説明

リポキシゲナーゼ阻害剤

【課題】 アラキドン酸代謝に関与する5−リポキシゲナーゼおよび12−リポキシゲナーゼの優れた阻害作用を有し、アレルギー性疾患、炎症、さらには循環器系疾患や癌の転移などを予防および治療し得る天然物由来のリポキシゲナーゼ活性阻害剤を提供する。
【解決手段】 本発明のリポキシゲナーゼ阻害剤は、ルテオリン、クリソエリオール、ロスマリン酸、ロスマリン酸メチルエステルおよびアピゲニンから選ばれる1種または2種以上を含むエゴマ種子のアルコール抽出物を配合してなることを特徴とする。前記エゴマ種子は、脱脂エゴマ種子を用いるのが望ましい。前記エゴマ種子に代えて、シソ種子を用いてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リポキシゲナーゼ阻害剤に関し、例えば、アレルギー性疾患や炎症等を予防および治療する医薬品、医薬部外品、化粧品、あるいは食品素材等に適用されるものである。
【背景技術】
【0002】
必須脂肪酸であるアラキドン酸は、生体内においては細胞膜の構成成分として存在し、ある刺激を受けるとホスホリパーゼの作用でリン脂質より遊離される。
遊離したアラキドン酸は、アラキドン酸代謝酵素(リポキシゲナーゼ等)によって代謝され、炎症等に関与するプロスタグランジン(PG)類、血栓の形成等に関与するトロンボキサン(TX)類、アレルギーを誘発するロイコトリエン(LT)類、リポキシン(LX)類などの物質に変換される(図1参照)。
このように、アラキドン酸代謝酵素は、循環器系疾患、アレルギー性疾患や炎症などに関与する原因物質を生成する。そこで、これらの疾患の予防や治療のためには酵素によるアラキドン酸代謝を特異的に阻害することが有効であると考えられる。
【0003】
アラキドン酸代謝系に関与している代表的な酵素としては、5−リポキシゲナーゼ、12−リポキシゲナーゼ、シクロオキシゲナーゼ等がある。5−リポキシゲナーゼは、アラキドン酸を、5−hydroxy−6,8,10,14−eicosatetraenoic acid(5−HETE)に代謝し、アレルギー性疾患や、炎症、喘息に関与するロイコトリエン(LT)類を誘導する酵素である。また、12−リポキシゲナーゼは、アラキドン酸を基質として、動脈硬化やアレルギー性疾患、さらに癌の転移に関与する12−hydroxy−5,8,10,14−eicosatetraenoic acid(12−HETE)に代謝する酵素である。
【0004】
従来、リポキシゲナーゼを阻害する天然物としては、例えば、5−リポキシゲナーゼ阻害作用を有するカフェー酸やケルセチン等が知られる。しかしながら、これらの物質は、酵素阻害剤としては未だ実用化されていない。
一方、12−リポキシゲナーゼを阻害する物質としては、有効な活性を示すものがほとんど知られていない。
その他のポリフェノール類の中にもリポキシゲナーゼの阻害作用を有する天然物が存在するが、いずれも、抽出物の抑制効果は緩慢で、疾患等の防止に対して十分な効果を期待できないのが現状である。
また、天然物からの酵素阻害剤の精製は、コストの問題からも実用化は困難となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、アラキドン酸代謝に関与する5−リポキシゲナーゼおよび12−リポキシゲナーゼの優れた阻害作用を有し、アレルギー性疾患、炎症、さらには循環器系疾患や癌の転移などを予防および治療し得る天然物由来のリポキシゲナーゼ活性阻害剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための本発明のリポキシゲナーゼ阻害剤は、ルテオリン、クリソエリオール、ロスマリン酸、ロスマリン酸メチルエステルおよびアピゲニンから選ばれる1種または2種以上を含むエゴマ種子のアルコール抽出物を配合してなることを特徴とする。
【0007】
前記エゴマ種子としては、脱脂エゴマ種子を用いるのが望ましい。
前記エゴマ種子に代えて、シソ種子を用いてもよい。
【0008】
本発明者らは、エゴマ種子の抽出物について各種実験を行い、エゴマ種子のエタノール抽出物に5−リポキシゲナーゼおよび12−リポキシゲナーゼの強い阻害作用を発見するに至った。そして、鋭意研究の結果、エゴマ種子のアルコール抽出物に含まれるルテオリン、クリソエリオール、ロスマリン酸、ロスマリン酸メチルエステルおよびアピゲニンに強いリポキシゲナーゼ阻害作用があることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。特に、ルテオリンについては、従来にはないきわめて優れたリポキシゲナーゼ阻害作用を示すものである。
【0009】
エゴマは、東アジア原産の一年草シソ科の油料作物である。全体にシソに似ており、茎は方形で、卵円形の葉を対生し、夏に白い小花をつける。種子はシソよりやや大きく、秋に収穫される。
エゴマ種子からとれる油は、エゴマ油または荏の油として知られ、食用、ペイントの原料に用いられる。また、油かすは肥料、飼料として利用されている。
従来、エゴマの葉に含まれる生理活性物質の報告は存在するが、種子についての報告はほとんどない。
【0010】
発明者らの調査の結果、エゴマ種子の抽出物に含まれるリポキシゲナーゼ阻害物質(ルテオリン、クリソエリオール、ロスマリン酸、ロスマリン酸メチルエステルおよびアピゲニン)のうち、ロスマリン酸、ロスマリン酸メチルエステルについては、既に、特開平1−121217号公報に、シソ科植物の新鮮葉から抽出されるロスマリン酸またはその誘導体の5−リポキシゲナーゼ阻害作用が開示されることが判明した。
また、アピゲニンについては、特表平8−510735号公報に、5−リポキシゲナーゼ抑制作用が記載される。
しかしながら、これらの物質のうち、最も阻害作用が大きいルテオリンのリポキシゲナーゼ阻害作用については従来から知られるところでなく、また、クリソエリオールのリポキシゲナーゼ阻害作用についても、今回の研究によって明らかにされたものである。
【0011】
また、本発明者らは、エゴマ種子と同じシソ科であるシソの種子についても、種々の実験を行ったところ、シソ種子のアルコール抽出物にもリポキシゲナーゼ阻害物質(ルテオリン、クリソエリオール、ロスマリン酸、ロスマリン酸メチルエステルおよびアピゲニン)が含まれることを確認した。
【0012】
ルテオリンの構造式は、以下に示すとおりである。
【化1】

ルテオリンは、一般にマメ科の植物(ジギタリス等)中に配糖体として存在することが知られる。ルテオリンの生理活性については、抗酸化活性、ヒアルロニダーゼ阻害活性等が知られている。
本発明において、ルテオリンをリポキシゲナーゼ阻害剤の有効成分として使用する場合には、エゴマおよびシソの種子および葉から抽出・精製する他、柑橘系の果皮等からも抽出・精製することが可能である。ただし、エゴマおよびシソの葉に含まれるルテオリンは微量であり、工業化に際しては、これらの種子を用いるのが望ましい。
【0013】
クリソエリオールの構造式は、以下に示すとおりである。
【化2】

クリソエリオールの生理活性については、抗癌性、抗菌性を有するとの報告がわずかにある程度である。
本発明において、クリソエリオールをリポキシゲナーゼ阻害剤の有効成分として使用する場合、エゴマまたはシソの種子および葉から抽出・精製することが可能である。
【0014】
エゴマ種子およびシソ種子を原料として、ルテオリン、クリソエリオールを抽出するために用いる溶媒は、エタノールを用いるのが望ましい。エタノールを用いると、有効成分が効率よく抽出されると同時に外用、食用のいずれの用途であっても使用することができるからである。また、外用剤として使用する場合は、エタノールの他、酢酸エチル、アセトン、メタノール、ブタノール等を用いることも可能である。
アルコール濃度については、70〜85%(v/v)に調製するのが望ましい。70%(v/v)未満であると、有効成分の抽出量が不十分になり、また、85%(v/v)を超えると、エゴマ種子の油分がアルコール中に溶け出しやすくなるからである。
なお、アルコール抽出は、有効成分の含有率を向上させるため、種々の濃度で繰り返して行うのが望ましい。
【0015】
エゴマ種子およびシソ種子のアルコール抽出物には、通常、リポキシゲナーゼ阻害物質として、ルテオリン、クリソエリオール、ロスマリン酸、ロスマリン酸メチルエステルおよびアピゲニンがすべて含まれる。しかしながら、抽出条件等によりいずれかの物質が存在しなくとも、これらのうち少なくとも1種または2種以上が含まれていれば足りる。
【0016】
エゴマ種子またはシソ種子のアルコール抽出物を酢酸エチルと水により分配するのは、これらの分配により有効成分の濃度を大幅に上昇させることができるからである。分配層のうち、酢酸エチル層にはルテオリン、クリソエリオール、ロスマリン酸、ロスマリン酸メチルエステルおよびアピゲニンが高濃度に含有され、水層には、配糖体等の不活性成分が移行する。したがって、この酢酸エチル層を分取することで、有効成分を効率よく濃縮することが可能になる。
【0017】
前記アルコール抽出物および酢酸エチル分配物は、そのままでもリポキシゲナーゼ阻害剤に配合することができるが、これらに含まれる有効成分を精製することが可能である。
例えば、ルテオリンを精製する場合、酢酸エチル層をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し(クロロホルム:メタノール=10:1)、最も活性の高いフラクションを回収し、混合溶媒(クロロホルム:メタノール=15:1)の不溶性画分よりルテオリンを単離することができる。
【0018】
本発明において、エゴマ種子またはシソ種子を用いる場合、これらの脱脂物を用いてアルコール抽出すると、有効成分の濃度を大幅に上昇させることができる。すなわち、エゴマ種子およびシソ種子の油分を有機溶剤により抽出すると、油分にはルテオリン、クリソエリオール等の生理活性成分が殆ど含まれず、脱脂粕中に有効成分が濃縮されるためである。
脱脂用の有機溶剤としては、例えばヘキサンを用いるとよい。抽出油分を食用油として使用できるとともに、脱脂エゴマからの抽出物を食品素材等として使用できるためである。また、脱脂エゴマからの抽出物を外用剤(主に食品以外の用途)として用いる場合は、ヘキサンに限ることなく、その他の非極性溶媒を用いることも可能である。
【0019】
本発明のリポキシゲナーゼ阻害剤の用途については、医薬品、医薬部外品、化粧料、食品素材等が挙げられる。
特に、本発明のリポキシゲナーゼ阻害剤を抗アレルギー剤または抗炎症剤として用いる場合、リポキシゲナーゼ活性阻害に起因する優れた抗アレルギー作用および抗炎症作用を得ることが可能になる。
【0020】
本発明のリポキシゲナーゼ阻害剤の投与方法については、経口または非経口投与のいずれでもよい。経口投与する場合は、軟・硬カプセル剤または錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤として投与するがことができ、非経口投与する場合は、注射剤、点滴剤および固体状または懸濁粘稠液として持続的な粘膜吸収が維持できるように坐薬のような剤型による投与の他、局所組織内投与、皮内、皮下、筋肉内および静脈内注射、局所への塗布、噴霧、坐剤、膀胱内注射などの外用的投与法も用いることができる。
投与量は、投与方法と病気の悪性度、患者の年齢、病状や一般状態、病気の進行度等によって変化し得るが、大人では、通常、1日当たり有効成分として0.5〜5000mg、子供では通常0.5〜3000mgが適当である。
リポキシゲナーゼ阻害剤の有効成分濃度については、剤型によって適宜変更することが可能であるが、通常、経口または粘膜吸収により投与される場合は約0.3〜15.0w%、非経口投与による場合は、0.01〜10w%程度にするとよい。なお、上記投与量については、一例であり、種々の状況に応じて適宜変更可能である。
【0021】
本発明のリポキシゲナーゼ阻害剤を医薬品、医薬部外品または化粧料として用いる場合、医薬品等に一般的に用いられる各種成分と併用することが可能である。
例えば、油分(動植物油、鉱物油、エステル油、ワックス油、シリコン油、高級アルコール、リン脂質類、脂肪酸類等)、界面活性剤(アニオン性、カチオン性、両性または非イオン性界面活性剤)、ビタミン類(ビタミンA群、ビタミンB群、葉酸類、ニコチン酸類、パントテン酸類、ビオチン類、ビタミンC群、ビタミンD群、ビタミンE群、その他フェルラ酸、γ−オリザノール等)、紫外線吸収剤(p−アミノ安息香酸、アントラニル、サルチル酸、クマリン、ベンゾトリアゾール、テトラゾール、イミダゾリン、ピリミジン、ジオキサン、フラン、ピロン、カンファー、核酸、アラントインおよびそれらの誘導体、アミノ酸系化合物、シコニン、バイカリン、バイカレイン、ベルベリン等)、抗酸化剤(ステアリン酸エステル、ノルジヒドログアセレテン酸、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、パラヒドロキシアニソール、没食子酸プロピル、セサモール、セサモリン、ゴシポール等)、増粘剤(ヒドキシエチルセルロール、エチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドキシプロピルセルロース、ニトロセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメタアクリレート、ポリアクリル酸塩、カルボキシビニルポリマー、アラビアゴム、トラガントゴム、寒天、カゼイン、デキストリン、ゼラチン、ペクチン、デンプン、アルギン酸およびその塩等)、保湿剤(プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、コンドロイチン硫酸およびその塩、ヒアルロン酸およびその塩、乳酸ナトリウム等)、その他、低級アルコール、多価アルコール、水溶性高分子、pH調製剤、防腐・防バイ剤、着色料、香料、清涼剤、安定化剤、動・植物抽出物、動・植物性蛋白質およびその分解物、動・植物性多糖類およびその分解物、動・植物性糖蛋白質およびその分解物、微生物培養代謝成分、血流促進剤、消炎剤、細胞賦活剤、アミノ酸およびその塩、角質溶解剤、収斂剤、創傷治療剤、増泡剤、口腔用剤、消臭・脱臭剤とともに配合して用いることができる。
【0022】
なお、これらの医薬品、医薬部外品または化粧料として用いる場合の形態は、任意に選択することができ、例えば、クリーム、軟膏、化粧水、ローション、乳液、パック、オイル、石鹸(薬用石鹸も含む)、洗顔料、浴用剤、シャンプー、リンス、スプレー等の形態とすることができる。その他、衛生綿類、ウェットティッシュ等の不織布に、口内炎等による口腔用組成物としても利用可能である。
【0023】
また、本発明のリポキシゲナーゼ阻害剤を食品素材として用いる場合は、菓子類、麺類、スープ、飲料等をはじめとする一般食品および、健康食品、栄養補助食品等に応用することができる。例えば、リポキシゲナーゼ阻害剤を粉末セルロースとともにスプレードライまたは凍結乾燥したものを、粉末、顆粒、打錠または溶液にすることで容易に食品に混入させることが可能になる。
【発明の効果】
【0024】
5−リポキシゲナーゼの代謝産物である5−HETEはロイコトリエン類を生成し、アレルギーや炎症反応を誘発し、12−リポキシゲナーゼのアラキドン酸代謝物である12−HETEは、動脈硬化や癌の転移に関与する生理活性物質と言われている。したがって、本発明によれば、これらの生成を選択的に抑制することにより、アレルギー性疾患、炎症、循環器系疾患、癌、などを効果的に予防および治療することができる。
また、本発明によれば、エゴマ種子等の天然物から、優れたリポキシゲナーゼ阻害物質を抽出することができ、アレルギーやそれらに伴う炎症を抑制する食品素材等として有効に利用することができる。
さらに、本発明によれば、エゴマ種子の食用油回収後の脱脂エゴマからリポキシゲナーゼ阻害剤を得ることができ、脱脂エゴマの新たな用途を提供するものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施例を説明する。
[リポキシゲナーゼ阻害剤の調製]
図2に示すように、まず、エゴマ種子を破砕したものをヘキサンで還流し、次いで、その残渣(脱脂エゴマ)を80%(v/v)エタノールで還流した。
次に、80%(v/v)エタノール還流により得られたエタノールエキスをヘキサンと80%(v/v)メタノールで分配し、このメタノール層の溶媒溜去後、さらに酢酸エチルと水で分配した。酢酸エチル層と水層とを分離後、酢酸エチル層の溶媒を溜去し、酢酸エチル分配物を得た。
【0026】
次いで、この酢酸エチル分配物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=10:1)に付し、フラクション1〜3に区分した。
このうち、最初に溶出されてくるフラクション1を混合溶媒(クロロホルム:メタノール=20:1)に懸濁し、その不溶性画分よりクレソエリオールを単離した。
また、次に溶出されるフラクション2については、混合溶媒(クロロホルム:メタノール=15:1)に懸濁してその不溶性画分よりルテオリンを単離した。
【0027】
このようにエゴマ種子から単離されたルテオリン精製物を実施例1とし、クリソエリオール精製物を実施例2とした。
また、図2に示すエタノールエキスを溶媒溜去して得られたエタノール抽出物を実施例3とし、エタノール抽出物の分配による酢酸エチル層を溶媒溜去して得られた酢酸エチル分配物を実施例4とした。
【0028】
[5−リポキシゲナーゼの阻害試験]
次に、実施例1〜実施例4のリポキシゲナーゼ阻害剤について、以下に示すように、5−リポキシゲナーゼの阻害試験を行った。
(1)5−リポキシゲナーゼ酵素液の調製
Wister−King系正常ラット(150〜400g)に5%(w/v)グリコーゲン(20ml/kg)を腹腔内投与し、その腹腔内液を回収した。遠心して得られた多形核白血球の50mMリン酸緩衝液(pH7.4)の懸濁液をホモジネートした後、遠心上清を5−リポキシゲナーゼの酵素液とした。
【0029】
(2)5−リポキシゲナーゼ活性阻害の測定
まず、実施例1〜実施例4について、それぞれ異なる濃度のサンプル(4〜6種)を作成し、酵素液(2mg protein/ml)0.02mlと[1−14C]アラキドン酸(0.05μCi)を、各サンプル(0.02ml)およびCa2+、ATPの存在下、37℃で5分インキュベートした。
その後、0.2mlの0.5Nギ酸で反応を停止し、代謝産物を3mlの酢酸エチルで抽出した。
この抽出液を4℃でTLCに付した後(石油エーテル:エーテル:酢酸=50:50:1(v/v))、オートラジオグラフィーで代謝物を定量し、5−リポキシゲナーゼ阻害活性を求めた。なお、5−リポキシゲナーゼ阻害活性は、サンプルの非共存下に得られた放射活性をコントロールとして求めた。
【0030】
比較例として、図2に示すフラクション3を精製して得られたロスマリン酸(比較例1)およびロスマリン酸メチルエステル(比較例2)、エタノールエキスのヘキサン分配層を溶媒溜去して得られるヘキサン分配物(比較例3)、並びに酢酸エチル/水分配の水層を溶媒溜去して得られる水分配物(比較例4)についても、同様な方法で5−リポキシゲナーゼ阻害活性を測定した。結果を図3〜図5、図7および図8に示す。
【0031】
結果は、実施例1〜実施例4ともに優れた5−リポキシゲナーゼ阻害活性を示すものであった。特に、図3に示す実施例1(ルテオリン)については、従来より5−リポキシゲナーゼ阻害作用の報告がある比較例1(ロスマリン酸)および比較例2(ロスマリン酸メチルエステル)よりも強い阻害活性を有するものであった。
また、図5に示すように、実施例4(酢酸エチル分配物)は、実施例3(エタノール抽出物)よりも優れた阻害活性を示したが、これは、エタノール抽出物から活性の低い水溶性、油溶性の物質を除いた結果、活性成分が酢酸エチル層に濃縮されためと考えられる。なお、実施例3(エタノール抽出物)および実施例4(酢酸エチル分配物)の阻害活性は、ルテオリンの含有量に相関するものと思われる。
【0032】
ここで、実施例1(ルテオリン)および実施例2(クリソエリオール)と比較例1(ロスマリン酸)および比較例2(ロスマリン酸メチルエステル)について、5−リポキシゲナーゼのIC50(50%阻害濃度)を求めた結果を表1に示す。
なお、比較例5(カフェー酸)および比較例6(ケルセチン)についても、同様な方法によりIC50を求めたので合わせて表1に示す。
【表1】

表1に示すように、実施例1(ルテオリン)のIC50は、0.1μMであり、他のものに比べきわめて高い、優れた5−リポキシゲナーゼ阻害活性を示す結果となった。
【0033】
[12−リポキシゲナーゼの阻害試験]
次に、実施例1〜実施例4について、以下に示すように、12−リポキシゲナーゼ阻害試験を行った。
(1)12−リポキシゲナーゼ酵素液の調製
Wister−King系正常ラット(150〜400g)から血液を採取し、0.5mMのEDTAを抗凝固剤として加えた。この遠心上清(1200r.p.m.、10分)をさらに遠心(3000r.p.m.、10分)し、沈殿した血小板を25mMのTris−HCl緩衝液(pH7.4)/1mM EDTA/130mM NaClで洗浄した。得られた血小板1mM EDTA懸濁液のホモジネートを12−リポキシゲナーゼ酵素液とした。
【0034】
(2)12−リポキシゲナーゼの活性阻害の測定
実施例1〜実施例4について、それぞれ異なる濃度のサンプル(4〜6種)を作成し、酵素液(2mg protein/ml)0.13mlと[1−14C]アラキドン酸(0.05μCi)を、サンプル(0.02ml)の共存下で、37℃、5分間インキュベートした。
その後、0.2mlの0.5Nギ酸で反応を停止し、代謝産物を3mlの酢酸エチルで抽出した。
この抽出物を室温でTLCに付した後(クロロホルム:メタノール:酢酸:水=90:8:1:0.8(v/v))、オートラジオグラフィーで代謝物を定量し、12−リポキシゲナーゼ阻害活性を求めた。なお、12−リポキシゲナーゼ阻害活性は、リポキシゲナーゼ阻害剤の非共存下に得られた放射活性をコントロールとして求めた。
【0035】
比較例として、図2に示すフラクション3を精製して得られたロスマリン酸(比較例1)およびロスマリン酸メチルエステル(比較例2)、ヘキサン/80%メタノール分配のヘキサン層を溶媒溜去して得られるヘキサン分配物(比較例3)、並びに酢酸エチル/水分配の水層を溶媒溜去して得られる水分配物(比較例4)についても、同様な方法で5−リポキシゲナーゼ阻害活性を測定した。結果を図3、図4および図6〜図8に示す。
【0036】
結果は、実施例1〜実施例4ともに優れた12−リポキシゲナーゼ阻害活性を示すものであった。特に、実施例1(ルテオリン)については、5−リポキシゲナーゼの阻害活性と同様に、きわめて強い阻害活性を有するものであった。
また、図6に示すように、実施例4(酢酸エチル分配物)は、エタノール抽出物中の有効成分が酢酸エチル分配物中に濃縮されるため、エタノール抽出物(実施例3)よりも強い阻害活性を示した。
【0037】
[マウスのTPA誘導耳介浮腫に対する炎症抑制試験]
次に、実施例1、実施例3および実施例4について、TPA誘導耳介浮腫に対する炎症抑制作用を試験した。
(1)経皮投与
所定量に調製したサンプル(実施例1、実施例3、実施例4)を、TPA(0.8μg/20μl/ear)のアセトン溶液とともにマウス(ICR系、5週齢、クレア)の右耳介に塗布した。投与4時間後に左右の耳介片重量を測定し、左耳介片に対する右耳介片の腫脹率を算出し、さらにコントロール群に対する腫脹抑制率を求めた。なお、コントロールとは、サンプルを投与していない群について同様の条件で試験を行ったものである。
また、比較例として、NDGA(比較例7)についても報告されているデータを表2に記載した。
【表2】

【0038】
表2に示すように、5−リポキシゲナーゼ阻害物質である比較例7(NDGA)が0.5mg/earで40%の抑制率であるのに対し、実施例1(ルテオリン)が0.3mg/earで100%、実施例3(エタノール抽出物)が1mg/earで25%、実施例4(酢酸エチル分配物)が0.3mg/earで45%、TPAによる耳介の浮腫を抑制した。すなわち、実施例1、実施例3および実施例4ともに優れた腫脹抑制率を示すことが判る。また、実施例1については、ルテオリンの濃度に相関する抗炎症作用が認められた。
【0039】
(2)経口投与
サンプルとして実施例4(エタノール抽出物)を1%餌に混入し、1日当たり5g、4週間投与した後、TPAアセトン溶液(0.8μg/20μl/ear)をマウス(ICR系、5週齢、クレア)の右耳介に塗布した。投与4時間後に左右の耳介片重量を測定し、左耳介片に対する右耳介片の腫脹率を算出し、さらにコントロール群に対する腫脹抑制率を求めた。なお、コントロールとは、サンプルを投与していない群について同様の条件で試験を行ったものである。結果を表2に示す。
【0040】
表2に示すように、実施例4(エタノール抽出物)の1%餌混入による腫脹抑制率は20%であり、経口投与においても優れた抗炎症作用が認められた。なお、コントロール群と比較して体重の増減は認められなかった。
【0041】
[マウスのオキサゾロン誘導耳介浮腫に対するアレルギー抑制試験]
次に、実施例1および実施例3について、オキサゾロン誘導耳介浮腫に対する抗炎症作用を試験した。
(1)経皮投与
ネンブタールによる麻酔下、マウス(ICR系、5週齢、クレア)の腹部をバリカンで剃毛し、オキサゾロンエタノール溶液(500μg/100μl)を塗布した(感作)。感作5日後、右耳介に所定量のサンプル(実施例1)を添加したオキサゾロンアセトン溶液(100μg/20μl)を塗布し(チャレンジ)、48時間後の左右耳介片重量を測定した。左耳介片に対する右耳介片の重量比を腫脹率として、コントロール群に対する腫脹抑制率を求めた。なお、コントロールとはサンプルを投与していない群について同様の条件で試験を行ったものである。
また、比較例として、NDGA(比較例7) ケトプロフェン(比較例8)、フェニドン(比較例9)、メピラミン(比較例10)についても、報告されているデータを表3に記載した。
【表3】

【0042】
表3に示すように、実施例1は、比較例7〜10に対し、より少ない投与量で高い腫脹抑制率を示すものであった。すなわち、有効成分であるルテオリンが優れた抗アレルギー作用を発揮していることが判る。
(2)経口投与
投与開始から耳介重量測定までの期間、サンプル(実施例3)を1%餌に混入し、1日当たり5g与えた。投与開始8日後、剃毛した腹部にオキサゾロンエタノール溶液による感作を行い、さらにその5日後、右耳介にオキサゾロンアセトン溶液を塗布し(チャレンジ)、48時間後の左右耳介片重量を測定した。左耳介片に対する右耳介片の重量比を腫脹率として、コントロール群に対する腫脹抑制率を求めた。なお、コントロールとはサンプルを投与していない群について同様の条件で試験を行ったものである。結果を表3に示す。
【0043】
表3に示すように、実施例3は、1%餌混入でオキサゾロン誘導による耳介浮腫を34%抑制した。すなわち、経口投与でも抗アレルギー作用が認められた。なお、実施例3を投与したマウスについて、コントロール群と比較して体重の増減は認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】アラキドン酸代謝酵素の生理活性を説明するための作用説明図である。
【図2】本発明の実施例によるリポキシゲナーゼ阻害剤の調製方法を説明するための工程図である。
【図3】本発明の実施例によるルテオリン精製物の濃度と、5−リポキシゲナーゼおよび12−リポキシゲナーゼ阻害活性との関係を示す特性図である。
【図4】本発明の実施例によるクリソエリオール精製物の濃度と、5−リポキシゲナーゼおよび12−リポキシゲナーゼ阻害活性との関係を示す特性図である。
【図5】本発明の実施例によるエタノール抽出物および酢酸エチル分配物の濃度と、5−リポキシゲナーゼ阻害活性との関係を示す特性図である。
【図6】本発明の実施例によるエタノール抽出物および酢酸エチル分配物の濃度と、12−リポキシゲナーゼ阻害活性との関係を示す特性図である。
【図7】本発明の比較例によるロスマリン酸精製物の濃度と、5−リポキシゲナーゼおよび12−リポキシゲナーゼ阻害活性との関係を示す特性図である。
【図8】本発明の比較例によるロスマリン酸メチルエステル精製物の濃度と、5−リポキシゲナーゼおよび12−リポキシゲナーゼ阻害活性との関係を示す特性図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルテオリン、クリソエリオール、ロスマリン酸、ロスマリン酸メチルエステルおよびアピゲニンから選ばれる1種または2種以上を含むエゴマ種子のアルコール抽出物を配合してなるリポキシゲナーゼ阻害剤。
【請求項2】
前記エゴマ種子に脱脂エゴマ種子を用いる請求項1に記載のリポキシゲナーゼ阻害剤。
【請求項3】
前記エゴマ種子に代えて、シソ種子を用いる請求項1または2に記載のリポキシゲナーゼ阻害剤。
【請求項4】
前記請求項1〜3のいずれか1項に記載のリポキシゲナーゼ阻害剤を含む抗アレルギー剤。
【請求項5】
前記請求項1〜3のいずれか1項に記載のリポキシゲナーゼ阻害剤を含む抗炎症剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−24023(P2009−24023A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232827(P2008−232827)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【分割の表示】特願平9−105959の分割
【原出願日】平成9年4月23日(1997.4.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成9年4月2日 社団法人日本農芸化学会開催の「日本農芸化学会1997年度大会」において文書をもって発表
【出願人】(594045089)オリザ油化株式会社 (96)
【Fターム(参考)】