説明

リチウムイオン電池用負極の製造方法及びリチウムイオン電池

【課題】合金系活物質を含有する薄膜状負極活物質層を備えるリチウムイオン電池用負極において、負極集電体と負極リードとを合金層により導通性良く接合するとともに、合金層の寸法および形状を調整する。
【解決手段】合金系活物質を含有する薄膜状負極活物質層11を備える負極板1と、負極リード13とを準備する第1工程、溶接治具14の第1板17と第2板18との間に、薄膜状負極活物質層11の表面と負極リード13の表面とが重なり、且つ、平坦な溶接端面15が露出するように、負極板1と負極リード13とを挟持する第2工程、並びに負極板1及び負極リード13の溶接領域をアーク溶接する第3工程を備え、溶接治具14が、第1板17及び第2板18の合わせ面17b、18bに第1断熱層17x及び第2断熱層18xを有し、溶接領域を第1断熱層17x及び第2断熱層18xの表面で挟持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用負極の製造方法及びリチウムイオン電池に関する。さらに詳しくは、本発明は、合金系活物質を含有するリチウムイオン電池用負極における、負極集電体と負極リードとの接合方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、高容量及び高エネルギー密度を有し、小型化及び軽量化が容易なことから、電子機器等の電源として広く利用されている。電子機器には、携帯電話、携帯情報端末(Personal Digital Assistant、PDA)、ノート型パーソナルコンピュータ、ビデオカメラ、携帯ゲーム機等がある。代表的なリチウムイオン電池は、リチウムコバルト複合酸化物を含有する正極と、黒鉛を含有する負極と、ポリオレフィン製セパレータと、を備える。
【0003】
正極及び負極は、それぞれ、集電体と活物質層とリードとからなる。活物質層は集電体表面に形成される。リードは、活物質層が形成されていない集電体露出部に溶接される。リードの溶接には、抵抗溶接や超音波溶接が利用されている。集電体露出部は、集電体表面に間隔を空けて活物質層を形成するか、又は集電体表面に活物質層を形成した後、活物質層の一部を除去することにより形成される。
【0004】
最近では電子機器の多機能化が進み、その電力消費量が増大している。その一方で、一度の充電で連続して使用できる時間の延長が望まれている。このため、リチウムイオン電池のさらなる高容量化が必要になり、黒鉛よりも高容量である合金系活物質の開発が盛んに行われている。代表的な合金系活物質には、珪素、珪素酸化物等の珪素系活物質がある。
【0005】
合金系活物質を含有する負極は、一般的には、負極集電体と、負極集電体表面に形成される合金系活物質の薄膜(以下において「薄膜状負極活物質層」とすることがある)と、を備える。
薄膜状負極活物質層が形成された負極集電体に、負極リードを接合する方法が種々提案されている。
【0006】
特許文献1は、負極板と負極リードとの積層体にレーザを照射することにより、前記積層体を厚さ方向に貫通する連通孔を形成した負極を開示している。前記積層体にレーザを照射すると、連通孔の内部表面に存在する負極集電体と負極リードとが溶融して接触することにより、負極集電体と負極リードとが接続される。
【0007】
しかしながら、負極集電体と負極リードとの接続部分には、合金系活物質の粒子が含まれている。合金系活物質の粒子は、レーザ照射により、薄膜状負極活物質層から流出したものである。合金系活物質は融点が高いので、レーザを照射しただけでは、溶融しにくい。したがって、前記接続部分の接合強度は低い。また、合金系活物質は電気抵抗が大きいので、前記接続部分に合金系活物質の粒子が存在することにより、前記接続部分の導通性が低下しやすい。
【0008】
特許文献2は、合金系活物質を含有する薄膜状負極活物質層の表面に、銅、銅合金又は銅のクラッド材からなる負極リードを抵抗溶接により接合した負極を開示している。抵抗溶接では、負極集電体又は負極リードが局所的に溶融することがあるが、薄膜状負極活物質層には電流がほとんど流れないので、薄膜状負極活物質層は溶融しない。このため、負極集電体と負極リードとは十分に接合しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−214086号公報
【特許文献2】特開2007−115421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
負極集電体の表面に、気相法により合金系活物質の薄膜を形成するのと同時に、集電体露出部を設けるには、例えば、負極集電体表面の所定位置にマスク層を形成し、薄膜形成後にマスク層を除去する方法が考えられる。マスク層を除去した部分が集電体露出部になる。この場合、マスク層の形成、マスク層の除去等の煩雑で余分な作業が必要になる。
【0011】
合金系活物質の薄膜を部分的に除去して、集電体露出部を形成するのも非常に困難である。特に、珪素系活物質の薄膜はガラス質であり、高い機械的強度を有し、負極集電体表面に強力に固着する。このガラス質薄膜を負極集電体から除去すると、負極集電体が損傷し、その集電性能及び電極性能が低下するおそれがある。
【0012】
すなわち、合金系活物質を含有する薄膜状負極活物質層を含む負極では、負極集電体と負極リードとを効率よくかつ確実に接合することが非常に困難である。
本発明の目的は、合金系活物質を含有する薄膜状負極活物質層を備え、負極集電体と負極リードとが確実に接合されたリチウムイオン電池用負極を製造する方法、及び前記方法により製造されたリチウムイオン電池用負極を備えるリチウムイオン電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のリチウムイオン電池用負極の製造方法は、
集電体及び集電体の表面に形成される薄膜状負極活物質層を備え、薄膜状負極活物質層が合金系活物質を含有する負極板と、負極板に接続される負極リードとを準備する第1工程と、
第1板と第2板とから構成される一組の溶接治具の第1板と第2板との間に、薄膜状負極活物質層の表面と負極リードの表面とが重なり、且つ、負極板の端面と負極リードの端面とからなる溶接端面が露出するように、負極板と負極リードとを挟持する第2工程と、
溶接端面に向けてアーク放電することにより、溶接端面を含む、負極板および負極リードの溶接領域を溶融させてアーク溶接する第3工程と、を備え、
溶接治具は第1板と第2板との合わせ面に断熱層を有し、溶接領域は断熱層の表面で挟持される。
【0014】
また、本発明のリチウムイオン電池は、正極集電体、正極集電体の表面に形成された正極活物質層及び正極集電体に接続された正極リードを備える正極と、前述のリチウムイオン電池用負極の製造方法により製造されたリチウムイオン電池用負極と、正極とリチウムイオン電池用負極との間に介在するように配置されたセパレータと、リチウムイオン伝導性非水電解質と、を備えている。
【発明の効果】
【0015】
本発明のリチウムイオン電池用負極の製造方法によれば、負極集電体と、合金系活物質を含有する薄膜状負極活物質層と、負極リードとを備え、負極集電体と負極リードとが確実に接合されたリチウムイオン電池用負極を、効率良くかつ工業的に有利に製造できる。また、本発明の製造方法で製造された負極は、負極集電体と負極リードとが高い強度で接合されているだけでなく、負極集電体と負極リードとの導通性が良好である。さらに、本発明のリチウムイオン電池は、本発明の製造方法で製造された負極を備えることにより、高容量及び高出力を有し、出力特性、サイクル特性等の電池性能に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態であるリチウムイオン電池用負極の製造方法を説明する縦断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態であるリチウムイオン電池の構成を模式的に示す縦断面図である。
【図3】電子ビーム式蒸着装置の構成を模式的に示す側面図である。
【図4】負極リードの負極集電体に対する引張強度を測定するための試料の作製方法を模式的に示す斜視図である。
【図5】負極リードの負極集電体に対する引張強度の測定方法を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決するための研究過程において、特許文献2のように、合金系活物質を含有する薄膜状負極活物質層を介して負極集電体と負極リードとを接合する構成に着目した。そして、負極集電体と薄膜状負極活物質層とを備える負極板と、特定の材質を有する負極リードとを、アーク溶接により接合する新規な方法を見出した。この方法によれば、負極集電体と負極リードとが溶融するだけでなく、薄膜状負極活物質層に含有される合金系活物質が溶融して合金層が形成されることにより、負極集電体と負極リードとを、導通性良くかつ強固に接合できることを見出した。
【0018】
前記方法では、薄膜状負極活物質層の表面と負極リードの表面とが重なり、且つ、負極板の端面と負極リードの端面とからなる溶接端面が露出するように、負極板と負極リードとを溶接治具により挟持する。そして、溶接端面に対してアーク放電を行うことにより、溶接端面を含む、負極集電体および負極リードの溶接領域が溶融し、負極集電体と負極リードとの間に合金層が形成される。
【0019】
しかしながら、前記の方法では、合金層の寸法が必要以上に大きくなり、捲回型電極群を作製した場合に、捲回型電極群の寸法及び形状の規格外化、捲回型電極群における正極又は負極とセパレータとの密着性の低下、合金層がセパレータを損傷させることによる内部短絡の発生等の不都合が起り易くなる。また、複数の合金層を形成した場合に、合金層の形状及び/又は寸法が不揃いになり、前記の不都合がさらに顕著になるおそれがある。
【0020】
このような不都合が起る理由は十分明らかではないが、次のように推測される。前記の方法では、溶接領域が溶接治具の表面に接触している。このため、アーク放電により付与されるエネルギーの一部が溶接治具に奪われる。これにより、溶接領域にアーク放電のエネルギーが均等に行き渡らなくなり、前記の不都合が発生し易くなると推測される。
【0021】
本発明者らは、合金層の寸法が必要以上に大きくなることを抑制し、合金層の形状を整えるためにさらに研究を重ねた。その結果、負極板及び負極リードを挟持する溶接治具として、第1板と第2板とからなり、第1板および第2板のそれぞれの合わせ面に断熱層を設けた特定の溶接治具を見出した。そして、溶接領域を前記溶接治具の断熱層の表面で挟持し、溶接領域をアーク溶接することにより、合金層の寸法が大きくなるのが抑制され、合金層の形状が整えられることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0022】
図1は、本発明の第1実施形態であるリチウムイオン電池用負極の製造方法を説明する縦断面図である。第1実施形態のリチウムイオン電池用負極の製造方法(以下「第1実施形態の製造方法」とする)は、第1工程と、第2工程と、第3工程と、を備える。以下に、各工程について詳しく説明する。
【0023】
[第1工程]
第1工程では、負極板1及び負極リード13を準備する。
負極板1は、負極集電体10と、負極集電体10の厚さ方向の両面に形成された薄膜状負極活物質層11と、を備える。本実施形態では、薄膜状負極活物質層11は、負極集電体10の厚さ方向の両面に形成されているが、片面に形成されていてもよい。
【0024】
負極集電体10には、リチウムイオン電池の分野で常用される無孔の導電性基板を使用できる。無孔の導電性基板の形態には、箔、シート、フィルム等がある。導電性基板の材質には、ステンレス鋼、チタン、ニッケル、銅、銅合金等がある。導電性基板の厚さは、通常は1〜500μm、好ましくは1〜50μm、より好ましくは10〜40μm、さらに好ましくは10〜30μmである。
【0025】
薄膜状負極活物質層11は、合金系活物質を含有し、その特性を損なわない範囲で、合金系活物質以外の公知の負極活物質、添加剤等を含有していてもよい。好ましい形態の薄膜状負極活物質層11は、合金系活物質を含有し、且つ膜厚が3〜50μmである非晶質又は低結晶性の薄膜である。
【0026】
合金系活物質は、負極電位下で、充電時にリチウムと合金化することによりリチウムを吸蔵し、かつ放電時にリチウムを放出する。合金系活物質としては特に限定されず、公知のものを使用できるが、珪素系活物質及び錫系活物質が好ましく、珪素系活物質がさらに好ましい。
【0027】
珪素系活物質には、珪素、珪素化合物、これらの部分置換体、これらの固溶体等がある。珪素化合物には、珪素酸化物、珪素炭化物、珪素窒化物、珪素合金等がある。これらの中でも、珪素酸化物が好ましい。
珪素酸化物には、式:SiOa(0.05<a<1.95)で表される酸化珪素等がある。珪素炭化物には、式:SiCb(0<b<1)で表される炭化珪素等がある。珪素窒化物には、式:SiNc(0<c<4/3)で表される窒化珪素等がある。
【0028】
珪素合金は、珪素と異種元素Aとの合金である。異種元素Aとしては、Fe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Cu、Zn、Ge、In、Sn及びTiよりなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を使用できる。部分置換体は、珪素又は珪素化合物に含まれる珪素の一部を異種元素Bで置換した化合物である。異種元素Bとしては、B、Mg、Ni、Ti、Mo、Co、Ca、Cr、Cu、Fe、Mn、Nb、Ta、V、W、Zn、C、N及びSnよりなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を使用できる。
【0029】
錫系活物質には、錫、錫酸化物、錫窒化物、錫合金、錫化合物、これらの固溶体等があり、錫酸化物が好ましい。錫酸化物には、SnOd(0<d<2)、SnO2等の酸化錫がある。錫合金には、Ni−Sn合金、Mg−Sn合金、Fe−Sn合金、Cu−Sn合金、Ti−Sn合金等がある。錫化合物には、SnSiO3、Ni2Sn4、Mg2Sn等がある。
合金系活物質は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0030】
薄膜状負極活物質層11は、気相法により、負極集電体10の表面に薄膜状に形成される。気相法には、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、化学気相成長(CVD;Chemical Vapor Deposition)法、プラズマ化学気相成長法、溶射法等がある。これらの中でも、真空蒸着法が好ましい。
【0031】
例えば、電子ビーム式真空蒸着装置において、シリコンターゲットの鉛直方向上方に負極集電体10を配置する。シリコンターゲットに電子ビームを照射してシリコン蒸気を発生させ、このシリコン蒸気を負極集電体10の表面に析出させる。これにより、珪素からなる薄膜状負極活物質層11が負極集電体10の表面に形成される。このとき、電子ビーム式真空蒸着装置内に酸素又は窒素を供給すると、珪素酸化物又は珪素窒化物を含有する薄膜状負極活物質層11が形成される。
【0032】
本実施形態では、薄膜状負極活物質層11は、薄膜状のベタ膜として形成されるが、それに限定されず、気相法により、格子等のパターン形状や複数の柱状体の集合体として形成してもよい。複数の柱状体は、それぞれが合金系活物質を含有し、負極集電体表面から外方に延びかつ互いに離隔するように形成される。
【0033】
この場合、負極集電体の表面に複数の凸部を規則的に又は不規則に形成し、1つの凸部の表面に1つの柱状体を形成するのが好ましい。凸部の鉛直方向上方からの正投影図における形状には、菱形、円形、楕円形、三角形〜八角形などがある。凸部を規則的に形成する場合、凸部の負極集電体表面での配置には、碁盤目状配置、格子状配置、千鳥格子状配置、最密充填配置等がある。また、凸部は、負極集電体の厚さ方向の一方の表面又は両方の表面に形成される。また、柱状体の高さは好ましくは3μm〜30μmである。
【0034】
負極リード13は、ニッケル、ニッケル合金、銅及び銅合金よりなる群から選ばれる少なくとも1つの金属又は合金を含有する。ニッケル合金には、ニッケル−珪素合金、ニッケル−錫合金、ニッケル−コバルト合金、ニッケル−鉄合金、ニッケル−マンガン合金等がある。銅合金には、銅−ニッケル合金 、銅−鉄合金、銅−銀合金、銅−りん合金、銅−アルミニウム合金、銅−珪素合金、銅−錫合金、銅−ジルコニア合金、銅−ベリリウム合金等がある。
【0035】
これらの中でも、負極集電体10と負極リード13との接合強度を高める観点から、ニッケル、銅、銅−ニッケル合金が好ましく、銅がさらに好ましい。また、銅とニッケルとのクラッド材を用いてもよい。負極リード13は、前記した金属又は合金を、一般的なリードの形態に成形することにより、製造される。
【0036】
[第2工程]
第2工程では、第1板17と第2板18とからなる一組の溶接治具14を用い、第1板17と第2板18との間に、負極板1と負極リード13とを挟持する。溶接治具14は、銅等の金属材料を所定の形状に成形することにより、作製される。溶接治具14による負極板1及び負極リード13の挟持は、薄膜状負極活物質層11の表面と負極リード13の表面とが重なり、且つ、負極板1の端面1aと負極リード13の端面13aとからなる溶接端面15が露出するように、実施される。
【0037】
ここで、薄膜状負極活物質層11の表面とは、薄膜状負極活物質層11の厚さ方向の一方の表面である。負極リード13の表面とは、負極リード13の厚さ方向の一方の表面である。薄膜状負極活物質層11の表面の全面と、負極リード13の表面の全面とが重なっている必要はなく、それぞれの表面の少なくとも一部が重なって、接触していればよい。
【0038】
本実施形態では、負極板1の端面1aは、負極板1の長手方向の一方の端面であり、負極リード13の端面13aは、負極リード13の幅方向の一方の端面であるが、それに限定されない。負極板1の端面1aは、負極板1の長手方向の一端面又は負極板1の幅方向の一端面のいずれでもよい。負極リード13の端面13aは、負極リード13の長手方向の一端面又は負極リード13の幅方向の一端面のいずれでもよい。
【0039】
負極板1の端面1a及び負極リード13の端面13aについて、長手方向又は幅方向のいずれにするかは、電極群の形態(捲回型、扁平型、積層型等)、リチウムイオン電池の形態(角型、円筒型、扁平型、ラミネートフィルムパック型、コイン型等)及び設計(寸法、容量、用途等)等の条件に応じて適宜選択される。
【0040】
また、溶接治具14により負極板1と負極リード13とを挟持する際にしては、負極板1の端面1aと負極リード13の端面13aとが連続した同一平面になり、平坦な溶接端面15が形成されるように、負極板1及び負極リード13を配置するのが好ましい。溶接端面15を含む溶接領域とは、溶接端面15に対して垂直な方向16から、後述する条件でアーク放電を行った場合に、負極板1及び負極リード13におけるアーク放電のエネルギーが及ぶ領域である。
【0041】
第1板17および第2板18の合わせ面17b、18bには、負極板1及び負極リード13の溶接領域に接触する部分の少なくとも一部に、それぞれ第1断熱層17x及び第2断熱層18xが設けられている。第1断熱層17xは、第1板17の端面17aから合わせ面17bに沿って設けられている。第2断熱層18xは、第2板18の端面18aから合わせ面18bに沿って設けられている。
【0042】
また、第1断熱層17x及び第2断熱層18xは、負極板1及び負極リード13を介して、互いに対向している。本実施形態では、第1断熱層17x及び第2断熱層18xは、それぞれ、第1板17及び第2板18の厚さ方向の断面形状が長方形になるように、層状に形成されている。
すなわち、第1断熱層17xの表面と第2断熱層18xの表面とにより、負極板1及び負極リード13の溶接領域の少なくとも一部が挟持されている。
【0043】
第1断熱層17x及び第2断熱層18xは、第1板17と第2板18とからなる溶接治具14よりも熱伝導性の低い材料を用いて所定の形状に形成されている。第1板17及び第2板18は、アーク溶接を実施するために、導電性および熱伝導性の高い金属材料により形成されている。したがって、第1断熱層17x及び第2断熱層18xを構成する熱伝導性の低い材料は、前記金属材料よりも熱伝導性の低い材料であれば特に限定されないが、例えば、セラミックス材料などを好ましく使用できる。
【0044】
セラミック材料からなる第1断熱層17x及び第2断熱層18xを、第1板17及び第2板18の合わせ面17b、18bの所定の位置に設け、負極板1及び負極リード13の溶接領域を挟持する。これにより、溶接端面15を含む溶接領域に付与されるアーク放電のエネルギーが、第1板17及び第2板18に奪われることが顕著に抑制される。このため、溶接領域にアーク放電のエネルギーがほぼ均一に行き渡り、溶接領域がほぼ均一に溶融する。その結果、溶接領域が再度固化して形成される合金層の寸法及び形状が整い、捲回型電極群を作製する際の支障になるような突出部分が合金層に形成されることが顕著に抑制される。
【0045】
また、溶接領域が均一に溶融することにより、負極板1及び負極リード13に含有される銅等の金属元素、薄膜状負極活物質層11に含有される珪素等の半金属元素等の各成分が均一に混ざり合う。その結果、溶接領域の全体において合金化が起り、溶接領域が再度固化して形成される合金層の組織が均一になる。これにより、合金層の寸法が小さくなっても、合金層による負極集電体10と負極リード13との接合性及び導通性が、合金層の寸法が必要以上大きくなった場合に比べて、遜色ない水準に維持される。
【0046】
なお、溶接領域が不均一に溶融した場合には、局所的な粘度の差などにより、必要以上に突出した部分などが生じ、溶接領域が再度固化して形成される合金層の寸法及び形状にばらつきが生じ易い。また、必要以上に突出した部分を有する合金層が形成され易い。その結果、電池を作製する際に、前記の突出した部分による内部短絡の発生等を抑制するために、電池内に余分な空間を設ける必要が生じる。これにより、電池の高密度化設計及び高容量化設計が妨げられる。
【0047】
また、第1断熱層17x及び第2断熱層18xにより溶接領域を挟持した場合、第1断熱層17xの表面は、負極リード13の溶接領域表面の全面に接触している必要はない。同様に、第2断熱層18xの表面も、薄膜状負極活物質層11の溶接領域表面の全面に接触している必要はない。負極リード13の溶接領域表面は、第1断熱層17xの表面及び第1板17の合わせ面17bの両方に接触しているのが好ましい。また、薄膜状負極活物質層11の溶接領域表面は、第2断熱層18xの表面及び第2板18の合わせ面18bの両方に接触しているのが好ましい。第1断熱層17x及び第2断熱層18xの表面の、溶接領域表面に対する接触割合は、後述する各種条件に応じて適宜選択される。各種条件には、第1断熱層17x及び第2断熱層18xの材質及び厚さ(後述する端面17a又は端面18aに沿う方向の長さ)、負極集電体10、薄膜状負極活物質層11及び負極リード13の材質及び厚さ、アーク溶接の溶接条件などがある。
【0048】
セラミックス材料としては特に限定されないが、ZrO2、Al23、CaO、SiO2等の酸化物、Si34等の窒化物などを好ましく使用できる。セラミックス材料は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。これらの中でも、アーク放電によるエネルギーを溶接領域に均等に行き渡らせる観点、並びに、耐久性及び加工性という観点からは、ZrO2及びAl23から選ばれる酸化物、並びに、Si34が好ましい。これら3種のセラミック材料は、いずれも、熱伝導率が25W/m・kよりも低く、溶接領域が溶融して高温になっても、溶接領域の熱を奪うことが非常に少なく、溶接領域の熱により損傷することがない。さらに、これら3種のセラミック材料は成形加工性に優れているため、第1断熱層17x及び第2断熱層18xを形成するのも容易である。
【0049】
また、第1断熱層17x及び第2断熱層18xの融点は、1500℃以上であることが好ましい。これにより、溶接領域が溶融しても、溶接領域を挟持する第1断熱層17x及び第2断熱層18xが軟化又は溶融することが顕著に抑制される。その結果、溶融状態にある溶接領域が再度固化して形成される合金層の寸法及び形状がより均一に整う。これにより、捲回型電極群の作製、捲回型電極群を用いる電池の作製などにおける作業性がさらに向上し、合金層の寸法及び形状を原因とする内部短絡が発生する可能性がほぼなくなる。
【0050】
第1断熱層17x及び第2断熱層18xの融点を1500℃以上にするには、セラミック材料の中から融点が1500℃以上のセラミック材料を選択し、このようなセラミック材料を用いて第1断熱層17x及び第2断熱層18xを形成すればよい。
【0051】
第1断熱層17x及び第2断熱層18xの寸法は特に限定されないが、その一例を挙げれば、次の通りである。負極集電体10の厚さが1〜50μm、薄膜状負極活物質層11の厚さが1〜30μm、及び負極リード13の厚さが10〜500μmである場合、第1断熱層17x又は第2断熱層18xの断面において、それぞれ、第1板17の端面17a又は第2板18の端面18aに沿う方向の長さが0.1〜5mmであることが好ましい。また、第1断熱層17x又は第2断熱層18xの断面において、第1板17の合わせ面17b又は第2板18の合わせ面18bに沿う方向の長さが1〜20mmであることが好ましい。また、第1断熱層17x及び第2断熱層18xは同じ寸法に形成されることが好ましい。
第1断熱層17x及び第2断熱層18xは、例えば、セラミック材料を所定の形状に成形することにより、作製できる。成形方法には、例えば、CIP成形、押出し成形、プレス成形、加圧鋳込み成形等がある。
【0052】
[第3工程]
第3工程では、溶接端面15を含む溶接領域に向けてアーク放電することにより、溶接領域を溶融させ、負極集電体10と負極リード13とをアーク溶接する。
具体的には、負極板1の端面1aと負極リード13の端面13aとからなる溶接端面15に対して、垂直な方向に、図示しないアーク溶接用電極を配置する。そして、アーク溶接用電極の溶接トーチから矢符16の方向にエネルギーを照射する。溶接トーチから照射されるエネルギーは、溶接端面15に照射される。これにより、溶接端面15を含む溶接領域が均一に溶融した後、固化して合金層が形成される。
【0053】
アーク溶接用電極を所定の間隔で負極板1の幅方向に移動させ、アーク溶接を行ってもよい。これにより、図2に示すリチウムイオン電池20に備わる負極22が得られる。負極22は、複数の合金層19を備えている。また、アーク溶接用電極を負極板1の幅方向に移動させながら、連続的にアーク溶接を行ってもよい。これにより、負極板1の長手方向の一端部のほぼ全域において、負極板1の幅方向に延びる合金層19が形成される。アーク溶接を実施すると、負極集電体10と負極リード13との任意の箇所に、合金層19を容易に形成できる。
【0054】
アーク溶接法の中でも、プラズマ溶接法及びTIG(Tungsten Inert Gas)溶接法が好ましい。合金層19内での元素の均一分散性等を考慮すると、プラズマ溶接法が特に好ましい。合金層19内で元素が均一に分散するほど、合金層19による負極集電体10と負極リード13との接合性及び導通性が向上するものと推測される。プラズマ溶接及びTIG溶接は、それぞれ、市販されているプラズマ溶接機及びTIG溶接機を用いて実施される。
【0055】
プラズマ溶接は、例えば、溶接電流値、溶接速度(溶接トーチの移動速度)、溶接時間、プラズマガス及びシールドガスの種類とその流量等の条件を適宜選択して実施できる。これらの条件を選択することにより、生成する合金層19による負極集電体10と負極リード13との接合性及び導通性を制御できる。
【0056】
溶接電流値は、例えば、1A〜100Aである。溶接トーチの掃引速度は、例えば、1mm/秒〜100mm/秒である。プラズマガスには、アルゴンガス等を使用できる。プラズマガス流量は、例えば、10ml/分〜10リットル/分である。シールドガスには、アルゴン、水素等を使用できる。シールドガス流量は、例えば、10ml/分〜10リットル/分である。
【0057】
なお、アーク溶接の溶接条件によっては、合金層19の内部に、薄膜状負極活物質層11の一部が溶融せずにそのまま残存することがある。しかし、アーク溶接で合金層19を形成する限り、合金層19内部に残存する薄膜状負極活物質層11が、合金層19による負極集電体10と負極リード13との接合性及び導通性を実用範囲よりも低下させることはない。
【0058】
一方、アーク溶接に代えて抵抗溶接を実施した場合には、負極集電体10や負極リード13等には電流が流れるが、薄膜状負極活物質層11が合金系活物質を含有することにより、薄膜状負極活物質層11には電流が流れない。したがって、負極集電体10と薄膜状負極活物質層11との界面において、負極集電体10の一部が局所的に溶融することがある。また、薄膜状負極活物質層11と負極リード13との接触箇所において、負極リード13の一部が局所的に溶融することがある。しかしながら、負極集電体10から薄膜状負極活物質層11を介して負極リード13に至る領域が溶融することはない。超音波溶接を実施しても、抵抗溶接を実施した場合と同様である。
【0059】
すなわち、抵抗溶接及び超音波抵抗では、負極集電体10及び/又は負極リード13が局所的に溶融するのみであり、薄膜状負極活物質層11は溶融しない。したがって、負極集電体10と負極リード13とを接合することはできない。外観上は接合しているように見えても、電池の組立て時等には断線が生じ易い。
【0060】
第1実施形態の製造方法では、薄膜状負極活物質層11が珪素系活物質を含有する場合、第1工程と第2工程との間に、薄膜状負極活物質層11にリチウムを吸蔵させる工程(以下「リチウム吸蔵工程」とする)を設けるのが好ましい。これにより、第3工程で得られる合金層19内部における合金の均一分散性がより一層向上する。
【0061】
また、リチウム吸蔵工程を設けると、リチウム吸蔵工程を設けない場合に比べて、合金層19の形状の均一性を損なうことなく、また、捲回型電極群を作製する際の支障にならない程度に、合金層19の寸法を大きくすることができる。これにより、合金層19の負極集電体10及び負極リード13との接触面積が大きくなる。その結果、合金層19による負極集電体10と負極リード13との接合性及び導通性がより一層向上する。
【0062】
薄膜状負極活物質層11へのリチウムの吸蔵は、例えば、真空蒸着法、電気化学的な方法、薄膜状負極活物質層11表面へのリチウム箔の貼着等により実施される。例えば、真空蒸着法によれば、真空蒸着装置のターゲットに金属リチウムを装着し、真空蒸着を行うと、薄膜状負極活物質層11にリチウムが吸蔵される。リチウムの吸蔵量は特に制限されないが、薄膜状負極活物質層11の不可逆容量分のリチウムを吸蔵させるのが好ましい。
【0063】
第1実施形態の製造方法によれば、合金系活物質を含有する薄膜状負極活物質層を備える負極を効率よくかつ工業的に有利に製造できる。また、第1実施形態の製造方法では、第3工程で合金化が起こることから、負極集電体と負極リードとの接合温度を低くすることができる。この面でも、第1実施形態の製造方法は、工業的に有利である。
なお、本実施形態の製造方法では、第1断熱層17x及び第2断熱層18xの形状及び寸法を、それぞれ同じにしているが、それに限定されず、異なる形状又は寸法にしてもよい。
【0064】
図2は、本発明の第2実施形態であるリチウムイオン電池20の構成を模式的に示す縦断面図である。リチウムイオン電池20は、本発明の第1実施形態の製造方法により得られた負極22を含む以外は、従来のリチウムイオン電池と同様の構成を有することができる。
【0065】
本実施形態のリチウムイオン電池20は、負極22を含むことにより、高容量及び高出力を有し、出力特性、サイクル特性等の電池性能に優れている。また、負極22においては、合金層19により、負極板1(負極集電体10)と負極リード13とが強固にかつ導通性良く接合されている。これにより、負極22の集電性能、出力特性等が長期にわたって高水準で維持される。したがって、本実施形態のリチウムイオン電池20は耐用寿命が長い。
【0066】
リチウムイオン電池20は、捲回型電極群21と、捲回型電極群21の長手方向の両端にそれぞれ装着される上部絶縁板24及び下部絶縁板25と、捲回型電極群21等を収容する電池ケース26と、封口板28により支持される正極端子27と、電池ケース26を封口する封口板28と、図示しない非水電解質とを含む。
【0067】
捲回型電極群21の長手方向の両端部に上部絶縁板24及び下部絶縁板25を装着し、これを電池ケース26に収容する。このとき、正極21の正極リード31及び負極22の負極リード13が、それぞれ所定の箇所に接続される。電池ケース26内に非水電解質を注液する。次に、電池ケース26の開口部分に、正極端子27を支持する封口板28を装着し、電池ケース26の開口端部を封口板28に向けてかしめ付ける。これにより、電池ケース26が封口され、リチウムイオン電池20が得られる。
【0068】
捲回型電極群21は、帯状の正極21と、帯状の負極22と、帯状のセパレータ23と、備える。捲回型電極群21は、例えば、正極21と負極22との間にセパレータ23を介在させ、その長手方向の一端部を捲回軸にして捲回することにより得られる。本実施形態では、捲回型電極群21を使用するが、それに限定されず、正極21と負極22との間にセパレータ23を介在させて積層した積層型電極群を使用してもよい。
【0069】
正極21は、正極板30と、正極リード31と、を備える。正極板30は、正極集電体と、正極活物質層と、を備える。
正極集電体には、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属材料からなる、多孔性又は無孔の導電性基板を使用できる。
【0070】
多孔性導電性基板には、メッシュ体、ネット体、パンチングシート、ラス体、多孔質体、発泡体、不織布等がある。無孔の導電性基板には、箔、フィルム等がある。導電性基板の厚さは特に制限されないが、通常は1〜500μm、好ましくは1〜50μm、さらに好ましくは10〜30μmである。
【0071】
正極活物質層は、本実施形態では正極集電体の厚さ方向の両方の表面に設けられているが、それに限定されず、正極集電体の厚さ方向の片方の表面に設けられてもよい。正極活物質層は、正極活物質を含み、さらに導電剤、結着剤等を含んでもよい。
正極活物質としては、リチウム含有複合金属酸化物、オリビン型リン酸リチウム等が好ましい。
【0072】
リチウム含有複合金属酸化物は、リチウムと遷移金属元素とを含む金属酸化物又は前記金属酸化物中の遷移金属元素の一部が異種元素によって置換された金属酸化物である。遷移金属元素には、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Cr等があり、Mn、Co、Ni等が好ましい。異種元素には、Na、Mg、Zn、Al、Pb、Sb、B等があり、Mg、Al等が好ましい。遷移金属元素及び異種元素は、それぞれ1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0073】
リチウム含有複合酸化物には、LilCoO2、LilNiO2、LilMnO2、LilComNi1-m2、LilCom1-mn、LilNi1-mmn、LilMn24、LilMn2-mn4(前記各式中、AはSc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Cr、Na、Mg、Zn、Al、Pb、Sb及びBよりなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を示す。0<l≦1.2、m=0〜0.9、n=2.0〜2.3である。)等がある。
【0074】
オリビン型リン酸リチウムには、LiXPO4、Li2XPO4F(前記各式中、XはCo、Ni、Mn及びFeよりなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を示す。)等がある。前記した各種の正極活物質において、リチウムのモル比は正極活物質作製直後の値であり、充放電により増減する。
正極活物質は1種を単独で使用でき又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0075】
導電剤には、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛等のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類、炭素繊維、金属繊維等の導電性繊維、アルミニウム等の金属粉末類、フッ化カーボン等がある。導電剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0076】
結着剤には、樹脂材料を使用できる。樹脂材料には、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリビニルピロリドン、スチレンブタジエンゴム、変性アクリルゴム、カルボキシメチルセルロース、2種類以上のモノマー化合物を含有する共重合体等がある。
【0077】
前記モノマー化合物には、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、アクリル酸、ヘキサジエン等がある。
結着剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0078】
正極活物質層は、例えば、正極合剤スラリーを正極集電体表面に塗布し、得られた塗膜を乾燥し、圧延することにより形成できる。正極合剤スラリーは、正極活物質及び導電剤、結着剤等を有機溶媒に溶解又は分散させることにより調製できる。有機溶媒には、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアミン、アセトン、シクロヘキサノン等を使用できる。
【0079】
正極リード31は、抵抗溶接、超音波溶接等により、一端が正極集電体の集電体露出部に接続され、他端が正極端子27に接続される。正極リード31の材質は、アルミニウム、アルミニウム合金等である。アルミニウム合金には、アルミニウム−珪素合金、アルミニウム−鉄合金、アルミニウム−銅合金、アルミニウム−マンガン合金、アルミニウム−マグネシウム合金、アルミニウム−亜鉛合金等がある。
【0080】
負極22は、負極板1と、負極リード13と、複数の合金層19と、を備える。負極22は、本発明の第1実施形態の製造方法により作製された負極である。
【0081】
セパレータ23は、正極21と負極22との間に介在するように配置される。セパレータ23には、所定のイオン透過度、機械的強度、絶縁性等を併せ持つシートを使用できる。セパレータ23には、微多孔膜、織布、不織布等の、細孔を有する多孔質シートを使用するのが好ましい。セパレータ23の材料には各種樹脂材料を使用できるが、耐久性、シャットダウン機能等を考慮すると、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましい。
【0082】
セパレータ23の厚さは、通常10〜300μm、好ましくは10〜30μm、さらに好ましくは10〜25μmである。また、セパレータ23の空孔率は好ましくは30〜70%、さらに好ましくは35〜60%である。空孔率とは、セパレータ23の体積に対する、セパレータ23が有する細孔の総容積の百分率である。
【0083】
セパレータ23には、リチウムイオン伝導性を有する液状非水電解質が含浸される。液状非水電解質は、溶質(支持塩)と非水溶媒とを含み、添加剤を含んでもよい。
溶質には、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、LiBCl、ホウ酸塩類、イミド塩類等がある。溶質は、好ましくは0.5〜2モル/Lの濃度で非水溶媒に溶解される。
【0084】
非水溶媒には、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル等がある。環状炭酸エステルには、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート等がある。鎖状炭酸エステルには、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート等がある。環状カルボン酸エステルには、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等がある。非水溶媒は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0085】
添加剤には、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ジビニルエチレンカーボネート等の充放電効率を向上させる添加剤、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、ジフェニルエーテル等の電池を不活性化する添加剤等がある。添加剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0086】
上部絶縁板24、下部絶縁板25及び封口板28は、電気絶縁性材料、好ましくは樹脂材料又はゴム材料を所定の形状に成形することにより、作製される。電池ケース26は長手方向の一方の端部に開口を有する、有底円筒状部材である。電池ケース26及び正極端子27は、鉄、ステンレス鋼等の金属材料を所定の形状に成形することにより、作製される。また、金属材料からなる封口板を用い、ガスケットを介して封口板を電池ケースの開口に装着し、電池ケースの開口端部を封口板に向けてかしめ付けて、電池ケースを封口してもよい。この場合、正極リードの他端は、封口板に接続される。
【0087】
本実施形態では、リチウムイオン電池20は、捲回型電極群21を含む円筒形電池であるが、それに限定されず、種々の形態を採ることができる。その具体例としては、角形電池、扁平電池、コイン電池、ラミネートフィルムパック電池等が挙げられる。また、捲回型電極群21に代えて、積層型電極群、扁平状電極群等を用いてもよい。
【実施例】
【0088】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明を具体的に説明する。
(実施例1)
(1)正極活物質の作製
NiSO4水溶液に、Ni:Co=8.5:1.5(モル比)になるように硫酸コバルトを加えて金属イオン濃度2mol/リットルの水溶液を調製した。この水溶液に撹拌下、2mol/リットルの水酸化ナトリウム水溶液を徐々に滴下して中和することにより、Ni0.85Co0.15(OH)2で示される組成を有する三元系の沈殿物を共沈法により生成させた。この沈殿物をろ過により分離し、水洗し、80℃で乾燥し、複合水酸化物を得た。
【0089】
得られた複合水酸化物を大気中にて900℃で10時間加熱して熱処理を行い、Ni0.85Co0.152で示される組成を有する複合酸化物を得た。ここでNi及びCoの原子数の和とLiの原子数とが等量になるように水酸化リチウム1水和物を加え、大気中にて800℃で10時間加熱して熱処理を行うことにより、LiNi0.85Co0.152で示される組成を有するリチウムニッケル含有複合金属酸化物を得た。こうして、二次粒子の体積平均粒径が10μmの正極活物質を得た。
【0090】
(2)正極の作製
上記で得られた正極活物質の粉末93g、アセチレンブラック(導電剤)3g、ポリフッ化ビニリデン粉末(結着剤)4g及びN−メチル−2−ピロリドン50mlを充分に混合して正極合剤スラリーを調製した。この正極合剤スラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔(正極集電体)の両面に塗布し、乾燥し、圧延して、片面あたり厚さ50μmの正極活物質層を形成し、56mm×205mmの正極板を作製した。この正極板の両面の正極活物質層の一部(56mm×5mm)を切除し、正極集電体露出部を形成し、アルミニウム製正極リードを超音波溶接により溶接し、正極を作製した。
【0091】
(3)負極板の作製
図3は、電子ビーム式蒸着装置40の構成を模式的に示す側面図である。図3では、蒸着装置40の内部の部材を実線で示している。真空チャンバー41は耐圧性容器であり、その内部に、搬送手段42、ガス供給手段48、プラズマ化手段49、シリコンターゲット50a、50b、遮蔽板51及び図示しない電子ビーム発生装置を収容する。
【0092】
搬送手段42は、巻き出しローラ43、キャン44、巻き取りローラ45及び案内ローラ46、47を含む。巻き出しローラ43には、帯状負極集電体10が捲き付けられる。帯状負極集電体10は、案内ローラ46、キャン44及び案内ローラ47を経由して搬送され、負極板1として巻き取りローラ45に巻き取られる。
【0093】
帯状負極集電体10がキャン44の表面を搬送される際に、帯状負極集電体10の表面に珪素の蒸気が供給される。珪素の蒸気はキャン44内部の図示しない冷却手段により冷却されて帯状負極集電体10の表面に析出し、ベタ膜である薄膜状負極活物質層11が形成される。珪素の蒸気は、シリコンターゲット50a、50bに、電子ビーム発生装置から電子ビームを照射することにより生成する。
【0094】
ガス供給手段48は、原料ガスを真空チャンバー41内に供給する。原料ガスが酸素である場合、珪素の蒸気と酸素との混合物が帯状負極集電体10の表面に供給され、珪素酸化物を含有する薄膜状負極活物質層11が形成される。ガス供給手段48が原料ガスを供給しない場合は、珪素を含有する薄膜状負極活物質層11が形成される。プラズマ化手段49は、原料ガスをプラズマ化する。帯状負極集電体10表面の薄膜状負極活物質層11の形成状況に応じて、遮蔽板51の水平方向の位置が調整される。
【0095】
蒸着装置40を用いて、下記の条件で、帯状負極集電体10の両方の表面に、厚さ5μmの薄膜状負極活物質層(シリコン薄膜)を形成し、負極板を作製した。
真空チャンバー内の圧力:8.0×10-5Torr
帯状負極集電体:粗面化処理した電解銅箔(古河電工(株)製)
帯状負極集電体の巻き取りローラによる巻き取り速度:2cm/分
【0096】
原料ガス:供給せず。
シリコンターゲット:純度99.9999%のシリコン単結晶(信越化学工業(株)製)
電子ビームの加速電圧:−8kV
電子ビームのエミッション:300mA
【0097】
(4)リチウムの蒸着
得られた負極板を58mm×210mmに裁断した。この負極板を、タンタル製ボードと薄膜状負極活物質層とが対向するように、抵抗加熱蒸着装置((株)アルバック製)内に固定した。タンタル製ボードには、リチウム金属を装填した。抵抗加熱蒸着装置内にアルゴン雰囲気を導入し、タンタル製ボートに50Aの電流を通電し、薄膜状負極活物質層にリチウムを蒸着した。蒸着時間は10分であった。これにより、初回充放電時に蓄えられる不可逆容量分のリチウムを薄膜状負極活物質層に補填した。
【0098】
(5)溶接治具の作製
寸法100mm×40mm×10mmの銅板の長手方向の一端面(第1板又は第2板の一端面になる面)から厚さ方向の一方の表面(第1板又は第2板の合わせ面になる面)にかけて、銅板の厚さ方向の断面寸法が1mm(一端面に沿う方向の長さ)×4mm(合わせ面に沿う方向の長さ)である切欠きを形成した。このような銅板を2枚作製し、それぞれの切欠きに、寸法100mm×1mm×4mmのアルミナ板(第1断熱層及び第2断熱層)を装着し、第1板及び第2板を作製した。こうして、図1に示す一組の溶接治具を作製した。なお、第1板と第2板とをそれぞれの合わせ面で重ね合せた時、第1断熱層表面と第2断熱層表面とがほぼ完全に重なり合わさっていた。
【0099】
(6)負極リードの作製
銅箔(商品名:HCL−02Z、日立電線(株)製)を裁断し、幅5mm、長さ70mm、厚さ26μmの負極リードを作製した。
【0100】
(7)負極リードの接合
前記で得られた負極板の長手方向の一端面と、前記で得られた負極リードの幅方向の一端面とが、連続した1つの平面になり、平坦な溶接端面が形成されるように、負極板と負極リードとを重ね合せた。溶接端面に垂直な方向を鉛直方向に一致させ、溶接端面が鉛直方向上方を臨むように配置した。これらを、前記で得られた一組の溶接治具で挟持し、さらに単軸ロボット((株)アイエイアイ製)で固定した。このとき、負極リードの幅方向の長さが5mmであるから、負極リード表面は、幅方向において4mmの長さで第1断熱層表面に接触し、1mmの長さで第1板の合わせ面に接触していた。
【0101】
次に、プラズマ溶接機(商品名:PW−50NR、小池酸素工業(株)製)を、溶接端面の鉛直方向上方に配置した。このプラズマ溶接機のトーチから、溶接端面に対して垂直にエネルギーを照射した。トーチを負極板の幅方向に等間隔で移動させた。トーチを停止させた箇所において、溶接端面に下記の条件でエネルギーを照射し、合金層を形成し、負極を作製した。
【0102】
電極棒:径1.0mm
電極ノズル:径1.6mm
トーチ距離:2.0mm
トーチ掃引速度:30mm/s
【0103】
プラズマガス:アルゴン
プラズマガス流量:100(sccm)
シールドガス:水素、アルゴン
シールドガス流量(水素):500(sccm)
シールドガス流量(アルゴン):1(slm)
溶接電流:8.0A
【0104】
プラズマ溶接後に、自然放冷し、溶接端面を走査型電子顕微鏡(商品名:3Dリアルサーフェースビュー、(株)キーエンス製)で観察した。その結果、負極集電体と負極リードとの間に複数の合金層が形成されていることが確認された。また、負極板の厚さ方向における合金層の断面において、最大厚さは0.2mmであり、プラズマ溶接前の負極板と負極リードとの合計厚さ0.17mmに比べて、厚さの増加分は0.03mmであった。合金層の断面形状は、ほぼ長方形に近い形状であり、局所的な突出部分は存在しなかった。
【0105】
走査型電子顕微鏡(3Dリアルサーフェースビュー)にエネルギー分散型X線分析装置(商品名:Genesis XM2、EDAX社製)を装着し、合金層の断面の銅及び珪素の元素マップを調べた。その結果、合金層断面のほぼ全領域に、銅及び珪素が存在していた。また、エネルギー分散型X線分析装置(Genesis XM2)により、合金層の所定の部分で銅と珪素との元素モル比率を測定した結果、銅が90モル%、珪素が10モル%であった。これらの結果から、銅中に珪素が拡散し、合金を形成していることが判った。
【0106】
合金層の断面を、微小部X線回折装置(商品名:RINT2500、理学電機(株)製)により定性分析した。その結果、合金層から、銅のピーク及びCu5Siのピークが同定された。したがって、合金層には、Cu5Si合金が含まれていることが判った。
【0107】
さらに、合金層の断面について、オージェ電子分光装置(商品名:MODEL670、ULVAC PHI社製)によりリチウムの元素マップを調べた。合金層の断面の周縁部には、合金層の断面に比べて寸法が非常に小さい薄膜状負極活物質層の断面及びシリコン層の断面が存在した。薄膜状負極活物質層は、溶融せずに残存した部分である。前記シリコン層は、1度溶融して、合金化せずに再凝固した部分である。これらの断面にはリチウムが存在したが、銅及び銅合金の断面にはリチウムは存在しなかった。
以上の分析結果から、合金層には、銅と、Cu5Siを含む銅−シリコン合金とが存在し、合金層断面の周縁部にはシリコンとリチウムが存在することがわかった。
【0108】
(6)電池の作製
上記で得られた正極と負極との間にポリエチレン微多孔膜(セパレータ、商品名:ハイポア、厚さ20μm、旭化成イーママテリアルズ(株)製)を介在させて捲回し、捲回型電極群を作製した。正極リードの他端をステンレス鋼製正極端子に溶接し、負極リードの他端を有底円筒形の鉄製電池ケースの底部内面に接続した。捲回型電極群の長手方向の一端部及び他端部に、それぞれ、ポリエチレン製の上部絶縁板及び下部絶縁板を装着し、電池ケース内に収容した。
【0109】
次に、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとを体積比1:1の割合で含む混合溶媒に、LiPF6を1.0mol/Lの濃度で溶解させた非水電解液を電池ケースに注液した。さらに、電池ケースの開口に、ポリエチレン製のガスケットを介して封口板を装着し、電池ケースの開口端部を内側にかしめて電池ケースを封口し、円筒型リチウムイオン電池を作製した。
【0110】
(比較例1)
溶接治具として、第1断熱層及び第2断熱層が設けられていない寸法100mm×40mm×10mmの銅板である第1板及び第2板からなる一組の溶接治具を用い、下記のようにして負極を作製する以外は、実施例1と同様にして、円筒型リチウムイオン電池を作製した。
【0111】
[負極の作製]
実施例1と同様にして作製されかつリチウム蒸着を行った負極板と、実施例1と同様にして得られた負極リードとを重ね合わせて配置し、前記の溶接治具の第1板と第2板との間に挟持した。このとき、負極板の長手方向の一端面と負極リードの幅方向の一端面とが1つの連続した平面である溶接端面を形成し、溶接端面が鉛直方向上方を臨むようにした。また、溶接端面が、第1板及び第2板の鉛直方向上方を臨む端面よりも、鉛直方向上方に0.5mm突出するようにした。この溶接端面に対して、実施例1と同様にしてプラズマ溶接を行い、負極を作製した。
【0112】
プラズマ溶接後に、自然放冷し、溶接端面を走査型電子顕微鏡(商品名:3Dリアルサーフェースビュー)で観察した。その結果、プラズマ溶接の負極板の厚さ方向における合金層の断面において、最大厚さは0.95mmであり、プラズマ溶接前の負極板と負極リードとの合計厚さ0.17mmに比べて、厚さの増加分は0.78mmであった。合金層の断面形状は、全体がほぼ半円に近い形状であり、負極板の表面に比べると比較的大きく突出していた。
【0113】
(比較例2)
負極リードの負極集電体への接合方法をプラズマ溶接から抵抗溶接に変更して負極を作製する以外は、実施例1と同様にして円筒型リチウムイオン電池を作製した。なお、負極の作製は次のようにして実施した。
【0114】
[負極の作製]
まず、実施例1と同様にして得られた負極板と銅箔製の負極リード(幅4mm、長さ70mm、厚さ100μm)とを、負極板の長手方向の端面と負極リードの幅方向の端面とが1つの連続した平面になるように隣接配置した。これらの負極板及び負極リードを、先端径2mmの電極棒で挟持し、抵抗溶接機(ミヤチテクノス(株)製)を用いて、電流値を1.3kAに設定してスポット溶接を行い、負極を作製した。
【0115】
(試験例1)
実施例1及び比較例1〜2で得られた負極について、下記の評価試験を実施した。
【0116】
[負極集電体と負極リードとの接合強度]
実施例1及び比較例1〜2で得られた負極について、負極集電体と負極リードとの接合強度を、負極集電体の負極リードに対する引張強度として測定した。図4は、負極リード13の負極集電体10に対する引張強度を測定するための試料65の作製方法を示す斜視図である。図5は、負極リード13の負極集電体10に対する引張強度の測定方法を示す斜視図である。
【0117】
図4(a)に示すように、まず、負極リード13の長さが、負極板1の幅と同じになるように、負極リード13を切断した。次に、負極板1の長さが、負極リード13が接合されている端部から30mmになるように、負極板1を切断した。このとき、接合幅dを測定した。接合幅dは、負極板1の幅方向の合金層19の長さである。
【0118】
図4(a)のように複数の合金層19が所定の間隔を空けて形成された場合、接合幅dは、負極板1の幅方向の一端に形成された合金層19から、他端に形成された合金層19までの長さである。この場合、一端及び他端に形成された合金層19の長さを、接合幅dに含めている。実施例1及び比較例1〜2で得られた負極では、接合幅dは30mmであった。引き続き、図4(b)に示すように、負極リード13を負極板1から剥がすように、矢符66の方向に折り返し、引張強度測定用の試料65を作製した。
【0119】
前記で得られた試料65を用い、図5に示す測定方法により、引張強度を測定した。万能試験機((株)島津製作所製)70の下部固定治具71に、負極板1の合金層19が形成されていない側の端部を挟んで固定し、上部固定治具72に負極リード13の合金層19が形成されていない側の端部(折り返し側の端部)を挟んで固定した。
【0120】
室温25℃にて、上部固定治具72を5mm/分の速度で矢符73の方向に移動させて負極リード13を引っ張った。そして、負極板1と負極リード13との接合部分(合金層19)が破断したときの引張強度(N)を測定した。得られた引張強度の測定値と接合幅dの測定値とから、接合幅1mm当たりの引張強度(N/mm)を求めた。結果を表1に示す。
【0121】
[負極集電体と負極リードとの導通性]
実施例1及び比較例1〜2で得られた負極について、次のようにして負極集電体と負極リードとの接合抵抗を測定した。負極リード近傍の薄膜状負極活物質層を、サンドペーパーを用いて剥離した。次に、露出した負極集電体と負極リードとの接合抵抗を、ミリオームメーター(商品名:ミリオームハイテスタ3540、日置電機(株)製)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0122】
【表1】

【0123】
表1における実施例1の結果から、合金層による負極集電体と負極リードとの接合により、負極集電体と負極リードとの間で、良好な接合性及び導通性が得られることがわかる。比較例1においても、負極集電体と負極リードとの間で、良好な接合性及び導通性が得られる。しかしながら、比較例1の合金層は、実施例1の合金層よりも形状が大きくなり、捲回型電極群を作製する際に、捲回型電極群の形状および寸法を規格内に調整するために、余分な労力を要した。
【0124】
さらに、比較例1の合金層を用いて電池を作製する際には、内部短絡等の不良が発生するのを抑制するための空間を電池内に設ける必要が生じる。これは、電池内の余分な空間を可能な限り排除する高密度設計及び高容量設計を実施する上で、不利である。
一方、抵抗溶接を実施した比較例2では、導通性を有する接合が出来なかったことが明らかである。このことから、抵抗溶接では、負極リードを負極集電体に接合できないことが判った。
【0125】
(試験例2)
実施例1及び比較例1〜2で得られたリチウムイオン電池について、下記の評価試験を実施した。
[サイクル特性]
実施例1及び比較例1〜2のリチウムイオン電池を、それぞれ20℃の恒温槽に収容し、以下のような定電流定電圧方式で、電池を充電した。
【0126】
各電池を、電池電圧が4.2Vになるまで1Cレート(1Cとは1時間で全電池容量を使い切ることができる電流値)の定電流で充電した。電池電圧が4.2Vに達した後は、電流値が0.05Cになるまで、各電池を4.2Vの定電圧で充電した。次に、20分間休止した後、充電後の電池を、1Cレートのハイレートの定電流で、電池電圧が2.5Vになるまで放電した。このような充放電を100サイクル繰り返した。
1サイクル目の全放電容量に対する、100サイクル目の全放電容量の割合を、百分率値で求めた。得られた値を、容量維持率として表2に示す。
【0127】
【表2】

【0128】
実施例1および比較例1の電池は、容量維持率が高く、良好なサイクル特性を有することが判った。一方、比較例1の電池は、通電することができず、抵抗が無限大となった。電池組立時にリードが薄膜状負極活物質層から剥がれて、通電不能となったと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明の負極の製造方法により得られる負極は、リチウムイオン電池の負極として好適に使用できる。また、本発明のリチウムイオン電池は、従来のリチウムイオン電池と同様の用途に使用でき、特に、携帯用電子機器の電源として有用である。携帯用電子機器には、例えば、パーソナルコンピュータ、携帯電話、モバイル機器、携帯情報端末(PDA)、携帯用ゲーム機器、ビデオカメラ等がある。また、本発明のリチウムイオン電池は、ハイブリッド電気自動車、電気自動車、燃料電池自動車等の主電源及び補助電源、電動工具、掃除機、ロボット等の駆動用電源、プラグインHEVの動力源等としての利用も期待される。
【符号の説明】
【0130】
1 負極
10 負極集電体
11 薄膜状負極活物質層
13 負極リード
14 溶接治具
15 溶接端面
17 第1板
17a 第1板の端面
17b 第1板の合わせ面
17x 第1断熱層
18 第2板
18a 第2板の端面
18b 第2板の合わせ面
18x 第2断熱層
20 リチウムイオン電池
40 電子ビーム式真空蒸着装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池用負極の製造方法であって、
集電体及び前記集電体の表面に形成される薄膜状負極活物質層を備え、前記薄膜状負極活物質層が合金系活物質を含有する負極板と、前記負極板に接続される負極リードとを準備する第1工程と、
第1板と第2板とから構成される一組の溶接治具の前記第1板と前記第2板との間に、前記薄膜状負極活物質層の表面と前記負極リードの表面とが重なり、且つ、前記負極板の端面と前記負極リードの端面とからなる溶接端面が露出するように、前記負極板と前記負極リードとを挟持する第2工程と、
前記溶接端面に向けてアーク放電することにより、前記溶接端面を含む、前記負極板および前記負極リードの溶接領域を溶融させてアーク溶接する第3工程と、を備え、
前記溶接治具は前記第1板と前記第2板との合わせ面に断熱層を有し、前記溶接領域は前記断熱層の表面で挟持されるリチウムイオン電池用負極の製造方法。
【請求項2】
前記断熱層は、前記溶接治具よりも熱伝導性の低い材料からなる請求項1に記載のリチウムイオン電池用負極の製造方法。
【請求項3】
前記溶接治具よりも熱伝導性の低い前記材料が、ZrO2、Al23、Si34、CaO及びSiO2よりなる群から選ばれる少なくとも1つの酸化物又は窒化物である請求項2に記載のリチウムイオン電池用負極の製造方法。
【請求項4】
前記断熱層の融点が、1500℃以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用負極の製造方法。
【請求項5】
前記負極リードは、ニッケル、ニッケル合金、銅及び銅合金よりなる群から選ばれる少なくとも1つの金属又は合金を含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用負極の製造方法。
【請求項6】
前記合金系活物質が、珪素系活物質である請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用負極の製造方法。
【請求項7】
前記アーク溶接がプラズマ溶接又はTIG溶接である請求項1〜6のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用負極の製造方法。
【請求項8】
正極集電体、前記正極集電体の表面に形成された正極活物質層及び前記正極集電体に接続された正極リードを備える正極と、
請求項1〜7のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用負極の製造方法により製造されたリチウムイオン電池用負極と、
前記正極と前記リチウムイオン電池用負極との間に介在するように配置されたセパレータと、
リチウムイオン伝導性非水電解質と、を備えるリチウムイオン電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−100643(P2011−100643A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254907(P2009−254907)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】