説明

リチウム二次電池用銅箔及びその製造方法

【課題】皮膜の剥離を良好に抑制することができ、リチウム二次電池として用いたとき、優れた容量維持率を実現する粗化面構造を備えた銅箔及びその製造方法を提供する。
【解決手段】銅又は銅合金箔基材と、該銅又は銅合金箔基材を被覆する第1の金属からなる複数の粒子を有する第1層と、前記粒子表面に起立する第2の金属からなる複数の平板状体を有する第2層と、を備えた銅又は銅合金箔。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は銅箔及びその製造方法に関し、より詳細にはリチウム二次電池用負極集電体において活物質層との密着性が要求される用途に好適な粗化面を有する銅箔及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅箔にはその製法から圧延銅箔と電解銅箔の2種類に大別され、用途に応じて使い分けられている。何れの銅箔においても樹脂および他の材質との良好な接着性が要求される場合がある。例えば、リチウム二次電池用の負極においては集電体としての銅箔と負極活物質の密着性が要求される。リチウム二次電池の負極用の集電体銅箔と活物質層との密着性等を改善するために、予め粗化処理と呼ばれる銅箔表面に凹凸を形成する表面処理を施すことが一般に行われている。粗化処理の方法としては、ブラスト処理、粗面ロールによる圧延、機械研磨、電解研磨、化学研磨及び電着粒のめっき等の方法が知られており、これらの中でも特に電着粒のめっきは多用されている。この技術は、例えば特許文献1に開示されているように、硫酸銅酸性めっき浴を用いて、銅箔表面に樹枝状又は小球状に銅を多数電着せしめて平板状の凹凸を形成し、投錨効果による密着性の改善を狙ったり、体積変化の大きな活物質の膨張時に活物質層の凹部に応力を集中させて亀裂を形成せしめ、集電体界面に応力が集中することによる剥離を防ぐことを狙ったりして行われている。
【0003】
しかしながら、硫酸銅酸性めっき浴によって得られた粗化粒子は、不均一で粗度が高いという問題がある。粗化粒子の粗度が高いと投錨効果が弱くなり、集電体銅箔と負極活物質の高い密着性が得られなくなってしまう。
【0004】
上述のような問題に対し、近年、カーボンファイバーを添加しためっき浴で、銅箔表面を粗化する技術が開発されている。例えば、特許文献2には、カーボンナノチューブを分散剤により分散させためっき浴によって、銅箔表面に、多数のカーボンナノチューブが表面に分散した状態で析出した銅粒子による銅めっきを形成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3733067号公報
【特許文献2】特開2007−9333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、カーボンファイバーを添加しためっき浴を用いて銅箔表面を粗化させる技術が知られているが、それらはいずれも銅箔表面に多数のカーボンナノチューブが表面に分散した状態で析出した銅粒子による銅めっきを形成することで、銅箔表面を粗化させている。
しかしながら、リチウム二次電池の場合、特に理論容量の大きな合金系負極活物質を用いた負極では充放電による体積変化が大きく、集電体界面への応力集中が発生して活物質が剥離しやすいという問題がある。
【0007】
そこで、本発明は、活物質の剥離を良好に抑制することができ、リチウム二次電池として用いたとき、優れた容量維持率を実現する粗化面構造を備えた銅箔を提供することを一つの課題とする。また、本発明は、そのような銅箔を製造するための方法の提供を別の課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、複数の粗大な金属粒子が表面に付着した銅又は銅合金箔基材を、カーボンファイバーを添加しためっき浴に銅箔を浸漬し、これに電気めっき処理を施すことにより、金属粒子表面に起立する複数の平板状体を形成し得ることを見出した。金属粒子表面上に起立する平板状体を形成することで、平滑な基板上に平板状体を形成した場合とは異なり、平板状体が様々な向きに起立し、且つ、隣り合う該平板状体の間隔がより広がった金属箔が形成される。このような、様々な向きに起立し、且つ、間隔が広がって形成された複数の平板状体により、下地である金属粒子表面が構成する粒状凹凸が持つ負極活物質の体積膨張に伴う集電体界面への応力集中を緩和させる効果と、複数の平板状体が持つ表面積増加と投錨効果による結合力強化の効果により、皮膜の剥離を良好に抑制することができ、さらにリチウム二次電池として用いたとき、優れた容量維持率を有することができると考えられる。
【0009】
上記知見を基礎として完成した本発明は、銅又は銅合金箔基材と、該銅又は銅合金箔基材を被覆する第1の金属からなる複数の粒子を有する第1層と、前記粒子表面に起立する第2の金属からなる複数の平板状体を有する第2層と、を備えた銅又は銅合金箔である。
【0010】
本発明に係る銅又は銅合金箔は、一態様において、箔表面からSEM観察したときに観察される、前記箔表面に水平な方向における前記平板状体の長辺方向の平均幅が0.5〜4.0μmである。
【0011】
本発明に係る銅又は銅合金箔は、別の一態様において、箔表面からSEM観察したときに観察される前記平板状体の平均密度が0.4〜100個/μm2である。
【0012】
本発明に係る銅又は銅合金箔は、更に別の一態様において、箔断面からSEM観察したときに観察される前記平板状体の平均厚さが0.05〜1.0μmである。
【0013】
本発明に係る銅又は銅合金箔は、更に別の一態様において、箔断面からSEM観察したときに観察される前記第1層の平均厚さが0.5〜5.0μmである。
【0014】
本発明に係る銅又は銅合金箔は、更に別の一態様において、前記第1層の算術平均表面粗さRaが0.05〜2.0μmである。
【0015】
本発明に係る銅又は銅合金箔は、更に別の一態様において、前記平板状体はCuからなる。
【0016】
本発明に係る銅又は銅合金箔は、更に別の一態様において、前記粒子はCuからなる。
【0017】
本発明は、別の一側面において、第1の金属からなる複数の粒子を有する第1層で被覆された銅又は銅合金箔基材をカーボンファイバーが添加された第2の金属のめっき浴に浸漬し、電気めっきにより、前記粒子表面に起立する前記第2の金属からなる複数の平板状体を有する第2層を形成する銅又は銅合金箔の製造方法である。
【0018】
本発明に係る銅又は銅合金箔の製造方法は、一態様において、前記めっき浴にカーボンファイバーが0.5〜10g/L添加されている。
【0019】
本発明に係る銅又は銅合金箔の製造方法は、別の一態様において、前記電気めっきの電流密度が3.0A/dm2以下である。
【0020】
本発明は、更に別の一側面において、本発明に係る銅又は銅合金箔を集電体として用いたリチウム二次電池用負極である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によって、従来とは別異の粗化面構造をもつ銅箔及びその製造方法が提供される。本発明に係る積層銅箔は樹脂との密着性を高くすることが可能である。また、本発明に係る銅箔の表面に起立する平板状体は微細化が可能であるため、ファインピッチ加工によるエッチング不良を良好に抑制することができる。さらに、電着物が、銅箔と同じ材料である銅を用いているため、エッチング処理が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、実施例:No.5に係る銅電着層表面の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(本発明に係る銅又は銅合金箔)
本発明に係る銅又は銅合金箔は、その銅又は銅合金箔基材が第1の金属からなる複数の粒子を有する第1層によって被覆され、さらに、前記粒子表面に起立する第2の金属からなる複数の平板状体を有する第2層を備えている。その結果、本発明に係る銅又は銅合金箔の表面には大きく分けて、複数の粒子に起因した粒状凹凸群と、複数の平板状体に起因した平板状凹凸群の二種類の凹凸群が混在する幾何学的形状が形成されている。
本発明の粒状凹凸群と平板状凹凸群との組み合わせは、活物質膨張時の集電体界面への応力集中を緩和する効果が高く、かつ、集電体と活物質層の結合力を強化する。理論によって本発明が限定されることを意図しないが、これは、平滑な基板上に平板状体を形成した場合の平板状体が密集する形状とは異なり、粒状凹凸群を構成する金属粒子表面上に起立する平板状体を形成することで、平板状体が様々な向きに起立し、且つ、隣り合う該平板状体の間隔がより広がった金属箔が形成されるためである。このような、様々な向きに起立し、且つ、間隔が広がって形成された複数の平板状体により、下地である粒状凹凸が持つ負極活物質の体積膨張に伴う集電体界面への応力集中を緩和させる効果と、複数の平板状体が持つ表面積増加と投錨効果による結合力強化の効果により、皮膜の剥離を良好に抑制することができ、さらにリチウム二次電池として用いたとき、優れた容量維持率を有することができる。
【0024】
本発明に使用する銅又は銅合金箔基材は電解銅箔及び圧延銅箔の何れを用いてもよく、用途や要求特性に応じて適宜選択することができる。例えば、圧延銅箔は特に高強度や耐屈曲性が要求される場合に使用するとよい。リチウム二次電池負極の集電体として使用する場合、銅箔を薄肉化した方がより高容量の電池を得ることができるが、薄肉化すると強度低下による破断の危険性が生じることから、このような場合には電解銅箔よりも強度に優れている圧延銅箔を使用するのが好ましい。
銅又は銅合金箔基材に使用する銅又は銅合金の種類には特に制限はなく、用途や要求特性に応じて適宜選択すればよい。例えば、限定的ではないが、高純度の銅(無酸素銅やタフピッチ銅等)の他、Sn入り銅、Ag入り銅、Ni、Si等を添加したCu−Ni−Si系銅合金、Cr、Zr等を添加したCu−Cr−Zr系銅合金のような銅合金が挙げられる。
銅又は銅合金箔基材の厚さも特に制限はなく、用途や要求特性に応じて適宜選択すればよい。一般的には1〜100μmであるが、リチウム二次電池負極の集電体として使用する場合、銅箔を薄肉化した方がより高容量の電池を得ることができる。そのような観点から、典型的には2〜50μm、より典型的には5〜20μm程度である。
【0025】
粒状凹凸群を構成する粒子の個数密度は、個々の粒子の大きさにもよるが、高すぎると粒子の大きさが小さく、活物質膨張時の応力が分散しすぎるため、応力緩和に必要な活物質の亀裂が発生しない。逆に個数密度が低すぎると粒子の大きさが大きくなるため、凹凸が小さく厚さが厚い層になってしまう。そのため、活物質膨張時の応力が適度に分散し、凹凸が大きく、厚さが薄い個数密度を有するのが好ましい。本発明においては、粒子は、典型的には断面10μm当たり3〜20個存在し、より典型的には5〜20個存在し、更により典型的には8〜20個存在する。粒子の個数密度は本発明に係る銅又は銅合金箔を断面からSEM観察することによって測定することができる。
【0026】
前記銅合金箔基材を被覆する複数の粒子を有する第1層の算術平均表面粗さRaは、非接触式粗さ試験機(三鷹光器製NH−3)にて測定され、好ましくは、0.05〜2.0μmであり、より好ましくは0.1〜1.5μmであり、更に好ましくは0.2〜1.0μmである。
【0027】
前記銅合金箔基材を被覆する複数の粒子を有する第1層の平均厚さは、箔断面からSEMにより観察することができ、好ましくは、0.5〜5.0μmであり、より好ましくは0.8〜4.0μmであり、更に好ましくは1.0〜2.5μmである。
【0028】
粒状凹凸群を形成する基盤となる粒子の材料(第1の金属)としては、特に制限はないが、導電率、コスト等の理由により、Ni、Cu、Ag、Feが好ましく、Ni、Cuがより好ましく、Cuが更により好ましい。
【0029】
前記粒子表面に起立する第2の金属からなる複数の平板状体を有する第2層は、本発明に係る銅又は銅合金箔の最外層を形成する。かかる複数の平板状体が投錨効果を示し、活物質層との密着性向上に寄与する。また、平板状体が前記粒子表面から様々な方向に起立するように形成されており、このため隣り合う平板状体の間隔がより広がった金属箔を得ることが出来る。従って、負極活物質の体積膨張を緩和させることで集電体界面への応力集中を緩和させて皮膜の剥離を良好に抑制することができる。平板状体は、例えば、ウロコ状や扇状等に形成されている。複数の平板状体は、それぞれ金属粒子表面に略垂直に起立していてもよく、ある角度をもって斜め方向に起立していてもよい。また、複数の平板状体は、それぞれ湾曲していてもよい。複数の平板状体は、箔表面から観察すると、銅箔表面に対し様々な方向に起立した形状となっている。平板状体の構成材料(第2の金属)は、特に限定されないが、Ni、Cu、Ag、又は、Fe等を用いることができる。また、平板状体の構成材料は、後述の製造工程におけるカーボンファイバーの量や種類、めっき条件、前記第1の金属からなる粒子の構成材料の組み合わせから最適なものが選択され、強度等の観点から、好ましくは、第1の金属と第2の金属とが同種の金属で構成される。
【0030】
平板状体の形状は、これに限定されるわけではないが、典型的にはウロコ形または扇形をしている。平板状体は基板表面に起立して形成され、その基板表面に垂直な方向の長さ(高さ)と、水平な方向における平板状体の長辺方向の長さ(幅)は密接に関係している。すなわち、平板状体の高さが大きくなると幅も大きくなる。そこで、本発明では平板状体の大きさを表すのに銅箔表面に水平な方向における平板状体の長辺方向の長さ(幅)を用いる。この幅は本粗化処理箔を表面からSEM観察することにより計測することができ、平均幅としては、好ましくは0.5〜4.0μmであり、より好ましくは1.0〜3.0μmであり、更に好ましくは1.5〜2.5μmである。平板状体の平均密度が大きいのは平板状体のサイズが小さいことを意味し、逆に平均密度が小さいということは平板状体のサイズが大きいことを意味する。表面の平坦度、投錨効果及び活物質層との密着性の観点から、第2層表面からSEM観察したときに観察される平板状体の平均密度は、好ましくは0.4〜100個/μm2であり、より好ましくは0.45〜20個/μm2であり、更に好ましくは0.5〜10個/μm2である。
【0031】
平板状体の平均厚さは、箔断面からSEMにより観察することができ、好ましくは、0.05〜1.0μmであり、より好ましくは0.06〜0.5μmであり、更に好ましくは0.07〜0.3μmである。
【0032】
第2層は、複数の平板状体の他に、カーボンファイバーを有していてもよい。このカーボンファイバーは、後述するように、本発明の銅又は銅合金箔を製造するためにめっき浴の中に予め添加しておいたカーボンファイバーが除去されずに第2層中に残ったものである。カーボンファイバーは、第2層において、複数の平板状体間に残留している。
【0033】
(本発明に係る銅又は銅合金箔の製造方法)
本発明に係る銅又は銅合金箔は、銅又は銅合金箔基材の表面を清浄処理した後、銅又は銅合金箔基材の表面に第1の金属からなる複数の粒子を付着させ、続いて、カーボンファイバーが添加された銅めっき浴に前記銅又は銅合金箔基材を浸漬し、電気めっきにより、前記粒子表面に起立する第2の金属からなる複数の平板状体を有する第2層を形成する銅又は銅合金箔の製造方法によって製造可能である。
【0034】
銅又は銅合金箔基材表面の清浄処理としては、どのような処理を行ってもよいが、例えば、脱脂処理及び酸洗処理を行うことができる。脱脂処理は、例えば、液温が30〜70℃程度のアルカリ溶液で、電流密度を3〜10A/dm2程度とし、約30〜60秒間程度行う電解脱脂処理等である。また、酸洗処理は、例えば、約50〜200g/L程度の室温の硫酸中に、30〜60秒間程度浸漬する処理等である。
【0035】
銅又は銅合金箔基材に金属粒子を付着させる部分は必要に応じて選択すればよく、特に制限はないが、例えば銅又は銅合金箔基材の片面又は両面に付着させることができ、側面(厚さ部分)も含めて全面に付着させることもできる。部分的に付着させる方法は当業者に知られている任意の技術を使用することができる。例えば、付着させない部分をテープ等でマスキングし、残部をめっきする方法がある。
【0036】
銅又は銅合金箔基材上に複数の金属の粒子を付着させるには公知の任意の方法を用いることができ、例示的には電気ニッケルめっきや無電解ニッケルめっきのような湿式めっき、或いはCVDやPVDのような乾式めっきにより施すことができる。コスト、生産性の観点からCuめっきが好ましく、硫酸銅酸性めっき浴でのヤケめっき、カブセめっき等により電着させる方法が用いられる。付着した粒子は最終的に得られる平板状凹凸群の基盤となることから、箔断面10μmあたり3〜20個とするのが好ましく、5〜15個とするのがより好ましい。
【0037】
続いて、第1の金属からなる粒子による第1層が形成された銅又は銅合金箔基材を第2の金属のめっき浴に浸漬する。めっき浴は、それ自体公知のものを使用することができるが、例えば有機酸浴(例えば、フェノールスルホン酸浴、アルカンスルホン酸浴及びアルカノールスルホン酸浴)、硼フッ酸浴、ハロゲン浴、硫酸浴、ピロリン酸浴等の酸性浴、或いはカリウム浴やナトリウム浴等のアルカリ浴を用いることができる。
【0038】
めっき浴には、予めカーボンファイバー及び分散剤を添加し、カーボンファイバーを均一に分散させておく。カーボンファイバーは、特に限定されないが、例えば、VGCF(Vapor Grown Carbon Fiber;気相成長法炭素繊維)を好適に用いることができる。添加されたカーボンファイバーのめっき浴における濃度は、好ましくは0.5〜10g/Lであり、より好ましくは0.5〜5g/Lであり、更により好ましくは1.0〜2.0g/Lである。カーボンファイバーの濃度が0.5g/L未満であると、平板状体が形成されないという問題が生じ、10g/Lを超えるとめっき浴の粘度が高くなり、限界電流が低下してめっき中に電極部から発生した気泡がカーボンファイバーを巻き込んで浴面に溜まるという問題、及び、第2の金属とカーボンファイバーの粗大な凝着物がめっき面に散在するという問題が生じるからである。
【0039】
分散剤は、特に限定されないが、カーボンファイバーをめっき浴中で均一に分散させることのできるものを用いる。分散剤としては、例えば、カチオン系又はアニオン系の界面活性剤を用いることができる。分散剤の銅めっき浴における濃度は、用いるカーボンファイバー及び分散剤の種類によっても異なるが、例えば、カーボンファイバーの濃度の1/10程度である。
【0040】
続いて、めっき浴内を撹拌しながら、銅又は銅合金箔基材表面に、所定の電流密度に設定した電気めっきを施し、浴中の第2の金属を第1の金属からなる粒子表面に析出させる。めっき浴中の液温は、例えば15〜30度に設定され、電気めっきは、例えば30〜240秒間行う。電気めっきの電流密度は、0.5A/dm2未満ではめっきが十分に形成されず、一方、3A/dm2を超えると平板状体が形成されなくなるため、好ましくは3A/dm2以下であり、より好ましくは2A/dm2以下であり、更により好ましくは1A/dm2以下である。
【0041】
上記めっき浴内の撹拌は、公知のめっき浴攪拌機を用いて行うことができる。また、このとき、攪拌機により、めっき浴内にカーボンファイバーが残らないように強撹拌することが好ましい。
【0042】
以上により、粒子表面に起立する複数の平板状体が形成される。これらの平板状体、又は、これらの平板状体及び除去されずに残ったカーボンファイバーが、粒子を被覆する第2層を構成している。なお、第2層の厚さ、平板状体の起立する方向の平均長さ、平板状体の平均厚さ、及び、平板状体の平均密度は、それぞれめっき浴における電気めっきの電流密度、電着時間、めっき浴の組成等を調節することで変化させることができる。
【0043】
上述の工程を経て得られた銅又は銅合金箔の表面には、複数の粒子に起因した粒状凹凸群と、複数の平板状体に起因した平板状凹凸群が形成されている。本発明に係る銅又は銅合金箔はリチウム二次電池用負極集電体向けの用途に使用することを想定しているが、公知の任意の手段によってそれ以外の各種の用途に使用可能であり、例えばプリント配線板又は電磁波シールド材に使用することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例を記載するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
(実施例:No.1〜7)
試験片としてCu−3.0Ni−0.65Si−0.15Mgの組成を有する60mm×45mm×18μmの寸法の銅合金箔基材(日鉱金属社製圧延銅箔:品名C7025)を用意した。該試験片をアルカリ脱脂及び酸洗した後に、硫酸銅浴中で基材全面にCuめっきを行った。Cuめっきは下地めっき2.3A/dm2×118s、粗化めっき4.6A/dm2×77s、カブセめっき2.3A/dm2×94sの順で実施した。これにより、銅合金箔基材表面にCu粒子が付着して構成された第1層を形成した。この試験条件を表1に示す。
【表1】

【0046】
次に、硫酸銅:20g/L、硫酸:100g/L、VGCF:2.0g/L、及び、分散剤としてのPAA(ポリアクリル酸):1.0g/Lを含み、アノード:Ti−Pt及び浴温:25℃に設定された硫酸銅めっき浴を準備した。続いて、VGCFが均一に分散するように硫酸銅めっき浴を撹拌した。次に、上述の洗浄処理を行った複数の試験片を、前記撹拌を続けながら、それぞれ表2に示すような電流密度及び時間の電気めっきを行うことで第2層を形成し、実施例:No.1〜7を得た。
【表2】

【0047】
(比較例:No.8〜12)
実施例:No.1〜7と同様の試験片を準備し、同様の脱脂及び酸洗処理を行った後、Cu電着粒子による第1層を形成した。その後、表3に示すような条件における硫酸銅めっき浴による電気めっきを行うことで第2層を形成し、比較例:No.8〜12を得た。
【表3】

【0048】
(比較例:No.13)
実施例:No.1〜7と同様の試験片を準備し、同様の脱脂及び酸洗処理を行った。続いて、硫酸銅めっき浴中で、試験片表面に銅めっきを行った。銅めっきは、下地めっき2.3A/dm2×118秒、粗化めっき4.6A/dm2×77秒、カブセめっき2.3A/dm2×94秒の順で実施した。このようにして得られた試験片を、比較例:No.13とした。
【0049】
(比較例:No.14)
実施例:No.1〜7と同様の試験片を準備し、同様の脱脂及び酸洗処理を行った。続いて、スルファミン酸浴中で基材全面にNiめっきを行い、次いでメタンスルホン酸浴中で基材全面にSnめっきを行った。試験条件を表4に示す。
【表4】

【0050】
その後、該試験片をフラックス液に浸漬することで表面酸化層を除去した後に、該試験片をホットプレートの上に乗せて熱処理を行った。加熱温度を232℃以上とした場合はリフロー処理となる。熱処理後、該試験片を電解液(コクールR−50)に浸漬して表面の残留Sn層を除去した。残留Sn層の除去には電気化学測定装置(型式HZ−3000、北斗電工)を使用した。カソードとしてSUS板を用い、参照極には標準電極を用いずカソードと同じSUS板に繋いだ。アノードとして試験片をセットし、電流密度10mA/cm2の一定電流を電圧が400mV変化するまで流してSnを除去した。これらの試験条件を表5に示す。そして、このようにして得られた試験片を、比較例:No.14とした。
【表5】

【0051】
(比較例:No.15)
実施例:No.1〜7と同様の試験片を準備し、同様の脱脂及び酸洗処理を行った後、Cu電着粒子による第1層を形成せずに、硫酸銅めっき浴による電気めっきを行うことで平板状体を形成し、比較例:No.15を得た。このときの硫酸銅めっき浴の条件は、電流密度が2.0A/dm2、VGCF添加量が2.0g/L、PAA添加量が2.0g/L、めっき時間が120秒であった。
【0052】
(比較例:No.16)
実施例:No.1〜7と同様の試験片を準備し、同様の脱脂及び酸洗処理を行った後、同様の処理でCu電着粒子による第1層を形成した。次に、スルファミン酸浴中で基材全面にNiめっきを行い、次いでメタンスルホン酸浴中で基材全面にSnめっきを行った。続いて、該試験片をフラックス液に浸漬することで表面酸化層を除去した後に、該試験片をホットプレートの上に乗せて熱処理を行った。加熱温度を232℃以上とした場合はリフロー処理となる。熱処理後、該試験片を電解液(コクールR−50)に浸漬して表面の残留Sn層を除去した。残留Sn層の除去には電気化学測定装置(型式HZ−3000、北斗電工)を使用した。カソードとしてSUS板を用い、参照極には標準電極を用いずカソードと同じSUS板に繋いだ。アノードとして試験片をセットし、電流密度10mA/cm2の一定電流を電圧が400mV変化するまで流してSnを除去した。これにより、基材表面にCu電着粒子を有する層と、当該電着粒子を被覆する突起を有するNiSn合金からなる層とが形成された比較例16を得た。
【0053】
(第1層平均厚さ)
最終的に得られた試験片の断面SEM写真(倍率5,000培)から10μmの範囲を任意に4箇所選択し、第1層のCu電着粒の高さを10点平均で求めたものを平均厚さと呼ぶ。
【0054】
(第2層等の形状観察)
最終的に得られた試験片の表面SEM写真により、第2層又はNiSn合金層をSEM観察した。
【0055】
(平板状体の平均厚さの測定)
平板状体が観察された実施例及び比較例について、第2層の平板状体の平均厚さをSEM観察することで測定した。具体的には、試験片の断面SEM写真(倍率20,000倍)から幅4μmの範囲を任意に4箇所選択し、その中の平板状体の厚さを10点測定し、その平均値を平均厚さとした。
【0056】
(平板状体の平均幅の測定)
平板状体が観察された実施例及び比較例について、銅箔表面に水平な方向における平板状体の長辺方向の平均幅をSEM観察することで測定した。具体的には、試験片の表面SEM写真(倍率5,000倍)から10μm×10μmの範囲を任意に4箇所選択し、その中の平板状体の幅を全て測定し、その平均値を平均幅とした。
【0057】
(平板状体の平均密度の測定)
平板状体が観察された実施例及び比較例について、平板状体の平均密度をSEM観察することで測定した。具体的には、試験片の表面SEM写真(倍率10,000〜20,000倍)から2μm×2μmの範囲を任意に4箇所選択し、その中の平板状体の数をすべて数え、その平均値を平均密度とした。
【0058】
(容量維持率)
実施例:No.1〜7及び比較例:8〜16に、それぞれ湿式めっきによりSnCu層を理論容量として1.5mAh/cm2になるように形成し、対極に金属リチウムを用いて充放電試験を実施した。充放電条件は電流密度0.5mA/cm2、充電3mV(vs Li/Li+)、放電2.0V(vs Li/Li+)で20サイクルまでの充放電とした。1サイクル目放電容量に対する20サイクル目の放電容量を容量維持率とした。活物質膨張時の応力緩和効果及び活物質との密着性が高ければ、繰り返しの充放電後も高い容量を維持できる。
【0059】
上記測定結果を、表6に示す。
【表6】

【0060】
(試験結果の検討)
実施例:No.1〜7では、いずれも、平板状体が前記粒子表面から様々な方向に起立するように形成されており、隣り合う平板状体の間隔が広く、容量維持率の高い金属箔を得ることができた。参考に、実施例:No.5に係る銅電着層表面の平面図を図1に示す。
比較例:No.8では、めっき時間が短過ぎ、平板状体の形成が不十分であり、容量維持率が低かった。
比較例:No.9では、めっき時間が長過ぎ、平板状体が大きくなり過ぎたため、容量維持率が低かった。
比較例:No.10では、第1層が厚過ぎ、第1層の粗さが小さくなり、容量維持率が低かった。
比較例:No.11では、第1層が薄すぎ、第1層の粗さが小さくなり、容量維持率が低かった。
比較例:No.12では、電流密度が大き過ぎ、平板状体が形成されず、容量維持率が低かった。
比較例:No.13及び14では、平板状体を形成しておらず、容量維持率が低かった。
比較例:No.15では、第1層を形成しておらず、平板状体の間隔が狭く、負極活物質の膨張緩和性が低くなり、容量維持率が低かった。
比較例:No.16では、平板状体を形成しておらず、容量維持率が低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅又は銅合金箔基材と、該銅又は銅合金箔基材を被覆する第1の金属からなる複数の粒子を有する第1層と、
前記粒子表面に起立する第2の金属からなる複数の平板状体を有する第2層と、
を備えた銅又は銅合金箔。
【請求項2】
箔表面からSEM観察したときに観察される、前記箔表面に水平な方向における前記平板状体の長辺方向の平均幅が0.5〜4.0μmである請求項1に記載の銅又は銅合金箔。
【請求項3】
箔表面からSEM観察したときに観察される前記平板状体の平均密度が0.4〜100個/μm2である請求項1又は2に記載の銅又は銅合金箔。
【請求項4】
箔断面からSEM観察したときに観察される前記平板状体の平均厚さが0.05〜1.0μmである請求項1〜3のいずれかに記載の銅又は銅合金箔。
【請求項5】
箔断面からSEM観察したときに観察される前記第1層の平均厚さが0.5〜5.0μmである請求項1〜4のいずれかに記載の銅又は銅合金箔。
【請求項6】
前記第1層の算術平均表面粗さRaが0.05〜2.0μmである請求項1〜5のいずれかに記載の銅又は銅合金箔。
【請求項7】
前記平板状体はCuからなる請求項1〜6のいずれかに記載の銅又は銅合金箔。
【請求項8】
前記粒子はCuからなる請求項1〜7のいずれかに記載の銅又は銅合金箔。
【請求項9】
第1の金属からなる複数の粒子を有する第1層で被覆された銅又は銅合金箔基材をカーボンファイバーが添加された第2の金属のめっき浴に浸漬し、電気めっきにより、前記粒子表面に起立する前記第2の金属からなる複数の平板状体を有する第2層を形成する銅又は銅合金箔の製造方法。
【請求項10】
前記めっき浴にカーボンファイバーが0.5〜10g/L添加されている請求項9に記載の銅又は銅合金箔の製造方法。
【請求項11】
前記電気めっきの電流密度が3.0A/dm2以下である請求項9又は10に記載の銅又は銅合金箔の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれかに記載の銅又は銅合金箔を集電体として用いたリチウム二次電池用負極。

【図1】
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【公開番号】特開2010−238652(P2010−238652A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88296(P2009−88296)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】