説明

リチウム二次電池

【課題】過充電の初期に電流遮断弁を作動させ、過充電時の安全性を高める。
【解決手段】正極1、負極2、及び正極1と負極2との間に挟まれたセパレータ3で構成された電極群と、電解液とを含むリチウム二次電池において、内圧の上昇により作動する電流遮断部を設け、芳香族官能基と重合性官能基とを有する重合性化合物、又は芳香族官能基と重合性官能基の残基とを有する重合体を含ませ、正極1及びセパレータ3のうち少なくとも一方には、中和反応によって二酸化炭素を発生する炭酸ガス発生剤を含ませる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、高エネルギー密度を有することから、その特性を生かして、ノートパソコンや携帯電話などに広範に利用されている。近年では、二酸化炭素の増加に伴う地球温暖化防止の観点から電気自動車への関心が高まり、その電源としてもリチウム二次電池の適用が検討されている。
【0003】
このような優れた特性を持つリチウム二次電池であるが、課題もある。その一つとして、安全性の向上がある。なかでも、過充電時の安全性を確保することが重要な課題である。
【0004】
過充電状態においては、リチウム二次電池の熱安定性が低下し、安全性が低下するおそれがある。そのため、現行のリチウム二次電池においては、様々な過充電対策技術が開発されている。
【0005】
特許文献1には、アルカリ金属、アルカリ土類金属、テトラアルキルアンモニウム、またはイミダゾリウム基よりなる群から選択されるカチオンと、ホウ酸塩クラスターまたはヘテロホウ酸塩クラスターであるアニオンとからなる塩を含む電気化学電池が開示されている。
【0006】
特許文献2には、内圧上昇により作動する電流遮断機構を備えたリチウム二次電池において、正極の導電材の表面に炭酸リチウムを配置する技術が開示されている。
【0007】
特許文献3には、電池内圧の上昇により作動する感圧式安全機構を備えた非水電解質二次電池において、正極に炭酸リチウムを添加し、非水電解質にシクロアルキルベンゼン化合物及び/又はベンゼン環に隣接する第4級炭素を有する化合物を添加する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−302727号公報
【特許文献2】特開2009−259604号公報
【特許文献3】特開2008−186792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載された電気化学電池のように塩を改良しただけでは、過充電時の安全性を高めることは難しい。
【0010】
また、特許文献2に記載された技術の場合、過充電状態において正極の炭酸リチウムが電解酸化を受けて炭酸ガスを生じ、電池の内圧を上昇させることにより電流遮断弁を作動させ、過充電を抑制するものである。しかし、炭酸リチウムの反応電位は、4.8V〜5.0V vs. Li/Liと高く、過充電末期に反応を開始するため、過充電時における電池の安全性に関して課題が残っている。
【0011】
本発明の目的は、過充電初期に電流遮断弁を作動させ、過充電時の安全性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のリチウム二次電池においては、内圧の上昇により作動する電流遮断部を設け、芳香族官能基と重合性官能基とを有する重合性化合物、又は芳香族官能基と重合性官能基の残基とを有する重合体を構成要素として用い、正極及びセパレータのうち少なくとも一方には、中和反応によって二酸化炭素を発生する炭酸ガス発生剤を含ませる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、過充電初期に電流遮断弁を作動させることが可能なため、電池の安全性を向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例のリチウム二次電池(筒型リチウムイオン電池)を示す部分断面図である。
【図2】実施例のリチウム二次電池(角型リチウムイオン電池)を示す斜視図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池について説明する。
【0016】
前記リチウム二次電池は、正極、負極、及び正極と負極との間に挟まれたセパレータを含む電極群と、電解液とを含む。
【0017】
ここで、正極は、正極材料を集電板に塗布することにより形成されている。また、負極は、負極材料を集電板に塗布することにより形成されている。
【0018】
前記リチウム二次電池は、内圧の上昇により作動する電流遮断部を有し、芳香族官能基と重合性官能基とを有する重合性化合物、又は芳香族官能基と重合性官能基の残基とを有する重合体を含み、正極及びセパレータのうち少なくとも一方は、中和反応によって二酸化炭素を発生する炭酸ガス発生剤を含む。
【0019】
前記リチウム二次電池において、重合性化合物は、下記化学式(1)又は(2)で表される。
【0020】
【化1】

【0021】
【化2】

(式中、Zは、重合性官能基である。Xは、炭素数1〜20の炭化水素基又はオキシアルキレン基である。Aは、芳香族官能基である。)
前記リチウム二次電池において、重合体は、上記の重合性化合物を重合して得られたものである。
【0022】
前記リチウム二次電池において、重合体は、下記化学式(3)又は(4)で表される。
【0023】
【化3】

【0024】
【化4】

(式中、Zp1は、重合性官能基の残基である。Xは、炭素数1〜20の炭化水素基又はオキシアルキレン基である。Aは、芳香族官能基である。n1及びn2は、正の整数である。)
前記リチウム二次電池において、さらに、下記化学式(5)で表される重合性化合物を含む。
【0025】
【化5】

(式中、Zは重合性官能基であり、Yは極性が高い高極性官能基である。)
前記リチウム二次電池において、上記化学式(1)又は(2)で表される重合性化合物と、上記化学式(5)で表される重合性化合物とを共重合して得られる重合体を含む。
【0026】
前記リチウム二次電池において、重合体は、下記化学式(6)又は(7)で表される繰り返し単位を含む。
【0027】
【化6】

【0028】
【化7】

(式中、Zp1及びZp2は、重合性官能基の残基である。Xは、炭素数1〜20の炭化水素基又はオキシアルキレン基である。Aは、芳香族官能基である。Yは、極性が高い高極性官能基である。aとbとの比は、重合性官能基の残基であるZp1とZp2との個数の比に等しい。)
前記リチウム二次電池において、炭酸ガス発生剤は、ACO又はAHCO(Aは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属である。xは、Aがアルカリ金属の場合、2であり、アルカリ土類金属の場合、1である。yは、Aがアルカリ金属の場合、1であり、アルカリ土類金属の場合、0.5である。)で表される。
【0029】
炭酸ガス発生剤に関して、電池性能との両立を図る観点からは、ACOが好適に用いられる。アルカリ金属およびアルカリ土類金属としては、Li、Na、K、Mg及びCaが好適に用いられ、なかでも、Li及びNaが特に好ましい。
【0030】
前記リチウム二次電池において、炭酸ガス発生剤は、セパレータの表面に塗工されている。
【0031】
前記リチウム二次電池において、炭酸ガス発生剤は、正極を構成する正極活物質及びバインダーを含む正極材料に添加されている。
【0032】
前記リチウム二次電池において、重合性化合物又は重合体は、電解液に含まれる。
【0033】
前記リチウム二次電池は、外形が円筒形状であることが望ましい。
【0034】
炭酸ガス発生剤は、正極若しくはセパレータ、又は正極及びセパレータの両方に配置されることが望ましい。正極に配置する場合、炭酸ガス発生剤の導入量は、正極を構成する正極活物質と導電材とバインダーとを含む混合物(正極材料)に0〜10wt%含まれるようにする。この導入量は、好ましくは0〜5wt%である。ここで、導入量は、正極材料の乾燥重量を基準として求めた値である。
【0035】
正極に炭酸ガス発生剤を導入するには、電極を作製する際のスラリーに混合し、その後、電極を作製することにより行う。また、セパレータに炭酸ガス発生剤を導入するには、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)のN−メチル−2−ピロリドン溶液(NMP溶液)に炭酸ガス発生剤を分散させ、その溶液をセパレータに塗工し、その後、NMPを除去することで作製することができる。
【0036】
上記化学式(1)及び(2)におけるZは、重合性官能基である。Xは、炭素数1〜20の炭化水素基又はオキシアルキレン基である。Aは、芳香族官能基である。
【0037】
重合性官能基は、重合反応を起こすものであれば特に限定はされないが、ビニル基、アクリロイル基またはメタクリロイル基などの不飽和二重結合を有する有機基が好適に用いられる。
【0038】
炭素数1〜20の炭化水素基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、ブチレン基、イソブチレン基、ジメチルエチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、イソオクチレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基などの脂肪族炭化水素基、シクロヘキシレン基、ジメチルシクロヘキシレン基などの脂環式炭化水素基などが挙げられる。
【0039】
オキシアルキレン基としては、オキシメチレン基、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシテトラメチレン基が挙げられる。
【0040】
芳香族官能基は、Huckel則を満たす炭素数20以下の官能基である。具体的には、シクロヘキシルベンジル基、ビフェニル基、フェニル基及びその縮合体であるナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、トリフェニレン基、ピレン基、クリセン基、ナフタセン基、ピセン基、ペリレン基、ペンタフェン基、ペンタセン基、アセナフチレン基などが挙げられる。これらの芳香族官能基の一部は、置換されていてもよい。また、芳香族官能基は、芳香族環内に炭素以外の元素を含んでもよい。ここでいう元素は、具体的には、S、N、Si、Oなどである。電気学的安定性の観点から、フェニル基、シクロヘキシルベンジル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントラセン基及びテトラセン基が好ましく、シクロヘキシルベンジル基及びビフェニル基が特に好ましい。
【0041】
過充電状態になると、重合体中の芳香族官能基が反応して水素イオンを生じる。その水素イオンと炭酸ガス発生剤とが反応することにより、炭酸ガスが発生し、過充電の初期に電流遮断弁(電流遮断部ともいう。)が作動して過充電を防止する。
【0042】
上記化学式(5)におけるZは、重合性官能基である。重合性官能基は、重合反応を起こすものであれば特に限定はされないが、ビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などの不飽和二重結合を有する有機基が好適に用いられる。
【0043】
上記化学式(5)、(6)及び(7)におけるYは、極性の高い高極性官能基である。高極性官能基としては、オキシアルキレン基[(AO)R]、シアノ基、アミノ基、ヒドロキシル基、チオール基などが挙げられる。高極性官能基を適用することにより、電解液に対する親和性を高められる。オキシアルキレン基としては、AOがエチレンオキシドのものであって、Rがメチルのものが好ましく、mは、1〜20であり、好ましくは1〜10であり、特に好ましくは1〜5である。
【0044】
重合体とは、重合性化合物を重合することで得られる化合物をいう。
【0045】
本発明においては、重合性化合物及び重合体のどちらも用いることが可能であるが、電気化学的安定性の観点からは、重合性化合物を事前に重合させ、重合体を作製した後、精製を行った重合体を用いることが好ましい。
【0046】
重合は、従来から知られているバルク重合、溶液重合及び乳化重合のうちいずれによってもよい。また、重合方法は、特に限定はされないが、ラジカル重合が好適に用いられる。重合に際しては、重合開始剤を用いても用いなくてもよく、取り扱いの容易さの点からはラジカル重合開始剤を用いるのが好ましい。ラジカル重合開始剤を用いた重合方法は、通常行われている温度範囲および重合時間で行うことができる。
【0047】
電気化学デバイスに用いられる部材を損なわないという目的からは、分解温度および速度の指標である10時間半減期温度が30〜90℃の範囲となるラジカル重合開始剤を用いることが好ましい。ここで、10時間半減期温度とは、ベンゼン等のラジカル不活性溶媒中濃度0.01モル/リットルにおける未分解のラジカル重合開始剤の量が10時間で1/2となるのに必要な温度をいう。
【0048】
重合開始剤の配合量は、重合性化合物100重量部に対して0.1〜20重量部であり、好ましくは0.3〜5重量部である。
【0049】
ラジカル重合開始剤としては、t−ブチルペルオキシピバレート、t−ヘキシルペルオキシピバレート、メチルエチルケトンペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシド、1、1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3、3、5−トリメチルシクロヘキサン、2、2−ビス(t−ブチルペルオキシ)オクタン、n−ブチル−4、4−ビス(t−ブチルペルオキシ)バレレート、t−ブチルハイドロペルオキシド、クメンハイドロペルオキシド、2、5−ジメチルヘキサン−2、5−ジハイドロペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、α、α’−ビス(t−ブチルペルオキシm−イソプロピル)ベンゼン、2、5−ジメチル−2、5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2、5−ジメチル−2、5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、ベンゾイルペルオキシド、t−ブチルペルオキシプロピルカーボネート等の有機過酸化物や、2、2’−アゾビスイソブチロニトリル、2、2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2、2’−アゾビス(4−メトキシ−2、4−ジメチルバレロニトリル)、2、2’−アゾビス(2、4−ジメチルバレロニトリル)、1、1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2、4−ジメチル−バレロニトリル、2、2−アゾビス(2−メチル−N−フェニルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2、2’−アゾビス[N−(4−クロロフェニル)−2−メチルプロピオンアミジン]二塩酸塩、2、2’−アゾビス[N−ヒドロキシフェニル]−2−メチルプロピオンアミジン]二塩酸塩、2、2’−アゾビス[2−メチル−N−(フェニルメチル)プロピオンアミジン]二塩酸塩、2、2’−アゾビス[2メチル−N−(2−プロペニル)プロピオンアミジン]二塩酸塩、2、2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩、2、2’−アゾビス[N−(2−ヒドロキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]二塩酸塩、2、2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2、2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2、2’−アゾビス[2−(4、5、6、7−テトラヒドロ−1H−1、3−ジアゼピン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2、2’−アゾビス[2−(3、4、5、6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2、2’−アゾビス[2−(5−ヒドロキシ−3、4、5、6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン]二塩酸塩、2、2’−アゾビス{2−[1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル]プロパン}二塩酸塩、2、2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2、2’−アゾビス{2−メチル−N−[1、1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2、2’−アゾビス{2メチル−N−[1、1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル]プロピオンアミド}、2、2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2、2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミド)ジハイドレート、2、2’−アゾビス(2、4、4−トリメチルペンタン)、2、2’−アゾビス(2−メチルプロパン)、ジメチル、2、2’−アゾビスイソブチレート、4、4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2、2’−アゾビス[2−(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル]等のアゾ化合物が挙げられる。
【0050】
上記化学式(6)及び(7)において、Zp1及びZp2は、重合性官能基の残基である。下付きのa及びbは、Zp1及びZp2の構成単位の比である。a/(a+b)は0〜1である。電解液との親和性を向上させる観点からは、a/(a+b)は0.1〜0.9が好ましく、0.1〜0.4が特に好ましい。
【0051】
重合性化合物及び重合体のリチウム二次電池内での存在形態は、特に限定はされないが、電解液に共存させて用いることが好ましい。
【0052】
電解液における重合性化合物及び重合体の存在状態は、電解液に溶解した状態(溶液)でもよく、電解液に懸濁した状態でもよい。
【0053】
重合性化合物及び重合体の濃度(単位はwt%である。)は、下記計算式(1)により算出することができる。
【0054】
【数1】


この濃度の範囲は、0〜100wt%であり、好ましくは0.01〜10wt%であり、特に好ましくは0.1〜5wt%である。この値が大きいほど、電解液のイオン伝導性が低くなって電池性能が低下する。また、この値が小さいほど、本発明の効果は低下する。
【0055】
重合体の数平均分子量(Mn)は、50000000以下であり、好ましくは1000000以下である。更に好ましくは100000以下である。数平均分子量の低い重合体を用いることにより、電池性能の低下を抑制することができる。
【0056】
電解液は、非水溶媒に支持電解質を溶解させたものである。
【0057】
非水溶媒としては、支持電解質を溶解させるものであれば特に限定されないが、以下に挙げるものが好ましい。ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチルラクトン、テトロヒドロフラン、ジメトキシエタン等の有機溶媒であり、これらのうち一種または二種以上を混合して用いることもできる。また、不飽和二重結合を分子内に有するビニレンカーボネート又はビニルエチレンカーボネートを用いることもできる。
【0058】
支持電解質は、非水溶媒に可溶なものならば特に問わないが、以下に挙げるものが好ましい。すなわち、LiPF、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiClO、LiBF、LiAsF、LiI、LiBr、LiSCN、Li10Cl10、LiCFCOなどの電解質塩であり、これらのうち一種又は二種以上を混合して用いることもできる。
【0059】
正極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能なものであり、一般式LiMO(Mは遷移金属である。)で表される。例としては、LiCoO、LiNiO、LiMn1/3Ni1/3Co1/3又はLiMn0.4Ni0.4Co0.2のような層状構造を有する酸化物、並びにMの一部をAl、Mg、Mn、Fe、Co、Cu、Zn、Al、Ti、Ge、W及びZrよりなる群から選ばれた少なくとも1種以上の金属元素で置換した酸化物が挙げられる。また、LiMnやLi1+xMn2−xのようなスピネル型の結晶構造を有するMn(マンガン)の酸化物が挙げられる。また、オリビン構造を有するLiFePO又はLiMnPOを用いることもできる。
【0060】
また、負極材料は、天然黒鉛、石油コークスや石炭ピッチコークス等から得られる易黒鉛化材料を2500℃以上の高温で熱処理したもの、メソフェーズカーボン、非晶質炭素、炭素繊維、リチウムと合金化する金属、又は炭素粒子の表面に金属を担持した材料が用いられる。例えば、リチウム、銀、アルミニウム、スズ、ケイ素、インジウム、ガリウム及びマグネシウムからなる群より選ばれた金属あるいは合金である。また、該金属または該金属の酸化物を負極として利用できる。さらに、チタン酸リチウムを用いることもできる。
【0061】
セパレータは、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステルなどのポリマーからなるもの、繊維状のガラス繊維を用いたガラスクロス等を用いることができ、リチウム電池に悪影響を及ぼさない補強材であれば材質は問わないが、ポリオレフィンが好適に用いられる。
【0062】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられ、それらのフィルムを重ね合わせて使用することもできる。
【0063】
また、セパレータの通気度(sec/100mL)は、10〜1000であり、好ましくは50〜800であり、特に好ましくは90〜700である。
【0064】
以下、実施例を用いて更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0065】
<電極の作製方法>
<正極>
セルシード(日本化学工業(株)製コバルト酸リチウム)、SP270(日本黒鉛(株)製黒鉛)及びKF1120((株)クレハ製ポリフッ化ビニリデン)とを重量基準で85:10:10の割合で混合し、N−メチル−2−ピロリドンに投入混合してスラリー状の溶液を作製した。このスラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔(集電板)にドクターブレード法で塗布し、乾燥した。合剤塗布量は、100g/mであった。
【0066】
<負極>
人造黒鉛とポリフッ化ビニリデンとを重量基準で90:10の割合で混合し、N−メチル−2−ピロリドンに投入混合してスラリー状の溶液を作製した。このスラリーを厚さ20μmの銅箔(集電板)にドクターブレード法で塗布し、乾燥した。合剤塗布量は、40g/mであった。合剤かさ密度が1.0g/cmになるようにプレスした。
【0067】
<18650型電池の作製方法>
正極と負極との間にセパレータを挿入し、捲回した。その捲回体を18650用の電池缶に挿入した。その後、電解液を注入し封しした。その後、4.2V〜3.0Vの範囲で180mAの電流値で、3サイクル充放電を繰り返した。3サイクル目の放電の電流値を電池容量とした。
【0068】
<過充電試験の方法>
作製した電池を予め4.2Vに充電した。その後、600mAの電流値で5.0Vまで過充電した。5.0Vに到達した後は、5.0Vの定電位で充電を継続し、電流値が60mAになるまで継続した。
【実施例1】
【0069】
下記化学式(8)で表されるモノマー(1)(0.3mol、73g)及び下記化学式(9)で表されるモノマー(2)(0.7mol、132g)を混合した。
【0070】
【化8】

【0071】
【化9】

重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)をモノマー(1)及びモノマー(2)の全量100重量部に対して1重量部を添加した。その後、反応溶液を封緘し、60℃のオイルバスで3時間反応させた。反応終了後、反応溶液を200mLのメタノールに加え、白色沈殿物を得た。その後、上記の液をろ過し、60℃で減圧乾燥することにより、重合体Aを得た。
【0072】
重合体Aを電解液(電解質塩:LiPF、溶媒:EC/DMC/EMC=1:1:1(体積比)、電解質塩濃度1mol/L)に3wt%になるように加えた。この電解液を用いて電池を作製した。その際、炭酸ガス発生剤は、炭酸リチウム(LiCO)を用いた。このLiCOは正極内に導入した。LiCOの重量は、正極材料の重量に対して3wt%になるように調整した。
【0073】
次に、電池容量を計測した。その結果、電池容量は1811mAhであった。
【0074】
その電池を用いて過充電試験を行った。その結果、電流遮断弁の作動した電圧は4.5Vであり、電池の破裂・発火は見られなかった。
【実施例2】
【0075】
実施例1において炭酸リチウム(LiCO)の配置をセパレータにしたこと以外は、実施例1と同様の構成とした。なお、炭酸リチウムの量は、正極材料の重量に対して3wt%になるように調整した。
【0076】
次に、電池容量を計測した。その結果、電池容量は1820mAhであった。
【0077】
その電池を用いて過充電試験をした。その結果、電流遮断弁の作動した電圧は4.6Vであり、電池の破裂・発火は見られなかった。
【実施例3】
【0078】
実施例1において炭酸リチウムの配置を正極及びセパレータにすること以外は、実施例1と同様に検討した。なお、炭酸リチウムの量は、正極材料の重量に対して3wt%になるように設定し、正極及びセパレータにそれぞれ1.5wt%ずつ分配した。
【0079】
次に、電池容量を計測した。その結果、電池容量は1813mAhであった。
【0080】
その電池を用いて過充電試験をした。電流遮断弁の作動した電圧は4.6Vであり、電池の破裂・発火は見られなかった。
【実施例4】
【0081】
下記化学式(10)で表されるモノマー(3)(0.3mol、67.2g)及び上記のモノマー(2)(0.7mol、132g)を混合した。
【0082】
【化10】

重合開始剤としてAIBNをモノマー(2)及びモノマー(3)の全量100重量部に対して1重量部を添加した。その後、反応溶液を封緘し、60℃のオイルバスで3時間反応させた。反応終了後、反応溶液を200mLのメタノールに加え、白色沈殿物を得た。その後、上記の液をろ過し、60℃で減圧乾燥することで、重合体Bを得た。
【0083】
重合体Bを電解液(電解質塩:LiPF、溶媒:EC/DMC/EMC=1:1:1(体積比)、電解質塩濃度1mol/L)に3wt%になるように加えた。
【0084】
この電解液を用いて電池を作製した。その際、炭酸ガス発生剤はLiCOを用いた。LiCOは正極内に導入した。また、LiCOの重量は、正極材料の重量に対して3wt%になるように調整した。
【0085】
次に、電池容量を計測した。その結果、電池容量は1809mAhであった。
【0086】
その電池を用いて過充電試験をした。その結果、電流遮断弁の作動した電圧は4.4Vであり、電池の破裂・発火は見られなかった。
【実施例5】
【0087】
実施例4においてLiCOの代わりにNaCOを用いること以外は、実施例4と同様にして電池を作製した。作製した電池の電池容量は1802mAhであった。
【0088】
その電池を用いて過充電試験をした。その結果、電流遮断弁の作動した電圧は4.4Vであり、電池の破裂・発火は見られなかった。
【実施例6】
【0089】
実施例4においてLiCOの代わりにNaHCOを用いること以外は、実施例4と同様にして電池を作製した。作製した電池の電池容量は1801mAhであった。
【0090】
その電池を用いて過充電試験をした。その結果、電流遮断弁の作動した電圧は4.4Vであり、電池の破裂・発火は見られなかった。
【0091】
(比較例1)
実施例1においてLiCOを加えないこと以外は、実施例1と同様にして電池を作製した。作製した電池の電池容量は1803mAhであった。
【0092】
その電池を用いて過充電試験をした。その結果、電流遮断弁は作動せず、電池の破裂・発火が見られた。
【0093】
(比較例2)
実施例1において重合体Aを加えないこと以外は、実施例1と同様にして電池を作製した。作製した電池の電池容量は1801mAhであった。
【0094】
その電池を用いて過充電試験をした。その結果、電流遮断弁は4.9Vで作動したが、その後、電池が破裂した。
【0095】
(比較例3)
比較例2においてLiCOの代わりにNaCOを用いること以外は、比較例2と同様にして電池を作製した。作製した電池の電池容量は1802mAhであった。
【0096】
その電池を用いて過充電試験をした。その結果、電流遮断弁は作動せず、電池の破裂・発火が見られた。
【0097】
表1は、実施例及び比較例の結果をまとめたものである。
【0098】
【表1】


本表から、実施例1〜6においては、電解液が重合体A又は重合体Bを含むこと、電流遮断弁の作動があったこと、電流遮断弁の作動時における電池電圧が4.4〜4.6Vであること、及び電池の破裂・発火がなかったことがわかる。これに対して、比較例1〜3においては、電解液が重合体を含まないこと、電流遮断弁の作動時における電池電圧が4.9Vであること、及び電池の破裂があったことがわかる。
【0099】
以下、実施例のリチウム二次電池の構成について図を用いて説明する。
【0100】
図1は、リチウム二次電池(筒型リチウムイオン電池)を示す部分断面図である。
【0101】
正極1及び負極2は、これらが直接接触しないようにセパレータ3を挟み込んだ状態で円筒状に捲回してあり、電極群を形成している。正極1には正極リード57が付設してあり、負極2には負極リード55が付設してある。
【0102】
電極群は、電池缶54に挿入してある。電池缶54の底部及び上部には、絶縁板59が設置してあり、電極群が電池缶54と直接接触しないようにしてある。電池缶54の内部には、電解液が注入してある。
【0103】
電池缶54は、パッキン58を介して蓋部56と絶縁された状態で密封されている。
【0104】
図2は、実施例の二次電池(角型電池)を示す斜視図である。
【0105】
本図において、電池110(非水電解液二次電池)は、角型の外装缶112に扁平状捲回電極体を非水電解液とともに封入したものである。蓋板113の中央部には、端子115が絶縁体114を介して設けてある。
【0106】
図3は、図2のA−A断面図である。
【0107】
本図において、正極116及び負極118は、セパレータ117を挟み込む形で捲回され、扁平状捲回電極体119を形成している。外装缶112の底部には、正極116と負極118とが短絡しないように絶縁体120が設けてある。
【0108】
正極116は、正極リード体121を介して蓋板113に接続されている。一方、負極118は、負極リード体122及びリード板124を介して端子115に接続されている。リード板124と蓋板113とが直接接触しないように絶縁体123が挟み込んである。
【0109】
以上の実施例に係る二次電池の構成は例示であり、本発明の二次電池は、これらに限定されるものではなく、上記の正極、セパレータ及び電解液を適用したものすべてを含む。
【符号の説明】
【0110】
1:正極、2:負極、3:セパレータ、54:電池缶、55:負極リード、56:蓋部、57:正極リード、58:パッキン、59:絶縁板、101:電池缶、102:正極端子、103:電池蓋、110:電池、112:外装缶、113:蓋板、114:絶縁体、115:端子、116:正極、117:セパレータ、118:負極、119:扁平状捲回電極体、120:絶縁体、121:正極リード体、122:負極リード体、123:絶縁体、124:リード板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、及び前記正極と前記負極との間に挟まれたセパレータを含む電極群と、電解液とを含み、内圧の上昇により作動する電流遮断部を有するリチウム二次電池であって、芳香族官能基と重合性官能基とを有する重合性化合物、又は芳香族官能基と重合性官能基の残基とを有する重合体を含み、前記正極及び前記セパレータのうち少なくとも一方は、中和反応によって二酸化炭素を発生する炭酸ガス発生剤を含むことを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項2】
前記重合性化合物は、下記化学式(1)又は(2)で表されることを特徴とする請求項1記載のリチウム二次電池。
【化1】

【化2】

(式中、Zは、重合性官能基である。Xは、炭素数1〜20の炭化水素基又はオキシアルキレン基である。Aは、芳香族官能基である。)
【請求項3】
前記重合体は、前記重合性化合物を重合して得られたものであることを特徴とする請求項2記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
前記重合体は、下記化学式(3)又は(4)で表されることを特徴とする請求項1記載のリチウム二次電池。
【化3】

【化4】

(式中、Zp1は、重合性官能基の残基である。Xは、炭素数1〜20の炭化水素基又はオキシアルキレン基である。Aは、芳香族官能基である。n1及びn2は、正の整数である。)
【請求項5】
さらに、下記化学式(5)で表される重合性化合物を含むことを特徴とする請求項2記載のリチウム二次電池。
【化5】

(式中、Zは重合性官能基であり、Yは極性が高い高極性官能基である。)
【請求項6】
前記化学式(1)又は(2)で表される重合性化合物と、前記化学式(5)で表される重合性化合物とを共重合して得られる重合体を含むことを特徴とする請求項5記載のリチウム二次電池。
【請求項7】
前記重合体は、下記化学式(6)又は(7)で表される繰り返し単位を含むことを特徴とする請求項1記載のリチウム二次電池。
【化6】

【化7】

(式中、Zp1及びZp2は、重合性官能基の残基である。Xは、炭素数1〜20の炭化水素基又はオキシアルキレン基である。Aは、芳香族官能基である。Yは、極性が高い高極性官能基である。aとbとの比は、重合性官能基の残基であるZp1とZp2との個数の比に等しい。)
【請求項8】
前記炭酸ガス発生剤は、ACO又はAHCO(Aは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属である。xは、Aがアルカリ金属の場合、2であり、アルカリ土類金属の場合、1である。yは、Aがアルカリ金属の場合、1であり、アルカリ土類金属の場合、0.5である。)で表されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項9】
前記炭酸ガス発生剤は、前記セパレータの表面に塗工されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項10】
前記炭酸ガス発生剤は、前記正極を構成する正極活物質及びバインダーを含む正極材料に添加されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項11】
前記重合性化合物又は前記重合体は、前記電解液に含まれることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
【請求項12】
外形が円筒形状であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−123955(P2012−123955A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272121(P2010−272121)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】