説明

リパーゼ阻害剤

【課題】天然物に由来し人体に対する安全性が高く、かつ、リパーゼ阻害効果に優れているリパーゼ阻害剤を提供する。
【解決手段】本発明のリパーゼ阻害剤はキナ酸ジエステル誘導体を有効成分とする。キナ酸ジエステル誘導体は、ジカフェオイルキナ酸、ジクマロイルキナ酸、ジフェルロイルキナ酸、クマロイルカフェオイルキナ酸、クマロイルフェルロイルキナ酸、カフェオイルフェルロイルキナ酸から選択されることが好ましく、既知である5−カフェオイルキナ酸のリパーゼ阻害効果と比べて、ジカフェオイルキナ酸のリパーゼ阻害効果は2倍以上であり、3,4−ジカフェオイルキナ酸のリパーゼ阻害効果は5倍以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食物の品質保持や皮膚炎予防、更には生活習慣病予防に効果があるリパーゼ阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リパーゼは脂質を分解する酵素である。微生物由来のリパーゼは、飲食物の劣化や異臭を発生させる原因となり、また皮膚常在菌産生リパーゼは、ニキビや皮膚炎などの皮膚疾患や体臭の原因となり得るものである。
また、高脂肪食品を摂取した場合、膵リパーゼの働きで脂質が分解され、それが体内に吸収された後、再合成されエネルギー源となる。その際、血中のトリグリセリド(TG)量が増加し、高脂血症や脂肪肝を誘発したり、脂質代謝異常になったりする。また、脂質が分解され体内に吸収されたにも関わらず、エネルギーとして消費されない場合、余剰TGが脂肪細胞に蓄積されて肥満になる。
【0003】
そこで、飲食物の品質保持や異臭発生抑制、ニキビや皮膚炎の予防、生活習慣病の予防を図るべく、現在までに様々なリパーゼ阻害剤が開発されてきた。
例えば、ヒノキチオールを有効成分として含むリパーゼ阻害剤(特許文献1)、キダチキンバイ抽出物、タコノキ属植物抽出物、マウンテンブルーベリーなどの果実やニガリを含むリパーゼ阻害剤(特許文献2)、クローブのエタノール抽出物を含むリパーゼ阻害剤(特許文献3)、サボンソウ又はウコギを含むリパーゼ阻害剤(特許文献4)などが知られている。
【0004】
しかしながら、現状において、リパーゼ阻害剤の安全性や阻害効果、安定確保など全ての面において満足を得られるリパーゼ阻害剤は少ないのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3832871号公報
【特許文献2】特開2007−145753号公報
【特許文献3】特許第3559482号公報
【特許文献4】特開2006−348054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記状況に鑑み、本発明は、天然物に由来し人体に対する安全性が高く、かつ、リパーゼ阻害効果に優れているリパーゼ阻害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、キナ酸ジエステル誘導体がリパーゼ阻害活性能を有するという知見を得て本発明を完成した。
すなわち、本発明は、キナ酸ジエステル誘導体を有効成分としてリパーゼ阻害剤を提供できるというものである。
【0008】
ここで、キナ酸ジエステル誘導体とは、下記化学式(I)で表される物質であり、式中、R1〜3のいずれか1つが水素原子、他はそれぞれ独立にシナモイル基、クマロイル基、カフェオイル基またはフェルロイル基で表されるものである。上記キナ酸ジエステル誘導体は、ジカフェオイルキナ酸、ジクマロイルキナ酸、ジフェルロイルキナ酸、クマロイルカフェオイルキナ酸、クマロイルフェルロイルキナ酸、カフェオイルフェルロイルキナ酸から選択されることが好ましい。
キナ酸ジエステル誘導体は、様々な植物に含まれている。
【0009】
【化1】

【0010】
また、本発明のリパーゼ阻害剤の有効成分は、ジカフェオイルキナ酸(diCQA)が好ましく、diCQAの中でも更に好ましくは、3,4−ジカフェオイルキナ酸(3,4−diCQA)である。
リパーゼ阻害効果を有することが既知である5−カフェオイルキナ酸(5−CQA)のリパーゼ阻害効果と比べて、diCQAのリパーゼ阻害効果は2倍以上であり、3,4−diCQAのリパーゼ阻害効果は5倍以上である。
【0011】
上記の本発明のリパーゼ阻害剤は、天然物由来であり人体に対する安全性が高く、生活習慣予防剤、食品添加物、化粧品、医薬組成品として好適に利用できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のリパーゼ阻害剤は、上述の如く、天然物に由来するものであるため人体に対する安全性が高く、かつ、リパーゼ阻害効果に優れている。そのため、飲食品として日常的に摂取することにより、脂質の体内吸収を抑制して、肥満や高脂血症を予防することができる。また、微生物リパーゼに起因する飲食品、化粧品中の劣化を抑制することができる。さらに、皮膚常在菌産生リパーゼによる体臭、皮膚疾患を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】リパーゼ阻害率を示すグラフ
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更が可能である。
【0015】
上述した如く、キナ酸ジエステル誘導体は、様々な植物に含まれている。特に、アカネ科植物に属するコーヒー生豆は、キナ酸ジエステル誘導体の含有量が5〜10%程度、多いものでは含有量が10%を越えるため、キナ酸ジエステル誘導体を得るための原材料として好適である。
そのため、以下の実施例では、コーヒー生豆を用いてキナ酸ジエステル誘導体を調製している。
【実施例1】
【0016】
(被験物質の精製)
キナ酸ジエステル誘導体は、コーヒー生豆を用いて調製した。すなわちコーヒー生豆を粉砕後、超臨界抽出(CO,45MPa,70℃)、アルコール抽出(60%エタノール,50℃,1時間)し、抽出液を減圧濃縮した。この濃縮液をスプレードライ(吹付け時温度180℃)により乾固したコーヒー生豆抽出物を調製した。
【0017】
次に、同抽出物を用いてTOYOPEARL HW‐40F(東ソー社製)カラムクロマトグラフィーを行った。カラム内径5.5cm、高さ25cm、流速は1mL/minで溶出した。
はじめに0.05%酢酸(v/v)を用いて溶出し、モノカフェオイルキナ酸及びモノフェルロイルキナ酸画分を得た。続いて、ジカフェオイルキナ酸を、メタノールの50〜100%(v/v)グラジエントにより溶出し、ジカフェオイルキナ酸画分を得た。
【0018】
得られたモノカフェオイルキナ酸及びモノフェルロイルキナ酸画分、ジカフェオイルキナ酸画分は、分取HPLC PLC‐561(ジーエルサイエンス社製)により、目的のピークを分取し、5‐カフェオイルキナ酸(5‐CQA)、3,4‐ジカフェオイルキナ酸(3,4‐diCQA)、3,5‐ジカフェオイルキナ酸(3,5‐diCQA)、4,5‐ジカフェオイルキナ酸(4,5‐diCQA)を精製した。
【0019】
以下に分離条件を記す。
・カラム:Inertsil
ODS‐3 250X19mm i.d.(ジーエルサイエンス社製)
・カラム温度:40℃
・移動相:溶媒A(0.2%酢酸中20%メタノール)及び溶媒B(メタノール)
・検出:UV 326nm
・流速:15mL/min
【0020】
カフェオイルフェルロイルキナ酸(CFQA)は、上記ジカフェオイルキナ酸画分から、さらにTOYOPEARL HW‐40F カラムクロマトグラフィーを用いて50%エタノール(v/v)にて目的画分を溶出し、分取HPLCにより上記と同様の分離条件で単離、精製した。
【0021】
(リパーゼ阻害評価方法)
トリオレイン(ナカライテスク社製)80mg、レシチン(ナカライテスク社製)10mg、タウロコール酸ナトリウム(ナカライテスク社製)5mgに9mLの0.1M
HEPES緩衝液(pH7.0)を加え、超音波処理をして基質溶液とした。この基質溶液40μLに多段階に濃度を振った被験物質40μLを加え、37℃で30分インキュベートした。次いで、15,000単位/mLのブタ膵臓由来リパーゼ(EPC社製)20μLを加えて、さらに37℃で30分インキュベートした。この際生じた遊離脂肪酸をACS・ACOD法により測定した。
【0022】
すなわち、アシル−CoAシンターゼにより遊離脂肪酸から生成したアシル−CoAをアシル−CoAオキシダーゼで酸化し、同時に生成される過酸化水素とペルオキシダーゼにより縮合したMEHAと4−アミノアンチピリンの発色を、マイクロプレートリーダー(コロナ社製)を用いて550nmで測定し、その値からオレイン酸換算での遊離脂肪酸量を算出し、さらに下記式(1)からリパーゼ阻害率(%)を算出した。算出結果を図1に示す。
【0023】
【数1】

【0024】
さらに、各被験物質についてそれぞれIC50を求めた。ここで、統計処理はDunnettのC検定を用いて行い、p<0.05にて各群間の統計学的有意差を、異符号を用いて表した。結果を下記表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
上記表1に示す結果によれば、5‐カフェオイルキナ酸(5‐CQA)のリパーゼ阻害活性(IC50)が3.39mMであったのに対し、キナ酸ジエステル誘導体(3,4‐diCQA、3,5‐diCQA、4,5‐diCQA及びCFQA)のIC50は0.54〜1.57mMであり、5‐CQAの約2.2〜6.3倍のリパーゼ阻害効果が認められた。
キナ酸ジエステル誘導体間では、ジカフェオイルキナ酸に強いリパーゼ阻害効果が認められ、さらには、その中でも3,4‐diCQAに顕著に強いリパーゼ阻害効果が認められたのである。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明のリパーゼ阻害剤は、生活習慣予防剤、食品添加物、化粧品、医薬組成品として有用である。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
キナ酸ジエステル誘導体を有効成分とするリパーゼ阻害剤。
【請求項2】
前記有効成分が、ジカフェオイルキナ酸、ジクマロイルキナ酸、ジフェルロイルキナ酸、クマロイルカフェオイルキナ酸、クマロイルフェルロイルキナ酸、カフェオイルフェルロイルキナ酸の少なくとも一種であることを特徴とする請求項1のリパーゼ阻害剤。
【請求項3】
前記有効成分が、ジカフェオイルキナ酸であることを特徴とする請求項1のリパーゼ阻害剤。
【請求項4】
前記有効成分が、3,4−ジカフェオイルキナ酸であることを特徴とする請求項1のリパーゼ阻害剤。
【請求項5】
前記ジカフェオイルキナ酸のリパーゼ阻害効果は、5−カフェオイルキナ酸のリパーゼ阻害効果の2倍以上であることを特徴とする請求項3のリパーゼ阻害剤。
【請求項6】
前記3,4−ジカフェオイルキナ酸のリパーゼ阻害効果が、5−カフェオイルキナ酸のリパーゼ阻害効果の5倍以上であることを特徴とする請求項4のリパーゼ阻害剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のリパーゼ阻害剤を含有してなる生活習慣予防剤。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載のリパーゼ阻害剤を含有してなる食品添加物。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれかに記載のリパーゼ阻害剤を含有してなる化粧品。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれかに記載のリパーゼ阻害剤を含有してなる医薬組成品。



【図1】
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【公開番号】特開2011−207799(P2011−207799A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76329(P2010−76329)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(390006600)ユーシーシー上島珈琲株式会社 (28)
【Fターム(参考)】