説明

リチウム二次電池電極用バインダー、リチウム二次電池電極用バインダーの製造方法、リチウム二次電池電極およびリチウム二次電池

【課題】本発明は、集電体との接着性に優れるとともに、柔軟性に優れた活物質層を与えることが出来るリチウム二次電池電極用バインダーを提供することである。
【解決手段】カルボキシル基含有単量体(а−1)0.01〜30質量%と、アクリロニトリル(а−2)20〜60質量%とを含み、残部が共重合可能な単量体(a−3)からなる第1モノマー混合物(1)を共重合して得られる第1ポリマーを含むリチウム二次電池電極用バインダーとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集電体との接着性に優れるとともに柔軟性に優れた活物質層が得られるリチウム二次電池電極用バインダーの製造方法、これを用いて得られたリチウム二次電池電極用バインダー、リチウム二次電池電極用スラリー、リチウム二次電池電極およびリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ノート型パソコンや携帯電話、PDAといった携帯情報端末の普及が著しい。さらには環境負荷低減という点から、電気自動車の開発が活発に行われている。これら携帯情報端末や電気自動車の電源としては、高いエネルギー密度を有するリチウム二次電池が広く使われている。
【0003】
リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウム含有金属複合酸化物が主に用いられている。また、負極活物質としては、リチウムイオンの層間への挿入(リチウム層間化合物の形成)及び放出が可能な多層構造を有する炭素系材料が用いられている。リチウム二次電池の電極は、これらの活物質とバインダーと溶媒とを混練してスラリーを調製し、これを転写ロール等で集電体である金属箔の片面又は両面に塗布し、溶媒を乾燥除去して活物質層を形成した後、必要に応じてロールプレス機等で圧縮成形することによって作製されている。
【0004】
従来、リチウム二次電池用のバインダーとしては、スチレン・ブタジエン・ゴム(以下、「SBR」と略す。)やポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFと略す。)が用いられていた。しかしながら、SBRやPVDFは、集電体である金属箔(アルミ箔や銅箔など)との接着性に乏しい。このため、活物質層の集電体との十分な接着力を確保するには、活物質に対してバインダーを多量に配合しなければならなかった。活物質層に多量に含まれるバインダーは、活物質を覆って活物質の電池反応を阻害したり、リチウム電池の内部抵抗を増大させたりして、リチウム二次電池の高容量化を妨げる要因となる。
【0005】
集電体との接着性の高い活物質層を形成できるバインダーとしては、特許文献1および特許文献2に開示されているものがある。これらのバインダーを用いた場合、SBRやPVDFと比べて活物質層と集電体との接着性は改善される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−287915号公報
【特許文献2】特開2001−332265号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に開示されているバインダーを用いた場合であっても、活物質層と集電体との十分な接着性を得るためには、依然として活物質に対してバインダーを多量に配合しなければならず、リチウム二次電池の高容量化を妨げていた。
また、従来のバインダーを使用して活物質層を形成してなる電極は、活物質層の柔軟性が不十分であるため、リチウム二次電池の製造工程において、セパレータを介して渦巻き状に捲回する際などに、活物質層の一部または全部が集電体から剥離・脱落しやすいという問題があった。
【0008】
したがって、従来のリチウム二次電池用バインダーでは、これを用いた活物質層における集電体との接着性を向上させるとともに柔軟性を向上させることが要求されていた。
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、集電体との接着性に優れるとともに柔軟性に優れた活物質層を形成できるリチウム二次電池電極用バインダー、その製造方法、これを用いたリチウム二次電池電極用スラリーを提供することを課題とする。
また、このようなリチウム二次電池電極用バインダーを用いて得られた集電体との接着性および柔軟性に優れた活物質層を有するリチウム二次電池電極およびリチウム二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を行った結果、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
1.カルボキシル基含有単量体(а−1)0.01〜30質量%と、アクリロニトリル(а−2)20〜60質量%とを含み、残部が共重合可能な単量体(a−3)からなる第1モノマー混合物(1)を共重合して得られる第1ポリマーを含むリチウム二次電池電極用バインダー。
2.前記第1ポリマーの存在下で、カルボキシル基含有単量体(b−1)とリン酸基含有単量体(b−2)のいずれか一方または両方を50質量%以上と、共重合可能な単量体(b−3)0〜50質量%とからなる第2モノマー混合物(2)を、前記第1モノマー混合物(1)と前記第2モノマー混合物(2)との質量比(第1モノマー混合物(1)/第2モノマー混合物(2))を99.99/0.01〜80/20として重合して得られる第2ポリマーを含む上記1に記載のリチウム二次電池電極用バインダー。
【0011】
3.上記1または2に記載のリチウム二次電池電極用バインダーと活物質と溶媒とを含有することを特徴とするリチウム二次電池電極用スラリー。
4.多官能エポキシ化合物を含有することを特徴とする上記3に記載のリチウム二次電池電極用スラリー。
5.上記3または4に記載のリチウム二次電池電極用スラリーを集電体に塗布、乾燥してなることを特徴とするリチウム二次電池電極。
6.上記5に記載のリチウム二次電池用電極を具えたことを特徴とするリチウム二次電池。
【0012】
7.カルボキシル基含有単量体(а−1)0.01〜30質量%と、アクリロニトリル(а−2)20〜60質量%とを含み、残部が共重合可能な単量体(a−3)からなる第1モノマー混合物(1)を共重合して第1ポリマーを得る第1重合工程を含むリチウム二次電池電極用バインダーの製造方法。
8.前記第1ポリマーの存在下で、カルボキシル基含有単量体(b−1)とリン酸基含有単量体(b−2)のいずれか一方または両方を50質量%以上と、共重合可能な単量体(b−3)0〜50質量%とからなる第2モノマー混合物(2)を、前記第1モノマー混合物(1)と前記第2モノマー混合物(2)との質量比(第1モノマー混合物(1)/第2モノマー混合物(2))を99.99/0.01〜80/20として重合して第2ポリマーを得る第2重合工程を含む上記7に記載の含むリチウム二次電池電極用バインダーの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のリチウム二次電池電極用バインダーによれば、集電体との接着性に優れる活物質層を形成できる。したがって、本発明のリチウム二次電池電極用バインダーを用いてリチウム二次電池電極の活物質層を形成する際には、従来と比較して活物質に対するバインダーの使用量を少量とし、活物質層における活物質の含有量を増やすことができるので、リチウム二次電池の高容量化を図ることができる。
【0014】
また、本発明のリチウム二次電池電極用バインダーによれば、柔軟性に優れた活物質層を形成できる。なお、本発明では、リチウム二次電池電極用バインダーに含まれる第1ポリマーおよび/または第2ポリマーに起因する活物質層の柔軟性向上効果と、リチウム二次電池電極用バインダーの使用量を少量とすることに起因する活物質層の柔軟性向上効果との相乗効果によって、非常に優れた柔軟性を有する活物質層が得られる。したがって、本発明のリチウム二次電池電極用バインダーを用いて活物質層を形成してなる電極を用いて、リチウム二次電池を製造した場合、製造途中の工程において活物質層が集電体から剥離したり脱落したりしにくく、歩留まりよくリチウム二次電池を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(リチウム二次電池電極用バインダー)
「第1ポリマー」
本発明のリチウム二次電池電極用バインダー(以下、バインダーと略す。)は、カルボキシル基含有単量体(а−1)(以下、(a−1)成分と略す。)0.01〜30質量%と、アクリロニトリル(а−2)(以下、(a−2)成分と略す。)20〜60質量%とを含み、残部が(a−1)成分及び(a−2)成分と共重合可能な単量体(a−3)(以下、(a−3)成分と略す。)10〜79.99質量%からなる第1モノマー混合物(1)(但し、第1モノマー混合物(1)における(a−1)〜(a−3)の合計を100質量%とする。)を共重合して得られる第1ポリマーを含むものである。
【0016】
(a−1)成分としては、例えば、アクリル酸及びメタクリル酸のようなアクリル系カルボキシル基含有単量体、クロトン酸のようなクロトン系カルボキシル基含有単量体、マレイン酸及びその無水物のようなマレイン系カルボキシル基含有単量体、イタコン酸及びその無水物のようなイタコン系カルボキシル基含有単量体、シトラコン酸及びその無水物のようなシトラコン系カルボキシル基含有単量体、フマル酸、メサコン酸、ケイ皮酸、コハク酸モノ(2−(メタ)アクリロイロキシエチル)、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらの中では、重合のし易さの点で、アクリル酸又はメタクリル酸が好ましい。これら(a−1)成分は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
(a−3)成分の具体的な例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のモノヒドロキシ含有(メタ)アクリレートや1分子中にヒドロキシル基が2個以上含有する1,2−ジヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、1,2−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,2−ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,2−ジヒドロキシ5−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、1,2,3−トリヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,2,3−トリヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,1−ジヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、1,1−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,1−ジヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,1,2−トリヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,1,2−トリヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸1,3−ブチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸1,4−ブタンジオール、ジ(メタ)アクリル酸1,6−ヘキサンジオール、ジ(メタ)アクリル酸ネオペンチルグリコール、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリル酸エステル、ジ(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ポリテトラメチレングリコール、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリル酸エステル、エトキシレーテッドトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリル酸エステル、プロポキシレーテッドトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリル酸エステル、グリセリントリ(メタ)アクリル酸エステル、エトキシレーテッドグリセリントリ(メタ)アクリル酸エステル等を挙げることが出来る。
これらの中では(a−1)と(a−2)成分との共重合のし易さという点から、アルキル(メタ)アクリレートが好ましい。これら(a−3)成分は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
第1モノマー混合物(1)は、(а−1)成分0.01〜30質量%と、(а−2)成分20〜60質量%とを含み、残部が(a−3)成分10〜79.99質量%からなるものである。
(a−1)成分は、(a−1)成分〜(a−3)成分の合計100質量%中(言い換えると第1モノマー混合物(1)100質量%中)、0.01〜30質量%の範囲で含有される。(a−1)成分の含有量を0.01質量%以上とすることによって、バインダーを用いて得られた活物質層に集電体との接着性を与えることが出来る。(a−1)成分の含有量の下限値は3質量%以上がより好ましく、さらに好ましくは、7質量%以上である。(a−1)成分の含有量を7質量%以上にすると、バインダーを用いて得られた活物質層の集電体との接着性が一層向上する傾向にある。(a−1)成分の含有量の上限値は30質量%以下が好ましい。(a−1)成分の含有量が30質量%以下であれば、本発明のバインダーを用いて得られた活物質層に柔軟性を与えることが出来る。(a−1)成分の含有量は、少ないほど活物質層の柔軟性が向上する傾向にある。
【0019】
(а−2)成分は、(a−1)成分〜(a−3)成分の合計100質量%中、20〜60質量%の範囲で含有される。(a−2)成分が上記範囲内であれば、バインダーを用いて得られた活物質層に、集電体との接着性と柔軟性とを共に与えることが出来る。(a−2)成分は(a−1)成分〜(a−3)成分の合計100質量%中、22質量%以上含有されるのがより好ましく、28質量%以上含有されるのがさらに好ましい。また、(a−2)成分は(a−1)成分〜(a−3)成分の合計100質量%中、50質量%以下含有されるのがより好ましく、40質量%以下の範囲で含有されるのがさらに好ましい。(a−2)成分を28質量%以上にすると、バインダーを用いて得られた活物質層の集電体との接着性が一層向上する傾向にある。また(a−2)成分を40質量%以下にすると、本発明のバインダーを用いて得られる活物質層の柔軟性が一層向上する傾向にある。
【0020】
(а−3)成分は、(a−1)成分〜(a−3)成分の合計100質量%中、10〜79.99質量%の範囲で含有される。(a−3)成分は(a−1)成分〜(a−3)成分の合計100質量%中、10質量%以上含有されるのがより好ましく、40質量%以上含有されるのがさらに好ましい。また、(a−3)成分は(a−1)成分〜(a−3)成分の合計100質量%中、79質量%以下含有されるのがより好ましく、75質量%以下の範囲で含有されるのがさらに好ましい。(a−3)成分が75質量%以下である場合、(a−1)成分および/または(a−2)成分の含有量が相対的に多くなり、バインダーを用いて得られた活物質層の集電体との接着性が一層向上する傾向がある。また、(a−3)成分を40質量%以上にすると、本発明のバインダーを用いて得られる活物質層の柔軟性が一層向上する傾向がある。
【0021】
「製造方法」
第1ポリマーを含む本発明のバインダーを製造するには、第1モノマー混合物(1)を共重合して第1ポリマーを得る第1重合工程を行う。
第1モノマー混合物(1)を共重合する方法は、特に制限はないが、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合など公知の方法が挙げられる。このうち、第1ポリマーの合成のし易さ、回収・精製といった後処理のし易さ、水を含めたスラリー溶剤選択性等の点で、乳化重合が好ましい。
【0022】
乳化重合により、第1モノマー混合物(1)を共重合する場合、第1モノマー混合物(1)と乳化剤と重合開始剤とを混合してなる第1ポリマーとなる材料を、加熱して重合することにより第1ポリマーを含む乳化液を得ることが好ましい。
乳化剤としては、例えば、アニオン性乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等)、ポリオキシエチレン基を含むアニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤(ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等)、分子中にビニル重合性二重結合を有する反応性乳化剤等が使用されるが、特に制限はない。
【0023】
重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化水素等の過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸化合物;過塩素酸化合物、過ホウ酸化合物または過酸化物と還元性スルホキシ化合物との組み合わせからなるレドックス系開始剤等が用いられ、特に制限はない。
【0024】
また、乳化重合により、第1モノマー混合物(1)を共重合する場合の第1ポリマーとなる材料は、連鎖移動剤を含むものであってもよい。連鎖移動剤としては、n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタン等のメルカプタン類などを用いることができる。
さらに、乳化重合により、第1モノマー混合物(1)を共重合する場合の第1ポリマーとなる材料は、水などの溶媒を含むものであってもよい。
【0025】
また、乳化重合により第1モノマー混合物(1)を共重合する場合、重合装置の容器内でシード粒子を含む乳化液を作成し、その後、シード粒子を含む乳化液に第1ポリマーとなる材料を少量ずつ滴下し、所定の温度で加熱して重合する方法によって第1ポリマーを含む乳化液を製造することが好ましい。このような方法によって第1ポリマーを製造した場合、第1ポリマーの粒子径を容易に制御できる。
【0026】
シード粒子は、重合装置の容器内に第1ポリマーとなる材料の一部を少量投入し、一括して攪拌しながら加熱して共重合することにより、シード粒子を含む乳化液を製造する方法などにより得られる。なお、シード粒子を製造する際に用いる第1ポリマーとなる材料は、重合されて第1ポリマーとなる材料のうちの一部であり、シード粒子の存在する重合装置の容器内に滴下される第1ポリマーとなる材料と同じ組成であってもよいし、異なっていても良い。また、シード粒子を製造する際には、空気雰囲気下もしくは窒素などの不活性ガス雰囲気下のいずれで行っても良い。
【0027】
シード粒子を製造する際の第1ポリマーとなる材料の使用量は、0.1質量%〜15質量%の範囲であることが好ましい。
また、シード粒子を製造する際の加熱温度は、特に限定されるものではないが、重合開始剤の10時間半減期温度±30℃以下の温度範囲とすることが好ましい。なお、10時間半減期温度とは、重合開始剤の濃度が初期値の半分まで減少する時間が10時間となる温度のことである。
また、シード粒子を製造する際の加熱は、シード粒子の粒子径のバラツキを小さくするために、第1ポリマーとなる材料を攪拌しながら行うことが好ましい。
【0028】
また、シード粒子に第1ポリマーとなる材料を滴下する際の滴下速度は、第1ポリマーとなる材料中に含まれるモノマーの総量を100質量%とした場合、第1ポリマーとなる材料に含まれるモノマーが1時間当たり4質量%以上で滴下される速度であることが好ましい。このことにより、集電体との接着性および柔軟性に優れた活物質層を形成できる第1ポリマーが得られる。なお、第1ポリマーとなる材料の全量を一括して全量投入しても構わない。
また、第1ポリマーを製造する際の加熱温度は、特に限定されるものではないが、集電体との接着性および柔軟性に優れた活物質層を形成できる第1ポリマーを得るために、シード粒子を製造する際の加熱温度と同じく、特に限定されるものではないが、重合開始剤の10時間半減期温度±30℃以下の温度範囲とすることが好ましい。
【0029】
なお、乳化重合により第1モノマー混合物(1)を共重合する場合の製造方法は、シード粒子を製造する工程を含む方法に限定されるものではなく、例えば、重合装置の容器内に第1ポリマーとなる材料の全量を投入し、一括して第1モノマー混合物(1)を共重合することにより第1ポリマーを製造してもよい。
【0030】
「第2ポリマー」
本発明のバインダーは、第1ポリマーの存在下で、カルボキシル基含有単量体(b−1)(以下、(b−1)成分と略す。)とリン酸基含有単量体(b−2)(以下、(b−2)成分と略す。)のいずれか一方または両方を50質量%以上と、共重合可能な単量体(b−3)(以下、(b−3)成分と略す。)0〜50質量%とからなる第2モノマー混合物(2)を、前記第1モノマー混合物(1)と前記第2モノマー混合物(2)との質量比(第1モノマー混合物(1)/第2モノマー混合物(2))を99.99/0.01〜80/20として重合して得られる第2ポリマーを含むものであってもよい。
【0031】
(b−1)成分としては、(a−1)成分と同様のものを使うことが出来る。
(b−2)成分としては、2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルジフェニルホスフェート(メタ)アクリレート、トリメタクリロイルオキシエチルホスフェート(メタ)アクリレート、トリアクリロイルオキシエチルホスフェート(メタ)アクリレート等を挙げることが出来る。これら(b−2)成分は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
(b−3)成分の具体的な例としては(a−3)成分と同様のものを使うことが出来る。また、(a−3)成分と同様のもの以外に、(b−3)成分として、アクリロニトリル(a−2)やメタクリロニトリル等を用いることが出来る。これら(b−3)成分は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
第2モノマー混合物(2)は、(b−1)成分と(b−2)成分のいずれか一方または両方50質量%以上と、(b−3)成分0〜50質量%とからなる。(b−3)成分は、必要に応じて適宜選択して使用できる成分である。
(b−1)成分および(b−2)成分は、集電体との接着性に優れた活物質層を形成できるバインダーを得るために含有されるものである。(b−1)成分と(b−2)成分との合計含有量は、(b−1)成分〜(b−3)成分の合計100質量%中(言い換えると第2モノマー混合物(2)100質量%中)、50〜100質量%の範囲とされることが好ましい。(b−1)成分と(b−2)成分との合計含有量を50質量%以上とすることによって、バインダーを用いて得られた活物質層に集電体との接着性を与えることが出来る。
【0034】
(b−1)成分と(b−2)成分との合計含有量は、(b−1)成分〜(b−3)成分の合計100質量%中、60〜100質量%の範囲で含有されるのがより好ましく、90〜100質量%の範囲で含有されるのがさらに好ましい。(b−1)成分と(b−2)成分との合計含有量を90質量%以上にすると、バインダーを用いて得られた活物質層の集電体との接着性が一層向上する傾向にある。
【0035】
(b−3)成分は、(b−1)成分〜(b−3)成分の合計100質量%中、0〜50質量%の範囲で含有されることが好ましい。(b−3)成分は、(b−1)成分〜(b−3)成分の合計100質量%中、10質量%〜40質量%の範囲で含有されるのがより好ましい。(b−3)成分が10質量%以上である場合、バインダーを用いて得られた活物質層の集電体との接着性が十分に得られるとともに、活物質層に柔軟性を与えることが出来る。
【0036】
第2ポリマーを重合する際に存在する第1ポリマーに含まれるモノマー混合物(1)と、モノマー混合物(2)との質量比(第1モノマー混合物(1)/第2モノマー混合物(2))は、99.99/0.01〜80/20であることが好ましい。第1モノマー混合物(1)と第2モノマー混合物(2)との質量比が上記範囲内である場合、バインダーを用いて得られた活物質層に、集電体との接着性と柔軟性とを共に与えることが出来る。第1モノマー混合物(1)と第2モノマー混合物(2)との質量比は、より好ましくは99.9/0.1〜90/10の範囲である。上記範囲内である場合、バインダーを用いて得られた活物質層の集電体との接着性および柔軟性をより一層向上させることが出来る。
【0037】
「製造方法」
第2ポリマーを含む本発明のバインダーを製造するには、第1ポリマーの存在下で、第2モノマー混合物(2)を、第1モノマー混合物(1)と第2モノマー混合物(2)との質量比(第1モノマー混合物(1)/第2モノマー混合物(2))を99.99/0.01〜80/20として重合して第2ポリマーを得る第2重合工程を行う。
【0038】
本発明においては、第1重合工程を行うことにより第1ポリマーを合成し、第2重合工程において、第1ポリマーの存在下で第2ポリマーを合成した場合、第1ポリマーが核(コア)となり、第1ポリマーの周囲を第2ポリマーが取り囲んだコアシェル構造を有するバインダーが得られるものと推定される。そして、バインダーがコアシェル構造を有するものであることにより、これを用いて形成した活物質層がより一層集電体との接着性および柔軟性に優れたものになると推定される。
【0039】
第2モノマー混合物(2)を重合する方法としては、乳化重合により第1モノマー混合物(1)を共重合して得られた第1ポリマーを含む乳化液に、第2モノマー混合物(2)を含む第2ポリマーとなる材料を少量ずつ滴下して重合する方法を用いることが好ましい。
第1ポリマーを含む乳化液に、第2ポリマーとなる材料を滴下する際の滴下速度は、第2ポリマーとなる材料中に含まれるモノマーの総量を100質量%とした場合、第2ポリマーとなる材料に含まれるモノマーが1時間当たり4質量%以上で滴下される速度であることが好ましい。このことにより第1ポリマーが核(コア)となり、第1ポリマーの周囲を第2ポリマーが取り囲んだコアシェル構造を有し、集電体との接着性および柔軟性に優れた活物質層を形成できる第2ポリマーの合成が促進されるものと推定される。なお、第2ポリマーとなる材料の全量を一括して全量投入しても構わない。
また、第2ポリマーを製造する際の加熱温度は、特に限定されるものではないが、集電体との接着性および柔軟性に優れた活物質層を形成できるコアシェル構造を有する第2ポリマーを得るために、重合開始剤の10時間半減期温度±30℃以下の温度範囲とすることが好ましい。
【0040】
第1ポリマーおよび/または第2ポリマーを含む本発明のリチウム二次電池電極用バインダーの重量平均分子量(Mw)は、10,000以上であることが好ましい。Mwが10,000以上であれば、リチウム二次電池電極用バインダーを用いて得られた活物質層に、集電体との接着性と柔軟性とを共に与えることが出来る。
Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。例えば、テトラヒドロフラン等の溶媒を溶離液とし、ポリスチレン換算分子量として求めることができる。
【0041】
また、本発明のリチウム二次電池電極用バインダーのポリマー粒子(第1ポリマーおよび/または第2ポリマー)の体積平均粒子径は、1nm〜10μmであることが好ましい。ポリマー粒子の体積平均粒子径が上記範囲内である場合、ポリマー粒子がバインダーとして良好に作用し、電池抵抗が低くなる。
ここで、体積平均粒子径は光散乱光度計を用いて測定した値である。なお、本発明における体積平均粒子径とは、ラジカル重合によって製造された時点の1次粒子径を指し、その後顆粒化等を行った際の粒子径である2次粒子径とは異なる。
【0042】
(リチウム二次電池電極用スラリー)
本発明のリチウム二次電池電極用スラリーは、本発明のバインダーと活物質と溶媒とを含有する組成物である。本発明のリチウム二次電池電極用スラリーは、本発明のバインダーと活物質と溶媒とを混練することによって得られる。
【0043】
本発明のリチウム二次電池電極用スラリーに用いる活物質は、リチウム二次電池の充放電により、可逆的にリチウムイオンを挿入・放出できるものであればよく、特に制限はない。
例えば、正極活物質としては、リチウム及び鉄、コバルト、ニッケル、マンガンから選ばれる1種類以上の金属を含有するリチウム含有金属複合酸化物が挙げられる。リチウム含有金属複合酸化物としては、例えば、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム等が挙げられる。これらの正極活物質は、単独で又は二種以上組み合わせて用いてもよい。
一方、負極活物質としては、例えば、黒鉛、非晶質炭素、炭素繊維、コークス、活性炭等の炭素材料が挙げられる。このような炭素材料とシリコン、すず、銀等の金属又はこれらの酸化物との複合物等も使用できる。これらの負極活物質は、単独で又は二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0044】
本発明のリチウム二次電池電極用スラリーに用いられる溶媒としては、特に制限はなく、バインダーおよび活物質を均一に溶解または分散できる溶媒であればよい。溶媒としては、バインダーを溶解してワニスを調製する際に用いられる溶媒をそのまま使用できる。例えば、水、n−ドデカン、デカヒドロナフタレンおよびテトラリンなどの炭化水素類、2−エチル−1−ヘキサノールおよび1−ノナノールなどのアルコール類、ホロン、アセトフェノンおよびイソホロンなどのケトン類、酢酸ベンジル、酪酸イソペンチル、γ−ブチロラクトン、乳酸メチル、乳酸エチルおよび乳酸ブチルなどのエステル類、o−トルイジン、m−トルイジンおよびp−トルイジンなどのアミン類、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミドおよびジメチルホルムアミドなどのアミド類、ならびにジメチルスルホキシドおよびスルホランなどのスルホキシド・スルホン類などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は二種類以上組み合わせて用いられてもよい。この中でも、環境への負荷の少なさから、水が好ましい。
【0045】
溶媒として水を使用する場合、スラリー粘度を調整する目的で、必要に応じて添加剤として、活物質100質量部に対して0.01〜200質量部の水溶性増粘剤を用いてもよい。水溶性増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸(塩)、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼインなどが挙げられる。これらの水溶性増粘剤は、単独で又は二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0046】
溶媒として水を用いる場合、第1重合工程または第2重合工程での乳化重合により得られた第1ポリマーおよび/または第2ポリマーを含む乳化液(エマルション)を、そのまま溶媒を含むバインダーとして用いることが好ましい。
本発明のリチウム二次電池電極用スラリーは、好ましくは100〜50,000mPa・s、より好ましくは500〜10,000mPa・sの粘度で用いられる。上記粘度範囲のリチウム二次電池電極用スラリーは、溶媒の量を適宜調整することにより得られる。
【0047】
本発明のリチウム二次電池電極用スラリーに含まれるバインダーの量は、活物質100質量部に対して、好ましくは0.1〜4質量部、より好ましくは0.2〜3質量部、特に好ましくは0.5〜2質量部である。活物質に対するバインダー量が少なすぎると、スラリーを用いて得られた活物質層を有する電極から活物質が脱落しやすくなるおそれがある。逆に、活物質に対するバインダー量が多すぎると、活物質層に含まれる活物質がバインダーに覆い隠されて電池反応が阻害されたり、内部抵抗が増大したりするおそれがある。
【0048】
本発明のリチウム二次電池電極用スラリーは、バインダーと活物質と溶媒の他に、導電性付与材を含有することが好ましい。導電性付与材としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、グラファイト、気相成長カーボン繊維、カーボンナノチューブ等の導電性カーボンを使用することができる。導電性付与材を用いることにより、電極活物質同士の電気的接触を向上させることができ、非水電解質二次電池に用いる場合に放電レート特性を改善することができる。導電性付与材の使用量は、電極活物質100質量部に対して通常0〜20質量部であることが好ましい。
【0049】
本発明のリチウム二次電池電極用スラリーは、多官能エポキシ化合物を含むものであってもよい。多官能エポキシ化合物を含有するリチウム二次電池電極用スラリーとすることで、活物質層と集電体との接着性をより高めることが出来るとともに、本発明のバインダーを用いて得られる活物質層の柔軟性をより高めることが出来る。
【0050】
多官能エポキシ化合物とは、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物のことである。具体的には例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールジグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ペンタエリシトール、ジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレートの共重合樹脂、ビスフェノールA、ノボラック型フェノール樹脂、オルトクレゾールノボラック型フェノール樹脂等を挙げることができる。これら多官能エポキシ化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0051】
リチウム二次電池電極用スラリーが多官能エポキシ化合物を含有している場合、多官能エポキシ化合物のエポキシ基と本発明のバインダー中のカルボキシル基とのモル比を、(エポキシ基)/(本発明のバインダー中のカルボキシル基)=10:100〜80:100の範囲内とすることが好ましい。上記モル比が上記範囲内であれば、活物質層と集電体との接着性をより高めることが出来るとともに、本発明のバインダーを用いて得られる活物質層の柔軟性をより高めることが出来る。
【0052】
(リチウム二次電池電極)
本発明のリチウム二次電池負極電極は、上記リチウム二次電池電極用スラリーを集電体に塗布、乾燥してなることを特徴とするものである。
集電体としては、導電性材料からなるものであれば特に制限されないが、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレスなどの金属製のものが挙げられる。形状も特に制限されないが、厚さ0.001〜0.5mm程度のシート状のものを用いることが好ましい。
【0053】
リチウム二次電池電極用スラリーは、集電体の片面に塗布してもよいし両面に塗布してもよい。
リチウム二次電池電極用スラリーを集電体に塗布する方法としては、特に制限されないが、例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール(転写ロール)法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、浸漬、ハケ塗りなどの方法が挙げられる。塗布する量については、特に制限されないが、例えば、リチウム二次電池電極用スラリーを乾燥した後に形成される活物質層の厚さが0.005〜1mm、好ましくは0.01〜0.5mmになる程度の量とすることができる。
【0054】
集電体に塗布されたリチウム二次電池電極用スラリーの溶媒を乾燥除去することにより、集電体の表面に活物質層が形成される。
リチウム二次電池電極用スラリーの乾燥方法は、特に制限されず、例えば、送風乾燥、温風乾燥、赤外線加熱、遠赤外線加熱機、真空乾燥、などが挙げられる。乾燥温度はリチウム二次電池電極用スラリーに含まれる溶媒の沸点に応じて適宜選択すればよいが、通常150℃前後である。
【0055】
リチウム二次電池電極用スラリーが多官能エポキシ化合物を含有するものである場合、エポキシ基とバインダー中のカルボキシル基を反応させることを目的として、乾燥後に熱処理を行うことが好ましい。熱処理の条件としては、通常、200℃前後の温度で30分前後の時間行われるが、これに限定されるものではない。
更に、乾燥後のリチウム二次電池負極電極をプレス機等で圧縮成形することにより、電極の活物質の密度を高めてもよい。プレス方法としては、金型プレスやロールプレスなどの方法が挙げられ、特に限定はされない。
【0056】
(リチウム二次電池)
本発明のリチウム二次電池は、上記のリチウム二次電池電極を具えたことを特徴とするものである。具体的には上記のリチウム二次電池電極と、電解液およびセパレータを有する。なお、本発明のリチウム二次電池は、上記のリチウム二次電池電極を、正極あるいは負極のいずれか一方において用いていればよい。
【0057】
リチウムイオン二次電池の電解液は通常用いられるものでよく、負極活物質、正極活物質の種類に応じて電池としての機能を発揮するものを選択すればよい。電解液に含まれる電解質としては、例えば、従来より公知のリチウム塩がいずれも使用でき、LiClO 、LiBF 、LiPF などが挙げられる。電解液の溶媒は、通常用いられるものであれば特に限定されるものではなく、主に、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネートなどのカーボネート類;γ−ブチルラクトンなどのラクトン類;トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類などが挙げられる。これらの溶媒は単独で、または二種以上の混合溶媒として使用してもよい。
【0058】
セパレーターは、多孔性高分子フィルム、例えばエチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体、及びエチレン/メタクリレート共重合体などのようなポリオレフィン系高分子から製造した多孔性高分子フィルムを単独でまたはこれらを積層して使用することができる。この他、通常の多孔性不織布、例えば高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布を使用できるが、これらに限定されることはない。
【0059】
上記本発明のリチウム二次電池の製造方法については特に制約はない。製造方法として例えば、正極と負極とをセパレータを介して重ね合わせ、電池形状に応じて渦巻き状に捲回する、折るなどして、電池容器に入れ、電解液を注入して封口するなどの、公知の方法が挙げられる。電池の形状は、コイン型、円筒型、角形、扁平型など何れであってもよい。
【実施例】
【0060】
以下、本発明について実施例および比較例により説明する。なお、以下の実施例および比較例における「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
以下の実施例および比較例における評価方法は、次の通りである。
【0061】
<体積平均粒子径>
リチウム二次電池電極用バインダーのポリマー粒子の体積平均粒子径を、光散乱光度計 FPAR−1000型(大塚電子株式会社製)を用いて測定した。
【0062】
<接着性>
後述する方法で作製した電極の活物質層の表面にセロハンテープを貼り付けた。貼り付けたセロハンテープを一定の速度で剥がした後、集電体表面の活物質層の様子を観察し、以下の基準で評価した。
◎:集電体上に結着している活物質層がほとんど剥がれず、集電体表面も見えない。
○:集電体上に結着している活物質層がわずかに剥がれているが、集電体表面は見えない。
△:集電体上に結着している活物質層が一部剥がれ、集電体表面が一部見られる。
×:集電体上に結着している活物質層がほとんど剥がれ、集電体表面が全面的に見られる。
【0063】
<柔軟性>
後述する方法で作製した電極を幅10mm×長さ70mmに切り、直径6mmφのテフロン(登録商標)棒に活物質層を外側にして捲き付け、活物質層の表面の様子を観察し、以下の基準で評価した。
◎:集電体上に結着している活物質層にひび割れ又は剥がれが全く生じていない。
○:集電体上に結着している活物質層にひび割れが見られるが、剥がれは認められない。
△:集電体上に結着している活物質層にひび割れが見られ、剥がれも一部認められる。
×:集電体上に結着している活物質層にひび割れ、剥がれが生じた。
【0064】
<製造例1、5、6、8、10>
加熱および冷却が可能な重合装置の容器内に、水100部(溶媒)と、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(花王社製、「ペレックスOTP」)0.35部(乳化剤)と、過硫酸カリウム0.05部(重合開始剤)と、ノルマルブチルアクリレート3部((a−3)成分)とを混合してなる第1ポリマーとなる材料の一部を投入し、窒素雰囲気中、回転数200rpmで攪拌しながら80℃で0.5時間加熱し、重合させて、コア粒子(シード粒子)を含む乳化液を得た。
【0065】
このコア粒子を含む乳化液に、脱イオン水50部(溶媒)と、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(花王社製、「ペレックスOTP」)1部(乳化剤)と、過硫酸カリウム0.1部(重合開始剤)と、表1に示すモノマー混合物(1)からシード粒子分を除いた各成分を表1に示す割合で含むモノマー混合物97部とを混合して乳化処理してなる第1ポリマーとなる材料を4時間かけて滴下し、その後、80℃で1時間加熱保持して重合し、第1ポリマーを含むリチウム二次電池電極用バインダー(A−1、A−5、A−6、A−8、A−10)を得た。
【0066】
【表1】

【0067】
なお、表1中の記号は以下の材料を示す。
n−BA:ノルマルブチルアクリレート
AA:アクリル酸
MAA:メタクリル酸
AN:アクリロニトリル
P−1M:、2−メタクリロイルオキシエチルホスフェート(共栄社化学株式会社製ライトエステルP−1M)
【0068】
<製造例2>
製造例1と同様にして得られたコア粒子(シード粒子)を含む乳化液に、脱イオン水45部(溶媒)と、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(花王社製、「ペレックスOTP」)1部(乳化剤)と、過硫酸カリウム0.1部(重合開始剤)と、表1に示すモノマー混合物(1)からシード粒子分を除いた各成分を表1に示す割合で含むモノマー混合物97部とを混合して乳化処理してなる第1ポリマーとなる材料を製造例1と同様にして滴下し、製造例1と同様にして重合し、第1ポリマーを含む乳化液を得た。
次いで、得られた第1ポリマーを含む乳化液の内の99.9%に、脱イオン水5部(溶媒)と、表1に示す割合で各成分を含むモノマー混合物(2)0.1部とを混合してなる第2ポリマーとなる材料を0.5時間かけて滴下し、その後、1時間保持して、第2ポリマーを含むリチウム二次電池電極用バインダー(A−2)を得た。
【0069】
<製造例3>
製造例1と同様にして得られたコア粒子(シード粒子)を含む乳化液に、脱イオン水50部(溶媒)と、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(花王社製、「ペレックスOTP」)1部(乳化剤)と、過硫酸カリウム0.1部(重合開始剤)と、表1に示すモノマー混合物(1)からシード粒子分を除いた各成分を表1に示す割合で含むモノマー混合物97部とを混合して乳化処理してなる第1ポリマーとなる材料を製造例1と同様にして滴下し、80℃で0.5時間加熱保持して重合し、第1ポリマーを含む乳化液を得た。
次いで、得られた第1ポリマーを含む乳化液の内の97%に、表1に示す割合で各成分を含むモノマー混合物(2)3部を0.5時間かけて滴下し、その後、1時間保持して、第2ポリマーを含むリチウム二次電池電極用バインダー(A−3)を得た。
【0070】
<製造例4>
製造例1と同様にして得られたコア粒子(シード粒子)を含む乳化液に、脱イオン水50部(溶媒)と、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(花王社製、「ペレックスOTP」)1部(乳化剤)と、過硫酸カリウム0.1部(重合開始剤)と、表1に示すモノマー混合物(1)からシード粒子分を除いた各成分を表1に示す割合で含むモノマー混合物97部とを混合して乳化処理してなる第1ポリマーとなる材料を製造例1と同様にして滴下し、製造例3と同様にして、第1ポリマーを含む乳化液を得た。
次いで、得られた第1ポリマーを含む乳化液の内の93%に、表1に示す割合で各成分を含むモノマー混合物(2)7部を製造例3と同様にして滴下し、製造例3と同様にして保持して、第2ポリマーを含むリチウム二次電池電極用バインダー(A−4)を得た。
【0071】
<製造例7>
製造例1と同様にして得られたコア粒子(シード粒子)を含む乳化液に、脱イオン水45部(溶媒)と、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(花王社製、「ペレックスOTP」)1部(乳化剤)と、過硫酸カリウム0.1部(重合開始剤)と、表1に示すモノマー混合物(1)からシード粒子分を除いた各成分を表1に示す割合で含むモノマー混合物97部とを混合して乳化処理してなる第1ポリマーとなる材料を製造例1と同様にして滴下し、製造例3と同様にして、第1ポリマーを含む乳化液を得た。
次いで、得られた第1ポリマーを含む乳化液の内の99%に、脱イオン水5部(溶媒)と、表1に示す割合で各成分を含むモノマー混合物(2)1部とを混合してなる第2ポリマーとなる材料を製造例2と同様にして滴下し、製造例2と同様にして保持して、第2ポリマーを含むリチウム二次電池電極用バインダー(A−7)を得た。
【0072】
<製造例9>
加熱および冷却が可能な重合装置の容器内に、水100部(溶媒)を投入して80℃に保持し、過硫酸カリウム0.05部(重合開始剤)と、ノルマルブチルアクリレート3部((a−3)成分)とを混合してなる第1ポリマーとなる材料の一部を投入し、製造例1と同様にして重合させて、コア粒子(シード粒子)を含む乳化液を得た。
【0073】
このコア粒子を含む乳化液に、脱イオン水50部(溶媒)と、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム(花王社製、「ペレックスOTP」)1.35部(乳化剤)と、過硫酸カリウム0.15部(重合開始剤)と、表1に示すモノマー混合物(1)からシード粒子分を除いた各成分を表1に示す割合で含むモノマー混合物97部とを混合して乳化処理してなる第1ポリマーとなる材料を製造例1と同様にして滴下し、製造例1と同様にして重合し、第1ポリマーを含むリチウム二次電池電極用バインダー(A−9)を得た。
【0074】
<実施例1、3〜7、9〜11>
CMC(Aldric社製)1%水溶液100部に、活物質(伊藤黒鉛工業(株)製 人造黒鉛 AGB−5)100部と、表1に示すリチウム二次電池電極用バインダー(A−1〜A−9)2.5部(活物質に対してバインダー樹脂固形分換算で1%)とを加えて混錬し、リチウム二次電池電極用スラリー(B−1、3〜7、9〜11)を得た。
【0075】
得られたリチウム二次電池電極用スラリーを厚さ18μmの銅箔上に乾燥後の負極活物質層の厚さが50μmになるように塗布した後、110℃で10分乾燥してリチウム二次電池電極(C−1、3〜7、9〜11)を得た。得られた各電極の接着性と柔軟性の評価結果を表2に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
<実施例2>
CMC(Aldric社製)1%水溶液100部に、活物質(伊藤黒鉛工業(株)製 人造黒鉛 AGB−5)100部と、表1に示すリチウム二次電池電極用バインダー(A−1)2.5部(活物質に対してバインダー樹脂固形分換算で1%)と、多官能エポキシ化合物であるエチレングリコールジグリシジルエーテル(ナガセケムテック社製デナコールEX−810)0.033部(エポキシ基/バインダー中のカルボキシル基=50/100(モル比))とを加えて混錬し、リチウム二次電池電極用スラリー(B−2)を得た。
【0078】
得られたリチウム二次電池負極電極用スラリーを厚さ18μmの銅箔上に、実施例1と同様にして塗布して乾燥し、引き続き真空条件下200℃で30分間熱処理してリチウム二次電池電極(C−2)を得た。得られた電極の接着性と柔軟性の評価結果を表2に示す。
【0079】
<実施例8>
CMC(Aldric社製)1%水溶液100部に、活物質(伊藤黒鉛工業(株)製 人造黒鉛 AGB−5)100部と、表1に示すリチウム二次電池電極用バインダー(A−6)2.5部(活物質に対してバインダー樹脂固形分換算で1%)と、多官能エポキシ化合物であるエチレングリコールジグリシジルエーテル(ナガセケムテック社製デナコールEX−810)0.023部(エポキシ基/バインダー中のカルボキシル基=50/100(モル比))とを加えて混錬し、リチウム二次電池電極用スラリー(B−8)を得た。
【0080】
得られたリチウム二次電池負極電極用スラリーを厚さ18μmの銅箔上に、実施例1と同様にして塗布して乾燥し、実施例2と同様にして熱処理してリチウム二次電池電極(C−8)を得た。得られた電極の接着性と柔軟性の評価結果を表2に示す。
【0081】
<比較例1>
CMC(Aldric社製)1%水溶液100部に、活物質(伊藤黒鉛工業(株)製 人造黒鉛 AGB−5)100部と、表1に示すリチウム二次電池電極用バインダー(A−10)2部(活物質に対してバインダー樹脂固形分換算で1%)とを加えて混錬し、リチウム二次電池電極用スラリー(B−12)を得た。
【0082】
得られたリチウム二次電池負極電極用スラリーを厚さ10μmの銅箔上に、実施例1と同様にして塗布して乾燥し、実施例2と同様にして熱処理してリチウム二次電池電極(C−12)を得た。得られた電極の接着性と柔軟性の評価結果を表2に示す。
【0083】
表2に示すように、実施例1〜11のリチウム二次電池電極はいずれも、接着性および柔軟性の評価が良好であった。
特にモノマー混合物(2)を用いて得られたリチウム二次電池電極用バインダー(A−2、3、4、7)を使用して得られたリチウム二次電池電極は接着性が特に優れていた(実施例3、4、5、9)。
また、本発明のリチウム二次電池電極用バインダーと多官能エポキシ化合物を含有する二次電池負極電極用スラリーを用いて得られたリチウム二次電池電極は、接着性が特に優れていた(実施例2、8)。
【0084】
これに対し、(a−2)成分が少ないリチウム二次電池電極用バインダー(A−10)を使用して得られたリチウム二次電池電極(C−12)は、接着性と柔軟性ともに満足することが出来なかった(比較例1)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有単量体(а−1)0.01〜30質量%と、アクリロニトリル(а−2)20〜60質量%とを含み、残部が共重合可能な単量体(a−3)からなる第1モノマー混合物(1)を共重合して得られる第1ポリマーを含むリチウム二次電池電極用バインダー。
【請求項2】
前記第1ポリマーの存在下で、カルボキシル基含有単量体(b−1)とリン酸基含有単量体(b−2)のいずれか一方または両方を50質量%以上と、共重合可能な単量体(b−3)0〜50質量%とからなる第2モノマー混合物(2)を、前記第1モノマー混合物(1)と前記第2モノマー混合物(2)との質量比(第1モノマー混合物(1)/第2モノマー混合物(2))を99.99/0.01〜80/20として重合して得られる第2ポリマーを含む請求項1に記載のリチウム二次電池電極用バインダー。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のリチウム二次電池電極用バインダーと活物質と溶媒とを含有することを特徴とするリチウム二次電池電極用スラリー。
【請求項4】
多官能エポキシ化合物を含有することを特徴とする請求項3に記載のリチウム二次電池電極用スラリー。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載のリチウム二次電池電極用スラリーを集電体に塗布、乾燥してなることを特徴とするリチウム二次電池電極。
【請求項6】
請求項5に記載のリチウム二次電池用電極を具えたことを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項7】
カルボキシル基含有単量体(а−1)0.01〜30質量%と、アクリロニトリル(а−2)20〜60質量%とを含み、残部が共重合可能な単量体(a−3)からなる第1モノマー混合物(1)を共重合して第1ポリマーを得る第1重合工程を含むリチウム二次電池電極用バインダーの製造方法。
【請求項8】
前記第1ポリマーの存在下で、カルボキシル基含有単量体(b−1)とリン酸基含有単量体(b−2)のいずれか一方または両方を50質量%以上と、共重合可能な単量体(b−3)0〜50質量%とからなる第2モノマー混合物(2)を、前記第1モノマー混合物(1)と前記第2モノマー混合物(2)との質量比(第1モノマー混合物(1)/第2モノマー混合物(2))を99.99/0.01〜80/20として重合して第2ポリマーを得る第2重合工程を含む請求項7に記載のリチウム二次電池電極用バインダーの製造方法。

【公開番号】特開2013−4229(P2013−4229A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−132182(P2011−132182)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】