説明

リチウム含有サイアロン蛍光体およびその製造法

【課題】結晶性のよいα−サイアロンを合成することにより高強度の発光を得ることを目的とするとともに、発光を短波長にシフト(ブルーシフト)させることにより演色性に優れた白色LEDを提供する。
【解決手段】α−サイアロン設計において、一般式(Lix、,Cay,Euz)(Si12-(m+n)Alm+n)(On16-n)で示されるα−サイアロンであって、0<x<2.0、0<y<2.0、0<z≦0.5(ただし0.3≦x+y+z≦2.0)、0< m≦4.0、0< n≦3.0の範囲に調製することによって解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、Eu2+イオンで光学的に活性化させたリチウム含有α−サイアロン蛍光体に関する。さらに詳しくは、青色発光ダイオード(青色LED)を照射した蛍光体から放射される黄色光と励起光を混合することにより白色光を得る発光ダイオード(白色LED)の高輝度化を可能とするサイアロン蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の表示装置に用いられている蛍光材料は、これまでは酸化物や硫化物が中心であった。しかし、安定性や発光特性で問題が残っていた。特に、可視光を発光させるには紫外光や電子線等の高エネルギーを必要としていた。近年、短波長のGaInN系の青色レーザが開発され、これを励起光とする白色LEDが開発されている。
【0003】
青色レーザの照射で黄色光を発光する材料としては、酸化物であるガーネット((Y,Gd)3(Al,Ga)512:Ce、以下YAG:Ceと記す)が知られている。この蛍光体は、Y−Al−ガーネットのY位置を一部Gdで、Al位置を一部Gaで置換すると同時に活性化イオンであるCe3+をドープしたものである(非特許文献1)。この黄色蛍光体の発光強度の最大値は550nm付近であり、励起光と混合後の白色は赤色成分が少ないため青白い光しか得られないので演色性の点で利用しうる分野が限定されるという問題がある。
【0004】
一方、窒化物若しくは酸窒化物を母体結晶とし、希土類金属を活性化金属とする蛍光体は最近になって世界的に注目されている。酸化物の一部を窒素で置換した酸窒化物は、相当する酸化物に比べ、共有結合性の増加のため励起光や発光のスペクトルが長波長側にシフトすることが明らかになった(非特許文献2)。
【0005】
α−Si34は高温では不安定でβ型に相転移するが、その格子間にLi、Ca、Mg、Yまたはランタニド金属が侵入し、いわゆる侵入型固溶体を形成する。こうして生成したα−サイアロンは高温でも安定である。また、α−サイアロンの格子間に固溶する安定化金属の一部を、光学的に活性である金属イオンで置換すると長波長側にシフトし、レッドシフト発光を示すことはこの出願前において公知である(非特許文献3、4)。本発明者の一人(三友)もCa−α−サイアロンを母材とし、Eu2+をドープした蛍光材料は、紫−青の波長領域の可視光を当てると黄色の発光をする材料となることを見出した(特許文献1、2)。
【0006】
この材料は、青色LEDを励起光として照射するとその補色である黄色光を発光し、両方の光の混合によって白色LED用の蛍光体として使用できることが分かった(特許文献3)。これらの材料ではEu2+のα−サイアロン格子への固溶量が少なく、発光強度が十分ではないという問題が残っている。また、Li−α−サイアロンにEu2+をドープした蛍光体も開示されているが(特許文献4)、その発光強度は実用レベルに達していなかった。これは、固溶反応が高温で起これるため添加したLiとEuが少量しか格子内に固溶しないためと推定される。
【0007】
α−サイアロンはα−Si34の固溶体であり、α−Si34の結晶構造の単位格子間に直径約0.1nmの大きな空間が2個ある。その空間に金属が固溶するとその構造が安定化される。従ってリチウム含有α−サイアロンの一般式は(Lix,My)(Si12-(m+n)Alm+n)(On16-n)であり、この構造の特徴から固溶する金属の数(x+y)は最大でも2となる。α−サイアロンの一般式のm値はα−Si34構造のSi−N結合を置換
するAl−N結合の数に相当するもので、m=x+δy(ただし、δは金属Mの価数)の関係にある。n値はSi−N結合を置換するAl−O結合の数である。α−サイアロンでは金属−窒素の結合が主であり、窒素含有率が高い固溶体である。
【0008】
この格子置換と金属の侵入型固溶によって電気的に中性が保たれる。この結晶構造と窒素含有率の高い化学組成の特徴のため、特殊な組成のα−サイアロンは励起光と発光が長波長側にシフト(レッドシフト)する。
【0009】
α−サイアロンは、例えば、Si34−AlN−Eu23−CaO系の混合粉末を窒素気流中で1750−1850℃に加熱すると、低融点の液体が生成し加熱または時間の経過と共に固体と液相が反応し、最終的にはEu2+をドープしたCa−α−サイアロンとなる。この加熱過程で添加した3価のEuは2価に還元され光学活性を示す。従来の材料では、この遷移的液相の量が少なく、融点も高いため十分反応が進行しない問題があった。
【0010】
ところで、防災照明若しくは信号灯などの信頼性が要求される分野、車載照明や携帯電話のバックライトのように小型軽量化が望まれる分野、また、駅の行き先案内板のように視認性が必要とされる分野などには、白色LEDが用いられてきている。この白色LEDの発光色、すなわち白色光は光の混色により得られるものであり、発光源である波長380〜480nmの青色LEDが発する青色光と、蛍光体が発する黄色光とが混合したものである。このような白色LEDに適当な蛍光体は、発光源である前記の青色LEDチップの表面に薄くコーティングされる。
【0011】
【特許文献1】特願2001−171831
【特許文献2】特願2002−149022
【特許文献3】特願2002−349286
【特許文献4】特願2002−228081
【非特許文献1】向井、中村、“白色および紫外LED”、応用物理 68、 152−55 (1998).
【非特許文献2】J. W. H. van Krevel et al. “Long wavelength Ca3+ emission in Y−Si−O−N materials”, J. Alloys and Compounds, 268, 272−277(1998))
【非特許文献3】J. W. H. van Krevel et al、 “Luminescence properties of terbium−,cerium−,or europium− dopedα−sialon materials,” J. Solid State Chem. 165, 19−24 (2002).
【非特許文献4】R.J.Xie et al,”Preparation and Luminescence spectra of calcium− and rare−earth (R=Eu, Tb and Pr) ?codoped α−SiAlON ceramics”, J. Am. Ceram.Soc. 85, 1229−1234 (2002).
【非特許文献5】R.J.Xie et al, “Preparation of Ca−α−SiAlON ceramics with composition along the Si3N4−1/2Ca3N2:3AlN line”, Z.Metallkd. 92, 931−936 (2001).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
YAG:Ce系の酸化物蛍光体は、一般に励起波長が450nmを越えると、スペク
トル強度が著しく減少するという欠点を有している。また、発光スペクトルの長波長成分が少ないため青色を帯びた白色となり暖色系の白色は得られない欠点がある。本発明者等がすでに開発したα−サイアロン蛍光体(特許文献1、2)は、Eu2+をドープしたCa−α−サイアロンである。YAG:Ce系蛍光体とは反対に短波長成分が弱く暖色系の白色しか製造できない。またCa−α−サイアロン(特許文献1、2)とLi−α−サイアロンにEu2+をドープした蛍光体(特許文献4)は、共にその発光強度がまだ低いという問題がある。従来の材料では反応温度と液相の融点の差が小さく、反応が十分進行しないため、発光強度を高めるには高温で長時間熱処理する必要があった。
【0013】
本発明の目的は、以上の事情に鑑みてなされたものであり、リチウムを同時ドープした原料組成から低融点の液相を介して、結晶性のよいα−サイアロンを合成することにより高強度の発光を得ることを目的とする。また、Eu2+と共にLi+を同時ドープし、発光を短波長にシフト(ブルーシフト)させることにより演色性に優れた白色LEDを製造するにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、リチウムを含む原料では低温で遷移的液相が生成し、固溶量の増加と結晶の完全性の向上が図られ、発光強度が上がるとともに発光がブルーシフトするとの技術的知見を得た。本発明はこれらの知見に基づいてなされたものである。
すなわち、第1の発明は、一般式(Lix、,Cay,Euz)(Si12-(m+n)Alm+n)(On16-n)で示されるα−サイアロンであって、0<x<2.0、0<y<2.0、0<z≦0.5(ただし0.3≦x+y+z≦2.0)、0< m≦4.0、0< n≦3.0の範囲であるリチウム含有サイアロン蛍光体である。望ましくは、0<x<1、0<y<1、0<z≦0.3の範囲である。
【0015】
さらに、それに他の固溶金属を添加した一般式(Lix,(Ca,M)y,Euz)(Si12-(m+n)Alm+n)(On16-n)で示される第2の発明で、その組成範囲は0<x<2.0、0<y<2.0、0<z≦0.5(ただし0.3≦x+y+z≦2.0)、0<m≦4.0、0<n≦3.0の範囲であり、MはMg、Yまたはランタニド金属の1種または2種以上の混合物であるLi含有サイアロン蛍光体である。ここに、0<x<2.0、0<y<2.0の範囲であるのは0であればその添加効果がなく、2.0以上は固溶しないためである。0<z≦0.5とするのは0であれば発光を示さず、0.5を越える量を添加すると濃度消光によって反って発光強度が低下するためである。格子間に固溶する総量が、0.3≦x+y+z≦2.0であるのは0.3より低いとα構造が安定でなく、2を越えるとそれ以上の固溶は進まず第2の相が共存するためである。これらの組成範囲であれは、一般式で示した式中のm、nの値は、0<m≦4.0、0<n≦3.0の範囲となる。
【0016】
この材料は、Si34−AlN−Li2O−Eu23−CaO(第1の発明の原料系)またはSi34−AlN−Li2O−Eu23−CaO−MO(第2の発明の原料系、ただし、MOはMg、Yまたはランタニド金属の酸化物の1種または2種以上を示す)からなる混合粉末を窒素雰囲気中で1500〜2000℃、0.5〜48時間の条件で加熱して合成することができる。望ましくは、1750〜1900℃、1〜10時間の範囲である。1750℃を越える高温で加熱すると原料の窒化ケイ素の一部が熱解離をするので5〜10気圧の加圧窒素中で行う。Li2O及びCaOは熱分解によってそれらを生成する炭酸塩等を用いるのが一般的である。
【0017】
原料の組成にLi化合物を含まず、上記材料に相当する組成のそれぞれSi34−AlN−Eu23−CaO系またはSi34−AlN−Eu23−CaO−MO系(ただし、MOはCa、Mg、Yまたはランタニド金属の酸化物の1種または2種以上を示す)の混
合粉末を加熱する際に、フラックスとして0.05〜20重量%のLi2O、Li2CO3またはLi3Nを添加してもその一部が格子内に固溶するため同様の効果を有する。
【0018】
これらの原料混合物を高温に加熱すると、Li2O−EuO−CaOまたはLi2O−EuO−CaO−MOと低融点の遷移的液相が生成して低温で反応が進む。時間の経過と共にその液相はα−サイアロン粒子内に固溶し、粒界に残る成分は少なくなる。
【0019】
第3の発明は、一般式(Lix、Cay, Euz)(Si12-mAlm)(N16)で示
される純粋な窒化物であるリチウム含有α−サイアロンである。Ca−α−サイアロンにおいて純粋な窒化物であれば酸を固溶した組成のものより固溶範囲が広い(非特許文献5)ことから、Liを含む系においてもこのような組成であれば固溶が広範囲となり、高強度の発光が達成されると推定される。その組成範囲は、0<x<2.0、0<y<2.0である。0であればその添加効果がなく、2.0以上は固溶しない。0<z≦0、5であるのは0であれば発光がなく、0.5を越える量を添加すると濃度消光によって反って発光強度が低下するためである。固溶量の和は、0.3≦x+y*z≦2.0の範囲である。0.3より低いとα構造が安定でなく、2を越えるとそれ以上の固溶は進まず第2の相が共存するためである。上記の組成範囲であれは一般式で示したmの値は0<m≦4.0の範囲となる。
【0020】
この材料は、原料の組成が所定の一般式に相当するSi34−AlN−EuN−Li3N系の混合物を窒素雰囲気中、1500〜2000℃、0.5〜48時間の条件で加熱すると生成する。Si34−AlN−EuN系の混合物にフラックスとして0.05〜20重量%のLi2OまたはLi2CO3を添加し、窒素雰囲気中、1500〜2000℃、0.5〜48時間の条件で加熱しても同様な材料が得られる。第4の発明は前記第3の発明のCaの代わりに金属M(MはMg, Yまたはランタニド金属の酸化物の1種または2種以上を示す)で置換したサイアロン蛍光体である。第3の発明の原料組成に金属の窒化物(MN)を加えて同様な条件で加熱することに得られる。
【0021】
本発明のLi含有α−サイアロンは励起光および発光共に長波長側に移動し、青色レーザを励起光とし高強度の黄色光を発光する。α−サイアロンは酸化物蛍光体に比べ構造や組成や複雑なので、発光スペクトルは広い範囲となる。発光スペクトルの長波長への移動(レッドシフト)は最大強度を示す波長で示すことができる。本発明の第1および第2では発光の最大波長が560nm以上590m以下の範囲内である。更に第3および第4の発明では窒素含有率が高いため580nm以上610nm以下とさらに長波長に移働する。
【0022】
材料がα−サイアロンであることから、本出願の蛍光体は母体材料のα−サイアロンの長所をも兼ね備え、化学的、機械的および熱的特性に優れるため、蛍光材料としても安定で長寿命である。また、上記性質に優れるため励起エネルギーが失われる原因となる熱的緩和現象を抑えることができ、したがって、本発明のLi+とEu2+を同時固溶させたα−サイアロンは温度上昇にともなう発光強度の減少率が小さくなり、使用可能な温度域はこれまでの蛍光体に比べ広くなり、広い範囲の照明装置として有望である。
【0023】
Li含有α−サイアロン蛍光体は、原料の混合粉末を窒素雰囲気中で1500−2000℃の範囲内で加熱して得られる。原料の酸化を防ぐには、原料粉末を窒素を流して酸素分圧と水蒸気圧を低くしたドライボックス中で混合を行うことが望ましい。高温で反応させてα−サイアロンにすれば、安定なので空気中に放置しても酸化しない。反応温度は1500〜2000℃の範囲とするのは、1500℃より低温であれば反応が遅く長時間の加熱が必要となり、2000℃より高温であれば反応は進むが原料の熱分解を抑制するために高窒素圧下で加熱する必要がある。上記範囲内であれば、通常の加熱炉で用いられる1〜10気圧の窒素圧でも十分反応が進行し、加熱時間も0.5〜48時間程度である。
ただし、反応物が完全に反応するには長時間を要し、条件によっては2〜10%の非結晶質として未反応物が残る。従って、添加したLiやEuが粒界に残らないように温度と時間を設定する必要がある。
【0024】
本発明によると、高窒素含有率のLi含有α−サイアロンのLiまたは固溶金属(M)の一部を高濃度のEu2+で置換できるため、紫外−可視光励起によって高輝度の黄色光を発光する蛍光体が製造でき、従来のYAG系材料より長波長の発光であり、Eu2+をドープしたα−サイアロンより短波長である。また、単にLi−α−サイアロンに Eu2+をドープした材料より高輝度である。従って、本材料を用いた白色LEDでは、蛍光体の含有率を変えるだけで暖色から寒色までの広い範囲の白色が得られる。このように、本発明のEu2+を同時固溶させたLi含有α−サイアロンは演色性に優れた白色LEDの実用化に有効である。
【発明の効果】
【0025】
本発明のリチウム含有α−サイアロン系蛍光体は、従来実用化されていた酸化物蛍光体に比較して励起スペクトルが長波長側にシフトし、青色LEDの発光(400〜480nm)に重なる。このため、青色LEDを励起光とする白色LEDの高輝度化を可能とする蛍光体が提供できた。また、従来のα−サイアロン蛍光体に比べても広いスペクトル範囲の発光を示すため、単一の蛍光体でさまざまな色調の白色光が得られる効果を有する。従って、広範囲のニーズに対応する白色発光装置として適用できる。さらに、α−サイアロンは耐熱材料として開発されたため、熱的・機械的および化学的安定性が高い。従って、厳しい環境下においても安定的な動作が可能で耐光性に優れたα−サイアロン系蛍光体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を図面及び実施例に基づいて説明する。但し、これらの例は、本発明を分かりやすく説明するための一つの具体例を示すものであって、これらの例によって本発明が限定されない。図1〜図8は、実施例1、3、5、6、8、9、11、12において示したリチウム含有α−サイアロンの励起スペクトルと発光スペクトルを示すものすである。図9は、青色LEDと実施例4のリチウム含有α−サイアロンの組み合わせによる白色光とYAG:Ceを使用した場合の白色光を色座標で示すものである。図10は、青色LEDと実施例4のリチウム含有α−サイアロンの組み合わせによる白色光の発光スペクトルを示す。
【実施例】
【0027】
実施例1−5;
Si34−AlN−Li2O−Eu23−CaO系原料粉末(ただし、Li2OとCaOは炭酸塩として加えた)を、一般式(Lix、Cay、Euz)(Si12-(m+n)Alm+n)(On16-n)で示される組成となるよう、表1に基づいて混合、調製し、直径10mmの金型で100kg/cm2で成形後、10気圧の窒素中で焼成した。次いで、生成物を粉砕し粉末X線回折(フィリップス、PW1700)を測定した結果、ほぼα−サイアロンのみから成る粉末が得られたことが分かった。得られたα−サイアロン粉末試料の蛍光スペクトル(日立製作所、F−4500)を測定した。その結果、最大値を示す励起波長と発光波長およびその相対発光強度を表2に示す。また、実施例1、3、5の励起スペクトルと発光スペクトルをそれぞれ図1、2、3に示した。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
実施例6−7;
実施例4の組成のSi34−AlN−Li2O−Eu23−CaO系で混合物のCaOの当量をCa:M=3:1の組成になるように金属酸化物を添加した原料を、実施例4と同じ条件で加熱した。MgOおよびY23添加の結果をそれぞれ表3に示し、実施例6の励起スペクトルと発光スペクトルを図4に示した。
【0031】
【表3】

【0032】
実施例8;
実施例3と同じSi34−AlN−Eu23−CaO系原料粉末に1.0重量%のLi2Oを加え、それぞれ実施例3と同じ条件で加熱した。得られた粉末の発光特性は表4と図5に示す通りとなった。
【0033】
【表4】

【0034】
実施例9−11;
一般式(Lix、Cay, Euz)(Si12-mAlm)(N16)において表5のx、y、z値に対応するSi34−AlN−EuN−Ca32−Li3N系の混合粉末を5気圧の窒素中、1750℃で2時間加熱してえられたサイアロン粉末の発光特性は表5に示した。実施例9と11の励起スペクトルと発光スペクトルはそれぞれ図6、7に示した。
【0035】
【表5】

【0036】
実施例12−13;
一般式(Lix、My, Euz)(Si12-mAlm)(N16)において表6のx、y、z値に対応するSi34−AlN−EuN−Ca32−Li3N−MN(MNは金属窒化物)系の混合粉末を5気圧の窒素中、1750℃で2時間加熱してえられたサイアロン粉末の発光特性は表6に示した。実施例12の励起スペクトルと発光スペクトルを図8にした。
【0037】
【表6】

【0038】
実施例14;
実施例4で得られたリチウム含有α−サイアロン蛍光体をエポキシ樹脂に埋め込み、発光波長460nmの青色LEDの前面に設置した。励起光の青色と蛍光体からの発光の混合による白色光の色調を色座標として図9に示す。蛍光体の配合比を変更するだけで、発光色4500から8600Kまで変更することができる。
【0039】
実施例15;
実施例4で得られたリチウム含有α−サイアロン蛍光体をエポキシ樹脂に埋め込み、発光波長460nmの青色LEDの前面に設置した。励起光の青色と蛍光体からの発光の混
合による発光スペクトルを図10に示す。この発光装置の特性としては、色調x=0.300、y=0.273、色温度7500(K)、演色性Ra=74、ランプ効率42.5lm/Wである。
【0040】
比較例;
比較のためにYAG:Ce(比較例1)、Li−Eu−α−サイアロン(比較例2、特許文献4に相当する材料)およびEu−Ca−α−サイアロン(Ca0.3Eu0.075(Si10.875Al1.125)(O0.37515.625)(比較例3、特許文献1に相当する材料)の励起波長、発光波長およびその相対強度を表7に示す。比較結果としては、本発明のLi含有α−サイアロンはYAG:Ce材料より長波長の発光である。一方、従来のLi−Eu−α−サイアロンおよびEu−Ca−α−サイアロンは発光強度が本特許の材料の半分以下と低い。
【0041】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のリチウム含有α−サイアロン系蛍光体は、従来実用化されていた酸化物蛍光体に比較して励起スペクトルが長波長側にシフトし、青色LEDの発光(400−480nm)に重なる。このため、青色LEDを励起光とする白色LEDの高輝度化を可能とする蛍光体が提供できた。また、従来のα−サイアロン蛍光体に比べても広いスペクトル範囲の発光を示すため、単一の蛍光体でさまざまな色調の白色光が得られる効果を有する。従って、広範囲のニーズに対応する白色発光装置として適用できる。さらに、α−サイアロンは耐熱材料として開発されたため、熱的・機械的および化学的安定性が高い。従って、厳しい環境下においても安定的な動作が可能で耐光性に優れたα−サイアロン系蛍光体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例1で示したリチウム含有α−サイアロンの励起スペクトルと発光スペクトルを示す図。
【図2】実施例3で示したリチウム含有α−サイアロンの励起スペクトルと発光スペクトルを示す図。
【図3】実施例5で示したリチウム含有α−サイアロンの励起スペクトルと発光スペクトルを示す図。
【図4】実施例6で示したリチウム含有α−サイアロンの励起スペクトルと発光スペクトルを示す図。
【図5】実施例8で示したリチウム含有α−サイアロンの励起スペクトルと発光スペクトルを示す図。
【図6】実施例9で示したリチウム含有α−サイアロンの励起スペクトルと発光スペクトルを示す図。
【図7】実施例11で示したリチウム含有α−サイアロンの励起スペクトルと発光スペクトルを示す図。
【図8】実施例12で示したリチウム含有α−サイアロンの励起スペクトルと発光スペクトルを示す図。
【図9】青色LEDと実施例4のリチウム含有α−サイアロンの組み合わせによる白色光とYAG:Ceを使用した場合の白色光を色座標で示した図。
【図10】青色LEDと実施例4のリチウム含有α−サイアロンの組み合わせによる白色光の発光スペクトルを示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(Lix,Cay,Euz)(Si12-(m+n)Alm+n)(On16-n)で示されるα―サイアロンで0<x<2.0、0<y<2.0、0<z≦0.5(ただし0.3≦x+y+z≦2.0)、0<m≦4.0、0<n≦3.0の範囲であるリチウム含有サイアロン蛍光体。
【請求項2】
一般式(Lix,(Ca,M)y,Euz)(Si12-(m+n)Alm+n)(On16-n)で示されるα―サイアロンであって、0<x<2.0、0<y<2.0、0<z≦0.5(ただし0.3≦x+y+z≦2.0)、0<m≦4.0、0<n≦3.0の範囲であり、かつ0<M/(Ca+M)<0.5の範囲(MはMg、Yまたはランタニド金属の1種または2種以上の混合物である)であるリチウム含有サイアロン蛍光体。
【請求項3】
一般式(Lix、Cay,Euz)(Si12-mAlm)(N16)で示され、0<x<2.0、0<y<2.0,0<z≦0.5(ただし0.3≦x+y≦2.0)、0<m≦4.0の範囲内であるリチウム含有サイアロン蛍光体。
【請求項4】
一般式(Lix,My,Euz)(Si12-mAlm)(N16)で示されるα―サイアロンで0<x<2.0、0<y<2.0、0<z≦0.5(ただし0.3≦x+y+z≦2.0)、0<m≦4.0の範囲(MはMg,Yまたはランタニド金属の1種または2種以上の混合物である)であるリチウム含有サイアロン蛍光体。
【請求項5】
原料の組成がaSi34−bAlN−cLi2O−dEu23−eCaO系からなりその範囲がモル比で、10<a<24、3<b<36、0<c<5、0<d<2、0<e<5の範囲である混合物を窒素雰囲気中、1500〜2000℃、0.5〜48時間の条件で加熱して合成する請求項1のリチウム含有サイアロン蛍光体の製造法。
【請求項6】
原料の組成がaSi34−bAlN−cLi2O−dEu23−eCaO−f
MO系(ただし、MOはMg、Yまたはランタニド金属の酸化物の1種または2
種以上を示す)からなりその範囲がモル組成表され、10<a<24、3<b<
36、0<c<3、0<d<2、0<e<5、0<f<2である混合物を窒素
雰囲気中、1500〜2000℃、0.5〜48時間の条件で加熱して合成する
請求項2のリチウム含有サイアロン蛍光体の製造法。
【請求項7】
原料の組成が請求項5規定のaSi34−bAlN−dEu23−eCaO系混合物または請求項6規定のaSi34−bAlN−dEu23−eCaO−fMO系混合物に0.05〜20重量%のLi2O、Li2CO3またはLi3Nを添加し窒素雰囲気中、1500〜2000℃、0.5〜48時間の条件で加熱して合成するそれぞれ請求項1または請求項2のリチウム含有サイアロン蛍光体の製造法。
【請求項8】
原料の組成がaSi34−bAlN−cLi3N−dCa32−eEuNからなり、その範囲がモル比で、8≦a<12、0<b≦12、0<c<3.0<d<2.5、0<e<1の範囲である混合物を窒素雰囲気中、1500〜2000℃、0.5〜48時間の条件で加熱して合成する請求項3のリチウム含有サイアロン蛍光体の製造法。
【請求項9】
原料の組成がaSi34−bAlN−cLi3N−dCa32−eEuN−fMN(ただし、MNはMg、Yまたはランタニド金属の1種または2種以上の金属窒化物を表す)からなり、その範囲がモル比で、8≦a<12、0<b≦12、0<c<3、0<d<2.5、0<e<1、0<f<2である混合物を窒素雰囲気中、1500〜2000℃、0
.5〜48時間の条件で加熱して合成する請求項4のリチウム含有サイアロン蛍光体の製造法。
【請求項10】
励起波長の最大値が380−480nm、発光波長の最大値が560nm―610nmの範囲である請求項1ないし4の何れか1項に記載のリチウム含有サイアロン蛍光体。
【請求項11】
波長400−480nmの青色LEDを励起光とし、請求項1ないし4の何れか1項に記載の蛍光体を励起させることにより演色性の高い白色光を得るリチウム含有サイアロン蛍光体。
【請求項12】
請求項11記載の青色LEDが窒化ガリウム系化合物半導体発光素子から成り、該発光素子の発光スペクトルと、前記発光の一部を請求項1ないし4の何れか1項に記載のリチウム含有サイアロン蛍光体で波長変換した光、とを混合することによって得られてなる白色発光装置。
【請求項13】
平均演色評価数Raが60−95の範囲にあり、色温度が2000Kから8700Kであることを特徴とする請求項11および12に記載の白色発光装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−307081(P2006−307081A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−133378(P2005−133378)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】