xが大きいほど全体の抵抗(R+R)が増加しており、リチウムイオン伝導性無機物質のイオン伝導率もより高められていることが明らかになった。一方で、xが0.08超の範囲では、xを高めても全体の抵抗(R+R)がほぼ一定の数値になっているため、イオン伝導率がY含有量に対して飽和傾向を示すことが明らかになった。ここで、YはZrに比べて高価な成分であるため、耐還元性とイオン伝導率を高めながらも、全固体電池の材料コストを低減する観点では、xは0.02以上0.20以下が好ましく、0.06以上0.12以下がより好ましく、0.08前後が最も好ましいことが明らかになった。
【0076】
[実施例22〜33]
一般式Li1.3+xAl0.2Zr1.70.1Si3−x12で表されるリチウムイオン伝導性無機物質において、リチウムイオン伝導性無機物質のSi及びPの含有量を変動させたときのイオン伝導率を評価した。ここで、PからSiへの置換量x、リチウムイオン伝導性無機物質の酸化物換算組成、及びイオン伝導度の値を表3に示す。また、置換量xとイオン伝導度の関係を図4に示す。
【0077】
リチウムイオン伝導性無機物質は、LiCO、TiO、HPO、Al(PO、ZrO、Y及びSiOを原料として用い、これら原料を表3に記載された化学量論比になるように混合した後、1480℃で5時間にわたり一次焼成した。得られた一次焼成物を、直径10mmのYTZボールを用いて、遊星ボールミルで平均粒子径(D50)が1μm以下になるまで粉砕した。粉砕した試料1gを錠剤成型器で直径20mmに打錠し、これをSUS304からなる金型に挟んで196MPaの圧力で冷間プレスした後、1300℃で1時間にわたり二次焼成した。二次焼成後の錠剤の両面から約10μmを900番の耐水研磨紙で研磨して表面を除去した後、エタノールで洗浄し、両面のうち各々Φ13mmの範囲に金スパッタを行って電極を付けた。このようにして得られた錠剤のイオン伝導率の測定は、実施例1〜14と同様にして、錠剤に交流電圧をかけたときのインピーダンスを測定することで行った。インピーダンスの測定は、1000kHzから0.1Hzまでの範囲で行った。
【0078】
【表3】

【0079】
表3及び図4より、xすなわちSi含有量が0であると、イオン伝導率が5.0×10−8S/cmと小さいことが明らかになった。しかし、xが0を超え且つ0.25以下の範囲では、xを増加させるとイオン伝導率が大きくなった。また、xが0.25を超え且つ0.60以下の範囲では、xを増加させてもイオン伝導率への変動が小さかった。一方で、xが0.60を超える範囲ではxを増加させるとイオン伝導率が小さくなり、xが1.0のときのイオン伝導率と、xが0のときのイオン伝導率がほぼ等しくなった。このことから、このリチウムイオン伝導性無機物質におけるxの値は、0を超え且つ1.0未満が好ましく、0.10を超え且つ0.80以下の範囲がより好ましく、0.25を超え且つ0.60以下の範囲がより好ましいことが明らかになった。
【0080】
[実施例34〜46]
一般式Li1.3+xAlZr1.9−x0.1Si0.22.812で表されるリチウムイオン伝導性無機物質において、リチウムイオン伝導性無機物質のAlの含有量を変動させたときのイオン伝導率を評価した。ここで、Alの含有量x、リチウムイオン伝導性無機物質の酸化物換算組成、及びイオン伝導度の値を表4に示す。また、Alの含有量xとイオン伝導度の関係を図5に示す。なお、リチウムイオン伝導性無機物質の作製とイオン伝導度の評価は、実施例22〜33と同様の手順で行った。
【0081】
【表4】

【0082】
表4及び図5より、xすなわちAl含有量が0であると、イオン伝導率が2.0×10−7S/cmと小さいことが明らかになった。しかし、xが0を超え且つ0.20以下の範囲では、xを増加させるとイオン伝導率が大きくなった。また、xが0.20を超え且つ0.50以下の範囲では、xを増加させてもイオン伝導率への変動が小さかった。一方で、xが0.50を超える範囲ではxを増加させるとイオン伝導率が小さくなり、xが0.60のときのイオン伝導率と、xが0のときのイオン伝導率がほぼ等しくなった。このことから、このリチウムイオン伝導性無機物質におけるxの値は、0を超え且つ0.60未満が好ましく、0.10を超え且つ0.55以下の範囲がより好ましく、0.20を超え且つ0.50以下の範囲が最も好ましいことが明らかになった。
【0083】
[実施例47〜50]
(正極層粉末の作製)
本実施例では、リチウムイオン伝導性無機物質と正極活物質と導電助剤と無機バインダーを混合して正極層粉末を作製した。
表5に従ってこれらの材料を調合し、水10g、分散剤(ビックケミ−ジャパン社製 BYK、BYK190)0.3g及び直径5mmのジルコニアボールを加えた後、自転・公転真空ミキサー(株式会社シンキー製、ARV−200)を用いて1000rpmで10分間混合した後に乾燥し、ラボミルサー(岩谷産業株式会社製、LM−PLUS)を用いて20000rpmで30秒間にわたり粉砕して粉末状にした。ここで、正極活物質にはLiMn(本荘ケミカル株式会社製)を用いた。
【0084】
【表5】

【0085】
(負極層粉末の作製)
本実施例では、リチウムイオン伝導性無機物質と負極活物質と導電助剤を混合して負極層粉末を作製した。
表6に従ってこれらの材料を調合し、水10gと分散剤(ビックケミ−ジャパン社製 BYK、BYK190)0.3g及び直径5mmのジルコニアボールを加えた後、自転・公転真空ミキサー(株式会社シンキー製、ARV−200)を用いて1000rpmで10分間混合後に乾燥し、ラボミルサー(岩谷産業株式会社製、LM−PLUS)を用いて20000rpmで30秒間にわたり粉砕して粉末状にした。ここで、負極活物質にはTiO(堺化学工業株式会社製、アナターゼ)を用いた。
【0086】
【表6】

【0087】
(固体電解質層粉末の作製)
リチウムイオン伝導性無機物質として、実施例47ではLi1.55Al0.2Zr1.70.1Si0.252.7512を用い、実施例48ではLi1.44Al0.2Ti1.08Zr0.680.04Si0.22.812を用い、実施例49ではLi1.3Al0.3Ti1.7(POを用い、実施例50ではLiZr(POを用いた。
これらリチウムイオン伝導性無機物質を2.85g、無機バインダーとしてLiPOガラスを0.15g取り、水10gを加え及び直径5mmのジルコニアボールを加えた後、自転・公転真空ミキサー(株式会社シンキー製、ARV−200)を用いて1000rpmで10分間混合した後に乾燥し、ラボミルサー(岩谷産業株式会社製、LM−PLUS)を用いて20000rpmで30秒間にわたり粉砕して粉末状にした。
【0088】
(全固体二次電池の作製)
作製した正極層粉末、負極層粉末及び固体電解質層粉末を用いて、全固体二次電池を作製した。
直径11mmの錠剤成型の型内に負極層粉末25mgを入れた後、直径11mmの棒で軽く圧粉して表面を平らにした。その上に、固体電解質層粉末50mgを入れて、先に入れた負極層粉末を崩さないように固体電解質層粉末を整えた後、直径11mmの棒で軽く圧粉して表面を平らにした。その上に、正極層粉末25mgを入れて、先に入れた負極層粉末及び固体電解質層粉末を崩さないように全体を整えた後、直径11mmの上型を乗せた。
直径11mmの錠剤成型の型を油圧プレスで2トンの圧力で加圧しながら600℃まで加熱した後、加圧の圧力を抜いて室温まで冷却し、全固体二次電池の試料を作製した。
【0089】
(試料の評価)
得られた試料を60℃の恒温槽内に入れて、充放電試験を行った。ここで、充放電レートは1/20Cとし、定電流充電を4.5Vまで行い、2分間にわたり開回路電圧に保持した後、定電流放電を行った。このとき、カットオフ電圧は0.05Vとした。この充放電試験の結果を表7及び図6に示す。
【0090】
【表7】

【0091】
その結果、実施例47及び実施例48の全固体二次電池の充放電容量は、30mAh/g以上、より具体的には60mAh/g以上であり、高い充放電容量を有することが明らかになった。一方で、本発明の比較例である実施例49及び実施例50の試料の充放電容量は、30mAh/g未満であった。そのため、本発明の実施例47及び実施例48の全固体二次電池は、実施例49及び実施例50に比べて高い充放電容量を有することが明らかになった。
【0092】
以上のことから、本発明の実施例の全固体二次電池は、ZrO成分を所定量含有することで、高い充放電容量を実現できることが明らかになった。これは、高い導電率を有するLATPと同様の結晶構造が維持されることでイオン伝導率が向上し、且つ、Zr原子によって無機電解質の耐還元性が高められるためであると推察される。
【0093】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。当業者は本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を成し得、それらも本発明の範囲内に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準の質量%で、ZrO成分を2.6〜52.0%含有するリチウムイオン伝導性無機物質。
【請求項2】
ガラスセラミックスである請求項1記載のリチウムイオン伝導性無機物質。
【請求項3】
セラミックスである請求項1記載のリチウムイオン伝導性無機物質。
【請求項4】
Li1+x+z2−x3−zSi12
(0<X≦1、
0<Z<1、
M=Al、Sc、Y、Ga、Laの中から選ばれる1種以上、
A=Ti、Zr、Ge、Snの中から選ばれる1種以上)
の結晶相を含有する請求項1から3のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性無機物質。
【請求項5】
酸化物基準の質量%で
LiO成分 3.0〜9.5%
成分 24〜55%
AO成分 21〜51%
成分 0%超〜24%
の成分を含有する(ここで、Aは、Zr、Ti、Ge、Snの中から選ばれる1種以上であり、Mは、Al、Y、Sc、Ga、Laの中から選ばれる1種以上である)請求項1から4のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性無機物質。
【請求項6】
酸化物基準の質量%で、SiO成分の含有量が18%以下である請求項1から5のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性無機物質。
【請求項7】
酸化物基準の質量比で
/(ZrO+Y) 0.001〜0.14
又は
Sc/(ZrO+Sc) 0.001〜0.10
を満たす請求項1から6のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性無機物質。
【請求項8】
25℃におけるリチウムイオン伝導度が1.0×10−7S・cm−1以上である請求項1から7のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性無機物質。
【請求項9】
25℃におけるLiに対する電位が0.3V以上1.5V以下の範囲で、還元電流の電流密度が10μA/cm未満である請求項1から8のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性無機物質。
【請求項10】
正極層及び負極層と、前記正極層及び前記負極層の間に介在し、請求項1から9のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性セラミックスから形成される固体電解質を含む固体電解質層と、を備えるリチウムイオン二次電池。
【請求項11】
厚さが0.5μm〜1000μmであり、請求項1から10のいずれかに記載のリチウムイオン伝導性セラミックスを含む、一次電池又は二次電池用の固体電解質。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−246196(P2012−246196A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120954(P2011−120954)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000128784)株式会社オハラ (539)
【Fターム(参考)】