リチウム二次電池用電極、及びその電極を用いたリチウム二次電池
【課題】電極中へ電解液を十分に含浸させることによりイオン導電性の向上を図り、これによって負荷特性等の電池特性を飛躍的に向上させることができるリチウム二次電池用電極、及びその電極を用いたリチウム二次電池を提供することを目的としている。
【解決手段】アルミニウム繊維5をシート状に成型したものを正極集電体1に用い、この正極集電体1に正極活物質が担持される構造のリチウム二次電池用電極において、上記正極集電体1の表面には溝2が形成されており、この正極集電体に正極活物質が担持された状態で溝内に空間3が存在していることを特徴とする。
【解決手段】アルミニウム繊維5をシート状に成型したものを正極集電体1に用い、この正極集電体1に正極活物質が担持される構造のリチウム二次電池用電極において、上記正極集電体1の表面には溝2が形成されており、この正極集電体に正極活物質が担持された状態で溝内に空間3が存在していることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウム二次電池に関し、特に、当該電池に用いられる集電体の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン、PDA等の移動情報端末の小型・軽量化が急速に進展しており、その駆動電源としての電池にはさらなる高容量化が要求されている。充放電に伴い、リチウムイオンが正、負極間を移動することにより充放電を行うリチウム二次電池は、高いエネルギー密度を有し、高容量であるので、上記のような移動情報端末の駆動電源として広く利用されている。更に、上記移動情報端末の小型化に伴い、より高エネルギー密度の二次電池が要望されている。このような高エネルギー密度の二次電池のために、(1)〜(3)に示すように、金属不織布を集電体に用いた電池が提案されている。
【0003】
(1)アルミニウム繊維の多孔体シートを、正極の芯材に使用する提案(下記特許文献1参照)。
(2)アルミニウムを主成分とする金属繊維が溶融紡糸されて三次元の網目構造を有するように形成されたアルミニウム不織布を集電体として用いる提案(下記特許文献2参照)。
(3)純アルミニウムまたはアルミニウム合金の繊維からなり、繊維径が50〜100μmで、目付け量が300〜600g/m2で、空隙率が50〜96%のアルミ不織布からなる正極集電体を用いる提案(下記特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−196170号公報
【特許文献2】特開2001−155739号公報
【特許文献3】特開2010−33891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記(1)〜(3)に示す提案は、不織布に活物質を担持させる構成となっているが、不織布の表面は平坦な形状(微視的には、金属繊維の突出等があるので完全に平坦ではない。したがって、平坦な形状とは、不織布の表面に大きな凹凸は形成されていないことを意味する)のである。このため、不織布に活物質を担持させて極板を作製した場合には、極板の表面も平坦な形状となる。したがって、電池を作製した場合には、極板内に電解液が浸透し難くなり、特に、積層型の電池では極板中央部に電解液が浸透し難くなる。また、電極の厚み方向にも電解液が浸透し難く、特に、電池の高容量化を図るため活物質の充填密度を高くした場合や電極の厚みを増加させた場合には顕著である。これらのことから、リチウムイオン導電性が低下して、負荷特性等の電池特性が低下するという課題を有していた。
【0006】
本発明は、上記従来の課題を考慮したものであって、電解液を極板内へ十分に浸透させることによりイオン導電性の向上を図り、これによって負荷特性等の電池特性を飛躍的に向上させることができるリチウム二次電池用電極、及びその電極を用いたリチウム二次電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、金属繊維をシート状に成型したものを集電体に用い、この集電体に活物質が担持される構造のリチウム二次電池用電極において、上記集電体の表面には溝が形成されており、この集電体に活物質が担持された状態で溝内に空間が存在していることを特徴とする。
上記構成の如く、集電体の表面には溝が形成されており、且つ、この集電体に活物質が担持された状態で溝内に空間が存在していれば(溝内が活物質で埋まっていなければ)、電池作製時にはセパレータと電極との間に空間(隙間)が形成される。したがって、電解液は溝内の空間を通って、電極全体に容易に行き渡る(即ち、電極中央部にも電解液が十分に供給され易くなる)。また、電解液が電極に浸透する際、電極の表面から浸透する他、溝の側面からも浸透する。このように、電極が薄くなっている部位から電極の平面方向や電極の厚み方向にも電解液が浸透するので、電解液がより浸透し易くなる。これらのことから、電極全体に電解液を含浸させることが可能となって、電極内でのリチウムイオン導電性が向上する。この結果、電極反応が均一化し、負荷特性等の電池特性が飛躍的に向上する。特に、電池の高容量化、高出力化のため、極板厚みを大きくしたり、活物質の充填密度の向上を図った極板において、本発明は効果的である。
【0008】
上記溝に対応する部位における集電体の金属繊維の密度は、上記溝以外の部位における集電体の金属繊維の密度より高くなっていることが望ましい。
溝に対応する部位における集電体の金属繊維の密度が、溝以外の部位における集電体の金属繊維の密度より高くなっていれば、溝に対応する部位は、溝以外の部位よりも電子導電性が高くなる。このように、集電体の一部に電子導電性が高くなる部位が設けられていれば、電子のハイウェイパスが形成され易くなるので、集電体全体での電子導電性が向上する。この結果、電極反応が均一化して、サイクル特性等の電池特性が向上する。
【0009】
また、溝に対応する部位における集電体の金属繊維の密度を高くすれば、当該部位では金属繊維のほつれや毛羽立ちが抑制されるので、ほつれ等を起点として電極が破損したり、電池内部で短絡が生じるのを抑制できる。
尚、上記と同様、電池の高容量化、高出力化のため、極板厚みを大きくしたり、活物質の充填密度の向上を図った極板において効果的である。
【0010】
上記集電体の外周部における集電体の金属繊維の密度が、上記外周部以外の部位における集電体の金属繊維の密度より高くなっていることが望ましい。
集電体は、大きな金属繊維をシート状に成型したもの(不織布)を切断することにより作製するが、この場合、切断部は切断部以外の部位と比較して、金属繊維のほつれや毛羽立ちが多くなる。そこで、集電体の外周部(切断部)における集電体の金属繊維の密度を高くすれば、当該部位における金属繊維のほつれや毛羽立ちを抑制できるので、電極が破損したり、電池内部で短絡が生じるのを一層抑えることができる。
【0011】
溝の幅は1mm以上10mm以下となっていることが望ましい。
溝の幅が1mm未満では、溝の幅が小さ過ぎるため、集電体に活物質が担持された状態で溝内に空間を設けるのが困難になる場合がある。また、溝の作製は金属繊維をシート状に成型したものをプレスすることにより行うことができるが、溝の幅が小さ過ぎると、プレス圧が大きくなって、プレス時に集電体が破断する可能性がある。一方、溝の幅が10mmを超えると、集電体に担持される活物質量が少なくなって、電極容量が低下することがある。これは、溝に対応する部位における集電体の金属繊維の密度は、溝以外の部位における集電体の金属繊維の密度より高くなっているので、溝に対応する部位では、余り活物質を担持することができない。このため、溝の幅が余り大きくなると、集電体中に占める溝の割合が多くなって、集電体に担持される活物質量が少なくなるからである。
【0012】
上記溝以外の部位における集電体の厚みに対する、上記溝に対応する部位における集電体の厚みの割合が、10%以上90%以下となっていることが望ましい。
上記割合が10%を下回ると、プレス法により溝を作製した場合に、プレス圧が大きくなって、溝に対応する部位で集電体が破断することがある。一方、上記割合が90%を越えると、溝に対応する部位における集電体の金属繊維の密度が、溝以外の部位における集電体の金属繊維の密度と余り変わらない。このため、イオン導電性や電子導電性の向上による電池特性の向上効果や、電池内部での短絡抑制による電池の信頼性の向上効果を十分に発揮できないことがある。
【0013】
上記溝は複数設けられていることが望ましい。
溝は複数設けられていれば、上記作用効果が一層発揮される。但し、面積が極めて小さな(1cm2以下)な電極では溝が単数でも、上記効果は十分に発揮される。
【0014】
上記溝の間隔は、溝の幅の2倍以上で50mm以下となっていることが望ましい。
溝の間隔が溝の幅の2倍を下回ると、集電体中に占める溝の割合が多くなって、集電体に担持する活物質量が少なくなる結果、電極容量が低下することがある。一方、溝の間隔が50mmを超えると、電子導電性やリチウムイオン導電性を余り向上させることができず、しかも、繊維のほつれや毛羽立ちが発生し易くなる。
【0015】
上記溝は格子状になっていることが望ましい。
溝は格子状になっていれば、電子のハイウェイパスが形成されて、集電体全体で導電性が向上し、更に、電極の如何なる部位においても電解液の液回り性が向上するので、電池特性向上効果が一層発揮される。また、上述の如く、金属繊維の密度が高い集電体部分(溝に対応する集電体部分)では繊維のほつれ、毛羽立ちが抑制されるが、当該溝が格子状にあれば、集電体全体で金属繊維のほつれ、毛羽立ちが大きく低減される。
【0016】
上記溝内には活物質が存在しないことが望ましい。
溝内には活物質が存在しなければ、より多量の電解液が溝内を通ることができる(電極表面に存在する電解液量が多くなる)ので、イオン導電性が一層向上する。
【0017】
正極と負極と非水電解液とを備えたリチウム二次電池において、上述したリチウム二次電池用電極が、正負両極のうち少なくとも一方の極に用いられていることを特徴とする。また、上述したリチウム二次電池用電極が正極として用いられ、上記金属繊維がアルミニウム繊維から成ることが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電極中へ電解液を十分に含浸させることによってイオン導電性を向上させることができるので、負荷特性等の電池特性を飛躍的に向上させることができる。また、電子導電性が高くなるので、集電体全体での電子導電性が向上する。したがって、電極反応が均一化し、サイクル特性等の電池特性を向上させることができる。加えて、金属繊維のほつれや毛羽立ちを抑制できるので、ほつれ等を起点として電極が破損したり、電池内部で短絡が生じるのを抑制できるといった優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の正極集電体を示す平面図である。
【図2】本発明の正極集電体を示す断面図である。
【図3】本発明の正極集電体を用いた正極の断面図である。
【図4】本発明の正極集電体に正極活物質を担持させる方法を示す説明図である。
【図5】本発明の正極集電体を示す部分拡大断面図である。
【図6】本発明の正極集電体の変形例を示す平面図である。
【図7】本発明の正極集電体の他の変形例を示す平面図である。
【図8】本発明の正極集電体の他の変形例を示す平面図である。
【図9】本発明の正極集電体の他の変形例を示す平面図である。
【図10】本発明の正極集電体の他の変形例を示す平面図である。
【図11】本発明の正極集電体に用いる不織布シートの平面図である。
【図12】本発明の正極集電体に正極活物質を担持させる方法を示す説明図である。
【図13】本発明の正極集電体の他の変形例を示す断面図である。
【図14】本発明の正極集電体の他の変形例を示す断面図である。
【図15】本発明の正極集電体を示す部分拡大断面図である。
【図16】比較例の正極集電体を示す断面図である。
【図17】比較例の正極集電体を示す断面図である。
【図18】比較例の正極集電体を用いた正極の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を下記形態に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能なものである。
【0021】
(正極の作製)
図1に示すように、直径100μmのアルミニウム繊維5からなる不織布シートに、格子状の溝2をプレスにて形成した後、シートを方形状に切断して、正極集電体1を得た。図2に示すように、正極集電体1において、溝2に対応する部位以外の集電体の厚みL1は0.6mm、溝2に対応する部位の集電体の厚みL2は0.4mm、溝2の幅L3は1.5mm、溝2の間隔L4は10mmとした。
【0022】
次に、図4に示すように、正極集電体1を正極スラリー10が満たされた容器15内に完全に浸漬した(図中、A方向に移動させて完全に浸漬した)後、正極集電体1を容器から引き上げた(図中、反A方向に移動させて引き上げた)。この後、正極スラリー10を乾燥させることにより、正極活物質が担持された正極を作製した。上記正極スラリー10は、コバルト酸リチウムと炭素導電剤とPVdFとが、質量比で94:3:3の比率からなる合剤をNMPに溶かすことにより作製した。図3に示すように、得られた正極において、溝2に対応する部位の正極の厚みL5は、溝2に対応する部位以外の正極の厚みL6に比べて小さくなっていた。これにより、溝2の上部には空間3が形成されることになる。
【0023】
ここで、このような構造となるのは、図5に示すように、溝2に対応する部位の正極集電体1aはプレスされているため、アルミニウム繊維5の密度が高くなるのに対して、溝2に対応する部位以外の正極集電体1bはプレスされていないため、アルミニウム繊維5の密度が低くなる。したがって、溝2の底面2aでは、通常の表面4に比べてスラリーに対するアンカー効果が小さくなる。加えて、溝2内は空間となっている(アルミニウム繊維5が存在しない)ので、アルミニウム繊維5が存在する場合に比べて、スラリーの流動性が高くなる。これらのことから、正極集電体1を正極スラリー10に浸漬したときに溝2内に正極スラリー10が配置され難く、且つ、溝2内に正極スラリー10が配置された場合であっても、正極集電体1を容器から引き上げる際に、自重により正極スラリー10が滑落するからである。
【0024】
(負極の作製)
先ず、負極活物質としての黒鉛粉末と、CMCと、結着剤としてのSBRとを、溶剤としての水溶液中で混合して負極スラリーを調製した。次に、この負極スラリーを負極集電体としての銅箔の両面に塗布、乾燥した後、圧延することにより、負極を作製した。
【0025】
〔電池の作製〕
上記正極と上記負極との間にセパレータを配置した発電要素を多数積層させることにより、積層電極体を作製した後、この積層電極体をラミネートフィルムから成る外装体内に挿入した。最後に、上記外装体内に電解液を注入し、更に、外装体の開口部を熱溶着することにより電池を作製した。尚、上記電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とが体積比で3:7の割合で混合された混合溶媒に、LiPF6が1M(モル/リットル)の割合で溶解したものを用いた。
【0026】
(その他の事項)
(1)溝の格子形状としては、図1に示すように、各々の溝が直交する正方格子形状に限定するものではなく、各々の溝により構成される形状が、例えば、三角格子形状(図6参照)や平行四辺形格子形状(図7参照)でもよい。更に、各々の溝が交わる必要はなく、図8に示すように、平向に溝2を形成しても良く、更に、図9に示すように、渦巻き状に溝2を形成しても良い。即ち、集電体上で連続しており、集電体外周に向け開口していれば足る。但し、図8に示す溝形状の正極集電体や図9に示す溝形状の正極集電体では、図1に示す溝形状の正極集電体に比べて、正極集電体の端部まで延設された溝2が少ない(即ち、溝2の端部開口6が少ない)。したがって、正極集電体に電解液を満遍なく浸透させるという機能が低下する。このことから、溝2は格子状に形成するのが望ましい。更に、電解液を満遍なく浸透させるという機能をより発揮するには、溝2が均一な間隔で設けられていることが望ましい。
【0027】
また、正極集電体は、アルミニウム繊維を大きなシート状に成型したもの(不織布)を切断することにより製造することができるが、この場合、切断部は切断部以外の部位と比較して、アルミニウム繊維のほつれや毛羽立ちが多くなる。そこで、図11に示すように、溝2が形成された不織布12を切断して、正極集電体を作製する場合には、溝2に沿って切断(図11の線分13、14で切断)すればよい。このようにして作製した正極集電体は、図10に示すように、正極集電体1の外周部11におけるアルミニウム繊維5の密度が、正極集電体1の外周部11以外におけるアルミニウム繊維5の密度と比べて高くなる。このような構成であれば、切断部における金属繊維のほつれや毛羽立ちを抑制できるので、電極が破損したり、電池内部で短絡が生じるのを一層抑制できる。
【0028】
(2)正極集電体に正極スラリーを浸透させる方法としては、図4に示したように、正極集電体1を正極スラリー10に完全に浸漬する方法に限定するものでなく、例えば、図12に示すように、正極集電体1の下面(溝2が形成された面と反対の面)20のみを正極スラリー10と接触させ、正極スラリー10を下面20から浸透させる方法を用いても良い。このような方法であれば、溝2に対応する部位以外の正極集電体1bはアルミニウム繊維5の密度が低いので、正極集電体1bを透過するスラリー量が多くなって、正極集電体1b内は正極スラリーで満たされる。これに対して、溝2に対応する部位の正極集電体1aはアルミニウム繊維5の密度が高いので、正極集電体1bを透過するスラリー量が少なくなる。したがって、溝2にまで到達する正極スラリーの量は僅かとなるので、溝2内に空間3を形成することができる。
【0029】
(3)また、格子状の溝をプレスで形成する場合、図2に示したように、片面のみのプレス方(一方向のみのプレス)に限定するものではなく、図13に示すように、両面プレス(双方向のプレス)でも良い。尚、この場合、溝2が対向していない場合には、プレスをする際に集電体が波打ち形状となることがあるため、両面に形成された溝2は、対向するように設けられているのが好ましい。
【0030】
(4)図14に示すように、溝2内に正極スラリーが存在しなければ、溝2内の空間が大きくなるので、前述の作用効果が一層発揮される。このような構造とする方法としては、以下の方法が例示される。
・正極集電体を正極スラリーに浸漬した後、溝内から正極スラリーをかき出す方法。
・正極スラリーの粘度を低下させて、正極集電体1を正極スラリーで満たされた容器から引き上げる際に、自重によって正極スラリーが滑落する量を多くする方法。
・正極集電体を正極スラリーに浸漬する前に、マスキングテープやレジストで溝を覆い、正極集電体1内に正極スラリーを充填した後に、マスキングテープやレジストを取り除く方法。
【0031】
(5)上記形態では、正極を例にとって説明したが、本発明は負極にも適用することができる。負極に適用する場合には、金属繊維として銅繊維やニッケル繊維等を用いることができる。
【実施例】
【0032】
〔第1実施例〕
(実施例)
直径100μmのアルミ繊維からなる不織布シートに、格子状の溝をプレスにて形成することにより正極集電体(50mm×100mm)を得た。この正極集電体において、溝2に対応する部位以外の集電体の厚みL1は1.2mm、溝2に対応する部位の集電体の厚みL2は0.4mm、溝2の幅L3は1.5mm、溝2の間隔L4は10mmとした(L1〜L4は図2参照)。尚、正極集電体の質量は2.4gであった(また、下記比較例においても2.4gであった)。
【0033】
次に、上記発明を実施するための形態と同様にして、上記と同様の正極活物質を正極集電体に担持させた。最後に、正極活物質が担持された正極集電体を20mm×20mmに切断し、更にタブ付けすることにより正極を作製した。この正極において、溝2に対応する部位の正極の厚みL5は1.2mmであった。また、溝2に対応する部位以外の正極の厚みL6は1.4mmであって、厚みL5は厚みL6の約86%であった(L5、L6は図3参照)。
最後に、上記正極を作用極とし、対極と参照極とがリチウム箔から成る3極セルを作製した。なお、電解液としては、上記発明を実施するための形態と同様のものを用いた。
このようにして作製したセルを、以下、セルAと称する。
【0034】
(比較例)
溝を形成しない正極集電体を用いた以外は、上記実施例と同様にしてセルを作製した。
このようにして作製したセルを、以下、セルZと称する。
【0035】
(実験)
上記セルA、Zを、下記条件で充放電し、負荷特性(放電容量比)を調べたので、その結果を表1に示す。
・充放電条件
0.5mA/cm2の電流で4.4V(vs.Li/Li+)まで充電した後、0.5mA/cm2の電流で3.0V(vs.Li/Li+)まで放電して、電流0.5mA/cm2のときの放電容量を調べた。次に、0.5mA/cm2の電流で4.4V(vs.Li/Li+)まで充電した後、5.0mA/cm2の電流で3.0V(vs.Li/Li+)まで放電して、電流5.0mA/cm2のときの放電容量を調べた。
そして、電流0.5mA/cm2のときの放電容量と電流5.0mA/cm2のときの放電容量とから、下記(1)式を用いて放電容量比を算出した。
【0036】
放電容量比=〔(電流5.0mA/cm2のときの放電容量)/(電流0.5mA/cm2のときの放電容量)〕×100・・・(1)
【0037】
【表1】
【0038】
上記表1から明らかなように、セルAはセルZと比べて放電容量比が大きくなっており、負荷特性に優れていることがわかる。尚、上記実験においては、電流密度は小さいので、電極のオーム抵抗による電圧降下が負荷特性に与える影響は小さい。したがって、セルAはセルZに比べてリチウムイオン導電性が高くなっている等に起因して、負荷特性に優れると考えられる。尚、リチウムイオン導電性が高くなるのは、以下に示す理由によるものと考えられる。
【0039】
(1)溝の空間を通って、電解液が電極全体に容易に行き渡る。したがって、電解液が供給され難い電極中央部にも電解液が十分に供給される。
(2)図15に示すように、溝2の空間部3を電解液が通るため、正極表面31のみならず、溝2の側面30からも、正極内部に電解液が供給されるとともにリチウムイオンの出入が可能になる。このように、電極が薄くなっている部位から平面方向(図中、B方向)や厚み方向(図中、C方向)にも電解液が浸透するとともにリチウムイオンの出入が可能になるので、電解液が一層浸透し易くなるとともにリチウムイオンの電極内拡散距離が短くなる。
上記(1)(2)より、本発明を適用した電極においては、リチウムイオン導電性が高くなる。
【0040】
〔第2実施例〕
(実施例)
上記発明を実施するための形態で示す方法と同様にして、正極集電体を作製した。
このようにして作製した正極集電体を、以下、集電体bと称する。
【0041】
(比較例)
図16及び図17に示すように、格子状の溝を形成しない以外は、上記実施例と同様にして正極集電体を作製した。
このようにして作製した正極集電体を、以下、集電体yと称する。
【0042】
(実験)
上記集電体b、yの抵抗と繊維の毛羽立ちの有無を調べたので、それらの結果を下記表2に示す。尚、集電体の抵抗はACミリオームハイテスタ3560(日置電機株式会社製)を用い、クリップ型リードで集電体を挟み込んで測定した。クリップは50×100mmのシートの対角線上に、集電体の角を含む10mm角の範囲内で、且つ、溝ではない部位に設置した。また、繊維の毛羽立ちの有無は目視で調べた。
【0043】
【表2】
【0044】
表2から明らかなように、溝が設けられた集電体bは、溝が設けられていない集電体yに比べて、集電体の抵抗が低くなり、しかも、毛羽立ちが抑制されることがわかる。したがって集電体の電子導電性を向上させることによって電池特性の向上を図り、且つ、金属繊維のほつれや毛羽立ち等を抑えることによって電極が破損したり、電池内部で短絡が生じるのを抑制するためには、集電体に溝が形成するのが有効であることがわかる。尚、溝が設けられていない集電体yは、図17に示すように、製造段階で毛羽立っており(アルミニウム繊維5が飛び出ている)、更に、図18に示すように、正極活物質を担持させた状態でも毛羽立ちが維持されている。
【0045】
〔第3実施例〕
(実施例)
正極集電体の溝の幅を1.0mmとした以外は、上記第2実施例の実施例と同様にして正極集電体を作製した。
このようにして作製した正極集電体を、以下、集電体cと称する。
【0046】
(実験)
上記集電体cの抵抗と繊維の毛羽立ちの有無を、上記第2実施例の実験と同様にして調べたので、それらの結果を下記表3に示す。尚、表3には、上記集電体bの結果についても併せて示す。
【0047】
【表3】
【0048】
上記表3から明らかなように、集電体bと集電体cとでは毛羽立ちがなく、抵抗は略同等であることが認められる。但し、表3からは明らかではないが、溝の幅は1mm以上、10mm以下が好ましい。溝の幅が1mm未満では、溝の幅が狭すぎて、集電体に活物質が担持された状態で溝内に空間を設けるのが困難になる場合があること、及び、プレス圧が大きくなって、プレス時に集電体が破断する可能性がある。一方、溝の幅が10mmを超えると、集電体に担持される活物質量が少なくなって、電極容量が低下することがある。これは、溝に対応する部位の集電体は、溝以外の部位における集電体に比べて金属繊維の密度が高いので、当該部位では余り活物質を担持することができない。このため、溝の幅が余り大きくなると、集電体中に占める溝の割合が多くなって、集電体に担持する活物質量が少なくなるからである。
【0049】
〔第4実施例〕
(実施例1)
正極集電体の質量を2.5gとした以外は、上記第2実施例の実施例と同様にして正極集電体を作製した。即ち、本実施例の集電体は上記集電体bと厚みが同一であるにも関わらず、集電体bに比べて質量が大きくなっているということから、集電体bに比べてアルミニウム繊維の密度が高くなっている。
このようにして作製した正極集電体を、以下、集電体d1と称する。
【0050】
(実施例2)
正極集電体の厚みを1.0mmとした以外は、上記実施例1と同様にして正極集電体を作製した。即ち、本実施例の集電体は上記集電体d1と質量が同一にも関わらず、集電体d1より厚みが大きくなっているということから、集電体d1に比べてアルミニウム繊維の密度が低くなっている。
このようにして作製した正極集電体を、以下、集電体d2と称する。
【0051】
(実施例3)
正極集電体の厚みを1.2mmとし、且つ、正極集電体の質量を2.5gとした以外は、上記実施例1と同様にして正極集電体を作製した。即ち、本実施例の集電体は上記集電体d2に比べて質量が小さいにも関わらず、集電体d2より厚みが大きくなっているということから、集電体d2に比べてアルミニウム繊維の密度が低くなっている。
このようにして作製した正極集電体を、以下、集電体d3と称する。
【0052】
(実験)
上記集電体d1〜d3の抵抗と繊維の毛羽立ちの有無を、上記第2実施例の実験と同様にして調べたので、それらの結果を下記表4に示す。
【0053】
【表4】
【0054】
表4から明らかなように、集電体d1〜d3は、アルミニウム繊維の密度が異なるにも関わらず、抵抗は略同等となっていることがわかる。したがって、アルミニウム繊維の密度が低い集電体であっても、プレスを行って集電体の一部にアルミニウム繊維の密度が高い部分を設ければ、集電体の抵抗を低下させることができることがわかる。
【0055】
〔第5実施例〕
(実施例1)
正極集電体の溝の間隔を50mmとした以外は、上記第2実施例の実施例と同様にして正極集電体を作製した。
このようにして作製した正極集電体を、以下、集電体e1と称する。
【0056】
(実施例2)
正極集電体の溝の間隔を80mmとした以外は、上記第2実施例の実施例と同様にして正極集電体を作製した。
このようにして作製した正極集電体を、以下、集電体e2と称する。
【0057】
(実験)
上記集電体e1、e2の抵抗と繊維の毛羽立ちの有無を、上記第2実施例の実験と同様にして調べたので、それらの結果を下記表5に示す。尚、表5には、上記集電体bの結果についても併せて示す。
【0058】
【表5】
【0059】
表5から明らかなように、溝の間隔が50mm以下の集電体b、e1では抵抗が低く、毛羽立ちも抑えられているのに対して、溝の間隔が50mmを超える集電体e2では抵抗が低く、若干毛羽立っていることがわかる(但し、溝のない上記集電体yと比べると、毛羽立ちは少なく、抵抗も小さい)。したがって、導電性の向上と毛羽立ちの抑制とを図るためには、溝の間隔は50mm以下がよいことがわかる。
溝の間隔が50mmを超えると、集電体に対する溝の割合が小さくなり過ぎて、溝を設けた効果が十分に発揮されないことがあるという理由による。尚、溝の間隔は溝の幅の2倍以上であることが望ましい。溝の間隔が溝の幅の2倍を下回ると、集電体中に占める溝の割合が多くなって、集電体に担持される活物質量が少なくなる結果、電極容量が低下することがある。
【0060】
〔第6実施例〕
(実施例1)
溝に対応する部位の集電体の厚みを0.2mm〔溝に対応する部位以外の集電体の厚み(0.6mm)に対する割合が33%〕とした以外は、上記第2実施例の実施例と同様にして正極集電体を作製した。
このようにして作製した正極集電体を、以下、集電体f1と称する。
【0061】
(実施例2)
溝に対応する部位の集電体の厚みを0.5mm〔溝に対応する部位以外の集電体の厚み(0.6mm)に対する割合が83%〕とした以外は、上記第2実施例の実施例と同様にして正極集電体を作製した。
このようにして作製した正極集電体を、以下、集電体f2と称する。
【0062】
(実験)
上記集電体f1、f2の抵抗と繊維の毛羽立ちの有無を、上記第2実施例の実験と同様にして調べたので、それらの結果を下記表6に示す。尚、表6には、上記集電体bの結果についても併せて示す。
【0063】
【表6】
【0064】
溝に対応する部位の集電体の厚みが小さな(プレス圧が大きくて、溝の深さが大きい)集電体f1、bは、溝に対応する部位の集電体の厚みが大きな(プレス圧が小さくて、溝の深さが小さい)集電体f2に比べて、抵抗が小さくなっていることが認められる。したがって、導電性の向上を図るためには、溝に対応する部位の集電体の厚みが小さくなっていることが望ましく、特に、溝に対応する部位以外の集電体の厚みに対する溝に対応する部位の集電体の厚みの割合は90%以下であることが好ましい。
【0065】
上記割合が90%を越えると、溝に対応する部位における集電体の金属繊維の密度が、溝以外の部位における集電体の金属繊維の密度と余り変わらなくなって、本発明の作用効果(抵抗減少による電子導電性の向上効果の他、リチウムイオン導電性を向上する効果や、毛羽立ちを抑制する効果を含む)を十分に発揮できないからである。尚、溝に対応する部位以外の集電体の厚みに対する溝に対応する部位の集電体の厚みの割合は10%以上であることが好ましい。上記割合が10%を下回ると、プレス法により溝を作製した場合に、プレス圧が大きくなって、溝に対応する部位で集電体が破断することがある。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、例えば携帯電話、ノートパソコン、PDA等の移動情報端末の駆動電源や、HEVや電動工具といった高出力向けの駆動電源に展開が期待できる。
【符号の説明】
【0067】
1:正極集電体
2:溝
3:空間
5:アルミニウム繊維
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウム二次電池に関し、特に、当該電池に用いられる集電体の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン、PDA等の移動情報端末の小型・軽量化が急速に進展しており、その駆動電源としての電池にはさらなる高容量化が要求されている。充放電に伴い、リチウムイオンが正、負極間を移動することにより充放電を行うリチウム二次電池は、高いエネルギー密度を有し、高容量であるので、上記のような移動情報端末の駆動電源として広く利用されている。更に、上記移動情報端末の小型化に伴い、より高エネルギー密度の二次電池が要望されている。このような高エネルギー密度の二次電池のために、(1)〜(3)に示すように、金属不織布を集電体に用いた電池が提案されている。
【0003】
(1)アルミニウム繊維の多孔体シートを、正極の芯材に使用する提案(下記特許文献1参照)。
(2)アルミニウムを主成分とする金属繊維が溶融紡糸されて三次元の網目構造を有するように形成されたアルミニウム不織布を集電体として用いる提案(下記特許文献2参照)。
(3)純アルミニウムまたはアルミニウム合金の繊維からなり、繊維径が50〜100μmで、目付け量が300〜600g/m2で、空隙率が50〜96%のアルミ不織布からなる正極集電体を用いる提案(下記特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−196170号公報
【特許文献2】特開2001−155739号公報
【特許文献3】特開2010−33891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記(1)〜(3)に示す提案は、不織布に活物質を担持させる構成となっているが、不織布の表面は平坦な形状(微視的には、金属繊維の突出等があるので完全に平坦ではない。したがって、平坦な形状とは、不織布の表面に大きな凹凸は形成されていないことを意味する)のである。このため、不織布に活物質を担持させて極板を作製した場合には、極板の表面も平坦な形状となる。したがって、電池を作製した場合には、極板内に電解液が浸透し難くなり、特に、積層型の電池では極板中央部に電解液が浸透し難くなる。また、電極の厚み方向にも電解液が浸透し難く、特に、電池の高容量化を図るため活物質の充填密度を高くした場合や電極の厚みを増加させた場合には顕著である。これらのことから、リチウムイオン導電性が低下して、負荷特性等の電池特性が低下するという課題を有していた。
【0006】
本発明は、上記従来の課題を考慮したものであって、電解液を極板内へ十分に浸透させることによりイオン導電性の向上を図り、これによって負荷特性等の電池特性を飛躍的に向上させることができるリチウム二次電池用電極、及びその電極を用いたリチウム二次電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、金属繊維をシート状に成型したものを集電体に用い、この集電体に活物質が担持される構造のリチウム二次電池用電極において、上記集電体の表面には溝が形成されており、この集電体に活物質が担持された状態で溝内に空間が存在していることを特徴とする。
上記構成の如く、集電体の表面には溝が形成されており、且つ、この集電体に活物質が担持された状態で溝内に空間が存在していれば(溝内が活物質で埋まっていなければ)、電池作製時にはセパレータと電極との間に空間(隙間)が形成される。したがって、電解液は溝内の空間を通って、電極全体に容易に行き渡る(即ち、電極中央部にも電解液が十分に供給され易くなる)。また、電解液が電極に浸透する際、電極の表面から浸透する他、溝の側面からも浸透する。このように、電極が薄くなっている部位から電極の平面方向や電極の厚み方向にも電解液が浸透するので、電解液がより浸透し易くなる。これらのことから、電極全体に電解液を含浸させることが可能となって、電極内でのリチウムイオン導電性が向上する。この結果、電極反応が均一化し、負荷特性等の電池特性が飛躍的に向上する。特に、電池の高容量化、高出力化のため、極板厚みを大きくしたり、活物質の充填密度の向上を図った極板において、本発明は効果的である。
【0008】
上記溝に対応する部位における集電体の金属繊維の密度は、上記溝以外の部位における集電体の金属繊維の密度より高くなっていることが望ましい。
溝に対応する部位における集電体の金属繊維の密度が、溝以外の部位における集電体の金属繊維の密度より高くなっていれば、溝に対応する部位は、溝以外の部位よりも電子導電性が高くなる。このように、集電体の一部に電子導電性が高くなる部位が設けられていれば、電子のハイウェイパスが形成され易くなるので、集電体全体での電子導電性が向上する。この結果、電極反応が均一化して、サイクル特性等の電池特性が向上する。
【0009】
また、溝に対応する部位における集電体の金属繊維の密度を高くすれば、当該部位では金属繊維のほつれや毛羽立ちが抑制されるので、ほつれ等を起点として電極が破損したり、電池内部で短絡が生じるのを抑制できる。
尚、上記と同様、電池の高容量化、高出力化のため、極板厚みを大きくしたり、活物質の充填密度の向上を図った極板において効果的である。
【0010】
上記集電体の外周部における集電体の金属繊維の密度が、上記外周部以外の部位における集電体の金属繊維の密度より高くなっていることが望ましい。
集電体は、大きな金属繊維をシート状に成型したもの(不織布)を切断することにより作製するが、この場合、切断部は切断部以外の部位と比較して、金属繊維のほつれや毛羽立ちが多くなる。そこで、集電体の外周部(切断部)における集電体の金属繊維の密度を高くすれば、当該部位における金属繊維のほつれや毛羽立ちを抑制できるので、電極が破損したり、電池内部で短絡が生じるのを一層抑えることができる。
【0011】
溝の幅は1mm以上10mm以下となっていることが望ましい。
溝の幅が1mm未満では、溝の幅が小さ過ぎるため、集電体に活物質が担持された状態で溝内に空間を設けるのが困難になる場合がある。また、溝の作製は金属繊維をシート状に成型したものをプレスすることにより行うことができるが、溝の幅が小さ過ぎると、プレス圧が大きくなって、プレス時に集電体が破断する可能性がある。一方、溝の幅が10mmを超えると、集電体に担持される活物質量が少なくなって、電極容量が低下することがある。これは、溝に対応する部位における集電体の金属繊維の密度は、溝以外の部位における集電体の金属繊維の密度より高くなっているので、溝に対応する部位では、余り活物質を担持することができない。このため、溝の幅が余り大きくなると、集電体中に占める溝の割合が多くなって、集電体に担持される活物質量が少なくなるからである。
【0012】
上記溝以外の部位における集電体の厚みに対する、上記溝に対応する部位における集電体の厚みの割合が、10%以上90%以下となっていることが望ましい。
上記割合が10%を下回ると、プレス法により溝を作製した場合に、プレス圧が大きくなって、溝に対応する部位で集電体が破断することがある。一方、上記割合が90%を越えると、溝に対応する部位における集電体の金属繊維の密度が、溝以外の部位における集電体の金属繊維の密度と余り変わらない。このため、イオン導電性や電子導電性の向上による電池特性の向上効果や、電池内部での短絡抑制による電池の信頼性の向上効果を十分に発揮できないことがある。
【0013】
上記溝は複数設けられていることが望ましい。
溝は複数設けられていれば、上記作用効果が一層発揮される。但し、面積が極めて小さな(1cm2以下)な電極では溝が単数でも、上記効果は十分に発揮される。
【0014】
上記溝の間隔は、溝の幅の2倍以上で50mm以下となっていることが望ましい。
溝の間隔が溝の幅の2倍を下回ると、集電体中に占める溝の割合が多くなって、集電体に担持する活物質量が少なくなる結果、電極容量が低下することがある。一方、溝の間隔が50mmを超えると、電子導電性やリチウムイオン導電性を余り向上させることができず、しかも、繊維のほつれや毛羽立ちが発生し易くなる。
【0015】
上記溝は格子状になっていることが望ましい。
溝は格子状になっていれば、電子のハイウェイパスが形成されて、集電体全体で導電性が向上し、更に、電極の如何なる部位においても電解液の液回り性が向上するので、電池特性向上効果が一層発揮される。また、上述の如く、金属繊維の密度が高い集電体部分(溝に対応する集電体部分)では繊維のほつれ、毛羽立ちが抑制されるが、当該溝が格子状にあれば、集電体全体で金属繊維のほつれ、毛羽立ちが大きく低減される。
【0016】
上記溝内には活物質が存在しないことが望ましい。
溝内には活物質が存在しなければ、より多量の電解液が溝内を通ることができる(電極表面に存在する電解液量が多くなる)ので、イオン導電性が一層向上する。
【0017】
正極と負極と非水電解液とを備えたリチウム二次電池において、上述したリチウム二次電池用電極が、正負両極のうち少なくとも一方の極に用いられていることを特徴とする。また、上述したリチウム二次電池用電極が正極として用いられ、上記金属繊維がアルミニウム繊維から成ることが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電極中へ電解液を十分に含浸させることによってイオン導電性を向上させることができるので、負荷特性等の電池特性を飛躍的に向上させることができる。また、電子導電性が高くなるので、集電体全体での電子導電性が向上する。したがって、電極反応が均一化し、サイクル特性等の電池特性を向上させることができる。加えて、金属繊維のほつれや毛羽立ちを抑制できるので、ほつれ等を起点として電極が破損したり、電池内部で短絡が生じるのを抑制できるといった優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の正極集電体を示す平面図である。
【図2】本発明の正極集電体を示す断面図である。
【図3】本発明の正極集電体を用いた正極の断面図である。
【図4】本発明の正極集電体に正極活物質を担持させる方法を示す説明図である。
【図5】本発明の正極集電体を示す部分拡大断面図である。
【図6】本発明の正極集電体の変形例を示す平面図である。
【図7】本発明の正極集電体の他の変形例を示す平面図である。
【図8】本発明の正極集電体の他の変形例を示す平面図である。
【図9】本発明の正極集電体の他の変形例を示す平面図である。
【図10】本発明の正極集電体の他の変形例を示す平面図である。
【図11】本発明の正極集電体に用いる不織布シートの平面図である。
【図12】本発明の正極集電体に正極活物質を担持させる方法を示す説明図である。
【図13】本発明の正極集電体の他の変形例を示す断面図である。
【図14】本発明の正極集電体の他の変形例を示す断面図である。
【図15】本発明の正極集電体を示す部分拡大断面図である。
【図16】比較例の正極集電体を示す断面図である。
【図17】比較例の正極集電体を示す断面図である。
【図18】比較例の正極集電体を用いた正極の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を下記形態に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能なものである。
【0021】
(正極の作製)
図1に示すように、直径100μmのアルミニウム繊維5からなる不織布シートに、格子状の溝2をプレスにて形成した後、シートを方形状に切断して、正極集電体1を得た。図2に示すように、正極集電体1において、溝2に対応する部位以外の集電体の厚みL1は0.6mm、溝2に対応する部位の集電体の厚みL2は0.4mm、溝2の幅L3は1.5mm、溝2の間隔L4は10mmとした。
【0022】
次に、図4に示すように、正極集電体1を正極スラリー10が満たされた容器15内に完全に浸漬した(図中、A方向に移動させて完全に浸漬した)後、正極集電体1を容器から引き上げた(図中、反A方向に移動させて引き上げた)。この後、正極スラリー10を乾燥させることにより、正極活物質が担持された正極を作製した。上記正極スラリー10は、コバルト酸リチウムと炭素導電剤とPVdFとが、質量比で94:3:3の比率からなる合剤をNMPに溶かすことにより作製した。図3に示すように、得られた正極において、溝2に対応する部位の正極の厚みL5は、溝2に対応する部位以外の正極の厚みL6に比べて小さくなっていた。これにより、溝2の上部には空間3が形成されることになる。
【0023】
ここで、このような構造となるのは、図5に示すように、溝2に対応する部位の正極集電体1aはプレスされているため、アルミニウム繊維5の密度が高くなるのに対して、溝2に対応する部位以外の正極集電体1bはプレスされていないため、アルミニウム繊維5の密度が低くなる。したがって、溝2の底面2aでは、通常の表面4に比べてスラリーに対するアンカー効果が小さくなる。加えて、溝2内は空間となっている(アルミニウム繊維5が存在しない)ので、アルミニウム繊維5が存在する場合に比べて、スラリーの流動性が高くなる。これらのことから、正極集電体1を正極スラリー10に浸漬したときに溝2内に正極スラリー10が配置され難く、且つ、溝2内に正極スラリー10が配置された場合であっても、正極集電体1を容器から引き上げる際に、自重により正極スラリー10が滑落するからである。
【0024】
(負極の作製)
先ず、負極活物質としての黒鉛粉末と、CMCと、結着剤としてのSBRとを、溶剤としての水溶液中で混合して負極スラリーを調製した。次に、この負極スラリーを負極集電体としての銅箔の両面に塗布、乾燥した後、圧延することにより、負極を作製した。
【0025】
〔電池の作製〕
上記正極と上記負極との間にセパレータを配置した発電要素を多数積層させることにより、積層電極体を作製した後、この積層電極体をラミネートフィルムから成る外装体内に挿入した。最後に、上記外装体内に電解液を注入し、更に、外装体の開口部を熱溶着することにより電池を作製した。尚、上記電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とが体積比で3:7の割合で混合された混合溶媒に、LiPF6が1M(モル/リットル)の割合で溶解したものを用いた。
【0026】
(その他の事項)
(1)溝の格子形状としては、図1に示すように、各々の溝が直交する正方格子形状に限定するものではなく、各々の溝により構成される形状が、例えば、三角格子形状(図6参照)や平行四辺形格子形状(図7参照)でもよい。更に、各々の溝が交わる必要はなく、図8に示すように、平向に溝2を形成しても良く、更に、図9に示すように、渦巻き状に溝2を形成しても良い。即ち、集電体上で連続しており、集電体外周に向け開口していれば足る。但し、図8に示す溝形状の正極集電体や図9に示す溝形状の正極集電体では、図1に示す溝形状の正極集電体に比べて、正極集電体の端部まで延設された溝2が少ない(即ち、溝2の端部開口6が少ない)。したがって、正極集電体に電解液を満遍なく浸透させるという機能が低下する。このことから、溝2は格子状に形成するのが望ましい。更に、電解液を満遍なく浸透させるという機能をより発揮するには、溝2が均一な間隔で設けられていることが望ましい。
【0027】
また、正極集電体は、アルミニウム繊維を大きなシート状に成型したもの(不織布)を切断することにより製造することができるが、この場合、切断部は切断部以外の部位と比較して、アルミニウム繊維のほつれや毛羽立ちが多くなる。そこで、図11に示すように、溝2が形成された不織布12を切断して、正極集電体を作製する場合には、溝2に沿って切断(図11の線分13、14で切断)すればよい。このようにして作製した正極集電体は、図10に示すように、正極集電体1の外周部11におけるアルミニウム繊維5の密度が、正極集電体1の外周部11以外におけるアルミニウム繊維5の密度と比べて高くなる。このような構成であれば、切断部における金属繊維のほつれや毛羽立ちを抑制できるので、電極が破損したり、電池内部で短絡が生じるのを一層抑制できる。
【0028】
(2)正極集電体に正極スラリーを浸透させる方法としては、図4に示したように、正極集電体1を正極スラリー10に完全に浸漬する方法に限定するものでなく、例えば、図12に示すように、正極集電体1の下面(溝2が形成された面と反対の面)20のみを正極スラリー10と接触させ、正極スラリー10を下面20から浸透させる方法を用いても良い。このような方法であれば、溝2に対応する部位以外の正極集電体1bはアルミニウム繊維5の密度が低いので、正極集電体1bを透過するスラリー量が多くなって、正極集電体1b内は正極スラリーで満たされる。これに対して、溝2に対応する部位の正極集電体1aはアルミニウム繊維5の密度が高いので、正極集電体1bを透過するスラリー量が少なくなる。したがって、溝2にまで到達する正極スラリーの量は僅かとなるので、溝2内に空間3を形成することができる。
【0029】
(3)また、格子状の溝をプレスで形成する場合、図2に示したように、片面のみのプレス方(一方向のみのプレス)に限定するものではなく、図13に示すように、両面プレス(双方向のプレス)でも良い。尚、この場合、溝2が対向していない場合には、プレスをする際に集電体が波打ち形状となることがあるため、両面に形成された溝2は、対向するように設けられているのが好ましい。
【0030】
(4)図14に示すように、溝2内に正極スラリーが存在しなければ、溝2内の空間が大きくなるので、前述の作用効果が一層発揮される。このような構造とする方法としては、以下の方法が例示される。
・正極集電体を正極スラリーに浸漬した後、溝内から正極スラリーをかき出す方法。
・正極スラリーの粘度を低下させて、正極集電体1を正極スラリーで満たされた容器から引き上げる際に、自重によって正極スラリーが滑落する量を多くする方法。
・正極集電体を正極スラリーに浸漬する前に、マスキングテープやレジストで溝を覆い、正極集電体1内に正極スラリーを充填した後に、マスキングテープやレジストを取り除く方法。
【0031】
(5)上記形態では、正極を例にとって説明したが、本発明は負極にも適用することができる。負極に適用する場合には、金属繊維として銅繊維やニッケル繊維等を用いることができる。
【実施例】
【0032】
〔第1実施例〕
(実施例)
直径100μmのアルミ繊維からなる不織布シートに、格子状の溝をプレスにて形成することにより正極集電体(50mm×100mm)を得た。この正極集電体において、溝2に対応する部位以外の集電体の厚みL1は1.2mm、溝2に対応する部位の集電体の厚みL2は0.4mm、溝2の幅L3は1.5mm、溝2の間隔L4は10mmとした(L1〜L4は図2参照)。尚、正極集電体の質量は2.4gであった(また、下記比較例においても2.4gであった)。
【0033】
次に、上記発明を実施するための形態と同様にして、上記と同様の正極活物質を正極集電体に担持させた。最後に、正極活物質が担持された正極集電体を20mm×20mmに切断し、更にタブ付けすることにより正極を作製した。この正極において、溝2に対応する部位の正極の厚みL5は1.2mmであった。また、溝2に対応する部位以外の正極の厚みL6は1.4mmであって、厚みL5は厚みL6の約86%であった(L5、L6は図3参照)。
最後に、上記正極を作用極とし、対極と参照極とがリチウム箔から成る3極セルを作製した。なお、電解液としては、上記発明を実施するための形態と同様のものを用いた。
このようにして作製したセルを、以下、セルAと称する。
【0034】
(比較例)
溝を形成しない正極集電体を用いた以外は、上記実施例と同様にしてセルを作製した。
このようにして作製したセルを、以下、セルZと称する。
【0035】
(実験)
上記セルA、Zを、下記条件で充放電し、負荷特性(放電容量比)を調べたので、その結果を表1に示す。
・充放電条件
0.5mA/cm2の電流で4.4V(vs.Li/Li+)まで充電した後、0.5mA/cm2の電流で3.0V(vs.Li/Li+)まで放電して、電流0.5mA/cm2のときの放電容量を調べた。次に、0.5mA/cm2の電流で4.4V(vs.Li/Li+)まで充電した後、5.0mA/cm2の電流で3.0V(vs.Li/Li+)まで放電して、電流5.0mA/cm2のときの放電容量を調べた。
そして、電流0.5mA/cm2のときの放電容量と電流5.0mA/cm2のときの放電容量とから、下記(1)式を用いて放電容量比を算出した。
【0036】
放電容量比=〔(電流5.0mA/cm2のときの放電容量)/(電流0.5mA/cm2のときの放電容量)〕×100・・・(1)
【0037】
【表1】
【0038】
上記表1から明らかなように、セルAはセルZと比べて放電容量比が大きくなっており、負荷特性に優れていることがわかる。尚、上記実験においては、電流密度は小さいので、電極のオーム抵抗による電圧降下が負荷特性に与える影響は小さい。したがって、セルAはセルZに比べてリチウムイオン導電性が高くなっている等に起因して、負荷特性に優れると考えられる。尚、リチウムイオン導電性が高くなるのは、以下に示す理由によるものと考えられる。
【0039】
(1)溝の空間を通って、電解液が電極全体に容易に行き渡る。したがって、電解液が供給され難い電極中央部にも電解液が十分に供給される。
(2)図15に示すように、溝2の空間部3を電解液が通るため、正極表面31のみならず、溝2の側面30からも、正極内部に電解液が供給されるとともにリチウムイオンの出入が可能になる。このように、電極が薄くなっている部位から平面方向(図中、B方向)や厚み方向(図中、C方向)にも電解液が浸透するとともにリチウムイオンの出入が可能になるので、電解液が一層浸透し易くなるとともにリチウムイオンの電極内拡散距離が短くなる。
上記(1)(2)より、本発明を適用した電極においては、リチウムイオン導電性が高くなる。
【0040】
〔第2実施例〕
(実施例)
上記発明を実施するための形態で示す方法と同様にして、正極集電体を作製した。
このようにして作製した正極集電体を、以下、集電体bと称する。
【0041】
(比較例)
図16及び図17に示すように、格子状の溝を形成しない以外は、上記実施例と同様にして正極集電体を作製した。
このようにして作製した正極集電体を、以下、集電体yと称する。
【0042】
(実験)
上記集電体b、yの抵抗と繊維の毛羽立ちの有無を調べたので、それらの結果を下記表2に示す。尚、集電体の抵抗はACミリオームハイテスタ3560(日置電機株式会社製)を用い、クリップ型リードで集電体を挟み込んで測定した。クリップは50×100mmのシートの対角線上に、集電体の角を含む10mm角の範囲内で、且つ、溝ではない部位に設置した。また、繊維の毛羽立ちの有無は目視で調べた。
【0043】
【表2】
【0044】
表2から明らかなように、溝が設けられた集電体bは、溝が設けられていない集電体yに比べて、集電体の抵抗が低くなり、しかも、毛羽立ちが抑制されることがわかる。したがって集電体の電子導電性を向上させることによって電池特性の向上を図り、且つ、金属繊維のほつれや毛羽立ち等を抑えることによって電極が破損したり、電池内部で短絡が生じるのを抑制するためには、集電体に溝が形成するのが有効であることがわかる。尚、溝が設けられていない集電体yは、図17に示すように、製造段階で毛羽立っており(アルミニウム繊維5が飛び出ている)、更に、図18に示すように、正極活物質を担持させた状態でも毛羽立ちが維持されている。
【0045】
〔第3実施例〕
(実施例)
正極集電体の溝の幅を1.0mmとした以外は、上記第2実施例の実施例と同様にして正極集電体を作製した。
このようにして作製した正極集電体を、以下、集電体cと称する。
【0046】
(実験)
上記集電体cの抵抗と繊維の毛羽立ちの有無を、上記第2実施例の実験と同様にして調べたので、それらの結果を下記表3に示す。尚、表3には、上記集電体bの結果についても併せて示す。
【0047】
【表3】
【0048】
上記表3から明らかなように、集電体bと集電体cとでは毛羽立ちがなく、抵抗は略同等であることが認められる。但し、表3からは明らかではないが、溝の幅は1mm以上、10mm以下が好ましい。溝の幅が1mm未満では、溝の幅が狭すぎて、集電体に活物質が担持された状態で溝内に空間を設けるのが困難になる場合があること、及び、プレス圧が大きくなって、プレス時に集電体が破断する可能性がある。一方、溝の幅が10mmを超えると、集電体に担持される活物質量が少なくなって、電極容量が低下することがある。これは、溝に対応する部位の集電体は、溝以外の部位における集電体に比べて金属繊維の密度が高いので、当該部位では余り活物質を担持することができない。このため、溝の幅が余り大きくなると、集電体中に占める溝の割合が多くなって、集電体に担持する活物質量が少なくなるからである。
【0049】
〔第4実施例〕
(実施例1)
正極集電体の質量を2.5gとした以外は、上記第2実施例の実施例と同様にして正極集電体を作製した。即ち、本実施例の集電体は上記集電体bと厚みが同一であるにも関わらず、集電体bに比べて質量が大きくなっているということから、集電体bに比べてアルミニウム繊維の密度が高くなっている。
このようにして作製した正極集電体を、以下、集電体d1と称する。
【0050】
(実施例2)
正極集電体の厚みを1.0mmとした以外は、上記実施例1と同様にして正極集電体を作製した。即ち、本実施例の集電体は上記集電体d1と質量が同一にも関わらず、集電体d1より厚みが大きくなっているということから、集電体d1に比べてアルミニウム繊維の密度が低くなっている。
このようにして作製した正極集電体を、以下、集電体d2と称する。
【0051】
(実施例3)
正極集電体の厚みを1.2mmとし、且つ、正極集電体の質量を2.5gとした以外は、上記実施例1と同様にして正極集電体を作製した。即ち、本実施例の集電体は上記集電体d2に比べて質量が小さいにも関わらず、集電体d2より厚みが大きくなっているということから、集電体d2に比べてアルミニウム繊維の密度が低くなっている。
このようにして作製した正極集電体を、以下、集電体d3と称する。
【0052】
(実験)
上記集電体d1〜d3の抵抗と繊維の毛羽立ちの有無を、上記第2実施例の実験と同様にして調べたので、それらの結果を下記表4に示す。
【0053】
【表4】
【0054】
表4から明らかなように、集電体d1〜d3は、アルミニウム繊維の密度が異なるにも関わらず、抵抗は略同等となっていることがわかる。したがって、アルミニウム繊維の密度が低い集電体であっても、プレスを行って集電体の一部にアルミニウム繊維の密度が高い部分を設ければ、集電体の抵抗を低下させることができることがわかる。
【0055】
〔第5実施例〕
(実施例1)
正極集電体の溝の間隔を50mmとした以外は、上記第2実施例の実施例と同様にして正極集電体を作製した。
このようにして作製した正極集電体を、以下、集電体e1と称する。
【0056】
(実施例2)
正極集電体の溝の間隔を80mmとした以外は、上記第2実施例の実施例と同様にして正極集電体を作製した。
このようにして作製した正極集電体を、以下、集電体e2と称する。
【0057】
(実験)
上記集電体e1、e2の抵抗と繊維の毛羽立ちの有無を、上記第2実施例の実験と同様にして調べたので、それらの結果を下記表5に示す。尚、表5には、上記集電体bの結果についても併せて示す。
【0058】
【表5】
【0059】
表5から明らかなように、溝の間隔が50mm以下の集電体b、e1では抵抗が低く、毛羽立ちも抑えられているのに対して、溝の間隔が50mmを超える集電体e2では抵抗が低く、若干毛羽立っていることがわかる(但し、溝のない上記集電体yと比べると、毛羽立ちは少なく、抵抗も小さい)。したがって、導電性の向上と毛羽立ちの抑制とを図るためには、溝の間隔は50mm以下がよいことがわかる。
溝の間隔が50mmを超えると、集電体に対する溝の割合が小さくなり過ぎて、溝を設けた効果が十分に発揮されないことがあるという理由による。尚、溝の間隔は溝の幅の2倍以上であることが望ましい。溝の間隔が溝の幅の2倍を下回ると、集電体中に占める溝の割合が多くなって、集電体に担持される活物質量が少なくなる結果、電極容量が低下することがある。
【0060】
〔第6実施例〕
(実施例1)
溝に対応する部位の集電体の厚みを0.2mm〔溝に対応する部位以外の集電体の厚み(0.6mm)に対する割合が33%〕とした以外は、上記第2実施例の実施例と同様にして正極集電体を作製した。
このようにして作製した正極集電体を、以下、集電体f1と称する。
【0061】
(実施例2)
溝に対応する部位の集電体の厚みを0.5mm〔溝に対応する部位以外の集電体の厚み(0.6mm)に対する割合が83%〕とした以外は、上記第2実施例の実施例と同様にして正極集電体を作製した。
このようにして作製した正極集電体を、以下、集電体f2と称する。
【0062】
(実験)
上記集電体f1、f2の抵抗と繊維の毛羽立ちの有無を、上記第2実施例の実験と同様にして調べたので、それらの結果を下記表6に示す。尚、表6には、上記集電体bの結果についても併せて示す。
【0063】
【表6】
【0064】
溝に対応する部位の集電体の厚みが小さな(プレス圧が大きくて、溝の深さが大きい)集電体f1、bは、溝に対応する部位の集電体の厚みが大きな(プレス圧が小さくて、溝の深さが小さい)集電体f2に比べて、抵抗が小さくなっていることが認められる。したがって、導電性の向上を図るためには、溝に対応する部位の集電体の厚みが小さくなっていることが望ましく、特に、溝に対応する部位以外の集電体の厚みに対する溝に対応する部位の集電体の厚みの割合は90%以下であることが好ましい。
【0065】
上記割合が90%を越えると、溝に対応する部位における集電体の金属繊維の密度が、溝以外の部位における集電体の金属繊維の密度と余り変わらなくなって、本発明の作用効果(抵抗減少による電子導電性の向上効果の他、リチウムイオン導電性を向上する効果や、毛羽立ちを抑制する効果を含む)を十分に発揮できないからである。尚、溝に対応する部位以外の集電体の厚みに対する溝に対応する部位の集電体の厚みの割合は10%以上であることが好ましい。上記割合が10%を下回ると、プレス法により溝を作製した場合に、プレス圧が大きくなって、溝に対応する部位で集電体が破断することがある。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、例えば携帯電話、ノートパソコン、PDA等の移動情報端末の駆動電源や、HEVや電動工具といった高出力向けの駆動電源に展開が期待できる。
【符号の説明】
【0067】
1:正極集電体
2:溝
3:空間
5:アルミニウム繊維
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属繊維をシート状に成型したものを集電体に用い、この集電体に活物質が担持される構造のリチウム二次電池用電極において、
上記集電体の表面には溝が形成されており、この集電体に活物質が担持された状態で溝内に空間が存在していることを特徴とするリチウム二次電池用電極。
【請求項2】
上記溝に対応する部位における集電体の金属繊維の密度は、上記溝以外の部位における集電体の金属繊維の密度より高くなっている、請求項1に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項3】
上記集電体の外周部における集電体の金属繊維の密度が、上記外周部以外の部位における集電体の金属繊維の密度より高くなっている、請求項2に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項4】
溝の幅は1mm以上10mm以下となっている、請求項2又は3に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項5】
上記溝以外の部位における集電体の厚みに対する、上記溝に対応する部位における集電体の厚みの割合が、10%以上90%以下となっている、請求項2〜4の何れか1項に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項6】
上記溝は複数設けられている、請求項1〜5の何れか1項に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項7】
上記溝の間隔は、溝の幅の2倍以上で50mm以下となっている、請求項6に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項8】
上記溝は格子状になっている、請求項6又は7に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項9】
上記溝内には活物質が存在しない、請求項1〜8の何れか1項に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項10】
正極と負極と非水電解液とを備えたリチウム二次電池において、請求項1〜9の何れか1項に記載のリチウム二次電池用電極が、正負両極のうち少なくとも一方の極に用いられていることを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項11】
請求項1〜9の何れか1項に記載のリチウム二次電池用電極が正極として用いられ、上記金属繊維がアルミニウム繊維から成る、請求項10に記載のリチウム二次電池。
【請求項1】
金属繊維をシート状に成型したものを集電体に用い、この集電体に活物質が担持される構造のリチウム二次電池用電極において、
上記集電体の表面には溝が形成されており、この集電体に活物質が担持された状態で溝内に空間が存在していることを特徴とするリチウム二次電池用電極。
【請求項2】
上記溝に対応する部位における集電体の金属繊維の密度は、上記溝以外の部位における集電体の金属繊維の密度より高くなっている、請求項1に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項3】
上記集電体の外周部における集電体の金属繊維の密度が、上記外周部以外の部位における集電体の金属繊維の密度より高くなっている、請求項2に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項4】
溝の幅は1mm以上10mm以下となっている、請求項2又は3に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項5】
上記溝以外の部位における集電体の厚みに対する、上記溝に対応する部位における集電体の厚みの割合が、10%以上90%以下となっている、請求項2〜4の何れか1項に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項6】
上記溝は複数設けられている、請求項1〜5の何れか1項に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項7】
上記溝の間隔は、溝の幅の2倍以上で50mm以下となっている、請求項6に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項8】
上記溝は格子状になっている、請求項6又は7に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項9】
上記溝内には活物質が存在しない、請求項1〜8の何れか1項に記載のリチウム二次電池用電極。
【請求項10】
正極と負極と非水電解液とを備えたリチウム二次電池において、請求項1〜9の何れか1項に記載のリチウム二次電池用電極が、正負両極のうち少なくとも一方の極に用いられていることを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項11】
請求項1〜9の何れか1項に記載のリチウム二次電池用電極が正極として用いられ、上記金属繊維がアルミニウム繊維から成る、請求項10に記載のリチウム二次電池。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2012−89303(P2012−89303A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233847(P2010−233847)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]