説明

リチウムイオン電池用負極活物質及びこれを用いたリチウムイオン電池用負極

【課題】サイクル特性を向上させることのできるリチウムイオン電池用負極活物質を提供する。
【解決手段】負極活物質を、Si-Sn-Fe-Cu系合金から成り、Si相の負極活物質全体に占める面積比率が35〜80%の範囲内であって、該Si相がマトリクス相中に分散しているとともに、マトリクス相として、Si相周りにSi-Fe化合物相が、更にSi相及びSi-Fe化合物相を取り囲むようにSn-Cu化合物相がそれぞれ晶出しており、マトリクス相中における面積比率でSi-Fe化合物相が35〜90%の比率で晶出しているとともに、マトリクス相中に不可避的に晶出するSn相が面積比率で15%以下である組織構造を有するものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、リチウムイオン電池用負極活物質及びこれを用いたリチウムイオン電池用負極に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は高容量、高電圧で小型化が可能である利点を有し、携帯電話やノートパソコン等の電源として広く用いられており、また近年電気自動車やハイブリッド自動車等のパワー用途の電源として大きな期待を集め、その開発が活発に進められている。
【0003】
このリチウムイオン電池では、正極と負極との間でリチウムイオンが移動して充電と放電とが行われ、負極側では充電時に負極活物質中にリチウムイオンが吸蔵され、放電時には負極活物質からリチウムイオンが放出される。
【0004】
従来、一般には正極側の活物質としてコバルト酸リチウム(LiCoO)が用いられ、また負極活物質として黒鉛が広く使用されている。
しかしながら、現在広く使用されている負極活物質の黒鉛は、その理論容量が372mAh/gに過ぎず、より一層の高容量化が望まれている。そこで最近では炭素系負極活物質の代替材料として、高容量化が期待できるSi、Sn等の金属材料が盛んに研究されている。
【0005】
ところが、SiやSnはリチウムとの合金化反応によりリチウムイオンの吸蔵を行うために、リチウムイオンの吸蔵・放出に伴って大きな体積膨張・収縮を生じる。
従ってSi,Sn単独で負極活物質を構成した場合、その膨張・収縮応力によってSiやSnの粒子が割れたり集電体から剥離し、充放電を繰り返したときの容量維持特性であるサイクル特性が悪いといった問題があった。
【0006】
その対策として、本出願人による特許文献1には、Siを合金化することによって、多数のSi核の周囲をAl-Co系合金マトリクス相により取り囲んだ構造の負極活物質とし、Si相の膨張・収縮応力をマトリクス相にて緩和し、サイクル特性を向上させるようになした点が開示されている。
この下記特許文献1にはまた、合金溶湯を急冷してSi基アモルファス合金を得た後、これを熱処理することにより微細な結晶性のSi核を析出させ、そのSi核と急冷凝固時にSiと相分離して生じた合金マトリクスとを備えた微細組織のリチウム二次電池用負極活物質を得る点が開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示の技術は以下の点で改良の余地のあるものであった。
即ち、Si相の周囲をAl-Co系合金マトリクス相により取り囲んだ構造のものでは、Al系合金が多少のLi活性を有するものの、Li拡散パスとしての機能を十分に果たすことができず(Al系合金は殆どLiを吸蔵しない)、活物質の理論容量に対する利用率が低く、初期放電容量を高めることが困難であり、加えてこのAl系合金をマトリクス相として用いたものにあっては、サイクル特性の一定の向上が見られるものの、更なるサイクル特性の向上を図ることが困難である問題があった。
【0008】
これは次のような理由によるものと考えられる。
上記のようにAl系合金は殆んどLiを吸蔵しないので、Si相の周囲を取り囲む合金マトリクス相に使用した場合、Si相の体積膨張時においてマトリクス相自体の膨張が小さく、そのためマトリクス相がSi相の膨張応力に耐え切れずに崩壊を生じ、そのことが更なるサイクル特性の向上を難しくしているものと考えられる。
【0009】
尚、本発明に関連する先行技術として、下記特許文献2には高容量でサイクル特性に優れたリチウム二次電池を提供するための「リチウム二次電池」についての発明が開示されている。
また下記特許文献3には、高い放電容量を維持しつつ優れたサイクル特性を発揮できるリチウム電池用負極材料を提供することを目的とした「リチウム電池用負極材料」についての発明が開示されている。
但しこれら特許文献2,3にはSi相を核としてその周りにSi-Fe化合物相,Sn-Cu化合物相から成るマトリクスが晶出した組織構造の負極活物質について開示するところはない。
【0010】
他方下記特許文献4には、同じく高容量と良好なサイクル特性を実現するリチウムイオン二次電池用の負極材料を得ることを目的とした「ナノサイズ粒子,ナノサイズ粒子を含むリチウムイオン二次電池用負極材料,リチウムイオン二次電池用負極,リチウムイオン二次電池,ナノサイズ粒子の製造方法」についての発明が開示されている。
この特許文献4には、表1の実施例においてSi-Sn-Cu-Feの4元系合金から成る活物質の例が開示されている。
しかしながらこのものは、Si相を核としてその周りにSi-Fe化合物相,Sn-Cu化合物相をマトリクスとして晶出した組織構造のものではなく、本発明とは別異のものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−32644号公報
【特許文献2】特開2006−172777号公報
【特許文献3】特開2002−124254号公報
【特許文献4】特開2011−32541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は以上のような事情を背景としてなされたもので、その課題とするところは、活物質の初期放電容量を高くする他に特にサイクル特性を向上させることのできるリチウムイオン電池用負極活物質及びこれを用いたリチウムイオン電池用負極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
而して請求項1のものはリチウムイオン電池用負極活物質に関するもので、Si-Sn-Fe-Cu系合金から成り、Si相の負極活物質全体に占める面積比率が35〜80%の範囲内であって、該Si相がマトリクス相中に分散しているとともに、該マトリクス相として該Si相周りにSi-Fe化合物相が、更に該Si相及び該Si-Fe化合物相を取り囲むようにSn-Cu化合物相がそれぞれ晶出しており、該マトリクス相中における面積比率で該Si-Fe化合物相が35〜90%の比率で晶出しているとともに、該マトリクス相中に不可避的に晶出するSn相が該面積比率で15%以下であることを特徴とする。
【0014】
請求項2のものは、請求項1において、前記Si-Fe化合物相が前記面積比率で60〜85%であることを特徴とする。
【0015】
請求項3のものは、請求項1,2の何れかにおいて、前記Si相の前記負極活物質全体に占める面積比率が50〜80%であることを特徴とする。
【0016】
請求項4はリチウムイオン電池用負極に関するもので、負極活物質として平均粒径が1〜10μmの範囲内の微粉末となした請求項1〜3の何れかの負極活物質を用いるとともに、該負極活物質を結着するバインダとしてポリイミドバインダを用いて負極を構成することを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0017】
以上のように本発明は、負極活物質を以下のようなもの、即ち負極活物質をSi-Sn-Fe-Cu系合金にて形成し、そしてSi相を負極活物質全体に占める面積比率で35〜80%の範囲内とするとともに、そのSi相をマトリクス相中に分散せしめ、またそのマトリクス相としてSi相周りにSi-Fe化合物相を、更にSi相及びSi-Fe化合物相を取り囲むようにSn-Cu化合物相をそれぞれ晶出させ、そしてマトリクス相中における面積比率でSi-Fe化合物相を35〜90%の比率で晶出させるとともに、マトリクス相中に不可避的に晶出するSn相が面積比率で15%以下であるようになしたものである。
負極活物質をこのようにすることで、活物質における理論容量に対する利用率を高めることができるのと併せて、そのサイクル特性を大きく向上させることが可能となる。
【0018】
この請求項1の負極活物質において、マトリクス相としてのSn-Cu化合物相は次のような働きを有する。
例えばLi吸蔵能力の高いSiは、化合物(金属間化合物)を形成するとLi吸蔵能力は殆ど消失する。
これに対して、同じくLi吸蔵能力の高いSnは化合物形成してもLi吸蔵能力を失わず、化合物におけるSnの含有比率に応じてLi吸蔵能力を保有する。
即ちマトリクス相としてのSn-Cu化合物相は、Sn含有比率に応じてLi吸蔵能力を有し、従ってLi拡散パスとしての高い能力を有する。
それ故Sn-Cu化合物相をマトリクス相として用いた本発明の負極活物質は、Siの有する理論容量に対する利用率が高く、初期放電容量を高めることが可能である。
【0019】
このSn-Cu化合物相は、サイクル特性を高める働きも有する。これは次のような理由によるものと考えられる。
マトリクス相としてのSn-Cu化合物相は、Li吸蔵能力を有することから、内部に分散状態に含まれているSi相がLi吸蔵によって膨張する際、自身もLi吸蔵によってある程度膨張する。
そしてその膨張によって、Si膨張の際の膨張応力を吸収し、緩和することができる。そしてそのことによって、Si相の体積膨張によるSi相の割れや崩壊を抑制することができるとともに、Si相の体積膨張によるSn-Cuマトリクス相自体の崩壊も抑制することができる。
また仮にSi相が割れたり崩壊したりしたとしても、これをマトリクス相内部に保持しておくことができ、Siの崩壊によるサイクル特性の低下を抑えることができると考えられる。
【0020】
本発明の負極活物質は、Si相周りに晶出したSi-Fe化合物相を、更に他のマトリクス相として有しており、このことによってサイクル特性をより一層効果的に向上させることができる。
このSi-Fe化合物相は、Sn-Cu化合物相と異なってLiを殆ど吸蔵しない相であり、このようなSi-Fe化合物相がSi相周りに晶出していることで、Si相がLiを吸蔵して膨張しようとする際に、Si-Fe化合物相がその膨張自体を抑制するように作用すると考えられる。
そしてこのSi-Fe化合物相によるSi相の膨張自体の抑制作用と、Sn-Cu化合物相によるSi相の膨張応力の緩和作用、更にはSn-Cu化合物相自体の崩壊抑制作用等によって、より一層のサイクル特性の向上をもたらすものと考えられる。
【0021】
本発明の負極活物質は、このSi-Fe化合物相を、マトリクス相全体に占める面積比率で35〜90%の比率で晶出させる点を他の特徴としている。
本発明者らは、Si-Fe化合物相をSi相周りに晶出させた場合、その晶出量を増大させるに連れてサイクル特性が向上すること、一方でSi-Feの晶出量を一定以上に高くすると、却ってサイクル特性が低下すること、そしてその適正な範囲が面積比率で35〜90%の範囲内であることを確認した。
Si-Fe化合物相の晶出量を35〜90%の範囲内とすることで、目標とする50サイクル後の容量維持率70%以上が得られ易い。
このようにSi-Fe化合物相の晶出比率を35〜90%の範囲内とすることでサイクル特性が向上するのは、以下のような理由によるものと考えられる。
【0022】
即ち、Si-Fe化合物相の晶出の比率が35%未満である場合には、Si-Fe化合物相によるSi相の膨張抑制効果が不十分であり、一方その晶出量が90%を超えて多くなると、全マトリクス中に占めるSi-Fe化合物相の比率が高くなり過ぎ、その結果としてSi相膨張時に、膨張能力の低下したマトリクス相自体がSi相の体積膨張によって崩壊を生じ、そのことがサイクル特性の低下に繋がっているものと考えられる。
【0023】
ここでSi-Fe化合物相の面積比率は60〜85%の範囲内としておくことがより望ましい(請求項2)。
このようにすることで、50サイクル後の容量維持率のより望ましい目標値である80%以上が得られ易く、サイクル特性のより一層の向上を図ることができる。
【0024】
本発明の負極活物質では、マトリクス相中に不可避的に晶出するSn相を、マトリクス相全体に対する面積比率で15%以下としておく。
化合物を作らないで単独で晶出するSn相は、Liを吸蔵したときの体積膨張が大きく、その存在量が15%を超えて多くなるとマトリクス相の上記の効果を減殺する。従って本発明ではその存在比率を15%以下としておく。
【0025】
本発明の負極活物質にあっては、Si相の負極活物質全体に占める面積比率を35〜80%の範囲内としておく。
Si相の面積比率が35%よりも低いと、負極活物質の容量が低くなり、目標とする初期容量500(mAh/g)以上が得難く、電池の高容量化ができなくなる。
一方その面積比率が80%を超えて多くなると、相対的にマトリクス相の量が少なくなり、マトリクス相による上記の効果が小さくなってサイクル特性が低下してしまう。
本発明では、Si相の負極活物質全体に占める面積比率を50〜80%としておくことが望ましい(請求項3)。
このようにすることで、初期放電容量のより望ましい目標値である1000(mAh/g)以上が得られ易い。
【0026】
本発明の負極活物質は、合金溶湯を液体冷却・凝固させることで得ることができる。
この場合、合金溶湯が冷却・凝固する過程で先ず最も融点の高いSiが晶出し、次いでSi-Fe化合物相が、更にその後にSn-Cu化合物相が順次晶出する。
このとき、先ず最初に晶出したSi相を核として、その周りにSi-Fe化合物相を晶出させ、そしてその後にそれらSi相,Si-Fe化合物相全体を取り囲むようにしてSn-Cu化合物相を晶出させることができ、本発明の2相マトリクスの組織構造の負極活物質が得られ易い。
【0027】
次に請求項4は、リチウムイオン電池用負極に関するもので、ここでは平均粒径が1〜10μmの範囲内の微粉末となした負極活物質を用いるとともに、これを結着するバインダとしてポリイミドバインダを用いる。
Si単体の負極活物質ではなく、Si合金を活物質に用いた場合であっても、充放電反応に伴う活物質自体の体積膨張・収縮を生じ、これにより負極活物質をバインダにて結着して成る合剤層、つまり導電膜中に応力が発生する。
この場合、バインダがその応力に耐えられないとバインダの崩壊が生じ、その結果導電膜の集電体からの剥離を生じ、結果として電極内の導電性が低下し、充放電サイクル特性が低下する。
【0028】
ここにおいて請求項4に従い、負極活物質として平均粒径が1〜10μmの微細な微粉末の粒子を用いた場合、活物質が微細化することによってバインダとの接触面積が増加し、またバインダとして機械的強度の高いポリイミドバインダを用いることで、それらの相乗作用によりバインダの崩壊が良好に抑制され、結果としてサイクル特性が向上するものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(A),(B):実施例7及び比較例1に係る負極活物質の走査型電子顕微鏡(SEM)による二次電子像である。(C):(A)の一部を拡大し、これを模式化して表した図である。
【図2】XRD分析による結果を示した図である。
【図3】実施例7の負極活物質についての画像解析結果を走査型電子顕微鏡による二次電子像とともに示した図である。
【図4】Si-Fe化合物相の面積比率と50サイクル後の容量維持率との関係を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン電池用負極活物質(以下、「本負極活物質」ということがある)、本負極活物質を用いたリチウムイオン電池用負極(以下、「本負極」ということがある)について詳細に説明する。
【0031】
1.本負極活物質
【0032】
本負極活物質において、Si相をなす結晶子は、Siを主に含有する相である。リチウム吸蔵量が大きくなるなどの観点から、好ましくはSiの単相よりなると良い。もっとも、Si相中には不可避的な不純物が含まれていても良い。
【0033】
Si結晶子の形状は、特に限定されるものではなく、その外形が比較的均一に整っていても良いし、その外形が不揃いであっても良い。また、個々のSi結晶子はそれぞれ分離していても良いし、部分的にSi結晶子同士が連なっていても良い。
【0034】
Si結晶子の大きさは、その上限値が、好ましくは、1.5μm以下、より好ましくは、700nm以下、さらにより好ましくは、300nm以下であると良い。Siの微細化によりSi割れを低減しやすくなり、サイクル特性の向上に寄与しやすくなるからである。
【0035】
なお、Si結晶子は、小さいほど良いため、Si結晶子の大きさの下限値は特に限定されることはない。もっとも、Siの酸化による容量低下等の観点から、好ましくは、50nm以上であると良い。
【0036】
また、上記Si結晶子の大きさは、本負極活物質の微細組織写真(1視野)から任意に選択したSi結晶子20個について測定したSi結晶子の大きさの平均値である。
【0037】
本負極活物質において、Si相は活物質全体に対する面積率で35〜80%の範囲で含有させる。
Si相の含有量が35%より少なくなれば負極活物質の容量が低下し、黒鉛の代替材料としての意味が小さくなる。一方、Si相の含有量が80%を超えて多くなれば、マトリクス相の量が相対的に少なくなり、マトリクス相によるSi相の保持などマトリクスによる効果が小さくなり、サイクル特性が低下する。Si量が35〜80%であれば、高容量化とサイクル特性とをバランス良く向上させることができる。
より望ましくは、Si相の面積率は50〜80%の範囲内とする。このようにすることで負極活物質の容量(初期容量)を一層高容量化することができる。
【0038】
本負極活物質において、活物質の理論容量に対する利用率の向上を図る観点からは、マトリクス相を構成するSn-Cu化合物相は、同化合物相中Snを50質量%以上含有することが望ましい。より好ましくは、55質量%以上、さらに好ましくは、60質量%以上含有していると良い。
尚、マトリクス相中にはSn相が不可避的に晶出する場合がある。本発明ではこの場合においてもSn相をマトリクス相全体に対する面積比率で15%以下となしておく。
【0039】
本負極活物質においては、Si相周りにSi-Fe化合物相を晶出させる。このようにSi-Fe化合物相を晶出させることで、Sn-Cu化合物相に加え、更にSi-Fe化合物相によってもSiの崩壊を抑制することが可能となり、サイクル特性を向上させることができる。
【0040】
本負極活物質の形態は、特に限定されるものではない。具体的には、薄片状、粉末状などの形態を例示することができる。好ましくは、負極の製造に適用しやすいなどの観点から、粉末状であると良い。また、本負極活物質は、適当な溶媒中に分散されていても構わない。
【0041】
本負極活物質の大きさは、その上限値が、好ましくは75μm、より好ましくは50μm以下、更に好ましくは、25μm以下であると良い。粒径が大きいと、Liが活物質内部まで拡散し難くなり、活物質の理論容量に対する利用率が低下する傾向があるからである。また、粒子内のLi拡散パスが長くなり、入出力特性が低下する、と考えられるからである。
【0042】
一方、本負極活物質の大きさは、その下限値が、好ましくは、100nm以上、より好ましくは、500nm以上、さらにより好ましくは、1μm以上であると良い。粒径が細かくなり過ぎると、粒子が酸化しやすくなり、容量低下、不可逆容量の増加を招くからである。
特にサイクル特性の向上の観点からは、平均粒度(d50)で1〜10μmの範囲内としておくことが望ましい。
【0043】
なお、本負極活物質の大きさは、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置にて測定することができる。
【0044】
次に、本負極活物質の製造方法について説明する。本負極活物質の製造方法としては、Si,Sn,Fe,Cuを含有する合金溶湯を急冷して急冷合金を形成する工程を経る方法などを例示することができる。
【0045】
得られた急冷合金が粉末状でない場合又は小径化したい場合には、急冷合金を適当な粉砕手段により粉砕して粉末状にする工程を追加しても良い。また、必要に応じて、得られた急冷合金を分級処理して適当な粒度に調整する工程などを追加しても良い。
特に急冷合金即ち活物質を粉末とする場合において、その製造方法としては、後に述べるガスアトマイズ法が好適であるが、このようにして得たガスアトマイズ粉(他の製造方法にて製造した粉末であっても良い)に対して粉砕工程を実施することで、急冷合金の粉末を上記のような平均粒度(d50)で1〜10μmの微細な粉末とすることが、サイクル特性の一段の向上を図る上で好ましい。
【0046】
上記製造方法において、合金溶湯は、具体的には、例えば、所定の化学組成となるように各原料を量り取り、量り取った各原料を、アーク炉、高周波誘導炉、加熱炉などの溶解手段を用いて溶解させるなどして得ることができる。
【0047】
合金溶湯を急冷する方法としては、具体的には、例えば、ロール急冷法(単ロール急冷法、相ロール急冷法等)、アトマイズ法(ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、遠心アトマイズ法等)などの液体急冷法等を例示することができる。好ましくは、生産性の向上などの観点から、ガスアトマイズ法を好適に用いることができる。合金溶湯の最大急冷速度としては、上記微細組織を得やすいなどの観点から、好ましくは、10K/秒以上、より好ましくは、10K/秒以上であると良い。
【0048】
ここで、Si,Sn,Fe,Cuを含む合金溶湯を用いて、本負極活物質を製造する場合には、具体的には、以下の方法によると良い。
【0049】
すなわち、アトマイズ法を適用する場合、噴霧チャンバ内に出湯されて連続的(棒状)に下方に流れ落ちる合金溶湯に対し、N、Ar、He等によるガスを高圧(例えば、1〜10MPa)で噴き付け、溶湯を粉砕しつつ冷却する。冷却された溶湯は、半溶融のまま噴霧チャンバ内を自由落下しながら球形に近づき、粉末状の本負極活物質が得られる。また、冷却効果を向上させる観点からガスに代えて高圧水を噴き付けても良い。
【0050】
一方、ロール急冷法を適用する場合、急冷および回収チャンバ等のチャンバ内に出湯されて連続的(棒状)に下方に流れ落ちる合金溶湯を、周速10m/sec〜100m/sec程度で回転する回転ロール(材質は、Cu、Feなど、ロール表面はメッキが施されていても良い。)上で冷却する。合金溶湯は、ロール表面で冷却されることにより箔化または箔片化された合金材料となる。この場合、ボールミル、ディスクミル、コーヒーミル、乳鉢粉砕等の適当な粉砕手段により合金材料を粉砕、必要に応じて分級等すれば、粉末状の本負極活物質が得られる。
【0051】
2.本負極
本負極は、本負極活物質を用いて構成されている。
【0052】
具体的には、本負極は、導電性基材と、導電性基材の表面に積層された導電膜とを有している。導電膜は、バインダ中に少なくとも上述した本負極活物質を含有している。導電膜は、他にも、必要に応じて、導電助材を含有していても良い。導電助材を含有する場合には、電子の導電経路を確保しやすくなる。
【0053】
また、導電膜は、必要に応じて、骨材を含有していても良い。骨材を含有する場合には、充放電時の負極の膨張・収縮を抑制しやすくなり、負極の崩壊を抑制できるため、サイクル特性を一層向上させることができる。
【0054】
上記導電性基材は、集電体として機能する。その材質としては、例えば、Cu、Cu合金、Ni、Ni合金、Fe、Fe基合金などを例示することができる。好ましくは、Cu、Cu合金であると良い。また、具体的な導電性基材の形態としては、箔状、板状等を例示することができる。好ましくは、電池としての体積を小さくできる、形状自由度が向上するなどの観点から、箔状であると良い。
【0055】
上記バインダの材質としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸などを好適に用いることができる。これらは1種または2種以上併用することができる。これらのうち、機械的強度が強く、活物質の体積膨張に対しても良く耐え得、バインダの破壊によって導電膜の集電体からの剥離を良好に防ぐ意味で、ポリイミド樹脂が特に好ましい。
【0056】
上記導電助材としては、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック等のカーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、フラーレンなどを例示することができる。これらは1または2以上併用しても良い。これらのうち、好ましくは、電子伝導性を確保しやすいなどの観点から、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどを好適に用いることができる。
【0057】
上記導電助材の含有量は、導電性向上度、電極容量などの観点から、本負極活物質100質量部に対して、好ましくは、0〜30質量部、より好ましくは、4〜13質量部の範囲内であると良い。また、上記導電助材の平均粒子径は、分散性、扱い易さなどの観点から、好ましくは、10nm〜1μm、より好ましくは、20〜50nmであると良い。
【0058】
上記骨材としては、充放電時に膨張・収縮しない、または、膨張・収縮が非常に小さい材質のものを好適に用いることができる。例えば、黒鉛、アルミナ、カルシア、ジルコニア、活性炭などを例示することができる。これらは1または2以上併用しても良い。これらのうち、好ましくは、導電性、Li活性度などの観点から、黒鉛などを好適に用いることができる。
【0059】
上記骨材の含有量は、サイクル特性向上などの観点から、本負極活物質100質量部に対して、好ましくは、10〜400質量部、より好ましくは、43〜100質量部の範囲内であると良い。また、上記骨材の平均粒子径は、骨材としての機能性、電極膜厚の制御などの観点から、好ましくは、10〜50μm、より好ましくは、20〜30μmであると良い。なお、上記骨材の平均粒子径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した値である。
【0060】
本負極は、例えば、適当な溶剤に溶解したバインダ中に、本負極活物質、必要に応じて、導電助材、骨材を必要量添加してペースト化し、これを導電性基材の表面に塗工、乾燥させ、必要に応じて、圧密化や熱処理等を施すことにより製造することができる。
【0061】
本負極を用いてリチウムイオン電池を構成する場合、本負極以外の電池の基本構成要素である正極、電解質、セパレータなどについては、特に限定されるものではない。
【0062】
上記正極としては、具体的には、例えば、アルミニウム箔などの集電体表面に、LiCoO、LiNiO、LiFePO、LiMnOなどの正極活物質を含む層を形成したものなどを例示することができる。
【0063】
上記電解質としては、具体的には、例えば、非水溶媒にリチウム塩を溶解した電解液などを例示することができる。その他にも、ポリマー中にリチウム塩が溶解されたもの、ポリマーに上記電解液を含浸させたポリマー固体電解質などを用いることもできる。
【0064】
上記非水溶媒としては、具体的には、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
【0065】
上記リチウム塩としては、具体的には、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiCFSO、LiAなどを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
【0066】
また、その他の電池構成要素としては、セパレータ、缶(電池ケース)、ガスケット等が挙げられるが、これらについても、リチウムイオン電池で通常採用される物であれば、何れの物であっても適宜組み合わせて電池を構成することができる。
【0067】
なお、電池形状は、特に限定されるものではなく、筒型、角型、コイン型など何れの形状であっても良く、その具体的用途に合わせて適宜選択することができる。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例を用いてより具体的に説明する。なお、合金組成、合金混合割合の%は、特に明示する場合を除き、質量%である。
【0069】
1.負極活物質の作製
表1に示す合金組成となるように各原料を秤量した。秤量した各原料を高周波誘導炉を用いて加熱、溶解し、合金溶湯とした。ガスアトマイズ法により、上記得られた合金溶湯から粉末状の負極活物質を作製した。なお、合金溶湯作製時およびガスアトマイズ時の雰囲気はアルゴン雰囲気とした。また、ガスアトマイズ時には、噴霧チャンバ内を棒状に落下する合金溶湯に対して、高圧(4MPa)のアルゴンガスを噴き付けた。
得られた粉末を篩いを用いて25μm以下に分級したものを活物質して用いた。
表1に、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置にて測定した活物質の平均粒度(d50)の値が示してある。
尚実施例1〜6については、25μm以下に分級したアトマイズ粉を更に遊星型ボールミルを用いて微粉砕したものを活物質として用いた。
【0070】
2.負極活物質の組織観察等
各実施例,比較例に係る負極活物質について、走査型電子顕微鏡(SEM)による組織観察を行った。またエネルギー分散X線分光法(EDX)による元素分析及びXRD(X線回折)による分析も併せて行った。
図1(A)に、マトリクス相中にSi相が分散しており、またマトリクス相として、Si相周りにSi-Fe化合物相が、更にSi相及びSi-Fe化合物相を取り囲むようにSn-Cu化合物相がそれぞれ晶出している負極活物質の代表例として、実施例7に係る負極活物質の走査型電子顕微鏡による二次電子像を示した。
また図1(B)に、比較例1の負極活物質の走査型電子顕微鏡による二次電子像を示した。
更に実施例7に係る負極活物質のXRDによる分析結果を図2に示した。
尚図1(C)は、図1中の一部(4角い点線の枠で囲んだ部分)を拡大して、これを模式図として表した図である。
【0071】
図1(A)から分かるように、実施例7に係る負極活物質では、マトリクス相中にSi相が多数分散しており、そしてSi相周りにSi-Fe化合物相が晶出し、更にそれら全体を取り囲むようにSn-Cu化合物相が晶出した組織構造を備えていることが確認された。
尚比較例1に係る負極活物質もまた、Si相周りにSi-Fe化合物相が、更にその全体を取り囲むようにしてSn-Cu化合物相がそれぞれマトリクス相として晶出した組織構造をなしているが、実施例7に係る負極活物質では、比較例1の負極活物質に比べて、Si相周りにSi-Fe化合物相がより多く晶出した組織構造をなしている。
また図2に示すXRD分析結果では、Si,SiFe化合物,SnCu化合物,Snそれぞれの固有のピークが表れており、図1(A)に示す組織中に、これらSi,SiFe化合物,SnCu化合物の相が生じていること、更にマトリクス相中にはSn相もまた生じていることが確認された。
尚、XRD分析はCo管球を用いて120°〜20°の角度の範囲を1分間に20°の速度で測定することにより行った。
【0072】
また、各負極活物質につき、Si結晶子の大きさを測定した。なお、Si結晶子の大きさは、SEM像(1視野)の任意のSi結晶子20個について測定したSi結晶子の大きさの平均値である。
それらの値が表1に併せて示してある。
【0073】
【表1】

【0074】
3.負極活物質における各相の面積率の測定
実施例,比較例の各負極活物質に晶出したSi相,Si-Fe化合物相,Sn-Cu化合物相,Sn相のそれぞれの面積率を次のようにして求めた。
尚、Si相の面積率は活物質全体に対する面積比率であり、他のSi-Fe化合物相,Sn-Cu化合物相,Sn相の面積比率は、マトリクス全体に対する比率である。
各負極活物質の断面組織(倍率5000倍)に対して、EPMA装置(電子線マイクロアナライザ)を用いてSi,Fe,Sn,Cuの元素分析を行い、各元素の濃度分布を調べた。
そしてそのEPMA分析によるデータを基に画像解析を行って各相の面積を求め、それら面積に基づいて各相の面積率を算出した。
尚画像解析は三谷商事株式会社製の画像解析ソフト(WinRoof)を用いて行った。
代表例として、実施例7の負極活物質についての画像解析の結果を図3に示している。
具体的な面積率の求め方は以下の通りである。
【0075】
下記のように、EPMA分析の結果Fe量(濃度)が25〜50質量%である範囲をSi-Fe、つまりSi-Fe(SiFe)化合物相の存在範囲とし、Cu量(濃度)が30〜45質量%である範囲をSn-Cu(SnCu)化合物相の存在範囲とし、Sn量(濃度)が90〜100質量%である範囲をSn相の存在範囲として、それぞれの面積を求め、また全体からそれらSi-Fe化合物相,Sn-Cu化合物相,Sn相の面積を差し引いた残りの部分をSi相の面積として求めた。
SiFe相:Fe分析結果のFe量が25〜50質量%の範囲
SnCu相:Cu分析結果のCu量が30〜45質量%の範囲
Sn相:Sn分析結果のSn量が90〜100質量%の範囲
Si相:全体からSiFe,SnCu,Snの面積を差し引いた残りの部分
表2に、代表例としての実施例7の負極活物質について、それら各相の具体的な面積測定結果、及びこれから算出される面積率が示してある。
ここで面積率に関しては、1種類の活物質粉末に対して5視野の画像から算出し、その平均値を面積率として表1に示した。
尚XRD,SEM-EDXを用いて晶出相の同定をし、解析範囲に所定の相が晶出していることを確認している。
【0076】
【表2】

【0077】
4.負極活物質の評価
4.1 充放電試験用コイン型電池の作製
初めに、各負極活物質100質量部と、導電助材としてのアセチレンブラック(電気化学工業(株)製、d50=36nm)6質量部と、結着剤としてのポリイミド(熱可塑性樹脂)バインダ19質量部とを配合し、これを溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)と混合し、各負極活物質を含む各ペーストを作製した。
【0078】
以下の通り、各コイン型半電池を作製した。ここでは、簡易的な評価とするため、負極活物質を用いて作製した電極を試験極とし、Li箔を対極とした。先ず、負極集電体となる銅箔(厚み18μm)表面に、ドクターブレード法を用いて、50μmになるように各ペーストを塗布し、乾燥させ、各負極活物質層を形成した。形成後、ロールプレスにより負極活物質層を圧密化した。これにより、実施例および比較例に係る試験極を作製した。
【0079】
次いで、実施例および比較例に係る試験極を、直径11mmの円板状に打ち抜き、各試験極とした。
【0080】
次いで、Li箔(厚み500μm)を上記試験極と略同形に打ち抜き、各正極を作製した。また、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との等量混合溶媒に、LiPFを1mol/lの濃度で溶解させ、非水電解液を調製した。
【0081】
次いで、各試験極を各正極缶に収容するとともに(各試験極はリチウム二次電池では負極となるべきものであるが、対極をLi箔としたときにはLi箔が負極となり、試験極が正極となる)、対極を各負極缶に収容し、各試験極と各対極との間に、ポリオレフィン系微多孔膜のセパレータを配置した。
【0082】
次いで、各缶内に上記非水電解液を注入し、各負極缶と各正極缶とをそれぞれ加締め固定した。
【0083】
4.2 充放電試験
各コイン型半電池を用い、電流値0.2mAの定電流充放電を1サイクル分実施し、この放電容量を初期容量Cとした。2サイクル目以降は、1/5Cレートで充放電試験を実施した(Cレート:電極を(充)放電するのに要する電気量Cを1時間で(充)放電する電流値を1Cとする。5Cならば12分で、1/5Cならば5時間で(充)放電することとなる。)。この放電時に使用した容量(mAh)を活物質量(g)で割った値を各放電容量(mAh/g)とした。
【0084】
本実施例では、上記充放電サイクルを100回行うことにより、サイクル特性の評価を行った。
【0085】
そして、得られた各放電容量から容量維持率(50サイクル後の放電容量/初期放電容量(1サイクル目の放電容量)×100、100サイクル後の放電容量/初期放電容量(1サイクル目の充電容量)×100)を求めた。その結果を表3及び図4に示した。
【0086】
【表3】

【0087】
表3の結果から次のことが分かる。
即ち、比較例1では、Si-Fe化合物相の面積比率が23%で本発明の下限値の35%よりも低い値であり、またSn相の面積比率が63%と高く、このためにサイクル特性が悪い。
比較例2は、そもそもSi-Fe化合物相もSn-Cu化合物相も晶出しておらず、マトリクス相全体がSn相単独となっている。そのためにサイクル特性が比較例1に比べても格段と悪い。この比較例2ではまた、Si相の面積比率も86%と高く、マトリクス相の面積比率も小さい。
【0088】
比較例3は、Si-Fe化合物相が15%と低く、サイクル特性が悪い。
比較例4は、逆にSi-Fe化合物相が95%と過剰であり、サイクル特性が同じく悪い。
比較例5は、Si-Fe化合物相の面積比率が15%で低く、サイクル特性が悪い。
また比較例6は、Si-Fe化合物相が93%と過剰であり、サイクル特性が悪い。
これに対し、Si相の面積率が35〜80%の範囲内にあり、またマトリクス相としてSi-Fe化合物相,Sn-Cu化合物相が晶出し、且つSi-Fe化合物相の面積比率が35〜90%の範囲内にあり、更にSnの面積率が15%以下である実施例1〜24は、何れも目標とする初期放電容量500(mAh/g)以上,50サイクル後の目標とする容量維持率70%以上を満たしており、高い初期放電容量,良好なサイクル特性を有している。
【0089】
図4は、比較例3,4及び実施例7〜実施例12についてSi-Fe化合物相の面積比率と、50サイクル後の容量維持率との関係を表したもので、図4に示しているように、マトリクス相中のSi-Fe化合物相の面積比率が多くなるのに伴って、容量維持率が高くなって行き、そしてあるところを境にして、Si-Fe化合物相の面積割合が多くなるのに伴って容量維持率が低下する方向に転じる。
結果として、Si-Fe化合物相の面積比率としては35〜90%の範囲内が良好であり、特に60〜85%の範囲内にあるとき、より良好なサイクル特性が得られることが分かる。
【0090】
表3の結果において、Si相の面積比率が50%よりも低い実施例13,14,15,16では、初期の放電容量がより望ましい目標値である1000(mAh/g)以上を満たしていないのに対し、Si相の面積比率が50〜80%の範囲内にある他の実施例では初期放電容量が1000(mAh/g)以上を満たしており、Si相の面積比率が50〜80%の範囲内である場合において、より高い初期放電容量が得られることが分かる。
【0091】
またSi-Fe化合物相の面積比率が60〜85%を外れた実施例7,12,17では、50サイクル後の容量維持率としてより望ましい目標値である80%以上を満たしていないが、Si-Fe化合物相の面積比率が60〜85%である他の実施例では、容量維持率が80%以上を満たしており、Si-Fe化合物相の面積率を60〜85%とすることで、より良好なサイクル特性が得られることがわかる。
更に表3において、ガスアトマイズ粉を更に微粉砕して粒径(平均粒径)を1〜10μmの範囲内となしてある実施例1〜6については、特に高いサイクル特性を有していることが見て取れる。
【0092】
以上、本発明に係るリチウムイオン電池用負極活物質、リチウムイオン電池用負極について説明したが、本発明は、上記実施形態、実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si-Sn-Fe-Cu系合金から成り、Si相の負極活物質全体に占める面積比率が35〜80%の範囲内であって、該Si相がマトリクス相中に分散しているとともに、該マトリクス相として該Si相周りにSi-Fe化合物相が、更に該Si相及び該Si-Fe化合物相を取り囲むようにSn-Cu化合物相がそれぞれ晶出しており、該マトリクス相中における面積比率で該Si-Fe化合物相が35〜90%の比率で晶出しているとともに、該マトリクス相中に不可避的に晶出するSn相が該面積比率で15%以下であることを特徴とするリチウムイオン電池用負極活物質。
【請求項2】
請求項1において、前記Si-Fe化合物相が前記面積比率で60〜85%であることを特徴とするリチウムイオン電池用負極活物質。
【請求項3】
請求項1,2の何れかにおいて、前記Si相の前記負極活物質全体に占める面積比率が50〜80%であることを特徴とするリチウムイオン電池用負極活物質。
【請求項4】
負極活物質として平均粒径が1〜10μmの範囲内の微粉末となした請求項1〜3の何れかの負極活物質を用いるとともに、該負極活物質を結着するバインダとしてポリイミドバインダを用いて成るリチウムイオン電池用負極。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−84549(P2013−84549A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−58014(P2012−58014)
【出願日】平成24年3月14日(2012.3.14)
【出願人】(000003713)大同特殊鋼株式会社 (916)
【Fターム(参考)】