説明

リニアスケール

【課題】可動部の移動感触を損なうことなく耐静電電圧を向上させることができ、内部回路にノイズを発生させることなく安全に静電気を放電することができるリニアスケールを提供する。
【解決手段】リニアスケール1のケース10には、マーキング部2bが内蔵された長尺のリニアスケール材2が設置されている。移動部3は、このリニアスケール材2に対して移動してマーキング部2bからの信号を検出する検出部34及びこの検出部34を保持する枠体39を備えている。移動ガイド4は、移動部3をリニアスケール材2の長手方向に移動可能に支持する。腕部材37は、リニアスケール材2との間に放電ギャップを設けて枠体39に取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は工作機械及び測定器並びにミキシングコンソール等の電子機器の可動部の位置及び移動量を測定する際に使用されるリニアスケールに関する。
【背景技術】
【0002】
リニアスケールは、工作機械等の可動部(測定対象物)の位置及び移動量を測定する際に使用される機器であり、目盛りが形成されたスケール部とこのスケール部の目盛りを読み取る検出部とを有する。リニアスケールによる測定対象物の位置及び移動量の測定方法としては、例えば、スケール部をその長手方向に周期的に磁極が形成された磁石より構成し、検出部である磁気センサによりこの磁極を感知して位置を検出する磁気式(例えば、特許文献1参照)と、スケール部に規則的に例えば濃淡のパターンを形成し、このパターン(目盛り)に光を照射し、検出部によりその変位量を測定して位置を検出する光学式(例えば、特許文献2参照)とがある。
【0003】
日常生活の中で物体間の摩擦によって静電気が発生することがあるが、この静電気によって帯電した状態でパソコン等の電子機器の内部に触れると、静電気の放電による急激な電圧の印加によりIC(半導体集積回路)等の半導体部品の素子を静電破壊してしまうことがある。
【0004】
前述のリニアスケールにおいても、その検出部には半導体素子を用いた部品が使用されているため、静電気によって帯電した状態でリニアスケールを操作すると、操作者の手を伝わってリニアスケールに印加された静電気が、半導体素子の近くで高い電圧を伴って放電し、半導体素子が静電破壊して可動部(測定対象物)の位置及び移動量が正確に測定できなくなるという問題が発生する。この静電破壊を防ぐために、印加された静電気を適切な手段にて取り除くことが必要となる。
【0005】
例えば、特許文献3には、遊技球が回転しながら流下する傾斜流路下部に、流下する遊技球と接触可能に放電ブラシを配置して、遊技球に帯電した静電気を除去可能にした遊技機が開示されている。
【0006】
また、特許文献4には、絶縁層を介して対面して配置した2個の導電体間に放電手段を接続した静電気除去装置が開示されている。そして、これらの2個の誘電体の一方に静電気帯電体を接触させると、2個の導電体間に静電誘導された電荷は、誘電分極によって2個の導電体間に蓄電された後、前記誘電体が接地されない状態で例えばバリスタを放電手段として放電されることが開示されている。
【0007】
更に、特許文献5には、ツェナーダイオード及びコンデンサの並列回路、コイル、並びに抵抗器を入出力端子間に直列に接続し、更にツェナーダイオードのアノードを接地端子に接続した表面実装型保護回路部品の静電気対策回路が開示されている。そして、この静電気対策回路の入力端子に静電気を印加すると、発生する静電電流のピークはコイルによって抑えられ、発生する静電電圧はツェナーダイオードを通してグランドに放電されると共に、放電時の急激なパルス波はコンデンサに吸収されることが開示されている。
【0008】
更にまた、特許文献6には、外装部品である金属部材に印加される静電気を、放電ギャップを介して機器内部に放電し、ノイズの影響を低減しつつ外装部品に生じる静電気を放電する構成の電子機器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−148842号公報
【特許文献2】実開平6−53915号公報
【特許文献3】特開2007−325685号公報
【特許文献4】特開2005−123150号公報
【特許文献5】特許2595491号公報
【特許文献6】特開2005−85687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、前述の従来技術には以下のような問題点がある。特許文献3に開示された放電ブラシを設置して静電気を除去する方法は、リニアスケールにおいて採用された場合、リニアスケールの可動部又はこの可動部と常に接触する位置に放電ブラシを設置することとなり、可動部を操作する際に放電ブラシによる接触抵抗が生じて、操作性の劣化が発生してしまう。
【0011】
また、特許文献4に提案されている静電気除去装置、又は特許文献5に提案されている静電気対策回路は、リニアスケールのように可動部に静電気を印加する装置に採用した場合、可動部の移動範囲をカバーする接続配線の長さが必要となる。従って、静電気を除去するための接続配線が、他の回路への誘導電圧を発生させてノイズ源になるという問題点がある。また、可動部の移動に伴って、接続配線を断線する危険性もある。
【0012】
また、特許文献5に提案されているツェナーダイオード又はコンデンサといった素子を回路に組み込んで、放電時の急激なパルス波を吸収する方法は、素子が安定して機能するように、静電気が印加される部分から接地部分までの距離をできるだけ短くして抵抗値を抑える必要がある。従って、素子を接続することができる位置が装置内の狭い範囲に限定されてしまい、可動部が広い範囲で移動される場合には使用に適さない。
【0013】
更にまた、特許文献6に提案されている電子機器は、非可動部品同士で放電ギャップを形成しているものであり、リニアスケールのように可動部に静電気が印加される装置においては採用することができないものである。
【0014】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、可動部の移動感触を損なうことなく耐静電電圧特性を向上させることができ、内部回路にノイズを発生させることなく安全に静電気を放電することができるリニアスケールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係るリニアスケールは、ケースと、このケースに設置されマーキング部が内蔵された長尺のリニアスケール材と、このリニアスケール材に対して移動して前記マーキング部からの信号を検出する検出部及びこの検出部を保持する枠体を備えた移動部と、前記移動部を前記リニアスケール材の長手方向に移動可能に支持する移動ガイドと、前記枠体に前記リニアスケール材との間に放電ギャップを設けて取り付けられた腕部材と、を有することを特徴とする。
【0016】
本発明に係る他のリニアスケールは、ケースと、このケースに設置されマーキング部が内蔵された長尺のリニアスケール材と、このリニアスケール材に対して移動して前記マーキング部からの信号を検出する検出部及びこの検出部を保持する枠体を備えた移動部と、前記ケースに設置され前記移動部を前記リニアスケール材の長手方向に移動可能に支持する移動ガイドと、前記枠体の背板に前記ケースとの間に一定距離の放電ギャップを設けて設けられた突起と、を有することを特徴とする。
【0017】
この場合に、前記リニアスケール材に設けられるマーキング部を、その長手方向に周期的に磁極が形成された磁石より構成し、前記信号検出部を磁気センサとして、この磁気センサが前記磁極を検知して前記移動部の位置及び移動量を検出するようにしてもよい。
【0018】
又は、前記リニアスケール材に設けられるマーキング部を、その長手方向に形成された濃淡のパターンとし、前記信号検出部を光学式センサとして、この光学式センサが前記濃淡のパターンを検知して前記移動部の位置及び移動量を検出するようにしてもよい。
【0019】
そして、前記移動部を手動により移動させるための操作部材を前記ケースから外方に延出させて設け、前記操作部材の位置を前記検出部により検出して、その信号をミキシングコンソールのボリューム調整に使用することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、移動部に静電気を印加した場合においても、印加される静電気が放電ギャップを通してリニアスケール材又はグランドであるケースに放電されるため、移動部に生じる電気的ノイズが周辺の回路に伝達することを防止できる。また、放電ギャップで放電させるため、放電電圧が一定で放電電圧以上の電圧が遮断される。従って、過電圧による周辺回路の絶縁破壊及び装置の誤作動を防止することができる。更に、前記移動部は放電ブラシ等の接触物及び静電気の放電に使用される配線を有しないため、移動過程における移動感触の劣化がなく、移動部を優れた移動感触で移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)は本発明の第1実施形態に係るリニアスケールを示す断面図、(b)は平面図である。
【図2】同じく本実施形態のリニアスケールを示す斜視図である。
【図3】ミキシングコンソールを示す斜視図である。
【図4】(a)は本発明の第2実施形態に係るリニアスケールを示す断面図、(b)は平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態に係るリニアスケールについて、添付の図面を参照して具体的に説明する。図1(a)は本発明の第1実施形態のリニアスケールを示す断面図、図1(b)は本発明の第1実施形態のリニアスケールを示す平面図である、図2は図1の斜視図である。図3はこのリニアスケールを使用したミキシングコンソールの斜視図である。ミキシングコンソール5はコンピュータ等を使用した音楽制作やコンサートの音響設備等に用いられ、複数の音声信号を電気的に加算又は加工し、出力する音響機器である。ミキシングコンソール5の前面パネル52にはスライドボリューム装置51が設けられ、操作者がこのスライドボリューム装置51の操作子511を直線的に移動させて音量や高低音等のボリュームを調整する。このスライドボリューム装置51においてリニアスケール1が使用されており、後述するリニアスケール1のケース10が上フレーム12において前面パネル52の裏面に固定される。
【0023】
図2に示すように、本実施形態のリニアスケール1は、ケース10、移動部である移動ブロック3、ケース10に固定されマーキング部に磁気記録材料が内蔵されたリニアスケール材2、及びケース10に固定され移動ブロック3をその長手方向に沿って移動させることができる移動ガイド4によって構成されている。リニアスケール材2及び移動ガイド4は、例えば円柱状である。
【0024】
ケース10は、側板13、1対のリニアスケール材用爪14及び1対の移動ガイド用爪15を備えるフレーム本体11、並びに上フレーム12によって構成される。上フレーム12は側板13の直角面上に設置され、リニアスケール1は上フレーム12において、図3に示されるミキシングコンソール5の前面パネル52裏面に対面して固定される。また、リニアスケール材用爪14及び移動ガイド用爪15は、側板13の直角面且つ上フレーム12と隣接する2面において、対をなすリニアスケール材用爪14及び移動ガイド用爪15が、夫々対向して設置されている。なお、リニアスケール1の取り付け面であるミキシングコンソールの前面パネル52を図1及び図2に二点鎖線で示す。
【0025】
リニアスケール材2は主部としてのシャフト2a及びマーキング部としての副部2bからなる導電体である。本実施形態のリニアスケール1において、マーキング部2bはリニアスケール材2の長手方向に磁石のN極及びS極を交互に細かく、例えば0.2mmピッチで分極させたラバー等製の磁性部材である。又は、リニアスケール材2自体が金属磁性体からなるフェライト磁石である。
【0026】
移動ブロック3は、その枠体39の側面に、リニアスケール材2及び移動ガイド4を嵌挿するためのガイド孔31が、夫々嵌挿されるリニアスケール材及び移動ガイドとの間にクリアランスを有する径で形成されており、移動ブロック3にリニアスケール材2及び移動ガイド4を嵌挿した状態で、リニアスケール材2及び移動ガイド4がリニアスケール材用爪14及び移動ガイド用爪15に係止されている。また、移動ブロック3には枠体39の側板13と対面する位置に基板取り付け部32が設けられ、基板取り付け部32上には側板13と反対の面に基板33及びセンサ34が電気的に接続されて配置されており、前記基板33に接続されたフラットケーブル35を通して移動ブロック3の外部から電力が供給される。更に、センサ34は磁極の磁界を検知する磁気式センサであり、そのセンシング部分は基板取り付け部32上にリニアスケール材2のマーキング部2bと対面して、リニアスケール材2に対して非接触に配置されている。更にまた、基板取り付け部32には移動ブロック3を移動させるための導電性のスライダノブ36が取り付けられており、その端部は上フレーム12を通してケース10の外部に突出しており、このケース10から突出した端部にミキシングコンソールの操作子511が取り付けられる。更にまた、スライダノブ36又は枠体39の外面には、リニアスケール材2との間に一定の放電ギャップを形成する導電性の腕部材37が設置されている。
【0027】
なお、センサ34のセンシング部分がリニアスケール材2のマーキング部2bの磁極部分に対面して配置される関係が守られれば、図1及び図2に示すリニアスケール材2と移動ガイド4との位置関係は逆転してもよい。
【0028】
次に、上述の如く構成された本実施形態の動作について説明する。
【0029】
図3に示されるミキシングコンソール5のスライドボリューム装置51において、操作者が操作子511を手でスライドさせると、操作子511を取り付けられた移動ブロック3はリニアスケール材2及び移動ガイド4の長手方向に沿って直線的に移動する。移動ブロック3の移動に伴ってセンサ34はリニアスケール材2のマーキング部2bの磁極部分に対して直線的に移動する。そして、センサ34が磁極の反転に対応したパルス信号を検出し、検出されたパルス信号をフラットケーブル35を通して図示しない制御装置に送る。制御装置は、フラットケーブルを通して送られてきた信号に応じて音量や高低音等のボリュームを調整する。このとき、マーキング部2bの磁界を非接触の磁気式センサで検出しているため、センシングによる移動部の移動感触の劣化がない。また、磁気式センサによる磁界の検出が非接触式であるため、汚れ又は埃の付着による検出精度への影響を低減することが可能である。更に、センサ34を濃淡のパターンを検出する光学式センサとすると共に、リニアスケール材2のマーキング部2bに磁極の代わりに濃淡のパターンを設けてもよい。この場合においても、センシングによる移動部の移動感触の劣化がないリニアスケールを得ることができる。
【0030】
操作者がスライドボリューム装置51の操作子511を操作することによって、操作者の手を通じて操作子に静電気が印加されると、本実施形態のリニアスケールにおいては、操作子511に印加された静電気はスライダノブ36に流れ、枠体39から腕部材37を通してリニアスケール材2へ放電され、更にリニアスケール材2を通してグランドであるフレーム本体11に放電される。このため、電気的ノイズが周辺の回路に伝達しない。このとき、放電ギャップは一定距離であるため、前記放電が生じる電圧を一定とすることが可能であると共に、放電電圧以上の電圧は阻止される。従って、高電圧による周辺回路の誤作動及び半導体素子等の破壊を防止することができる。更にこのとき、空気の放電電圧が5kV/cm程度であることを考慮すると、前記放電ギャップは0.2mmの間隔とすれば100V程度の放電となり、家庭用電源電圧と同等にすることが可能である。
【0031】
次に、図4を参照して本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態においては、第1実施形態における移動ブロック3のスライダノブ36又は移動ブロック3の枠体39外面に設けられる腕部材37の代わりに、導電性の基板取り付け部34を枠体39の背板とする。そして、この基板取り付け部34の側板13に対面する位置に導電性の突起38を、この突起38と前記側板13との間に一定の放電ギャップを形成するように設ける。本第2実施形態においても、スライドボリューム装置51の操作子511に静電気を印加すると、印加された静電気はスライダノブ36に流れ、基板取り付け部34から突起38を通して側板13に放電され、第1実施形態と同じ効果が得られる。
【符号の説明】
【0032】
1:リニアスケール、10:ケース、2:リニアスケール材、3:移動ブロック、4:移動ガイド、5:ミキシングコンソール、11:フレーム本体、12:上フレーム、13:側板、14:リニアスケール材用爪、15:移動ガイド用爪、2a:シャフト(主部)、2b:マーキング部(副部)、31:ガイド孔、32:基板取り付け部、33:基板、34:センサ、35:フラットケーブル、36:スライダノブ、37:腕部材、38:突起、39:枠体、51:スライドボリューム装置、52:前面パネル、511:操作子、G:放電ギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、このケースに設置されマーキング部が内蔵された長尺のリニアスケール材と、このリニアスケール材に対して移動して前記マーキング部からの信号を検出する検出部及びこの検出部を保持する枠体を備えた移動部と、前記移動部を前記リニアスケール材の長手方向に移動可能に支持する移動ガイドと、前記枠体に前記リニアスケール材との間に放電ギャップを設けて取り付けられた腕部材と、を有することを特徴とするリニアスケール。
【請求項2】
ケースと、このケースに設置されマーキング部が内蔵された長尺のリニアスケール材と、このリニアスケール材に対して移動して前記マーキング部からの信号を検出する検出部及びこの検出部を保持する枠体を備えた移動部と、前記ケースに設置され前記移動部を前記リニアスケール材の長手方向に移動可能に支持する移動ガイドと、前記枠体の背板に前記ケースとの間に放電ギャップを設けて設けられた突起と、を有することを特徴とするリニアスケール。
【請求項3】
前記リニアスケール材に設けられるマーキング部を、その長手方向に周期的に磁極が形成された磁石により構成し、前記検出部を磁気センサとして、この磁気センサが前記磁極を検知して前記移動部の位置及び移動量を検出することを特徴とする請求項1又は2に記載のリニアスケール。
【請求項4】
前記リニアスケール材に設けられるマーキング部を、その長手方向に形成された濃淡のパターンとし、前記検出部を光学式センサとして、この光学式センサが前記濃淡のパターンを検知して前記移動部の位置及び移動量を検出することを特徴とする請求項1又は2に記載のリニアスケール。
【請求項5】
前記移動部を手動により移動させるための操作部材を前記ケースから外方に延出させて設け、前記操作部材の位置を前記検出部により検出して、その信号をミキシングコンソールのボリューム調整に使用することを特徴とする請求項3又は4に記載のリニアスケール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−237180(P2010−237180A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88292(P2009−88292)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】