説明

リチウム二次電池

【発明の詳細な説明】
産業上の利用分野 本発明は、移動用直流電源,バックアップ電源などとして用いることができる充放電可能なリチウム二次電池に関するものである。
従来の技術 リチウムを負極に用いる充電可能なリチウム二次電池は、原理的に高エネルギー密度を有することから、近年注目を集め、各地でさかんに開発がすすめられている。
しかしながら、充放電のさい、リチウムに発生する樹脂状、苔状のリチウムのデンドライトのため、正極と負極が導通状態となり、いわゆる電池の内部ショートを引き起こしてしまったり、負極自身が元に形状より次第に崩れて劣化していくため、長期にわたる充放電サイクル寿命の達成が非常に困難であった。
そこで、その解決策の一つのとして、リチウムを吸蔵・放出するリチウム合金が試みられているが、大量のリチウムの吸蔵・放出時には、合金が崩れ易く、必ずしも十分な効果は得られておらず、いまなお負極の改良が望まれている。
発明が解決しようとする課題 さらに、別の試みとして、正極に電位の高い5酸化バナジウムを用い、負極にリチウムをドープした5酸化ニオブを用いた電池系がある(特公昭62−59412号公報)。この負極に用いた5酸化ニオブには、リチウムドープ,アンドープし易く、リチウム合金に較べ、充放電サイクル寿命がかなり強いとみられる。
そこで、上記の組み合わせで種々検討してみたところで、次の問題点が明らかになった。
正極に5酸化バナジウムと導電材としてカーボンブラック及び結着剤としてのフッ素樹脂とから構成される合剤を、負極にリチウムをドープした5酸化ニオブと導電剤としてカーボンブラック及び結着剤としてのフッ素樹脂とから構成される合剤をそれぞれ用い、リチウム塩を溶解した有機溶媒を電解液として、電池を構成すると、組み立て直後約2V前後の電圧を得ることができる。
ところが、これを、60℃のような高温中に保存すると、電圧が次第に低下すると同時に自己放電も進行し、やがては電気容量もなくなってしまう、さらに、2Vの電圧で充電しても、充分回復せず、初期容量の半分以下になってしまうこともある。
これでは、たとえ通常の充放電サイクル寿命がよかったとしても、長期の信頼性があるといえず、改善が必要であった。
そこで、本発明では、負極に5酸化オブを用いるリチウム二次電池において、負極処方を改善し、充放電サイクル寿命のみならず、保存特性にもすぐれるリチウム二次電池を提供することを目的としたものである。
課題を解決するための手段 前記の課題を解決するために、本発明者は種々検討したところ、負極中の導電材として耐蝕性金属粉末を用い、さらに負極ケースへの集電体として、電気伝導性の良く、耐蝕性のすぐれた金属板又は多孔体を用いれば良いことを見出した。
作用 一般的に、有機電解液を使用するリチウム二次電池において、正極合剤中に導電材として、カーボンブラックを用いるのが常識的である。それは、導電性にすぐれ、表面積が大きいことの他、有機溶媒中において高い安定だからである。
ところが、今回のように負極の金属の酸化物を採用した場合、その導電材として、カーボン系のものを用いると、電位はリチウムの電位に近くなるため、カーボン自身にリチウムがドーピングされるようになる。
正確にはさだかでないが、純リチウムの電位に対し約2V以下の領域で、電位が卑になる程、リチウムがドーピングし易くなる。
カーボンにリチウムがドーピングされると、カーボンの表面層が炭化リチウムとなるため、導電性が劣化したり、接触抵抗そのものが増大してしまうことなどが考えられる。その上に高温中において、放置すると負極酸化物のリチウムが、さらにカーボン中に移行し、負極酸化物中のリチウムの濃度が希薄になってしまうことも考えられる。
これらのことより、負極中には極力カーボンを添加しないようにし、そのかわり前述したように、導電性のすぐれる耐蝕性の金属粉末を用いることにより、リチウムのドーピングによる悪影響を防止することができる。
ここで、耐食性の金属を用いる理由としては、電池を放電したとき、負極の電位が上昇するので腐触され易くなるからである。たとえば、カドミウムや鉛などを用いた場合、負極の電位がリチウムに対し、2V以上になると、わずかづつ溶解し、それがもとで電池の内部ショートなど引き起こし、電池機能をだめにしてしまう。
このことから、極力、耐蝕性の強い金属を用いた方が耐過放電性能に有利となる。
用いる金属としては、Pt,Ag,Ni,A■,Cu,MOなどが良い。
理想的に言えば、導電材として上記の金属を100%使用することが好ましいが、実際には金属粉末のみの場合相当の比率で添加せなばならないこと、及び合剤の成形性がカーボンに較べて必ずしも良くないことなどから、カーボンの悪影響の及ぼさない程度に添加し、さらに耐蝕性金属粉末を適当量添加することも好ましい。
一方、負極合剤を負極ケースに収納する場合、たとえばコイン形電池の場合、負極ケースにスッポリ収納し負極ケースへの導通は負極合剤と負極ケースの内面との圧接に頼るのが一般的である。このとき、接触抵抗を小さくし、安定に維持するために、負極合剤と接触する負極ケース内面に、カーボン塗膜層をあらかじめ設けておけば良いわけであるが、この場合には、やはり前述と同様に、カーボンへのリチウムのドーピングによる悪影響が考えられる。この部分は、負極合剤と負極ケースの界面に当たるので、一たび、炭化リチウム層を形成してしまうと、負極が孤立状態となり電池機能を大きく低下させていまうことも考えられ、この点においてむしら負極合剤内部の導電材よりも重要である。逆に言へば、この接触界面をカーボン塗膜層を使わず、耐食性金属でしっかりと良好に電気接触を保っておけば、負極合材内部にカーボンを有していても、保存性の向上は十分に期待できるわけである。
負極のケースの集電体としては、耐蝕性金属の板状もしくはネット,ラスなどの多孔体を溶接し、電池を構成したとき、この集電体に負極合剤が食い込むようにしておけば良い。
耐蝕性金属としては、Pt、Ag、Ni,ステンレス鋼など適当である。
また、より導電性にすぐれ、かつ安価にするため、Niやステンレス鋼にAgメッキを施すのも良い方法である。
実施例(実施例1)
第1図は本発明におけるリチウム二次電池の断面図である。図中、1は正極端子を兼ねたケース、2は負極端子を重ねた封口板、3はケースと封口板を絶縁シールするポリプロピレン製ガスケット、4は正極であり、今回は5酸化バナジウム90wt%導電剤であるカーボンブロック5wt%および結着剤であるフッ素樹脂の水性ディスパージョンを固定分で5wt%混練し、乾燥粉砕後、直径15mmのペレットに成形し150℃真空乾燥をして脱水したものである。この正極4の5酸化バナジウムの充填量は約238mgで、理論電気容量は一電子反応では約35kAh相当である。
5は負極であり、本発明における導電剤として、金属粉末のみの場合30wt%、金属粉末と、カーボンブラックを混合する場合それぞれ20wt%,1wt%とし、第1表のNo.1〜No.13の如くした。


そして、結着剤であるフッ素樹脂の水性ディスパージョンを固定形分でも5wt%及び残分を5酸化ニオブとし、十分混練したのち、、乾燥粉砕後、直径15mmのペレットに成形し、150℃で真空乾燥をして脱水処理をして得られた合剤であり、この合剤に所望のリチウム箔を密着させ、過塩素酸リチウムを1モル1■含むプロピレンカーボネート液中に浸漬し、リチウムを5酸化ニオブ中にドーピングしたものである。その電気容量としては正極の約1.3倍程度であるが、実効電気容量としては、正極とほぼ同程度である。
6はポリプロピレン製微孔膜、及び不織布の2層ラミネート体からなるセパレータである。
電解液はプロピレンカーボネートと1.2ジメトキシタエタンを1:1で混合した溶媒に過塩素酸リチウムを1モル/■溶解したものである。7は、負極集電体であるがNo.1〜No.13においては、厚さ0.1t大きさ10×10mmのステンレスSUS304の角板を5の負極ケースに溶接したものである。
この電池の大きさは、直径20mm,厚さ2.5mmである。
(実施例2)
負極集電体を比較するため、負極合剤中の導電材をAg粉末にほぼ統一し、(一部は比較用にカーボンブラックを用いた)他はすべて、実施例1と同じとした。
負極集電体及び負極合剤中の組み合わせは、第1表、No.14〜No.26に示した通りである。
No.26は従来のもので、すべてカーボンブラックを用いたものであり、No.15は負極合剤の導電材のみカーボンブラックを用い、負極ケース集電体はAg板にしたものである。なお、No.17はNo.2とまったく同じである。
(実施例3)
正極として、5酸化バナジウムのかわりに2酸化マンガン及びクロム酸化物を用い、負極はNo.16及びNo.26とし、他はすべて実施例1と同じ条件で試作した。
実施例1,2の電池を用い、電池を組立てて2日間エージングしたのち、1.0mAで放電し、1Vに至るまでの電気容量を測定したところ、No.1を100とすると第2表の如くなった。これらの値を初期電気容量とする。


初期電気容量の比較では、1.0mAではあまり大きな差はない、しかし、これを2Vの定電圧で10時間充電後60℃の高温中で、40日間放置し、再び2Vで10時間充電した後、別々の電池1で1mAと5mAで放電し、1Vに至るまでの電気容量を測定した。そしてそれぞれ初期電気容量に対する保持率を算出した。その結果を同じく第2表に示した。1mAの比較では、負極合剤の導電材及び負極ケース集電体共カーボンを用いたNo.26は、保持率が50%以下に減少しているのに較べ、No.1〜No.6及びNo.13のすべて金属を用いたものは、電気容量がかなりの率で保持されいる。
また、金属に加えカーボンを1wt%添加したNo.7〜No.12においても保持率が約85%前後と高い。
これらのことより、金属を負極導電材として用いることにより、高温保存特性が改善されるし、幸いなことにカーボンが1wt%の場合には悪影響が小さいことがわかる。またNo.15より、負極合剤にカーボンを使用しても負極集電体にAg板を用いただけで、かなり改善されることがわかる。さらに、5mAでの結果を比較すると、負極ケース集電体として、板状金属を用いたNo.1〜No.6,No.13及びNo.14〜No.19はやや低下傾向が大きく、No.20〜No.25によるネット状集電体を用いた方が有利である。また、板状基板でもNo.7〜12は比較的良い。これはカーボンの分散性が良いため好結果を招いたと思われる。いづれにせよ、これらはすべて、No.26の従来例と較べるとはるかに良い。
又、板状においても、ネット状においても、AgあるいはAgメッキを施したものは、他の材質のものより良い。このことから、強負荷使用の場合は、Ag系がとくに有利である。コスト面も合わせるとAgメッキが良い。
さて、つぎにNo.1〜No.6及びNo.13の電池を用い、3kΩの定抵抗をつないだまま、60℃の高温雰囲気で40日間放置し、高温過放電テストを行なった。その後、2V定電圧で10時間充電し、1mAの放電比較を行なった。1Vに至るまでの電気容量のそれぞれの初期に対する保持率を同じく第2表に示したが、No.13のCdを使用したものが非常に悪かった。それに較べNo.1〜No.6は比較的よくでており、とくにNo.1,2が良かった。No.13についてCdを使用した場合過放電中、負極の電位が上昇したため、溶解現象などを引き起こしたため劣化したものと思われる。それに対しNo.1〜No.6は電位が上昇しても耐え抜き、とくにPt,Agが耐蝕性にすぐれるものと考えられる。
これらのことより、負極に耐蝕性金属を導電材あるいは集電体として用いることにより、過放電に耐えながら、保存特性を向上させることが明らかである。
つぎに実施例3の電池を用い、同じく、初期電気容量を確認した後、60℃の高温中で40日間保存し、実施例1と同じように初期に対する保持率を調べたが、結果は実施例1と同じく、カーボンを用いたものは、保持率が50を切り、Agを用いたものはすべて、85%以上の高い維持率であった。
このことから、本発明では正極の材質はを問わず、有機電解液を用いる電池系すべてに共通のものと考えられる。
発明の効果 本発明の負極により、単に充放電サイクル特性にすぐれるだけでなく、過放電にも耐えながら、保存特性を大幅に改善でき、すぐれた信頼性のリチウム二次電池を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明における充放電可能なコイン形のリチウム二次電池の縦断面図である。
1……正極ケース、2……封口板、3……ガスケット、4……正極、5……負極、6……セパレータ、7……負極集電体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】リチウム塩を溶解した有機溶媒を電解液とし、充電状態にある正極が金属の酸化物あるいは硫化物から構成され、負極がリチウムをドーピングした5酸化ニオブから構成され、負極中の導電材として、耐蝕性金属粉末およびカーボン粉末を含有したことを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項2】耐蝕性金属粉末がPt,Ni,Ag,A■,Cu,Moからなる群のいずれかである特許請求の範囲第1項記載のリチウム二次電池。
【請求項3】カーボン粉末の含有比率が、負極重量に対して1wt%以下である特許請求の範囲第1項又は第2項記載のリチウム二次電池。
【請求項4】正極が、5酸化バナジウム、又は二酸化マンガンからなる特許請求の範囲第1項から第3項記載のリチウム二次電池。

【第1図】
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【特許番号】特許第3019326号(P3019326)
【登録日】平成12年1月7日(2000.1.7)
【発行日】平成12年3月13日(2000.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平1−170140
【出願日】平成1年6月30日(1989.6.30)
【公開番号】特開平3−37968
【公開日】平成3年2月19日(1991.2.19)
【審査請求日】平成8年2月7日(1996.2.7)
【出願人】(999999999)松下電器産業株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭56−147368(JP,A)
【文献】特開 昭57−11476(JP,A)
【文献】特開 平2−49364(JP,A)