リチウムイオン電池用の高容量アノード材料
リチウムイオン電池に関して、高容量シリコンベースアノード活性材料を説明する。これらの材料は、高容量リチウムリッチカソード活性材料と組み合わせると有効であることが示されている。補助リチウムが、少なくともいくつかのシリコンベース活性材料に関して、サイクリング性能を改良し、不可逆容量損失を減少させることが示されている。特に、シリコンベース活性材料は、導電性コーティング、例えば熱分解炭素コーティングまたは金属コーティングを備える複合材として形成することができ、複合材はまた、カーボンナノファイバおよび炭素ナノ粒子など他の導電性炭素成分と共に形成することができる。シリコンを含むさらなる合金も考察する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のLopez他の「High Energy Density Lithium Battery」という名称の2009年11月3日出願の米国仮特許出願第61/257,728号に対する優先権を主張するものである。
【0002】
本明細書で述べる発明の発展形態は、少なくとも一部はU.S. Department of Energy(米国エネルギー省)による契約番号ARPA−E−DE−AR0000034での政府支援の下で資金提供された。米国政府は、本発明にいくらかの権利を有する。
【0003】
本発明は、リチウムイオン電池用の、シリコンをベースとする高容量の負極活性材料に関する。本発明はさらに、シリコンベース負極活性材料と、高容量リチウムリッチ正極活性材料とを用いて形成した電池、および補助リチウム源を備えるシリコンベースのリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0004】
リチウム電池は、それらの高いエネルギー密度により、家庭用電化製品で広く使用されている。いくつかの現在市販されている電池では、負極材料は黒鉛であることがあり、正極材料は、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、鉄リン酸リチウム(LiFePO4)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、ニッケルコバルト酸リチウム(LiNiCoO2)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNiMnCoO2)、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(LiNiCoAlO2)などを含むことがある。負極に関して、チタン酸リチウムが、良好なサイクリング特性を有する黒鉛の代替物質であるが、エネルギー密度はより低い。黒鉛に対する他の代替物質、例えば酸化スズやシリコンは、より高いエネルギー密度を提供する可能性がある。しかし、いくつかの高容量の負極材料は、高い不可逆容量損失、および構造変化に関係付けられる好ましくない放電および充電サイクリング、ならびにリチウムインターカレーション/合金化に関連付けられる特にシリコンに関する非常に大きな体積膨張により、市販には適していないことが判明している。構造変化および大きな体積変化は、電極の構造的な完全性を破壊し、それによりサイクリング効率を減少させる可能性がある。
【0005】
対応する電池の対応するエネルギー密度および出力密度を大幅に高めることができる新規の正極活性材料は、現在開発中である。特に有望な正極活性材料は、リチウムリッチの積層状組成物に基づくものである。特に、電池容量の改良は車両用途に望ましいことがあり、車両用途では、多数回の充電および放電サイクルにわたって適切な性能を維持することが重要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様では、本発明は、リチウム金属酸化物を含む正極と、負極と、正極と負極の間にある隔離板と、補助リチウムとを備えるリチウムイオン電池であって、負極が、シリコンを含み、C/3の速度で少なくとも約500mAh/gの比容量を有するリチウムイオン電池に関する。
【0007】
さらなる態様では、本発明は、リチウム金属酸化物を含む正極と、負極と、正極と負極の間にある隔離板とを備えるリチウムイオン電池であって、負極が、シリコンと、導電性成分と、ポリマーバインダとを含み、負極が、少なくとも約0.6g/cm3のシリコン活性材料の密度を有し、少なくとも約3.5mAh/cm2の単位面積当たりの容量を生み出すことができるリチウムイオン電池に関する。
【0008】
追加の態様では、本発明は、リチウム金属酸化物を含む正極と、負極と、正極と負極の間にある隔離板とを備えるリチウムイオン電池であって、負極が、シリコンと、導電性成分と、ポリマーバインダとを含み、負極が、シリコンベース活性材料と、ポリマーバインダと、約2重量パーセント〜約30重量パーセントの炭素繊維とを含み、炭素繊維が、約25nm〜約250nmの平均直径と、約2ミクロン〜約25ミクロンの平均長さとを有し、負極が、少なくとも約25ミクロンの平均乾燥厚さを有するリチウムイオン電池に関する。
【0009】
他の態様では、本発明は、リチウム金属酸化物を含む正極と、負極と、正極と負極の間にある隔離板と、任意選択の補助リチウムとを備えるリチウムイオン電池であって、負極が、シリコンベース活性材料と、導電性成分と、ポリマーバインダとを含み、バインダが、引裂きなしで少なくとも約50%の伸び率と、少なくとも約100MPaの引張り強さとを有するリチウムイオン電池に関する。
【0010】
さらに、本発明は、リチウム金属酸化物を含む正極と、負極と、正極と負極の間にある隔離板と、任意選択の補助リチウムとを備えるリチウムイオン電池であって、負極が、シリコンベース活性材料と、導電性成分と、ポリマーバインダとを含み、活性材料の量が、基準正極容量と基準負極容量が互いに約5パーセント以内に収まるように平衡を図られ、基準正極容量が、補助リチウムによって供給される任意の容量と正極容量との和であり、リチウム箔の対向電極を用いてC/20の速度で4.6Vから2Vで評価され、基準負極容量が、リチウム箔に対してC/20の速度で0.01Vから1.5Vで評価されるリチウムイオン電池に関する。
【0011】
他の実施形態では、本発明は、熱分解炭素コーティング、ナノ構造化シリコン、およびカーボンナノファイバまたは黒鉛状炭素を含む複合材料に関する。
【0012】
さらに、本発明は、リチウム金属酸化物を含む正極と、シリコンベース活性材料を含む負極と、正極と負極の間にある隔離板とを備えるリチウムイオン電池であって、4.5Vから1.0Vの間での50回の充放電サイクル後、負極活性材料で少なくとも約750mAh/g、および正極活性材料で少なくとも約150mAh/gを示すリチウムイオン電池に関する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】カソードと、アノードと、カソードとアノードの間にある隔離板とを有する電池スタックの概略斜視図である。
【図2】150mA/cm2で20分間(左図)および50mA/cm2で1時間(右図)、電気化学的にエッチングしたシリコンウェハの断面のSEM画像の合成写真である。
【図3a】真性のp+シリコン負極から作製した電池、および様々な電気化学的エッチング条件によって形成したナノ多孔質p+シリコン負極から作製した電池に関する、サイクル番号に対する比放電容量のプロットを含むグラフである。
【図3b】真性のp+シリコン負極から作製した電池に関する結果を省いた、図3aのプロットの一部の拡大図である。
【図4】真性のp+シリコン負極から作製した電池、および様々な活性または非活性導電性成分を用いて、または用いずに形成したナノ多孔質p+シリコン負極から作製した電池に関する、サイクル番号に対する比放電容量のプロットを含むグラフである。
【図5】熱分解炭素コーティングを備えない(左図)、および備える(右図)シリコンナノ粒子のSEM画像の合成写真である。
【図6】熱分解炭素コーティングを備える、および備えないシリコンベース活性組成物を含む負極から形成した電池に関する、サイクル番号に対する比放電容量のプロットを含むグラフである。
【図7】リチウム箔負極と、様々な積層厚さを有する炭素−シリコン−硬質炭素複合材活性材料を含む正極とを用いて作製した電池に関する、サイクル番号に対する比放電容量のプロットを含むグラフである。
【図8】HCMR(商標)正極と、炭素−シリコン−硬質炭素複合材活性材料を含む負極とから作製した電池に関する、サイクル番号に対する比充電および放電容量のプロットを含むグラフであって、比容量を負極活性材料の質量に基づいて計算したグラフである。
【図9】HCMR(商標)正極と、リチウム箔または炭素−シリコン−硬質炭素複合材活性材料を含む負極とから作製した電池に関する、サイクル番号に対する比充電および放電容量のプロットを含むグラフであって、比容量を正極活性材料の質量に基づいて計算したグラフである。
【図10】サイクリングしていない(左図)、15回サイクルさせた(中央図)、100回サイクルさせた(右図)炭素−シリコン−硬質炭素複合材活性材料を含む電極のSEM画像の合成写真である。
【図11】硬質炭素コーティングを備えない(左図)、および備える(右図)シリコンナノ粒子のSEM画像の合成写真である。
【図12】リチウム箔負極と、炭素−シリコン複合材活性材料を含む正極とを用いて形成した電池に関する、サイクル番号に対する比充電および放電容量のプロットを含むグラフである。
【図13】HCMR(商標)正極と、炭素繊維−シリコン複合材を含む負極とから作製した、補助リチウムを含む、および含まない電池に関する、サイクル番号に対する比充電および放電容量のプロットを含むグラフであり、比容量を正極活性材料の質量に基づいて計算したグラフである。
【図14】比容量を負極活性材料の質量に基づいて再計算した、図13に示したデータの再現図である。
【図15】シリコン−金属の金属間化合物/合金複合材の活性材料のX線回折測定によって得られた、散乱角度に対する強度のプロットを含むグラフである。
【図16】リチウム箔負極と、シリコン−金属の金属間化合物/合金複合材の活性材料を含む正極とから作製した電池に関する、サイクル番号に対する比充電および放電容量のプロットを含むグラフである。
【図17】HCMR(商標)正極と、シリコン−金属の金属間化合物/合金複合材の活性材料を含む負極とから作製した、補助リチウムを含む、および含まない電池に関する、サイクル番号に対する比充電および放電容量のプロットを含むグラフであって、比容量を活性正極材料の質量に基づいて計算したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
リチウムイオン電池用の負極に望ましい電池材料は、シリコンをベースとして開発されており、シリコンは、ナノ構造化することができ、および/または複合材として形成することができる。いくつかの実施形態では、対応するリチウムイオン電池は、補助リチウムを含むことができ、補助リチウムは、複数の目的に役立つことがある。特に、補助リチウムは、シリコンベース負極からの比較的大きな不可逆容量損失を補償し、また高容量リチウムリッチ正極活性材料を安定させることができる。関連の実施形態に関して、適したナノ構造化シリコンとしては、例えばナノ微粒子シリコンやナノ多孔質シリコン粒子がある。いくつかの実施形態では、複合材は、ナノスケール炭素(繊維または粒子)、黒鉛状炭素、および/または熱分解炭素コーティングなどの炭素成分を含むことがある。望ましい熱分解炭素コーティングは有機組成物から形成することができ、有機組成物は、炭素コーティングを形成するために、有機組成物の熱分解の前および後に、比較的均一なコーティングを得られるように溶媒と共に塗布することができる。炭素コーティングの代替として元素金属コーティングを塗布することもできる。得られる高容量負極材料は、高容量リチウムリッチ正極活性材料と共に効果的にサイクルさせることができる。得られるリチウムイオン電池は、負極活性材料と正極活性材料どちらでも高い比容量を有することができる。
【0015】
リチウムは、一次電池と二次電池どちらにも使用されている。電池での使用に関して魅力的なリチウム金属の特徴は、それが軽量であること、および最も電気陽性の強い金属であることであり、有利には、これらの特徴のいくつかの側面をリチウムベースの電池にも取り入れることができる。特定の形態の金属、金属酸化物、および炭素材料が、インターカレーション、合金化、または同様のメカニズムによってその構造内にリチウムイオンを取り込むものとして知られている。リチウムイオン電池とは、一般に、負極活性材料もリチウムインターカレーション/合金化材料である電池を表している。
【0016】
元素リチウム金属自体がアノードまたは負電気活性材料として使用される場合、得られる電池は一般にリチウム電池と呼ばれる。リチウム電池は、始めは良い性能でサイクルすることができるが、リチウム金属の堆積時にデンドライトが生じることがあり、これが最終的には隔離板を壊して、電池の故障を生じることがある。したがって、市販のリチウムベース二次電池は、一般に、カソードまたは正極に比べて負極の容量のわずかに余剰にして、リチウム堆積電圧よりも高い電圧でインターカレーション/合金化などにより機能する負極活性材料を使用することによってリチウム金属の堆積を防止している。負極がリチウムインターカレーション/合金化組成物を含む場合、その電池はリチウムイオン電池と呼ばれることがある。
【0017】
本明細書で述べる電池は、リチウムイオンを含む非水性電解質溶液を使用するリチウムイオン電池である。充電中の二次リチウムイオン電池において、カソード(正極)で酸化が生じ、リチウムイオンが抜き出されて、電子が解放される。放電中には、カソードで還元が生じ、リチウムイオンが取り込まれ、電子が消費される。特に断りのない限り、本明細書で言及する性能値は室温でのものである。
【0018】
本明細書では、用語「元素」は、従来の用法で周期表の要素を表すものとして使用し、元素は、組成物中にある場合には適切な酸化状態であり、元素形態であることが明記されているときにのみその元素形態M0である。したがって、金属元素は一般に、その元素形態、またはそれに対応する、金属の元素形態からなる合金でのみ、金属状態である。すなわち、金属合金以外の金属酸化物または他の金属組成物は、一般には金属性でない。
【0019】
リチウムイオン電池を使用するとき、正極および負極でのリチウムの取込みおよび解放は、電気活性材料の構造の変化を誘発する。これらの変化が実質的に可逆である限り、材料の容量は変化しない。しかし、活性材料の容量は、多かれ少なかれサイクリングと共に減少することが観察される。したがって、ある回数のサイクル後、電池の性能は許容値未満に低下し、電池が交換される。また、電池の初回のサイクルにおいて、一般に、後続のサイクルでの1サイクル当たりの容量損失よりもかなり大きい不可逆容量損失が生じる。この不可逆容量損失は、新しい電池の充電容量と初回の放電容量の差である。不可逆容量損失は、それに対応して、初めのサイクル中の電池材料の変化によりセルの容量、エネルギー、および出力を減少させる。
【0020】
以下に述べるように、不可逆容量損失により生じるサイクリング容量の損失を補償するために、電池内に補助リチウムを含むことができる。従来のリチウムイオン電池では、サイクリングのためのリチウムは、リチウムを含む正極活性材料のみによって供給される。電池は最初に充電されて、正極から負極にリチウムを移動し、その後、負極においてこのリチウムを電池の放電に利用可能である。不可逆容量損失は、初めの充電/放電サイクル中の材料に対する不荷逆変化に関連付けることができる。
【0021】
元素シリコンは、リチウムの取込みおよび解放に関して、その非常に高い比容量により、見込みのある負極材料として大きな注目を集めている。シリコンはリチウムと合金を生成し、これは、理論上は、シリコン原子1個につき4個よりも多いリチウム原子に対応するリチウム含有量(例えばLi4.4Si)を有することができる。したがって、シリコンの理論上の比容量は、4000〜4400mAh/g程度であり、これは、黒鉛に関する理論上の容量約370mAh/gよりもかなり大きい。黒鉛は、6個の炭素原子にほぼ1個のリチウム原子のレベル(LiC6)までリチウムをインターカレートすると考えられる。また、元素シリコン、シリコン合金、シリコン複合材などは、黒鉛と同様のリチウム金属に対する低いポテンシャルを有することがある。しかし、シリコンは、リチウムと合金化すると、非常に大きい体積変化を受ける。元の体積の2〜3倍程度以上での大きな体積膨張が観察されており、この大きな体積変化は、シリコンベース負極を有する電池のサイクリング安定性の大幅な低下と相関されている。
【0022】
また、リチウムベース電池の負極での元素シリコンは、電池の初回の充電/放電サイクル中に大きな不可逆容量損失(IRC)を生じることが観察される。シリコンベースアノードの高いIRCLは、電池のエネルギー出力に利用可能な容量のかなりの部分を消費することがある。従来のリチウムイオン電池では、カソードすなわち正極がすべてのリチウムを供給するので、アノードすなわち負極での高いIRCLにより低エネルギーの電池となることがある。大きなアノードIRCLを補償するために、余剰のカソード材料を使用して追加のリチウムを供給し、適切にセルの平衡を図ることができるが、これにより、セルがより高価になり、エネルギー密度がより低くなる。あるいは本明細書で述べるように、補助リチウムがリチウムを供給し、それに対応して、シリコンベース材料の高いIRCLにより失われた容量を埋め合わせることができる。また、シリコンベース材料の設計は、IRCLを減少させるように選択することができる。また、補助リチウムは、リチウムリッチ高容量正極活性材料を安定させることが判明している。
【0023】
リチウムリッチ積層状金属酸化物は、正極活性材料として比較的高い比容量でサイクルすることが判明している。これらの積層状材料は、新世代の高容量正極活性材料として商業用途に非常に有望と見られている。電池の全体の性能は、負極と正極両方の容量、およびそれらの相対的な平衡に基づく。より高い容量の正極活性材料が電池で使用されるとき、全体の電池設計の文脈において、負極活性材料の比容量の改良がより重要となることがある。高容量カソード材料を有することは、すなわち、電池において高容量カソードの重量の一部のみを使用してLiCoO2電池と同じエネルギー密度を得ることができることを意味する。同じ性能を得るために使用するカソード材料がより少なければ、電池の価格および重量が下がる。この観点から、リチウムリッチ積層状正極活性材料と、高容量シリコンベース負極活性材料との組合せが、特に望ましい全体の電池性能を提供することができる。
【0024】
補助リチウムは、負極の不可逆容量損失によりサイクルしないリチウムの代わりとなることができる。さらに、補助リチウムを含むことにより、リチウムリッチ積層状リチウム金属酸化物組成物に基づく正極を安定させることができることが発見されている。特に、これらのリチウムリッチ金属酸化物に関して、補助リチウムは、多数回のサイクル数にわたって正極組成物の容量を安定させることができる。正極活性材料のサイクリングのこの改良は、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のAmiruddin他の「Lithium Ion Batteries With Supplemental Lithium」という名称の米国特許出願第12/938,073号にさらに記載されている。
【0025】
比較的大きい比容量を提供する積層状リチウム金属酸化物は、電池の初めの充電中の材料に対する変化に関連付けられる大きな不可逆容量損失を示す。正極に関連付けられる不可逆容量損失は、負極に堆積されることがあるが、後で正極活性材料にインターカレートさせることができないリチウムを生じることがある。正極からのこの余剰のリチウムは、電池に導入される補助リチウムとは別個のものである。なぜなら、電池は、電池の初めの充電中にリチウムを完全に装填されるリチウム金属酸化物を用いて組み立てられるからである。
【0026】
補助リチウムは、様々な方法で負極に提供することができる。特に適した手法としては、例えば、電池への元素リチウムの導入、負極活性材料に移動させることができる活性リチウムを含む犠牲材料の組込み、または負極活性材料へのリチウムの事前装填がある。初めの充電後、補助リチウムは負極活性材料と関連付けられるが、リチウムの一部は、固体電解質中間相層など不可逆反応副生成物と関連付けられることがある。
【0027】
アノード、すなわち負極に関連付けた元素リチウムの導入は、補助リチウムを導入するのに適した一法となり得る。特に、補助リチウムを供給するために、元素リチウム粉末または箔を負極と関連付けることができる。いくつかの実施形態では、元素リチウム粉末を電極の表面上に配置することができる。負極内部の元素リチウムなどの補助リチウム源は、一般に、電極が電解質と接触すると、シリコンベース活性材料との反応を開始することができる。なぜなら、この反応は、電極構造内で導電性が提供されている限り自発的なものだからである。
【0028】
代替または追加の実施形態では、補助リチウム源は、正極、すなわちカソードと関連付けることができ、または別個の犠牲電極と関連付けることができる。補助リチウム源が正極または別個の犠牲電極と関連付けられる場合、補助リチウムを含む電極と負極との間に電流が流れて、それぞれの半反応をサポートし、これは最終的に、負極活性材料の内部に補助リチウムを配置させ、場合によっては、補助リチウムの一部が、副反応、例えばSEI層の形成や、不可逆容量損失をもたらす他の反応で消費される。
【0029】
さらなる実施形態では、補助リチウムは、電池の構成前に負極活性材料内に配置することができる。例えば、電池の組立て前に、補助リチウムを、電気化学的インターカレーション/合金化によって活性材料内に挿入することができる。電気化学的堆積を行うために、シリコンベース電極を、電解質と、リチウム箔などの補助リチウム源とを備える構造として組み立てることができる。電解質の存在下で元素リチウムが活性材料と電気的に接触する場合、元素リチウムと活性合金化/インターカレーション材料との反応が自発的に生じることがある。あるいは、この構造は、電解質および隔離板を備えるセルとして組み立てることができ、隔離板が、シリコンベース電極と、リチウム箔など補助リチウムを含む電極とを隔離する。セルを通る電流は、シリコンベース電極内へのリチウムの組込みを実現するように制御することができる。所望の量のリチウムの堆積後、このシリコンベース電極を使用して、最終的なリチウムイオン電池に組み立てることができる。
【0030】
黒鉛状炭素ベース電極では、電極は、比較的多数回のサイクルにわたるサイクリング後に、リチウム金属酸化物正極活性材料を有する電池を実質的に完全に放電した後に、抜き出すことができるリチウムを有することが判明している。リチウムは、正極活性材料および補助リチウムから電池に供給される。この残余リチウムは、リチウムリッチ正極活性材料と共に使用するときに電池サイクリングを安定させることが判明している。また、残余リチウムの量は、サイクル数が増えると共に徐々に減少することが判明している。黒鉛状炭素電極に関する測定に基づいて、補助リチウムを含むシリコンベース電極は、リチウム金属酸化物正極を用いた電池を放電した後に電極から抜き出すことができる残余リチウムを提供すると予想される。上で参照した補助リチウム出願を参照されたい。
【0031】
ナノ構造化シリコンは、サイクリングに伴う対応する電池の性能劣化の減少を示しながら、シリコンリチウム合金の生成に関連付けられる大きな体積変化により良く対処するように提案されている。適切なナノ構造化シリコンとしては、例えばナノ多孔質シリコンやナノ微粒子シリコンがある。いくつかの実施形態に関して本明細書で述べるように、ナノ構造化シリコンは、炭素との複合材および/または他の金属元素との合金として形成することができる。改良されたシリコンベース材料の設計の目的は、サイクリングにわたって負極材料をさらに安定させると同時に、高い比容量を維持し、いくつかの実施形態では初回充電および放電サイクルでの不可逆容量損失を減少させることである。本明細書で述べるように、熱分解炭素コーティングも、電池性能に関してシリコンベース材料を安定させることが観察される。
【0032】
複合材料に関して、ナノ構造化シリコン成分は、例えば炭素ナノ粒子および/またはカーボンナノファイバと組み合わせることができる。例えばこれらの成分を破砕して複合材を形成することができ、複合材中で材料は密接に関連付けられる。一般に、その関連付けは、より硬質の炭素材料の上にコーティングされた、またはそれらと機械的に付着されたより軟質のシリコンなど、機械的な特徴を有すると考えられる。追加または代替の実施形態では、シリコンを金属粉末と共に破砕して、対応するナノ構造を有することができる合金を形成することができる。炭素成分をシリコン−金属合金と組み合わせて、多成分複合材を形成することができる。
【0033】
有機組成物を熱分解することによって、望ましい炭素コーティングを形成することができる。有機組成物を比較的高い温度、例えば約800℃〜約900℃で熱分解して、硬質の非晶質コーティングを形成することができる。いくつかの実施形態では、望ましい有機組成物を、水および/または揮発有機溶媒など、シリコンベース成分と組み合わせるのに適した溶媒中に溶解することができる。分散液をシリコンベース組成物とよく混合させることができる。混合物を乾燥させて溶媒を除去した後、乾燥させた混合物を、酸素を含まない雰囲気中で加熱し、有機ポリマーやいくつかの低分子固体有機組成物などの有機組成物を熱分解して、炭素コーティングを形成することができる。炭素コーティングは、得られる材料の容量を驚くほど大きく改良することができる。また、糖やクエン酸などの環境に優しい有機組成物も、熱分解炭素コーティングの形成に望ましい前駆体であることが判明している。熱分解炭素コーティングの代替として、銀や銅などの元素金属コーティングを塗布して、導電性を与え、かつシリコンベース活性材料を安定させることもできる。元素金属コーティングは、金属塩の溶液ベースの還元によって塗布することができる。
【0034】
高容量シリコンベース材料は、高容量正極活性材料と組み合わせると特に価値がある。一般に、アノードとカソードは比較的平衡を図られており、それにより、電池は、使用されない電極容量の大きな無駄および関連コストを伴わず、また、使用されない電極容量に関連付けられる対応する重量および体積をなくす。リチウムイオン電池における両方の電極に関して同時に高容量の結果を得ることができる。さらに、2つの電極のサイクリング容量は個別に減衰することがあり、どちらの電極の容量も不可逆容量損失を受ける。リチウムリッチ積層状組成物を含む正極は、大きな初回サイクル不可逆容量損失を示すことがある。しかし、一般に、高容量シリコンベースアノードが、正極活性材料よりもかなり大きいIRCLへの影響を示すことがある。IRCLを減少させるように負極活性材料の設計を選択することができ、これは、セル設計における余剰アノード分の減少に関して重要であることがある。また、正極活性材料も同様に、正極に関連付けられるIRCLを減少させるように設計することができる。さらに、正極の追加の容量の代わりに補助リチウムを使用して、負極の比較的大きなIRCLを補償することができる。負極および正極を適切に安定させることにより、どちらの電極においても高容量材料を備える電池は、少なくとも中位のサイクル数にわたって、どちらの電極に関しても高い比容量を示すことができる。
【0035】
リチウムイオン電池構造
リチウムイオン電池は、一般に、正極(カソード)と、負極(アノード)と、負極と正極の間の隔離板と、リチウムイオンを含む電解質とを備える。電極は、一般に、金属箔など金属集電体に関連付けられる。リチウムイオン電池とは、負極活性材料が充電中にはリチウムを取り込み放電中にはリチウムを解放する材料である電池を表す。図1を参照すると、電池100が概略的に示されており、この電池100は、負極102と、正極104と、負極102と正極104の間の隔離板106とを有する。電池は、スタックなどの形で、適切に配置された隔離板と共に複数の正極および複数の負極を備えることができる。電極と接触する電解質は、隔離板を介する逆極性の電極間でのイオン伝導性を与える。電池は、一般に、負極102および正極104にそれぞれ関連付けられた集電体108、110を備える。基本的な電池構造および組成をこの節で説明し、補助リチウムの組込みに関連する修正形態は以下にさらに説明する。
【0036】
生じる電池電圧はカソードとアノードでのハーフセル電位の差であるので、正極活性材料と負極活性材料の性質がこの電圧に影響を及ぼす。適切な正極活性材料を以下に説明する。特に興味深い材料は、リチウム金属酸化物である。適した負極リチウムインターカレーション/合金化組成物としては、例えば黒鉛、人造黒鉛、コークス、フラーレン、他の黒鉛状炭素、五酸化ニオブ、スズ合金、シリコン、シリコン合金、シリコンベース複合材、酸化チタン、酸化スズ、およびチタン酸リチウム、例えばLixTiO2(0.5<x≦1)やLi1+xTi2−xO4(0≦x≦1/3)を挙げることができる。黒鉛状炭素および金属酸化物負極組成物が、インターカレーションまたは同様のプロセスによってリチウムを取り込み、また解放する。シリコンおよびスズ合金は、リチウムを取り込んで合金からリチウムを解放できるようにリチウム金属と共に合金を成し、それに対応してリチウムを解放する。特に興味深い負極活性材料を以下に詳細に論じる。
【0037】
正極活性組成物と負極活性組成物は、一般に、対応する電極内にポリマーバインダによって一体に保持された粉末組成物である。バインダは、電解質と接触するとき、活性粒子にイオン伝導性を与える。適したポリマーバインダとして、例えば、フッ化ポリビニリデン、ポリイミド、ポリエチレンオキシド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリレート、ゴム、例えばエチレン−プロピレン−ジエンモノマー(EPDM)ゴム、またはスチレンブタジエンゴム(SBR)、それらの共重合体、またはそれらの混合物が挙げられる。特に、熱硬化性ポリイミドポリマーが望ましいものと分かっており、これは、それらの高い機械的強度に起因することがある。以下の表に、ポリイミドポリマーの供給元、および対応するポリイミドポリマーの名称を示す。
【0038】
【表1】
【0039】
ポリマーの特性に関して、電極用途に関するいくつかの重要な特性を以下の表に要約する。
【0040】
【表2】
【0041】
PVDFは、フッ化ポリビニリデンを表し、CMCは、ナトリウムカルボキシメチルセルロースを表す。伸び率は、ポリマーの破断前の伸びをパーセント単位で表す。一般に、シリコンベース材料に対処するために、少なくとも約50%、さらなる実施形態では少なくとも約70%の伸び率を有することが望ましい。同様に、ポリマーバインダが、少なくとも約100MPa、さらなる実施形態では少なくとも約150MPaの引張り強さを有することが望ましい。引張り強さは、参照により本明細書に援用するASTM D638−10 Standard Test Method for Tensile Properties of Plastics(プラスチックの引張特性に関する標準試験法)における手順に従って測定することができる。上記の明示した範囲に含まれるさらなる範囲のポリマー特性が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。バインダ中の粒子装填率は大きく、例えば約80重量パーセントよりも大きいことがある。電極を形成するために、ポリマー用の溶媒など適切な液体中で粉末をポリマーとブレンドすることができる。得られたペーストを電極構造に押し入れることができる。
【0042】
また、一般に、正極組成物および場合によっては負極組成物は、電気活性組成物とは別の導電性粉末を含む。適した補助導電性粉末として、例えば、黒鉛、カーボンブラック、金属粉末、例えば銀粉末、金属繊維、例えばステンレス鋼繊維など、およびそれらの組合せが挙げられる。一般に、正極は、約1重量パーセント〜約25重量パーセント、さらなる実施形態では約2重量パーセント〜約15重量パーセントの別の導電性粉末を含むことができる。上に明示した範囲に含まれるさらなる範囲の導電性粉末量およびポリマーバインダが企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0043】
電極は、一般に、電極と外部回路の間の電子の流れを促すために導電性集電体と関連付けられる。集電体は、金属箔や金属グリッドなど金属を含むことができる。いくつかの実施形態では、集電体は、ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼、銅などから形成することができる。集電体上に薄膜として電極材料を鋳造することができる。次いで、電極材料と集電体を例えばオーブン内で乾燥させて、電極から溶媒を除去することができる。いくつかの実施形態では、集電体箔または他の構造と接触している乾燥させた電極材料に、例えば約2〜約10kg/cm2(キログラム/平方センチメートル)の圧力をかけることができる。
【0044】
隔離板が正極と負極の間に位置される。隔離板は、電気絶縁性であると同時に、2つの電極間で、少なくとも選択されたイオンの伝導を可能にする。隔離板として様々な材料を使用することができる。市販の隔離板材料は、一般に、イオン伝導を可能にする多孔質シートであるポリエチレンおよび/またはポリプロピレンなどのポリマーから形成される。市販のポリマー隔離板としては、例えば、Hoechst Celanese, Charlotte, N.C.からのCelgard(登録商標)系列の隔離板材料が挙げられる。また、セラミック−ポリマー複合材料が隔離板用途で開発されている。これらの複合材隔離板は、より高温で安定であることがあり、またこの複合材料は、発火の危険を大幅に低減させることができる。隔離板材料用のポリマー−セラミック複合材は、参照により本明細書に援用するHennige他の「Electric Separator, Method for Producing the Same and the Use Thereof」という名称の米国特許出願公開第2005/0031942A号にさらに記載されている。リチウムイオン電池の隔離板用のポリマー−セラミック複合材は、Evonik Industries(ドイツ)によって商品名Separion(登録商標)の下で販売されている。
【0045】
電解質として、溶媒和イオンを含む溶液を挙げ、溶媒和イオンを生成するために適切な液体中に溶解しているイオン組成物を電解質塩と呼ぶ。リチウムイオン電池用の電解質は、1種または複数種の選択されたリチウム塩を含むことができる。適切なリチウム塩は、一般に不活性アニオンを有する。適したリチウム塩としては、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム、ヘキサフルオロヒ酸リチウム、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニルイミド)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、リチウムトリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド、テトラフルオロホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、テトラクロロアルミン酸リチウム、塩化リチウム、リチウムジフルオロオキサレートボレート、およびそれらの組合せが挙げられる。従来、電解質は、濃度1Mのリチウム塩を含むが、より高いまたは低い濃度を使用することもできる。
【0046】
対象のリチウムイオン電池に関して、リチウム塩を溶解するために、一般に非水性液体が使用される。溶媒は、一般に電気活性材料を溶解しない。適切な溶媒としては、例えば、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、炭酸メチルエチル、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、トリグライム(トリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル)、ジグライム(ジエチレングリコールジメチルエーテル)、DME(グライムまたは1,2−ジメチルオキシエタンまたはエチレングリコールジメチルエーテル)、ニトロメタン、およびそれらの混合物が挙げられる。高電圧リチウムイオン電池に特に有用な溶媒は、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のAmiruddin他への「Lithium Ion Battery With High Voltage Electrolytes and Additives」という名称の2009年12月4日出願の米国特許出願第12/630,992号(‘992号出願)にさらに記載されている。
【0047】
本明細書で述べる電解質は、プリズム形状の電池、巻型円筒形電池、コイン電池、または他の妥当な電池形状など、様々な市販の電池設計に組み込むことができる。電池は、単一の電極スタック、または並列および/または直列電気接続で組み立てられた各充電の複数の電極を備えることができる。適切な導電性タブを集電体に溶接などで接続することができ、得られたゼリーロールまたはスタック構造を金属キャニスタまたはポリマーパッケージ内に配置することができ、負極タブおよび正極タブを適切な外部接点に溶接する。電解質をキャニスタに加え、キャニスタを封止して電池を完成させる。いくつかの現在使用されている再充電可能な市販の電池としては、例えば、円筒形の18650電池(直径18mm、長さ65mm)や26700電池(直径26mm、長さ70mm)が挙げられるが、他の電池サイズを使用することもできる。ポーチ電池は、参照により本明細書に援用するBuckley他の「High Energy Lithium Ion Secondary Batteries」という名称の米国特許出願公開第2009/0263707号に記載されているように構成することができる。
【0048】
正極活性組成物
いくつかの実施形態では、リチウムイオン電池正極材料は、任意の妥当な正極活性材料でよく、例えば、六角形格子構造を有する化学量論的な層状カソード材料、例えばLiCoO2、LiNiO2、LiMnO2など;正方形スピネルカソード材料、例えばLiMn2O4、LiNi0.5Mn1.5O4、Li4Mn5O12など;オリビンLiMPO4タイプの材料(M=Fe、Co、Mn、それらの組合せなど);層状カソード材料、例えばLi1+x(NiCoMn)0.33−xO2(0<x<0.3)系;積層状複合材、例えばxLi2MnO3・(1−x)LiMO2(ここで、Mは、Ni、Co、Mn、それらの組合せなどでよい);および層状スピネル構造などの複合材構造、例えばLiMn2O4・LiMO2である。追加または代替の実施形態では、リチウムリッチ組成物は、組成LiMO2を基準とすることができ、ここでMは、平均酸化状態が+3の1つまたは複数の金属である。一般に、リチウムリッチ組成物は、組成式Li1+xM1−yO2−zFzで近似的に表すことができ、ここでMは、1つまたは複数の金属元素であり、xは、約0.01〜約0.33であり、yは、約x−0.2〜約x+0.2であり、ただしy≧0とし、zは0〜約0.2である。積層状複合材組成物では、xはyにほぼ等しい。一般に、リチウムリッチ組成物中の追加のリチウムはより高い電圧で利用可能であり、したがって、初めの充電は、追加の容量が利用可能になるように比較的高い電圧で行われる。
【0049】
特に興味深いリチウムリッチ正極活性材料は、組成式Li1+bNiαMnβCoγAδO2−zFzによって近似的に表され、ここで、bは約0.01〜約0.3の範囲内にあり、αは約0〜約0.4の範囲内にあり、βは約0.2〜約0.65の範囲内にあり、γは0〜約0.46の範囲内にあり、δは0〜約0.15の範囲内にあり、zは0〜約0.2の範囲内にあり、ただしαとγはどちらもゼロでないものとし、Aは、Mg、Sr、Ba、Cd、Zn、Al、Ga、B、Zr、Ti、Ca、Ce、Y、Nb、Cr、Fe、V、Li、またはそれらの組合せである。上記の明示した組成範囲に含まれるさらなる範囲のパラメータ値が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。この節での以下の論述を分かりやすくするために、任意選択のフッ素ドーパントは以降では論じない。フッ素ドーパントを含む望ましいリチウムリッチ組成物は、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のKumar他の「Fluorine Doped Lithium Rich Metal Oxide Positive Electrode Battery Materials With High Specific Capacity and Corresponding Batteries」という名称の米国特許出願第12/569,606号にさらに記載されている。Mnの代わりにAがドーパントとしてのリチウムである組成物が、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のVenkatachalam他の「Lithium Doped Cathode Material」という名称の米国特許出願第12/870,295号に記載されている。+2金属カチオンドーパント、例えばMg+2によって得られる具体的な性能特性は、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のKarthikeyan他の「Doped Positive Electrode Active Materials and Lithium Ion Secondary Batteries Constructed Therefrom」という名称の米国特許出願第12/753,312号に記載されている。
【0050】
b+α+β+γ+δがほぼ1である場合、上の組成式を有する正極材料は、xLi2M’O3・(1−x)LiMO2(ここで0<x<1)として2成分組成式で近似的に表すことができ、ここでMは、平均原子価が+3の1つまたは複数の金属カチオンであり、いくつかの実施形態では、少なくとも1つのカチオンがMnイオンまたはNiイオンであり、M’は、平均原子価が+4の1つまたは複数の金属カチオン、例えばMn+4である。積層状複合材結晶構造は、材料の安定性をサポートする余剰のリチウムを含む構造を有すると考えられる。例えば、リチウムリッチ材料のいくつかの実施形態では、Li2MnO3材料は、層状LiMO2成分と構造的に一体化されていることがあり、ここでMは、選択された非リチウム金属元素またはそれらの組合せを表す。これらの組成は、全般的に、参照により本明細書に援用するThackeray他の「Lithium Metal Oxide Electrodes for Lithium Cells and Batteries」という名称の米国特許第6,680,143号に記載されている。
【0051】
近年、組成物の化学量論を特定的に設計することにより、正極活性材料の性能特性を定めることができることが判明している。特に興味深い正極活性材料は、xLi2MnO3・(1−x)LiMO2と2成分表記で近似的に表すことができ、ここでMは、平均原子価が+3の1つまたは複数の金属元素であり、元素の1つががMnであり、別の金属元素がNiおよび/またはCoである。一般に0<x<1であるが、いくつかの実施形態では0.03≦x≦0.55、さらなる実施形態では、0.075≦x≦0.50、追加の実施形態では0.1≦x≦0.45、他の実施形態では0.15≦x≦0.425である。上記の明示した範囲に含まれるさらなる範囲のパラメータxが企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。例えば、Mは、ニッケル、コバルト、およびマンガンの組合せでよく、これらは、例えば、初期マンガン酸リチウム中では酸化状態Ni+2、Co+3、およびMn+4であることがある。これらの組成物に関する全体の組成式は、Li2(1+x)/(2+x)Mn2x/(2+x)M(2−2x)/(2+x)O2と書くことができる。全体の組成式において、マンガンの総量は、2成分表記で並記した両方の成分からの寄与を受ける。したがって、ある意味、これらの組成物はマンガンリッチである。
【0052】
いくつかの実施形態では、Mは、NiuMnvCowAyと書くことができる。y=0である実施形態では、これは、簡単にNiuMnvCowとなる。MがNi、Co、Mn、および任意選択でAを含む場合、組成は、以下のように別の形で2成分表記および1成分表記で書くことができる。
xLi2MnO3・(1−x)LiNiuMnvCowAyO2 (1)
Li1+bNiαMnβCoγAδO2 (2)
ここで、u+v+w+y≒1であり、b+α+β+γ+δ≒1である。これら2つの組成式を突き合わせて、以下の関係が得られる。
b=x/(2+x)
α=2u(1−x)/(2+x)
β=2x/(2+x)+2v(1−x)/(2+x)
γ=2w(1−x)/(2+x)
δ=2y(1−x)/(2+x)
および同様に、
x=2b/(1−b)
u=α/(1−3b)
v=(β−2b)/(1−3b)
w=γ(1−3b)
y=δ(1−3b)
【0053】
いくつかの実施形態では、u≒vであることが望ましいことがあり、それによりLiNiuMnvCowAyO2は、近似的にLiNiuMnuCowAyO2になる。この組成において、y=0のとき、Ni、Co、およびMnの平均原子価は+3であり、u≒vの場合、これらの元素は、平均原子価を実現するために、近似的にNi+2、Co+3、およびMn+4の原子価を有することができる。仮説としてリチウムが完全に抜き出されるとき、すべての元素が+4の原子価になる。NiとMnの平衡により、電池において材料がサイクルされるときにMnを+4の原子価のままにすることができる。この平衡はMn+3の生成を防ぐ。Mn+3は、電解質中へのMnの溶解およびそれに対応する容量損失に関連付けられている。
【0054】
さらなる実施形態では、組成は、上記の組成式の近辺で変えることができ、LiNiu+ΔMnu−ΔCowAyO2であり、Δの絶対値は、一般に約0.3以下(すなわち−0.3≦Δ≦0.3)、追加の実施形態では約0.2(−0.2≦Δ≦0.2)以下、いくつかの実施形態では約0.175(−0.175≦Δ≦0.175)以下であり、さらなる実施形態では約0.15以下(−0.15≦Δ≦0.15)である。xに関する望ましい範囲は前述した。2u+w+y≒1の場合、望ましいパラメータ範囲は、いくつかの実施形態では0≦w≦1、0≦u≦0.5、0≦y≦0.1(ただしu+Δとwはどちらもゼロではないものとする)、さらなる実施形態では0.1≦w≦0.6、0.1≦u≦0.45、0≦y≦0.075、追加の実施形態では0.2≦w≦0.5、0.2≦u≦0.4、0≦y≦0.05である。上で明示した範囲に含まれるさらなる範囲の組成パラメータが企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。本明細書で使用するとき、表記(値1≦変数≦値2)は、値1と値2が近似的な量であることを暗に仮定する。望ましい電池性能特性を得るための組成の設定は、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のLopez他の「Layer−Layer Lithium Rich Complex Metal Oxides With High Specific Capacity and Excellent Cycling」という名称の米国特許出願第12/869,976号にさらに記載されている。
【0055】
正極活性材料に関して本明細書で提示する組成式は、合成時の開始材料のモル量に基づいており、これらのモル量は正確に決定することができる。複数の金属カチオンに関して、これらは一般に、最終的な材料に定量的に取り込まれると考えられ、生成物組成からの金属の損失をもたらす、知られている重大な経路はない。当然、金属の多くは複数の酸化状態を有し、これらは、電池に関するそれらの金属の活性に関係付けられる。当技術分野で通例であるように、複数の酸化状態および複数の金属の存在により、酸素に関する厳密な化学量論は通常、反応物金属の結晶構造、電気化学的特性、および比率に基づいて大まかにしか推定されない。しかし、結晶構造に基づいて、酸素に関する全体の化学量論は妥当に推定される。本明細書においてこの段落および関連事項で論じるプロトコルはすべて、当技術分野で通例のものであり、当技術分野でこれらの問題に関して以前より確立されている手法である。
【0056】
組成物中にニッケル、コバルト、マンガン、および追加の任意の金属カチオンを有し、高い比容量特性を示す、本明細書で述べる望ましいリチウムリッチ金属酸化物材料に関して、共沈プロセスが行われている。これらの材料は、高い比容量に加えて良いタップ密度を示すことができ、これは、固定体積用途において材料の高い全体容量を生み出す。特に、共沈プロセスによって形成したリチウムリッチ金属酸化物組成物を、コーティングを施した形態で使用して、以下の実施例での結果を得た。
【0057】
特に、共沈に基づく合成法は、上述したように組成式Li1+bNiαMnβCoγAδO2−zFzを有する組成物の剛性に適合されている。共沈プロセスでは、純水などの水性溶媒中に、金属塩を望ましいモル比で溶解する。適した金属塩としては、例えば、金属酢酸塩、金属硫酸塩、金属硝酸塩、およびそれらの組合せが挙げられる。溶液の濃度は、一般に1M〜3Mの間で選択する。金属塩の相対モル量は、生成物材料に関する望ましい組成式に基づいて選択することができる。同様に、沈殿された材料中にドーパントが混入されるように、ドーパント元素を適切なモル量で他の金属塩と共に導入することができる。次いで、所望の量の金属元素を含む金属水酸化物または金属炭酸塩を沈殿させるために、例えばNa2CO3および/または水酸化アンモニウムを添加することによって溶液のpHを調節することができる。一般に、pHは、約6.0〜約12.0の間の値に調節することができる。水酸化物または炭酸塩の沈殿を促進するように、溶液を加熱して撹拌することができる。次いで、沈殿された金属水酸化物または金属炭酸塩を溶液から分離して、洗浄し、乾燥させて、さらなる処理の前に粉末を形成することができる。例えば、乾燥は、オーブン内で約110℃で約4〜約12時間行うことができる。上で明示した範囲に含まれるさらなる範囲のプロセスパラメータが企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0058】
次いで、収集した金属水酸化物または金属炭酸塩に熱処理を施して、水または二酸化炭素をなくして、水酸化物または炭酸塩組成物を対応する酸化物組成物に変換することができる。一般に、熱処理は、オーブンや炉などの中で行うことができる。熱処理は、不活性雰囲気中で、または酸素が存在する雰囲気中で行うことができる。いくつかの実施形態では、少なくとも約350℃、いくつかの実施形態では約400℃〜約800℃の温度に材料を加熱して、水酸化物または炭酸塩を酸化物に変換することができる。熱処理は、一般に、少なくとも約15分間、さらなる実施形態では約30分〜24時間以上、さらなる実施形態では約45分〜約15時間行うことができる。生成物材料の結晶性を改良するために、さらなる熱処理を第2のより高い温度で行うことができる。結晶性生成物を形成するためのこの焼成ステップは、一般に、少なくとも約650℃、いくつかの実施形態では約700℃〜約1200℃、さらなる実施形態では約700℃〜約1100℃の温度で行う。粉末の構造的特性を改良するための焼成ステップは、一般に、少なくとも約15分、さらなる実施形態では約20分〜約30分以上、他の実施形態では約1時間〜約36時間行うことができる。所望の材料を生み出すために、加熱ステップを、望みであれば適切な温度勾配と組み合わせることができる。上に明示した範囲に含まれるさらなる範囲の温度および時間が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0059】
リチウム元素は、プロセス中の1つまたは複数の選択されたステップで材料に混入することができる。例えば、沈殿ステップの実施前または実施後に、水和リチウム塩を添加することによって溶液中にリチウム塩を混入することができる。この手法では、他の金属と同様に、リチウム種を水酸化物または炭酸塩材料に混入する。また、リチウムの特性により、生成物組成物の最終的な特性に悪影響を及ぼすことなく、固相反応でリチウム元素を材料に混入することもできる。したがって、例えば、LiOH・H2O、LiOH、Li2CO3、またはそれらの組合せなど一般に粉末としての適量のリチウム源を、沈殿された金属炭酸塩または金属水酸化物と混合することができる。次いで、粉末混合物を加熱ステップに通して酸化物を生成し、次いで結晶性の最終生成物材料を生成する。
【0060】
水酸化物共沈プロセスのさらなる詳細は、参照により本明細書に援用するVenkatachalam他の「Positive Electrode Material for Lithium Ion Batteries Having a High Specific Discharge Capacity and Processes for the Synthesis of these Materials」という名称の米国特許出願公開第2010/0086853A号に記載されている。炭酸塩共沈プロセスのさらなる詳細は、参照により本明細書に援用するLopez他の「Positive Electrode Materials for High Discharge Capacity Lithium Ion Batteries」という名称の米国特許出願公開第2010/0151332A号に記載されている。
【0061】
また、正極活性材料にコーティングを施すことで、リチウムベース電池のサイクリングを改良することができることが判明している。コーティングはまた、電池の不可逆容量損失を減少させるため、および全般的に比容量を増加させるためにも有効であることがある。コーティング材料の量は、観察される性能改良が顕著になるように選択することができる。電池サイクリング中に電気化学的に不活性であると一般に考えられる適したコーティング材料は、金属フッ化物、金属酸化物、金属非フッ化ハロゲン化物、または金属リン酸塩を含むことができる。以下の実施例での結果は、金属フッ化物をコーティングした材料を用いて得たものである。
【0062】
例えば、カソード活性材料用のコーティングとしての金属フッ化物組成物、特にLiCoO2およびLiMn2O4の全般的な使用は、参照により本明細書に援用するSun他の「Cathode Active Material Coated with Fluorine Compound for Lithium Secondary Batteries and Method for Preparing the Same」という名称の国際公開第2006/109930A号に記載されている。適切に設定された厚さを有する改良された金属フッ化物コーティングは、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のLopez他の「Coated Positive Electrode Materials for Lithium Ion Batteries」という名称の米国特許出願第12/616,226号(‘226号出願)に記載されている。適した金属酸化物コーティングは、例えば、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のKarthikeyan他への「Metal Oxide Coated Positive Electrode Materials for Lithium−Based Batteries」という名称の米国特許出願第12/870,096号にさらに記載されている。カソード活性材料用の望ましいコーティングとしての非フッ化物金属ハロゲン化物の発見は、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のVenkatachalam他への「Metal Halide Coatings on Lithium Ion Battery Positive Electrode Materials and Corresponding Batteries」という名称の米国特許出願第12/888,131号に記載されている。一般に、コーティングは、25nm以下、いくつかの実施形態では約0.5nm〜約20nm、他の実施形態では約1nm〜約12nm、さらなる実施形態では1.25nm〜約10nm、追加の実施形態では約1.5nm〜約8nmの平均厚さを有することができる。上の明示的な範囲に含まれるさらなる範囲のコーティング材料が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0063】
金属フッ化物コーティングは、溶液ベースの沈殿手法を使用して塗布することができる。望ましい金属の可溶性組成物は、水性溶媒など適切な溶媒中に溶解することができる。次いで、NH4Fを分散液/溶液に徐々に添加して、金属フッ化物を沈殿させることができる。所望の厚さのコーティングを形成するために、コーティング反応物の総量を選択することができ、コーティング反応物の比率は、コーティング材料の化学量論に基づかせることができる。コーティングを施した電気活性材料を溶液から取り出した後、材料を乾燥させ、一般に約250℃よりも高く加熱して、コーティングを施した材料の形成を完了する。加熱は、窒素雰囲気、または実質的に酸素を含まない他の雰囲気中で行うことができる。
【0064】
一般に、活性材料の粉末上への前駆体コーティングの堆積によって、酸化物コーティングを形成する。次いで、前駆体コーティングを加熱して、金属酸化物コーティングを形成する。適した前駆体コーティングは、対応する金属水酸化物、金属炭酸塩、または金属硝酸塩を含むことがある。金属水酸化物および金属炭酸塩前駆体コーティングは沈殿プロセスによって堆積することができる。なぜなら、水酸化アンモニウムおよび/または炭酸アンモニウムの添加を使用して、対応する前駆体コーティングを堆積することができるからである。前駆体コーティングを、一般には約250℃よりも高く加熱して、前駆体を分解して酸化物コーティングを形成することができる。
【0065】
負極活性材料
望ましい高い容量の負極活性材料は、ナノ構造化シリコン材料および/またはナノ構造炭素材料を含む複合材に基づくことがある。特に、ナノ構造化シリコンは、元素シリコンナノ粒子および/または多孔質元素シリコン、ならびに対応するシリコン合金およびそれらの複合材を含むことができる。シリコンは様々な材料と共に合金を形成することができ、この合金は、リチウムとのさらなる合金の形成に関して、高い容量を有することができる。シリコン合金は、適切なサイクリングを提供することができる高容量のシリコンベース材料の評価に関してシリコンの代替となる。ナノ構造化材料は、バルクシリコンに比べて高い表面積および/または高い空隙体積を提供することができる。材料の体積変化に適合させることによって、ナノ構造化シリコンは、シリコン−リチウム合金化中の体積膨張に少なくともいくらかは対処することができ、材料に対する応力を減少させることができると考えられる。さらに、ナノ構造化シリコンの適合性は、それに対応して、サイクリング時の材料の不可逆構造変化を減少させることができ、したがってサイクリング時に負極の性能がよりゆっくりと劣化し、その負極を用いて形成した電池は、より多数回の電池サイクルにわたって満足な性能を有することができる。シリコンまたはシリコン合金とナノ構造化炭素との複合材の形成は、複合材ナノ構造のための支持を提供することができ、これもまた、サイクリングを改良するために構造を機械的に安定させることができる。
【0066】
また、炭素コーティングをシリコンベース材料の上に塗布して導電性を改良することができ、炭素コーティングもまた、サイクリングの改良および不可逆容量損失の減少に関してシリコンベース材料を安定させると考えられる。特に興味深い実施形態では、適切な溶媒中に溶解された有機組成物を活性組成物と混合し、乾燥させて、炭素コーティング前駆体を活性組成物にコーティングすることができる。次いで、前駆体をコーティングした組成物を、酸素を含まない雰囲気中で熱分解して、有機前駆体を硬質炭素コーティングなどの炭素コーティングに変換することができる。炭素をコーティングされた組成物は、負極活性材料の性能を改良することが判明している。
【0067】
いくつかの実施形態では、負極活性材料は、炭素材料とシリコンベース材料の複合材を含む。シリコン材料、炭素材料、またはそれら両方をナノ構造化することができ、次いで、ナノ構造化した成分を組み合わせて、シリコン成分と炭素成分の複合材を形成することができる。例えば、複合材の成分を一緒に破砕して複合材を形成することができ、複合材中で成分材料は密接に関連付けられるが、一般に合金化はしていない。一般に、複合材中でナノ構造特性が現れると予想されるが、複合材の特徴は、成分材料の特徴ほどには立証されていないことがある。特に、複合材料は、初期材料がナノスケールであることを表す寸法、多孔性、または他の大きな表面積の特徴を有することがある。いくつかの実施形態では、負極活性材料は、カーボンナノファイバおよび/または炭素ナノ粒子上にコーティングされたシリコンベース材料を含むことができる。
【0068】
いくつかの実施形態では、シリコンベースの負極活性材料は、金属間化合物材料および/または合金などシリコン−金属複合材を含むことができる。合金は、金属元素の均質な混合物または固溶体であり、任意選択で、いくらかの量の非金属原子が金属中に溶解されている。金属間化合物材料は、2つ以上の金属/メタロイド元素を含む固相であり、任意選択で非金属元素を含み、構造は、組成材料の結晶とは異なる。シリコン−金属の金属間化合物/合金は、リチウムと合金化することがある、または合金化しないことがある様々な元素金属から形成することができる。さらに、シリコン−金属の金属間化合物/合金組成は、リチウムと合金化しない金属間化合物/合金中の不活性金属元素が負極活性材料の導電性に寄与し、その負極活性材料から形成されるセルのインピーダンスを減少させるように選択することができる。シリコンベース金属間化合物/合金は、全般的に、参照により本明細書に援用するKumar他の「High Energy Lithium Ion Batteries With Particular Negative Electrode Compositions」という名称の米国特許出願公開第2009/0305131A号(本明細書では以後、‘131号出願)に記載されている。
【0069】
さらに、負極活性材料は、炭素をコーティングされたシリコンベース材料を含むことができ、これは、シリコン−炭素複合材、シリコン−金属間化合物/合金、またはそれらの組合せでよい。理論に制限されずに、炭素コーティングおよび/またはカーボンナノファイバ−ナノ粒子は、シリコン−リチウム合金化中、膨張するシリコンベース材料に対して構造的な安定性を与えることができると考えられる。特に、炭素コーティングおよび/またはカーボンナノファイバ−粒子は緩衝層として働くことができ、それにより体積膨張中にシリコンベース材料に対する応力を減少させると考えられる。炭素をコーティングされたシリコンベースの材料で望ましい電池性能が観察されている。
【0070】
本明細書で述べる改良されたパラメータの組合せに基づいて、改良された電極構造を形成するためにシリコンベース活性材料を導入することができる。特に、望ましい導電性成分の選択が、改良された電極設計を実現することができ、望ましいポリマーバインダは、サイクリング中の重大な活性材料変化に鑑みて、電極設計に適した望ましい機械的特性を提供することができる。これらの複合的な特徴に基づいて、シリコンベース電極は、少なくとも程々の性能で、少なくとも約0.6g/cm3、さらなる実施形態では少なくとも約0.7g/cm3、さらなる実施形態では少なくとも約0.75g/cm3の活性シリコンベース材料密度で形成することができる。同様に、シリコンベース電極は、少なくとも約25ミクロン、さらなる実施形態では少なくとも約30ミクロン、追加の実施形態では少なくとも約50ミクロンの平均乾燥厚さを有することができ、これは、少なくとも約2mg/cm2の活性材料装填量に対応することがある。得られるシリコンベース電極は、少なくとも約3.5mAh/cm2、さらなる実施形態では少なくとも約4.5mAh/cm2、追加の実施形態では少なくとも約5mAh/cm2の単位面積当たりの容量を示すことができる。上で明示した範囲に含まれるさらなる範囲の負極パラメータが企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0071】
ナノ粒子シリコン
上述したように、適したナノ構造化シリコンは、ナノ微粒子シリコンを含むことがある。負極活性材料は、望ましくは、シリコンナノ粒子単独で、または複合材中に含むことができる。シリコンナノ粒子は、シリコン−リチウム合金化中の材料の体積変化に望ましく適合することができる高い表面積の材料を提供することができる。一般に、ナノ粒子シリコンは、非晶質および/または結晶質のシリコンナノ粒子を含むことができる。結晶質シリコンナノ粒子は、非晶質シリコンナノ粒子に比べて導電率が高いので、いくつかの実施形態では望ましいことがある。さらに、本願で対象となるナノ粒子シリコン材料に関して、シリコンナノ粒子は、非ドープでも、ドープされていてもよい。ドープされたナノ粒子は、非ドープのシリコンナノ粒子に比べて導電率が高くなるので望ましいことがある。ドープされたナノ粒子組成物に関して、p型ドーピングは、シリコンナノ粒子中へのホウ素やアルミニウムなどのドーパントの混入によって実現することができる。n型ドーピングは、シリコンナノ粒子中へのリン、ヒ素、またはアンチモンなど既知のn型ドーパント元素の混入によって実現することができる。シリコンナノ粒子のドーパント濃度は、約1×1014cm−3〜約1×1020cm−3でよい。
【0072】
本明細書で使用するとき、ナノ粒子シリコンとは、平均主粒子直径が約500nm以下、さらなる実施形態では約250nm以下、追加の実施形態では約200nm以下の、ミクロン以下の粒子を含むことがある。粒子直径とは、ある粒子の主軸に沿った平均直径を表す。主粒子直径とは、透過型電子顕微鏡写真で見ることができる粒子の寸法を表し、主粒子は、ある程度の凝集および/または融合を示していることも、示していないこともある。主粒径は、一般に、電池活性材料としての性能に関する重要なパラメータである粒子集合の表面積を反映する。BET表面積は、約1m2/g〜約700m2/g、さらなる実施形態では約5m2/g〜約500m2/gの範囲内でよい。BET表面積は、例えば市販の計器を使用して評価することができる。上に明示した範囲に含まれるさらなる範囲の粒径および表面積が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0073】
適したシリコンナノ粒子は、Sigma AldrichまたはNanostructured or Amorphous Materials, Inc.から商業的に入手することができる。また、非ドープおよびドープ結晶質シリコンナノ粒子の製造にレーザ熱分解を使用することもできる。レーザ熱分解を使用して、選択された組成および狭い主粒径分布を有するシリコンナノ粒子を合成することに関する説明は、参照により本明細書に援用するHieslmair他の「Silicon/Germanium Particle Inks, Doped Particles, Printing And Processes for Semiconductor Applications」という名称の米国特許出願公開第2008/0160265号に記載されている。参照により本明細書に援用するCui他の「Nanowire Battery Methods and Arrangements」という名称の米国特許第7,816,031号に記載されているように、望ましい負極活性材料としてシリコンナノワイヤが提案されている。
【0074】
多孔質シリコン
ナノ構造化シリコンの別の適した形態は、ナノ構造化孔を有する多孔質シリコン粒子を含み、負極活性材料は、望ましくは、多孔質シリコンおよび/またはそれらの複合材を含むことができる。多孔質シリコンは、その高い表面積および/または空隙体積により、改良されたサイクリング挙動を有することができ、これは、リチウム合金化および脱合金化による体積変化への対処を容易にすることができる。本願で対象となる材料に関して、多孔質シリコンは、非ドープでも、ドープされていてもよい。いくつかの実施形態では、ドープされた多孔質シリコンは、非ドープの多孔質シリコンに比べて導電率が高くなるので望ましいことがある。
【0075】
多孔質粒子は、いくつかの実施形態では約5ミクロン以下、さらなる実施形態では約1ミクロン以下、追加の実施形態では約100ナノメートル〜約5ナノメートルの平均直径を有することがある。孔は、粒子の実効の測定表面積を直接的に増加させるので、多孔性は、BET表面積で表すことができる。いくつかの実施形態では、BET表面積は、少なくとも1m2/g、さらなる実施形態では少なくとも5m2/g、追加の実施形態では10m2/g〜約300m2/gでよい。さらなる範囲の平均粒子直径およびBET表面積が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0076】
いくつかの実施形態では、ドープおよび非ドープ多孔質シリコンは、シリコンウェハの電気化学的エッチングによってバルクシリコン上に形成することができる。シリコンウェハは、半導体用途および他の電子工学用途で使用するために市販されている。電気化学的エッチングは、電気化学セル内でシリコンウェハをエッチングすることを含むことができる。電気化学セルは、シリコンウェハから形成した負極を用いて組み立てることができ、また電解質エッチング溶液中の正極にわたって組み立てることができる。このとき、選択された電流密度が電極にわたって印加され、その結果生じる電気化学セル内で誘発される電流がシリコンをエッチングし、主なエッチングは、正極に最も近いシリコンウェハ領域におけるものである。正極は、一般に、白金や他の金属など元素金属を含むことができ、電解質溶液は、一般に、フッ化水素酸(HF)、水(H2O)、およびエタノール(C2H5OH)の混合物を含むことができる。エタノールの代わりに他の妥当なアルコールを使用することもできる。一般に、エッチング溶液は、約25重量パーセント〜約80重量パーセントの濃度でアルコールを含むことができる。さらに、適したエッチング溶液は、約5〜約50重量パーセントのHFを含むことができる。上の明示的な範囲に含まれるさらなる濃度範囲が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。n型ドープまたはp型ドープ多孔質シリコンが望まれる場合、負極は、それぞれn型ドープまたはp型ドープシリコンウェハから形成される。
【0077】
電気化学的エッチングでは、得られる多孔質シリコンウェハの多孔性と孔径の両方を、開始ウェハおよびシリコンウェハのタイプ、ドーピングレベル、および結晶配向、電流密度、電解質溶液濃度、ならびにエッチング時間によって制御することができる。一般に、多孔性は、電流密度を増加し、および/または電解質溶液中のHF濃度を減少させることによって増加させることができる。本願で対象となる多孔質シリコン材料に関して、電流密度は、例えば約500mA/cm2以下、さらなる実施形態では、約300mA/cm2〜約1mA/cm2でよい。望ましいエッチング時間は、約5分〜約10時間、さらなる実施形態では約10分〜約5時間である。望まれる場合には、シリコン基板を照射して導電率を高めることができ、これはさらにエッチングレートを高めることが予想される。照射は、n型結晶質シリコンに関して、エッチングを促進すると考えられる正孔の形成を誘発するために特に望ましいことがある。適した光源は、例えば、タングステンフィラメントランプ、ハロゲンランプ、または他の明るい白色光源を含む。プロセスを完了するために、電流密度を、短期間のうちに大幅に高めて、エッチングされたシリコンを基板表面から切り離すことができ、得られた切り離されたシリコンは、破砕して多孔質シリコンの粒子にされる。層剥離に関する電流密度は、電解研磨プロセスが優勢になる臨界密度の近くにすることができる。HF濃度に応じて、エッチングされたシリコンを切り離すための電流密度は、約150mA/cm2〜約800mA/cm2にすることができる。
【0078】
多孔質シリコン粒子は、エッチングしたウェハ、例えば今述べたような電気化学的エッチング法によって処理したウェハから形成することができる。所望の平均孔径および多孔性を有する多孔質シリコン層をバルクシリコン上に形成するための初期エッチングの後、エッチング電流密度を高めることによって多孔質シリコン層をバルクシリコンから離し、かき混ぜて、多孔質シリコンナノ粒子を形成することができる。あるいは、非ドープおよびドープ多孔質シリコンナノ粒子を、ステインエッチングによってバルクシリコンから形成することもできる。ステインエッチングでは、シリコンウェハなどが、HFおよび硝酸を含む水溶液中に含浸される。一般に、ステインエッチングでは、上述した陽極生成多孔質シリコンに比べて低い均質性および再現性になる。選択された組成を有する多孔質シリコンナノ粒子をステインエッチングによって合成することに関する説明は、参照により本明細書に援用するLi他の「Method of Producing Silicon Nanoparticles from Stain−Etching and Silicon Nanoparticles From Stain−Etched Silicon Powder」という名称の米国特許第7,514,369号に記載されている。
【0079】
シリコン−金属の金属間化合物材料および/または合金
いくつかの実施形態では、負極活性組成物は、シリコン−金属合金および/または金属間化合物材料を含むことができる。適したシリコン−金属の金属間化合物/合金は、参照により本明細書に援用するKumar他の「High Energy Lithium Ion Batteries With Particular Negative electrode Compositions」という名称の米国特許出願公開第2009/0305131A号に記載されている。合金/金属間化合物材料は、組成式SixSnqMyCzによって表すことができ、ここで(q+x)>2y+Z、q≧0、z≧0であり、Mは、マンガン、モリブデン、ニオブ、タングステン、タンタル、鉄、銅、チタン、バナジウム、クロム、ニッケル、コバルト、ジルコニウム、イットリウム、およびそれらの混合物から選択される金属である。参照により本明細書に援用するLeの「Silicon−Containing Alloys Useful as Electrodes for Lithium−Ion Batteries」という名称の米国特許出願公開第2007/0148544A号も参照されたい。本明細書で説明する材料では、一般に、炭素材料および処理条件は、炭素がシリコンと組成物を形成しないように選択される。実施例で説明する合金では、z=0およびq=0であり、したがって組成式は簡単にSixMy(ここでx>2y)となる。実施例は、M=FeまたはCuに関して表す。合金は、適切な破砕によって形成することができる。
【0080】
ナノスケール炭素繊維および粒子
カーボンナノファイバおよび/または炭素ナノ粒子は、良好な導電性を提供し、リチウムとの合金生成の応力を減少させることができるように、ナノ構造化シリコンに関する支持構造を提供することができる。カーボンナノファイバは、適した熱反応で蒸気有機組成物および触媒を使用して得ることができ、または合成することができる。カーボンナノファイバの合成に関する1つの手法は、参照により本明細書に援用するChoi他の「Anode Active Material Hybridizing Carbon Nanofiber for Lithium Secondary Battery」という名称の米国特許出願公開第2009/0053608号に記載されている。炭素繊維は、様々な供給業者から市販されている。適した供給業者を以下の表に要約する。表は2部になっている。
【0081】
【表3】
【0082】
【表4】
【0083】
一般に、適したカーボンナノファイバは、約25nm〜約250nm、さらなる実施形態では約30nm〜約200nmの平均直径を有することができ、平均長さは、約2ミクロン〜約25ミクロン、さらなる実施形態では約4ミクロン〜約20ミクロンである。上に明示した範囲に含まれるさらなる範囲のナノファイバ平均直径および長さが企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0084】
同様に、熱分解炭素粒子、例えばカーボンブラックを、適切な複合材でのサポート物質として使用することができる。カーボンブラックは、約250nm以下、いくつかの実施形態では約100nm以下、およびこれらの範囲内の適した部分範囲の平均粒径を有することができる。カーボンブラックは、Cabot Corporation and Timcal, Ltd.(スイス)(アセチレンブラックSuper P(商標))など、様々な供給業者から容易に入手可能である。
【0085】
炭素とナノ構造化シリコンの複合材
ナノスケール炭素粒子および/または繊維とナノ構造化シリコンなどのシリコンとの複合材を形成することが望ましいことがある。複合材を形成するために、成分材料を取得および/または用意し、材料成分間の強い機械的相互作用を生じさせるように結合させる。複合材は、例えば、ナノ炭素成分上にコーティングされたシリコン、多孔質シリコン粒子の孔の中に埋め込まれた炭素成分、または他の相互作用もしくは相互作用の組合せを含むことがある。一般に、複合材の成分間の相互作用のタイプは、よく特徴付けられる必要はない。しかし、複合材は、リチウムイオン電池において望ましい電池特性を示すことが判明している。一般に、複合材は、少なくとも約5重量パーセントのシリコン/シリコン合金、さらなる実施形態では約7.5重量パーセント〜約95重量パーセント、追加の実施形態では約10重量パーセント〜約90重量パーセントのシリコン/シリコン合金、例えばナノ構造化シリコンを含むことができる。上に明示した範囲に含まれるさらなる範囲のシリコン/シリコン合金組成が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0086】
いくつかの実施形態では、ナノ構造化シリコン複合材は、ナノ構造化シリコンを炭素繊維および/または炭素ナノ粒子と共に破砕することによって形成することができる。破砕プロセスは、例えばジャーミリングおよび/またはボールミリング、例えば遊星ボールミリングを含むことができる。ボールミリングおよび同様にジャーミリングは、粉砕媒体を使用して粉砕し、その後、粉砕された材料から粉砕媒体を除去することに関わる。遊星ボールミルは、ボールミリングの1タイプであり、このミルが、太陽歯車と、太陽歯車に偏心で取り付けられた少なくとも1つの粉砕ジャーと、粉砕ジャー内部の複数の混合ボールとを備える。動作時、粉砕ジャーは自転し、それとは逆回りで、太陽歯車の共通軸の周りを公転する。
【0087】
望ましいボールミリング回転速度およびボールミリング時間は、所望のナノ構造化シリコン複合材組成および構造に基づいて選択することができる。本明細書で述べるシリコン/シリコン合金複合材の形成に関して、ボールミリング回転速度は、約25rpm〜約1000rpmでよく、さらなる実施形態では約50rpm〜約800rpmでよい。さらに、望ましいボールミリング時間は、約10分〜約20時間、さらなる実施形態では約20分〜約10時間でよい。上に明示した範囲に含まれるさらなる範囲の破砕速度および時間が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。ミルコンテナを、不活性ガスで充填して、破砕中にコンテナの内容物が酸化するのを防止することができる。適した粉砕媒体の例としては、例えば、ジルコニア、アルミナ、炭化タングステンなどが挙げられる。
【0088】
熱分解炭素コーティング
導電性を高めるため、および/または得られる材料への構造支持を提供するために、ナノ構造化シリコンまたはシリコン複合材に炭素コーティングを塗布することができる。炭素コーティングは、酸素を含まない雰囲気中で、熱分解された有機組成物から形成することができる。硬質炭素コーティングは、一般に比較的高温で形成される。コーティングの特性は、処理条件に基づいて制御することができる。特に、炭素コーティングは、高い硬度を有することができ、一般に、黒鉛領域およびダイヤモンド構造領域に加えて生じ得る重要な非晶質領域を含むことができる。
【0089】
コールタールピッチから形成される炭素コーティングが、参照により本明細書に援用するLee他の「A Negative Active Material for Lithium Secondary Battery and a Method for Preparing Same」という名称の国際公開第2005/011030号に記載されている。それとは異なり、本明細書で述べるように、有機組成物を適切な溶媒中に溶解して活性材料と混合させる。溶媒を乾燥によって除去し、固体前駆体でコーティングされた活性材料を形成する。固体熱分解炭素前駆体を送るための溶媒を用いたこの手法は、より均質で均一な炭素コーティングの形成を促進することができる。次いで、前駆体でコーティングされた材料を、実質的に酸素を含まない環境内で加熱して、熱分解炭素コーティングを形成する。加熱は、一般に、少なくとも約500℃、さらなる実施形態では少なくとも約700℃、他の実施形態では約750℃〜約1350℃の温度で行う。一般に、約800℃を超える温度が使用される場合に、硬質炭素コーティングが形成される。加熱は、硬質炭素コーティングの形成を完了するのに十分な期間にわたって続けることができる。望ましい前駆体は、室温で固体または液体であって2〜20個の炭素原子、さらなる実施形態では3〜15個の炭素原子、およびこれらの範囲に含まれる他の範囲の炭素原子を有する有機組成物を含むことができ、一般に、これらの分子は、他の原子、例えば酸素、窒素、硫黄、および他の妥当な元素を含むことができる。具体的には、適した化合物としては、例えば、糖、フルフリルアルコールなどの他の固体アルコール、クエン酸などの固体カルボン酸、ポリアクリロニトリルなどのポリマーなどが挙げられる。炭素コーティングは、一般に、硬質の非晶質炭素を含むが、ある程度の黒鉛および/またはダイヤモンドライク領域が存在することもある。コーティングを施された材料は、一般に、約50重量パーセント以下、さらなる実施形態では約40重量パーセント以下、追加の実施形態では約1重量パーセント〜約30重量パーセントの熱分解炭素を含む。上記の明示した範囲に含まれるさらなる範囲のコーティング組成物の量が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0090】
金属コーティング
炭素コーティングの代替として、シリコン、シリコン合金、またはシリコン複合材の上に元素金属をコーティングすることができる。適した元素金属は、電池内で不活性金属を生成するために妥当な条件下で還元することができる金属を含む。特に、金属コーティングを堆積するために銀および銅を還元することができる。元素金属コーティングは、導電性を高め、リチウム合金化および脱合金化プロセス中にシリコンベース材料を安定させると予想することができる。一般に、コーティングを施された材料は、約25重量パーセント以下の金属コーティング、さらなる実施形態では約1重量パーセント〜約20重量パーセントの金属コーティングを含むことができる。上の明示的な範囲に含まれるさらなる範囲の金属コーティング組成物が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。溶液ベースの手法を使用して、金属コーティングを塗布することができる。例えば、コーティングを施すべきシリコンベース材料を、溶解された金属の塩、例えば硝酸銀、塩化銀、硝酸銅、塩化銅などを含む溶液と混合させることができ、還元剤を添加して金属コーティングを堆積することができる。適した還元剤としては、例えば次亜リン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン、ホルムアルデヒドなどが挙げられる。
【0091】
補助リチウム
電池への補助リチウムの導入のための様々な手法を使用することができるが、対応する初めの反応および/または充電後、負極は、サイクリングのための余剰のリチウムを補助リチウムから装入される。補助リチウムを有する電池内の負極に関して、負極の構造および/または組成は、初回のサイクル後、およびさらなるサイクリング後に、初めの構造および組成から変化することがある。補助リチウムを導入するための手法に応じて、正極が始めに補助リチウム源を含むことがあり、および/または補助リチウムを含む犠牲電極を導入することができる。
【0092】
負極の初期構造に関して、いくつかの実施形態では、負極は、補助リチウムによる変化がない。特に、補助リチウムが始めに正極または別個の電極内に位置されている場合、負極は、電池が充電されるまでは、または少なくとも、電解質および隔離板の存在下で負極と補助リチウムを含む電極との間の回路が閉じられるまでは、リチウムが存在せずに変化のない状態であることがある。例えば、正極または補助電極は、元素リチウム、リチウム合金、および/または他の犠牲リチウム源を含むことができる。
【0093】
犠牲リチウムが正極内に含まれる場合、犠牲リチウム源からのリチウムは、充電反応中に負極に装填される。犠牲リチウム源に基づく充電中の電圧は、正極活性材料に基づいて充電が行われるときの電圧とは大きく異なることがある。例えば、元素リチウムの酸化が反応を誘発するので、正極内の元素リチウムは、外部電圧の印加なしで負極活性材料を充電することができる。いくつかの犠牲リチウム源材料に関しては、外部電圧を印加して、正極内の犠牲リチウム源を酸化させ、負極活性材料内にリチウムを押し入れる。充電は、一般に、定電流、ステップ式の定電圧充電、または他の簡便な充電方式を使用して行うことができる。しかし、充電プロセスの最後に、電池は所望の電圧、例えば4.5Vに充電されるべきである。
【0094】
さらなる実施形態では、始めに、補助リチウムの少なくとも一部が負極に関連付けられる。例えば、補助リチウムは、元素リチウム、リチウム合金、または負極活性材料よりも電気陰性の他のリチウム源でよい。負極が電解質と接触した後、反応が生じることがあり、補助リチウムが負極活性材料に移動される。このプロセス中、SEI層も形成される。したがって、補助リチウムは負極活性材料内に装填され、少なくとも一部はSEI層の形成において消費される。リチウムリッチ正極活性材料から解放された余剰のリチウムも、電池の最終的な充電中に負極活性材料内に堆積される。電圧の印加により補助リチウム源が同じ電極内の活性材料と反応することがなくなるので、負極に入る補助リチウムは、負極内の活性材料よりも電気陰性にすべきである。
【0095】
いくつかの実施形態では、負極に関連付けられる補助リチウムは、負極内部に粉末として組み込むことができる。特に、負極は、活性負極組成物、およびポリマーバインダマトリックス中の補助リチウム源、ならびに存在する場合には任意の導電性粉末を含むことができる。追加または代替の実施形態では、補助リチウムは、電極の表面に沿って配置される。例えば、負極は、活性負極組成物を含む活性層と、活性層の表面上の補助リチウム源層とを備えることができる。補助リチウム源層は、リチウムまたはリチウム合金の箔シート、ポリマーバインダ中の補助リチウム粉末、および/または活性層の表面上に埋め込まれた補助リチウム源材料の粒子を含むことがある。代替構成では、補助リチウム源層は、活性層と集電体の間にある。また、いくつかの実施形態では、負極は、活性層の両面に補助リチウム源層を備えることもできる。
【0096】
追加の実施形態では、電池の組立て前に、補助リチウムの少なくとも一部を負極活性材料に供給することができる。すなわち、負極は、リチウムを一部装填されるシリコンベース活性材料を含むことができ、一部装填された活性材料は、インターカレーション/合金化などによって、選択された度合いのリチウム装填を有する。例えば、負極活性材料の事前装填に関して、負極活性材料を、電解質およびリチウム源、例えば元素リチウム、リチウム合金、または負極活性材料よりも電気陰性の他の犠牲リチウム源と接触させることができる。リチウムのそのような事前装填を行うための1つの実験的な構成は、集電体上に形成されたシリコンベース活性材料を有する電極を備えることができ、これらが、電解質と、電極に接触するリチウム源材料のシートとを含む容器内に配置される。リチウム源材料のシートは、リチウム箔、リチウム合金箔、またはポリマーバインダ中のリチウム源材料を任意選択で導電性粉末と共に備えることがあり、これは、リチウムを事前装填すべき負極と直接接触し、それにより電子が材料間を流れて、電気的中性を保つとともに、それぞれの反応を行う。続いて起こる反応で、リチウムは、インターカレーションや合金化などによって、シリコンベース活性材料内に装填される。代替または追加の実施形態では、負極活性材料は、ポリマーバインダを用いて電極として形成する前に補助リチウムを組み込むために電解質およびリチウム源材料中に混合することができ、それによりそれぞれの材料が電解質中で自発的に反応することができるようにする。
【0097】
いくつかの実施形態では、電極内部のリチウム源は、リチウムを事前装填すべき電極をと共にセルとして組み立てることができる。それぞれの電極の間に隔離板を配置することができる。電極間に電流を流すことができる。リチウム源の組成に応じて、シリコンベース活性材料内部でのリチウム堆積を誘発するために電圧を印加する必要があることも、必要がないこともある。このリチウム化プロセスを行うための装置は、電解質とセルを保持するコンテナを備えることができ、セルは、最終的な電池内で負極として使用することができる電極と、集電体と、隔離板と、リチウム源を備える犠牲電極とを備え、隔離板は、犠牲電極と、シリコンベース活性材料を含む電極との間にある。簡便な犠牲電極は、リチウム箔や、ポリマーまたはリチウム合金中に埋め込まれたリチウム粉末を備えることができるが、抜き出すことができるリチウムを含む任意の電極を使用することができる。リチウム化セル用のコンテナは、従来の電池ハウジング、ビーカー、または任意の他の簡便な構造を備えることができる。この構成は、負極のリチウム化の度合いを計測するために電流を測定することができるという利点を提供する。さらに、負極は、1回または複数回サイクルさせることができ、負極活性材料は、リチウムの完全な装填量の近くまで装填される。このようにすると、負極活性材料にリチウムを事前装填する間に、所望の度合いの制御下でSEI層を形成することができる。このようにして、選択されたリチウム事前装填量を有する負極の用意中に負極が完全に形成される。
【0098】
一般に、リチウム源は、例えば、元素リチウム、リチウム合金、またはリチウムをそこから解放することができるリチウム組成物、例えばリチウム金属酸化物を含むことができる。元素リチウムは、箔および/または粉末の形態でよい。取扱いのために、特に粉末形態での元素リチウムをコーティングしてリチウムを安定させることができ、FMC Corporationからの粉末など市販のリチウム粉末は、安定性のために独自のコーティングを備えて販売されている。一般に、コーティングは、電気化学的用途に関してリチウム粉末の性能を変えない。リチウム合金としては、例えばリチウムシリコン合金などがある。インターカレートされたリチウムを含むリチウム組成物をいくつかの実施形態で使用することができ、適した組成物としては、例えば、チタン酸リチウム、スズ酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウムなどが挙げられる。
【0099】
一般に、活性組成物中に事前装填される、または装填のために利用可能な補助リチウムの量は、負極活性材料容量の少なくとも約2.5%、さらなる実施形態では約3パーセント〜約90%、追加の実施形態では約5パーセントから約80%でよい。対象の別のパラメータは、補助リチウムと理論上の正極容量との和である合計の利用可能な活性リチウムに対する負極活性材料の全体的な平衡に関係付けられる。いくつかの実施形態では、合計の利用可能な活性リチウムは、負極活性容量の約110パーセント以下、さらなる実施形態では105パーセント、さらなる実施形態では約65パーセント〜約100パーセント、さらなる実施形態では約70〜約97.5パーセントでよい。いくつかの従来の電池では、負極は、正極容量の107%で平衡を図られ、これは、負極容量に対する93.5%の活性リチウムに相当する。負極容量の100%よりも大きい活性リチウムの値は、負極でのリチウムのめっきを生じることがあるが、黒鉛状炭素負極活性材料から得られたデータは、リチウムがサイクリングと共に消費されることを示した。シリコンベース活性材料の場合にも同様の結果を予想することができるので、負極にめっきすることがある少量の初期リチウムは、デンドライト形成前に消費することができる。上記の明示した範囲に含まれるさらなる範囲のリチウム事前装填が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0100】
電池性能
リチウムリッチ正極活性材料および補助リチウムから形成した電池は、現実的な放電条件下で有望な性能を実証している。特に、シリコンベース活性材料は、現実的なカソードを用いて、適度な放電速度での電池のサイクリング時に、高い電圧カットオフを有する電圧範囲にわたるサイクリングで高い比容量を実証している。特に、結果が電池の高い全体容量に対応するように、正極活性材料と負極活性材料両方の質量に基づいて望ましい比容量を得ることができる。本明細書で述べる複合材は、妥当な不可逆容量損失を示すことができ、いくつかの実施形態では、不可逆容量損失を減少させるために補助リチウムを好適に使用することができる。リチウムリッチ高容量リチウム金属酸化物を用いた正極に対する数回のサイクルにわたって、高い比容量での比較的安定なサイクリングを得ることができる。
【0101】
一般に、電池の容量性能を評価するために、様々な同様の試験手順を使用することができる。容量およびIRCLを評価するために、リチウム箔電極に対してシリコンベース電極を試験することができる。しかし、より意義深い試験は、現実的な正極を用いて行うことができる。なぜなら、そうすることで、電池は、有用な電池でのサイクリングに関する適切な電圧範囲にわたってサイクルされるからである。適した試験手順は、以下の実施例でより詳細に説明する。特に、リチウム箔電極を用いて組み立てた電池は、正極(カソード)として働くシリコンベース電極を用いてサイクルされ、リチウム箔が負極(アノード)として働く。リチウム箔電極を用いた電池は、例えば室温で0.005V〜1.5Vの電圧範囲にわたってサイクルすることができる。あるいは、電池は、シリコンベース電極を負極として、積層状リチウムリッチ金属酸化物を含む正極を用いて形成することができ、電池はそのとき室温で4.5ボルトから2ボルトの間でサイクルさせることができる。リチウム金属酸化物ベースの正極を用いた電池に関して、初回のサイクルはC/10の速度で充電および放電することができ、その後のサイクリングは、C/3での充電ではないことが明記されていない限り、C/3の速度にすることができる。比放電容量は、放電速度に大きく依存する。表記C/xは、選択された電圧最小値までx時間で電池を完全に放電するような速度で電池が放電されることを示唆する。
【0102】
上述したように、不可逆容量損失は、初回の充電比容量と初回の放電比容量の差である。本明細書で述べる値に関して、不可逆容量損失は、より望ましい値にすることができ、補助リチウムの添加により、値をさらに減少させることができる。いくつかの実施形態では、不可逆容量損失は、初回サイクル充電容量の約20%以下、さらなる実施形態では約19%以下、他の実施形態では約18%以下である。比較的低い不可逆容量損失を、比較的高い比容量と組み合わせることができる。いくつかの実施形態では、リチウムリッチ金属酸化物とシリコンベース活性材料とを含む電池は、約20%以下の不可逆容量損失を示すことができ、また、C/3の速度で4.5Vから1Vでサイクルされるときに、10回目のサイクルで、少なくとも約900mAh/g、さらなる実施形態では少なくとも約1000mAh/g、追加の実施形態では約1050mAh/g〜約1900mAh/gの負極比容量を示すことができる。さらなる範囲の不可逆容量損失および比容量が企図され、本開示の範囲内に含まれることを当業者は理解されよう。
【0103】
シリコンベース電極の比容量は、リチウム箔の対向電極またはリチウム金属酸化物ベースの対向電極を用いた構成で評価することができる。リチウム金属酸化物ベースの正極を用いて形成した電池に関して、電池の比容量は、アノード活性材料とカソード活性材料両方の重量に対して評価することができる。高容量の正極活性材料を使用すると、高容量シリコンベース負極活性材料を使用する全体的な利益がより一層大きくなる。電池の容量に基づいて、比容量は、容量を各電極内の活性材料の重量で割ることによって得ることができる。どちらの電極に関しても高い比容量を有することが望ましいことがある。電池の全体的な比容量に関する各電極での高い比容量の利点は、参照により本明細書に援用するYoshio他の記事「Journal of Power Sources 146 (June 2005) pp 10−14」に記載されている。電池が補助リチウムを含むか否かに関わらず、容量が無駄にならないように、2つの電極は比較的平衡を図られる。電池が程よく平衡を図られていない場合、それに対応して、一方の電極の比容量が低下する。補助リチウムの文脈で電極の平衡を上述したが、補助リチウムの有無に関わらず上記の論述の概念に従う。
【0104】
いくつかの実施形態では、電池はさらに、不可逆容量損失を減少させるため、およびリチウムリッチ金属酸化物のサイクリングを安定させるために補助リチウムを含み、これらの実施形態に関しては、負極は、C/3の放電速度で4.5Vから1Vの間でサイクルされるときに、アノード活性重量に基づいて、10回目のサイクルで少なくとも約500mAh/g、さらなる実施形態では少なくとも約700mAh/g、追加の実施形態では少なくとも約800mAh/gの比容量を有することが望ましいことがある。特定のシリコンベース活性材料に応じて、下側電圧カットオフは、2V、1.5V、1V、または0.5Vに選択することができる。一般に、下側電圧カットオフは、電極の総容量の約92%〜約99%、さらなる実施形態では約95%〜約98%で、選択された一部の電極容量を引き出すように選択することができる。上述したように、正極がリチウムリッチ金属酸化物を含むときには、どちらの電極に関しても比較的高い比容量を有することが望ましいことがあり、電池は、C/3の放電速度で4.5Vから1Vの間でサイクルされるときに、50回目のサイクルで、少なくとも約150mAh/gの正極比容量および少なくとも約750mAh/gの負極比容量、さらなる実施形態では少なくとも約160mAh/gの正極比容量および少なくとも約850mAh/gの負極比容量、追加の実施形態では少なくとも約170mAh/gの正極比容量および少なくとも約1000mAh/gの負極比容量を示すことができる。上記の明示した範囲に含まれるさらなる範囲の比容量および他の電池パラメータが企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【実施例】
【0105】
性能を評価するために電池において多様なシリコンベース材料を試験した。これらの試料の多くは、ナノ構造化シリコンを含み、これらの試料のいくつかは、炭素との複合材として形成した。また、シリコン合金も調べた。一般に、試料は、コインセルとして形成して、リチウム合金化/インターカレーションに関して材料の性能を試験した。コインセルは、対向電極としてリチウム箔を用いて形成し、シリコンベース電極がリチウム箔に対して正極として働くようにした。あるいは、コインセルは、リチウムリッチ混合金属酸化物を含む正極を用いて形成し、得られる電池が、市販の電池に関する関連の電圧範囲にわたるサイクリングのために現実的な組成を有するようにした。コインセルを形成するための一般的な手順を以下の論述で説明し、以下の個々の実施例は、シリコンベース材料の形成を説明し、性能は、シリコンリッチ材料から形成した電池から得られるものである。
【0106】
特定の試料を試験するために、シリコンベース活性材料の試料から電極を形成した。一般に、シリコンベース活性材料の粉末を、アセチレンブラック(Timcal, Ltd.(スイス)からのSuper P(商標))と完全に混合させて、均質な粉末混合物を形成した。それとは別に、ポリイミドバインダを、N−メチル−ピロリドン(「NMP」)(Sigma−Aldrich)と混合し、一晩撹拌して、ポリイミド−NMP溶液を生成した。次いで、均質な粉末混合物をポリイミド−NMP溶液に添加して、約2時間混合して、均質なスラリを生成した。スラリを銅箔集電体上に塗布して、薄いウェットフィルムを形成し、積層集電体を真空オーブン内で240℃で約2時間乾燥させて、NMPを除去し、ポリマーを硬化させた。次いで、積層集電体を、シートミルのローラ間で押圧して、所望の積層厚さを得た。乾燥させた積層は、少なくとも75重量%のシリコンベース活性材料と、少なくとも2重量%のポリイミドと、および少なくとも3重量%のアセチレンブラックとを含んでいた。得られた電極を、リチウム箔の対向電極、またはリチウム金属酸化物(LMO)を含む対向電極と組み立てた。
【0107】
リチウム箔の対向電極を用いた第1の組の電池に関して、コイルセル電池を作製するために、アルゴンを充填したグローブボックス内にシリコンベース電極を配置した。厚さ約125ミクロンのリチウム箔(FMC Lithium)を負極として使用した。炭酸塩溶媒、例えば炭酸エチレン、炭酸ジエチル、および/または炭酸ジメチルを含む従来の電解質を使用した。電解質に浸漬した3層(ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン)の微孔性隔離板(Celgard, LLC, NC, USAからの2320)を正極と負極の間に配置した。電解質をさらに数滴、電極の間に加えた。次いで、クリンププロセスを使用して、電極を2032コインセルハードウェア(宝泉株式会社(日本))内部に封止して、コインセル電池を形成した。得られたコインセル電池をMaccorサイクルテスタで試験して、数サイクルにわたる充放電曲線およびサイクリング安定性を得た。
【0108】
第2の組の電池に関しては、シリコンベース電極を負極として使用し、正極は、高容量リチウムリッチ組成物を備えるものとした。得られた正極を、高容量マンガンリッチ(「HCMR(商標)」)電極と呼ぶ。選択された共沈プロセスを使用して、LMO複合材活性材料を合成した。水酸化物共沈プロセスによる同様の組成物の合成は、Venkatachalam他の「Positive Electrode Material for Lithium Ion Batteries Having a High Specific Discharge Capacity and Processes for the Synthesis of these Materials」という名称の米国特許出願公開第2010/0086853A号に記載されており、炭酸塩共沈プロセスによる同様の組成物の合成は、Lopez他の「Positive Electrode Material for High Specific Discharge Capacity Lithium Ion Batteries」という名称の米国特許出願公開第2010/0151332A号に記載されており、どちらの特許文献も参照により本明細書に援用する。特に、組成式xLi2MnO3・(1−x)LiNiuMnvCowO2によって近似的に表されるLMO粉末を合成した。ここで、x=0.5である(Li1.2Ni0.175Co0.10Mn0.525O2)。特定の性能結果を実現するためのHCMR(商標)組成物の設計についての論述は、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のLopez他の「Layer−Layer Lithium Rich Complex Metal Oxides With High Specific Capacity and Excellent Cycling」という名称の米国特許出願第12/869,976号に詳細に記載されている。
【0109】
電極は、始めに、合成したHCMR(商標)粉末を導電性アセチレンブラック(Timcal, Ltd.(スイス)からのSuper P(商標))および黒鉛(Timcal, Ltd.からのKS 6(商標))と完全に混合させて、均質な粉末混合物を形成することによって、HCMR(商標)粉末から形成した。それとは別に、フッ化ポリビニリデンPVDF(株式会社クレハ(日本)からのKF1300(商標))をN−メチル−ピロリドン(SigmaーAldrich)と混合し、一晩撹拌して、PVDF−NMP溶液を生成した。次いで、均質な粉末混合物をPVDF−NMP溶液に添加して、約2時間混合して、均質なスラリを生成した。スラリをアルミニウム箔集電体上に塗布して、薄いウェットフィルムを形成し、積層集電体を、真空オーブン内で110℃で約2時間乾燥させて、NMPを除去した。次いで、積層集電体を、シートミルのローラ間で押圧して、所望の積層厚さを得た。乾燥させた電極は、少なくとも約75重量パーセントの活性金属酸化物と、少なくとも約3重量パーセントのアセチレンブラックと、少なくとも約1重量パーセントの黒鉛と、少なくとも約2重量パーセントのポリマーバインダとを含んでいた。
【0110】
シリコンベース負極およびHCMR(商標)正極から作製した電池のいくつかは、さらに補助リチウムを含んでいた。特に、所望の量のSLMP(登録商標)(FMC Corp.)粉末(安定させたリチウム金属粉末)をバイアル内に装填し、次いでバイアルに、約40μm〜約80μmのメッシュサイズを有するナイロンまたはステンレス鋼からなるメッシュを被せた。次いで、装填されたバイアルを振る、および/またはタップすることによって、SLMP(登録商標)(FMC corp.)を、形成されたシリコンベースの負極の上に堆積した。次いで、コーティングを施したシリコンベース負極を圧縮して、機械的な安定性を保証した。
【0111】
シリコンベース負極およびHCMR(商標)正極から作製した電池を、余剰の負極材料を有するようにして平衡を図った。負極平衡の特定の値は、以下の具体的な実施例で提示する。補助リチウムを含む電池に関して、平衡は、HCMR(商標)正極の理論上の容量に対するシリコンベース負極の初回サイクルリチウム抜出し容量の比に基づくものにした。補助リチウムの量は、負極の不可逆容量損失をほぼ補償するように選択した。補助リチウムを有さない電池では、平衡は、HCMR(商標)正極の理論上の容量に対するシリコンベース負極の初回サイクルリチウム取込み容量として計算した。特に、所与のシリコンベース活性組成物に関して、シリコンベース組成物の取込みおよび抜出し容量は、シリコンベース活性材料を含む正極とリチウム箔負極とを有する電池によって評価することができ、ここでリチウムは、C/20の速度で、5mVまでシリコンベース電極にインターカレート/合金化され、1.5Vまで脱インターカレート/脱合金化される。
【0112】
コインセル電池は、アルゴンを充填したグローブボックス内にシリコンベース電極およびHCMR(商標)電極を配置することによって形成した。高電圧で安定になるように電解質を選択した。適切な電解質は、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のAmiruddin他の「Lithium Ion Battery With High Voltage Electrolytes and Additives」という名称の米国特許出願第12/630,992号に記載されている。これらの電極および高電圧電解質に基づいて、リチウム箔電極を用いた電池に関して、上述したように隔離板およびハードウェアと共にコインセル電池を完成させた。
【0113】
実施例1−サイクリング性能:多孔質シリコンを含む負極
この実施例は、電気化学的に生成された多孔質シリコンを含む負極活性材料から作製したコインセル電池のサイクリング性能を実証する。
【0114】
サイクリング性能を実証するために、複数のコインセル電池を、シリコンベース電極の組成を変えて、上述したように形成した。様々なシリコンベース電極に関して、ナノ構造および/または非活性導電性成分が異なる活性材料から各電極を形成した。ナノ構造に関して、ナノ多孔質p+シリコンまたは孔のない真性のp+シリコンを含む活性材料から各シリコンベース電極を形成した。ナノ多孔質シリコンは、以下に述べるように合成した。真性p+シリコンは、等価なp+シリコンウェアの高エネルギー機械的破砕を使用して生成して、約75ミクロンの平均粒径を有する粉末を形成した。ナノ多孔質シリコンは、直接用いたか、または非活性導電性成分と共に複合材として形成した。特に、複合材は、金属コーティング、熱分解炭素コーティング、および/または炭素繊維と共に多孔質シリコンから形成した。
【0115】
ナノ構造化シリコンの合成
単結晶シリコンウェハの電気化学的エッチングによってナノ多孔質シリコンを形成した。エッチングセルのアノードを形成するために、市販のp+ドープ単結晶シリコンウェハ(Wafer Net)をエタノールで洗浄して、空気中で乾燥させた。次いで、洗浄したウェハを電気接続端子に接続した。エッチングセルのカソードは、白金箔から形成した。次いで、エタノール中の35%フッ化水素酸の電解質/エッチング溶液を含む容器内に内にアノードおよびカソードを配置し、その後、アノードおよびカソードを外部DC電源に接続することによって、エッチングセルを完成させた。
【0116】
シリコンウェハのエッチングを誘発するために、エッチングセルの電極に様々な定電流(12.5mA/cm2、または25mA/cm2、または50mA/cm2、または150mA/cm2)を印加した。エッチング電流と共にエッチング時間を変え、20分〜4時間の間とした。より長いエッチング時間を、より小さいエッチング電流に対応させた。適切なエッチング時間の後、エッチング電流を200〜500mA/cm2に高めることによって、エッチングされたナノ多孔質シリコン層を基板から切り離した。これにより、エッチングされたシリコンの一部を基板から切り離した。図2は、電気化学的エッチング後の2つのp+シリコンウェハの断面の走査型電子顕微鏡(「SEM」)画像の合成写真である。図2の左図および右図に示されるp+シリコンウェハは、それぞれ、150mA/cm2で20分間、および50mA/cm2で1時間、電気化学的にエッチングしたものである。図2は、電気化学的エッチングプロセスによって生成されたナノ多孔質構造を示す。
【0117】
電気化学的エッチングを行い、エッチングされたシリコンをシリコンウェハから切り離した後、破砕し、次いで約20ミクロンのカットオフで粉末を篩にかけることによって、切り離したナノ多孔質シリコンから、多孔質のp+ナノ多孔質シリコン粒子を形成した。
【0118】
非活性導電性成分を含む複合材の形成
金属コーティングを備える多孔質シリコンから複合材を形成した。さらなる実施形態では、多孔質シリコンと共に炭素繊維を用いて電極を形成した。炭素繊維を備える電極に関して、市販の炭素繊維を入手し、電極形成中に、上述したように用意したp+多孔質シリコンと組み合わせた。炭素繊維に対する多孔質シリコン粉末の重量比は、0/7:0.3だった。炭素繊維を多孔質シリコン、アセチレンブラック、およびバインダと組み合わせ、約2時間にわたって混合して、上述したようにリチウム箔の対向電極を備える電池用の電極を形成した。電池性能の結果は以下に示す。
【0119】
また、多孔質シリコンの複合材を、炭素コーティングを備えて形成した。炭素コーティングを形成するために、上述したように合成した適量のp+ナノ多孔質シリコン粒子と、n−メチル−2−ピロリドン(「NMP」)中のポリアクリロニトリル(Sigma−Aldrich)とを混合することによってスラリを用意した。次いで、混合したスラリを、真空オーブン内で110℃で乾燥させた。次いで、乾燥させたスラリを、炉内で900℃で2時間〜4時間加熱して、ポリアクリロニトリルを炭化した。
【0120】
また、複合材を、銀または銅の金属コーティングと合成した。銀コーティングに関しては、上述したように合成した適量のp+ナノ多孔質シリコン粒子粉末を、6mMの硝酸銀溶液中で12時間拡散させた。溶液のpHは、水酸化アンモニウム、ホルムアルデヒド、またはメタノールの添加によって約9.3に保った。銅コーティングに関しては、上述したように合成した適量のp+ナノ多孔質シリコン粒子粉末を、84.5mMの塩化銅溶液中で拡散させた。ここで、0.5858gのCuCLを、70mLの5M HF溶液中に1時間で溶解した。1時間の無電解堆積後、溶液を濾過紙で濾過した。洗浄プロセスを完了させるために、余剰の水を使用し、次いでエタノールで最終的なリンスを行った。得られた生成物を、真空オーブン内で110℃で乾燥させた。
【0121】
性能:ナノ多孔質性の効果
電池性能に対するナノ多孔質シリコン電極活性材料およびそれらの複合材の効果を評価するために、リチウム箔負極およびそれぞれのシリコンベース電極組成物を備える5個の電池を上述したように形成した。電池は、真性の、すなわち孔のないp+シリコンを含む電極活性組成物(「真性負極」)から形成した。4個の電池を、ナノ多孔質p+シリコンを含むシリコンベース活性組成物(「ナノ多孔質シリコン電極」)から形成した。この実施例で上述したように、それぞれが、電気化学的エッチング条件を変えることによって生成される異なる度合いの多孔性および孔径を有する。各ナノ多孔質シリコン電極活性組成物に関するエッチングレートは、12.5mA/cm2、または25mA/cm2、または50mA/cm2、または150mA/cm2とした。エッチング時間は、それに対応してそれぞれ4時間、2時間、1時間、および0.3時間とした。
【0122】
電池を、0.01Vから1.5Vの間で、最初の2回のサイクルに関してはC/20、サイクル3および4に関してはC/10、サイクル5および6に関してはC/5、残りのサイクルに関してはC/3の速度でサイクルさせた。一般に、ナノ構造化シリコン電極を備える電池は、真性のp+シリコン電極から構成された電池と比べて、比放電容量に関して評価したときにサイクリング性能の改良を示さなかった。図3aおよび図3bは、上述したように形成した電池に関する、サイクル番号に対する比充電および放電容量のプロットを含むグラフである。図3bは図3aの拡大図であり、真性のp+シリコン電極を備える電池に関する結果を省き、見やすいように描き替えてある。図3aは、ナノ多孔質シリコン電極から形成した電池が、真性のp+シリコン電極から形成した電池に比べて比放電容量の低下を示すことを表す。しかし、ナノ多孔質シリコン電極を用いて形成した電池に関して、図3bは、より低いエッチング電流およびより長いエッチング時間でナノ多孔質シリコン電極活性材料を形成したときに、より良いサイクリング性能を実現することができることを示す。特に、12.5mA/cm2でのエッチングによって形成した多孔質シリコン電極を備える電池は、より高い電流密度およびより短いエッチング時間でのエッチングによって形成した多孔質シリコン電極を備える電池よりも良いサイクリング性能を有する。
【0123】
性能:非活性導電性成分の効果
負極活性材料に対するコーティングおよび/または緩衝材料の効果を実証するために、上述したようなリチウム箔負極と、様々なシリコンベース電極組成物とを用いて7個の電池を形成した。また、電池は、真性p+シリコンを含む電極(「真性負極」)を用いて形成した。この実施例で上述したようにp+シリコンウェハを12.5mA/cmで4時間電気化学的にエッチングすることによって得られたナノ多孔質p+シリコンを含むシリコンベース電極活性組成物(「ナノ多孔質シリコン電極」)を用いて、5個の電池を形成した。ナノ多孔質シリコン電極から形成した電池のシリコンベース電極活性材料は、炭素繊維を備える、または炭素繊維を備えないものとし、さらに、金属炭素コーティングを備える、熱分解炭素コーティングを備える、またはコーティングを備えないものとした。試験した各電池に関するシリコンベース電極組成物の要約を以下の表Iに列挙する。
【0124】
【表5】
【0125】
一般に、真性p+シリコン電極から形成した電池は、ナノ多孔質シリコン電極から形成した電池よりも良いサイクリング性能を有するが、ナノ多孔質シリコン電極活性材料への非活性導電性成分の添加が、ナノ多孔質シリコン電極活性材料から形成した電池のサイクリング性能を大幅に改良することが分かった。図4は、表Iに列挙した電池に関するサイクル番号に対する比充電および放電のプロットを含むグラフである。図4は、真性p+シリコン電極から形成した電池(電池1)が、非活性導電性成分を含まないナノ多孔質シリコン電極から形成した電池(電池2)よりも良いサイクリング性能を有することを示す。しかし、銅コーティング、または熱分解炭素コーティング、および/または炭素繊維を備えるナノ多孔質シリコン電極から形成した電池(電池3、4、および7)は、真性p+シリコン電極を用いて形成した電池(電池1)よりも良いサイクリング性能を有していた。さらに、熱分解炭素コーティングを備えるナノ多孔質シリコン電極から形成した電池(電池4)は、炭素繊維を備えるナノ多孔質シリコン電極から形成した電池(電池3)よりも少し良いサイクリング性能を有していた。銀の非活性導電性成分を用いて形成した電池(電池5および6)は、表Iで試験したすべての電池の中で最も望ましくないサイクリング性能を示した。
【0126】
実施例2−サイクリング性能:ナノシリコン粒子を含む熱分解炭素コーティング組成物の効果
この実施例は、コインセル電池内のナノ粒子シリコンの性能に対する、熱分解炭素コーティング形成の変更の効果を実証する。
【0127】
サイクリング性能を実証するために、リチウム箔負極および様々な正極組成物を備える3個のコイルセル電池を上述したように形成した。特に、電池は、Nanostructured and Amorphous Materials, Inc.製の、平均主粒径が50〜100nmのナノ粒子シリコンを含むシリコンベース活性組成物から形成した。熱分解炭素コーティングを有するシリコンベースの活性組成物を含む負極を用いて2つの電池を形成した。この熱分解炭素コーティングは、硬質炭素コーティングを形成するために高温でグルコースまたはクエン酸を炭化させることによって形成した。
【0128】
グルコースおよびクエン酸の炭化は、2つの異なる手法で行った。グルコースは、水中に溶解し、シリコンナノ粒子と混合させた。10mlの脱イオン化(DI)水中に1グラムの量のナノSiを溶解し、その混合物に0.5gmのグルコースを添加した。次いで、この溶液を超音波下で1時間混合した。得られた溶液を、Teflon(登録商標)容器に移送して、200℃で12時間、熱水処理した。室温への冷却後、溶液をDI水で洗浄し、濾過して、固体前駆体を得た。さらに、固体前駆体を真空オーブン内で80℃で4時間乾燥させた。乾燥させた固体前駆体を、セラミック坩堝内に入れ、管状炉内で750℃で4時間焼成した。10℃/分の加熱速度を使用した。熱処理後、炭素コーティングを施したナノシリコンを、モルタルおよび乳棒を使用して粉砕して、微細な粉末を得た。最終的な試料は、約15〜20重量%の炭素コーティングを有していた。図5は、得られたときのナノシリコン(左図)およびグルコースの熱水炭化後のナノシリコン(右図)を撮影した走査型電子顕微鏡画像の合成写真である。
【0129】
熱分解炭素コーティングを施されたナノシリコンをクエン酸から形成するために、50mLのエタノール中に20gのクエン酸を溶解した。継続的に撹拌しながら、この混合物に2gのナノSiを添加した。混合プロセスを改良するために、混合物を超音波下で1時間処理した。次いで、撹拌しながらエタノールを室温で蒸発させて、固体前駆体を得た。乾燥させた固体前駆体を、管状炉内で、アルゴン雰囲気中で2.5℃/分の加熱速度で、600℃で4時間熱処理した。最終的な試料における炭素含有量は、約20〜25重量%であった。
【0130】
電池を上述したように形成し、1.5Vから0.01Vの間で、最初の2回のサイクルに関してはC/20、サイクル3および4に関してはC/10、サイクル5および6に関してはC/5、残りのサイクルに関してはC/3の速度でサイクルさせた。一般に、熱分解炭素コーティングを備えるシリコンベース電極活性材料から形成した電池は、熱分解炭素コーティングなしで形成した電池よりも良いサイクリング性能を有していた。図6は、熱分解炭素コーティングを備える負極、および熱分解炭素コーティングなしの負極から形成した電池に関する、サイクル番号に対する比放電容量のプロットを含むグラフである。負極活性材料が硬質の熱分解炭素コーティングを備えていた電池は、負極活性材料が熱分解炭素コーティングを備えていなかった電池よりも大幅に良いサイクリングを示した。特に、電池は、50サイクルにわたって非常に大きい比放電容量を示した。さらに、熱分解炭素コーティングを備えるシリコンベース電極活性材料から作製した電池に関して、グルコースから形成した熱分解炭素コーティングを備える電池は、クエン酸から形成した熱分解炭素コーティングを備える電池よりも良いサイクリング性能を有していた。特に、熱分解炭素コーティングは、不可逆容量損失を、熱分解炭素コーティングなしのシリコンベース電極活性材料から作製した電池に関する38%から、それぞれグルコースおよびクエン酸から形成した熱分解炭素コーティングを備えるシリコンベース電極活性材料から作製した電池に関する約26%および24%に減少させた。さらに、50サイクルの終了時、熱分解炭素コーティングなしのナノシリコン電極活性材料から形成した電池がその容量の約40%しか維持しなかったのに対し、熱分解炭素コーティングを備えるナノシリコン電極活性材料から形成した電池は、それぞれクエン酸およびグルコースから形成した熱分解炭素コーティングに関して容量の60%および80%を維持した。
【0131】
実施例3−サイクリング性能:炭素−シリコン−硬質炭素複合材
この実施例は、黒鉛状炭素−シリコン−硬質炭素コーティングを施した複合材(CSi−HC)を含む活性材料から形成した電極から作製したコイルセル電池の性能を実証する。
【0132】
CSi−HC電極の形成
複合材の前駆体材料を、ボールミルによって用意した。特に、適量の粉末化シリコン粒子(Sigma−Aldrich、−325メッシュ)と、表面修飾された黒鉛(A3−MagD)と、n−メチル−2−ピロリドン中のポリアクリロニトリル(Sigma−Aldrich)とをボールミルに加えた。破砕速度150rpm〜300rpmで1時間〜15時間にわたって破砕することによってスラリを生成した。次いで、破砕したスラリを真空オーブンに移送し、100℃で3時間乾燥させた。次いで、乾燥させた混合物を炉に移送して、窒素雰囲気中で900℃で140分〜240分間、ポリアクリロニトリルを炭化して、熱分解硬質炭素を形成した。この実施例で使用した炭素(黒鉛)−シリコン−硬質炭素複合材は、Si18HC17Gr65(51.8重量%の黒鉛、34.5重量%のシリコン、および13.7重量%)の硬質炭素のコーティングを備えていた。
【0133】
シリコンベース電極を、上述したようにCSi−HC複合材活性材料(「CSi−HC電極」)から形成した。特に、シリコンベース材料を、約18μm〜約60μmの実質的に均一な積層厚さで形成した。
【0134】
サイクリング性能に対する積層厚さの効果
サイクリング性能に対する積層厚さの効果を実証するために、3個のコインセル電池を上述したように形成した。特に、電池を、リチウム箔負極と、様々な積層厚さのCSi−HC正極とから形成した。第1、第2、および第3の電池は、それぞれ18μm、26μm、および60μmのコーティングギャップを有して積層したCSi−HC正極を備えていた。電池を、0.01Vから1.5Vの間で、初回および2回目のサイクルに関してはC/20、3回目および4回目のサイクルに関してはC/10、5回目および6回目のサイクルに関してはC/5、後続のサイクルに関してはC/3の速度で充電および放電することによってサイクルさせた。結果は、以下の表IIに要約する(表IIでは、「比容量」を「SC」と略記してある)。
【0135】
一般に、正極積層厚さが大きくなると電池性能が低下することが分かった。図7は、異なる度合いの積層厚さを有するCSi−HC複合材を備える正極から作製した電池に関する、サイクル番号に対する比放電容量のプロットである。図7は、より小さい積層厚さを有するCSi−HC正極から形成した電池が、より大きい積層厚さを有するCSi−HC正極から形成した電池よりも良いサイクリング性能を有していたことを表す。特に、50サイクル後、5回目の放電サイクルに比べて、18μmの積層厚さを有するCSi−HC正極を用いて形成した電池はその放電容量の52%を維持し、26μmの積層厚さを有するCSi−HC正極を用いて形成した電池はその放電容量の46%を維持していた。60μmの積層厚さを有するCSi−HC正極から形成した電池は、50回目のサイクルよりも前に、デンドライト形成により故障した。
【0136】
【表6】
【0137】
HCMR(商標)カソードを用いた性能
電池サイクリング性能に対する正極組成物の効果を実証するために、2個の電池を形成した。第1の電池は、HCMR(商標)正極と、60μmのCSi−HC積層厚さを有するCSi−HC負極とから作製し(「CSi−HC/HCMR電池」)、どちらの電極も上述したように形成した。第1の電池は、HCMRの初回充電容量とシリコンベースアノードの初回放電容量とに基づいて評価される33%の余剰負極容量で平衡を図った。平衡のための容量の決定は、セル内で、それぞれの電極をリチウム箔に対して配置させ、シリコンベース電極に関しては10mV〜1.5V、HCMR電極に関しては0.5V〜4.6VでどちらもC/20の速度で動作させて行う。第2の電池は、HCMR正極およびリチウム箔負極から作製し(「Li/HCMR」電池)、どちらの電極も上述したように形成した。CSi−HC/HCMR電池を、4.6Vから0.5Vの間で、初回および2回目のサイクルに関してはC/20、3回目および4回目のサイクルに関してはC/10、5回目および6回目のサイクルに関してはC/5、後続のサイクルに関してはC/3の速度で充電および放電することによってサイクルさせ、Li/HCMR電池も、4.6Vから0.5Vの間で、CSi−HC/HCMR電池と同じ速度でサイクルさせた。
【0138】
リチウム箔負極およびCSi−HC正極から作製した電池(「Li/CSi−HC電池」)に比べて、CSi−HC/HCMR電池は良いサイクリング性能を有していた。図8は、CSi−HC/HCMR電池に関する、サイクル番号に対する比放電容量のプロットを含むグラフである。この電池に関する初回サイクルIRCLは、初めの充電容量の21.4%であった。特に、負極の質量に基づいて計算した比充電および放電容量に関してプロットを示す。図7と図8の比較から、60μmのCSi−HC積層厚さを有するLi/CSi−HC電池は50サイクルよりも前に故障し、一方、60μmのCSi−HC積層厚さを有するCSi−HC/HCMR電池は、50回目のサイクルで(7回目のサイクルに対して)その容量の72%を維持していたことが分かる。さらに、CSi−HC/HCMR電池のサイクリング性能は、この実施例で試験したすべてのCSi−HC/Li電池よりも優れたサイクリング性能を有していた。
【0139】
Li/HCMR電池に比べて、CSi−HC/HCMRは、低いサイクリング性能を有していた。図9は、正極の質量に基づいて計算した比充電および放電容量のプロットを含むグラフである。図9は、Li/HCMR電池が、CSi−HC/HCMR電池よりも良いサイクリングを示したことを表す。特に、上述したように、CSi−HC/HCMR電池は、(7回目のサイクルに対して)その容量の72%を維持していた。他方、Li/HCMR電池は、50回目のサイクル後に、(7回目のサイクルに対して)その容量の約84%を維持していた。
【0140】
CSi−HC負極の構造に対するサイクリングの効果
CSi−HC負極の構造に対するサイクリングの効果を評価するために、2個のCSi−HC/HCMR電池を、上述したように形成してサイクルさせた。第1の電池は15回サイクルさせ、第2の電池は100回サイクルさせた。さらに、比較のために、電池として組み立てずにCSiHC電極を調べた。CSi−HC電極は、長いサイクルにわたって物理的な劣化を受けた。図10は、撮影したCSi−HC電極のSEM画像の合成写真である。特に、左図は、サイクルさせていないCSi−HC電極のSEM画像を示す。中央の図および右図は、それぞれ15回および100回サイクルさせたCSi−HC/HCMR電池からの撮影したCSi−HC負極のSEM画像を示す。図10は、長いサイクルで、CSi−HC材料が、大きな亀裂の発生を含めた重大な構造変化を受けていることを示す。
【0141】
実施例4−サイクリング性能:炭素繊維−シリコン複合材
この実施例は、炭素繊維−シリコン(「CFSi」)複合材を含む活性材料から形成したシリコンベース電極から作製したコインセル電池の性能を実証する。
【0142】
CFSi複合材および対応する電極の形成
まず炭素コーティングをナノシリコン粒子上に形成し、その後、炭素コーティングを施したナノシリコンを炭素繊維と共に破砕することによって、炭素繊維−シリコン複合材料を用意した。炭素コーティングを形成するために、適量のポリ塩化ビニル(「PVC」)を、テトラヒドロフラン(「THF」)と混合させて、PVC−THF溶液を生成した。次いで、適量のナノシリコン(Nanostructured & Amorphous Materials, Inc.)をPVC−THF溶液に添加して、超音波処理によって1時間拡散させて、混合物を生成した。超音波処理後、THFが完全に乾燥するまで混合物を入念に撹拌し、次いで、得られたPVCナノシリコン混合物をアルゴン雰囲気中で900℃で1時間熱処理して、PVCを炭化させた。炭素コーティングプロセス後、試料を管状炉から取り出して、モルタルおよび乳棒を使用して粉砕し、粉末を44ミクロンのメッシュスクリーンに通して篩にかけた。炭素コーティングナノシリコンは、約20重量%の炭素と約80重量%のシリコンであった。図11は、コーティングなしのナノシリコン(左図)と炭素コーティングを施したナノシリコン(右図)のSEM画像の合成写真である。
【0143】
炭素コーティングを施したSi−炭素繊維複合材は、篩にかけた炭素のコーティングを施したシリコン85重量%と、炭素繊維15重量%とをジャーミルを使用して混合することによって用意した。必要な材料は、いくつかのジルコニア破砕ボールを用いるプラスチックジャー内で得られた。ジャーに1時間混合を行わせ、ジャーの内容物を、アノード調製プロセスのために収集した。ジャーミル混合プロセス後に、篩にかけるステップは行われない。CFSi複合材から、上述したように電極を形成した。
【0144】
サイクリング性能
CFSi複合材電極から作製した電池に関するサイクリング性能を実証するために、リチウム箔の対向電極またはHCMR(商標)電極を用いて3個のコインセル電池を形成し、ここで、電池および電極は上述したように形成した。第1の電池は、CFSi複合材ベースの電極およびリチウム箔負極から作製した(「CFSi/Li電池」)。第2の電池は、CFSiを含む負極およびHCMR(商標)正極から作製した(「非リチウム化CFSi/HCMR電池」)。不可逆容量損失を補償するために0.8mgの補助リチウムを含む第3の電池は、リチウム化CFSi負極およびHCMR正極から作製した(「リチウム化CFSi/HCMR電池」)。CFSi/HCMR電池はどちらも110%の負極容量で平衡を図った。
【0145】
様々なサイクリングプロトコルを使用して電池をサイクルさせた。CFSi/Li電池サイクリングプロトコルは、0.005Vから1.5Vの間で、初回および2回目のサイクルに関してはC/20の速度、3回目および4回目のサイクルに関してはC/10の速度、5回目および6回目のサイクルに関してはC/5の速度、後続のサイクルに関してはC/3の速度で充電および放電することを含んでいた。サイクルのインターカレーション/合金化段階の間、0.005Vの電圧に達するまで定電流を印加し、次いで、電流がC/50に達するまで定電圧を印加した。非リチウム化およびリチウム化CFSi/HCMR電池に関するサイクリングプロトコルは、初回サイクル後に、それぞれ4.5Vから1.0Vの間および4.5Vから1.5Vの間で、初回サイクル(4.6Vから1.0Vの間)に関してはC/20の速度、2回目のサイクルに関してはC/10の速度、3回目および4回目のサイクルに関してはC/5の速度、後続のサイクルに関してはC/3の速度で充電および放電することを含んでいた。CFSi/Li電池およびCFSi/HCMR電池に関する容量維持を、それぞれ7回目および5回目のサイクルでの比放電容量に対して測定した。
【0146】
図12および図13は、それぞれCFSi/Li電池およびCFSi/HCMR電池に関する、サイクル番号に対する比充電および放電容量のプロットを含むグラフである。比容量は、図12および図13において、それぞれ負極および正極内の活性材料の質量に基づいて計算した。図12と図13の比較から、CFSi/Li電池は、50サイクル後に63%の容量を維持し、非リチウム化およびリチウム化CFSi/HCMR電池の容量維持は、それぞれ約32%および78%であったことが分かる。さらに、図13は、リチウム化CFSi/HCMR電池の初回サイクルIRCLが、非リチウム化CFSi/HCMR電池(約25%)よりも減少している(約18%)ことを示す。
【0147】
非リチウム化CFSi/HCMR電池は、サイクリングと共に、CFSi/Li電池よりも大きな減衰を示した。一般に、LMOを含む正極を用いた電池では、どちらの電極も減衰に寄与することがある。また、シリコンベースアノードの減衰が、リチウム箔対向電極とLMO対向電極に関して同じであると考える根拠はない。すなわち、実際に最終的にはLMOベースの電極と共に使用するものと意図されているシリコンベース電極に関して、LMO電極を用いた性能測定がより現実的である。シリコンベース電極は、。リチウム化CFSi/HCMR電池は、容量減衰の減少に関して、大幅に改良されたサイリング性能を有していた。リチウム化CFSi/HCMR電池の改良された性能は、容量減衰の減少が、少なくとも一部は補助リチウムによるCFSi負極の安定化に起因していることを示唆することがある。
【0148】
図14は、非リチウム化およびリチウム化CFSi/HCMR電池に関する、サイクル番号に対する比充電および放電容量のプロットを含むグラフである。図13および図14に示したデータは、サイクリング中の同じ放電容量の測定から得たものであるが、図14に示す比放電容量は、負極の質量に基づいて計算した。図14に示されるように、非リチウム化CFSi/HCMR電池は、初期サイクルでは、リチウム化CFSi/HCMR電池よりも大きい比放電容量を有する。これは、非リチウム化電池では、SLMP(登録商標)粉末の存在に基づいて電池が平衡を図られるので、CFSi負極の重量が比較的小さいことに起因する。補助リチウムに関して調節して、どちらの電池も110%で平衡を図ったことに留意されたい。しかし、約18回目のサイクルの後、正極活性材料の所与の重量に関してリチウム化CFSi/HCMR電池の負極が比較的大きかったにせよ、非リチウム化CFSi/HCMR電池の比放電容量は、リチウム化CFSi/HCMR電池の比放電容量よりも減衰した。サイクリングに伴う減衰の大幅な減少に基づき、この結果は、補助リチウムの存在によってCFSi負極が安定化することと整合性があるが、減衰に対する正極からの寄与の可能性もあるため、この問題の評価は複雑である。
【0149】
実施例5−サイクリング性能:シリコン−金属合金複合材
この実施例は、炭素繊維を備えるシリコン−金属の金属間化合物/合金複合材を含む活性材料から形成したコインセル電池のサイクリング性能を実証する。
【0150】
シリコン−鉄−炭素繊維(「Si−Fe−CF」)金属間化合物/合金複合材料を、ジルコニア破砕媒体を用いた高エネルギーの機械的破砕によって用意した。前駆体材料は、325メッシュミクロンスケールのシリコン(Sigma−Aldrich)と、約44ミクロンの粒径を有する鉄粉末(Sigma−Aldrich)と、カーボンナノファイバとであった。成分材料は、ジルコニア媒体を用いた高エネルギーボールミルジャー内にSi70Fe15CF15の割合で一緒に入れ、300rpmで5時間粉砕した。粉砕後、材料を収集し、44ミクロンの篩にかけた。この実施例で使用したSi−Fe−CF複合材は、組成式Si70Fe15CF15によって表すことができ、ここで、「CF」は、複合材の炭素繊維成分であり、シリコン、鉄、および炭素繊維は、それぞれ約65.8重量%、27.5重量%、および6重量%で存在する。図15は、合成されたSi70Fe15CF15金属間化合物/合金複合材のX線回折測定(「XRD」)によって得た、散乱角度に対する強度のプロットを含むグラフであり、破砕中に合金化が行われたことを示す。ZrO2強度は、活性材料と混合された破砕成分からの微量のジルコニアによるものである。
【0151】
非リチウム化負極および(補助リチウムを有する)リチウム化負極を、Si70Fe15CF15金属間化合物/合金複合材から形成した。特に、電極(「SiFe−CF電極」および「リチウム化SiFe−CF電極」)を、上述したように形成した。
【0152】
サイクリング性能を実証するために、3個のコインセル電池を上述したように形成した。第1の電池は、SiFe−CF電極およびリチウム箔電極から作製した(「SiFe−CF/Li電池」)。第2の電池は、SiFe−CF負極およびHCMR正極から作製した(「非リチウム化SiFe−CF/HCMR電池」)。第3の電池は、リチウム化SiFe−CF負極およびHCMR正極から作製した(「リチウム化SiFe−CF/HCMR電池」)。HCMR正極は、上述したように形成した。
【0153】
様々なサイクリングプロトコルを使用して電池をサイクルさせた。SiFe−CF/Li電池サイクリングプロトコルは、1.5Vから0.005Vの間で、初回および2回目のサイクルに関してはC/20の速度、3回目および4回目のサイクルに関してはC/10の速度、5回目および6回目のサイクルに関してはC/5の速度、後続のサイクルに関してはC/3の速度で充電および放電することを含んでいた。放電(アノードへのリチウムインターカレーション/合金化)プロセスは、2つのステップを含んでいた。1つのステップでは、電圧が5mVに達するまで定電流を流し、さらに、電流がC/50に達するまで定電圧ステップを使用した。充電(アノードからのリチウム脱インターカレーション/脱合金化)プロセスでは、電圧が1.5Vに達するまでの定電流ステップのみを行った。非リチウム化およびリチウム化SiFeCF/HCMR電池に関するサイクリングプロトコルは、初回サイクル後に、それぞれ4.5Vから1.0Vの間および4.5Vから1.5Vの間で、初回(4.6Vから1.0Vの間)および2回目のサイクルに関してはC/10の速度、3回目および4回目のサイクルに関してはC/5の速度、後続のサイクルに関してはC/3の速度で充電および放電することを含んでいた。SiFe−CF/LiおよびSiFe−CF/HCMR電池に関する容量維持を、それぞれ7回目および5回目のサイクルでの比放電容量に対して測定した。
【0154】
SiFe−CF/Li電池は、SiFe−CF/HCMR電池に比べて容量減衰の減少を示した。実施例4で述べたように、LMOベース電極を用いた電池に関する容量減衰は、正極と負極両方からの寄与を受けることがある。図16および図17は、それぞれSiFe−CF/LiおよびSiFe−CF/HCMR電池に関する、サイクル番号に対する比充電および放電容量のプロットを含むグラフである。特に、図16および図17は、SiFe−CF/Liが、43サイクル後にその容量の約86%を維持していたことを表す。他方、同じ回数のサイクル後、非リチウム化およびリチウム化SiFe−CF/HCMR電池は、それらの容量の約60%および46%しか維持しなかった。これはまた、リチウム化SiFe−CF/HCMR電池内の補助リチウムの存在が、この実施形態においてはサイクリング性能を改良しなかったことを示す。さらに、図17は、非リチウム化SiFe−CF/HCMR電池がどちらも約17%の初回サイクルIRCLを有していたことを示し、これは、リチウム化SiFeCF/HCMR電池内の補助リチウムの存在が、この実施形態に関しては初回サイクルIRCLを減少させなかったことを示す。したがって、補助リチウムの存在に関し、シリコン合金は、ナノシリコンベースの活性材料または黒鉛状炭素活性材料で観察されたものとは大きく異なる挙動を示した。
【0155】
上述した実施形態は、限定ではなく例示として意図したものである。さらなる実施形態が特許請求の範囲に含まれる。さらに、特定の実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく形態および詳細に変更を加えることができることを当業者は理解されよう。上記文献の参照による援用は、本明細書における明示的な開示に反する主題は組み込まないように限定する。
【0156】
本文献は、California Energy Commission(カリフォルニア州エネルギー委員会)によって支援された研究の結果として成されたものである。必ずしもCalifornia Energy Commission、その従業員、またはカリフォルニア州の見解を表すものではない。California Energy Commission、カリフォルニア州、その従業員、請負業者、および下請け業者は、本文献における情報に関して、明示的にも黙示的にもいかなる保証も行わず、法的責任も持たない。また、いかなる当事者も、この情報の使用が私的な権利を侵害しないとは言明しない。
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のLopez他の「High Energy Density Lithium Battery」という名称の2009年11月3日出願の米国仮特許出願第61/257,728号に対する優先権を主張するものである。
【0002】
本明細書で述べる発明の発展形態は、少なくとも一部はU.S. Department of Energy(米国エネルギー省)による契約番号ARPA−E−DE−AR0000034での政府支援の下で資金提供された。米国政府は、本発明にいくらかの権利を有する。
【0003】
本発明は、リチウムイオン電池用の、シリコンをベースとする高容量の負極活性材料に関する。本発明はさらに、シリコンベース負極活性材料と、高容量リチウムリッチ正極活性材料とを用いて形成した電池、および補助リチウム源を備えるシリコンベースのリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0004】
リチウム電池は、それらの高いエネルギー密度により、家庭用電化製品で広く使用されている。いくつかの現在市販されている電池では、負極材料は黒鉛であることがあり、正極材料は、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、鉄リン酸リチウム(LiFePO4)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、ニッケルコバルト酸リチウム(LiNiCoO2)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNiMnCoO2)、ニッケルコバルトアルミニウム酸リチウム(LiNiCoAlO2)などを含むことがある。負極に関して、チタン酸リチウムが、良好なサイクリング特性を有する黒鉛の代替物質であるが、エネルギー密度はより低い。黒鉛に対する他の代替物質、例えば酸化スズやシリコンは、より高いエネルギー密度を提供する可能性がある。しかし、いくつかの高容量の負極材料は、高い不可逆容量損失、および構造変化に関係付けられる好ましくない放電および充電サイクリング、ならびにリチウムインターカレーション/合金化に関連付けられる特にシリコンに関する非常に大きな体積膨張により、市販には適していないことが判明している。構造変化および大きな体積変化は、電極の構造的な完全性を破壊し、それによりサイクリング効率を減少させる可能性がある。
【0005】
対応する電池の対応するエネルギー密度および出力密度を大幅に高めることができる新規の正極活性材料は、現在開発中である。特に有望な正極活性材料は、リチウムリッチの積層状組成物に基づくものである。特に、電池容量の改良は車両用途に望ましいことがあり、車両用途では、多数回の充電および放電サイクルにわたって適切な性能を維持することが重要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様では、本発明は、リチウム金属酸化物を含む正極と、負極と、正極と負極の間にある隔離板と、補助リチウムとを備えるリチウムイオン電池であって、負極が、シリコンを含み、C/3の速度で少なくとも約500mAh/gの比容量を有するリチウムイオン電池に関する。
【0007】
さらなる態様では、本発明は、リチウム金属酸化物を含む正極と、負極と、正極と負極の間にある隔離板とを備えるリチウムイオン電池であって、負極が、シリコンと、導電性成分と、ポリマーバインダとを含み、負極が、少なくとも約0.6g/cm3のシリコン活性材料の密度を有し、少なくとも約3.5mAh/cm2の単位面積当たりの容量を生み出すことができるリチウムイオン電池に関する。
【0008】
追加の態様では、本発明は、リチウム金属酸化物を含む正極と、負極と、正極と負極の間にある隔離板とを備えるリチウムイオン電池であって、負極が、シリコンと、導電性成分と、ポリマーバインダとを含み、負極が、シリコンベース活性材料と、ポリマーバインダと、約2重量パーセント〜約30重量パーセントの炭素繊維とを含み、炭素繊維が、約25nm〜約250nmの平均直径と、約2ミクロン〜約25ミクロンの平均長さとを有し、負極が、少なくとも約25ミクロンの平均乾燥厚さを有するリチウムイオン電池に関する。
【0009】
他の態様では、本発明は、リチウム金属酸化物を含む正極と、負極と、正極と負極の間にある隔離板と、任意選択の補助リチウムとを備えるリチウムイオン電池であって、負極が、シリコンベース活性材料と、導電性成分と、ポリマーバインダとを含み、バインダが、引裂きなしで少なくとも約50%の伸び率と、少なくとも約100MPaの引張り強さとを有するリチウムイオン電池に関する。
【0010】
さらに、本発明は、リチウム金属酸化物を含む正極と、負極と、正極と負極の間にある隔離板と、任意選択の補助リチウムとを備えるリチウムイオン電池であって、負極が、シリコンベース活性材料と、導電性成分と、ポリマーバインダとを含み、活性材料の量が、基準正極容量と基準負極容量が互いに約5パーセント以内に収まるように平衡を図られ、基準正極容量が、補助リチウムによって供給される任意の容量と正極容量との和であり、リチウム箔の対向電極を用いてC/20の速度で4.6Vから2Vで評価され、基準負極容量が、リチウム箔に対してC/20の速度で0.01Vから1.5Vで評価されるリチウムイオン電池に関する。
【0011】
他の実施形態では、本発明は、熱分解炭素コーティング、ナノ構造化シリコン、およびカーボンナノファイバまたは黒鉛状炭素を含む複合材料に関する。
【0012】
さらに、本発明は、リチウム金属酸化物を含む正極と、シリコンベース活性材料を含む負極と、正極と負極の間にある隔離板とを備えるリチウムイオン電池であって、4.5Vから1.0Vの間での50回の充放電サイクル後、負極活性材料で少なくとも約750mAh/g、および正極活性材料で少なくとも約150mAh/gを示すリチウムイオン電池に関する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】カソードと、アノードと、カソードとアノードの間にある隔離板とを有する電池スタックの概略斜視図である。
【図2】150mA/cm2で20分間(左図)および50mA/cm2で1時間(右図)、電気化学的にエッチングしたシリコンウェハの断面のSEM画像の合成写真である。
【図3a】真性のp+シリコン負極から作製した電池、および様々な電気化学的エッチング条件によって形成したナノ多孔質p+シリコン負極から作製した電池に関する、サイクル番号に対する比放電容量のプロットを含むグラフである。
【図3b】真性のp+シリコン負極から作製した電池に関する結果を省いた、図3aのプロットの一部の拡大図である。
【図4】真性のp+シリコン負極から作製した電池、および様々な活性または非活性導電性成分を用いて、または用いずに形成したナノ多孔質p+シリコン負極から作製した電池に関する、サイクル番号に対する比放電容量のプロットを含むグラフである。
【図5】熱分解炭素コーティングを備えない(左図)、および備える(右図)シリコンナノ粒子のSEM画像の合成写真である。
【図6】熱分解炭素コーティングを備える、および備えないシリコンベース活性組成物を含む負極から形成した電池に関する、サイクル番号に対する比放電容量のプロットを含むグラフである。
【図7】リチウム箔負極と、様々な積層厚さを有する炭素−シリコン−硬質炭素複合材活性材料を含む正極とを用いて作製した電池に関する、サイクル番号に対する比放電容量のプロットを含むグラフである。
【図8】HCMR(商標)正極と、炭素−シリコン−硬質炭素複合材活性材料を含む負極とから作製した電池に関する、サイクル番号に対する比充電および放電容量のプロットを含むグラフであって、比容量を負極活性材料の質量に基づいて計算したグラフである。
【図9】HCMR(商標)正極と、リチウム箔または炭素−シリコン−硬質炭素複合材活性材料を含む負極とから作製した電池に関する、サイクル番号に対する比充電および放電容量のプロットを含むグラフであって、比容量を正極活性材料の質量に基づいて計算したグラフである。
【図10】サイクリングしていない(左図)、15回サイクルさせた(中央図)、100回サイクルさせた(右図)炭素−シリコン−硬質炭素複合材活性材料を含む電極のSEM画像の合成写真である。
【図11】硬質炭素コーティングを備えない(左図)、および備える(右図)シリコンナノ粒子のSEM画像の合成写真である。
【図12】リチウム箔負極と、炭素−シリコン複合材活性材料を含む正極とを用いて形成した電池に関する、サイクル番号に対する比充電および放電容量のプロットを含むグラフである。
【図13】HCMR(商標)正極と、炭素繊維−シリコン複合材を含む負極とから作製した、補助リチウムを含む、および含まない電池に関する、サイクル番号に対する比充電および放電容量のプロットを含むグラフであり、比容量を正極活性材料の質量に基づいて計算したグラフである。
【図14】比容量を負極活性材料の質量に基づいて再計算した、図13に示したデータの再現図である。
【図15】シリコン−金属の金属間化合物/合金複合材の活性材料のX線回折測定によって得られた、散乱角度に対する強度のプロットを含むグラフである。
【図16】リチウム箔負極と、シリコン−金属の金属間化合物/合金複合材の活性材料を含む正極とから作製した電池に関する、サイクル番号に対する比充電および放電容量のプロットを含むグラフである。
【図17】HCMR(商標)正極と、シリコン−金属の金属間化合物/合金複合材の活性材料を含む負極とから作製した、補助リチウムを含む、および含まない電池に関する、サイクル番号に対する比充電および放電容量のプロットを含むグラフであって、比容量を活性正極材料の質量に基づいて計算したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
リチウムイオン電池用の負極に望ましい電池材料は、シリコンをベースとして開発されており、シリコンは、ナノ構造化することができ、および/または複合材として形成することができる。いくつかの実施形態では、対応するリチウムイオン電池は、補助リチウムを含むことができ、補助リチウムは、複数の目的に役立つことがある。特に、補助リチウムは、シリコンベース負極からの比較的大きな不可逆容量損失を補償し、また高容量リチウムリッチ正極活性材料を安定させることができる。関連の実施形態に関して、適したナノ構造化シリコンとしては、例えばナノ微粒子シリコンやナノ多孔質シリコン粒子がある。いくつかの実施形態では、複合材は、ナノスケール炭素(繊維または粒子)、黒鉛状炭素、および/または熱分解炭素コーティングなどの炭素成分を含むことがある。望ましい熱分解炭素コーティングは有機組成物から形成することができ、有機組成物は、炭素コーティングを形成するために、有機組成物の熱分解の前および後に、比較的均一なコーティングを得られるように溶媒と共に塗布することができる。炭素コーティングの代替として元素金属コーティングを塗布することもできる。得られる高容量負極材料は、高容量リチウムリッチ正極活性材料と共に効果的にサイクルさせることができる。得られるリチウムイオン電池は、負極活性材料と正極活性材料どちらでも高い比容量を有することができる。
【0015】
リチウムは、一次電池と二次電池どちらにも使用されている。電池での使用に関して魅力的なリチウム金属の特徴は、それが軽量であること、および最も電気陽性の強い金属であることであり、有利には、これらの特徴のいくつかの側面をリチウムベースの電池にも取り入れることができる。特定の形態の金属、金属酸化物、および炭素材料が、インターカレーション、合金化、または同様のメカニズムによってその構造内にリチウムイオンを取り込むものとして知られている。リチウムイオン電池とは、一般に、負極活性材料もリチウムインターカレーション/合金化材料である電池を表している。
【0016】
元素リチウム金属自体がアノードまたは負電気活性材料として使用される場合、得られる電池は一般にリチウム電池と呼ばれる。リチウム電池は、始めは良い性能でサイクルすることができるが、リチウム金属の堆積時にデンドライトが生じることがあり、これが最終的には隔離板を壊して、電池の故障を生じることがある。したがって、市販のリチウムベース二次電池は、一般に、カソードまたは正極に比べて負極の容量のわずかに余剰にして、リチウム堆積電圧よりも高い電圧でインターカレーション/合金化などにより機能する負極活性材料を使用することによってリチウム金属の堆積を防止している。負極がリチウムインターカレーション/合金化組成物を含む場合、その電池はリチウムイオン電池と呼ばれることがある。
【0017】
本明細書で述べる電池は、リチウムイオンを含む非水性電解質溶液を使用するリチウムイオン電池である。充電中の二次リチウムイオン電池において、カソード(正極)で酸化が生じ、リチウムイオンが抜き出されて、電子が解放される。放電中には、カソードで還元が生じ、リチウムイオンが取り込まれ、電子が消費される。特に断りのない限り、本明細書で言及する性能値は室温でのものである。
【0018】
本明細書では、用語「元素」は、従来の用法で周期表の要素を表すものとして使用し、元素は、組成物中にある場合には適切な酸化状態であり、元素形態であることが明記されているときにのみその元素形態M0である。したがって、金属元素は一般に、その元素形態、またはそれに対応する、金属の元素形態からなる合金でのみ、金属状態である。すなわち、金属合金以外の金属酸化物または他の金属組成物は、一般には金属性でない。
【0019】
リチウムイオン電池を使用するとき、正極および負極でのリチウムの取込みおよび解放は、電気活性材料の構造の変化を誘発する。これらの変化が実質的に可逆である限り、材料の容量は変化しない。しかし、活性材料の容量は、多かれ少なかれサイクリングと共に減少することが観察される。したがって、ある回数のサイクル後、電池の性能は許容値未満に低下し、電池が交換される。また、電池の初回のサイクルにおいて、一般に、後続のサイクルでの1サイクル当たりの容量損失よりもかなり大きい不可逆容量損失が生じる。この不可逆容量損失は、新しい電池の充電容量と初回の放電容量の差である。不可逆容量損失は、それに対応して、初めのサイクル中の電池材料の変化によりセルの容量、エネルギー、および出力を減少させる。
【0020】
以下に述べるように、不可逆容量損失により生じるサイクリング容量の損失を補償するために、電池内に補助リチウムを含むことができる。従来のリチウムイオン電池では、サイクリングのためのリチウムは、リチウムを含む正極活性材料のみによって供給される。電池は最初に充電されて、正極から負極にリチウムを移動し、その後、負極においてこのリチウムを電池の放電に利用可能である。不可逆容量損失は、初めの充電/放電サイクル中の材料に対する不荷逆変化に関連付けることができる。
【0021】
元素シリコンは、リチウムの取込みおよび解放に関して、その非常に高い比容量により、見込みのある負極材料として大きな注目を集めている。シリコンはリチウムと合金を生成し、これは、理論上は、シリコン原子1個につき4個よりも多いリチウム原子に対応するリチウム含有量(例えばLi4.4Si)を有することができる。したがって、シリコンの理論上の比容量は、4000〜4400mAh/g程度であり、これは、黒鉛に関する理論上の容量約370mAh/gよりもかなり大きい。黒鉛は、6個の炭素原子にほぼ1個のリチウム原子のレベル(LiC6)までリチウムをインターカレートすると考えられる。また、元素シリコン、シリコン合金、シリコン複合材などは、黒鉛と同様のリチウム金属に対する低いポテンシャルを有することがある。しかし、シリコンは、リチウムと合金化すると、非常に大きい体積変化を受ける。元の体積の2〜3倍程度以上での大きな体積膨張が観察されており、この大きな体積変化は、シリコンベース負極を有する電池のサイクリング安定性の大幅な低下と相関されている。
【0022】
また、リチウムベース電池の負極での元素シリコンは、電池の初回の充電/放電サイクル中に大きな不可逆容量損失(IRC)を生じることが観察される。シリコンベースアノードの高いIRCLは、電池のエネルギー出力に利用可能な容量のかなりの部分を消費することがある。従来のリチウムイオン電池では、カソードすなわち正極がすべてのリチウムを供給するので、アノードすなわち負極での高いIRCLにより低エネルギーの電池となることがある。大きなアノードIRCLを補償するために、余剰のカソード材料を使用して追加のリチウムを供給し、適切にセルの平衡を図ることができるが、これにより、セルがより高価になり、エネルギー密度がより低くなる。あるいは本明細書で述べるように、補助リチウムがリチウムを供給し、それに対応して、シリコンベース材料の高いIRCLにより失われた容量を埋め合わせることができる。また、シリコンベース材料の設計は、IRCLを減少させるように選択することができる。また、補助リチウムは、リチウムリッチ高容量正極活性材料を安定させることが判明している。
【0023】
リチウムリッチ積層状金属酸化物は、正極活性材料として比較的高い比容量でサイクルすることが判明している。これらの積層状材料は、新世代の高容量正極活性材料として商業用途に非常に有望と見られている。電池の全体の性能は、負極と正極両方の容量、およびそれらの相対的な平衡に基づく。より高い容量の正極活性材料が電池で使用されるとき、全体の電池設計の文脈において、負極活性材料の比容量の改良がより重要となることがある。高容量カソード材料を有することは、すなわち、電池において高容量カソードの重量の一部のみを使用してLiCoO2電池と同じエネルギー密度を得ることができることを意味する。同じ性能を得るために使用するカソード材料がより少なければ、電池の価格および重量が下がる。この観点から、リチウムリッチ積層状正極活性材料と、高容量シリコンベース負極活性材料との組合せが、特に望ましい全体の電池性能を提供することができる。
【0024】
補助リチウムは、負極の不可逆容量損失によりサイクルしないリチウムの代わりとなることができる。さらに、補助リチウムを含むことにより、リチウムリッチ積層状リチウム金属酸化物組成物に基づく正極を安定させることができることが発見されている。特に、これらのリチウムリッチ金属酸化物に関して、補助リチウムは、多数回のサイクル数にわたって正極組成物の容量を安定させることができる。正極活性材料のサイクリングのこの改良は、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のAmiruddin他の「Lithium Ion Batteries With Supplemental Lithium」という名称の米国特許出願第12/938,073号にさらに記載されている。
【0025】
比較的大きい比容量を提供する積層状リチウム金属酸化物は、電池の初めの充電中の材料に対する変化に関連付けられる大きな不可逆容量損失を示す。正極に関連付けられる不可逆容量損失は、負極に堆積されることがあるが、後で正極活性材料にインターカレートさせることができないリチウムを生じることがある。正極からのこの余剰のリチウムは、電池に導入される補助リチウムとは別個のものである。なぜなら、電池は、電池の初めの充電中にリチウムを完全に装填されるリチウム金属酸化物を用いて組み立てられるからである。
【0026】
補助リチウムは、様々な方法で負極に提供することができる。特に適した手法としては、例えば、電池への元素リチウムの導入、負極活性材料に移動させることができる活性リチウムを含む犠牲材料の組込み、または負極活性材料へのリチウムの事前装填がある。初めの充電後、補助リチウムは負極活性材料と関連付けられるが、リチウムの一部は、固体電解質中間相層など不可逆反応副生成物と関連付けられることがある。
【0027】
アノード、すなわち負極に関連付けた元素リチウムの導入は、補助リチウムを導入するのに適した一法となり得る。特に、補助リチウムを供給するために、元素リチウム粉末または箔を負極と関連付けることができる。いくつかの実施形態では、元素リチウム粉末を電極の表面上に配置することができる。負極内部の元素リチウムなどの補助リチウム源は、一般に、電極が電解質と接触すると、シリコンベース活性材料との反応を開始することができる。なぜなら、この反応は、電極構造内で導電性が提供されている限り自発的なものだからである。
【0028】
代替または追加の実施形態では、補助リチウム源は、正極、すなわちカソードと関連付けることができ、または別個の犠牲電極と関連付けることができる。補助リチウム源が正極または別個の犠牲電極と関連付けられる場合、補助リチウムを含む電極と負極との間に電流が流れて、それぞれの半反応をサポートし、これは最終的に、負極活性材料の内部に補助リチウムを配置させ、場合によっては、補助リチウムの一部が、副反応、例えばSEI層の形成や、不可逆容量損失をもたらす他の反応で消費される。
【0029】
さらなる実施形態では、補助リチウムは、電池の構成前に負極活性材料内に配置することができる。例えば、電池の組立て前に、補助リチウムを、電気化学的インターカレーション/合金化によって活性材料内に挿入することができる。電気化学的堆積を行うために、シリコンベース電極を、電解質と、リチウム箔などの補助リチウム源とを備える構造として組み立てることができる。電解質の存在下で元素リチウムが活性材料と電気的に接触する場合、元素リチウムと活性合金化/インターカレーション材料との反応が自発的に生じることがある。あるいは、この構造は、電解質および隔離板を備えるセルとして組み立てることができ、隔離板が、シリコンベース電極と、リチウム箔など補助リチウムを含む電極とを隔離する。セルを通る電流は、シリコンベース電極内へのリチウムの組込みを実現するように制御することができる。所望の量のリチウムの堆積後、このシリコンベース電極を使用して、最終的なリチウムイオン電池に組み立てることができる。
【0030】
黒鉛状炭素ベース電極では、電極は、比較的多数回のサイクルにわたるサイクリング後に、リチウム金属酸化物正極活性材料を有する電池を実質的に完全に放電した後に、抜き出すことができるリチウムを有することが判明している。リチウムは、正極活性材料および補助リチウムから電池に供給される。この残余リチウムは、リチウムリッチ正極活性材料と共に使用するときに電池サイクリングを安定させることが判明している。また、残余リチウムの量は、サイクル数が増えると共に徐々に減少することが判明している。黒鉛状炭素電極に関する測定に基づいて、補助リチウムを含むシリコンベース電極は、リチウム金属酸化物正極を用いた電池を放電した後に電極から抜き出すことができる残余リチウムを提供すると予想される。上で参照した補助リチウム出願を参照されたい。
【0031】
ナノ構造化シリコンは、サイクリングに伴う対応する電池の性能劣化の減少を示しながら、シリコンリチウム合金の生成に関連付けられる大きな体積変化により良く対処するように提案されている。適切なナノ構造化シリコンとしては、例えばナノ多孔質シリコンやナノ微粒子シリコンがある。いくつかの実施形態に関して本明細書で述べるように、ナノ構造化シリコンは、炭素との複合材および/または他の金属元素との合金として形成することができる。改良されたシリコンベース材料の設計の目的は、サイクリングにわたって負極材料をさらに安定させると同時に、高い比容量を維持し、いくつかの実施形態では初回充電および放電サイクルでの不可逆容量損失を減少させることである。本明細書で述べるように、熱分解炭素コーティングも、電池性能に関してシリコンベース材料を安定させることが観察される。
【0032】
複合材料に関して、ナノ構造化シリコン成分は、例えば炭素ナノ粒子および/またはカーボンナノファイバと組み合わせることができる。例えばこれらの成分を破砕して複合材を形成することができ、複合材中で材料は密接に関連付けられる。一般に、その関連付けは、より硬質の炭素材料の上にコーティングされた、またはそれらと機械的に付着されたより軟質のシリコンなど、機械的な特徴を有すると考えられる。追加または代替の実施形態では、シリコンを金属粉末と共に破砕して、対応するナノ構造を有することができる合金を形成することができる。炭素成分をシリコン−金属合金と組み合わせて、多成分複合材を形成することができる。
【0033】
有機組成物を熱分解することによって、望ましい炭素コーティングを形成することができる。有機組成物を比較的高い温度、例えば約800℃〜約900℃で熱分解して、硬質の非晶質コーティングを形成することができる。いくつかの実施形態では、望ましい有機組成物を、水および/または揮発有機溶媒など、シリコンベース成分と組み合わせるのに適した溶媒中に溶解することができる。分散液をシリコンベース組成物とよく混合させることができる。混合物を乾燥させて溶媒を除去した後、乾燥させた混合物を、酸素を含まない雰囲気中で加熱し、有機ポリマーやいくつかの低分子固体有機組成物などの有機組成物を熱分解して、炭素コーティングを形成することができる。炭素コーティングは、得られる材料の容量を驚くほど大きく改良することができる。また、糖やクエン酸などの環境に優しい有機組成物も、熱分解炭素コーティングの形成に望ましい前駆体であることが判明している。熱分解炭素コーティングの代替として、銀や銅などの元素金属コーティングを塗布して、導電性を与え、かつシリコンベース活性材料を安定させることもできる。元素金属コーティングは、金属塩の溶液ベースの還元によって塗布することができる。
【0034】
高容量シリコンベース材料は、高容量正極活性材料と組み合わせると特に価値がある。一般に、アノードとカソードは比較的平衡を図られており、それにより、電池は、使用されない電極容量の大きな無駄および関連コストを伴わず、また、使用されない電極容量に関連付けられる対応する重量および体積をなくす。リチウムイオン電池における両方の電極に関して同時に高容量の結果を得ることができる。さらに、2つの電極のサイクリング容量は個別に減衰することがあり、どちらの電極の容量も不可逆容量損失を受ける。リチウムリッチ積層状組成物を含む正極は、大きな初回サイクル不可逆容量損失を示すことがある。しかし、一般に、高容量シリコンベースアノードが、正極活性材料よりもかなり大きいIRCLへの影響を示すことがある。IRCLを減少させるように負極活性材料の設計を選択することができ、これは、セル設計における余剰アノード分の減少に関して重要であることがある。また、正極活性材料も同様に、正極に関連付けられるIRCLを減少させるように設計することができる。さらに、正極の追加の容量の代わりに補助リチウムを使用して、負極の比較的大きなIRCLを補償することができる。負極および正極を適切に安定させることにより、どちらの電極においても高容量材料を備える電池は、少なくとも中位のサイクル数にわたって、どちらの電極に関しても高い比容量を示すことができる。
【0035】
リチウムイオン電池構造
リチウムイオン電池は、一般に、正極(カソード)と、負極(アノード)と、負極と正極の間の隔離板と、リチウムイオンを含む電解質とを備える。電極は、一般に、金属箔など金属集電体に関連付けられる。リチウムイオン電池とは、負極活性材料が充電中にはリチウムを取り込み放電中にはリチウムを解放する材料である電池を表す。図1を参照すると、電池100が概略的に示されており、この電池100は、負極102と、正極104と、負極102と正極104の間の隔離板106とを有する。電池は、スタックなどの形で、適切に配置された隔離板と共に複数の正極および複数の負極を備えることができる。電極と接触する電解質は、隔離板を介する逆極性の電極間でのイオン伝導性を与える。電池は、一般に、負極102および正極104にそれぞれ関連付けられた集電体108、110を備える。基本的な電池構造および組成をこの節で説明し、補助リチウムの組込みに関連する修正形態は以下にさらに説明する。
【0036】
生じる電池電圧はカソードとアノードでのハーフセル電位の差であるので、正極活性材料と負極活性材料の性質がこの電圧に影響を及ぼす。適切な正極活性材料を以下に説明する。特に興味深い材料は、リチウム金属酸化物である。適した負極リチウムインターカレーション/合金化組成物としては、例えば黒鉛、人造黒鉛、コークス、フラーレン、他の黒鉛状炭素、五酸化ニオブ、スズ合金、シリコン、シリコン合金、シリコンベース複合材、酸化チタン、酸化スズ、およびチタン酸リチウム、例えばLixTiO2(0.5<x≦1)やLi1+xTi2−xO4(0≦x≦1/3)を挙げることができる。黒鉛状炭素および金属酸化物負極組成物が、インターカレーションまたは同様のプロセスによってリチウムを取り込み、また解放する。シリコンおよびスズ合金は、リチウムを取り込んで合金からリチウムを解放できるようにリチウム金属と共に合金を成し、それに対応してリチウムを解放する。特に興味深い負極活性材料を以下に詳細に論じる。
【0037】
正極活性組成物と負極活性組成物は、一般に、対応する電極内にポリマーバインダによって一体に保持された粉末組成物である。バインダは、電解質と接触するとき、活性粒子にイオン伝導性を与える。適したポリマーバインダとして、例えば、フッ化ポリビニリデン、ポリイミド、ポリエチレンオキシド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリレート、ゴム、例えばエチレン−プロピレン−ジエンモノマー(EPDM)ゴム、またはスチレンブタジエンゴム(SBR)、それらの共重合体、またはそれらの混合物が挙げられる。特に、熱硬化性ポリイミドポリマーが望ましいものと分かっており、これは、それらの高い機械的強度に起因することがある。以下の表に、ポリイミドポリマーの供給元、および対応するポリイミドポリマーの名称を示す。
【0038】
【表1】
【0039】
ポリマーの特性に関して、電極用途に関するいくつかの重要な特性を以下の表に要約する。
【0040】
【表2】
【0041】
PVDFは、フッ化ポリビニリデンを表し、CMCは、ナトリウムカルボキシメチルセルロースを表す。伸び率は、ポリマーの破断前の伸びをパーセント単位で表す。一般に、シリコンベース材料に対処するために、少なくとも約50%、さらなる実施形態では少なくとも約70%の伸び率を有することが望ましい。同様に、ポリマーバインダが、少なくとも約100MPa、さらなる実施形態では少なくとも約150MPaの引張り強さを有することが望ましい。引張り強さは、参照により本明細書に援用するASTM D638−10 Standard Test Method for Tensile Properties of Plastics(プラスチックの引張特性に関する標準試験法)における手順に従って測定することができる。上記の明示した範囲に含まれるさらなる範囲のポリマー特性が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。バインダ中の粒子装填率は大きく、例えば約80重量パーセントよりも大きいことがある。電極を形成するために、ポリマー用の溶媒など適切な液体中で粉末をポリマーとブレンドすることができる。得られたペーストを電極構造に押し入れることができる。
【0042】
また、一般に、正極組成物および場合によっては負極組成物は、電気活性組成物とは別の導電性粉末を含む。適した補助導電性粉末として、例えば、黒鉛、カーボンブラック、金属粉末、例えば銀粉末、金属繊維、例えばステンレス鋼繊維など、およびそれらの組合せが挙げられる。一般に、正極は、約1重量パーセント〜約25重量パーセント、さらなる実施形態では約2重量パーセント〜約15重量パーセントの別の導電性粉末を含むことができる。上に明示した範囲に含まれるさらなる範囲の導電性粉末量およびポリマーバインダが企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0043】
電極は、一般に、電極と外部回路の間の電子の流れを促すために導電性集電体と関連付けられる。集電体は、金属箔や金属グリッドなど金属を含むことができる。いくつかの実施形態では、集電体は、ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼、銅などから形成することができる。集電体上に薄膜として電極材料を鋳造することができる。次いで、電極材料と集電体を例えばオーブン内で乾燥させて、電極から溶媒を除去することができる。いくつかの実施形態では、集電体箔または他の構造と接触している乾燥させた電極材料に、例えば約2〜約10kg/cm2(キログラム/平方センチメートル)の圧力をかけることができる。
【0044】
隔離板が正極と負極の間に位置される。隔離板は、電気絶縁性であると同時に、2つの電極間で、少なくとも選択されたイオンの伝導を可能にする。隔離板として様々な材料を使用することができる。市販の隔離板材料は、一般に、イオン伝導を可能にする多孔質シートであるポリエチレンおよび/またはポリプロピレンなどのポリマーから形成される。市販のポリマー隔離板としては、例えば、Hoechst Celanese, Charlotte, N.C.からのCelgard(登録商標)系列の隔離板材料が挙げられる。また、セラミック−ポリマー複合材料が隔離板用途で開発されている。これらの複合材隔離板は、より高温で安定であることがあり、またこの複合材料は、発火の危険を大幅に低減させることができる。隔離板材料用のポリマー−セラミック複合材は、参照により本明細書に援用するHennige他の「Electric Separator, Method for Producing the Same and the Use Thereof」という名称の米国特許出願公開第2005/0031942A号にさらに記載されている。リチウムイオン電池の隔離板用のポリマー−セラミック複合材は、Evonik Industries(ドイツ)によって商品名Separion(登録商標)の下で販売されている。
【0045】
電解質として、溶媒和イオンを含む溶液を挙げ、溶媒和イオンを生成するために適切な液体中に溶解しているイオン組成物を電解質塩と呼ぶ。リチウムイオン電池用の電解質は、1種または複数種の選択されたリチウム塩を含むことができる。適切なリチウム塩は、一般に不活性アニオンを有する。適したリチウム塩としては、例えば、ヘキサフルオロリン酸リチウム、ヘキサフルオロヒ酸リチウム、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニルイミド)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、リチウムトリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド、テトラフルオロホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、テトラクロロアルミン酸リチウム、塩化リチウム、リチウムジフルオロオキサレートボレート、およびそれらの組合せが挙げられる。従来、電解質は、濃度1Mのリチウム塩を含むが、より高いまたは低い濃度を使用することもできる。
【0046】
対象のリチウムイオン電池に関して、リチウム塩を溶解するために、一般に非水性液体が使用される。溶媒は、一般に電気活性材料を溶解しない。適切な溶媒としては、例えば、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、炭酸メチルエチル、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、トリグライム(トリ(エチレングリコール)ジメチルエーテル)、ジグライム(ジエチレングリコールジメチルエーテル)、DME(グライムまたは1,2−ジメチルオキシエタンまたはエチレングリコールジメチルエーテル)、ニトロメタン、およびそれらの混合物が挙げられる。高電圧リチウムイオン電池に特に有用な溶媒は、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のAmiruddin他への「Lithium Ion Battery With High Voltage Electrolytes and Additives」という名称の2009年12月4日出願の米国特許出願第12/630,992号(‘992号出願)にさらに記載されている。
【0047】
本明細書で述べる電解質は、プリズム形状の電池、巻型円筒形電池、コイン電池、または他の妥当な電池形状など、様々な市販の電池設計に組み込むことができる。電池は、単一の電極スタック、または並列および/または直列電気接続で組み立てられた各充電の複数の電極を備えることができる。適切な導電性タブを集電体に溶接などで接続することができ、得られたゼリーロールまたはスタック構造を金属キャニスタまたはポリマーパッケージ内に配置することができ、負極タブおよび正極タブを適切な外部接点に溶接する。電解質をキャニスタに加え、キャニスタを封止して電池を完成させる。いくつかの現在使用されている再充電可能な市販の電池としては、例えば、円筒形の18650電池(直径18mm、長さ65mm)や26700電池(直径26mm、長さ70mm)が挙げられるが、他の電池サイズを使用することもできる。ポーチ電池は、参照により本明細書に援用するBuckley他の「High Energy Lithium Ion Secondary Batteries」という名称の米国特許出願公開第2009/0263707号に記載されているように構成することができる。
【0048】
正極活性組成物
いくつかの実施形態では、リチウムイオン電池正極材料は、任意の妥当な正極活性材料でよく、例えば、六角形格子構造を有する化学量論的な層状カソード材料、例えばLiCoO2、LiNiO2、LiMnO2など;正方形スピネルカソード材料、例えばLiMn2O4、LiNi0.5Mn1.5O4、Li4Mn5O12など;オリビンLiMPO4タイプの材料(M=Fe、Co、Mn、それらの組合せなど);層状カソード材料、例えばLi1+x(NiCoMn)0.33−xO2(0<x<0.3)系;積層状複合材、例えばxLi2MnO3・(1−x)LiMO2(ここで、Mは、Ni、Co、Mn、それらの組合せなどでよい);および層状スピネル構造などの複合材構造、例えばLiMn2O4・LiMO2である。追加または代替の実施形態では、リチウムリッチ組成物は、組成LiMO2を基準とすることができ、ここでMは、平均酸化状態が+3の1つまたは複数の金属である。一般に、リチウムリッチ組成物は、組成式Li1+xM1−yO2−zFzで近似的に表すことができ、ここでMは、1つまたは複数の金属元素であり、xは、約0.01〜約0.33であり、yは、約x−0.2〜約x+0.2であり、ただしy≧0とし、zは0〜約0.2である。積層状複合材組成物では、xはyにほぼ等しい。一般に、リチウムリッチ組成物中の追加のリチウムはより高い電圧で利用可能であり、したがって、初めの充電は、追加の容量が利用可能になるように比較的高い電圧で行われる。
【0049】
特に興味深いリチウムリッチ正極活性材料は、組成式Li1+bNiαMnβCoγAδO2−zFzによって近似的に表され、ここで、bは約0.01〜約0.3の範囲内にあり、αは約0〜約0.4の範囲内にあり、βは約0.2〜約0.65の範囲内にあり、γは0〜約0.46の範囲内にあり、δは0〜約0.15の範囲内にあり、zは0〜約0.2の範囲内にあり、ただしαとγはどちらもゼロでないものとし、Aは、Mg、Sr、Ba、Cd、Zn、Al、Ga、B、Zr、Ti、Ca、Ce、Y、Nb、Cr、Fe、V、Li、またはそれらの組合せである。上記の明示した組成範囲に含まれるさらなる範囲のパラメータ値が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。この節での以下の論述を分かりやすくするために、任意選択のフッ素ドーパントは以降では論じない。フッ素ドーパントを含む望ましいリチウムリッチ組成物は、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のKumar他の「Fluorine Doped Lithium Rich Metal Oxide Positive Electrode Battery Materials With High Specific Capacity and Corresponding Batteries」という名称の米国特許出願第12/569,606号にさらに記載されている。Mnの代わりにAがドーパントとしてのリチウムである組成物が、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のVenkatachalam他の「Lithium Doped Cathode Material」という名称の米国特許出願第12/870,295号に記載されている。+2金属カチオンドーパント、例えばMg+2によって得られる具体的な性能特性は、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のKarthikeyan他の「Doped Positive Electrode Active Materials and Lithium Ion Secondary Batteries Constructed Therefrom」という名称の米国特許出願第12/753,312号に記載されている。
【0050】
b+α+β+γ+δがほぼ1である場合、上の組成式を有する正極材料は、xLi2M’O3・(1−x)LiMO2(ここで0<x<1)として2成分組成式で近似的に表すことができ、ここでMは、平均原子価が+3の1つまたは複数の金属カチオンであり、いくつかの実施形態では、少なくとも1つのカチオンがMnイオンまたはNiイオンであり、M’は、平均原子価が+4の1つまたは複数の金属カチオン、例えばMn+4である。積層状複合材結晶構造は、材料の安定性をサポートする余剰のリチウムを含む構造を有すると考えられる。例えば、リチウムリッチ材料のいくつかの実施形態では、Li2MnO3材料は、層状LiMO2成分と構造的に一体化されていることがあり、ここでMは、選択された非リチウム金属元素またはそれらの組合せを表す。これらの組成は、全般的に、参照により本明細書に援用するThackeray他の「Lithium Metal Oxide Electrodes for Lithium Cells and Batteries」という名称の米国特許第6,680,143号に記載されている。
【0051】
近年、組成物の化学量論を特定的に設計することにより、正極活性材料の性能特性を定めることができることが判明している。特に興味深い正極活性材料は、xLi2MnO3・(1−x)LiMO2と2成分表記で近似的に表すことができ、ここでMは、平均原子価が+3の1つまたは複数の金属元素であり、元素の1つががMnであり、別の金属元素がNiおよび/またはCoである。一般に0<x<1であるが、いくつかの実施形態では0.03≦x≦0.55、さらなる実施形態では、0.075≦x≦0.50、追加の実施形態では0.1≦x≦0.45、他の実施形態では0.15≦x≦0.425である。上記の明示した範囲に含まれるさらなる範囲のパラメータxが企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。例えば、Mは、ニッケル、コバルト、およびマンガンの組合せでよく、これらは、例えば、初期マンガン酸リチウム中では酸化状態Ni+2、Co+3、およびMn+4であることがある。これらの組成物に関する全体の組成式は、Li2(1+x)/(2+x)Mn2x/(2+x)M(2−2x)/(2+x)O2と書くことができる。全体の組成式において、マンガンの総量は、2成分表記で並記した両方の成分からの寄与を受ける。したがって、ある意味、これらの組成物はマンガンリッチである。
【0052】
いくつかの実施形態では、Mは、NiuMnvCowAyと書くことができる。y=0である実施形態では、これは、簡単にNiuMnvCowとなる。MがNi、Co、Mn、および任意選択でAを含む場合、組成は、以下のように別の形で2成分表記および1成分表記で書くことができる。
xLi2MnO3・(1−x)LiNiuMnvCowAyO2 (1)
Li1+bNiαMnβCoγAδO2 (2)
ここで、u+v+w+y≒1であり、b+α+β+γ+δ≒1である。これら2つの組成式を突き合わせて、以下の関係が得られる。
b=x/(2+x)
α=2u(1−x)/(2+x)
β=2x/(2+x)+2v(1−x)/(2+x)
γ=2w(1−x)/(2+x)
δ=2y(1−x)/(2+x)
および同様に、
x=2b/(1−b)
u=α/(1−3b)
v=(β−2b)/(1−3b)
w=γ(1−3b)
y=δ(1−3b)
【0053】
いくつかの実施形態では、u≒vであることが望ましいことがあり、それによりLiNiuMnvCowAyO2は、近似的にLiNiuMnuCowAyO2になる。この組成において、y=0のとき、Ni、Co、およびMnの平均原子価は+3であり、u≒vの場合、これらの元素は、平均原子価を実現するために、近似的にNi+2、Co+3、およびMn+4の原子価を有することができる。仮説としてリチウムが完全に抜き出されるとき、すべての元素が+4の原子価になる。NiとMnの平衡により、電池において材料がサイクルされるときにMnを+4の原子価のままにすることができる。この平衡はMn+3の生成を防ぐ。Mn+3は、電解質中へのMnの溶解およびそれに対応する容量損失に関連付けられている。
【0054】
さらなる実施形態では、組成は、上記の組成式の近辺で変えることができ、LiNiu+ΔMnu−ΔCowAyO2であり、Δの絶対値は、一般に約0.3以下(すなわち−0.3≦Δ≦0.3)、追加の実施形態では約0.2(−0.2≦Δ≦0.2)以下、いくつかの実施形態では約0.175(−0.175≦Δ≦0.175)以下であり、さらなる実施形態では約0.15以下(−0.15≦Δ≦0.15)である。xに関する望ましい範囲は前述した。2u+w+y≒1の場合、望ましいパラメータ範囲は、いくつかの実施形態では0≦w≦1、0≦u≦0.5、0≦y≦0.1(ただしu+Δとwはどちらもゼロではないものとする)、さらなる実施形態では0.1≦w≦0.6、0.1≦u≦0.45、0≦y≦0.075、追加の実施形態では0.2≦w≦0.5、0.2≦u≦0.4、0≦y≦0.05である。上で明示した範囲に含まれるさらなる範囲の組成パラメータが企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。本明細書で使用するとき、表記(値1≦変数≦値2)は、値1と値2が近似的な量であることを暗に仮定する。望ましい電池性能特性を得るための組成の設定は、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のLopez他の「Layer−Layer Lithium Rich Complex Metal Oxides With High Specific Capacity and Excellent Cycling」という名称の米国特許出願第12/869,976号にさらに記載されている。
【0055】
正極活性材料に関して本明細書で提示する組成式は、合成時の開始材料のモル量に基づいており、これらのモル量は正確に決定することができる。複数の金属カチオンに関して、これらは一般に、最終的な材料に定量的に取り込まれると考えられ、生成物組成からの金属の損失をもたらす、知られている重大な経路はない。当然、金属の多くは複数の酸化状態を有し、これらは、電池に関するそれらの金属の活性に関係付けられる。当技術分野で通例であるように、複数の酸化状態および複数の金属の存在により、酸素に関する厳密な化学量論は通常、反応物金属の結晶構造、電気化学的特性、および比率に基づいて大まかにしか推定されない。しかし、結晶構造に基づいて、酸素に関する全体の化学量論は妥当に推定される。本明細書においてこの段落および関連事項で論じるプロトコルはすべて、当技術分野で通例のものであり、当技術分野でこれらの問題に関して以前より確立されている手法である。
【0056】
組成物中にニッケル、コバルト、マンガン、および追加の任意の金属カチオンを有し、高い比容量特性を示す、本明細書で述べる望ましいリチウムリッチ金属酸化物材料に関して、共沈プロセスが行われている。これらの材料は、高い比容量に加えて良いタップ密度を示すことができ、これは、固定体積用途において材料の高い全体容量を生み出す。特に、共沈プロセスによって形成したリチウムリッチ金属酸化物組成物を、コーティングを施した形態で使用して、以下の実施例での結果を得た。
【0057】
特に、共沈に基づく合成法は、上述したように組成式Li1+bNiαMnβCoγAδO2−zFzを有する組成物の剛性に適合されている。共沈プロセスでは、純水などの水性溶媒中に、金属塩を望ましいモル比で溶解する。適した金属塩としては、例えば、金属酢酸塩、金属硫酸塩、金属硝酸塩、およびそれらの組合せが挙げられる。溶液の濃度は、一般に1M〜3Mの間で選択する。金属塩の相対モル量は、生成物材料に関する望ましい組成式に基づいて選択することができる。同様に、沈殿された材料中にドーパントが混入されるように、ドーパント元素を適切なモル量で他の金属塩と共に導入することができる。次いで、所望の量の金属元素を含む金属水酸化物または金属炭酸塩を沈殿させるために、例えばNa2CO3および/または水酸化アンモニウムを添加することによって溶液のpHを調節することができる。一般に、pHは、約6.0〜約12.0の間の値に調節することができる。水酸化物または炭酸塩の沈殿を促進するように、溶液を加熱して撹拌することができる。次いで、沈殿された金属水酸化物または金属炭酸塩を溶液から分離して、洗浄し、乾燥させて、さらなる処理の前に粉末を形成することができる。例えば、乾燥は、オーブン内で約110℃で約4〜約12時間行うことができる。上で明示した範囲に含まれるさらなる範囲のプロセスパラメータが企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0058】
次いで、収集した金属水酸化物または金属炭酸塩に熱処理を施して、水または二酸化炭素をなくして、水酸化物または炭酸塩組成物を対応する酸化物組成物に変換することができる。一般に、熱処理は、オーブンや炉などの中で行うことができる。熱処理は、不活性雰囲気中で、または酸素が存在する雰囲気中で行うことができる。いくつかの実施形態では、少なくとも約350℃、いくつかの実施形態では約400℃〜約800℃の温度に材料を加熱して、水酸化物または炭酸塩を酸化物に変換することができる。熱処理は、一般に、少なくとも約15分間、さらなる実施形態では約30分〜24時間以上、さらなる実施形態では約45分〜約15時間行うことができる。生成物材料の結晶性を改良するために、さらなる熱処理を第2のより高い温度で行うことができる。結晶性生成物を形成するためのこの焼成ステップは、一般に、少なくとも約650℃、いくつかの実施形態では約700℃〜約1200℃、さらなる実施形態では約700℃〜約1100℃の温度で行う。粉末の構造的特性を改良するための焼成ステップは、一般に、少なくとも約15分、さらなる実施形態では約20分〜約30分以上、他の実施形態では約1時間〜約36時間行うことができる。所望の材料を生み出すために、加熱ステップを、望みであれば適切な温度勾配と組み合わせることができる。上に明示した範囲に含まれるさらなる範囲の温度および時間が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0059】
リチウム元素は、プロセス中の1つまたは複数の選択されたステップで材料に混入することができる。例えば、沈殿ステップの実施前または実施後に、水和リチウム塩を添加することによって溶液中にリチウム塩を混入することができる。この手法では、他の金属と同様に、リチウム種を水酸化物または炭酸塩材料に混入する。また、リチウムの特性により、生成物組成物の最終的な特性に悪影響を及ぼすことなく、固相反応でリチウム元素を材料に混入することもできる。したがって、例えば、LiOH・H2O、LiOH、Li2CO3、またはそれらの組合せなど一般に粉末としての適量のリチウム源を、沈殿された金属炭酸塩または金属水酸化物と混合することができる。次いで、粉末混合物を加熱ステップに通して酸化物を生成し、次いで結晶性の最終生成物材料を生成する。
【0060】
水酸化物共沈プロセスのさらなる詳細は、参照により本明細書に援用するVenkatachalam他の「Positive Electrode Material for Lithium Ion Batteries Having a High Specific Discharge Capacity and Processes for the Synthesis of these Materials」という名称の米国特許出願公開第2010/0086853A号に記載されている。炭酸塩共沈プロセスのさらなる詳細は、参照により本明細書に援用するLopez他の「Positive Electrode Materials for High Discharge Capacity Lithium Ion Batteries」という名称の米国特許出願公開第2010/0151332A号に記載されている。
【0061】
また、正極活性材料にコーティングを施すことで、リチウムベース電池のサイクリングを改良することができることが判明している。コーティングはまた、電池の不可逆容量損失を減少させるため、および全般的に比容量を増加させるためにも有効であることがある。コーティング材料の量は、観察される性能改良が顕著になるように選択することができる。電池サイクリング中に電気化学的に不活性であると一般に考えられる適したコーティング材料は、金属フッ化物、金属酸化物、金属非フッ化ハロゲン化物、または金属リン酸塩を含むことができる。以下の実施例での結果は、金属フッ化物をコーティングした材料を用いて得たものである。
【0062】
例えば、カソード活性材料用のコーティングとしての金属フッ化物組成物、特にLiCoO2およびLiMn2O4の全般的な使用は、参照により本明細書に援用するSun他の「Cathode Active Material Coated with Fluorine Compound for Lithium Secondary Batteries and Method for Preparing the Same」という名称の国際公開第2006/109930A号に記載されている。適切に設定された厚さを有する改良された金属フッ化物コーティングは、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のLopez他の「Coated Positive Electrode Materials for Lithium Ion Batteries」という名称の米国特許出願第12/616,226号(‘226号出願)に記載されている。適した金属酸化物コーティングは、例えば、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のKarthikeyan他への「Metal Oxide Coated Positive Electrode Materials for Lithium−Based Batteries」という名称の米国特許出願第12/870,096号にさらに記載されている。カソード活性材料用の望ましいコーティングとしての非フッ化物金属ハロゲン化物の発見は、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のVenkatachalam他への「Metal Halide Coatings on Lithium Ion Battery Positive Electrode Materials and Corresponding Batteries」という名称の米国特許出願第12/888,131号に記載されている。一般に、コーティングは、25nm以下、いくつかの実施形態では約0.5nm〜約20nm、他の実施形態では約1nm〜約12nm、さらなる実施形態では1.25nm〜約10nm、追加の実施形態では約1.5nm〜約8nmの平均厚さを有することができる。上の明示的な範囲に含まれるさらなる範囲のコーティング材料が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0063】
金属フッ化物コーティングは、溶液ベースの沈殿手法を使用して塗布することができる。望ましい金属の可溶性組成物は、水性溶媒など適切な溶媒中に溶解することができる。次いで、NH4Fを分散液/溶液に徐々に添加して、金属フッ化物を沈殿させることができる。所望の厚さのコーティングを形成するために、コーティング反応物の総量を選択することができ、コーティング反応物の比率は、コーティング材料の化学量論に基づかせることができる。コーティングを施した電気活性材料を溶液から取り出した後、材料を乾燥させ、一般に約250℃よりも高く加熱して、コーティングを施した材料の形成を完了する。加熱は、窒素雰囲気、または実質的に酸素を含まない他の雰囲気中で行うことができる。
【0064】
一般に、活性材料の粉末上への前駆体コーティングの堆積によって、酸化物コーティングを形成する。次いで、前駆体コーティングを加熱して、金属酸化物コーティングを形成する。適した前駆体コーティングは、対応する金属水酸化物、金属炭酸塩、または金属硝酸塩を含むことがある。金属水酸化物および金属炭酸塩前駆体コーティングは沈殿プロセスによって堆積することができる。なぜなら、水酸化アンモニウムおよび/または炭酸アンモニウムの添加を使用して、対応する前駆体コーティングを堆積することができるからである。前駆体コーティングを、一般には約250℃よりも高く加熱して、前駆体を分解して酸化物コーティングを形成することができる。
【0065】
負極活性材料
望ましい高い容量の負極活性材料は、ナノ構造化シリコン材料および/またはナノ構造炭素材料を含む複合材に基づくことがある。特に、ナノ構造化シリコンは、元素シリコンナノ粒子および/または多孔質元素シリコン、ならびに対応するシリコン合金およびそれらの複合材を含むことができる。シリコンは様々な材料と共に合金を形成することができ、この合金は、リチウムとのさらなる合金の形成に関して、高い容量を有することができる。シリコン合金は、適切なサイクリングを提供することができる高容量のシリコンベース材料の評価に関してシリコンの代替となる。ナノ構造化材料は、バルクシリコンに比べて高い表面積および/または高い空隙体積を提供することができる。材料の体積変化に適合させることによって、ナノ構造化シリコンは、シリコン−リチウム合金化中の体積膨張に少なくともいくらかは対処することができ、材料に対する応力を減少させることができると考えられる。さらに、ナノ構造化シリコンの適合性は、それに対応して、サイクリング時の材料の不可逆構造変化を減少させることができ、したがってサイクリング時に負極の性能がよりゆっくりと劣化し、その負極を用いて形成した電池は、より多数回の電池サイクルにわたって満足な性能を有することができる。シリコンまたはシリコン合金とナノ構造化炭素との複合材の形成は、複合材ナノ構造のための支持を提供することができ、これもまた、サイクリングを改良するために構造を機械的に安定させることができる。
【0066】
また、炭素コーティングをシリコンベース材料の上に塗布して導電性を改良することができ、炭素コーティングもまた、サイクリングの改良および不可逆容量損失の減少に関してシリコンベース材料を安定させると考えられる。特に興味深い実施形態では、適切な溶媒中に溶解された有機組成物を活性組成物と混合し、乾燥させて、炭素コーティング前駆体を活性組成物にコーティングすることができる。次いで、前駆体をコーティングした組成物を、酸素を含まない雰囲気中で熱分解して、有機前駆体を硬質炭素コーティングなどの炭素コーティングに変換することができる。炭素をコーティングされた組成物は、負極活性材料の性能を改良することが判明している。
【0067】
いくつかの実施形態では、負極活性材料は、炭素材料とシリコンベース材料の複合材を含む。シリコン材料、炭素材料、またはそれら両方をナノ構造化することができ、次いで、ナノ構造化した成分を組み合わせて、シリコン成分と炭素成分の複合材を形成することができる。例えば、複合材の成分を一緒に破砕して複合材を形成することができ、複合材中で成分材料は密接に関連付けられるが、一般に合金化はしていない。一般に、複合材中でナノ構造特性が現れると予想されるが、複合材の特徴は、成分材料の特徴ほどには立証されていないことがある。特に、複合材料は、初期材料がナノスケールであることを表す寸法、多孔性、または他の大きな表面積の特徴を有することがある。いくつかの実施形態では、負極活性材料は、カーボンナノファイバおよび/または炭素ナノ粒子上にコーティングされたシリコンベース材料を含むことができる。
【0068】
いくつかの実施形態では、シリコンベースの負極活性材料は、金属間化合物材料および/または合金などシリコン−金属複合材を含むことができる。合金は、金属元素の均質な混合物または固溶体であり、任意選択で、いくらかの量の非金属原子が金属中に溶解されている。金属間化合物材料は、2つ以上の金属/メタロイド元素を含む固相であり、任意選択で非金属元素を含み、構造は、組成材料の結晶とは異なる。シリコン−金属の金属間化合物/合金は、リチウムと合金化することがある、または合金化しないことがある様々な元素金属から形成することができる。さらに、シリコン−金属の金属間化合物/合金組成は、リチウムと合金化しない金属間化合物/合金中の不活性金属元素が負極活性材料の導電性に寄与し、その負極活性材料から形成されるセルのインピーダンスを減少させるように選択することができる。シリコンベース金属間化合物/合金は、全般的に、参照により本明細書に援用するKumar他の「High Energy Lithium Ion Batteries With Particular Negative Electrode Compositions」という名称の米国特許出願公開第2009/0305131A号(本明細書では以後、‘131号出願)に記載されている。
【0069】
さらに、負極活性材料は、炭素をコーティングされたシリコンベース材料を含むことができ、これは、シリコン−炭素複合材、シリコン−金属間化合物/合金、またはそれらの組合せでよい。理論に制限されずに、炭素コーティングおよび/またはカーボンナノファイバ−ナノ粒子は、シリコン−リチウム合金化中、膨張するシリコンベース材料に対して構造的な安定性を与えることができると考えられる。特に、炭素コーティングおよび/またはカーボンナノファイバ−粒子は緩衝層として働くことができ、それにより体積膨張中にシリコンベース材料に対する応力を減少させると考えられる。炭素をコーティングされたシリコンベースの材料で望ましい電池性能が観察されている。
【0070】
本明細書で述べる改良されたパラメータの組合せに基づいて、改良された電極構造を形成するためにシリコンベース活性材料を導入することができる。特に、望ましい導電性成分の選択が、改良された電極設計を実現することができ、望ましいポリマーバインダは、サイクリング中の重大な活性材料変化に鑑みて、電極設計に適した望ましい機械的特性を提供することができる。これらの複合的な特徴に基づいて、シリコンベース電極は、少なくとも程々の性能で、少なくとも約0.6g/cm3、さらなる実施形態では少なくとも約0.7g/cm3、さらなる実施形態では少なくとも約0.75g/cm3の活性シリコンベース材料密度で形成することができる。同様に、シリコンベース電極は、少なくとも約25ミクロン、さらなる実施形態では少なくとも約30ミクロン、追加の実施形態では少なくとも約50ミクロンの平均乾燥厚さを有することができ、これは、少なくとも約2mg/cm2の活性材料装填量に対応することがある。得られるシリコンベース電極は、少なくとも約3.5mAh/cm2、さらなる実施形態では少なくとも約4.5mAh/cm2、追加の実施形態では少なくとも約5mAh/cm2の単位面積当たりの容量を示すことができる。上で明示した範囲に含まれるさらなる範囲の負極パラメータが企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0071】
ナノ粒子シリコン
上述したように、適したナノ構造化シリコンは、ナノ微粒子シリコンを含むことがある。負極活性材料は、望ましくは、シリコンナノ粒子単独で、または複合材中に含むことができる。シリコンナノ粒子は、シリコン−リチウム合金化中の材料の体積変化に望ましく適合することができる高い表面積の材料を提供することができる。一般に、ナノ粒子シリコンは、非晶質および/または結晶質のシリコンナノ粒子を含むことができる。結晶質シリコンナノ粒子は、非晶質シリコンナノ粒子に比べて導電率が高いので、いくつかの実施形態では望ましいことがある。さらに、本願で対象となるナノ粒子シリコン材料に関して、シリコンナノ粒子は、非ドープでも、ドープされていてもよい。ドープされたナノ粒子は、非ドープのシリコンナノ粒子に比べて導電率が高くなるので望ましいことがある。ドープされたナノ粒子組成物に関して、p型ドーピングは、シリコンナノ粒子中へのホウ素やアルミニウムなどのドーパントの混入によって実現することができる。n型ドーピングは、シリコンナノ粒子中へのリン、ヒ素、またはアンチモンなど既知のn型ドーパント元素の混入によって実現することができる。シリコンナノ粒子のドーパント濃度は、約1×1014cm−3〜約1×1020cm−3でよい。
【0072】
本明細書で使用するとき、ナノ粒子シリコンとは、平均主粒子直径が約500nm以下、さらなる実施形態では約250nm以下、追加の実施形態では約200nm以下の、ミクロン以下の粒子を含むことがある。粒子直径とは、ある粒子の主軸に沿った平均直径を表す。主粒子直径とは、透過型電子顕微鏡写真で見ることができる粒子の寸法を表し、主粒子は、ある程度の凝集および/または融合を示していることも、示していないこともある。主粒径は、一般に、電池活性材料としての性能に関する重要なパラメータである粒子集合の表面積を反映する。BET表面積は、約1m2/g〜約700m2/g、さらなる実施形態では約5m2/g〜約500m2/gの範囲内でよい。BET表面積は、例えば市販の計器を使用して評価することができる。上に明示した範囲に含まれるさらなる範囲の粒径および表面積が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0073】
適したシリコンナノ粒子は、Sigma AldrichまたはNanostructured or Amorphous Materials, Inc.から商業的に入手することができる。また、非ドープおよびドープ結晶質シリコンナノ粒子の製造にレーザ熱分解を使用することもできる。レーザ熱分解を使用して、選択された組成および狭い主粒径分布を有するシリコンナノ粒子を合成することに関する説明は、参照により本明細書に援用するHieslmair他の「Silicon/Germanium Particle Inks, Doped Particles, Printing And Processes for Semiconductor Applications」という名称の米国特許出願公開第2008/0160265号に記載されている。参照により本明細書に援用するCui他の「Nanowire Battery Methods and Arrangements」という名称の米国特許第7,816,031号に記載されているように、望ましい負極活性材料としてシリコンナノワイヤが提案されている。
【0074】
多孔質シリコン
ナノ構造化シリコンの別の適した形態は、ナノ構造化孔を有する多孔質シリコン粒子を含み、負極活性材料は、望ましくは、多孔質シリコンおよび/またはそれらの複合材を含むことができる。多孔質シリコンは、その高い表面積および/または空隙体積により、改良されたサイクリング挙動を有することができ、これは、リチウム合金化および脱合金化による体積変化への対処を容易にすることができる。本願で対象となる材料に関して、多孔質シリコンは、非ドープでも、ドープされていてもよい。いくつかの実施形態では、ドープされた多孔質シリコンは、非ドープの多孔質シリコンに比べて導電率が高くなるので望ましいことがある。
【0075】
多孔質粒子は、いくつかの実施形態では約5ミクロン以下、さらなる実施形態では約1ミクロン以下、追加の実施形態では約100ナノメートル〜約5ナノメートルの平均直径を有することがある。孔は、粒子の実効の測定表面積を直接的に増加させるので、多孔性は、BET表面積で表すことができる。いくつかの実施形態では、BET表面積は、少なくとも1m2/g、さらなる実施形態では少なくとも5m2/g、追加の実施形態では10m2/g〜約300m2/gでよい。さらなる範囲の平均粒子直径およびBET表面積が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0076】
いくつかの実施形態では、ドープおよび非ドープ多孔質シリコンは、シリコンウェハの電気化学的エッチングによってバルクシリコン上に形成することができる。シリコンウェハは、半導体用途および他の電子工学用途で使用するために市販されている。電気化学的エッチングは、電気化学セル内でシリコンウェハをエッチングすることを含むことができる。電気化学セルは、シリコンウェハから形成した負極を用いて組み立てることができ、また電解質エッチング溶液中の正極にわたって組み立てることができる。このとき、選択された電流密度が電極にわたって印加され、その結果生じる電気化学セル内で誘発される電流がシリコンをエッチングし、主なエッチングは、正極に最も近いシリコンウェハ領域におけるものである。正極は、一般に、白金や他の金属など元素金属を含むことができ、電解質溶液は、一般に、フッ化水素酸(HF)、水(H2O)、およびエタノール(C2H5OH)の混合物を含むことができる。エタノールの代わりに他の妥当なアルコールを使用することもできる。一般に、エッチング溶液は、約25重量パーセント〜約80重量パーセントの濃度でアルコールを含むことができる。さらに、適したエッチング溶液は、約5〜約50重量パーセントのHFを含むことができる。上の明示的な範囲に含まれるさらなる濃度範囲が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。n型ドープまたはp型ドープ多孔質シリコンが望まれる場合、負極は、それぞれn型ドープまたはp型ドープシリコンウェハから形成される。
【0077】
電気化学的エッチングでは、得られる多孔質シリコンウェハの多孔性と孔径の両方を、開始ウェハおよびシリコンウェハのタイプ、ドーピングレベル、および結晶配向、電流密度、電解質溶液濃度、ならびにエッチング時間によって制御することができる。一般に、多孔性は、電流密度を増加し、および/または電解質溶液中のHF濃度を減少させることによって増加させることができる。本願で対象となる多孔質シリコン材料に関して、電流密度は、例えば約500mA/cm2以下、さらなる実施形態では、約300mA/cm2〜約1mA/cm2でよい。望ましいエッチング時間は、約5分〜約10時間、さらなる実施形態では約10分〜約5時間である。望まれる場合には、シリコン基板を照射して導電率を高めることができ、これはさらにエッチングレートを高めることが予想される。照射は、n型結晶質シリコンに関して、エッチングを促進すると考えられる正孔の形成を誘発するために特に望ましいことがある。適した光源は、例えば、タングステンフィラメントランプ、ハロゲンランプ、または他の明るい白色光源を含む。プロセスを完了するために、電流密度を、短期間のうちに大幅に高めて、エッチングされたシリコンを基板表面から切り離すことができ、得られた切り離されたシリコンは、破砕して多孔質シリコンの粒子にされる。層剥離に関する電流密度は、電解研磨プロセスが優勢になる臨界密度の近くにすることができる。HF濃度に応じて、エッチングされたシリコンを切り離すための電流密度は、約150mA/cm2〜約800mA/cm2にすることができる。
【0078】
多孔質シリコン粒子は、エッチングしたウェハ、例えば今述べたような電気化学的エッチング法によって処理したウェハから形成することができる。所望の平均孔径および多孔性を有する多孔質シリコン層をバルクシリコン上に形成するための初期エッチングの後、エッチング電流密度を高めることによって多孔質シリコン層をバルクシリコンから離し、かき混ぜて、多孔質シリコンナノ粒子を形成することができる。あるいは、非ドープおよびドープ多孔質シリコンナノ粒子を、ステインエッチングによってバルクシリコンから形成することもできる。ステインエッチングでは、シリコンウェハなどが、HFおよび硝酸を含む水溶液中に含浸される。一般に、ステインエッチングでは、上述した陽極生成多孔質シリコンに比べて低い均質性および再現性になる。選択された組成を有する多孔質シリコンナノ粒子をステインエッチングによって合成することに関する説明は、参照により本明細書に援用するLi他の「Method of Producing Silicon Nanoparticles from Stain−Etching and Silicon Nanoparticles From Stain−Etched Silicon Powder」という名称の米国特許第7,514,369号に記載されている。
【0079】
シリコン−金属の金属間化合物材料および/または合金
いくつかの実施形態では、負極活性組成物は、シリコン−金属合金および/または金属間化合物材料を含むことができる。適したシリコン−金属の金属間化合物/合金は、参照により本明細書に援用するKumar他の「High Energy Lithium Ion Batteries With Particular Negative electrode Compositions」という名称の米国特許出願公開第2009/0305131A号に記載されている。合金/金属間化合物材料は、組成式SixSnqMyCzによって表すことができ、ここで(q+x)>2y+Z、q≧0、z≧0であり、Mは、マンガン、モリブデン、ニオブ、タングステン、タンタル、鉄、銅、チタン、バナジウム、クロム、ニッケル、コバルト、ジルコニウム、イットリウム、およびそれらの混合物から選択される金属である。参照により本明細書に援用するLeの「Silicon−Containing Alloys Useful as Electrodes for Lithium−Ion Batteries」という名称の米国特許出願公開第2007/0148544A号も参照されたい。本明細書で説明する材料では、一般に、炭素材料および処理条件は、炭素がシリコンと組成物を形成しないように選択される。実施例で説明する合金では、z=0およびq=0であり、したがって組成式は簡単にSixMy(ここでx>2y)となる。実施例は、M=FeまたはCuに関して表す。合金は、適切な破砕によって形成することができる。
【0080】
ナノスケール炭素繊維および粒子
カーボンナノファイバおよび/または炭素ナノ粒子は、良好な導電性を提供し、リチウムとの合金生成の応力を減少させることができるように、ナノ構造化シリコンに関する支持構造を提供することができる。カーボンナノファイバは、適した熱反応で蒸気有機組成物および触媒を使用して得ることができ、または合成することができる。カーボンナノファイバの合成に関する1つの手法は、参照により本明細書に援用するChoi他の「Anode Active Material Hybridizing Carbon Nanofiber for Lithium Secondary Battery」という名称の米国特許出願公開第2009/0053608号に記載されている。炭素繊維は、様々な供給業者から市販されている。適した供給業者を以下の表に要約する。表は2部になっている。
【0081】
【表3】
【0082】
【表4】
【0083】
一般に、適したカーボンナノファイバは、約25nm〜約250nm、さらなる実施形態では約30nm〜約200nmの平均直径を有することができ、平均長さは、約2ミクロン〜約25ミクロン、さらなる実施形態では約4ミクロン〜約20ミクロンである。上に明示した範囲に含まれるさらなる範囲のナノファイバ平均直径および長さが企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0084】
同様に、熱分解炭素粒子、例えばカーボンブラックを、適切な複合材でのサポート物質として使用することができる。カーボンブラックは、約250nm以下、いくつかの実施形態では約100nm以下、およびこれらの範囲内の適した部分範囲の平均粒径を有することができる。カーボンブラックは、Cabot Corporation and Timcal, Ltd.(スイス)(アセチレンブラックSuper P(商標))など、様々な供給業者から容易に入手可能である。
【0085】
炭素とナノ構造化シリコンの複合材
ナノスケール炭素粒子および/または繊維とナノ構造化シリコンなどのシリコンとの複合材を形成することが望ましいことがある。複合材を形成するために、成分材料を取得および/または用意し、材料成分間の強い機械的相互作用を生じさせるように結合させる。複合材は、例えば、ナノ炭素成分上にコーティングされたシリコン、多孔質シリコン粒子の孔の中に埋め込まれた炭素成分、または他の相互作用もしくは相互作用の組合せを含むことがある。一般に、複合材の成分間の相互作用のタイプは、よく特徴付けられる必要はない。しかし、複合材は、リチウムイオン電池において望ましい電池特性を示すことが判明している。一般に、複合材は、少なくとも約5重量パーセントのシリコン/シリコン合金、さらなる実施形態では約7.5重量パーセント〜約95重量パーセント、追加の実施形態では約10重量パーセント〜約90重量パーセントのシリコン/シリコン合金、例えばナノ構造化シリコンを含むことができる。上に明示した範囲に含まれるさらなる範囲のシリコン/シリコン合金組成が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0086】
いくつかの実施形態では、ナノ構造化シリコン複合材は、ナノ構造化シリコンを炭素繊維および/または炭素ナノ粒子と共に破砕することによって形成することができる。破砕プロセスは、例えばジャーミリングおよび/またはボールミリング、例えば遊星ボールミリングを含むことができる。ボールミリングおよび同様にジャーミリングは、粉砕媒体を使用して粉砕し、その後、粉砕された材料から粉砕媒体を除去することに関わる。遊星ボールミルは、ボールミリングの1タイプであり、このミルが、太陽歯車と、太陽歯車に偏心で取り付けられた少なくとも1つの粉砕ジャーと、粉砕ジャー内部の複数の混合ボールとを備える。動作時、粉砕ジャーは自転し、それとは逆回りで、太陽歯車の共通軸の周りを公転する。
【0087】
望ましいボールミリング回転速度およびボールミリング時間は、所望のナノ構造化シリコン複合材組成および構造に基づいて選択することができる。本明細書で述べるシリコン/シリコン合金複合材の形成に関して、ボールミリング回転速度は、約25rpm〜約1000rpmでよく、さらなる実施形態では約50rpm〜約800rpmでよい。さらに、望ましいボールミリング時間は、約10分〜約20時間、さらなる実施形態では約20分〜約10時間でよい。上に明示した範囲に含まれるさらなる範囲の破砕速度および時間が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。ミルコンテナを、不活性ガスで充填して、破砕中にコンテナの内容物が酸化するのを防止することができる。適した粉砕媒体の例としては、例えば、ジルコニア、アルミナ、炭化タングステンなどが挙げられる。
【0088】
熱分解炭素コーティング
導電性を高めるため、および/または得られる材料への構造支持を提供するために、ナノ構造化シリコンまたはシリコン複合材に炭素コーティングを塗布することができる。炭素コーティングは、酸素を含まない雰囲気中で、熱分解された有機組成物から形成することができる。硬質炭素コーティングは、一般に比較的高温で形成される。コーティングの特性は、処理条件に基づいて制御することができる。特に、炭素コーティングは、高い硬度を有することができ、一般に、黒鉛領域およびダイヤモンド構造領域に加えて生じ得る重要な非晶質領域を含むことができる。
【0089】
コールタールピッチから形成される炭素コーティングが、参照により本明細書に援用するLee他の「A Negative Active Material for Lithium Secondary Battery and a Method for Preparing Same」という名称の国際公開第2005/011030号に記載されている。それとは異なり、本明細書で述べるように、有機組成物を適切な溶媒中に溶解して活性材料と混合させる。溶媒を乾燥によって除去し、固体前駆体でコーティングされた活性材料を形成する。固体熱分解炭素前駆体を送るための溶媒を用いたこの手法は、より均質で均一な炭素コーティングの形成を促進することができる。次いで、前駆体でコーティングされた材料を、実質的に酸素を含まない環境内で加熱して、熱分解炭素コーティングを形成する。加熱は、一般に、少なくとも約500℃、さらなる実施形態では少なくとも約700℃、他の実施形態では約750℃〜約1350℃の温度で行う。一般に、約800℃を超える温度が使用される場合に、硬質炭素コーティングが形成される。加熱は、硬質炭素コーティングの形成を完了するのに十分な期間にわたって続けることができる。望ましい前駆体は、室温で固体または液体であって2〜20個の炭素原子、さらなる実施形態では3〜15個の炭素原子、およびこれらの範囲に含まれる他の範囲の炭素原子を有する有機組成物を含むことができ、一般に、これらの分子は、他の原子、例えば酸素、窒素、硫黄、および他の妥当な元素を含むことができる。具体的には、適した化合物としては、例えば、糖、フルフリルアルコールなどの他の固体アルコール、クエン酸などの固体カルボン酸、ポリアクリロニトリルなどのポリマーなどが挙げられる。炭素コーティングは、一般に、硬質の非晶質炭素を含むが、ある程度の黒鉛および/またはダイヤモンドライク領域が存在することもある。コーティングを施された材料は、一般に、約50重量パーセント以下、さらなる実施形態では約40重量パーセント以下、追加の実施形態では約1重量パーセント〜約30重量パーセントの熱分解炭素を含む。上記の明示した範囲に含まれるさらなる範囲のコーティング組成物の量が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0090】
金属コーティング
炭素コーティングの代替として、シリコン、シリコン合金、またはシリコン複合材の上に元素金属をコーティングすることができる。適した元素金属は、電池内で不活性金属を生成するために妥当な条件下で還元することができる金属を含む。特に、金属コーティングを堆積するために銀および銅を還元することができる。元素金属コーティングは、導電性を高め、リチウム合金化および脱合金化プロセス中にシリコンベース材料を安定させると予想することができる。一般に、コーティングを施された材料は、約25重量パーセント以下の金属コーティング、さらなる実施形態では約1重量パーセント〜約20重量パーセントの金属コーティングを含むことができる。上の明示的な範囲に含まれるさらなる範囲の金属コーティング組成物が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。溶液ベースの手法を使用して、金属コーティングを塗布することができる。例えば、コーティングを施すべきシリコンベース材料を、溶解された金属の塩、例えば硝酸銀、塩化銀、硝酸銅、塩化銅などを含む溶液と混合させることができ、還元剤を添加して金属コーティングを堆積することができる。適した還元剤としては、例えば次亜リン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン、ホルムアルデヒドなどが挙げられる。
【0091】
補助リチウム
電池への補助リチウムの導入のための様々な手法を使用することができるが、対応する初めの反応および/または充電後、負極は、サイクリングのための余剰のリチウムを補助リチウムから装入される。補助リチウムを有する電池内の負極に関して、負極の構造および/または組成は、初回のサイクル後、およびさらなるサイクリング後に、初めの構造および組成から変化することがある。補助リチウムを導入するための手法に応じて、正極が始めに補助リチウム源を含むことがあり、および/または補助リチウムを含む犠牲電極を導入することができる。
【0092】
負極の初期構造に関して、いくつかの実施形態では、負極は、補助リチウムによる変化がない。特に、補助リチウムが始めに正極または別個の電極内に位置されている場合、負極は、電池が充電されるまでは、または少なくとも、電解質および隔離板の存在下で負極と補助リチウムを含む電極との間の回路が閉じられるまでは、リチウムが存在せずに変化のない状態であることがある。例えば、正極または補助電極は、元素リチウム、リチウム合金、および/または他の犠牲リチウム源を含むことができる。
【0093】
犠牲リチウムが正極内に含まれる場合、犠牲リチウム源からのリチウムは、充電反応中に負極に装填される。犠牲リチウム源に基づく充電中の電圧は、正極活性材料に基づいて充電が行われるときの電圧とは大きく異なることがある。例えば、元素リチウムの酸化が反応を誘発するので、正極内の元素リチウムは、外部電圧の印加なしで負極活性材料を充電することができる。いくつかの犠牲リチウム源材料に関しては、外部電圧を印加して、正極内の犠牲リチウム源を酸化させ、負極活性材料内にリチウムを押し入れる。充電は、一般に、定電流、ステップ式の定電圧充電、または他の簡便な充電方式を使用して行うことができる。しかし、充電プロセスの最後に、電池は所望の電圧、例えば4.5Vに充電されるべきである。
【0094】
さらなる実施形態では、始めに、補助リチウムの少なくとも一部が負極に関連付けられる。例えば、補助リチウムは、元素リチウム、リチウム合金、または負極活性材料よりも電気陰性の他のリチウム源でよい。負極が電解質と接触した後、反応が生じることがあり、補助リチウムが負極活性材料に移動される。このプロセス中、SEI層も形成される。したがって、補助リチウムは負極活性材料内に装填され、少なくとも一部はSEI層の形成において消費される。リチウムリッチ正極活性材料から解放された余剰のリチウムも、電池の最終的な充電中に負極活性材料内に堆積される。電圧の印加により補助リチウム源が同じ電極内の活性材料と反応することがなくなるので、負極に入る補助リチウムは、負極内の活性材料よりも電気陰性にすべきである。
【0095】
いくつかの実施形態では、負極に関連付けられる補助リチウムは、負極内部に粉末として組み込むことができる。特に、負極は、活性負極組成物、およびポリマーバインダマトリックス中の補助リチウム源、ならびに存在する場合には任意の導電性粉末を含むことができる。追加または代替の実施形態では、補助リチウムは、電極の表面に沿って配置される。例えば、負極は、活性負極組成物を含む活性層と、活性層の表面上の補助リチウム源層とを備えることができる。補助リチウム源層は、リチウムまたはリチウム合金の箔シート、ポリマーバインダ中の補助リチウム粉末、および/または活性層の表面上に埋め込まれた補助リチウム源材料の粒子を含むことがある。代替構成では、補助リチウム源層は、活性層と集電体の間にある。また、いくつかの実施形態では、負極は、活性層の両面に補助リチウム源層を備えることもできる。
【0096】
追加の実施形態では、電池の組立て前に、補助リチウムの少なくとも一部を負極活性材料に供給することができる。すなわち、負極は、リチウムを一部装填されるシリコンベース活性材料を含むことができ、一部装填された活性材料は、インターカレーション/合金化などによって、選択された度合いのリチウム装填を有する。例えば、負極活性材料の事前装填に関して、負極活性材料を、電解質およびリチウム源、例えば元素リチウム、リチウム合金、または負極活性材料よりも電気陰性の他の犠牲リチウム源と接触させることができる。リチウムのそのような事前装填を行うための1つの実験的な構成は、集電体上に形成されたシリコンベース活性材料を有する電極を備えることができ、これらが、電解質と、電極に接触するリチウム源材料のシートとを含む容器内に配置される。リチウム源材料のシートは、リチウム箔、リチウム合金箔、またはポリマーバインダ中のリチウム源材料を任意選択で導電性粉末と共に備えることがあり、これは、リチウムを事前装填すべき負極と直接接触し、それにより電子が材料間を流れて、電気的中性を保つとともに、それぞれの反応を行う。続いて起こる反応で、リチウムは、インターカレーションや合金化などによって、シリコンベース活性材料内に装填される。代替または追加の実施形態では、負極活性材料は、ポリマーバインダを用いて電極として形成する前に補助リチウムを組み込むために電解質およびリチウム源材料中に混合することができ、それによりそれぞれの材料が電解質中で自発的に反応することができるようにする。
【0097】
いくつかの実施形態では、電極内部のリチウム源は、リチウムを事前装填すべき電極をと共にセルとして組み立てることができる。それぞれの電極の間に隔離板を配置することができる。電極間に電流を流すことができる。リチウム源の組成に応じて、シリコンベース活性材料内部でのリチウム堆積を誘発するために電圧を印加する必要があることも、必要がないこともある。このリチウム化プロセスを行うための装置は、電解質とセルを保持するコンテナを備えることができ、セルは、最終的な電池内で負極として使用することができる電極と、集電体と、隔離板と、リチウム源を備える犠牲電極とを備え、隔離板は、犠牲電極と、シリコンベース活性材料を含む電極との間にある。簡便な犠牲電極は、リチウム箔や、ポリマーまたはリチウム合金中に埋め込まれたリチウム粉末を備えることができるが、抜き出すことができるリチウムを含む任意の電極を使用することができる。リチウム化セル用のコンテナは、従来の電池ハウジング、ビーカー、または任意の他の簡便な構造を備えることができる。この構成は、負極のリチウム化の度合いを計測するために電流を測定することができるという利点を提供する。さらに、負極は、1回または複数回サイクルさせることができ、負極活性材料は、リチウムの完全な装填量の近くまで装填される。このようにすると、負極活性材料にリチウムを事前装填する間に、所望の度合いの制御下でSEI層を形成することができる。このようにして、選択されたリチウム事前装填量を有する負極の用意中に負極が完全に形成される。
【0098】
一般に、リチウム源は、例えば、元素リチウム、リチウム合金、またはリチウムをそこから解放することができるリチウム組成物、例えばリチウム金属酸化物を含むことができる。元素リチウムは、箔および/または粉末の形態でよい。取扱いのために、特に粉末形態での元素リチウムをコーティングしてリチウムを安定させることができ、FMC Corporationからの粉末など市販のリチウム粉末は、安定性のために独自のコーティングを備えて販売されている。一般に、コーティングは、電気化学的用途に関してリチウム粉末の性能を変えない。リチウム合金としては、例えばリチウムシリコン合金などがある。インターカレートされたリチウムを含むリチウム組成物をいくつかの実施形態で使用することができ、適した組成物としては、例えば、チタン酸リチウム、スズ酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウムなどが挙げられる。
【0099】
一般に、活性組成物中に事前装填される、または装填のために利用可能な補助リチウムの量は、負極活性材料容量の少なくとも約2.5%、さらなる実施形態では約3パーセント〜約90%、追加の実施形態では約5パーセントから約80%でよい。対象の別のパラメータは、補助リチウムと理論上の正極容量との和である合計の利用可能な活性リチウムに対する負極活性材料の全体的な平衡に関係付けられる。いくつかの実施形態では、合計の利用可能な活性リチウムは、負極活性容量の約110パーセント以下、さらなる実施形態では105パーセント、さらなる実施形態では約65パーセント〜約100パーセント、さらなる実施形態では約70〜約97.5パーセントでよい。いくつかの従来の電池では、負極は、正極容量の107%で平衡を図られ、これは、負極容量に対する93.5%の活性リチウムに相当する。負極容量の100%よりも大きい活性リチウムの値は、負極でのリチウムのめっきを生じることがあるが、黒鉛状炭素負極活性材料から得られたデータは、リチウムがサイクリングと共に消費されることを示した。シリコンベース活性材料の場合にも同様の結果を予想することができるので、負極にめっきすることがある少量の初期リチウムは、デンドライト形成前に消費することができる。上記の明示した範囲に含まれるさらなる範囲のリチウム事前装填が企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【0100】
電池性能
リチウムリッチ正極活性材料および補助リチウムから形成した電池は、現実的な放電条件下で有望な性能を実証している。特に、シリコンベース活性材料は、現実的なカソードを用いて、適度な放電速度での電池のサイクリング時に、高い電圧カットオフを有する電圧範囲にわたるサイクリングで高い比容量を実証している。特に、結果が電池の高い全体容量に対応するように、正極活性材料と負極活性材料両方の質量に基づいて望ましい比容量を得ることができる。本明細書で述べる複合材は、妥当な不可逆容量損失を示すことができ、いくつかの実施形態では、不可逆容量損失を減少させるために補助リチウムを好適に使用することができる。リチウムリッチ高容量リチウム金属酸化物を用いた正極に対する数回のサイクルにわたって、高い比容量での比較的安定なサイクリングを得ることができる。
【0101】
一般に、電池の容量性能を評価するために、様々な同様の試験手順を使用することができる。容量およびIRCLを評価するために、リチウム箔電極に対してシリコンベース電極を試験することができる。しかし、より意義深い試験は、現実的な正極を用いて行うことができる。なぜなら、そうすることで、電池は、有用な電池でのサイクリングに関する適切な電圧範囲にわたってサイクルされるからである。適した試験手順は、以下の実施例でより詳細に説明する。特に、リチウム箔電極を用いて組み立てた電池は、正極(カソード)として働くシリコンベース電極を用いてサイクルされ、リチウム箔が負極(アノード)として働く。リチウム箔電極を用いた電池は、例えば室温で0.005V〜1.5Vの電圧範囲にわたってサイクルすることができる。あるいは、電池は、シリコンベース電極を負極として、積層状リチウムリッチ金属酸化物を含む正極を用いて形成することができ、電池はそのとき室温で4.5ボルトから2ボルトの間でサイクルさせることができる。リチウム金属酸化物ベースの正極を用いた電池に関して、初回のサイクルはC/10の速度で充電および放電することができ、その後のサイクリングは、C/3での充電ではないことが明記されていない限り、C/3の速度にすることができる。比放電容量は、放電速度に大きく依存する。表記C/xは、選択された電圧最小値までx時間で電池を完全に放電するような速度で電池が放電されることを示唆する。
【0102】
上述したように、不可逆容量損失は、初回の充電比容量と初回の放電比容量の差である。本明細書で述べる値に関して、不可逆容量損失は、より望ましい値にすることができ、補助リチウムの添加により、値をさらに減少させることができる。いくつかの実施形態では、不可逆容量損失は、初回サイクル充電容量の約20%以下、さらなる実施形態では約19%以下、他の実施形態では約18%以下である。比較的低い不可逆容量損失を、比較的高い比容量と組み合わせることができる。いくつかの実施形態では、リチウムリッチ金属酸化物とシリコンベース活性材料とを含む電池は、約20%以下の不可逆容量損失を示すことができ、また、C/3の速度で4.5Vから1Vでサイクルされるときに、10回目のサイクルで、少なくとも約900mAh/g、さらなる実施形態では少なくとも約1000mAh/g、追加の実施形態では約1050mAh/g〜約1900mAh/gの負極比容量を示すことができる。さらなる範囲の不可逆容量損失および比容量が企図され、本開示の範囲内に含まれることを当業者は理解されよう。
【0103】
シリコンベース電極の比容量は、リチウム箔の対向電極またはリチウム金属酸化物ベースの対向電極を用いた構成で評価することができる。リチウム金属酸化物ベースの正極を用いて形成した電池に関して、電池の比容量は、アノード活性材料とカソード活性材料両方の重量に対して評価することができる。高容量の正極活性材料を使用すると、高容量シリコンベース負極活性材料を使用する全体的な利益がより一層大きくなる。電池の容量に基づいて、比容量は、容量を各電極内の活性材料の重量で割ることによって得ることができる。どちらの電極に関しても高い比容量を有することが望ましいことがある。電池の全体的な比容量に関する各電極での高い比容量の利点は、参照により本明細書に援用するYoshio他の記事「Journal of Power Sources 146 (June 2005) pp 10−14」に記載されている。電池が補助リチウムを含むか否かに関わらず、容量が無駄にならないように、2つの電極は比較的平衡を図られる。電池が程よく平衡を図られていない場合、それに対応して、一方の電極の比容量が低下する。補助リチウムの文脈で電極の平衡を上述したが、補助リチウムの有無に関わらず上記の論述の概念に従う。
【0104】
いくつかの実施形態では、電池はさらに、不可逆容量損失を減少させるため、およびリチウムリッチ金属酸化物のサイクリングを安定させるために補助リチウムを含み、これらの実施形態に関しては、負極は、C/3の放電速度で4.5Vから1Vの間でサイクルされるときに、アノード活性重量に基づいて、10回目のサイクルで少なくとも約500mAh/g、さらなる実施形態では少なくとも約700mAh/g、追加の実施形態では少なくとも約800mAh/gの比容量を有することが望ましいことがある。特定のシリコンベース活性材料に応じて、下側電圧カットオフは、2V、1.5V、1V、または0.5Vに選択することができる。一般に、下側電圧カットオフは、電極の総容量の約92%〜約99%、さらなる実施形態では約95%〜約98%で、選択された一部の電極容量を引き出すように選択することができる。上述したように、正極がリチウムリッチ金属酸化物を含むときには、どちらの電極に関しても比較的高い比容量を有することが望ましいことがあり、電池は、C/3の放電速度で4.5Vから1Vの間でサイクルされるときに、50回目のサイクルで、少なくとも約150mAh/gの正極比容量および少なくとも約750mAh/gの負極比容量、さらなる実施形態では少なくとも約160mAh/gの正極比容量および少なくとも約850mAh/gの負極比容量、追加の実施形態では少なくとも約170mAh/gの正極比容量および少なくとも約1000mAh/gの負極比容量を示すことができる。上記の明示した範囲に含まれるさらなる範囲の比容量および他の電池パラメータが企図され、本開示に含まれることを当業者は理解されよう。
【実施例】
【0105】
性能を評価するために電池において多様なシリコンベース材料を試験した。これらの試料の多くは、ナノ構造化シリコンを含み、これらの試料のいくつかは、炭素との複合材として形成した。また、シリコン合金も調べた。一般に、試料は、コインセルとして形成して、リチウム合金化/インターカレーションに関して材料の性能を試験した。コインセルは、対向電極としてリチウム箔を用いて形成し、シリコンベース電極がリチウム箔に対して正極として働くようにした。あるいは、コインセルは、リチウムリッチ混合金属酸化物を含む正極を用いて形成し、得られる電池が、市販の電池に関する関連の電圧範囲にわたるサイクリングのために現実的な組成を有するようにした。コインセルを形成するための一般的な手順を以下の論述で説明し、以下の個々の実施例は、シリコンベース材料の形成を説明し、性能は、シリコンリッチ材料から形成した電池から得られるものである。
【0106】
特定の試料を試験するために、シリコンベース活性材料の試料から電極を形成した。一般に、シリコンベース活性材料の粉末を、アセチレンブラック(Timcal, Ltd.(スイス)からのSuper P(商標))と完全に混合させて、均質な粉末混合物を形成した。それとは別に、ポリイミドバインダを、N−メチル−ピロリドン(「NMP」)(Sigma−Aldrich)と混合し、一晩撹拌して、ポリイミド−NMP溶液を生成した。次いで、均質な粉末混合物をポリイミド−NMP溶液に添加して、約2時間混合して、均質なスラリを生成した。スラリを銅箔集電体上に塗布して、薄いウェットフィルムを形成し、積層集電体を真空オーブン内で240℃で約2時間乾燥させて、NMPを除去し、ポリマーを硬化させた。次いで、積層集電体を、シートミルのローラ間で押圧して、所望の積層厚さを得た。乾燥させた積層は、少なくとも75重量%のシリコンベース活性材料と、少なくとも2重量%のポリイミドと、および少なくとも3重量%のアセチレンブラックとを含んでいた。得られた電極を、リチウム箔の対向電極、またはリチウム金属酸化物(LMO)を含む対向電極と組み立てた。
【0107】
リチウム箔の対向電極を用いた第1の組の電池に関して、コイルセル電池を作製するために、アルゴンを充填したグローブボックス内にシリコンベース電極を配置した。厚さ約125ミクロンのリチウム箔(FMC Lithium)を負極として使用した。炭酸塩溶媒、例えば炭酸エチレン、炭酸ジエチル、および/または炭酸ジメチルを含む従来の電解質を使用した。電解質に浸漬した3層(ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン)の微孔性隔離板(Celgard, LLC, NC, USAからの2320)を正極と負極の間に配置した。電解質をさらに数滴、電極の間に加えた。次いで、クリンププロセスを使用して、電極を2032コインセルハードウェア(宝泉株式会社(日本))内部に封止して、コインセル電池を形成した。得られたコインセル電池をMaccorサイクルテスタで試験して、数サイクルにわたる充放電曲線およびサイクリング安定性を得た。
【0108】
第2の組の電池に関しては、シリコンベース電極を負極として使用し、正極は、高容量リチウムリッチ組成物を備えるものとした。得られた正極を、高容量マンガンリッチ(「HCMR(商標)」)電極と呼ぶ。選択された共沈プロセスを使用して、LMO複合材活性材料を合成した。水酸化物共沈プロセスによる同様の組成物の合成は、Venkatachalam他の「Positive Electrode Material for Lithium Ion Batteries Having a High Specific Discharge Capacity and Processes for the Synthesis of these Materials」という名称の米国特許出願公開第2010/0086853A号に記載されており、炭酸塩共沈プロセスによる同様の組成物の合成は、Lopez他の「Positive Electrode Material for High Specific Discharge Capacity Lithium Ion Batteries」という名称の米国特許出願公開第2010/0151332A号に記載されており、どちらの特許文献も参照により本明細書に援用する。特に、組成式xLi2MnO3・(1−x)LiNiuMnvCowO2によって近似的に表されるLMO粉末を合成した。ここで、x=0.5である(Li1.2Ni0.175Co0.10Mn0.525O2)。特定の性能結果を実現するためのHCMR(商標)組成物の設計についての論述は、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のLopez他の「Layer−Layer Lithium Rich Complex Metal Oxides With High Specific Capacity and Excellent Cycling」という名称の米国特許出願第12/869,976号に詳細に記載されている。
【0109】
電極は、始めに、合成したHCMR(商標)粉末を導電性アセチレンブラック(Timcal, Ltd.(スイス)からのSuper P(商標))および黒鉛(Timcal, Ltd.からのKS 6(商標))と完全に混合させて、均質な粉末混合物を形成することによって、HCMR(商標)粉末から形成した。それとは別に、フッ化ポリビニリデンPVDF(株式会社クレハ(日本)からのKF1300(商標))をN−メチル−ピロリドン(SigmaーAldrich)と混合し、一晩撹拌して、PVDF−NMP溶液を生成した。次いで、均質な粉末混合物をPVDF−NMP溶液に添加して、約2時間混合して、均質なスラリを生成した。スラリをアルミニウム箔集電体上に塗布して、薄いウェットフィルムを形成し、積層集電体を、真空オーブン内で110℃で約2時間乾燥させて、NMPを除去した。次いで、積層集電体を、シートミルのローラ間で押圧して、所望の積層厚さを得た。乾燥させた電極は、少なくとも約75重量パーセントの活性金属酸化物と、少なくとも約3重量パーセントのアセチレンブラックと、少なくとも約1重量パーセントの黒鉛と、少なくとも約2重量パーセントのポリマーバインダとを含んでいた。
【0110】
シリコンベース負極およびHCMR(商標)正極から作製した電池のいくつかは、さらに補助リチウムを含んでいた。特に、所望の量のSLMP(登録商標)(FMC Corp.)粉末(安定させたリチウム金属粉末)をバイアル内に装填し、次いでバイアルに、約40μm〜約80μmのメッシュサイズを有するナイロンまたはステンレス鋼からなるメッシュを被せた。次いで、装填されたバイアルを振る、および/またはタップすることによって、SLMP(登録商標)(FMC corp.)を、形成されたシリコンベースの負極の上に堆積した。次いで、コーティングを施したシリコンベース負極を圧縮して、機械的な安定性を保証した。
【0111】
シリコンベース負極およびHCMR(商標)正極から作製した電池を、余剰の負極材料を有するようにして平衡を図った。負極平衡の特定の値は、以下の具体的な実施例で提示する。補助リチウムを含む電池に関して、平衡は、HCMR(商標)正極の理論上の容量に対するシリコンベース負極の初回サイクルリチウム抜出し容量の比に基づくものにした。補助リチウムの量は、負極の不可逆容量損失をほぼ補償するように選択した。補助リチウムを有さない電池では、平衡は、HCMR(商標)正極の理論上の容量に対するシリコンベース負極の初回サイクルリチウム取込み容量として計算した。特に、所与のシリコンベース活性組成物に関して、シリコンベース組成物の取込みおよび抜出し容量は、シリコンベース活性材料を含む正極とリチウム箔負極とを有する電池によって評価することができ、ここでリチウムは、C/20の速度で、5mVまでシリコンベース電極にインターカレート/合金化され、1.5Vまで脱インターカレート/脱合金化される。
【0112】
コインセル電池は、アルゴンを充填したグローブボックス内にシリコンベース電極およびHCMR(商標)電極を配置することによって形成した。高電圧で安定になるように電解質を選択した。適切な電解質は、参照により本明細書に援用する、本願と同時係属中のAmiruddin他の「Lithium Ion Battery With High Voltage Electrolytes and Additives」という名称の米国特許出願第12/630,992号に記載されている。これらの電極および高電圧電解質に基づいて、リチウム箔電極を用いた電池に関して、上述したように隔離板およびハードウェアと共にコインセル電池を完成させた。
【0113】
実施例1−サイクリング性能:多孔質シリコンを含む負極
この実施例は、電気化学的に生成された多孔質シリコンを含む負極活性材料から作製したコインセル電池のサイクリング性能を実証する。
【0114】
サイクリング性能を実証するために、複数のコインセル電池を、シリコンベース電極の組成を変えて、上述したように形成した。様々なシリコンベース電極に関して、ナノ構造および/または非活性導電性成分が異なる活性材料から各電極を形成した。ナノ構造に関して、ナノ多孔質p+シリコンまたは孔のない真性のp+シリコンを含む活性材料から各シリコンベース電極を形成した。ナノ多孔質シリコンは、以下に述べるように合成した。真性p+シリコンは、等価なp+シリコンウェアの高エネルギー機械的破砕を使用して生成して、約75ミクロンの平均粒径を有する粉末を形成した。ナノ多孔質シリコンは、直接用いたか、または非活性導電性成分と共に複合材として形成した。特に、複合材は、金属コーティング、熱分解炭素コーティング、および/または炭素繊維と共に多孔質シリコンから形成した。
【0115】
ナノ構造化シリコンの合成
単結晶シリコンウェハの電気化学的エッチングによってナノ多孔質シリコンを形成した。エッチングセルのアノードを形成するために、市販のp+ドープ単結晶シリコンウェハ(Wafer Net)をエタノールで洗浄して、空気中で乾燥させた。次いで、洗浄したウェハを電気接続端子に接続した。エッチングセルのカソードは、白金箔から形成した。次いで、エタノール中の35%フッ化水素酸の電解質/エッチング溶液を含む容器内に内にアノードおよびカソードを配置し、その後、アノードおよびカソードを外部DC電源に接続することによって、エッチングセルを完成させた。
【0116】
シリコンウェハのエッチングを誘発するために、エッチングセルの電極に様々な定電流(12.5mA/cm2、または25mA/cm2、または50mA/cm2、または150mA/cm2)を印加した。エッチング電流と共にエッチング時間を変え、20分〜4時間の間とした。より長いエッチング時間を、より小さいエッチング電流に対応させた。適切なエッチング時間の後、エッチング電流を200〜500mA/cm2に高めることによって、エッチングされたナノ多孔質シリコン層を基板から切り離した。これにより、エッチングされたシリコンの一部を基板から切り離した。図2は、電気化学的エッチング後の2つのp+シリコンウェハの断面の走査型電子顕微鏡(「SEM」)画像の合成写真である。図2の左図および右図に示されるp+シリコンウェハは、それぞれ、150mA/cm2で20分間、および50mA/cm2で1時間、電気化学的にエッチングしたものである。図2は、電気化学的エッチングプロセスによって生成されたナノ多孔質構造を示す。
【0117】
電気化学的エッチングを行い、エッチングされたシリコンをシリコンウェハから切り離した後、破砕し、次いで約20ミクロンのカットオフで粉末を篩にかけることによって、切り離したナノ多孔質シリコンから、多孔質のp+ナノ多孔質シリコン粒子を形成した。
【0118】
非活性導電性成分を含む複合材の形成
金属コーティングを備える多孔質シリコンから複合材を形成した。さらなる実施形態では、多孔質シリコンと共に炭素繊維を用いて電極を形成した。炭素繊維を備える電極に関して、市販の炭素繊維を入手し、電極形成中に、上述したように用意したp+多孔質シリコンと組み合わせた。炭素繊維に対する多孔質シリコン粉末の重量比は、0/7:0.3だった。炭素繊維を多孔質シリコン、アセチレンブラック、およびバインダと組み合わせ、約2時間にわたって混合して、上述したようにリチウム箔の対向電極を備える電池用の電極を形成した。電池性能の結果は以下に示す。
【0119】
また、多孔質シリコンの複合材を、炭素コーティングを備えて形成した。炭素コーティングを形成するために、上述したように合成した適量のp+ナノ多孔質シリコン粒子と、n−メチル−2−ピロリドン(「NMP」)中のポリアクリロニトリル(Sigma−Aldrich)とを混合することによってスラリを用意した。次いで、混合したスラリを、真空オーブン内で110℃で乾燥させた。次いで、乾燥させたスラリを、炉内で900℃で2時間〜4時間加熱して、ポリアクリロニトリルを炭化した。
【0120】
また、複合材を、銀または銅の金属コーティングと合成した。銀コーティングに関しては、上述したように合成した適量のp+ナノ多孔質シリコン粒子粉末を、6mMの硝酸銀溶液中で12時間拡散させた。溶液のpHは、水酸化アンモニウム、ホルムアルデヒド、またはメタノールの添加によって約9.3に保った。銅コーティングに関しては、上述したように合成した適量のp+ナノ多孔質シリコン粒子粉末を、84.5mMの塩化銅溶液中で拡散させた。ここで、0.5858gのCuCLを、70mLの5M HF溶液中に1時間で溶解した。1時間の無電解堆積後、溶液を濾過紙で濾過した。洗浄プロセスを完了させるために、余剰の水を使用し、次いでエタノールで最終的なリンスを行った。得られた生成物を、真空オーブン内で110℃で乾燥させた。
【0121】
性能:ナノ多孔質性の効果
電池性能に対するナノ多孔質シリコン電極活性材料およびそれらの複合材の効果を評価するために、リチウム箔負極およびそれぞれのシリコンベース電極組成物を備える5個の電池を上述したように形成した。電池は、真性の、すなわち孔のないp+シリコンを含む電極活性組成物(「真性負極」)から形成した。4個の電池を、ナノ多孔質p+シリコンを含むシリコンベース活性組成物(「ナノ多孔質シリコン電極」)から形成した。この実施例で上述したように、それぞれが、電気化学的エッチング条件を変えることによって生成される異なる度合いの多孔性および孔径を有する。各ナノ多孔質シリコン電極活性組成物に関するエッチングレートは、12.5mA/cm2、または25mA/cm2、または50mA/cm2、または150mA/cm2とした。エッチング時間は、それに対応してそれぞれ4時間、2時間、1時間、および0.3時間とした。
【0122】
電池を、0.01Vから1.5Vの間で、最初の2回のサイクルに関してはC/20、サイクル3および4に関してはC/10、サイクル5および6に関してはC/5、残りのサイクルに関してはC/3の速度でサイクルさせた。一般に、ナノ構造化シリコン電極を備える電池は、真性のp+シリコン電極から構成された電池と比べて、比放電容量に関して評価したときにサイクリング性能の改良を示さなかった。図3aおよび図3bは、上述したように形成した電池に関する、サイクル番号に対する比充電および放電容量のプロットを含むグラフである。図3bは図3aの拡大図であり、真性のp+シリコン電極を備える電池に関する結果を省き、見やすいように描き替えてある。図3aは、ナノ多孔質シリコン電極から形成した電池が、真性のp+シリコン電極から形成した電池に比べて比放電容量の低下を示すことを表す。しかし、ナノ多孔質シリコン電極を用いて形成した電池に関して、図3bは、より低いエッチング電流およびより長いエッチング時間でナノ多孔質シリコン電極活性材料を形成したときに、より良いサイクリング性能を実現することができることを示す。特に、12.5mA/cm2でのエッチングによって形成した多孔質シリコン電極を備える電池は、より高い電流密度およびより短いエッチング時間でのエッチングによって形成した多孔質シリコン電極を備える電池よりも良いサイクリング性能を有する。
【0123】
性能:非活性導電性成分の効果
負極活性材料に対するコーティングおよび/または緩衝材料の効果を実証するために、上述したようなリチウム箔負極と、様々なシリコンベース電極組成物とを用いて7個の電池を形成した。また、電池は、真性p+シリコンを含む電極(「真性負極」)を用いて形成した。この実施例で上述したようにp+シリコンウェハを12.5mA/cmで4時間電気化学的にエッチングすることによって得られたナノ多孔質p+シリコンを含むシリコンベース電極活性組成物(「ナノ多孔質シリコン電極」)を用いて、5個の電池を形成した。ナノ多孔質シリコン電極から形成した電池のシリコンベース電極活性材料は、炭素繊維を備える、または炭素繊維を備えないものとし、さらに、金属炭素コーティングを備える、熱分解炭素コーティングを備える、またはコーティングを備えないものとした。試験した各電池に関するシリコンベース電極組成物の要約を以下の表Iに列挙する。
【0124】
【表5】
【0125】
一般に、真性p+シリコン電極から形成した電池は、ナノ多孔質シリコン電極から形成した電池よりも良いサイクリング性能を有するが、ナノ多孔質シリコン電極活性材料への非活性導電性成分の添加が、ナノ多孔質シリコン電極活性材料から形成した電池のサイクリング性能を大幅に改良することが分かった。図4は、表Iに列挙した電池に関するサイクル番号に対する比充電および放電のプロットを含むグラフである。図4は、真性p+シリコン電極から形成した電池(電池1)が、非活性導電性成分を含まないナノ多孔質シリコン電極から形成した電池(電池2)よりも良いサイクリング性能を有することを示す。しかし、銅コーティング、または熱分解炭素コーティング、および/または炭素繊維を備えるナノ多孔質シリコン電極から形成した電池(電池3、4、および7)は、真性p+シリコン電極を用いて形成した電池(電池1)よりも良いサイクリング性能を有していた。さらに、熱分解炭素コーティングを備えるナノ多孔質シリコン電極から形成した電池(電池4)は、炭素繊維を備えるナノ多孔質シリコン電極から形成した電池(電池3)よりも少し良いサイクリング性能を有していた。銀の非活性導電性成分を用いて形成した電池(電池5および6)は、表Iで試験したすべての電池の中で最も望ましくないサイクリング性能を示した。
【0126】
実施例2−サイクリング性能:ナノシリコン粒子を含む熱分解炭素コーティング組成物の効果
この実施例は、コインセル電池内のナノ粒子シリコンの性能に対する、熱分解炭素コーティング形成の変更の効果を実証する。
【0127】
サイクリング性能を実証するために、リチウム箔負極および様々な正極組成物を備える3個のコイルセル電池を上述したように形成した。特に、電池は、Nanostructured and Amorphous Materials, Inc.製の、平均主粒径が50〜100nmのナノ粒子シリコンを含むシリコンベース活性組成物から形成した。熱分解炭素コーティングを有するシリコンベースの活性組成物を含む負極を用いて2つの電池を形成した。この熱分解炭素コーティングは、硬質炭素コーティングを形成するために高温でグルコースまたはクエン酸を炭化させることによって形成した。
【0128】
グルコースおよびクエン酸の炭化は、2つの異なる手法で行った。グルコースは、水中に溶解し、シリコンナノ粒子と混合させた。10mlの脱イオン化(DI)水中に1グラムの量のナノSiを溶解し、その混合物に0.5gmのグルコースを添加した。次いで、この溶液を超音波下で1時間混合した。得られた溶液を、Teflon(登録商標)容器に移送して、200℃で12時間、熱水処理した。室温への冷却後、溶液をDI水で洗浄し、濾過して、固体前駆体を得た。さらに、固体前駆体を真空オーブン内で80℃で4時間乾燥させた。乾燥させた固体前駆体を、セラミック坩堝内に入れ、管状炉内で750℃で4時間焼成した。10℃/分の加熱速度を使用した。熱処理後、炭素コーティングを施したナノシリコンを、モルタルおよび乳棒を使用して粉砕して、微細な粉末を得た。最終的な試料は、約15〜20重量%の炭素コーティングを有していた。図5は、得られたときのナノシリコン(左図)およびグルコースの熱水炭化後のナノシリコン(右図)を撮影した走査型電子顕微鏡画像の合成写真である。
【0129】
熱分解炭素コーティングを施されたナノシリコンをクエン酸から形成するために、50mLのエタノール中に20gのクエン酸を溶解した。継続的に撹拌しながら、この混合物に2gのナノSiを添加した。混合プロセスを改良するために、混合物を超音波下で1時間処理した。次いで、撹拌しながらエタノールを室温で蒸発させて、固体前駆体を得た。乾燥させた固体前駆体を、管状炉内で、アルゴン雰囲気中で2.5℃/分の加熱速度で、600℃で4時間熱処理した。最終的な試料における炭素含有量は、約20〜25重量%であった。
【0130】
電池を上述したように形成し、1.5Vから0.01Vの間で、最初の2回のサイクルに関してはC/20、サイクル3および4に関してはC/10、サイクル5および6に関してはC/5、残りのサイクルに関してはC/3の速度でサイクルさせた。一般に、熱分解炭素コーティングを備えるシリコンベース電極活性材料から形成した電池は、熱分解炭素コーティングなしで形成した電池よりも良いサイクリング性能を有していた。図6は、熱分解炭素コーティングを備える負極、および熱分解炭素コーティングなしの負極から形成した電池に関する、サイクル番号に対する比放電容量のプロットを含むグラフである。負極活性材料が硬質の熱分解炭素コーティングを備えていた電池は、負極活性材料が熱分解炭素コーティングを備えていなかった電池よりも大幅に良いサイクリングを示した。特に、電池は、50サイクルにわたって非常に大きい比放電容量を示した。さらに、熱分解炭素コーティングを備えるシリコンベース電極活性材料から作製した電池に関して、グルコースから形成した熱分解炭素コーティングを備える電池は、クエン酸から形成した熱分解炭素コーティングを備える電池よりも良いサイクリング性能を有していた。特に、熱分解炭素コーティングは、不可逆容量損失を、熱分解炭素コーティングなしのシリコンベース電極活性材料から作製した電池に関する38%から、それぞれグルコースおよびクエン酸から形成した熱分解炭素コーティングを備えるシリコンベース電極活性材料から作製した電池に関する約26%および24%に減少させた。さらに、50サイクルの終了時、熱分解炭素コーティングなしのナノシリコン電極活性材料から形成した電池がその容量の約40%しか維持しなかったのに対し、熱分解炭素コーティングを備えるナノシリコン電極活性材料から形成した電池は、それぞれクエン酸およびグルコースから形成した熱分解炭素コーティングに関して容量の60%および80%を維持した。
【0131】
実施例3−サイクリング性能:炭素−シリコン−硬質炭素複合材
この実施例は、黒鉛状炭素−シリコン−硬質炭素コーティングを施した複合材(CSi−HC)を含む活性材料から形成した電極から作製したコイルセル電池の性能を実証する。
【0132】
CSi−HC電極の形成
複合材の前駆体材料を、ボールミルによって用意した。特に、適量の粉末化シリコン粒子(Sigma−Aldrich、−325メッシュ)と、表面修飾された黒鉛(A3−MagD)と、n−メチル−2−ピロリドン中のポリアクリロニトリル(Sigma−Aldrich)とをボールミルに加えた。破砕速度150rpm〜300rpmで1時間〜15時間にわたって破砕することによってスラリを生成した。次いで、破砕したスラリを真空オーブンに移送し、100℃で3時間乾燥させた。次いで、乾燥させた混合物を炉に移送して、窒素雰囲気中で900℃で140分〜240分間、ポリアクリロニトリルを炭化して、熱分解硬質炭素を形成した。この実施例で使用した炭素(黒鉛)−シリコン−硬質炭素複合材は、Si18HC17Gr65(51.8重量%の黒鉛、34.5重量%のシリコン、および13.7重量%)の硬質炭素のコーティングを備えていた。
【0133】
シリコンベース電極を、上述したようにCSi−HC複合材活性材料(「CSi−HC電極」)から形成した。特に、シリコンベース材料を、約18μm〜約60μmの実質的に均一な積層厚さで形成した。
【0134】
サイクリング性能に対する積層厚さの効果
サイクリング性能に対する積層厚さの効果を実証するために、3個のコインセル電池を上述したように形成した。特に、電池を、リチウム箔負極と、様々な積層厚さのCSi−HC正極とから形成した。第1、第2、および第3の電池は、それぞれ18μm、26μm、および60μmのコーティングギャップを有して積層したCSi−HC正極を備えていた。電池を、0.01Vから1.5Vの間で、初回および2回目のサイクルに関してはC/20、3回目および4回目のサイクルに関してはC/10、5回目および6回目のサイクルに関してはC/5、後続のサイクルに関してはC/3の速度で充電および放電することによってサイクルさせた。結果は、以下の表IIに要約する(表IIでは、「比容量」を「SC」と略記してある)。
【0135】
一般に、正極積層厚さが大きくなると電池性能が低下することが分かった。図7は、異なる度合いの積層厚さを有するCSi−HC複合材を備える正極から作製した電池に関する、サイクル番号に対する比放電容量のプロットである。図7は、より小さい積層厚さを有するCSi−HC正極から形成した電池が、より大きい積層厚さを有するCSi−HC正極から形成した電池よりも良いサイクリング性能を有していたことを表す。特に、50サイクル後、5回目の放電サイクルに比べて、18μmの積層厚さを有するCSi−HC正極を用いて形成した電池はその放電容量の52%を維持し、26μmの積層厚さを有するCSi−HC正極を用いて形成した電池はその放電容量の46%を維持していた。60μmの積層厚さを有するCSi−HC正極から形成した電池は、50回目のサイクルよりも前に、デンドライト形成により故障した。
【0136】
【表6】
【0137】
HCMR(商標)カソードを用いた性能
電池サイクリング性能に対する正極組成物の効果を実証するために、2個の電池を形成した。第1の電池は、HCMR(商標)正極と、60μmのCSi−HC積層厚さを有するCSi−HC負極とから作製し(「CSi−HC/HCMR電池」)、どちらの電極も上述したように形成した。第1の電池は、HCMRの初回充電容量とシリコンベースアノードの初回放電容量とに基づいて評価される33%の余剰負極容量で平衡を図った。平衡のための容量の決定は、セル内で、それぞれの電極をリチウム箔に対して配置させ、シリコンベース電極に関しては10mV〜1.5V、HCMR電極に関しては0.5V〜4.6VでどちらもC/20の速度で動作させて行う。第2の電池は、HCMR正極およびリチウム箔負極から作製し(「Li/HCMR」電池)、どちらの電極も上述したように形成した。CSi−HC/HCMR電池を、4.6Vから0.5Vの間で、初回および2回目のサイクルに関してはC/20、3回目および4回目のサイクルに関してはC/10、5回目および6回目のサイクルに関してはC/5、後続のサイクルに関してはC/3の速度で充電および放電することによってサイクルさせ、Li/HCMR電池も、4.6Vから0.5Vの間で、CSi−HC/HCMR電池と同じ速度でサイクルさせた。
【0138】
リチウム箔負極およびCSi−HC正極から作製した電池(「Li/CSi−HC電池」)に比べて、CSi−HC/HCMR電池は良いサイクリング性能を有していた。図8は、CSi−HC/HCMR電池に関する、サイクル番号に対する比放電容量のプロットを含むグラフである。この電池に関する初回サイクルIRCLは、初めの充電容量の21.4%であった。特に、負極の質量に基づいて計算した比充電および放電容量に関してプロットを示す。図7と図8の比較から、60μmのCSi−HC積層厚さを有するLi/CSi−HC電池は50サイクルよりも前に故障し、一方、60μmのCSi−HC積層厚さを有するCSi−HC/HCMR電池は、50回目のサイクルで(7回目のサイクルに対して)その容量の72%を維持していたことが分かる。さらに、CSi−HC/HCMR電池のサイクリング性能は、この実施例で試験したすべてのCSi−HC/Li電池よりも優れたサイクリング性能を有していた。
【0139】
Li/HCMR電池に比べて、CSi−HC/HCMRは、低いサイクリング性能を有していた。図9は、正極の質量に基づいて計算した比充電および放電容量のプロットを含むグラフである。図9は、Li/HCMR電池が、CSi−HC/HCMR電池よりも良いサイクリングを示したことを表す。特に、上述したように、CSi−HC/HCMR電池は、(7回目のサイクルに対して)その容量の72%を維持していた。他方、Li/HCMR電池は、50回目のサイクル後に、(7回目のサイクルに対して)その容量の約84%を維持していた。
【0140】
CSi−HC負極の構造に対するサイクリングの効果
CSi−HC負極の構造に対するサイクリングの効果を評価するために、2個のCSi−HC/HCMR電池を、上述したように形成してサイクルさせた。第1の電池は15回サイクルさせ、第2の電池は100回サイクルさせた。さらに、比較のために、電池として組み立てずにCSiHC電極を調べた。CSi−HC電極は、長いサイクルにわたって物理的な劣化を受けた。図10は、撮影したCSi−HC電極のSEM画像の合成写真である。特に、左図は、サイクルさせていないCSi−HC電極のSEM画像を示す。中央の図および右図は、それぞれ15回および100回サイクルさせたCSi−HC/HCMR電池からの撮影したCSi−HC負極のSEM画像を示す。図10は、長いサイクルで、CSi−HC材料が、大きな亀裂の発生を含めた重大な構造変化を受けていることを示す。
【0141】
実施例4−サイクリング性能:炭素繊維−シリコン複合材
この実施例は、炭素繊維−シリコン(「CFSi」)複合材を含む活性材料から形成したシリコンベース電極から作製したコインセル電池の性能を実証する。
【0142】
CFSi複合材および対応する電極の形成
まず炭素コーティングをナノシリコン粒子上に形成し、その後、炭素コーティングを施したナノシリコンを炭素繊維と共に破砕することによって、炭素繊維−シリコン複合材料を用意した。炭素コーティングを形成するために、適量のポリ塩化ビニル(「PVC」)を、テトラヒドロフラン(「THF」)と混合させて、PVC−THF溶液を生成した。次いで、適量のナノシリコン(Nanostructured & Amorphous Materials, Inc.)をPVC−THF溶液に添加して、超音波処理によって1時間拡散させて、混合物を生成した。超音波処理後、THFが完全に乾燥するまで混合物を入念に撹拌し、次いで、得られたPVCナノシリコン混合物をアルゴン雰囲気中で900℃で1時間熱処理して、PVCを炭化させた。炭素コーティングプロセス後、試料を管状炉から取り出して、モルタルおよび乳棒を使用して粉砕し、粉末を44ミクロンのメッシュスクリーンに通して篩にかけた。炭素コーティングナノシリコンは、約20重量%の炭素と約80重量%のシリコンであった。図11は、コーティングなしのナノシリコン(左図)と炭素コーティングを施したナノシリコン(右図)のSEM画像の合成写真である。
【0143】
炭素コーティングを施したSi−炭素繊維複合材は、篩にかけた炭素のコーティングを施したシリコン85重量%と、炭素繊維15重量%とをジャーミルを使用して混合することによって用意した。必要な材料は、いくつかのジルコニア破砕ボールを用いるプラスチックジャー内で得られた。ジャーに1時間混合を行わせ、ジャーの内容物を、アノード調製プロセスのために収集した。ジャーミル混合プロセス後に、篩にかけるステップは行われない。CFSi複合材から、上述したように電極を形成した。
【0144】
サイクリング性能
CFSi複合材電極から作製した電池に関するサイクリング性能を実証するために、リチウム箔の対向電極またはHCMR(商標)電極を用いて3個のコインセル電池を形成し、ここで、電池および電極は上述したように形成した。第1の電池は、CFSi複合材ベースの電極およびリチウム箔負極から作製した(「CFSi/Li電池」)。第2の電池は、CFSiを含む負極およびHCMR(商標)正極から作製した(「非リチウム化CFSi/HCMR電池」)。不可逆容量損失を補償するために0.8mgの補助リチウムを含む第3の電池は、リチウム化CFSi負極およびHCMR正極から作製した(「リチウム化CFSi/HCMR電池」)。CFSi/HCMR電池はどちらも110%の負極容量で平衡を図った。
【0145】
様々なサイクリングプロトコルを使用して電池をサイクルさせた。CFSi/Li電池サイクリングプロトコルは、0.005Vから1.5Vの間で、初回および2回目のサイクルに関してはC/20の速度、3回目および4回目のサイクルに関してはC/10の速度、5回目および6回目のサイクルに関してはC/5の速度、後続のサイクルに関してはC/3の速度で充電および放電することを含んでいた。サイクルのインターカレーション/合金化段階の間、0.005Vの電圧に達するまで定電流を印加し、次いで、電流がC/50に達するまで定電圧を印加した。非リチウム化およびリチウム化CFSi/HCMR電池に関するサイクリングプロトコルは、初回サイクル後に、それぞれ4.5Vから1.0Vの間および4.5Vから1.5Vの間で、初回サイクル(4.6Vから1.0Vの間)に関してはC/20の速度、2回目のサイクルに関してはC/10の速度、3回目および4回目のサイクルに関してはC/5の速度、後続のサイクルに関してはC/3の速度で充電および放電することを含んでいた。CFSi/Li電池およびCFSi/HCMR電池に関する容量維持を、それぞれ7回目および5回目のサイクルでの比放電容量に対して測定した。
【0146】
図12および図13は、それぞれCFSi/Li電池およびCFSi/HCMR電池に関する、サイクル番号に対する比充電および放電容量のプロットを含むグラフである。比容量は、図12および図13において、それぞれ負極および正極内の活性材料の質量に基づいて計算した。図12と図13の比較から、CFSi/Li電池は、50サイクル後に63%の容量を維持し、非リチウム化およびリチウム化CFSi/HCMR電池の容量維持は、それぞれ約32%および78%であったことが分かる。さらに、図13は、リチウム化CFSi/HCMR電池の初回サイクルIRCLが、非リチウム化CFSi/HCMR電池(約25%)よりも減少している(約18%)ことを示す。
【0147】
非リチウム化CFSi/HCMR電池は、サイクリングと共に、CFSi/Li電池よりも大きな減衰を示した。一般に、LMOを含む正極を用いた電池では、どちらの電極も減衰に寄与することがある。また、シリコンベースアノードの減衰が、リチウム箔対向電極とLMO対向電極に関して同じであると考える根拠はない。すなわち、実際に最終的にはLMOベースの電極と共に使用するものと意図されているシリコンベース電極に関して、LMO電極を用いた性能測定がより現実的である。シリコンベース電極は、。リチウム化CFSi/HCMR電池は、容量減衰の減少に関して、大幅に改良されたサイリング性能を有していた。リチウム化CFSi/HCMR電池の改良された性能は、容量減衰の減少が、少なくとも一部は補助リチウムによるCFSi負極の安定化に起因していることを示唆することがある。
【0148】
図14は、非リチウム化およびリチウム化CFSi/HCMR電池に関する、サイクル番号に対する比充電および放電容量のプロットを含むグラフである。図13および図14に示したデータは、サイクリング中の同じ放電容量の測定から得たものであるが、図14に示す比放電容量は、負極の質量に基づいて計算した。図14に示されるように、非リチウム化CFSi/HCMR電池は、初期サイクルでは、リチウム化CFSi/HCMR電池よりも大きい比放電容量を有する。これは、非リチウム化電池では、SLMP(登録商標)粉末の存在に基づいて電池が平衡を図られるので、CFSi負極の重量が比較的小さいことに起因する。補助リチウムに関して調節して、どちらの電池も110%で平衡を図ったことに留意されたい。しかし、約18回目のサイクルの後、正極活性材料の所与の重量に関してリチウム化CFSi/HCMR電池の負極が比較的大きかったにせよ、非リチウム化CFSi/HCMR電池の比放電容量は、リチウム化CFSi/HCMR電池の比放電容量よりも減衰した。サイクリングに伴う減衰の大幅な減少に基づき、この結果は、補助リチウムの存在によってCFSi負極が安定化することと整合性があるが、減衰に対する正極からの寄与の可能性もあるため、この問題の評価は複雑である。
【0149】
実施例5−サイクリング性能:シリコン−金属合金複合材
この実施例は、炭素繊維を備えるシリコン−金属の金属間化合物/合金複合材を含む活性材料から形成したコインセル電池のサイクリング性能を実証する。
【0150】
シリコン−鉄−炭素繊維(「Si−Fe−CF」)金属間化合物/合金複合材料を、ジルコニア破砕媒体を用いた高エネルギーの機械的破砕によって用意した。前駆体材料は、325メッシュミクロンスケールのシリコン(Sigma−Aldrich)と、約44ミクロンの粒径を有する鉄粉末(Sigma−Aldrich)と、カーボンナノファイバとであった。成分材料は、ジルコニア媒体を用いた高エネルギーボールミルジャー内にSi70Fe15CF15の割合で一緒に入れ、300rpmで5時間粉砕した。粉砕後、材料を収集し、44ミクロンの篩にかけた。この実施例で使用したSi−Fe−CF複合材は、組成式Si70Fe15CF15によって表すことができ、ここで、「CF」は、複合材の炭素繊維成分であり、シリコン、鉄、および炭素繊維は、それぞれ約65.8重量%、27.5重量%、および6重量%で存在する。図15は、合成されたSi70Fe15CF15金属間化合物/合金複合材のX線回折測定(「XRD」)によって得た、散乱角度に対する強度のプロットを含むグラフであり、破砕中に合金化が行われたことを示す。ZrO2強度は、活性材料と混合された破砕成分からの微量のジルコニアによるものである。
【0151】
非リチウム化負極および(補助リチウムを有する)リチウム化負極を、Si70Fe15CF15金属間化合物/合金複合材から形成した。特に、電極(「SiFe−CF電極」および「リチウム化SiFe−CF電極」)を、上述したように形成した。
【0152】
サイクリング性能を実証するために、3個のコインセル電池を上述したように形成した。第1の電池は、SiFe−CF電極およびリチウム箔電極から作製した(「SiFe−CF/Li電池」)。第2の電池は、SiFe−CF負極およびHCMR正極から作製した(「非リチウム化SiFe−CF/HCMR電池」)。第3の電池は、リチウム化SiFe−CF負極およびHCMR正極から作製した(「リチウム化SiFe−CF/HCMR電池」)。HCMR正極は、上述したように形成した。
【0153】
様々なサイクリングプロトコルを使用して電池をサイクルさせた。SiFe−CF/Li電池サイクリングプロトコルは、1.5Vから0.005Vの間で、初回および2回目のサイクルに関してはC/20の速度、3回目および4回目のサイクルに関してはC/10の速度、5回目および6回目のサイクルに関してはC/5の速度、後続のサイクルに関してはC/3の速度で充電および放電することを含んでいた。放電(アノードへのリチウムインターカレーション/合金化)プロセスは、2つのステップを含んでいた。1つのステップでは、電圧が5mVに達するまで定電流を流し、さらに、電流がC/50に達するまで定電圧ステップを使用した。充電(アノードからのリチウム脱インターカレーション/脱合金化)プロセスでは、電圧が1.5Vに達するまでの定電流ステップのみを行った。非リチウム化およびリチウム化SiFeCF/HCMR電池に関するサイクリングプロトコルは、初回サイクル後に、それぞれ4.5Vから1.0Vの間および4.5Vから1.5Vの間で、初回(4.6Vから1.0Vの間)および2回目のサイクルに関してはC/10の速度、3回目および4回目のサイクルに関してはC/5の速度、後続のサイクルに関してはC/3の速度で充電および放電することを含んでいた。SiFe−CF/LiおよびSiFe−CF/HCMR電池に関する容量維持を、それぞれ7回目および5回目のサイクルでの比放電容量に対して測定した。
【0154】
SiFe−CF/Li電池は、SiFe−CF/HCMR電池に比べて容量減衰の減少を示した。実施例4で述べたように、LMOベース電極を用いた電池に関する容量減衰は、正極と負極両方からの寄与を受けることがある。図16および図17は、それぞれSiFe−CF/LiおよびSiFe−CF/HCMR電池に関する、サイクル番号に対する比充電および放電容量のプロットを含むグラフである。特に、図16および図17は、SiFe−CF/Liが、43サイクル後にその容量の約86%を維持していたことを表す。他方、同じ回数のサイクル後、非リチウム化およびリチウム化SiFe−CF/HCMR電池は、それらの容量の約60%および46%しか維持しなかった。これはまた、リチウム化SiFe−CF/HCMR電池内の補助リチウムの存在が、この実施形態においてはサイクリング性能を改良しなかったことを示す。さらに、図17は、非リチウム化SiFe−CF/HCMR電池がどちらも約17%の初回サイクルIRCLを有していたことを示し、これは、リチウム化SiFeCF/HCMR電池内の補助リチウムの存在が、この実施形態に関しては初回サイクルIRCLを減少させなかったことを示す。したがって、補助リチウムの存在に関し、シリコン合金は、ナノシリコンベースの活性材料または黒鉛状炭素活性材料で観察されたものとは大きく異なる挙動を示した。
【0155】
上述した実施形態は、限定ではなく例示として意図したものである。さらなる実施形態が特許請求の範囲に含まれる。さらに、特定の実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく形態および詳細に変更を加えることができることを当業者は理解されよう。上記文献の参照による援用は、本明細書における明示的な開示に反する主題は組み込まないように限定する。
【0156】
本文献は、California Energy Commission(カリフォルニア州エネルギー委員会)によって支援された研究の結果として成されたものである。必ずしもCalifornia Energy Commission、その従業員、またはカリフォルニア州の見解を表すものではない。California Energy Commission、カリフォルニア州、その従業員、請負業者、および下請け業者は、本文献における情報に関して、明示的にも黙示的にもいかなる保証も行わず、法的責任も持たない。また、いかなる当事者も、この情報の使用が私的な権利を侵害しないとは言明しない。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム金属酸化物を含む正極と、負極と、前記正極と前記負極の間にある隔離板と、補助リチウムとを備えるリチウムイオン電池であって、前記負極が、シリコンを含み、C/3の速度で少なくとも約500mAh/gの比容量を有するリチウムイオン電池。
【請求項2】
前記負極容量の少なくとも約2.5%に対応する補助リチウムの量を有する請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項3】
前記負極容量の少なくとも約10%に対応する補助リチウムの量を有する請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項4】
前記負極がナノ構造化シリコンを含む請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項5】
前記負極がシリコン−炭素複合材料を含む請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項6】
前記負極が、C/3の速度で少なくとも約700mAh/gの比容量を有する請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項7】
前記リチウム金属酸化物を、組成式Li1+bNiαMnβCoγAδO2−zFzによって近似的に表すことができ、ここで、bは約0.01〜約0.3の範囲内にあり、αは約0〜約0.4の範囲内にあり、βは約0.2〜約0.65の範囲内にあり、γは0〜約0.46の範囲内にあり、δは0〜約0.15の範囲内にあり、zは0〜約0.2の範囲内にあり、ただしαとγがどちらもゼロでないものとし、Aは、Mg、Sr、Ba、Cd、Zn、Al、Ga、B、Zr、Ti、Ca、Ce、Y、Nb、Cr、Fe、V、Li、またはそれらの組合せである請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項8】
4.6Vへの充電に関して、初めの充電容量の約20%以下の初回サイクル不可逆容量損失を有する請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項9】
リチウム金属酸化物を含む正極と、負極と、前記正極と前記負極の間にある隔離板とを備えるリチウムイオン電池であって、前記負極が、シリコンと、導電性成分と、ポリマーバインダとを含み、前記負極が、少なくとも約0.6g/cm3のシリコン活性材料の密度を有し、少なくとも約3.5mAh/cm2の単位面積当たりの容量を生み出すことができるリチウムイオン電池。
【請求項10】
前記負極がポリイミドバインダを含む請求項9に記載のリチウムイオン電池。
【請求項11】
リチウム金属酸化物を含む正極と、負極と、前記正極と前記負極の間にある隔離板とを備えるリチウムイオン電池であって、前記負極が、シリコンと、導電性成分と、ポリマーバインダとを含み、前記負極が、シリコンベース活性材料と、ポリマーバインダと、約2重量パーセント〜約30重量パーセントの炭素繊維とを含み、前記炭素繊維が、約25nm〜約250nmの平均直径と、約2ミクロン〜約25ミクロンの平均長さとを有し、前記負極が、少なくとも約25ミクロンの平均乾燥厚さを有するリチウムイオン電池。
【請求項12】
前記負極が少なくとも約30ミクロンの平均厚さを有する請求項11に記載のリチウムイオン電池。
【請求項13】
前記負極がポリイミドバインダを含み、前記負極が、少なくとも約3.5mAh/cm2の単位面積当たりの容量を生み出すことができる請求項11に記載のリチウムイオン電池。
【請求項14】
リチウム金属酸化物を含む正極と、負極と、前記正極と前記負極の間にある隔離板と、任意選択の補助リチウムとを備えるリチウムイオン電池であって、前記負極が、シリコンベース活性材料と、導電性成分と、ポリマーバインダとを含み、前記バインダが、引裂きなしで少なくとも約50%の伸び率と、少なくとも約100MPaの引張り強さとを有するリチウムイオン電池。
【請求項15】
リチウム金属酸化物を含む正極と、負極と、前記正極と前記負極の間にある隔離板と、任意選択の補助リチウムとを備えるリチウムイオン電池であって、前記負極が、シリコンベース活性材料と、導電性成分と、ポリマーバインダとを含み、活性材料の量が、基準正極容量と基準負極容量が互いに約5パーセント以内に収まるように平衡を図られ、前記基準正極容量が、補助リチウムによって供給される任意の容量と正極容量との和であり、リチウム箔の対向電極を用いてC/20の速度で4.6Vから2Vで評価され、前記基準負極容量が、リチウム箔に対してC/20の速度で0.01Vから1.5Vで評価されるリチウムイオン電池。
【請求項16】
熱分解炭素コーティング、ナノ構造化シリコン、およびカーボンナノファイバまたは黒鉛状炭素を含む複合材料。
【請求項17】
約1〜約40重量パーセントの熱分解炭素を有する請求項16に記載の複合材料。
【請求項18】
約10重量パーセント〜約90重量パーセントのナノ構造化シリコンを有する請求項16に記載の複合材料。
【請求項19】
前記ナノ構造化シリコンがナノ粒子シリコンまたはナノ粒子シリコン合金を含む請求項16に記載の複合材料。
【請求項20】
前記ナノ構造化シリコンがナノ多孔質シリコンを含む請求項16に記載の複合材料。
【請求項21】
前記熱分解炭素が、前記ナノ構造化シリコン上にコーティングされる請求項16に記載の複合材料。
【請求項22】
前記カーボンナノファイバまたは黒鉛状炭素と、ナノ構造化シリコンとが破砕されて前記複合材を形成する請求項21に記載の複合材料。
【請求項23】
前記カーボンナノファイバまたは黒鉛状炭素が、カーボンナノファイバを含む請求項16に記載の複合材料。
【請求項24】
前記カーボンナノファイバまたは黒鉛状炭素が、黒鉛状炭素を含む請求項16に記載の複合材料。
【請求項25】
リチウム金属酸化物を含む正極と、負極と、前記正極と前記負極の間にある隔離板とを含むリチウムイオン電池であって、前記負極が、請求項16に記載の複合材料を含むリチウムイオン電池。
【請求項26】
リチウム金属酸化物を含む正極と、シリコンベース活性材料を含む負極と、前記正極と前記負極の間にある隔離板とを備えるリチウムイオン電池であって、C/3の速度で4.5Vから1.0Vの間での50回の充放電サイクル後、負極活性材料で少なくとも約750mAh/g、および正極活性材料で少なくとも約150mAh/gを示すリチウムイオン電池。
【請求項27】
前記シリコンベース活性材料がナノ構造化シリコンを含む請求項26に記載のリチウムイオン電池。
【請求項28】
前記負極がさらにカーボンナノファイバを含む請求項26に記載のリチウムイオン電池。
【請求項29】
前記負極がシリコン合金を含む請求項26に記載のリチウムイオン電池。
【請求項30】
前記正極がリチウム金属酸化物を含み、前記リチウム金属酸化物が、組成式Li1+bNiαMnβCoγAδO2−zFzによって近似的に表され、ここで、bは約0.01〜約0.3の範囲内にあり、αは約0〜約0.4の範囲内にあり、βは約0.2〜約0.65の範囲内にあり、γは0〜約0.46の範囲内にあり、δは0〜約0.15の範囲内にあり、zは0〜約0.2の範囲内にあり、ただしαとγがどちらもゼロでないものとし、Aは、Mg、Sr、Ba、Cd、Zn、Al、Ga、B、Zr、Ti、Ca、Ce、Y、Nb、Cr、Fe、V、Li、またはそれらの組合せである請求項26に記載のリチウムイオン電池。
【請求項31】
さらに、前記負極容量の少なくとも約2.5%に対応する補助リチウムを含む請求項26に記載のリチウムイオン電池。
【請求項32】
C/3の速度で4.5Vから1.0Vの間での50回の充放電サイクル後に、負極活性材料で少なくとも約850mAh/g、および正極活性材料で少なくとも約160mAh/gを示す請求項26に記載のリチウムイオン電池。
【請求項1】
リチウム金属酸化物を含む正極と、負極と、前記正極と前記負極の間にある隔離板と、補助リチウムとを備えるリチウムイオン電池であって、前記負極が、シリコンを含み、C/3の速度で少なくとも約500mAh/gの比容量を有するリチウムイオン電池。
【請求項2】
前記負極容量の少なくとも約2.5%に対応する補助リチウムの量を有する請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項3】
前記負極容量の少なくとも約10%に対応する補助リチウムの量を有する請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項4】
前記負極がナノ構造化シリコンを含む請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項5】
前記負極がシリコン−炭素複合材料を含む請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項6】
前記負極が、C/3の速度で少なくとも約700mAh/gの比容量を有する請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項7】
前記リチウム金属酸化物を、組成式Li1+bNiαMnβCoγAδO2−zFzによって近似的に表すことができ、ここで、bは約0.01〜約0.3の範囲内にあり、αは約0〜約0.4の範囲内にあり、βは約0.2〜約0.65の範囲内にあり、γは0〜約0.46の範囲内にあり、δは0〜約0.15の範囲内にあり、zは0〜約0.2の範囲内にあり、ただしαとγがどちらもゼロでないものとし、Aは、Mg、Sr、Ba、Cd、Zn、Al、Ga、B、Zr、Ti、Ca、Ce、Y、Nb、Cr、Fe、V、Li、またはそれらの組合せである請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項8】
4.6Vへの充電に関して、初めの充電容量の約20%以下の初回サイクル不可逆容量損失を有する請求項1に記載のリチウムイオン電池。
【請求項9】
リチウム金属酸化物を含む正極と、負極と、前記正極と前記負極の間にある隔離板とを備えるリチウムイオン電池であって、前記負極が、シリコンと、導電性成分と、ポリマーバインダとを含み、前記負極が、少なくとも約0.6g/cm3のシリコン活性材料の密度を有し、少なくとも約3.5mAh/cm2の単位面積当たりの容量を生み出すことができるリチウムイオン電池。
【請求項10】
前記負極がポリイミドバインダを含む請求項9に記載のリチウムイオン電池。
【請求項11】
リチウム金属酸化物を含む正極と、負極と、前記正極と前記負極の間にある隔離板とを備えるリチウムイオン電池であって、前記負極が、シリコンと、導電性成分と、ポリマーバインダとを含み、前記負極が、シリコンベース活性材料と、ポリマーバインダと、約2重量パーセント〜約30重量パーセントの炭素繊維とを含み、前記炭素繊維が、約25nm〜約250nmの平均直径と、約2ミクロン〜約25ミクロンの平均長さとを有し、前記負極が、少なくとも約25ミクロンの平均乾燥厚さを有するリチウムイオン電池。
【請求項12】
前記負極が少なくとも約30ミクロンの平均厚さを有する請求項11に記載のリチウムイオン電池。
【請求項13】
前記負極がポリイミドバインダを含み、前記負極が、少なくとも約3.5mAh/cm2の単位面積当たりの容量を生み出すことができる請求項11に記載のリチウムイオン電池。
【請求項14】
リチウム金属酸化物を含む正極と、負極と、前記正極と前記負極の間にある隔離板と、任意選択の補助リチウムとを備えるリチウムイオン電池であって、前記負極が、シリコンベース活性材料と、導電性成分と、ポリマーバインダとを含み、前記バインダが、引裂きなしで少なくとも約50%の伸び率と、少なくとも約100MPaの引張り強さとを有するリチウムイオン電池。
【請求項15】
リチウム金属酸化物を含む正極と、負極と、前記正極と前記負極の間にある隔離板と、任意選択の補助リチウムとを備えるリチウムイオン電池であって、前記負極が、シリコンベース活性材料と、導電性成分と、ポリマーバインダとを含み、活性材料の量が、基準正極容量と基準負極容量が互いに約5パーセント以内に収まるように平衡を図られ、前記基準正極容量が、補助リチウムによって供給される任意の容量と正極容量との和であり、リチウム箔の対向電極を用いてC/20の速度で4.6Vから2Vで評価され、前記基準負極容量が、リチウム箔に対してC/20の速度で0.01Vから1.5Vで評価されるリチウムイオン電池。
【請求項16】
熱分解炭素コーティング、ナノ構造化シリコン、およびカーボンナノファイバまたは黒鉛状炭素を含む複合材料。
【請求項17】
約1〜約40重量パーセントの熱分解炭素を有する請求項16に記載の複合材料。
【請求項18】
約10重量パーセント〜約90重量パーセントのナノ構造化シリコンを有する請求項16に記載の複合材料。
【請求項19】
前記ナノ構造化シリコンがナノ粒子シリコンまたはナノ粒子シリコン合金を含む請求項16に記載の複合材料。
【請求項20】
前記ナノ構造化シリコンがナノ多孔質シリコンを含む請求項16に記載の複合材料。
【請求項21】
前記熱分解炭素が、前記ナノ構造化シリコン上にコーティングされる請求項16に記載の複合材料。
【請求項22】
前記カーボンナノファイバまたは黒鉛状炭素と、ナノ構造化シリコンとが破砕されて前記複合材を形成する請求項21に記載の複合材料。
【請求項23】
前記カーボンナノファイバまたは黒鉛状炭素が、カーボンナノファイバを含む請求項16に記載の複合材料。
【請求項24】
前記カーボンナノファイバまたは黒鉛状炭素が、黒鉛状炭素を含む請求項16に記載の複合材料。
【請求項25】
リチウム金属酸化物を含む正極と、負極と、前記正極と前記負極の間にある隔離板とを含むリチウムイオン電池であって、前記負極が、請求項16に記載の複合材料を含むリチウムイオン電池。
【請求項26】
リチウム金属酸化物を含む正極と、シリコンベース活性材料を含む負極と、前記正極と前記負極の間にある隔離板とを備えるリチウムイオン電池であって、C/3の速度で4.5Vから1.0Vの間での50回の充放電サイクル後、負極活性材料で少なくとも約750mAh/g、および正極活性材料で少なくとも約150mAh/gを示すリチウムイオン電池。
【請求項27】
前記シリコンベース活性材料がナノ構造化シリコンを含む請求項26に記載のリチウムイオン電池。
【請求項28】
前記負極がさらにカーボンナノファイバを含む請求項26に記載のリチウムイオン電池。
【請求項29】
前記負極がシリコン合金を含む請求項26に記載のリチウムイオン電池。
【請求項30】
前記正極がリチウム金属酸化物を含み、前記リチウム金属酸化物が、組成式Li1+bNiαMnβCoγAδO2−zFzによって近似的に表され、ここで、bは約0.01〜約0.3の範囲内にあり、αは約0〜約0.4の範囲内にあり、βは約0.2〜約0.65の範囲内にあり、γは0〜約0.46の範囲内にあり、δは0〜約0.15の範囲内にあり、zは0〜約0.2の範囲内にあり、ただしαとγがどちらもゼロでないものとし、Aは、Mg、Sr、Ba、Cd、Zn、Al、Ga、B、Zr、Ti、Ca、Ce、Y、Nb、Cr、Fe、V、Li、またはそれらの組合せである請求項26に記載のリチウムイオン電池。
【請求項31】
さらに、前記負極容量の少なくとも約2.5%に対応する補助リチウムを含む請求項26に記載のリチウムイオン電池。
【請求項32】
C/3の速度で4.5Vから1.0Vの間での50回の充放電サイクル後に、負極活性材料で少なくとも約850mAh/g、および正極活性材料で少なくとも約160mAh/gを示す請求項26に記載のリチウムイオン電池。
【図1】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11a】
【図11b】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3a】
【図3b】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11a】
【図11b】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公表番号】特表2013−510405(P2013−510405A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537964(P2012−537964)
【出願日】平成22年11月3日(2010.11.3)
【国際出願番号】PCT/US2010/055265
【国際公開番号】WO2011/056847
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(510275367)エンビア・システムズ・インコーポレイテッド (12)
【氏名又は名称原語表記】ENVIA SYSTEMS, INC.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月3日(2010.11.3)
【国際出願番号】PCT/US2010/055265
【国際公開番号】WO2011/056847
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(510275367)エンビア・システムズ・インコーポレイテッド (12)
【氏名又は名称原語表記】ENVIA SYSTEMS, INC.
【Fターム(参考)】
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