説明

リチウム二次電池

【課題】鉄リン酸リチウム化合物を含む正極活物質を用いたものにおいて、高エネルギー密度と高い高温耐久性の性能とを両立する。
【解決手段】リチウム二次電池10は、集電体11に正極活物質12を形成した正極シート13と、集電体14の表面に負極活物質17を形成した負極シート18と正極シート13と負極シート18の間を満たす非水電解液20と、を備えている。このリチウム二次電池では、正極活物質12には鉄リン酸リチウム化合物が含まれ、負極活物質17には非晶質炭素(例えば易黒鉛化炭素)が20重量%以上40重量%以下、黒鉛が80重量%以下60重量%以上の範囲で含まれている。また、負極活物質17の比表面積Aは、2.38m2/g以上3.40m2/g以下で形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、主にリチウム二次電池の正極に用いられる活物質として、オリビン型構造を基本骨格とした鉄リン酸リチウム化合物(LiFePO4)を含有した活物質の研究が行われている。この材料は鉄やリンなどの安価な元素を主成分とするため、電池材料の低コスト化に寄与する材料として期待されている。また、温度を上げても酸素を放出しにくい性質のために、高温で電解液との反応性が低く、電池の信頼性向上に寄与する材料としても期待されている。しかしながら、この鉄リン酸リチウム化合物は、コバルトやニッケルなどを含有するものに比して電池容量が小さく、正極活物質中のFeが電解液中に溶出し負極で析出することなどがあり、サイクル耐久性が低いことがあることから、様々な改良が続けられている。例えば、オリビン型構造を基本骨格とした鉄リン酸リチウム化合物を正極活物質とし、黒鉛やチタン酸リチウムを負極活物質とし、電解質塩にリチウムビスオキサラトボレート(LiBOB)を用いたものが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。このリチウム二次電池では、負極活物質としてチタン酸リチウムを用い、電解質塩にLiBOBを用いることにより、サイクル特性を向上させることができるとしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Electrochemistry Communications7(2005)669−673
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の非特許文献1のリチウムイオン二次電池では、チタン酸リチウムを負極活物質として用いるため、電池電圧が1.8V程度となり、エネルギー密度が小さくなるという問題があった。また、エネルギー密度を高めようとして負極活物質として黒鉛を用いると、特に高温でのサイクル特性が低下することがあった。即ち、高エネルギー密度を有すると共に、高温耐久性の高い性能を有することが望まれていた。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、鉄リン酸リチウム化合物を含む正極活物質を用いたものにおいて、高エネルギー密度と高い高温耐久性とを有するリチウム二次電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、鉄リン酸リチウム化合物を含む正極活物質を用いたリチウム二次電池において、黒鉛と易黒鉛化炭素となど結晶性の異なる複数の炭素材料を混合し、その比表面積を所定範囲としたところ高エネルギー密度と高い高温耐久性の性能とを両立することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明のリチウム二次電池は、リチウムを吸蔵・放出可能な鉄リン酸リチウム化合物を含む正極活物質を有する正極と、結晶性の異なる少なくとも2種類以上の炭素材料が混合された負極活物質を有し、該負極活物質の比表面積をA(m2/g)としたときに、2.38≦A≦3.40を満たす負極と、前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のリチウム二次電池は、高エネルギー密度と高い高温耐久性とを有するものとすることができる。このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推測される。例えば、一般的に充放電サイクルにおいて、正極活物質である鉄リン酸化合物から鉄が溶出し、この溶出したFeが負極上に析出又は付着することがあり、負極活物質の機能が低下することがある。これに対して、本発明では、複数の結晶性の異なる炭素材料が混合されており、且つその比表面積が好適な範囲にあるため、溶出したFeの負極上への析出・付着を抑制することができると推察される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明のリチウム二次電池10の一例を示す模式図。
【図2】黒鉛及び易黒鉛化炭素のX線回折測定結果。
【図3】黒鉛及び易黒鉛化炭素のラマン分光測定結果。
【図4】実施例2及び比較例1,4の放電曲線。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のリチウム二次電池は、リチウムを吸蔵・放出可能な鉄リン酸リチウム化合物を含む正極活物質を有する正極と、結晶性の異なる少なくとも2種類以上の炭素材料が混合された負極活物質を有し、この負極活物質の比表面積をA(m2/g)としたときに、2.38≦A≦3.40を満たす負極と、正極と負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えている。
【0011】
本発明のリチウム二次電池の正極は、例えば正極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。正極活物質に含まれる鉄リン酸リチウム化合物は、基本組成がLiFePO4で表される化合物としてもよく、このFeサイトに他の成分、例えば、Mn,Ni,Coなどを添加したものとしてもよい。また、この鉄リン酸リチウム化合物は、オリビン型構造の単相であることが好ましい。オリビン型構造とは、酸素の六方最密充填を基本とし、その4面体サイトにリンが、八面体サイトにリチウムとFeとがそれぞれ位置する構造であり、このような構造は安定性が高いため好ましい。このオリビン型構造の鉄リン酸リチウム化合物を正極活物質としてリチウム二次電池に用いると、酸素を放出しにくいため、安全性に優れたリチウム二次電池を作製することができる。また、Feは資源として豊富であり安価でもあるため好ましい。正極活物質は、鉄リン酸リチウム化合物以外に、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを含むものとしてもよい。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、Li(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)、Li(1-x)Mn24などのリチウムマンガン複合酸化物、Li(1-x)CoO2などのリチウムコバルト複合酸化物、Li(1-x)NiO2などのリチウムニッケル複合酸化物、LiV23などのリチウムバナジウム複合酸化物、V25などの遷移金属酸化物などを用いることができる。
【0012】
正極に含まれる導電材は、正極の電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンマー(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。正極活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1〜500μmのものが用いられる。
【0013】
本発明のリチウム二次電池の負極は、例えば負極活物質と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極活物質には、結晶性の異なる少なくとも2種類以上の炭素材料が混合されて含まれるが、リチウムを吸蔵・放出可能であるものとすれば特に限定されず、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、難黒鉛化炭素類、易黒鉛化炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維、黒鉛類、ハードカーボン及びソフトカーボンなどの炭素材料のうち1以上が含まれてもよい。このうち、少なくとも黒鉛を含むものとすることが好ましい。また、黒鉛以外の活物質として、非結晶炭素などの炭素材料を含むものとすることが好ましい。本発明の負極は、負極活物質の炭素材料として少なくとも黒鉛と非晶質炭素とが混合されていることが好ましい。このとき、負極活物質のうち非晶質炭素の占める割合が20重量%以上40重量%以下の範囲であることが好ましく、25重量%以上35重量%以下の範囲であることがより好ましい。非晶質炭素の占める割合が20重量%以上であれば、充放電サイクル特性をより高めることができ、この割合が40重量%以下であれば、エネルギー密度をより高めることができる。また、負極活物質のうち黒鉛の占める割合が60重量%以上80重量%以下の範囲であることが好ましく、65重量%以上75重量%以下の範囲であることがより好ましい。黒鉛の占める割合が60重量%以上であれば、エネルギー密度をより高めることができ、この割合が80重量%以下であれば、充放電サイクル特性をより高めることができる。本発明のリチウム二次電池の負極は、負極活物質に非晶質炭素として、易黒鉛化炭素を含むものとすることが好ましく、d002=0.34nm以上の易黒鉛化炭素を含むものとするのがより好ましい。d002=0.34nm以上の易黒鉛化炭素では、リチウム挿入電位が黒鉛負極に比べて貴な電位となり、電解液を介して正極の鉄を還元する力が弱く、好ましい。また、易黒鉛化炭素は、X線回折測定による2θ=26°近傍の半値幅が0.5°以上であることが好ましい。このX線回折測定は、Cu−Kα線を用いて測定するものとする。また、易黒鉛化炭素は、ラマン分光測定によるラマンR値が0.20以上であることが好ましい。このラマン分光測定は、波長532nmのAr+イオンレーザーを用いて測定を行うものとする。このラマンR値は、1580cm-1領域(Gバンド)のピーク強度に対する1360cm-1領域(Dバンド)のピーク強度である強度比I1360/I1580の値をいう。本発明のリチウム二次電池の負極は、負極活物質の比表面積をA(m2/g)としたときに、2.38≦A≦3.40を満たすものであるが、比表面積Aが2.50m2/g以上であることがより好ましく、3.20m2/g以下であることが更に好ましい。比表面積Aが2.50m2/g以上では充放電サイクル特性をより高めることができ、3.20m2/g以下ではエネルギー密度をより高めることができる。この負極活物質の比表面積は、液体窒素温度で窒素ガスを吸着させて測定したBET比表面積をいうものとする。
【0014】
また、負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、正極と同様のものを用いることができる。
【0015】
本発明のリチウム二次電池のイオン伝導媒体としては、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。非水電解液の溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル−n−ブチルカーボネート、メチル−t−ブチルカーボネート、ジ−i−プロピルカーボネート、t−ブチル−i−プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ−ブチルラクトン、γ−バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3−ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。この組み合わせによると、充放電の繰り返しでの電池特性を表すサイクル特性が優れているばかりでなく、電解液の粘度、得られる電池の電気容量、電池出力などをバランスの取れたものとすることができる。なお、環状カーボネート類は、電解液の導電性を高めていると考えられ、鎖状カーボネート類は、電解液の粘度を抑えていると考えられる。
【0016】
本発明のリチウム二次電池に含まれている支持塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。また、支持塩として、リチウムビスオキサラトボレート(LiBOB)を用いるものとしてもよい。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩の濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系及びホウ素系などの難燃剤を添加してもよい。
【0017】
また、液状のイオン伝導媒体の代わりに、固体のイオン伝導性ポリマーをイオン伝導媒体として用いることもできる。イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、アクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデンなどのポリマーと支持塩とで構成されるポリマーゲルを用いることができる。更に、イオン伝導性ポリマーと非水系電解液とを組み合わせて用いることもできる。また、イオン伝導媒体としては、イオン伝導性ポリマーのほか、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。
【0018】
本発明のリチウム二次電池は、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、リチウム二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0019】
本発明のリチウム二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。図1は、本発明のリチウム二次電池10の一例を示す模式図である。このリチウム二次電池10は、集電体11に正極活物質12を形成した正極シート13と、集電体14の表面に負極活物質17を形成した負極シート18と、正極シート13と負極シート18との間に設けられたセパレータ19と、正極シート13と負極シート18の間を満たす非水電解液20と、を備えたものである。このリチウム二次電池10では、正極シート13と負極シート18との間にセパレータ19を挟み、これらを捲回して円筒ケース22に挿入し、正極シート13に接続された正極端子24と負極シートに接続された負極端子26とを配設して形成されている。ここでは、正極活物質12には鉄リン酸リチウム化合物が含まれ、負極活物質17には非晶質炭素(例えば易黒鉛化炭素)が20重量%以上40重量%以下、黒鉛が80重量%以下60重量%以上含まれている。また、負極活物質17の比表面積Aは、2.38m2/g以上3.40m2/g以下で形成されている。
【0020】
以上詳述した本実施形態のリチウム二次電池では、高エネルギー密度と高い高温耐久性とを有するものとすることができる。このような効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推測される。例えば、一般的に充放電サイクルにおいて、正極活物質である鉄リン酸化合物から鉄が溶出し、この溶出したFeが負極上に析出又は付着することがあり、負極活物質の機能が低下することがある。これに対して、本発明では、複数の結晶性の異なる炭素材料が混合されており、且つその比表面積が好適な範囲にあるため、負極上に形成されるSEIと呼ばれる負極活物質表面皮膜の成分や形状が良好なものとなると推察される。その結果、溶出したFeの負極上への析出・付着を抑制することができ、高エネルギー密度と高い高温耐久性の性能とを両立することができると推察される。
【0021】
ここで、黒鉛と易黒鉛化炭素との混合物を負極活物質として含むものについて考察する。黒鉛は、Li金属基準で0.1V程度に電位変化が小さい領域(プラトー領域)がある。一方、非晶質炭素の一つである易黒鉛化炭素負極は、1Vから0Vにかけて直線的に電位変化する。すなわち、平均すれば、黒鉛負極の方が、易黒鉛化炭素負極よりも卑な電位の状態にある。このように、易黒鉛化炭素負極は、黒鉛よりも電解液を介して正極のFeを還元する力が弱いことから、負極への正極のFeの析出を抑制しているものと思われる。また、黒鉛と易黒鉛化炭素との表面状態の違いが影響を与えているものと推察される。例えば、易黒鉛化炭素負極の混合割合が低すぎると、負極中のFeを還元する力が強くなることから、負極へのFeの析出が多くなりサイクル耐久性が悪くなる。一方、易黒鉛化炭素負極の混合割合が高すぎると、作動電圧が低くなるため、エネルギー密度が小さくなる。すなわち、易黒鉛化炭素負極の混合割合を適切な値に制御することにより、負極上に形成されるSEIが良好なものとなり、その結果、溶出したFeの負極上への析出・付着を抑制することができ、高温耐久性(サイクル特性)が向上し、作動電圧降下を抑制することにより高エネルギー密度な電池となると推察される。
【0022】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0023】
以下には、本発明のリチウム二次電池を具体的に作製した例を実施例として説明する。
【0024】
[実施例1]
本発明を実証する実施例として、オリビン型構造を基本骨格とした鉄リン酸リチウム化合物(LiFePO4)を含有した正極、黒鉛及び易黒鉛化炭素を含有した負極、カーボネート系の溶媒とLiPF6とを含有した電解液とを用いたリチウム二次電池について検討した。正極活物質として、オリビン型構造を基本骨格とした鉄リン酸リチウム化合物(LiFePO4)、導電材に炭素、結着材にポリフッ化ビニリデン(クレハ製KFポリマ)を用い、正極活物質/導電材/結着材をそれぞれ、78.5/13.8/7.7重量%で混合した正極合材を作製した。この正極合材をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)で分散させてペーストとし、この正極合材ペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔の両面に塗工乾燥させ、ロールプレスして、正極シート電極として用いた。なお、正極シート電極は54mm×450mmとした。次に、d002=0.340nmの易黒鉛化炭素とd002=0.388nm以下の黒鉛とを重量比で40:60となるように混合し、これを負極活物質とした。この負極活物質の比表面積は、黒鉛の比表面積と易黒鉛化炭素の比表面積とを用いて計算したところ、3.40m2/gであった。この混合物である負極活物質、結着材にポリフッ化ビニリデン(クレハ製KFポリマ)を用い、負極活物質とバインダとをそれぞれ、95/5重量%で混合し、NMPで分散させた負極合材のペーストを作製した。この負極合材ペーストを厚さ10μm銅箔の両面に塗工乾燥させ、ロールプレスして、負極合材層の空隙率を36体積%に調節したものを負極シート電極として用いた。この負極合材層の体積(面積×厚さ)とその活物質重量とにより求めた負極合材層の活物質密度は、1.0g/cm3であった。また、正極合材層の体積(面積×厚さ)とその活物質重量とにより求めた正極合材層の活物質密度は、1.3g/cm3であった。なお、負極シート電極は56mm×500mmとした。電解液は、LiPF6を、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合溶媒(体積比3:7)に1mol/L濃度で溶解したものを用いた。作製した正・負極シート電極をセパレータ(東燃タピルス製、PE25μm厚、幅58mm品)を介してロール状に捲回し、18650電池缶に挿入し、上記の電解液を注入したあと、トップキャップをかしめて密閉することにより作製したリチウム二次電池を実施例1とした。
【0025】
なお、負極合材層の空隙率は、以下のように算出した。例えば、電極合材に活物質、導電材及び結着材が含まれる場合、活物質の重量をA(g)、活物質の真密度をX(g/cm3)、導電材の重量をB(g)、導電材の真密度をY(g/cm3)、結着材の重量をC(g)、結着材の真密度をZ(g/cm3)、電極合材層の活物質密度をM(g/cm3)とした場合に、空隙率V(体積%)は次式(1)を用いて計算した。
【0026】
V=100−(100M)/[A/(A/X+B/Y+C/Z)] …式(1)
【0027】
[実施例2〜3]
負極活物質として易黒鉛化炭素と黒鉛とを重量比で30:70となるように混合したものを用いた以外は実施例1と同様の工程を経て得られたリチウム二次電池を実施例2とした。この負極活物質の比表面積は、2.89m2/gであった。また、負極活物質として易黒鉛化炭素と黒鉛とを重量比で20:80となるように混合したものを用いた以外は実施例1と同様の工程を経て得られたリチウム二次電池を実施例3とした。
この負極活物質の比表面積は、2.38m2/gであった。
【0028】
[比較例1〜4]
負極活物質として易黒鉛化炭素と黒鉛とを重量比で100:0となるように混合したものを用いた以外は実施例1と同様の工程を経て得られたリチウム二次電池を比較例1とした。この負極活物質(易黒鉛化炭素)の比表面積は、6.48m2/gであった。また、負極活物質として易黒鉛化炭素と黒鉛とを重量比で50:50となるように混合したものを用いた以外は実施例1と同様の工程を経て得られたリチウム二次電池を比較例2とした。この負極活物質の比表面積は、3.92m2/gであった。また、負極活物質として易黒鉛化炭素と黒鉛とを重量比で10:90となるように混合したものを用いた以外は実施例1と同様の工程を経て得られたリチウム二次電池を比較例3とした。この負極活物質の比表面積は、1.86m2/gであった。また、負極活物質として易黒鉛化炭素と黒鉛とを重量比で0:100となるように混合したものを用いた以外は実施例1と同様の工程を経て得られたリチウム二次電池を比較例4とした。この負極活物質(黒鉛)の比表面積は、1.35m2/gであった。
【0029】
[X線回折測定]
負極合材に用いた黒鉛及び易黒鉛化炭素のX線回折測定をX線回折装置(リガク製,RINT−2200)を用いて行った。測定条件は、Cu−Kα線により40kV−30mAで10°〜70°までスキャンとした。図2は、負極に用いた黒鉛及び易黒鉛化炭素のX線回折測定結果である。図2に示すように、易黒鉛化炭素では、黒鉛のピークがある2θ=26°領域にブロードなピークがみられた。2θ=26°領域での半値幅は、黒鉛が0.49°であり、易黒鉛化炭素が3.28°であった。
【0030】
[ラマン分光測定]
負極合材に用いた黒鉛及び易黒鉛化炭素のラマン分光測定をレーザラマン分光システム(日本分光(株)製、NRS−3300)を用いて行った。Ar+イオンレーザーを用い波長532nmの励起光でラマン分光測定を行い、炭素の積層構造を表す1580cm-1近傍領域のピークと炭素の乱層構造を表す1360cm-1近傍領域のピーク強度比I1360/I1580をラマンR値として算出した。図3は、負極に用いた黒鉛及び易黒鉛化炭素のラマン分光測定結果である。このラマンR値は、黒鉛が0.12であり、易黒鉛化炭素が0.99であった。
【0031】
[比表面積測定]
負極活物質に用いた黒鉛及び易黒鉛化炭素の比表面積を比表面積測定装置(ユアサアイオニクス社製AUTOSORB−1)を用いて測定した。比表面積の測定は、液体窒素温度で窒素ガスを試料に吸着させて測定した。
【0032】
[エネルギー密度測定]
実施例1〜3及び比較例1〜4のリチウム二次電池を用い、エネルギー密度の測定を行った。エネルギー密度は、20℃の環境温度下、充電終止電圧4.1Vまで電流密度0.2mA/cm2の定電流で充電した後、放電終止電圧2.5Vまで電流密度0.2mA/cm2の定電流で放電させ、このときの放電容量と平均電圧とを乗算して求めた。平均電圧は、直線的に電圧変化する範囲において電圧を平均して求めた。
【0033】
[充放電サイクル試験]
実施例1〜3及び比較例1〜4のリチウム二次電池を用い、60℃における高温充放電サイクル試験を行った。高温充放電サイクル試験は、雰囲気温度60℃とし、2Cレート(約1.0A)で4.1Vまでの定電流充電を行い、2Cレートで2.0Vまでの定電流放電を行う充放電を1サイクルとし、このサイクルを合計500サイクル行った。それぞれの試験結果を用い、1サイクル目の放電容量をC1とし、500サイクル目の放電容量をC500として、次式(2)により容量維持率Ck(%)を求めた。
【0034】
容量維持率Ck(%)=C500/C1×100 …式(2)
【0035】
[充放電サイクル試験後のパワー密度測定]
また、高温充放電サイクルを行ったのち、20℃及び−30℃でパワー密度を求めた。パワー密度は、高温充放電サイクルを行ったのちのリチウム二次電池を20℃又は−30℃の環境温度下において放電試験を行い算出した。放電試験では、SOC50%の充電状態(定格容量の50%が充電された状態)において、電池の定格容量を1時間で放電可能な電流値を1Cとした場合の1C〜10Cの異なる定電流で10秒間放電させ、それらの場合の電池電圧の変化を測定した。得られた結果より、異なる電流における電池電圧の変化値を外挿し、10秒間で放電終止電圧3.0Vに達すると仮定した場合の最大電流値を求め、その最大電流値に放電終止電圧3.0Vを乗じた値をそのリチウム二次電池のパワー密度とした。
【0036】
(実験結果)
実施例1〜3及び比較例1〜4のリチウム二次電池の負極活物質の比表面積A(m2/g)、負極活物質の重量割合、平均電圧(V)、充放電サイクル試験の容量維持率(%)、エネルギー密度(Wh)、充放電サイクル試験後の20℃でのパワー密度(W)及び充放電サイクル試験後の20℃でのパワー密度(W)をまとめて表1に示した。また、実施例2及び比較例1,4の放電曲線を図4に示す。表1に示すように、易黒鉛化炭素を負極活物質に用いた比較例1では、充放電サイクル後の容量維持率及びパワー密度は高いが、平均電圧が低く、エネルギー密度が小さかった。また、黒鉛を負極活物質に用いた比較例4では、エネルギー密度は大きいが、充放電サイクル後の容量維持率及びパワー密度が低かった。これに対して、実施例1〜3では、充放電サイクル後の容量維持率及びパワー密度が優れ、平均電圧が高く、エネルギー密度も優れていることがわかった。即ち、実施例1〜3では、高エネルギー密度と高い高温耐久性の性能とが両立されていることがわかった。このように、正極活物質として鉄リン酸リチウム化合物を用いるリチウム二次電池において、結晶性の異なる複数の炭素材料を混合し比表面積を2.38〜3.40m2/gの範囲とした負極活物質、あるいは、20重量%以上40重量%以下の範囲の易黒鉛化炭素と黒鉛と混合した負極活物質を用いることにより、高エネルギー密度と高い高温耐久性の性能とを両立することができることが明らかとなった。
【0037】
【表1】

【符号の説明】
【0038】
10 リチウム二次電池、11 集電体、12 正極活物質、13 正極シート、14 集電体、17 負極活物質、18 負極シート、19 セパレータ、20 非水電解液、22 円筒ケース、24 正極端子、26 負極端子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムを吸蔵・放出可能な鉄リン酸リチウム化合物を含む正極活物質を有する正極と、
結晶性の異なる少なくとも2種類以上の炭素材料が混合された負極活物質を有し、該負極活物質の比表面積をA(m2/g)としたときに、2.38≦A≦3.40を満たす負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたリチウム二次電池。
【請求項2】
前記負極は、前記負極活物質の炭素材料として少なくとも黒鉛と非晶質炭素とが混合されており、該負極活物質のうち非晶質炭素の占める割合が20重量%以上40重量%以下の範囲である、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
前記負極は、前記負極活物質に前記非晶質炭素としてd002=0.34nm以上の易黒鉛化炭素が含まれている、請求項2に記載のリチウム二次電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−71017(P2011−71017A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222418(P2009−222418)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】