説明

リチウム過剰型のリチウム金属複合酸化物

【課題】従来よりも高密度の電極を作製することができるリチウム過剰型のリチウム金属複合酸化物を提供する。
【解決手段】リチウム過剰型のリチウム金属複合酸化物であって、リチウム以外の金属全量に対して50モル%以上のMnと、他の金属とを含み、かつ、タップ密度が1.0g/ml〜2.0g/mlの範囲であることを特徴とする、リチウム金属複合酸化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池の分野に属し、より詳細には、主に、リチウムイオン電池の正極活物質として有用なリチウム過剰型のリチウム金属複合酸化物に関する。
【背景技術】
【0002】
4ボルト系高エネルギー密度型のリチウム二次電池用正極活物質としては、LiNiOの他、LiCoO、LiMnが使用可能である。LiCoOを正極活物質とする電池は既に市販されている。
【0003】
しかしコバルトは資源量が少なく且つ高価であるため、電池の普及に伴う大量生産には向かない。資源量や価格の面から考えるとマンガン化合物が有望な正極材料である。原料として使用可能な二酸化マンガンは現在乾電池材料として大量に生産されている。スピネル構造のLiMnはサイクルを重ねると容量が低下する欠点があり、この欠点を改善するためにMgやZn等の添加(Thackerayら,Solid State Ionics,69,59(1994))やCo,Ni,Cr等の添加(岡田ら、電池技術,Vol.5,(1993))が行われ、その有効性が既に明らかにされている。
【0004】
化学量論LiMnは、充放電を繰り返すにつれ容量の低いリチウムリッチスピネル化合物となり、次第に安定した容量を示すことが確認されている。この事実に基づいて、リチウムリッチのスピネルを用いればサイクル特性が良好となることも確認されている(芳尾ら:J.Electrochem.Soc.,143,625(1996))。
【0005】
また、異種金属のドープもサイクル特性の改善に有効であり、16dサイトの構成をLi,Mn,M(Ni,Co,Fe,CrおよびCu)とすることにより単純にLiとMnにした場合よりも大きな容量を得ることが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献1】,Solid State Ionics,69,59(1994)
【非特許文献2】J.Electrochem.Soc.,143,625(1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、マンガン酸リチウムに異種元素をドープすると、概して、得られる結晶が軽質となり、十分な密度が達成できないという問題点があった。リチウム金属複合酸化物の密度が低いと、リチウムイオン電池の十分な電極密度を実現することはできない。
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、上記の欠点を有さないリチウム金属複合酸化物およびリチウム金属複合酸化物の製造方法を提供することを課題とする。また、本発明は、前記リチウム金属複合酸化物の前駆体として有用な金属複合水酸化物、その製造方法、並びに前記リチウム金属複合酸化物を用いたリチウムイオン電池用正極材およびリチウムイオン電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、本発明の第1の態様は、リチウム過剰型のリチウム金属複合酸化物であって、リチウム以外の金属全量に対して50モル%以上のMnと、他の金属とを含み、かつ、タップ密度が1.0g/ml〜2.0g/mlの範囲であることを特徴とする、リチウム金属複合酸化物である。
【0010】
本発明の第2の態様は、粉末X線回折法で得られる19°付近の回折ピークに対する45°付近の回折ピークの強度比が、1.20以上1.60以下であるリチウム金属複合酸化物である。
【0011】
本発明の第3の態様は、平均粒子径(D50)が1〜10μmの範囲であるリチウム金属複合酸化物である。
【0012】
本発明の第4の態様は、Liと金属のモル比(Li/Me)が、1<Li/Me≦2を満たすリチウム金属複合酸化物である。
【0013】
本発明の第5の態様は、他の金属が、Ni、Co、Sc、Ti、V、W、Cr、Fe、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、PdおよびCdからなる群から選択される少なくとも1種であるリチウム金属複合酸化物である。
【0014】
本発明の第6の態様は、錯化剤を用いない共沈法により得られ、金属全量に対して50モル%以上のMnと、他の金属とを含み、タップ密度が1.0〜2.0g/mlの範囲である金属複合水酸化物を、リチウム化合物と焼成することにより得られるリチウム金属複合酸化物である。
【0015】
本発明の第7の態様は、前記リチウム金属複合酸化物の製造方法であって、錯化剤を用いない共沈法により得られ、金属全量に対して50モル%以上のMnと、他の金属とを含み、タップ密度が1.0〜2.0g/mlの範囲である金属複合水酸化物を、リチウム化合物と焼成することを特徴とする製造方法である。
【0016】
本発明の第8の態様は、前記共沈法が連続的な共沈法である前記製造方法である。
【0017】
本発明の第9の態様は、錯化剤を用いない共沈法により得られ、金属全量に対して50モル%以上のMnと、他の金属とを含み、タップ密度が1.0〜2.0g/mlである金属複合水酸化物である。
【0018】
本発明の第10の態様は、前記金属複合水酸化物の製造方法であって、錯化剤を用いることなく、金属全量に対して50モル%以上のMnと、他の金属とを含む酸性水溶液を、アルカリ性化合物により中和して金属を共沈させることを特徴とする製造方法である。
【0019】
本発明の第11の態様は、金属を連続的に共沈させることを特徴とする、前記製造方法である。
【0020】
本発明の第12の態様は、前記リチウム金属複合酸化物を含む、リチウムイオン電池用正極材である。
【0021】
本発明の第13の態様は、前記正極材を含むリチウムイオン電池である。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るリチウム金属複合酸化物は、高い密度を有するので、当該リチウム金属複合酸化物を用いることにより、高い正極密度を有するリチウムイオン電池を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、実施例1、実施例2、比較例1で得られた金属複合水酸化物のSEM画像を示す。
【図2】図2は、実施例3、実施例4及び比較例2で得られたリチウム金属複合酸化物のSEM像を図2に示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を、実施形態に即して詳細に説明する。
【0025】
本発明のリチウム過剰型のリチウム金属複合酸化物は、リチウム以外の金属全量に対して50モル%以上のMnと、他の金属とを含み、かつ、タップ密度が1.0g/ml〜2.0g/mlの範囲であることを特徴とする。
【0026】
リチウムと、リチウム以外の金属の原子比(Li/Me)は、リチウム過剰型のリチウム金属複合酸化物においては、例えば1を超えれば良く、1<Li/Me≦2、さらには、1.06≦Li/Me≦1.8が好ましい。
【0027】
本発明のリチウム過剰型のリチウム金属複合酸化物において、Mnの割合は、リチウム以外の金属全量の50モル%以上であれば良く、安定してリチウム過剰型層構造を形成させるためには、60モル%〜90モル%の範囲がより好ましい。
【0028】
他の金属としては、特に制限はないが、Ni、Co、Sc、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Y、W、Zr、Nb、Mo、PdおよびCdからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。典型的なリチウム過剰型のリチウム金属複合酸化物としては、Li〔LiMn〕O(0<x、0<y、0<z、y/(y+z)≧0.5、x+y+z=1)。Mは遷移金属から選ばれる1種以上の金属元素)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物が挙げられる。遷移金属としては、Ti、V、Cr、Fe、Co、Ni、Mo及びWから選ばれる少なくとも一種が好ましく、V、Cr、Fe、Co及びNiから選ばれる少なくとも一種であることが特に好ましい。
【0029】
また、本発明のリチウム過剰型のリチウム金属複合酸化物は、従来のものと比べて高密度であることが特徴であり、そのタップ密度は1.0〜2.0g/ml、好ましくは1.5g/ml以上である。バルク密度は、通常、0.6〜1.2g/mlであり、0.7g/ml以上であることが好ましい。平均粒径(D50)は、小さすぎると密度が低下する傾向にある。またD50が大きすぎると電解液との反応界面が減少し電池特性が低下する傾向があるため、1〜10μm、特に3〜8μmの範囲が好ましい。BET法による比表面積は、大きすぎると密度が低下する傾向にある。また小さすぎると電解液との反応界面が減少し電池特性が低下する傾向があるため、好ましくは0.5〜1.0m/g、より好ましくは0.6〜0.8m/gの範囲である。
【0030】
本発明のリチウム過剰型のリチウム金属複合酸化物において、構造の安定性と充放電容量のバランスの観点から、粉末X線回折法で得られる19°付近の回折ピークに対する45°付近の回折ピークの強度比が、1.20以上1.60以下、特に1.30以上1.50以下であるものが好ましい。
【0031】
上記本発明のリチウム過剰型のリチウム金属複合酸化物の製造方法としては、特に制限されないが、金属全量に対して50モル%以上のMnと、他の金属とを含み、タップ密度が1.0〜2.0g/mlの範囲である金属複合水酸化物を、リチウム化合物と焼成することにより得ることができる。
【0032】
上記金属複合水酸化物は、好ましくは、反応槽に十分な攪拌を行いつつ、不活性ガス雰囲気下、金属全量に対して50モル%以上のMnと、上記他の金属とを含む酸性水溶液と、アルカリ金属水酸化物とを連続的に供給し、連続結晶成長させ、得られた沈殿物を連続的に取り出す事による、所謂連続法により製造することができる。この際、従来の連続法では、錯化剤として、アンモニア等のアンモニウムイオン供給体を、中和反応が行われる反応槽に供給していた。この様な製造方法により、金属イオンをアンモニウム錯塩として、水溶液中でのpHに対する濃度勾配を小さくして粒子を成長させることにより、高密度の粒子成長が可能であるとされていたためである。しかしながら、予想外にも、本発明者等の知見により、Mnを高濃度で含む本発明の金属複合水酸化物を製造するに際して錯化剤を添加しない方が、粒子成長が均一となり、かつ、球状性も向上することが明らかになった。この原因は定かではないが、上記の従来法では、マンガンは安定な錯体を形成することはなく、これにより、ニッケル塩等の他の金属塩の中和反応との間で反応速度差が増大し、均一な粒子成長ができなかったのに対し、本発明では、中和反応がアンモニウム錯塩を経ないで行われるので、粒子成長が均一となり、球状性が向上したものと考えられる。
【0033】
中和反応時におけるpHは、10〜13、特に10〜12の範囲が好ましい。連続法においては、粒子成長を均一にするため、pH変化を、±0.5、特に±0.05の範囲に制御することが好ましい。反応温度は、特に制限はないが、30〜80℃、特に40〜60℃の範囲が好ましい。また、金属全量に対して50モル%以上のMnと、他の金属とを含む酸性水溶液中の金属イオン濃度としては、得られる水酸化物の密度を高くするために、0.7〜2.0mol/L、特に1.4〜2.0mol/Lの範囲が好ましい。反応時における攪拌回転数は、特に制限はないが、粒子同士の研磨作用を十分にし、高密度粒子を得るために、1000〜3000rpm、特に1200〜2000rpmの範囲とすることが好ましい。
【0034】
この様にして得られた金属複合水酸化物は、高い密度を有し、タップ密度は、通常1.0〜2.0g/mlの範囲である。バルク密度は、0.6〜1.2g/ml、特に0.7g/ml以上が好ましい。平均(二次)粒径(D50)は、小さすぎると密度が低下する傾向にある。またD50が大きすぎると活物質の電解液との反応界面が減少し電池特性が低下する傾向があるため、1〜10μm、特に3〜8μmの範囲が好ましい。BET法による比表面積は、大きすぎると密度が低下する傾向にある。また小さすぎると活物質と電解液との反応界面が減少し電池特性が低下する傾向があるため、好ましくは15〜22m/g、より好ましくは18〜21m/gの範囲である。
【0035】
上記金属複合水酸化物と、水酸化リチウム、炭酸リチウム等のリチウム化合物との焼成温度としては、特に制限はないが、好ましくは900℃以上1100℃以下、より好ましくは900℃以上1050℃以下、とりわけ好ましくは950℃〜1025℃である。焼成温度が900℃を下回ると、エネルギー密度(放電容量)及び高率放電性能が低下するという問題を生じやすい。これ以下の領域ではLiの移動を妨げる構造的要因が内在している可能性がある。
【0036】
一方、焼成温度が1100℃を上回ると、Liの揮発によって目標とする組成の複合酸化物が得られにくいなどの作製上の問題や、粒子の高密度化によって電池性能が低下するという問題が生じやすい。これは、1100℃を上回ると、1次粒子成長速度が増加し、複合酸化物の結晶粒子が大きくなりすぎることに起因しているが、それに加えて、局所的にLi欠損量が増大して、構造的に不安定となっていることも原因ではないかと考えられる。さらに、高温になるほど、Li元素の占有するサイトと、Mn及び他の元素が占有してなるサイト間の元素置換が極度に生じ、Li伝導パスが抑制されることによって放電容量は低下する。焼成温度を950℃以上1025℃以下の範囲とすることによって、特に高いエネルギー密度(放電容量)を示し、充放電サイクル性能に優れた電池を作製できる。焼成時間は、3時間〜50時間が好ましい。焼成時間が50時間を超えると、電池性能上問題はないが、Liの揮発によって実質的に電池性能に劣る傾向となる。焼成時間が3時間より少ないと、結晶の発達が悪く、電池性能が悪くなる傾向となる。なお、上記の焼成の前に、Liの偏析防止のため、仮焼成(例えば、特開2011−29000参照)を行うことも有効である。この様な仮焼成の温度は、300〜900℃の範囲で、1〜10時間行うことが好ましい。
【0037】
次に、本発明のリチウムイオン電池用正極材及びリチウムイオン電池について説明する。
【0038】
本発明のリチウムイオン電池用正極材は、上記リチウム金属複合酸化物を含有することを特徴とする。本発明のリチウムイオン電池用正極材には、その目的に合わせて、さらに、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、リチウムコバルトマンガンニッケル酸化物等の通常公知の正極活物質を添加することができる。
【0039】
また、本発明のリチウムイオン電池用正極材には、他の化合物をさらに含有しても良く、他の化合物としては、CuO,CuO,AgO,CuS,CuSO等のI族化合物、TiS,SiO,SnO等のIV族化合物、V,V12,VO,Nb,Bi,Sb等のV族化合物、CrO,Cr,MoO,MoS,WO,SeO等のVI族化合物、MnO,Mn等のVII族化合物、Fe,FeO,Fe,Ni,NiO,CoO,CoO等のVIII族化合物等、ジスルフィド,ポリピロール,ポリアニリン,ポリパラフェニレン,ポリアセチレン,ポリアセン系材料等の導電性高分子化合物、擬グラファイト構造炭素質材料等が挙げられる。
【0040】
正極材に、正極活物質以外の他の化合物を併用する場合、他の化合物の使用割合は、本発明の効果を損なわない程度であれば限定されるものではないが、他の化合物は、正極材の総重量に対して、1重量%〜50重量%が好ましく、5重量%〜30重量%であるのがより好ましい。
【0041】
本発明のリチウムイオン電池は、本発明の正極材を含むことを特徴とし、通常、当該正極と、非水電解質二次電池用負極(以下、単に“負極”ともいう)と、非水電解質とを具備し、一般的には、正極と負極との間に、非水電解質電池用セパレータが設けられる。非水電解質は、電解質塩が非水溶媒に含有されてなる形態を好適に例示できる。
【0042】
非水電解質は、一般にリチウムイオン電池等への使用が提案されているものが使用可能である。非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフランまたはその誘導体;1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジブトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキソランまたはその誘導体;エチレンスルフィド、スルホラン、スルトンまたはその誘導体等の単独またはそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
電解質塩としては、例えば、LiClO,LiBF,LiAsF,LiPF,LiSCN,LiBr,LiI,LiSO,Li10Cl10,NaClO,NaI,NaSCN,NaBr,KClO,KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCFSO,LiN(CFSO,LiN(CSO,LiN(CFSO)(CSO),LiC(CFSO,LiC(CSO,(CHNBF,(CHNBr,(CNClO,(CNI,(CNBr,(n−CNClO,(n−CNI,(CN−maleate,(CN−benzoate,(CN−phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。
【0044】
さらに、LiBF,LiPFのような無機イオン塩とLiN(CSOのようなパーフルオロアルキル基を有するリチウム塩とを混合して用いることにより、さらに電解質の粘度を下げることができるので、低温特性をさらに高めることができ、より望ましい。
【0045】
非水電解質における電解質塩の濃度としては、高い電池特性を有する電池を確実に得るために、0.1モル/リットル〜5モル/リットルが好ましく、さらに好ましくは、1モル/リットル〜2.5モル/リットルである。
【0046】
正極は、本発明に係るリチウム金属複合酸化物を含む正極活物質を主要構成成分とすることが好ましく、例えば、本発明に係るリチウム金属複合酸化物を、導電剤および結着剤、さらに必要に応じてフィラーと混練して正極材とした後、この正極材を集電体としての箔やラス板等に塗布、または圧着して50℃〜250℃程度の温度で、2時間程度加熱処理することにより好適に作製される。正極活物質の正極に対する含有量は、通常、80重量%〜99重量%とされ、好ましくは、85重量%〜97重量%とされる。
【0047】
負極は、負極材料を主要構成成分としている。負極材料としては、リチウムイオンを吸蔵放出可能な形態のものであればどれを選択しても良い。例えば、リチウム金属、リチウム合金(リチウム−アルミニウム,リチウム−鉛,リチウム−スズ,リチウム−アルミニウム−スズ,リチウム−ガリウム,およびウッド合金等のリチウム金属含有合金)、リチウム複合酸化物(リチウム−チタン)、窒化珪素の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えばグラファイト、ハードカーボン、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)等が挙げられる。これらの中でもグラファイトは、金属リチウムに極めて近い作動電位を有するので電解質塩としてリチウム塩を採用した場合に自己放電を少なくでき、かつ充放電における不可逆容量を少なくできるので、負極材料として好ましい。例えば、人造黒鉛、天然黒鉛が好ましい。特に,負極材料表面を不定形炭素等で修飾してあるグラファイトは、充電中のガス発生が少ないことから望ましい。
【0048】
以下に、好適に用いることのできるグラファイトのエックス線回折等による分析結果を示す;
格子面間隔(d002) 0.333〜0.350nm
a軸方向の結晶子の大きさLa 20nm 以上
c軸方向の結晶子の大きさLc 20nm 以上
真密度 2.00〜2.25g/cm
また、グラファイトに、スズ酸化物,ケイ素酸化物等の金属酸化物、リン、ホウ素、アモルファスカーボン等を添加して改質を行うことも可能である。特に、グラファイトの表面を上記の方法によって改質することで、電解質の分解を抑制し電池特性を高めることが可能であり望ましい。さらに、グラファイトに対して、リチウム金属、リチウム−アルミニウム,リチウム−鉛,リチウム−スズ,リチウム−アルミニウム−スズ,リチウム−ガリウム,およびウッド合金等のリチウム金属含有合金等を併用することや、あらかじめ電気化学的に還元することによってリチウムが挿入されたグラファイト等も負極材料として使用可能である。負極材料の負極に対する含有量は、通常、80重量%〜99重量%とされ、好ましくは、90重量%〜98重量%とされる。
【0049】
正極活物質の粉体及び負極材料の粉体は、平均粒子サイズ100μm以下であることが望ましい。特に、正極活物質の粉体は、電池の高出力特性を向上する目的で10μm以下であることが望ましい。粉体を所定の形状で得るためには粉砕機や分級機が用いられる。例えば乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミルや篩等が用いられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、特に限定はなく、篩や風力分級機などが、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0050】
以上、正極及び負極の主要構成成分である正極材および負極材料について詳述したが、前記正極及び負極には、前記主要構成成分の他に、導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等が、他の構成成分として含有されてもよい。
【0051】
導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば限定されないが、通常、天然黒鉛(鱗状黒鉛,鱗片状黒鉛,土状黒鉛等)、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカー、炭素繊維、金属(銅,ニッケル,アルミニウム,銀,金等)粉、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料を1種またはそれらの混合物として含ませることができる。
【0052】
これらの中で、導電剤としては、電子伝導性及び塗工性の観点よりアセチレンブラックが望ましい。導電剤の添加量は、正極又は負極の総重量に対して0.1重量%〜50重量%が好ましく、特に0.5重量%〜30重量%が好ましい。特にアセチレンブラックを0.1〜0.5μmの超微粒子に粉砕して用いると必要炭素量を削減できるため望ましい。これらの混合方法は、物理的な混合であり、その理想とするところは均一混合である。そのため、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミルといったような粉体混合機を乾式、あるいは湿式で混合することが可能である。
前記結着剤としては、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ポリフッ化ビニリデン(PVdF),ポリエチレン,ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジェンターポリマー(EPDM),スルホン化EPDM,スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを1種または2種以上の混合物として用いることができる。結着剤の添加量は、正極または負極の総重量に対して1〜50重量%が好ましく、特に2〜30重量%が好ましい。
特に、本発明に係る正極は、正極活物質に対して1重量%以上の導電性炭素材料と、電解液を含有することによってイオン伝導性を有する結着剤とを含有するのが好ましい。“電解液を含有することによってイオン伝導性を有する結着剤”としては、電解液としてLiPFを電解質としてエチレンカーボネートやジエチレンカーボネートやジメチルカーボネート等を溶媒として使用する場合に於いては、前掲の結着剤のうち、ポリフッ化ブニリデン(PVdF)やポリエチレン(ポリエチレンオキシド)を好適に用いることが出来る。
【0053】
前記増粘剤としては、通常、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等の多糖類等を1種または2種以上の混合物として用いることができる。また、多糖類の様にリチウムと反応する官能基を有する増粘剤は、例えばメチル化等の処理によりその官能基を失活させておくことが望ましい。増粘剤の添加量は、正極または負極の総重量に対して0.5〜10重量%が好ましく、特に1〜2重量%が好ましい。
【0054】
フィラーとしては、電池性能に悪影響を及ぼさない材料であれば何でも良い。通常、ポリプロピレン,ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、無定形シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素等が用いられる。フィラーの添加量は、正極または負極の総重量に対して添加量は30重量%以下が好ましい。
【0055】
正極および負極は、主要構成成分(正極の場合は正極活物質であり、負極の場合は負極材料である)、導電剤および結着剤を、N−メチルピロリドン,トルエン等の溶剤に混合させてスラリーを作製し、このスラリーを下記に詳述する集電体の上に塗布し、乾燥することによって、好適に作製される。前記塗布方法については、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ等の手段を用いて任意の厚さおよび任意の形状に塗布することが望ましいが、これらに限定されるものではない。
【0056】
集電体としては、構成された電池において悪影響を及ぼさない電子伝導体であれば何でもよい。例えば、正極用集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス等の他に、接着性、導電性および耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅等の表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀等で処理した物を用いることができる。負極用集電体としては、銅、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al−Cd合金等の他に、接着性、導電性、耐還元性の目的で、銅等の表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀等で処理した物を用いることができる。これらの材料については表面を酸化処理することも可能である。
【0057】
集電体の形状については、フォイル状の他、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされた物、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体等が用いられる。厚さの限定は特にないが、1〜500μmのものが用いられる。これらの集電体の中で、正極としては、耐酸化性に優れているアルミニウム箔が、負極としては、耐還元性、且つ電導性に優れ、安価な銅箔、ニッケル箔、鉄箔、およびそれらの一部を含む合金箔を使用することが好ましい。さらに、粗面表面粗さが0.2μmRa以上の箔であることが好ましく、これにより正極活物質または負極材料と集電体との密着性は優れたものとなる。よって、このような粗面を有することから、電解箔を使用するのが好ましい。特に、ハナ付き処理を施した電解箔は最も好ましい。さらに、該箔に両面塗工する場合、箔の表面粗さが同じ、またはほぼ等しいことが望まれる。
【0058】
非水電解質電池用セパレータとしては、優れたレート特性を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。非水電解質電池用セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン,ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等を挙げることができる。
【0059】
非水電解質電池用セパレータの空孔率は強度の観点から98体積%以下が好ましい。また、放電容量の観点から空孔率は20体積%以上が好ましい。
【0060】
また、非水電解質電池用セパレータは、例えばアクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタアクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーと電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。
【0061】
非水電解質を上記のようにゲル状態で用いると、漏液を防止する効果がある点で好ましい。さらに、非水電解質電池用セパレータは、上述したような多孔膜や不織布等とポリマーゲルを併用して用いると、電解質の保液性が向上するため望ましい。即ち、ポリエチレン微孔膜の表面及び微孔壁面に厚さ数μm以下の親溶媒性ポリマーを被覆したフィルムを形成し、前記フィルムの微孔内に電解質を保持させることで、前記親溶媒性ポリマーがゲル化する。
【0062】
前記親溶媒性ポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデンの他、エチレンオキシド基やエステル基等を有するアクリレートモノマー、エポキシモノマー、イソシアナート基を有するモノマー等が架橋したポリマー等が挙げられる。該モノマーは、ラジカル開始剤を併用して加熱や紫外線(UV)を用いたり、電子線(EB)等の活性光線等を用いて架橋反応を行わせることが可能である。
【0063】
前記親溶媒性ポリマーには、強度や物性制御の目的で、架橋体の形成を妨害しない範囲の物性調整剤を配合して使用することができる。前記物性調整剤の例としては、無機フィラー類{酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄などの金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの金属炭酸塩}、ポリマー類{ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート等}等が挙げられる。前記物性調整剤の添加量は、架橋性モノマーに対して通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下である。
【0064】
本発明に係るリチウムイオン電池は、電解質を、例えば、非水電解質電池用セパレータと正極と負極とを積層する前または積層した後に注液し、最終的に、外装材で封止することによって好適に作製される。また、正極と負極とが非水電解質電池用セパレータを介して積層された発電要素を巻回してなる電池においては、電解質は、前記巻回の前後に発電要素に注液されるのが好ましい。注液法としては、常圧で注液することも可能であるが、真空含浸方法や加圧含浸方法も使用可能である。
【0065】
電池の外装体の材料としては、ニッケルメッキした鉄やステンレススチール、アルミニウム、金属樹脂複合フィルム等が一例として挙げられる。例えば、金属箔を樹脂フィルムで挟み込んだ構成の金属樹脂複合フィルムが好ましい。前記金属箔の具体例としては、アルミニウム、鉄、ニッケル、銅、ステンレス鋼、チタン、金、銀等、ピンホールのない箔であれば限定されないが、好ましくは軽量且つ安価なアルミニウム箔が好ましい。また、電池外部側の樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルム,ナイロンフィルム等の突き刺し強度に優れた樹脂フィルムを、電池内部側の樹脂フィルムとしては、ポリエチレンフィルム,ナイロンフィルム等の、熱融着可能であり、かつ耐溶剤性を有するフィルムが好ましい。
【0066】
電池の構成については特に限定されるものではなく、正極、負極および単層又は複層のセパレータを有するコイン電池やボタン電池、さらに、正極、負極およびロール状のセパレータを有する円筒型電池、角型電池、扁平型電池等が一例として挙げられる。
【実施例】
【0067】
以下、本発明を実施例に則して更に詳細に説明する。なお、以下の実施例は、本発明を説明するためのものであって、本発明を限定するものと解されるべきではない。
[実施例1]
70φプロペラタイプの攪拌羽根1枚を備えた攪拌機とオーバーフローパイプを備えた15L円筒形反応槽に水を15L入れた後、pHが10.8になるまで32%水酸化ナトリウム溶液を加え50℃に保持し1500rpmの速度にて攪拌を行った。次に硫酸ニッケル水溶液と、硫酸コバルト水溶液と、硫酸マンガン水溶液とを、Ni:Co:Mnの原子比が20:10:70となるように混合した混合液(硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンの合計量80g/L)を9ml/分の流量にて反応槽に連続的に添加した。この間、反応槽内の溶液がpH10.8になるように32%水酸化ナトリウムを断続的に加え、金属複合水酸化物を沈殿させた。
【0068】
反応槽内が定常状態になった72時間後に、オーバーフローパイプより金属複合水酸化物を連続的に24時間採取し水洗後、濾過し105℃にて20時間乾燥し、コバルト、マンガンおよびニッケルが、20:10:70の原子比で固溶した金属複合水酸化物を得た。
【0069】
得られた金属複合水酸化物粉末の嵩密度は0.82g/mlであった。また、以下の条件で測定したタッピング密度は、1.24g/mlであった。堀場製作所製レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定した平均粒径(D50)は5.17μm、ユアサアイオニクス社製4ソーブにより測定したBET表面積は20.0m/gであった。ICP発光分光法により測定したナトリウムイオン含量、SO2+含量は、それぞれ、0.007質量%、0.31質量%であった。
【0070】
タッピング密度の測定条件
20mLセル[C]の質量を測定し[A]、48meshのフルイで結晶をセルに自然落下して充填した。4cmスペーサー装着の株式会社セイシン企業製、「TAPDENSER KYT3000」を用いて200回タッピング後セルの質量[B]と充填容積[D]を測定した。次式により計算した。
タップ密度=(B−A)/D g/ml
かさ密度=(B−A)/C g/ml
【0071】
[実施例2]
70φプロペラタイプの攪拌羽根1枚を備えた攪拌機とオーバーフローパイプを備えた15L円筒形反応槽に水を15L入れた後、pHが10.9になるまで32%水酸化ナトリウム溶液を加え50℃に保持し1500rpmの速度にて攪拌を行った。次に硫酸ニッケル水溶液と、硫酸コバルト水溶液と、硫酸マンガン水溶液とを、Ni:Co:Mnの原子比が20:10:70となるように混合した混合液(硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンの合計量103g/L)を9ml/分の流量にて反応槽に連続的に添加した。この間、反応槽内の溶液がpH10.9になるように32%水酸化ナトリウムを断続的に加え、金属複合水酸化物を沈殿させた。
【0072】
反応槽内が定常状態になった72時間後に、オーバーフローパイプより金属複合水酸化物を連続的に24時間採取し水洗後、濾過し105℃にて20時間乾燥し、コバルト、マンガンおよびニッケルが、20:10:70の原子比で固溶した金属複合水酸化物を得た。
【0073】
得られた金属複合水酸化物粉末の嵩密度は0.96g/mlであった。また、上記条件で測定したタッピング密度は、1.46g/mlであった。平均粒径は5.06μm、ユアサアイオニクス社製4ソーブにより測定したBET表面積は19.3m/gであった。ICP発光分光法により測定したナトリウムイオン含量、SO2+含量は、それぞれ、0.007質量%、0.33質量%であった。
【0074】
[比較例1]
中和反応時に、アンモニア濃度を100g/Lに調整した硫酸アンモニウム水溶液を0.9ml/minの流量で連続的に添加した以外は、実施例1と同様の条件で金属複合水酸化物を得た。得られた金属複合水酸化物粉末の嵩密度は0.32g/mlであった。また、上記条件で測定したタッピング密度は、0.65g/mlであった。平均粒径は5.60μm、堀場製作所社製レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定したBET表面積は22.0m/gであった。ICP発光分光法により測定したナトリウムイオン含量、SO2+含量は、それぞれ、0.048質量%、0.41質量%であった。
【0075】
図1に、上記実施例1、実施例2、比較例1で得られた金属複合水酸化物のSEM画像を示す。実施例1及び実施例2では、一次粒子が、短軸約0.2μm、長軸約1μmの略四角柱状の粒子となっており、これら一次粒子の凝集により、緻密な略球状の二次粒子が形成されていることがわかる。一方、比較例1の条件では、一次粒子は直径約0.2μmの鱗片状となっており、二次粒子の成長が十分でないことが確認できる。また、実施例1に対して原料濃度を高くした実施例2では、粒子の均一性および球状性が増し、これによりさらに密度が向上したものと考えられる。
【0076】
[実施例3]
実施例1で得られた金属複合水酸化物を、炭酸リチウムと、Li/Me比が1.545となるように混合した。混合物をアルミナ製のさやに充填し、電気炉を用いて、乾燥空気下、室温から400℃まで昇温し、400℃で1時間保持した。次いで700℃まで昇温し、700℃で5時間保持した。さらに、1000℃まで昇温し、1000℃で10時間保持した。その後、室温まで徐冷した。なお、各昇温の昇温速度は、200℃/hrとした。
【0077】
これにより得られたリチウム金属複合酸化物は、嵩密度が0.86g/ml、上記測定方法によるタップ密度が1.62g/mlであった。また、平均粒径(D50)は5.97μm、BET表面積は0.70m/gであった。
【0078】
[実施例4]
実施例2で得られた金属複合水酸化物を原料として、実施例3と同様の条件でリチウム金属複合酸化物を得た。得られたリチウム金属複合酸化物は、嵩密度が1.00g/ml、上記測定方法によるタップ密度が1.72g/mlであった。また、平均粒径(D50)は5.90μm、BET表面積は0.59m/gであった。
【0079】
実施例3及び4で得られたリチウム金属複合酸化物のCuKα線によるX線回折測定の結果、2θ=18度、22度、36度、37度、38度、45度、48度、58度、64度、65度、68度付近にそれぞれピークが確認された。これらのうち、22°度付近に存在するピークにより、粉末が、リチウム過剰型の層構造を有するリチウム金属複合酸化物であることが分かった。また、19°付近の回折線の強度に対する45°付近の回折線の強度の比は、それぞれ、1.44と1.24であった。
【0080】
[比較例2]
比較例1で得られた金属複合水酸化物を原料として、実施例3と同様の条件でリチウム金属複合酸化物を得た。得られたリチウム金属複合酸化物は、嵩密度が0.47g/ml、上記測定方法によるタップ密度が0.90g/mlであった。また、平均粒径(D50)は5.47μm、BET表面積は1.8m/gであった。22°度付近に存在するピークにより、粉末が、リチウム過剰型の層構造を有するリチウム金属複合酸化物であることが分かった。
【0081】
実施例3、実施例4及び比較例2で得られたリチウム金属複合酸化物のSEM像を図2に示した。前駆体である金属複合酸化物の場合と同様、実施例3及び実施例4のリチウム金属複合酸化物は、二次粒子の球状性が、比較例2に比べて向上していることが分かる。
【0082】
[実施例5、実施例6及び比較例3]
実施例3、実施例4及び比較例2で得られたリチウム金属複合酸化物はリチウム金属を負極として、二極式評価セルを作製し試験評価した。それぞれ、実施例5、実施例6及び比較例3の評価セルは以下のように作製した。正極材の調製は、活物質・導電剤(アセチレンブラック)・バインダ(ポリフッ化ビニリデン)をそれぞれ88:6:6の重量比で混合し、N−メチル−2−ピロリドンを加え混練分散しスラリーを作製した。スラリーをベーカー式アプリケーターを用いてアルミニウム箔に塗布し、60℃で3時間、120℃で12時間乾燥した。乾燥後の電極をロールプレスしたものを2cmの面積に打ち抜いたものを正極板とした。また、これらの正極材を正極とする二極式評価セルを作成した。評価セルの作製は、リチウム金属をステンレス板に貼り付けたものを負極板とした。エチレンカーボネイトとジメチルカーボネイトをそれぞれ3:7の体積比で混合した溶液にヘキサフルオロリン酸リチウムを1mol/Lになるよう溶解した溶液を電解液としてセパレーターに染み込ませた。セパレーターにはポリプロピレンセパレーターを用いた。正極板・セパレーター・負極板をステンレス板で挟み外装材で封入して二極式評価セルを構成した。
【0083】
正極のプレス密度、電極密度を以下の通りに測定すると共に、リチウムイオン電池の充電容量、放電容量及び充放電効率を、以下の通りに測定した。
【0084】
正極プレス密度及び電極密度の測定条件
プレス密度:活物質に10kNの圧力をかけた場合の粉体の見かけ密度を測定した。
電極密度:正極板を作製した際のロールプレス後の電極の厚み(正極板の厚みからアルミ板の厚さを差し引いたもの)と電極を打ち抜いた面積から電極の体積を算出し、活物質の重量(作製した正極板の総重量からアルミ板の重量を差し引き、活物質・導電剤・バインダの重量比から算出した活物質の重量)を体積で割った値を求めた。
リチウムイオン電池の充電容量、放電容量及び充放電効率
電圧制御は全て正極電位に対して行った。充電は、電流0.05C、電圧4.8Vの定電流定電圧充電とし、充電終止条件は電流値が1/5に減衰した時点とした。放電は、電流0.05C、終止電圧2.0Vの定電流放電とした。
測定結果を表1、表2に示した。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【0087】
表1の結果より、本発明による、高密度のリチウム金属複合酸化物を用いることにより、リチウムイオン電池のプレス密度、電極密度の向上を達成できることが分かる。また、表2より、本発明のリチウム金属複合酸化物は、充放電特性も十分満足できるものであることが分かる。特に、実施例6のリチウム金属複合酸化物は、放電容量と電極密度の積が高く、優れた正極活物質であることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム過剰型のリチウム金属複合酸化物であって、
リチウム以外の金属全量に対して50モル%以上のMnと、他の金属とを含み、かつ、タップ密度が1.0g/ml〜2.0g/mlの範囲であることを特徴とする、リチウム金属複合酸化物。
【請求項2】
粉末X線回折法で得られる19°付近の回折ピークに対する45°付近の回折ピークの強度比が、1.20以上1.60以下である、請求項1に記載のリチウム金属複合酸化物。
【請求項3】
平均粒子径(D50)が、1〜10μmの範囲である、請求項1又は2記載のリチウム金属複合酸化物。
【請求項4】
Liとリチウム以外の金属のモル比(Li/Me)が、1<Li/Me≦2を満たす、請求項1〜3何れかに記載のリチウム金属複合酸化物。
【請求項5】
他の金属が、Ni、Co、Sc、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Y、W、Zr、Nb、Mo、PdおよびCdからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜4何れかに記載のリチウム金属複合酸化物。
【請求項6】
錯化剤を用いない共沈法により得られ、金属全量に対して50モル%以上のMnと、他の金属とを含み、タップ密度が1.0〜2.0g/mlの範囲である金属複合水酸化物を、リチウム化合物と焼成することにより得られる、請求項1〜5何れかに記載のリチウム金属複合酸化物。
【請求項7】
請求項1〜6何れかに記載のリチウム金属複合酸化物の製造方法であって、錯化剤を用いない共沈法により得られ、金属全量に対して50モル%以上のMnと、他の金属とを含み、タップ密度が1.0〜2.0g/mlの範囲である金属複合水酸化物を、リチウム化合物と焼成することを特徴とする製造方法。
【請求項8】
前記共沈法が連続的な共沈法である、請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
錯化剤を用いない共沈法により得られ、金属全量に対して50モル%以上のMnと、他の金属とを含み、タップ密度が1.0〜2.0g/mlの範囲である金属複合水酸化物。
【請求項10】
請求項9記載の金属複合水酸化物の製造方法であって、錯化剤を用いることなく、金属全量に対して50モル%以上のMnと、他の金属とを含む酸性水溶液を、アルカリ金属水酸化物により中和して金属を共沈させることを特徴とする製造方法。
【請求項11】
金属を連続的に共沈させることを特徴とする、請求項10記載の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜6何れかに記載のリチウム金属複合酸化物を含む、リチウムイオン電池用正極材。
【請求項13】
請求項12記載の正極材を含むリチウムイオン電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−75773(P2013−75773A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215183(P2011−215183)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(592197418)株式会社田中化学研究所 (34)
【Fターム(参考)】