説明

リチウムポリマー電池

【課題】レート特性、サイクル特性向上、セルの膨れ防止等を改善したリチウムポリマー電池を提供する。
【解決手段】ゲル電解質が溶媒と架橋型高分子と下式で示される有機化合物とを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムポリマー電池に関し、特にゲル電解質に電池特性を向上させる有機化合物を含有させたリチウムポリマー電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムポリマー電池は、薄型化が可能であること、形状選択の自由度の高さ、電解液を用いないことに依る安全性の高さなどから、モバイル機器用の電源などとして注目されている。最近では、用いられるモバイル機器の機能の増加に伴い高エネルギー化と、それに伴う電池特性の改善が技術開発の目標となっている。
【0003】
こうした中で重要な技術課題として、1)安全性の向上、2)充放電サイクル特性の改善、3)高エネルギー密度化改善などが挙げられる。1)安全性の向上において、可燃性の有機電解液をゲルポリマーにトラップすることで漏液を防止することが提案されている。例えば、特許文献1では、2種類の低分子量アクリレートモノマーから構成されるゲル電解質が提案され、特許文献2では、繰り返し単位数が2〜4のポリプロピレングリコールアクリレートで構成されるゲル電解質が提案されている。また、特許文献3は、分子量5,000〜500,000のアクリル樹脂と架橋用モノマー(架橋用モノマーは1から30質量%の範囲内)から構成されるゲル電解質が提案され、特許文献4には分子量10,000〜25,000のオリゴマーなどが記載されている。次に、2)充放電サイクル特性については、用いるポリマー材料等を種々工夫することにより改善はなされてきた。特許文献5では、物理架橋型ポリマーと化学架橋型ゲル電解質を混合することによる改善が提案されている。特許文献6では、用いるセパレーター表面を改質することによりプレゲル溶液の含浸性についての改善が提案されている。また、非特許文献1においては、ゲル電解質を用いた二次電池について、電極材料(たとえば負極材料に高価であるがセル膨れ抑制効果のある人造黒鉛(塊状黒鉛)を使用)、セルの形状などの検討が行われ、セルの膨れ抑制や充放電サイクル特性の改善について記されている。3)高エネルギー密度化については、特許文献7において、物理ゲルを用いたリチウムポリマー電池において、ゲル電解質−活物質複合電極の多孔度を適切に規定することで容量密度が向上することが提案されている。このように、ゲル電解質を用いたリチウムポリマー電池においては、ゲル電解質の材質だけでなく、電極材料、セル形状、セル作製条件、電解液材料などの選択が極めて重要である。
【0004】
【特許文献1】特開2000−306604号公報
【特許文献2】特開2001−338690号公報
【特許文献3】特開2001−243835号公報
【特許文献4】特開2003−197262号公報
【特許文献5】特開2002−100406号公報
【特許文献6】特開2003−257490号公報
【特許文献7】特開平11−307100号公報
【非特許文献1】金村聖志監修、ポリマーバッテリーの最新技術II、p.242−247、シーエムシー出版(2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来技術を用いたリチウムポリマー電池は電解液を用いた二次電池よりもイオン伝導率が劣るため電池としてのレート特性及び充放電サイクル特性が劣るという欠点があった。また、特に高温での充放電サイクル特性や充電状態での保存特性(以下保存寿命という)が充分でなく原因は電池の抵抗上昇によるものであることが判明した。そのため、ポリマー材料に合わせた正極、負極、電解液、電解液添加剤、セパレーター及びこれらを用いた電池の設計や作製を行う必要がある。
【0006】
本発明は上記問題点に鑑みなされたものである。本発明の課題は、ゲル電解質をリチウムポリマー電池に適用する際に、そのイオン伝導率が液よりも低いことから問題となるレート特性、充放電サイクル特性向上、セルの膨れ防止、また高温での抵抗上昇による充放電サイクル特性、保存寿命低下等に対して、簡便な方法でリチウムポリマー電池の特性を向上させ、さらにリチウムポリマー電池のエネルギー密度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明のリチウムポリマー電池は、少なくとも正極、負極、セパレーター、ゲル電解質により構成されるリチウムポリマー電池であって、前記ゲル電解質が溶媒と架橋型高分子と化1で示される有機化合物とを含有する。
【0008】
【化1】

【0009】
但し、化1において、Zはハロゲン原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜10のアルキル基、ポリフルオロアルキル基、または置換もしくは無置換の炭素数4〜20の環状炭化水素、またはXR5(ここでXは酸素原子、硫黄原子またはNR6を表し、R6は水素原子または置換もしくは無置換の炭素数1〜10のアルキル基を表し、R5は置換もしくは無置換の炭素数4〜20の環状炭化水素を表す。)を表す。nは0〜4の整数を表す。A1及びA2はそれぞれ独立に酸素原子、硫黄原子または、A1がNR7でA2がNR8(ここでR7とR8はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のポリフルオロアルキル基または置換もしくは無置換の炭素数4〜20の環状炭化水素を表す。また、R7とR8はお互いに結合して環構造を形成しても良い。)を表す。Lは、メチレン基又は単結合を表す。Mは、ホウ素又はリンを表す。B1及びB2はそれぞれ独立にカルボニル基、置換もしくは無置換のアルキレン基又はポリフルオロアルキレン基を表す。mは、1〜3の整数を表す(ただし、Mがホウ素のとき2m+n=4、Mがリンのとき2m+n=6である。)
【0010】
また、本発明のリチウムポリマー電池は、前記正極が活物質としてマンガン酸リチウムを主成分とする場合、前記正極の充填密度が2.5g/cm3以上、3.0g/cm3以下であることが好ましく、前記正極が活物質としてコバルト酸リチウムを主成分とする場合、前記正極の充填密度が3.3g/cm3以上、3.8g/cm3以下であることが好ましい。
【0011】
また、本発明のリチウムポリマー電池は、前記負極の表面のSIMS測定において、ホウ素、及び酸素が深さ方向に0.1から1.0μmに存在することを示すピークを有することが好ましい。
【0012】
また、本発明のリチウムポリマー電池は、前記SIMS測定におけるホウ素、酸素のピークが前記化1で示される有機化合物の分解物を含むことが好ましい。
【0013】
また、本発明のリチウムポリマー電池は、化1で示される有機化合物の最低空軌道エネルギー(LUMO)が、−1.5eV以上0eV以下であることが好ましい。
【0014】
また、本発明のリチウムポリマー電池は、前記ゲル電解質が溶媒と架橋型高分子と0.1〜3.0質量%のビニレンカーボネートまたはその誘導体と0.05〜5.0質量%の化2または化3で示される有機化合物等の化1で示される有機化合物を含有するとよい。
【0015】
【化2】

【0016】
【化3】

【0017】
また、本発明のリチウムポリマー電池は、正極が活物質としてマンガン酸リチウム又はコバルト酸リチウムを含有し、架橋型高分子が、アクリル系高分子から構成され、溶媒が少なくとも鎖状カーボネート及び環状カーボネートを含有し、負極が活物質として黒鉛を含有し、ラミネート材により外装されていることが好ましい。
【0018】
ゲル電解質を含むリチウムポリマー電池では、そのゲル電解質の前駆体であるプレゲル溶液に、種々の官能基数を有するアクリル系高分子、及びレート特性、充放電サイクル特性を向上させるため化1で示される有機化合物、好ましくは化2または化3で示される有機化合物を含有させることにより、初期充電時のガス発生を抑制でき、かつゲル電解質と正極、負極、及びセパレーターとの間の相乗効果により、リチウムの正極、負極との受け渡しがスムーズになり、電解液同等のレート特性、充放電サイクル特性を提供することができる。
【0019】
ここでいう相乗効果とは以下のことを指す。すなわち、初期の充電により化1で示される化合物が反応し負極表面に一般的にSEI(Solid Electrolyte Interface)膜と呼ばれる皮膜が形成される。皮膜が形成されることにより、負極活物質と電子との受け渡しがスムーズになる。また、種々の官能基数を有するアクリル系高分子(具体的には鎖の短いもの、長いもの、重合基数が多いが鎖の短いもの)を混ぜることにより、セパレーターと各電極との密着性が向上する。具体的にはセパレーターの細孔には鎖の短いものが存在することにより含浸性が向上し、また重合基数が多いものが存在するとゲル化能力が向上し、かつセパレーターの細孔にある高分子と反応することにより部材の密着性が向上する。以上の要素が相乗し特性が向上することになる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によればリチウムポリマー電池において、そのゲル電解質が溶媒と架橋型高分子と化1で示される有機化合物とを含むことより、塊状黒鉛だけでなく従来ゲル電解質を用いた電池には不適とされていた鱗片状黒鉛を負極材料に用いたリチウムポリマー電池においても、初期充電時に活性な部位を上記化1で示される有機化合物が覆うため、ガス発生を抑制し、それに伴うセル膨れを軽減できる。また、ゲル電解質と正極、負極、及びセパレーターとの間の相乗効果のため、リチウムの正極、負極との受け渡しがスムーズになり、電解液を用いた場合と同等のレート特性、充放電サイクル特性を提供することができる。さらに、正極にマンガン酸リチウムを含有する場合、正極の充填密度が2.5g/cm3以上3.0g/cm3以下、また、コバルト酸リチウムを含有する場合、正極の充填密度が3.3g/cm3以上3.8g/cm3以下であればレート特性等の向上が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明のリチウムポリマー電池で使用される正極は、アルミニウム箔等の金属からなる集電体に正極活物質層を塗布、乾燥したものを圧縮し成型したものであり、負極は、銅箔等の金属からなる集電体に負極活物質を塗布、乾燥したものを圧縮し成型したものである。正極活物質にマンガン酸リチウムを含有する場合、正極の充填密度が2.5g/cm3以上3.0g/cm3以下が好ましく、コバルト酸リチウムを含有する場合、3.3g/cm3以上3.8g/cm3以下が好ましく、マンガン酸リチウムを含有する場合は2.8〜2.9g/cm3、コバルト酸リチウムを含有する場合には3.6〜3.7g/cm3が更に好ましい。上限より大きい場合は、レート特性等が悪化する。また下限より小さい場合、活物質同士の接触が不十分となりレート特性等が低下し、またエネルギー密度を上げることが難しい。セパレーターは、不織布、ポリオレフィン微多孔膜などリチウムポリマー電池で一般的に使用されるものであれば特に限定はされない。正極と負極をセパレーターを介して積み重ねて積層体を製作し、あるいは正極と負極をセパレーターを介して扁平に巻回した後成型した巻回体を製作し、積層体あるいは巻回体をラミネート材等の外装材に入れた後、ゲル電解質を注入し処理することによりリチウムポリマー電池を作製する。上記リチウムポリマー電池においては、初期充電により負極活物質とポリマー電解質界面に皮膜が形成され、その様子は特に負極のSIMS分析によりホウ素、及び酸素が深さ方向で0.1から1.0μmにわたりピーク(SIMS分析による検出値をピークと称する)を有することが好ましい。初期充電を行っていない電池においてはホウ素、及び酸素は最表面にのみわずかなピークを有し、負極材料であるカーボンでそのピークを規格化するとほとんど強度を有しない。このことから化1で示される添加剤は分解していないことがわかる。一方、初期充電を行ったものにおいては、電極の深さ方向0.1〜0.5μmとブロードなピークが観測される。このことから、化1で示される有機化合物は分解し皮膜を形成していることが示唆される。また多量の化1で示される有機化合物を添加したものでは上記結果よりもより深い、つまり厚い皮膜を形成することを示唆する結果となり負極界面の抵抗が上昇するため電池特性が劣ることとなる。なお、SIMS分析(2次イオン質量分析)については、Physical Electronics社製「ADEPT1010」を用い、1次イオン種をO2+、1次イオン加速エネルギーを3keVとした。測定サンプルの前処理としてリチウムポリマー電池を0.2C(ある容量の電池を一定の電流にて放電させ、ちょうど1時間で放電が終わったとき、その電流を1Cという)で3.0Vまで放電し、アルゴンガス雰囲気のグローブボックス内で電池を解体し、負極を切り出し大気に曝すことなく測定することができる。
【0022】
ゲル電解質に含まれるゲル化成分として、たとえば熱重合可能な重合基を一分子あたり2個以上有するモノマー、またはオリゴマー、共重合オリゴマーなどが挙げられる。このゲル化成分としては、アクリル系高分子を形成する、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、プロピレンジアクリレート、ジプロピレンジアクリレート、トリプロピレンジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレートなどの2官能アクリレート、また、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレートなどの3官能アクリレート、また、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレートなどの4官能アクリレート、および、上記メタクリレートモノマーなどが挙げられる。これらの他に、ウレタンアクリレート、ウレタンメタクリレートなどのモノマー、これらの共重合体オリゴマーやアクリロニトリルとの共重合体オリゴマーが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
また、ポリフッ化ビニリデンやポリエチレンオキサイド、ポリアクリロニトリルなどの、可塑剤に溶解させ、ゲル化させることのできるポリマーも使用できる。
【0024】
ゲル成分としては、上述のモノマー、オリゴマー、またはポリマーに限定されるものではなく、ゲル化可能なものであれば、使用できる。また、ゲル化には一種類のモノマー、オリゴマーまたはポリマーに限定されるものではなく、必要に応じて2〜数種のゲル化成分を混合しても使用できる。
【0025】
ゲル電解質に含まれる溶媒としては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)等の環状カーボネート類、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類、ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類、γ−ブチロラクトン等のγ−ラクトン類、1,2−エトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)等の鎖状エーテル類、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類、ジメチルスルホキシド、1,3−ジオキソラン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグライム、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1,3−プロパンスルトン、アニソール、N−メチルピロリドン、フッ素化カルボン酸エステルなどの非プロトン性有機溶媒を一種又は二種以上を混合して使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
ゲル電解質に含ませる化1で示される有機化合物は、化2、化3で示される有機化合物の他、化合物番号1〜7として表1に示される有機化合物があげられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0027】
【表1】

【0028】
負極活物質として、特に、リン片状黒鉛を用いる場合、人造黒鉛とは異なり活性な部位を有しており、充放電を行うたびにガス発生をまねき、セル膨れ、容量低下を引き起こすことから、電解液のみから構成される電池ではこの対策として、一般的にVC、1,3−プロパンスルトン(以下PS)などを用いている。例えばPSの最低空軌道エネルギー(LUMO)は0.07eVであり、PSが溶媒分子であるEC(LUMO:1.18eV)やDEC(LUMO:1.26eV)よりも先に分解し皮膜を形成することが考えられる。その結果溶媒分子の分解が抑制され、ガス発生による電池の膨れの抑制やレート特性改善が期待できる。本発明の系のようにポリマーゲル中に分散させた場合には、ゲルが高抵抗であるため上記VC、PSは負極電極上で分解皮膜が形成されにくい(最低空軌道エネルギー(LUMO):PS(0.07eV)、VC:0.09eV)。そのため、PSやVCよりもよりLUMOの小さい分子の添加剤が望ましく、−1.5eV以上0eV以下のものが最適である。化1で示される有機化合物はリチウムイオン二次電池の電極上での分解皮膜を形成すると考えられている。例えば化2で示される有機化合物の最低空軌道エネルギー(LUMO)は−1.21eVであり、化2で示される有機化合物が溶媒分子であるEC(LUMO:1.18eV)やDEC(LUMO:1.26eV)よりも先に分解し皮膜を形成することが考えられる。その結果、溶媒分子の分解が抑制され、ガス発生による電池の膨れの抑制やレート特性改善が期待できる。また、化3で示される有機化合物の最低空軌道エネルギー(LUMO)は−0.24eVである。また、例えば正極にマンガン酸リチウムを含む場合には化2または化3等の化1で示される有機化合物の添加によってゲル中に溶出したMnが負極表面に吸着することを防止し、結果として抵抗上昇によるレート特性の低下の抑制や充放電サイクル特性向上に有効であると考えられる。
【0029】
本発明においては、ゲル電解質に更にビニレンカーボネートまたはその誘導体を適宜含有させることにより化2または化3等の化1で示される有機化合物により形成された皮膜の安定化に有効である。ビニレンカーボネートは特に、正極にコバルト酸リチウムを用いた場合に効果が大きく、含有するビニレンカーボネートの濃度は、0.1質量%以上3.0質量%以下が好ましく、特に好ましくは0.1質量%以上1.0質量%以下である。
【0030】
本発明においては、ゲル電解質に更に環状スルホン酸エステル、環状ジスルホン酸エステル又は鎖状ジスルホン酸エステルを適宜含有させることによっても化2または化3で示される有機化合物により形成された皮膜の安定化に有効である。特に、正極にコバルト酸リチウムを用いた場合に効果が大きく、含有するスルホン酸エステルの濃度は、0.1質量%以上3.0質量%以下が好ましく、特に好ましくは0.1質量%以上1.0質量%以下である。
【0031】
これらのゲル電解質中に含まれる化2または化3等の化1で示される有機化合物の濃度は、特に限定されるものではないが、正極活物質としてマンガン酸リチウムを含む正極を使用した二次電池の場合には、0.05質量%以上5.0質量%以下が好ましく、更に好ましくは0.5質量%以上1.0質量%以下が特に好ましい。0.05質量%未満では電極表面に十分な皮膜が形成されず、充放電サイクル特性やレート特性の改善効果が小さい。5.0質量%を越えると、抵抗が高くなってレート特性が悪くなる。
【0032】
正極活物質としてコバルト酸リチウムを用いる場合には、ゲル電解質中に含まれる化2で示される有機化合物の濃度は、特に限定されるものではないが、0.05質量%以上5.0質量%以下が好ましい。0.05質量%未満では電極表面に十分な皮膜が形成されず、充放電サイクル特性やレート特性の改善効果が小さい。5.0質量%を越えると、抵抗が高くなってレート特性が悪くなる。
【0033】
ゲル電解質に含まれる支持塩としては、特に限定されないがLiPF6、LiBF4、LiAsPF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22など一般的にリチウムポリマー電池に用いられる電解質が使用できる。
【0034】
本発明において、必要に応じて、熱重合開始剤としてベンゾイン類、パーオキサイド類などが使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
また、正極活物質として、例えば、LiCoO2、LiNi1-xCox2、LiMn24、LiNixMn2-x4(0≦X≦1)複合酸化化物正極材料が使用できるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
負極活物質として、例えば、黒鉛、非晶質炭素、シリコン、シリコン酸化物、金属リチウム及びその合金などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
セパレーターとして、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、フッ素樹脂等の多孔性フィルムなどが使用できるが、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
実施例により本発明を図面を参照して詳細に説明する。
【0039】
図1は本発明のリチウムポリマー電池の正極の構成を説明する図であり、図2は本発明のリチウムポリマー電池の負極の構成を説明する図であり、図3は本発明のリチウムポリマー電池の巻回後の電池要素の構成を説明する図であり、図4は本発明のリチウムポリマー電池の外装工程を説明する図である。
【0040】
(実施例1)
先ず、図1により正極の作製について説明する。LiMn24を85質量%、導電補助材としてアセチレンブラックを7質量%、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン8質量%とを混合したものに、N−メチルピロリドンを加えてさらに混合して正極スラリーを作製した。これをドクターブレード法により集電体となる厚さ20μmのAl箔2の両面にロールプレス処理後の厚さが160μm、充填密度が2.8g/cm3になるように塗布し、正極活物質塗布部3を形成した。なお、両端部にはいずれの面にも正極活物質が塗布されていない正極活物質非塗布部4を設け、一方の正極活物質非塗布部4に正極導電タブ6を設け正極1とした。
【0041】
次に、図2により負極の作製について説明する。鱗片状黒鉛90質量%、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン10質量%とを混合し、N−メチルピロリドンを加えてさらに混合して負極スラリーを作製した。これを集電体となる厚さ10μmのCu箔8両面にロールプレス処理後の厚さが120μmになるように塗布し、負極活物質塗布部9を形成した。なお、両端部の一方の端面には片面のみ負極活物質が塗布されていない負極活物質片面塗布部10と負極活物質が塗布されていない負極活物質非塗布部11を設け、負極導電タブ12を取り付け負極7とした。
【0042】
図3により電池要素の作製について説明する。膜厚12μm、気孔率35%のポリエチレン製の微多孔膜からなるセパレーター13を二枚溶着して切断した部分を巻回装置の巻き芯に固定し巻きとり、正極1、及び負極7の先端を導入する。正極1および負極7は両面に電極活物質層が形成されている側を先端側として、負極は二枚のセパレーターの間に、正極電極はセパレーターの上面にそれぞれ配置して巻き芯を回転させ巻回し、電池要素(以下ジェリーロール(J/R)と表記)を形成した。
【0043】
このJ/Rを図4に示すようにエンボス加工したラミネート外装体に収容し、ラミネート外装体の辺を折り返し、プレゲル溶液注液用の部分を残して熱融着を行った。
【0044】
プレゲル溶液は、エチレンカーボネート(EC)30質量%とジエチルカーボネート(DEC)58質量%に、リチウム塩としてLiPF612質量%からなる電解液に対して、化2で示される有機化合物を1質量%、ゲル化剤としてトリエチレングリコールジアクリレートとトリメチロールプロパントリアクリレートをそれぞれ3.8質量%、1質量%を加え、よく混合した後に、重合開始剤として、t−ブチルパーオキシピバレートを0.5質量%混合することで作製した。
【0045】
次に、プレゲル溶液を注液部分から注液し真空含浸を行い、リチウムポリマー電池を得た。
【0046】
(初期充放電容量測定条件)
得られたリチウムポリマー電池を、電池電圧4.2Vまで充電し(充電条件:電流:0.2C、時間6.5H(時間)、温度20℃)、0.2Cで電池電圧3.0Vまで放電しそのときの放電容量を初期容量とした。
【0047】
(負極表面分析)
放電済みのリチウムポリマー電池をアルゴン雰囲気下で解体し、負極を切り出して大気に触れさせずにSIMS分析を行った。この分析により得られた値は、上述のように、初期充電を行っていない電池においてはホウ素、及び酸素は最表面にのみわずかなピークを有し、負極材料であるカーボンでそのピークを規格化するとほとんど強度を有しない。このことから化1で示される添加剤は分解していないことがわかる。一方初期充電を行ったものにおいては、電極の深さ方向の0.1〜0.5μmにブロードなピークが観測される。このことから、化1で示される有機化合物は分解し皮膜を形成していることが示唆される。また多量の化1で示される有機化合物を添加したものでは上記結果よりもより深い、つまり厚い皮膜を形成することを示唆し、その結果、負極界面の抵抗が上昇するため電池特性が劣ることとなる。また、充放電サイクル試験前後のそれぞれの強度を比較することにより安定な水準であれば強度は同じ値となり、劣化しているものであればSEIが過剰に形成する場合その強度比は大きな値を示し、崩壊する場合はその強度は小さくなる。表2にSIMS分析結果によるホウ素および酸素のピークの深さ方向の値を示した。
【0048】
(レート特性)
得られたリチウムポリマー電池のレート特性は、電池電圧4.2Vまで充電された電池を0.2Cで電池電圧3.0Vまで放電し得られた放電容量を1とし、放電レート(1.0C)で放電し得られた放電容量との比で表2に示した。
【0049】
(充放電サイクル試験における体積変化率、容量維持率)
得られたリチウムポリマー電池の充放電サイクル試験後のセル体積変化率は、初期充電後のセル体積を1.0とし、充放電サイクル試験後のセル体積との比で表2に示した。なお、充放電サイクル試験の条件は、充電:上限電圧4.2V、電流:1C、時間2.5H、放電:下限電圧3.0V、電流:1Cいずれも20℃で100サイクル実施した。容量維持率は1サイクル目の放電容量(1C)に対する100サイクル目の放電容量(1C)の割合で表2に示した。また、サイクル前に対するサイクル後のSIMS分析結果によるホウ素および酸素のピークの強度比を表2に示した。
【0050】
(保存寿命測定、容量回復率)
得られたリチウムポリマー電池の保存試験は、まず室温にて0.2Cにて充電及び放電を一回ずつ行った。このときの放電容量を100した。さらに0.2Cにて4.2Vまで充電し、この状態にて1kHzの抵抗を測定した後、45℃恒温槽にて3ヶ月放置した。放置後に室温において再度0.2Cにて3.0Vを下限値とし放電、続いて上限を4.2Vとし充電し1kHzの抵抗を測定した後保存前後におけるセル抵抗の増加率を求めた。またさらに放電を行いこの充電後の放電容量を保存後の回復容量とした。45℃保存試験によるセル体積増加率、セル抵抗増加率、容量回復率の結果を表3に示した。
【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
(実施例2)
化2で示される有機化合物の濃度が0.5質量%になるようにゲル電解質を調整する以外、実施例1と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0054】
(実施例3)
化2で示される有機化合物の濃度が0.1質量%になるようにゲル電解質を調整する以外、実施例1と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0055】
(実施例4)
化2で示される有機化合物の濃度が2.0質量%になるようにゲル電解質を調整する以外、実施例1と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0056】
(実施例5)
化2で示される有機化合物の濃度が3.0質量%になるようにゲル電解質を調整する以外、実施例1と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0057】
(実施例6)
化2で示される有機化合物の濃度が5.0質量%になるようにゲル電解質を調整する以外、実施例1と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0058】
(実施例7)
化2で示される有機化合物の濃度が0.05質量%になるようにゲル電解質を調整する以外、実施例1と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0059】
(実施例8)
使用する負極材料が塊状黒鉛であること以外、実施例1と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0060】
(実施例9)
使用する負極材料が塊状黒鉛であること以外、実施例5と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0061】
(実施例10)
負極材料に塊状黒鉛を用いる以外、実施例6と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0062】
(比較例1)
プレゲル溶液中の化2で示される有機化合物の濃度が0質量%である以外は実施例1と同様にしてリチウムポリマー電池を作製した。
【0063】
(比較例2)
化2で示される有機化合物の濃度が8.0質量%になるようにゲル電解質を調整する以外、実施例1と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0064】
(比較例3)
化2で示される有機化合物の代わりに、VCを用いる以外、実施例1と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0065】
(比較例4)
化2で示される有機化合物の代わりに、PSを用いる以外、実施例1と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0066】
(比較例5)
負極材料に塊状黒鉛を用いる以外、比較例1と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0067】
(比較例6)
負極材料に塊状黒鉛を用いる以外、比較例3と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0068】
(比較例7)
負極材料に塊状黒鉛を用いる以外、比較例4と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0069】
本発明のリチウムポリマー電池において、表2、3の実施例1〜7に示すように、化2で示される有機化合物の濃度が0.05以上5.0質量%以下の場合、レート特性等において化2で示される有機化合物をそれ以外の濃度を添加した比較例1〜2よりも明らかに特性が良好であることがわかった。また、実施例1、比較例3、比較例4に示すように、化2で示される有機化合物を用いた場合、同濃度のVC、PSを用いた系よりもレート特性等において明らかに特性が良好であることがわかった。また、実施例1〜7に示すように、化2で示される有機化合物を使用した場合、比較例3,4と比較して高温での保存特性が向上することがわかった。これは、評価前後においてSIMS測定により得られたホウ素、酸素ピーク強度が変化していないことから、化2で形成されたSEIが高温でも安定であるため抵抗上昇を抑制するためである。
【0070】
また、特性が良好といわれる塊状黒鉛を用いた場合(実施例8〜10、比較例5〜7)、鱗片状黒鉛を用いた場合といずれにおいても同じ傾向が見られ、化2は従来ゲル電解質を用いた電池には不適とされていた鱗片状黒鉛でも良好な特性を示すことが明らかになった。
【0071】
(実施例11)
化2で示される有機化合物の代わりに化3で示される有機化合物を用いる以外、実施例1と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0072】
(実施例12)
化2で示される有機化合物の代わりに化3で示される有機化合物を用いる以外、実施例2と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0073】
(実施例13)
化2で示される有機化合物の代わりに化3で示される有機化合物を用いる以外、実施例3と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0074】
(実施例14)
化2で示される有機化合物の代わりに化3で示される有機化合物を用いる以外、実施例4と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0075】
(実施例15)
化2で示される有機化合物の代わりに化3で示される有機化合物を用いる以外、実施例5と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0076】
(実施例16)
化2で示される有機化合物の代わりに化3で示される有機化合物を用いる以外、実施例6と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0077】
(実施例17)
化2で示される有機化合物の代わりに化3で示される有機化合物を用いる以外、実施例7と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0078】
(実施例18)
化2で示される有機化合物の代わりに化3で示される有機化合物を用いる以外、実施例8と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0079】
(実施例19)
化2で示される有機化合物の代わりに化3で示される有機化合物を用いる以外、実施例9と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0080】
(実施例20)
化2で示される有機化合物の代わりに化3で示される有機化合物を用いる以外、実施例10と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0081】
(比較例8)
化2で示される有機化合物の代わりに化3で示される有機化合物を用いる以外、比較例2と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0082】
実施例11〜20および比較例1,8についてのレート特性、サイクル試験における容量維持率、セル体積変化率について表4に、また45℃保存試験評価結果を表5に示した。
【0083】
【表4】

【0084】
【表5】

【0085】
本発明のリチウムポリマー電池において、表4、5の実施例11〜17に示すように、化3で示される有機化合物の濃度が0.05以上5.0質量%以下の場合、レート特性等においてそれ以外の濃度の化3で示される有機化合物を添加した比較例1、比較例8よりも明らかに特性が良好であることがわかった。また、上記の化2で示される有機化合物と同様に、実施例11、比較例3、比較例4に示すように、化3で示される有機化合物を用いた場合、同濃度のVC、PSを用いた系よりもレート特性等において明らかに特性が良好であることがわかった。また、実施例11〜17に示すように、化3で示される有機化合物を使用した場合、比較例1、比較例3、4と比較して高温での保存寿命特性が向上することがわかった。これは、評価前後においてSIMS測定により得られたホウ素、酸素ピーク強度が変化していないことから、化3で示される有機化合物で形成されたSEIが高温でも安定であるため抵抗上昇を抑制するためである。また、特性が良好といわれる塊状黒鉛を用いた場合(実施例18〜20)、鱗片状黒鉛を用いた場合といずれにおいても同じ傾向が見られ、化3で示される有機化合物は従来ゲル電解質を用いた電池には不適とされていた鱗片状黒鉛でも良好な特性を示すことが明らかになった。
【0086】
(実施例21)
正極にコバルト酸リチウムを用いた本実施例における正極は次のように作製した。LiCoO2を87質量%、導電補助材としてアセチレンブラックを5質量%、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン8質量%を混合したものに、N−メチルピロリドンを加えてさらに混合して正極スラリーを作製した。それ以外は実施例1と同様に正極、負極を作製しセルを作製した。なお、正極の充填密度が3.6g/cm3となるよう作製した。また、プレゲル溶液は、VC:0.5質量%、化2で示される有機化合物の質量を1.0質量%とした以外は実施例1と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0087】
(実施例22)
化2で示される有機化合物が0.5質量%になるようにゲル電解質を調整する以外、実施例21と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0088】
(実施例23)
化2で示される有機化合物が0.1質量%になるようにゲル電解質を調整する以外、実施例21と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0089】
(実施例24)
化2で示される有機化合物が2.0質量%になるようにゲル電解質を調整する以外、実施例21と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0090】
(実施例25)
化2で示される有機化合物が3.0質量%になるようにゲル電解質を調整する以外、実施例21と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0091】
(実施例26)
化2で示される有機化合物が5.0質量%になるようにゲル電解質を調整する以外、実施例21と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0092】
(実施例27)
化2で示される有機化合物が0.05質量%になるようにゲル電解質を調整する以外、実施例21と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0093】
(実施例28)
VCが0.5質量%、化2で示される有機化合物が0.1質量%になるようにゲル電解質を調整する以外、実施例21と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0094】
(実施例29)
VCが3.0質量%、化2で示される有機化合物が0.1質量%になるようにゲル電解質を調整する以外、実施例21と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0095】
(実施例30)
負極材料を塊状黒鉛とする以外、実施例21と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0096】
(実施例31)
負極材料を塊状黒鉛とする以外、実施例25と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0097】
(比較例9)
化2で示される有機化合物が0質量%になるようにゲル電解質を調整する以外、実施例21と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0098】
(比較例10)
化2で示される有機化合物が6.0質量%になるようにゲル電解質を調整する以外、実施例21と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0099】
(比較例11)
化2で示される有機化合物が8.0質量%になるようにゲル電解質を調整する以外、実施例21と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0100】
(比較例12)
VCが3.0質量%、化2で示される有機化合物が0質量%になるようにゲル電解質を調整する以外、実施例21と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0101】
(比較例13)
負極材料を塊状黒鉛とする以外、比較例10と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0102】
(比較例14)
負極材料を塊状黒鉛とする以外、比較例11と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0103】
(比較例15)
負極材料を塊状黒鉛とする以外、比較例12と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0104】
実施例21〜31および比較例9〜15についてのレート特性、サイクル試験における容量維持率、セル体積変化率について表6に、また45℃保存試験評価結果を表7に示した。
【0105】
【表6】

【0106】
【表7】

【0107】
本発明のリチウムポリマー電池において、表6、表7の実施例21〜27に示すように、化2で示される有機化合物の濃度が0.05以上5.0質量%以下の場合、レート特性等において化2で示される有機化合物がそれ以外の濃度を添加した比較例9〜11よりも明らかに特性が良好であることがわかった。
【0108】
実施例28、実施例29より、化2で示される有機化合物にVCを添加することにより添加剤量が少なくとも化2で示される有機化合物を単独で用いるのと同程度以上の特性を示すことが明らかになった。
【0109】
また、特性が良好といわれる塊状黒鉛を用いた場合(実施例30,31、比較例13〜15)、鱗片状黒鉛を用いた場合といずれにおいても同じ傾向が見られ、化2で示される有機化合物は正極にMnを用いた場合同様、従来ゲル電解質を用いた電池には不適とされていた鱗片状黒鉛でも良好な特性を示すことが明らかになった。
【0110】
(実施例32)
化2で示される有機化合物の代わりに化3で示される有機化合物を用いる以外、実施例21と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0111】
(実施例33)
化2で示される有機化合物の代わりに化3で示される有機化合物を用いる以外、実施例22と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0112】
(実施例34)
化2で示される有機化合物の代わりに化3で示される有機化合物を用いる以外、実施例23と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0113】
(実施例35)
化2で示される有機化合物の代わりに化3で示される有機化合物を用いる以外、実施例24と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0114】
(実施例36)
化2で示される有機化合物の代わりに化3で示される有機化合物を用いる以外、実施例25と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0115】
(実施例37)
化2で示される有機化合物の代わりに化3で示される有機化合物を用いる以外、実施例26と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0116】
(実施例38)
化2で示される有機化合物の代わりに化3で示される有機化合物を用いる以外、実施例27と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0117】
(実施例39)
化2で示される有機化合物の代わりに化3で示される有機化合物を用いる以外、実施例28と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0118】
(実施例40)
化2で示される有機化合物の代わりに化3で示される有機化合物を用いる以外、実施例29と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0119】
(実施例41)
化2で示される有機化合物の代わりに化3で示される有機化合物を用いる以外、実施例30と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0120】
(実施例42)
化2で示される有機化合物の代わりに化3で示される有機化合物を用いる以外、実施例31と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0121】
(比較例16)
化2で示される有機化合物が0質量%になるようにゲル電解質を調整する以外、実施例32と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0122】
(比較例17)
化2で示される有機化合物の代わりに化3で示される有機化合物を用いる以外、比較例10と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0123】
(比較例18)
化2で示される有機化合物の代わりに化3で示される有機化合物を用いる以外、比較例11と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0124】
(比較例19)
負極材料に塊状黒鉛を用いる以外、比較例17と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0125】
(比較例20)
負極材料に塊状黒鉛を用いる以外、比較例18と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0126】
実施例32〜42および比較例16〜20についてのレート特性、サイクル試験における容量維持率、セル体積変化率について表8に、また45℃保存試験評価結果を表9に示した。
【0127】
【表8】

【0128】
【表9】

【0129】
本発明のリチウムポリマー電池において、表8、9の実施例32〜38に示すように化3で示される有機化合物の濃度が0.05以上5.0質量%以下の場合、レート特性等において化3で示される有機化合物がそれ以外濃度を添加した比較例16〜18よりも明らかに特性が良好であることがわかった。
【0130】
また、特性が良好といわれる塊状黒鉛を用いた場合(実施例41、42、比較例19、20)、鱗片状黒鉛を用いた場合といずれにおいても同じ傾向が見られ、化3で示される有機化合物は正極にMnを用いた場合同様、従来ゲル電解質を用いた電池には不適とされていた鱗片状黒鉛でも良好な特性を示すことが明らかになった。
【0131】
(実施例43)
正極の充填密度を2.7g/cm3にする以外は実施例1と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0132】
(実施例44)
正極の充填密度を2.6g/cm3にする以外は実施例1と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0133】
(実施例45)
正極の充填密度を2.5g/cm3にする以外は実施例1と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0134】
(実施例46)
正極の充填密度を2.9g/cm3にする以外は実施例1と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0135】
(実施例47)
正極の充填密度を3.0g/cm3にする以外は実施例1と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0136】
(比較例21)
正極の充填密度を2.4g/cm3にする以外は実施例1と同様にしてリチウムポリマー電池を作製し、評価を行った。
【0137】
(比較例22)
正極の充填密度を3.1g/cm3にする以外は実施例1と同様にしてリチウムポリマー電池を作製し、評価を行った。
【0138】
実施例1、43〜47および比較例21、22についてのレート特性、サイクル試験における容量維持率について表10に示した。
【0139】
【表10】

【0140】
本発明のリチウムポリマー電池において、表10の実施例1、43〜47に示すように、正極の活物質にマンガン酸リチウムを用いたものでは、正極の充填密度が2.5g/cm3以上3.0g/cm3以下の場合、レート特性等においてそれ以下およびそれ以上の電極密度とした比較例21、および比較例22よりも明らかに特性が良好であることがわかった。
【0141】
(実施例48)
正極の充填密度を3.5g/cm3にする以外は実施例21と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0142】
(実施例49)
正極の充填密度を3.4g/cm3にする以外は実施例21と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0143】
(実施例50)
正極の充填密度を3.3g/cm3にする以外は実施例21と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0144】
(実施例51)
正極の充填密度を3.7g/cm3にする以外は実施例21と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0145】
(実施例52)
正極の充填密度を3.8g/cm3にする以外は実施例21と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0146】
(比較例23)
正極の充填密度を3.2g/cm3にする以外は実施例1と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0147】
(比較例24)
正極の充填密度を3.9g/cm3にする以外は実施例1と同様にセルを作製し、評価を行った。
【0148】
実施例21、48〜52および比較例23、24についてのレート特性、サイクル試験における容量維持率について表11に示した。
【0149】
【表11】

【0150】
本発明のリチウムポリマー電池において、表11の実施例21、48〜52に示すように、正極の活物質にコバルト酸リチウムを用いたものでは、正極の充填密度が3.3g/cm3以上3.8g/cm3以下の場合、レート特性等においてその範囲を超える正極の充填密度とした比較例23、および比較例24よりも明らかに特性が良好であることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【図1】本発明のリチウムポリマー電池の正極の構成を説明する図。
【図2】本発明のリチウムポリマー電池の負極の構成を説明する図。
【図3】本発明のリチウムポリマー電池の巻回後の電池要素の構成を説明する断面図。
【図4】本発明のリチウムポリマー電池の外装工程を説明する図。
【符号の説明】
【0152】
1 正極
2 Al箔
3 正極活物質塗布部
4 正極活物質非塗布部
5 正極活物質片面塗布部
6 正極導電タブ
7 負極
8 Cu箔
9 負極活物質塗布部
10 負極活物質片面塗布部
11 負極活物質非塗布部
12 負極導電タブ
13 セパレーター
14 セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも正極、負極、セパレーター、ゲル電解質により構成されるリチウムポリマー電池であって、前記ゲル電解質が溶媒と架橋型高分子と化1で示される有機化合物とを含有するリチウムポリマー電池 [但し、化1において、Zはハロゲン原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜10のアルキル基、ポリフルオロアルキル基、または置換もしくは無置換の炭素数4〜20の環状炭化水素、またはXR5(ここでXは酸素原子、硫黄原子またはNR6を表し、R6は水素原子または置換もしくは無置換の炭素数1〜10のアルキル基を表し、R5は置換もしくは無置換の炭素数4〜20の環状炭化水素を表す。)を表す。nは0〜4の整数を表す。A1及びA2はそれぞれ独立に酸素原子、硫黄原子または、A1がNR7でA2がNR8(ここでR7とR8はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子、置換もしくは無置換の炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のポリフルオロアルキル基または置換もしくは無置換の炭素数4〜20の環状炭化水素を表す。また、R7とR8はお互いに結合して環構造を形成しても良い。)を表す。Lは、メチレン基又は単結合を表す。Mは、ホウ素又はリンを表す。B1及びB2はそれぞれ独立にカルボニル基、置換もしくは無置換のアルキレン基又はポリフルオロアルキレン基を表す。mは、1〜3の整数を表す(ただし、Mがホウ素のとき2m+n=4、Mがリンのとき2m+n=6である。)] 。
【化1】

【請求項2】
前記正極が活物質としてマンガン酸リチウムを主成分とし、前記正極の充填密度が2.5g/cm3以上、3.0g/cm3以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムポリマー電池。
【請求項3】
前記正極が活物質としてコバルト酸リチウムを主成分とし、前記正極の充填密度が3.3g/cm3以上、3.8g/cm3以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムポリマー電池。
【請求項4】
前記負極の表面のSIMS測定において、ホウ素、及び酸素が深さ方向に0.1から1.0μmに存在することを示すピークを有する請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムポリマー電池。
【請求項5】
前記SIMS測定におけるホウ素、及び酸素のピークが前記化1で示される有機化合物の分解物を含む請求項4に記載のリチウムポリマー電池。
【請求項6】
前記化1で示される有機化合物の最低空軌道エネルギー(LUMO)が、−1.5(eV)以上0(eV)以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウムポリマー電池。
【請求項7】
前記ゲル電解質が溶媒と架橋型高分子と0.1〜3.0質量%のビニレンカーボネートまたはその誘導体と0.05〜5.0質量%の化1で示される有機化合物を含有する請求項1〜6のいずれか1項に記載のリチウムポリマー電池。
【請求項8】
前記化1で示される有機化合物が化2、または化3で示される有機化合物である請求項1〜7のいずれか1項に記載のリチウムポリマー電池。
【化2】

【化3】

【請求項9】
前記正極がコバルト酸リチウムを含有し、前記ゲル電解質がビニレンカーボネートまたはその誘導体を含有する溶媒と架橋型高分子と0.05〜5.0質量%の化1で示される有機化合物を含有する請求項1〜8のいずれか1項に記載リチウムポリマー電池。
【請求項10】
前記正極がマンガン酸リチウムを含有し、前記ゲル電解質がビニレンカーボネートまたはその誘導体を含有する溶媒と架橋型高分子と0.05〜5.0質量%の化1で示される有機化合物を含有する請求項1〜8のいずれか1項に記載リチウムポリマー電池。
【請求項11】
前記架橋型高分子が、アクリル系高分子から構成される請求項1〜10のいずれか1項に記載のリチウムポリマー電池。
【請求項12】
前記溶媒が少なくとも鎖状カーボネート及び環状カーボネートを含有する請求項1〜11のいずれか1項に記載のリチウムポリマー電池。
【請求項13】
前記負極が活物質として黒鉛を含有する請求項1〜12のいずれか1項に記載のリチウムポリマー電池。
【請求項14】
ラミネート材により外装されている請求項1〜13のいずれか1項に記載のリチウムポリマー電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−192593(P2008−192593A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−195663(P2007−195663)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】