説明

リチウムイオン組電池充電制御装置、制御方法およびリチウムイオン組電池システム

【課題】 リチウムイオン二次電池を組電池として使用する場合に、より適正に充電する。
【解決手段】 各リチウムイオンセル2の充電電圧を監視する電圧計4と、各リチウムイオンセル2に設けられ、リチウムイオンセル2を個別に放電させるバランス回路3と、一部のリチウムイオンセル2の充電電圧が適正な充電電圧範囲の下限電圧よりも低く、その他のリチウムイオンセル2の充電電圧が下限電圧以上である状態が所定時間継続した場合に、その他のリチウムイオンセル2の一部に対してバランス回路3を動作させるコントローラ6と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、リチウムイオン二次電池が複数直列に接続されたリチウムイオン組電池の充電を制御するリチウムイオン組電池充電制御装置、制御方法および、この装置を備えたリチウムイオン組電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高い、自己放電量が少ない、などという利点を有し、自動車用蓄電池や電気・電子機器用蓄電池などとして広く使用されている。また、使用目的に応じた電圧や容量を得るために、単電池であるリチウムイオンセルを複数接続して組電池を構成し、使用する場合がある。一方、リチウムイオン二次電池は、過充電などによって異常発熱が生じ、さらには、電解液が有機溶剤であるために発火事故が発生するおそれがある。
【0003】
このため、組電池として使用する場合に、各リチウムイオンセルを適正に充電するために、バイパス回路を設けた技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この技術は、複数のリチウムイオンセルを直列に接続して電池回路列を構成し、この電池回路列を複数並列に接続する。また、各リチウムイオンセルにバイパス回路を設け、それぞれのリチウムイオンセルが適正な充電電圧範囲(許容充電電圧範囲)の上限を超えた際に、対応するバイパス回路で充電電流をバイパスし、さらに、同一電池回路列内のすべてのリチウムイオンセルが充電完了電圧に達した場合に、この電池回路列を充電回路から切り離す。これにより、リチウムイオンセルの過充電を防止する、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−318843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本発明者は、リチウムイオンセルを複数直列に接続して組電池を構成し、この組電池をフロート充電(浮動充電)状態で使用・運用した場合に、次のような事象が生じる場合があることを発見、確認した。すなわち、第1の事象として、図4に示すように、製造上のバラツキや運用前の保管状態のバラツキなどにより、長時間運用した場合に充電状態にバラツキが生じ、特定のリチウムイオンセル2−1のみが適正な充電電圧範囲(図中、平均値±20mV)に達せず、その他のリチウムイオンセル群2−2の充電電圧は、適正な充電電圧範囲内で安定している、というものである。
【0006】
また、第2の事象として、例えば、組電池内に不良なリチウムイオンセルが存在する場合、これを新たなリチウムイオンセルと交換する。この場合、新たなリチウムイオンセルは、通常安全性を考慮して、放電状態あるいは部分充電状態(満充電でない状態)で工場から出荷され、組電池に組み込まれる。このような場合に、図5に示すように、交換した新たなリチウムイオンセル2−1が適正な充電電圧範囲に達せず、その他のリチウムイオンセル群2−2の充電電圧は、適正な充電電圧範囲内で安定している、というものである。
【0007】
このような事象が生じた場合、バイパス回路を設けた上記従来の技術では、充電電圧が低いリチウムイオンセルを適正な充電電圧範囲まで充電させることができない。すなわち、従来の技術では、適正な充電電圧範囲の上限を超えたリチウムイオンセルに対して、充電電流をバイパスしたり、放電させたりすることで、当該セルの過充電を防止するとともに、充電状態が低いリチウムイオンセルの充電促進を図るものである。従って、上限を超えたリチウムイオンセルが存在しない場合、つまり充電電圧が低いリチウムイオンセル以外のセルが適正な充電電圧範囲内で安定している場合には、バイパスや放電が行われない。このため、充電状態が低いリチウムイオンセルの充電を促進して、適正な充電電圧範囲まで充電させることができない。
【0008】
そして、このような不適正な充電状態が継続すると、組電池全体としての放電容量が、充電状態の低いリチウムイオンセルの放電容量によって制限されるため(当該セルが所定の電圧に達すると組電池全体の放電を終了させるため)、商用電源が停電した際のバックアップ時において、設計通りの所定の放電時間を確保できないおそれが高い。
【0009】
そこでこの発明は、複数のリチウムイオン二次電池を組電池として使用する場合に、より適正に充電することを可能にするリチウムイオン組電池充電制御装置、制御方法およびリチウムイオン組電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明は、リチウムイオン二次電池が複数直列に接続されたリチウムイオン組電池の充電を制御するリチウムイオン組電池充電制御装置であって、前記各リチウムイオン二次電池の充電電圧を監視する監視手段と、前記各リチウムイオン二次電池に設けられ、前記リチウムイオン二次電池を個別に放電させる個別放電手段と、一部のリチウムイオン二次電池の充電電圧が適正な充電電圧範囲の下限電圧よりも低く、その他のリチウムイオン二次電池の充電電圧が前記下限電圧以上である状態が所定時間継続した場合に、前記その他のリチウムイオン二次電池の一部に対して前記個別放電手段を動作させる処理手段と、を備えることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、監視手段によって、各リチウムイオン二次電池の充電電圧が監視され、一部のリチウムイオン二次電池の充電電圧が、適正な充電電圧範囲の下限電圧よりも低く、その他のリチウムイオン二次電池の充電電圧が、適正な充電電圧範囲の下限電圧以上にある状態が所定時間継続すると、処理手段によって、その他のリチウムイオン二次電池の一部に対して個別放電手段が動作される。すなわち、充電電圧が適正なリチウムイオン二次電池の一部に対して、放電が行われ、これにより、充電電圧が低いリチウムイオン二次電池の充電が促進される。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のリチウムイオン組電池充電制御装置において、前記処理手段は、前記その他のリチウムイオン二次電池のなかで、充電電圧が最も高いリチウムイオン二次電池に対して前記個別放電手段を動作させる、ことを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明は、リチウムイオン二次電池が複数直列に接続されたリチウムイオン組電池の充電を制御するリチウムイオン組電池充電制御方法であって、前記各リチウムイオン二次電池の充電電圧を監視し、一部のリチウムイオン二次電池の充電電圧が適正な充電電圧範囲の下限電圧よりも低く、その他のリチウムイオン二次電池の充電電圧が前記下限電圧以上である状態が所定時間継続した場合に、前記その他のリチウムイオン二次電池の一部に対して放電を行う、ことを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、リチウムイオン二次電池が複数直列に接続されたリチウムイオン組電池システムであって、前記各リチウムイオン二次電池の充電電圧を監視する監視手段と、前記各リチウムイオン二次電池に設けられ、前記リチウムイオン二次電池を個別に放電させる個別放電手段と、一部のリチウムイオン二次電池の充電電圧が適正な充電電圧範囲の下限電圧よりも低く、その他のリチウムイオン二次電池の充電電圧が前記下限電圧以上である状態が所定時間継続した場合に、前記その他のリチウムイオン二次電池の一部に対して前記個別放電手段を動作させる処理手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1、3および4に記載の発明によれば、上記の第1の事象や第2の事象のように、一部のリチウムイオン二次電池の充電電圧が適正な充電電圧よりも低く、その他のリチウムイオン二次電池の充電電圧が適正な充電電圧範囲内にある状態(非適正充電状態)が所定時間継続した場合であっても、充電電圧が適正なリチウムイオン二次電池の一部に対して、放電が行われる。このため、充電電圧が低いリチウムイオン二次電池の充電が促進され、リチウムイオン組電池全体をより適正に充電することが可能となる。
【0016】
しかも、非適正充電状態が所定時間継続した場合に、充電電圧が適正なリチウムイオン二次電池に対する放電が行われる。すなわち、非適正充電状態が一時的に生じた場合には、放電が行われないため、不必要な放電が回避され、充電電圧が適正なリチウムイオン二次電池の充電状態を適正に維持することが可能となる。また、非適正充電状態が所定時間継続した時点で放電を行うことで、非適正充電状態が長時間継続することによるリチウムイオン二次電池の過充電状態や低充電状態などを回避して、リチウムイオン組電池全体を適正かつ早期に充電することが可能となる。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、充電電圧が適正なリチウムイオン二次電池のなかで、充電電圧が最も高いリチウムイオン二次電池に対して放電を行うため、放電を行っても、当該リチウムイオン二次電池の充電電圧を、適正な充電電圧範囲内に維持することがより可能となる。また、充電電圧が最も高いリチウムイオン二次電池は、充電受け入れ性が良好なため、充電電圧が適正な充電電圧範囲の下限電圧よりも低くなったとしても、早期に適正な充電電圧範囲まで充電され、リチウムイオン組電池全体を適正かつ早期に充電することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の実施の形態に係るリチウムイオン組電池システムを整流装置に適用した状態を示す概略構成図である。
【図2】図1のシステムのフロート充電状態における制御フローを示す図である。
【図3】図2の続きを示す図である。
【図4】リチウムイオン組電池のフロート充電時において、特定のリチウムイオンセルの電圧のみが、適正な充電電圧範囲よりも下がってしまう事象を示す図である。
【図5】リチウムイオン組電池内のリチウムイオンセルを交換した場合に、交換した新たなリチウムイオンセルの電圧のみが、適正な充電電圧範囲に達しない事象を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0020】
図1は、この発明の実施の形態に係るリチウムイオン組電池システム1を整流装置に適用した状態を示す概略構成図である。このリチウムイオン組電池システム1は、単電池であるリチウムイオンセル(リチウムイオン二次電池)2が複数直列に接続されてリチウムイオン組電池20が構成され、このようなリチウムイオン組電池20の充電を制御するリチウムイオン組電池充電制御装置(以下、単に「制御装置」という)を備えるものである。
【0021】
この制御装置は、主として、各リチウムイオンセル2に設けられたバランス回路(個別放電手段)3および電圧計(監視手段)4と、単一の主スイッチ5、コントローラ(処理手段)6とを備えている。また、各バランス回路3、各電圧計4および主スイッチ5は、それぞれコントローラ6と通信(データ伝送)可能に接続されている。
【0022】
バランス回路3は、対応するリチウムイオンセル2への充電電流をバイパスするとともに、このリチウムイオンセル2を放電させて電圧を下げる回路である。具体的には、放電用抵抗31と放電スイッチ32とが直列に接続された回路であり、リチウムイオンセル2と並列に接続されている。そして、後述するように、通常の充電時においては、放電スイッチ32がオフ(開)状態で、コントローラ6からの閉指令を受けて放電スイッチ32をオンする(閉じる)。これにより、充電電流が放電用抵抗31側にバイパスされるとともに、負荷としての放電用抵抗31によってリチウムイオンセル2が放電し、電圧が下がるものである。従って、バランス回路3・放電スイッチ32がオンの状態では、放電用抵抗31には、放電電流と充電電流の双方が流れる。
【0023】
電圧計4は、対応するリチウムイオンセル2に並列に接続され、充電中や放電中に限らず常時、リチウムイオンセル2の電圧を計測、監視し、計測結果をリアルタイムにコントローラ6に送信するものである。また、図示していないが、リチウムイオン組電池20の総電圧や充電電流、放電電流、および各リチウムイオンセル2の温度を測定する測定器をそれぞれ備え、これらの測定器からの測定結果が、リアルタイムにコントローラ6に送信されるようになっている。
【0024】
主スイッチ5は、リチウムイオン組電池20への充電電流を制御するスイッチであり、リチウムイオン組電池20に電力を供給する充電回路に設けられている。すなわち、交流直流変換器101とリチウムイオン組電池20との間(充電回路)に接続され、商用電源100からの電力が交流直流変換器101で直流に変換され、主スイッチ5を介してリチウムイオン組電池20に供給されるようになっている。この主スイッチ5は、後述するように、通常時においてはオン(閉)状態で、コントローラ6からの開指令を受けてオフする(開く)ようになっている。
【0025】
また、主スイッチ5と並列にバイパスダイオード7が接続されている。このバイパスダイオード7は、リチウムイオン組電池20からの電流の流れのみを許容する機能を有し、リチウムイオン組電池20へは電流が流れないようになっている。これにより、リチウムイオン組電池20からの放電が常時可能で、バイパスダイオード7を介してリチウムイオン組電池20から負荷設備102に電力が供給されるようになっている。ここで、交流直流変換器101と負荷設備102とは接続され、通常時においては、商用電源100からの電力が、交流直流変換器101で直流に変換されて、負荷設備102に供給されるようになっている。
【0026】
コントローラ6は、各電圧計4からの計測結果などに基づいて、各バランス回路3や主スイッチ5を制御などする装置である。その制御として、フロート充電状態において、一部のリチウムイオンセル2の充電電圧が適正な充電電圧範囲の下限電圧よりも低く、その他のリチウムイオンセル2の充電電圧が下限電圧以上である状態(非適正充電状態)が所定時間継続した場合に、充電電圧が適正なリチウムイオンセル2の一部に対して、バランス回路3を動作させる制御を含む。
【0027】
具体的には、図2、3に示すように、まず、制御回路の動作が正常であるか否かを判断する(ステップS1)。そして、正常でない場合には、警報部(図示せず)から警報を発生させるとともに、主スイッチ5をオフして充電を停止し、さらに、すべてのバランス回路3をオフする(ステップS2)。一方、制御回路の動作が正常な場合には、充電電流がゼロ以上であるか否かを判断し(ステップS3)、充電電流がゼロ以上でない場合には、後述する放電モードに移り、ゼロ以上の場合には、組電池20の総電圧が許容下限総充電電圧VTmin以上であるか否かを判断する(ステップS4)。
【0028】
その結果、許容下限総充電電圧VTmin以上でない場合には、警報部から警報を発生させ(ステップS5)、許容下限総充電電圧VTmin以上の場合には、組電池20の総電圧が許容上限総充電電圧VTmax以下であり(ステップS6)、すべてのリチウムイオンセル2の温度が許容上限温度Th℃以下であり(ステップS7)、かつ充電電流が許容最大充電電流Ic以下(ステップS8)であるか否かを判断する。そして、これらの要件を満たさない場合には、ステップS2と同様にして、組電池20の充電停止やバランス回路3の解放などを行う(ステップS9)。
【0029】
一方、これらの要件を満たす場合には、各リチウムイオンセル2の電圧が許容上限セル分布電圧VAmax以下であるか否かを判断する(ステップS10)。ここで、許容上限セル分布電圧VAmaxとは、実際の充電状態、つまり実際の組電池20の総電圧において、各セル2の充電電圧にバラツキが生じる場合に、そのバラツキが許容される上限の電圧(平均電圧に対する上限の電圧)であり、例えば、次のように算出される。
VAmax=組電池20の総電圧÷セル2の数+許容誤差電圧(例えば、20mV)
【0030】
そして、いずれかのリチウムイオンセル2の電圧が許容上限セル分布電圧VAmax以下でない場合(ステップS10で「N」の場合)には、このセル2のバイパス回路3をオンしてバイパス放電させる(ステップS11)。このとき、既にバイパス回路3がオンの場合には、オン状態を維持する。
【0031】
次に、同一のセル2で、このようなバイパス放電の状態が第1の所定時間T1継続している場合(ステップS12で「Y」の場合)には、ステップS2と同様にして、組電池20の充電停止やバランス回路3の解放などを行う(ステップS20)。一方、所定時間T1継続していない場合(ステップS12で「N」の場合)には、このセル2の電圧が、異常上限セル電圧VEmax以上であるか否かを判断する(ステップS13)。ここで、異常上限セル電圧VEmaxとは、実際の充電状態において、各セル2の充電電圧にバラツキが生じる場合に、セル2に内部異常などのおそれがある電圧閾値であり、例えば、次のように算出される。
VEmax=組電池20の総電圧÷セル2の数+異常電圧差(例えば、80mV)
【0032】
この結果、異常上限セル電圧VEmax以上の場合には、上記ステップS20の処理を行い、異常上限セル電圧VEmax以上でない場合には、ステップS14に移行する。ここで、ステップS12における第1の所定時間T1は、バイパス放電を行っても許容上限セル分布電圧VAmax以下にならない状態が継続した場合に、セル2の内部異常やセル2間の接続異常などのおそれがあると推定される時間、あるいは過充電を回避できる時間であり、セル2の特性、容量などによって設定される。
【0033】
次に、セル2の電圧が異常上限セル電圧VEmax以上でない場合(ステップS13で「N」の場合)、および、いずれのセル2の電圧も許容上限セル分布電圧VAmax以下の場合(ステップS10で「Y」の場合)には、次のような制御を行う。まず、過電圧のためにバイパス放電させていたセル2に対しては、そのバイパス回路3をオフして、バイパス放電を停止する(ステップS14)。すなわち、充電電圧が許容上限セル分布電圧VAmaxよりも高いためにバイパス放電していたセル2の電圧が、電圧VAmax以下に下がった場合には、バイパス回路3をオフする。
【0034】
続いて、各リチウムイオンセル2の電圧が許容下限セル分布電圧VAmin以上であるか否かを判断する(ステップS15)。ここで、許容下限セル分布電圧VAminとは、実際の充電状態において、各セル2の充電電圧にバラツキが生じる場合に、そのバラツキが許容される下限の電圧(平均電圧に対する下限の電圧)であり、例えば、次のように算出される。
VAmin=組電池20の総電圧÷セル2の数−許容誤差電圧(例えば、20mV)
このように、この実施の形態では、許容下限セル分布電圧VAmin以上で許容上限セル分布電圧VAmax以下が「適正な充電電圧範囲」であり、「組電池20の総電圧÷セル2の数」が平均充電電圧(図4、5中の「平均値」)となる。また、許容下限セル分布電圧VAminが、「適正な充電電圧範囲の下限電圧」となる。
【0035】
そして、許容下限セル分布電圧VAmin以上の場合には、低電圧のために他のセル(選択セル)2をバイパス放電させていた場合には、そのバイパス回路3をオフして、バイパス放電を停止する(ステップS16)。すなわち、後述するように、当該セル2の充電電圧が許容下限セル分布電圧VAminよりも低い場合には、選択セル2をバイパス放電するが、その後、当該セル2の充電電圧が許容下限セル分布電圧VAmin以上に上昇した場合に、選択セル2のバイパス回路3をオフするものである。
【0036】
一方、いずれかのセル2の充電電圧が許容下限セル分布電圧VAmin以上でない場合には、同一のセル2で、このような低電圧状態が第2の所定時間T2継続しているか否かを判断する(ステップS17)。ここで、第2の所定時間T2は、後述する選択セル2のバイパス放電を行えば、低電圧状態のセル2の電圧を上昇可能な時間であり、かつ、不必要なバイパス放電を回避でき、セル2の過充電状態や低充電状態を防止できる時間であり、セル2の特性、容量などによって設定される。
【0037】
この結果、第2の所定時間T2継続している場合には、選択セル2のバイパス回路3をオンして、バイパス放電させる(ステップS18)。ここで、選択セル2とは、充電電圧が適正な充電電圧範囲内にあるセル2のなかで、充電電圧が最も高いセル2であり、既にこのセル2がバイパス放電中の場合には、次に充電電圧が高いセル2とする。このようにして、充電電圧が高いセル2から順次、バイパス放電するものである。また、低電圧状態のセル2の数やその充電電圧に応じて、複数のセル2を選択セル2として同時にバイパス放電してもよい。さらに、この実施の形態では、バイパス放電中の選択セル2の充電電圧が、所定の電圧(例えば、許容下限セル分布電圧VAmin)よりも下がった場合には、その時点でバイパス放電を停止し、別の選択セル2に対してバイパス放電を行う。つまり、適正な充電電圧範囲内で選択セル2のバイパス放電を行うものである。
【0038】
続いて、同一のセル2のために、選択セル2のバイパス放電を第3の所定時間T3継続して行っているか否かを判断する(ステップS19)。ここで、第3の所定時間T3は、選択セル2のバイパス放電を行っても低電圧状態のセル2の電圧が上昇しない場合に、セル2の内部異常やセル2間の接続異常などのおそれがあると推定される時間、あるいは過剰なバイパス放電を回避できる時間であり、セル2の特性、容量などによって設定される。そして、第3の所定時間T3継続している場合には、ステップS2と同様にして、組電池20の充電停止やバランス回路3の解放などを行う(ステップS20)。
【0039】
一方、第3の所定時間T3継続していない場合や、ステップS17で第2の所定時間T2継続していない場合、およびステップS16の後に、ステップS3に戻り、同様な処理を繰り返すものである。すなわち、ステップS3以降の処理を定期的にサイクリックに行い、組電池20のすべてのセル2に対して、充電電圧の異常判断、調整を行うものである。
【0040】
この他、コントローラ6による制御として、初期充電制御や回復充電制御、放電制御(放電モード)などがある。初期充電制御は、組電池20の運用開始時に組電池20を充電(初期充電)する際の制御であり、回復充電制御は、組電池20が放電した後に組電池20を充電(回復充電)する際の制御であり、ともに、組電池20の総電圧や充電電流の適否判断、許容上限セル分布電圧VAmaxよりも高い電圧のセル2のバイパス放電などを行うものである。そして、上記のフロート充電状態の制御は、初期充電制御や回復充電制御において、組電池20の総電圧や充電電流が適正と判断された場合に、移行される制御である。
【0041】
また、放電制御は、組電池20が放電する際の制御である。すなわち、商用電源100からの電力供給が停止すると、組電池20が放電を開始し、組電池20からバイパスダイオード7を介して電力が負荷設備102に供給されるとともに、コントローラ6に対して電力が供給される。このような放電モードでは、充電電流がゼロ以上であるか否かを判断し、充電電流がゼロ以上の場合には、回復充電制御に移り、ゼロ以上でない場合には、次の3つの要件を満たすか否かを判断する。すなわち、すべてのリチウムイオンセル2の温度が上限温度Th℃以下であるか、放電電流が許容最大放電電流Id以下であるか、各セル2の電圧が放電終止電圧VL1以上であるか、を判断する。ここで、放電終止電圧VL1とは、放電を終了・停止させる仕様上の電圧であり、リチウムイオンセル2の仕様容量、放電電流などによって設定される。そして、これらの要件をすべて満たす場合には、組電池20の放電を継続し、満たさない場合には、放電を停止するものである。
【0042】
次に、このような構成のリチウムイオン組電池システム1の作用や、制御装置によるリチウムイオン組電池充電制御方法などについて、説明する。
【0043】
まず、フロート充電時においては、主スイッチ5がオンされ、商用電源100からの電力がリチウムイオン組電池20に供給され、電圧計4によって各リチウムイオンセル2の電圧が常時計測され、その計測結果がリアルタイムにコントローラ6に送信される。そして、いずれかのセル2の充電電圧が適正な充電電圧範囲(許容上限セル分布電圧VAmax)よりも高い場合には、そのセル2のバランス回路3に対して、コントローラ6から閉指令が送信され、バランス回路3がオンしてバイパス放電が行われる。これにより、このセル2の充電電圧が下がり、適正な充電電圧範囲内になる。
【0044】
一方、フロート充電時において、いずれかのセル2の充電電圧が適正な充電電圧範囲(許容下限セル分布電圧VAmin)よりも低い状態(非適正充電状態)が、第2の所定時間T2継続した場合には、上記のような選択セル2のバイパス回路3がオンされ、バイパス放電が行われる。これにより、選択セル2以外のセル2、つまり低電圧状態のセル2に対しても充電電流がより流れ、低電圧状態のセル2の充電が促進される。この結果、低電圧状態であったセル2の充電電圧が、適正な充電電圧範囲内に上昇し、その後、選択セル2に対するバイパス放電が停止されるものである。ここで、非適正充電状態には、適正な充電電圧範囲(許容上限セル分布電圧VAmax)よりも充電電圧が高いセル2に対するバイパス放電が行われている場合も含む。つまり、適正な充電電圧範囲よりも充電電圧が高いセル2の有無にかかわらず、低電圧状態のセル2の充電を促進するためのバイパス放電が行われる。
【0045】
以上のように、このリチウムイオン組電池システム1、制御装置および充電制御方法によれば、上記の第1の事象や第2の事象のように、一部のセル2の充電電圧が適正な充電電圧範囲の下限電圧よりも低い場合には、適正な充電電圧範囲よりも充電電圧が高いセル2の有無にかかわらず、特定の選択セル2に対してバイパス放電が行われる。このため、低電圧状態のセル2の充電が促進され、リチウムイオン組電池20全体をより適正に充電することが可能となる。この結果、組電池20全体の放電容量が適正となり、商用電源100が停電した際のバックアップ時において、設計通りの所定の放電時間を確保することができる。
【0046】
しかも、低電圧状態(非適正充電状態)が第2の所定時間T2継続した場合に、充電電圧が適正なセル2に対するバイパス放電が行われる。すなわち、低電圧状態が一時的に生じた場合には、バイパス放電が行われないため、不必要な放電が回避され、充電電圧が適正なセル2の充電状態を適正に維持することが可能となる。また、低電圧状態が第2の所定時間T2継続した時点で放電を行うことで、低電圧状態が長時間継続することによるセル2の過充電状態や低充電状態などを回避して、リチウムイオン組電池20全体を適正かつ早期に充電することが可能となる。
【0047】
また、充電電圧が適正なセル2のなかで、充電電圧が最も高いセル2から順にバイパス放電するため、バイパス放電を行っても、このセル2の充電電圧を、適正な充電電圧範囲内に維持することがより可能となる。また、充電電圧が最も高いセル2は、充電受け入れ性が良好なため、充電電圧が適正な充電電圧範囲近くになったとしても、早期に適正な充電電圧範囲まで充電され、リチウムイオン組電池20全体を適正かつ早期に充電することが可能となる。
【0048】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、充電電圧が適正な充電電圧範囲内にあるセル2を、選択セル2としてバイパス放電しているが、適正な充電電圧範囲(許容上限セル分布電圧VAmax)よりも充電電圧が高いセル2がバイパス放電していない場合には、そのセルを選択セル2としてバイパス放電してもよい。また、1組のリチウムイオン組電池20を有するシステムについて説明したが、組電池20を複数接続したシステムにも適用することができる。この場合、上記のような制御装置を組電池20ごとに配設する。さらに、リチウムイオン組電池システム1を整流装置に適用した場合について説明したが、無停電電源装置(UPS:Uninterruptible Power Supply)や自動車用蓄電池などにも適用することができ、かつ、フロート充電以外にも適用することができる。すなわち、一部のセル2の充電電圧が適正な充電電圧範囲の下限電圧よりも低い状態が所定時間継続するすべてのケースに、適用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 リチウムイオン組電池システム
2 リチウムイオンセル(リチウムイオン二次電池)
20 リチウムイオン組電池
3 バランス回路(個別放電手段)
4 電圧計(監視手段)
5 主スイッチ
6 コントローラ(処理手段)
7 バイパスダイオード


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン二次電池が複数直列に接続されたリチウムイオン組電池の充電を制御するリチウムイオン組電池充電制御装置であって、
前記各リチウムイオン二次電池の充電電圧を監視する監視手段と、
前記各リチウムイオン二次電池に設けられ、前記リチウムイオン二次電池を個別に放電させる個別放電手段と、
一部のリチウムイオン二次電池の充電電圧が適正な充電電圧範囲の下限電圧よりも低く、その他のリチウムイオン二次電池の充電電圧が前記下限電圧以上である状態が所定時間継続した場合に、前記その他のリチウムイオン二次電池の一部に対して前記個別放電手段を動作させる処理手段と、
を備えることを特徴とするリチウムイオン組電池充電制御装置。
【請求項2】
前記処理手段は、前記その他のリチウムイオン二次電池のなかで、充電電圧が最も高いリチウムイオン二次電池に対して前記個別放電手段を動作させる、ことを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン組電池充電制御装置。
【請求項3】
リチウムイオン二次電池が複数直列に接続されたリチウムイオン組電池の充電を制御するリチウムイオン組電池充電制御方法であって、
前記各リチウムイオン二次電池の充電電圧を監視し、
一部のリチウムイオン二次電池の充電電圧が適正な充電電圧範囲の下限電圧よりも低く、その他のリチウムイオン二次電池の充電電圧が前記下限電圧以上である状態が所定時間継続した場合に、前記その他のリチウムイオン二次電池の一部に対して放電を行う、
ことを特徴とするリチウムイオン組電池充電制御方法。
【請求項4】
リチウムイオン二次電池が複数直列に接続されたリチウムイオン組電池システムであって、
前記各リチウムイオン二次電池の充電電圧を監視する監視手段と、
前記各リチウムイオン二次電池に設けられ、前記リチウムイオン二次電池を個別に放電させる個別放電手段と、
一部のリチウムイオン二次電池の充電電圧が適正な充電電圧範囲の下限電圧よりも低く、その他のリチウムイオン二次電池の充電電圧が前記下限電圧以上である状態が所定時間継続した場合に、前記その他のリチウムイオン二次電池の一部に対して前記個別放電手段を動作させる処理手段と、
を備えることを特徴とするリチウムイオン組電池システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−209994(P2012−209994A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71445(P2011−71445)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(593063161)株式会社NTTファシリティーズ (475)
【Fターム(参考)】