説明

リチウム二次電池用負極材及びリチウム二次電池用負極材の製造方法

【課題】負極容量が高く、サイクル特性に優れたリチウム二次電池用負極材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】アナターゼ型TiOを、アルカリ雰囲気下でリチウムイオンと接触させてリチウム処理した後、得られたリチウム処理物を400℃以上に加熱して加熱処理する。こうして得られたリチウムチタン複合酸化物は、アナターゼ型TiOと、スピネル型LiTi12とからなり、アナターゼ型TiOとスピネル型LiTi12との混合相を含んでいる。このリチウムチタン複合酸化物をリチウム二次電池用負極材として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムチタン複合酸化物混合相を用いたリチウム二次電池用負極材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、電解質中のリチウムイオンが電気導電を担う二次電池であって、エネルギー密度が高く、携帯電話やノートパソコン等に広く使用されている。また、ハイブリッド自動車、電気自動車、電動スクーター、電動自転車などの分野への展開も期待されている。
【0003】
リチウムイオン電池の正極材には、コバルト酸リチウムなどのリチウム遷移金属複合酸化物が用いられている。また、負極材としては、グラファイトカーボン、ハードカーボン等の炭素系材料が使用されている。
【0004】
しかしながら、炭素系材料を負極材に用いたリチウム二次電池は、安全性に問題があり、破裂や発火の恐れがあった。
【0005】
また、近年では、安全性の高いリチウムチタン複合酸化物を負極材に採用したリチウム二次電池の開発がなされている。
【0006】
引用文献1には、リチウム塩と、水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムとを溶解させた溶液に酸化チタンを投入し、680〜1000℃で1〜24時間焼成して、スピネル型チタン酸リチウムを主成分とし、ルチル型TiO、アナターゼ型TiO、LiTiOなどの不純物相が少なく、NaもしくはKを含み、Na及びKの含有量の和が、リチウムチタン複合酸化物に対し0.10重量%以上3.04重量%以下であるリチウムチタン複合酸化物を製造し、該リチウムチタン複合酸化物を、リチウム二次電池用負極材として用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−318797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、スピネル型LiTi12は、充放電効率、サイクル特性は良好であるが、低容量であるという問題があった。
【0009】
引用文献1では、スピネル型LiTi12以外の不純物相を少なくして、スピネル型LiTi12がほぼ単一相で含まれるようにしたリチウムチタン複合酸化物を、リチウム二次電池用負極材として用いているため、負極容量に問題があった。
【0010】
よって、本発明の目的は、安全性に優れ、負極容量が高く、かつ、不可逆容量が低くサイクル特性に優れたリチウム二次電池用負極材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明のリチウム二次電池用負極材は、アナターゼ型TiOと、スピネル型LiTi12とからなり、前記アナターゼ型TiOと前記スピネル型LiTi12との混合相を含むリチウムチタン複合酸化物で形成されたものであることを特徴とする。
【0012】
また、本発明のリチウム二次電池用負極材の製造方法は、アナターゼ型TiOを、アルカリ雰囲気下でリチウムイオンと接触させてリチウム処理した後、得られたリチウム処理物を400℃以上で加熱処理することを特徴とする。
【0013】
本発明のリチウム二次電池用負極材の製造方法は、前記リチウム処理物を400〜800℃で前記加熱処理することが好ましい。また、前記加熱処理は、2〜10時間行うことが好ましい。また、前記リチウム処理は、水酸化リチウム水溶液中で行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のリチウム二次電池用負極材は、アナターゼ型TiOとスピネル型LiTi12とからなり、アナターゼ型TiOとスピネル型LiTi12とが混合相を形成していることにより、アナターゼ型TiOの特徴であるサイクル特性と、スピネル型LiTi12の特徴である高負極容量とを両立させると共に、スピネル型LiTi12の欠点が改善され、負極容量が大きく、かつ、不可逆容量が低くサイクル特性に優れたリチウム二次電池とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】製造例1の中間生成物及び負極材のX線回折(XRD)パターンである。
【図2】製造例1〜6の中間生成物のX線回折(XRD)パターンである。
【図3】製造例2、3、7、8の中間生成物のX線回折(XRD)パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、本発明のリチウム二次電池用負極材について説明する。
【0017】
本発明のリチウム二次電池用負極材は、アナターゼ型TiOと、スピネル型LiTi12とからなるリチウムチタン複合酸化物で形成されている。そして、アナターゼ型TiOとスピネル型LiTi12との一部または全部が混合相をなしている。なお、アナターゼ型TiOとスピネル型LiTi12とが混合相を形成しているかどうかは、リチウムチタン複合酸化物をX線回折(XRD)し、アナターゼ型TiO由来のピークとスピネル型LiTi12由来のピークが一回の測定で同時に確認されれば、アナターゼ型TiOと、スピネル型LiTi12とが混合相を形成していると判断できる。
【0018】
また、Li以外のアルカリ金属の含有量は含有しないことが好ましい。Na、Kなどの、Li以外のアルカリ金属(以下、他のアルカリ金属と記す)を含むと、他のアルカリ金属がスピネル型LiTi12のLiと置換して不純物相が生成してしまう。これによって、負極容量が低下したり、不可逆容量が増加してサイクル特性が低下する傾向にある。
【0019】
本発明のリチウム二次電池用負極材は、アナターゼ型TiO100モルに対し、スピネル型LiTi12を5〜95モル含有することが好ましく、40〜60モル含有することがより好ましい。アナターゼ型TiOとスピネル型LiTi12とのモル比は、XRDのベースラインを規格化した後のピーク強度比から求めることができる。
【0020】
次に、本発明のリチウム二次電池用負極材の製造方法について説明する。
【0021】
まず。アナターゼ型TiOを、アルカリ雰囲気下でリチウムイオンと接触させてリチウム処理する。
【0022】
アナターゼ型TiOのリチウム処理は、水酸化リチウム水溶液中で行うことが好ましい。水酸化リチウム水溶液の温度は、安全性や、材料への熱履歴などを考慮して、100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましい。また、温度が低くなるほどリチウム処理に要する時間を要する傾向にあるので、下限値は60℃が好ましい。
【0023】
次に、得られたアナターゼ型TiOのリチウム処理物を、400℃以上に加熱して加熱処理することで、本発明のリチウム二次電池用負極材が得られる。
【0024】
加熱温度は400〜800℃が好ましく、400〜600℃がより好ましい。400℃未満であると、スピネル型LiTi12が生成されない。また、加熱温度が高すぎると、スピネル型LiTi12リッチになって負極容量が低下し易いので、上限は800℃が好ましい。
【0025】
加熱処理は、空気雰囲気中(または大気雰囲気中)で行う。
【0026】
加熱時間は、2〜10時間が好ましく、4〜7時間がより好ましい。2時間未満であると、スピネル型LiTi12が生成され難い。10時間を超えると、粒成長により反応面積が低下して負極容量が低下し易い。
【実施例】
【0027】
(製造例1)
2−プロパノール21gに、チタニウムテトライソプロポキシド7gを加えた混合溶液中に、撹拌しながら蒸留水12mlを滴下して、加水分解反応によりチタニアを析出させた。析出したチタニアに蒸留水を加え遠心分離機を用いて沈殿物を水洗した。上澄み溶液が中性になるまでこの操作を繰り返した。洗浄した沈殿物を150℃の乾燥機で2時間乾燥させ、めのう乳鉢を用いて粉砕してアナターゼ型TiOの粉末を調製した。
【0028】
次に、得られたアナターゼ型TiOの粉末0.2gに、水酸化リチウム水溶液(濃度5質量%)を10ml加え、60℃のオイルバス中で20時間撹拌した。得られた沈殿物に蒸留水を加え遠心分離機を用いて沈殿を水洗した。上澄み溶液が中性になるまでこの操作を繰り返した。洗浄した沈殿物を150℃の乾燥機で2時間乾燥させて中間生成物を得た。得られた中間生成物について、X線回折法(XRD)によりピーク強度を検出した。結果を図1及び図2に示す。
【0029】
次に、得られた中間生成物の粉末を、空気雰囲気中で、300℃、400℃、500℃、600℃の各温度で熱処理し、負極材を製造した。得られた負極材について、X線回折法によりピーク強度を検出した。結果を図1に示す。
【0030】
また、対極・参照極に金属リチウムを用い、作用極に各負極材を用い、電解液として1mol・dm−3 LiClO/PCを用いて評価用のリチウム二次電池を製造し、充放電試験を行い、1サイクル目の充放電効率と、120サイクル後の容量保持率を評価した。なお、測定には充放電装置を使用した。作用極にリチウムイオンを電気化学的に挿入する過程を放電、リチウムイオンが作用極から脱離して金属リチウムへ析出する過程を充電と定義した。また、定電流充放電測定は、放電から開始した。測定条件は、充放電電流密度5.0mA・cm−2、電位範囲1.0〜4.0V vs.Li/Li、測定温度は室温とした。容量は用いた電極中の活物質の重量で規格化して評価した。結果を表1に記す。
【0031】
【表1】

【0032】
図1から明らかなように、中間生成物を400℃以上で熱処理することにより、アナターゼ型TiOとスピネル型LiTi12との混合相が形成されることが分かる。
【0033】
そして、表1の結果から明らかなように、中間生成物を400℃以上で熱処理することで、充放電効率が高く、容量保持率の高いリチウム二次電池用負極材とすることができた。
【0034】
(製造例2)
製造例1において、アナターゼ型TiOの粉末0.2gに、水酸化リチウム水溶液(濃度5質量%)を7mlと、水酸化ナトリウム水溶液(濃度30質量%)を3ml加えた以外は、製造例1と同様にして中間生成物を得た。得られた中間生成物について、X線回折法(XRD)によりピーク強度を検出した。結果を図2及び図3に示す。
【0035】
(製造例3)
製造例1において、アナターゼ型TiOの粉末0.2gに、水酸化リチウム水溶液(濃度5質量%)を5mlと、水酸化ナトリウム水溶液(濃度30質量%)を5ml加えた以外は、製造例1と同様にして中間生成物を得た。得られた中間生成物について、X線回折法(XRD)によりピーク強度を検出した。結果を図2及び図3に示す。
【0036】
(製造例4)
製造例1において、アナターゼ型TiOの粉末0.2gに、水酸化リチウム水溶液(濃度5質量%)を3mlと、水酸化ナトリウム水溶液(濃度30質量%)を7ml加えた以外は、製造例1と同様にして中間生成物を得た。得られた中間生成物について、X線回折法(XRD)によりピーク強度を検出した。結果を図2に示す。
【0037】
(製造例5)
製造例1において、アナターゼ型TiOの粉末0.2gに、水酸化リチウム水溶液(濃度5質量%)を1mlと、水酸化ナトリウム水溶液(濃度30質量%)を9ml加えた以外は、製造例1と同様にして中間生成物を得た。得られた中間生成物について、X線回折法(XRD)によりピーク強度を検出した。結果を図2に示す。
【0038】
(製造例6)
製造例1において、アナターゼ型TiOの粉末0.2gに、水酸化ナトリウム水溶液(濃度30質量%)を10ml加えた以外は、製造例1と同様にして中間生成物を得た。得られた中間生成物について、X線回折法(XRD)によりピーク強度を検出した。結果を図2に示す。
【0039】
(製造例7)
製造例1において、アナターゼ型TiOの粉末0.2gに、水酸化リチウム水溶液(濃度5質量%)を5mlと、水酸化カリウム水溶液(濃度5質量%)を5ml加えた以外は、製造例1と同様にして中間生成物を得た。得られた中間生成物について、X線回折法(XRD)によりピーク強度を検出した。結果を図3に示す。
【0040】
(製造例8)
製造例1において、アナターゼ型TiOの粉末0.2gに、水酸化リチウム水溶液(濃度5質量%)を1mlと、水酸化カリウム水溶液(濃度5質量%)を9ml加えた以外は、製造例1と同様にして中間生成物を得た。得られた中間生成物について、X線回折法(XRD)によりピーク強度を検出した。結果を図3に示す。
【0041】
図2,3に示されるように、製造例2〜8のうち、製造例2、3、4、7による中間生成物は、2θ=45°及び65°に、製造例1の中間生成物(アナターゼ型TiOを水酸化リチウム水溶液のみで処理したもの)と似たようなピークが現れている。
しかし、リチウムがナトリウムやカリウムで置き換わることで、単純に価数変化するチタン量が同じだとすると、単位質量あたりの容量は、ナトリウム、カリウムの順に小さくなり、理論容量が小さくなるので、もっとも原子番号の小さいリチウムが容量面で有利になる。そのため、ピークだけを見ると製造例2、3、4,7の中間生成物においても製造例1と似た中間生成物が得られている可能性があるが、スピネル構造側のチタン酸リチウムのリチウムが、ナトリウムやカリウムで置換されるため、400℃以上に熱処理後しても、最終生成物の負極容量は、製造例1の負極材と比較して劣るものと考えられる。
また、スピネル構造側のチタン酸リチウムのリチウムが、ナトリウムやカリウムで置き換わることで、結晶粒子径が小さくなり、過剰な電解液の悪影響により、副反応のため生じる不可逆容量が増大することや、サイクル特性に悪影響を及ぼすことが考えられる。即ち、製造例2、3、4、7の中間生成物を400℃以上に加熱処理しても、最終生成物は製造例1の負極材よりも負極としての性能に劣るものと考えられる。
また、図2,3に示されるように、製造例5、6、8の中間生成物は、LiTiOとは異なるXRDパターンを示しており、LiTiO以外の結晶が生成していると考えられる。
このため、製造例5、6、8の中間生成物を400℃以上に加熱処理しても、最終生成物はアナターゼ型TiO、スピネル型LiTi12以外の不純物相が形成されると考えられ、製造例1の負極材よりも負極としての性能が劣ると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アナターゼ型TiOと、スピネル型LiTi12とからなり、前記アナターゼ型TiOと前記スピネル型LiTi12との混合相を含むリチウムチタン複合酸化物で形成されたリチウム二次電池用負極材。
【請求項2】
アナターゼ型TiOを、アルカリ雰囲気下でリチウムイオンと接触させてリチウム処理した後、得られたリチウム処理物を400℃以上で加熱処理することを特徴とする、リチウム二次電池用負極材の製造方法。
【請求項3】
前記リチウム処理物を400〜800℃で前記加熱処理する、請求項2に記載のリチウム二次電池用負極材の製造方法。
【請求項4】
前記加熱処理を2〜10時間行う、請求項2又は3に記載のリチウム二次電池用負極材の製造方法。
【請求項5】
前記リチウム処理を、水酸化リチウム水溶液中で行う、請求項2〜4のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用負極材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−169113(P2012−169113A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28485(P2011−28485)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】