説明

リテーナ付きコネクタ

【課題】端子金具に対する保持力の強化を図ることができるようにする。
【解決手段】コネクタハウジング1にはリテーナ11が主ヒンジ部16を介して開閉可能に一体形成されている。リテーナ11の前端部には端子金具5に係止可能な端子係止部18と、コネクタハウジング1の係止受け縁13に係止可能な本係止突部21とが備えられている。リテーナ11の外面の中央部には副ヒンジ部24が形成され、端子金具5が引っ張られて端子係止部18に抜け方向の力が作用したときには、副ヒンジ部24からリテーナ11の自由端にかけて前下がりとなるような姿勢に変位可能な構成とされている。これによって、端子金具5に引っ張りの強い力が作用してもリテーナ11はコネクタハウジング1から浮き上がる事態が回避されるため、剪断ストロークが確保され、もって端子保持力の増強が図られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリテーナ付きコネクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、コネクタハウジングにリテーナがヒンジを介して一体に形成されたものが知られている。一例としては、下記特許文献1を挙げることができる。コネクタハウジングにはリテーナ装着孔が開口し、リテーナはリテーナ装着孔の後端部に形成されたヒンジによってリテーナ装着孔に対する開閉動作が可能である。リテーナの前端部には、リテーナが閉じ状態にあるときにコネクタハウジングに対してロックする部分と端子金具に係止する部分とが形成されている。リテーナ装着孔の前縁には逆テーパ面が形成され、リテーナ側のロック部はこの逆テーパ面に適切なラップ代をもって係止できるように形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−312847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、コネクタの配索作業時にはコネクタハウジングから外部に引き出された電線が強く引っ張られることがある。そのような場合には、端子金具が後退させられリテーナに対しても同方向への大きな力が作用するため、リテーナ全体も僅かではあるが後退する。これが原因で、上記したコネクタハウジングに対するロック部分のラップ代が減少しコネクタハウジングに対する係止力が低下してしまうことが懸念される。また、リテーナと端子金具との係止部位における当たり状況によっては、端子金具からの押圧力を受けてリテーナがコネクタハウジングから浮き上がる方向へ変位することも考えられる。そうなると、端子金具に対する係止代も減少し、端子保持力も低下してしまう虞がある。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、端子金具に対する保持力の増強を図ることができるリテーナ付きコネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、端子金具と、この端子金具を収容可能なキャビティが形成されたコネクタハウジングと、このコネクタハウジングにヒンジを介して一体にかつ開閉可能に形成され、開放状態では前記端子金具が前記キャビティへ挿通可能であるが、閉止状態では前記端子金具に係止して前記端子金具を抜け止めした状態で保持するリテーナとを備えたリテーナ付きコネクタであって、前記リテーナの自由端側には、前記端子金具へ係止可能な端子係止部と前記コネクタハウジングに係止して前記リテーナを閉止状態に保持するハウジング係止部とが形成されるとともに、前記ヒンジと前記リテーナの自由端との間には副ヒンジ部が形成され、前記端子係止部に前記端子金具の抜け方向の力が作用したときには、前記副ヒンジ部から前記リテーナの自由端にかけて前下がりとなるような姿勢に変形可能な構成とされている構成としたところに特徴を有する。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記副ヒンジ部は、前記リテーナの肉厚を幅方向に沿って減少させることによって形成されているところに特徴を有する。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載のものにおいて、前記副ヒンジ部は、前記リテーナの外面に形成されているところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0009】
<請求項1の発明>
請求項1の発明によれば、端子金具に抜け方向の力が作用すると、リテーナの端子係止部にも同方向の力が作用する。すると、リテーナの自由端側は副ヒンジ部を中心とした前下がりとなる方向の変位を生じる。したがって、端子金具に抜け方向の力が作用しても、コネクタハウジングとハウジング係止部との係止代は確保され、同様に端子金具に対する端子係止部の係止代も確保されるため、端子保持力を増強することができる。
【0010】
<請求項2の発明>
請求項2の発明によれば、リテーナの副ヒンジ部はリテーナの剛性を幅方向に沿って局部的に低下させることによって、同部分をリテーナの自由端側の変位の中心とすることができる。また、単なる肉厚の減少だけで副ヒンジ部を構成することができるため、リテーナの成形型も簡単な構造で済む。
【0011】
<請求項3の発明>
請求項3の発明によれば、副ヒンジ部がリテーナの外面側に形成されているため、成形がしやすく型構造が簡単で済む。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】リテーナが仮係止状態にあるときのコネクタハウジングの正面図
【図2】同じく側面図
【図3】リテーナが仮係止状態にあるときのコネクタハウジングの断面図
【図4】同じく本係止状態にあるときのコネクタハウジングの断面図
【図5】端子金具に引っ張り力が作用したときのリテーナの係止状態を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態1>
以下、本発明の実施形態1を図面にしたがって説明する。図において、1は合成樹脂製のコネクタハウジング(雌コネクタハウジング)であり、一側面には相手コネクタハウジングとの嵌合状態をロックするためのロックアーム2が配されている。図2に示すように、ロックアーム2はコネクタハウジング1の前後両端部が連結された両持ち状に形成され、長さ方向の中央部が内側へ湾曲した状態で撓み可能である。また、長さ方向中央部には相手コネクタハウジングに対するロック突部3が形成されている。
【0014】
コネクタハウジング1の内部には、図に示すように、3つのキャビティ4が並列して形成され、それぞれ端子金具5(雌端子金具)を後方から挿通可能に形成されている。各キャビティ4の内部であって前端部寄りには端子金具5を一次係止させるためのランス10が配されている。ランス10は前方へ向けて片持ち状に延出し、延出方向と直交する方向へ撓み可能である。
【0015】
端子金具5は導電金属製であり、前端部には相手端子金具(雄端子金具)との接続のための端子接続部6が形成されている。後端部には電線Wへの接続のためのバレル部7が端子接続部6に連続して形成されている。端子接続部6は角筒型に形成され、内部には相手端子金具と弾性的に接触可能な舌片8が前端縁から後方へ折り返すことによって形成されている。また、端子接続部6の底面にはランスホール9が開口し、端子金具5がキャビティ4内に正規深さまで挿通されると、ランス10がランスホール9内に進入する。このことによって、端子金具5はキャビティ4内に一次係止状態で保持される。端子金具5は、端子接続部6における上面(ランス10と係止する側の面と反対側の面)において後述するリテーナ11と二次係止する。
【0016】
コネクタハウジング1の側面(ランス10が形成される側と反対側の面)には全キャビティ4を露出可能な大きさをもってリテーナ装着孔12が開口している。リテーナ装着孔12の開口縁のうち前端のものはリテーナ11を閉止状態に係止させるための係止受け縁13が形成され、同係止受け縁13は深さ方向に沿って徐々に前方へ傾斜する逆テーパ面となっている。この係止受け縁13より下側はより勾配の大きな誘い込み縁14が形成され、端子金具5がキャビティ4へ挿通される時に軌道にずれを生じても傾斜に沿ってスライドさせることによって軌道のずれを矯正することができるようにしている。コネクタハウジング1の外面であってリテーナ装着孔12より後部側は一段高くなって段部15が形成されている。
【0017】
リテーナ11は主ヒンジ部16を中心として回動することができ、リテーナ装着孔12を開閉可能としている。主ヒンジ部16はリテーナ装着孔12の後端縁、つまり段部15との境界部分においてコネクタハウジング1の幅方向に沿って形成されている。リテーナ11の外面はほぼ平坦面となっていて、リテーナ11がリテーナ装着孔12を閉止した状態(本係止状態:図4状態)のときには、段部15の外面とほぼ面一となるようにしてある。
【0018】
図3に示すように、リテーナ11は自由端側が肉厚となるような断面形状に形成されている。すなわち、リテーナ11の内面側であって主ヒンジ部16から長さ方向の中央部に至るまでの範囲は、下り勾配の急な湾曲面17Aが形成され、それよりも前部側は下り勾配の緩やかな傾斜面17Bが形成されている。
【0019】
リテーナ11の前端面であって、最も内面寄りの部分には端子接続部6の後端縁に係止可能な端子係止部18が形成されている。端子係止部18は僅かな勾配が設定されている。具体的には、リテーナ11が本係止状態にあるときには下端側へ行くにつれて徐々に前方へ突出するような勾配が設定されている。端子係止部18の下部にはリテーナ11が仮係止状態から本係止状態へと移行する際に、端子金具5との干渉を避けるための逃がし面19が連続している。
【0020】
リテーナ11の前端面であって端子係止部18の上部側にはリテーナ11をハウジングに対し仮係止状態及び本係止状態のそれぞれに保持するための仮係止突部20及び本係止突部21(ハウジング係止部)とが高さ方向へ順に配されている。すなわち、仮係止突部20は端子係止部18の上部側において一段前方へ突出した状態で形成され、リテーナ11が図3に示す仮係止状態にあるときにはコネクタハウジング1の係止受け縁13の勾配に沿って全面が圧着するが、本係止状態にあるときにはほぼ鉛直面をなし、係止受け縁13から後方へ離間して位置するように形成されている。なお、リテーナ11が仮係止状態にあるときには、リテーナ11は端子金具5がキャビティ4内に挿通するときの動作を阻害しない位置に待機している。
【0021】
また、仮係止突部20の上部にはさらに一段前方へ突出して本係止突部21が形成されている。仮係止突部20と本係止突部21との間には上方へ行くにつれて徐々に前方へ張り出すような勾配をもった移行面22が形成されている。本係止突部21はリテーナ11が本係止状態にあるときに、係止受け縁13の全面に沿うような勾配をもった逆テーパ面となっていて、係止受け縁13に対して密着するようにしてある。
【0022】
さらに、リテーナ11の外面の前端縁には本係止突部21に連続してストッパ縁23が前方へ張り出し形成され、リテーナ11が本係止状態にあるときにはリテーナ装着孔12の前縁部に当接することで、これ以上深くリテーナ11がリテーナ装着孔12内に押し込まれてしまうのを回避するようにしている。
【0023】
ところで、リテーナ11の外面において長さ方向の中央部には副ヒンジ部24が形成されている。この副ヒンジ部24は前後方向に関して所定幅を有する溝を凹み形成することによって形成されている。この溝は後端縁から前方へ向けて徐々に深くなるように形成され、前端縁は外面に対してほぼ直角となるように切り立った状態で形成されている。リテーナ11の外面に形成された副ヒンジ部24はリテーナ11の剛性を局部的に低下させて、端子金具5に抜き方向の力が作用したときに副ヒンジ部24に応力を集中させるようにし、その結果、リテーナ11が副ヒンジ部24頂点とした山形形状(副ヒンジ部24より前部側が前下がり姿勢となる形状)に屈曲変形を生じさせることができる。
【0024】
次に、上記のように構成された本実施形態の作用効果を説明する。端子金具5を各キャビティ4内に挿入する場合には、リテーナ11の仮係止突部20をコネクタハウジング1の係止受け縁13に係止させ、リテーナ11を図3に示す仮係止状態に保持しておく。この仮係止状態で、端子金具5をキャビティ4の後方から差し込む。端子金具5はランス10を撓み変形させつつ前進し、正規深さ位置にまで差し込みがなされるとランス10は復帰し、ランスホール9内に進入することで端子金具5が一次係止状態に保持される。
【0025】
次に、リテーナ11の前端部側を押し込むと、係止受け縁13は仮係止突部20との係止状態から本係止突部21との係止状態へと移行する(図4に示す状態)。これによって、リテーナ11は本係止状態に保持されるとともに、端子係止部18が端子金具5における端子接続部6の後端に係止するため、端子金具5はランス10による係止と併せて二重に抜け止めされる。
【0026】
ところで、リテーナ11が本係止状態にあるときに、端子金具5に接続された電線Wが引っ張られると、端子金具5が後退し端子係止部18に当接してリテーナ11に後退方向の力を作用させる。すると、リテーナ11は副ヒンジ部24に応力が集中するため、リテーナ11は副ヒンジ部24を頂点として略山形状に屈曲変形する。つまり、リテーナ11は図5に示すように、前端側は前下がりの姿勢となる。これにより、リテーナ11は従来のような前端側の浮き上がりが回避されるため、端子金具5は端子係止部18に対する係止代の減少が有効に緩和される。したがって、リテーナ11は端子金具による剪断距離が長く確保されることから、端子保持力を高くすることができる。
【0027】
また、本実施形態ではリテーナ11に溝を凹み形成することだけの簡易な構成によって副ヒンジ部24を構成することができるため、コネクタハウジング1を成形するための金型構造も簡単でよい。さらに、本実施形態では副ヒンジ部24をリテーナ11の外面に配置している。したがって、リテーナ11を含め、コネクタの成形がしやすく、型構造も簡単である
【0028】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態では副ヒンジ部24をリテーナ11の外面側に形成したが、内面側に形成するようにしてもよい。
(2)上記実施形態ではキャビティ4が一段のものを示したが、複数段のものであってもよい。
(3)上記実施形態では雌コネクタに適用したが、雄コネクタに適用することができるのは言うまでもない。
(4)上記実施形態では副ヒンジ部24はリテーナ11の幅方向に沿って溝を凹み形成して肉厚を局部的に減少させることによって形成したが、これに代えて幅方向両端から切り込みを入れてリテーナ11の幅寸法を局部的に減少させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1…コネクタハウジング
4…キャビティ
5…端子金具
11…リテーナ
16…主ヒンジ部(ヒンジ)
18…端子係止部
21…本係止突部(ハウジング係止部)
24…副ヒンジ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端子金具と、
この端子金具を収容可能なキャビティが形成されたコネクタハウジングと、
このコネクタハウジングにヒンジを介して一体にかつ開閉可能に形成され、開放状態では前記端子金具が前記キャビティへ挿通可能であるが、閉止状態では前記端子金具に係止して前記端子金具を抜け止めした状態で保持するリテーナとを備えたリテーナ付きコネクタであって、
前記リテーナの自由端側には、前記端子金具へ係止可能な端子係止部と前記コネクタハウジングに係止して前記リテーナを閉止状態に保持するハウジング係止部とが形成されるとともに、前記ヒンジと前記リテーナの自由端との間には副ヒンジ部が形成され、前記端子係止部に前記端子金具の抜け方向の力が作用したときには、前記副ヒンジ部から前記リテーナの自由端にかけて前下がりとなるような姿勢に変形可能な構成とされていることを特徴とするリテーナ付きコネクタ。
【請求項2】
前記副ヒンジ部は、前記リテーナの肉厚を幅方向に沿って減少させることによって形成されていることを特徴とする請求項1記載のリテーナ付きコネクタ。
【請求項3】
前記副ヒンジ部は、前記リテーナの外面に形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のリテーナ付きコネクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−150939(P2012−150939A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7579(P2011−7579)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】