説明

リチウム二次電池正極活物質用被覆材、リチウム二次電池正極活物質、リチウム二次電池、および、それらの製造方法

【課題】高温保存時のガス発生抑制の抑制と、電池性能の低下の抑制を図る。
【解決手段】下記(式1)で示される重合体を含むリチウム二次電池正極活物質用被覆材。(式1)において、nは1以上10以下である。xはスルホニル基を含む繰り返し単位の繰り返し単位数である。
【化1】


また、リチウム二次電池正極活物質用被覆材を含むリチウム二次電池正極活物質であって、前記リチウム二次電池正極活物質の表面に形成されているリチウム二次電池正極活物質。また、上記リチウム二次電池正極活物質を含むリチウム二次電池であって、重合体が、リチウム二次電池正極活物質に対して、0.001wt%以上10wt%以下であるリチウム二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池正極活物質用被覆材、リチウム二次電池正極活物質用、リチウム二次電池、および、それらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は高エネルギー密度を持ち、その特性を生かし、ノートパソコンや携帯電話などに広範に利用されている。近年では、二酸化炭素の増加に伴う地球温暖化防止の観点から電気自動車への関心が高まり、その電源としてもリチウム二次電池の適用が検討されている。
【0003】
このような優れた特性を持つリチウム二次電池であるが、課題もある。その一つとして、安全性の向上がある。なかでも、高温保存時の電池の安全性向上が重要な課題である。
【0004】
リチウム二次電池を高温で保存すると、電池内部で電解液が分解しガスが生じる。ガスが生じると、電池缶が膨らみ、電池の安全性が低下する。この問題は、角型電池で顕著になるため、対策が必要になる。また、電池容量の低下も問題になる。特許文献1には、電池にプロパンスルトンを添加して、電池性能を改善する検討が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−86249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のように、電池にプロパンスルトンを添加した場合、ガス発生抑制効果はあるが、プロパンスルトンが負極で分解するため、電池性能が低下する可能性がある。そのため、高温保存時のガス発生抑制効果があり、なおかつ電池性能の低下を抑制できる被覆材および被覆方法の開発が急務であった。
【0007】
本発明の目的は、高温保存時の電池性能の向上とガス発生抑制を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の特徴は、例えば以下の通りである。
(1)下記(式1)で示される重合体を含むリチウム二次電池正極活物質用被覆材。
【0009】
【化1】

【0010】
(式1)において、nは1以上10以下である。
xはスルホニル基を含む繰り返し単位の繰り返し単位数である。
(2)上記において、重合体は、下記(式2)で示される共重合体であるリチウム二次電池正極活物質用被覆材。
【0011】
【化2】

【0012】
(式2)において、pは2以上である。
Xは、O、S、Nのいずれか一つ以上である。
yはXを含む繰り返し単位の繰り返し単位数である。
(3)上記において、前記共重合体は、下記(式3)で示される共重合体であるリチウム二次電池正極活物質用被覆材。
【0013】
【化3】

【0014】
(式3)において、qは2以上である。
(4)上記のリチウム二次電池正極活物質用被覆材を含むリチウム二次電池正極活物質であって、リチウム二次電池正極活物質の表面に形成されているリチウム二次電池正極活物質。
(5)上記のリチウム二次電池正極活物質を含むリチウム二次電池であって、前記重合体が、前記リチウム二次電池正極活物質に対して、0.001wt%以上10wt%以下であるリチウム二次電池。
(6)上記において、電池の形状が角型であるリチウム二次電池。
(7)上記のリチウム二次電池正極活物質用被覆材の製造方法であって、環状スルトンの開環重合により重合体が形成される工程を含むリチウム二次電池正極活物質用被覆材の製造方法。
(8)上記のリチウム二次電池正極活物質の製造方法であって、以下の工程を含むリチウム二次電池正極活物質の製造方法。
(A)前記リチウム二次電池正極活物質に、溶媒に溶解させた重合体を添加し撹拌する工程
(B)前記(A)の工程後に、前記溶媒を除去する工程
【発明の効果】
【0015】
本発明により、高温保存時のガス発生抑制の抑制と、電池性能の低下の抑制を図ることが可能になる。上記した以外の課題、構成及び効果は以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ラミネート型リチウムイオン電池の断面図である。
【図2】角型リチウムイオン電池を示す斜視図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面等を用いて、本発明の実施形態について説明する。以下の説明は本発明の内容の具体例を示すものであり、本発明がこれらの説明に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更および修正が可能である。また、本発明を説明するための全図において、同一の機能を有するものは、同一の符号を付け、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0018】
本発明の実施形態で被覆材として用いるポリマーは、分子内にスルホニル基(−SO3−)を有するポリマーである。具体的には、環状スルトンの開環重合体である。ポリマーの主鎖にSO3基を有するポリマーで正極活物質を被覆することで、高温保存時のガス発生抑制が図れる。また、上記のポリマーは、高温保存時の電池性能の低下を抑制できる。正極活物質の表面にポリマーが選択的に形成され、負極で分解されない。この場合、ポリマーは負極に存在しない、または、ほとんど存在しない。但し、経年変化でポリマーが正極活物質から剥れ、負極に浸透する可能性がある。
【0019】
環状スルトンとは、(式4)で表わされる環状化合物である。
【0020】
【化4】

【0021】
(式4)におけるRとしては、H、またはアルキル基が好ましく、被覆材の特性の観点からは、Hが特に好ましい。(式4)におけるnとしては、1以上10以下であることが好ましい。環状スルトンとして、具体的には、1,1−メタンスルトン、1,2−エタンスルトン、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、1,5−ペンタンスルトン、1,7−ヘキサンスルトン、2,4−ブタンスルトン、2,5−ペンタンスルトン等があげられる。被覆材としての特性の観点からは、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンスルトン、1,5−ペンタンスルトンが好ましく、1,3−プロパンスルトンが特に好ましい。
【0022】
(式4)で表わされる環状化合物のポリマーは、以下の(式1)で表わされる。(式1)におけるnとしては、1以上10以下であることが好ましい。(式1)におけるxは、スルホニル基(−SO3−)を含む繰り返し単位の繰り返し単位数である。
【0023】
【化5】

【0024】
ポリマーの合成は、開環重合の方法である環状スルトンに重合開始剤を添加し合成することができる。重合開始剤としては、重合開始剤として機能すれば特に限定はされないが、アミン類、アルカリ化合物、SnCl4、BF3、BF5、Zn、アルカリ土類金属の酸化物、有機金属化合物などが用いられる。重合開始剤において、アミン類が好適に用いられる。アミン類としては、トリメチルアミンや、トリエチルアミンが、合成上の観点から好適に用いられる。
【0025】
また、本発明のポリマーは、1種単独または2種以上の他の環状モノマーと共重合したポリマーも用いることができる。共重合する環状モノマーとしては、(式5)の官能基XがO、S、Nのいずれか一つ以上を含むものであり、具体的には、エーテル(−O−)、イミン(−NH−)、ラクトン(−COO−)、ラクタム(−CONH−)、オレフィン(−CH=CH−)、スルフィド(−S−)で表わされるものが挙げられる。(式5)におけるnとしては、1以上10以下であることが好ましい。
【0026】
【化6】

【0027】
Xとしては、エーテル、ラクトンが好ましい。これらを選択することで、正極界面でのイオン授受が円滑になり、電池性能が低下しない被覆材の提供が可能になる。また、(式5)のRは、Hまたはアルキル基である。
【0028】
Xがエーテルの場合は、nは3以上5以下、また7が好適に用いられる。Xがラクトンの場合は、nは4、6、7が好適に用いられる。nを選択することで、開環重合反応がスムーズに進行し、高収率で目的とするポリマーを合成することができる。
【0029】
共重合したポリマーとして、具体的には以下の(式2)や(式3)で表わされる化合物等があげられる。
【0030】
【化7】

【0031】
(式2)において、pは2以上である。Xは、O、S、Nのいずれか一つ以上である。yはXを含む繰り返し単位の繰り返し単位数である。
【0032】
【化8】

【0033】
(式3)において、qは2以上である。Xは、O、S、Nのいずれか一つ以上である。yはXを含む繰り返し単位の繰り返し単位数である。
【0034】
また、本発明の実施形態にかかるポリマーは、1種単独または2種以上のアクリルモノマーとアニオン重合により共重合したポリマーを用いることができる。
【0035】
正極活物質の被覆方法は、正極活物質にポリマーが被覆されれば特に問わないが、(1)正極活物質に、予め溶媒に溶解させたポリマーを添加し撹拌後、溶媒を除去する方法、(2)電極スラリーにポリマーを添加する方法があげられる。
【0036】
(1)の方法において、溶媒は、ポリマーが溶解するものであれば問わないが、コストの観点から水、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、N−メチルピロリドンなどが好適に用いられる。また、(1)の方法において、被覆時にスプレードライ法を用いることもできる。
【0037】
ポリマーの被覆量は、正極活物質に対し0.001wt%〜10wt%である。好ましくは、0.01wt%〜1wt%であり、特に好ましくは0.05wt%〜0.3wt%である。ポリマーの被覆量が少なすぎると、高温保存時のガス発生抑制効果が低くなり、また、被覆量が多いと、電池性能が低下する。
【0038】
本発明における正極とは、リチウムイオンを吸蔵・放出可能なものなら問わないが、例えばLiMO2(Mは遷移金属)の一般式で表わされる、LiCoO2、LiNiO2、LiMn1/3Ni1/3Co1/32、LiMn0.4Ni0.4Co0.22のような層状構造を有する酸化物、また、Mの一部をAl、Mg、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Al、Ti、Ge、W、Zrよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上の金属元素で置換した酸化物が挙げられる。また、LiMn24やLi1+xMn2-x4のようなスピネル型の結晶構造を有するMnの酸化物が挙げられる。また、オリビン構造を有するLiFePO4や、LiMnPO4、またそれらの一部をAl、Mg、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Al、Ti、Ge、W、Zrよりなる群から選ばれる少なくとも1種以上の金属元素で置換した酸化物を用いても良い。
【0039】
本発明における負極活物質とは、天然黒鉛、石油コークスや石炭ピッチコークス等から得られる易黒鉛化材料を2500℃以上の高温で熱処理したもの、メソフェーズカーボン或いは非晶質炭素、炭素繊維、リチウムと合金化する金属、あるいは炭素粒子表面に金属を担持した材料が用いられる。例えばリチウム、銀、アルミニウム、スズ、ケイ素、インジウム、ガリウム、マグネシウムより選ばれた金属あるいは合金である。また、該金属または該金属の酸化物を負極活物質として利用できる。さらに、チタン酸リチウムを用いることもできる。
【0040】
本発明における電解液とは、非水溶媒に支持電解質を溶解させたものである。非水溶媒としては、支持電解質を溶解させるものであれば特に限定されないが、以下にあげるものが好ましい。ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチルラクトン、テトロヒドロフラン、ジメトキシエタン等の有機溶媒であり、それら一種または一種以上混合させて用いることもできる。また、前記電解液には、ビニレンカーボネートなどの分子内に不飽和二重結合を持つ化合物や、シクロヘキシルベンゼンやビフェニルなどの芳香族化合物を添加してもよい。また、分子内に硫黄、窒素、などのヘテロ元素を含む有機化合物を添加してもよい。
【0041】
本発明における支持電解質は、非水溶媒に可溶なものならば特に問わないが、以下に挙げるものが好ましい。すなわち、LiPF6、LiN(CF3SO2)2、LiN(C26SO2)2、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiI、LiBr、LiSCN、Li210Cl10、LiCF3CO2などの電解質塩であり、それら一種または一種以上混合させ用いることもできる。
【0042】
本発明におけるセパレータとは、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステルなどのポリマーからなるものや、繊維状のガラス繊維を用いたガラスクロスを用いることができ、リチウム電池に悪影響を及ぼさない補強材なら材質は問わないが、ポリオレフィンが好適に用いられる。
【0043】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが上げられ、それらのフィルムを重ね合わせて使用することもできる。
【0044】
また、セパレータの通気度(sec/100mL)は、10以上1000以下であり、好ましくは50以上800以下であり、特に好ましくは90以上700以下である。
【0045】
電池の形状は、外部との接触を避けるものであれば特に問わないが、円筒型、角型が挙げられる。角型電池は、電池内部でガスが発生すると、円筒型電池よりも電池の膨れが顕著に表われるため、角型電池で本発明の効果は顕著に表われる。
【0046】
〔実施例〕
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。本実施例の結果を表1にまとめた。
【0047】
<ポリマーの合成方法>
モノマーを反応容器に入れ、重合開始剤としてトリエチルアミンをモノマーに対し3wt%加えた。その後、反応容器を密封して、60℃、6時間加熱することによりポリマーを得た。合成したポリマーは、ヘキサンで洗浄し、ろ過後乾燥させて生成した。
【0048】
<正極活物質の被覆方法>
ポリマーを、N−メチルピロリドンに溶解させた。その溶液に、正極活物質を加え、1時間撹拌した。撹拌後、N−メチルピロリドンを留去した。その後、正極活物質をふるいにかけた。
【0049】
<正極の作製方法>
正極活物質、導電剤(SP270:日本黒鉛社製黒鉛)、バインダー(ポリフッ化ビニリデンKF1120:呉羽化学工業社)を85:10:10重量%の割合で混合し、N−メチル−2−ピロリドンに投入混合して、スラリー状の溶液を作製した。該スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔にドクターブレード法で塗布し、乾燥した。合剤塗布量は、200g/m2であった。その後、プレスし、10cm2の大きさに電極を裁断して正極を作製した。
【0050】
<負極の作製方法>
グラファイトを90:10重量%の割合で混合し、N−メチル−2−ピロリドンに投入混合して、スラリー状の溶液を作製した。該スラリーを厚さ20μmの銅箔にドクターブレード法で塗布し、乾燥した。合剤かさ密度が1.0g/cm3になるようにプレスし、10cm2の大きさに電極を裁断して負極を作製した。
【0051】
<ラミネート電池の作製方法>
図1は、本実施例のラミネート型リチウムイオン電池を示す断面図である。図2に示すリチウムイオン電池は、正極1及び負極2がセパレータ3を挟み込み形で積層されたものを非水電解液とともに包装体4で密封した構造を有する。正極1は、正極集電体1a及び正極合剤層1bを含み、負極2は、負極集電体2a及び負極合剤層2bを含む。正極集電体1aは、正極端子5に接続してあり、負極集電体2aは、負極端子6に接続してある。
【0052】
正極1及び負極2の間に、ポリオレフィン製のセパレータ3を挿入し、電極群を形成した。そこに、電解液を注液した。その後、電池をアルミ製ラミネートで封入し、電池を作製した。その後、充放電を3サイクル繰り返すことで電池を初期化した。
【0053】
<電池の評価方法>
1.ラミネート電池の評価方法
1.1 ラミネート電池の初期容量
電池の充電は、予め設定した上限電圧まで電流密度0.1mA/cm2で充電した。放電は、予め設定した下限電圧まで、電流密度0.1mA/cm2で放電した。上限電圧は4.2V、下限電圧は2.5Vであった。1サイクル目に得られた放電容量を、電池の初期容量とした。
1.2 高温保存試験
ラミネート電池を、4.2Vに充電した。その後、85℃の恒温槽に入れて、24時間保存した。24時間保存した後、電池を取り出し、電池を室温まで冷却し、発生したガスをシリンジで捕集してガス量を計測した。
【0054】
2.角型電池評価
ラミネート電池と同様に角型電池を作製した。角型電池のサイズは、縦43mm、横34mm、厚さ4.6mmであった。
【0055】
図2は、角型リチウムイオン電池を示す斜視図である。図2において、電池110は、角型の外装缶112に扁平状捲回電極体を非水電解液とともに封入したものである。蓋板113の中央部には、端子115が絶縁体114を介して設けてある。
【0056】
図3は、図2のA−A断面図である。図3において、正極116及び負極118は、セパレータ117を挟み込む形で捲回され、扁平状捲回電極体119を形成している。外装缶112の底部には、正極116と負極118とが短絡しないように絶縁体120が設けてある。
【0057】
正極116は、正極リード体121を介して蓋板113に接続されている。一方、負極118は、負極リード体122及びリード板124を介して端子115に接続されている。リード板124と蓋板113とが直接接触しないように絶縁体123が挟み込んである。
【0058】
初めに電池容量を測定した。電池容量は、電池の設計容量に対し0.2CAで放電した際の容量を電池容量とした。次に、レート特性を評価した。レート特性は、1.0CAで放電した際に得られる容量を0.2CAで得られる容量で割ることで規定した。
【0059】
その後、角型電池の保存試験をした。保存試験は、電池を4.2Vに充電後、85℃の恒温槽にいれて24時間保存した。その後、室温まで冷却したのち、電池の厚さを測定した。電池の厚さは、電池の中心点で測定し、加熱前後の電池の厚さの変化量で電池の膨れを規定した。
【実施例1】
【0060】
反応容器に、1,3−プロパンスルトンに(12.2g)、およびトリエチルアミン(0.37g)を加えた。その後、反応容器60℃、6時間加熱してポリマーAを合成した。精製したポリマーA10mgを100gのN−メチルピロリドン(NMP)に溶解させた。その後、10gのLiCoO2を加え撹拌後、NMPを留去し、正極活物質を被覆した。本実施例において、正極活物質に対するポリマーの重合体濃度は0.1wt%であった。
【0061】
被覆した正極活物質を用い、電極を作製し、その後ラミネート型電池を作製した。電池の容量は32mAhであった。また、高温保存試験をし、ガス発生量を測定した。その結果ガス発生量は0.058mLであった。
【0062】
次に、被覆した正極活物質を用い角型電池を試作した。電池容量は820mAhであり、レート特性は93%であった。また、加熱試験後の電池容量は762mAhであり、電池の膨れは1.14mmであった。
【実施例2】
【0063】
実施例1において、ポリマーAの添加量を5mgすること以外は同様に検討した。本実施例において、正極活物質に対するポリマーの重合体濃度は0.05wt%であった。
【0064】
ラミネート電池の容量は32mAhであった。また、高温保存試験をし、ガス発生量を測定した。その結果ガス発生量は0.078mLであった。
【0065】
次に、被覆した正極活物質を用い角型電池を試作した。電池容量は820mAhであり、レート特性は95%であった。また、加熱試験後の電池容量は735mAhであり、電池の膨れは1.30mmであった。
【実施例3】
【0066】
実施例1において、ポリマーAの添加量を30mgすること以外は同様に検討した。本実施例において、正極活物質に対するポリマーの重合体濃度は0.3wt%であった。
【0067】
ラミネート電池の容量は32mAhであった。また、高温保存試験をし、ガス発生量を測定した。その結果ガス発生量は0.070mLであった。
【0068】
次に、被覆した正極活物質を用い角型電池を試作した。電池容量は820mAhであり、レート特性は90%であった。また、加熱試験後の電池容量は740mAhであり、電池の膨れは1.29mmであった。
【実施例4】
【0069】
反応容器に、1,3−プロパンスルトンに(9.5g)にトリエチルアミン(0.37g)、反応溶媒として、メチルエチルケトンを加えた。その後、反応溶液をドライアイスで−78℃に冷却した。冷却後、ガス状のエチレンオキシドを反応容器に加え、その後室温に戻した。反応溶液を撹拌後、反応容器を徐徐に50℃まで加熱した。6時間後、生成したポリマーを取り出し、ヘキサンで洗浄し精製してポリマーBを合成した。1H−NMRで分析したところ、ポリマー中の1,3−プロパンスルトンとエチレンオキシド比率は78:22(mol比)であった。
【0070】
その後、ポリマーAの代わりに、ポリマーBを使用すること以外は、実施例1と同様にLiCoO2を被覆して電極を作製し、その後ラミネート型電池を作製した。電池の容量は32mAhであった。また、高温保存試験をし、ガス発生量を測定した。その結果ガス発生量は0.068mLであった。
【0071】
次に、被覆した正極活物質を用い、角型電池を試作した。電池容量は820mAhであり、レート特性は95%であった。また、加熱試験後の電池容量は741mAhであり、電池の膨れは1.29mmであった。
【実施例5】
【0072】
反応容器に、1,3−プロパンスルトンに(2.0g)にトリエチルアミン(0.37g)、反応溶媒として、メチルエチルケトンを加えた。その後、反応溶液をドライアイスで−78℃に冷却した。冷却後、ガス状のエチレンオキシドを反応容器に加え、その後室温に戻した。反応溶液を撹拌後、反応容器を徐徐に50℃まで加熱した。6時間後、生成したポリマーを取り出し、ヘキサンで洗浄し精製してポリマーCを合成した。1H−NMRで分析したところ、ポリマー中の1,3−プロパンスルトンとエチレンオキシド比率は16:84(mol比)であった。
【0073】
その後、実施例1と同様にLiCoO2を被覆して電極を作製し、その後ラミネート型電池を作製した。電池の容量は32mAhであった。また、高温保存試験をし、ガス発生量を測定した。その結果ガス発生量は0.081mLであった。
【0074】
次に、被覆した正極活物質を用い、角型電池を試作した。電池容量は820mAhであり、レート特性は96%であった。また、加熱試験後の電池容量は731mAhであり、電池の膨れは1.30mmであった。
【実施例6】
【0075】
反応容器に、1,3−プロパンスルトンに(9.2g)にβ−プロピオラクトン(1.8g)を加え、さらにトリエチルアミンを(0.37g)加え、60℃で6時間加熱してポリマーDを合成した。ヘキサンで洗浄し精製後、1H−NMRで分析した。その結果、ポリマー中の1,3−プロパンスルトンとβ−プロピオラクトンの比率は75:25(mol比)であった。
【0076】
その後、実施例1と同様にLiCoO2を被覆して電極を作製し、その後ラミネート型電池を作製した。電池の容量は32mAhであった。また、高温保存試験をし、ガス発生量を測定した。その結果ガス発生量は0.070mLであった。
【0077】
次に、被覆した正極活物質を用い、角型電池を試作した。電池容量は820mAhであり、レート特性は96%であった。また、加熱試験後の電池容量は735mAhであり、電池の膨れは1.30mmであった。
【実施例7】
【0078】
実施例1において、正極活物質のLiCoO2の代わりにLiMn24を用いること以外は、実施例1と同様に評価した。電池の容量は23mAhであった。また、高温保存試験をし、ガス発生量を測定した。その結果ガス発生量は0.109mLであった。
【0079】
次に、被覆した正極活物質を用い角型電池を試作した。電池容量は650mAhであり、レート特性は95%であった。また、加熱試験後の電池容量は510mAhであり、電池の膨れは1.40mmであった。
【実施例8】
【0080】
実施例1において、正極活物質のLiCoO2の代わりにLiNiO2を用いること以外は、実施例1と同様に評価した。電池の容量は37mAhであった。また、高温保存試験をし、ガス発生量を測定した。その結果ガス発生量は0.160mLであった。
【0081】
次に、被覆した正極活物質を用い角型電池を試作した。電池容量は950mAhであり、レート特性は90%であった。また、加熱試験後の電池容量は790mAhであり、電池の膨れは1.50mmであった。
【0082】
〔比較例1〕
実施例1において、正極活物質にポリマーを加えないこと以外は、実施例1と同様に検討した。ラミネート型電池の容量は32mAhであった。また、高温保存試験をし、ガス発生量を測定した。その結果ガス発生量は0.102mLであった。
【0083】
次に、角型電池を試作した。電池容量は820mAhであり、レート特性は90%であった。また、加熱試験後の電池容量は570mAhであり、電池の膨れは1.40mmであった。
【0084】
〔比較例2〕
比較例1において、正極活物質をLiCoO2の代わりにLiMn24を用いること以外は、比較例1と同様に検討した。ラミネート型電池の容量は25mAhであり、ガス発生量は0.200mLであった。
【0085】
次に、角型電池を試作した。電池容量は650mAhであり、レート特性は94%であった。また、加熱試験後の電池容量は422mAhであり、電池の膨れは1.66mmであった。
【0086】
〔比較例3〕
比較例1において、正極活物質をLiCoO2の代わりにLiNiO2を用いること以外は、比較例1と同様に検討をした。ラミネート型電池の容量は37mAhであり、ガス発生量は0.292mLであった。
【0087】
次に、角型電池を試作した。電池容量は950mAhであり、レート特性は89%であった。また、加熱試験後の電池容量は660mAhであり、電池の膨れは2.21mmであった。
【0088】
〔比較例4〕
実施例1において、電解液に1,3−プロパンスルトンを1wt%加えた電解液を用い、また、正極にはポリマーを加えない電極を使用し、ラミネート電池を作製した。ラミネート電池の容量は32mAhであった。また、高温保存試験をし、ガス発生量を測定した。その結果ガス発生量は0.082mLであった。
【0089】
次に、角型電池を試作した。電池容量は820mAhであり、レート特性は85%であった。また、加熱試験後の電池容量は680mAhであり、電池の膨れは1.30mmであった。
【0090】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(式1)で示される重合体を含むリチウム二次電池正極活物質用被覆材。
【化1】

(式1)において、nは1以上10以下である。
xはスルホニル基を含む繰り返し単位の繰り返し単位数である。
【請求項2】
請求項1において、
前記重合体は、下記(式2)で示される共重合体であるリチウム二次電池正極活物質用被覆材。
【化2】

(式2)において、pは2以上である。
Xは、O、S、Nのいずれか一つ以上である。
yはXを含む繰り返し単位の繰り返し単位数である。
【請求項3】
請求項2において、
前記共重合体は、下記(式3)で示される共重合体であるリチウム二次電池正極活物質用被覆材。
【化3】

(式3)において、qは2以上である。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかのリチウム二次電池正極活物質用被覆材を含むリチウム二次電池正極活物質であって、
前記リチウム二次電池正極活物質の表面に形成されているリチウム二次電池正極活物質。
【請求項5】
請求項4のリチウム二次電池正極活物質を含むリチウム二次電池であって、
前記重合体が、前記リチウム二次電池正極活物質に対して、0.001wt%以上10wt%以下であるリチウム二次電池。
【請求項6】
請求項5において、
電池の形状が角型であるリチウム二次電池。
【請求項7】
請求項1乃至3のいずれかのリチウム二次電池正極活物質用被覆材の製造方法であって、
環状スルトンの開環重合により前記重合体が形成される工程を含むリチウム二次電池正極活物質用被覆材の製造方法。
【請求項8】
請求項4のリチウム二次電池正極活物質の製造方法であって、
以下の工程を含むリチウム二次電池正極活物質の製造方法。
(1)前記リチウム二次電池正極活物質に、溶媒に溶解させた重合体を添加し撹拌する工程
(2)前記(1)の工程後に、前記溶媒を除去する工程

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−114945(P2013−114945A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261174(P2011−261174)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】