説明

リブ隔壁を備えるフラットパネルディスプレイ用の背面ガラス基板を製造する方法

【課題】1つの画素セルサイズの1辺が0.1mmを下回るリブ隔壁を備えるフラットパネルディスプレイ用の背面ガラス基板を精度良く製造する方法を提供する。
【解決手段】フリットガラスをリブ付背面ガラス基板のリブ隔壁パターン形状を転写した形状を備える金属型枠を用いて成形し、成型フリットガラスを常圧焼成/減圧焼成/常圧焼成の順番で少なくとも1回の減圧焼成を実施してリブ付背面ガラス基板形状物とし、リブ付背面ガラス基板形状物を常圧下で調質処理してリブ付背面ガラス基板を製造する方法を採用する。焼成と調質処理とは、非酸化性ガス置換雰囲気であれば、金属型枠にフリットガラスを充填したまま実施することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、リブ隔壁を備えるフラットパネルディスプレイ用の背面ガラス基板を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の画像表示装置は、省スペースで配置の自由度が大きいフラットパネルディスプレイが主流になっている。そして同時に、高精細度テレビ(High Definition television:以下、「HDTV」と称する。)規格で画像を観賞する機会も増加し、高精細化に対応した機種に対する需要が大きくなっている。そこで、家庭用テレビの分野では、HDTV規格の画像をフルスペックで表示可能な大画面を備える、液晶ディスプレイパネル(以下、「LCDP」と称する。)や、プラズマディスプレイパネル(以下、「PDP」と称する。)が主流となってきている。
【0003】
一方、家庭へのパーソナルコンピューター(以下、「PC」と称する。)の普及により、PCでテレビ画像やDVD画像を鑑賞可能とするため、PCモニターにも高精細画像の表示機能が求められている。ところが、HDTV規格の画像をフルスペックで表示するためには、RGB3色の画素セルで構成される1画素を、縦1080ピクセル×横1920ピクセル構成で、1つのディスプレイパネル上に作り込む必要がある。即ち、画面サイズが小さくなるほど、小さな画素の作り込みが必要となる。したがって、現状では、画素の小型化が比較的容易なLCDPが、HDTV規格のフルスペック表示が可能な比較的小型のフラットパネルディスプレイの主流となっている。しかし、PDP等についても、小型化と高精細化に対応すべく、コストアップを招かずに精度良くリブ隔壁を形成できる、背面ガラス基板の製造方法が提案されている。
【0004】
特許文献1には、バリアリブ(リブ隔壁と同義)製造用型の製作方法において、バリアリブの製造コストの低減及び加工性の向上を図る技術が開示されている。具体的には、基材上にバリアリブを形成するための間隔で型材を設け、この基材及び型材の上方からニッケルめっき処理を施し、その後型材を基材から分離することで、この基材上に製造するバリアリブに対応した位置に、ニッケルめっきによって複数の溝部が形成されたバリアリブ用の型を製作している。そして、特許文献1で製造しようとするバリアリブは、背景技術に記載のバリアリブの同等品であり、リブの断面形状におけるトップ幅が0.04mm、ボトム幅が0.08mm、そして、ピッチが0.15mm程度である。即ち、バリアリブに囲まれた1つの画素セルは、約0.1mm×0.1mmサイズの略正方形である。この時、バリアリブ材料にはガラスとセラミックス粒子に紫外線硬化樹脂を混合したものを用い、バリアリブ用の型に充填したバリアリブ材料に紫外線を照射して硬化・収縮させ、型抜きを容易にしている。そして、型抜き後にバリアリブ材料を焼成して有機材料を燃焼除去し、バリアリブ付ガラス基板としている。
【0005】
また、特許文献2には、表面積の大きい、複雑なリブ形状を有する格子状リブなどの微細構造体の製造に有用であり、母型として使用するマスター金型からの剥離が容易であり、かつ母型の高い寸法精度を維持しつつ、欠損、破壊、変形などの欠陥のない突起パターン、特に格子状突起パターンを形成することができる転写成形用の型を提供する技術が開示されている。具体的には、高い弾性率を有する硬質材料からなるベースと、ベースによって裏面を支持された、微細構造体の微細構造パターンに対応する形状及び寸法を有するポジ型突起パターンを表面に備えた転写パターン層とを有する転写成形用の型であり、転写パターン層を2液型室温硬化性シリコンゴムで構成している。そして、実施例によれば、上述のバリアリブ転写成形用の型の成形用金型として、縦400mm×横700mm×厚さ5mmの真鍮板を用い、約300μmのピッチで、約210μmの深さ(リブの高さに相当)、約110μmの溝底部幅(リブの頂部幅に相当)及び約200μmの溝頂部幅(リブの底部幅に相当)の1845本の縦溝(縦リブに対応)と、約510μmのピッチで、約210μmの深さ(リブの高さに相当)、約40μmの溝底部幅(リブの頂部幅に相当)及び約200μmの溝頂部幅(リブの底部幅に相当)の608本の横溝(横リブに対応)を製作している。即ち、バリアリブに囲まれた1つの画素セルは、約0.1mm×0.3mmサイズの略長方形である。この時、バリアリブ材料にはガラスとセラミックス粒子に光硬化性樹脂を混合したペーストを用い、ガラス基板上に塗布したペーストにバリアリブ用の型を押し当てて型にペーストを充填し、バリアリブ材料に青色光を照射して硬化させて、バリアリブの形状を形成している。そして、型抜き後に焼成して有機材料を燃焼除去し、バリアリブ付ガラス基板としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−61949号公報
【特許文献2】特開2005−193473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献に開示の技術で形成する1つの画素セルのサイズは、1辺の長さの下限が0.1mm程度である。そして、この下限長さは、PDPでプラズマを発生させるためには最低0.1mm×0.1mmの面積が必要であるという、現状技術の制約でもある。
【0008】
そして、特許文献1に開示の技術では、リブ隔壁製造用型であるニッケルめっきを形成するための型材(めっきマスク)として、感光性樹脂を使用している。すると、所望のリブ隔壁の高さ(現状では約0.2mm)を形成するための型材を作成するためには、少なくともリブ隔壁の高さと同等の厚さを備える感光性樹脂を使用することになる。しかし、感光性樹脂にリブ隔壁のパターンを焼き付けるために照射した紫外線等は、例え平行光線を用いても感光性樹脂中で散乱する。そのため、特許文献1の技術を用い、厚さ約0.2mmの感光性樹脂に矩形に近い断面形状を備える溝を形成することは困難である。そして、断面形状におけるトップ幅0.04mm及びボトム幅0.08mmを小さくすれば、形成される型の寸法や形状のバラツキが大きくなる。したがって、微細なリブ隔壁パターンの形状を精度良く作り込むことは困難な技術である。
【0009】
また、特許文献2に開示の技術は、金型から転写してリブ隔壁転写成形用の型を作成しているため、リブ隔壁転写成形用の型の形状精度には優れている。そして、特許文献2のリブ隔壁転写成形用の型は、リブ隔壁となるガラスペーストの型離れを良くするため、軟質材(実施例ではシリコンゴム)を用いているが、形成するリブ隔壁のピッチを狭くすると、リブ隔壁を形成する部分に相当する、成形用の型が備える溝も狭くなる。すると、光硬化させたガラスペーストの型離れが悪くなり、成形用の型を分離する際にガラスペーストに加わる横向きの応力が大きくなり、硬化したガラスペーストには変形が生じてしまう。即ち、特許文献2に開示の技術も、微細なリブ隔壁パターンの形状を精度良く作り込むことは困難な技術である。
【0010】
また、上述した2つの技術ではバリアリブ成型材料に、ガラスとセラミックス粒子に光硬化性樹脂を混合したペーストなどを用いている。そして、このバリアリブ成型材料を成形用の型と組み合わせてガラス基板上でリブ隔壁の形状を整え、その後樹脂に光を照射して硬化させ、成形用の型から取り外してから焼成して有機物を除去している。即ち、最終的に得られるリブ隔壁の寸法は、成形用の型の寸法よりも小さくなることが避けられない方法である。更に、有機物除去工程の焼成温度が高くなると、リブ隔壁先端部のガラスが流動化して変形するおそれもある。したがって、光硬化性樹脂等の有機物をバインダーとして用いる方法では、バリアリブが小さくなるほど寸法精度の管理が困難になる。
【0011】
しかし、より小さな面積のPDPでプラズマを発生させることを目的として、マイクロプラズマ技術の開発への取り組みがなされている。一方、PDPよりも小さな面積での発光が可能な技術として、電界放射型ディスプレイ(Field Emission Display:以下、「FED」と称する。)も開発途上にある。即ち、PDPやFEDを小型化するために、現状では最小の画素セルサイズであるとしている0.1mm×0.1mmよりも小さなサイズでリブ隔壁を精度良く形成できるリブ隔壁の製造方法に対する要求が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、鋭意研究の結果、本件発明者等は、以下に示すリブ付背面ガラス基板を製造する方法を採用すれば、高精度を維持しながらリブ隔壁の微細化を達成できることに想到したのである。
【0013】
本件発明に係るリブ付背面ガラス基板の製造方法: 本件発明に係るリブ付背面ガラス基板の製造方法は、以下の工程を含むことを特徴としている。
【0014】
フリットガラス成形工程: リブ付背面ガラス基板が備えるリブ隔壁のパターン形状を転写した形状を備える金属型枠を用いてフリットガラスを成形し、成型フリットガラスを得る工程。
焼成工程: 常圧下の焼成炉内で成型フリットガラスを焼成温度まで昇温し、焼成温度と圧力とを維持して成型フリットガラスを焼成する常圧焼成を施し、その後、焼成温度を維持したまま減圧した焼成炉内で、成型フリットガラスを焼成する減圧焼成を施した後に常圧焼成を施す組み合わせの複合焼成を少なくとも1回実施してリブ付背面ガラス基板形状物を得る工程。
調質処理工程: 常圧下の焼成炉内でリブ付背面ガラス基板形状物に調質処理を施してリブ付背面ガラス基板を得る工程。
【0015】
本件発明に係るリブ付背面ガラス基板の製造方法においては、焼成工程では、焼成温度をフリットガラスの軟化温度+20℃以上の温度とすることも好ましい。
【0016】
本件発明に係るリブ付背面ガラス基板の製造方法においては、焼成工程では、焼成温度に達するまでの成型フリットガラスの昇温速度を1℃/分〜30℃/分として焼成することも好ましい。
【0017】
本件発明に係るリブ付背面ガラス基板の製造方法においては、焼成工程では、常圧焼成時の圧力を大気圧以上とし、減圧焼成時の圧力を76Torr以下として焼成することも好ましい。
【0018】
本件発明に係るリブ付背面ガラス基板の製造方法においては、焼成工程では、常圧焼成と減圧焼成との合計焼成時間を10分間〜120分間とし、1回あたり5分間〜30分間の減圧焼成を1回〜10回実施することも好ましい。
【0019】
本件発明に係るリブ付背面ガラス基板の製造方法においては、調質処理工程では、調質処理温度を、フリットガラスの転位温度+(1℃〜50℃)として10分間〜300分間粘性を維持することも好ましい。
【0020】
本件発明に係るリブ付背面ガラス基板の製造方法においては、調質処理工程では、リブ付背面ガラス基板形状物の温度を、焼成温度から調質処理温度までの冷却速度を1℃/分以下として冷却し、その後は調質処理温度で所定時間粘性を維持し、更に、調質処理温度から30℃までの冷却速度を1℃/分以下として冷却することも好ましい。
【0021】
本件発明に係るリブ付背面ガラス基板の製造方法においては、焼成工程と調質処理工程では焼成炉内を非酸化性ガス置換雰囲気とすることも好ましい。
【0022】
本件発明に係るリブ付背面ガラス基板の製造方法においては、焼成工程と調質処理工程では、フリットガラスを金属型枠に充填したまま焼成と調質処理とを施すことも好ましい。
【0023】
本件発明に係るリブ付背面ガラス基板の製造方法においては、フリットガラス成形工程では、前記金属型枠が備える線膨張係数の80%以下の線膨張係数を備えるフリットガラスを用いて成型フリットガラスを成形することも好ましい。
【0024】
本件発明に係るリブ付背面ガラス基板の製造方法においては、金属型枠には、以下の工程を含む金属型枠作成方法を用いて作成したニッケル型枠を用いることも好ましい。
【0025】
マスター金型準備工程: リブ隔壁パターン形状を転写した形状を備えるマスター金型を準備する工程。
ニッケル鋳型作成工程: マスター金型を用い、リブ隔壁のパターン形状を備えるニッケル鋳型を作成する工程。
ニッケル型枠作成工程: ニッケル鋳型を用い、リブ隔壁のパターン形状を転写した形状を備えるニッケル型枠を作成する工程。
【発明の効果】
【0026】
金属型枠を用いて成形した成型フリットガラスを、常圧焼成後に減圧焼成と常圧焼成とを組み合わせた複合焼成を少なくとも1回実施してから調質処理してリブ付背面ガラス基板を製造する方法を採用すれば、同じ金属型枠を繰り返し用い、1つの画素セルサイズの1辺が0.1mmを大きく下回る、微細なピッチのリブ付背面ガラス基板を、精度良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例1の焼成工程と調質処理工程で設定した温度プロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本件発明に係るリブ付背面ガラス基板の製造形態: 本件発明に係るリブ付背面ガラス基板の製造方法は、フリットガラス成形工程と焼成工程と調質処理工程とを含む製造方法である。以下、工程毎に説明する。
【0029】
フリットガラス成形工程は、リブ付背面ガラス基板が備えるリブ隔壁のパターン形状を転写した形状を備える金属型枠を用いてフリットガラスを成形し、成型フリットガラスを得る工程である。型枠が金属製であれば、金属型枠の作成には各種の精密加工技術を用いることができるため、同じ形状を繰り返し精度良く作り込むことが可能になる。そして、この工程で用いるフリットガラスは、成型フリットガラスの形状を維持するために、少量のバインダー成分を含むものとしても良い。しかし、バインダー成分量は、少ないほど焼成後の寸法収縮は小さくなるため好ましい。また、成型フリットガラスは、ガラス基板上に形成することもできるが、ガラス基板相当分等を同時に成形しても構わない。この様に、金属型枠を用いてフリットガラスを成形すれば、縦1080ピクセル×横1920ピクセル構成の画素を1つのディスプレイパネル上に作り込んでも、パネル内及びパネル間でのリブ形状のバラツキが小さいものとなる。そして、金属型枠にフリットガラスを充填する方法については特に制約はなく、均一な充填状態が得られるように定法を用いて実施すれば良い。
【0030】
焼成工程は、常圧下の焼成炉内で成型フリットガラスを焼成温度まで昇温し、焼成温度と圧力とを維持して成型フリットガラスを焼成する常圧焼成を施し、その後、焼成温度を維持したまま減圧した焼成炉内で、成型フリットガラスを焼成する減圧焼成を施した後に常圧焼成を施す組み合わせの複合焼成を少なくとも1回実施して、リブ付背面ガラス基板形状物を得る工程である。この焼成工程では、常圧下で成型フリットガラスを焼成温度まで昇温し、軟化・流動化したフリットガラスを、減圧下で焼成することによって焼成中のフリットガラスから脱気し、ボイドを減少させる。ところが、焼成炉内を充満しているガスの質量が少ない減圧下で焼成を行うと、焼成炉内の熱容量が小さくなるため、フリットガラスに十分な熱量を与えることが困難になる。そこで、本件発明では、常圧焼成と減圧焼成とを交互に実施する。常圧焼成の間に必要な熱量をフリットガラスに熱伝達して流動性を維持し、減圧焼成で脱気すれば、最終的には良好な焼成状態を得ることができる。その結果、ボイドが少なく、透明性が良好なリブ付背面ガラス基板形状物を得ることができる。この焼成工程では、焼成温度を一定に保ち、微量のガスを焼成炉内に連続注入しながら常圧焼成を実施し、減圧焼成では、その間だけ炉内ガスを吸引して減圧する方法を採用することもできる。
【0031】
そして、焼成工程では、焼成温度をフリットガラスの軟化温度+20℃以上の温度とする。焼成温度は、少なくとも軟化温度以上とすれば、成型フリットガラスを焼成してリブ付背面ガラス基板形状物とすることは可能である。ところが、軟化温度付近ではフリットガラスの流動化が不十分で、ボイドが残留したり、良好な融着状態が得られない場合がある。しかし、焼成温度をフリットガラスの軟化温度+20℃以上の温度とすれば、フリットガラスの流動が良好になるため、フリットガラスから脱気してボイドを減少させると同時に良好な融着状態を得ることができる。その結果、実用上十分な機械強度を備え、透明性が良好なリブ付背面ガラス基板を得ることができる。ここで、焼成温度の上限に制約はないが、あまりにも高温にすると、金属型枠から外して焼成する場合には、鋭角になるように設計したコーナー部等がフリットガラスの流動化により丸みを帯びてしまう現象が見られる。また、エネルギーの無駄遣いでもあるため、フリットガラスの軟化温度+100℃程度を上限温度に設定することが好ましい。尚、本件出願では、上述した焼成温度・調質処理温度等は焼成炉内の雰囲気温度としていることを断っておく。
【0032】
また、焼成工程では、焼成温度に達するまでの成型フリットガラスの昇温速度を1℃/分〜30℃/分とする。焼成温度に達するまでの成型フリットガラスの昇温速度が1℃/分を下回っても、その後の工程で異常は発生しないが、工業的な生産性が劣るため好ましくない。一方、焼成温度に達するまでの成型フリットガラスの昇温速度を30℃/分を超えて加熱すると、成型フリットガラス内の温度分布が大きくなり、成型フリットガラスを型枠から外した状態で焼成すると、部分的に過熱が発生して形状の維持が困難になったり、得られるリブ隔壁の形状バラツキが大きくなったりする場合があるため好ましくない。上記から、安定的した生産性と品質とを両立させるためには、焼成温度に達するまでの成型フリットガラスの昇温速度を5℃/分〜20℃/分とすることがより好ましい。
【0033】
また、焼成工程では、常圧焼成時の圧力を大気圧以上とし、減圧焼成時の圧力を76Torr以下として焼成する。ところで、上述したフリットガラス成形工程で得られる成型フリットガラスは、通常は大気圧下で成形することが多く、内部に空気を含んでいるものである。そして、焼成炉に投入する際に成型フリットガラスの内部と外部との気圧差が大きいと、空気の流れにより成型フリットガラスが変形する場合があるため好ましくない。したがって、常圧焼成では、少なくとも軟化温度に達するまでの昇温時の圧力は大気圧とする。一方、焼成温度に達すればフリットガラスの融着状態が得られているため、加圧状態として焼成炉内の熱容量を大きくすることもできる。そして、減圧焼成は、軟化したフリットガラスから脱気してボイドを減少させることを目的としているため、圧力は76Torr以下で低いほど脱気の効果は得られる。しかし、圧力が低すぎる場合には、前述のように、焼成炉内の熱容量が小さくなる。したがって、フリットガラスの流動化を良好な状態で維持し、10Torr程度の減圧下で所定時間脱気することが好ましい。
【0034】
更に、焼成工程では、常圧焼成と減圧焼成との合計焼成時間を10分間〜120分間とし、1回あたり5分間〜30分間の減圧焼成を1回〜10回実施する。常圧焼成と減圧焼成とのバランスと合計焼成時間とを最適に設定すれば、十分な脱気によってボイドの除去ができるため、実用上十分な機械強度を備え、透明性が良好なリブ付背面ガラス基板を得ることができる。しかし、常圧焼成と減圧焼成との合計焼成時間が10分間を下回ると、得られるリブ付背面ガラス基板形状物に供給熱量が不足した部分が存在し、フリットガラスの流動化が不十分な部位が存在してしまう場合がある。すると、流動化が不十分な部分には残留するボイドも多くなって脆弱となり、リブ付背面ガラス基板に必要な機械強度が保てなくなるため好ましくない。一方、常圧焼成と減圧焼成との合計焼成時間を120分間以上としても得られるリブ付背面ガラス基板形状物の温度均一性はそれ以上改善されず、エネルギーの無駄使いとなる。更に、鋭角形状部などが丸みを帯びる傾向が見られるようになるため好ましくない。
【0035】
そして、1回あたりの減圧焼成時間が5分間を下回ると、フリットガラスから十分に脱気できずにボイドが残存する場合があるため好ましくない。一方、1回あたりの減圧焼成時間を30分間を超えて実施すると、リブ付背面ガラス基板形状物の温度が低下する傾向が見られるようになり、フリットガラスから脱気してボイドを減少させる効果にも影響が出るため好ましくない。そして、減圧焼成は、焼成温度、減圧焼成圧力と時間などのバランスがフリットガラスとマッチングしていれば、合計焼成時間内に1回施せば良い場合もある。但し、リブ隔壁の厚さ、フリットガラスの軟化温度、そして軟化したフリットガラスの粘度等を考えると、合計時間内に5回程度の減圧焼成を施せば、脱気によるボイドの削減効果は飽和に達してしまう。したがって、ボイドを有効的に削減するためには、具体的に使用するフリットガラスの種類別に予め実験し、焼成温度、減圧焼成圧力、合計焼成時間と減圧焼成の時間と回数とを最適化しておけば、加工コストをミニマイズできるため好ましい。
【0036】
そして、焼成工程では焼成炉内を非酸化性ガス置換雰囲気として成型フリットガラスを焼成する。フリットガラスは、大気雰囲気中で焼成しても透明なガラスを得ることができるものである。しかし、フリットガラスを金属型枠に充填したまま焼成する場合があることを考えると、金属型枠の酸化を防止するためには、非酸化性ガス置換雰囲気で実施することが好ましい。また、非酸化性ガス置換雰囲気とする場合には、熱容量の大きな非酸化性ガスを用いると、熱伝達が良好になるためより好ましい。尚、本件出願では、「非酸化性ガス」の表示を、不活性元素ガスや窒素ガスなど、高温においても金属型枠を酸化することのないガスを総称する言葉として用いている。
【0037】
調質処理工程は、常圧下の焼成炉内でリブ付背面ガラス基板形状物に調質処理を施してリブ付背面ガラス基板を得る工程である。上述のように、焼成工程を経たリブ付背面ガラス基板形状物は、一旦流動状態となっているため、冷却過程で生じる温度ムラにより内部歪みが存在している。内部歪みが存在するリブ付背面ガラス基板形状物は、そのまま室温まで冷却するとクラックが入ったり変形したりすることになり、そこまでに至らなくても脆いものとなる。したがって、リブ付背面ガラス基板形状物には調質処理を施す。そして、常圧下で調質処理を施すと、対流伝熱により温度分布が小さな状態を維持しやすく、内部歪みが解放されやすいため好ましい。
【0038】
そして、調質処理工程では、調質処理温度を、前記フリットガラスの転位温度+(1℃〜50℃)として10分間〜300分間粘性を維持する。転位温度よりも低い温度での調質処理は、リブ付背面ガラス基板形状物を数日間単位で維持しても内部歪みを解放することは困難であるため好ましくない。一方、転位温度よりも50℃以上高い温度で調質処理を施すと、調質処理後の冷却過程で内部歪みが再度生じてしまうため好ましくない。したがって、調質処理温度は、粘性を維持するように、転位温度よりも高温側で、冷却時に内部歪みを生じにくい、(転位温度+2℃)〜(転位温度+10℃)程度の範囲とすれば処理時間を短くできるのでより好ましい。しかし、この好ましい温度で調質処理を施しても、維持時間が10分間を下回ると、リブ付背面ガラス基板形状物の全体の温度が均一になってからの維持時間が短すぎ、内部歪みの解放が十分にできない場合があるため好ましくない。一方、維持時間300分間を超えて調質処理を施しても品質面での不都合は発生しないが、生産性が低下し、温度を維持するために必要なエネルギーの無駄使いとなるため好ましくない。
【0039】
また、調質処理工程では、リブ付背面ガラス基板形状物の温度を、焼成温度から調質処理温度までの冷却速度を1℃/分以下として冷却し、その後は調質処理温度で所定時間粘性を維持し、更に、調質処理温度から30℃までの冷却速度を1℃/分以下として冷却する。ところで、長時間同一温度に維持しているリブ付背面ガラス基板形状物は、ほぼ均一な温度に加熱されているが、温度が変化している過程のリブ付背面ガラス基板形状物には温度分布が存在する。そして、30℃を超える温度から急激に室温まで冷却すると、最高温度部位と最低温度部位との温度差が大きくなり、クラックが発生する場合があるため好ましくない。
【0040】
しかし、冷却速度を1℃/分以下とすれば、温度差が小さな温度分布となり、クラックが発生しにくいため好ましい。また、リブ付背面ガラス基板形状物の温度が30℃以下になっていれば、室温との温度差は小さく、冷却が緩やかとなってクラックが発生することはない。更に、クラックの発生防止の観点からは、リブ付背面ガラス基板のサイズが大きくなるほど冷却速度を遅くすることが好ましい。例えば、40インチを超える画面サイズでは0.5℃/分程度とする等である。一方、冷却速度の下限については特に制限はなく、工業的な生産性と品質とを勘案して決定すれば良い。
【0041】
そして、調質処理工程では、焼成炉内を非酸化性ガス置換雰囲気としてリブ付背面ガラス基板形状物を調質処理する。調質処理を非酸化性ガス置換雰囲気で実施するのは、フリットガラスを金属型枠に充填したまま焼成した場合には、そのまま調質処理することを考慮している。したがって、焼成工程の説明と重複するので、ここでの説明は省略する。
【0042】
本件発明に係るリブ付背面ガラス基板の製造方法においては、焼成工程と調質処理工程では、フリットガラスを金属型枠に充填したまま焼成と調質処理とを施す。フリットガラスを金属型枠に充填したまま焼成と調質処理とを施すのであれば、バインダーとして有機物を用いる必要がない。そして、フリットガラスの焼成温度を高めに設定したり、焼成時間を長く設定すると、フリットガラスの流動量は大きくなる。この時、フリットガラスと金属型枠とが接触した状態を維持していると、得られるリブ付背面ガラス基板のリブ形状は金属型枠に沿った形状、即ち設計通りの形状となる。したがって、型離れの良好なフリットガラスと金属型枠との組み合わせを選択すれば、従来の製造方法では達成できなかった形状精度を備えるリブ隔壁を形成することができる。
【0043】
そして、フリットガラス成形工程では、前記金属型枠が備える線膨張係数の80%以下の線膨張係数を備えるフリットガラスを用いて成型フリットガラスを成形する。本来、このフリットガラス成形工程に投入するフリットガラスには特段の制限はなく、軟化温度、転移温度、焼成後の透明性や線膨張係数などを指標にして選定することができる。なお、ここではフリットガラスに限定して記載しているが、フリットガラスと同等の熱的特性を備えるガラス粉であれば同様の加工が可能であることを断っておく。しかし、フリットガラスを金属型枠に充填したまま焼成する場合には、調質処理後にリブ付背面ガラス基板を金属型枠から分離する操作が必要になる。この時の型離れの善し悪しは、リブ付背面ガラス基板と金属型枠との間の寸法差の大小、表面粗さや離型剤を使用するか否かで大きく変わってくる。これら型離れを良好なものとする要因として、型離れに必要な最小限の寸法差を確保するのであれば、焼成したフリットガラスの線膨張係数が型枠の作成に選定した金属の線膨張係数の80%以下とすることが好ましい。尚、上述の内容は、金属型枠が備える線膨張係数の80%を超える線膨張係数を備えるフリットガラスでは、金属型枠に充填したまま焼成することができないことを示すものではない。調質処理が終了した後にフリットガラスと金属型枠との間に離型剤を浸透させる方法等を用いれば、型離れが改善されることは上述の通りであり、目的に応じて最適な工法を選択することができる。
【0044】
本件発明に係るリブ付背面ガラス基板の製造方法においては、金属型枠には、以下の工程を含む金属型枠作成方法を用いて作成したニッケル型枠を用いる。ニッケルは表面に不働態膜を形成するために酸化の進行が緩やかであり、常温であれば大気中に保管しておいても繰り返し使用できる。また、ニッケル皮膜は、電解めっきと無電解めっきのいずれの手法を用いて形成してもつき廻り性が良好であり、狙いの表面形状を得やすいという特徴を備える。更に、ニッケルの表面にバリア層を形成して更にニッケルめっきを施し、ニッケルめっき層を剥離する技術も開発されており、モールド転写法等に活用されている。そのため、後述するマスター金型形状を精確に反映した金属型枠を得るのが容易であるため、ニッケルは精度の良い金属型枠を繰り返し低コストで作成する目的には最適な素材である。
【0045】
マスター金型準備工程では、リブ隔壁パターン形状を転写した形状を備えるマスター金型を準備する。マスター金型の製作には、精密金型の製造に用いる放電加工やマイクロマシンを用いる方法、微細加工に用いられるRIE(Reactive Ion Etching)やFIB(Focused Ion Beam)を用いる方法など、各種手法を用いることができる。例えば、RIEを用いて加工すれば、その加工精度は数十Åオーダーにすることも容易であるため、最終的に得られるリブ付背面ガラス基板の形状精度は従来比、飛躍的に向上したものとなる。また、マスター金型はニッケル鋳型の作成に用いるが、リブ付背面ガラス基板はニッケル鋳型を用いて作成するニッケル型枠を繰り返し使用するため、マスター金型を繰り返し頻繁に使用することはない。したがって、マスター金型は、実用上の支障が現れるまでの耐用年数が長く、製作費用面での制約は小さいものである。一方、マスター金型は必ずしも金属製である必要はなく、シリコンやガラスブロックを用いて製作することもでき、耐用期間次第では、エンジニアリングプラスチックスを用いて製作することもできる。
【0046】
ニッケル鋳型作成工程では、マスター金型を用い、リブ隔壁のパターン形状を備えるニッケル鋳型を作成する。このニッケル鋳型作成工程では、特開2005−120392号公報に開示されているメルテックス株式会社の技術を用いることができる。特開2005−120392号公報に開示の方法は、マスター金型の表面に離型剤膜を成膜するステップと、離型剤膜に無電解めっき用触媒を付与するステップと、無電解ニッケルめっきステップとニッケル電鋳ステップとで構成されている。
【0047】
具体的には、離型剤膜の成膜にはアミノ系シランカップリング剤を用い、以降のステップでは公知のニッケルめっき技術を適用できる。例えば、離型剤膜の成膜には、アミノ系シランカップリング剤として日本ユニカー(株)製A−1100(γ−プロピルトリエトキシシラン)を用い、10g/Lの水溶液に約2分間浸漬する。そして、無電解ニッケルめっき用の触媒付与ステップではメルテックス株式会社製メルプレートアクチベータ440を用い、2分間程度浸漬して水洗する。その後、無電解ニッケルめっきステップではメルテックス株式会社製メルプレートNI−867を70℃程度として約5分間浸漬してニッケルを析出させる。そして、ニッケル電鋳ステップでは、メルテックス株式会社製メルプレートEF−2201を用い、電流密度10A/dm程度で必要なニッケル皮膜厚さが得られるまで所定時間電解し、マスター金型から分離すればニッケル鋳型を得ることができる。
【0048】
ニッケル型枠作成工程では、上記ニッケル鋳型を用い、リブ隔壁のパターン形状を転写した形状を備えるニッケル型枠を作成する。このニッケル型枠作成工程は、上述したニッケル鋳型作成工程で用いたマスター金型に代えて、上記で作成したニッケル鋳型を使用する以外はニッケル鋳型作成工程と同様であり、説明が重複するため省略する。
【0049】
上述の工程で作成したニッケル型枠は、マスター金型の形状をほぼ忠実に再現しており、寸法の違いはあっても数nmレベルとなる。したがって、ニッケル型枠は、リブ付背面ガラス基板をほぼ理想形状に作り込むのに好適な金属型枠である。
【0050】
ところで、金属ニッケルは600℃付近で加熱すると機械強度の低下が見られるため、上記実施形態は、フラットパネルディスプレイ用背面ガラス基板の製造で一般的に用いられている、軟化温度が400℃前後の低融点フリットガラスを用いる場合を意識して説明している。しかし、ニッケル型枠をニッケル合金で作成すると、型枠の耐熱性が良好となる。例えば、リンの含有量を6%前後に調整したNi−P合金のニッケル型枠を作成し、一旦750℃付近で加熱すれば、機械強度が大きく、耐熱性に優れたニッケル型枠が得られる。したがって、ニッケル合金で作成したニッケル型枠を用いれば、低融点フリットガラスに限らず、軟化温度が650℃前後の、低温焼成ガラス基板用途やセラミックスパッケージ用途などで用いられるガラス粉(フリットガラス)を用いることもできることを断っておく。そして、高温焼成が可能になれば、フリットガラスの選択肢が増えることにより、ガラス基板の無鉛化の達成も容易になる。
【0051】
以下に実施例と比較例とを示し、本願発明をより具体的に説明する。尚、実施例及び比較例では、軟化温度、転移温度及び線膨張係数が異なる4種類のフリットガラスを選択してリブ付背面ガラス基板を作成した。
【実施例1】
【0052】
[ニッケル型枠の作成]
実施例1では、正方形のピッチが400μm(L/S=200μm/200μm)、高さが100μm、低面厚さが100μmのリブ隔壁を2mm×2mmの面積内に隣接配置したリブ付背面ガラス基板を作成した。ニッケル型枠のベースとなるマスター金型は、単結晶シリコンを素材に用い、RIEで加工して製作した。このマスター金型を用いてニッケル鋳型を作成する工程と、ニッケル鋳型を用いてニッケル型枠を作成する工程とでは、上述した特開2005−120392号公報に開示の実施例1の方法をそのまま適用し、型枠の底部厚さが50μmのニッケル型枠を作成した。そして、後に示す実施例2以降と比較例でもここで作成したニッケル型枠を繰り返し使用した。したがって、以降の実施例と比較例の説明では、ニッケル型枠に関する説明は重複するため省略する。
【0053】
[リブ付背面ガラス基板の作成]
実施例1では、フリットガラスに軟化温度が418℃、転移温度が348℃、線膨張係数(30℃−280℃)が97×10−7/℃の旭テクノガラス(株)製AF103を用い、フリットガラスをニッケル型枠に充填してそのまま室温で卓上真空・ガス置換炉(KDF−75:株式会社デンケン製)に投入した。その後、焼成炉の内部を窒素ガス置換雰囲気として1ml/秒の流量で窒素ガスを流入させながら大気圧を維持し、昇温速度10℃/分で焼成温度470℃まで昇温した。焼成温度に到達した後、[常圧焼成:10分間]/[減圧焼成:10分間]/[常圧焼成:10分間]/[減圧焼成:10分間]/[常圧焼成:10分間]の焼成を合計60分間施した。尚、上述した減圧焼成の時間は、窒素ガスを流入させたまま真空ポンプで排気し、焼成炉内の圧力が10Torr以下になってから維持した時間である。
【0054】
焼成が終わると、大気圧を維持したまま冷却速度1℃/分で調質処理温度350℃まで冷却した。調質処理温度に達した後は、調質処理温度を120分間維持して調質処理を施し、その後、冷却速度1℃/分で30℃以下まで冷却し、リブ付背面ガラス基板を作成した。得られたリブ付背面ガラス基板にはボイドは観察されず透明性は良好であり、クラックの発生もなく、金属型枠からの型離れも良好であった。使用したフリットガラスの特性を後の表1に、焼成後冷却までの試験条件を後の表2に、調質処理後の試験条件と作成したリブ付背面ガラス基板の評価結果とを後の表3に示す。
【実施例2】
【0055】
[リブ付背面ガラス基板の作成]
実施例2では、フリットガラスに軟化温度が340℃、転移温度が295℃、線膨張係数(30℃−300℃)が118×10−7/℃の旭テクノガラス(株)製T436を用い、実施例1と同様にしてフリットガラスをニッケル型枠に充填し、そのまま室温の焼成炉に投入した。その後の焼成工程と調質処理工程では、焼成温度を390℃、調質処理温度を300℃に設定した以外は実施例1と同様にしてリブ付背面ガラス基板を作成した。得られたリブ付背面ガラス基板は、実施例1で得られたリブ付背面ガラス基板同様ボイドは観察されず透明性は良好であり、クラックの発生もなく、金属型枠からの型離れも良好であった。使用したフリットガラスの特性を後の表1に、焼成後冷却までの試験条件を後の表2に、調質処理後の試験条件と作成したリブ付背面ガラス基板の評価結果とを後の表3に示す。
【実施例3】
【0056】
[リブ付背面ガラス基板の作成]
実施例3では、フリットガラスに軟化温度が365℃、転移温度が318℃、線膨張係数(30℃−300℃)が110×10−7/℃の旭テクノガラス(株)製T015を用い、実施例1と同様にしてフリットガラスをニッケル型枠に充填し、そのまま室温の焼成炉に投入した。その後の焼成工程と調質処理工程では、焼成温度を420℃、調質処理温度を320℃に設定した以外は実施例1と同様にしてリブ付背面ガラス基板を作成した。得られたリブ付背面ガラス基板は、実施例1で得られたリブ付背面ガラス基板同様ボイドは観察されず透明性は良好であり、クラックの発生もなく、金属型枠からの型離れも良好であった。使用したフリットガラスの特性を後の表1に、焼成〜焼成後冷却までの試験条件を後の表2に、調質処理後の試験条件と作成したリブ付背面ガラス基板の評価結果を後の表3に示す。
【比較例】
【0057】
〔比較例1〕
[リブ付背面ガラス基板の作成]
比較例1では、リブ付背面ガラス基板形状物を焼成温度から調質処理温度まで冷却する速度を10℃/分とした以外は、実施例1と同様にしてリブ付背面ガラス基板を作成した。得られたリブ付背面ガラス基板にはボイドは観察されず透明性は良好であった。しかし、クラックの発生があり、良好な仕上がり状態は得られなかった。使用したフリットガラスの特性を後の表1に、焼成〜焼成後冷却までの試験条件を後の表2に、調質処理後の試験条件と作成したリブ付背面ガラス基板の評価結果とを後の表3に示す。
【0058】
〔比較例2〕
[リブ付背面ガラス基板の作成]
比較例2では、フリットガラスに軟化温度が435℃、転移温度が356℃、線膨張係数(30℃−330℃)が125×10−7/℃の旭テクノガラス(株)製T214を用い、実施例1と同様にしてフリットガラスをニッケル型枠に充填し、そのまま室温の焼成炉に投入した。その後の焼成工程と調質処理工程では、焼成温度を490℃、減圧焼成圧力を100Torrとし、調質処理温度を360℃に設定した以外は実施例1と同様にしてリブ付背面ガラス基板を作成した。得られたリブ付背面ガラス基板の外観は、実施例1で得られたリブ付背面ガラス基板同様ボイドは観察されず透明性は良好であり、クラックの発生も見られなかった。しかし、得られたリブ付背面ガラス基板を金属型枠から分離することができなかった。使用したフリットガラスの特性を以下の表1に、焼成〜焼成後冷却までの試験条件を以下の表2に、調質処理後の試験条件と作成したリブ付背面ガラス基板の評価結果とを以下の表3に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
〔実施例1と比較例1との対比〕
実施例1では、軟化温度が418℃、転移温度が348℃、線膨張係数が97×10−7/℃のフリットガラスAF103を用い、良好なリブ付背面ガラス基板が得られている。これに対し、比較例1では、実施例1の条件の中で、焼成後の冷却速度を1℃/分から10℃/分に変更しただけでリブ付背面ガラス基板にクラックが発生している。この現象は、焼成温度から調質処理温度までの冷却速度10℃/分が速すぎたたために、実施例1と同じ条件で施した、転位温度+2℃での調質処理では内部歪みが開放されず、比較例1のリブ付背面ガラス基板に残留した内部歪みに起因してクラックが発生してしまったと考えられる。
【0063】
〔実施例1〜実施例3と比較例2との対比〕
表1に明らかなように、比較例2で用いたフリットガラスT214の軟化温度と転位温度は実施例と比較例を通じての最高温度である。しかし、試験条件を比較すると、焼成温度と軟化温度との温度差は実施例1〜実施例3では50℃〜55℃であるのに対して比較例2では55℃、調質処理温度と転移温度との温度差は実施例1〜実施例3では2℃〜5℃に対して比較例2では4℃であり、焼成温度と調質処理温度の条件設定はほぼ同等である。ところが、焼成温度を最も高く設定している比較例2では室温との温度差が大きく、室温まで冷却した後には得られたリブ付背面ガラス基板と金属型枠との寸法差も大きくなるはずの傾向を備えていても型離れの問題が発生している。
【0064】
そこで、用いたフリットガラスの線膨張係数に着目すると、実施例1〜実施例3の中で最大の線膨張係数を備えているフリットガラスは、T436であり線膨張係数は118×10−7/℃である。ところが、T214の線膨張係数は125×10−7/℃であり、T436よりも大きい値を備えている。そして、リブ付背面ガラス基板形状物を転移温度から室温(25℃)まで冷却すると、金属型枠とリブ付背面ガラス基板との間には、(転移温度−25)×(線膨張係数の差)の寸法差が生じることになる。そこで、それぞれの転移温度と線膨張係数と、ニッケルの線膨張係数148×10−7/℃とを用いて寸法差を計算すると、T214を用いた場合には0.0007613、T436を用いた場合には0.0008100であり、T214を用いて高温で調質処理しても、ニッケル型枠との寸法差は、T436を用いた場合よりも小さい。更に、冷却過程でニッケル型枠との寸法差が拡大してゆく速度は、上記線膨張係数の差に比例するため、T214を用いた場合にはT436を用いた場合の約3/4である。
【0065】
上述から、T214を用いた比較例2では、リブ付背面ガラス基板と金属型枠との間に寸法差が発生しにくいため、型離れが悪くなったと考えられる。そして、T214とT436の線膨張係数をニッケルの線膨張係数と比較すると、T214は約85%であり、T436は80%弱である。したがって、金属型枠にフリットガラスを充填したまま焼成・調質処理する場合のフリットガラスの選定にあたっては、金属型枠を構成する素材の線膨張係数の80%以下となるフリットガラスを選定するのが好ましいことが確認できた。また、減圧焼成圧力を100Torrに設定しても脱気不足に起因する外観不良が観察されていないため、焼成工程では、減圧焼成を76Torr以下に設定すれば、外観が良好なリブ付背面ガラス基板が得られることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本件発明に係る、金属型枠にフリットガラスを充填して成形し、成型フリットガラスを焼成後調質処理してリブ付背面ガラス基板を製造する方法を採用すれば、画素セルサイズが小さなリブ隔壁を備えるフラットパネルディスプレイ用のリブ付背面ガラス基板を繰り返し精度良く製造できる。更に、金属型枠としてモールド転写法を用いて作成したニッケル型枠を用い、フリットガラスをニッケル型枠に充填したままで焼成と調質処理とを施せば、リブ隔壁が微細であっても形状精度が良好なリブ付背面ガラス基板を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リブ隔壁を備えるフラットパネルディスプレイ用の背面ガラス基板(以下、「リブ付背面ガラス基板」と称する。)を製造する方法であって、以下の工程を含むことを特徴とするリブ付背面ガラス基板の製造方法。
フリットガラス成形工程: 前記リブ付背面ガラス基板が備えるリブ隔壁のパターン形状を転写した形状を備える金属型枠を用いてフリットガラスを成形し、成型フリットガラスを得る工程。
焼成工程: 常圧下の焼成炉内で前記成型フリットガラスを焼成温度まで昇温し、当該焼成温度と圧力とを維持して当該成型フリットガラスを焼成する常圧焼成を施し、その後、当該焼成温度を維持したまま減圧した当該焼成炉内で、当該成型フリットガラスを焼成する減圧焼成を施した後に当該常圧焼成を施す組み合わせの複合焼成を少なくとも1回実施してリブ付背面ガラス基板形状物を得る工程。
調質処理工程: 常圧下の前記焼成炉内で前記リブ付背面ガラス基板形状物に調質処理を施してリブ付背面ガラス基板を得る工程。
【請求項2】
前記焼成工程では、前記焼成温度を前記フリットガラスの軟化温度+20℃以上の温度とする請求項1に記載のリブ付背面ガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記焼成工程では、前記焼成温度に達するまでの成型フリットガラスの昇温速度を1℃/分〜30℃/分として焼成を施す請求項1又は請求項2のいずれかに記載のリブ付背面ガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記焼成工程では、前記常圧焼成時の圧力を大気圧以上とし、前記減圧焼成時の圧力を76Torr以下として焼成を施す請求項1〜請求項3のいずれかに記載のリブ付背面ガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記焼成工程では、前記常圧焼成と前記減圧焼成との合計焼成時間を10分間〜120分間とし、1回あたり5分間〜30分間の当該減圧焼成を1回〜10回実施する請求項1〜請求項4のいずれかに記載のリブ付背面ガラス基板の製造方法。
【請求項6】
前記調質処理工程では、前記調質処理温度を、前記フリットガラスの転位温度+(1℃〜50℃)として10分間〜300分間維持する請求項1〜請求項5のいずれかに記載のリブ付背面ガラス基板の製造方法。
【請求項7】
前記調質処理工程では、前記リブ付背面ガラス基板形状物の温度を、前記焼成温度から前記調質処理温度までの冷却速度を1℃/分以下として冷却し、その後は前記調質処理温度で所定時間維持し、更に、当該調質処理温度から30℃までの冷却速度を1℃/分以下として冷却する請求項1〜請求項6のいずれかに記載のリブ付背面ガラス基板の製造方法。
【請求項8】
前記焼成工程と前記調質処理工程では前記焼成炉内を非酸化性ガス置換雰囲気とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載のリブ付背面ガラス基板の製造方法。
【請求項9】
前記焼成工程と前記調質処理工程では、前記フリットガラスを前記金属型枠に充填したまま焼成と調質処理とを施す請求項1〜請求項8のいずれかに記載のリブ付背面ガラス基板の製造方法。
【請求項10】
前記フリットガラス成形工程では、前記金属型枠が備える線膨張係数の80%以下の線膨張係数を備えるフリットガラスを用いて成型フリットガラスを成形する請求項9に記載のリブ付背面ガラス基板の製造方法。
【請求項11】
前記金属型枠には、以下の工程を含むニッケル型枠の作成方法を用いて作成したニッケル型枠を用いる請求項1〜請求項10のいずれかに記載のリブ付背面ガラス基板の製造方法。
マスター金型準備工程: 前記リブ隔壁パターン形状を転写した形状を備えるマスター金型を準備する工程。
ニッケル鋳型作成工程: 前記マスター金型を用い、前記リブ隔壁のパターン形状を備えるニッケル鋳型を作成する工程。
ニッケル型枠作成工程: 前記ニッケル鋳型を用い、前記リブ隔壁のパターン形状を転写した形状を備えるニッケル型枠を作成する工程。

【図1】
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【公開番号】特開2011−57487(P2011−57487A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207166(P2009−207166)
【出願日】平成21年9月8日(2009.9.8)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【出願人】(593174641)メルテックス株式会社 (28)
【Fターム(参考)】