説明

リチウム二次電池用電極及びその製造方法

【課題】充放電に伴う電池容量の低下を抑制することができるリチウム二次電池用電極及びその製造方法を提供する。
【解決手段】集電体上にLiを吸蔵・放出する活物質とFeとを含有する活物質薄膜が形成されているリチウム二次電池用電極であって、この活物質薄膜はFeの他にNi、Coを含有している。さらに、この活物質薄膜に含有するFe、Ni、Coの濃度は各々、重量%で10%<Fe<30%、1%<Ni<4%、1%<Co<3%の範囲を満たす。活物質薄膜に含有するFe、Ni、Coの濃度が各々規定する範囲を満たすことで、Liの吸蔵・放出に伴う活物質薄膜の膨張・収縮程度が緩和され、活物質薄膜が集電体から剥離することを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用電極及びその製造方法に関するものである。特に、充放電に伴う電池容量の低下を抑制することができるリチウム二次電池用電極及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、長寿命・高効率・高容量であり、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラなどの電源としてその需要は益々拡大している。そして、リチウム二次電池のさらなる高性能化を目指して、活物質や集電体の研究開発が活発に行われている。
【0003】
リチウム二次電池は、正極と負極との間でLiイオンをやり取りすることによって、充放電が行われる。最近では、このリチウム二次電池の活物質にLiを吸蔵して合金化するシリコン(Si)やスズ(Sn)等を用いることが提案されている。具体的には、このような活物質を薄膜として集電体上に形成し、この薄膜にLiを吸蔵・放出させることで電池の充放電を行うようにする。しかし、このような活物質は充放電の際にLiの吸蔵・放出に伴い体積が膨張・収縮し、薄膜自身の体積変化により薄膜が集電体から剥離するという問題があった。このような電極を用いたリチウム二次電池は、充放電の繰り返しに伴い電池容量が低下してしまうので、良好な充放電サイクル特性が得られなかった。
【0004】
この膨張・収縮を抑制するために、例えば特許文献1に記載のリチウム二次電池用電極が提案されている。このリチウム二次電池用電極は、Liと合金化する金属(Sn)と、Liと合金化しない金属(Co等)とからなる合金薄膜(Sn-Co合金等)が集電体上に形成されている。また、この合金薄膜は、電解メッキ法を用いて集電体上に形成する。この特許文献1によれば、このような電極を用いたリチウム二次電池は、良好な充放電サイクル特性を有することが示されている。中でもLiと合金化しない金属にCo又はNiを用いたSn-Co合金薄膜、Sn-Ni合金薄膜、Sn-Ni-Co合金薄膜が形成された電極がより良好な充放電サイクル特性を有している。
【0005】
【特許文献1】特開2002−373647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に示されるように、Liと合金化しない金属にFeのみを用いた場合、合金薄膜の膨張・収縮を十分に抑制することができず、電池の容量維持率を十分に維持できていない。また、Feと比較して高価なCo又はNiを用いた上記合金薄膜では、Co又はNiを合わせて20重量%程度含有する必要があり、リチウム二次電池用電極のコストを低く抑えることが難しい。
【0007】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、Liと合金化しない金属にFeを用いて、充放電に伴う電池容量の低下を抑制することができるリチウム二次電池用電極を提供することにある。また、本発明の別の目的は、Liと合金化しない金属にFeを用いて、充放電に伴う電池容量の低下を抑制することができるリチウム二次電池用電極の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、Liを吸蔵・放出する活物質にFeを主成分とする複数種のLiと合金化しない金属を添加した活物質薄膜を集電体上に形成して、種々のリチウム二次電池用電極を作製し、各電極の性能評価を行った。その結果、本発明者らは、Feの他に、Ni又はCoの一方を添加するのではなく、NiとCoの両方を添加すると共に、活物質薄膜に含有するFe、Ni、Coの濃度を各々規定することで、Feのみを添加する場合と比較して充放電に伴う電池容量の低下を効果的に抑制できるとの知見を得た。
【0009】
本発明のリチウム二次電池用電極は、集電体上にLiを吸蔵・放出する活物質とFeとを含有する活物質薄膜が形成されている。さらに、この活物質薄膜はFeの他にNi、Coを含有しており、活物質薄膜に含有するFe、Ni、Coの濃度は各々、重量%で10%<Fe<30%、1%<Ni<4%、1%<Co<3%の範囲を満たすことを特徴とする。
【0010】
Fe、Ni、CoはいずれもLiと合金化しない金属であり、充放電の際に膨張・収縮することがない。活物質薄膜がこのような金属を含有することで、Liの吸蔵・放出に伴う活物質薄膜の膨張・収縮程度が緩和され、活物質薄膜が集電体から剥離することを抑制することができる。特に、活物質薄膜に含有するFe、Ni、Coの濃度が各々上記に規定する範囲を満たす場合、十分な電池容量を有しかつ良好な充放電サイクル特性を有するリチウム二次電池用電極を得ることができる。Fe、Ni、Coの濃度が各々上記に規定する下限値以下の場合には、充放電の際に活物質薄膜の膨張・収縮を十分に緩和することができず、十分な効果が得られない。逆に、上限値以上の場合には、活物質の濃度が相対的に低くなるため、電池容量の低下が顕著となり好ましくない。
【0011】
Liを吸蔵・放出する活物質としては、例えばLiと合金化する金属が好適であり、より具体的には、Si、Sn、Ge、Al、Pb等が挙げられる。特にSiが好適に利用できる。
【0012】
集電体としては、例えばLiと合金化しない金属が好適であり、より具体的には、Cu、Ni、少なくともこれら一つを含む合金等が挙げられる。中でもCuが好適に利用できる。また、集電体は薄くてもよく、集電体にCuを用いる場合は圧延銅箔や電解銅箔を利用することができる。
【0013】
本発明のリチウム二次電池用電極は、例えば以下の構成を具える本発明の製造方法により作製することができる。本発明の製造方法は、Ni、Coの濃度が重量%で20%<Ni<40%、10%<Co<30%の範囲を満たし、残部がFeであるFe-Ni-Co合金を用意する第一工程と、前記合金の配合割合が重量%で20%<Fe-Ni-Co合金<50%となるように、活物質と前記合金とを混合する第二工程と、前記工程により得られた薄膜原料を気相法により集電体上に成膜することで、活物質薄膜を形成する第三工程とを具えることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、集電体上に形成される活物質薄膜に含有するFe、Ni、Coの各々の濃度が、重量%で10%<Fe<30%、1%<Ni<4%、1%<Co<3%の範囲を満たすリチウム二次電池用電極を作製することができる。
【0015】
気相法としては、例えば、PVD(物理的蒸着)法、CVD(化学的蒸着)法が挙げられる。PVD法としては、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタ法、レーザーアブレーション法等が挙げられ、CVD法としては、熱CVD法、プラズマCVD法等が挙げられる。中でも真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタ法が好適に利用できる。気相法を用いることで、集電体との密着性が良好であると共に均質な活物質薄膜を形成することができる。また、薄膜原料を集電体上に成膜する際の雰囲気ガスとしては、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)といった不活性ガスが好適に利用できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のリチウム二次電池用電極は、Liの吸蔵・放出に伴う活物質薄膜の膨張・収縮程度を緩和して、充放電の際に活物質薄膜が集電体から剥離することを抑制することができる。このようなリチウム二次電池用電極をリチウム二次電池に使用することで、十分な電池容量を有しかつ充放電に伴う電池容量の低下を抑制することができる。また、Liと合金化しない金属にはFeを主に用いており、リチウム二次電池用電極のコストを低く抑えることができる。そして、本発明の製造方法を利用すれば、十分な電池容量を有しかつ充放電に伴う電池容量の低下を抑制することができるリチウム二次電池用電極を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のリチウム電池用電極の製造方法を用いて、Liと合金化しない金属の種類及び濃度を調整した薄膜原料を集電体上に成膜することで活物質薄膜を形成して、リチウム二次電池用電極を作製した。そして、作製したリチウム二次電池用電極を用いたリチウム二次電池を作製し、電極の性能評価を行った。
【0018】
<電極の作製>
電極は、集電体上に活物質薄膜を形成したものであり、集電体にはCu箔、活物質にはSiを用いた。このCu箔は、厚さ18μmの圧延Cu箔の表面を中心線平均粗さ(Ra)が0.1〜1μm程度になるように電解めっき法により粗面化したものである。また、活物質薄膜は、下記の実施例に示すように、活物質であるSiにLiと合金化しない金属を添加した薄膜原料を集電体上に成膜することで形成した。
【0019】
(実施例1)
Fe-Ni-Co合金(各金属の濃度はFe:54重量%、Ni:30重量%、Co:16重量%)の配合割合が40重量%となるようにSiにこの合金を混合した薄膜原料を用意した。この薄膜原料を真空蒸着法によりCu箔の表面上に堆積させて、Si-Fe-Ni-Co合金からなる薄膜(Si合金薄膜)を形成した。具体的には、真空排気した後にArガスを導入して雰囲気圧力を2×10-3Paとした成膜室内で、電子ビームを照射して薄膜原料を溶融して蒸発させることにより、Cu箔上にSi合金薄膜を形成した。形成するSi合金薄膜の厚さは7μmとし、Si合金薄膜の形成は成膜速度50nm/secで行った。このSi合金薄膜に含有するFe、Ni、Coの濃度は、エネルギー分散型蛍光X線分析法を用いて測定したところ、それぞれ20重量%、2.1重量%、1.6重量%であった。
【0020】
(実施例2)
Fe-Ni-Co合金(各金属の濃度はFe:54重量%、Ni:30重量%、Co:16重量%)の配合割合が30重量%となるようにSiにこの合金を混合した薄膜原料を用意し、実施例1と同様にして、Cu箔の表面上にSi-Fe-Ni-Co合金からなる薄膜(Si合金薄膜)を形成した。このSi合金薄膜に含有するFe、Ni、Coの濃度は、それぞれ13重量%、1.4重量%、1.1重量%であった。
【0021】
(比較例1)
Feの配合割合が30重量%となるようにSiにFeを混合した薄膜原料を用意し、実施例1と同様にして、Cu箔の表面上にSi-Fe合金からなる薄膜(Si合金薄膜)を形成した。このSi合金薄膜に含有するFeの濃度は、20重量%であった。
【0022】
(比較例2)
Niの配合割合が20重量%となるようにSiにNiを混合した薄膜原料を用意し、実施例1と同様にして、Cu箔の表面上にSi-Ni合金からなる薄膜(Si合金薄膜)を形成した。このSi合金薄膜に含有するNiの濃度は、2.1重量%であった。
【0023】
(比較例3)
Coの配合割合が10重量%となるようにSiにCoを混合した薄膜原料を用意し、実施例1と同様にして、Cu箔の表面上にSi-Co合金からなる薄膜(Si合金薄膜)を形成した。このSi合金薄膜に含有するCoの濃度は、1.6重量%であった。
【0024】
(比較例4)
Fe-Ni-Co合金(各金属の濃度はFe:54重量%、Ni:30重量%、Co:16重量%)の配合割合が50重量%となるようにSiにこの合金を混合した薄膜原料を用意し、実施例1と同様にして、Cu箔の表面上にSi-Fe-Ni-Co合金からなる薄膜(Si合金薄膜)を形成した。このSi合金薄膜に含有するFe、Ni、Coの濃度は、それぞれ33重量%、4.1重量%、3.1重量%であった。
【0025】
(比較例5)
Fe-Ni-Co合金(各金属の濃度はFe:54重量%、Ni:30重量%、Co:16重量%)の配合割合が20重量%となるようにSiにこの合金を混合した薄膜原料を用意し、実施例1と同様にして、Cu箔の表面上にSi-Fe-Ni-Co合金からなる薄膜(Si合金薄膜)を形成した。このSi合金薄膜に含有するFe、Ni、Coの濃度は、それぞれ6.7重量%、0.8重量%、0.5重量%であった。
【0026】
<電池の作製>
作製した各電極を負極として用いたコイン型リチウム二次電池をそれぞれ作製した。この電池は、負極、セパレータ、正極の順に積層された積層体を形成して、この積層体をステンレス製のケースに収納した後、有機電解液を封入することで作製した。
【0027】
ここで、リチウム二次電池の正極は、一般的に使用されているLiCoO2を用いて作製した。具体的には、LiCoO2の粉末をAl箔に塗布して作製した。また、リチウム二次電池の有機電解液には、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの等体積混合溶媒にLiPF6を1モル/リットルの割合で溶解させたものを用いた。セパレータには、ポリプロピレンからなる多孔質材料を用いた。
【0028】
そして、このような電池を用いて各電極の性能評価を行った。具体的には、充放電電流を1mA/cm2として、4.2Vまで充電した後、2.75Vまで放電する作業を1サイクルとする充放電サイクル試験を100サイクル行い、各電池の容量維持率を求めた。容量維持率は、次式により求められる。
容量維持率(%)=(各サイクル時の放電容量/最大放電容量)×100 (式1)
【0029】
表1に各電池の100サイクル後の容量維持率を示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1から明らかなように、本発明のリチウム二次電池用電極である実施例1及び2は、100サイクル後の容量維持率が60%以上であり、比較例1〜5と比較して容量維持率が格段に高い。なお、比較例4の電極は、上記試験条件を満たす充放電を行うことができなかったため、充放電サイクル試験を実施しなかった。これは、Si合金薄膜に含有するSiの濃度が低いことが原因と考えられる。比較例5の電極は、FeといったLiと合金化しない金属の濃度が低く、充放電に伴うSi合金薄膜の膨張・収縮を十分に緩和できないと考えられる。また、Liと合金化しない金属にFeを用いる場合、Si合金薄膜はFeの他にNi、Coを含有していることが好ましく、各金属の濃度が本発明に規定する範囲を満たすことで、充放電に伴うSi合金薄膜の膨張・収縮を効果的に緩和できると考えられる。さらに、実施例1と比較例4との結果から、薄膜原料はFe-Ni-Co合金の配合割合が45重量%未満となるようにすることがより好ましいと推測され、実施例2と比較例5との結果から、薄膜原料はFe-Ni-Co合金の配合割合が25重量%超過となるようにすることがより好ましいと推測される。
【0032】
以上により、本発明のリチウム二次電池用電極を利用することで、充放電に伴う電池容量の低下を抑制することが確認できた。また、本発明の電極は、Liと合金化しない金属にFeを用いた場合であっても、十分な効果を有しており、リチウム二次電池用電極のコストを低く抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のリチウム二次電池用電極は、リチウム二次電池に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体上にLiを吸蔵・放出する活物質とFeとを含有する活物質薄膜が形成されているリチウム二次電池用電極であって、
この活物質薄膜はFeの他にNi、Coを含有しており、
この活物質薄膜に含有するFe、Ni、Coの濃度は各々、重量%で10%<Fe<30%、1%<Ni<4%、1%<Co<3%の範囲を満たすことを特徴とするリチウム二次電池用電極。
【請求項2】
集電体上にLiを吸蔵・放出する活物質とFeとを含有する活物質薄膜を形成するリチウム二次電池用電極の製造方法であって、
Ni、Coの濃度が重量%で20%<Ni<40%、10%<Co<30%の範囲を満たし、残部がFeであるFe-Ni-Co合金を用意する第一工程と、
前記合金の配合割合が重量%で20%<Fe-Ni-Co合金<50%となるように、活物質と前記合金とを混合する第二工程と、
前記工程により得られた薄膜原料を気相法により集電体上に成膜することで、活物質薄膜を形成する第三工程とを具えることを特徴とするリチウム二次電池用電極の製造方法。

【公開番号】特開2007−329010(P2007−329010A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−159099(P2006−159099)
【出願日】平成18年6月7日(2006.6.7)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】