説明

リチウム塩を有効成分として含有する後眼部疾患の治療又は予防剤

【課題】後眼部疾患の治療又は予防剤を探索すること。
【解決手段】炭酸リチウムなどのリチウム塩は、脈絡膜や網膜といった後眼部組織において優れた血管新生阻害効果及び血管透過性亢進抑制効果を発揮するので、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫などの後眼部疾患の治療又は予防剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム塩を有効成分として含有する後眼部疾患の治療又は予防剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム塩は、中枢神経系において神経伝達物質やそれらの受容体に作用し、躁病や 躁うつ病の 躁状態の治療に用いられている。医薬品として用いられるリチウム塩には、例えば炭酸リチウム、クエン酸リチウム、オロチン酸リチウムなどが知られている。
後眼部疾患とは、一般に硝子体、網膜、脈絡膜、強膜又は視神経における疾患をいい、これらの疾患は、新生血管発現や血管透過性亢進と深く関わっている。すなわち、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫などの後眼部疾患においては新生血管発現や血管透過性の亢進が病態形成ならびに病態進行の主たる要因であり、血管新生を阻害することや、血管透過性亢進を抑制することがこれらの疾患の治療に有用であることが知られている(非特許文献1、非特許文献2)。
【0003】
ところで、特許文献1は、ベンジルアミノサリチル酸誘導体やテトラフルオロベンジル誘導体などの細胞壊死抑制剤とリチウムを併用した薬学製剤からなる神経細胞の死滅の治療または予防剤に関する発明であり、神経細胞の死滅と関連する疾患の一つとして緑内障等の眼疾患が記載されている。しかし、特許文献1では、眼疾患に関しては薬理試験等による裏付はなく、また、神経と網膜の関連性から緑内障等の眼疾患を対象疾患に含めているが、後眼部疾患においては新生血管発現ならびに血管透過性亢進等の要因が複合的に病態形成に関与することから、細胞死の抑制作用のみではこれら疾患に対する治療効果を期待できるものではない。
【0004】
一方、炭酸リチウムなどのリチウム塩に関して、脈絡膜や網膜といった後眼部組織において、血管新生阻害作用や血管透過性亢進抑制作用を検討する報告はなく、また、炭酸リチウムなどのリチウム塩を単剤で、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫などの後眼部疾患の治療または予防剤として適用する報告もない。
【特許文献1】特開2007−559999号公報
【非特許文献1】日眼会誌, 103, 923-947(1999)
【非特許文献2】新図説臨床眼科講座第5巻「網膜硝子体疾患」, P.184-189及び232-237(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、炭酸リチウムなどのリチウム塩について、新たな医薬用途を探索することは興味深い課題である。
【0006】
本発明者等は、リチウム塩の新たな医薬用途を探索すべく鋭意研究を行ったところ、驚くべきことに炭酸リチウムや塩化リチウムは、脈絡膜や網膜といった後眼部組織において、優れた血管新生阻害作用及び血管透過性亢進抑制作用を有することを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、リチウム塩(以下「本化合物」とする。)を有効成分として含有する加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜色素変性症、増殖性硝子体網膜症、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎、レーベル病、未熟児網膜症、網膜剥離、網膜色素上皮剥離、中心性漿液性脈絡網膜症、中心性滲出性脈絡網膜症、ポリープ状脈絡膜血管症、多発性脈絡膜炎、新生血管黄斑症、網膜動脈瘤、網膜血管腫状増殖、これらの疾患に起因する視神経障害、緑内障に起因する視神経障害、虚血性視神経障害等の後眼部疾患の治療又は予防剤である。
【0008】
本化合物は、医薬として許容されるものであれば特に制限はなく、例えば炭酸リチウム、塩化リチウム、クエン酸リチウム、 オロチン酸リチウム、フッ化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム、スルホン酸リチウム等が挙げられ、より好ましくは炭酸リチウム、塩化リチウム、クエン酸リチウム又はオロチン酸リチウムである。
【0009】
本発明において後眼部疾患とは、硝子体、網膜、脈絡膜、強膜又は視神経における疾患をいい、例えば、加齢黄斑変性(初期加齢黄斑変性におけるドルーゼン形成、萎縮型加齢黄斑変性、滲出型加齢黄斑変性)、糖尿病網膜症(単純糖尿病網膜症、増殖前糖尿病網膜症、増殖糖尿病網膜症)、糖尿病黄斑浮腫、網膜色素変性症、増殖性硝子体網膜症、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎、レーベル病、未熟児網膜症、網膜剥離、網膜色素上皮剥離、中心性漿液性脈絡網膜症、中心性滲出性脈絡網膜症、ポリープ状脈絡膜血管症、多発性脈絡膜炎、新生血管黄斑症、網膜動脈瘤、網膜血管腫状増殖、これらの疾患に起因する視神経障害、緑内障に起因する視神経障害、虚血性視神経障害といった眼疾患が挙げられる。好ましくは、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫といった眼疾患が挙げられる。なお、脈絡膜、網膜といった後眼部組織において、血管新生を阻害することや血管透過性亢進を抑制することが、上述の疾患に有用であることは公知文献(日眼会誌, 103, 923-947(1999)、新図説臨床眼科講座第5巻「網膜硝子体疾患」, P.184-189及び232-237(2000))より明らかである。
【0010】
本化合物は、必要に応じて、医薬として許容される添加剤を加え、汎用されている技術を用いて製剤化することができる。
本化合物は、前述の眼疾患の治療又は予防に使用する場合、患者に対して経口的又は非経口的に投与することができ、投与形態としては、経口投与、眼への局所投与(点眼投与、結膜嚢内投与、硝子体内投与、結膜下投与、テノン嚢下投与等)、静脈内投与、経皮投与等が挙げられ、必要に応じて、製薬学的に許容され得る添加剤と共に、投与に適した剤型に製剤化される。経口投与に適した剤型としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤等が挙げられ、非経口投与に適した剤型としては、例えば、注射剤、点眼剤、眼軟膏、貼布剤、ゲル、挿入剤等が挙げられる。これらは当該分野で汎用されている通常の技術を用いて調製することができる。また、本化合物はこれらの製剤の他に眼内インプラント用製剤やマイクロスフェアー等のDDS(ドラッグデリバリーシステム)化された製剤にすることもできる。
【0011】
例えば、錠剤は、乳糖、ブドウ糖、D−マンニトール、無水リン酸水素カルシウム、デンプン、ショ糖等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポピドン、デンプン、部分アルファー化デンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤;ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、デンプン、部分アルファー化デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、含水二酸化ケイ素、硬化油等の滑沢剤;精製白糖、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン等のコーティング剤;クエン酸、アスパルテーム、アスコルビン酸、メントール等の矯味剤などを適宜選択して用い、調製することができる。
【0012】
注射剤は、塩化ナトリウム等の等張化剤;リン酸ナトリウム等の緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート等の界面活性剤;メチルセルロース等の増粘剤等から必要に応じて選択して用い、調製することができる。
【0013】
点眼剤は、塩化ナトリウム、濃グリセリンなどの等張化剤;リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどの緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の界面活性剤;クエン酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム等の安定化剤;塩化ベンザルコニウム、パラベン等の防腐剤等から必要に応じて選択して用い、調製することができ、pHは眼科製剤に許容される範囲内にあればよいが、通常4〜8の範囲内が好ましい。また、眼軟膏は、白色ワセリン、流動パラフィン等の汎用される基剤を用い、調製することができる。
【0014】
挿入剤は、生体分解性ポリマー、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸等の生体分解性ポリマーを本化合物とともに粉砕混合し、この粉末を圧縮成型することにより、調製することができ、必要に応じて、賦形剤、結合剤、安定化剤、pH調整剤を用いることができる。眼内インプラント用製剤は、生体分解性ポリマー、例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース等の生体分解性ポリマーを用い、調製することができる。
【0015】
本化合物の投与量は、剤型、投与すべき患者の症状の軽重、年令、体重、医師の判断等に応じて適宜変えるこができるが、経口投与の場合、一般には、成人に対し1日あたり0.01〜5000mg、好ましくは0.1〜2500mg、より好ましくは0.5〜2000mgを1回又は数回に分けて投与することができ、注射剤の場合、一般には、成人に対し0.0001〜2000mgを1回又は数回に分けて投与することができる。また、点眼剤又は挿入剤の場合には、0.000001〜10%(w/v)、好ましくは0.00001〜1%(w/v)、より好ましくは0.0001〜0.1%(w/v)の有効成分濃度のものを1日1回又は数回投与することができる。さらに、貼布剤の場合は、成人に対し0.0001〜2000mgを含有する貼布剤を貼布することができ、眼内インプラント用製剤の場合は、成人に対し0.0001〜2000mg含有する眼内インプラント用製剤を眼内にインプラントすることができる。
【発明の効果】
【0016】
後述する薬理試験を実施したところ、炭酸リチウムおよび塩化リチウムは、レーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデルにおいて経口投与にて脈絡膜血管新生を顕著に阻害し、また、炭酸リチウムはトロンビン誘発ウサギ網膜血管透過性亢進モデルにおいて、硝子体内投与にて網膜血管透過性亢進を顕著に抑制した。すなわち、炭酸リチウムや塩化リチウムなどのリチウム塩は、血管新生や血管透過性亢進が病態形成に深く関与する加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫などの後眼部疾患の治療又は予防剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、薬理試験及び製剤例の結果を示すが、これらは本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0018】
[薬理試験1]
脈絡膜における血管新生阻害効果を検討する薬理試験モデルとして、レーザー誘発脈絡膜血管新生モデルが汎用されている(日本眼科紀要, 45, 853-856(1994))。そこで、レーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデルを用いて、炭酸リチウムの有用性を評価した。
【0019】
(クリプトンレーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデルの作製方法)
ラットに5%(W/V)塩酸ケタミン注射液および2%塩酸キシラジン注射液の混合液(7:1)1mL/kgを筋肉内投与して全身麻酔し、0.5%(W/V)トロピカミド−0.5%塩酸フェニレフリン点眼液を点眼して散瞳させた後、クリプトンレーザー光凝固装置により光凝固を行った。光凝固は、眼底後局部において、太い網膜血管を避け、焦点を網膜深層に合わせて1眼につき8箇所散在状に実施した。光凝固後、眼底撮影を行い、レーザー照射部位を確認した。
【0020】
(薬物投与方法)
炭酸リチウムを1%(W/V)メチルセルロース液(メチルセルロースを精製水に溶解させて調製)に20mg/mLになるように懸濁し、100mg/kgの用量で炭酸リチウム溶液を光凝固手術日より手術日を含めて7日間1日1回経口投与した。なお、基剤投与群には1%(W/V)メチルセルロース液を同様に投与した。
【0021】
(評価方法)
光凝固後7日目、ラットに5%(W/V)塩酸ケタミン注射液および2%塩酸キシラジン注射液の混合液(7:1)1mL/kgを筋肉内投与して全身麻酔し、0.5%(W/V)トロピカミド−0.5%塩酸フェニレフリン点眼液を点眼して散瞳させた後、10%フルオレセインナトリウム溶液0.1mLを尾静脈から注入して、蛍光眼底造影を行った。蛍光眼底造影で、蛍光露出が認められなかったスポットを陰性(血管新生なし)、蛍光露出が認められたスポットを陽性と判断した。また、若干の蛍光露出が認められる光凝固部位は、それが2箇所存在した時に陽性(血管新生あり)と判定した。その後、数1の式に従い、レーザー照射8箇所のスポットに対する陽性スポット数から脈絡膜血管新生発生率(%)を算出し、数2の式に従い、評価薬物の抑制率(%)を算出した。結果を表1に示す。なお、炭酸リチウム投与群ならびに基剤投与群の例数は、8である。
【0022】
【数1】

【0023】
【数2】

【0024】
【表1】

【0025】
(結果)表1に示すように、炭酸リチウムは、レーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデルにおいて脈絡膜血管新生を約51%抑制した。
【0026】
[薬理試験2]
レーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデルを用いて、塩化リチウムの有用性を評価した。
【0027】
(クリプトンレーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデルの作製方法)
薬理試験1と同一の方法で、クリプトンレーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデルを作製した。
【0028】
(薬物投与方法)
塩化リチウムを1%(W/V)メチルセルロース液(メチルセルロースを精製水に溶解させて調製)に1.2mg/mLになるように懸濁し、6mg/kgの用量で塩化リチウム溶液を光凝固手術日より手術日を含めて7日間1日1回経口投与した。なお、基剤投与群には生理食塩液50μLを光凝固手術日より手術日を含めて7日間1日1回結膜下に投与した。
【0029】
(評価方法)
薬理試験1と同一の評価方法で、評価薬物の抑制率(%)を算出した。結果を表2に示す。なお、塩化リチウム投与群の例数は8であり、基剤投与群の例数は、7である。
【0030】
【表2】

【0031】
(結果)表2に示すように、塩化リチウムは、レーザー誘発ラット脈絡膜血管新生モデルにおいて脈絡膜血管新生を約22%抑制した。
【0032】
[薬理試験3]
経外膜的にトロンビンを暴露することにより血管閉塞を形成させ、網膜血管の透過性亢進を誘起する(日眼会誌, 93, 978-985(1989))、トロンビン誘発ウサギ網膜血管透過性亢進モデルを用いて、炭酸リチウムの有用性を評価した。
【0033】
(トロンビン誘発ウサギ網膜血管透過性亢進モデルの作製方法)
ウサギに5%(W/V)塩酸ケタミン注射液および2%塩酸キシラジン注射液の混合液(7:1)1mL/kgを筋肉内投与して全身麻酔し、0.5%(W/V)トロピカミド−0.5%塩酸フェニレフリン点眼液を点眼して散瞳させた後、眼底透視下で毛様体扁平部から1/4静脈針およびマイクロシリンジを用いて硝子体腔内に刺入し、基剤群および炭酸リチウム投与群に関しては1KU/mLトロンビン投与液10μLを網膜血管上に滴下し、コントロール群に関しては生理食塩水10μLを網膜血管上に滴下した。
【0034】
(薬物投与方法)
炭酸リチウムを生理食塩水に1%(W/V)になるように溶解し、100μg/眼の用量で炭酸リチウム溶液をトロンビン投与30分前ならびにトロンビン投与24時間後に硝子体内投与した。なお、基剤群ならびにコントロール群は生理食塩水を同様に硝子体内投与した。
【0035】
(評価方法)
トロンビン投与48時間後に、10%フルオレセインナトリウム溶液0.1mL/kgを耳静脈より投与し、投与1時間45分後にトロピカミド−0.5%塩酸フェニレフリン点眼液を点眼して散瞳させた後、フルオレセインナトリウム溶液投与2時間後に硝子体フルオロフォトメーターを用いて、眼内フルオレセイン濃度を測定した。
測定結果から硝子体内の平均蛍光濃度を算出し、硝子体内蛍光濃度とした。また、数3の式に従い、評価薬物の抑制率(%)を算出した。結果を表2に示す。なお、コントロール群、基剤投与群ならびに炭酸リチウム投与群の例数は、5又は6である。
【0036】
【数3】

【0037】
【表3】

【0038】
(結果)表3に示すように、炭酸リチウムは、トロンビン誘発ウサギ網膜血管透過性亢進モデルにおいて網膜血管透過性亢進を約55%抑制した。
【0039】
(考察)
以上の結果から、炭酸リチウムならびに塩化リチウムはいずれも優れた脈絡膜血管新生阻害作用を有していることが示された。このことから、リチウムイオンがこれら化合物群の活性本体であり、炭酸リチウム、塩化リチウムに代表されるリチウム塩が優れた脈絡膜血管新生阻害作用を有することが示された。また、炭酸リチウムは優れた網膜血管透過性亢進抑制作用を示したことから、リチウム塩が網膜血管透過性亢進に対して有効であることが示された。これらより、炭酸リチウムおよび塩化リチウムに代表されるリチウム塩は加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫などの血管新生ならびに血管透過性亢進が関与する後眼部疾患に対して顕著な予防又は改善効果を有することが示された。
【0040】
[製剤例]
製剤例を挙げて本発明の薬剤をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの製剤例に限定されるものではない。
【0041】
処方例1 錠剤
100mg中
炭酸リチウム 1mg
乳糖 66.4mg
トウモロコシデンプン 20mg
カルボキシメチルセルロースカルシウム 6mg
ヒドロキシプロピルセルロース 6mg
ステアリン酸マグネシウム 0.6mg
【0042】
炭酸リチウム、乳糖を混合機中で混合し、その混合物にカルボキシメチルセルロースカルシウム及びヒドロキシプロピルセルロースを加えて造粒し、得られた顆粒を乾燥後整粒し、その整粒顆粒にステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、打錠機で打錠する。また、炭酸リチウムの添加量を変えることにより、100mg中の含有量が0.1mg、10mg、50mgの錠剤を調製できる。
【0043】
処方例2 注射剤
10mL中
クエン酸リチウム 10mg
塩化ナトリウム 90mg
ポリソルベート80 適量
滅菌精製水 適量
【0044】
クエン酸リチウム及び塩化ナトリウムを滅菌精製水に溶解して注射剤を調製する。クエン酸リチウムの添加量を変えることにより、10mL中の含有量が0.1mg、10mg、50mgの注射剤を調製できる。
【0045】
処方例3 点眼剤
100mL中
炭酸リチウム 10mg
塩化ナトリウム 900mg
ポリソルベート80 適量
リン酸水素二ナトリウム 適量
リン酸二水素ナトリウム 適量
滅菌精製水 適量
【0046】
滅菌精製水に炭酸リチウム及びそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合して点眼液を調製する。炭酸リチウムの添加量を変えることにより、濃度が0.05%(w/v)、0.1%(w/v)、0.5%(w/v)、1%(w/v)の点眼剤を調製できる。
【0047】
処方例4 眼軟膏
100g中
炭酸リチウム 0.3g
流動パラフィン 10.0g
白色ワセリン 適量
【0048】
均一に溶融した白色ワセリン及び流動パラフィンに、炭酸リチウムを加え、これらを十分に混合して後に徐々に冷却することで眼軟膏を調製する。炭酸リチウムの添加量を変えることにより、濃度が0.05%(w/v)、0.1%(w/v)、0.5%(w/v)、1%(w/w)の眼軟膏を調製できる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
リチウム塩を有効成分として含有する後眼部疾患の治療又は予防剤に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム塩を有効成分として含有する後眼部疾患の治療又は予防剤。
【請求項2】
リチウム塩が炭酸リチウム、塩化リチウム、クエン酸リチウム、オロチン酸リチウム、フッ化リチウム、臭化リチウム、酢酸リチウム、コハク酸リチウム、グルコン酸リチウム、ヨウ化リチウム、硫酸リチウム、硝酸リチウム又はスルホン酸リチウムである請求項1記載の治療又は予防剤。
【請求項3】
リチウム塩が炭酸リチウム、塩化リチウム、クエン酸リチウム又はオロチン酸リチウムである請求項1記載の治療又は予防剤。
【請求項4】
後眼部疾患が硝子体、網膜、脈絡膜、強膜又は視神経における疾患である請求項1記載の治療又は予防剤。
【請求項5】
後眼部疾患が、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜色素変性症、増殖性硝子体網膜症、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎、レーベル病、未熟児網膜症、網膜剥離、網膜色素上皮剥離、中心性漿液性脈絡網膜症、中心性滲出性脈絡網膜症、ポリープ状脈絡膜血管症、多発性脈絡膜炎、新生血管黄斑症、網膜動脈瘤、網膜血管腫状増殖、これらの疾患に起因する視神経障害、緑内障に起因する視神経障害又は虚血性視神経障害である請求項1記載の治療又は予防剤。
【請求項6】
後眼部疾患が加齢黄斑変性、糖尿病網膜症又は糖尿病黄斑浮腫である請求項1記載の治療又は予防剤。
【請求項7】
投与形態が点眼投与、硝子体内投与、結膜下投与、結膜嚢内投与、テノン嚢下投与又は経口投与である請求項1〜6いずれか1記載の治療又は予防剤。
【請求項8】
剤型が、点眼剤、眼軟膏、挿入剤、貼布剤、注射剤、錠剤、細粒剤又はカプセル剤である請求項1〜6いずれか1記載の治療又は予防剤。

【公開番号】特開2009−79041(P2009−79041A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−226147(P2008−226147)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(000177634)参天製薬株式会社 (177)
【Fターム(参考)】