説明

リチウム二次電池

【課題】高出力かつ耐久性に優れたリチウム二次電池を提供する。
【解決手段】本発明のリチウム二次電池100は、正極活物質粒子30を含む正極活物質層14が正極集電体12に保持された正極10と、負極活物質粒子を含む負極活物質層が負極集電体に保持された負極と、非水電解液とを備える。正極活物質粒子30は、リチウム遷移金属酸化物で構成された殻部と、殻部の内部に形成された中空部と、殻部を貫通する貫通孔とを有する。正極活物質層14は、該正極活物質層14の全固形分に対して50ppm〜500ppmのN−メチルピロリドン(NMP)を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウム二次電池に関する。詳しくは、正極集電体上に正極活物質層が形成された正極を含むリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム二次電池、ニッケル水素電池その他の二次電池は、車両搭載用電源、或いはパソコンおよび携帯端末の電源として重要性が高まっている。特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウム二次電池は、車両搭載用高出力電源として好ましく用いられている。この種のリチウム二次電池の一つの典型的な構成では、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出し得る電極活物質が電極集電体の上に形成された構成の電極を備える。例えば、正極に用いられる電極活物質(正極活物質)としては、LiNiO、LiCoO等の複合酸化物が挙げられる。また、正極に用いられる電極集電体(正極集電体)としては、アルミニウムまたはアルミニウム合金を主体とする長尺シート状の部材が挙げられる。
【0003】
このように正極活物質層が正極集電体に保持された構成を有する正極において、正極活物質層の柔軟性が不足すると、正極活物質層にクラックが生じたり、正極集電体から正極活物質層が剥がれ落ちたりし、ひいては電池性能を低下させる要因となり得る。そのため、良好な電池性能を有する電池を得るためには、正極活物質層の柔軟性を向上させることが重要となる。正極活物質層の柔軟性を向上させる技術に関し、例えば特許文献1が開示されている。特許文献1には、正極板および/または負極板に10ppm〜100ppmのN−メチルピロリドン(NMP)を含有させることが記載されている。かかる技術によると、正極板および/または負極板の柔軟性が向上し、極板表面のクラックや、合剤と集電体との剥離を低減できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−269321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のように正極板および/または負極板中のNMP量を単純に増やすだけでは、時間の経過とともにNMPが電解液中に溶け出し、正極活物質層から抜け出てしまう。その結果、正極板および/または負極板中のNMP量が減少し、NMP含有による電池性能向上効果を長く持続できないという問題があった。本発明は、上記課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によって提供されるリチウム二次電池は、正極活物質粒子を含む正極活物質層が正極集電体に保持された正極と、負極と、非水電解液とを備える。上記正極活物質粒子は、リチウム遷移金属酸化物で構成された殻部と、上記殻部の内部に形成された中空部と、上記殻部を貫通する貫通孔とを有する。そして、上記正極活物質層は、該正極活物質層の全固形分に対して50ppm〜600ppmのN−メチルピロリドンを含有する。
【0007】
なお、本明細書において「リチウム二次電池」とは、電解質イオンとしてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。一般にリチウムイオン電池と称される電池は、本明細書におけるリチウム二次電池に包含される典型例である。
【0008】
本発明の構成によると、正極活物質層は、該正極活物質層の全固形分に対して50ppm〜600ppmのN−メチルピロリドン(NMP)を含有する。このように正極活物質層中に適量のNMPを含有させることにより、正極活物質と電解液との濡れ性が向上し、電池の内部抵抗(特に電解液抵抗)を低減することができる。さらに、正極活物質粒子が殻部と中空部と貫通孔とを有することにより、貫通孔を通じて粒子内部(中空部)にもNMPが導入され、粒子内部にて保持される。かかる構成によると、NMPを保持する中空部の周りが殻部で囲まれているため、単なる粒子間の隙間に比べてNMPが抜けにくい(流されにくい)。そのため、適量のNMPを正極活物質層中に長く留めることができ、NMP含有による内部抵抗低減効果(換言すれば、出力特性向上効果)を長期にわたり持続させることができる。したがって、本発明によれば、高出力で、かつ、保存性能にも優れた安定したリチウム二次電池を提供することができる。
【0009】
ここで開示される正極活物質層としては、上記NMPの含有量Xが、50ppm≦Xを満足するものが好ましく、150ppm≦Xを満足するものがさらに好ましく、200ppm≦Xを満足するものが特に好ましい。NMPの含有量Xが少なすぎると、上述した電解液抵抗を低減する効果が不十分になる場合がある。その一方、NMPの含有量が多すぎると、NMPが反応を阻害するため、反応抵抗が上昇傾向になることがある。反応抵抗を低減する観点からは、X≦600ppm(特にはX≦400ppm)を満足するものが好ましい。例えば、上記NMPの含有量Xが、150ppm≦X≦600ppm(特に200ppm≦X≦400ppm)を満足する正極活物質層が、低い電解液抵抗と低い反応抵抗とを両立する(電池抵抗の絶対値を下げる)という観点から好適である。
【0010】
さらに、ここで開示される正極活物質層としては、上記NMPの含有量Xが、500ppm<X≦600ppm(特には550ppm≦X≦600ppm)を満足するものでも構わない。NMPの含有量Xを500ppm<X≦600ppmとすることにより、正極活物質粒子内部(中空部)に保持されているNMPを正極活物質層に少しずつ供給し続けることができ、長期にわたり抵抗上昇を防ぐことができる。そのため、安定的に低い抵抗値をより長く持続できる保存性能に優れたリチウム二次電池を実現することができる。
【0011】
ここに開示されるリチウム二次電池の好ましい一態様では、上記正極活物質粒子のタップ密度が、1.8g/cm以下(例えば1.2g/cm〜1.8g/cm)である。このように、中空構造であって且つタップ密度の小さい(換言すれば中空度(中空粒子の見掛けの体積に対する中空部の体積の比率)が大きい)活物質粒子は、より高いNMP保持性能を安定して発揮し得る。したがって、より高性能なリチウム二次電池を構築するのに寄与し得る。
【0012】
ここに開示されるリチウム二次電池の好ましい一態様では、上記正極活物質粒子の100g当たりのDBP吸収量が、30mL〜50mLである。このように、中空構造であって且つDBP吸収量の大きい(換言すれば中空度が大きい)活物質粒子は、より高いNMP保持性能を安定して発揮し得る。したがって、より高性能なリチウム二次電池を構築するのに寄与し得る。
【0013】
ここに開示されるリチウム二次電池の好ましい一態様では、上記正極活物質層の水銀ポロシメーターによる体積基準の細孔分布において小径側からの累積10%径に相当する細孔直径(D10)が、0.15μm以下(例えば0.01μm〜0.15μm)である。このような正極活物質層のD10細孔径が小さい(換言すれば中空度が大きい)活物質粒子は、より高いNMP保持性能を安定して発揮し得る。したがって、より高性能なリチウム二次電池を構築するのに寄与し得る。
【0014】
ここに開示されるリチウム二次電池の好ましい一態様では、上記非水電解液は、非水溶媒として少なくとも鎖状カーボネートを含有する。そして、非水溶媒全体に対して鎖状カーボネートの含有割合は、概ね60体積%以上である。鎖状カーボネートの含有割合を60体積%以上とすることにより、NMP含有による内部抵抗低減効果(出力特性向上効果)がより確実に発揮され得る。その一方、鎖状カーボネートの含有割合が多すぎる電解液は、低温で凍りやすくなるため好ましくない。電解液の凍結防止の観点からは、鎖状カーボネートの含有割合は、概ね80体積%以下が適当であり、好ましくは75体積%以下である。上記非水電解液を構成する非水溶媒のうち、上記鎖状カーボネートを除く残部が環状カーボネートであることが好ましい。
【0015】
ここに開示される何れかのリチウム二次電池は、上記のとおり、NMP含有による効果が持続し、長期にわたり高出力が得られることから、例えば自動車等の車両に搭載される電池(典型的には駆動電源用途の電池)として好適である。したがって本発明によると、ここに開示される何れかのリチウム二次電池(複数の電池が接続された組電池の形態であり得る。)を備える車両が提供される。特に、該リチウム二次電池を動力源として備える車両(例えば家庭用電源で充電できるプラグインハイブリッド車(PHV)や電気自動車(EV)等)が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に用いられる正極を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に用いられる正極活物質粒子を模式的に示す断面図である。
【図3】従来の正極を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池を模式的に示す図である。
【図5】タップ密度と抵抗との関係を示すグラフである。
【図6】DBP吸収量と抵抗との関係を示すグラフである。
【図7】D10細孔径と抵抗との関係を示すグラフである。
【図8】NMP含有量と抵抗との関係を示すグラフである。
【図9】溶媒組成と抵抗との関係を示すグラフである。
【図10】リチウム二次電池を搭載した車両を模式的に示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。各図面は、模式的に描いており、必ずしも実物を反映しない。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0018】
本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池100は、図1に示すように、正極集電体12と、多孔質の正極活物質層14を有する正極10と、負極と、非水電解液とを備えている。特に限定することを意図したものではないが、以下では主としてアルミニウム製の箔状正極集電体(アルミニウム箔)12を有するリチウム二次電池100用の正極(正極シート)10を例として、本実施形態に用いられるリチウム二次電池用正極について説明する。図1は、正極10の断面図である。
【0019】
ここで開示される一態様の正極10は、図1に示すように、正極活物質層14が正極集電体12に保持された保持された構造を有する。正極集電体12にはアルミニウム箔その他の正極に適する金属箔が好適に使用される。正極活物質層14は、正極活物質粒子30と導電材16とバインダ18とを含んでいる。
【0020】
≪正極活物質粒子≫
正極活物質粒子30は、図2に示すように、殻部35と、殻部35の内部に形成された中空部34と、殻部35を貫通した貫通孔36とを含んでいる。殻部35は、一次粒子38が球殻状に集合した形態を有する。換言すれば、正極活物質粒子30は、一次粒子38が集合した二次粒子32と、その内側に形成された中空部34とを有する中空構造であって、その二次粒子32に外部から中空部34まで貫通する貫通孔36が形成された孔開き中空活物質粒子である。かかる二次粒子のD50径(レーザ光散乱法に基づく粒度分布測定器によって測定される粒度分布から求められるメジアン径(d50))は、約1μm〜25μm(好ましくは約1μm〜10μm、より好ましくは約3μm〜8μm)である。
【0021】
≪導電材≫
正極活物質層に用いられる導電材16は、例えば、カーボン粉末やカーボンファイバーなどのカーボン材料が例示される。このような導電材から選択される一種を単独で用いてもよく二種以上を併用してもよい。カーボン粉末としては、種々のカーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、黒鉛化カーボンブラック、カーボンブラック、黒鉛、ケッチェンブラック)、グラファイト粉末、などのカーボン粉末を用いることができる。
【0022】
≪バインダ≫
正極活物質層に用いられるバインダ18は、上記正極活物質粒子30や導電材16を結合するためのものであり、該バインダを構成する材料自体は、従来公知のリチウム二次電池用正極に用いられるものと同様の材料であり得る。例えば、後述する正極活物質層形成用組成物が溶剤系の溶媒(分散媒が主として有機溶媒である溶液)組成物である場合には、溶剤系の溶媒に分散または溶解するポリマーを用いることができる。溶剤系溶媒に分散または溶解するポリマーとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)などのポリマーを好ましく採用することができる。また、正極活物質層形成用組成物が水系の溶媒(分散媒として水または水を主成分とする混合溶媒を用いた溶液)組成物である場合には、上記バインダとして、水に分散または溶解するポリマーを好ましく採用し得る。水に分散または溶解するポリマーとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン(PE)、ポリアクリル酸(PAA)、等が例示される。なお、上記で例示したポリマー材料は、バインダとしての機能の他に、上記組成物の増粘剤その他の添加剤としての機能を発揮する目的で使用されることもあり得る。
【0023】
≪NMP≫
正極活物質層14は、上述した正極活物質粒子30、導電材16及びバインダ18のほか、N−メチルピロリドン(NMP)を含んでいる。かかるNMPは、例えば、正極活物質粒子30の表面や粒子間の隙間に保持されている。また、NMPは、正極活物質粒子30の貫通孔36を通じて粒子内部(中空部34)にも導入され、粒子内部にて保持されている。NMPの含有量は、正極活物質層14の全固形分(即ち正極活物質と導電材とバインダとの合計質量)に対して50ppm以上であり、好ましくは200ppm以上である。このことにより、NMPを含有していない若しくはNMPの含有量が50ppm未満であるような従来のリチウム二次電池と比較して、正極活物質30と電解液との濡れ性が向上し、電池の内部抵抗(特に電解液抵抗)を低減することができる。
【0024】
さらに、正極活物質粒子30が殻部35と中空部34と貫通孔36とを有することにより、貫通孔36を通じて粒子内部(中空部34)にもNMPが導入され、粒子内部にて保持されている。かかる構成によると、NMPを保持する中空部34の周りが殻部35で囲まれているため、単なる粒子間の隙間に比べてNMPが抜けにくい(流されにくい)。そのため、例えば、図3に示す従来の中実粒子130を用いた正極構造110のように、時間の経過とともにNMP140が電解液中に溶け出し、正極活物質層114から抜け出るような不都合を回避することができる。NMP140が正極活物質層114から抜け出ると、正極活物質130と電解液との濡れ性が悪化するため、電池の内部抵抗(特に電解液抵抗)が上昇する虞がある。
他方、上記の通り、本実施形態に係るリチウム二次電池では、正極活物質層14からNMPが抜けにくくなるため、適量のNMPを正極活物質層14中に長く留めることができる。そのため、NMP含有による内部抵抗低減効果(換言すれば、出力特性向上効果)を長期にわたり持続させることができ、サイクル特性、出力特性に優れ、長寿命を実現することができる。したがって、本構成によれば、高出力で、かつ、保存性能にも優れた安定したリチウム二次電池を提供することができる。
【0025】
ここで開示される正極活物質層14としては、上記NMPの含有量Xが、50ppm≦Xを満足するものが好ましく、150ppm≦Xを満足するものがさらに好ましく、200ppm≦Xを満足するものが特に好ましい。NMPの含有量Xが少なすぎると、上述した電解液抵抗を低減する効果が不十分になる場合がある。その一方、NMPの含有量が多すぎると、NMPが反応を阻害するため、反応抵抗が上昇傾向になることがある。反応抵抗を低減する観点からは、X≦600ppm(特にはX≦400ppm)を満足するものが好ましい。例えば、上記NMPの含有量Xが、150ppm≦X≦600ppm(特に200ppm≦X≦400ppm)を満足する正極活物質層14が、低い電解液抵抗と低い反応抵抗とを両立する(電池抵抗の絶対値を下げる)という観点から好適である。
【0026】
さらに、ここで開示される正極活物質層14としては、上記NMPの含有量Xが、500ppm<X≦600ppm(特には550ppm≦X≦600ppm)を満足するものでもよい。NMPの含有量Xを500ppm<X≦600ppmとすることにより、正極活物質粒子内部(中空部34)に保持されているNMPを正極活物質層14に少しずつ供給し続けることができ、長期にわたり抵抗上昇を防ぐことができる。そのため、安定的に低い電池抵抗を維持し得る長期保存性能に優れたリチウム二次電池を実現することができる。なお、上記NMPの含有量は、ガスクロマトグラフを用いた定量分析により把握することができる。例えば、正極活物質層14を所定サイズに切り出した後、ジエチルカーボネート(DEC)等の溶媒によりNMPを抽出し、デカンを標準物質としたガスクロマトグラフによりNMPの含有量を測定するとよい。
【0027】
正極活物質層14にNMPを含有させる方法は特に限定されない。例えば、後述する正極活物質層形成用組成物の溶媒がNMPである場合には、該組成物を乾燥するときの乾燥条件を選択することにより、正極活物質層中のNMPの含有量を制御することができる。すなわち、上記組成物を乾燥するときの乾燥温度や乾燥時間等の条件を適切に選択することにより、NMPの含有量(残留NMP量)が50ppm〜600ppmの範囲を満たす正極活物質層14を形成することができる。あるいは、NMPの含有量が50ppm〜600ppmとなるように、正極活物質層14全体にNMPを付与(例えばスプレー噴霧)する態様を採用することもできる。上記NMPの含有量を制御する方法は、単独であるいは組み合わせて使用することができる。
【0028】
≪タップ密度≫
ここで開示される正極活物質粒子30は、好適な一形態として、上述した活物質粒子のタップ密度が、凡そ1.8g/cm以下(例えば1.2〜1.8g/cm)であり、好ましくは1.5g/cm以下(例えば1.2〜1.5g/cm)である。ここでタップ密度とは、タッピング式の粉体減少度測定装置によって、タッピングさせ、その衝撃で固めた後、測定される密度をいう。中空構造の活物質粒子では、中空粒子の見掛けの体積に対する中空部の体積の比率(中空度)が大きいほど、タッピング後に嵩が高くなる(タップ密度が小さくなる)。上記のように、中空構造であって且つタップ密度の小さい(換言すれば中空度が大きい)活物質粒子は、より高いNMP保持性能を安定して発揮し得る。したがって、より高性能なリチウム二次電池を構築するのに寄与し得る。例えば、内部抵抗が低く(換言すれば、出力特性が良く)、且つ、長期間放置しても抵抗の上昇の少ないリチウム二次電池を構築し得る。
【0029】
≪DBP吸収量≫
また、かかる正極活物質粒子30は、好適な一形態として、上述した活物質粒子の100g当たりのDBP吸収量が、凡そ30mL〜50mLであり、好ましくは35mL〜45mLである。DBP吸収量(mL)は、JIS K6217−4「ゴム用カーボンブラック‐基本特性‐第4部:DBP吸収量の求め方」に準拠して求めるとよい。ここでは、試薬液体としてDBP(ジブチルフタレート)を用い、検査対象粉末に定速度ビュレットで滴定し、粘度特性の変化をトルク検出器によって測定する。そして、発生した最大トルクの70%のトルクに対応する、検査対象粉末の100g当りの試薬液体の添加量をDBP吸収量(mL)とする。中空構造の活物質粒子では、中空粒子の見掛けの体積に対する中空部の体積の比率(中空度)が大きいほど、DBP吸収量が大きくなる。上記のように、中空構造であって且つDBP吸収量の大きい(換言すれば中空度が大きい)活物質粒子は、より高いNMP保持性能を安定して発揮し得る。したがって、より高性能なリチウム二次電池を構築するのに寄与し得る。例えば、内部抵抗が低く(換言すれば、出力特性が良く)、且つ、長期間放置しても抵抗の上昇の少ないリチウム二次電池を構築し得る。
【0030】
≪D10細孔直径≫
さらに、ここで開示される正極活物質層14は、好適な一形態として、正極活物質層14の水銀ポロシメーターによる体積基準の細孔分布において小径側からの累積10%径に相当する細孔直径(D10)が、凡そ0.15μm以下(例えば0.01μm〜0.15μmであり、好ましくは0.1μm以下(例えば0.02μm〜0.1μm)である。
正極活物質層内の空孔の体積には、正極活物質層のうち、中空構造の活物質粒子外部に形成された空孔(粒子間の隙間)の体積と、中空構造の活物質粒子内部に形成された空孔(中空部)の体積とが含まれ得る。活物質粒子内部に形成された空孔(中空部)の体積が大きいほど、正極活物質層のD10細孔径が小さくなる。上記のように、正極活物質層のD10細孔径が小さい(換言すれば中空度が大きい)活物質粒子は、より高いNMP保持性能を安定して発揮し得る。したがって、より高性能なリチウム二次電池を構築するのに寄与し得る。例えば、内部抵抗が低く(換言すれば、出力特性が良く)、且つ、長期間放置しても抵抗の上昇の少ないリチウム二次電池を構築し得る。
【0031】
<二次粒子の平均粒径>
ここで開示される正極活物質粒子(二次粒子)30の平均粒径は、凡そ1μm〜25μmであることが好ましい。かかる構成を有する正極活物質粒子30によると、良好な電池性能をより安定して発揮することができる。例えば、平均粒径が小さすぎると、中空部34の容積が小さいため、上述した電池性能を向上させる効果が低下傾向になり得る。平均粒径が凡そ3μm以上であることがより好ましい。また、正極活物質粒子の生産性等の観点からは、平均粒径が凡そ25μm以下であることが好ましく、凡そ15μm以下(例えば凡そ10μm以下)であることがより好ましい。好ましい一態様では、正極活物質粒子の平均粒径が凡そ3μm〜10μmである。なお、正極活物質粒子の平均粒径は当該分野で公知の方法、例えばレーザ回折散乱法に基づく測定によって求めることができる。
【0032】
<貫通孔>
かかる正極活物質粒子30は、図2に示すように、二次粒子32(殻部35)に外部から中空部34まで貫通するか貫通孔36を有する。この場合、正極活物質層の平均において、貫通孔18の開口幅Wが平均0.01μm以上であるとよい。ここで、貫通孔36の開口幅は、該貫通孔36が正極活物質粒子30の外部から中空部34に至る経路で最も狭い部分における差渡し長さである。貫通孔36の開口幅が平均0.01μm以上であると、貫通孔36を通して外部から中空部34にNMPが十分に入り得る。これにより、リチウム二次電池の電池性能を向上させる効果をより適切に発揮することができる。なお、複数の貫通孔36がある場合には、複数の貫通孔36のうち、最も大きい開口幅を有する貫通孔で評価するとよい。また、貫通孔36の開口幅Wは平均2.0μm以下、より好ましくは平均1.0μm以下、さらに好ましくは平均0.5μm以下であってもよい。
【0033】
また、貫通孔36の数は、正極活物質粒子30の一粒子当たり平均1〜20個程度でもよく、より好ましくは、平均1〜5個程度でもよい。かかる構造の正極活物質粒子30によると、良好な電池性能をより安定して発揮することができる。なお、孔開き中空構造の正極活物質粒子30の貫通孔36の数は、例えば、任意に選択した少なくとも10個以上の正極活物質粒子について一粒子当たりの貫通孔数を把握し、それらの算術平均値を求めるとよい。
【0034】
<リチウム遷移金属酸化物の組成>
ここに開示される正極活物質粒子を構成するリチウム遷移金属酸化物は、リチウムを可逆的に吸蔵および放出可能な層状結晶構造のリチウム遷移金属酸化物であり得る。層状結晶構造のリチウム遷移金属酸化物としては、上記遷移金属として少なくともニッケルを含む酸化物(ニッケル含有リチウム複合酸化物)、少なくともコバルトを含む酸化物、少なくともマンガンを含む酸化物等が例示される。
【0035】
層状結晶構造のリチウム遷移金属酸化物の一好適例として、少なくともニッケルを構成元素として含むニッケル含有リチウム複合酸化物が挙げられる。かかるニッケル含有リチウム複合酸化物は、LiおよびNi以外に、他の一種または二種以上の金属元素(すなわち、リチウムおよびニッケル以外の遷移金属元素および/または典型金属元素)を含むものであり得る。例えば、ニッケル、コバルトおよびマンガンを構成元素として含むニッケル含有リチウム複合酸化物でもよい。これらの遷移金属元素のうちの主成分がNiであるか、あるいはNiとCoとMnとを概ね同程度の割合で含有するニッケル含有リチウム複合酸化物が好ましい。
【0036】
さらに、これらの遷移金属元素のほかに、付加的な構成元素(添加元素)として、他の1種又は2種以上の元素を含むものであってもよい。かかる付加的な元素としては、周期表の1族(ナトリウム等のアルカリ金属)、2族(マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属)、4族(チタン、ジルコニウム等の遷移金属)、6族(クロム、タングステン等の遷移金属)、8族(鉄等の遷移金属)、13族(半金属元素であるホウ素、若しくはアルミニウムのような金属)および17族(フッ素のようなハロゲン)に属するいずれかの元素を含むことができる。典型例として、W、Zr、Mg、Ca、Na、Fe、Cr、Zn、Si、Sn、Al、BおよびFが例示される。
【0037】
上記正極活物質層14の形成方法としては、正極活物質(典型的には粒状)その他の正極活物質層形成成分を適当な溶媒に分散した正極活物質層形成用組成物を正極集電体12の片面または両面(ここでは両面)に帯状に塗布して乾燥させる方法を好ましく採用することができる。上記溶媒としては、N‐メチルピロリドン(NMP)、ピロリドン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクサヘキサノン、トルエン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、等の有機系溶媒の一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。特にNMPの使用が好ましい。あるいは、水または水を主体とする混合溶媒であってもよい。かかる混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶媒(低級アルコール、低級ケトン等)の一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。正極活物質層形成用組成物における溶媒の含有率は特に限定されないが、組成物全体の40〜90質量%、特には50質量%程度が好ましい。正極活物質層形成用組成物の乾燥後、適当なプレス処理(例えば、ロールプレス法、平板プレス法等の従来公知の各種プレス方法を採用することができる。)を施すことによって、正極活物質層14の厚みや密度を調整することができる。
【0038】
本実施形態に係る正極10は、例えば内部抵抗が低く高出力が得られることから、種々の形態の電池の構成要素または該電池に内蔵される電極体の正極として好ましく利用され得る。例えば、ここに開示されるいずれかの方法により製造された正極と、負極と、該正負極間に配置される非水電解液と、典型的には正負極間を離隔するセパレータと、を備えるリチウム二次電池の構成要素として好ましく使用され得る。かかる電池を構成する外容器の構造(例えば金属製の筐体やラミネートフィルム構造物)やサイズ、あるいは正負極集電体を主構成要素とする電極体の構造(例えば捲回構造や積層構造)等について特に制限はない。
【0039】
以下、上述した方法を適用して製造された正極(正極シート)10を用いて構築されるリチウム二次電池の一実施形態につき、図4に示す模式図を参照しつつ説明する。
図示するように、本実施形態に係るリチウム二次電池100は、金属製(樹脂製又はラミネートフィルム製も好適である。)のケース50を備える。このケース(外容器)50は、上端が開放された扁平な直方体状のケース本体52と、その開口部を塞ぐ蓋体54とを備える。ケース50の上面(すなわち蓋体54)には、捲回電極体80の正極10と電気的に接続する正極端子70および該電極体の負極20と電気的に接続する負極端子72が設けられている。ケース50の内部には、例えば長尺シート状の正極(正極シート)10および長尺シート状の負極(負極シート)20を計二枚の長尺シート状セパレータ(セパレータシート)40とともに積層して捲回し、次いで得られた捲回体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって作製される扁平形状の捲回電極体80が収容される。
【0040】
正極シート10は、上述したように、長尺シート状の正極集電体12の両面に正極活物質30(図1参照)を主成分とする正極活物質層14が設けられた構成を有する。また、負極シート20も正極シート10と同様に、長尺シート状の負極集電体の両面に負極活物質を主成分とする負極活物質層が設けられた構成を有する。これらの電極シート10、20の幅方向の一端には、いずれの面にも上記活物質層が設けられていない活物質層非形成部分10A、20Aが形成されている。
【0041】
上記積層の際には、正極シート10の正極活物質層非形成部分と負極シート20の負極活物質層非形成部分とがセパレータシート40の幅方向の両側からそれぞれはみ出すように、正極シート10と負極シート20とを幅方向にややずらして重ね合わせる。その結果、捲回電極体80の捲回方向に対する横方向において、正極シート10および負極シート20の活物質層非形成部分10A、20Aがそれぞれ捲回コア部分(すなわち正極シート10の正極活物質層形成部分と負極シート20の負極活物質層形成部分と二枚のセパレータシート40とが密に捲回された部分)から外方にはみ出ている。かかる正極側はみ出し部分(すなわち正極活物質層の非形成部分)10Aおよび負極側はみ出し部分(すなわち負極活物質層の非形成部分)20Aには、正極リード端子74および負極リード端子76がそれぞれ付設されており、上述の正極端子70および負極端子72とそれぞれ電気的に接続される。
【0042】
なお、捲回電極体80を構成する正極シート10以外の構成要素は、従来のリチウム二次電池の電極体と同様でよく、特に制限はない。例えば、負極シート20は、長尺状の負極集電体の上にリチウム二次電池用負極活物質を主成分とする負極活物質層が付与されて形成され得る。負極集電体には銅箔その他の負極に適する金属箔が好適に使用される。負極活物質は従来からリチウム二次電池に用いられる物質の一種または二種以上を特に限定することなく使用することができる。好適例として、グラファイトカーボン、アモルファスカーボン等の炭素系材料、リチウム遷移金属複合酸化物(リチウムチタン複合酸化物等)、リチウム遷移金属複合窒化物等が例示される。
【0043】
また、正負極シート10、20間に使用されるセパレータシート40の好適例としては、多孔質ポリオレフィン系樹脂で構成されたものが挙げられる。
【0044】
そして、ケース本体52の上端開口部から該本体52内に捲回電極体80を収容するとともに適当な非水電解液90をケース本体52内に配置(注液)する。
【0045】
≪非水電解液≫
非水電解液90は、例えば適当量(例えば濃度1M)のLiPF等の支持塩を非水溶媒に溶解したものであり得る。上記支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiCSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiI等から選択される一種または二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)を用いることができる。これらのうち、LiPFの使用が電池特性向上の観点から好ましい。
【0046】
上記非水溶媒としては、例えば、鎖状カーボネートが挙げられる。鎖状カーボネートとしては、炭素原子数3〜10のものが好ましく、例えば炭素原子数3〜7のジアルキルカーボネートが挙げられる。炭素原子数3〜7のジアルキルカーボネートとしては、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジ−n−プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、n−プロピルイソプロピルカーボネート、メチル−n−プロピルカーボネート、n−ブチルメチルカーボネート、イソブチルメチルカーボネート、t−ブチルメチルカーボネート、エチル−n−プロピルカーボネート、n−ブチルエチルカーボネート、イソブチルエチルカーボネート、t−ブチルエチルカーボネート等から選択される一種または二種以上の鎖状カーボネートを用いることができる。これらのうち、DMC、DEC、EMCの使用が電池特性向上の観点から特に好ましい。
【0047】
ここで開示される好ましい技術では、鎖状カーボネートは、非水電解液中、非水溶媒全体(100体積%)に対して、好ましくは60体積%以上、より好ましくは70体積%以上、さらに好ましくは75体積%以上である。鎖状カーボネートの含有割合を60体積%以上とすることにより、NMPの含有による電池性能向上効果がより確実に発揮され得る。その一方、鎖状カーボネートの含有割合が多すぎる電解液は、該電解液の凝固点が上昇するため、低温で電解液が凍りやすくなる。電解液の凍結防止の観点からは、鎖状カーボネートの含有割合を概ね80体積%以下にすることが適当であり、好ましくは75体積%以下である。例えば、鎖状カーボネートの含有割合が60体積%以上80体積%以下を満足する電解液が、電池性能向上効果と凍結防止とを両立するという観点から適当である。
【0048】
上記電解液を構成する非水溶媒のうち上記鎖状カーボネートを除く残部は、環状カーボネートであることが好ましい。環状カーボネートとしては、炭素原子数2〜5のものが好ましく、例えば炭素原子数2〜4のアルキレン基を有するものが挙げられる。炭素原子数2〜4の環状カーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート等、が例示される。これらの中から選択される一種または二種以上の環状カーボネートを用いることができる。好ましい一態様では、非水溶媒全体を100体積%としたときに、環状カーボネートの占める割合が30±10体積%であり、鎖状カーボネートの占める割合が70±10体積%である。
【0049】
その後、上記開口部を蓋体54との溶接等により封止し、本実施形態に係るリチウム二次電池100の組み立てが完成する。ケース50の封止プロセスや電解液の配置(注液)プロセスは、従来のリチウム二次電池の製造で行われている手法と同様でよく、本発明を特徴付けるものではない。このようにして本実施形態に係るリチウム二次電池100の構築が完成する。このようにして構築されたリチウム二次電池100は、上記のように内部抵抗の低い正極10を用いて構築されていることから、優れた電池性能を示すものである。例えば、上記正極を用いてリチウム二次電池を構築することにより、出力特性及び耐久性に優れる電池(例えば長期放置しても出力特性が低下しにくい電池)を提供することができる。
【0050】
以下、本発明に関する試験例を説明するが、本発明を以下の試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0051】
<試験例1>
・サンプル1〜5
本例では、正極活物質粒子の中空度が電池性能に与える影響を調べるため、以下の試験を行った。すなわち、中空度がそれぞれ異なる中空構造の正極活物質粒子を用意し、正極集電体の両面に正極活物質層が設けられた正極シートを作製した。ここでは正極活物質層中のNMP含有量は同程度とした。さらに、正極シートを用いて評価試験用のリチウム二次電池を構築し、25℃で30日間放置する耐久試験を行い、上述した正極活物質粒子の中空度が電池性能に与える影響を評価した。
【0052】
この評価試験では、正極活物質としてLi1.15Ni0.33Co0.33Mn0.332で表わされる組成の中空粒子を用いた。ただし、合成条件を変えることで互いに中空度が異なる計4種類の中空構造の正極活物質粒子を用意した(サンプル1〜4)。また、比較のために、内部に空洞のない中実構造の正極活物質粒子を用意した(サンプル5)。各サンプルで用いた正極活物質粒子のタップ密度及びDBP吸収量を表1に示す。
【0053】
上記正極活物質粒子と、導電材としてのABと、バインダとしてのPVdFとを、これらの材料の質量比が90:8:2となるようにNMP中で混合して、正極活物質層形成用組成物を調製した。この組成物を長尺シート状の厚み15μmのアルミニウム箔の両面に帯状に塗布し乾燥することにより、正極集電体の両面に正極活物質層が設けられた正極シートを作製した。正極活物質層の目付け量(塗布量)は、両面合わせて約11.2mg/cm(固形分基準)となるように調節した。乾燥条件は、炉内温度130℃、炉内滞留時間36秒とした。乾燥後、正極活物質層内に残留しているNMPの含有量を前記方法により測定した。また、正極活物質層のD10細孔径を水銀ポロシメーターにより測定した。結果を表1に示す。
【0054】
次に、このようにして作製したサンプル1〜5に係る正極シートを用いて評価試験用のリチウム二次電池を作製した。評価試験用のリチウム二次電池は、以下のようにして作製した。
【0055】
負極活物質としては、グラファイト粉末を用いた。まず、グラファイト粉末と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)と増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、これらの材料の質量比が98:1:1となるように水に分散させて負極活物質層形成用組成物を調製し、これを長尺シート状の銅箔(負極集電体)の両面に塗布し、負極集電体の両面に負極活物質層が設けられた負極シートを作製した。負極活物質層の目付け量(塗布量)は、両面合わせて約7.3mg/cm(固形分基準)となるように調節した。
【0056】
正極シート及び負極シートを2枚のセパレータシート(多孔質ポリエチレン製の単層構造のものを使用した。)を介して積層して捲回し、その捲回体を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって扁平状の捲回電極体を作製した。この捲回電極体を非水電解液とともに箱型の電池容器に収容し、電池容器の開口部を気密に封口した。非水電解液としてはECとDMCとEMCとを3:4:3の体積比で含む混合溶媒に支持塩としてのLiPFを約1mol/リットルの濃度で含有させた非水電解液を使用した。このようにしてリチウム二次電池を組み立てた。その後、常法により初期充放電処理(コンディショニング)を行って試験用のリチウム二次電池を得た。かかるリチウム二次電池の定格容量は凡そ4Ahとなった。
【0057】
<初期抵抗の測定>
次に、上記のように構築した試験用リチウム二次電池について、初期抵抗を測定した。まず、25℃の温度下において、1Cの定電流で3.7Vまで充電し、続いて1時間、定電圧で充電した。その後、40Aの電流で5秒間の放電を行い、そのときのセル電圧の変化と電流値から初期抵抗値を算出した。
【0058】
<耐久試験>
上記初期抵抗の測定後、試験用リチウム二次電池のそれぞれに対し、耐久試験を行った。具体的には、25℃の温度下において、1Cの定電流で3.7Vまで充電し、続いて1時間、定電圧で充電した後、25℃の恒温槽内で30日間放置する耐久試験を行った。そして、上記耐久試験前における抵抗値(初期抵抗)と、上記耐久試験後における抵抗値(放置後抵抗)とから抵抗増加率(=耐久試験後における抵抗値(放置後抵抗)/耐久試験前における抵抗値(初期抵抗))を算出した。なお、上記耐久試験後における抵抗値は、初期抵抗と同じ手順で測定した。結果を表1および図5〜図7に示す。図5は正極活物質粒子のタップ密度(g/cm)と上記抵抗(mΩ)との関係を示すグラフであり、図6は正極活物質粒子のDBP吸収量(mL/100g)と上記抵抗(mΩ)との関係を示すグラフであり、図7は正極活物質層のD10細孔径(μm)と上記抵抗(mΩ)との関係を示すグラフである。
【0059】
【表1】

【0060】
表1及び図5〜図7から明らかなように、中実粒子を用いたサンプル5に係る電池は、25℃で30日間放置した後の抵抗がサンプル1〜4に比べて大きく上昇し、耐久性に欠けるものであった。これに対し、中空粒子を用いたサンプル1〜4に係る電池は、25℃で30日間放置する耐久試験後においても抵抗はほとんど上昇せず、極めて高い耐久性性能を示した。中空粒子は、NMPを保持する空洞の周りが外殻で囲まれているため、単なる粒子間の隙間に比べてNMPの保持性が格段に向上する。そのため、中空粒子を用いた電池は、中実粒子を用いた電池よりもNMPが抜けにくくなり、上記耐久試験後においても高い性能を安定して発揮する電池が構築できたものと考えられる。
【0061】
さらに、中空粒子を用いたサンプル1〜4を比較すると、正極活物質粒子の中空度が大きいほど、上記耐久試験後における抵抗増加率が減少傾向となった。
例えば、図5において、正極活物質粒子のタップ密度が小さいほど、正極活物質粒子の中空度が大きいことを示唆している。ここで供試した電池の場合、正極活物質のタップ密度を1.8g/cm以下とすることによって、1.01以下という極めて低い抵抗増加率を達成できた。耐久後の抵抗上昇を抑制する観点からは、中空構造であって且つタップ密度が概ね1.8g/cm以下、好ましくは1.5g/cm以下、特に好ましくは1.3g/cm以下の正極活物質を用いることが好ましい。
【0062】
また、図6において、正極活物質粒子のDBP吸収量が大きいほど、正極活物質粒子の中空度が大きいことを示唆している。ここで供試した電池の場合、正極活物質のDBP吸収量を28(mL/100g)以上とすることによって、1.01以下という極めて低い抵抗増加率を達成できた。耐久後の抵抗上昇を抑制する観点からは、中空構造であって且つDBP吸収量が概ね28(mL/100g)以上、好ましくは40(mL/100g)以上、特に好ましくは45(mL/100g)以上の正極活物質を用いることが好ましい。
【0063】
また、図7において、正極活物質層のD10細孔径が小さいほど、正極活物質粒子の中空度が大きいことを示唆している。ここで供試した電池の場合、正極活物質層のD10細孔径を0.12μm以下とすることによって、1.01以下という極めて低い抵抗増加率を達成できた。耐久後の抵抗上昇を抑制する観点からは、中空構造であって且つ正極活物質層のD10細孔径が概ね0.12μm以下、好ましくは0.05μm以下、特に好ましくは0.02μm以下となるような正極活物質を用いることが好ましい。
【0064】
<試験例2>
・サンプル2,6〜10
本例では、正極活物質層中のNMP含有量が電池性能に与える影響を調べるため、以下の試験を行った。すなわち、正極活物質としてサンプル2の中空構造の正極活物質粒子を用い、正極集電体の両面に正極活物質層が設けられた正極シートを作製した。ただし、正極活物質層の乾燥条件を変えることで、互いにNMP含有量が異なる正極活物質層を形成した。さらに、正極シートを用いて評価試験用のリチウム二次電池を構築し、上述したNMP含有量が電池性能に与える影響を評価した。
【0065】
サンプル6では、正極活物質層の乾燥条件について、炉内温度150℃、炉内滞留時間18秒としたこと以外はサンプル2と同様にして正極シートを作製した。そして、サンプル2と同様にしてリチウム二次電池を構築し、その性能を評価した。
【0066】
サンプル7では、正極活物質層の乾燥条件について、炉内温度130℃、炉内滞留時間12秒としたこと以外はサンプル2と同様にして正極シートを作製した。そして、サンプル2と同様にしてリチウム二次電池を構築し、その性能を評価した。
【0067】
サンプル8では、正極活物質層の乾燥条件について、炉内温度150℃、炉内滞留時間36秒としたこと以外はサンプル2と同様にして正極シートを作製した。そして、サンプル2と同様にしてリチウム二次電池を構築し、その性能を評価した。
【0068】
サンプル9では、正極活物質層の乾燥条件について、炉内温度120℃、炉内滞留時間24秒としたこと以外はサンプル2と同様にして正極シートを作製した。そして、サンプル2と同様にしてリチウム二次電池を構築し、その性能を評価した。
【0069】
サンプル10では、正極活物質層の乾燥条件について、炉内温度120℃、炉内滞留時間18秒としたこと以外はサンプル2と同様にして正極シートを作製した。そして、サンプル2と同様にしてリチウム二次電池を構築し、その性能を評価した。
【0070】
結果を表2及び図8に示す。図8は、正極活物質層中のNMP含有量(ppm)と上記抵抗(mΩ)との関係を示すグラフである。
【0071】
【表2】

【0072】
表2及び図8から明らかなように、NMP含有量が50ppm〜600ppmであるサンプル2,6,7に係る電池によると、初期抵抗が2.30mΩ以下と極めて低く、良好な電池性能を示した。一方、NMP含有量が34ppmであるサンプル8に係る電池では、初期抵抗が2.35mΩを上回り、サンプル2,6,7よりも電池性能が低下した。さらに、NMP含有量が700ppm以上であるサンプル9,10に係る電池はいずれも初期抵抗が2.38mΩ以上であった。初期抵抗を小さくする観点では、NMP含有量は概ね50ppm〜600ppmが適当であり、好ましくは150ppm〜400ppm、特に好ましくは200ppm〜400ppmである。
【0073】
なお、NMP含有量が500ppmを超えたサンプル9,10に係る電池は、初期抵抗が比較的高かったものの、耐久試験後における抵抗上昇率は1.0以下となり、極めて高い耐久性性能を示した。このことから、NMP含有量が500ppmを超えると、耐久性性能がさらに向上すると云える。耐久性性能を向上させる観点では、NMP含有量Xが、500ppm<X(特には550ppm<X)であることが好ましい。低い初期抵抗と良好な耐久性性能とを高いレベルで両立させる観点からは、500ppm<X≦600ppmが適当であり、特には500ppm<X≦550ppmであることが好ましい。
【0074】
<試験例3>
・サンプル2,5,11
本例では、非水電解液を構成する非水溶媒の組成が電池性能に与える影響を調べるため、以下の試験を行った。すなわち、
サンプル11では、正極活物質としてサンプル2の中空構造の正極活物質粒子を用い、かつ非水電解液を構成する非水溶媒の組成をEC/DMC/EMC:4/2/4の体積比に変更したこと以外はサンプル2と同様にして評価試験用電池を構築し、その性能を評価した。結果を表3及び図9に示す。図9は、非水電解液の溶媒組成(EC/DMC/EMC)と上記抵抗(mΩ)との関係を示すグラフである。
【0075】
【表3】

【0076】
表3及び図9から明らかなように、非水電解液の溶媒組成(EC/DMC/EMC)を3:4:3としたサンプル2に係る電池は、非水電解液の溶媒組成(EC/DMC/EMC)を4:2:4としたサンプル11の電池に比べて、初期抵抗が小さかった。ここでECは環状カーボネートであり、DMC及びEMCは鎖状カーボネートである。このことから、非水電解液中の鎖状カーボネート(DMC/EMC)の含有割合が増えるほど、NMP含有による初期抵抗低減効果が大きいと云える。初期抵抗低減効果を高める観点からは、非水溶媒全体に対して鎖状カーボネートの含有割合は、概ね60体積%以上が適当であり、好ましくは70体積%以上である。
【0077】
ここに開示される技術によると、正極活物質粒子を含む正極活物質層が正極集電体に保持された正極と、負極活物質粒子を含む負極活物質層が負極集電体に保持された負極と、非水電解液とを備え、
上記正極活物質粒子は、
リチウム遷移金属酸化物で構成された殻部と、
上記殻部の内部に形成された中空部と、
上記殻部を貫通する貫通孔と
を有し、
上記正極活物質層は、該正極活物質層の全固形分に対して50ppm以上600ppm以下のNMPを含有する、理論容量が1Ah以上(さらには4Ah以上)のリチウム二次電池であって、
以下の耐久試験:
室温(約25℃)環境下において、1Cの定電流で3.7Vまで充電し、続いて1時間、定電圧で充電した後、25℃の恒温槽内で30日間放置する;
の後における抵抗値(放置後抵抗)と、上記耐久試験前における抵抗値(初期抵抗)とから求められる抵抗増加率が、1.01以下(好ましくは1.005以下)であることを特徴とするリチウム二次電池が提供され得る。ここで、耐久試験の前後における抵抗値は、25℃の温度下において、1Cの定電流で3.7Vまで充電し、続いて1時間、定電圧で充電した後、40Aの電流で5秒間の放電を行い、そのときのセル電圧の変化と電流値から算出するものとする。また、上記抵抗増加率は、[耐久試験後の抵抗値(放置後抵抗)/耐久試験前の抵抗値(初期抵抗)]により求められる。上記抵抗増加率を満たし、且つ初期抵抗が2.35mΩ以下(より好ましくは2.3mΩ以下)であるリチウム二次電池がより好ましい。
【0078】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0079】
ここに開示される技術により提供されるリチウム二次電池は、上記のように優れた性能を示すことから、各種用途向けのリチウム二次電池として利用可能である。例えば、自動車等の車両に搭載されるモータ(電動機)用電源として好適に使用され得る。かかるリチウム二次電池は、それらの複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態で使用されてもよい。したがって、ここに開示される技術によると、図10に模式的に示すように、かかるリチウム二次電池(組電池の形態であり得る。)100を電源として備える車両(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車)1が提供され得る。
【符号の説明】
【0080】
10 正極シート
12 正極集電体
14 正極活物質層
16 導電材
18 バインダ
20 負極シート
30 正極活物質粒子
32 二次粒子
34 中空部
35 殻部
36 貫通孔
38 一次粒子
40 セパレータシート
50 電池ケース
52 ケース本体
54 蓋体
70 正極端子
72 負極端子
74 正極リード端子
76 負極リード端子
80 捲回電極体
90 非水電解液
100 リチウム二次電池


【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質粒子を含む正極活物質層が正極集電体に保持された正極と、負極活物質粒子を含む負極活物質層が負極集電体に保持された負極と、非水電解液とを備えるリチウム二次電池であって、
前記正極活物質粒子は、
リチウム遷移金属酸化物で構成された殻部と、
前記殻部の内部に形成された中空部と、
前記殻部を貫通する貫通孔と
を有し、
前記正極活物質層は、該正極活物質層の全固形分に対して50ppm以上600ppm以下のN−メチルピロリドン(NMP)を含有する、リチウム二次電池。
【請求項2】
前記正極活物質層中のNMPの含有量Xが、200ppm≦X≦400ppmである、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
前記正極活物質層中のNMPの含有量Xが、500ppm<X≦600ppmである、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
前記正極活物質粒子のタップ密度が、1.8g/cm以下である、請求項1〜3の何れか一つに記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
前記正極活物質の100g当たりのDBP吸収量が、30mL〜50mLである、請求項1〜4の何れか一つに記載のリチウム二次電池。
【請求項6】
前記正極活物質層の水銀ポロシメーターによる体積基準の細孔分布において小径側からの累積10%径に相当する細孔直径(D10)が、0.15μm以下である、請求項1〜5の何れか一つに記載のリチウム二次電池。
【請求項7】
前記非水電解液は、非水溶媒として少なくとも鎖状カーボネートを含有し、
前記非水溶媒全体に対して鎖状カーボネートの含有割合が、60体積%以上である、請求項1〜6の何れか一つに記載のリチウム二次電池。
【請求項8】
前記非水電解液を構成する非水溶媒のうち、前記鎖状カーボネートを除く残部が、環状カーボネートである、請求項7に記載のリチウム二次電池。








【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−65409(P2013−65409A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202120(P2011−202120)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】