説明

リフロー処理設備の抵抗加熱装置の運転方法

【課題】抵抗加熱装置を有する既設設備に誘導加熱装置を増設し抵抗加熱装置と併用するリフロー処理設備の抵抗加熱装置の運転方法を提供する。
【解決手段】電気錫めっき鋼板11を抵抗加熱装置14で直接抵抗加熱して錫を溶融させた後、電気錫めっき鋼板11をクエンチしてリフロー処理する既設設備に、抵抗加熱装置14と併用して電気錫めっき鋼板11を加熱する誘導加熱装置17を抵抗加熱装置14の対となる通電ロール12、13間でクエンチ槽15の直上流側に新たに増設するリフロー処理設備10の誘導加熱装置17増設後の抵抗加熱装置14の印加電圧V’を、既設設備で抵抗加熱装置を運転する際の印加電圧Vに、0.9以上で1.1以下の係数αと誘導加熱条件を含む係数Kを掛けて算出される制御電圧範囲の値に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗加熱装置で電気錫めっき鋼板を加熱してリフロー処理する既設設備に、抵抗加熱装置と併用する誘導加熱装置を新たに増設するリフロー処理設備の抵抗加熱装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気錫めっき工程で得られる電気錫めっき鋼板の錫層は、そのままでは粗面で光沢のない多孔質であり、鋼板に対する錫層の密着強度は弱く、耐蝕性および半田性(半田と錫層との濡れ性や密着性)にも劣る。そこで、電気錫めっき鋼板の錫層を溶融して表面を滑らかにし金属光沢を与えるとともに、錫層と鋼板との界面部に錫−鉄系の合金相層を形成させて鋼板に対する錫の密着強度を増大させるリフロー処理が施されている。また、リフロー処理における鋼板の加熱方法には、鋼板に電圧を印加して電流を流し鋼板を加熱する抵抗加熱法と、誘導電流を用いて鋼板を加熱する誘導加熱法の2種類の方法がある。
誘導加熱法は、抵抗加熱法に比べて急速加熱が可能であるとともに加熱制御性がよいという特性を有するため、形成する合金層量の制御性向上や木目模様対策を目的として、抵抗加熱法を採用したリフロー処理の設備に対しても、電気錫めっき鋼板の温度が錫の融点に到達する位置の付近に誘導加熱装置を配置し、抵抗加熱法と誘導加熱法を併用して電気錫めっき鋼板を加熱することが行なわれている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−256145号公報
【特許文献2】特開平6−228790号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、抵抗加熱法と誘導加熱法を併用した場合、誘導加熱による加熱分だけ抵抗加熱による加熱分を削減しなければならず、更に、誘導加熱を開始する位置により、電気錫めっき鋼板の温度が錫の融点に到達してからクエンチされるまでの時間も変化する。このため、抵抗加熱と誘導加熱の併用を前提としたリフロー処理設備では、例えば、誘導加熱を開始する位置と誘導加熱条件(誘導加熱による電気錫めっき鋼板の温度上昇量、昇温速度等)を設定して、抵抗加熱条件を新たに設定し直すことが一般に行なわれている。
【0005】
しかしながら、抵抗加熱条件を新たに求めるには、処理中の電気錫めっき鋼板からの放熱量、電気錫めっき鋼板の搬送経路を構成している支持ロールに電気錫めっき鋼板が接触することによる抜熱量等の不確定条件を試運転調整および操業を通じて定量的に決定して、理論的に求まる抵抗加熱条件を修正しなければならず、多くの時間を要するという問題がある。また、不確定条件はリフロー処理ライン毎に異なるので、不確定条件は適用しようとするリフロー処理ライン毎に決定せねばならないという問題もある。更に、抵抗加熱と誘導加熱を併用する場合の抵抗加熱条件でリフロー処理ラインを運用していると、抵抗加熱法と誘導加熱法を併用することで問題が発生したり、操業条件により従来の抵抗加熱のみを使用したリフロー処理を行なう場合、直ちに対応できないという問題が生じる。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、抵抗加熱装置を有する既設設備に誘導加熱装置を増設し、抵抗加熱装置と誘導加熱装置を併用するリフロー処理設備の抵抗加熱装置の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的に沿う本発明に係るリフロー処理設備の抵抗加熱装置の運転方法は、電気錫めっき鋼板を抵抗加熱装置で直接抵抗加熱して錫を溶融させた後、該電気錫めっき鋼板をクエンチしてリフロー処理する既設設備に、前記抵抗加熱装置と併用して前記電気錫めっき鋼板を加熱する誘導加熱装置をクエンチ槽の直上流側に新たに増設したリフロー処理設備の抵抗加熱装置の運転方法において、
前記誘導加熱装置増設後の前記抵抗加熱装置の印加電圧V’を、前記既設設備で該抵抗加熱装置を運転する際の印加電圧Vに、0.9以上で1.1以下の係数αと下記式で求めた係数Kを掛けて算出される制御電圧範囲の値に設定する。
K={(T232−TIN−ΔT)/(TVOUT−TIN)}1/2(L/L1/2
ここで、T232は錫の融点、TINは既設設備で抵抗加熱装置の入側通電ロールを通過する際の電気錫めっき鋼板の温度、ΔTは電気錫めっき鋼板が誘導加熱装置で加熱を開始されてから錫の融点に達するまでに上昇した温度、TVOUTは既設設備で電気錫めっき鋼板がクエンチ槽に浸漬される直前の温度、Lは抵抗加熱装置の入側通電ロールを通過する位置とクエンチ槽の浸漬直前の位置との間の電気錫めっき鋼板の長さ、Lは誘導加熱装置内で電気錫めっき鋼板が錫の融点温度に達する位置と抵抗加熱装置の入側通電ロールを通過する位置との間の電気錫めっき鋼板の長さである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載のリフロー処理設備の抵抗加熱装置の運転方法においては、係数αは数値定数、係数Kは定数(T232)、既設設備の操業条件(TIN、TVOUT、L)、および誘導加熱装置で決める誘導加熱条件(ΔT、L)で構成されるので、誘導加熱装置増設後の抵抗加熱装置の印加電圧Vを制御電圧範囲の値に設定することで、誘導加熱装置増設後の抵抗加熱装置を、既設設備の抵抗加熱装置を運転する際の条件に基づいて運転することができる。このため、αおよびKをそれぞれ1に設定することで、既設設備の抵抗加熱装置の運転を再現することができ、抵抗加熱法と誘導加熱法を併用することで問題が発生したり、操業条件により従来の抵抗加熱のみを使用したリフロー処理が必要になった際、容易に対応することができる。
また、既設設備の操業から判明している印加電圧Vに基づいて、増設後の印加電圧V’の制御電圧範囲を設定することで、電気錫めっき鋼板からの放熱、電気錫めっき鋼板と支持ロールの接触による抜熱等のリフロー処理ライン毎に固有の不確定条件を折り込むことができ、誘導加熱装置の増設による熱流出の変動分は係数αで吸収することができ、誘導加熱装置増設後の抵抗加熱装置の運転条件を容易に決められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の一実施の形態に係るリフロー処理設備の抵抗加熱装置の運転方法を適用するリフロー処理設備の説明図、図2は抵抗加熱装置と誘導加熱装置を併用して電気錫めっき鋼板を加熱する際の温度変化を示す説明図である。
【0010】
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係るリフロー処理設備の抵抗加熱装置の運転方法を適用するリフロー処理設備10は、入側に設けられ搬送された電気錫めっき鋼板11を受け入れる入側通電ロール12、出側に設けられ入側通電ロール12と対となる出側通電ロール13、および図示しない制御部を備えた抵抗加熱装置14を有している。更に、リフロー処理設備10は、出側通電ロール13の上流側に設けられたクエンチ槽の一例である水槽15と、水槽15の直上流側に設けられた誘導加熱部16および図示しない制御部を備えた誘導加熱装置17とを有している。
【0011】
ここで、入側通電ロール12と誘導加熱部16の間には、電気錫めっき鋼板11を支持して移動方向を変える第1、第2の支持ロール18、19が設けられ、水槽15内には貯留された水20の中に進入した電気錫めっき鋼板11の移動方向を変えて水槽15から排出させるシンクロール21が設けられている。更に、出側通電ロール13の下流側には、抵抗加熱装置14を通過した処理済の電気錫めっき鋼板11を支持して進行方向を変える第3の支持ロール22が設けられている。
【0012】
このような構成とすることにより、入側通電ロール12と出側通電ロール13間に電圧をかけた状態で電気錫めっき鋼板11を通過させると、通過中の電気錫めっき鋼板11において入側通電ロール12と出側通電ロール13で支持される領域に電流を流すことができ、入側通電ロール12を通過する位置から水槽15の水20に浸漬する直前位置まで移動する間に電気錫めっき鋼板11を直接抵抗加熱して電気錫めっき鋼板11の温度を徐々に上げることができる。そして、誘導加熱装置17を稼動させることで、電気錫めっき鋼板11が誘導加熱部16を通過する間に誘導加熱により電気錫めっき鋼板11を更に加熱して錫の融点(232℃)以上の温度に短時間で到達させることができる。
【0013】
誘導加熱装置17を併用することで、電気錫めっき鋼板11の温度を短時間で錫の融点以上の温度にできるので、リフロー処理後の電気錫めっき鋼板11の表面に木目模様が発生するのが防止できる。また、電気錫めっき鋼板11の温度が錫の融点に到達する誘導加熱部16内での位置が推定できるので、電気錫めっき鋼板11の温度が錫の融点に到達してから水槽15中の水20の中に進入する(クエンチされる)までの時間を調整でき、形成される合金層量を制御することができる。
【0014】
続いて、本発明の一実施の形態に係るリフロー処理設備の抵抗加熱装置の運転方法について説明する。
電気錫めっき鋼板11が入側通電ロール12を通過する位置から水槽15の浸漬直前位置まで移動する間に電気錫めっき鋼板11に与えられる熱量Qは、電気錫めっき鋼板11に流れる電流をI、入側通電ロール12通過位置から水槽15浸漬直前位置間の電気錫めっき鋼板11の電気抵抗をR、電気錫めっき鋼板11が入側通電ロール12通過位置から水槽15浸漬直前位置まで移動するのに要する時間をtとすると、(1)式として求まる。
=0.24IRt ・・・・・(1)
【0015】
ここで、入側通電ロール12と出側通電ロール13間に加える印加電圧をV、電気錫めっき鋼板11の搬送速度をs、入側通電ロール12通過位置から水槽15浸漬直前位置までの間の電気錫めっき鋼板11の長さをL、入側通電ロール12と出側通電ロール13間の電気錫めっき鋼板の長さをLとすると、入側通電ロール12から水槽15浸漬直前位置の間の電圧は、VL/Lとなるので、L/Lをβと置くと、I=βV/R、t=L/s、の関係が成立するので、(1)式は(2)式に変形される。
=0.24βL/(Rs) ・・・・・(2)
そして、電気錫めっき鋼板11の搬送速度sは一定となるので、0.24/sを定数Nで表し、βV/Rは入側通電ロール12と出側通電ロール13間に投入した投入電力量Pと等価なので、(2)式は(3)式として表される。
=βPLN ・・・・・(3)
【0016】
一方、電気錫めっき鋼板11が吸収する熱量Qは、入側通電ロール12から水槽15の入口位置(水槽15浸漬直前位置)の間の電気錫めっき鋼板11の質量をm、電気錫めっき鋼板11の比熱をc、電気錫めっき鋼板11の昇温量をΔUとすると、(4)式で表される。
=mcΔU ・・・・・(4)
そして、入側通電ロール12通過位置から水槽15浸漬直前位置の間に抵抗加熱で与えられる熱量Qで電気錫めっき鋼板11がΔUだけ温度上昇したとすると、Q=Qの関係が成立するので、(3)式および(4)式から(5)式が得られる。
βPLN=mcΔU ・・・・・(5)
従って、N/mcを定数Aとすると、昇温量ΔUは(6)式として求まる。
ΔU=βAPL ・・・・・(6)
【0017】
既設設備、すなわち、電気錫めっき鋼板11を抵抗加熱装置14だけで加熱して錫を溶融させた後、水槽15中の水20の中に電気錫めっき鋼板11を進入させてクエンチするリフロー処理の設備においては、図2に示すように、入側通電ロール12を通過する際の電気錫めっき鋼板11の温度をTIN、電気錫めっき鋼板11が水槽15に浸漬する直前位置の温度をTVOUTとした場合、電気錫めっき鋼板11の温度が錫の融点T232に到達するまでに投入される投入電力量Pは、(6)式からT232−TIN=βAPL(T232−TIN)/(TVOUT−TIN)の関係が成立するので、(7)式として求まる。
P=(TVOUT−TIN)/(βAL) ・・・・(7)
【0018】
ここで、投入電力量Pには、処理中の電気錫めっき鋼板11からの放熱量、電気錫めっき鋼板11の搬送経路を構成している各支持ロール18、19に電気錫めっき鋼板11が接触することによる抜熱量等の不確定条件が考慮されている。また、電気錫めっき鋼板11が入側通電ロール12を通過してから水槽15に浸漬する直前までの電気錫めっき鋼板11の温度上昇量は、電気錫めっき鋼板11の入側通電ロール12通過位置からの移動距離に比例すると仮定している。
【0019】
一方、増設した誘導加熱装置17の誘導加熱部16の加熱により錫の融点に達するまでに上昇した温度をΔT、誘導加熱装置17の誘導加熱部16内で誘導加熱部16の出口から距離Iだけ入口側の位置で、電気錫めっき鋼板11の温度を錫の融点に到達させるために抵抗加熱装置14から投入する電力量(すなわち、誘導加熱装置17を増設した後の抵抗加熱装置14から投入される電力量)をP’、誘導加熱部16内で電気錫めっき鋼板11が錫の融点温度に達する位置と入側通電ロール12の通過位置との間の電気錫めっき鋼板11の長さをLとすると、(6)式からT232−TIN−ΔT=βAP’Lの関係が成立し、これから投入電力量P’は(8)式として求まる。
P’=(T232−TIN−ΔT)/(βAL)・・・・・(8)
【0020】
従って、(7)式、(8)式から既設設備時の抵抗加熱装置14からの投入電力量Pと、誘導加熱装置17増設後の抵抗加熱装置14からの投入電力量P’とは(9)式に示す関係を有する。
P’/P=(L/L)・(T232−TIN−ΔT)/(TVOUT−TIN)・・・(9)
そして、既設設備時の抵抗加熱装置14から投入電力量Pが得られるように入側通電ロール12と出側通電ロール13間に加える印加電圧をV、誘導加熱装置17増設後の抵抗加熱装置14から投入電力量P’が得られるように入側通電ロール12と出側通電ロール13間に加える印加電圧をWとすると、P=βV/R、P’=βW/Rの関係を用いて、(9)式は
/V=(L/L)・(T232−TIN−ΔT)/(TVOUT−TIN)・・(10)
となる。(10)式から印加電圧Wを、既設設備時の抵抗加熱装置14の入側通電ロール12と出側通電ロール13間に加える印加電圧Vを用いて求めると(11)式が得られる。
W=(L/L1/2・{(T232−TIN−ΔT)/(TVOUT−TIN)}1/2
・・・・・(11)
【0021】
ここで、(11)式中で、T232は定数、TIN、TVOUT、およびLは既設設備の操業条件で決まる定数、ΔTおよびLは誘導加熱条件として設定する値なので、(L/L1/2・{(T232−TIN−ΔT)/(TVOUT−TIN)}1/2は、抵抗加熱装置14と誘導加熱装置17を併用するリフロー処理設備10の操業状態を示す係数となる。このため、この操業状態を表す係数をKとすると、Kは(12)式となり、(11)式はW=KVとなる。
K=(L/L1/2・{(T232−TIN−ΔT)/(TVOUT−TIN)}1/2
・ ・・・・(12)
【0022】
一方、誘導加熱装置17の増設による電気錫めっき鋼板11の加熱状況の変化から電気錫めっき鋼板11に新たに熱流出が生じると、この熱流出の変動分を反映させて誘導加熱装置17増設後の抵抗加熱装置14に加える印加電圧を設定する必要がある。ここで、誘導加熱部16で加熱する電気錫めっき鋼板11の領域は、抵抗加熱装置14で加熱する電気錫めっき鋼板11の領域と比べて狭いので、誘導加熱装置17の増設による熱流出の変動分(電力換算した値)は、抵抗加熱装置14で与えられる投入電力量P’と比較して小さい、例えば±10%以内の変動と考えられる。このため、誘導加熱装置17の増設による熱流出の変動分を反映して誘導加熱装置17から発生させる実際の電力量は、誘導加熱装置17増設後の抵抗加熱装置14からの投入電力量P’に0.9以上で1.1以下の係数αを掛け表すことができる。
【0023】
従って、誘導加熱装置17増設後の抵抗加熱装置14の印加電圧V’は、既設設備で抵抗加熱装置14を運転する際の印加電圧Vに、係数αと係数Kを掛けて算出される制御電圧範囲の値に設定すればよいことになる。
【0024】
誘導加熱装置17増設後の抵抗加熱装置14の印加電圧V’をαKVで求めることで、抵抗加熱中の電気錫めっき鋼板11からの放熱、各支持ロール18、19に電気錫めっき鋼板11が接触することによる抜熱等のリフロー処理設備10に固有の不確定条件はVを介して折り込むことができ、誘導加熱条件はKを介して反映させることができる。そして、誘導加熱装置17の増設による熱流出の変動分を反映させる係数αは、既設設備時の抵抗加熱装置14の入側通電ロール12と出側通電ロール13間に加える印加電圧Vを基準にして、この印加電圧Vを、例えば、手動により調整することで設定される。
【実施例】
【0025】
図2に示すように、抵抗加熱装置の抵抗加熱装置の入側通電ロールを通過する位置とクエンチ槽の浸漬直前の位置との間の電気錫めっき鋼板の長さLが18.6m、電気錫めっき鋼板が入側通電ロールを通過した際の電気錫めっき鋼板の温度TINが60℃、電気錫めっき鋼板が水槽に浸漬する直前の電気錫めっき鋼板の温度TVOUTが252℃と設定されてリフロー処理を行なう既設設備に、誘導加熱装置を増設した。ここで、誘導加熱装置の誘導加熱部の長さLc(電気錫めっき鋼板を加熱する領域の長さ)は0.65mであり、誘導加熱部の出口から上流側に図った距離Iが0.2mとなる位置で電気錫めっき鋼板の温度が錫の融点232℃に到達するようにした。また、誘導加熱部の出口は、クエンチ槽から上流側にX逆上った位置に配置した。なお、Xは、2mを基準距離とし誘導加熱部の移動調整代をxとして、X=x+2である。これによって、水槽に蓄えられた水に進入する直前の電気錫めっき鋼板の温度を調整できる。
【0026】
(12)式からKを求めると、K={18.6/(18.6−0.2−2−x)}1/2・{(232−60−ΔT)/(252−60)}1/2となる。
ここで、ΔTは誘導加熱装置による電気錫めっき鋼板の温度上昇量ΔTと、ΔT=ΔT(Lc−I)/Lcの関係があるので、ΔT=(9/13)ΔTとなる。従って、Kを求める上式を整理すると、{(248.4−ΔT)/277}1/2{18.6/(16.4−x)}1/2が得られる。
従って、誘導加熱装置増設後の抵抗加熱装置の印加電圧V’は、
V’=α(248.4−ΔT)/277}1/2{18.6/(16.4−x)}1/2
と求まる。
【0027】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載した構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。
例えば、係数αを手動調整するようにしたが、誘導加熱部を通過した電気錫めっき鋼板の温度を測定し、この測定温度に基づいてαを自動的に調整するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】リフロー処理設備の説明図である。
【図2】抵抗加熱装置と誘導加熱装置を併用して電気錫めっき鋼板を加熱する際の温度変化を示す説明図である。
【符号の説明】
【0029】
10:リフロー処理設備、11:電気錫めっき鋼板、12:入側通電ロール、13:出側通電ロール、14:抵抗加熱装置、15:水槽、16:誘導加熱部、17:誘導加熱装置、18:第1の支持ロール、19:第2の支持ロール、20:水、21:シンクロール、22:第3の支持ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気錫めっき鋼板を抵抗加熱装置で直接抵抗加熱して錫を溶融させた後、該電気錫めっき鋼板をクエンチしてリフロー処理する既設設備に、前記抵抗加熱装置と併用して前記電気錫めっき鋼板を加熱する誘導加熱装置をクエンチ槽の直上流側に新たに増設したリフロー処理設備の抵抗加熱装置の運転方法において、
前記誘導加熱装置増設後の前記抵抗加熱装置の印加電圧V’を、前記既設設備で該抵抗加熱装置を運転する際の印加電圧Vに、0.9以上で1.1以下の係数αと下記式で求めた係数Kを掛けて算出される制御電圧範囲の値に設定することを特徴とするリフロー処理設備の抵抗加熱装置の運転方法。
K={(T232−TIN−ΔT)/(TVOUT−TIN)}1/2(L/L1/2
ここで、T232は錫の融点、TINは既設設備で抵抗加熱装置の入側通電ロールを通過する際の電気錫めっき鋼板の温度、ΔTは電気錫めっき鋼板が誘導加熱装置で加熱を開始されてから錫の融点に達するまでに上昇した温度、TVOUTは既設設備で電気錫めっき鋼板がクエンチ槽に浸漬される直前の温度、Lは抵抗加熱装置の入側通電ロールを通過する位置とクエンチ槽の浸漬直前の位置との間の電気錫めっき鋼板の長さ、Lは誘導加熱装置内で電気錫めっき鋼板が錫の融点温度に達する位置と抵抗加熱装置の入側通電ロールを通過する位置との間の電気錫めっき鋼板の長さである。

【図1】
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【図2】
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