説明

リチウムイオン2次電池負極材

【課題】リチウムイオン2次電池負極において、その充放電現象に対応できるSiおよびその化合物またはSnおよびその化合物を活物質としたリチウムイオン2次電池負極材を提供することにある。
【解決手段】集電体上にスパッタ法により成膜される第1層と、さらにその上に、真空蒸着または湿式めっきにより成膜された第2層がSiまたはSnを含んだ同じ組成を持つ構造を有する。これにより、スパッタ成膜同様に集電体との結合性が良好で、かつ湿式めっきと同様に生産性の良い活物質層が得られ、容量と容量維持率ともに大きな負極を提供することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
リチウムイオン2次電池負極材に関する、特には、Siおよびその化合物またはSnおよびその化合物を活物質とした負極材であり、活物質層の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン2次電池における負極活物質は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出できる材料から構成されており、現在主に黒鉛系が用いられている。しかしながら、現在、黒鉛系は、理論容量密度が372mAh/gと小さく、更に容量の大きい負極活物質が求められている。
【0003】
このリチウムイオン2次電池の負極材料としては、ホスト構造としては分子量が小さく多くのリチウムイオンを受容できるサイトを有すること、構造内でリチウムイオンが容易に拡散できること、負極活物質はできるだけ化学的に安定で毒性が少なく安価であること、負極活物質の生成、合成ができるだけ容易であること、サイクル特性に優れていることが求められている。
そこで、上述の負極材料としての条件を満足するものとして、Si、Snおよびその化合物を負極材料として用いることが試みられている。
特許文献1には、基板としてCu集電体を用い、集電体上にCVD法、スパッタ法、溶射法、または真空蒸着法によりSi薄膜を形成して、高容量、高サイクル特性の負極を得たものが開示されている。
【特許文献1】WO01/029912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Siおよびその化合物またはSnおよびその化合物を活物質とした負極材では、活物質層の充放電に伴う体積変化が大きい。そのため、活物質層と集電体との結合が弱い場合には、充放電の際に活物質層が集電体から剥がれたり、微粉化してしまったりすることで充放電容量が低下することとなる。そのため、集電体上に粗化処理を施した層を設け、集電体と活物質層の結合を改良する方法が行なわれているが十分な結合は得られていない。
例えば、Sn等の成膜に湿式めっきを用いた場合には、成膜速度は速いが集電体粗化処理層と活物質層との結合が弱いため、充放電に伴う体積変化による活物質の剥離の結果、容量低下が起こりやすい。
【0005】
一方、スパッタ成膜の場合は集電体粗化処理層と活物質層の結合が強く、充放電に伴う容量低下は、湿式めっきおよび蒸着成膜と比べて小さい。しかし、電池として使用するために最低限必要な5μm以上の成膜は、成膜速度を検討すると実用には向かない。そこで、スパッタ成膜で成膜速度を大きくするためにスパッタ出力を上げると、熱負荷による材料の変形、活物質層の組成変化等の影響があるという問題があり、成膜速度を上げることには限界がある。
かかる状況を鑑みて本発明が解決すべき課題は、リチウムイオン2次電池負極において、その充放電現象に対応できるSiおよびその化合物またはSnおよびその化合物を活物質としたリチウムイオン2次電池負極材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは鋭意研究の結果、活物質であるSi、Snおよびその化合物の活物質層の成膜において、集電体粗化処理層と活物質層の結合が良好なスパッタ成膜と生産性の高い湿式めっき成膜または真空蒸着成膜の2層を形成することで優れたリチウムイオン2次電池負極を見出した。
【0007】
即ち、本発明は、
(1)負極材として活物質層を粗化処理層上に保持する集電体を備え、その集電体が活物質としてSiおよびその化合物のスパッタ法による成膜層を粗化処理層上に有し、さらにその上に、Siおよびその化合物とSnおよびその化合物について真空蒸着による同じ組成の物質の成膜層を有し、その2層の合計の厚さが5〜18μmであることを特徴とするリチウムイオン2次電池負極材、
(2)負極材として活物質層を粗化処理層上に保持する集電体を備え、その集電体が活物質としてSnおよびその化合物のスパッタ法による成膜層を粗化処理層上に有し、さらにその上に、Snおよびその化合物について湿式めっき、または真空蒸着による同じ組成の物質の成膜層を有し、その2層の合計の厚さが5〜18μmであることを特徴とするリチウムイオン2次電池負極材、
(3)負極材として活物質層を粗化処理層上に保持する集電体を備え、その集電体が活物質としてSiおよびその化合物のスパッタ法による0.1〜3μmの成膜層を粗化処理層上に有し、さらにその上にSiおよびその化合物について真空蒸着による5〜15μmの同じ組成の物質の成膜層を有することを特徴とする上記(1)に記載のリチウムイオン2次電池負極材、
(4)負極材として活物質層を粗化処理層上に保持する集電体を備え、その集電体が活物質としてSnおよびその化合物のスパッタ法による0.1〜3μm成膜層を粗化処理層上に有し、さらにその上にSnおよびその化合物について湿式めっき、または真空蒸着による5〜15μmの同じ組成の物質の成膜層を有することを特徴とする上記(2)に記載のリチウムイオン2次電池負極材、
(5)Snおよびその化合物の活物質層を粗化処理層上に保持する集電体を備え、その集電体粗化処理層上にNi、Crの少なくとも一つ以上を成膜してCu原子の拡散防止または結合性を改善させた上記(2)または(4)に関するリチウムイオン2次電池負極材、
である。
【発明の効果】
【0008】
リチウムイオン2次電池負極において、その充放電特性に優れ、容量の大きいSiおよびその化合物またはSnおよびその化合物を活物質としたリチウムイオン2次電池負極材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の限定の理由を以下に説明する。
Siおよびその化合物またはSnおよびその化合物を活物質としたリチウムイオン負極では、充放電時の活物質層の体積変化が大きい。そのため、集電体である銅箔や銅合金箔と活物質層との結合の強い成膜方法である必要がある。結合が弱い場合には、銅箔や銅合金箔から活物質層が剥離してしまい、電池容量低下が発生するからである。
【0010】
Siおよびその化合物またはSnおよびその化合物の成膜法には、CVD法、スパッタ法、溶射法、または真空蒸着法等の乾式めっき成膜方式、さらにSn及びその化合物については電気めっき等の湿式めっき方式がある。
【0011】
乾式めっき成膜のうち、スパッタ成膜法では、銅箔や銅合金箔とスパッタ成膜させた活物質層との結合は良好である。しかし、その成膜速度は遅く、成膜速度を検討すると実用には向かない。
一方、湿式めっき成膜、真空蒸着成膜によって成膜された活物質層と集電体との結合は弱いが、成膜速度が早く、生産性がよい。
本発明では、その2種類の成膜方法を組み合せ、2層構造にすることで、よりよい負極の活物質層の構造を見出したものである。
【0012】
(1)第1層:スパッタ膜の作用
集電体箔と活物質層の結合を良好にするため、集電体箔の上にスパッタ法による成膜が存在することが必要である。その膜厚は、0.1〜3μmが好ましい。スパッタ膜厚が0.05μm未満の場合には、十分な結合が得られず、スパッタ膜厚が3.0μmを超える場合、成膜速度は遅く、工業的には向かない。また、成膜時に熱負荷が長くなると、集電体が変形する恐れがある。
【0013】
(2)第2層:湿式めっき層および真空蒸着層の作用
集電体箔の第1層上に成膜速度の高い湿式めっきまたは真空蒸着により、必要な容量まで成膜する。スパッタ膜厚の厚みにもよるが、スパッタ膜厚と湿式めっきまたは真空蒸着による膜厚の合計が、電池として機能するために最低限必要な5μm以上でなければならない。一方、湿式めっきまたは真空蒸着による膜を多くつけても容量には限界があり、さらには厚く生成させすぎると、湿式めっきまたは真空蒸着による膜に亀裂が発生し剥離及び脱落が起こり始める。従って湿式めっきまたは真空蒸着による膜厚5〜15μmが好ましい。
なお、第1層と第2層で同じ組成の物質を成膜するため結合がよく、剥離は問題にならない。
【0014】
(3)集電体箔と活物質層(スパッタ層)の結合の強化
集電体箔と活物質層(スパッタ層)において、集電体箔の下地処理として、粗面化処理またはNi、Crの少なくとも一つ以上を成膜することで、集電体箔と活物質層(スパッタ層)とのCu拡散防止または結合を強化することができる。成膜の厚さは、0.1〜3μmが好ましい。
【実施例】
【0015】
以下に本発明の実施形態を、実施例を用いて説明する。
(1)製造方法
実施例では、集電体箔として、NiとSiを含有した銅合金箔(板厚 18μm)を使用しているが、本発明は、上記の銅箔に限定するものではなく、集電体箔については銅合金箔の種類を問わない。厚みについても限定するものではない。
本発明の製造工程は、集電体箔上に粗化処理、スパッタによるSnCu成膜、湿式めっきによるSnCu成膜の順で行われる。また、粗化処理とスパッタによるSnCu成膜の間にNiCr層を成膜する場合には、粗化処理、スパッタによるNiCr層成膜、スパッタによるSnCu成膜、湿式めっきによるSnCu成膜の順で行われる。
【0016】
以下に、SnCuのスパッタ成膜および湿式めっき成膜の条件を示す。
a)スパッタリング条件
SnCuのスパッタ成膜は、株式会社ULVAC社 MNS−2000を用いて表1に示す条件で集電体箔粗化処理層上にSnCu薄膜を堆積し、電極を作製した。なお、表1において、流量の単位であるsccmは、standard cubic centimeter per minutesである。
【0017】
【表1】

【0018】
また、SnCu薄膜を形成する前に、集電体箔粗化処理層上にNiCr層を成膜する条件を表2に示す。
【0019】
【表2】

【0020】
b)湿式めっき条件
集電体箔粗化処理層上に成膜したスパッタ薄膜上へのSnCuめっきを施す条件を表3に示す。めっき層の安定を良くするためにめっき浴をシアン浴にすることも可能である。
【0021】
【表3】

【0022】
c)粗化処理条件
粗化処理は、集電体箔上に電解銅めっきを施す処理であるが、SnCuのスパッタ成膜を形成する前に、電解脱脂−硫酸浴酸洗−硫酸銅浴めっきの順に電解銅めっきをした。硫酸銅浴での銅めっきは電流密度2〜3A/dm2で3μmの膜厚を付着させた。
【0023】
(2)測定方法
a)各Sn形成層
各活物質層の構造については以下のように厚みを測定した。
・スパッタ層
スパッタ層の膜厚は、NiCr膜については膜厚が薄いため、事前にスパッタ成膜速度を求めておき、形成時間から膜厚を算出した。SnCu合金膜については成膜サンプルの近くに膜厚測定用のサンプルをセットして、その一部に耐熱テープを貼り、スパッタ成膜後に耐熱テープを剥した非成膜部と成膜部の段差を触針式段差計にて測定する方法(スタイラス法)で求めた。また、成膜サンプル断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真からの計測も行なった。
・湿式めっき層
めっき層の膜厚についてはめっき後の膜厚をサンプル断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真から計測し、めっき前の厚みを引くことで求めた。
【0024】
b)充放電容量
・電池作製
前述のサンプルを2cm×2cmの大きさに切り出し、Niリード線を取り付けて負極とした。正極には金属リチウムを用いた。電解液はエチレンカーボネートとジメチルカーボネート体積比1:1の混合溶媒に、LiPFを1モル/リットル溶かして作製した。セパレーターには宝泉株式会社製セルガードを用いた。電池セルとしてビーカーセルを用いてグローブボックス内で電池を作製した。
上記電池に対し、0.25mA/cmで0Vまで充電した後、0.50mA/cmで2.0Vまで放電する工程を1サイクルとする充放電サイクル試験を20サイクル実施した。充放電容量の測定には北斗電工社製SM8を用いた。
【0025】
・特性評価
特性の評価として20サイクル目の放電容量、容量維持率および結合状態を用いた。容量維持率は1サイクル目の放電容量に対する20サイクル目の放電容量の割合を表している。結合状態の評価は充放電前後の負極サンプルの断面を顕微鏡観察により、剥離または亀裂の有無から判断した。
その評価の基準は、○:充放電前後に剥離または亀裂が認められない、△:充放電後に一部剥離または亀裂が認められる、×:充放電後にほぼ全面にわたって剥離または亀裂が認められる、とした。
【0026】
【表4】

【0027】
(3)評価結果
表4に結果を示す。
発明例No.1〜3は、活物質層SnCuがスパッタ成膜による層と湿式めっき成膜による層と2層をなしており、請求項の範囲にあるため、集電体と活物質層との良好な結合が得られ、優れた充放電特性を得ることができた。
さらに、No.4では、集電体と活物質層との間にNiCrの層を成膜することで、良好な結果が得られた。
【0028】
一方、比較例No.5では、湿式めっき成膜による活物質層と集電体箔との結合が悪かった。比較例No.6では集電体箔と活物質層との結合には問題はなかったが、出力を上げると熱負荷による変形およびCuの拡散が発生するため低出力でしか成膜出来ず、7μmの厚さを得るために相当の時間を必要し、量産には不向きである。さらに長時間の成膜のための熱負荷により集電体箔が変形した。比較例No.7では、集電体箔と活物質層との結合には問題はなかったが、湿式めっき層が薄いため、容量が足らなかった。また、比較例No.8では、集電体箔と活物質層との結合には問題はなかったが、湿式めっき層が厚いために湿式めっき層から部分的に剥離が見られ、容量も低下した。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施例1、2、3および比較例7、8によるリチウム二次電池用負極を構成する負極集電体の構造を示した断面図である。
【図2】本発明の比較例5、6によるリチウム二次電池用負極を構成する負極集電体の構造を示した断面図である。
【図3】本発明の比較例4によるリチウム二次電池用負極を構成する負極集電体の構造を示した断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極材として活物質層を粗化処理層上に保持する集電体を備え、その集電体が活物質としてSnおよびその化合物のスパッタ法による成膜層を粗化処理層上に有し、さらにその上に、Snおよびその化合物について湿式めっき、または真空蒸着による同じ組成の物質の成膜層を有し、その2層の合計の厚さが5〜18μmであることを特徴とするリチウムイオン2次電池負極材。
【請求項2】
負極材として活物質層を粗化処理層上に保持する集電体を備え、その集電体が活物質としてSiおよびその化合物のスパッタ法による成膜層を粗化処理層上に有し、さらにその上に、Siおよびその化合物について真空蒸着による同じ組成の物質の成膜層を有し、その2層の合計の厚さが5〜18μmであることを特徴とするリチウムイオン2次電池負極材。
【請求項3】
負極材として活物質層を粗化処理層上に保持する集電体を備え、その集電体が活物質としてSnおよびその化合物のスパッタ法による0.1〜3μm成膜層を粗化処理層上に有し、さらにその上にSnおよびその化合物について湿式めっき、または真空蒸着による5〜15μmの同じ組成の物質の成膜層を有することを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン2次電池負極材。
【請求項4】
負極材として活物質層を粗化処理層上に保持する集電体を備え、その集電体が活物質としてSiおよびその化合物のスパッタ法による0.1〜3μmの成膜層を粗化処理層上に有し、さらにその上にSiおよびその化合物について真空蒸着による5〜15μmの同じ組成の物質の成膜層を有することを特徴とする請求項2に記載のリチウムイオン2次電池負極材。
【請求項5】
Snおよびその化合物の活物質層を粗化処理層上に保持する集電体をNi、Crの少なくとも一つ以上を成膜してCu原子の拡散防止または結合性を改善させた請求項1または請求項3に関するリチウムイオン2次電池負極材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−273381(P2007−273381A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−99997(P2006−99997)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】