説明

リチウム二次電池用正極、リチウム二次電池用正極の作製方法およびリチウム二次電池

【課題】薄膜電池において、耐熱性を有する合金からなる集電体を用いて、充放電特性の優れたリチウム二次電池を提供する。
【解決手段】ステンレス鋼をはじめとする合金鋼を集電体に用い、該集電体に接して、リン酸鉄リチウムをはじめとする、鉄とリチウムを有する正極活物質を設けると、正極活物質が酸化鉄(Fe)等の電池反応に寄与しない物質に変化する場合がある。電池反応に寄与しない物質が増加するほど、充放電特性は低下する。そこで、集電体と正極活物質の間に中間層を設けることとする。中間層としては、代表的にはタンタルを用いる。このような構成とすることで、正極活物質が酸化鉄等に変化することを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用正極、リチウム二次電池用正極の作製方法およびリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンやポータブルゲーム等の携帯機器の普及、および環境問題への関心の高まりから、リチウム二次電池をはじめとする二次電池は重要性を増している。
【0003】
二次電池の基本的な構成は、正極と負極との間に電解質を介在させたものである。正極及び負極としては、それぞれ、集電体と、集電体上に設けられた活物質と、を有する構成が代表的である。リチウム二次電池の場合は、リチウムを吸蔵および放出することができる材料を、正極及び負極の活物質として用いる。
【0004】
たとえば特許文献1には、集電体上に微結晶シリコン薄膜を堆積して活物質としたリチウム二次電池が開示されている。
【0005】
また正極活物質の材料としては、リン酸鉄リチウム(LiFePO(0≦x≦1))をはじめとしたオリビン型構造のリチウム含有複合酸化物が注目されている。リン酸鉄リチウムは、コバルト(Co)等と比較して非常に安価な鉄を用いていること、Fe2+/Fe3+の酸化還元を伴う材料としては高電位(約3.5V)を示すこと、サイクル特性が良好であること、理論容量が約170mAhg−1であり、エネルギー密度にして従来のコバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)といった材料を上回ること、安全性が高いこと、等の利点がある。
【0006】
また集電体の材料には通常、アルミニウムや銅等が用いられている。たとえば特許文献2には正極の集電体として、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル等を用いたリチウム二次電池が開示されている。また特許文献3には、シリコンを含む陽極(負極)の集電体として、タンタル、窒化タンタル、チタン、窒化チタン等からなるバリア層を設けたリチウム二次電池が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−373644号公報
【特許文献2】特開平11−162511号公報
【特許文献3】国際公開WO2008/023322号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
薄膜を堆積して正極活物質を形成する場合、充放電特性の向上のためには、正極活物質の結晶性を向上させることが有効である。正極活物質の結晶性を向上させる方法の一つとして、形成後の熱処理がある。
【0009】
しかしながら、正極集電体として一般的なアルミニウムは融点が660℃であり、耐熱性に劣る。そのためアルミニウムを正極集電体に用いると、正極活物質形成後の熱処理を適用することができない。
【0010】
タンタル等の融点の高い金属材料は、アルミニウム等と比較して高価であるため、正極集電体の基板に用いると二次電池のコストが上昇する。
【0011】
一方、ステンレス鋼をはじめとする合金鋼は耐熱性を高くすることができ、安価であるというメリットがある。しかしながら、合金鋼を正極集電体として用い、正極集電体と接して鉄とリチウムを含む正極活物質を形成した場合、加熱処理を行っても優れた充放電特性が得られないという問題が生じていた。
【0012】
そこで、本発明の一態様は、薄膜を堆積して形成した正極活物質を用い、充放電特性の優れたリチウム二次電池を提供することを目的の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
合金鋼を集電体として用い、該集電体上に薄膜を堆積して鉄とリチウムを含む正極活物質を形成した場合、加熱処理により正極活物質の一部が酸化鉄(Fe)等の電池反応に寄与しない物質に変化することが明らかとなった。正極活物質が電池反応に寄与しない物質に変化するほど、充放電特性は低下する。
【0014】
そこで、本発明の一態様では、合金鋼からなる集電体を覆う、中間層を設けることとする。中間層としては、タンタル、白金等の高融点金属を用いる。該中間層上に、鉄とリチウムを含む正極活物質を設ける。このように集電体と正極活物質の間に中間層を設け、集電体と正極活物質が直接接することを防ぐ構成とすることで、正極活物質に酸化鉄等の電池反応に寄与しない物質が含まれないようにすることができる。
【0015】
また、中間層は薄膜で形成することができるため、中間層にタンタル等の高価な金属を用いても、二次電池のコストの上昇を抑制できる。
【0016】
本発明の一態様は、合金鋼からなる集電体と、集電体を覆うタンタル膜と、タンタル膜上の鉄およびリチウムを含む正極活物質と、を有し、正極活物質は、ラマン分光法により得られたラマンスペクトルの、ラマンシフトが630cm−1以上690cm−1以下のP−O伸縮強度と、ラマンシフトが920cm−1以上980cm−1以下のFe強度と、の比P−O伸縮強度/Fe強度が、7以上である、リチウム二次電池用正極である。
【0017】
合金鋼としては、ステンレス鋼を用いることができる。
【0018】
正極活物質としては、リン酸鉄リチウムを用いることができる。
【0019】
また、本発明の一態様は、上記のリチウム二次電池用正極と、リチウム二次電池用負極と、電解質と、を有する、リチウム二次電池である。
【0020】
また、本発明の一態様は、集電体上に、スパッタリング法によりタンタル膜を形成し、タンタル膜上に、スパッタリング法により正極活物質を形成し、集電体、タンタル膜および正極活物質に、550℃以上の熱処理を行う、リチウム二次電池用正極の作製方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一態様により、薄膜を堆積して形成した正極活物質を用い、充放電特性の優れたリチウム二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一態様の正極を説明するための断面図。
【図2】本発明の一態様のリチウム二次電池を説明するための平面図および断面図。
【図3】リチウム二次電池の応用の形態を説明するための図。
【図4】本発明の一態様の正極の走査型透過電子顕微鏡写真。
【図5】本発明の一態様の正極のラマンスペクトル。
【図6】本発明の一態様のリチウム二次電池の充放電曲線を示す図。
【図7】比較例の正極の走査型透過電子顕微鏡写真。
【図8】比較例の正極のラマンスペクトル。
【図9】比較例のリチウム二次電池の充放電曲線を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。但し、発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定されず、本明細書などにおいて開示する発明の趣旨から逸脱することなく形態および詳細を様々に変更し得ることは当業者にとって自明である。また、異なる実施の形態に係る構成は、適宜組み合わせて実施することが可能である。なお、以下に説明する発明の構成において、同一部分または同様な機能を有する部分には同一の符号を用い、その繰り返しの説明は省略する。
【0024】
なお、図面などにおいて示す各構成の、位置、大きさ、範囲などは、理解の簡単のため、実際の位置、大きさ、範囲などを表していない場合がある。このため、開示する発明は、必ずしも、図面などに開示された位置、大きさ、範囲などに限定されない。
【0025】
さらに、用いるとは主成分として含むことをいう。主成分とは組成比で1atomic%以上含まれることをいう。
【0026】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様である正極200の構成と作製方法の一例について、図1を用いて説明する。
【0027】
<正極の構成>
本発明の一態様である正極200を図1(A)に示す。正極200は、集電体100と、集電体100を覆う中間層102と、中間層102上の正極活物質104を有する。
【0028】
集電体100には、鉄に他の元素を1種以上添加した合金鋼を用いる。合金鋼としては、代表的には鉄にクロムやニッケル等を加えたステンレス鋼、クロム鋼、マンガン鋼、マンガンクロム鋼、クロムモリブデン鋼、ニッケルクロム鋼、ニッケルクロムモリブデン鋼等が挙げられる。中でもステンレス鋼は耐熱性が高く、かつ腐食に強く安価であるため好ましい。そのため集電体100として用いることで、熱処理可能かつ安価な正極とすることができる。
【0029】
また、中間層102には、高融点金属を用いる。特に融点が1670℃以上である金属を用いることが好ましい。具体的には、タンタル、白金、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、ハフニウム、レニウム、オスミウム、イリジウムが好ましい。中でもタンタルは特に融点が高く、かつハフニウム等と比較して安価であるためより好ましい。また白金は非常に化学的に安定であるため好ましい。
【0030】
また正極活物質104には、鉄とリチウムを含む材料を用いる。具体的には、リン酸鉄リチウム、リン酸鉄−マンガンリチウム(Li(FeMn)PO(0<a<1、0<b<1))、リン酸鉄−コバルトリチウム(Li(FeCo)PO(0<a<1、0<b<1))、リチウム−鉄−マンガン系材料(たとえばLi1.2(Fe0.4Mn0.4Ni0.20.8、Li1.2(Fe0.5Mn0.50.8)、ピロリン酸塩系材料(LiFeP)等を用いる。鉄を含む材料は、コバルト酸リチウム等と比較して安価であるため、正極活物質に用いることで、安価なリチウム二次電池の正極とすることができる。
【0031】
図1のように集電体100を中間層102で覆う構成とすることで、鉄とリチウムを含む正極活物質が、酸化鉄等の電池反応に寄与しない物質に変化することを抑制できる。そのため本発明の一態様である正極200を用いることで、充放電特性の優れたリチウム二次電池とすることができる。
【0032】
なお、図1では集電体100の片面に中間層102および正極活物質104を設ける構成を示したが、集電体100の両面に中間層102および正極活物質104を設ける構成としてもよい。
【0033】
<正極の作製方法>
図1(A)の正極200の作製方法を以下に説明する。
【0034】
まず、集電体100上に中間層102を形成する。中間層102の形成方法としては、スパッタリング法、メッキ法、原子層堆積(ALD)法、スピンコート法、ディップ法、液滴吐出法(インクジェット法)、スクリーン印刷、オフセット印刷等を適用することができる。特にスパッタリング法は、スピンコート法等と比較して中間層を高い密度で形成することができ、かつALD法等と比較して生産性よく中間層102を形成することができるため好ましい。
【0035】
次に、中間層102上に正極活物質104を形成する。形成法としては、スパッタリング法、スピンコート法、ディップ法、液滴吐出法(インクジェット法)、スクリーン印刷、オフセット印刷等を適用することができる。特にスパッタリング法は、スピンコート法等と比較して正極活物質104を高い密度で形成することができきるため好ましい。スパッタリング法を適用する場合、ターゲット材料としては水熱法や固相法等により合成した正極活物質材料の粒子を用いることができる。
【0036】
正極活物質104の形成法として、スパッタリング法を適用する場合、成膜時の基板温度を高くすると正極活物質104の結晶性を向上させることができるため好ましい。成膜時の基板温度としては、550℃以上が好ましい。結晶性の向上した正極活物質104を用いることで、充放電特性をより向上させることができる。
【0037】
次に、集電体100、中間層102および正極活物質104に熱処理を行うことができる。熱処理を行うと、正極活物質104の結晶性を向上させることができるため好ましい。熱処理としては、550℃以上で5時間以上行うことが好ましい。結晶性の向上した正極活物質104を用いることで、充放電特性をより向上させることができる。
【0038】
(実施の形態2)
本実施の形態では、本発明の一態様に係るリチウム二次電池とその作製方法の一例について、図2を用いて説明する。
【0039】
本発明の一態様に係るリチウム二次電池は、少なくとも、正極、負極、電解液を有する。当該正極は、実施の形態1に記載の正極200である。
【0040】
電解液は、電解質塩を含む非水溶液又は電解質塩を含む水溶液である。当該電解質塩は、キャリアイオンであるリチウムイオンを含む電解質塩であればよい。
【0041】
図2(A)に示すリチウム二次電池151は、外装部材153の内部に蓄電セル155を有する。また、蓄電セル155に接続する端子部157、159を有する。外装部材153は、ラミネートフィルム、高分子フィルム、金属フィルム、金属ケース、プラスチックケース等を用いることができる。
【0042】
図2(B)は、図2(A)に示すリチウム二次電池151のX−Y線における断面を示す図である。図2(B)に示すように、蓄電セル155は、負極163と、正極165と、負極163及び正極165の間に設けられるセパレータ167と、外装部材153、蓄電セル155及びセパレータ167中を満たす電解液169とを有する。
【0043】
正極165は、実施の形態1に記載の正極である。正極集電体175は、端子部157と接続される。また負極集電体171は、端子部159と接続される。また端子部157および端子部159は、それぞれ一部が外装部材153の外側に導出されている。
【0044】
負極163は、負極集電体171及び負極活物質層173を有する。負極活物質層173は、負極集電体171の一方又は両方の面に形成される。また、負極活物質層173にはバインダー及び導電助剤が含まれていてもよい。
【0045】
なお、本実施の形態では、リチウム二次電池151の外部形態として、密封された薄型リチウム二次電池を示しているが、これに限定されない。リチウム二次電池151の外部形態として、ボタン型リチウム二次電池、円筒型リチウム二次電池、角型リチウム二次電池など様々な形状を用いることができる。また、本実施の形態では、正極、負極、及びセパレータが積層された構造を示したが、正極、負極、及びセパレータが捲回された構造であってもよい。
【0046】
負極集電体171には、チタン、アルミ又はステンレス鋼などの導電材料を箔状、板状又は網状などの形状したものを用いる。また、基板上に成膜することにより設けられた導電層を剥離して負極集電体171として用いることもできる。
【0047】
負極活物質層173としては、リチウムイオンを電気化学的に吸蔵および放出することのできる材料を用いる。たとえば、リチウム、アルミニウム、炭素系材料、スズ、酸化スズ、シリコン、酸化シリコン、炭化シリコン、シリコン合金、またはゲルマニウムなどを用いることができる。又は、リチウム、アルミニウム、炭素系材料、スズ、酸化スズ、シリコン、酸化シリコン、炭化シリコン、シリコン合金、及びゲルマニウムから選択される一以上を含む化合物でもよい。なお、リチウムイオンの吸蔵および放出が可能な炭素としては、粉末状若しくは繊維状の黒鉛、又はグラファイト等の黒鉛系炭素を用いることができる。また、シリコン、シリコン合金、ゲルマニウム、リチウム、アルミニウム、及びスズの方が、炭素系材料に比べてリチウムイオンを吸蔵できる容量が大きい。それゆえ、負極活物質層173に用いる材料の量を低減することができ、コストの節減、及びリチウム二次電池151の小型化が可能になる。
【0048】
また、負極活物質層173は、上記列挙した材料を印刷法、インクジェット法、CVD等により、凹凸状に形成したものでもよい。または、上記列挙した材料を塗布法、スパッタリング法、蒸着法などで膜状に設けた後、当該膜状の材料を部分的に除去して、凹凸状に形成したものでもよい。
【0049】
なお、負極集電体171を用いず、上記列挙した負極活物質層173に適用できる材料単体を負極として用いてもよい。
【0050】
また、負極活物質層173がグラフェンまたは多層グラフェンを含んでいてもよい。このようにすることで、リチウムの吸蔵および放出が負極活物質層173に与える影響を抑制することができる。当該影響とは、負極活物質層173が膨張又は収縮することで、負極活物質層173が微粉化又は剥離すること等である。また多層グラフェンはリチウムを吸蔵および放出することができるため、負極がリチウムイオンを吸蔵できる容量を大きくすることができる。
【0051】
電解液169には、リチウムイオンを移送することが可能で、かつリチウムイオンが安定して存在することが可能である電解質塩を用いる。例えば、LiClO、LiAsF、LiBF、LiPF、Li(CSONなどのリチウム塩を用いることができる。
【0052】
また、電解液169は、電解質塩を含む非水溶液とすることが好ましい。つまり、電解液169の溶媒は、非プロトン性有機溶媒が好ましい。非プロトン性有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、アセトニトリル、ジメトキシエタン及びテトラヒドロフランなどが挙げられ、これらの一又は複数を用いることができる。さらに、非プロトン性有機溶媒として、一のイオン液体又は複数のイオン液体を用いてもよい。イオン液体は、難燃性及び難揮発性であることから、リチウム二次電池151の内部温度が上昇した際にリチウム二次電池151の破裂又は発火などを抑制でき、安全性を高めることが可能となる。
【0053】
また、電解液169として、電解質塩を含み、且つゲル化された高分子材料を用いることで、漏液性を含めた安全性が高まり、リチウム二次電池151の薄型化及び軽量化が可能となる。ゲル化される高分子材料の代表例としては、シリコンゲル、アクリルゲル、アクリロニトリルゲル、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド又はフッ素系ポリマーなどがある。
【0054】
さらに、電解液169としては、LiPOなどの固体電解質を用いることができる。
【0055】
また、リチウム二次電池151はセパレータを有することが好ましい。セパレータ167として、絶縁性の多孔体を用いることができる。例えば、紙、不織布、ガラス繊維、またはナイロン(ポリイミド)、ビニロン(ポリビニルアルコール系繊維)、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、ポリウレタンといった合成繊維、または合成樹脂、セラミック等で形成されたものを用いることができる。ただし、電解液169に溶解しない材料を選ぶ必要がある。
【0056】
リチウム二次電池は、メモリー効果が小さく、エネルギー密度が高く、充放電容量が大きい。また、出力電圧が高い。そのため、容量を確保しつつ小型化及び軽量化が可能である。また、充放電の繰り返しによる劣化が少なく、長期間の使用が可能である。本発明の一態様に係る正極を用いることで、充放電特性の優れたリチウム二次電池とすることができる。
【0057】
なお、本実施の形態は、他の実施の形態又は実施例に記載した構成と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0058】
(実施の形態3)
本発明の一態様に係るリチウム二次電池は、電力により駆動する様々な電気機器の電源として用いることができる。
【0059】
本発明の一態様に係るリチウム二次電池を用いた電気機器の具体例として、表示装置、照明装置、デスクトップ型或いはノート型のパーソナルコンピュータ、DVD(Digital Versatile Disc)などの記録媒体に記憶された静止画又は動画を再生する画像再生装置、携帯電話、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、タブレット型端末、電子書籍、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器、電気洗濯機、エアコンディショナーなどの空調設備、電気冷蔵庫、電気冷凍庫、電気冷凍冷蔵庫、DNA保存用冷凍庫や透析装置等の医療用電気機器などが挙げられる。また、リチウム二次電池からの電力を用いて電動機により推進する移動体なども、電気機器の範疇に含まれるものとする。上記移動体として、例えば、電気自動車、内燃機関と電動機を併せ持った複合型自動車(ハイブリッドカー)、電動アシスト自転車を含む原動機付自転車などが挙げられる。
【0060】
なお、上記電気機器は、消費電力の殆ど全てを賄うためのリチウム二次電池(主電源と呼ぶ)として、本発明の一態様に係るリチウム二次電池を用いることができる。或いは、上記電気機器は、上記主電源や商用電源からの電力の供給が停止した場合に、電気機器への電力の供給を行うことができるリチウム二次電池(無停電電源と呼ぶ)として、本発明の一態様に係るリチウム二次電池を用いることができる。或いは、上記電気機器は、上記主電源や商用電源からの電気機器への電力の供給と並行して、電気機器への電力の供給を行うためのリチウム二次電池(補助電源と呼ぶ)として、本発明の一態様に係るリチウム二次電池を用いることができる。
【0061】
図3に、上記電気機器の具体的な構成を示す。図3において、表示装置1000は、本発明の一態様に係るリチウム二次電池1004を用いた電気機器の一例である。具体的に、表示装置1000は、TV放送受信用の表示装置に相当し、筐体1001、表示部1002、スピーカー部1003、リチウム二次電池1004等を有する。本発明の一態様に係るリチウム二次電池1004は、筐体1001の内部に設けられている。表示装置1000は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、リチウム二次電池1004に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係るリチウム二次電池1004を無停電電源として用いることで、表示装置1000の利用が可能となる。
【0062】
表示部1002には、液晶表示装置、有機EL素子などの発光素子を各画素に備えた発光装置、電気泳動表示装置、DMD(Digital Micromirror Device)、PDP(Plasma Display Panel)、FED(FieldEmission Display)などの、半導体表示装置を用いることができる。
【0063】
なお、表示装置には、TV放送受信用の他、パーソナルコンピュータ用、広告表示用など、全ての情報表示用表示装置が含まれる。
【0064】
図3において、据え付け型の照明装置1100は、本発明の一態様に係るリチウム二次電池1103を用いた電気機器の一例である。具体的に、照明装置1100は、筐体1101、光源1102、リチウム二次電池1103等を有する。図3では、リチウム二次電池1103が、筐体1101及び光源1102が据え付けられた天井1104の内部に設けられている場合を例示しているが、リチウム二次電池1103は、筐体1101の内部に設けられていても良い。照明装置1100は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、リチウム二次電池1103に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係るリチウム二次電池1103を無停電電源として用いることで、照明装置1100の利用が可能となる。
【0065】
なお、図3では天井1104に設けられた据え付け型の照明装置1100を例示しているが、本発明の一態様に係るリチウム二次電池は、天井1104以外、例えば側壁1105、床1106、窓1107等に設けられた据え付け型の照明装置に用いることもできるし、卓上型の照明装置などに用いることもできる。
【0066】
また、光源1102には、電力を利用して人工的に光を得る人工光源を用いることができる。具体的には、白熱電球、蛍光灯などの放電ランプ、LEDや有機EL素子などの発光素子が、上記人工光源の一例として挙げられる。
【0067】
図3において、室内機1200及び室外機1204を有するエアコンディショナーは、本発明の一態様に係るリチウム二次電池1203を用いた電気機器の一例である。具体的に、室内機1200は、筐体1201、送風口1202、リチウム二次電池1203等を有する。図3では、リチウム二次電池1203が、室内機1200に設けられている場合を例示しているが、リチウム二次電池1203は室外機1204に設けられていても良い。或いは、室内機1200と室外機1204の両方に、リチウム二次電池1203が設けられていても良い。エアコンディショナーは、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、リチウム二次電池1203に蓄積された電力を用いることもできる。特に、室内機1200と室外機1204の両方にリチウム二次電池1203が設けられている場合、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係るリチウム二次電池1203を無停電電源として用いることで、エアコンディショナーの利用が可能となる。
【0068】
なお、図3では、室内機と室外機で構成されるセパレート型のエアコンディショナーを例示しているが、室内機の機能と室外機の機能とを1つの筐体に有する一体型のエアコンディショナーに、本発明の一態様に係るリチウム二次電池を用いることもできる。
【0069】
図3において、電気冷凍冷蔵庫1300は、本発明の一態様に係るリチウム二次電池1304を用いた電気機器の一例である。具体的に、電気冷凍冷蔵庫1300は、筐体1301、冷蔵室用扉1302、冷凍室用扉1303、リチウム二次電池1304等を有する。図3では、リチウム二次電池1304が、筐体1301の内部に設けられている。電気冷凍冷蔵庫1300は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、リチウム二次電池1304に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係るリチウム二次電池1304を無停電電源として用いることで、電気冷凍冷蔵庫1300の利用が可能となる。
【0070】
なお、上述した電気機器のうち、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器などの電気機器は、短時間で高い電力を必要とする。よって、商用電源では賄いきれない電力を補助するための補助電源として、本発明の一態様に係るリチウム二次電池を用いることで、電気機器の使用時に商用電源のブレーカーが落ちるのを防ぐことができる。
【0071】
また、電気機器が使用されない時間帯、特に、商用電源の供給元が供給可能な総電力量のうち、実際に使用される電力量の割合(電力使用率と呼ぶ)が低い時間帯において、リチウム二次電池に電力を蓄えておくことで、上記時間帯以外において電力使用率が高まるのを抑えることができる。例えば、電気冷凍冷蔵庫1300の場合、気温が低く、冷蔵室用扉1302、冷凍室用扉1303の開閉が行われない夜間において、リチウム二次電池1304に電力を蓄える。そして、気温が高くなり、冷蔵室用扉1302、冷凍室用扉1303の開閉が行われる昼間において、リチウム二次電池1304を補助電源として用いることで、昼間の電力使用率を低く抑えることができる。
【0072】
図3において、タブレット型端末1400は、本発明の一態様に係るリチウム二次電池1403を用いた電気機器の一例である。具体的に、タブレット型端末1400は、筐体1401、筐体1402、リチウム二次電池1403等を有する。筐体1401および筐体1402はそれぞれタッチパネル機能を有する表示部を有し、指等の接触により表示部の表示内容を操作することができる。またタブレット型端末1400は、筐体1401および筐体1402の表示部を内側にして折りたたむことができ、携帯性を向上させるとともに表示部を保護することが可能である。本発明の一態様に係るリチウム二次電池1403を用いることで、タブレット型端末1400の小型化および長時間のモバイル使用が可能となる。
【0073】
なお、本実施の形態は、他の実施の形態又は実施例に記載した構成と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0074】
中間層としてタンタル膜を用いた構成、および中間層を設けない構成の正極を実際に作製し、正極中の酸化鉄の生成の有無を評価した。また該正極を用いた二次電池の特性を評価した。これらの結果について、以下の実施例および比較例を用いて示す。
【実施例】
【0075】
本実施例では、中間層としてタンタルを用いた正極を作製し評価した。
【0076】
<作製条件>
集電体としてSUS316L基板を用いた。SUS316Lはオーステナイト系ステンレス鋼であり、鉄以外の主成分はクロム(17重量%)、ニッケル(13重量%)、モリブデン(2重量%)であり、低炭素(0.03重量%)鋼である。
【0077】
集電体上に、中間層として100nmのタンタル膜を形成した。具体的には、タンタル99.99%ターゲットを用いて、スパッタリング法により100W、0.3Pa、Ar=7.5sccm、基板成膜温度約25℃(室温)で約5nm/minにて成膜した。
【0078】
タンタル膜上に、正極活物質として500nmのリン酸鉄リチウムを形成した。具体的には、固相法により合成した平均粒径約100nmのリン酸鉄リチウムをターゲット材料として用いて、スパッタリング法により50W、1.0Pa、Ar=30sccm、成膜基板温度550℃で約1.9nm/minにて成膜した。その後、真空雰囲気において550℃で5時間、熱処理を行った。
【0079】
<断面STEM観察>
上記のプロセスで作製した正極について、断面を、走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて観察した。
【0080】
得られた像を図4に示す。図4(A)は位相コントラスト像(TE)、図4(B)はZコントラスト(ZC)像である。
【0081】
図4(A)および(B)に示すように、集電体であるSUS316L10上に、中間層としてタンタル膜12、および正極活物質としてリン酸鉄リチウム膜14が形成されていることが確認された。またリン酸鉄リチウム膜14が柱状結晶となっていることが観察された。
【0082】
なおリン酸鉄リチウム膜14上の炭素蒸着膜31、白金コート32、FIB保護膜33はSTEM観察のために形成したものであり、正極には含まれない。
【0083】
<ラマン測定>
上記のプロセスで作製した正極のリン酸鉄リチウム膜14について、ラマン分光法によりラマンスペクトルを測定した。測定には、(株)堀場製作所の顕微PL装置LabRAMを用いた。
【0084】
図5に、本実施例の正極(SUS\Ta\LiFePO)のラマンスペクトルを示す。リファレンスとして、リン酸鉄リチウム(LiFePO)と、酸化鉄(Fe)のラマンスペクトルを同じ図中に示す。縦軸に強度、横軸にラマンシフトを示す。本実施例の正極(SUS\Ta\LiFePO)は、リン酸鉄リチウムに含まれるP−O伸縮に帰属されるラマンシフト920cm−1以上980cm−1以下の位置に鋭いピークが観察された。一方、Feに帰属されるラマンシフト640cm−1以上690cm−1以下の位置にはピークは観察されなかった。
【0085】
ここで、750cm−1以上900cm−1以下の強度の平均をバックグランドとする。また、P−O伸縮に帰属される920cm−1以上980cm−1に存在するピークの最高値から、バックグランドを引いた値を、P−O伸縮強度とする。また、Feに帰属される640cm−1以上690cm−1以下に存在するピークの最高値から、バックグランドを引いた値を、Fe強度とする。本実施例では、バックグラウンドが5.5、P−O伸縮強度が33.5、Fe強度が1.1であった。P−O伸縮強度/Fe強度は、30となった。
【0086】
<二次電池の特性>
上記のプロセスで作製した正極を直径10mmに形成して、二次電池を作製した。負極としてLi金属、電解液として1M LiPF6 EC/DEC(1:1)、セパレータとしてポリプロピレンを用い、2032型コイン電池を作製した。
【0087】
上記のように作製した電池について、定電流充放電特性測定した。測定には、(株)東洋システムの充放電システムTOSCAT−3100を用い、電圧範囲を2.5V〜4.2V、電流値を1μAとした。
【0088】
得られた充放電曲線を図6に示す。縦軸に電圧、横軸に容量を示す。図6から、本実施例の正極が正常に充放電できることが明らかとなった。
〔比較例〕
【0089】
本比較例では、中間層を設けない正極を作製し評価した。
【0090】
<作製条件>
中間層を設けない構成とした他は、実施例と同様に作製した。
【0091】
<断面STEM観察>
実施例と同様に断面を観察し、得られた像を図7に示す。図7(A)は位相コントラスト像(TE)、図7(B)はZコントラスト(ZC)像である。
【0092】
図7(A)からSUS316Lとリン酸鉄リチウムとの界面に、リン酸鉄リチウムの異相40の形成が観察された。
【0093】
<ラマン測定>
実施例と同様に測定して得られたラマンスペクトルを図8に示す。本実施例の正極(SUS\LiFePO)と共に、リファレンスとして、リン酸鉄リチウム(LiFePO)と、酸化鉄(Fe)のラマンスペクトルを同じ図中に示す。リン酸鉄リチウムに含まれるP−O伸縮に帰属される920cm−1以上980cm−1以下の位置に鋭いピークが観察された。また、Feに帰属される630cm−1以上690cm−1以下の位置にブロードなピークが観察された。
【0094】
実施例と同様にバックグランドを求め、P−O伸縮強度、Fe強度を求めた。本比較例では、バックグランドが6.2、P−O伸縮強度が32.8、Fe強度が4.8であった。P−O伸縮強度/Fe強度は、6.8となった。
【0095】
<二次電池の特性>
上記のプロセスで作製した正極を用いて、実施例と同様に二次電池を作製し、定電流充放電特性を測定した。
【0096】
得られた充放電特性を図9に示す。図9から、本比較例の正極は十分に充放電を行えないことが明らかとなった。
【0097】
実施例および比較例の結果より、中間層を設けることで、SUS316Lとリン酸鉄リチウムとの界面に、リン酸鉄リチウムの異相が形成されることを抑制できることが明らかとなった。また、中間層を設けることで、リン酸鉄リチウムが酸化鉄に変化することを抑制できることが明らかとなった。また、中間層を設けることで、ラマンスペクトルのP−O伸縮強度と、Fe強度との比が変化することが示された。また、中間層を設けることで、充放電特性の優れたリチウム二次電池となることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0098】
12 タンタル膜
14 リン酸鉄リチウム膜
31 炭素蒸着膜
32 白金コート
33 FIB保護膜
40 異相
100 集電体
102 中間層
104 正極活物質
151 リチウム二次電池
153 外装部材
155 蓄電セル
157 端子部
159 端子部
163 負極
165 正極
167 セパレータ
169 電解液
171 負極集電体
173 負極活物質層
175 正極集電体
200 正極
1000 表示装置
1001 筐体
1002 表示部
1003 スピーカー部
1004 リチウム二次電池
1100 照明装置
1101 筐体
1102 光源
1103 リチウム二次電池
1104 天井
1105 側壁
1106 床
1107 窓
1200 室内機
1201 筐体
1202 送風口
1203 リチウム二次電池
1204 室外機
1300 電気冷凍冷蔵庫
1301 筐体
1302 冷蔵室用扉
1303 冷凍室用扉
1304 リチウム二次電池
1400 タブレット型端末
1401 筐体
1402 筐体
1403 リチウム二次電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合金鋼を用いた集電体と、
前記集電体を覆う、タンタル膜と、
前記タンタル膜上の、鉄およびリチウムを含む正極活物質と、を有し、
前記正極活物質は、
ラマン分光法により得られたラマンスペクトルの、
ラマンシフトが630cm−1以上690cm−1以下のP−O伸縮強度と、
ラマンシフトが920cm−1以上980cm−1以下のFe強度と、
の比P−O伸縮強度/Fe強度が、7以上である、
リチウム二次電池用正極。
【請求項2】
請求項1において、
前記合金鋼は、ステンレス鋼である、
リチウム二次電池用正極。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記正極活物質は、リン酸鉄リチウムを含む、
リチウム二次電池用正極。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一に記載のリチウム二次電池用正極と、
リチウム二次電池用負極と、電解質と、を有する、リチウム二次電池。
【請求項5】
集電体上に、スパッタリング法によりタンタル膜を形成し、
前記タンタル膜上に、スパッタリング法により正極活物質を形成し、
前記集電体、前記タンタル膜および前記正極活物質に、550℃以上の熱処理を行う、
リチウム二次電池用正極の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図4】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−110036(P2013−110036A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255606(P2011−255606)
【出願日】平成23年11月23日(2011.11.23)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】