説明

リチウムイオン電池セパレータ用塗工液およびリチウムイオン電池セパレータ

【課題】本発明の課題は、耐熱性の高いリチウムイオン電池セパレータを製造するにあたり、安定性の高い塗工液を提供すること、かつ、充放電の繰り返しによる充放電特性の悪化が少ないリチウムイオン電池セパレータ用塗工液およびリチウムイオン電池用セパレータを提供する。
【解決手段】アルミナ水和物と、バインダーポリマーの水性分散液と、水溶液性分散剤を含有してなり、該水溶液性分散剤が、その1質量%水溶液の25℃における粘度が100mPa・sec以上500mPa・sec以下であるカルボキシメチルセルロースであり、該増粘剤が、その1質量%水溶液の25℃における粘度が3000mPa・sec以上10000mPa・sec以下であるCMC塩であるリチウムイオン電池セパレータ用塗工液、及び、該塗工液を不織布に塗工、乾燥してなるリチウムイオン電池セパレータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池セパレータ用塗工液およびリチウムイオン電池セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学素子のひとつであるリチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高いという特徴を有し、携帯電話、携帯型音楽プレーヤー、ノート型パーソナルコンピューター等の携帯型電気機器の電源として広く利用されている。また、電気自転車、ハイブリッド自動車、電気自動車等の大型機器にも、リチウムイオン二次電池を利用する動きが広がっている。そのため、リチウムイオン二次電池には高容量化、大電流での充放電特性といった性能が求められているが、リチウムイオン二次電池は非水系電池であるため、水系電池と比較して、発煙、発火、破裂等の危険性が高いことが知られており、安全性の向上も要求されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池では、外熱による温度上昇、過充電、内部短絡、外部短絡等によって発煙等の危険性が高まる。これらは、外部保護回路によってある程度防ぐことが可能である。また、リチウムイオン電池セパレータとして使用されているポリオレフィン系樹脂の多孔質フィルムが120℃付近で溶融し、孔が閉塞して電流やイオンの流れを遮断することによって、電池の温度上昇が抑制される。これは、シャットダウン機能と呼ばれている。しかし、外熱によって温度が上昇した場合や温度上昇によって電池内部で化学反応が起きた場合には、シャットダウン機能が働いても電池温度はさらに上昇し、電池温度が150℃以上にまで達すると、多孔質フィルムが収縮して内部短絡が起こり、発火等が起きることがあった。
【0004】
このように、セパレータのシャットダウン機能では電池の発火を抑制することができ難くなっている。また、電池の高容量化に伴って充放電における大電流化も進んでおり、その際に発生するジュール熱を抑制するために、電解液を含浸したセパレータの抵抗値そのものを下げることも必要になっている。そのため、ポリオレフィン系樹脂の多孔質フィルムよりも熱収縮温度を上げることによって、内部短絡を起こり難くして電池の発火を抑制すると共に、抵抗値を下げることを目的として、金属酸化物微粒子を用いたセパレータが開発されている。このセパレータでは、金属酸化物微粒子によって細孔径をコントロールし、内部短絡の抑制、耐熱性の向上、抵抗値の低下が可能となっている。
【0005】
例えば、擬似ベーマイトとバインダーとを混合し、別に準備したフィルム上にコーティング後に乾燥及び剥離することによって、多孔質フィルムとして得られた微細多孔擬似ベーマイト層を有するセパレータが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、このセパレータは、熱収縮温度は向上しているものの、粉落ちやひび割れが起こりやすいために、巻き取り状のセパレータとして単独で取り出すのが難しく、電池製造時のハンドリングが悪いという問題があった。
【0006】
また、不織布上及び不織布中に多孔性の無機被覆を有し、該無機被覆がアルミニウム(Al)、ケイ素(Si)及び/またはジルコニウム(Zr)の酸化物粒子を有しているセパレータが提案されている(例えば、特許文献2参照)。このセパレータは、基材として不織布を利用しているため、ハンドリングが向上しているものの、ゾルゲル法によって生成するシリカ微粒子によって他の金属酸化物を目止めしているために、衝撃や変形による粉落ちやひび割れが発生しやすく、これがピンホールの生成につながって内部短絡の原因となり、有用なセパレータとはいい難かった。
【0007】
さらに、耐熱性を有する絶縁性微粒子と、増粘剤と、分散媒とを含む塗工液、および該塗工液を基材上に塗工したセパレータが提案されている(例えば、特許文献3参照)。しかし、該塗工液には、塗工液の安定性が十分でない問題があり、また、これを用いた電池は、充放電を繰り返しているうちに容量が低下するなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2001−527274号公報
【特許文献2】特表2005−536658号公報
【特許文献3】国際公開第2009/096451号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、耐熱性の高いリチウムイオン電池セパレータを製造するにあたり、安定性の高い塗工液を提供すること、かつ、充放電を繰り返しても容量低下が少ないリチウムイオン電池セパレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、アルミナ水和物と、バインダーポリマーの水性分散液と、水溶液性分散剤と、増粘剤を含有してなり、該水溶液性分散剤が、その1質量%水溶液の25℃における粘度が100mPa・sec以上500mPa・sec以下であるカルボキシメチルセルロース塩(以下、「CMC塩」と記す)であり、該増粘剤が、その1質量%水溶液の25℃における粘度が3000mPa・sec以上10000mPa・sec以下であるCMC塩であるリチウムイオン電池セパレータ用塗工液、及び、該塗工液を不織布に塗工、乾燥してなるリチウムイオン電池セパレータを見出した。
【発明の効果】
【0011】
アルミナ水和物と、バインダーポリマーの水性分散液と、水溶液性分散剤と、増粘剤を含有してなる塗工液で、該水溶液性分散剤がその1質量%水溶液の25℃における粘度が100mPa・sec以上500mPa・sec以下であるCMC塩であり、該増粘剤が、その1質量%水溶液の25℃における粘度が3000mPa・sec以上10000mPa・sec以下であるCMC塩であることにより、塗工液の安定性を高くすることができる。
【0012】
該塗工液を、不織布に塗工、乾燥してなるリチウムイオン電池セパレータによって、これを用いたリチウムイオン二次電池は充放電を繰り返しても容量低下が少なくなるという効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の塗工液は、アルミナ水和物と、バインダーポリマーの水性分散液と、水溶液性分散剤と、増粘剤を含有してなり、該水溶液性分散剤が、その1質量%水溶液の25℃における粘度が100mPa・sec以上500mPa・sec以下であるCMC塩であり、該増粘剤が、その1質量%水溶液の25℃における粘度が3000mPa・sec以上10000mPa・sec以下であるCMC塩である。
【0014】
従来の技術では、水溶液性分散剤としてポリアクリル酸ナトリウム等の水溶性高分子を用い、増粘剤としてCMC塩等、分散剤とは異なる構造の水溶性高分子を用いている。本発明では、塗工液の安定性が低いのは、水溶液性分散剤と増粘剤で、異なる構造の水溶性高分子を用いていることが原因であることを見出した。本発明における推定によれば、水溶液性分散剤と増粘剤が異なる構造を有していた場合、アルミナ水和物の表面に吸着してアルミナ水和物の分散安定性を向上している分散剤分子の一部が、時間の経過につれて増粘剤分子に置き換わり、分散が不安定化している。
【0015】
この問題を回避するために、基本構造が同じで、分子量のみが異なり、水溶液性分散剤と増粘剤の双方に使用可能な物質を探索し、その1質量%水溶液の25℃における粘度が100mPa・sec以上500mPa・sec以下のCMC塩を、アルミナ水和物の水溶液性分散剤として用いることができ、また、その1質量%水溶液の25℃における粘度が、3000mPa・sec以上10000mPa・sec以下のCMC塩を、前記CMC塩を水溶液性分散剤として用いた分散液の良好な増粘剤として用いることができることを見出したものである。
【0016】
本発明の塗工液では、アルミナ水和物の水溶液性分散剤及び増粘剤として、CMC塩という同じ構造の水溶性高分子を用いるため、分散が不安定化することがない。さらに、本発明の塗工液を、不織布に塗工、乾燥してなるセパレータを用いたリチウムイオン二次電池は、水溶液性分散剤と増粘剤に異なる構造の水溶性高分子を用いた塗工液を用いた場合よりも、充放電の繰り返しによる容量の低下が少ない。本発明における推定によれば、これは、電池内に存在する化合物の種類が少なくなるために、電池を劣化させる副反応の種類が少なくなるためである。
【0017】
本発明において、水溶液性分散剤として用いるCMC塩は、その1質量%水溶液の25℃における粘度が100mPa・sec以上500mPa・sec以下のものに限られる。該粘度がこれよりも低いものは、分散剤としての作用が不十分であり、安定な塗工液を与えない。該粘度がこれよりも高いものは、凝集剤としての作用が発現してしまい、やはり安定な塗工液を与えない。本発明において、水溶液性分散剤として用いるCMC塩の添加量は、アルミナ水和物に対し、0.05質量%以上3.00質量%以下が好ましく、0.10質量%以上2.00質量%以下がより好ましい。水溶液性分散剤として用いるCMC塩の添加量が少なすぎる場合、増粘剤として用いるCMC塩を添加した際にアルミナ水和物が凝集することがある。水溶液性分散剤として用いるCMC塩の添加量が多すぎる場合、ハイレート充放電特性が悪化することがある。
【0018】
本発明において、増粘剤として用いるCMC塩は、その1質量%水溶液の25℃における粘度が3000mPa・sec以上10000mPa・sec以下のものに限られる。該粘度がこれよりも低いものは、多量に添加しなければ塗工に必要な粘度を与えず、また多量に添加した場合、電池の充放電特性を悪化させる。該粘度がこれよりも高いものは、凝集剤としての作用が発現してしまい、やはり安定な塗工液を与えない。本発明において、増粘剤として用いるCMC塩の添加量は、アルミナ水和物に対し、0.05質量%以上3.00質量%以下が好ましく、0.10質量%以上2.00質量%以下がより好ましい。増粘剤として用いるCMC塩の添加量が少なすぎる場合、塗工液が不織布の反対面に裏抜けしたり、塗工液の安定性が低下したりすることがある。増粘剤として用いるCMC塩の添加量が多すぎる場合、ハイレート充放電特性が悪化したり、塗工液の粘度が著しく高くなって塗工が困難になったりすることがある。
【0019】
本発明において、粘度は、25℃において、東京計器社製B形粘度計を用い、水溶液性分散剤として用いるCMC塩水溶液についてはNo.2ローターを用い30rpmで、増粘剤として用いるCMC塩水溶液についてはNo.4ローターを用い30rpmで、それぞれ測定される。
【0020】
本発明の塗工液を調製するとき、水溶液性分散剤として用いるCMC塩は、増粘剤として用いるCMC塩よりも先に、アルミナ水和物に混合される必要がある。好ましくは、水溶液性分散剤として用いるCMC塩を、アルミナ水和物に混合後、10分以上の時間が経過してから、増粘剤として用いるCMC塩を混合する。増粘剤として用いるCMC塩を、水溶液性分散剤として用いるCMC塩よりも先または同時にアルミナ水和物に混合した場合、アルミナ水和物が凝集してしまい、安定した塗工液が得られない。
【0021】
なお、本発明に用いるCMC塩としては、カルボキシメチルセルロースのリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等の水溶性塩が用いられる。これらの中で、水溶性が高く、リチウムイオン二次電池の充放電特性に悪影響を与えない点で、ナトリウム塩及びリチウム塩が好ましく用いられる。
【0022】
本発明の塗工液に用いるアルミナ水和物としては、熱安定性や、塗工に適した液性を得やすい点から、ベーマイトが好ましく用いられる。かかるベーマイトの市販品としては、例えば大明化学工業社製ベーマイト、ナバルテック(Nabaltec)社(ドイツ・シュヴァンドルフ)製APYRAL(登録商標) AOH等を例示することができるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0023】
本発明の塗工液に用いるバインダーポリマーの水性分散液としては、スチレン−ブタジエンラテックス等の各種ラテックスを用いることができるが、かかるバインダーポリマーの水性分散液の一例としては、JSR社製タックロード(登録商標)2001を例示することができる。
【0024】
本発明の塗工液に用いるバインダーポリマーの添加量としては、アルミナ水和物に対し、2質量%以上15質量%以下が好ましい。塗工層の粉落ちと塗工層中の空隙のバランスの点から、3質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0025】
本発明の塗工液は、好ましくは不織布に塗工される。不織布は従来公知の方法によって製造したものを用いることができる。例えば、スパンボンド法、メルトブロー法、乾式法、湿式法、エレクトロスピニング法などの方法によって製造したものを使用することができる。
【0026】
本発明において、不織布表面の平坦化や厚みをコントロールする目的で、カレンダー処理や熱カレンダー処理により不織布を平滑化しても良い。
【0027】
不織布の構成材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート及びそれらの誘導体、芳香族ポリエステル、全芳香族ポリエステルなどのポリエステル、ポリオレフィン、アクリル、ポリアセタール、ポリカーボネート、脂肪族ポリケトン、芳香族ポリケトン、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリベンゾイミダゾール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリ(パラ−フェニレンベンゾビスチアゾール)、ポリ(パラ−フェニレン−2,6−ベンゾビスオキサゾール)、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、ポリウレタン及びポリ塩化ビニルなどの樹脂からなる繊維並びにセルロース繊維などが挙げられる。該不織布はこれらの構成材料の2種以上を含有していても構わない。
【0028】
本発明のリチウムイオン電池セパレータに用いる不織布としては、目付が5.0〜30.0g/mであるのが好ましい。目付が30.0g/mを超えると、不織布だけでセパレータの大半を占めることとなり、塗工層による効果が得られにくい場合がある。5.0g/m未満であると不織布としての均一性を得ることが難しい場合がある。不織布の目付としては、7.0〜20.0g/mがより好ましい。なお、目付はJIS P 8124(紙及び板紙−坪量測定法)に規定された方法に基づく坪量を意味する。
【0029】
本発明の塗工液を不織布に塗工する方法に特に制限はなく、例えば、従来公知のエアドクターコーター、ブレードコーター、ナイフコーター、ロッドコーター、スクイズコーター、含浸コーター、グラビアコーター、キスロールコーター、ダイコーター、リバースロールコーター、トランスファーロールコーター、スプレーコーター等が挙げられる。
【0030】
本発明において、塗工層の付着量としては、1.0〜20.0g/mが好ましく、さらに4.0〜15.0g/mがより好ましい。塗工層の付着量が1.0g/m未満であると、不織布表面を十分被覆することができず、細孔径が大きくなり、ショートが発生するなど良好な電池特性が発現しなくなる場合がある。一方、塗工層の付着量が20.0g/mを超えると、セパレータの薄膜化が困難となったり、また、これを用いた電池の大電流充放電特性が悪化したりする場合がある。
【0031】
上記の塗布方法により、均一な塗工層を作製するために、必要に応じて、消泡剤、ぬれ剤等を塗工液中に適宜添加することができる。
【0032】
本発明において、塗工後に乾燥する方法は特に限定されず、公知の乾燥方法を用いることができるが、特に熱風を吹きつける方法、赤外線を照射する方法など、加熱により乾燥する方法は、生産性が良く好ましく用いられる。
【0033】
本発明のリチウムイオン電池セパレータにおいて、セパレータの坪量は10.0〜50.0g/mが好ましく、15.0〜40.0g/mがより好ましい。また、セパレータの厚みは10.0〜50.0μmが好ましく、15.0〜40.0μmがより好ましい。セパレータの密度としては0.4〜1.2g/cmが好ましく、0.6〜1.0g/cmがより好ましい。
【0034】
本発明において、塗工、乾燥後、塗工層表面の平坦化や厚みをコントロールする目的で、カレンダー処理によりリチウムイオン電池セパレータを平滑化しても良い。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例を示す。
【0036】
<不織布の作製>
繊度0.06dtex(平均繊維径2.4μm)、繊維長3mmの配向結晶化ポリエチレンテレフタレート(PET)系短繊維45質量部と繊度0.1dtex(平均繊維径3.0μm)、繊維長3mmの配向結晶化PET系短繊維15質量部と繊度0.2dtex(平均繊維径4.3μm)、繊維長3mmの単一成分型バインダー用PET系短繊維(軟化点120℃、融点230℃)40質量部とを一緒に混合し、パルパーにより水中で離解させ、アジテーターによる撹拌のもと、濃度1質量%の均一な抄造用スラリーを調製した。円網抄紙機を用い、この抄造用スラリーを湿式方式で抄き上げ、120℃のシリンダードライヤーによって、バインダー用PET系短繊維を接着させて不織布強度を発現させ、目付15.2g/mの不織布とした。さらに、この不織布を金属ロール−金属ロールからなる1ニップの熱カレンダーを使用して、ロール温度185℃、線圧740N/cm、搬送速度20m/分で加熱処理を実施し、厚み27μmの不織布を作製した。
【0037】
実施例1
水180質量部、アルミナ水和物(ベーマイト、単粒子、平均粒子径0.9μm、比表面積5.5m/g、アスペクト比2.5、ナバルテック社製、商品名:APYRAL(登録商標) AOH60)を100質量部、水溶液性分散剤として、その1質量%水溶液の25℃における粘度が200mPa・s、エーテル化度0.65であるカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(以下、「CMC−Na」と記す)の2質量%水溶液20質量部(固形分として0.4質量部)を、ノコギリ刃型翼を備えた分散機を用いて混合、撹拌し、次いで増粘剤として、その1質量%水溶液の25℃における粘度7000mPa・s、エーテル化度0.7のCMC−Naの1質量%水溶液を80質量部(固形分として0.8質量部)混合、撹拌し、次に固形分含量48質量%のスチレン−ブタジエンラテックスの18.75質量部(固形分として9部)を混合、撹拌し、さらに、イオン交換水を加えて濃度を調整し、固形分濃度25質量%の塗工液を作製した。上記熱カレンダー処理後の不織布に、グラビアコーターにて、乾燥固形分10g/mとなるように、不織布片面にこの塗工液を均一に塗工、乾燥して、厚み30μmのリチウムイオン電池セパレータを得た。
【0038】
実施例2〜11
水溶液性分散剤としてのCMC−Naの種類及び添加量、増粘剤としてのCMC−Naの種類及び添加量を表1のように変更した以外には、実施例1と同様にしてリチウムイオン電池セパレータを得た。なお、乾燥固形分は10g/mから±1g/mの差、厚みは30μmから±2μmの差を許容したが、この程度の差が充放電特性の低下に大きな影響を及ぼすことがないことは確認されている。
【0039】
【表1】

【0040】
(比較例1〜8)
水溶液性分散剤及び増粘剤の種類及び添加量を表1のように変更した以外には、実施例1と同様にしてリチウムイオン電池セパレータを得た。なお、乾燥固形分は10g/mから±1g/mの偏差、厚みは30μmから±2μmの偏差を許容したが、経験上、この程度の偏差が充放電特性の低下に大きな影響を及ぼすことはない。
【0041】
<評価>
実施例及び比較例で得られた塗工液及びリチウムイオン電池セパレータについて、下記の評価を行い、結果を表1及び表2に示した。
【0042】
[塗工液調製時の問題]
塗工液調製時に発生した問題を表1に示した。
【0043】
[塗工液の安定性]
作製した塗工液について、それぞれ静置した状態で28日間放置し、その時のアルミナ水和物の沈降状態を目視で確認し、次の度合いで評価した。
◎:全く沈降は見られない。
○:底に若干のアルミナ水和物の沈降は見られるが、撹拌により元の状態に戻る。
△:底に若干のアルミナ水和物の沈降が見られ、撹拌しても若干のアルミナ水和物の凝集物が見られる。
×:大量のアルミナ水和物の沈降が見られ、撹拌しても大量のアルミナ水和物の凝集物が見られる。
【0044】
[塗工性]
各実施例及び各比較例の塗工液を、黒色画用紙の上に敷いた上記不織布に、乾燥後に10g/mの塗工量を与える手動ロッドコーターで塗工した。画用紙上から不織布を取り除いた際に、画用紙上に付着した塗工液の痕跡を観察し、次の度合いで評価した。
○:画用紙上に塗工液の痕跡がない。
△:1個/cm以下の頻度で裏抜けした塗工液の痕跡がある。
×:1個/cmを超える頻度で裏抜けした塗工液の痕跡がある。
【0045】
[電池の繰り返し充放電特性]
作製したセパレータを用い、正極活物質がマンガン酸リチウム、負極活物質が人造黒鉛、正負極面積が15cm、電解液がリチウムヘキサフルオロフォスフェートのエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの7/3(容量比)混合溶媒溶液(1mol/L)である設計容量が30mAhのラミネート型リチウムイオン電池を作製し、30mA定電流充電→4.2V定電圧充電→充電電流3mAになったら30mAで定電流放電→2.8Vになったら次のサイクル、のシーケンスにて100サイクルの充放電を行い、[1−(100サイクル目の放電容量/4サイクル目の放電容量)]×100(%)として容量低下率を求めた。
【0046】
【表2】

【0047】
各実施例で調製した、アルミナ水和物と、バインダーポリマーの水性分散液と、水溶液性分散剤と、増粘剤を含有してなり、水溶液性分散剤が、その1質量%水溶液の25℃における粘度が100mPa・sec以上500mPa・sec以下であるCMC塩であり、増粘剤が、その1質量%水溶液の25℃における粘度が3000mPa・sec以上10000mPa・sec以下であるCMC塩である塗工液は、塗工液調製時に凝集は発生せず、塗工液の安定性が高く、塗工性が良好であり、かつ、これを用いて作製したリチウムイオン電池の繰り返し充放電特性が良好であった。
【0048】
一方、増粘剤としてのCMC塩を用いなかった比較例1では、調製した塗工液の安定性が不良であり、また塗工性も悪かった。水溶液性分散剤としてのCMC塩を用いなかった比較例2では、増粘剤としてのCMC塩を添加した時点で液が凝集してしまい、塗工液を調製することができなかった。水溶液性分散剤としてCMC塩以外の化合物を用いた比較例3では、作製したリチウムイオン電池の繰り返し充放電特性が悪かった。増粘剤としてCMC塩以外の化合物を用いた比較例4でも、作製したリチウムイオン電池の繰り返し充放電特性が悪かった。水溶液性分散剤としてのCMC塩の水溶液粘度が低すぎる比較例5では、増粘剤としてのCMC塩を添加した時点で液が凝集してしまい、塗工液を調製することができなかった。水溶液性分散剤としてのCMC塩の水溶液粘度が高すぎる比較例6では、水溶液性分散剤としてのCMC塩を添加した時点で液が凝集してしまい、塗工液を調製することができなかった。増粘剤としてのCMC塩の水溶液粘度が低すぎる比較例7では、調製した塗工液の安定性が不良であり、また塗工性も悪かった。増粘剤としてのCMC塩の水溶液粘度が高すぎる比較例8では、増粘剤としてのCMC塩を添加した時点で液が凝集してしまい、塗工液を調製することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のリチウムイオン電池セパレータ用塗工液及びリチウムイオン電池セパレータは、リチウムイオン二次電池用途以外にも、リチウムポリマー電池、リチウムイオンキャパシター等にも利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ水和物と、バインダーポリマーの水性分散液と、水溶液性分散剤と、増粘剤を含有してなり、該水溶液性分散剤が、その1質量%水溶液の25℃における粘度が100mPa・sec以上500mPa・sec以下であるカルボキシメチルセルロース塩であり、該増粘剤が、その1質量%水溶液の25℃における粘度が3000mPa・sec以上10000mPa・sec以下であるカルボキシメチルセルロース塩であることを特徴とするリチウムイオン電池セパレータ用塗工液。
【請求項2】
請求項1の塗工液を、不織布に塗工、乾燥してなることを特徴とするリチウムイオン電池セパレータ。

【公開番号】特開2013−115031(P2013−115031A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263502(P2011−263502)
【出願日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】