説明

リチウム回収方法

【課題】廃棄されたリチウムイオン二次電池の正極などに用いられているリチウム含有金属酸化物より、効率よくリチウムが回収できるようにする。
【解決手段】第1工程S101で、遷移金属の酸化物とリチウムとが化合しているリチウム含有金属酸化物を、希硫酸および希硝酸より選択した酸水溶液に混合して選択的にリチウムが浸出した混合液を作製する。次に、第2工程S102で、上述した混合液を濾過して濾液を得る。次いで、第3工程S103で、濾液のpHを4.5以上に調整して調整濾液を作製する。次に、第4工程S104で、キレート吸着樹脂を用いて調整濾液より遷移金属を除去して除去濾液を作製する。次に第5工程S105で、除去濾液に炭酸イオンを供給して除去濾液より炭酸リチウムを沈殿させて回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コバルト酸リチウムなどの遷移金属の酸化物とリチウムとが化合しているリチウム含有金属酸化物よりリチウムを回収するリチウム回収方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、携帯電話をはじめとする小型電子機器の電源として急速に用途が広がっている。このリチウムイオン二次電池の正極材は、主にコバルト酸リチウムまたはコバルトで一部置換したニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムから構成されている。リチウムイオン二次電池は、用途の拡大に伴い生産量が急増することが予想されるが、生産量の増加に伴い、廃棄されるリチウムイオン二次電池の電極に含まれる稀少金属の、経済的な回収方法の確立が重要となっている。
【0003】
廃棄されたリチウムイオン二次電池からコバルトやニッケル、マンガン、リチウムを回収する方法として、従来は、高濃度の硝酸、硫酸、塩酸などを使用して溶解した後、中和反応を行い、コバルト化合物やニッケル化合物、マンガン化合物を溶媒抽出法などにより分離、採取した後に、リチウム化合物を製造している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3676926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した高濃度の酸を用いた回収では、長時間の加熱処理、酸の使用および多量の中和剤の使用によるコストの問題がある。このように、多量の薬剤の使用に加え、塩酸を使用した際には塩素ガス、硫酸を用いた際には硫化水素が発生することになり、安全・環境負荷対策としての操業コストも問題となる。
【0006】
また、リチウム化合物を採取する段階では、度重なる分離・洗浄工程を経ているため、リチウムが分散・希釈されてしまう。このため、上述したリチウム化合物の実際の製造(回収)では、リチウムの最終収率は30%程度に留まっており、この点でもコストの上昇を招いている。
【0007】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、廃棄されたリチウムイオン二次電池の正極などに用いられているリチウム含有金属酸化物より、効率よくリチウムが回収できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るリチウム回収方法は、遷移金属の酸化物とリチウムとが化合しているリチウム含有金属酸化物を、希硫酸および希硝酸より選択した酸水溶液に混合して選択的にリチウムが浸出した混合液を作製する第1工程と、混合液を濾過して濾液を得る第2工程と、濾液のpHを4.5以上に調整して調整濾液を作製する第3工程と、キレート吸着樹脂を用いて調整濾液より遷移金属を除去して除去濾液を作製する第4工程と、除去濾液に炭酸イオンを供給して除去濾液より炭酸リチウムを沈殿させて回収する第5工程とを少なくとも備える。
【0009】
上記リチウム回収方法において、濾液に水酸化リチウムを加えて濾液のpHを4.5以上に調整すればよい。なお、遷移金属は、コバルト、ニッケル、マンガンの少なくとも1つである。
【0010】
上記リチウム回収方法において、第1工程では、酸水溶液の濃度を1mol/lから2mol/lの範囲とし、固液比を2:100〜8:100の範囲とすればよい。
【0011】
上記リチウム回収方法において、炭酸イオンの供給は、除去濾液に二酸化炭素ガスを接触させることにより行うとよい。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、低濃度とした酸の水溶液を用いてリチウム含有金属酸化物よりリチウムを回収するようにしたので、廃棄されたリチウムイオン二次電池の正極などに用いられているリチウム含有金属酸化物より、効率よくリチウムが回収できるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1におけるリチウム回収方法を説明するフローチャートである。
【図2】図2は、本発明の実施の形態1におけるリチウム回収方法を説明するフローチャートである。
【図3】図3は、リチウム回収方法を実施する回収装置の構成を示す構成図である。
【図4】図4は、リチウム回収方法を実施する他の回収装置の構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0015】
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1について図1を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態1におけるリチウム回収方法を説明するフローチャートである。
【0016】
このリチウム回収方法は、まず、第1工程S101で、遷移金属の酸化物とリチウムとが化合しているリチウム含有金属酸化物を、希硫酸および希硝酸より選択した酸水溶液に混合して選択的にリチウムが浸出した混合液を作製する。ここで、酸の濃度は、1mol/lから2mol/lの範囲の濃度とすればよい。なお、酸の濃度は、リチウム含有金属酸化物より、選択的にリチウムが浸出できる濃度の範囲とすればよい。この濃度範囲は、後述する、濾過工程、キレート吸着樹脂による遷移金属の吸着工程、および最終的な単欄リチウムの沈殿工程などで、所望とするリチウムの濃度(収率)が得られる条件より、適宜に決定すればよい。また、リチウム含有金属酸化物と酸の水溶液との固液比は、2:100〜8:100の範囲とすればよい。
【0017】
遷移金属は、コバルト、ニッケル、マンガンの少なくとも1つであり、リチウム含有金属酸化物は、例えば、コバルト酸リチウムまたはコバルトで一部置換したニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムなどである。これらは、例えば、廃棄されたリチウムイオン電池の正極材料であり、粉末である。この粉末を、希硫酸または希硝酸に加えて撹拌することで混合すればよい。このようにリチウム含有金属酸化物を、希硫酸または希硝酸に混合することで、水溶液(混合液)中に、リチウム含有金属酸化物よりリチウムを選択的に浸出させることが可能となる。
【0018】
次に、第2工程S102で、上述した混合液を濾過して濾液を得る。次いで、第3工程S103で、濾液のpHを4.5以上に調整して調整濾液を作製する。例えば、濾液に水酸化リチウムを加えて濾液のpHを4.5以上に調整すればよい。このpH調整は、以降のキレート吸着樹脂を用いる工程の安定化を図るために行う。また、pH調整のために水酸化リチウムを用いることで、リチウムとの分離が困難なナトリウムの混入が防げるようになる。また、リチウムの濃度希釈が防げるようになる。
【0019】
次に、第4工程S104で、キレート吸着樹脂を用いて調整濾液より遷移金属を除去して除去濾液を作製する。キレート吸着樹脂を用いたイオン交換により、調整濾液中におけるコバルト,ニッケル,およびマンガンなどの遷移金属を除去することで、リチウム濃度を低下することなく不純物を取り除くことができる。
【0020】
次に、第5工程S105で、除去濾液に炭酸イオンを供給して除去濾液より炭酸リチウムを沈殿させて回収する。例えば、炭酸イオンの供給は、二酸化炭素を除去濾液中にバブリングすることなどにより、除去濾液に二酸化炭素ガスを接触させることにより行えばよい。また、除去濾液に炭酸ナトリウム水溶液を加えてもよい。
【0021】
上述したように、本実施の形態によれば、リチウム含有金属酸化物を希硫酸および希硝酸より選択した酸水溶液に混合し、選択的にリチウムを浸出させるようにしたので、リチウム含有金属酸化物より、容易にリチウムを回収できるようになる。
【0022】
コバルト酸リチウムまたはコバルトで一部置換したニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムなどのリチウム含有金属酸化物は、安定な層状岩塩構造やスピネル構造である。例えば、コバルト酸リチウムは、硫酸,硝酸などの酸に、以下の3つの反応式に示される過程を経て溶解すると考えられている。
【0023】
3LiCoO2+3H+→3Li++3HCoO2・・・(反応式1)
3HCoO2←→CoO+HCo24↓+H2O・・・(反応式2)
CoO+2H2→Co2++H2O・・・(反応式3)
【0024】
反応式1はコバルト酸リチウム中のリチウムイオンと水素イオンとの交換であり、速やかに起こる。反応式2は、化合物の構造から速度が遅く、従って反応式3もこれに伴い遅れて起こる。
【0025】
このような反応系により溶解するため、全体の反応速度向上のため、一般には、コバルトを溶解するために、濃硫酸,濃硝酸などの高濃度の酸を用いた加熱撹拌による完全溶解が行われている。このような方法で溶解を行うと、溶液中にコバルト,ニッケル,およびマンガンも溶解しているため、これら遷移金属を回収しようとする過程においては、リチウムのロスや希釈が生じる。このため、高濃度の酸を用いる方法では、リチウムを高収率で回収することは困難である。
【0026】
これに対し、本実施の形態によれば、希硫酸もしくは希硝酸を用い、選択的にリチウムを浸出させるようにしている。本実施の形態では、初期のリチウム含有金属酸化物を酸処理する段階で、濃硫酸または濃硝酸などを用い、リチウムに加えてコバルト,ニッケル,およびマンガンなどの他の遷移金属も全て浸出(溶解)させるのではなく、希硫酸または希硝酸を用い、リチウムを選択的に浸出させているところに特徴がある。
【0027】
希硫酸または希硝酸を用いることで、上述した反応式3の反応を抑制し、混合液にはコバルト,ニッケル,およびマンガンなどの遷移金属の溶解を抑制するようにしている。このようにすることで、濾過することでリチウムと他の遷移金属とを容易に分離できるようになるので、本実施の形態によれば、リチウムが高収率で回収できるようになる。
【0028】
また、高濃度の酸を用いることがないため、大量の中和剤を用いる必要もなく、設備の簡略化が可能であり、コストが低減できる。また、中和処理,分離・洗浄工程などの多くの工程を必要としない。このように、上述した本実施の形態によれば、廃棄されたリチウムイオン二次電池の正極などに用いられているリチウム含有金属酸化物より、効率よくリチウムが回収できるようになる。
【0029】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について図2および図3を用いて説明する。図2は、本発明の実施の形態1におけるリチウム回収方法を説明するフローチャートである。図3は、リチウム回収方法を実施する回収装置の構成を示す構成図である。以下では、リチウム含有金属酸化物の代表例としてコバルト酸リチウムの場合について説明する。なお、これに限らず、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムニッケル酸リチウム、およびこれらをコバルトで一部置換したものであっても全く同様である。
【0030】
このリチウム回収方法は、まず、第1工程S201で、リチウム含有金属酸化物として、リチウムイオン電池の正極材料であるコバルト酸リチウム粉末M201を、硫酸水溶液もしくは硝酸水溶液Ad201に混合して撹拌し、混合液を作製する。
【0031】
例えば、図3に示すように、溶解槽301にコバルト酸リチウム粉末M201を収容し、ここに、溶解貯槽302に蓄えられている硫酸水溶液もしくは硝酸水溶液Ad201を供給する。溶解貯槽302に蓄えられている硫酸水溶液もしくは硝酸水溶液Ad201は、バルブV302を開放することで、配管L302で溶解槽301に輸送される。
【0032】
硫酸水溶液もしくは硝酸水溶液Ad201の濃度は、1〜2mol/lの範囲の濃度とする。また、コバルト酸リチウム粉末M201と、硫酸水溶液もしくは硝酸水溶液Ad201との固液比は、1:100〜60:100の範囲とする。この固液比は、2:100〜8:100の範囲とするとよりよい。また、撹拌の時間は、1〜10時間とすればよい。
【0033】
リチウムイオン電池の電極材料は、コバルト、ニッケル、マンガンやその他の金属を含有するリチウム含有金属酸化物であり、粉末である。遷移金属は、コバルト、ニッケル、マンガンの少なくとも1つである。ここで対象とするリチウム含有金属酸化物は、いかなる製造方法から得られるものであってもよく、廃リチウムイオン二次電池から得られるものであってもよく、リチウムイオン二次電池製造工程において発生するスクラップであってもよい。電極材料のリチウム含有金属酸化物の組成としては、コバルト酸リチウムまたはコバルトで一部置換したニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムなどが挙げられる。この粉末を、上述した酸の水溶液に撹拌することで混合すればよい。
【0034】
第1工程S201におけるリチウム含有金属酸化物と酸との反応では、用いる酸の濃度が高ければ、前述した反応式1の反応は促進されるが、反応式3の反応も同時に促進される。用いる酸の濃度が低ければ反応式3の反応は抑制されるが、反応式1の反応も同時に抑制される。このため、反応式1の反応を妨げず、かつ反応式3の反応を抑制するために、用いる酸は一定の濃度範囲である必要がある。さらに後述する、pH調整(中和反応)に用いるアルカリ化合物を削減することによる経済性を考慮し、用いる酸の濃度は、1mol/lから2mol/lが好ましい。
【0035】
第1工程S201におけるリチウム含有金属酸化物は、溶解に用いる酸性溶液のリチウム塩の飽和溶解度以下の量となる量を溶解槽301において混合させる。酸性溶液に対するリチウム含有金属酸化物の量が少なければ、反応式1の反応に関与するリチウムの割合は高まるが、同時に反応式3の反応に関与するコバルトの割合も高まる。酸性溶液に対するリチウム含有金属酸化物の量が多ければ、反応式3の反応に関与するコバルトの割合は抑制されるが、同時に反応式1の反応に関与するリチウムの割合も低下する。
【0036】
このため、反応式1の反応に関与するリチウムの割合を低下させずかつ反応式3の反応に関与するコバルトの割合を抑制するために、リチウム含有金属酸化物と酸性水溶液とは、一定の固液比範囲にある必要がある。質量比で2:100から8:100の割合で混合させることが好ましい。この割合で混合することで、不溶物による撹拌の阻害を抑制するとともに、後述する炭酸ナトリウムあるいは二酸化炭素との反応により生成する炭酸リチウムの水に対する溶解度以上とすることができるため反応効率がよくなる。
【0037】
また、前述したように、酸水溶液によるリチウム含有金属酸化物の溶解は反応式1,反応式2,反応式3により行われる。反応式1の反応を好適に進めるためには、高速撹拌等の効率的な固液接触設備において行うことが好ましい。
【0038】
また、第1工程S201における反応式反応式1,反応式2,反応式3の反応は、より長時間、高温であるほどリチウムおよび金属の溶解度が大きいため、溶解速度も速くなる。しかし、反応式1の反応を好適に進め、反応式2,反応式3の進行を抑制することを考慮すると、実用的な条件、例えば室温、数時間で行うことが好ましい。
【0039】
以上の条件により第1工程S201を実施することで、リチウム含有金属酸化物中のリチウムが酸性溶液に効率よく(選択的に)溶解し、リチウム以外の金属の溶解を抑制することができる。
【0040】
次に、第2工程S202で、上述した混合液を濾過して濾液M202を得る。図3において、バルブV301を開放し、溶解槽301内の混合液を配管L301で輸送して濾過槽303に供給し、濾過槽303で濾過を施す。この濾過により、得られる濾液M202は、粗リチウム溶液である。ここで、濾液M202のリチウム濃度が所望とする値より低い場合、濾液M202を溶解槽301にも循環させ、濾液M202におけるリチウム濃度をより高くする。バルブV311を開放し、濾過槽301で濾過した濾液M202を、配管V311で溶解槽301に輸送(循環)すればよい。また、この濾過により、濾物M203が得られる。濾物M203は、酸化コバルトの粗粉末である。
【0041】
次いで、第3工程S203で、濾液M202に飽和水酸化リチウム水溶液Ad201を加えてpHを4.5以上に調整して調整濾液を作製する。第3工程S203においては、第2工程S202で得られた濾液M202のpHを、調整槽304において弱酸性からアルカリ性領域に調整する。バルブV303を開放し、濾過槽303で濾過した濾液M202を配管L303で調整槽304に輸送する。また、バルブV305を開放し、中和溶液貯槽305に貯蔵してある飽和水酸化リチウム水溶液Ad201を配管L305で輸送し、調整槽304に供給する。
【0042】
調整前の濾液M202は酸性であり、具体的にはpH−1.0以下となっている。このpHから、濾液M202に飽和水酸化リチウム水溶液Ad201を添加し、弱酸性領域からアルカリ性領域のpHとする。調整後のpH値は4.5以上であることが好ましい。この範囲では、キレート吸着樹脂による不純物である金属元素の除去処理の安定度がよくなる。
【0043】
第3工程S203のpH調整に用いる調整溶液は、飽和水酸化リチウム水溶液Ad201に限るものではなく、他のアルカリ金属の水酸化物でもよい。具体的には、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムであってもよい。ただし、不純物の混入を防ぐ観点から、水酸化リチウムが特に好ましい。
【0044】
上述したアルカリ性化合物の添加方法は、濾液M202のpHを効率よく調整できる方法であればいかなる方法でもよい。例えばアルカリ性化合物の水溶液を調整してこの水溶液を添加する方法が挙げられる。
【0045】
次に、第4工程S204で、キレート吸着樹脂を用い、調整濾液より遷移金属を除去してリチウム溶液M205を作製する。キレート吸着樹脂を用いたイオン交換により、調整濾液中におけるコバルト,ニッケル,およびマンガンなどの遷移金属を除去することで、リチウム濃度を低下することなく不純物を取り除くことができる。
【0046】
第4工程S204においては、弱酸性領域からアルカリ性領域に調整された調整濾液を、バルブV304を開放して配管L304で輸送し、キレート吸着樹脂を充填したカラム310に通すことで、カラム310に充填されているキレート吸着樹脂に接触させるようにすればよい。カラム310を通した調整濾液は、遷移金属などのリチウム以外の異種金属が除去されたリチウム溶液M205となる。得られたリチウム溶液M205は、バルブV307を開放し、配管L307で調整槽307に輸送する。
【0047】
なお、上述した処理の後、バルブV306を開放し、溶離溶液貯槽306に貯蔵されている溶離溶液を、配管L306で輸送してカラム310に供給することで、キレート吸着樹脂を再生することができる。この場合、バルブV307は閉じ、バルブV308を開放し、カラム310を出た溶液を配管L308で輸送して溶離液槽308に回収する。回収した溶離溶液中に、コバルトなどの不純物M204が回収される。
【0048】
上述したキレート吸着樹脂の処理により、調整濾液中のコバルト、ニッケル、マンガンなどのリチウム含有金属酸化物に含まれる金属元素と、含有する可能性のある銅、鉛、亜鉛、カドミウム、カルシウム、マグネシウム、クロム、インジウム、鉄、セシウム、アルミニウム、ランタン、水銀、ベリリウム、ストロンチウム、銀などの異種金属(不純物M204)を低減させることができる。
【0049】
第4工程S204において使用するキレート吸着樹脂は、コバルト、ニッケル、マンガン、アルミニウム、銅などの異種金属を低減させることのできるものであれば特に制限されない。例えばイミノ二酢酸型、ポリアミン型などが挙げられる。キレート吸着樹脂の使用量は原料中に含有されている除去すべきコバルト、ニッケル、マンガンなどの異種金属の等量以上を目安とし、第1工程S201で得られる混合液に含まれる異種金属の量から決めることが好ましい。
【0050】
調整濾液をキレート吸着樹脂と接触させる方法は、調整濾液に含まれるコバルト、ニッケル、マンガン、アルミニウム、銅などの異種金属を低減させることができるものであれば特に制限されない。上述したカラム310を用いるカラム式の他に、例えばバッチ方式であってもよい。
【0051】
なお、第4工程S204においては、リチウム溶液に濾過を施して金属水酸化物などの沈殿物を除去することが好ましい。この濾過は、pH調整の後の調整濾液、またはキレート吸着樹脂接触の後のリチウム溶液のいずれの状態でも可能であるが、キレート吸着樹脂との接触操作時に不純成分のないほうがキレート吸着樹脂の後処理効率を向上することができるため、pH調整の後の調整濾液に対して行うことが好ましい。濾過方法は、調整濾液中の金属水酸化物などの沈殿物が除去できればいかなる方法でもよい。例えば精密濾過、フィルタプレス、カートリッジフィルタなどの方法を例示することができる。
【0052】
次に、第5工程S205で、まず、リチウム溶液M205に炭酸イオンを供給してリチウム溶液M205より濾物(炭酸リチウム)M206を沈殿させる。バルブV309を開放し、調整槽307に収容されているリチウム溶液M205を、配管L309で輸送し、沈殿槽309に供給する。また、バルブV310を開放し、ボンベ311に充填されている二酸化炭素ガスを配管L310で輸送し、沈殿槽309に収容されているリチウム溶液M205中にバブリングする。
【0053】
二酸化炭素ガスによるリチウム(炭酸リチウム)の沈殿生成は、次に示す反応式4,反応式5,反応式6により行われる。
【0054】
2CO3←→H++HCO3-・・・(反応式4)
HCO3-←→H++CO3-・・・(反応式5)
2Li+aq+CO3-→Li2CO3↓・・・(反応式6)
【0055】
反応式4および反応式5の平衡反応を右側に好適に進めるためには、リチウム溶液M205の温度を60℃以下、さらには40℃以下、特に0℃から30℃として二酸化炭素ガスを吹き込むことが好ましい。反応式6を好適に進めるためには、リチウム溶液M205を沈殿槽309において40℃以上、さらには50℃以上、特に70℃〜95℃で撹拌しながら加熱することが好ましい。この加熱により炭酸リチウムの溶解度が低下するため、沈殿生成の効率が向上する。従って、前述したように低温状態で二酸化炭素をバブリングした後、50℃程度に加熱することで、効率よく濾物M206の生成(沈殿)を得ることができる。
【0056】
以上のようにして得られた濾物M206は、所望により洗浄、乾燥する。濾物M206の固液分離は、よく知られた方法により行うことができる。例えば、精密濾過、遠心分離機、フィルタプレスなどにより固形分である濾物M206を分離すればよい。
【0057】
また、固液分離により得られる濾液(希リチウム溶液)M207は、第1工程S201で用いる酸水溶液に添加して循環使用することができる。濾液M207は、飽和溶解度分の炭酸リチウムを含んでいるため、これを回収利用することにより原料収率を上げることができる。これは、第3工程S203および第4工程S204によって異種金属を除去しているために可能となる。
【0058】
なお、炭酸ナトリウムによりリチウムを沈殿させるようにしてもよい。この場合、図4に示す回収装置を用いればよい。この回収装置は、沈殿槽309に炭酸ナトリウムを供給するアルカリ溶液貯槽411を備えている。他の構成は、図3を用いて説明した回収装置と同様である。この場合、前述同様にしてリチウム溶液M205を得た後、バルブV309を開放し、調整槽307に収容されているリチウム溶液M205を、配管L309で輸送し、沈殿槽309に供給する。また、バルブV310を開放し、アルカリ溶液貯槽411に充填されている炭酸ナトリウムを配管L310で輸送し、沈殿槽309に収容されているリチウム溶液M205中に加える。
【0059】
炭酸ナトリウムによるリチウムの沈殿生成は、以下に示す反応式(7)により行われる。
【0060】
2Li+aq+Na2CO3→2Na+aq+Li2CO3↓・・・(反応式7)
【0061】
この反応を好適に進めるためには、沈殿槽309におけるリチウム溶液M205の温度を40℃以上、さらには50℃以上、特に70℃〜95℃で撹拌しながら加熱することが好ましい。この加熱により、炭酸リチウムの溶解度が低下するため、沈殿生成の効率が向上する。
【0062】
次に、実験の結果について説明する。実験では、前述した実施の形態2により得られる濾液M202の分析,および濾物M206の収率について説明する。まず、濾液M202の試料1を、コバルト酸リチウム1.00gを1.0mol/L硝酸50mlに加え、約8時間撹拌し、この後、全液を濾過して作製した。
【0063】
また、濾液M202の試料2を、コバルト酸リチウム0.50gを1.0mol/Lの硝酸50mlに加え、約1時間撹拌し、この後、全液を濾過して作製した。
【0064】
また、比較のために、コバルト酸リチウムを濃硫酸に固液比1:10で加え、70〜80℃に加熱して1時間加熱した比較試料も作製した。
【0065】
以上の各試料におけるリチウムおよびコバルトを、ICP質量分析装置で測定した。測定の結果を以下の表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1に示すように、試料1においては、リチウムの浸出率は30%、コバルトの浸出率は7%であった。また、試料2においては、リチウムの浸出率は85%、コバルトの浸出率は30%であった。これに対し、比較試料では、リチウムの浸出率は100%、コバルトの浸出率は100%であった。このように、本実施の形態によれば、コバルトの溶解を抑制しながらリチウムを溶解することが可能となっている。また、濃度を1mol/lとした硫酸、濃度を2mol/lとした硝酸および硫酸の場合においても、試料1,2と同様の結果が得られている。
【0068】
また、試料2の濾液M202に対し、第3工程S203および第4工程S204の処理を施すことで、計算上最大で71.0%の収率で炭酸リチウムが得られる。また、試料2の条件において、コバルト酸リチウムの量を2倍にした場合には、リチウムとコバルトの浸出率が試料2の場合と同様であると仮定すると、得られた濾液M202に対し、第3工程S203および第4工程S204の処理を施すことで、計算上最大で92.0%の収率で炭酸リチウムが得られる。また、試料1の濾液M202に対し、第3工程S203および第4工程S204の処理を施すことで、計算上最大で34.0%の収率で炭酸リチウムが得られる。
【0069】
従来技術である、高濃度の塩酸あるいは硫酸を溶媒とする長時間の加熱撹拌による溶解方法では、リチウムとコバルトの浸出率はいずれもほぼ100%であるが、リチウムの回収率は30%である。上述した実施の形態によれば、コバルトの溶解を抑制しながらリチウムを溶解することにより、リチウムを収率よく回収することが可能となる。
【0070】
以上に説明したように、本発明によれば、低濃度の硫酸水溶液もしくは硝酸水溶液を用いるようにしたので、廃棄されたリチウムイオン二次電池の正極などに用いられているリチウム含有金属酸化物より、効率よくリチウムが回収できるようになる。
【0071】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0072】
301…溶解槽、302…溶解貯槽、303…濾過槽、304…調整槽、305…中和溶液貯槽、306…溶離溶液貯槽、307…調整槽、308…溶離液槽、309…沈殿槽、310…カラム、311…ボンベ、411…アルカリ溶液貯槽、V301,V302,V303,V304,V305,V306,V307,V308,V309,V310…バルブ、L301,L302,L303,L304,L305,L306,L307,L308,L309,L310…配管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属の酸化物とリチウムとが化合しているリチウム含有金属酸化物を、希硫酸および希硝酸より選択した酸水溶液に混合して選択的にリチウムが浸出した混合液を作製する第1工程と、
前記混合液を濾過して濾液を得る第2工程と、
前記濾液のpHを4.5以上に調整して調整濾液を作製する第3工程と、
キレート吸着樹脂を用いて前記調整濾液より前記遷移金属を除去して除去濾液を作製する第4工程と、
前記除去濾液に炭酸イオンを供給して前記除去濾液より炭酸リチウムを沈殿させて回収する第5工程と
を少なくとも備えることを特徴とするリチウム回収方法。
【請求項2】
請求項1記載のリチウム回収方法において、
前記濾液に水酸化リチウムを加えて前記濾液のpHを4.5以上に調整することを特徴とするリチウム回収方法。
【請求項3】
請求項1または2記載のリチウム回収方法において、
前記遷移金属は、コバルト、ニッケル、マンガンの少なくとも1つであることを特徴とするリチウム回収方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウム回収方法において、
前記第1工程では、前記酸水溶液の濃度を1mol/lから2mol/lの範囲とし、前記固液比を2:100〜8:100の範囲とすることを特徴とするリチウム回収方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウム回収方法において、
炭酸イオンの供給は、前記除去濾液に二酸化炭素ガスを接触させることにより行うことを特徴とするリチウム回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−95951(P2013−95951A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238293(P2011−238293)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】