説明

リチウム二次電池用負極材及びその製造方法、リチウム二次電池用負極、並びにリチウム二次電池

【課題】放電負荷特性、充放電効率に優れ、高電池容量化に有効なリチウム二次電池用電極材を提供する。
【解決手段】鱗片状の天然黒鉛粒子に由来する球状黒鉛粒子であり、以下の(A)〜(E)を全て満たす球状黒鉛粒子を含むリチウム二次電池用負極材。(A)体積平均粒子径(50%D)が10μm以上50μm以下であり、(B)真比重が2.22g/cm以上であり、(C)かさ密度が0.800g/cm以上であり、(D)BET法で測定される比表面積が2.0m/g以上6.0m/g以下であり、(E)波長532nmのレーザー光を用いたラマンスペクトル分析において、波数1580〜1620cm−1の範囲において最大強度を示す第1のピークのピーク強度I1580に対する、波数1350〜1370cm−1の範囲において最大強度を示す第2のピークのピーク強度I1350の比であるR値(I1350/I1580)が0.15以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用負極材及びその製造方法、リチウム二次電池用負極、並びにリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、携帯電話やノート型パソコンなどの電子機器向けに需要が拡大し、電気自動車や電動工具などへの適用も検討されている。現在のリチウム二次電池は、一般に、正極活物質(正極材)としてリチウム酸化物、負極活物質(負極材)として炭素粒子が用いられているが、電池性能を向上させるためには、これら正極材及び負極材の特性を向上させることが重要であり、また需要拡大には低コスト化が重要課題となっている。
【0003】
現在、リチウム電池用負極材に主に用いられているのは、結晶化度が高い黒鉛粒子である。黒鉛粒子は、黒鉛の層間にLiCとしてLiイオンを吸蔵し、理論容量が372Ah/kgである。黒鉛粒子は、充放電効率に優れる材料であり、黒鉛の結晶化度が高い程、充放電効率は向上する。
【0004】
現在用いられている黒鉛粒子には、3000℃近い温度で加熱して人工的に結晶化度を上げた人造黒鉛と、古代の生物が腐敗分解する前に地中に埋もれ長い期間地熱や地圧を受けて変質されることにより生成された天然黒鉛とがある。
天然黒鉛は人造黒鉛に比べて安価であり、今後も需要拡大が見込まれる材料であるが、リチウム電池用負極材として使用するために金属などの不純物を低減することと、粒子を球形化することが必要とされている。金属などの不純物は、電池容量の低下を引き起こすほかに、セパレータを貫通し短絡の原因となるおそれがあり、現在では酸処理にて不純物を溶解するなどして高純度化している。また、従来の天然黒鉛は鱗状の粒子であり、かさ密度が低く、塗工性に劣る場合がある。さらにリチウム電池用負極材の場合、リチウムイオンは黒鉛結晶の六角網目状に平行なベーサル面では挿入脱離はせず、垂直なエッジ面から挿入脱離するため、エッジ面に比べてベーサル面が多い天然黒鉛は充放電効率が低い欠点があった。
これに関して、天然黒鉛粒子を機械的に表面改質して球形化処理することで、かさ密度を高め、充放電効率を改善する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−334915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の天然黒鉛粒子では、機械的表面改質により黒鉛表面の結晶崩壊が生じ、放電負荷特性や充放電効率が低下する場合があった。
本発明は、放電負荷容量と充放電効率に優れるリチウム二次電池、該リチウム二次電池を構成可能なリチウム二次電池用負極、並びに該リチウム二次電池用負極を構成可能なリチウム二次電池用負極材及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための具体的手段は以下の通りである。
<1> 鱗片状の天然黒鉛粒子に由来する球状黒鉛粒子であり、以下の(A)〜(E)を全て満たす球状黒鉛粒子を含むリチウム二次電池用負極材である。
(A)体積平均粒子径(50%D)が10μm以上50μm以下であり、(B)真比重が2.22g/cm以上であり、(C)かさ密度が0.800g/cm以上であり、(D)BET法で測定される比表面積が2.0m/g以上6.0m/g以下であり、(E)波長532nmのレーザー光を用いたラマンスペクトル分析において、波数1580cm−1〜1620cm−1の範囲において最大強度を示す第1のピークのピーク強度I1580に対する、波数1350cm−1〜1370cm−1の範囲において最大強度を示す第2のピークのピーク強度I1350の比であるR値(I1350/I1580)が0.15以下である。
【0008】
<2> 前記球状黒鉛粒子は、円相当径から算出される円の周囲長を実測された周囲長で除して得られる円形度が0.85以上である、前記<1>に記載のリチウム二次電池用負極材である。
【0009】
<3> 鱗片状の天然黒鉛粒子に由来する球状黒鉛粒子を、非酸化雰囲気中1500℃以上の温度で加熱処理する工程を含む、前記<1>または<2>に記載のリチウム二次電池用負極材の製造方法である。
【0010】
<4> 前記<1>または<2>に記載のリチウム二次電池用負極材を含むリチウム二次電池用負極である。
【0011】
<5> 前記<4>に記載のリチウム二次電池用負極と、正極と、電解質とを備えるリチウム二次電池である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、放電負荷容量と充放電効率に優れるリチウム二次電池、該リチウム二次電池を構成可能なリチウム二次電池用負極、並びに該リチウム二次電池用負極を構成可能なリチウム二次電池用負極材及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るリチウム二次電池の構成の一例を示す図である。
【図2】本発明に係る鱗片状の天然黒鉛粒子のSEM画像の一例を示す図である。
【図3】本発明の実施例1に係るリチウム二次電池用負極材のSEM画像の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
本明細書において「〜」は、その前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示すものとする。
【0015】
本発明のリチウム二次電池用負極材は、鱗片状の天然黒鉛粒子に由来する球状黒鉛粒子であり、以下の(A)〜(E)を全て満たす球状黒鉛粒子を含み、必要に応じて導電補助剤等の他の成分を含んで構成される。
(A)体積平均粒子径(50%D)が10μm以上50μm以下である。
(B)真比重が2.22g/cm以上である。
(C)かさ密度が0.800g/cm以上である。
(D)BET法で測定される比表面積が2.0m/g以上6.0m/g以下である。
(E)波長532nmのレーザー光を用いたラマンスペクトル分析において、波数1580cm−1〜1620cm−1の範囲において最大強度を示す第1のピークのピーク強度I1580に対する、波数1350cm−1〜1370cm−1の範囲において最大強度を示す第2のピークのピーク強度I1350の比であるR値(I1350/I1580)が0.15以下である。
【0016】
かかる特定の物性値を示す球状黒鉛粒子は、リチウム二次電池用負極材として使用されてリチウム二次電池用負極を構成し、該リチウム二次電池用負極を備えたリチウム二次電池は、放電負荷容量と充放電効率に優れる。
【0017】
本発明のリチウム二次電池用負極材は、図2に示したSEM画像のような鱗片状の天然黒鉛粒子を表面改質処理して得られる球状黒鉛粒子を含むことが好ましい。前記表面改質処理としては鱗片状の天然黒鉛粒子を球状の黒鉛粒子に表面改質可能であれば特に制限されない。中でも、丸みを帯びた良好な形状の粒子が得られる観点から、粉砕、圧縮、せん断、造粒のような機械的表面改質であることが好ましい。このような機械的表面改質処理を行う装置としては、ボールミル、振動ミル、メカノミル、媒体攪拌ミル、回転容器とその内部に取り付けられたテーパーの間を粒子が通過する構造の装置などが挙げられる。
【0018】
ここで球状であるとは、黒鉛粒子の粒子像を観察した場合に、図3に示したSEM画像のような丸みを帯びた形状になっていることを意味し、好ましくは円形度が0.80以上であることを意味する。本発明においては円形度が0.85以上であることが好ましく、0.90以上であることがより好ましい。円形度が0.85以上であることで形成される電極をより高密度化することができる。
ここで円形度とは、黒鉛粒子の投影面積と同じ面積を持つ円の直径である円相当径から算出される円としての周囲長を、黒鉛粒子の投影像から測定される周囲長で除して得られる数値である。尚、円形度は真円では1.00となる。
黒鉛粒子の円形度は、例えば、フロー式粒子像分析装置(例えば、シスメックス株式会社製、FPIA−3000)等を用いて測定することができる。
【0019】
前記球状黒鉛粒子は、体積平均粒子径(50%D)が10μm以上50μm以下であり、好ましくは10μm以上30μm以下であり、より好ましくは15μm以上25μm以下である。
体積平均粒子径が10μm未満の場合はかさ密度が低く、比表面積も高くなるため、電極を塗布法で形成する場合、その塗工性が悪く、また充放電効率も低くなる場合がある。
一方、体積平均粒子径が50μmを超える場合は、電極塗工時に筋引きが起こる可能性があるため好ましくない。
体積平均粒子径は、例えば、レーザー光散乱法を利用した粒子径分布測定装置(例えば、株式会社島津製作所製、SALD−3000)を用いて測定することができる。
【0020】
本発明において、球状黒鉛粒子の体積平均粒子径を前記範囲とする方法としては、使用する鱗片状の天然黒鉛粒子の粒径を選択する方法、鱗片状の天然黒鉛粒子を機械的に表面改質する条件を選択する方法、球状黒鉛粒子を分級し調整する方法などを挙げることができる。
【0021】
真比重は黒鉛粒子の結晶度を反映し、真比重が大きいほど高結晶であることを示す。本発明において前記球状黒鉛粒子の真比重は2.22g/cm以上であり、2.24g/cm以上であることが好ましい。真比重が2.22g/cm未満の場合には、黒鉛粒子の結晶度が低いため、充放電効率が低くなる場合がある。
真比重は、JIS R7222−1997に記載の真比重の測定方法に従って測定される値である。
【0022】
本発明において、真比重を前記範囲とする方法としては、天然黒鉛粒子として結晶度の高い黒鉛粒子を選択する方法等を挙げることができる。
【0023】
前記球状黒鉛粒子は、かさ密度が0.800g/cm以上であり、好ましくは0.850g/cm以上である。かさ密度が0.800g/cm未満の場合、粒子の球形化度が低いため、電極の高密度化が困難で充放電効率が低くなる場合がある。
かさ密度は、容量200mlのメスシリンダーを斜めにし、これに試料粉末を200mlの標線までさじを用いて徐々に投入し、メスシリンダーに栓をした後、メスシリンダーを5cmの高さから100回落下させた後の試料粉末の質量及び容積から算出する方法等で測定される。
【0024】
本発明において、かさ密度を前記範囲とする方法としては、鱗片状の天然黒鉛粒子を機械的に表面改質する条件を選択する方法などを挙げることができる。
【0025】
前記球状黒鉛粒子は、BET法で測定される比表面積が2.0m/g以上6.0m/g以下であり、好ましくは3.0m/g以上5.0m/g以下である。比表面積が2.0m/g未満の場合、リチウムイオンと接する面積が小さいため、低温時の充電性や放電負荷特性が低下する場合がある。一方、比表面積が6.0m/gを超えると、充放電効率が低下する場合がある。これは例えば、黒鉛粒子と電解液との反応性が促進されるためと考えることができる。
BET法で測定される比表面積は、例えば、Micromeritics社製のASAP2010を用いて、液体窒素温度での窒素吸着を多点法で測定して算出することができる。
【0026】
本発明において、球状黒鉛粒子の比表面積を前記範囲とする方法としては、鱗片状の天然黒鉛粒子を機械的に表面改質する条件を選択する方法、球状黒鉛粒子を分級し調整する方法などを挙げることができる。
【0027】
前記球状黒鉛粒子は、波長532nmのレーザー光を用いたラマンスペクトル分析において、波数1580cm−1〜1620cm−1の範囲において最大強度を示す第1のピークP1のピーク強度I1580に対する、波数1350cm−1〜1370cm−1の範囲において最大強度を示す第2のピークP2のピーク強度I1350の比であるR値(I1350/I1580)が0.15以下であり、好ましくは0.12以下である。R値が0.15を超えると、充放電効率が低下する場合がある。これは例えば、結晶性成分の量比が不足するためと考えることができる。
尚、ピークP1は黒鉛結晶構造に対応するピークであり、ピークP2は炭素性の非晶質構造に対応するピークである。従ってこれらのピーク強度比であるR値は、非晶質成分と結晶性成分の割合を示し、R値が低いほど結晶性成分が多いことを意味する。
【0028】
球状黒鉛粒子のR値を上記範囲とする方法としては、例えば、鱗片状の天然黒鉛粒子を機械的に表面改質処理して得られる球状黒鉛粒子を、非酸化雰囲気中で1500℃以上の温度で加熱処理する方法を挙げることができる。本発明においては加熱処理の温度は2000℃以上であることが好ましく、2500℃以上であることがより好ましい。
1500℃以上の温度で加熱処理することで、球状黒鉛粒子のR値が上記範囲を満足し、充放電効率などの電池特性が改善される。これは例えば、機械的な表面改質により崩壊した粒子表面の結晶が、高温の加熱処理によって再生するためと考えることができる。
加熱温度の上限は特に制限されないが、3000℃以下であることが好ましい。
【0029】
前記加熱処理の時間は、加熱温度に応じて適宜選択できる。例えば、1時間〜100時間とすることができる。加熱処理における昇温速度は特に制限されない。
また加熱処理は非酸化雰囲気中で行われる。非酸化雰囲気は特に制限されず、例えば、窒素、アルゴン等の雰囲気を挙げることができる。
さらに加熱方法としては所望の温度に加熱することができれば特に制限されない。例えば、誘導加熱炉等を用いて行うことができる。
【0030】
<リチウム二次電池用負極>
本発明のリチウム二次電池用負極は、前記リチウム二次電池用負極材を含み、必要に応じてその他の成分を含んで構成される。その他の成分としては例えば、有機系結着剤(バインダー)、各種添加剤等を挙げることができる。
前記有機系結着剤としては例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンコポリマー、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム等の重合体;メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、ブチルメタクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート等のエチレン性不飽和カルボン酸エステル、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の不飽和ニトリル等をモノマーとして得られるアクリル系重合体;ポリ弗化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、ポリエピクロルヒドリン、ポリホスファゼン、ポリアクリロニトリル等のイオン導電率の大きな高分子化合物などが使用できる。
これらの有機系結着剤は、1種単独でも、2種以上を組み合わせても使用できる。
前記有機系結着剤は、前記リチウム二次電池用負極材と有機系結着剤との混合物100質量部に対して1質量部〜20質量部含まれることが好ましい。
【0031】
添加剤としては例えば、増粘剤、導電補助剤等を挙げることができる。
増粘剤としては例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸(塩)、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼインなどが挙げられる。
【0032】
導電補助剤としては例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック)、グラファイト、または導電性を示す酸化物や窒化物等が挙げられる。導電補助剤を含むことで、電極としての導電性をより向上させることができる。
【0033】
これらの添加剤は、1種単独でも、2種以上を組み合わせても使用できる。
添加剤の使用量はリチウム二次電池の特性を低下させない範囲であれば特に限定されないが、前記リチウム二次電池用負極材と添加剤の総量中に1質量%〜10質量%程度が好ましく、1質量%〜5質量%程度がより好ましい。
【0034】
前記リチウム二次電池用負極は、前記リチウム二次電池用負極材と、有機系結着剤と、必要に応じて添加される各種添加剤と、溶媒とを含むペースト状の負極材スラリーを、集電体に塗布、乾燥し、必要に応じて、ロールプレス等の成形法により圧縮成形することで形成することができる。また、ペースト状の負極材スラリーをシート状、ペレット状等に成形し、これをロールプレス等の成形法により集電体と一体化することで形成することもできる。
前記負極材スラリーは例えば、負極材スラリーを構成する成分を、撹拌機、ボールミル、スーパーサンドミル、加圧ニーダー等を用いて、攪拌、混練し、さらに必要に応じて粘度を調整することでの調製することができる。
【0035】
前記溶媒としては、前記有機系結着剤を溶解または分散可能な溶媒であれば特に制限されない。例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド等の有機溶剤や、水を例示することができる。
溶媒の使用量はペースト状となる限り特に制限されない。例えば、前記リチウム二次電池用負極材100質量部に対して、通常、60質量部〜150質量部程度、好ましくは60質量部〜100質量部程度である。
【0036】
前記集電体は、目的に応じて適宜選択することができる。集電体としては例えば、アルミニウム、ニッケル、銅等の箔、メッシュなどを挙げることができる。
【0037】
前記負極材スラリーを集電体に塗布する方法は特に制限されず、公知の方法を適宜選択することができる。具体的には例えば、メタルマスク印刷法、静電塗装法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法などを挙げることができる。
さらに上記負極材ペーストの集電体への塗布量は特に制限されない。例えば乾燥塗布量として、5mg/cm〜15mg/cm程度が好ましく、6mg/cm〜13mg/cm程度がより好ましい。
【0038】
<リチウム二次電池>
本発明のリチウム二次電池は、前記リチウム二次電池用負極を少なくとも備え、さらに正極と電解質(好ましくは、電解液)とを備え、必要に応じてセパレータをさらに備えて構成される。具体的には例えば、前記リチウム二次電池用負極と正極とをセパレータを介して対向して配置し、電解液を注入することにより得ることができる。この他にも、通常当該分野において使用されるガスケット、封口板、ケースなどをさらに備えていてもよい。
本発明のリチウム二次電池は、放電負荷容量と充放電効率に優れ、高電極密度化でも特性低下が少なく、高電池容量化に有効である。
前記リチウム二次電池の代表例としては、リチウムイオン二次電池が挙げられる。
【0039】
前記正極は、前記リチウム二次電池用負極と同様にして、集電体表面上に正極活物質および導電剤等を含む正極材層を形成することで得ることができる。
上記正極活物質は特に制限されず、必要に応じて適宜選択することができる。例えば、LiNiO、LiCoO、LiMn、LiMnO、LiCo0.33Ni0.33Mn0.33等のリチウム複合酸化物や、Cr、Cr、V、V13、VO、MnO、TiO、MoV等の金属酸化物、TiS、V、VS、MoS、MoS等の金属硫化物、ポリアニリン、ポリピロール等の導電性ポリマー、多孔質炭素等などを挙げることができる。
これらの正極活物質は、1種単独でも、2種以上を混合して用いてもよい。
上記導電剤としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックなどを例示できる。
【0040】
前記電解液としては、溶媒和しにくいアニオンを生成するリチウム塩を電解質として、非水系溶媒に溶解した、いわゆる有機電解液を使用することができる。
電解質としては、例えば、LiClO、LiPF、LiAsF、LiBF、LiClF、LiSbF、LiAlO、LiAlCl、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiC(CFSO、LiCl、LiI、LiSOCF等を挙げることができる。
前記電解質の濃度は特に限定されない。例えば、電解液1Lに対して電解質0.3モル〜5モルであることが好ましく、0.5モル〜3モルであることがより好ましく、0.8モル〜1.5モルであることが特に好ましい。
【0041】
非水系溶媒としては、例えば、カーボネート類、ラクトン類、鎖状エーテル類、環状エーテル類、スルホラン類、スルホキシド類、ニトリル類、アミド類、ポリオキシアルキレングリコール類等を挙げることができる。
前記非水系溶媒として具体的には、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、シクロペンタノン、スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン、ジメチルスルホキシド、3−メチル−1,3−オキサゾリジン−2−オン、γ−ブチロラクトン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、エチルブチルカーボネート、1,2−ジメトキシエタン、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、4−メチルジオキソラン、1,3−ジオキソラン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジエチレングリコール、酢酸メチル、酢酸エチル等を挙げることができる。
これらの非水系溶媒は、1種単独でも、2種以上を混合して用いてもよい。
【0042】
前記セパレータとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを主成分とした不織布、クロス、多孔質フィルム、又はそれらを組み合わせたものを使用することができる。尚、作製する二次電池の正極と負極が使用中も直接接触しない構造を採用した場合は、セパレータを使用しなくともよい。
【0043】
本発明のリチウム二次電池の構造は特に限定されない。例えば、正極及び負極と、必要に応じて設けられるセパレータとが、扁平渦巻状に巻回された巻回式極板群や、これらが平板状に積層された積層式極板群等を形成し、これら極板群を外装体中に封入した構造とするのが一般的である。
本発明のリチウム二次電池は、ペーパー型、ボタン型、コイン型、積層型、角型、円筒型など任意の形態とすることができる。
【0044】
図1にリチウム二次電池の一例として、円筒型リチウムイオン二次電池の一例の一部断面正面図を示す。図1に示す円筒型リチウムイオン二次電池は、薄板状に加工された正極1と、同様に加工された負極2がポリエチレン製微孔膜のセパレータ3を介して重ね合わせたものを捲回し、これを金属製の電池缶7に挿入し、密閉化されている。正極1は正極タブ4を介して正極蓋6に接合され、負極2は負極タブ5を介して電池底部に接合されている。正極蓋6はガスケット8にて電池缶(負極缶)7へ固定されている。
【0045】
本発明のリチウム二次電池は、従来の炭素材料を負極に用いたリチウム二次電池と比較して、放電負荷特性、サイクル特性、高電池容量化及び安全性に優れるため、各種電子・電機機器、自動車、電力貯蔵などの電源や補助電源として好適である。
【0046】
上述した本発明のリチウムイオン二次電池用負極材は、リチウムイオン二次電池用と記載したが、リチウムイオンを挿入脱離することを充放電機構とする電気化学装置全般、例えば、ハイブリッドキャパシタなどにも適用することが可能である。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0048】
<実施例1>
鱗片状の天然黒鉛粒子に、自由粉砕機(奈良機械製作所製、M3型)を用いて、回転数5000rpmの条件で10回通過させることにより機械的表面処理を行って、球形黒鉛粒子Bを得た。この球形黒鉛粒子Bを黒鉛製の坩堝に入れ、窒素雰囲気の誘導加熱炉で、1500℃で加熱処理して、リチウム二次電池用負極材1を得た。
得られたリチウム二次電池用負極材1について、以下のようにして各物性値を測定した。結果を表1に示す。また図3に球状黒鉛粒子BのSEM画像の一例を示す。
【0049】
(円形度)
試料を界面活性剤と共に精製水中に超音波で分散させた分散液について、フロー式粒子像分析装置(シスメックス株式会社製、FPIA−3000)を用いて円形度を測定した。円形度は、真円を1.00として、面積基準の円相当径から求めた円の周囲長を、粒子像の周囲長で除して算出した。
【0050】
(平均粒子径)
試料を界面活性剤と共に精製水中に分散させた分散液について、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製、SALD−3000J)の試料水槽に入れ、超音波をかけながらポンプで循環しつつ、レーザー回折式で測定した。得られた測定値のメディアン径(50%D)を体積平均粒子径とした。
【0051】
(真比重)
JIS R7222−1997に記載の真比重の測定方法に従って測定した。即ち、内容積約40mlの比重瓶(ピクノメーター)を使用して、次式のm〜mを測定し、次式により算出した。
式:d=(m−m)/(m−m−(m−m))×(m−m)/(m−m)×d
ここに、
:真比重
:比重瓶の質量(g)
:比重瓶に試料を入れたときの質量(g)
:比重瓶に1−ブタノールだけを標線まで入れたときの質量(g)
:比重瓶に試料を入れ、さらに1−ブタノールを標線まで入れたときの質量(g)
:比重瓶に蒸留水だけを標線まで入れたときの質量(g)
d:水の比重(0.9946、30℃)
【0052】
(比表面積)
Micromeritics社製のASAP2010を用い、液体窒素温度での窒素吸着を多点法で測定した。得られた測定値についてBET法に従って比表面積を算出した。
【0053】
(かさ密度)
容量200mlのガラス製メスシリンダーに、200mlの標線まで試料を入れ、落下距離5cmで100回タッピングした後、試料容積を測定し、試料質量を試料容積で除して算出した。
【0054】
(ラマンスペクトル分析)
ガラス板に試料を載せて、ガラス板に平行になるようにならして測定用試料とした。これをラマンスペクトル測定装置NRS−1000(励起光532nm、日本分光社製)を用いて、波数1580cm−1〜1620cm−1の範囲において最大強度を示す第1のピークのピーク強度I1580と、波数1350cm−1〜1370cm−1の範囲において最大強度を示す第2のピークのピーク強度I1350とを測定した。得られたピーク強度からR値を算出した。
【0055】
(リチウム二次電池用負極の作製)
得られたリチウム二次電池用負極材1の98部に対して、バインダとしてスチレンブタジエンゴム(日本ゼオン製、BM−400B)を1部と、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウム塩(第一工業製薬社製)を1部添加し、水を適量入れて固練した後、さらに水を添加し固形分45%のスラリーを作製した。
得られたスラリーを、アプリケータを用いて固形分塗布量が10mg/1.54cmになるように圧延銅箔(厚さ11μm、日本電解社製)に塗布し、80℃の乾燥機にて2時間、乾燥した。乾燥後、厚さが11μmとなるようロールプレスし、さらに真空下、120℃で2時間乾燥してリチウムイオン二次電池用負極を得た。得られたリチウムイオン二次電池用負極を、14mmφの円形に打ち抜き、これを評価用試料として使用した。
得られた評価用試料の電極密度は1700kg/mであった。
【0056】
(評価用セルの作製)
評価用セルは、CR2016型コインセルに上記負極と金属リチウムを40μmのポリプロピレン製セパレータを介して対向させ、電解液を注入することにより作製した。電解液はエチルカーボネートとメチルエチルカーボネートを体積比3対7で混合した混合溶媒に、LiPFを1.0mol/Lの濃度になるように溶解させ、これに0.5質量%のビニレンカーボネートを添加したものを使用した。
【0057】
(評価条件)
評価用セルを25℃の恒温槽内に入れ、充放電試験した。充電は、0.43mAの定電流で0Vまで充電後、0Vの定電圧で電流値が0.043mAになるまで行った。また放電は、0.43mAの定電流で1.5Vの電圧値まで行った。測定された放電容量(Ah/kg)と充電容量(Ah/kg)について、放電容量を充電容量で除して充放電効率(%)を算出した。結果を表2に示す。
尚、充電容量および放電容量は、初回充放電試験の結果で示した。
【0058】
また、充電を0.43mAの定電流で0Vまで充電後、0Vの定電圧で電流値が0.043mAになるまで行い、放電を、13.0mAの定電流で1.5Vの電圧値まで行って、放電負荷容量(Ah/kg)を測定した。結果を表2に示す。
【0059】
<実施例2、3>
加熱処理の温度をそれぞれ2000℃、2500℃としたこと以外は実施例1と同様にしてリチウム二次電池用負極材2、3を得た。得られたリチウム二次電池用負極材2、3について、上記と同様にして各物性値を測定した。
さらに上記と同様にして評価用セルを作製し、上記と同様にして評価した。
【0060】
<比較例1>
中国産の鱗片状の天然黒鉛粒子Aを加熱処理せずにリチウム二次電池用負極材C1として用いたこと以外は、上記と同様にして各物性値を測定した。
さらに上記と同様にして評価用セルを作製し、上記と同様にして評価した。
【0061】
<比較例2>
鱗片状の天然黒鉛粒子に機械的表面処理を行って得られた球形黒鉛粒子Bを、加熱処理せずにリチウム二次電池用負極材C2として用いたこと以外は、上記と同様にして各物性値を測定した。
さらに上記と同様にして評価用セルを作製し、上記と同様にして評価した。
【0062】
<比較例3>
加熱処理の温度を1000℃としたこと以外は実施例1と同様にしてリチウム二次電池用負極材C3を得た。得られたリチウム二次電池用負極材C3について、上記と同様にして各物性値を測定した。
さらに上記と同様にして評価用セルを作製し、上記と同様にして評価した。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
表2から、本発明のリチウム二次電池用負極材を用いて調製したリチウム二次電池用負極を用いて構成したリチウム二次電池は、電極密度を高くした場合でも、高容量で、放電負荷容量と充放電効率に優れることが分かる。
【符号の説明】
【0066】
1 正極
2 負極
3 セパレータ
4 正極タブ
5 負極タブ
6 正極蓋
7 電池缶(負極缶)
8 ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鱗片状の天然黒鉛粒子に由来する球状黒鉛粒子であり、以下の(A)〜(E)を全て満たす球状黒鉛粒子を含むリチウム二次電池用負極材。
(A)体積平均粒子径(50%D)が10μm以上50μm以下であり、
(B)真比重が2.22g/cm以上であり、
(C)かさ密度が0.800g/cm以上であり、
(D)BET法で測定される比表面積が2.0m/g以上6.0m/g以下であり、
(E)波長532nmのレーザー光を用いたラマンスペクトル分析において、波数1580cm−1〜1620cm−1の範囲において最大強度を示す第1のピークのピーク強度I1580に対する、波数1350cm−1〜1370cm−1の範囲において最大強度を示す第2のピークのピーク強度I1350の比であるR値(I1350/I1580)が0.15以下である。
【請求項2】
前記球状黒鉛粒子は、円相当径から算出される円の周囲長を実測された周囲長で除して得られる円形度が0.85以上である、請求項1に記載のリチウム二次電池用負極材。
【請求項3】
鱗片状の天然黒鉛粒子に由来する球状黒鉛粒子を、非酸化雰囲気中1500℃以上の温度で加熱処理する工程を含む、請求項1または請求項2に記載のリチウム二次電池用負極材の製造方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のリチウム二次電池用負極材を含むリチウム二次電池用負極。
【請求項5】
請求項4に記載のリチウム二次電池用負極と、正極と、電解質とを備えるリチウム二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−221951(P2012−221951A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−77795(P2012−77795)
【出願日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】