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リチウムイオン電池用負極材およびそれを用いたリチウムイオン二次電池
説明

リチウムイオン電池用負極材およびそれを用いたリチウムイオン二次電池

【課題】高可逆容量のリチウムイオン電池用負極材およびそれを用いたリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】カーボンナノチューブからなり、該カーボンナノチューブは、側壁に側壁を貫通していてもよい細孔を有し、その細孔は0.1nm〜30nmの範囲の細孔径分布を有し、かつBET比表面積が100〜4,000m/gである、リチウムイオン電池用負極材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン電池用負極材およびそれを用いたリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、経済的に長時間使用できる電池として、再充電可能な二次電池の研究が継続して行なわれており、特にリチウムイオン電池は、高出力、高エネルギー密度などの利点を有しており、リチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な活物質を有する正極と負極と、非水電解質とから構成されるのが通常である。
【0003】
このリチウムイオン電池の正極活物質としては、金属酸化物、金属硫化物またはポリマー等が用いられ、たとえばLiMO2(M=Co、Ni、Mn、Fe等)、LiMn24等のようなリチウム複合酸化物等が知られている。
【0004】
一方、負極活物質(負極材)の一つとして炭素材料が用いられ、優れた充放電サイクル特性が得られるが、CLiとした、その理論容量は372mA・h/gであるため、さらなる高容量を実現できる負極材が望まれている。
【0005】
炭素負極材としては、難黒鉛化性のハード系非晶質カーボン、メソフェーズ系球状・繊維状黒鉛、天然・人造グラファイト、等が知られており、カーボンナノチューブも検討された。カーボンナノチューブを含有する炭素質材料、更に酸化反応により一端を開烈させたカーボンナノチューブや金属イオン内包カーボンナノチューブを負極活物質に用いる非水電解液二次電池が知られている(特許文献1)。負極活物質として炭素原子6個からなる6角形が面上に並び、この面が円筒状の結晶構造、あるいは、多重の円筒状の結晶構造になっている黒鉛を用いる非水電解液二次電池が知られている(特許文献2)。これらの電池の容量は、特許文献1では400mAh/g、特許文献2では500−600mAhと記載されている。
【0006】
側壁にNiを被覆させ、多層カーボンナノチューブを短く裁断することによって577mAh/gの可逆容量が得られたことが報告されている(Adv. Funct. Mater. 2007, 17, 3613-3618)。負極活物質としての黒鉛に、導電助剤としてカーボンナノチューブを少量添加した負極が利用されている(特許文献3)。気相成長炭素繊維またはカーボンナノチューブを前駆体として得た繊維状黒鉛材料を黒鉛質材料に付着させた負極材料が知られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2526789号公報
【特許文献2】特許第3010861号公報
【特許文献3】特許第4252846号公報
【特許文献4】特許第4040606号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Adv. Funct. Mater. 2007, 17, 3613-3618
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のカーボンナノチューブは、比表面積が小さく、触媒微粒子との相互作用が弱い等の難点がある。そこで、本発明者は、先般、比表面積が大きく(望ましくはカーボンブラックと同等以上)、触媒微粒子との相互作用が強く、さらには細孔を壁面に有するCNT表面処理法を見出すべく、種々の検討を行ない、そのようなCNTを実現し得る方法を見出し、得られた改質CNT自体が燃料電池の空気極触媒に好適であることを見出した。
一方、従来のカーボンナノチューブを単独で、あるいは導電助剤等として黒鉛材料に添加した負極を用いたリチウムイオン二次電池の特性、特に充放電容量は400〜600mAh/gであり、高い容量を満たす二次電池を供給することができなかった。
【0010】
本発明者らは、得られた改質CNTのリチウムイオン二次電池の負極特性を調べたところ、意外にも従来のCNTを用いた負極やグラファイト層間化合物の理論容量から予想できない、極めて高い容量を実現し得ることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下の発明を提供する。
(1)カーボンナノチューブからなり、該カーボンナノチューブは、側壁に側壁を貫通していてもよい細孔を有し、その細孔は0.1nm〜30nmの範囲の細孔径分布を有し、かつBET比表面積が100〜4,000m/gである、リチウムイオン電池用負極材。
(2)カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブである上記(1)に記載のリチウムイオン電池用負極材。
(3)上記(1)または(2)に記載のリチウムイオン電池用負極材を用いてなるリチウムイオン二次電池。
(4)表面に金属酸化物又は金属硝酸塩の微粒子を担持させたカーボンナノチューブを、酸素を含む雰囲気中で100〜1,000℃の温度で加熱することを特徴とするリチウムイオン電池用負極材の製造方法。
(5)金属酸化物が酸化コバルト、酸化鉄、酸化バナジウム、酸化スズまたは酸化ニッケルであり、金属硝酸塩が硝酸コバルト、硝酸鉄、硝酸バナジウム、硝酸スズまたは硝酸ニッケルである、上記(4)に記載のリチウムイオン電池用負極材の製造方法。
(6)表面に金属酸化物又は金属硝酸塩の微粒子を担持させたカーボンナノチューブを、酸素を含む雰囲気中で100〜1,000℃の温度で加熱した後に、金属酸化物微粒子を酸処理により除去する上記(4)または(5)に記載のリチウムイオン電池用負極材の製造方法。
(7)表面に金属酸化物又は金属硝酸塩の微粒子を担持させたカーボンナノチューブを、酸素を含む雰囲気中で100〜1,000℃の温度で加熱した後に、金属酸化物微粒子を酸処理により除去した後に、さらに不活性ガス中または真空中で、500〜3,000℃の温度で熱処理する上記(6)に記載のリチウムイオン電池用負極材の製造方法。
(8)カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブである上記(4)〜(7)のいずれかに記載のリチウムイオン電池用負極材の製造方法。
(9)カーボンナノチューブを、その表面に金属酸化物又は金属硝酸塩の微粒子を担持させないで、酸素を含む雰囲気中で100〜1,000℃の温度で加熱した後に、酸処理することを特徴とするリチウムイオン電池用負極材の製造方法。
(10)加熱が空気中で100〜500℃の温度で行われる上記(9)に記載のリチウムイオン電池用負極材の製造方法。
(11)酸処理が硝酸および/または硫酸で行われる上記(9)に記載のリチウムイオン電池用負極材の製造方法。
(12)上記(4)〜(11)のいずれかに記載のリチウムイオン電池用負極材の製造方法で作製したリチウムイオン電池用負極材を用いてなるリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高容量のリチウムイオン電池用負極材、およびそれを用いたリチウムイオン二次電池を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(A)は多層カーボンナノチューブ(MWCNT)にCoO微粒子を担持させた模式図であり、(B)はCoO微粒子が触媒となり、MWCNTを開孔すること示す模式図であり、(C)は前記(B)でMWCNTに生じた開孔にCo微粒子が存在するMWCNT(Co/MWCNT)を示す模式図であり、(D)は前記(C)のCo/MWCNTを酸処理してCo微粒子を除去して得られた有孔(欠陥)MWCNT(DMWCNT)を示す模式図である。
【図2】CoOが酸素(O)による酸化でCoを生成する酸化反応と、生成したCoが炭素(C)による還元でCoOを生成する還元反応からなる酸化・還元サイクル反応の模式図である。
【図3】(a)はCoO微粒子を担持したMWCNTの透過型電子顕微鏡写真である。(b)は空気雰囲気中加熱処理してCo/MWCNTとした試料の透過型電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例1で得られたDMWCNTの透過型電子顕微鏡写真である。
【図5】図4の拡大透過型電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例1によるMWCNTとDMWCNTのBET比表面積を示す。
【図7】実施例1によるMWCNTとDMWCNTの細孔分布を示すグラフである。
【図8】実施例2で得られたDMWCNTの透過型電子顕微鏡写真である。
【図9】実施例3におけるCo/MWCNTとDMWCNTの熱重量分析の結果を示す。
【図10】実施例3における、a) 未処理MWCNTとb) DMWCNTの充放電曲線 (電流密度25mA/g)を示す。
【図11】実施例3における昇温脱離ガス分析の結果を示し、a) はCOガスの脱離スペクトル、b)は CO2ガスの脱離スペクトル酸素官能基の量を示す。
【図12】実施例3における電気化学測定によるリチウム貯蔵特性の解析において、a) はCOガスの脱離スペクトル、b) はCO2ガスの脱離スペクトルを示す。
【図13】実施例3におけるDMWCNTの充放電サイクル特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の1つの態様において、本発明のリチウムイオン電池用負極材は表面が改質されたカーボンナノチューブからなり、表面に金属酸化物又は金属硝酸塩の微粒子を担持させたカーボンナノチューブを、酸素を含む雰囲気中で100〜1,000℃の温度で加熱することにより得られる(製法I)。本発明において用いられるカーボンナノチューブは、六員環配列構造を主体とする炭素環構造(グラフェン層、グラファイト層)の炭素壁を部分的に侵食した細孔、そして或いは、炭素壁を貫通した細孔を有する。
【0015】
以下に、その製造方法を説明する。本発明においては、表面に金属酸化物または金属硝酸塩微粒子を担持させたカーボンナノチューブを、たとえば酸素または空気中の、酸素を含む雰囲気中で100〜1,000℃程度の温度で加熱する。これにより、金属酸化物の2つの状態、すなわち酸化状態と還元状態がサイクルする金属酸化物とCNTの炭素の固相反応によりCNT表面に細孔(すなわち、欠陥と呼ぶこともできる)を作製するものである。このサイクル反応では、表面に金属酸化物微粒子を担持させたCNT炭素による金属酸化物の還元と酸素による酸化反応が繰り返されて炭素が削られることにより細孔が形成されて、すなわち、金属酸化物が炭素と酸素の反応触媒として作用することによって、表面が改質された新たな物性を持つCNTが得られる。
【0016】
本発明で使用される金属酸化物は、カーボンナノチューブの炭素の酸化反応と、炭素による還元で生成した金属酸化物の酸化反応が繰り返される金属酸化物であればよい。また金属酸化物に容易に変化する金属硝酸塩を用いることもできる。このような金属酸化物としては、酸化コバルト、酸化鉄、酸化バナジウム、酸化スズ、酸化ニッケル等が挙げられるが、酸化コバルトが好ましい。一方、金属硝酸塩としては、硝酸コバルト、硝酸鉄、硝酸バナジウム、硝酸スズ、硝酸ニッケル等が挙げられるが、硝酸コバルトが好ましい。
【0017】
金属酸化物が酸化コバルトの場合の反応模式図を図1に示し、その酸化・還元サイクル反応の反応式を図2に示す。図1(A)は、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)にCoO微粒子を担持させた模式図であり、図1(B)はCoO微粒子が触媒となり、MWCNTを開孔すること示す模式図である。
【0018】
図1(C)は、(B)でMWCNTに生じた開孔にCo微粒子が存在するMWCNT(Co/MWCNT)を示し、(D)は、(C)のCo/MWCNTを酸処理してCo微粒子を除去することにより得られた、細孔を有する多層カーボンナノチューブ(DMWCNT)を示している。
【0019】
図2は、金属酸化物微粒子がCoO微粒子であり、CNTに担持させたCoO微粒子表面で起きる、酸素(O)によるCoOの酸化反応とCNTの炭素(C)によるCoの還元反応からなる酸化・還元サイクル反応を示している。
【0020】
この酸化・還元サイクル反応には、酸素の存在が必要であり、酸素を含む雰囲気中で加熱することにより、目的の反応を進行させることができる。酸素濃度を変えることによって、反応を制御することができ、改質の程度を調整できる。通常は、大気圧下に、空気雰囲気中で反応させればよい。反応温度は、100〜500℃、好ましくは200〜300℃である。反応温度が100℃より低いと反応に長時間を要し実際的でなく、500℃を超えるとCNTの消失が激しくなるので好ましくない。
【0021】
カーボンナノチューブとしては、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブや多層カーボンナノチューブが知られている。本発明で好適に用いられるCNTは、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)であるが、それに限定されるものではない。CNTとして、竹様の節がみられる、いわゆるバンブー型CNTを用いることもできる。カーボンナノチューブは、所望により、これを前処理により精製して用いてもよい。CNTの精製は、熱処理または酸処理により行うことができる。CNTの純度が十分に高い場合には精製は不要であるが、表面のアモルファスカーボン等の炭素屑を除去したいときは、500〜600℃程度で熱処理することが好ましい。この加熱温度は500℃より低いとアモルファスカーボンが除去できず、600℃より高いとCNTが過度に酸化されてしまうおそれがある。
【0022】
また、カーボンナノチューブ製造時に含まれる金属触媒等の不純物を除去したい場合は、酸処理によってこれを除去することができる。酸としては硫酸や硝酸等の金属触媒を溶解する酸を用いることができるが、濃硫酸を使用するとCNTが過度に酸化されるおそれがあるので、濃硝酸に硫酸を混合したものなどを使用することが好ましい。
【0023】
カーボンナノチューブ表面に金属酸化物微粒子を担持させる方法は特に制限されない。例えば、酸化コバルトについては、次の手順に従えばよい。
【0024】
[酸化コバルトの担持]
必要に応じて熱処理及び/または酸処理したCNTに、メタノール、エタノール等の溶剤を加え、超音波洗浄機で分散撹拌する。さらにスターラーで撹拌後、混合溶液に塩化コバルトCoCl・6HO水溶液を加える。これに、メタノール、エタノール等の溶剤、1Mのテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液を加え、混合溶液をスターラーで撹拌し、ろ過し、メタノール、エタノール等の溶剤で洗浄し、約60℃の真空乾燥炉で乾燥させ塩化コバルト担持CNTを得た後、この塩化コバルト担持CNTを空気中、あるいは必要に応じてアルゴン(Ar)等の不活性気体雰囲気下に、100℃から300℃で加熱することにより酸化コバルト(CoO)微粒子を担持したCNTを得ることができる。また、Ar雰囲気下に100〜500℃程度で加熱することにより、酸化コバルトを作製することができる。
【0025】
[硝酸コバルトの担持]
硝酸コバルトCo(NO・6HOとメタノール、エタノール等の溶剤を混合撹拌し、溶解させ、CNTを投入し、超音波洗浄機で分散させ、混合分散液を100℃に加熱し溶剤を蒸発させ、乾燥した試料を粉砕することにより硝酸コバルトCo(NO・6HOを担持させたCNT粉末を得ることができる。
【0026】
カーボンナノチューブ表面に担持させる金属酸化物および金属硝酸塩微粒子の粒子サイズは特に制限されないが、担持後の粒子サイズは条件にもよるが0.5nm〜数nm程度である。処理条件によるが、酸素を含む雰囲気中で熱処理を行うことで、反応後の粒子サイズは1nm〜数十nm程度である。
【0027】
[細孔(欠陥)の形成]
金属酸化物や金属硝酸塩を担持したカーボンナノチューブを空気中で熱処理することにより細孔(欠陥)を導入することができる。酸化コバルト、あるいは硝酸コバルトなどを担持したカーボンナノチューブを空気中で電気炉等を用いて比較的低温度で欠陥を導入できる。特に、硝酸コバルトを用いた場合は、200℃程度の低い温度で短時間の処理で、目的の細孔を有するカーボンナノチューブを得ることができる。
【0028】
反応後は、金属酸化物微粒子を酸処理により除去することができる。酸としては硫酸や硝酸等の金属酸化物を溶解する酸を用いることができる。
【0029】
酸処理後に、さらにアルゴン、窒素等の不活性ガス中または真空中で、500〜3,000℃程度の温度で熱処理して、細孔表面に形成された官能基を適宜に除去、制御することにより、燃料電池用空気極触媒にさらに好適な活性点を形成し得る。
【0030】
上記の方法によれば、カーボンナノチューブ骨格の結晶性を維持しながら、CNT表面に多数の欠陥(細孔)を形成することができる。この細孔は、六員環配列構造を主体とする炭素環構造(グラフェン層、グラファイト層)を有するCNTの炭素(壁)が部分的に失われて細孔(欠陥)を生じることにより形成されるものである。更に、この細孔は、CNTの炭素層(側壁)を部分的に、または完全に、貫通して形成されるものである。また、細孔の部分には酸素を含む官能基が形成される。
【0031】
上記の方法は、固体間で起きる固相反応を利用したものであり、細孔(欠陥)を生じさせる部分の制御が容易である。気相反応や液相反応では、CNTの全表面に均一に反応が起こるため制御しにくいが、固相反応を利用する本発明では、酸化物微粒子を担持したCNT表面部(局部)で反応を行うので制御が容易である。
【0032】
すなわち、CNTに担持させる金属酸化物或いは金属硝酸塩の微粒子サイズ、担持密度(濃度)及び反応雰囲気等の制御によって、細孔径、細孔の深さ、細孔の数や密度を変えることができ、様々な性質及び用途を持つDMWCNTを作り出すことができる。例えば、酸化還元サイクル反応の回数を増やすこと(反応時間を長くすること)によってCNTの壁の垂直方向に孔を開けることができ、さらにはその孔を利用して酸化物微粒子をCNTの内壁にも担持させて更に酸化還元サイクル反応を行うことによって内壁にも孔をあけることができる。また、金属酸化微粒子の担持密度を上げて、酸化還元サイクル反応を行えば金属酸化物微粒子と酸素の反応方向がCNTの壁と平行方向に制御され多層カーボンナノチューブ(MWCNT)の薄層化も可能である。
【0033】
本発明に用いられるCNTは、製造過程で用いられる金属が残存していてもよく、さらには目的に応じて少量の金属や窒素を含有させることを制限するものではない。
【0034】
本発明のリチウムイオン電池用負極材は上記のような製法Iにより作製されるのが最適であるが、さらに本発明のもう1つの態様においては、本発明のリチウムイオン電池用負極材は表面が改質されたカーボンナノチューブからなり、カーボンナノチューブを、その表面に金属酸化物又は金属硝酸塩の微粒子を担持させないで、酸素を含む雰囲気中で100〜1,000℃の温度で加熱した後に、酸処理することにより得られる(製法II)。すなわち、ここでは、製法Iと異なり、金属酸化物や金属硝酸塩を担持しないカーボンナノチューブが用いられる。
【0035】
加熱は、空気中で100〜500℃の温度で行われるのが好適であり、200〜300℃の温度で行われるのが最も好ましい。
【0036】
酸処理は硝酸および/または硫酸を用いて行われるのが好適であり、混酸が最も好ましい。
【0037】
本発明に用いられるCNTは、カーボンナノチューブが側壁に細孔を有し、その細孔は0.1nm〜30nm、好ましくは0.1nm〜10nm、の範囲の細孔径分布を実質的に有する。そして、このカーボンナノチューブは、BET比表面積100〜4,000m/g、実用的に好ましくは200〜1,500m/gを有し、未改質のカーボンナノチューブに比して、著しい比表面積の増大をもたらし得る。
【0038】
本発明のカーボンナノチューブはリチウムイオン電池の負極材の活物質として使用され得る。リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な活物質を有する正極と負極と、非水電解質、固体電解質、ポリマー電解質等の電解質とから構成される。たとえば、このようなリチウムイオン二次電池は、負極、負極を収容する負極缶、正極、正極を収容する正極缶、正極と負極との間に配置されたセパレータおよび絶縁ガスケットとを備え、負極缶および正極缶内には非水電解液が充填されてなる。負極は、負極集電体上に、負極活物質を含有する負極活物質層が形成されてなり、負極集電体としては、たとえばニッケル箔、銅箔等が用いられる。本発明の負極材は、負極活物質としてリチウムをドープ/脱ドープ可能であり、負極活物質層に含有される結合剤としては、この分野で公知の樹脂材料等を用いることができる。正極は、アルミニウム箔等の正極集電体上に、正極活物質層が形成されてなる。正極活物質としては、金属酸化物、金属硫化物またはポリマー等が用いられ、たとえばTiS2、MoS2、NbSe2、V25等のリチウム非含有化合物や、LiMO2(M=Co、Ni、Mn、Fe等)、LiMn24等のようなリチウム複合酸化物等が用いられ得る。正極活物質層に含有される結合剤としては、樹脂材料等を用いることができる。
【0039】
セパレータは、正極と負極とを離間させるものであり、たとえばポリプロピレンなどの高分子フィルムが用いられ、セパレータの厚みはたとえば50μm以下が好ましい。
【0040】
絶縁ガスケットは、負極缶に組み込まれ一体化されている。この絶縁ガスケットは、負極缶及び正極缶内に充填された非水電解液の漏出を防止するためのものである。
【0041】
非水電解液としては、非プロトン性非水溶媒に電解質を溶解させた溶液を用いる。非水溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ−ブチルラクトン、スルホラン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、2−メチルテトラヒドロフラン、3−メチル1,3−ジオキソラン、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等を使用することができるが、特に、電圧安定性の点からは、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート類を使用することが好ましい。また、このような非水溶媒は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0042】
また、非水溶媒に溶解させる電解質としては、例えば、LiPF6、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22等のリチウム塩を使用することができる。これらのリチウム塩の中でも、LiPF6、LiBF4を使用することが好ましい。
【0043】
固体電解質としては、窒化物系、酸化物系、硫化物系、酸化硫化物系などの無機固体リチウムイオン伝導体が使用できる。ポリマー電解質としては、例えば、ポリエチレンオキシド系、ポリエステル系、ポリアミン系、ポリスルフィド系のほか、これらの分岐や側鎖型ポリマー、架橋ポリエーテル、ポリエチレノキサイドとポリアクリル酸との共重合体、オルガノシロキサンとの共重合体、スルホン酸基を有するポリオルガノシロキサンやその共重合体、などの有機・無機リチウムイオン伝導体、マトリックスポリマーを電解質塩で膨潤させたゲル電解質などの固体もしくはゲル電解質が使用できる。
【0044】
これらのリチウムイオン電池の組み立て自体は常法によることができ、その形状も円筒型、角型、コイン型、ボタン型等、特に限定されない。
【実施例】
【0045】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらは単なる例示であって、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0046】
実施例1
1)MWCNTの精製前処理
多層カーボンナノチューブ(MWCNT,アルドリッチ(Aldrich)社製)を、500℃で1時間、大気中で加熱して精製した。精製したMWCNTを1g秤量した。秤量したMWCNTを、濃硝酸(和光純薬工業製 硝酸含量69%)を40mLと2M硫酸(和光純薬工業製 硫酸含量97%)を40mLとの混合溶液を蓄えた処理槽に投入した。オイルバスを使用し、処理槽中のMWCNTを含む混合分散液を、120℃で4時間、撹拌しながら沸騰させ加熱した。1時間冷却後、MWCNTを含む混合分散液を、400mLになるように超純水で希釈し、さらに3時間撹拌した。MWCNTを含む混合分散液をろ過して、ろ紙上に残されたMWCNTを、200mLの超純水を使用して2回洗浄し、乾燥させ粉砕した。以下、上記の酸溶液による処理を施した後のMWCNTを、精製前処理済MWCNTとして参照する。
2)酸化コバルトの担持
0.05482gの硝酸コバルト(II)・六水和物Co(NO)・6HO(和光純薬工業製、純度99.5%)と100mLのエタノールをビーカーに入れ、2時間程度撹拌し溶解させた。精製前処理済MWCNT0.1mgを上記の溶液に投入し超音波洗浄機にて15分間処理し分散させた。分散液を100℃に加熱しエタノールを蒸発、乾燥させた試料を粉砕した。得られた粉末をAr雰囲気下、300℃で2時間加熱することによってコバルト酸化物微粒子をCNTに担持させた(CoO/MWCNT)。
3)細孔(欠陥)形成
CoO/MWCNT試料を適量取り、空気雰囲気中、250℃、6時間加熱処理した。加熱処理して得られた試料の透過電子顕微鏡(日立製 H8100)写真を図3に示す。図3からMWCNTの側壁を貫通した細孔ができており、チューブ内に酸化コバルト微粒子が侵入していることが判る。また、MWCNTの側壁を貫通しないで途中で留まっている酸化コバルトも認められる。貫通した、或いは貫通しない細孔の直径は、酸化コバルト微粒子のサイズに大略匹敵しており、0.1nm〜5nm程度である。
XRD分析は、空気中250℃で加熱後酸化コバルトの構造がCoOからCoに変化したことを示した。Co/MWCNT試料を40mLの2M HSOに投入し、3時間撹拌して酸処理することによりCoを除去し、細孔を有するカーボンナノチューブ(DMWCNT)を得た。このDMWCNTの透過電子顕微鏡写真を図4に、その拡大図を図5に示す。図4から、カーボンナノチューブの側壁に5nmから10nmの側壁を貫通した細孔が生成していることが明らかである。図5から、カーボンナノチューブの側壁に側壁を貫通しない細孔(グラフェン層が10数層)が生成していることがわかる。また、DMWCNT及びMWCNTについてBET比表面積を測定した。その結果、図6に示す通りMWCNTのBET比表面積は106m/gであるのに対し、DMWCNTのBET比表面積は152m/gであった。また、その細孔分布は図7に示した通りに、未処理のMWCNTと比べて、直径が5nm程度の細孔にピークを持つ分布となった。
実施例2
1)MWCNTの精製前処理
多層カーボンナノチューブとして気相法炭素繊維(VGCF(登録商標)−X 昭和電工株式会社製)を1g計量し、実施例1と同様に精製前処理を行った。
【0047】
2)硝酸コバルトの担持
硝酸コバルト(II)六水和物(和光純薬工業製 純度99.5%)を0.0551g計量し、200mLビーカーに硝酸コバルトとエタノール100mL、撹拌子を入れてスターラーの上に置き、撹拌した。精製前処理したMWCNTを0.1g計量し、ビーカーに入れ、超音波洗浄機で15分撹拌した。温度100℃に加熱し、エタノールを蒸発させ、真空乾燥した後、乳鉢ですりつぶした。
3)細孔(欠陥)形成
硝酸コバルトを担持したMWCNTを坩堝に入れ、電気炉(KDF−75 デンケン製)に入れた。電気炉を10分で室温から250℃まで昇温し、250℃で25分保持し、10分で250℃から室温まで温度を下げて、Co/MWCNT試料を得た。この試料(細孔MWCNT;DMWCNT)の透過電子顕微鏡写真を図9に示す。酸化物微粒子がDMWCNTのチューブ内に侵入した痕跡がはっきり見える。この痕跡は、カーボンナノチューブの側壁を貫通した細孔であり、細孔の直径は、ほぼ酸化物微粒子の直径に相当している。細孔の直径は、0.1nm〜10nm程度である。更に、酸化物微粒子がDMWCNTの側壁に留まっている場所があることもわかる。また、別の処理条件では、DMWCNTの側壁の厚さが薄くなっている、即ち、MWCNT側壁のグラフェン層を層に平行方向に削られる場合も判明した。
【0048】
100mLビーカーに2M硫酸40mLとCo/MWCNT試料、撹拌子を入れ、超音波洗浄器で、15分間処理、撹拌した。更に4時間撹拌した後、ろ過、超純水洗浄を2回繰り返した。真空乾燥炉(DP33 ヤマト科学製)で温度60℃、気圧0.1MPaで一晩乾燥させた。乾燥後、乳鉢に入れ15分すりつぶした。
【0049】
酸化物微粒子を除去したDMWCNT及び細孔(欠陥)形成をしない精製前処理のみのMWCNTについて比表面積を測定した。その結果、MWCNTは264m/gであるのに対して、本発明によるDMWCNTは374m/gであった。
実施例3
カーボンナノチューブとして、気相法炭素繊維(VGCF(登録商標)−X、昭和電工株式会社製)を用いた。
1)精製
まず、カーボンナノチューブ1g を焼成装置に投入し、空気の雰囲気下、約500℃の温度で1時間焼成した。これを0.5g測り取り、濃硝酸40mL と2M 硫酸40mLの混酸に加え、120℃で4 時間還流した。還流後、室温で1 時間攪拌し、さらに超純水を加えて総量を400mLにしたものを3 時間攪拌した。攪拌した後、0.5μm径のPTFE膜でろ過し、超純水400mLで洗浄して、真空乾燥炉で温度60℃、気圧0.1MPa で一晩乾燥した。この乾燥の後、乳鉢ですりつぶすことで、精製したカーボンナノチューブを得た(このプロセスで、アモルファスカーボンやFe 触媒などの不純物を取り除き、また表面官能基が形成されることによって親水性が増し、コバルトの担持に有利と考えられる。)。
2)硝酸コバルトの担持
精製したカーボンナノチューブ0.1g、硝酸コバルト6 水和物0.1235g をエタノール100mLに溶かし、スターラーを回転数300rpm、加熱温度100℃に設定し、エタノールを蒸発させた後、真空乾燥炉で温度60℃、気圧0.1kPa で一晩乾燥した。乾燥した後、乳鉢ですりつぶすことで、硝酸コバルトを坦持したカーボンナノチューブ(Co/MWCNT)を得た。
3)カーボンナノチューブ上の欠陥の形成
硝酸コバルトを坦持したカーボンナノチューブ(Co/MWCNT)をアルミナボートに入れ。電気炉(KDF−75 デンケン製)に投入した。空気雰囲気下、10分で室温から250℃まで昇温し、250℃で25分保持し、10分で250℃から室温まで温度を下げて、カーボンとコバルトが固相反応を生じさせ、欠陥のあるカーボンナノチューブ(Co/DMWCNT)を得た。このとき、大気はリークさせた。
4)酸化コバルトの除去)
カーボンナノチューブ単体のリチウム貯蔵特性を調べるためには担持したコバルトは不純物して働いてしまう。これを防ぐためにコバルトを濃硝酸で除去した。このコバルト除去処理の手順を以下に示す。
(1) 酸化コバルトを担持した欠陥のあるカーボンナノチューブ(Co/DMWCNT)100mg、濃
硝酸80mLの中へ投入する。ここで用いる濃硝酸は酸化処理に用いたものと同様のもの
とする。
(2) 還流管を取り付け、オイルバス内で120℃まで昇温する。
(3) 攪拌しながら、1時間保持する。
(4) 室温で1時間冷却する。
(5) 超純水で希釈して400[ml]の溶液を作製し、更に室温で3時間攪拌する。
(6) メンブレンフィルター(PTFE ADVANTEC H050A047A)で吸引濾過を行う。1回目
の濾過後、200[ml]の超純水で2回濾過を行い、酸を十分に取り除く。
(7) 真空乾燥炉(60℃,0.1kPa)で一晩乾燥させる。
(8) 乾燥後、乳鉢ですり潰しサンプル(DMWCNT)を得る。
5)熱重量分析(TG)
熱重量分析装置(thermogravimetry)は試料の温度を一定のプログラムによって変化させながら試料の質量を温度または時間の関数として測定する手法である。
水平差動型熱重量分析装置において、測定中に測定試料が重量変化を起こすと、サンプル側天秤ビームのみが傾き、この時のビームの動きを検出部により検出し、その信号をフィードバックすることにより、常にビームが水平を保つように駆動コイルが作動する。この時の駆動コイルに流れる電流は重量変化に比例するため、この制御電流変化を重量変化として計測することが可能となる。
サンプル側およびリファレンス側の試料ホルダに熱電対が組み込まれており、これらの信号が試料温度として計測される。
ここでは差動型示差熱天秤(Rigaku Thermo plus EVO II TG8120)を用いて作製したサンプルの熱的測定を行った。TGの測定条件は、次のとおりであった。
設定温度 800℃
昇温速度 10℃/分
流入ガス 空気ガス
ガス流量 100mL/分
図9にTGの測定結果を示す。縦軸は質量変化率、横軸は温度を示す。
コバルトが付いたMWCNTは図9から明らかに未処理のMWCNTより低い温度で酸化反応を起していることが分かる。つまり、MWCNTの壁を低い温で削ることができることを示唆している。
6)電池の充放電特性
(電極の組み立て)
充放電試験には2032型コインセル(宝泉(株))を用いて測定を行った。コインセルは、銅箔上に塗布したタイプのペースト電極を正極に,リチウム金属を対極にしたハーフセルを用いた。
ペースト状電極の作成方法は、活物質(MWCNT)に対し結着剤ポリビニリデンフッ化物 (PVDF 9200 MW)粉末 ((株)呉羽化学)を質量比率約92 : 8で秤量し、溶媒にN-メチルピロリドン(NMP) (和光純薬工業(株))を適量加え混合し、均一に活物質を分散させたペーストを作製した。正極側の集電体として厚さ20 μmの銅箔(宝泉(株))を使用し、活物質を含んだペーストを50 μmのドクターブレードを用いて塗布した。溶媒を蒸発させるため、120℃の真空乾燥機6時間で乾燥させた。乾燥した電極は、15.95 mmφで打ち抜き、試料が集電体からはがれないように40 MPaで圧着した(Riken Power, Riken Seiki Co.ltd mini press set CDM-5PA)。集電性を向上させるため塗布電極と正極缶の間に18 mmφの銅メッシュ(桂田グレイチング(株))を挟んだ。負極には16 mmφで打ち抜いた金属リチウム(本城金属(株))を使用し、セパレータは18 mmφで切り抜いた多孔質ポリプロピレンフィルム(「Celgard 」2500)を使用した。電解液はエチレンカーボネート(EC)とジエチレンカーボネート(DEC)を体積比3 : 7で混合した溶媒に支持電解質としてLiPF6を1 mol・dm-3の濃度で溶解した電解液(LiPaste 3E7DEC/PF1, 富山薬品工業(株))を使用した。電池の作製は金属リチウムを使用することや電解液に水分が混入した場合に抵抗成分増加の要因となることからアルゴン雰囲気のグローブボックス内にて行った。
(充放電測定)
作製したセルは電位を平衡状態に安定させるために一晩以上室内で放置してから充放電実験を行う。充放電実験は操作電位を0.02V−3.00V、電流密度を25mA/gに設定し、それぞれ5サイクルずつ定電流測定を行った。
図10は a) 未処理MWCNTとb) DMWCNTの充放電曲線 (電流密度25mA/g)を示す。リチウム挿入過程における、第1サイクルでは高い放電容量が確認された。しかし、2回目のサイクルにおいては放電容量が低下し、その後のサイクルではその値で一定となった。今回の可逆容量は5回目のサイクルにおける脱離容量で定義した。未処理MWCNTの可逆容量は334mAh/gであった。それに対し、DMWCNTの可逆容量は1049mAh/gであった。この値はグラファイトの理論容量の372mAh/gより約3倍高く、その理由としてDMWCNTのLi貯蔵に対して、欠陥や表面官能基が大きな影響を与えているからだと考えられる。
7)昇温脱離ガス分析(Thermal Desorption Spectroscopy:TDS)
昇温脱離ガス分析は,一定の速度で固体表面の温度を上昇させ、その時に脱離していく化学種による圧力変化や脱離化学種の量を測定することにより、固体表面の脱離種の同定やその吸着量、吸着状態、表面からの脱離過程などの情報を得る方法である。
固体表面への吸着現象は化学結合により吸着している化学吸着とファンデルワールス力による物理吸着に大別される。一般的には前者は表面との強い相互作用を持つため脱理しにくく、後者は脱理しやすいと言う特徴がある。カーボンナノチューブ表面に吸着している化学種は脱離温度や生成ガスが異なる。従って脱離温度と脱離ガスの種類を測定することにより、表面にどのような官能基が吸着しているかを知ることができる。
ここで用いた昇温脱離ガス測定装置では、高真空チャンバー内で赤外線により試料を加熱する。試料温度の上昇に伴い、試料表面から脱離、生成されるガスを四重極質量分析計により計測する。四重極質量分析計は4本のロッドが配置された測定装置である。このロッドの間には高周波の電場がかかっており、そのロッド内をイオン化ガスが透過できるかどうかは、周波数と電位により決定される。その原理を利用することにより、脱離ガスの中である特定ガスだけを検出することができる。四重電極質量分析計では4本のロッドを通過できる条件を入力しておき、短時間の間にロッドに掛ける電位を変化させることにより、複数のガスを同時に測定することも可能である。
ここでは電子科学株式会社製のEMD-WA1000S/Wを使用し、表面吸着官能基の分子定量測定を行った。TDSの測定条件は次のとおりであった。
設定温度 1100 ℃
昇温速度30 ℃/分
真空雰囲気 5.0×10-8 Pa
図11において、a) はCOガスの脱離スペクトル、b)は CO2ガスの脱離スペクトル酸素官能基の量を示し、そこから見積もられる容量は表1のとおりである。
【表1】

TDSの結果より、DMWCNTの酸素官能基の量が未処理MWCNTに比べて増加したことが示されている。カーボンの酸化はエッジサイトとデフェクトによる乱雑な構造だけでなく、エッジサイトへの官能基の導入にも起因する。これらの表面官能基、主にカルボニル基がLiイオンをC-OLiとして貯蔵されているLiの貯蔵に影響を与えると考えられてきた。Yang Shao-Hornらは、LBL MWCNTを用いた実験で、表面官能基の容量の性能に対する重要さを報告している。しかし、COとCO2のTDSより導出された酸素官能基の量がDMWCNTの高い容量を説明するには低すぎることから、表面官能基は単一の要因ではないと考えられる。
8)電気化学測定によるリチウム貯蔵特性の解析方法
定電流測定の結果から2種類のグラフを作製することでリチウム貯蔵特性について解析を行った。一つは縦軸を電圧V [V]、横軸を容量Q[mAh/g]としたグラフである。このグラフにより試料の可逆的なリチウム貯蔵容量と不可逆的なリチウム貯蔵容量を知ることが出来る。もう一つは縦軸を電圧dQ/dV[mAh/g・V]、横軸を電圧[V]としたV-dQ/dV曲線である。このグラフによりリチウムが貯蔵されていく際の挙動を知ることができる。カーボンナノチューブのdQ/dVのグラフには幾つかの特徴的なピークが現れることが知られている。
図12において、 a) はCOガスの脱離スペクトル、b) はCO2ガスの脱離スペクトルを示す。最初の放電でのdQ/dV曲線において、両方の試料において、最初の放電曲線に現れたプラトー電圧に関するはっきりしたピークが0.9Vにおいて見られた。このピークはLi有機化合物の形成と電解質の還元的な分解によるSEIの形成によるものである。SEIは最初のサイクルにおける不可逆性の損失に起因する。興味深いことに、このDMWCNTのピークは未処理 MWCNTと比べたときより広くなっている。これはおそらくカーボンの表面に対して起こる電気化学反応の違いのせいでカーボン材料上に形成されるSEIのタイプが異なることに関係すると考えられる。
Liの脱離反応において、最初の充電サイクルのdQ/dVから3つの際立ったピークがA〜Cの領域において見られる。0.1Vと1.2V付近でのピークはGIC構造とカーボンナノチューブの内側の核からのLiの脱離にそれぞれ起因すると考えられる。期待されたように、GICと内側のチューブからDMWCNTへのLiの脱離ピークの強さは穴がグラファイトの中間層やチューブの中へのアクセスをより多く促す役割を担っていることによって増加した。
9)DMWCNTの充放電サイクル特性
図13は、DMWCNTの充放電サイクル特性を示し、電流密度25mAh/gでの15サイクル以上での充電サイクル容量とクーロン効率を示している。DMWCNTは最初のサイクルではクーロン効率40%を示し、それ以降では90%以下を示した。サイクル性のテストにおいて、DMWCNTは少し減少はしたが、ほぼ一定のサイクル充電容量を示し、DMWCNTは15サイクル後に初期の90%にあたる容量958mAh/gを表した。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、高可逆容量のリチウムイオン電池用負極材およびそれを用いたリチウムイオン二次電池を提供し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブからなり、該カーボンナノチューブは、側壁に側壁を貫通していてもよい細孔を有し、その細孔は0.1nm〜30nmの範囲の細孔径分布を有し、かつBET比表面積が100〜4,000m/gである、リチウムイオン電池用負極材。
【請求項2】
カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブである請求項1に記載のリチウムイオン電池用負極材。
【請求項3】
請求項1または2に記載のリチウムイオン電池用負極材を用いてなるリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
表面に金属酸化物又は金属硝酸塩の微粒子を担持させたカーボンナノチューブを、酸素を含む雰囲気中で100〜1,000℃の温度で加熱することを特徴とするリチウムイオン電池用負極材の製造方法。
【請求項5】
金属酸化物が酸化コバルト、酸化鉄、酸化バナジウム、酸化スズまたは酸化ニッケルであり、金属硝酸塩が硝酸コバルト、硝酸鉄、硝酸バナジウム、硝酸スズまたは硝酸ニッケルである、請求項4に記載のリチウムイオン電池用負極材の製造方法。
【請求項6】
表面に金属酸化物又は金属硝酸塩の微粒子を担持させたカーボンナノチューブを、酸素を含む雰囲気中で100〜1,000℃の温度で加熱した後に、金属酸化物微粒子を酸処理により除去する請求項4または5に記載のリチウムイオン電池用負極材の製造方法。
【請求項7】
表面に金属酸化物又は金属硝酸塩の微粒子を担持させたカーボンナノチューブを、酸素を含む雰囲気中で100〜1,000℃の温度で加熱した後に、金属酸化物微粒子を酸処理により除去した後に、さらに不活性ガス中または真空中で、500〜3,000℃の温度で熱処理する請求項6に記載のリチウムイオン電池用負極材の製造方法。
【請求項8】
カーボンナノチューブが多層カーボンナノチューブである請求項4〜7のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用負極材の製造方法。
【請求項9】
カーボンナノチューブを、その表面に金属酸化物又は金属硝酸塩の微粒子を担持させないで、酸素を含む雰囲気中で100〜1,000℃の温度で加熱した後に、酸処理することを特徴とするリチウムイオン電池用負極材の製造方法。
【請求項10】
加熱が空気中で100〜500℃の温度で行われる請求項9に記載のリチウムイオン電池用負極材の製造方法。
【請求項11】
酸処理が硝酸および/または硫酸で行われる請求項9に記載のリチウムイオン電池用負極材の製造方法。
【請求項12】
請求項4〜11のいずれか1項に記載のリチウムイオン電池用負極材の製造方法で作製したリチウムイオン電池用負極材を用いてなるリチウムイオン二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−41806(P2013−41806A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−73531(P2012−73531)
【出願日】平成24年3月28日(2012.3.28)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】