説明

リチウムイオン電池用正極活物質の作製方法

【課題】比表面積の大きなリチウムと酸素を有する化合物を含む正極活物質を作製する。また、正極活物質と電解液との接触面積が大きく、高出力なリチウムイオン電池を作製する。
【解決手段】リチウムを含む水溶液A、鉄、マンガン、コバルトまたはニッケルを含む水溶液Bおよびリン酸を含む水溶液Cの少なくともいずれか一以上に酸化グラフェンを含み、水溶液Cに水溶液Aを滴下することで沈殿物Dを含む混合液Eを作製し、水溶液Bに混合液Eを滴下することで沈殿物Fを含む混合液Gを作製し、混合液Gを加圧雰囲気において加熱処理を行うことで混合液Hを作製し、混合液Hをろ過することで粒径の小さいリチウムと酸素を有する化合物の粒子を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
蓄電装置用正極活物質の作製方法および蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
環境問題への関心が高まるなか、ハイブリッド自動車用電源などに使用する二次電池および電気二重層キャパシタなど蓄電装置の開発が盛んである。特に、エネルギー性能の高いリチウムイオン電池およびリチウムイオンキャパシタが注目されている。リチウムイオン電池は、小型でも大容量の電気を蓄えられるため、既に携帯電話やノート型パーソナルコンピュータなど携帯情報端末に搭載され、製品の小型化などに一役買っている。
【0003】
二次電池および電気二重層キャパシタは、正極と負極との間に電解質を介在させた構成を有する。正極および負極は、それぞれ、集電体と、集電体に接して設けられた活物質と、を有する構成が知られている。例えば、リチウムイオン電池は、リチウムイオンを吸蔵および放出することのできる化合物を活物質として電極に用い、電極間に電解質を介在させて構成する。
【0004】
リチウムイオン電池の特性を向上させるため、様々な面からのアプローチが図られている。例えばリチウムイオン電池用正極活物質の検討もその一つである。
【0005】
リチウムイオン電池の正極活物質としては、リチウムと酸素を有する化合物などが知られている(特許文献1参照)。
【0006】
中でも、正極活物質として、リン酸鉄リチウム(LiFePO)が注目されている。リン酸鉄リチウムは、安価であること、などの利点がある。また、Fe2+/Fe3+の酸化還元を伴う化合物を正極活物質に用いたリチウムイオン電池としては高電圧(約3.5V)を示すこと、サイクル特性が良好であること、かつ理論容量が約170mAhg−1であるため、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)といった化合物を正極活物質に用いたリチウムイオン電池をエネルギー密度で上回ること、などの利点がある。
【0007】
しかしながら、リン酸鉄リチウムは、リチウムの拡散が遅く、また低い電子伝導性のために、リチウムイオン電池の正極活物質として用いた場合に、出力を高めにくいという問題がある。そこで、リン酸鉄リチウムと電解液との接触面積を大きくすることで高出力のリチウムイオン電池とするべく、リン酸鉄リチウム結晶の微粒子化により比表面積の拡大を図る方法が報告されている。
【0008】
例えば非特許文献1では、リン酸鉄リチウム結晶の合成において、水熱法を用い窒素雰囲気で合成することでリン酸鉄リチウム結晶の粒径が300nm〜500nm程度となることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−257894号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Kuwahara et al, 「Hydrothermal synthesis of LiFePO4 with small particle size and its electrochemical properties」,Journal of Electroceramics, 2010, Vol.24, pp.69−75
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
比表面積の大きなリチウムと酸素を有する化合物を含む正極活物質を作製することを課題の一とする。また、正極活物質と電解液との接触面積が大きく、高出力なリチウムイオン電池を作製することを課題の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
水溶液A、水溶液Bおよび水溶液Cのいずれか一以上に酸化グラフェンを含み、水溶液Cに水溶液Aを滴下することで沈殿物Dを含む混合液Eを作製し、水溶液Bに混合液Eを滴下することで沈殿物Fを含む混合液Gを作製し、混合液Gを加圧雰囲気において加熱処理を行うことで混合液Hを作製し、混合液Hをろ過することでリチウムと酸素を有する化合物の粒子を得る。なお、リチウムと酸素を有する化合物を指して、リチウム酸化物と呼ぶことがある。
【0013】
なお、水溶液Aはリチウムを含み、水溶液Bは鉄、マンガン、コバルトまたはニッケルを含み、水溶液Cはリン酸を含む。
【0014】
なお、得られたリチウムと酸素を有する化合物の粒子は、洗浄処理し不純物を除去した後、乾燥処理すると好ましい。
【0015】
このようにして作製したリチウムと酸素を有する化合物の粒子は、酸化グラフェンの作用によって、粒径の小さい粒子となる。これは、酸化グラフェンがシート状であることと、酸化グラフェンが水中で負に帯電することに起因する。なお、リチウムと酸素を有する化合物の粒子は水中で正に帯電する。
【0016】
正に帯電したリチウムと酸素を有する化合物の粒子と、負に帯電した酸化グラフェンと、が電気的に引きつけ合うため、リチウムと酸素を有する化合物の粒子の結晶成長が酸化グラフェンに接した状態で起こる。酸化グラフェンの作用で、リチウムと酸素を有する化合物の粒子の結晶成長が阻害され、リチウムと酸素を有する化合物の粒子の粒径が大きくなりにくい。
【0017】
なお、混合液Hをろ過すると、得られる残渣は、目的とするリチウムと酸素を有する化合物のほかに、酸化グラフェンが含まれる。この酸化グラフェンは、洗浄処理または分離処理によって取り除いても構わないが、残存させても構わない。
【0018】
酸化グラフェンおよびリチウムと酸素を有する化合物を用いて、リチウムと酸素を有する化合物の粒子の隙間に酸化グラフェンを有する正極活物質層を作製することができる。酸化グラフェンは、酸素濃度によっては導電性を示すため、導電助剤としての機能を有することになる。また、酸化グラフェンは、バインダとしての機能を有することもできる。即ち、残渣に含まれる酸化グラフェンおよびリチウムと酸素を有する化合物によって正極活物質層を作製することで、製造工程を短縮することが可能となるため、該正極活物質層を含む正極の生産性を高めることができる。また、該正極を用いたリチウムイオン電池の生産性を高めることができる。
【0019】
なお、正極活物質層の作製過程で酸化グラフェンの還元処理を行っても構わない。酸素濃度の低い酸化グラフェンまたはグラフェンは、導電性が高く、導電助剤として優れる。
【0020】
以上に示したように、正極活物質となる粒径の小さいリチウムと酸素を有する化合物の粒子を用いて正極を作製することで、比表面積が増大し、高出力のリチウムイオン電池を得ることができる。
【0021】
また、残渣に含まれる酸化グラフェンを、正極活物質層の導電助剤または/およびバインダとすることでリチウムイオン電池の生産性を高めることができる。
【発明の効果】
【0022】
比表面積の大きなリチウムと酸素を有する化合物を含む正極活物質を作製することができる。また、正極活物質と電解液との接触面積が大きく、高出力なリチウムイオン電池を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】正極活物質の作製方法を説明するフロー図。
【図2】正極の作製方法を説明するフロー図。
【図3】正極の作製方法を説明するフロー図。
【図4】リチウムイオン電池を説明する図。
【図5】電子機器への応用例を説明する図。
【図6】電気自動車への応用例を説明する図。
【図7】負極の構造を説明する図。
【図8】リン酸鉄リチウムの粒子を示すSEM像。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、その形態および詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。また、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、図面を用いて発明の構成を説明するにあたり、同じものを指す符号は異なる図面間でも共通して用いる。なお、同様のものを指す際にはハッチパターンを同じくし、特に符号を付さない場合がある。
【0025】
なお、第1、第2として付される序数詞は便宜上用いるものであり、工程順または積層順を示すものではない。また、本明細書において発明を特定するための事項として固有の名称を示すものではない。
【0026】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様であるリチウムイオン電池の正極活物質の水熱法による作製方法について図1を用いて説明する。
【0027】
正極活物質の一例として、LiFePO、リン酸ニッケルリチウム(LiNiPO)、リン酸コバルトリチウム(LiCoPO)、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO)、LiFeSiOおよびLiMnSiOが挙げられる。
【0028】
例えば、正極活物質であるLiFePOを作製する場合について説明する。まず、原料となる水酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)、塩化鉄(II)四水和物(FeCl・4HO)およびリン酸二水素アンモニウム(NHPO)を、2:1:1のモル数比となるように秤量する(工程S101)。
【0029】
なお、LiOH・HOに代えて、無水水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(LiCO)、酸化リチウム(LiO)、硝酸リチウム(LiNO)、リン酸二水素リチウム(LiHPO)、酢酸リチウム(CHCOOLi)、リン酸リチウム(LiPO)などを用いても構わない。
【0030】
また、FeCl・4HOに代えて、硫酸鉄(II)七水和物(FeSO・7HO)、リン酸鉄(II)八水和物(Fe(PO・8HO)、酢酸鉄(II)(Fe(CHCOO))、シュウ酸鉄(II)(FeC)、硫酸鉄(II)(FeSO)などを用いても構わない。
【0031】
また、NHPOに代えて、リン酸水素二アンモニウム((NHHPO)、リン酸(H3PO4)などを用いても構わない。
【0032】
次に、原料をそれぞれ窒素雰囲気下で窒素バブリングし脱気した水に溶解させる。ここで、LiOH・HOを水に溶解させたものを水溶液A、FeCl・4HOを水に溶解させたものを水溶液B、NHPOを水に溶解させたものを水溶液Cとする。なお、水溶液A、水溶液Bおよび水溶液Cの少なくとも一以上に酸化グラフェンを分散させる(工程S102)。好ましくは、水溶液Bおよび水溶液Cに、酸化グラフェンを分散させる。水溶液への酸化グラフェンの分散は、例えば超音波処理にて行えばよい。
【0033】
なお、本明細書においてグラフェンとは、イオンを通過させる空隙を有し、sp結合を有する1原子層の炭素分子で構成された1枚のシート、または該シートが2枚乃至100枚積層された積層体をいう。なお、該積層体は多層グラフェンともいう。
【0034】
なお、酸化グラフェンは、シート状のグラフェンの端の一部がカルボキシル基(−COOH)で終端されているものである。このため、水溶液中では、カルボキシル基から水素イオンが離脱し、酸化グラフェン自体は負に帯電する。なお、酸化グラフェンに代えて、酸化グラファイトを用いてもよい。
【0035】
次に、水溶液Cに水溶液Aを滴下し、沈殿物Dを含む混合液Eを作製する(工程S103)。ここで、沈殿物DはLiPOである。
【0036】
次に、水溶液Bに混合液Eを滴下し、沈殿物Fを含む混合液Gを作製する(工程S104)。ここで、沈殿物FはLiFePOの前駆体である。
【0037】
次に、混合液Gを0.1MPa以上4.0MPa以下の加圧雰囲気にて、100℃以上250℃以下の温度で1時間以上24時間以下の加熱処理を行い、反応生成物であるリチウムと酸素を有する化合物を含む混合液Hを作製する(工程S105)。ここで、リチウムと酸素を有する化合物はLiFePOである。
【0038】
次に、混合液Hをろ過し、残渣である酸化グラフェンおよびリチウムと酸素を有する化合物を得る(工程S106)。
【0039】
次に、残渣を洗浄処理し、乾燥処理する(工程S107)。なお、洗浄処理としては、例えば純水にて流水洗浄を10回程度行えばよい。また、乾燥処理としては、例えば3.3×10Paの減圧雰囲気にて50℃の温度で24時間、洗浄処理された残渣を処理すればよい。
【0040】
なお、酸化グラフェンはリチウムと酸素を有する化合物と反応しない。ただし、酸化グラフェンは、シート状であり、かつ水中で負に帯電するため、水中で正に帯電するリチウムと酸素を有する化合物を引きつける。リチウムと酸素を有する化合物の結晶成長が酸化グラフェンに接した状態で起こることにより、リチウムと酸素を有する化合物の結晶成長が阻害される。結果、得られるリチウムと酸素を有する化合物の粒径を小さくすることができる。具体的には、粒径が30nm以上400nm以下、好ましくは30nm以上250nm以下のリチウムと酸素を有する化合物の粒子を得ることができる。
【0041】
得られたリチウムと酸素を有する化合物の粒子は、メンブレンフィルターなどのフィルターを用いて粒径ごとに分離しても構わない。
【0042】
このように、酸化グラフェンを含む水溶液を用いることで、粒径の小さいリチウムと酸素を有する化合物の粒子を作製することができる。
【0043】
なお、リチウムと酸素を有する化合物の粒子を得た後で、酸化グラフェンを除去してもよいし、除去しなくてもよい。
【0044】
こうして得られた粒径の小さいリチウムと酸素を有する化合物の粒子を用いて、比表面積の大きな正極活物質を作製することができる。
【0045】
また、本実施の形態で示した粒径の小さいリチウムと酸素を有する化合物の粒子を正極活物質に用いることで、正極活物質と電解液との接触面積が大きく、高出力なリチウムイオン電池を作製することができる。
【0046】
なお、本実施の形態では、リチウムと酸素を有する化合物としてLiFePOを作製する場合について述べたが、これに限定されるものではない。例えば、リチウムと酸素を有する化合物としてLiNiPO、LiCoPO、LiMnPO、LiFeSiOまたはLiMnSiOの作製に適用することもできる。
【0047】
具体的には、LiNiPOを作製する場合、原料としてLiCO、NiOおよびNHPOを用いればよい。また、LiCoPOを作製する場合、原料としてLiCO、CoOおよび(NHHPOを用いればよい。また、LiMnPOを作製する場合、原料としてLiCO、MnCOおよびNHPOを用いればよい。また、LiFeSiOを作製する場合、原料としてLiSiOおよびFeC・2HOを用いればよい。また、LiMnSiOを作製する場合、原料としてLiSiOおよびMnCを用いればよい。なお、ここで示す正極活物質の原料は一例であり、これらに限定されるものではない。
【0048】
本実施の形態は、適宜他の実施の形態と組み合わせて用いることができる。
【0049】
(実施の形態2)
本実施の形態では、実施の形態1で作製したリチウムと酸素を有する化合物を用いてリチウムイオン電池の正極を作製する方法について、図2を用いて説明する。
【0050】
まず、正極活物質であるリチウムと酸素を有する化合物、導電助剤およびバインダを秤量する(工程S201)。例えば、正極活物質、導電助剤、バインダは、それぞれ80〜96重量%、2〜10重量%、2〜10重量%の割合とすればよい。
【0051】
ここで、導電助剤として、グラフェン、酸化グラフェン、グラファイト、炭素繊維、カーボンブラック、アセチレンブラック、VGCF(商標登録)などの炭素系導電助剤、銅、ニッケル、アルミニウムもしくは銀など金属またはこれらの混合物の粉末や繊維などを用いればよい。また、バインダとして、グラフェン、酸化グラフェン、澱粉、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ジアセチルセルロース、ポリビニルクロリド、ポリビニルピロリドン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、EPDM(Ethylene Propylene Diene Monomer)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴムもしくはポリエチレンオキシドなどの多糖類、熱可塑性樹脂またはゴム弾性を有するポリマーなどを用いればよい。
【0052】
次に、秤量した正極活物質、導電助剤およびバインダを溶媒中で混合し、スラリーを作製する(工程S202)。ここで、溶媒としては、Nメチル−2ピロリドンや乳酸エステルなどを用いればよい。
【0053】
次に、スラリーを集電体上に塗布する(工程S203)。ここで、集電体として、アルミニウム、ステンレスなどの導電性の高い金属を用いればよい。
【0054】
次に、乾燥処理を行い、スラリーから溶媒を揮発させ、正極活物質層とする。また、正極活物質層および集電体を含む正極を作製する(工程S204)。ここで、乾燥処理は、例えば、減圧雰囲気にて130℃の温度で1時間行えばよい。
【0055】
なお、グラフェンおよび酸化グラフェンは、導電助剤およびバインダの両方として機能する。そのため、グラフェンおよび酸化グラフェンを導電助剤およびバインダとして用いる場合は、正極活物質層に占める正極活物質比率を高めることが可能となる。結果、リチウムイオン電池の体積当たりの充放電容量を増加させることが可能となる。
【0056】
以上のようにして、リチウムイオン電池の正極を作製することができる。
【0057】
このようにして作製した正極を用いることで、正極に含まれる正極活物質の粒径が小さいため、正極活物質と電解液との接触面積が大きくできる。従って、高出力なリチウムイオン電池を作製することができる。
【0058】
(実施の形態3)
本実施の形態では、実施の形態1で作製したリチウムと酸素を有する化合物および酸化グラフェンを含む残渣を用いて正極を作製する方法について、図3を用いて説明する。
【0059】
実施の形態2でも示したが、グラフェンおよび酸化グラフェンは正極活物質層の導電助剤およびバインダの両方として機能する。そのため、実施の形態1で示した正極活物質であるリチウムと酸素を有する化合物および酸化グラフェンを含む残渣を活用することで、導電助剤または/およびバインダを別に用意しなくても正極活物質層を作製することができる。
【0060】
具体的には、まず、正極活物質であるリチウムと酸素を有する化合物および酸化グラフェンを混合させたスラリーを作製する(工程S301)。なお、残渣に含まれる酸化グラフェンのみでは導電性などが十分でない場合は、実施の形態2で示した分量よりも少量の導電助剤または/およびバインダを混合しても構わない。
【0061】
次に、スラリーを集電体上に塗布する(工程S302)。
【0062】
次に、乾燥処理を行い、スラリーから溶媒を揮発させ、正極活物質層とする。また、正極活物質層および集電体を含む正極を作製する(工程S303)。
【0063】
以上のようにして、導電助剤または/およびバインダを別に用意しなくても、リチウムイオン電池の正極を作製することができる。そのため、正極活物質の作製から正極の作製までの工程数を短縮でき、正極の生産性を高めることができる。また、該正極を用いたリチウムイオン電池の生産性を高めることができる。
【0064】
なお、本実施の形態では導電助剤または/およびバインダとして酸化グラフェンを用いる例について示したが、これに限定されるものではない。例えば、酸化グラフェンを還元し、酸素濃度の低い酸化グラフェン、またはグラフェンとしたものを導電助剤または/およびバインダとして用いてもよい。酸化グラフェンの還元は、工程S301の前でもよく、工程S303の後でもよい。酸素濃度の低い酸化グラフェン、またはグラフェンは、導電率が高いため、少量でも優れた導電助剤としての機能を有することができる。
【0065】
このようにして作製した正極を用いることで、正極に含まれる正極活物質の粒径が小さいため、正極活物質と電解液との接触面積が大きくできる。従って、高出力なリチウムイオン電池を作製することができる。
【0066】
(実施の形態4)
本実施の形態では、実施の形態2および実施の形態3で示した正極を用いて蓄電装置であるリチウムイオン電池を作製する例について説明する。リチウムイオン電池の概要を図4に示す。
【0067】
図4に示すリチウムイオン電池は、正極402、負極407、およびセパレータ410を外部と隔絶する筐体420の中に設置し、筐体420中に電解液411が充填されている。また、セパレータ410は正極402と負極407の間に設けられる。
【0068】
正極集電体400に接して正極活物質層401が形成されている。ここで、正極活物質層401と、正極活物質層401が形成された正極集電体400を合わせて正極402とする。
【0069】
一方、負極集電体405に接して負極活物質層406が形成されている。ここで、負極活物質層406と、負極活物質層406が形成された負極集電体405を合わせて負極407とする。
【0070】
正極集電体400には第1の電極421が、負極集電体405には第2の電極422が接続されており、第1の電極421および第2の電極422により、充電や放電が行われる。
【0071】
また、正極活物質層401およびセパレータ410の間と、負極活物質層406およびセパレータ410の間とは、それぞれは一定間隔をおいて示しているが、これに限定されず、正極活物質層401およびセパレータ410と、負極活物質層406およびセパレータ410とは、それぞれが接していても構わない。または、正極402と負極407との間にセパレータ410を配置した状態で丸めて筒状にしてもよい。
【0072】
正極集電体400は、実施の形態2および実施の形態3で示した集電体と同様の構成とすればよい。
【0073】
正極402は、実施の形態1乃至実施の形態3を参照すればよい。具体的には、実施の形態2または実施の形態3で示した正極活物質を含むスラリーを滴下してキャスト法により薄く広げた後、ロールプレス機で圧延して、厚みを均等にした後、減圧乾燥(10Pa以下)や加熱乾燥(70℃〜280℃、好ましくは90℃〜170℃)により、正極集電体400上に正極活物質層401を形成することで作製する。正極活物質層401の厚さは、クラックや剥離が生じない厚さとし、具体的には20μm以上100μm以下とすればよい。
【0074】
負極集電体405は、銅、ステンレス、鉄、ニッケルなどの導電性の高い金属などを用いることができる。
【0075】
負極活物質層406としては、リチウム、アルミニウム、グラファイト、シリコン、ゲルマニウムなどが用いられる。負極集電体405上に、塗布法、スパッタリング法、蒸着法などにより負極活物質層406を形成してもよいし、それぞれを単体で負極活物質層406として用いてもよい。グラファイトと比較すると、ゲルマニウム、シリコン、リチウム、アルミニウムは理論上のリチウムイオンの吸蔵容量が大きい。リチウムイオンの吸蔵容量が大きいと、小面積でも十分な充放電容量を持たせることが可能となる。ただし、シリコンはリチウムイオンの吸蔵により体積が元の4倍程度となり、かつリチウムイオンを放出すると元の体積に戻るため、リチウムイオン電池の充放電に伴い、シリコン自身が脆くなることや、爆発することがある。そのため、体積変化を考慮した構成とすることが好ましい。
【0076】
なお、負極407として、図7(A)または図7(B)に示す負極1100aまたは負極1100bを用いても構わない。
【0077】
負極活物質1108は、領域1107aおよび領域1107bを有する複数のウィスカー状の負極活物質と、複数のウィスカー状の負極活物質を覆う導電層1113と、を含む。なお、本明細書において、複数のウィスカー状の負極活物質とは、領域1107aのように平坦な領域、および、領域1107bのように領域1107aから髭状(または紐状もしくは繊維状)に突起した領域を含めた負極活物質をいう。また、負極活物質1108には、図7(A)および図7(B)のように、1つの突起した領域である1つのウィスカー状の負極活物質を有する領域が複数存在することを明確にするため、領域1107aおよび領域1107bを有する負極活物質を複数のウィスカー状の負極活物質と記載する。導電層1113は、例えばグラフェンまたは酸化グラフェンを用いればよい。
【0078】
領域1107aは導電層1103に接して設けられ、領域1107bは領域1107aから突出し、かつ無秩序に設けられる。従って、負極活物質1108は、複数のウィスカー状の負極活物質の形状に沿った微細な表面構造を有することになる。
【0079】
また、導電層1103には、負極活物質1108(特に、複数のウィスカー状の負極活物質)と反応して導電層1103の表層の一部および全部に混合層1105が設けられてもよい。なお、混合層1105も導電性を有するため導電層として機能する。混合層1105が導電層1103の表層一部に形成される場合、複数のウィスカー状の負極活物質(特に領域1107a)の下に混合層1105および導電層1103の一部を有する構成となる(図示せず)。混合層1105が導電層1103の表層全部に形成される場合、複数のウィスカー状の負極活物質(特に領域1107a)の下に混合層1105を有する構成となる(図7(A)および図7(B)参照)。
【0080】
なお、領域1107aおよび領域1107bの界面は明確ではない。このため、複数のウィスカー状の負極活物質の表面のもっとも高さの低い箇所を通り、かつ基板1101または導電層1103の表面と平行な面を、領域1107aと領域1107bの界面とする。
【0081】
負極活物質1108において、複数のウィスカー状の負極活物質は、結晶性を有する構造である芯1109と、非晶質構造である外殻1111で形成されていることが好ましい。外殻1111である非晶質構造は、リチウムイオンの吸蔵および放出に伴う体積変化に強い。また、芯1109である結晶性を有する構造は、導電性が高く、質量当たりのリチウムイオンを吸蔵する速度および放出する速度が速いという特徴と有する。従って、芯1109および外殻1111を有する複数のウィスカー状の負極活物質を備える負極1100aまたは負極1100bを用いることで、高速に充放電が可能となり、充放電容量およびサイクル特性に優れたリチウムイオン電池を作製することができる。
【0082】
なお、芯1109は、芯1109bのように導電層1103に接するものに限定されるわけではなく、芯1109cのように、図面奥方向に伸延しているものや、芯1109aのように局在するものであってもよい。つまり、芯1109は、芯1109a、芯1109bおよび芯1109cの総称である。また、外殻1111は、外殻1111a、外殻1111bおよび外殻1111cの総称である。
【0083】
複数のウィスカー状の負極活物質の領域1107bは、柱状であってもよいし、錐状または針状でもよい。また、複数のウィスカー状の負極活物質は湾曲していてもよい。また、複数のウィスカー状の負極活物質の頂部が丸まった形状であってもよい。
【0084】
また、領域1107bにある複数のウィスカー状の負極活物質の長手方向は、それぞれが異なる方向であってもよい。複数のウィスカー状の負極活物質の長手方向が異なると、図7(A)および図7(B)には、複数のウィスカー状の負極活物質の長手方向の断面形状(芯1109bと外殻1111bで示される部分の断面形状)のみならず、複数のウィスカー状の負極活物質の輪切りの断面形状(芯1109cと外殻1111cで示される部分の断面形状)も示されることになる。複数のウィスカー状の負極活物質の輪切りの断面には、場所によって、複数のウィスカー状の負極活物質に芯1109が観察される場合もあるし、観察されない場合もある。また、複数のウィスカー状の負極活物質の輪切りの断面は、複数のウィスカー状の負極活物質が円柱状または円錐状である場合には円形であるが、複数のウィスカー状の負極活物質が角柱状または角錐状である場合には多角形状である。複数のウィスカー状の負極活物質の長手方向が不揃いであることで、一つのウィスカー状の負極活物質と他のウィスカー状の負極活物質が絡まる場合、充放電時に複数のウィスカー状の負極活物質の剥離が生じにくくなるため、好ましい。
【0085】
なお、複数のウィスカー状の負極活物質が領域1107aから伸延している方向を長手方向と呼び、長手方向に切断した断面形状を長手方向の断面形状と呼ぶ。また、複数のウィスカー状の負極活物質の長手方向とは概略垂直な面において切断した断面形状を輪切り断面形状と呼ぶ。
【0086】
芯1109の輪切り断面形状における最大径は、0.2μm以上3μm以下であればよく、好ましくは0.5μm以上2μm以下であればよい。
【0087】
また、芯1109の長さは特に限定されないが、0.5μm以上1000μm以下とすればよく、好ましくは2.5μm以上100μm以下であればよい。
【0088】
領域1107bについて、複数のウィスカー状の負極活物質の輪切り断面形状における最大径は、0.2μm以上10μm以下、好ましくは1μm以上5μm以下である。また、該複数のウィスカー状の負極活物質の長さは、3μm以上1000μm以下、好ましくは6μm以上200μm以下である。
【0089】
なお、芯1109および外殻1111における「長さ」とは、長手断面形状において、芯1109または外殻1111の複数のウィスカー状の負極活物質の頂点(または上面)の中心を通る軸に沿う方向の該頂点と領域1107aとの間隔をいう。
【0090】
また、複数のウィスカー状の負極活物質は上記構成に限らず、領域1107aおよび領域1107bの全てが結晶性を有する構造であってもよく、領域1107aおよび領域1107bのすべてが非晶質構造であってもよい。
【0091】
図7(A)に示した負極1100aは、領域1107aの一部(導電層1103と芯1109が接している箇所以外の領域)は、外殻1111と同様に非晶質構造である。また、領域1107aには結晶性を有する構造が含まれていてもよい。また、領域1107aに導電層1103および混合層1105の一方または双方を構成する元素の一部が含まれていてもよい。
【0092】
また、図7(B)に示した負極1100bは、領域1107aの導電層1103と接している側の領域が、芯1109と同様に結晶性を有する構造である。また、領域1107aに非晶質構造が含まれていてもよい。また、領域1107aに導電層1103および混合層1105の一方または双方を構成する元素の一部が含まれていてもよい。
【0093】
例えば、負極1100aは負極1100bよりも導電層1103と領域1107aの密着性が向上する。これは、非晶質構造のほうが、被形成面である導電層1103の表面に対する順応性が高いためである。換言すると、非晶質構造のほうが、導電層1103の表面と整合するように形成されやすいためである。また、リチウムイオンの吸蔵および放出に伴う体積変化に強いため、繰り返しの充放電によって、負極1100a(特に複数のウィスカー状の負極活物質)が剥離することを防止でき、サイクル特性の高いリチウムイオン電池を作製することができる。
【0094】
また、負極1100bは負極1100aよりも、導電性に優れた結晶性を有する構造が導電層1103と広範囲に接する。そのため、負極1100b全体として導電性が高い。従って、高速な充放電が可能、かつ充放電容量の高いリチウムイオン電池を作製することができる。
【0095】
複数のウィスカー状の負極活物質は、LPCVD(Low Pressure Chemical Vapor Deposition)法により形成することができる。ここで、複数のウィスカー状の負極活物質の形成時の温度は、400℃より高く、かつLPCVD装置、基板1101および導電層1103が耐え得る温度以下とすればよく、好ましくは500℃以上580℃未満とする。
【0096】
また、複数のウィスカー状の負極活物質を形成する際は、原料ガスとして、シリコンを含む堆積性ガスを用いる。シリコンを含む堆積性ガスとしては、具体的には、SiH、Si、SiF、SiCl、SiClなどを用いればよい。なお、原料ガスに、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノンなどの希ガスおよび水素ガスのいずれか一種以上を含ませてもよい。
【0097】
電解質は、液体の電解質である電解液や、固体の電解質である固体電解質を用いればよい。電解液は、リチウムイオンを含み、電気伝導を担っている。
【0098】
電解液411は、例えば溶媒と、その溶媒に溶解するリチウム塩と、を含む。リチウム塩としては、例えば、LiCl、LiF、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF、Li(CSONなどがある。
【0099】
電解液411の溶媒として、環状カーボネート類(例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、およびビニレンカーボネート(VC)など)、非環状カーボネート類(ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、メチルプロピルカーボネート(MPC)、イソブチルメチルカーボネート、およびジプロピルカーボネート(DPC)など)、脂肪族カルボン酸エステル類(ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、およびプロピオン酸エチルなど)、非環状エーテル類(γ−ブチロラクトンなどのγ−ラクトン類、1,2−ジメトキシエタン(DME)、1,2−ジエトキシエタン(DEE)、およびエトキシメトキシエタン(EME)など)、環状エーテル類(テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなど)、環状スルホン(スルホランなど)、アルキルリン酸エステル(ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソランなどやリン酸トリメチル、リン酸トリエチル、およびリン酸トリオクチルなど)やそのフッ化物があり、これらの一種または二種以上を混合して使用する。
【0100】
セパレータ410は、紙、不織布、ガラス繊維、またはナイロン(ポリアミド)、ビニロン(ポリビニルアルコール系繊維)、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、ポリウレタンといった合成繊維などを用いればよい。ただし、上記した電解液411に溶解しないものとする。
【0101】
より具体的には、セパレータ410として、例えば、フッ素系ポリマ−、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシドなどのポリエーテル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリメタクリロニトリル、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンイミン、ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリイソプレン、ポリウレタン系高分子およびこれらの誘導体、セルロース、紙、不織布から選ばれる一種を単独で、または二種以上を組み合せて用いればよい。
【0102】
上記に示すリチウムイオン電池を充電するには、第1の電極421に正極端子、第2の電極422に負極端子を接続する。正極402からは電子が第1の電極421を介して奪われ、第2の電極422を通じて負極407に移動する。加えて、正極402からはリチウムイオンが正極活物質層401中の正極活物質から溶出し、セパレータ410を通過して負極407に達し、負極活物質層406内の負極活物質に取り込まれる。当該領域でリチウムイオンと電子が結合して、負極活物質層406に吸蔵される。同時に正極活物質層401では、正極活物質から電子が放出され、正極活物質に含まれる遷移金属(鉄、マンガン、コバルト、ニッケルなど)の酸化反応が生じる。
【0103】
リチウムイオン電池が放電するときは、負極407では、負極活物質層406がリチウムイオンを放出し、第2の電極422に電子が送り込まれる。リチウムイオンはセパレータ410を通過して、正極活物質層401に達し、正極活物質層401中の正極活物質に取り込まれる。このとき、負極407からの電子も正極402に到達し、正極活物質に含まれる遷移金属の還元反応が生じる。
【0104】
実施の形態2または実施の形態3にて説明した正極を用いることにより、高出力のリチウムイオン電池を作製することができる。
【0105】
また、グラフェンまたは酸化グラフェンを正極活物質層の導電助剤とする場合、導電性を向上させるために必要な導電助剤の量を抑えることができるため、正極活物質層の体積を小さくすることができ、リチウムイオンの吸蔵と放出が容易な正極を作製することができる。
【0106】
本実施の形態は適宜他の実施の形態と組み合わせて用いることができる。
【0107】
(実施の形態5)
本実施の形態では、実施の形態4で説明したリチウムイオン電池の応用例について説明する。
【0108】
実施の形態4で説明したリチウムイオン電池は、デジタルカメラやビデオカメラなどのカメラ、デジタルフォトフレーム、携帯情報端末(携帯電話、携帯電話装置、タブレット型PCなどともいう)、携帯型ゲーム機、音響再生装置などの電子機器に用いることができる。または、電気自動車、ハイブリッド自動車、鉄道用電気車両、作業車、カート、車椅子、自転車などの電気推進車両に用いることができる。
【0109】
図5(A)は、携帯情報端末の一例を示している。携帯情報端末510は、筐体511に表示部512が組み込まれている。筐体511は、更に操作ボタン513、操作ボタン517、外部接続ポート514、スピーカー515およびマイク516などを備えている。
【0110】
図5(B)は、携帯情報端末510とは異なる形態の携帯情報端末である。携帯情報端末530は、第1の筐体531および第2の筐体533で構成され、これら2つの筐体が軸部532により結合されている。第1の筐体531および第2の筐体533は、軸部532を軸として開閉動作を行うことができる。第1の筐体531には第1の表示部535が組み込まれ、第2の筐体533には第2の表示部537が組み込まれている。なお、第1の表示部535または/および第2の表示部537はタッチパネルであってもよい。その他、第2の筐体533に、操作ボタン539、電源543およびスピーカー541などを備えている。
【0111】
図6は、電気自動車の一例を示す。電気自動車550には、リチウムイオン電池551が搭載されている。リチウムイオン電池551の電力は、制御回路553により出力が調整され、駆動装置557に供給される。制御回路553は、コンピュータ555によって制御される。
【0112】
駆動装置557は、電動機(直流電動機または交流電動機)を有し、必要に応じて内燃機関をも搭載し、内燃機関を搭載する場合には電動機と組み合わせて構成される。コンピュータ555は、電気自動車550の運転者の命令(加速、停止など)や走行時の環境(登坂、下坂など)の情報に基づき、制御回路553に制御信号を出力する。制御回路553は、コンピュータ555の制御信号により、リチウムイオン電池551から供給される電気エネルギーを調整して駆動装置557の出力を制御する。交流電動機を搭載している場合は、直流を交流に変換するインバータも搭載される。
【0113】
リチウムイオン電池551は、外部からの電力供給により充電することができる。
【0114】
なお、電気推進車両が鉄道用電気車両の場合、架線や導電軌条からの電力供給により充電することができる。
【実施例1】
【0115】
本実施例は、正極活物質である粒径の小さいLiFePOを作製した例を示す。
【0116】
まず、原料となるLiOH・HO、FeCl・4HOおよびNHPOを、2:1:1のモル数比となるように秤量した。ここでは、Feが100mlの水に対して0.2Mとなるように秤量した。
【0117】
次に、原料をそれぞれ、窒素雰囲気下で窒素バブリングし脱気した水に溶解させた。ここで、LiOH・HOを30mlの水に溶解させたものを水溶液A、FeCl・4HOを30mlの水に溶解させたものを水溶液B、NHPOを30mlの水に溶解させたものを水溶液Cとした。なお、水溶液Bには30mgの酸化グラフェン粉末を加えた。また、水溶液Cには60mgの酸化グラフェン粉末を加えた。その後、超音波処理によって水溶液Bおよび水溶液C中に酸化グラフェンを分散させた。
【0118】
次に、水溶液Cに水溶液Aを滴下し、沈殿物としてLiPOを含む混合液を得た。
【0119】
次に、水溶液Bに得られた混合液を滴下し、沈殿物としてLiFePO前駆体を含む混合液を得た。次に、得られた混合液を窒素バブリングすることで脱気し、同様に窒素バブリングすることで脱気した純水10mlを混合液に加え、混合液を100mlとした。
【0120】
次に、得られた混合液を0.4MPaの加圧雰囲気にて、150℃の温度で15時間の加熱処理を行い、反応生成物であるLiFePOを含む混合液を得た。
【0121】
次に、得られた混合液からLiFePOをろ過した。
【0122】
次に、LiFePOを純水にて10回の流水洗浄を行い、3.3×10Paの減圧雰囲気にて50℃の温度で24時間乾燥させた。
【0123】
このようにして得られたLiFePOを走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)にて観察した(図8参照。)。結果、寸法が(50nm〜200nm,50nm〜200nm,50nm〜400nm)程度の概略直方体であるLiFePOの結晶粒が得られた。
【0124】
本実施例に示した方法により、粒径の小さいLiFePOが得られることがわかる。
【符号の説明】
【0125】
S101 工程
S102 工程
S103 工程
S104 工程
S105 工程
S106 工程
S107 工程
S201 工程
S202 工程
S203 工程
S204 工程
S301 工程
S302 工程
S303 工程
400 正極集電体
401 正極活物質層
402 正極
405 負極集電体
406 負極活物質層
407 負極
410 セパレータ
411 電解液
420 筐体
421 第1の電極
422 第2の電極
510 携帯情報端末
511 筐体
512 表示部
513 操作ボタン
514 外部接続ポート
515 スピーカー
516 マイク
517 操作ボタン
530 携帯情報端末
531 第1の筐体
532 軸部
533 第2の筐体
535 第1の表示部
537 第2の表示部
539 操作ボタン
541 スピーカー
543 電源
550 電気自動車
551 リチウムイオン電池
553 制御回路
555 コンピュータ
557 駆動装置
1100a 負極
1100b 負極
1101 基板
1103 導電層
1105 混合層
1107a 領域
1107b 領域
1108 負極活物質
1109 芯
1109a 芯
1109b 芯
1109c 芯
1111 外殻
1111a 外殻
1111b 外殻
1111c 外殻
1113 導電層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムを含む水溶液、鉄を含む水溶液およびリン酸を含む水溶液のいずれか一以上に酸化グラフェンを含み、
前記リン酸を含む水溶液に前記リチウムを含む水溶液を滴下することでリン酸リチウムを含む第1の混合液を作製し、
前記第1の混合液に前記鉄を含む水溶液を滴下することでリン酸鉄リチウムの前駆体を含む第2の混合液を作製し、
前記第2の混合液を加圧雰囲気において加熱処理を行った後、ろ過し、残渣を洗浄処理した後、乾燥処理してリン酸鉄リチウムの粒子を得ることを特徴とするリチウムイオン電池用正極活物質の作製方法。
【請求項2】
リチウムを含む水溶液、マンガンを含む水溶液およびリン酸を含む水溶液のいずれか一以上に酸化グラフェンを含み、
前記リン酸を含む水溶液に前記リチウムを含む水溶液を滴下することでリン酸リチウムを含む第1の混合液を作製し、
前記第1の混合液に前記マンガンを含む水溶液を滴下することでリン酸マンガンリチウムの前駆体を含む第2の混合液を作製し、
前記第2の混合液を加圧雰囲気において加熱処理を行った後、ろ過し、残渣を洗浄処理した後、乾燥処理してリン酸マンガンリチウムの粒子を得ることを特徴とするリチウムイオン電池用正極活物質の作製方法。
【請求項3】
リチウムを含む水溶液、コバルトを含む水溶液およびリン酸を含む水溶液のいずれか一以上に酸化グラフェンを含み、
前記リン酸を含む水溶液に前記リチウムを含む水溶液を滴下することでリン酸リチウムを含む第1の混合液を作製し、
前記第1の混合液に前記コバルトを含む水溶液を滴下することでリン酸コバルトリチウムの前駆体を含む第2の混合液を作製し、
前記第2の混合液を加圧雰囲気において加熱処理を行った後、ろ過し、残渣を洗浄処理した後、乾燥処理してリン酸コバルトリチウムの粒子を得ることを特徴とするリチウムイオン電池用正極活物質の作製方法。
【請求項4】
リチウムを含む水溶液、ニッケルを含む水溶液およびリン酸を含む水溶液のいずれか一以上に酸化グラフェンを含み、
前記リン酸を含む水溶液に前記リチウムを含む水溶液を滴下することでリン酸リチウムを含む第1の混合液を作製し、
前記第1の混合液に前記ニッケルを含む水溶液を滴下することでリン酸ニッケルリチウムの前駆体を含む第2の混合液を作製し、
前記第2の混合液を加圧雰囲気において加熱処理を行った後、ろ過し、残渣を洗浄処理した後、乾燥処理してリン酸ニッケルリチウムの粒子を得ることを特徴とするリチウムイオン電池用正極活物質の作製方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項において、
前記加圧雰囲気は0.1MPa以上4.0MPa以下であることを特徴とするリチウムイオン電池用正極活物質の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−65551(P2013−65551A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−186537(P2012−186537)
【出願日】平成24年8月27日(2012.8.27)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】