説明

リチウム二次電池用負極活物質およびその製造方法

【課題】リチウム二次電池のサイクル寿命の長寿命化を達成することができるリチウム二次電池用負極材料を提供する。
【解決手段】リチウム二次電池用負極材料は、Cu20〜28at%、残部Alおよび不可避不純物からなる合金であって、かつ面心立方型D0規則構造が60vol%以上である合金からなる。リチウム二次電池用負極活物質を構成する合金の面心立方型D0規則構造における空孔となっている格子点の数の全格子点の数に対する比率である空孔率は、1×10−5〜1×10−6である。リチウム二次電池用負極活物質の製造方法は、Cu20〜28at%、残部Alおよび不可避不純物からなる合金の溶湯を、固相線から液相線までの間を通過する際に、冷却速度が500〜10K/secとなるように冷却することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はリチウム二次電池用負極活物質およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、Liイオンを多量にかつ可逆的に吸蔵・放出することのできる非水電解質二次電池用負極活物質およびその製造方法に関する。ここで、非水電解質二次電池は、電解質を有機溶媒に溶解した非水電解質を用いた二次電池と、高分子電解質やゲル電解質などの非水電解質を用いた二次電池とを包含する。
【0002】
この明細書および特許請求の範囲において、「粉末」とは、JIS Z2500で規定されているように、最大寸法1mm以下の粒子の集合体を意味するものとする。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池などのリチウム二次電池は、高いエネルギー密度を有するものであり、移動体通信機器や携帯用電子機器などの主電源として利用されるにとどまらず、大型の電力貯蔵用電源や車載用電源としても注目されている。
【0004】
このようなリチウム二次電池の負極としては、従来、黒鉛、結晶化度の低い炭素等の各種炭素材料から形成されたものが広く用いられていた。しかしながら、炭素材料からなる負極は、使用可能な電流密度が低く、理論容量も不十分である。たとえば炭素材料のひとつである黒鉛は、理論容量が372mAh/gに過ぎないため、より一層の高容量化が望まれている。
【0005】
一方、金属Liから形成された負極をリチウム二次電池に用いた場合には、高い理論容量が得られることが知られているが、充電時に、金属Liが負極にデンドライト状に析出し、充放電を繰り返すことによって成長を続け、正極側に達して内部短絡が起こるというという大きな欠点がある。その上、析出したデンドライト状金属Liは、比表面積が大きいために反応活性度が高く、その表面で電子伝導性のない溶媒の分解生成物からなる界面被膜が形成され、これによって電池の内部抵抗が高くなって充放電効率が低下する。このような理由により、金属Liから形成された負極を用いるリチウム二次電池は信頼性が低く、サイクル寿命が短いという欠点があり、広く実用化される段階には達していない。
【0006】
このような背景から、汎用の炭素材料よりも放電容量の大きい物質であって、金属Li以外の材料からなる負極活物質が望まれている。例えば、Sn、Si、Agなどの元素や、これらの窒化物、酸化物等は、Liイオンを吸蔵してLiイオンムと合金を形成することができ、その吸蔵量は各種炭素材料よりはるかに大きい値を示すことが知られている。
【0007】
しかしながら、Sn、Si、Agなどの元素や、これらの窒化物、酸化物等から形成された負極をリチウム二次電池に用いる場合には、充放電のサイクルを繰り返すうちに、Liイオンの吸蔵・放出に伴って負極に大きな膨張・収縮が発生し、この膨張・収縮に起因して負極の割れや微粉化が発生する。したがって、Sn、Si、Agなどの元素や、これらの窒化物、酸化物等上記物質から形成された負極を用いるリチウム二次電池はサイクル寿命が低下することになって実用電池として用いることはできない。
【0008】
その対策として、Liイオンを吸蔵・放出しやすい金属と、吸蔵・放出を行なわない金属とからなる2相以上の合金を負極活物質とし、吸蔵・放出を行なわない金属によって、Liイオンを吸蔵・放出する際の負極の膨張・収縮、および膨張・収縮に起因する負極の割れや微粉化を抑制することを意図した負極活物質が提案されている。
【0009】
たとえば特許文献1には、Liイオン吸蔵相α 、およびLiイオン吸蔵相αを構成する元素と他の元素との金属間化合物または固溶体からなる相βよりなり、かつ組成を選択した原料の溶湯を、アトマイズ法、ロール急冷法等により急冷凝固させた組織を有する負極活物質が記載され、特許文献2には、Ag、Al、Au、Ca、Cu、Fe、In、Mg、Pd、Pt、Y、Zn、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wおよび希土類元素からなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であるA成分、ならびにGa、Ge、Sb、Si及びSnからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素であるB成分からなる原料物質を混合し、メカニカルアロイング処理を行って形成された複合粉末からなる負極活物質が記載されている。
【0010】
しかしながら、特許文献1および2記載の負極活物質から形成された負極においては、大きな初期放電容量が得られるものの、充放電を繰り返すうちに生じる負極の膨張・収縮、および膨張・収縮に起因する負極の割れや微粉化を効果的に抑制することはできず、サイクル寿命の長寿命化を達成するには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001−297757号公報
【特許文献2】特開2005−78999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この発明の目的は、上記問題を解決し、Liイオンを吸蔵・放出する量が多く、したがって充電・放電容量が大きくなるとともに、充電・放電を繰り返すことによる容量低下が少なく、リチウム二次電池のサイクル寿命の長寿命化を達成することができるリチウム二次電池用負極活物質およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するために以下の態様からなる。
【0014】
1)Cu20〜28at%、残部Alおよび不可避不純物からなる合金であって、かつ面心立方型D0規則構造が60vol%以上である合金からなるリチウム二次電池用負極活物質。
【0015】
2)面心立方型D0規則構造における空孔となっている格子点の数の全格子点の数に対する比率である空孔率が、1×10−5〜1×10−6である上記1)記載のリチウム二次電池用負極活物質。
【0016】
3)前記合金の溶湯を急冷することによりつくられており、粒径が5〜20μmの粒子の集合体である粉末からなる上記1)または2)記載のリチウム二次電池用負極活物質。
【0017】
4)Cu20〜28at%、残部Alおよび不可避不純物からなる合金の溶湯を、固相線から液相線までの間を通過する際に、冷却速度が500〜10K/secとなるように冷却し、面心立方型D0規則構造が60vol%以上の固体とすることを特徴とするリチウム二次電池用負極活物質の製造方法。
【0018】
5)前記固体が、粒径が5〜20μmの粒子の集合体である粉末からなる上記4)記載のリチウム二次電池用負極活物質の製造方法。
【0019】
6)前記合金の溶湯を、ストリップキャスト法により、固相線から液相線までの間を通過する際に、冷却速度が500〜10K/secとなるように冷却し、面心立方型D0規則構造が60vol%以上のリボン状鋳造物を形成し、当該リボン状鋳造物に粉砕加工を施して粒径5〜20μmの粒子の集合体である粉末を得る上記4)または5)記載のリチウム二次電池用負極活物質の製造方法。
【0020】
7)前記合金の溶湯を、水アトマイズ法により、固相線から液相線までの間を通過する際に、冷却速度が500〜10K/secとなるように冷却し、面心立方型D0規則構造が60vol%以上であり、かつ粒径が5〜20μmの粒子の集合体である粉末を得る上記4)または5)記載のリチウム二次電池用負極活物質の製造方法。
【0021】
8)前記合金の溶湯を、水アトマイズ法により、固相線から液相線までの間を通過する際に、冷却速度が500〜10K/secとなるように冷却し、面心立方型D0規則構造が60vol%以上である粒子の集合体である粉末をつくり、その後前記粉末を分級して粒径が5〜20μmの粒子の集合体である粉末を得る上記4)または5)記載のリチウム二次電池用負極活物質の製造方法。
【0022】
9)集電体上に、上記1)のうちのいずれかに記載の負極活物質、導電助剤および結着剤を含む混合物質が付着されているリチウム二次電池用負極。
【0023】
10)上記9)記載の負極と、セパレータと、リチウム二次電池用正極とを備えているリチウム二次電池。
【発明の効果】
【0024】
上記1)〜3)のリチウム二次電池用負極活物質によれば、Cu20〜28at%、残部Alおよび不可避不純物からなる合金であって、かつ面心立方型D0規則構造が60vol%以上である合金からなるので、充電の際には、Li原子が、負極活物質の面心立方型D0規則構造におけるCu原子が存在する部分にCuと置換するように入り、Cu原子は同じく面心立方型D0規則構造に存在する空孔に移動する。また、充電の際に、Li原子が、負極活物質の面心立方型D0規則構造に存在する空孔内に入る。したがって、充電時の負極活物質の体積膨張が抑制され、大きな体積膨張に起因する負極活物質の割れや微粉化、ならびに負極活物質の導電助剤および結着剤からの剥離を効果的に抑制することができる。一方、放電の際にはLi原子が面心立方型D0規則構造から出ていき、AlとCuの占有位置が決まっている元の規則構造に戻る。したがって、放電時にLiが抜けることに起因する負極活物質の構造の崩壊を効果的に抑制することができる。その結果、リチウム二次電池のサイクル寿命の長寿命化を図ることが可能になる。
【0025】
上記3)のリチウム二次電池用負極活物質によれば、リチウム二次電池を構成する際に、現行の黒鉛負極を用いた場合と同様な工程で行うことができる。
【0026】
上記4)〜8)の方法によれば、フリーズ効果によって、前記合金の溶湯を、高温時の状態に保ったままで凝固させることができるので、上記1)〜3)のリチウム二次電池用負極活物を比較的簡単に得ることができる。
【0027】
上記9)の負極および上記10)のリチウム二次電池によれば、上記1)および2)の負極活物質で述べたような顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、この発明をさらに詳細に説明する。
【0029】
リチウム二次電池用負極活物質は、Cu20〜28at%、残部Alおよび不可避不純物からなる合金であって、かつ面心立方型D0規則構造が60vol%以上である合金からなる。このリチウム二次電池用負極活物質からなる負極においては、充電時には、Liイオンから形成されたLi原子が、負極活物質の面心立方型D0規則構造におけるCu原子が存在する部分にCuと置換するように入り、Cu原子は同じく面心立方型D0規則構造に存在する空孔に移動する。また、充電の際に、Li原子が、負極活物質の面心立方型D0規則構造に存在する空孔内に入る。したがって、充電時の負極活物質の体積膨張が抑制され、大きな体積膨張に起因する負極活物質の割れや微粉化、ならびに負極活物質の導電助剤および結着剤からの剥離を効果的に抑制することができる。一方、放電の際にはLi原子が面心立方型D0規則構造から出ていき、AlとCuの占有位置が決まっている元の規則構造に戻る。したがって、放電時にLiが抜けることに起因する負極活物質の構造の崩壊を効果的に抑制することができる。しかしながら、負極活物質を構成する合金中のCu含有量が少なすぎると、Li原子と置換するCu原子の数が不足して、負極活物質の構造が崩壊しやすくなる。また、負極活物質を構成する合金中のCu含有量が多すぎると、負極活物質を用いた負極の放電容量が低下する。したがって、負極活物質を構成する合金中のCu含有量は20〜28at%とすべきである。
【0030】
なお、Cu含有量が20〜28at%であるから、Liと化合物化するAlの量が減ることになって、2段階のLiとの化合物化が起こしてAlLi、AlLiなどが生成することはなく、これを用いた負極の理論容量は、AlLiの場合の993mAh/gとなるが、リチウム二次電池のサイクル寿命の長寿命化を図ることが可能になる。
【0031】
さらに、面心立方型D0規則構造が少なすぎると、崩壊を抑制する構造が少なくなるため、負極活物質の構造が崩壊しやすくなる。したがって、負極活物質を構成する合金における面心立方型D0規則構造の量は60vol%以上とすべきである。
【0032】
リチウム二次電池用負極活物質において、面心立方型D0規則構造における空孔となっている格子点の数の全格子点の数に対する比率である空孔率が、1×10−5〜1×10−6であることが好ましい。当該空孔率が低すぎると、Cu原子と置換するLi原子の数が少なくなり、LiとAlとが合金化して体積膨張が大きくなるおそれがある。また、前記空孔率が高すぎると、構造を保持できず、崩壊しやすくなる。
【0033】
リチウム二次電池用負極活物質は、Cu20〜28at%、残部Alおよび不可避不純物からなる合金の溶湯を急冷することによりつくられており、粒径が5〜20μmの粒子の集合体である粉末からなることが好ましい。前記合金の溶湯を急冷すると、フリーズ効果によって、前記合金の溶湯を、高温時の状態に保ったままで凝固させることができるので、面心立方型D0規則構造の量および空孔率を上述した値にすることができる
また、リチウム二次電池用負極活物質を形成する粉末の粒子の粒径は、小さすぎると、負極活物質、結着剤および導電助剤などからなる混合物中に負極活物質が分散しにくくなり、大きすぎると、前記混合物を集電体に塗布する際に厚肉になり、電池性能が低下するおそれがある。したがって、リチウム二次電池用負極活物質を形成する粉末の粒子の粒径は5〜20μmであることが好ましい。
【0034】
リチウム二次電池用負極活物質は、Cu20〜28at%、残部Alおよび不可避不純物からなる合金の溶湯を、固相線から液相線までの間を通過する際に、冷却速度が500〜10K/secとなるように冷却し、面心立方型D0規則構造が60vol%以上の固体とすることを特徴とする方法で製造される。
【0035】
上記方法において、固相線から液相線までの間を通過する際の冷却速度を500〜10K/secとしたのは、この場合に、面心立方型D0規則構造の量を60vol%以上とすることができるからである。また、面心立方型D0規則構造における空孔となっている格子点の数の全格子点の数に対する比率である空孔率を、1×10−5〜1×10−6とすることができるからである。上記冷却速度が遅すぎると面心立方型D0規則構造の空孔率が低下し、速すぎると面心立方型D0規則構造となる金属間化合物の割合が低下するおそれがある。
【0036】
リチウム二次電池用負極活物質の製造方法の具体的例は、Cu20〜28at%、残部Alおよび不可避不純物からなる合金の溶湯を、ストリップキャスト法により、固相線から液相線までの間を通過する際に、冷却速度が500〜10K/secとなるように冷却し、面心立方型D0規則構造が60vol%以上のリボン状鋳造物を形成し、当該リボン状鋳造物に粉砕加工を施して粒径5〜20μmの粒子の集合体である粉末を得るものである。
【0037】
この方法では、リボン状鋳造物における面心立方型D0規則構造の量が60vol%となるが、粉末を構成する各粒子における面心立方型D0規則構造の量が、必ずしも60vol%以上となるわけではない。
【0038】
また、リチウム二次電池用負極活物質の製造方法の他の具体的例は、Cu20〜28at%、残部Alおよび不可避不純物からなる合金の溶湯を、水アトマイズ法により、固相線から液相線までの間を通過する際に、冷却速度が500〜10K/secとなるように冷却し、面心立方型D0規則構造が60vol%以上であり、かつ粒径が5〜20μmの粒子の集合体である粉末を得るものである。 さらに、リチウム二次電池用負極活物質の製造方法のさらに他の具体的例は、Cu20〜28at%、残部Alおよび不可避不純物からなる合金の溶湯を、水アトマイズ法により、固相線から液相線までの間を通過する際に、冷却速度が500〜10K/secとなるように冷却し、面心立方型D0規則構造が60vol%以上であり、かつ粒径が5〜20μmの粒子の集合体である粉末を得るものである。
【0039】
上記2つの他の具体例の方法において、粒子の集合体である粉末全体として見た場合に、面心立方型D0規則構造の量が60vol%となるが、粉末を構成する各粒子における面心立方型D0規則構造の量が、必ずしも60vol%以上となるわけではない。
【0040】
負極活物質は、たとえばコイン型のリチウム二次電池に用いられる。コイン型のリチウム二次電池は、ケース内に、負極、負極と対向した正極、負極と正極との間に挟まれたセパレータ、および非水電解質が封入されたものである。
【0041】
負極は、集電体上に、負極活物質、導電助剤および結着剤を含む混合物が付着させられたものである。集電体としては、たとえば圧延銅箔や、電解銅箔などの銅箔が用いられる。。導電助剤としては、ケッチェンブラックやアセチレンブラックなどがが用いられるが、これに限定されるものではない。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデンが用いられるが、これに限定されるものではない。
【0042】
正極としては、たとえばLiCoOからなるものが活物質として用いられ、当該活物質と導電助剤および結着剤との混合物がアルミニウム箔からなる集電体上に付着されたものが用いられるが、これに限定されるものではない。
【0043】
上述したリチウム二次電池において、充電時には、Liイオンが、負極においてLi原子となり、Li原子が、負極活物質の面心立方型D0規則構造におけるCu原子が存在する部分にCuと置換するように入り、Cu原子は同じく面心立方型D0規則構造に存在する空孔に移動する。また、充電の際に、Li原子が、負極活物質の面心立方型D0規則構造に存在する空孔内に入る。したがって、充電時の負極活物質の体積膨張が抑制され、大きな体積膨張に起因する負極活物質の割れや微粉化、ならびに負極活物質の導電助剤および結着剤からの剥離を効果的に抑制することができる。一方、放電の際にはLi原子が面心立方型D0規則構造から出ていき、AlとCuの占有位置が決まっている元の規則構造に戻る。したがって、放電時にLiが抜けることに起因する負極活物質の構造の崩壊を効果的に抑制することができる。その結果、充電・放電を繰り返すことによる容量低下が少なくなって、リチウム二次電池のサイクル寿命の長寿命化を図ることが可能になる。特に、充放電を繰り返すことによる容量低下が少なくなる。
【0044】
上記実施形態においては、この発明による負極活物質がコイン型のリチウム二次電池に用いられているが、これに限定されるものではなく、角型、円筒型、ラミネート型などの公知のリチウム二次電池に用いられる。
【0045】
つぎに、この発明の実施例を比較例とともに説明する。
【0046】
実施例1
Cu25at%、残部Alおよび不可避不純物からなる合金の溶湯を、ストリップキャスト法により、固相線から液相線までの間を通過する際に、冷却速度が1×10K/secとなるように冷却してリボン状鋳造物を形成した。当該リボン状鋳造物中の面心立方型D0規則構造は65vol%であり、空孔率は1×10−5であった。ついで、当該リボン状鋳造物に、ジェットミルを用いて粉砕加工を施し、粒径5〜15μmの粒子の集合体である粉末からなる負極活物質を得た。
【0047】
実施例2
Cu25at%、残部Alおよび不可避不純物からなる合金の溶湯を、水アトマイズ法により、固相線から液相線までの間を通過する際に、冷却速度が1×10K/secとなるように冷却して粒子の集合体である粉末をつくった。粉末全体として見た場合、面心立方型D0規則構造は73vol%であり、空孔率は1×10−5であった。ついで、当該粉末に、ジェットミルを用いて粉砕加工を施し、粒径5〜15μmの粒子の集合体である粉末からなる負極活物質を得た。
【0048】
比較例1
Cu25at%、残部Alおよび不可避不純物からなる合金の溶湯を、重力鋳造法により鋳造して鋳造物を形成した。当該鋳造物中の面心立方型D0規則構造は55vol%であり、空孔率は1×10−13であった。ついで、当該鋳造物に、ジェットミルを用いて粉砕加工を施し、粒径5〜15μmの粒子の集合体である粉末からなる負極活物質を得た。
【0049】
比較例2
Cu10at%、残部Alおよび不可避不純物からなる合金の溶湯を、水アトマイズ法により、固相線から液相線までの間を通過する際に、冷却速度が1×10K/secとなるように冷却して粒子の集合体である粉末をつくった。粉末全体として見た場合、面心立方型D0規則構造は10vol%であり、空孔率は1×10−5であった。その後、当該粉末に、ジェットミルを用いて粉砕加工を施し、粒径5〜15μmの粉末からなる負極活物質を得た。
【0050】
比較例3
Cu40at%、残部Alおよび不可避不純物からなる合金の溶湯を、ストリップキャスト法により、固相線から液相線までの間を通過する際に、冷却速度が1×10K/secとなるように冷却してリボン状鋳造物を形成した。当該リボン状鋳造物中の面心立方型D0規則構造は0vol%であり、空孔率は1×10−5であった。ついで、当該リボン状鋳造物に、ジェットミルを用いて粉砕加工を施し、粒径5〜15μmの粉末からなる負極活物質を得た。
【0051】
比較例4
黒鉛粉末からなる負極活物質を用意した。
【0052】
評価試験
実施例1〜2および比較例1〜4の負極活物質:90重量部と、ポリフッ化ビニリデンからなる結着剤:5重量部と、ケッチェンブラックからなる導電助剤:5重量部とを混合し、当該混合物を厚み10μmの銅箔からなる集電体上に塗布した。ついで、上記混合物が塗布された集電体を1cmの円形ポンチで打ち抜き、これを負極とした。そして、金属Liを正極とし、正極と負極との間に気孔率40vol%のミクロボア構造をしたポリエチレンからなるセパレータを挟み、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)との混合溶媒(EC+DMC=1:1(体積比))に1mol/リットルのLiClOを溶解させた溶液を電解質とし、露点が−50℃以下の雰囲気であるドライボックス中でコイン型モデル電池(CR2032タイプ)を作製した。
【0053】
そして、実施例1〜2および比較例1〜4において作製したモデル電池について、負極の評価を次の方法で行った。
【0054】
まず、モデル電池を、0.2mA/cmの定電流で1Vに達するまで充電し、10分間休止後、0.2mA/cmの定電流で0Vに達するまで放電した。これを、1サイクルとし、繰り返し充放電を行って放電容量を調べた。
【0055】
実施例1〜2および比較例1〜4において作製したモデル電池におけるサイクル数と放電容量とを表1に示す。
【表1】

【0056】
表1から明かなように、実施例の負極活物質を用いて作製した負極を有するモデル電池では、比較例の負極活物質を用いて作製した負極を有するモデル電池と比較して初期放電容量が同等であるか、あるいは高くなっているとともに、300サイクル経過後の放電容量の低下も少なく十分な値を維持していることが分かる。したがって、実施例の負極活物質を用いて作製した負極を有するモデル電池では、比較例の負極活物質を用いて作製した負極を有するモデル電池と比較してサイクル寿命の長寿命化が達成されている。
【産業上の利用可能性】
【0057】
この発明によるリチウム二次電池用負極活物質は、リチウム二次電池の負極に好適に用いられ、リチウム二次電池のサイクル寿命の長寿命化を達成することが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu20〜28at%、残部Alおよび不可避不純物からなる合金であって、かつ面心立方型D0規則構造が60vol%以上である合金からなるリチウム二次電池用負極活物質。
【請求項2】
面心立方型D0規則構造における空孔となっている格子点の数の全格子点の数に対する比率である空孔率が、1×10−5〜1×10−6である請求項1記載のリチウム二次電池用負極活物質。
【請求項3】
前記合金の溶湯を急冷することによりつくられており、粒径が5〜20μmの粒子の集合体である粉末からなる請求項1または2記載のリチウム二次電池用負極活物質。
【請求項4】
Cu20〜28at%、残部Alおよび不可避不純物からなる合金の溶湯を、固相線から液相線までの間を通過する際に、冷却速度が500〜10K/secとなるように冷却し、面心立方型D0規則構造が60vol%以上の固体とすることを特徴とするリチウム二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記固体が、粒径が5〜20μmの粒子の集合体である粉末からなる請求項4記載のリチウム二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記合金の溶湯を、ストリップキャスト法により、固相線から液相線までの間を通過する際に、冷却速度が500〜10K/secとなるように冷却し、面心立方型D0規則構造が60vol%以上のリボン状鋳造物を形成し、当該リボン状鋳造物に粉砕加工を施して粒径5〜20μmの粒子の集合体である粉末を得る請求項4または5記載のリチウム二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記合金の溶湯を、水アトマイズ法により、固相線から液相線までの間を通過する際に、冷却速度が500〜10K/secとなるように冷却し、面心立方型D0規則構造が60vol%以上であり、かつ粒径が5〜20μmの粒子の集合体である粉末を得る請求項4または5記載のリチウム二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記合金の溶湯を、水アトマイズ法により、固相線から液相線までの間を通過する際に、冷却速度が500〜10K/secとなるように冷却し、面心立方型D0規則構造が60vol%以上である粒子の集合体である粉末をつくり、その後前記粉末を分級して粒径が5〜20μmの粒子の集合体である粉末を得る請求項4または5記載のリチウム二次電池用負極活物質の製造方法。
【請求項9】
集電体上に、請求項1〜3のうちのいずれかに記載の負極活物質、導電助剤および結着剤を含む混合物質が付着されているリチウム二次電池用負極。
【請求項10】
請求項9記載の負極と、セパレータと、リチウム二次電池用正極とを備えているリチウム二次電池。

【公開番号】特開2013−84503(P2013−84503A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224824(P2011−224824)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】