説明

リニアFAIMS電源

様々な実施形態において、本教示は、例えば、微分移動度分光法に有益な高電圧非対称の波形電源を提供する。様々な実施形態において、約5,000ボルトcm−1より大きい電界の値を有して、時間的に600キロヘルツ(kHz)より大きいレートで変動する、高電界非対称波形イオン質量分光器のための高電圧非対称波形電源が提供される。微分イオン移動度分光法のための非対称電界を提供する方法は、第2の電極に対して実質的に一定の間隔を有する第1の電極を提供することと、該第1の電極に、第1の高電圧を適用することと、該第2の電極に、第2の高電圧を適用することと、該第1の周波数値の高調波である該第2の周波数を選択することと、該第1の振幅の該第2の振幅に対する比、および該第1の波形と該第2の波形との間の相対的位相差を選択して、該第1の電極と該第2の電極との間に電界を提供することとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の参照)
本願は、2007年11月9日に出願された米国仮特許出願第60/986,907号の優先権を主張するものである。米国仮特許出願第60/986,907号の内容全体が、参照により本明細書に援用されている。
【背景技術】
【0002】
微分移動度分光器は、ある等級のイオン分光装置であり、高電界移動度の低電界移動度に対する比における差に基づいて、イオンを分離できる。そのような装置は、材料の組成を分析するために有用であり、生命科学の分野(例えば、プロテオミクスと生体有機体に存在する生体分子の生物的機能のモデル化)で、また、科学捜査と国家安全保障(例えば、化学構造あるいは化学的生物的作用物質の存在の検出)で有用な情報を提供できる。
【0003】
高電界非対称波形イオン質量分光器(FAIMS)は、イオンの気体に存在するイオン種の分離を提供し得るあるタイプの分光器である。様々な実施形態において、FAIMSは、高電圧信号により励起される平行電極板を含む。イオンは、高電圧信号によって生成された高電界に直角な方向に、平行電極の間の隙間を通り過ぎ、高電界移動度の低電界移動度に対する比における差に基づいて、空間的に分離され得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本教示は、例えば微分イオン質量分光法に使用する高電圧非対称波形電源を提供する。様々な実施形態において、本教示の高電圧源は、電極間に、約5,000ボルトcm−1より大きい電界を生成し、約600キロヘルツ(kHz)より大きい繰り返しレートで動作する非対称波形を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
様々な実施形態において、高電圧非対称電界発生装置は、第1の電極と第2の電極とを含む。第1および第2の電極は、互いに平行に方向付けられるか、あるいは、同心円筒であり、隙間によって分離されている。第1の高電圧波形発生器は、第1の電極に接続され得、第2の高電圧波形発生器は、第2の電極に接続され得る。各波形発生器は、正弦波形を生成でき得る。様々な実施形態において、第1の波形発生器は、第1の周波数および第1の振幅において正弦出力信号を生成し、第2の波形発生器は、第2の周波数および第2の振幅において正弦出力信号を生成する。各波形発生器は、出力波形の振幅および/または周波数の手動制御あるいは電子的にプログラム可能な制御を提供できる。非対称電界発生装置は、波形発生器のうちの少なくとも1つの位相を調節するように適合された位相調節回路を含み得る。動作では、第1の高電圧波形および第2の高電圧波形のそれぞれの電極への適用からの結果である、第1の電極と第2の電極との間に生成された電界は、非対称であり、実質的にゼロに等しい時間平均値を有し得る。様々な実施形態において、電極の間に生成された電界の強度は、約5,000ボルトcm−1より大きく、約600キロヘルツより大きい繰り返しレートにおいて変化する。
【0006】
高電圧非対称電界発生装置は、2つの電極のうちの少なくとも1つに電気的に接続された直流(DC)電圧電源をさらに含み得る。このDC電源は、電極間の補償DC電界を提供し得、特定のイオン種の選択を可能にし得る。
【0007】
様々な実施形態において、電界発生装置は、検知およびフィードバック制御回路網をさらに含み得る。様々な実施形態において、制御回路網は、第2の波形発生器に対する第1の波形発生器の振幅比を感知でき、フィードバック制御を提供して、比を実質的に一定の値に維持する。様々な実施形態において、制御回路網は、第2の波形発生器に対する第1の波形発生器から出力された信号の相対位相差を感知し得、また、フィードバック制御を提供して、位相関係を実質的に一定の値に維持する。
【0008】
電界発生装置は、電子回路網を含み得て、1つの波形発生器のための周波数を他方の波形発生器から引き出す。例えば、様々な実施形態において、周波数2倍化回路あるいはデバイスが使用され得ることによって、第2の波形発生器に対する発振周波数を第1の波形発生器から提供する。様々な実施形態において、周波数分割回路が使用され得ることによって、第1の波形発生器に対する発振周波数を第2の波形発生器から提供する。様々な実施形態において、ローパス電子フィルタあるいはバンドパス電子フィルタが使用され得ることによって、第1の波形発生器に対する発振周波数を第2の波形発生器から選択する。
【0009】
様々な実施形態において、微分移動度分光法のための非対称電界を提供するため方法が提供され、実質的に第2の電極に平行な第1の電極、および/または平行円筒電極を提供し、第1の電極に、実質的に正弦波形である、第1の周波数および第1の振幅における第1の高電圧を適用し、第2の電極に、実質的に正弦波形である、第2の周波数および第2の振幅における第2の高電圧を適用する。様々な実施形態において、方法は、第1の周波数値の実質的に高調波である第2の周波数を選択することを含み得る。例えば、nを偶数の整数であるとして、第2の周波数は第1の周波数のn倍であり得る。様々な実施形態において、方法は、第1の振幅の第2の振幅に対する比、および第1の波形と第2の波形との間の相対位相差を選択することによって、第1の電極と第2の電極との間に、非対称であり実質的にゼロに等しい時間平均値を有する電界を提供する。様々な実施形態において、電極の間に生成された電界強度は、約5,000ボルトcm−1(V/cm)より大きいように選択され、約600キロヘルツ(kHz)の繰り返しレートにおいて変化させられる。様々な実施形態において、電極の間に生成される電界強度は、(a)5,000V/cm、(b)7,000V/cm、および/または、(c)10,000V/cm のうちの1つ以上よりも概ね大きいように選択され、(a)600kHz、(b)2MHz、(c)3MHz、および/または(d)5MHzのうちの1つ以上よりも概ね大きい繰り返しレートを有する。
【0010】
様々な実施形態において、非対称電界を提供するための方法は、その移動度特性に基づいた特定のイオン種の選択のために、2つの電極のうちの少なくとも1つに直流(DC)電圧を適用して、電極間に補償DC電界を生成する。
【0011】
様々な実施形態において、非対称電界を提供するための方法は、検知およびフィードバック制御信号をさらに含む。様々な実施形態において、制御回路網は使用されることによって第2の波形発生器に対する第1の波形発生器の振幅の比を感知し、また、フィードバック制御を提供することによって、比を実質的に一定の値に維持する。様々な実施形態において、制御回路網が使用されることによって、第1の波形発生器からの信号出力と第2の波形発生器に関する相対位相差を感知し、フィードバック制御を提供することによって位相関係を実質的に一定の値に維持する。
【0012】
様々な実施形態において、非対称電界を提供するための方法は、1つの波形発生器のための周波数を他方の波形発生器から引き出すことを含む。様々な実施形態において、周波数2倍回路あるいはデバイスが使用され得ることによって、第2の波形発生器の発振周波数を第1の波形発生器から生成する。様々な実施形態において、周波数分割回路が使用され得ることによって、第1の波形発生器の発振周波数を第2の波形発生器から生成する。様々な実施形態において、ローパス電子フィルタあるいはバンドパス電子フィルタが使用され得ることによって、第1の波形発生器の発振周波数を第2の波形発生器から選択する。
【0013】
本教示の上述のおよび他の局面、実施形態および特徴が、添付の図面と共に、以下の記述からより完全に理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本明細書に記述される図面は、例示目的のためのみである。図面において、同様な参照記号は、概して同様な特徴、機能的に同様なおよび/または構造的に同様な要素を示す。図面は、必ずしも縮尺通りではなく、本発明の原理を説明する上で、正しく配置される代わりに強調されている。図面は、どのような方法であれ、本教示の範囲を限定することを意図されていない。
【図1】図1は、2つの仮定的イオンに対する電界強度の関数としてのイオン移動度のプロットである。
【図2A】図2Aは、非対称時間変動電界の実施形態を表わす。波形212の部分は、高い電界強度
【化1】

を有しており、214の部分は、低い電界強度
【化2】

を有している。
【図2B】図2Bは、非対称時間変動電界の実施形態を表わす。
【図2C】図2Cは、非対称時間変動電界の実施形態を表わす。
【図3】図3は、図4A−4Bに図示された装置の電極に適用された2つの高電圧信号のプロットを表わす。振幅および相対位相の調節は、この例では、電極415、425の間に非対称電界を生成するために使用され、非対称電界は、図2Bあるいは図2Cに概略が示されているような時間変動をしている。
【図4A】図4Aは、高電圧非対称電界発生装置の1つの実施形態の立面図の例示である。2つの波形発生器からの高電圧信号は、各電極に適用される。電極間の結果の電界は、時間および強度において非対称な様子で変化する。
【図4B】図4Bは、高電圧非対称電界発生装置の1つの実施形態の立面図の例示である。2つの波形発生器からの高電圧信号は、各電極に適用される。電極間の結果の電界は、時間および強度において非対称な様子で変化する。
【図5A】図5Aは、図4A−4Bに図示された装置の電極を励起するための高電圧信号を提供する電子回路の実施形態のブロックダイアグラムを表わす。
【図5B】図5Bは、図4A−4Bに図示された装置の電極を励起するための高電圧信号を提供する電子回路の実施形態のブロックダイアグラムを表わす。
【図5C】図5Cは、図4A−4Bに図示された装置の電極を励起するための高電圧信号を提供する電子回路の実施形態のブロックダイアグラムを表わす。
【図5D】図5Dは、図4A−4Bに図示された装置の電極を励起するための高電圧信号を提供する電子回路の実施形態のブロックダイアグラムを表わす。
【0015】
本発明の特徴および利点は、図面と共に取られる場合に、以下に示される詳細な記述からより明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書に表わされた教示は、時間変動する、非対称な、例えば微分移動度分光法に有益な高い値の電界を提供するための装置および方法の様々な局面に属する。様々な実施形態において、高い電界は、2つの波形発生器から2つの実質的に平行な電極に、正弦高電圧波形を適用することによって生成される。正弦波形は、同期された、振幅が選択された、電極間に望まれる非対称な時間変化する電界を生成するように制御可能に変化する、2つの波形の間の相対位相差であり得る。様々な実施形態において、5,000ボルトcm−1より大きいピーク電界値は、約600キロヘルツ(kHz)の繰り返しレートにおいて生成され得る。電極間を横切って進行するイオンは、それらの微分高電界移動度および低電界移動度に従って分離され得る。
【0017】
異なるタイプのイオンは、高電界および低電界の存在において異なるイオン移動度を示し得、これらの効果はイオンを分離するために、あるいは特定のイオンを選択するために使用され得る。理解の目的に対して、図1は、2つの非線形イオン移動度曲線110および120を表わす例示的プロットである。各曲線は、固定圧力における特定のイオン種に対する電界の関数として、イオン移動度の挙動を表わす。当該分野で理解されているように、電界から獲得された(しばしば、「場のエネルギ」と言われる)平均イオンエネルギを決定する関数パラメータは、圧力(p)あるいは気体の数密度(N)によって割られた電界強度(E)、つまり、それぞれE/pあるいはE/Nである。イオン移動度対電界強度のプロットは、当該分野においてよく理解された慣例であり、説明の利便性および簡明性のために本明細で使用され得る。従って、電界強度を増加することによって電界エネルギを増加することは、また、気体圧力を(また、従って数密度を)下げることによって、あるいは、電界強度を上げて気体圧力を下げることの両方の組み合わせによって、達成され得る。この理由で、タウンゼント単位つまりE/Nの用語で電界の強度を議論することは利便性があり、それによって、大気圧において、窒素分子の数密度は、295°Kにおいて2.5×1019分子/cmである。従って、5000V/cmの電界は、約2×10−16Vcm×(1×1017Td)=20Tdとなる。
【0018】
再び、図1を参照して、様々な実施形態において、示されるように、曲線は上向きに折れ曲がるよりも下向きに折れ曲がるか、あるいは、これらは反対方向に折れ曲がる。曲線の非線形特性は、イオンの移動度が、高電界エネルギにおいては、電界エネルギに線形には比例しないことを表わす。例えば、曲線110および120に各々に対して、10kVcm−1内の電界におけるイオンの移動度は、5kVcm−1の電界におけるイオンの移動度の値の2倍より大きい。曲線が下向きに折れ曲がるとすると、例えば、高電界におけるイオンの移動度は、高電界の値の半分を有する電界における移動度の2倍よりも小さい。イオン対イオンからのイオン移動度曲線における差と組み合わされた非線形特性は、イオンに、高い値の、非対称な、時間変動する電界を受けさせることによって、イオンの分離のために使用され得る。
【0019】
図2A−2Cは、非対称時間変動電界の例示的プロットである。様々な実施形態において、これらのタイプの電界は、高電界非対称波形イオン移動度分光器(FAIMS)において、イオンを分離するために使用される。FAIMS装置に使用され得る装置の様々な実施形態が、図4Aに図示されている。様々な実施形態において、図2A−2Cで示されたものと同様である電界は、装置の中の平行なあるいは円筒の電極415および425の間に生成され、イオンは電極の間を図に例示されているx方向に進行する。これらは電極間を進行するので、イオンは時間変動電界を受ける。
【0020】
ここで、図2Aを参照すると、方形波タイプの波形が示されている。この例では、電界は高電界値
【化3】

と低電界値
【化4】

との間で、約0.75マイクロ秒のサイクル周期で変化する。この周期は、約1.333メガハルツ(MHz)の周波数あるいは繰り返しレートに対応する。様々な実施形態において、繰り返しレートは約600kHzより大きいか、約2MHzより大きいか、および/または約5MKzより大きいかのうちの1つ以上であり得る。様々な実施形態において、プロットに1.00で基準化されて示された電界のピーク振幅は、5,000Vcm−1より大きいか、10,000Vcm−1より大きいか、および/または約15,000Vcm−1より大きいかのうちの1つ以上であり得る。
【0021】
図2Aに示された波形は、その時間平均値がゼロであるという意味において、追加の特性を有している。これは、数学的には、次のように表わされ得る。
【化5】

ここで、Tは、波形の周期であり、E(t)は,時間の関数としての電界の値である。グラフ的には、波形の正の部分の間のこの特性の影付部分212は、波形の負の部分の間の領域214の面積に等しい面積を有することを意味する。様々な実施形態において、波形のこの特性は、電極415および425の間を進行する場合、イオンを実質的に減少する、あるいはイオンが元の軌跡から遠く離れて偏移することを防ぐように働く。
【0022】
非線形イオン移動度曲線を有するイオンは、図2Aの時間変動電界を受ける場合、2つの電界値
【化6】

が曲線の非線形部分をまたぐとすると、電界エネルギの関数として、正味の運動あるいは正味のドリフトを受ける。例えば、
【化7】

の場合、図1に110として例示された移動度曲線を有するイオンは、波形の−5kV/cmの部分の間に反対方向に進行するよりも波形の10kV/cmの部分の間に1つの方向にさらに多く進行する。これらの電界エネルギにおいてイオンが一定の移動度を有する場合、どの正味の運動あるいはドリフトも、非対称波形をもたらさない。比較すると、例えば、異なるイオン移動度曲線120を有するイオンは、同じ波形を受ける場合であっても、異なる量の正味運動あるいはドリフトを受け得、これは、これらの2つのタイプのイオンを分離するために使用され得る。分離がイオン移動度に基づくので、同じ質量電荷比であるが異なる立体配座の(例えば、線形対分岐の)2つのイオンが、例えば分離され得ることを理解すべきである。
【0023】
図2B−2Cは、微分イオン移動度分光法のための本教示の様々な実施形態において有益な非対称の時間変動する電界波形220、230の非限定例を例示する。波形の多様性は、調査中のイオンに対するイオン移動度曲線の実質的に非線形部分をまたぐ最大正方向の値および最大負方向の値を有する波形を含むが、それに限定されない本教示において有益である。様々な実施形態において、波形は、また、様々な実施形態において、小さな正の値あるいは負の値のオフセットが波形に加えられるが、近似的にゼロに等しい時間平均値を有し得る。
【0024】
再び図4Aを参照すると、電界エネルギの関数として異なるイオン移動度曲線を有する、電極415と425との間で+x方向に進行する異なるタイプのイオンは、図2A−2Cに例示された高い値の、時間変動する電界を受ける場合、異なる量の正味ドリフトを±y方向に受ける。正味ドリフトの方向は、イオン電荷、高電界移動度と低電界移動度との関係、および、例えば、
【化8】

が+yあるいは−yのいずれに沿う方向を示すかの、適用された電界の方向とに依存する。小さな電界バイアスあるいはオフセットの適用は、選択されたイオン種に対する正味ドリフトの打ち消しのために使用され得る。様々な実施形態において、選択されたイオン種は、小さなDCバイアスの適用によって「平衡された」状態に配置されており、電極と衝突することなしに、電極アセンブリを通り過ぎる。様々な実施形態において、DCバイアスは、1つの電極に直接適用され得る。様々な実施形態において、DCオフセットは、電極に加えられる非対称波形に適用され得る。
【0025】
方形波タイプの波形(例えば、図2Aに図示されたような)を作り出すことは、駆動回路網上に配置された電力およびバンド幅の要請があるので、高電圧、高スピード適用に対して実装することがしばしば困難である。FAIMS装置の電極アセンブリのような、大容量負荷を駆動する場合に、さらなる複雑さが生じる。
【0026】
図2B−2Cに示されたタイプの非対称の電界波形は、2つの電極415および425に適用された2つの実質的に正弦波の電圧波形(例えば、図3に示された波形310および320)の重ね合わせによって、発生され得る。様々な実施形態において、1つの電圧波形320は、他の電圧波形310の高調波である。様々な実施形態において、1つの波形は、他方の波形の第2高調波である。様々な実施形態において、高調波関係を有する2つより多い波形が電極に適用され得る。適用された電圧波形310と320との間の相対的位相差を選択することによって、また、各波形の振幅を選択することによって、所望の特性を有する非対称な電界波形が電極間に生成され得る。
【0027】
数学的には、電極間の電界は、次の様に表わされる。
【化9】

ここで、V(t)は、1つの電極415に加えられた高電圧波形310であり、V(t)は、他の電極425に加えられた高電圧波形320であり、Gは電極間の間隔である。2つの高電圧波形は、次の様に表わされ得る。
【化10】

ここで、A、Aは、波形の振幅を表わし、ν、νは、波形の周波数を表わし、φ、φは、波形の位相を表わす。2つの電圧波形間の相対的位相差は、φ=φ−φとして表わされる。様々な実施形態において、所望の非対称電界波形E(t)は、十分な数のパラメータA、A、φ、φおよび、Gを制御可能に変化することによって生成され得る。
【0028】
様々な実施形態において、波形V(t)およびV(t)は、例えば、歪んだ正弦波、歪んだ余弦波、フィルタリングされた整流波形、あるいは、クリップされた波形等の、純粋な正弦波あるいは、余弦波ではない周期信号である。様々な実施形態において、電圧波形の振幅A、Aは、約500ボルトより大きい、約1,000ボルトより大きい、また、約2,000ボルトより大きい。電圧波形間の相対的位相差φは、約0ラジアンと2πラジアンとの間の任意の値であり得る。様々な実施形態において、ν=2νであり、νは、約600kHzより大きい、約2MHzより大きい、また、約5MHzより大きい。電極間の間隔Gは、約0.25ミリメータと約5ミリメータとの間の任意の値であり得る。
【0029】
図4A−4Bは、微分移動度分光法のための高電界非対称波形装置400の実施形態を、簡単化したフロックダイアグラム形式で図示している。動作では、時間変動する、非対称の電界461および462が、2つの電極415と425との間で生成される。イオンは、時間変化する電界の方向に直角な電極間をx方向に沿って進行する。高値の、時間変化する非対称電界は、y方向におけるイオンの正味ドリフトを伝える。様々な実施形態において、1つの高電圧波形発生器410は、1つの電極415を駆動し、一方、第2の高電圧波形発生器420は、第2の電極425を駆動する。電極は、例えば、平行ストリップ電極、平行平板電極、同心円筒、湾曲要素等であり得る。補助直流(DC)電源430は、合算回路デバイス440によって1つの発生器420からの出力に加えられて、電界461に実質的に一定なDCバイアスあるいはオフセットを適用する。様々な実施形態において、DC電源430からの出力は、電極415あるいは425のうちの1つに直接加えられる。DCバイアスが使用され得て、例えば、選択されたイオン種を電極間の「平衡した」状態に配置することによって、そして、選択されたイオン種は、電極を実質的にドリフトなしでy方向に通り過ぎる。様々な実施形態において、DC電源からの電圧は、約0ボルトと約500ボルトとの間で、制御可能に変化可能である。2つの高電圧波形ドライバ410および420と、DC電源430とは、共通接地部490を共有する。回路要素および電極は、高速信号を運ぶのに適切な電気ケーブル450によって接続され得る。様々な実施形態において、ケーブルのいくつかは、高電圧動作に適合した50オームのBNCケーブルである。
【0030】
図4Bは、高電圧波形安定化を組み込んでいる様々な実施形態を図示する。例えば、1つのドライバ410からの波形は、感知され、そして、他のドライバ421にフィードバックされる。様々な実施形態において、内部あるいは外部回路網は、少なくとも1つの波形ドライバ410の振幅および位相を監視して、実質的に一定の、2つの波形の間の相対位相差φを維持する、および/または、2つの波形に対して実質的に一定のピーク振幅比Va(pk)/Vb(pk)維持する。
【0031】
様々な実施形態において、高電界非対称波形装置に対する回路構成部品が、図5A−5Dに示されている。図5Aを参照すると、局部発振器505が使用され得て、正弦波信号を生成する。発振器からの出力の一部分は、第1の高電圧ドライバ510によって増幅され得て、1つの電極415に適用される。局部発振器からの出力の一部分は、第2の高電圧ドライバ520による増幅の前に、また、第2の電極425への適用の前に、周波数変換器507を通ってフィードされ得、2つのドライバの間の周波数関係を規定し維持することを容易にする。ドライバ510および520は、共通接地部490を共有する。周波数変換器507は、局部発振器505からの周波数を2倍にするか、半分にする等のために使用され得る。例えば、変換器507は、2倍された周波数を提供し得る、AC結合のフィルタされた全波整流器を含み得る。例えば、変換器507は、n=2である、n分割の回路構成部品を含み得、あるいは、局部発振器の周波数の約半分の遮断周波数を有するローパスフィルタを含み得る。様々な実施形態において、高電圧ドライバ510および520は、内部回路網を各々有しており、出力波形の振幅および位相を調節することを可能にする。
【0032】
図5B−5Cは、高電界非対称波形装置の様々な実施形態を図示しており、ここでは、1つの高電圧ドライバ512は内部局部発振器を含む。発振器からの出力波形の一部分は、周波数変換器507を通り、外部位相調節デバイス530、533、を通って、第2のドライバ522にフィードされ得る。外部位相調節構成部品は、415および425に適用された2つの高電圧波形の間の相対的位相差を、約0ラジアンから約2πラジアンの間の範囲内に設定するために使用され得る。高電圧合算回路440およびDC電源430は、電極415と425との間に現れる電界に、オフセットあるいはDCバイアスを提供するために使用され得る。
【0033】
様々な実施形態において、波形安定回路網が、図5Cに模式的に図示されているように、高電界非対称波形装置の中に組み込まれる。様々な実施形態において、位相検出回路デバイス540は、電極415および425に適用される各出力高電圧波形の位相を感知し、比較し、信号を位相調節デバイス533にフィードバックすることにより、2つの高電圧波形の間の実質的に一定な相対位相差φを維持する。様々な実施形態において、振幅検出回路デバイス550は、各高電圧波形のピーク振幅を感知し比較し、信号を少なくとも1つの高電圧ドライバ522にフィードバックして、2つの高電圧波形の間の実質的に一定なピーク振幅比Va(pk)/Vb(pk)を維持する。様々な実施形態において、位相および振幅の検出および比較は、1つのデバイス内で実行され得る。
【0034】
図5Dは、高電界非対称波形装置の様々な実施形態を図示しており、高電界非対称波形装置は、クロック源506、パルス幅変調器513および523、電力増幅器514および524と、タンク回路515および525とを組み込んでおり、各電極に対して高電圧波形を生成する。様々な実施形態において、振幅の基準値が、安定化電源501、502によって設定され、安定化電源は、ピーク振幅比較器551、552のための規準信号をそれぞれ提供する。ピーク振幅比較器への他の入力は、電極415、425に適用される高電圧波形をサンプリングする位相およびピーク振幅センサ545、546から引き出され得る。ピーク振幅比較器からの出力は、パルス幅変調器513および523にフィードされ、変調器からの電圧波形振幅を実質的に一定な所定の値に維持するために使用され得る。電圧波形の間のピーク振幅比は、安定化電源501、502を調節することによって、設定され得る。
【0035】
各パルス幅変調器513、523に対する発振周波数は、単一のクロック源506から引き出され得る。様々な実施形態において、クロック源からの周波数出力は、基準クロック信号をパルス幅変調器513に提供する前に、周波数変換器507において2で除される。様々な実施形態において、クロック源506からの周波数出力は、規準クロック信号をパルス幅変調器523に提供する前に、位相調節デバイス533にフィードされる。
【0036】
様々な実施形態において、パルス幅変調器513、523からの出力は、電力増幅器514、524にフィードされ、電力増幅器514、524は、2つの別々のタンク回路515、525を駆動する。タンク回路は、誘導性要素および容量性要素を含み得、タンク回路は、電気エネルギを格納し、電極415および425を駆動するための全体の電力要求を減少する。タンク回路内の誘導性および容量性の値は、それらの共振周波数特性が、各パルス幅変調器において確立された駆動周波数に実質的に等しいように選択され得る。様々な実施形態において、2つのDC電源431、432は、各タンク回路からの高電圧波形に、オフセットあるいはバイアスを提供するために使用され得る。
【0037】
様々な実施形態において、各タンク回路515、525からの高電圧出力は、ピーク振幅および位相感知回路デバイス545、546により、それぞれサンプリングされる。感知された振幅値は、振幅比較器551、552にフィードバックされて、実質的に一定なピーク振幅比Va(pk)/Vb(pk)を維持する。例えば、デバイス545において検出されるような、低周波数波形の位相は、位相比較器542に直接フィードバックされ得る。高周波数波形に対しては、サンプリングされた信号は、位相検出の前に、第2の変換器507によって半分にされ得る。検出された位相は、そして、位相比較器542にフィードバックされ得る。位相基準源503からの相対的位相差基準値は、また、比較器542に適用され得る。位相基準源503からの相対的位相差基準値は、また、比較器542に提供され得る。位相比較器からの出力は、実質的に一定な、電極415、425に適用される2つの高電圧信号の間の相対的位相差を維持するように、位相調節デバイス533に適用され得る。様々な実施形態において、2つの位相比較器が1つの位相比較器の代わりに使用され得る。例えば、第1の位相比較器は、2つのデバイス545、546から検出された位相を比較し得、その出力が第2の比較器にフィードされる。第2の位相比較器は、その第2の入力として、位相基準源503からの出力を受信し得て、その出力を位相調節デバイス533にフィードし得る。
【0038】
本教示が様々な実施形態および例と共に記述されてきたが、本開示はそのような実施形態あるいは例に限定されることを意図されてはいない。例えば、実施形態は、FAIMSのための駆動電極を対象にしてきたが、同等な装置が電子光学装置内の電極を駆動するために有益であり得る。例示された本教示は、平面的微分移動度デバイスによって例示されてきたが、これらの原理が円筒および他の湾曲した幾何構成に適用することは、当業者には明らかであろう。それに対して、当業者には容易に理解できるように、本教示は、様々な代替、修正、および均等物を囲む。
【0039】
特許、特許出願、文献、本、論文、およびウェブページを含むがそれらに限定はされない、本願に引用されたすべての文章および同様な材料は、そのような文献および同等な材料の形式に拘わらず、参照によりそれらの全体が援用されている。1つ以上の援用された文献および同等な材料が、規定された用語、用語使用、記述された技術等を含むがそれに限定はされない本出願から異なっている場合、あるいは本願を否定する場合、この出願が制御する。
【0040】
本明細書に使用された節の表題は、組織的目的のみのためであり、どのように記述されていても、対象項目を限定するとは解釈されるべきではない。
【0041】
特許請求範囲は、その効果に言及していない限り、記述された順序あるいは要素に限定されると読まれるべきではない。形式上あるいは詳細における様々な変更が、添付の特許請求の範囲と精神から外れることなく、当業者によってなされ得ることが理解されるべきである。以下の特許請求範囲および均等物の範囲と精神内にあるすべての実施形態がここに主張される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微分イオン移動度分光器のための高電界非対称波形装置であって、該装置は、
第1の電極と、
該第1の電極に対して実質的に一定の間隔を有する第2の電極と、
第1の周波数において、かつ、第1の振幅において正弦波形を生成する第1の高電圧波形発生器であって、該第1の波形発生器は、該第1の電極に電気的に接続されており、該第1の周波数値は調節可能であり、該第1の振幅値は調節可能である、第1の高電圧発生器と、
第2の周波数において、かつ、第2の振幅において電気的に正弦波形を生成する第2の高電圧波形発生器であって、該第2の波形発生器は、該第2の電極に電気的に接続されており、該第2の周波数値は調節可能であり、該第2の振幅値は調節可能であり、該第2の周波数値は、該第1の周波数値の高調波である、第2の高電圧波形発生器と、
該波形発生器のうちの少なくとも1つの該位相を調節するように適合された位相調節回路と
を含み、
該第1の高電圧波形および該第2の高電圧波形の適用からの結果である、該第1の電極と第2の電極との間に生成された該電界は、非対称であり、実質的にゼロに等しい時間平均値を有する、
装置。
【請求項2】
前記第1の電極および前記第2の電極のうちの少なくとも1つに電気的に接続された調節可能な直流電圧源をさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記第1の電極および前記第2の電極は、実質的に平面電極である、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記波形サイクルの少なくとも一部分に対する、前記第1の電極と第2の電極との間に生成された前記電界の強度は、約5,000ボルトcm−1より大きい、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記第1の周波数は、約600kHzより大きい、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記第2の周波数は、前記第1の周波数を電気的に2倍することによって得られる、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記第1の周波数は、前記第2の周波数を電気的に分割することによって得られる、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記第1の周波数は、前記第2の周波数を電気的にフィルタリングすることによって得られる、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記第1の波形発生器および前記第2の波形発生器に結合された振幅制御回路をさらに含み、該振幅制御回路は、前記第1の振幅の前記第2の振幅に対する比を実質的に一定の値に維持する、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記第1の波形発生器および第2の波形発生器に結合された位相制御回路をさらに含み、該位相制御回路は、前記第1の波形と前記第2の波形との間の相対位相差を、実質的に一定の値に維持する、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記2つの電極は、幾何学的に平面である、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記2つの電極は、湾曲した幾何学形状に形成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項13】
前記第1の高電圧波形発生器および前記第2の高電圧波形発生器は、単一の高電圧発生器を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項14】
微分イオン移動度分光法のための非対称電界を提供する方法であって、該方法は、
第1の電極に、第2の電極に対する実質的に一定の間隔を提供することと、
該第1の電極に、第1の周波数において、かつ、第1の振幅において実質的に正弦波形である第1の高電圧を適用することと、
該第2の電極に、第2の周波数において、かつ、第2の振幅において実質的に正弦波形である第2の高電圧を適用することと、
該第1の周波数値の実質的に高調波である該第2の周波数を選択することと、
該第1の振幅の該第2の振幅に対する比、および該第1の波形と該第2の波形との間の相対的位相差を選択して、該第1の電極と該第2の電極との間に電界を提供することであって、該電界は、非対称であり、実質的にゼロに等しい時間平均値を有する、ことと
を含む、方法。
【請求項15】
前記第1の電極または前記第2の電極のうちの少なくとも1つに直流電圧を適用することをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の電極と前記第2の電極との間に生成された、前記波形サイクルの少なくとも一部分に対する前記電界の強度は、約5,000ボルトcm−1よりも大きい、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記第1の周波数は、約600kHzよりも大きい、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記第1の周波数を電気的に2倍にすることによって、前記第2の周波数を得ることをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記第2の周波数を電気的に分割することによって、前記第1の周波数を得ることをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記第2の周波数を電気的にフィルタリングすることによって、前記第1の周波数を得ることとさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
感知回路およびフィードバック回路を使用して、前記第1の振幅の前記第2の振幅に対する比を実質的に一定の値に電気的に維持することをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
感知回路およびフィードバック回路を使用して、前記第1の波形と前記第2の波形との間の前記相対的な位相差を実質的に一定の値に電気的に維持することをさらに含む、請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図5D】
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【公表番号】特表2011−503799(P2011−503799A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−533068(P2010−533068)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【国際出願番号】PCT/US2008/012268
【国際公開番号】WO2009/064350
【国際公開日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(510075457)ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド (35)
【Fターム(参考)】