説明

リニアエンコーダ

【課題】スライダとインデックススケールとの間のギャップをより正確に検出できるリニアエンコーダを提供する。
【解決手段】リニアエンコーダは、発光素子12と、スケール10と、スケール10に対して相対変位するインデックススケール13aと、スケール10およびインデックススケール13aを透過した光を電気信号に変換する受光素子14aと、を備えている。スケール10には、互いに異なるピッチの主格子目盛16および補助格子目盛17が設けられている。リニアエンコーダのギャップ検出部は、補助格子目盛17から得られる信号振幅に基づいて、主格子目盛16から得られる信号振幅に対する温度の影響量を取得し、この温度の影響量を除去した信号振幅に基づいてスケール10とインデックススケール13aとの間のギャップ量を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライス盤などの工作機械や半導体製造装置の位置計測に利用することが出来るリニアエンコーダに関し、特にリニアエンコーダの内部の信号処理部における、ギャップ検出技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のリニアエンコーダについて図3を使用し説明する。図3は一般的な光学式リニアエンコーダの信号検出部の一例を表す斜視図である。工作機械などの移動軸の位置検出装置として用いられるリニアエンコーダは、周期的な主格子目盛16を形成したスケール10と、スケール10に対して相対的に直進移動するスライダ15と、から構成される。スライダ15には、主格子目盛16に対応する周期的な4つの副格子を田の字型に形成した光透過性のインデックススケール13や、4つの副格子に対応した4つの受光素子14から構成される受光部、発光素子12、発光素子12から発せられた光を平行光にするコリメータレンズ11などを備えている。そして、スライダ15のスケール10の長手方向への相対移動によって生ずる光量変化が受光素子14によって光電変換されることによって、周期が同一で位相が異なる4つの信号a1,a2,b1,b2が得られる。
【0003】
この4つの信号a1,a2,b1,b2を、Sig.Lとすると、位置POSは、次の演算により導出される。まず、A=a1−a2、および、B=b1−b2の演算によりオフセットが無い信号A、および、信号Aにたいし位相が90度進んだ信号Bが取得される。続いて、POS=P×tan−1(A/B)/2πの内挿演算により位置POSが導出される。なお、Pは主格子目盛16のピッチである。
【0004】
次に、上述したリニアエンコーダでのスケール10の主格子目盛16と、スライダ15のインデックススケール13との間のギャップの検出方法について説明する。一般的なリニアエンコーダにおいては、スライダ15の光学系部品は、スケール10に対して接触する機構を持っており、この接触機構によりギャップが決まる構成となっている。この場合、ギャップの検出は不要である。しかしながら、この場合、スライダ15とスケール10の接触機構に相対変位するためのベアリングが必要であり、このベアリングの摩耗やグリース切れなどが長期の信頼性を低下させていた。
【0005】
そこで、従来から、スケール10とスライダ15の間が完全に非接触であり、機械上では機械側の取付け面により、リニアエンコーダのギャップが決まる構成が提案されている。かかる技術の場合、スケール10とスライダ15の取付け作業には細心の注意が必要であり、機械上での取付け作業後にギャップを検査し、取付け寸法に問題無いことを確認する必要があった。このため、従来技術では、位置検出に使用する信号の信号振幅を利用してギャップの検出を行なっていた。
【0006】
以下、この従来技術、例えば、特許文献1に開示されているような従来技術でのギャップ検出について説明する。図7は、主格子目盛16(スケール10)に対するインデックススケール13(スライダ15)の長手方向への相対変位による受光光量の変化を示すグラフである。図7において、濃色のラインはギャップが小さい場合の、淡色のラインはギャップが大きい場合の受光光量変化を示している。この図7から明らかなとおり、受光光量の変化の振幅は、ギャップが大きいときほど小さくなる。
【0007】
このギャップに対する信号振幅の特性は、主格子目盛16のピッチP、発光ユニットの波長λ、およびギャップにより表すことができ、振幅は、周期G=2P/λで変化する。図5は、ギャップと振幅との関係の一例を示すグラフである。なお、図5の例では、演算方法の関係上、位相情報も含むため振幅値が負となる範囲があるが、実際には、振幅は全て正である。したがって、図5の例で、ギャップ規格値1の際の振幅は、1である。この図5に示すとおり、格子間のギャップに応じて、振幅が正弦波状に変化する。図5の例では、ギャップ規格値が0.5の際に、振幅が、ほぼ0となる。
【0008】
具体的には、発光素子の波長0.88μm、主格子目盛16の格子間隔80μmとしたとき、周期G=14.5mmとなる。この光学条件で設計されたスケール10とスライダ15を使用し、ギャップの標準取付け状態を1mmとし、このギャップが0.7mm〜1.3mmの変化をした場合を考える。信号振幅は、ギャップが0mmのときに1をとるように、周期G=14.5mmの正弦波状に変化するため、ギャップgのときの振幅Lは、L=sin(π/2+2π×g/14.5)=cos(2π×g/14.5)で求めることができる。ギャップgが0.7mm〜1.3mmの場合、上記計算より信号振幅は、0.95〜0.84となる。すなわち、信号振幅によりギャップの検出が可能である。
【0009】
図4を参照して、従来のギャップ検出技術について説明する。図4内の信号検出部21は、スライダ15がスケール10の長手方向への相対移動によって生ずる光量変化を受光素子14によって光電変換した結果の4つの信号a1,a2,b1,b2(Sig.L)を検出する。振幅演算部22では、Sig.Lから、A=a1−a2、B=b1−b2の演算を行い、オフセットのないA,B信号を求める。また、このA,B信号から、信号振幅AMP_L=(A+B1/2を求める。
【0010】
ギャップ判定部23は、予め、ギャップ目標値(信号振幅)の上限と下限を初期固定値として、持っており、その目標値との信号振幅AMP_Lとの比較判定を行なう。そして、ギャップ目標値下限より信号振幅AMPが小さい(ギャップ目標値下限値>AMP_L)ときには、ギャップが広いとの状態表示を、また、ギャップ目標値上限より信号振幅AMPが大きい(ギャップ目標値上限値<AMP_L)ときには、ギャップが狭いとの状態を、スライダ外の上位制御装置50に伝達する。
【0011】
スケールスライダの取付け時には、上位制御装置50による、ギャップ判定値の表示により、取付けの確認を行う。あるいは取付け修正のための調整値として使用する。この結果、スライダとスケールの干渉事故などを防止することができる。また、取付け完了後は、信号振幅の大きさにより、スケールの周囲環境からの汚れ程度を表すため、アラーム判定の精度を高める事ができる。また、これらの効果は何ら追加のセンサ、あるいは信号を必要としないで実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平4−86513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上述のギャップ検出技術を採用したリニアエンコーダにおいては、次のような問題が生ずる。信号振幅AMP_Lは、発光素子12の温度特性にも影響されることが知られている。具体的には、温度が高い場合、発光素子の光量が低下し信号振幅も低下する。また温度が低い場合、光量が増加し信号振幅も大きくなる。このため、温度が高い場合は、ギャップが広いと誤判定する可能性があり、また温度が低い場合ギャップが狭いと誤判定する可能性がある。詳細には、発光素子12の光出力の温度特性は図6に示す通りであり、周囲温度の変化により光出力が変化し、また光電変換した信号振幅も同様に変化する。この結果、信号振幅から温度要因とギャップ要因を区別することが難しい。
【0014】
この様に、受光光量の振幅からギャップを検出する方式は検出原理が簡単な反面、原理的に温度変化の影響を受けやすく、正確な取付け調整作業が困難となっていた。また、不正確な取付け調整作業を防止するため、ギャップ目標値上限と下限の範囲をあらかじめ大きくした場合、取付け位置の不良を検出できないとの問題が有った。
【0015】
本発明の目的は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ギャップ検出の信頼性を高める事を可能とする、リニアエンコーダを提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のリニアエンコーダは、平行光を発する光源と、固定スケールと、前記固定スケールに対して相対変位するインデックススケールと、前記平行光が前記固定スケールおよび前記インデックススケールを透過あるいは反射した光を受光して、電気信号に変換する光電変換手段と、を備えたリニアエンコーダにおいて、前記固定スケールに設けられ、互いに異なるピッチの第一格子目盛および第二格子目盛と、前記第一格子目盛を透過または反射した光を光電変換して得られる信号の振幅を第一信号振幅として取得する手段と、前記第二格子目盛を透過または反射した光を光電変換して得られる信号の振幅を第二信号振幅として取得する手段と、前記第二信号振幅に基づいて、温度の影響量を取得する手段と、前記第一信号振幅から前記温度の影響量を除去した補正信号振幅を取得し、当該補正信号振幅に基づいて前記固定スケールと前記インデックススケールとの間のギャップ量を算出する手段と、を備えることを特徴とする。
【0017】
好適な態様では、前記第二格子目盛の格子ピッチは、前記第一格子目盛の格子ピッチの2倍以上である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、より正確にギャップを検出することができ、機械上での取付けをより正確に行なうことができる。また取付け調整完了後には、信号振幅の低下を検出して、スケールが汚染された場合を検出するが、取付け調整時に精度良く調整されることにより、信号低下時に発生させるアラームレベルまでのマージンを大きく取ることができるため、アラーム判定の精度を高める事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態であるリニアエンコーダの構成を示す図である。
【図2】ギャップ検出部の構成を示すブロック図である。
【図3】従来のリニアエンコーダの構成を示す図である。
【図4】従来のリニアエンコーダのギャップ検出部の構成を示すブロック図である。
【図5】ギャップ量と信号振幅との関係を示すグラフである。
【図6】LED光量と温度との関係を示すグラフである。
【図7】スライダの変位に対する光量の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施形態を図面に従って説明する。以下の説明では、本実施形態のリニアエンコーダの構成において従来技術と同様である部分は説明を省略する。図1は本発明実施形態である光学式リニアエンコーダの信号検出部の一例を表す斜視図である。本実施形態のスケール10は、主格子目盛16に加え、当該主格子目盛16に対してピッチが2倍以上の補助目盛格子17が設けられている。この補助目盛格子17および主格子目盛16は、図1から明らかなとおり、スケール10の面内において上下に(スケール10の短軸方向に)配設されている。
【0021】
また、インデックススケール13aには、主目盛格子16および補助目盛格子17に対応するため8つの副格子が設けられている。また、受光素子も、副格子に対応するべく、8つの受光素子14aが配されている。
【0022】
スライダ15から位置を読み取り処理をする場合の位置演算方法は、従来技術と同様であり、主格子目盛16を通して得られるSig.L(a1,b1,a2,b2)信号から求めた位置と、補助格子目盛17を通して得られるSig.H信号から求めた位置を合成することにより検出する。
【0023】
上述した、主格子目盛16は格子目盛のピッチをギャップに敏感となるよう構成し、補助格子目盛17は、その目盛ピッチを、主格子目盛16の2倍以上として、ギャップに対して、ほぼ影響が無い様に構成する。
【0024】
例えば主格子目盛16のピッチを80μm、補助格子目盛17のピッチを2mmとした場合を考える。この場合、80μmの主格子目盛16では、ギャップによる光量変化の周期は、約14.5mmとなる。一方、ピッチが2mmの補助格子目盛17ではギャップによる振幅変化の周期は9090mmと、非常に大きな周期となる。その結果、補助格子目盛17側での信号振幅はギャップに対しほとんど影響を受けない。一方で、周囲温度による発光素子の光量への影響は格子目盛のピッチとは無関係であるため、主格子目盛16側と、補助格子目盛17側との光量、あるいは信号振幅への影響は、同等である。このように構成することにより、2mm格子側の信号振幅の変化分は、温度による影響結果であり、温度係数と見なすことができる。この結果、80μm格子の信号振幅に対し、この温度係数を乗ずることにより、温度の影響を取り除いた、ギャップを表す信号が得られる。
【0025】
図2は本発明の実施形態での信号演算部の構成を表す図であり、従来例と異なり、補助格子目盛17から求めた信号Sig.Hの振幅を演算する振幅演算部25、この求めた振幅から温度係数を演算する温度係数演算部26、および、主格子目盛16から得られた信号Sig.Lから求めた振幅と温度係数演算部26から求めた温度係数とからギャップを求めるギャップ演算部27が新たに追加されている。
【0026】
具体的には、図2の信号検出部31は、補助格子目盛17を透過した光量変化を受光素子14aによって光電変換した結果の4つの信号Ha1,Ha2,Hb1,Hb2(Sig.H)を検出しており、このSig.Hから、振幅演算部25では、HA=Ha1−Ha2、HB=Hb1−Hb2によりオフセットの無いHA,HB信号を求め、さらに信号振幅AMP_HをAMP_H=(HA+HB1/2の演算により求める。
【0027】
AMP_Hは、基準温度での振幅AMP_HFとの比較により、温度係数K=AMP_HF/AMP_Hを求める。なお、基準温度での振幅とは、スケールスライダをセットで基準温度で行なう発光素子12の光量調整により決定される数値であり、固定値である。
【0028】
次に、ギャップ演算部27では、Sig.Lから求めた、AMP_Lに対し、上記にて求めた温度係数Kを乗ずることにより、補正信号振幅AMP_LKを求める(AMP_LK=AMP_L×K)。この演算により求めた補正信号振幅AMP_LKから、従来技術と同様のギャップ判定部23により、ギャップの適否を検出する。
【0029】
上記では、主格子目盛16のピッチを80μm、補助格子目盛17のピッチを2mmとした場合について説明したが、この値は一例であり、原理からも計算できるとおり、補助格子目盛17の格子ピッチは主格子目盛16の2倍以上であれば、補助格子目盛17のギャップによる信号振幅への影響度は十分低くなるため、効果が十分に得られる。
【0030】
また、本実施形態では、ギャップ演算、判定を行なうタイミングを特に指定せず、エンコーダが動作している時に常時動作すると説明したが、実際にギャップ演算、判定を行なうのは、機械上での取付け調整時のみであり、この取付け調整時にのみギャップ演算、判定を行なうような構成にしてもよい。
【0031】
また、本実施形態では、光透過方式のエンコーダの場合を例示しているが、光反射方式のエンコーダで有っても同様の原理を実現することができ、また同等の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0032】
10 スケール、11 コリメータレンズ、12 発光素子、13,13a インデックススケール、14,14a 受光素子、15 スライダ、16 主格子目盛、17 補助格子目盛、21,31 信号検出部、22 振幅演算部、23 ギャップ判定部、26 温度係数演算部、50 制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行光を発する光源と、固定スケールと、前記固定スケールに対して相対変位するインデックススケールと、前記平行光が前記固定スケールおよび前記インデックススケールを透過あるいは反射した光を受光して、電気信号に変換する光電変換手段と、を備えたリニアエンコーダにおいて、
前記固定スケールに設けられ、互いに異なるピッチの第一格子目盛および第二格子目盛と、
前記第一格子目盛を透過または反射した光を光電変換して得られる信号の振幅を第一信号振幅として取得する手段と、
前記第二格子目盛を透過または反射した光を光電変換して得られる信号の振幅を第二信号振幅として取得する手段と、
前記第二信号振幅に基づいて温度の影響量を取得する手段と、
前記第一信号振幅から前記温度の影響量を除去した補正信号振幅を取得し、当該補正信号振幅に基づいて前記固定スケールと前記インデックススケールとの間のギャップ量を算出する手段と、
を備えることを特徴とするリニアエンコーダ。
【請求項2】
請求項1に記載のリニアエンコーダにおいて、
前記第二格子目盛の格子ピッチは、前記第一格子目盛の格子ピッチの2倍以上である、ことを特徴とするリニアエンコーダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−113634(P2013−113634A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258093(P2011−258093)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000149066)オークマ株式会社 (476)
【Fターム(参考)】