説明

リポソームを利用した混合ワクチン

【課題】複数種類の病原体抗原が混ざった混合ワクチンの開発を行う場合、夫々の抗原が抗体を認識させる重要な部分を消去し合い必要十分な抗体が得られない場合がある。また、現在のリポソームは安定性が悪く、保存性が悪い。

【解決手段】異なるワクチン抗原を、径が50〜300ナノメートルの多層リポソーム内にそれぞれ注入し、異なるワクチン抗原を注入された多層リポソームを混合したワクチンとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のワクチンを同一のアンプルで適用可能な新規な混合ワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
リポソームは、リン脂質によって形成される二分子膜の閉鎖小胞体であり、生体膜と類似の構造や機能を有するため、従来から様々な研究材料として用いられてきている。このリポソームは、水溶性の薬剤をその内部に有する水相に、油溶性の薬剤を二分子膜の内部に保持されるという、いわゆるカプセル構造を有している。このため、リポソームは、診断、治療、化粧などの様々な分野で用いられてきている。さらに、近年では、薬物送達システム(DDS)を利用したリポソーム含有製剤が盛んに研究されている。
【0003】
特開2001−302541号公報には、正及び負の電荷脂質を含む電荷型リポソーム及び該電荷型リポソームに抗原物質を含有させた免疫組成物について記載されている。
また、特表2005−525992号公報には、生物学的物質、特に治療的に活性な材料を脂質膜小胞(リポソーム)に効率的に内包する(>60%)新規方法についてと、インフルエンザワクチンのアジュバントとして免疫刺激オリゴヌクレオチド(ISS−ODNs)を充填したリポソームについて具体的な実施例を伴い記載されている。該公報には、該公報に記載の製造方法により、リポソームへの薬剤の内包率を具体例として、87−93%としているものが明示されている。
特表2005−350445号公報には、ポリエチレンイミン、炭素含有鎖長C10〜C18の脂肪族モノアミンおよびカチオン性ポリマーより選択される、細胞内浸透を刺激する物質のいずれかを含み、細胞内浸透に対して本質的に不活性であってこの浸透を視覚化できる蛍光化合物の少なくとも1種を任意に含む新規水和ラメラ相又はリポソームおよびそれを用いた化粧組成物および医薬組成物が記載されている。
特開2007−97641号公報には、イオントフォレーシス(iontophoresis)によって各種イオン性薬物を経皮的に投与する技術(経皮ドラッグデリバリー)に関し、特に、イオン性薬物としてイオン性リポソームに封入された薬物について記載されている。
特開2009−510032号公報には、同時封入された幾つかの血清型の多糖抗原及びT細胞依存性タンパク質キャリアを含有する、リポソーム形成化合物で形成されるリポソームを含む多価リポソーム組成物、好ましくはワクチンについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】

【特許文献1】特開2001−302541号公報
【特許文献2】特開2005−525992号公報
【特許文献3】特開2005−350445号公報
【特許文献4】特開2007−97641号公報
【特許文献5】特開2009−510032号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「水溶性薬物を高効率でリポソームカプセルに内包する技術を開発」 PHARM TECH JAPAN, P2230, VOL.l25 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
正電荷を帯電化させたリポソーム自体は、文献1や文献3にも記載されているように知られているし、イオントフォレーシス(iontophoresis)法において、正電荷を帯電化させたリポソームを利用すること(文献3)も知られている。
また、リポソーム内にワクチン抗原を充填して利用することについても、文献2において提示されている。
さらに、リポソーム内に、混合ワクチン自体を充填することについても、文献2に言及されている。
また、多糖抗原及びT細胞依存性タンパク質キャリア(例えば、破傷風トキソイド)を含有する、リポソーム形成化合物で形成されるリポソームを含む多価リポソーム組成物、好ましくはワクチンについて、文献5に記載されている。しかし、このようなリポソームに注入したワクチン抗原の相互間の関係、それぞれ別の種類のワクチン抗原を注入されたリポソームを合わせて利用することで混合ワクチンとすることについてを示唆する文献は知られていない。
【0007】
現時点において、リポソーム内に充填する水溶性薬剤の充填率が40〜50%程度までしか商用的には高められないこと、リポソームの安定性に問題があることから、現実には、リポソームにワクチンを注入した薬剤は実用化されてはいない。
【0008】
現在のワクチンは、以下の問題点を有している。
1)ワクチンの接種は通常注射筒でおこなわれる。
注射筒で接種を行う場合は如何しても疼痛や炎症等の副作用が発生する。また、使用後の注射筒は針刺し事故の危険や医療廃棄物の取り扱いの注意が必要であると共にエコの面からも問題ありと考える。更に、注射筒では新生児や未熟児に接種しにくい等の問題がある。使用し易く、副作用や針刺し事故や廃棄物処理等の問題の原因となる注射筒を使用しないワクチン接種方法が、望まれている。
2)ワクチンは安定性が悪い。
光や熱に敏感であるため、「遮光で2-8℃」と厳しい保管条件が義務付けられており、冷蔵庫が不要で輸送にも便利な「室温(1-30℃)」保管への改良が強く望まれている。また有効期間は1年〜2年と短いので、最低3年以上への改良が望まれている。
3)ワクチンの供給量が不足することがある。
抗原に使用される病原体のワクチン株を動物や培養細胞で生産するが、株によっては希望量を用意するまでに大変時間がかかり、十分な量を確保できないことがある。ワクチンの効力が改良されれば使用する抗原量をセーブできるためワクチン生産量が増加し、供給不足解消が可能になると推測する。
4)ワクチンの開発は難しい。
特に複数種類の病原体抗原が混ざった混合ワクチン(季節性インフルエンザワクチン等)の開発を行う場合、夫々の抗原が抗体を認識させる重要な部分を消去し合い必要十分な抗体が得られない場合があるため各々の抗原量を算定するのは難しい。各々の抗原同士がワクチン内で絡まないように隔離すれば解決されると思われる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願人は、化粧品分野において、異なる種類の薬剤をそれぞれ充填した多層リポソームを混合して用いることで、それぞれの薬効が保存・保管時に影響しあうことなく、有効に効能を果たせるとの知見をえており、この知見をふまえて、上記課題を解決するために、本願発明においては、異なる種類のワクチンをそれぞれ充填した多層リポソームを混合して用いることで、従来、3種、4種に限定されていた混合ワクチンの混合数を飛躍的に増加すると共に、接種目的や接種対象の状態に応じてワクチン抗原の種類とワクチン抗原量を増減できることができるようにしたものである。これにより、混合ワクチンの研究開発及び製品化は簡素化されると共に各々のワクチン抗原量を減ずることができるため、迅速な製品化と製品化コストの削減が可能となる。
ここで、リポソームを正電荷化多層リポソームとすれば、より、細胞親和率が高くなり、ワクチン抗原を90%以上充填させることにより、電荷をかけることなく、経皮や粘膜等(当然、経口や注射も含まれる)から投与をすることも可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本ワクチンを利用することで、相互のワクチンの悪影響を除去できるため、抗原が絡み合うことがなくなるため、混合ワクチンの調整が簡単になり、10種以上の混合ワクチンの製造が可能となる。したがって、ワクチンの生産及び輸送や保管の効率性が大幅に向上し、同時にワクチン接種時の効率おも向上させる。
特定の機能のリポソームを用い充填率を向上させたものでは、安定性がより向上し、従来「2-8℃遮光保存で1-2年」の有効期限が「室温保存で3年以上」となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】製造直後の5種正電荷化多層リポソーム混合液(バルク)中のリポソームの形態(透過型電子顕微鏡写真)
【図2】10カ月後の5種正電荷化多層リポソーム混合液(バルク)中のリポソームの形態(透過型電子顕微鏡写真)
【図3】クリーム中のリポソームの形態(走査型電子顕微鏡写真)
【図4】クリーム中のリポソーム(透過型電子顕微鏡写真)
【図5】クリーム中のリポソーム(光学顕微鏡)
【図6】クリーム中のリポソーム(粒度分布図)
【図7】バルク状態のリポソーム(粒度分布図)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本願で利用するリポソームは、従来医療用途に利用されていたリポソームであれば、特に何を利用してもよい。より保存性、安定性、吸収性がよいリポソームとしては、BASFフランス研究所がリヨン大学と共同開発された、化粧品の材料に利用されている第4世代の正電荷化した多層構造のリポソームが例示される。
本願発明の一形態である90%以上の充填率を得るためには、特表2005−525992号公報に記載の充填方法や非特許文献1に記載の充填方法、特開2006−298842号公報に記載の充填方法が例示される。
リポソームに内包されるワクチン抗原は、リポソームの用途などに応じて適宜選択される物質であり、リポソーム膜の構成成分及び溶媒以外の化合物をいう。代表的なものには、多種の型を有するインフルエンザウイルスワクチンや百日咳ジフテリア破傷風混合ワクチンがある。
【実施例】
【0013】
複数種類の薬剤を個々に内包する多層リポソームが混合された場合のリポソームの安定性を確認するために以下のことを行った。
実験1
5種類の薬剤(カフェイン、ユビキノン、カルニチン、セラミド3、ハイドロキシセルロース)をBASF社で開発された正電荷多層ナノ化リポソーム(登録商標名:セルディレクト)に、リポソーム膜成分を多価アルコール法、具体的には、ステアリン酸に溶解させた後、ラウリン酸と界面活性剤含有の水と室温で混合攪拌し薬剤を内包する方法で封入した。内包率については、40から50%であった。
バルク製造後0時と45℃保管10ヶ月後のリポソームの形態について、電子顕微鏡で確認した。図1が0時のもの、図2が10カ月後であるが、両者ともラメラ構造が確認され、粒子の大きさにも変化がなく、安定性が確認された。
【0014】
実験2
実験1と同じ5種類の薬剤が内包された5種類のリポソーム混合水溶液中のリポソーム形態と5種正電荷化多層リポソーム混合液(バルク)を原料として混入し製造したクリーム中のリポソームの形態を比較検討し安定性を確認した。
1.走査型電子顕微鏡による観察
製造直後の5種正電荷化多層リポソーム混合液(バルク)中のリポソームの形態(図1)。バルクのクリーム中にポソームは単体で多数検出されたが、一部は凝集していた(図3)。図3で凝集している部分を拡大してみると、個々のリポソームは球状であり、正常な形態が保たれていた。リポソームが重なっているため写真上サイズがまばらに見えるが、ほぼ同じ大きさである。
2. 透過型電子顕微鏡による観察(図4)
クリーム中のリポソームは、破壊を防ぐために超音波などによる分散をしていないため凝集しているが、リポソームの多重構造は正常に保たれていた。
3. 光学顕微鏡による観察(図5)
光学顕微鏡では明視野、暗視および位相差により観察したが、位相差による観察が鮮明であった。粒子の多重層構造の確認はできなかったが、大きさからリポソームであること推定された。なお、粒子はブラウン運動をしていることがわかった。
4 粒度分布測定
クリーム中のリポソームでは500ナノメータ以下が約70%で、300ナノメータ以下の粒子は全体の50%を占めていた(図6)が、バルクでは500ナノメータ以下が約50%で、粒子が集合したとおもわれる1000ナノメータ以上のものが約50%であった(図7)。電顕写真でも観察されているが、これはリポソーム同士が凝集しているからであり、分散されれば100nm程の大きさになる。

以上よりリポソームの物理化学的刺激下での安定性が確認された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なるワクチンがそれぞれリポソーム内に注入されている径が50〜300ナノメートルの多層リポソームを複数種類有する混合ワクチン。
【請求項2】
リポソームが、正電荷化された多層化リポソームである請求項1に記載の混合ワクチン。
【請求項3】
内包率が、リポソームの内包率が90%以上である請求項1または2に記載の混合ワクチン。
【請求項4】
経皮用である請求項3の混合ワクチン。
【請求項5】
噴霧用である請求項3の混合ワクチン。
【請求項6】
薬剤がインフルエンザワクチンであることを特徴とする請求項1〜4何れか1項に記載の混合ワクチン。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−116710(P2011−116710A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276313(P2009−276313)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(309042093)
【Fターム(参考)】