説明

リチウムイオン電池及びリチウムイオンポリマー電池の火災を対処及び/又は予防するための方法

本発明は、1又は複数の電池、好ましくはリチウムイオン電池の火災を対処及び/又は予防するための方法であって、カルシウム塩の水溶液とゲル消火剤とが適用されることを特徴とする方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
リチウムイオン電池は種々多様な使用分野においてますます大きな役割を果たしつつある。電子機器、例えば携帯電話、ラップトップ、パワーツール、携帯式MP3プレーヤー等に使用されるリチウムイオン電池は公知に属し、広く普及している。自動車分野に使用されているリチウムイオン電池も近い将来同じく大きな役割を果たすことになると見込まれる。リチウムイオンポリマー電池とは、アルミニウム複合膜でパッケージされたリチウムイオン電池として思料されている。以下においては、“リチウムイオン”なる用語のみが使用される。
【0002】
電池、特にリチウムイオン電池の破損時には、電池内部から化学物質及び粒子が流出することがある。こうした場合、放出されたこれらの材料は、粒子、ダスト、膜、エアロゾル、液体、微細霧滴及び/又は気体の形で存在し、流出箇所においてほとんどの場合に非常に高温である。こうした材料は一部、非常に反応性に富むと共に、健康上有害である。放出されたこうした材料は周囲表面で凝結し、それによって、周囲領域を汚染することがある。放出されたこうした材料は健康上有害である。また、放出されたこうした材料が発火して、火災事故及び/又は爆発事故に至ることもある。
【0003】
実際のところ、あらゆるリチウムイオン電池には、電池の損壊時(例えば、熱暴走[thermal runaway]時)に高反応性の毒性化合物に分解され得るリチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF)が、導電塩として使用されている。文献(例えば以下を参照。Hui Yang,Guorong V.Zhuang,Philip N.Ross Jr.著、“Thermal Stability of LiPF Salt and Li−ion Battery Electolytes Containing LiPF”,Lawrence Berkeley National Laboratory(University of California,University of California)2006 Paper LBNL−58758)には、早くも約110℃以上の温度から生ずる分解生成物として、高反応性の化合物PF(ホスホトリフルオリド)、PF(ホスホペンタフルオリド)、HF(フッ化水素)(フッ化水素酸とも称される。)及びPOF(ホスホオキシトリフルオリド)が挙げられている。これらに加えてさらに、腐食性を有する毒性のその他のリン/酸素/フッ素化合物も発生することがある。さらに、ごく微量ではあるが、有機フッ素化合物の発生も見込まれる。
【0004】
水の排除下でのLiPFの熱分解は、約110℃以上の温度から、以下の反応に従って進行する。
LiPF → LiF(s)+PF(g)
ここで、sなる略称は固体を意味し、gなる略称は気体を意味している。
【0005】
水の存在において、リチウムヘキサフルオロホスフェートは、以下のように加水分解する。
LiPF+2HO → LiOH(s)+POF(g)+3HF(g)
【0006】
基本的に、さらに以下の加水分解反応が観察される。
PF+HO → POF+2HF
POF+3HO → HPO+3HF
【0007】
上記は、中間生成するホスホルオキシトリフルオリドも、例えば空気中水分の形の水との反応によって、最終的に高反応性フッ化水素(HF)に加水分解されるとのことを意味している。
【0008】
通例、電池、特にリチウムイオン電池の使用及びテスト時には、電池の破損は技術的に抑止されている。それにもかかわらず、この種の電池破損及び火災あるいは“熱暴走[Thermal Runaway]”が生じた場合には、火災対処対策及び環境汚染防止対策が必要である。“熱暴走[Thermal Runaway]”なる用語は、リチウムイオン電池の熱暴走を意味しており、その際には、電池内における過度のかつ自己増強的な熱発生及び/又は熱除去が足りないことにより電池の開放が生じ、さらにその際、煙の発生、発火現象又は爆発に至ることがある。リチウムイオン電池の“熱暴走[Thermal Runaway]”なるテーマについては以下の文献を参照されたい。
Kern R.,Bindel R.,Uhlenbrock R.著、「Durchgaengiges Sicherheitskonzept fuer die Pruefung von Lithium−Ionen−Batteriesystemen」(リチウムイオンバッテリーシステム試験のための全般的な安全構想)、ATZelektronik。
【0009】
これまでのところ、リチウムイオン電池の消火ないし火災対処を実現するためのコンセプトであって、優れた消火結果を達成すると同時に、破損した電池又はバッテリーに由来する高反応性化合物による環境汚染を防止もしくは少なくとも局限する上記コンセプトは知られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明により、1又は複数の電池、特にリチウムイオン電池の火災を対処及び/又は防止するための方法が提供される。本発明による方法は、カルシウム(Ca)塩の水溶液及びゲル消火剤が使用されることを特徴としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
驚くべきことに、カルシウム塩の水溶液、特に20%CaCl水溶液を、優れた冷却特性を有するゲル消火剤と同時的に併用することにより、優れた消火効果が達成されると同時に、破損したリチウムイオン電池からの反応性化合物の放出が驚くほど大幅に低減されることが判明した。さらに、ゲル成分の冷却効果によって、一つのリチウムイオン電池から隣接するリチウムイオン電池への熱又は火炎の広がりの低減も見られた。カルシウム塩水溶液のカルシウムイオンは、フッ化物イオンと、フッ化水素酸(HF)と、例えばホスホオキシトリフルオリド(POF)のようなフッ化物含有化学種とを、特に、ほとんど水に不溶でありそれゆえに沈殿するフッ化カルシウム(CaF)の形態において結合する。それゆえ、放出されたフッ化物イオン及びフッ化水素(HF)、ならびに、例えばPOFのような化学種も、確実かつ広範に無害な形に変換されることができる。
【0012】
本発明による方法は、1又は複数の電池、特にリチウムイオン電池、該モジュール、該バッテリー又は該蓄電池の火災の対処及び/又は予防に適している。本願明細書において、“バッテリー”なる用語は、電気化学的エネルギー貯蔵装置、特に電池又はあらゆる常用蓄電池テクノロジーの蓄電池として理解される。好ましいのは、Liイオン(リチウムイオン)タイプ、LiPo(リチウムポリマー又はリチウムイオンポリマーと称される)タイプの電池、モジュール、バッテリー又は蓄電池である。以下の用語すなわち−リチウムマンガンスピネルと称されるLiMn(LMO)、LiFePO(LFP)−リン酸鉄リチウム、LiTi12(LiTiO)−チタン酸リチウム−は上記のリチウムイオン電池に使用される活物質の例を表している。
本発明による消火剤はあらゆる活物質を有するあらゆるリチウムイオン電池に使用することが可能である。
ここで、“バッテリー”なる用語は個々の電池にも、複数の電池からなるモジュールにも、複数の電池及び/又はモジュールを含んでなる複合構造物にも使用される。
【0013】
好ましくは、少なくとも3 Ahの定格容量を有する高容量バッテリーが使用される。この場合、この定格容量値はバッテリーの全体か又はバッテリーの個々の電池に関する値であってよい。
【0014】
好ましくは、バッテリーは、一部又はもっぱら、電池当たり少なくとも3 Ahの定格容量を有するリチウムイオン電池及び/又はリチウムイオンポリマー電池、該モジュール及び/又は該バッテリーである。
【0015】
1又は複数の電池の火災の抑止とは、火災の消火として、及び、火災若しくは温度上昇の阻止、又は、電池、バッテリー及び/又は環境の他の部分への火災の広がりの防止若しくは阻止として、ならびに、バッテリー又は電池の毒性及び/又は反応性内容物質又はそうした内容物質及び環境物質の生成物の形成、拡散及び/又は放出の防止及び/又は阻止として理解される。
【0016】
予防とは、火災事象の発生前に講じられて、1又は複数の電池の火災が先ずまったく発生しないか又は軽減された強度で進行するようにしうる対策として理解される。例えば、状態が不分明の電池はそれらが輸送及び/又は貯蔵保管される前に、バッテリー火災の危険を回避するべく、万一を配慮してカルシウム塩の水溶液及びゲル消火剤で処理することが可能である。
【0017】
本発明による方法は、Ca塩の水溶液が使用されることを特徴としている。Ca塩とはCaが酸化段階2+で存在している塩である。水溶液の塩は有機塩を含有するか又はそれからなっていてよく、好ましくは、塩はCa2+及び低級アルキル又はカルボン酸、例えばC1〜C4アルキル又はカルボン酸からなっていてよい。水溶液の塩は、好ましくは、無機Ca塩を含有するか又はそれからなっていてよい。特に好ましいのは、CaCl又はCa(OH)又はそれらの混合物である。とりわけ特に好ましいのは、CaCl水溶液である。
【0018】
Ca塩は水溶液中に、水溶液中のCaイオンが、破損した電池に由来するフッ化物イオンと結合して、CaFの生成を可能にする濃度で存在している。この場合、Ca塩の含有量は、Ca塩による水溶液の飽和が生ずる濃度を上回らない。好ましくは、Ca塩は少なくとも1% w/v(weight per volume、つまり、単位体積当たり重量)から飽和溶液が生ずるまでの濃度にて、特に好ましくは5% w/vから40% w/vまでの濃度にて、特に好ましくは10% w/vから30% w/vまでの濃度にて、とりわけ特に好ましくは20% w/vの濃度にて水溶液中に存在している。
【0019】
水溶液中においてCa塩は水性溶媒中に溶解して存在している。水性溶媒とは、好ましくは、水又は、20%以上の水分、好ましくは50%以上の水分を有する混合溶媒である。ただし、その他の溶媒又は混合溶媒も使用可能である。溶媒は室温にて液体をなし、使用されるCa塩は所望の濃度に達するまで溶媒に完全に溶解可能である。溶媒自体はさらに、それ自体は非可燃性であり、Ca塩に対して不活性であることを特徴としている。
【0020】
本発明による方法にあっては、Ca塩の水溶液と並行して、ゲル消火剤も使用される。ゲル消火剤は吸水性ポリマーを含み、水分閉じ込めによっていわゆるヒドロゲルを形成することができる。好ましくは、吸水性ポリマーはゲル消火剤中に0.5〜10%(w/v)の濃度にて、特に好ましくは1.5〜3%(w/v)の濃度にて存在している。このゲル消火剤は、水分を吸収、結合することができると共に、消火対象に向けて吹き付け適用された後、水分が火元から直ちに流れ去ることがないようにすることを特徴としている。こうしたゲル消火剤の使用によって、水の消費が低減され、高い冷却性能が達成されるだけでなく、さらに、バッテリー又は電池の内部からの反応性物質の放出の低減もしくは防止さえも可能となる。したがって、こうした危険な物質又は化合物による環境汚染は低減される。この種のゲル消火剤は当業者には公知に属する。セレクトされた適切なゲル消火剤の製造、使用及び組成は、例えば米国特許第3,229,769号、米国特許第5,849,210号及び国際公開第2006/056379号の各明細書及びパンフレットに記載されている。公知の、本発明による方法での使用に適したゲル消火剤は商業的に入手可能な下記製品である。
【0021】
1. Hydrex(登録商標)
本製品はOeko−Tec社から販売されている。
この消火剤Hydrex(登録商標)は、Firesorb(登録商標)ならびにPrevento(登録商標)と同じく、粉末状の稠度で存在し、使用時に初めて混合されるゲル消火剤である。Hydrex(登録商標)は上市された最初のゲル消火剤であった。
Hydrex(登録商標)は粉末として存在する消火剤添加物である。収容量10リットルの大型噴射器に1%混入することにより、短時間で、火災の熱を吸収するという非常に優れた性能を有するゲルタイプの液体が得られる。Hydrex(登録商標)の化学的基礎をなすものは吸水性ポリマーをベースとしたゲル形成剤である。
【0022】
2. Prevento(登録商標)
Prevento(登録商標)は製造業者BASFの新種の消火剤である(国際公開2006/056379)号パンフレット、参照)。
Prevento(登録商標)消火剤の成分は以下の通りである:
1.0重量% 吸水性ポリマー
1.1重量% トリカリウムシトレート
0.2重量% キサンタン(膨潤剤)
0.12重量% ポリエチレングリコール(溶解助剤)
0.2重量% 殺生剤(予混合溶液の保存性安定剤) 及び

【0023】
3. Firesorb(登録商標)
本製品はEvonik社−旧Degussa−Stockhausen社−から販売されている。
本調剤は、ナトリウムアクリレート/アクリルアミド−コポリマー及びW/Oエマルションとして脂肪酸エステルを含んでいる。溶解助剤として、イソトリデシル−ポリグリコールエーテル又はポリグリコールエーテルが使用される。消化器中での2年間の保存性の確保のための予混合溶液の安定化のために、殺生剤が混入される。
【0024】
好ましくは、Ca塩の水溶液とゲル消火剤とは同時に使用される。ここで、同時とは、少なくとも測定可能な一定時間にわたってCa塩の水溶液ならびにゲル消火剤の双方が使用されることとして理解される。この場合、測定可能な一定時間にわたって双方の消火剤が同時に使用されることを前提として、上記双方の消火剤の一方がそれぞれ他方の消火剤よりも総じてより長時間もしくはより短時間にわたって使用されるか否かは大した問題ではない。
【0025】
Ca塩の水溶液とゲル消火剤とは、一つの共通の、統合された消火剤の形で適用することも可能である。そのため、ゲル消火剤の固体成分のすべて又は一部ならびに水溶液の塩成分のすべて又は一部のいずれもがさしあたり固体の形例えば粉末として存在し、消火剤の使用時に初めて、水又は溶媒と混合されるようにすることも可能である。
【0026】
上記双方の消火剤は本発明による方法において、被処理対象上に直接に塗射するか又は被処理対象の上方に適用するか又は被処理対象の周囲に適用することが可能であり、好ましくは、Ca塩の水溶液は微細に分散した形で、特に好ましくは噴霧として、とりわけ特に好ましくは、0.0003mm〜0.01mmの平均霧滴直径、好ましくは0.001mm〜0.005mmの平均霧滴直径を有する噴霧として適用される。こうした噴霧は特に微細噴霧テクノロジーを使用して達成可能である。微細噴霧テクノロジーの利点は噴霧媒体の表面積が非常に大きい点に見出すことができ、これは効果的な煙ガス結合にとって特に有利である。噴霧媒体の大きな表面積は0.001mm〜0.005mmという非常に微小な液滴直径ならびに60bar〜100barという噴霧圧力によって達成される。こうした直径の液滴は気体状の浮遊挙動を有している。高圧噴霧テクノロジーの極めて微細な水滴は、5bar〜15barの圧力範囲で運転される噴水装置の水滴直径範囲に比較して、大きな表面積−これは、発生する有害ガスの吸収率の向上をももたらすことになる−による熱吸収能の高まりという利点を有している。汚染された消火水の処分にとって有利な副次的効果として、消火剤使用量が僅かであるとの利点ももたらされる。
【0027】
本発明は、本発明による方法を実施するための消火器構成にも関する。消火器構成とは、1又は複数の電池の火災が被保護対象内部又は被保護空間内部で抑止可能とされるか又はその種の火災が予防可能とされる機能的かつ空間的な消火器具の配置として理解される。そのため、消火器構成は少なくとも2個の異なった消火器具を含んでなり、その際、第1の消火器具は該消火器具によってCa塩の水溶液が適用可能とされるように形成され、第2の消火器具は該消火器具によってゲル消火剤が適用可能とされるように形成されている。
【0028】
本発明による消火器構成の、一つ、複数又はすべての消火器具は移動式消火器具、好ましくは、例えば、Ca塩の水溶液又はゲル消火剤を収容した、従来の消火器の形の携帯式消火器具として形成されていてよい。
【0029】
本発明による消火器構成の、一つ、複数又はすべての消火器具は定置式消火器具として形成されていてよい。好ましくは、そのため、一つ、複数又はすべての消火器具はCa塩の水溶液及び/又はゲル消火剤を適用するための1又は複数の口、ノズル、スプリンクラー及び/又はその他の装置を有する消火剤配管系として形成されていてよい。好ましい1実施形態において、Ca塩の水溶液を適用するための少なくとも1消火器具は、平均液滴直径が0.0003mm〜0.01mm、好ましくは平均液滴直径が0.001mm〜0.005mmの噴霧を発生することのできる1又は複数の口、ノズル又はスプリンクラーを有する高圧環状配管系として形成されている。そのため、この高圧環状配管系は60bar〜100barの噴霧圧力が達成されるように形成されていてよい。高圧噴霧によって配給されるCa塩水溶液の使用量設計に際しては、工場消防隊の投入時間によって決定される投入時間につき、投入時間10分当たり6リットル/m×分の消火剤需要量が見込まれる。さらに、VdSによって100%の予備使用量備蓄が求められる。
【0030】
ゲル消火剤、例えば2%予混合溶液の形のFIRESORB(登録商標)も、例えば10barの保持圧力下で、高圧環状配管系の形の消火器具によって供給可能である。この溶液の保存性は、例えば殺生剤の添加によって、比較的長期にわたって保証可能である。ゲル消火剤、例えば2% FIRESORB(登録商標)溶液は、高圧環状配管系に属する例えば0.75 mの圧縮ガスクッションを有する貯蔵用圧力容器に保存準備されて、使用時に多機能ノズル付き配管を経て適用することが可能である。
【0031】
本発明による消火器構成の、一つ、複数又はすべての消火器具は、手動式例えばプッシュボタン式クイック操作によって作動可能であってよい。代替的又は追加的に、これらの消火器具は制御及び/又は調節手段によって自動的に作動可能であってもよく、例えば1又は複数のPLC制御装置(PLCとは、プログラマブル論理制御装置の略である。)を経て制御されて自動的に作動可能であってよい。その際、これらの制御及び/又は調節手段は、火災事象の発生が認識されると消火器構成が自動的に作動されるようにすべく、1又は複数の電池の状態を監視し得る例えばセンサ又は検知器と接続されていてよい。
【0032】
本発明は、電池、好ましくはリチウムイオン電池の安全な貯蔵保管、輸送及び/又はテストを行うための装置にも関する。この装置は1又は複数の電池を収容するための内部空間を有している。この内部空間は、例えば、1又は複数の壁、床、天井及び/又はドアによって、部分的又は全面的に周囲から切り離されて存在していてよい。本発明によるこの種の装置とは、例えば、密閉又は開放式の貯蔵保管容器及び/又は1又は複数の電池、該モジュール又は該構造物用のテストスタンドであってよい。電池の安全な貯蔵保管、輸送及び/又はテストを行うための上記装置は本発明による少なくとも1消火器構成を有している。該消火器構成は移動式及び/又は定置式の消火器具を有した消火器構成であってよい。加えてさらに、上記装置は1又は複数の電池の状態を監視するための1又は複数のセンサ又は検知器を有していてよく、該センサ又は検知器はUV/IRセンサ、圧力センサ、煙報知器、ガスセンサ及び/又は温度センサから選択されるのが好ましい。本発明による上記装置は、加えてさらに、消火器構成を自動的に作動させるための制御及び/又は調節手段例えばPLC制御装置を有していてよい。さらに、本発明による装置は、1又は複数の電池を収容するための内部空間からガスを吸引し得るように形成された1又は複数のガス吸引構成を有していてよく、該吸引構成はバーストディスクを介して装置の内部から切り離されているのが好ましい。
【0033】
本発明は、1又は複数の電池、好ましくは1又は複数のリチウムイオン電池の火災を対処及び/又は予防するためのCa塩の水溶液及びゲル消火剤の使用にも関する。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に本発明を、実施例に基づいて、例示的に説明する。
【0035】
異なった消火剤を用いた比較消火試験が実施された。これらの消火試験は手動により、したがって非自動式に、又は消火設備を経て実施された。
【0036】
そのため、一部、容積6リットルの多機能ノズルタイプの携帯式消火器、Total Walther ISOGARDが使用され、相応して、消火剤が充填された。
【0037】
消火剤としては、以下の消火剤が使用された。
A) 20%CaCl水溶液、(ノズル付き6リットル消火器)
B) Firesorb(登録商標)、2%混合、(ノズル付き6リットル消火器)
C) 水、(ノズル付き6リットル消火器)
D) 二酸化炭素、従来の5kg消火器
【0038】
試験は、市場で自由に入手し得る一般市販の韓国Kokam社製のリチウムイオン電池を用いて実施された。これは、より正確に言えば、ポーチ電池又はソフトパックとも称される(パッケージング材料がアルミニウム複合膜からなる)いわゆるリチウムイオンポリマー電池である。上記の韓国の電池メーカーKokam社のデータシートによれば、カソード活物質はリチウム−ニッケル−コバルト−マンガン−オキシド(LiNiCoMnO)とリチウム−コバルト−オキシド(LiCoO)とのブレンドからなっている。このKokam電池では導電塩としてLiPFが使用されている。電池の定格容量は4Ahである。それぞれ10個のポーチ電池(4Ah KOKAM)からなる6個のリチウムイオンモジュールが順次、モジュールのそれぞれ1個の電池の過充電によって“熱暴走[thermal runaway]”にもたらされた(当初電圧4.2 V、充電電流8 A)。これによって、すべての当該モジュールは火災を発生し、種々相異した消火剤で消化された。以下に、V1〜V4と命名された試験シリーズを示す。これらの試験中、モジュールから滴下した消火剤(COでは消火成果なし、水消火器で最終的に消火)はプラスチックパンに捕集され、試料中のアニオン及びカチオンが定量検査された。
【0039】
使用された消火剤は以下の試験名称に区分されている。
V1:C, 水消火器
V2:2つの消火器の同時使用:A及びB, Firesorb(登録商標)+水(ゲル消火剤)及びCaCl+水;モジュールの外側電池の過充電
V3:2つの消火器の同時使用:A及びB, Firesorb(登録商標)+水(ゲル)及びCaCl+水;モジュールの中心電池の過充電
V4:D, CO消火器;続いて、水消火器C
【0040】
カチオン測定
消火水試料は濾過され、ICP−AESによって以下の元素つまりカルシウム、コバルト、リチウム、マンガン及びニッケルが定量測定された。結果は表1に示した通りである。
【0041】
【表1】

【0042】
アニオン測定
消火水試料は濾過され、イオンクロマトグラフィーによって以下のアニオンつまりフッ化物、塩化物及びリン酸塩が測定された。結果は表2に示した通りである。NWGとは適用された測定方法の検出限度の略称である。
フッ化物のNWG: 0.2 ppm
リン酸塩のNWG: 2.0 ppm
【0043】
試料V1及びV4は1:10に稀釈されて測定された。試料V2及びV3の塩化物検出のために、該試料は1:1000に稀釈された。リン酸塩検出のために、すべての試料はさらに無稀釈で噴射された。さらに、フッ化物検出のために、試料V2及びV3は無稀釈で使用された。
【0044】
【表2】

【0045】
試験結果
火炎の発生から10秒遅れて消火剤が吹き付けられたKokam電池は、第1に、CaCl溶液が煙の発生を抑止し、第2に、ゲル消火剤Firesorb(登録商標)が熱を吸収して、他のリチウムイオン電池への火炎の広がりを阻止することを示した。
【0046】
二酸化炭素は消火剤としてまったく不適切である。このことは火炎が再三再四燃え上がったとの事実から帰結される。
【0047】
水はジェット噴霧として吹き付けられて同じく消火をもたらす。煙の発生は抑止される。この消火剤の吹き付け終了後、新たな火炎の燃え上がりが認められる。ただし、V1の分析結果は消火水中にフッ化物イオンが存在していることを示している。
【0048】
CaCl水溶液とゲル消火剤(この場合、Firesorb(登録商標))との同時適用は消火水中に溶解したフッ化物イオンの驚くほど大幅な減少をもたらした。これら双方の消火剤の使用によって、放出されて環境中に達し得るフッ素含有反応性化学種例えばPOF及びフッ化水素の量を明らかに減少させることが可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1又は複数の電池、好ましくはリチウムイオン電池の火災を対処及び/又は予防するための方法であって、
カルシウム塩の水溶液とゲル消火剤とが適用されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記カルシウム塩の水溶液と前記ゲル消火剤とは、同時に適用されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記カルシウム塩の水溶液と前記ゲル消火剤とは、一つの共通の、統合された消火剤の形で適用されることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記水溶液のカルシウム塩は、無機カルシウム塩を含有するか又は該カルシウム塩からなり、好ましくはCaCl又はCa(OH)又はそれらの混合物であることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記カルシウム塩は、前記水溶液中に、少なくとも1% w/vから飽和溶液濃度までの濃度にて、好ましくは5% w/vから40% w/vまでの濃度にて、特に好ましくは10% w/vから30% w/vまでの濃度にて、とりわけ特に好ましくは20% w/vの濃度にて存在していることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ゲル消火剤は、吸水性ポリマーを含むことを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記カルシウム塩の水溶液は、微細に分散した形で適用され、好ましくは噴霧として、特に好ましくは平均霧滴直径0.0003mm〜0.01mmの噴霧として、とりわけ特に好ましくは平均霧滴直径0.001mm〜0.005mmの噴霧として適用されることを特徴とする、先行する請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
1又は複数の電池、好ましくはリチウムイオン電池の火災を対処及び/又は予防するためのカルシウム塩水溶液とゲル消火剤との使用。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法を実施するための消火器構成であって、
該消火器構成は、少なくとも2個の異なった消火器具を有し、
第1の消火器具は、該消火器具によってカルシウム塩の水溶液が適用可能とされるように形成され、
第2の消火器具は、該消火器具によってゲル消火剤が適用可能とされるように形成されていることを特徴とする、消火器構成。
【請求項10】
前記第1、前記第2又は前記双方の消火器具は、移動式消火器具として形成され、好ましくは携帯式消火器具として形成されていることを特徴とする、請求項9に記載の消火器構成。
【請求項11】
前記第1、前記第2又は前記双方の消火器具は、定置式消火器具として形成され、好ましくは、前記カルシウム塩の水溶液及び/又は前記ゲル消火剤を適用するための1又は複数の口、ノズル、スプリンクラー及び/又はその他の装置を有する消火剤配管系として形成されていることを特徴とする、請求項9に記載の消火器構成。
【請求項12】
前記第1の消火器具は、該消火器具によってカルシウム塩の水溶液が噴霧として適用可能とされるように形成されていることを特徴とする、請求項9〜11のいずれか1項に記載の消火器構成。
【請求項13】
電池、好ましくはリチウムイオン電池の安全な貯蔵保管、輸送及び/又はテストを行うための、好ましくは1又は複数の電池を収容するための内部空間を含んでなる装置であって、
該装置は、請求項9〜12のいずれか1項に記載の消火器構成を有することを特徴とする、装置。
【請求項14】
前記装置は、加えてさらに、1又は複数の電池の状態を監視するための1又は複数のセンサを有し、好ましくは、該センサはUV/IRセンサ、圧力センサ、煙報知器、ガスセンサ及び/又は温度センサから選択されることを特徴とする、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記装置は、さらに、1又は複数の電池を収容するための前記内部空間からガスを吸引し得るように形成されたガス吸引構成を有し、好ましくは、該ガス吸引構成はバーストディスクを介して前記装置の内部から切り離されていることを特徴とする、請求項13〜14のいずれか1項に記載の装置。


【公表番号】特表2013−500801(P2013−500801A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523256(P2012−523256)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【国際出願番号】PCT/EP2010/059437
【国際公開番号】WO2011/015411
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(501125231)ローベルト ボッシュ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (329)
【出願人】(311017728)エス・ビー リモーティブ カンパニー リミテッド (9)
【出願人】(311017740)エス・ビー リモーティブ ジャーマニー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (9)
【Fターム(参考)】