説明

リニアモータ,可動ステージおよび電子顕微鏡

【課題】漏洩磁場の抑制と駆動性能とのバランスを取る。
【解決手段】開放面を有する第1のヨーク18と、前記第1のヨーク内にS極とN極とが交互になるよう直線状に並べられた2列の永久磁石17とを備えた界磁子9と、前記2列の永久磁石の間に設けられ直線移動する可動子10とを備えたリニアモータにおいて、前記第1のヨークの開放面から見て前記第1のヨークの開放端部と前記永久磁石とを覆うように、前記第1のヨークの開放端部に第2のヨーク19を接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
リニアモータ,可動ステージおよび電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡では、可動ステージを用いて撮像対象を移動させ、撮像対象の様々な位置の撮像を行うのが一般的である。可動ステージの高速移動や高精度な位置決めが必要なため、可動ステージの駆動力として、リニアモータが使われる。しかし、電子顕微鏡では、電子軌道上の磁場変動を避ける必要がある。よって可動ステージの移動に伴って生じる磁場変動も避けなければならない。
【0003】
リニアモータでは、制御電流が通電されるコイルと永久磁石との電磁力が駆動力である。リニアモータで一般的なムービングコイル型は、レール状に並べた永久磁石列を有する界磁子と、制御電流を通電するコイルを有する可動子を備える。界磁子における可動子移動方向長さが、可動子の移動ストロークにほぼ相当する。
【0004】
電子顕微鏡の可動ステージにリニアモータを用いる場合、前述の界磁子を固定すれば、磁場変動を抑制することができる。しかし、より部品点数の少ない可動ステージとしては、界磁子も移動する構成が考えられる。この構成では、界磁子の移動に伴い電子軌道の磁場変動が生じるので、この磁場変動を抑制する必要がある。さらに、駆動能力を高めるためには、界磁子の軽量化も必要である。
【0005】
例えば特許文献1では、界磁ヨークの端部が、永久磁石の端部を覆うように、電気子巻線の表面に向かってL字状に折り曲げられたリニアモータが開示されている。これによれば、モータからの漏洩磁束を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−354779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1のものは、界磁子の漏洩磁場の大きさには個体差があることについて考慮していない。即ち、装置によって必要な漏洩磁場の抑制量が異なるにもかかわらず、同じ界磁ヨークを用いるため、界磁子が無駄に重くなるという課題がある。
【0008】
本発明の目的は、漏洩磁場の抑制と駆動性能とのバランスを取ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、開放面を有する第1のヨークと、前記第1のヨーク内にS極とN極とが交互になるよう直線状に並べられた2列の永久磁石とを備えた界磁子と、前記2列の永久磁石の間に設けられ直線移動する可動子とを備えたリニアモータにおいて、前記第1のヨークの開放面から見て前記第1のヨークの開放端部と前記永久磁石とを覆うように、前記第1のヨークの開放端部に第2のヨークを接続することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、漏洩磁場の抑制と駆動性能とのバランスを取ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】電子顕微鏡の概略構成図。
【図2】ムービングコイル型リニアモータの概略図と断面概略図。
【図3】可動ステージの構成例。
【図4】実施例1におけるリニアモータ概略断面図と別部材ヨーク取り付け概念図。
【図5】実施例2におけるリニアモータ概略断面図と別部材ヨーク取り付け概念図。
【図6】実施例3におけるリニアモータ概略断面図と別部材ヨーク取り付け概念図。
【図7】実施例4におけるリニアモータ概略断面図と別部材ヨーク取り付け概念図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図示する実施例を用いて説明する。
【実施例1】
【0013】
図1に、各形態例に共通する電子顕微鏡の概略構成を示す。電子顕微鏡は、電子銃1から放出された電子を電子レンズ2により偏向及び集束し、試料7の所定領域に照射する機能を有する。電子ビームと試料7との位置関係は、試料ステージ6により大まかに調整される。更に、電子レンズ2により電子ビームを偏向させ、試料7の様々な部位を検査又は撮像する。なお、一次電子軌道8は、電子レンズ2が無偏向の場合の軌道を示している。電子ビームにより照射された試料7の表面からは反射電子や二次電子が放出される。電子顕微鏡は、このうち二次電子を二次電子検出部4で捕捉する。
【0014】
試料ステージ6の駆動力にリニアモータが適用できる。ただし、リニアモータからの漏洩磁場に注意しなければならない。電子軌道上の磁場変動は電子ビームを曲げ、撮像の位置ずれやフォーカスずれを引き起こすからである。
【0015】
図2に、ムービングコイル型リニアモータの概略図と断面概略図を示す。界磁子9には、直線状に並べられた2列の永久磁石列と、永久磁石列を囲む形状のヨーク(第1のヨーク)18が含まれており、可動子10には、コイル(図示せず)が含まれている。永久磁石列の作る磁場と、可動子内のコイルが作る磁場との相互作用で、可動子10は移動,位置決めが行われる。
【0016】
可動子の移動と干渉するところにはヨークを配置できないため、界磁子(ヨーク)には一部開放面が必要である。界磁子からの漏洩磁場は、主に界磁子に開放面が存在することに由来している。
【0017】
図3に、リニアモータを用いた可動ステージの構成例を示す。この可動ステージはx方向とy方向の2軸方向に可動する試料ステージ6を備える。試料ステージ6の駆動力には、x方向とy方向、それぞれの1軸方向の移動を担うリニアモータが少なくとも1台ずつ必要である。図3では、中間ステージ12をx方向へ移動させる第一のリニアモータ(図示せず)と、中間ステージ12に固定された第二のリニアモータ(界磁子13,可動子14)を用いている。y方向へ移動する中間ステージ上のリニアモータ可動子14が、試料ステージ6と連結部16で固定されているため、試料ステージ6は2軸方向に移動することができる。この際、中間ステージ上のリニアモータ界磁子13は、x方向へと移動する。
【0018】
中間ステージ上のリニアモータ界磁子13からは磁場が漏洩する。よって、図3の構成では、電子軌道も含め、ステージ周辺空間において、試料ステージ6の移動に伴って磁場分布が変化する。界磁子13を試料ステージ6から遠ざけることで、この磁場変動量を抑制することが可能であるが、その分試料室容器5を大きくする必要がある。そこで、試料室を大きくせずに界磁子13からの漏洩磁場を抑制する必要がある。
【0019】
図4に、実施例1におけるリニアモータ概略断面図と別部材ヨーク取り付け概念図を示す。可動子10が移動する方向(図ではy方向)と直交する断面(図ではx−z平面)で説明する。断面がコの字型のヨーク18の内面であって、対向する2面に永久磁石17を設置する。これらの永久磁石17の間に、可動子10のコイル部分を挿入する。これだけでは磁場が漏洩してしまうので、ヨーク18の開放面から見て、永久磁石17とヨーク18の開放端部を覆うように、ヨーク18の開放端部に別部材からなるヨーク(第2のヨーク)19を接続する。別部材からなるヨーク19は、ヨーク18の奥行と同等の長さであることが好ましい。
【0020】
図3に示すようにx方向を高さ、y方向を奥行、z方向を厚さと称する。ヨーク18両側の壁の厚さaと、永久磁石17の厚さbと、別部材からなるヨーク19の厚さcと、可動子10のコイル部分の厚さd、ヨーク18側部の壁の厚さeとの関係は、a+b≦cかつ2c+d<eとする。a+b≦cとすることで、ヨーク18の開放面からの磁場漏洩を抑制することができる。a+b<cであれば磁場漏洩を更に抑制することができる。可動子10がヨーク19と干渉する場合、可動子厚さを一部分薄くするなどで干渉を避けることができる。2c+d<eとすることで、可動子10が直線移動する際に別部材からなるヨーク19とぶつからない。別部材からなるヨーク19は、ヨーク18と同一素材で作るのが適当である。
【0021】
本実施例は、別部材からなるヨーク19が直線状の板2枚の場合を示している。一例として、ヨーク18の高さを約70mm、奥行を約800mm、厚さを約30mmとし、高さ約5mmの別部材からなるヨーク19を設置したところ、別部材からなるヨーク19がない場合と比べて、界磁子9からの漏洩磁場が1/4程度に抑制できることを確認した。
【0022】
界磁子9からの漏洩磁場の大きさには個体差がある。主な原因は、永久磁石の着磁がばらつくためである。従って、漏洩磁場の大きさも永久磁石によって様々なので、漏洩磁場の大きさをある基準以内に納めるために必要なヨーク量も様々となる。過剰なヨーク追加は、界磁子9の重量を増やすため、界磁子9も移動するステージ構成では、ステージの駆動性能が劣化する。
【0023】
そこで、本実施例のように漏洩磁場抑制のためのヨークを別部材からなるヨーク19とすることで、ヨーク厚さに選択性を持たせ、永久磁石に応じて適切な漏洩磁場の抑制と駆動性能とのバランスを取ることが可能となる。
【0024】
また、永久磁石17と、別部材からなるヨーク19は接していてもよい。さらに、別部材からなるヨーク19は一般的に強磁性体と呼ばれる材料であればヨーク18と同一素材でなくてもよい。別部材からなるヨーク19を、ヨーク18と異なる素材で作製することで、別部材からなるヨーク19の重量・体積と漏洩磁場抑制度とのバランスを微調整することが可能となる。
【0025】
別部材からなるヨーク19をヨーク18に設置する際には、磁力を活かした貼り付け、真空対応の接着剤による貼り付け、ねじ止めなどが挙げられる。
【0026】
本実施例では、ヨーク開放面が横向きとした構成を示したが、ヨーク開放面が鉛直上向き、または下向きである構成も可能である。
【実施例2】
【0027】
以下に示す実施例では、実施例1との相違点のみを説明する。図5に、実施例2におけるリニアモータ概略断面図と別部材ヨーク取り付け概念図を示す。別部材からなるヨークは、磁力によりヨーク18へと引きつけられる。そこで、本実施例のように、別部材からなるヨーク20をヨーク18の開放端部の全周を囲むロの字型にすることで、設置位置の調整が容易になり、可動子10との干渉を確実に避けることが可能となる。つまり、実施例1のように2部品からなるヨーク19の場合よりも、平行に設置するための調整が不要である。また、設置位置精度を高めるには、ヨーク18に凹部を形成し、その凹部に嵌めこむことができる凸部(例えばピン)を別部材からなるヨーク20に形成することも考えられる。
【実施例3】
【0028】
図6に、実施例3におけるリニアモータ概略断面図と別部材ヨーク取り付け概念図を示す。本実施例では、分割型ヨーク21が可動子移動方向に3つ連結された場合を示している。電子顕微鏡の撮像対象を大型化するには、可動ステージの移動ストロークを長くする、すなわち界磁子の奥行を長くする必要がある。ひとつの長い界磁子を作製することも可能であるが、ある規格長の界磁子を複数個連結することで、低コストでストロークの長い界磁子を作製できる。
【0029】
実施例3に示したように、分割型ヨーク21を複数連結して用いる場合、分割型ヨーク21を連結する際の直線性が重要である。連結する際に別部材からなるロの字型ヨーク20をガイドとして用いることで、連結時の直線性を向上させることが可能となる。なお、本実施例では別部材からなるヨークをロの字型で示したが、他の形状でも良い。
【実施例4】
【0030】
図7に、実施例4におけるリニアモータ概略断面図と別部材ヨーク取り付け概念図を示す。実施例3に示したように、分割型ヨーク21を連結して用いる場合、分割型ヨーク21の漏洩磁場の大きさに個体差が生じる場合がある。この場合、それぞれの分割型の界磁子に必要とされる、別部材からなるヨーク19の漏洩磁場抑制性能が異なる。そこで、別部材からなり透磁率に分布を持たせたロの字型のヨーク22を用いることで、漏洩磁場抑制の微調整が可能となる。別部材からなり透磁率に分布を持たせたロの字型のヨーク22に透磁率の分布を持たせるには、含有する強磁性体の量を変える、別材料から構成するなどが挙げられる。この場合、別部材からなり透磁率に分布を持たせたロの字型のヨーク22は、機械的には一体物としておくべきである。
【符号の説明】
【0031】
1 電子銃
2 電子レンズ
3 カラム
4 二次電子検出部
5 試料室容器
6 試料ステージ
7 試料
8 一次電子軌道
9 界磁子
10 可動子
11 可動子移動方向
12 中間ステージ
13 中間ステージ上のリニアモータ界磁子(界磁子)
14 中間ステージ上のリニアモータ可動子(可動子)
16 連結部
17 永久磁石
18 ヨーク(第1のヨーク)
19 ヨーク(第2のヨーク)
20,21,22 ヨーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開放面を有する第1のヨークと、前記第1のヨーク内にS極とN極とが交互になるよう直線状に並べられた2列の永久磁石とを備えた界磁子と、
前記2列の永久磁石の間に設けられ直線移動する可動子と
を備えたリニアモータにおいて、
前記第1のヨークの開放面から見て前記第1のヨークの開放端部と前記永久磁石とを覆うように、前記第1のヨークの開放端部に第2のヨークを接続することを特徴とするリニアモータ。
【請求項2】
請求項1において、
前記第2のヨークは、前記第1のヨークとは透磁率が異なることを特徴とするリニアモータ。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記第2のヨークは、前記第1のヨークの開放端部の全周を囲む口の字型であることを特徴とするリニアモータ。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかにおいて、
前記界磁子は、前記可動子の移動方向に分割された複数の界磁子を並べて構成されることを特徴とするリニアモータ。
【請求項5】
請求項4において、
前記第2のヨークは、前記可動子の移動方向に透磁率の分布を有することを特徴とするリニアモータ。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載のリニアモータと、前記可動子と連結部を介して固定された試料ステージとを備えることを特徴とする可動ステージ。
【請求項7】
請求項6に記載の可動ステージと、電子銃と、前記電子銃から放出された電子を変更および集束する電子レンズと、前記電子が照射された試料から放出された二次電子を検出する二次電子検出部とを備えることを特徴とする電子顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−253955(P2012−253955A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125930(P2011−125930)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】