説明

リパーゼ粉末製剤及びその使用

【課題】大豆粉末を用いなくてもリパーゼ活性が向上したリパーゼ粉末製剤を提供すること。
【解決手段】リゾプス・デレマー由来のリパーゼを穀物粉末及び/又は糖類粉末とともに溶解及び/又は分散させたリパーゼ含有水性液体を、スプレードライによリパーゼ粉末製剤を作成する。そのリパーゼ粉末製剤中のリパーゼ粒子は、その表面に直径0.5μm〜6μmの細孔を3,000-40,000個/mm2有するものである。これを用いて、エステル交換又はエステル化反応が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種エステル化反応、エステル交換反応などに好適に使用することができるリパーゼ粉末製剤、及びこれらのリパーゼ粉末製剤を用いるエステル交換方法などに関するものである。
【背景技術】
【0002】
リパーゼは、脂肪酸などの各種カルボン酸とモノアルコールや多価アルコールなどのアルコール類とのエステル化反応、複数のカルボン酸エステル間のエステル交換反応などに幅広く使用されている。このうち、エステル交換反応は動植物油脂類の改質をはじめ、各種脂肪酸のエステル、糖エステルやステロールエステルの製造法として重要な技術である。これらの反応の触媒として、油脂加水分解酵素であるリパーゼを用いると、室温ないし約70℃程度の温和な条件下でエステル交換反応を行うことができ、従来の化学反応に比べ、副反応の抑制やエネルギーコストが低減化されるだけでなく、触媒としてのリパーゼが天然物であることから安全性も高い。また、その基質特異性や位置特異性により目的物を効率良く生産することができる。ところが、粉末リパーゼをそのままエステル交換反応に用いても活性が十分に発現しないばかりか、元来が水溶性のリパーゼを油性原料中に均一に分散させることは困難であり、その回収も困難である。
このため、従来はリパーゼを何らかの担体、たとえば陰イオン交換樹脂(特許文献1)、フェノール吸着樹脂(特許文献2)、疎水性担体(特許文献3)、陽イオン交換樹脂(特許文献4)、キレート樹脂(特許文献5)等に固定化してエステル化やエステル交換反応などに用いることが一般的である。さらに、リパーゼとリパーゼの担体として作用する物質とを溶解している水相が疎水相に分散しているエマルジョンを製造し、そのエマルジョンから水を除去することにより、水相をリパーゼで被覆した固体粒子へ変化させる固定化リパーゼ粒子の製造方法が提案されている(特許文献6)。
【0003】
このように、従来はリパーゼを固定化してエステル交換反応に用いていたが、かかる固定化リパーゼは固定化処理による本来のリパーゼ活性の損失を伴うだけでなく、多孔性担体を用いた場合は細孔に原料や生成物が詰まり、結果としてエステル交換率の低下を招いていた。さらに、従来の固定化リパーゼを用いたエステル交換反応においては、担体が保持する水分が反応系に持ち込まれるため、副反応、たとえば油脂類のエステル交換反応におけるジグリセリドやモノグリセリドの生成等を避けることは困難であった。
このような状況に鑑み、粉末リパーゼを用いる各種技術が開発されている。例えば、不活性有機溶媒の存在下または非存在下、エステル交換反応時に分散リパーゼ粉末粒子の90%以上を1〜100μmの範囲の粒径に保つように、エステルを含有する原料に粉末リパーゼを分散させてエステル交換反応を行う方法が提案されている(特許文献7)。又、リン脂質および脂溶性ビタミンを含む酵素溶液を乾燥して得た酵素粉末を用いることが提案されている(特許文献8)。
しかしながら、さらにリパーゼ活性が向上した粉末リパーゼが求められている。
一方、酵素含有溶液に穀物粉を、又は穀物粉及び糖類を添加して該酵素含有溶液を乾燥させることを特徴とする酵素固定製剤の製造方法が提案されている(特許文献9)。ここでは、使用できる酵素として、リパーゼ、セルラーゼ、プロテアーゼ、アミラーゼ及びペクチナーゼがあげられており、この製造方法により得られた酵素固定製剤は、酵素活性低下物質存在下における酵素の失活が抑制できるとしているが、酵素活性が向上することについては記載されていない。又、ここで、実際に製造されているのは、セルラーゼ又はプロテアーゼに脂肪含量の少ない脱脂大豆粉を適用した例のみであり、リパーゼを用いた例は具体的に記載されていない。
このような状況下において、Rhizopus oryzae由来及び/又はRhizopus delemar由来のリパーゼと、脂肪含有量が5質量%以上である大豆粉末とを含有する造粒物であることを特徴とするリパーゼ粉末製剤及び噴霧乾燥を用いた製造方法が提案されており(特許文献10)、リパーゼ活性が格段に向上したリパーゼ粉末製剤が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−98984号公報
【特許文献2】特開昭61−202688号公報
【特許文献3】特開平2−138986号公報
【特許文献4】特開平3−61485号公報
【特許文献5】特開平1−262795号公報
【特許文献6】特許第3403202号公報
【特許文献7】特許第2668187号公報
【特許文献8】特開2000−106873号公報
【特許文献9】特開平11−246893号公報
【特許文献10】特開2008−54448号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、リパーゼ活性が向上したリパーゼ粉末製剤を提供することを目的とする。
本発明は、又、これらのリパーゼ粉末製剤を用いるエステル交換方法及びエステル化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、リパーゼ粉末製剤を構成する粒子の物理的特性とそのリパーゼ活性との関係について鋭意検討したところ、粒子の表面に存在する細孔の数がリパーゼ活性に大きく関係することを見いだし、該知見により本発明を完成したものである。
すなわち、本発明は、リパーゼ粉末製剤を構成する粒子が、その表面に直径0.5μm〜6μmの細孔を3,000-40,000個/mm2有するものであることを特徴とするリパーゼ粉末製剤を提供する。
本発明は、又、リパーゼ含有水性液体を、スプレードライの送風温度が40℃以上、70℃未満の条件下でスプレードライして製造することを特徴とする上記リパーゼ粉末製剤の製造方法を提供する。
本発明は、又、上記リパーゼ粉末製剤を用いてエステル交換又はエステル化することを特徴とするエステル合成物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、エステル交換反応又はエステル化反応を効率的に行うことができる酵素活性が格段に向上したリパーゼ粉末製剤を提供することができる。
特に、本発明によれば、リパーゼ自体から酵素活性が格段に向上したリパーゼ粉末製剤を提供できるので、エステル交換反応又はエステル化反応のリパーゼ粉末製剤の使用量の削減、又は反応時間が大幅に短縮でき、安全に且つ廉価で食品又は食品添加剤を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】送風温度50℃にスプレードライして得たリパーゼ粉末製剤を構成するリパーゼ粒子の2000倍の電子顕微鏡写真を示す。
【図2】送風温度110℃でスプレードライして得たリパーゼ粉末製剤を構成するリパーゼ粒子の2000倍の電子顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明では、種々のリパーゼを用いることができるが、リゾプス属のリゾプス デレマー(Rhizopus delemar)及びリゾプス オリザエ(Rhizopus oryzae)が好ましく、特に1,3-特異性リパーゼであるのが好ましい。これらのうち、リゾプス オリザエ(Rhizopus oryzae)が特に好ましい。
これらのリパーゼとしては、ロビン社の商品:ピカンターゼR8000や、天野エンザイム社の商品:リパーゼF−AP15等が挙げられるが、最も適したリパーゼとしてはRhizopus oryzae由来、天野エンザイム社の商品:リパーゼDF“Amano”15−K(リパーゼDともいう)やリパーゼD “アマノ”コンクが挙げられる。このものは粉末リパーゼである。なお、このリパーゼDF“Amano”15−Kについては従来はRhizopus delemar由来の表記であった。
本発明で使用するリパーゼとしては、リパーゼの培地成分等を含有したリパーゼ含有水溶液を乾燥して得られたものでもよいが、これらを含有していないもの、つまり実質的にリパーゼ自体から構成されるものが好ましい。
【0010】
本発明のリパーゼ粉末製剤は、リパーゼを、穀物粉末及び/又は糖類粉末とともに溶解及び/又は分散させたリパーゼ含有水性液体を、スプレードライにより製造するのが好ましい。
リパーゼ含有水性液体中の水の量は、リパーゼの質量に対して水の質量を調整する。具体的には、リパーゼの質量に対する水の質量が、2.0〜1,000倍であるのが好ましく、2.0〜500倍であるのがより好ましく、3.0〜100倍が最も好ましい。
【0011】
ここで用いるリパーゼ含有水性液体としては、菌体を除去したリパーゼ培養液、精製培養液、これらから得たリパーゼを再度水に溶解・分散させたもの、市販の粉末リパーゼを再度水に溶解・分散させたもの、市販の液状リパーゼ等が挙げられる。さらに、リパーゼ活性をより高めるために塩類等の低分子成分を除去したものがより好ましく、また、粉末性状をより高めるために糖等の低分子成分を除去したものがより好ましい。
リパーゼの培養において、リパーゼ培養液として、例えば、大豆粉、ペプトン、コーン・ステープ・リカー、K2HPO4、(NH42SO4、MgSO4・7H2O等含有する水溶液を用い培養する。これらの濃度としては、大豆粉0.1〜20質量%、好ましくは1.0〜10質量%、ペプトン0.1〜30質量%、好ましくは0.5〜10質量%、コーン・ステープ・リカー0.1〜30質量%、好ましくは0.5〜10質量%、K2HPO4 0.01〜20質量%、好ましくは0.1〜5質量%である。又、(NH42SO4は0.01〜20質量%、好ましくは0.05〜5質量%、MgSO4・7H2Oは0.01〜20質量%、好ましくは0.05〜5質量%である。培養条件は、培養温度は10〜40℃、好ましくは20〜35℃、通気量は0.1〜2.0VVM、好ましくは0.1〜1.5VVM、攪拌回転数は100〜800rpm、好ましくは200〜400rpm、pHは3.0〜10.0、好ましくは4.0〜9.5に制御するのがよい。
【0012】
リパーゼ培養後の菌体の分離は、遠心分離、膜濾過などで行うのが好ましい。また、塩類や糖等の低分子成分の除去は、UF膜処理により行うことができる。具体的には、UF膜処理を行い、リパーゼを含有する水溶液を1/2量の体積に濃縮後、濃縮液と同量のリン酸バッファーを添加するという操作を1〜5回繰り返すことにより、低分子成分を除去したリパーゼ含有水溶液を得ることができる。
遠心分離は200〜20,000×g、膜濾過はMF膜、フィルタープレスなどで圧力を3.0kg/m2以下にコントロールするのが好ましい。菌体内酵素の場合は、ホモジナイザー、ワーリングブレンダー、超音波破砕、フレンチプレス、ボールミル等で細胞破砕し、遠心分離、膜濾過などで細胞残さを除去することが好ましい。ホモジナイザーの攪拌回転数は500〜30,000rpm、好ましくは1,000〜15,000rpm、ワーリングブレンダーの回転数は500〜10,000rpm、好ましくは1,000〜5,000rpmである。攪拌時間は0.5〜10分、好ましくは1〜5分がよい。超音波破砕は1〜50kHz、好ましくは10〜20kHzの条件で行うのが良い。ボールミルは直径0.1〜0.5mm程度のガラス製小球を用いるのがよい。
乾燥工程前の途中の工程において、リパーゼ含有水溶液を濃縮してもよい。濃縮方法は、特に限定されるものではないが、エバポレーター、フラッシュエバポレーター、UF膜濃縮、MF膜濃縮、無機塩類による塩析、溶剤による沈殿法、イオン交換セルロース等による吸着法、吸水性ゲルによる吸水法等があげられる。好ましくはUF膜濃縮、エバポレーターがよい。UF膜濃縮用モジュールとしては、分画分子量3,000〜100,000、好ましくは6,000〜50,000の平膜または中空糸膜、材質はポリアクリルニトリル系、ポリスルフォン系などが好ましい。
【0013】
本発明で用いるリパーゼは、前述のとおり菌体及びリパーゼ培養液に含まれる成分を除去したものが好ましい。このリパーゼと穀物粉末及び/又は糖類粉末とともに水に混合したものをスプレードライにより乾燥する。混合する順序は特に限定するものではないが、リパーゼが水に溶解している水溶液に、穀物粉末及び/又は糖類粉末を分散させることが好ましい。また、穀物粉末、糖類粉末としては、全脂大豆粉末、脱脂大豆粉末などの大豆粉末、小麦粉、米粉、デキストリンなどが好ましい。
【0014】
リパーゼ含有水性液体をスプレードライにより乾燥する方法としては、例えば、ノズル向流式、ディスク向流式、ノズル並流式、ディスク並流式等の噴霧乾燥機を用いる方法があげられる。この際、リパーゼと大豆粉末を含有するリパーゼ含有水性液体の温度を20〜40℃に調整し、次いでスプレードライ処理(乾燥雰囲気内に噴霧)するのが好ましい。送風(乾燥雰囲気)の温度は40℃以上、70℃未満〜℃、好ましくは40℃〜65℃、より好ましくは40℃〜60℃の送風温度で噴霧するのが好ましい。又、乾燥前にリパーゼ含有水性液体のpHを7.5〜8.5に調整しておくのが好ましい。
リパーゼは温度に弱く、低温にすることで酵素活性の低下を抑えられる。しかし、本発明では、送風温度が16〜30℃の低温領域より、送風温度40℃以上、70℃未満の範囲の方が、リパーゼ活性が高く好ましい。
本発明では、このようにして、その表面に直径0.5μm〜6μmの細孔を3,000-40,000個/mm2有する粒子で構成されるリパーゼ粉末製剤を得る。このうち、表面に直径0.5μm〜6μmの細孔を3,000-20,000個/mm2有するのが好ましく、さらに好ましくは、3,000-10,000個/mm2有するものである。粒子表面の細孔の数は、電子顕微鏡を用いて容易に測定することができる。
この際、好ましくは水分含量が10質量%以下、特に好ましくは1〜8質量%のリパーゼ粉末製剤を得るのがよい。
本発明のリパーゼ粉末製剤の粒径は任意とすることができるが、リパーゼ粉末製剤の90質量%以上が粒径1〜150μmであるのが好ましい。平均粒径は10〜80μmが好ましい。又、リパーゼ粉末製剤の形状は球状であるのが好ましい。
リパーゼ粉末製剤の粒径は、例えば、HORIBA社の粒度分布測定装置(LA−500)を用いて測定することができる。
【0015】
次に、本発明のリパーゼ粉末製剤を用いてエステル交換反応又はエステル化反応することにより得られるエステル交換物又はエステル化物の製造方法について説明する。
本発明のリパーゼ粉末製剤を使用して行うエステル交換反応は、脂肪酸エステル、脂肪酸、及びアルコールから選ばれる1種以上と、脂肪酸エステルとのエステル交換反応であり、例えば、常法による油脂と油脂のエステル交換反応、油脂と脂肪酸エステルとのエステル交換反応、アルコリシスやアシドリシスのエステル交換反応が挙げられる。
また、本発明のリパーゼ粉末製剤を使用して行うエステル化反応は、脂肪酸の部分エステルと脂肪酸とのエステル化反応、又は一価又は多価アルコールと脂肪酸とのエステル化反応であり、例えば、グリセリンと脂肪酸とのエステル化反応等が挙げられる。
さらに詳細には、油脂と油脂とのエステル交換反応として、例えば、長鎖脂肪酸のトリグリセリドである菜種油と植物由来の中鎖脂肪酸のトリグリセリドであるトリオクタン酸グリセリドをエステル交換させる反応を行うことができ、長鎖と中鎖の混合したトリグリセリドを製造することができる。
また、油脂と脂肪酸によるアシドリシスを使ったエステル交換反応としては、リパーゼの持つ1,3-特異性リパーゼを大いに利用した構造油脂の製造をすることができる。グリセリン骨格の2位に特定の脂肪酸を残して1,3位の脂肪酸を目的の脂肪酸に置き換えるものである。得られたものはチョコレート等に使用する油脂へ利用でき、また特定の栄養効果を持つ油脂へ利用できる。
【0016】
本発明のリパーゼ粉末製剤を用いたエステル交換反応やエステル化反応の条件については、特に限定するものではなく、常法により行うことができる。
一般的には、加水分解の原因となる水分の混入を避けながら、常圧又は減圧下にて行なわれる。反応温度としては、使用する油脂などの原料及び原料混合物の凝固点にもよるが、20〜80℃程度で行うことが好ましく、凝固点により限定されなければ、40〜60℃で行うことがより好ましい。
また、リパーゼ粉末製剤の反応原料への添加量としては、0.05〜10質量%が好ましく、0.05〜5質量%がより好ましい。最適な量は、反応温度、設定する反応時間、得られたリパーゼ粉末製剤の活性等により決定される。反応終了後、リパーゼ粉末製剤は濾過・遠心分離等により除かれ、製造が不可能な活性に低下するまで繰り返し使用(安定性の評価)できる。
したがって、通常、高価であるリパーゼは、できるだけ少量で高い活性と高い安定性とを同時にリパーゼ粉末製剤に付与できることが望ましく、本発明のリパーゼ粉末製剤を使用することで達成できる。
このようにして得られたエステル交換物又はエステル化物は、特に限定されないが、食品分野に使用されるエステル交換油脂又はエステル化油脂として有用である。
次に本発明を製造例及び実施例により詳細に説明する。
【実施例】
【0017】
実施例1
天野エンザイム社の商品:市販品「リパーゼD “アマノ”コンク Lot. No LDD0252201」を336,00U/mLの酵素溶液となるよう水に溶解し、これに脱臭全脂大豆粉末(脂肪含有量が23質量%、商品名:アルファプラスHS-600、日清オイリオグループ(株)製)10%懸濁液を攪拌しながら3倍量加え、0.5NのNaOH溶液を用いてpHを7.8に調整後、リパーゼ含有水性液体を得た。このリパーゼ含有水性液体を低温スプレードライ装置に導入し、送風温度を種々変えた条件下で、スプレードライした。
得られたリパーゼ粉末製剤の活性を以下の方法で測定した。
リパーゼ活性の測定方法
1,2,3-トリオレオイルグリセリンと1,2,3-トリオクタノグリセリンを1:1(w)の割合で混合した油に、リパーゼ粉末製剤を添加し60℃で反応させた。経時的に10μlサンプリングし、ヘキサン1.5mlで希釈後、リパーゼ粉末製剤をろ過した溶液をガスクロマトグラフィー(GC)用サンプルとした。GC(カラム:DB-1ht)で分析し下式より反応率を求めた。GC条件は、カラム温度;150℃、昇温;15℃/分、最終温度370℃である。
反応率(%)={C34area/(C24area+C34area)}×100
式中、C24は1,2,3-トリオクタノグリセリン、C34は1,2,3-トリオクタノグリセリンの一つの脂肪酸がオレイン酸に置き換わったものを示し、areaはそれらのエリア面積である。各時間における反応率に基づき、解析ソフト(origin ver.6.1)により反応速度定数k値を求めた。
リパーゼ粉末製剤の活性は、送風温度を110℃に設定して製造したリパーゼ粉末製剤の活性を100として各温度を相対活性で表した。
【0018】
結果をまとめて表1に示す。
表1 スプレードライにおける送風温度とリパーゼ相対活性

この結果から、スプレードライにおける送風温度を40℃以上、70℃未満にすると、相対活性が高いリパーゼ粉末が得られることがわかる。
【0019】
次に、このような高い相対活性のリパーゼ粉末が得られる原因を調べるために、表1に記載のリパーゼ粉末を構成するリパーゼ粒子表面における細孔数を次の方法で調べた。
<分析方法詳細>
粉末リパーゼを構成するリパーゼ粒子表面を電子顕微鏡で観察した。無作為に選んだ粉末リパーゼの一粒(リパーゼ粒子)が画面におさまるように倍率を1500倍、もしくは2000倍に設定した。観察表面の一部(粒子の中心付近)を切り出し(200〜600μm2の面積となった)、その中に含まれる直径0.5μm〜6μmの細孔数を目視でカウントし、表面細孔数 (個) /表面積 (mm2)を算出した。
この操作を各グループ当たり5検体ずつ行い、その平均値を求めた。結果を表2に示す。
【0020】
表2 送風温度と得られた粉末リパーゼの表面細孔数

この結果から、スプレードライにおける送風温度における差違というよりも、得られた粉末リパーゼの表面細孔数とリパーゼ相対活性との間には相関性があることがわかる。
尚、送風温度50℃、110℃で製造したリパーゼ粉末の水分量は、それぞれ7.2質量%、及び2.9質量であった(カールフィッシャー法を用いて測定)。送風温度50℃で製造したリパーゼ粉末については乾燥して水分を低下させ、一方、送風温度110℃で製造したリパーゼ粉末について吸湿させて、それぞれ5.7質量%に調製してリパーゼ相対活性を調べたところ、水分含量の影響よりも粉末リパーゼの表面細孔数がリパーゼ相対活性に影響していることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リパーゼ粉末製剤を構成する粒子が、その表面に直径0.5μm〜6μmの細孔を3,000-40,000個/mm2有するものであることを特徴とするリパーゼ粉末製剤。
【請求項2】
粒子が、その表面に直径0.5μm〜6μmの細孔を3,000-20,000個/mm2有するものである請求項1に記載のリパーゼ粉末製剤。
【請求項3】
リパーゼが、リゾプス オリザエ(Rhizopus oryzae)由来のリパーゼである請求項1又は2記載のリパーゼ粉末製剤。
【請求項4】
粒子の90質量%以上が粒径1〜150μmである請求項1〜3のいずれか1項記載のリパーゼ粉末製剤。
【請求項5】
エステル交換用又はエステル化用である請求項1〜4のいずれか1項記載のリパーゼ粉末製剤。
【請求項6】
スプレードライの送風温度が40℃以上、70℃未満の条件下で、スプレードライして製造されたものである請求項1〜5のいずれか1項記載のリパーゼ粉末製剤。
【請求項7】
リパーゼ含有水性液体を、スプレードライの送風温度が40℃以上、70℃未満の条件下でスプレードライして製造することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のリパーゼ粉末製剤の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項記載のリパーゼ粉末製剤を用いてエステル交換又はエステル化することを特徴とするエステル合成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−115065(P2011−115065A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273685(P2009−273685)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】