説明

リチウムイオン電池用正極活物質用熱処理容器

【課題】 熱処理される原料粉末を汚染することが抑えられ、かつ耐熱衝撃性に優れたリチウムイオン電池用正極活物質用熱処理容器を提供すること。
【解決手段】 本発明のリチウムイオン電池用正極活物質用熱処理容器は、リチウムイオン電池用正極活物質の原料粉末を熱処理するときに原料粉末が配されるリチウムイオン電池用正極活物質用熱処理容器において、全体を100mass%としたときに、60〜95mass%でアルミナと、10〜20mass%でシリカと、を含有するとともに、MgO,ZrO,Li化合物を含まず、かつ熱膨張率が0.584〜0.659%であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被熱処理化合物が熱処理されるときに被熱処理化合物が配される熱処理容器に関し、詳しくは、リチウムイオン電池用正極活物質の原料粉末を熱処理するときに用いるリチウムイオン電池用正極活物質用熱処理容器に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の化合物、特に無機系化合物が熱処理工程を経て製造されている。熱処理(加熱)は、通常、耐熱性の熱処理容器に被熱処理化合物(無機系化合物やその原料)を配した状態で行われる。熱処理容器には、耐熱性だけでなく、被熱処理化合物に対して安定であることが求められている。
【0003】
上記の熱処理工程を経て製造される無機系化合物のひとつに、リチウム含有化合物がある。このリチウム含有化合物は、たとえば、リチウムイオン電池の正極活物質に用いられている、LiMnO系化合物、LiNi1/3Co1/3Mn1/3系化合物、LiMn系化合物、LiCoO系化合物、LiNiO系化合物、をあげることができる。
【0004】
リチウムイオン二次電池用正極活物質(リチウム含有化合物)は、原料粉末を焼成して製造される。このリチウム含有化合物の熱処理(焼成)は、一般的にアルミナ、ムライト、コージェライト、スピネル等の耐熱性を備えた材質を主な構成成分として焼成された容器(匣鉢)に収納して行われる。たとえば、特許文献1に記載された匣鉢が用いられる。
【0005】
従来のコージェライトを主成分とする匣鉢は、高い耐熱衝撃性を有するが、リチウム含有化合物との反応性が高いため、反応生成物の混入により熱処理後のリチウム含有化合物の純度が低下するという問題があった。特に、リチウムイオン電池の正極活物質においては、このような不純物が混入すると、リチウムイオン電池の電池性能の低下を引き起こすだけでなく、短絡の発生源となるおそれがある。
【0006】
また、アルミナやスピネルを主成分とする匣鉢は、リチウム含有化合物との反応性は低いが、熱膨張係数が高く、含有率が高くなるほど、熱衝撃による割れが生じやすくなるという問題があった。このため、アルミナやスピネルの含有率を高くすることが困難となっていた。
【0007】
特許文献1には、スピネル,コージェライト,ムライトからなる匣鉢が記載されている。これらの材質は、上記の各組成によるそれぞれの問題を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−292704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記実状に鑑みてなされたものであり、被熱処理化合物を汚染することが抑えられ、かつ耐熱衝撃性に優れた熱処理容器、特にリチウムイオン電池用正極活物質の原料粉末の熱処理に用いられるリチウムイオン電池用正極活物質用熱処理容器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明者等は熱処理容器、特にリチウムイオン電池用正極活物質用熱処理容器について検討を重ねた結果、本発明をなすに至った。
【0011】
すなわち、本発明のリチウムイオン電池用正極活物質用熱処理容器は、リチウムイオン電池用正極活物質の原料粉末を熱処理するときに該原料粉末が配されるリチウムイオン電池用正極活物質用熱処理容器において、全体を100mass%としたときに、60〜95mass%でアルミナと、10〜20mass%でシリカと、を含有するとともに、MgO,ZrO,Li化合物を含まず、かつ熱膨張率が0.584〜0.659%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質用熱処理容器は、アルミナを60〜95mass%と多量に含むことで、リチウム含有化合物との反応が抑制されたものとなっている。そして、10〜20mass%でシリカを含有することで、耐熱衝撃性が向上する。また、MgO,ZrO,Li化合物を含まないことで、原料粉末との反応が抑えられたものとなっている。さらに、熱膨張率を0.584〜0.659%とすることで、熱衝撃時の割れの発生が抑えられたものとなっている。
【0013】
すなわち、本発明のリチウムイオン電池用正極活物質用熱処理容器は、リチウムイオン電池用正極活物質の原料粉末との反応性が抑えられたことで、反応生成物が原料粉末を汚染することが抑えられ、かつ熱衝撃による割れ(破損)が抑えられた容器となっている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(熱処理容器)
本発明の熱処理容器は、被熱処理化合物に対して反応性の低い材質を多量に含み(主な構成成分とし)、かつ気孔率を調節してなることを特徴とする。
【0015】
被熱処理化合物に対して反応性の低い材質を多量に含むことで、被熱処理化合物に熱処理を施したときに、被熱処理化合物が熱処理容器と反応を生じて反応生成物が生成することが抑えられる。この結果、被熱処理化合物が反応生成物により汚染されることが抑えられる。
【0016】
さらに、被熱処理化合物が熱処理容器と反応を生じることが抑えられていることから、被熱処理化合物の組成が熱処理の前後で変化する(熱処理容器と反応を生じる元素が被熱処理化合物から減少して組成が変化する)ことが抑えられる。
【0017】
また、被熱処理化合物に対して反応性の低い材質は、熱膨張率が高く、その結果として熱処理容器の耐熱衝撃性が低下しやすくなるが、本発明では、気孔率を調節することで、耐熱衝撃性を向上している。
【0018】
この結果、本発明の熱処理容器は、被熱処理化合物を汚染することが抑えられ、かつ耐熱衝撃性に優れた熱処理容器となっている。
【0019】
本発明の熱処理容器において、被熱処理化合物に対して反応性の低い材質の含有割合は、従来、熱処理容器に用いられている材質の含有割合に比較して高いことが好ましく、全体を100mass%としたときに、60〜95mass%が好ましく、70〜90mass%がより好ましい。含有割合がこれらの範囲より低くなると被熱処理化合物との間で反応を生じやすくなり、含有割合がこれらの範囲を超えて高くなると容器に割れが生じやすくなる。
【0020】
本発明の熱処理容器において、気孔率は容器を熱処理に使用したときに割れが生じない程度に調整されていればよく、従来の熱処理容器での気孔率に比較して低いことが好ましい。気孔率は、10〜30%であることが好ましく、15〜25%であることがより好ましい。気孔率がこれらの範囲より低くなると、熱処理による割れが発生しやすくなり、これらの範囲より高くなると、被熱処理化合物が侵食しやすくなり表面の剥離による熱処理容器の汚染の原因となる。
【0021】
本発明の熱処理容器において、熱処理される被熱処理化合物,被熱処理化合物が配される熱処理容器の材質(被熱処理化合物に対して反応性の低い材質)は、特に限定されるものではなく、両者の反応性の関係から、適宜決定できる。たとえば、被熱処理化合物としてはリチウムイオン電池の正極活物質に用いられるリチウム含有化合物(リチウムイオン電池用正極活物質の原料粉末)を、被熱処理化合物に対して反応性の低い材質としてはアルミナ,ムライトをあげることができる。
【0022】
本発明の熱処理容器において、被熱処理部材に施される熱処理は、本発明の熱処理容器に被熱処理化合物を配した状態で加熱する処理だけでなく、被熱処理化合物を生成するための加熱(焼成)処理を含む。すなわち、熱処理温度が限定されるものではない。また、熱処理時の雰囲気についても、熱処理容器と反応を生じないことが好ましいこと以外は、限定されるものではない。
【0023】
本発明の熱処理容器は、被熱処理化合物を配する(保持する)ことができる形状であれば、その形状が特に限定されるものではない。たとえば、被熱処理化合物をその上面に配する(保持する,固定する)略板状の形状,上方又は側方が開口した槽状(筒状)の形状,槽状(筒状)の開口を蓋部材で覆う閉鎖形状(いわゆる、匣鉢),等の形状をあげることができる。なお、本発明の熱処理容器において、被熱処理化合物と当接しない部分は、異なる材質で形成されていてもよい。
【0024】
このとき、本発明の熱処理容器で熱処理される被熱処理化合物は、粉末状,成形された成形体、のいずれの形態で熱処理容器に配されていてもよい。
【0025】
(リチウムイオン電池用正極活物質用熱処理容器)
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質用熱処理容器(以下、本発明の熱処理容器と称する)は、リチウムイオン電池用正極活物質の原料粉末を熱処理するときに原料粉末が配されるリチウムイオン電池用正極活物質用熱処理容器である。本発明の熱処理容器において、熱処理される原料粉末は、その化学式中にリチウム(Li)を含んでいる化合物であればよく、さらにリチウムを含んでいる化合物を混合した混合物であってもよい。
【0026】
そして、本発明の熱処理容器は、全体を100mass%としたときに、60〜95mass%でアルミナ(Al)を含有する。
【0027】
本発明の熱処理容器の主要な構成材料であるアルミナは、リチウムイオン電池用正極活物質の原料粉末に対して反応性が低い材質である。つまり、本発明の熱処理容器は、アルミナを多量に含むことで、原料粉末を熱処理したときに、原料粉末が熱処理容器と反応を生じて反応生成物が生成することが抑えられる。この結果、熱処理される原料粉末が反応生成物により汚染されることが抑えられる。
【0028】
そして、本発明の熱処理容器は、全体を100mass%としたときに、60〜95mass%でアルミナを含有する。アルミナを60〜95mass%で含有することで、原料粉末との反応を抑えられるとともに、耐熱衝撃性が向上する。ここで、含有割合が60mass%より低くなると原料粉末との間で反応を生じやすくなり、95mass%を超えると熱処理容器に割れが生じやすくなる。より好ましい含有割合は、70〜90mass%である。
【0029】
また、本発明の熱処理容器は、気孔率が10〜30%であることが好ましい。気孔率がこの範囲内となることで、熱処理容器の耐熱衝撃性が向上する。気孔率がこの範囲より低くなると熱処理による割れが発生しやすくなり、この範囲より高くなるとリチウム浸食による剥離の原因となる。気孔率は、15〜25%であることがより好ましい。
【0030】
全体を100mass%としたときに、10〜20mass%でSiO(シリカ)を含有する。シリカは、熱処理容器の耐熱衝撃性を向上する効果を発揮する化合物である。また、シリカは、熱処理されるリチウムイオン電池用正極活物質の原料粉末との反応性を有しており、その含有量が少ない方が好ましい。シリカの含有割合がこの範囲より低くなると、相対的にアルミナの含有割合が増加し、耐熱衝撃性が低下して、熱処理容器の割れ(損傷)が生じるようになる。また、含有割合がこの範囲より高くなると、原料粉末と反応を生じやすくなり、反応生成物に起因する原料粉末の汚染が生じやすくなる。このため、シリカの含有量がこの範囲となることで、熱処理容器の耐熱衝撃性を向上しつつ、リチウム含有化合物の汚染を抑えることができる。
【0031】
アルミナとムライトから形成されることが好ましい。アルミナはAlの化学式で表される化合物であり、ムライトはAl(アルミナ)とSiO(シリカ)の化合物(アルミノケイ酸塩)であり、Al13Siの組成式を備えている。つまり、アルミナとムライトから形成されることで、リチウム含有化合物と反応を生じやすい物質(化合物)が含まれなくなり、本発明の熱処理容器が耐熱衝撃性を向上しつつ、リチウムイオン電池用正極活物質の原料粉末の汚染を抑えることができる。本発明においては、原料粉末と反応を生じやすい物質(化合物)を含まないことが好ましく、このような物質としては、MgO(マグネシア)を例示することができる。ここで、アルミナとムライトから形成されるとは、アルミナとムライトのみから形成されることだけではなく、アルミナとムライトを主成分として形成することも含む。さらに、本発明においては、不可避不純物を含んでいてもよい。
【0032】
本発明の熱処理容器は、アルミナとムライトのみから形成されることが好ましい。アルミナとムライトのみから形成されることで、リチウムイオン電池用正極活物質の原料粉末と反応性を有する他の無機元素が含まれなくなり、本発明の熱処理容器が耐熱衝撃性を向上しつつ、原料粉末の汚染を抑えることができる。たとえば、従来の匣鉢の主要構成材料であるコーディエライトには、マグネシアが含有されており、このマグネシアはリチウム含有化合物と反応を生じて反応生成物を生成する。
【0033】
本発明の熱処理容器は、前記の熱処理容器において、被熱処理化合物がリチウムイオン電池用正極活物質の原料粉末であり、被熱処理化合物に対して反応性の低い材質としてアルミナを主成分とした容器である。
【0034】
すなわち、これらの事項以外については、上記の熱処理容器と同様な構成とすることができる。
【0035】
(リチウムイオン電池用正極活物質用熱処理容器の製造方法)
本発明のリチウムイオン電池用正極活物質用熱処理容器は、その製造方法が特に限定されるものではなく、所定の材質から所定の範囲の気孔率をもつように製造できる製造方法であればよい。
【0036】
たとえば、粒度が異なる粉末を混合し、熱処理容器の所定の形状に成形・焼成することで製造することができる。このとき、熱処理容器の気孔率が所定の範囲(10〜30%)となるように成形・焼成が行われる。また、適宜、乾燥工程等の工程を施してもよい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。
【0038】
本発明の実施例として、板状のリチウムイオン電池用正極活物質用熱処理容器を製造した。
【0039】
(実施例)
アルミナ粉末,ムライト粉末及びその他の添加剤を、表1に示した質量部で秤量し、十分に混合した。
【0040】
十分に混合した混合粉末を、押圧して正方形の板状に成形した。この成形は、6kN/cmの圧力で加圧して行われた。
【0041】
次に、成形体を自然乾燥させ、その後、大気雰囲気1350℃で5時間保持して焼結させた(焼成した)。
【0042】
焼成後、放冷して板状の熱処理容器(試料1〜2)が製造された。
【0043】
【表1】

【0044】
製造された試料1〜2の熱処理容器の気孔率,嵩比重,曲げ強度をそれぞれ測定し、測定結果を表2に示した。
【0045】
気孔率及び嵩比重の測定は、JIS R 1614(真空法)に規定された方法で行われた。
【0046】
曲げ強度の測定は、電子式万能試験機(米倉製作所製、CATY)を用いて、支点間距離;6cmの3点曲げ試験により行われた。
【0047】
【表2】

【0048】
表2に示したように、試料1の熱処理容器は、アルミナを77.9mass%,シリカを19.0mass%で含有し、かつ気孔率が19.2%となっていることが確認できた。また、試料2の熱処理容器は、アルミナを87.2mass%,シリカを10.9mass%で含有し、かつ気孔率が20.0%となっていることが確認できた。
【0049】
(評価)
実施例の熱処理容器の評価として、リチウム含有化合物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3系化合物)の焼成を繰り返し行い、焼成後の熱処理容器の状態を観察した。
【0050】
具体的には、以下のようにして行われた。
【0051】
まず、炭酸リチウム粉末(LiCO)を3/2mol%、酸化コバルト粉末(Co)を1/3mol%、二酸化マンガン粉末(MnO)を1mol%、水酸化ニッケル粉末(Ni(OH))を1mol%、となるように秤量し、十分に混合した後に円板状のペレット形状に成形した。このペレットは、φ18mm、厚さ5mm、ひとつ4gとなるように成形された。
【0052】
製造されたペレットを、各試料の熱処理容器の表面上に載置し、焼成炉内に配置した後に加熱し焼成した。
【0053】
ペレットの焼成は、大気雰囲気で、1100℃まで4時間で昇温し、昇温後1100℃で4時間保持し、その後、大気中で放冷した。
【0054】
放冷後、各試料の熱処理容器の表面上のペレットを取り除き、別の新たなペレット(未焼成)を載置し、焼成した。加熱は、同様の処理条件で行われた。
【0055】
このペレットの焼成を20回繰り返した。
【0056】
同様の評価試験を、市販の熱処理容器(試料3〜6)についても行った。なお、試料3〜6は、表2にあわせて示した組成及び特性を有している。
【0057】
20回の焼成後の各試料の断面を観察した。
【0058】
ここで、試料3は、ムライトよりなり、アルミナを75.9mass%,シリカを21.8mass%で含有し、かつ気孔率が34.1%となっている熱処理容器である。すなわち、試料1〜2と比較して、大きな気孔率を有している。
【0059】
試料4は、ムライトとコーディエライトよりなり、アルミナを64.0mass%,シリカを30.6mass%,マグネシアを3.3mass%で含有し、かつ気孔率が30.2%となっている熱処理容器である。すなわち、試料1〜2と比較して、マグネシアを含有するだけでなく、大きな気孔率を有している。
【0060】
試料5は、ZrO(ジルコニア)とコーディエライトよりなり、アルミナを34.7mass%,シリカを41.8mass%,マグネシアを4.7mass%,ジルコニアを15.7mass%で含有し、かつ気孔率が33.9%となっている熱処理容器である。すなわち、試料1〜2と比較して、マグネシア,ジルコニアを含有するだけでなく、大きな気孔率を有している。
【0061】
試料6は、スピネルとコーディエライトよりなり、アルミナを56.8mass%,シリカを25.9mass%,マグネシアを13.4mass%で含有し、かつ気孔率が31.6%となっている熱処理容器である。すなわち、試料1〜2と比較して、マグネシアを含有するだけでなく、大きな気孔率を有している。さらに、アルミナの含有量もかなり低くなっている。
【0062】
試料1〜2では、ペレットとの当接部近傍において、リチウム含有化合物の浸食(浸透・拡散)が観察された。また、僅かな盛り上がり(体積変化)が確認できた。なお、ペレットとの当接部近傍において、試料1〜2の表面は、ほぼ平滑な状態が維持されていることが確認できた。すなわち、試料1〜2では、リチウム含有化合物の浸食(及び浸食による僅かな体積変化)が確認されたが、リチウム含有化合物との反応生成物は確認できなかった。つまり、リチウム含有化合物との反応性を有していない(殆ど有さない)ことが確認できた。
【0063】
試料3では、ペレットとの当接部近傍において、リチウム含有化合物の浸食(浸透・拡散)が観察された。また、ペレットとの当接部において、表面の荒れおよび盛り上がり(体積変化)が確認できた。この表面の荒れは、容器及びリチウム含有化合物の浸食した部分とは、異なる色をしており、リチウム含有化合物との反応生成物であることがわかる。さらに、この表面の荒れは、脆く、簡単に剥落した。この表面の荒れ(及び体積変化)は、ペレットとの当接部が、ペレットのリチウム含有化合物と反応を生じたことにより発生した。すなわち、試料3は、リチウム含有化合物と反応を生じて、簡単に剥離する反応生成物をその表面に形成したことが確認できた。
【0064】
試料4〜6では、ペレットとの当接部近傍が、スポンジ状の発泡体状となって大きく盛り上がっていることが確認できた。この発泡体状の部分は、試料3の時と同様に、リチウム含有化合物との反応生成物であることがわかる。試料1〜3との比較から、リチウム含有化合物との反応生成物は、マグネシア,ジルコニアとの反応生成物であると考えられる。このスポンジ状の発泡体状の部分は、その体積の大半が気孔となっており、特に脆く、簡単に破損して粉末が剥離した。すなわち、試料4〜6は、リチウム含有化合物と反応を生じて、簡単に剥離する反応生成物をその表面に多量に形成したことが確認できた。
【0065】
次に、試料1,2,4の容器の1000℃での熱膨張率を測定し、表2にあわせて示した。
【0066】
表2に示したように、アルミナの含有割合が高くなるほど、熱膨張率が大きくなることが確認できた。さらに、表2に示したように、試料1〜2は、試料3〜6と比較して、かなり高い曲げ強度を有していることが確認できる。
【0067】
すなわち、試料1〜2の容器は、熱膨張率が大きくなっていながら、強度も高くなっていることで、耐熱衝撃性が向上している。その上で、上記したようにリチウム含有化合物との反応が抑えられていることで、リチウム含有化合物の汚染も抑えられている。
【0068】
上記したように、本発明の熱処理容器である試料1〜2の容器は、マグネシア等を含有しないことでリチウム含有化合物との反応性が抑えられたことでリチウム含有化合物の汚染が抑えられ、かつ熱衝撃による割れ(破損)が抑えられた容器となっている。
【0069】
(実施例の変形形態)
上記の実施例では、板状の熱処理容器を用いて、ペレット状のリチウム含有化合物の焼成を行ったが、熱処理容器の形状及びリチウム含有化合物の配置形態は、これらに限定されるものではない。
【0070】
熱処理容器は、上方又は側方が開口した槽状(筒状)の形状,槽状(筒状)の開口を蓋部材で覆う閉鎖形状(いわゆる、匣鉢),等の形状としてもよい。また、リチウム含有化合物は、粉末状であってもよい。
【0071】
特に、熱処理容器が槽状の形状であり、リチウム含有化合物が粉末状であるときに、上記した実施例の熱処理容器の効果をより発揮できる。
【0072】
具体的には、槽状の容器の内部に粉末状のリチウム含有化合物を入れて焼成(熱処理)する時には、焼成後に、槽状の容器の開口を下方に向けて焼成後のリチウム含有化合物を取り出す。このとき、熱処理容器の内表面(リチウム含有化合物との当接面)に反応生成物による剥離が生じていないため、焼成後のリチウム含有化合物の汚染が生じない。
【0073】
対して、たとえば、本発明の比較例となる試料3〜6の同様の形状の容器では、リチウム含有化合物との当接面に反応生成物に起因する剥離が生じている。そして、リチウム含有化合物を取り出すときに、リチウム含有化合物と同時に反応生成物が熱処理容器から取り出される。つまり、反応生成物が、リチウム含有化合物を汚染する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池用正極活物質の原料粉末を熱処理するときに該原料粉末が配されるリチウムイオン電池用正極活物質用熱処理容器において、
全体を100mass%としたときに、60〜95mass%でアルミナと、10〜20mass%でシリカと、を含有するとともに、MgO,ZrO,Li化合物を含まず、かつ熱膨張率が0.584〜0.659%であることを特徴とするリチウムイオン電池用正極活物質用熱処理容器。
【請求項2】
均一な気孔率を有する請求項1記載のリチウムイオン電池用正極活物質用熱処理容器。
【請求項3】
10〜30%の気孔率を有する請求項2記載のリチウムイオン電池用正極活物質用熱処理容器。
【請求項4】
アルミナとムライトから形成される請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムイオン電池用正極活物質用熱処理容器。

【公開番号】特開2012−211075(P2012−211075A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−105084(P2012−105084)
【出願日】平成24年5月2日(2012.5.2)
【分割の表示】特願2011−75441(P2011−75441)の分割
【原出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000220767)東京窯業株式会社 (211)
【Fターム(参考)】