説明

リパーゼ阻害剤

【課題】長期間継続的に服用しても安全かつ効果的な、リパーゼ阻害剤を提供すること。
【解決手段】モッカ、フクボンシ、オンジ、カントンキンセンソウ、ジチョウ、ソウオウ、シンイ、インチンコウ、キョウカツ、カッコウ、ガイヨウ、ソボク、ホコツシ及びシソヨウからなる群から選ばれる1種又は2種以上を配合することを特徴とするリパーゼ阻害剤。本発明に係る生薬は優れたリパーゼ阻害作用を有することから、高脂血症、肥満等のリパーゼ由来の疾患を治療又は予防するための医薬品、食品等に利用可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長期間服用しても安全で有効なリパーゼ阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣がその発症・進行に影響を及ぼすとされている生活習慣病が注目されている。先進諸国においては、食習慣、運動習慣との関連が大きいとされる肥満、高脂血症、インスリン非依存型糖尿病(II型糖尿病)、高血圧などの増加が国民の健康維持に支障をきたし、生活の質の低下を招くばかりでなく、国民医療費の急激な増加を引き起こすなど、大きな社会問題となってきている。
【0003】
膵臓から分泌されるリパーゼ(膵リパーゼ)は消化管における脂質の消化酵素である。食事により摂取された脂質のうち、トリグリセライドは膵リパーゼによって脂肪酸とモノグリセライドに分解されて小腸から吸収される。膵リパーゼの活性を阻害する組成物は、消化管からの脂質吸収を阻害するのみではなく、体内の脂質蓄積を抑制して高脂血症及び/又は肥満の予防又は改善に有効であると考えられる(非特許文献1)。
【0004】
天然物由来のリパーゼ阻害剤としては、阿仙薬、グアバの葉、メドウスゥイートの葉の溶媒抽出物を配合したリパ−ゼ阻害剤(特許文献1)、レモングラス、オールスパイス、シナモン、クローブの植物又はその抽出物を有効成分とするリパーゼ阻害剤(特許文献2)、アルファルファ抽出物、苦丁茶抽出物、金銀花抽出物、ペパーミント抽出物、チョウジ抽出物、セイヨウキズタ抽出物、オリーブ抽出物及びラフマ茶抽出物を有効成分とするリパーゼ阻害剤(特許文献3)などが開示されている。
【0005】
モッカ(木瓜)は、バラ科のボケ(Chaenomeles speciosa)の成熟果実を横割りもしくは縦割りして乾燥したもの、又はカリン(Pseudocydonia sinensis)の成熟果実を2縦割して乾燥したものなどがあり、鎮咳、鎮痛及び利水薬としての用途が知られている(非特許文献2)。
【0006】
フクボンシ(覆盆子)は、バラ科のゴショイチゴ(Rubus chingii)の未成熟果実、クマイチゴ(R. crataegifolius)の果実、トックリイチゴ(R. coreanus)の果実及びカラナワシロキイチゴ(R. parvifolius)の果実を乾燥したものであり、霍乱弧菌の生長抑制作用があり、強壮及び強精薬としての用途が知られている(非特許文献3)。また、ゴショイチゴ、トックリイチゴから抽出されたGODタイプのエラジタンニンに糖質分解酵素阻害作用が知られており(特許文献4)、血糖値の上昇抑制や肥満防止の用途が開示されている。
【0007】
インヨウカク(淫羊カク)は、メギ科のホザキノイカリソウ(Epimedium sagittatum)、ヤチマタイカリソウ(E. grandiflorum)などEpimedium属植物の全草又は葉を乾燥したものであり、強精及び強壮薬としての用途が知られている(非特許文献4)。
【0008】
オンジ(遠志)は、ヒメハギ科のイトヒメハギ(Polygala tenuifolia)の根もしくは根皮を乾燥したものであり、唾液及び気管支粘膜分泌物の増加作用や子宮収縮及び筋緊張作用があり、鎮静、去痰及び抗炎症薬としての用途が知られている(非特許文献5)。
【0009】
カントンキンセンソウ(広東金銭草)は、マメ科のDesmodium styracifoliumの全草を乾燥したものであり、利胆作用が知られており、胆嚢結石、黄疸性肝炎及び尿道結石などの治療に応用されている(非特許文献6)。
【0010】
ジチョウ(地丁)は、スミレ科のスミレ(Viola mandshurica)又はコスミレ(V. japonica)などスミレ属植物の全草を乾燥したもの(紫花地丁)、マメ科のイヌゲンゲ(Amblytropis multiflora)の根あるいは根をつけた全草を乾燥したもの(甜地丁)、ケシ科のCorydalis bungeanaの全草を乾燥したもの(苦地丁)、リンドウ科のGentiana loureiriiの全草を乾燥したもの(華南地丁)、ヒメハギ科のヒメハギ(Polygala japonica)の全草を乾燥したもの(竹葉地丁)、又はノボタン科のヒメノボタン(Osbeckia chinensis)の全草を乾燥したもの(紫地丁)であり、抗菌作用が知られており、解毒、抗炎症及び鎮痛薬として用いられている(非特許文献7)。
【0011】
ソウオウ(桑黄)は、サルノコシカケ科のコフキサルノコシカケ(Elfvingia applanata)、又はキコブタケ科のキコブタケ(Phellinus igniarius)の子実体を乾燥したものであり、駆オ血及び止血薬としての用途が知られている(非特許文献8)。
【0012】
シンイ(辛夷)は、モクレン科のMagnolia biondii、シモクレン(M. liliflora)又はタムシバ(M. salicifolia)などの花蕾を乾燥したものであり、骨格筋収縮作用、降圧作用又は抗菌作用等があり、鎮静及び鎮痛薬としての用途が知られている(非特許文献9)。
【0013】
インチンコウ(茵チン蒿)は、キク科のカワラヨモギ(Artemisia capillaris)の幼苗、花穂又は帯花枝葉を乾燥したもの、同Artemisia属の幼苗を乾燥したもの、又はイワヨモギ(A. iwayomogi)の茎葉を乾燥したものであり、利胆作用、腸管や子宮の運動抑制作用、又は殺菌作用が知られており、消炎性利尿及び利胆薬として用いられる(非特許文献10)。
【0014】
キョウカツ(羌活)は、セリ科のNotopterygium incisum、N. forbesii又はN. forbesii var. oviformeの根茎を乾燥したもの、チョウセンオニウド(Ostericum koreanum)又はニオイウド(O. grosseserratum)の根と根茎を乾燥したもの、シシウド(Angelica pubescens)の根又は根茎を乾燥したもの、又はウコギ科のウド(Aralia cordata)の根を乾燥したものであり、鎮痛、鎮痙及び新陳代謝賦活薬としての用途が知られている(非特許文献11)。
【0015】
カッコウ(カッ香)は、シソ科のパチョリ(Pogostemon cablin)の全草又は葉を乾燥したもの、又はカワミドリ(Agastache rugosa)の全草を乾燥したものであり、抗菌作用が知られており、芳香性健胃薬及び発表薬として用いられる(非特許文献12)。
【0016】
ガイヨウ(艾葉)は、キク科のArtemisia argyi、ヨモギ(A. princeps)、A. lavandulaefolia又はオオヨモギ(A. montana)などの全草又は葉を乾燥したものであり、収斂性止血及び鎮痛薬としての用途が知られている(非特許文献13)。
【0017】
ソボク(蘇木)は、マメ科のスホウ(Caesalpinia sappan)の心材を乾燥したものであり、心臓及び血管収縮作用、嘔吐作用、瀉下作用、催眠作用などが知られており、駆オ血、抗炎症、通経及び鎮痛薬として用いられる(非特許文献14)。
【0018】
ホコツシ(補骨脂)はマメ科のオランダビユ(Psoralea corylifolia)の成熟種子を乾燥したものであり、強壮薬としての用途が知られている(非特許文献15)。
【0019】
シソヨウ(紫蘇葉)はシソ科のチリメンジソ(Perilla frutescens)の葉を乾燥したものであり、発汗、解熱、鎮咳、鎮痛薬又は魚肉などの中毒に解毒薬として用いることが知られている(非特許文献16)。
【0020】
しかし、これらの天然物にはリパーゼ阻害作用及びこれに基づく肥満、高脂血症に対する作用が知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2000-103741
【特許文献2】特開2001-120237
【特許文献3】特開2003-26585
【特許文献4】特開平9-176019
【特許文献5】特開平10-287575
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】http://wwwsoc.nii.ac.jp/jasso/topics/pdf/topics7_33.pdf 「肥満研究」V0l.7 No.3 p112-114 2001
【非特許文献2】和漢薬百科図鑑[I]、p.193-194、1993
【非特許文献3】和漢薬百科図鑑[I]、p.326-327、1993
【非特許文献4】和漢薬百科図鑑[II]、p.48-50、1994
【非特許文献5】和漢薬百科図鑑[I]、p.173-174、1993
【非特許文献6】和漢薬百科図鑑[II]、p.28-30、1994
【非特許文献7】和漢薬百科図鑑[II]、p.4-6、1994
【非特許文献8】和漢薬百科図鑑[II]、p.244-247、1994
【非特許文献9】和漢薬百科図鑑[II]、p.125-127、1994
【非特許文献10】和漢薬百科図鑑[II]、p.38-41、1994
【非特許文献11】和漢薬百科図鑑[I]、p.89-91、1993
【非特許文献12】和漢薬百科図鑑[II]、p.58-60、1994
【非特許文献13】和漢薬百科図鑑[II]、p.79-80、1994
【非特許文献14】和漢薬百科図鑑[II]、p.184-186、1994
【非特許文献15】和漢薬百科図鑑[I]、p.222、1993
【非特許文献16】和漢薬百科図鑑[I]、p.279-281、1993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明の目的は、長期間継続的に服用しても安全かつ効果的な、高脂血症、肥満等のリパーゼ由来の疾患を予防又は改善するための薬剤又は食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ある種の生薬又はそのエキスが優れたリパーゼ阻害活性を有すること、及び遺伝的肥満マウスの血清脂質濃度の上昇を抑制することを見出し、本発明を完成した。
【0025】
すなわち、本発明は、モッカ、フクボンシ、オンジ、カントンキンセンソウ、ジチョウ、ソウオウ、シンイ、インチンコウ、キョウカツ、カッコウ、ガイヨウ、ソボク、ホコツシ及びシソヨウからなる群から選ばれる1種又は2種以上を配合することを特徴とするリパーゼ阻害剤である。
【0026】
また、他の本発明は、モッカ、カントンキンセンソウ、ジチョウ、ソウオウ、シンイ、インチンコウ、キョウカツ、カッコウ、ガイヨウ、ソボク、ホコツシ及びシソヨウからなる群から選ばれる1種又は2種以上を配合することを特徴とする肥満の予防又は改善剤である。
【0027】
本発明に係るモッカ、フクボンシ、オンジ、カントンキンセンソウ、ジチョウ、ソウオウ、シンイ、インチンコウ、キョウカツ、カッコウ、ガイヨウ、ソボク、ホコツシ及びシソヨウは、そのまま生薬末として、また、水、極性溶媒、それらの混合溶媒などで抽出したエキスとして使用することができるが、水とアルコールを等量混合した溶媒を用いて抽出したエキスが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係る生薬は、リパーゼ阻害作用に基づく脂質の吸収阻害に有効であることから肥満及び高脂血症の予防又は改善に有効である。
【0029】
本発明により、過食など脂肪類の過剰摂取による血清脂質の上昇、体内脂質の蓄積を予防又は改善でき、肥満、高脂血症等の生活習慣病を予防あるいは改善できる安全性の高い薬剤あるいは食品の提供が可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の各生薬エキスについてのリパーゼ活性阻害率を示した図であり、各縦軸に阻害率、各横軸に濃度を示した。
【図2】本発明の各生薬エキスについてのリパーゼ活性阻害率を示した図であり、各縦軸に阻害率、各横軸に濃度を示した。
【図3】本発明の各生薬エキスについてのob/obマウスの血清脂質上昇に対する作用を示した図であり、各縦軸に血清トリグリセライド濃度、血清遊離脂肪酸濃度又は血清総コレステロール濃度、各横軸に生薬名を示した。また、図中の##は正常群と対照群間でt検定したときのp値が0.01以下を表しており、*または**は対照群と生薬エキス群間でt検定したときのp値がそれぞれ0.05以下または0.01以下を表している。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明で用いる生薬成分は、単品又は混合して用いることができる。
本発明のリパーゼ阻害剤の投与量は、年齢、性別などを考慮して適宜増減できるが、通常成人で1日、原生薬換算量として100mg〜50gの範囲で用いることができ、好ましくは、500mg〜30gである。
【0032】
本発明は、発明の効果を損なわない質的及び量的範囲で、ビタミン、キサンチン誘導体、アミノ酸、賦形剤、pH調製剤、清涼化剤、懸濁化剤、消泡剤、粘稠剤、溶解補助剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、抗酸化剤、コーティング剤、着色剤、矯味矯臭剤、界面活性剤、可塑剤、香料などを配合して、常法により、液剤、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、ドライシロップ剤、チュアブル錠、経粘膜剤などの経口又は非経口製剤とすることができる。
【実施例】
【0033】
以下に実施例及び試験例を挙げ、本発明をより詳しく説明する。
実施例
モッカを細切後、10倍量の50%エタノールを加え、沸騰後約80℃で30分間ジムロート冷却管を用いて還流抽出し、濾過後エバポレーターを用いてエタノールを留去し、さらに、水分含量が30〜65%程度になるよう濃縮を行うことにより、エキスを得た。
【0034】
なお、フクボンシ、インヨウカク、オンジ、カントンキンセンソウ、ジチョウ、ソウオウ、シンイ、インチンコウ、キョウカツ、カッコウ、ガイヨウ、ソボク、ホコツシ及びシソヨウについても同様の抽出法で抽出しエキスを製造した。
【0035】
試験例1(リパーゼ阻害作用の測定)
基質溶液(0.2 mM 4-methylumbelliferyl oleate,シグマ社)50μlに実施例で得た各生薬エキス(2.5% DMSOで溶解)25μL及び酵素溶液(100U/mL pancreatic lipase,TypeVI-S from porcine pancreas,シグマ社)25μlを添加した。37℃で15分間反応させた後、0.1M塩酸(国産化学社)150μL及び0.1Mクエン酸ナトリウム(和光純薬工業社)25μLを加え、励起波長320nm、蛍光波長450 nmにおける蛍光を測定した。なお、各生薬エキスは最終濃度として12.5、25、50及び100μg/mLの各濃度で添加した。
結果を表1、図1及び図2に示した。阻害率は下記式にて算出した。
【0036】
阻害率(%)={1-(Es-Esblank)/(Ec-Ecblank)}×100
Es:サンプルの蛍光強度
Esblank:サンプルブランクの蛍光強度
Ec:対照の蛍光強度
Ecblank:対照ブランクの蛍光強度
【0037】
【表1】

【0038】
試験例2(遺伝的肥満マウスの血清脂質上昇抑制作用の測定)
ob/obマウス(6週齢、雄性、日本チャールスリバー社)に実施例で得たソボクエキスを300mg/kg(乾燥エキス換算)の用量で1日1回8週間経口投与した。最終投与後、18〜20時間絶食した。マウスから血液を採取し、遠心分離(3000rpm、20℃、15分)により血清を分離した。血清中のトリグリセライド濃度、遊離脂肪酸濃度及び総コレステロール濃度は、トリグリセライドE−テストワコー、NEFAC−テストワコー及びコレステロールE−テストワコー(いずれも和光純薬工業社)を用いて定量した。
【0039】
結果を表2および図3(図3−1〜図3−3)に示した。
表2及び図3から明らかなように、ソボクはob/obマウスの血清脂質上昇を有意に抑制し、高脂血症や肥満を予防または改善することが明らかになった。
【0040】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明に係る生薬は、優れたリパーゼ阻害作用を有することから、高脂血症、肥満等のリパーゼ由来の疾患を予防又は改善するための医薬品、食品等に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モッカ、フクボンシ、オンジ、カントンキンセンソウ、ジチョウ、ソウオウ、シンイ、インチンコウ、キョウカツ、カッコウ、ガイヨウ、ソボク、ホコツシ及びシソヨウからなる群から選ばれる1種又は2種以上を配合することを特徴とするリパーゼ阻害剤。
【請求項2】
高脂血症の予防又は改善剤である請求項1記載のリパーゼ阻害剤。
【請求項3】
高脂血症が高トリグリセライド血症である請求項2記載のリパーゼ阻害剤。
【請求項4】
モッカ、カントンキンセンソウ、ジチョウ、ソウオウ、シンイ、インチンコウ、キョウカツ、カッコウ、ガイヨウ、ソボク、ホコツシ及びシソヨウからなる群から選ばれる1種又は2種以上を配合することを特徴とする肥満の予防又は改善剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−6975(P2012−6975A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206870(P2011−206870)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【分割の表示】特願2005−111714(P2005−111714)の分割
【原出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】