説明

リポソームを製造する方法

【課題】本発明は、油相(O)として揮発性の炭化水素系有機溶媒を用いて二段階乳化法を行う場合においても、薬剤の内包率が高く、サイズか小さく、かつ粒度分布がシャープな単胞リポソームを製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、(1)脂質成分(F1)を揮発性の炭化水素系有機溶媒(o)に溶解または分散した揮発性の油相液(O)と、内包対象薬剤(D)を水性溶媒(w1)に溶解して得られる水相液(W1)とを混合乳化することによりW1/Oエマルションを調製する一次乳化工程;(2)上記工程(1)を経て得られたW1/Oエマルションと、非結晶性の脂質成分(FN)を添加した水相液(W2)とを混合乳化することによりW1/O/W2エマルションを調製する二次乳化工程;(3)上記工程(2)を経て得られたW1/O/W2エマルションから炭化水素系有機溶媒(o)を除去することによりリポソーム分散液を調製する溶媒除去工程;(4)上記工程(3)を経て得られたリポソーム分散液から水相液(W2)を除去し、水相液(W3)を添加して、リポソーム製剤を調製する水相置換工程を含む、平均粒径50nm以上200nm以下の単胞リポソームを製造する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品、化粧品、食品などの分野で用いられるリポソームを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオ、医薬、食品、化粧品、塗料等の技術分野において、マイクロカプセルや微粒子と呼ばれる複合型微粒子が幅広く利用されている。複合型微粒子は、その作製に乳化剤として脂質を用いた場合、脂質複合型微粒子と呼ばれている。
【0003】
これらの微粒子のうち、リポソームは、単層または複数層の脂質二重膜からなる閉鎖小胞体であり、内水相および脂質二重膜内部にそれぞれ水溶性および疎水性の薬剤類を保持できることが知られている。また、リポソームの脂質二重膜は生体膜に類似しているため生体内での安全性が高いことなどから、たとえばDDS(ドラック・デリバリー・システム)用の医薬品などの、各種用途が注目され、研究開発が進められている。
【0004】
特にDDSが必要とされているのが遺伝子治療であり、2001年から革新技術として大きく注目され続けているのがRNA干渉(Ribonucleic Acid Interference)である。RNA干渉とは、遺伝子変異が起こったRNAの一部分を鋳型RNAによってブロックすることにより、有害なタンパク質を作らせない方法である。RNA干渉は遺伝子治療に応用することができ、遺伝子レベルにおいて病気を治療することができる。遺伝子治療を実現するには、まず鋳型RNA [siRNA(Small Interfering RNA)]を細胞内に導入しなければならない。しかしながら、細胞には細胞膜が存在しているので、鋳型RNAを導入する際には細胞膜といったバリヤを乗り越えなければならない。DNA(Deoxyribonucleic Acid)やRNA(Ribonucleic Acid)を利用した遺伝子治療法もRNA干渉と同様に遺伝子治療の機能を発現するために、まずDNAやRNAを細胞内に導入させなければならない。近年、レトロウイルス等のウイルスをベクターとして使用するあるいは安全性の高い脂質ベシクル(リポソーム)を使用することが有望との認識が広がっている。
【0005】
ところで、複合型微粒子および脂質複合型微粒子は、その膜厚によりダブルエマルションとベシクルとに分類されている。
このうち、ダブルエマルションとして、W/O/WエマルションおよびO/W/Oエマルション等が挙げられる。たとえば水の中に均一に散らばっている小さい油滴の中に、さらに小さい水滴が均一に散らばっている状態、つまり水滴粒子を内部に閉じこめた油滴粒子が水中に分散している状態のものが、W/O/Wエマルション(Water−in−Oil−in−Water)である。一分子膜と一分子膜の間に油相が存在するために膜厚はその分厚いのが特徴である。ダブルエマルションの製造は、古典的な機械的乳化法あるいはSPG (Shirasu Porous Glass)膜乳化法を利用した「二段階乳化法」を用いるのが一般的である。さらに最近では、特許文献1に記載されているように、マイクロ流路に交互に流れる混合しない2種類の流体(WとO)を別の流体に押し出すことで、W/O/WエマルションあるいはO/W/Oエマルションを作成する方法が知られている。
【0006】
ところで、W/O/Wの作成が容易に進行するのは、O相がオリーブ油やデカンといった沸点の高い油の場合であることが知られており、上記特許文献1においても実施例で示されているO相はデカンやヘキサデカンである。一方、水より沸点の低い有機溶媒をO相に用いる場合はW/O/Wの作成は容易ではなく、これは有機溶媒の表面張力が低いために粒子の球形を維持する力が足りないため、と解釈されている。
【0007】
一方、ベシクルとは、両親媒性化合物の二分子膜がシェル(殻)状に並んで閉じられた球体物質であり、一分子膜と一分子膜の間になにも存在しないために膜厚は薄いのが特徴である。ここで、リポソームはベシクルに分類される脂質複合型微粒子であり、上記W/O/WエマルションからO相を除去した構造体にあたる。したがって、もし、水より沸点の低い有機溶媒をO相に用いるなら、このようなO相を除去するのは容易であり、目的のリポソームを得ることができるが、水より沸点の高い有機溶媒をO相に用いる場合はこれを除去するのは事実上困難である。「二段階乳化法」によりリポソームを作成するためには、O相として、除去が容易な沸点の低い有機溶媒を選択する必要があるのだが、その場合にはW/O/Wの作成に困難が伴い、他方、W/O/Wエマルションを作成することが容易な沸点の高い有機溶媒を選択すると、O相の除去が困難であるためにリポソームへの変換が不可能になる、というジレンマに陥り達成困難な課題となっている。実際、リポソームの、内水相および脂質二重膜内部にそれぞれ水溶性および疎水性の薬剤類を保持する技術としては、疎水性の薬剤類を保持することは比較的容易に達成されて医薬品として上市された例があるのに対し、水溶性の薬剤類を保持することは困難であり先の遺伝子治療薬のリポソームも完成の域には達していない。
【0008】
このようなジレンマを解消するリポソームの製造方法の一つとして、二段階の乳化工程によりW/O/Wエマルションを調製した後、その油相(O)を除去することによりリポソームを形成させる方法(マイクロカプセル化法ないし二段階乳化法と呼ばれる。)が知られている(非特許文献1)。しかしながら、内包する薬剤としてはカルセインと言う色素を例示しているのみであり、薬剤汎用性については十分とはいえない。
【0009】
また、特許文献2には、二段階の乳化工程によりW/O/Wエマルションを調製する方法として、ベシクル脂質膜を破壊しない水溶性乳化剤の外水相液を用いてマイクロチャネル乳化法により二次乳化を行う方法が開示されており、これに関連して、乳化剤やマイクロチャネルについて検討を行った研究も種々なされてきている。
【0010】
ここで、W/O/Wエマルションを調製するにあたり、油相(O)として非揮発性のオリーブオイルなどを用いた作成例・応用例は多く、広く一般的に知られている。また、油相(O)として揮発性の有機溶媒を用いてW/O/Wエマルションを得る場合についても、二次乳化をマイクロチャンネルを用いて行った場合には、内水相への薬剤・化合物の封じ込めを達成できており、このことは本発明者らにより先に出願され、国際公開された特許文献3に記載されている。しかし、二次乳化を攪拌乳化によって行うことにより、同様の内水相への薬剤・化合物の封じ込めを実現することは依然として困難である。したがって、油相(O)として揮発性の有機溶媒を用いる二段階乳化法について、さらなる開発が求められている。
【0011】
ところで、二段階乳化法を用いてW/O/Wエマルションを得る場合、公知の二段階乳化では、結晶状態の脂質を完全に有機溶媒に溶解して一次乳化を実施している。ところが、ヘキサンなどの炭化水素系有機溶媒(O)に対しては、結晶状態の脂質を完全に溶解しないため、脂質が充分に分散しない不均一な状態で二段階乳化を実施せざるを得ず、得られるリポソームにおいて薬剤の内包率が向上しない等良好な結果が得られないという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−272196号公報
【特許文献2】特開2009−280525号公報
【特許文献3】国際公開2010/110116号パンフレット
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Ishii et al., J. Dispers. Sci. Technol.. vol.9, No.1, pp.1-15, 1988.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者は、ヘキサン溶媒(o)に対しては、結晶状態の脂質よりも非結晶性の脂質の方が分散性がよく、完全に溶解するに到らないまでも、二段階乳化をスムーズに進行させることができるとの知見を得、本発明を行うに到った。
【0015】
そこで、本発明は、油相(O)として揮発性の炭化水素系有機溶媒を用いて二段階乳化法を行う場合においても、薬剤の内包率が高く、サイズか小さく、かつ粒度分布がシャープな単胞リポソームを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、二段階乳化法によりリポソームを製造する際に、二次乳化工程の外水相に非結晶性の脂質成分を添加することにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0017】
すなわち、本発明は、以下の[1]〜[9]に係る単胞リポソームを製造する方法を提供する。
[1]下記工程(1)〜(4)を含む、体積平均粒径50nm以上200nm以下の単胞リポソームを製造する方法
(1)脂質成分(F1)を揮発性の炭化水素系有機溶媒(o)に溶解または分散した油相液(O)と、内包対象薬剤(D)を水性溶媒(w1)に溶解して得られる水相液(W1)とを混合乳化することによりW1/Oエマルションを調製する一次乳化工程;
(2)前記工程(1)を経て得られたW1/Oエマルションと、非結晶性の脂質成分(FN)を添加した水相液(W2)とを混合乳化することによりW1/O/W2エマルションを調製する二次乳化工程;
(3)前記工程(2)を経て得られたW1/O/W2エマルションから前記揮発性の炭化水素系有機溶媒(o)を除去することによりリポソーム分散液を調製する溶媒除去工程;
(4)前記工程(3)を経て得られたリポソーム分散液から水相液(W2)を除去し、当該除去した水相液(W2)よりも少量の水相液(W3)を添加して、リポソーム製剤を調製する水相置換工程。
【0018】
[2]前記工程(1)において脂質成分(F1)の代わりに非結晶性の脂質成分(FN)を用いるか、あるいは、
前記工程(2)において前記混合乳化の前にW1/Oエマルションに非結晶性の脂質成分(FN)を添加する、
前記[1]記載の方法。
【0019】
[3]前記工程(2)における二次乳化を下記式(e1)の条件を満たす撹拌乳化により実施する、前記[1]または[2]記載の方法:
0.02385 <r×n/L' < 0.1431 (e1)
上記式(e1)において、rは攪拌子の半径[m],L'はW1/Oエマルションの粒径[nm],nは攪拌子の毎分回転数[rpm]を表す。
【0020】
[4]前記工程(4)を経て得られるリポソーム含有製剤が、リポソームを構成する脂質成分(F)に対する該内包対象薬剤(D)の重量比(D/F)が0.05以上であるものである、前記[1]〜[3]のいずれかに記載の方法。
【0021】
[5]前記リポソーム含有製剤における前記重量比(D/F)が0.5以上である前記[4]記載の方法。
【0022】
[6]前記工程(1)において、水性溶媒(w1)に上記内包対象薬剤(D)が過飽和状態で溶解した水相液(W1)を用いる、前記[4]および[5]のいずれかに記載の方法。
【0023】
[7]前記工程(2)において、乳化剤(R)が溶解した水相液(W2)を用いる、前記[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
【0024】
[8]前記工程(1)〜(4)のすべての工程を5〜10℃の範囲の温度で実施する、前記[1]〜[7]のいずれかに記載の方法。
【0025】
[9]前記工程(1)における混合乳化をパルス超音波で実施する、前記[1]〜[8]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る単胞リポソームを製造する方法によれば、薬剤の内包率が高く、サイズか小さく、かつ粒度分布がシャープな単胞リポソームを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】二段階乳化法によるリポソーム生成および、本発明における脂質とエマルションとの関係を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
〔製造原料〕
脂質成分(F1)・(F2)
一次乳化工程で有機溶媒(o)に溶解する脂質成分(F1)は主としてリポソームの脂質二重膜の内膜を構成し、場合によっては外膜の構成にも寄与する。一方、必要に応じて二次乳化工程で添加する脂質成分(F2)は主としてリポソームの外膜を構成する。脂質成分(F1)および(F2)は、同一の組成であっても、異なる組成であってもよい。
【0029】
これらの脂質成分の配合組成は特に限定されるものではなく、公知のリポソームの配合組成に準じたものとすることができる。一般的には、リン脂質(動植物由来のレシチン;ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジン酸またはそれらの脂肪酸エステルであるグリセロリン脂質;スフィンゴリン脂質;これらの誘導体等)と、脂質膜の安定化に寄与するステロール類(コレステロール、フィトステロール、エルゴステロール、これらの誘導体等)とを中心に構成され、さらに糖脂質、グリコール、脂肪族アミン、長鎖脂肪酸(オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸等)、その他各種の機能性を賦与する化合物が配合されていてもよい。また、脂質成分(F2)には、たとえばPEG化リン脂質のような、リポソーム表面を修飾して各種の機能性を賦与するための脂質を配合することも可能である。これらの化合物の脂質成分中の配合比も、脂質膜の安定性やリポソームの生体内での挙動などの性状を考慮しながら、用途に応じて適切に調整すればよい。
【0030】
本発明においては、このような脂質成分(F1)、(F2)ともに、単一の脂質からなるものであってもよいし、複数の脂質からなるもの(混合脂質成分)であってもよい。
非結晶性の脂質成分(FN)
本発明においては、二段階乳化を円滑に進めるために、二次乳化工程において非結晶性の脂質成分(FN)が用いられる。
【0031】
図1上部に示すように、リン脂質などの脂質成分は、W1/Oエマルション及びW1/O/W2エマルションにおいて水相と油相との界面に配列しており、油相を構成する有機溶媒の除去により内包対象薬剤(図1では「薬剤」と記載。)を内包するリポソームの膜を構成する。ここで、油相がヘキサンなどの揮発性の炭化水素系有機溶媒である場合、図1下部に示すように、一部の脂質成分がW1/Oエマルション及びW1/O/W2エマルションの形成に用いられずに残ることがある。これを解決する第1の策は脂質成分を溶かしやすい溶媒たとえばクロル系溶媒を用いることである。しかしながら、多くの水溶性薬剤類はクロル系溶媒に一部分が溶けこむ傾向にあり、炭化水素系有機溶媒には溶けにくいという性質を有するため、内水相における水溶性薬剤類の存在比を高めて、内包率の高いリポソーム製造を実現するためには炭化水素系有機溶媒を選択する方が汎用性の高い製造法の実現に近付ける。また、医薬品は安全性を重んじるため、クロル系溶媒を避けられればより高い安全性が確保できる。そこで、炭化水素系有機溶媒を用いる点はそのままにして、課題を解決する必要があった。
【0032】
上記脂質成分(F1)および(F2)として用いられる脂質成分は、通常は、容易に入手できる結晶状脂質であるであることから、このような脂質成分がW1/Oエマルション及びW1/O/W2エマルションの形成に用いられるためには、(i) 結晶状態の脂質から脂質分子が分離し、揮発性の炭化水素系有機溶媒(o)に溶解または分散するプロセスと、(ii) 前記(i) で生じた有機溶媒性混合液と水相との接触により、有機溶媒性混合液に存在している脂質分子が水/油界面に再配列して、W1/OエマルションまたはW1/O/W2エマルションの膜を形成するプロセスとを経る必要がある。ところが、脂質成分は概して揮発性の炭化水素系有機溶媒(o)との親和性が充分高くない上、結晶状態の脂質から脂質分子が分離するには、結晶内の脂質分子間に働く水素結合、分子間力その他の比較的強い相互作用に打ち克つ必要があり、さらに揮発性の炭化水素系有機溶媒(o)との接触面積も小さいため、結晶状態からの脂質分子の再配列には時間がかかる傾向にある。したがって、結晶状態の脂質成分を用いた場合、W1/OエマルションまたはW1/O/W2エマルションの生成が円滑には進みにくい傾向がある。このことは、脂質成分の多くが、W1/OエマルションまたはW1/O/W2エマルションの生成に用いられずに残ることを意味する。
【0033】
一方、非結晶性の脂質成分(FN)では、結晶状態の脂質成分の場合ほど脂質分子が相互に強固に結合していないことから、固体状態の脂質から脂質分子が分離しやすく、脂質分子の再配列がより有利に行われる傾向にある。特に多孔質構造の脂質成分(FN)の場合、揮発性の炭化水素系有機溶媒(o)や水との接触面積が大きくなることから、この点でも、固体状態の脂質から脂質分子が分離する上で有利となる。したがって、非結晶性の脂質成分(FN)を用いると、W1/O/W2エマルションの形成が円滑に行われることになり、その結果、リポソームの形で内包しようとする物質の内包率も向上することになる。特に、図1下部のように、非結晶性の脂質成分(FN)が外水相に含まれていると(すなわち、非結晶性の脂質成分(FN)を添加した水相液(W2)を用いる場合には)、二次乳化に際して水相と油相との界面に脂質分子が速やかに再配列し、リポソームを好適に生成することができる。
【0034】
本発明で用いられる非結晶性の脂質成分(FN)として、例えば、ラメラ構造の脂質成分が挙げられる。ここで、「ラメラ構造」とは、液体と固体の中間にある物質を示す液晶状態の中の一つとして知られており、水・脂質・水・脂質・・・のように水相と脂質相とが交互に繰り返してなる層状構造をいう。リン脂質などの両親媒性化合物は一つの分子内に水相と脂質相とが共存するため、こうした化合物が一列に並ぶことでこのような層状構造をとることで安定状態に落ち着いている。リン脂質の層状構造は、バンガム法による古典的なリポソーム製造法のプロセスの一部で得ることができ、脂質フィルム層構造がその例である。細密充填により結晶格子を形成して安定状態に落ち着いている結晶性の脂質と比較して、層状構造は弱い相互作用で繰り返し配列しただけの状態なので、溶媒分子などの外部要因で容易にその配列を解列し、また再配列することができることが特徴である。
【0035】
ここで、そのような「ラメラ構造」の脂質の一形態として、フィルム状脂質も挙げられる。フィルム状脂質は、例えば、結晶状脂質をクロロフォルムに完全溶解してナスフラスコ(「ナスコル」とも呼ばれる。)に入れ、エバポレーターでゆっくりとクロロフォルムを留去し、ナスフラスコ壁面に配列した脂質膜を回収することで用意できることが知られている。このような回収方法は、古典的リポソーム製造法であるバンガム法の一工程として知られている。
【0036】
その他、本発明では、「非結晶性の脂質成分(FN)」が、ラメラ構造を有していない通常の多孔質構造を有していてもよい。
このような非結晶性の脂質成分(FN)の配合組成としては、非結晶性の成分を用いることを除いては、いずれも上記脂質成分(F1)および(F2)の場合と同様の配合組成を適用することができる。例えば、特公平6−74205号公報に記載されている方法により得られる混合脂質を用いることができる。したがって、本発明においては、非結晶性の脂質成分(FN)が、単一の脂質からなるものであってもよいし、複数の脂質からなるもの(混合脂質成分)であってもよい。
【0037】
なお、本明細書において、非結晶性の脂質成分(FN)、並びに上述した脂質成分(F1)および(F2)を包含する、リポソームを構成する脂質成分全体を指す概念として、「リポソームを構成する脂質成分(F)」という語を用いる場合がある。
【0038】
水相液(W1)・(W2)・(W3)
一次乳化工程(1)で用いられる水相液(W1)はW1/Oエマルションの水相を構成し、二次乳化工程(2)で用いられる水相液(W2)はW1/O/W2エマルションの外水相を構成し、水相置換工程で用いられる水相液(W3)は、最終的なリポソーム含有製剤(リポソーム分散液)の外水相を構成する。
【0039】
水相液(W1)は、公知のリポソームの製造方法(特に二段階乳化法)と同様、水、または水にpH調整のための酸および塩を添加して得られる緩衝液に、内包対象薬剤(D)および脂質成分(F1)を溶解することにより調製されるものであり。たとえば、pH調整のための酸および塩を純水に溶解して得られる緩衝液が一般的に用いられ、必要に応じて、水と相溶する他の溶媒、浸透圧調整のための塩類・糖類などをさらに溶解させてもよい。本明細書において、水相液(W1)から内包対象薬剤(D)を除く、水または緩衝液、あるいは、内包対象薬剤(D)以外の成分が溶解した水溶液等を、水性溶媒(w1)と称することがある。
【0040】
水相液(W2)は、公知のリポソームの製造方法(特に二段階乳化法)と同様、一般的には水または上記のような緩衝液であり、必要に応じて上記のような成分や、その他の機能性成分(本発明ではたとえば乳化剤(R))をさらに溶解させてもよい。本明細書において、水相液(W2)から乳化剤(R)を除く、水または緩衝液、あるいは、乳化剤(R)以外の成分が溶解した水溶液等を、水性溶媒(w2)と称することがある。
【0041】
また、水相液(W3)としては、リポソームの安定性などの観点から、水相液(W1)を構成する水性溶媒(w1)と同じ浸透圧を有する水性溶媒、典型的には水性溶媒(w1)と同一の水性溶媒が用いることが好適であるが、本発明の作用効果を阻害しない範囲で、水性溶媒(w1)と異なる水性溶媒を用いることも可能である。本明細書においては、このような水性溶媒を「水性溶媒(w3)」と称することがある。このように、水相液(W3)は、水性溶媒(w1)と同一の、あるいは本発明の作用効果を阻害しない範囲で水性溶媒(w1)とは異なる水性溶媒(w3)からなるものである。ここで、水相置換工程(4)において水相液(W3)として用いられる水性溶媒(w3)は、緩衝液としての組成などその他の条件において水性溶媒(w1)と同一であればよく、水相液(W3)には内包対象薬剤(D)を溶解させる必要はない。
【0042】
油相液(O)
二次乳化工程で用いられる油相液(O)はW1/Oエマルションの油相を構成する。本発明において、この油相液(O)を構成する溶媒として、揮発性の炭化水素系有機溶媒(o)が用いられる。ここで、油相液(O)は、揮発性の炭化水素系有機溶媒(o)のみからなるものでもよいし、必要に応じて揮発性の炭化水素系有機溶媒(o)に脂質成分(f2)等を溶解することにより調製されたものでもよい。
【0043】
本発明において、油相液(O)を構成する有機溶媒として揮発性の炭化水素系有機溶媒(o)を用いるのは、これらが水と混和しにくい有機溶媒であり、且つW1/O/W2エマルションからリポソームを製造する工程において除去が容易であるからである。なお、本発明において、「揮発性」とは水よりも沸点が低いことをいい、具体的には、大気圧において100℃未満の沸点を有することをいう。
【0044】
ただ、揮発性の炭化水素系有機溶媒(o)の沸点が低いと、後述する「溶媒除去工程」において水相液(W1)および(W2)が凍結し、後述する内包対象薬剤(D)が変性する場合がある。この観点からは、揮発性の炭化水素系有機溶媒(o)の沸点が4℃以上であることが好ましい。したがって、本発明で用いられる揮発性の炭化水素系有機溶媒(O)は、4℃以上100℃未満の沸点を有していることが好ましい。特に、本発明においては、リポソームの安定性(膜透過性の高い薬剤の内包率向上)を考慮すると、溶媒除去工程(3)も含めた、リポソーム含有製剤の製造方法におけるすべての工程を5〜10℃で行うことが好ましいので、その場合揮発性の炭化水素系有機溶媒(o)としては、必要に応じて減圧や撹拌を用いることにより5〜10℃で揮発するものが好ましい。ここで、膜透過性とは、薬剤類分子がリポソームの脂質二分子膜を通過しやすいかどうかという指標である。薬剤類の分子構造によってはその脂溶性構造部位の影響で脂質二分子膜内部に局在する脂溶性の脂肪鎖構造部分を通過しやすくなるため、高水溶性薬剤であってもまったく脂肪鎖構造部分を通過できないというわけではない。この指標はたとえば、リポソーム含有製剤をある温度で静置して、一度内包した薬剤類が経時的に外水相に移行しているかどうかを、内水相と外水相の薬剤濃度を測定して知ることができる。たとえば、膜透過性の高い薬剤として、抗がん剤のシタラビンをあげられる。また、脂肪鎖構造部分を通過しやすいかどうかは、化合物の構造による影響も重要なファクターであるが、一般的に温度上昇によって脂質分子の運動エネルギーが上昇し、このエネルギーが脂肪鎖構造部分同士の疎水性相互作用に拮抗して構造強度が弱まってわずかな隙間が生じることから、多くの薬剤は温度上昇によって膜透過性が増すことも周知の事実である。
【0045】
揮発性の炭化水素系有機溶媒(o)としては、たとえばヘキサン(n−ヘキサン:沸点69℃)、シクロヘキサン(沸点80.7℃)、ペンタン(沸点36℃)などが挙げられる。これらの溶媒は、いずれか1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
内包対象薬剤(D)
本発明における、リポソームに内包させる物質(「内包対象薬剤」と称する。)は特に限定されるものではなく、リポソームの用途に応じて医薬品、化粧品、食品などの分野で知られている各種の物質を用いることができる。本発明においては、内包対象薬剤(D)として、水溶性の物質(「水溶性薬剤類」と称する。)」が好適に用いられる。ここで、本発明で用いられる上記各種脂質成分が水溶性を有する場合もありうるが、本明細書にいう「水溶性薬剤類」には、そのような各種脂質成分は包含されない。
【0047】
水溶性薬剤類のうち、医療用のリポソームなどに用いられるものとしては、たとえば、造影剤(X線造影用の非イオン性ヨード化合物、MRI造影用のガドリニウムとキレート化剤とからなる錯体等)、抗がん剤(アドリアマイシン、ビラルビシン、ビンクリスチン、タキソール、シスプラチン、マイトマイシン、5−フルオロウラシル、イリノテカン、エストラサイト、エピルビシン、カルボプラチン、イントロン、ジェムザール、メソトレキセート、シタラビンアイソボリン、テガフール、シスプラチン、エトポシド、トポテシン、ビラルビシン、ネダプラチン、シクロホスファミド、メルファラン、イホスファミド、テスパミン、ニムスチン、ラニムスチン、ダカルバチン、エノシタビン、フルダラビン、ペントスタチン、クラドリビン、ダウノマイシン、アクラルビシン、イビルビシン、アムルビシン、アクチノマイシン、タキソテール、トラスツブマブ、リツキシマブ、ゲムツズマブ、レンチナン、シゾフィラン、インターフェロン、インターロイキン、アスパラギナーゼ、ホスフェストロール、ブスルファン、ボルテゾミブ、アリムタ、ベバシズマブ、ネララビン、セツキシマブ等)、抗菌剤(マクロライド系抗生物質、ケトライド系抗生物質、セファロスポリン系抗生物質、オキサセフェム系抗生物質、ペニシリン系抗生物質、ベータラクタマーゼ配合剤、アミノグリコシド系抗生物質、テトラサイクリン系抗生物質、ホスホマイシン系抗生物質、カルバペネム系抗生物質、ペネム系抗生物質)、MRSA・VRE・PRSP感染症治療剤、ポリエン系抗真菌剤、ピリミジン系抗真菌剤、アゾール系抗真菌剤、キャンディン系抗真菌剤、ニューキノロン系合成抗菌剤、抗酸化性剤、抗炎症剤、血行促進剤、美白剤、肌荒れ防止剤、老化防止剤、発毛促進性剤、保湿剤、ホルモン剤、ビタミン類、核酸(DNAもしくはRNAのセンス鎖もしくはアンチセンス鎖、プラスミド、ベクター、mRNA、siRNA等)、タンパク質(酵素、抗体、ペプチド等)、ワクチン製剤(破傷風などのトキソイドを抗原とするもの;ジフテリア、日本脳炎、ポリオ、風疹、おたふくかぜ、肝炎などのウイルスを抗原とするもの;DNAまたはRNAワクチン等)などの薬理的作用を有する物質や、色素・蛍光色素、キレート化剤、安定化剤、保存剤などの製薬助剤が挙げられる。
【0048】
薬剤重量比(D/F)
リポソームを構成する脂質成分(F)に対する内包対象薬剤(D)の重量比(D/F)は大きい方が好ましい、つまり、より少量の脂質成分(F)を用いてより多量の内包対象薬剤(D)をリポソームに内包させることが好ましい。
【0049】
内包対象薬剤(D)の薬剤重量比(D/F)(以下、「薬剤重量比(D/F)」または単に「薬剤重量比」と称する場合がある。)は、次式により算出される:
薬剤重量比=リポソームに内包されている内包対象薬剤(D)の質量/リポソームを構成する脂質成分(F)の質量。
【0050】
この薬剤重量比(D/F)は、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.5以上に設定することができる。なお、薬剤重量比(D/F)の上限値は、リポソームの粒径(粒径が大きいほどリポソームを構成する脂質成分(F)の量は少なくなる)と、内包対象薬剤(D)の水に対する溶解度や内包率(これらが高いほどリポソームに内包される内包対象薬剤(D)の量は大きくなる)によって変動し、一概に設定できるものではない。
【0051】
後述する水相置換工程(4)において上記のような薬剤重量比(D/F)の条件を満たすリポソームを調製するためには、所望の重量比(D/F)の条件を満たす量の内包対象薬剤(D)および脂質成分(F)を用い、内包対象薬剤(D)については水性溶媒(w1)に、脂質成分(F)のうち脂質成分(F1)については揮発性の炭化水素系有機溶媒(o)に、脂質成分(F)のうち非結晶性の脂質成分(FN)については水相液(W2)及び所要によりW1/Oエマルションに、脂質成分(F)のうち脂質成分(F2)については水相液(W2)及び/またはW1/Oエマルションに、それぞれ、溶解すればよい。
【0052】
以下、内包対象薬剤(D)および脂質成分(F)の必要量の計算例(薬剤重量比を0.5〜5とする場合)を示す。
水溶性薬剤を内包させる目的は、水溶性薬剤を内水相としての水相液(W1)に溶解することによって達成される。したがって水溶性の高い薬剤類は、水相液(W1)に高濃度で溶解すれば、内包される絶対量は増やすことができる。一方、水相液(W1)の量は適宜変えることができ、所定の粒径の粒子(W1/O)を作成しようとすれば、それに必要な脂質の量(個数)は計算できる。たとえば、100 nm のW1/Oエマルション(粒子体積0.0005 μm3)を形成する場合、水相液(W1)(内水相) 1.0 mLで製造すれば2.0 x1015個のW1/O粒子が生成する計算である。一方、100 nm のW1/Oナノエマルション(粒子表面積2500 nm2)はリン脂質分子(レシチン表面積0.7 nm2) 0.4 x105個で構成されている、と計算される。したがって、薬液 1.0 mL の一次乳化に必要な脂質量は、2.0 x1015個x0.4 x105個=0.8 x1020個、すなわち0.132 mmolである。レシチン以外の脂質分子も、その表面積はおおよそ0.7 nm2として差し支えないため、脂質類の総量として0.132 mmolが100 nm のW1/Oナノエマルションを作成するのに必要最少量と考えられる。リポソームを作成するには、その倍の0.264 mmolが必要であり、代表的なリン脂質のDPPCで分子量換算すると193 mgが必要である。
【0053】
そこで、薬剤を1.0 mLに溶解し、100 nmのリポソームを作成する場合を考えると、薬局法記載の通りシタラビンは0.1〜1.0 g溶解するので、薬剤重量比0.1 g/0.193 g〜1.0 g/0.193 g、イオヘキソール(造影剤)は1.0 g以上溶解するので、薬剤重量比1.0 g/0.193 g以上である。これは、脂質量を低減して効率的に薬剤を内包できることを意味し、脂質の投与量を減らすことができる点、臨床上有意義であり、本手法により薬剤重量比0.5〜5が達成できる。さらに、より多くの薬剤を溶解すると、一般的に飽和状態に近づき粘度が上昇する。本手法により、内水相の粘度として10mPa・sまで内包可能である。
【0054】
また、100 nmより大きい粒子を製造する場合には、脂質の必要量はそれより少なくて済むので、より効率的ということになる。
水溶性の高い薬剤類を内包対象薬剤(D)として高濃度で溶解した水相液(W1)を得る工夫は、薬剤が過飽和状態で溶解した水相液(W1)を用意することでも実現できる。この方法で、内包される薬剤の絶対量をさらに増やすことができる。アモルファス状態の薬剤を用意して溶解する、ナノ粒子状結晶薬剤を用意して溶解するあるいは溶解助剤を添加する、と言った方法で過飽和状態を実現できる。ただし、過飽和状態からの薬剤結晶の析出は容易に進行するので、過飽和状態での実験作業は数時間以内に限られるのが一般的である。しかしながら、析出のメカニズムの研究が進むにつれ、過飽和技術も進歩して工業化に耐えうるようになってきたので、長時間に及ぶ実験作業も現実味を帯びてきている。すなわち、析出のメカニズムとしては、溶液中で析出が起こるバルク析出機構(bulk precipitation mechanism: BPM)と固体表面で析出が起こる表面析出機構(surface precipitation mechanism: SPM)の2種類が提唱されており、内包対象薬剤(D)がどちらに属するかを判別して、適切な過飽和化を実現できるようになってきている。実際に、結晶化の刺激となる埃などの要因を排除すれば、実験作業は半日以上問題ないケースもある。
【0055】
リポソームおよびその水性分散液
本発明のリポソーム、典型的には以下に説明するような本発明の製造方法により得られるリポソームは、非結晶性の脂質成分(FN)が添加されている水相液(W2)を外水相とするものであり、非結晶性の脂質成分(FN)が添加されていない水相液(W2)を外水相とするものに比べてW/O/Wエマルション形成をより円滑に進めることができる。
【0056】
なお、本発明において、「単胞リポソーム」(ULV、単核リポソームと同義である)は、単一の内水相を有するリポソーム構造物を指し、体積平均粒径はナノメートルの範囲、通常は20〜500nm程度である。これに対して、「多胞リポソーム」(MVL: multivesicular liposomes)は、複数の非同心円状の内水相を包囲する脂質膜を含んでなるリポソーム構造物を指し、また「多重膜リポソーム」(MLV)は、複数の「タマネギの皮」のような同心円状の膜を有し、その間に殻様の同心円状の水系コンパートメントがあるリポソーム構造物を指す。多胞リポソームおよび多重膜リポソームの体積平均粒径はマイクロメートルの範囲、通常は0.5〜25μm程度である。
【0057】
本発明のリポソームは、典型的には以下に説明するような本発明の製造方法により、水相液(W2:外水相)中に懸濁した状態で得られる。このようなリポソームの水性分散液が各種の用途に供されるが、使用されるまでの間、たとえば凍結乾燥法などにより粉末状態のリポソームとして保存することもできる。使用の際には、粉末状態のリポソームを水性溶媒に添加し、再度懸濁させればよい。
【0058】
本発明のリポソームのサイズは、体積平均粒子径が50nm以上200nm以下であるので、毛細血管を閉塞するおそれがほとんどなく、またがん組織近辺の血管にできる間隙を通過することもできるため、医薬品等として人体に投与して使用する上で好都合である。
【0059】
なお、本発明における、リポソームおよびエマルションの体積平均粒子径は、動的光散乱法により測定されるものであり、たとえば、リポソームの水性懸濁液をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)で10倍に希釈し、動的光散乱式ナノトラック粒度分析計(UPA−EX150、日機装株式会社)を用いて粒度分布や体積平均粒子径を算出することができる。
【0060】
〔リポソームの製造方法〕
本発明のリポソームの製造方法は、少なくとも下記工程(1)〜(4)を含み、必要に応じてその他の工程をさらに含むことができるものである。そして、これらの工程を得ることで、平均粒径50nm以上200nm以下の単胞リポソームが得られるのである。
【0061】
(1)一次乳化工程
一次乳化工程は、脂質成分(F1)を揮発性の炭化水素系有機溶媒(o)に溶解または分散した油相液(O)と、内包対象薬剤(D)を水性溶媒(w1)に溶解して得られる水相液(W1)とを混合乳化することによりW1/Oエマルションを調製する工程である。
【0062】
この一次乳化工程において、脂質成分(F1)の代わりに非結晶性の脂質成分(FN)を用いることができる。この場合、非結晶性の脂質成分(FN)は、水相液(W1)中に溶解または分散した形で用いることができる。水相液(W1)に非結晶性の脂質成分(FN)が添加されていると、結晶状態の脂質成分を添加したときと比べて小さなリポソーム粒子を得ることができ、且つその粒度分布もシャープになるので好ましい。
【0063】
W1/Oエマルションを調製するための方法は特に限定されるものではなく、従来のリポソームの製造方法でも用いられているような方法を採用することができる。たとえば、超音波乳化機、撹拌乳化機、膜乳化機、高圧ホモジナイザーなどの装置を用いた乳化方法が挙げられるが、平均粒径を広い範囲で制御でき、かつ得られるW1/Oエマルションが単分散性となるような方法が好ましい。ここで、超音波乳化機を用いる場合、パルス状に発振される超音波(以下、「パルス超音波」と呼ぶ。)を適用して一次乳化を行うことが好ましい。かかる方法によれば、一次乳化に伴って生じる発熱を抑えることができるので、本発明で用いられる工程(1)〜(4)を含む全ての工程を低温(例えば、5〜10℃)で行うことも可能となる。また、かかる方法を用いる場合、発振された超音波が乳化を行う系において局所に集中することを回避できることから、均一なW1/Oエマルションの形成が速やかに進行すると推測しており、これによって、粒度分布の狭いリポソーム粒子を得ることができると考えられる。
【0064】
水相液(W1)のpHは、通常3〜10の範囲で調節され、たとえば、脂質成分にオレイン酸を用いる場合、pHは6〜8.5とすることが好ましい。pHを調整するためには適切な緩衝液を用いればよい。
【0065】
一次乳化工程におけるその他の条件、たとえば、脂質成分(F1)の量(油相液(O)を構成する揮発性の炭化水素系有機溶媒(o)に対する割合)、油相液(O)と水相液(W1)の体積比、W1/Oエマルションの平均粒径などは、公知のリポソームの製造方法(一次乳化工程)に準じて、続く二次乳化工程の条件や最終的に調製するリポソームの態様などを考慮しながら、適宜調節することができる。通常、脂質成分(F1)の量は油相液(O)に対して1〜50質量%の割合であり、油相液(O)と水相液(W1)との体積比は100:1〜1:2である。W1/Oエマルションの体積平均粒径は、好ましくは50〜1,000nmであり、より好ましくは50〜200nmである。
【0066】
本発明では、リポソームに内包対象薬剤(D)として水溶性薬剤類を内包させるために、一次乳化工程(1)の際に、水溶性薬剤類を添加してある水相液(W1)を用いてW1/Oエマルションを得てから、後述する二次乳化工程(2)および溶媒除去工程(3)を行うことにより、二次乳化工程終了時点で当該水溶性薬剤類を内包するリポソームが得られるようにする方法を用いることもできる。
【0067】
ここで、内包対象薬剤(D)を水性溶媒(W1)に溶解して得られる含薬剤水溶液において、内包対象薬剤として用いられる薬剤類が過飽和状態で溶解していてもよい。この場合、後述する水相置換工程(4)において、薬剤重量比(D/F)が大きいリポソーム含有製剤、例えば、この重量比(D/F)が0.05以上、好ましくは0.5以上のリポソーム含有製剤を調製する上で有利となることがある。
【0068】
なお、必要であれば、内包対象薬剤(D)として脂溶性の物質(脂溶性薬剤類)を、本発明のリポソームの脂質膜内に内包させることも可能である。その場合は、脂溶性薬剤類を、一次乳化工程(1)の際に油相液(O)に溶解させた状態で添加すればよい。
【0069】
(2)二次乳化工程
二次乳化工程は、上記一次乳化工程(1)により得られたW1/Oエマルションと、非結晶性の脂質成分(FN)を添加した水相液(W2)とを混合乳化することによりW1/O/W2エマルションを調製する工程である。本発明では、水相液(W2)中に非結晶性の脂質成分(FN)が添加されているので、結晶状態の脂質成分が添加されている場合と比べて、リポソームに内包される内包対象薬剤(D)の内包率が向上する利点がある。これは、脂質の配列速度が向上し、目的の構造体が早く得られるため、配列途中の構造体が崩壊する速度に勝っていることが要因と考察できる。
【0070】
ここで、非結晶性の脂質成分(FN)は、水相液(W2)に添加された形で用いることができるとともに、混合乳化の前に予めW1/Oエマルションにも添加された形で用いることもできる。この場合、非結晶性の脂質成分(FN)は、W1/Oエマルションに溶解または分散した形で添加することができる。
【0071】
W1/O/W2エマルションを調製するための方法は特に限定されるものではなく、従来のW1/O/W2エマルションの製造方法でも用いられているような方法を採用することができる。
【0072】
たとえば、乳化操作時の液滴の崩壊および液滴からの内包物質の漏出を抑えるため、乳化処理に大きな機械的剪断力を必要としないマイクロチャネル乳化法を用いることが好適である。マイクロチャネル乳化法では、たとえば、シリコン製マイクロチャンネル基板およびこの基板上部を覆うガラス板から構成される、マイクロチャネル乳化装置モジュールを使用する。上記基板およびガラス板により形成される溝型マイクロチャネルの出口側、あるいは上記基板上に加工された貫通型マイクロチャネルの出口側には、外水相をなす水相液(W2)を満たしておき、マイクロチャネルの入口側からW1/Oエマルションを圧入することで、W1/O/W2エマルションを形成できる。上記基板としては、デッドエンド型、クロスフロー型、貫通孔型など、種々の形態のものを用いることができる。
【0073】
また、W1/Oエマルションを乳化膜に通過させて水相液(W2)中に液滴として分散させることによりW1/O/W2エマルションを調製する、膜乳化法を用いることもできる。特に、直径0.1〜5.0μm程度の微細な細孔を有するSPG(Shirasu Porous Glass:シラス多孔質ガラス)で形成された乳化膜を用いる膜乳化法が好適であり、コストが安く処理量が多い、工業的に有利な方法とすることができる。
【0074】
なお、W1/O/W2エマルションの平均粒径の単分散性を向上させるために、上記のような方法または他の方法による膜乳化でW1/O/W2エマルションを得た後、さらに1回ないし複数回、当該膜乳化で用いた膜と同じ膜またはそれとは異なる膜にW1/O/W2エマルションによる膜処理を行ってもよい。特に、膜乳化に用いる膜よりも小さな細孔径を有する膜を用いて膜処理を行うようにした場合、膜処理を行うことなく1回の膜乳化でW1/O/W2エマルションを調製する場合に較べて、膜乳化および膜処理それぞれの膜への負荷(エマルションを膜に通過させるために必要な圧力)を小さくすることができ、それにより膜の長寿命化や二次乳化工程に要する処理時間の短縮を図ることができ、リポソームの生産性の向上および低コスト化にも有利である。
【0075】
また、本発明では、二次乳化工程(2)における混合乳化を、機械的剪断力の生じる可能性のある撹拌乳化によって行うことによっても、W1/O/W2エマルションを得ることができる。
【0076】
撹拌乳化については二液以上の流体を混合するために用いられる方法・装置を用いることができる。たとえば攪拌装置にはいろいろな形状の物が存在する。単に棒・板・プロペラ状の攪拌子を槽内で一定速度・一方向に回転させるものが多いが、攪拌子を間欠回転させたり逆回転させる場合もある。特殊な状況では複数の攪拌子を並べ交互に逆回転させたり、槽側に攪拌子と組合された突起あるいは板を取り付けて攪拌子が発生するせん断応力を増強させるなどの様々な工夫がなされる。攪拌子への動力伝達方法も様々であり、回転軸を介して攪拌子を回転させるものが殆どであるが、磁石を封入しテフロン(登録商標)等でコーティングした攪拌子を容器の外部から回転する磁界で動力を伝達するマグネチックスターラーも存在する。
【0077】
本発明では、上記一次乳化工程(1)により得られたW1/Oエマルションと、非結晶性の脂質成分(FN)を添加した水性溶媒(W2)とを混合乳化する際に、下記式(e1)の条件を満たす撹拌乳化により実施することが好ましい。
【0078】
0.02385 <r×n/L' < 0.1431 (e1)
上記式(e1)において、rは攪拌子の半径[m],L'はW1/Oエマルションの粒径[nm],nは攪拌子の毎分回転数[rpm]を表す。
【0079】
ここで、上記式(e1)は、流体の移動に伴う運動量を表したニュートン則のひとつである、
τ (せん断力) = μ (粘度) x v(速度)/ L (長さ) (e2)
および以下に示すいくつかの仮説に基づいて考案し、実験により確からしさを検証したものである。
【0080】
先に示した通り二次乳化工程(2)における混合乳化は、撹拌によるせん断現象によっても進行するし、マイクロチャネルにおけるちぎれ現象によって進行する。このちぎれ現象は流体の表面張力という力が働いて起こる現象ととらえられ、その力の大きさはたとえばSugiura, Langmuir 2001,5562によって測定されている。すなわち、マイクロチャネルにおけるオリーブ油液滴形成の実測表面張力が4.5 mN/mであった。ところで、流体力学の基礎方程式(オイラー方程式)のさまざまな展開が研究者によって進められ、流体に働く力の近似式がすでに提示されている。慣性力、重力、粘性力、界面張力などが流体に働く力として知られており、界面張力は次の式で近似される。
【0081】
表面張力=界面張力(単位長さあたりの表面張力)× 系の代表長さ= ρ x L
液滴が直径17.8μmで生成していることからSugiuraらの系での界面張力は、2.5×102 [Pa]と算出される。
【0082】
4.5 x 10-3 [N/m] /17.8 x 10-6 [m] = 2.5×102 [Pa]
流体に働く力として界面張力が支配的なマイクロチャネルの乳化条件と、せん断力が支配的な撹拌の乳化条件を同列の扱うことには無理があり、次の仮説を数学的に検証することは困難ではあるが、最終的には実験的な検証から式(e1)の妥当性が判明した。その仮説とは、この界面張力を同等の力を、攪拌におけるせん断力として与えることにより同様のちぎれ現象が起こるとの仮定である。すなわち、せん断力をτ=2.5×102 [Pa]と仮定し、粘度μについて、水とヘキサンの中間の値としてμ=0.0005(=0.5×10-3) [PaS]と仮定し、LがW1/Oエマルション粒径の10倍であると仮定すると、上記式(e2)は、攪拌子の半径r[m],W1/Oエマルションの粒径L'[nm],攪拌子の毎分回転数n[rpm]を用いて、
2.5×102 = 0.0005×(2π×r×n/60)/(10×L'×10?9) (e2’)
と表すことができる。ここで、LをW1/Oエマルションの10倍と仮定したのは、W1/Oエマルション粒径の10倍程度の粒径を有する粒子をせん断する力であれば、W1/Oエマルションはせん断されないと推定したからである。
【0083】
上記(e2’)をさらに変換すると、
r×n/L' = (2.5×102)×(10×10?9)/(0.0005×2π)×60 ≒ 0.0478
と算出される。
【0084】
ここで、界面張力と同程度という仮定を、界面張力の0.5倍から3倍程度としますと、これに対応してr×n/L'もまた、0.0478の0.5倍から3倍程度となり、
0.0478×0.5 <r×n/L' < 0.0478×3
すなわち、
0.02385 <r×n/L' < 0.1431 (e1)
と導き出される。
【0085】
本発明においては、上記攪拌子の毎分回転数nが100〜10000であると、攪拌操作の取り扱いの面から好ましい。
さらに、小型観賞用水槽のエアレーション装置や工業用スプレードライ装置等、粘度の低い流体では攪拌子を使わずに、槽の流体や外気を槽外に設置したポンプで加圧して槽内にいきよい良く吹き込むことで槽内を攪拌する装置も存在する。また、ミルと呼ばれる粉砕機としてハンマーミル、ピンミル、オングミル、コボルミル、アスペックミル、ボールミル、ジェットミル、ロールミル、コロイドミル、ディスパーミルなどがあるが、これらは、圧縮力・圧搾力・膨張力・せん断力・衝撃力・キャビテーション力などの機械的な力の作用により流体を混合するものである。したがって、本発明においては、攪拌子による攪拌の代わりに、これらの装置を用いて攪拌を行っても良い。さらに、こうした機械的な方法以外にも、電気的な撹拌方法を使用することもできる。
【0086】
二次乳化工程におけるその他の条件、たとえば、W1/Oエマルションと水性溶媒(W2)の体積比、W1/O/W2エマルションの平均粒径などは、公知のリポソームの製造方法(二次乳化工程)に準じて、最終的に調製するリポソームの用途などを考慮しながら適宜調節することができる。
【0087】
また、二次乳化工程(2)においては、必要に応じて脂質成分(F2)が、水相液(W2)およびW1/Oエマルションのうちの少なくとも何れか一方に添加されていても良い。
【0088】
さらに、二次乳化工程(2)では、水相液(W2)に乳化剤(R)を添加してもよい。本発明において必要に応じて水相液(W2)に添加される乳化剤(R)は、図1に示すように、分散剤として機能することができる。
【0089】
本願で用いることのできる乳化剤(R)として、リポソーム脂質膜を破壊しない水溶性乳化剤(r)が挙げられる。界面化学の分野では多くの乳化剤が知られており、代表的には、タンパク質、多糖類、イオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤などが、水溶性乳化剤として乳化・分散プロセスに用いられている。
【0090】
上記タンパク質としては、ゼラチン(コラーゲンを加熱により変性させた可溶性のタンパク質)、アルブミンやトリプシンなどが挙げられる。ゼラチンは通常、数千〜数百万の分子量分布を有するが、たとえば重量平均分子量が1,000〜100,000であるものが好ましい。医療用ないし食品用として市販されているゼラチンを用いることができる。アルブミンには、卵アルブミン(分子量約45,000)、血清アルブミン(分子量約66,000…ウシ血清アルブミン)、乳アルブミン(分子量約14,000…α−ラクトアルブミン)などが含まれ、たとえば卵アルブミンである乾燥脱糖卵白が好ましい。
【0091】
上記多糖類としては、デキストラン、デンプン、グリコーゲン、アガロース、ペクチン、キトサン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グァーガム、マルトトリオース、アミロース、プルラン、ヘパリン、デキストリンなどが挙げられ、たとえば重量平均分子量が1,000〜100,000のデキストランが好ましい。
【0092】
上記イオン性界面活性剤としては、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウムなどが挙げられる。
上記非イオン性界面活性剤としては、オクチルグルコシド等のアルキルグリコシド、ポリアルキレンオキサイド系の化合物、たとえば「Tween 80」(東京化成工業株式会社,ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート,分子量1309.68)や「プルロニック F-68」(BASF、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコール、数平均分子量9600)の製品や、重量平均分子量が1000〜100000のポリエチレングリコール類などが挙げられる。ポリエチレングリコール(PEG)類は、製品として「ユニルーブ」(日油株式会社)、GL4-400NP、GL4-800NP(日油株式会社)、PEG200,000(和光純薬)、マクロゴール(三洋化成工業株式会社)などが挙げられる。
【0093】
分子量は、小さすぎると脂質膜中に混入しやすくなってリポソームの形成を阻害するおそれがあり、逆に大きすぎるとW1/O/W2エマルションの外水相中への分散や界面への配向の速度が遅れてリポソームの合一や多胞リポソームの形成につながるおそれがある。そのため、水溶性乳化剤の重量平均分子量は1,000〜100,000の範囲内にあることが好ましい。また、この範囲の重量平均分子量であると、リポソームの薬剤の内包率が良い。
【0094】
上記のようにして脂質成分(F2)および/または水溶性乳化剤(r)を用いる場合の各種の条件、たとえば、それらの量や、水相液(W2)およびW1/Oエマルションとの混合態様(添加順序等)は特に限定されるものではなく、公知のリポソームの製造方法に準じて、適切なものとすればよい。たとえば脂質成分(F2)が主として水溶性脂質からなる場合、あらかじめそのような脂質成分(F2)および/または水溶性乳化剤(r)をW2に添加しておき、それにW1/Oエマルションを添加して乳化処理を行うことができる。一方、脂質成分(F2)が主として脂溶性脂質からなる場合、あらかじめ(W1/Oエマルション調製後)そのような脂質成分(F2)をW1/Oエマルションの油相に添加しておき、それを、必要に応じて水溶性乳化剤(r)が添加されている水相液(W2)に添加して乳化処理を行うことができる。
【0095】
(3)溶媒除去工程
溶媒除去工程は、上記二次乳化工程(2)を経て得られたW1/O/W2エマルションから有機溶媒、具体的には揮発性の炭化水素系有機溶媒(o)(以下、単に「有機溶媒(o)」と称する場合がある。)を除去することによりリポソーム分散液を調製する工程である。これにより、脂質成分(F1)(および必要に応じて添加される(F2))からなる脂質膜を内水相の周囲に形成し、リポソームを得ることができる。有機溶媒の除去の進行につれて、リポソームを構成する脂質の水和が進み、多胞リポソームが解けて単胞のリポソーム状態にばらけるか、またはW1/O/W2エマルションの界面に近い位置から単胞のリポソームがちぎれて形成されるものと考えられる。
【0096】
溶媒除去工程は、W1/O/W2エマルションを回収し、開放容器内に移し静置あるいは撹拌することで、W1/O/W2エマルションに含まれる有機溶媒(o)を蒸発除去することによって好適に行うことができる。
【0097】
上記のような方法によるW1/O/W2エマルションからの溶媒除去は、定法に従い、必要に応じて加温、減圧、撹拌を用いながら行えばよい。
溶媒除去は、W1/O/W2エマルションを開放容器内に静置したままでも行うことができるが、撹拌すればより均一に溶媒除去が進み、気液界面が広がることで溶媒除去にかかる時間も短縮される。二次乳化工程(2)において撹拌乳化法によりW1/O/W2エマルションを調製した場合は、その後さらに撹拌を継続して溶媒を除去するといったように、二次乳化工程(2)と溶媒除去工程(3)とを連続的に行うことも可能である。
【0098】
温度条件は、有機溶媒(o)として用いる化合物の種類に応じて、突沸することなくそれを蒸発させることのできる範囲で調整すればよいが、0〜60℃の範囲が好ましく、0〜25℃がより好ましく、5〜10℃が特に好ましい。
【0099】
また、減圧条件は、有機溶媒(o)の飽和蒸気圧〜大気圧の範囲内に設定されることが好ましく、有機溶媒(o)の飽和蒸気圧の+1%〜10%の範囲内に設定されることがより好ましい。2種以上の揮発性の炭化水素系有機溶媒からなる混合溶媒を有機溶媒(o)として用いる場合、より飽和蒸気圧の高い溶媒種に合わせた条件が好ましい。これらの除去条件は、溶媒が突沸しない範囲で組み合わせてもよく、例えば、熱に弱い薬剤を使用する際は、より低温側でかつ減圧条件で溶媒を溜去することが好ましい。
【0100】
なお、上記のような製造方法により得られるリポソームには、製法の工程上、W1/O/W2エマルション由来の多胞リポソームがある程度の割合含まれることがあるが、これを減じるために、撹拌、減圧、またはそれらの組み合わせを行うことが効果的である。たとえば、溶媒の大半が抜ける時間より長く減圧および撹拌を行なうことにより、リポソームを構成する脂質の水和が進み、内包物の漏出を起こさないまま、多胞リポソームが解けて単胞のリポソーム状態にばらけることが可能である。また、本法で副生する、あるいは残存する多胞リポソームはその内部がW1/O由来の50〜200nm程度の水滴を多く含む構造であるので、W1/Oの粒子径よりもわずかに大きな孔径のフィルターを通過させることで、50〜200nm程度の単胞リポソームへ変換することも可能である。このような操作をしても残った多胞リポソームがある場合には、フィルターにより除去することもできる。
【0101】
(4)水相置換工程
水相置換工程は、上記溶媒除去工程(3)を経て得られたリポソーム分散液から水相液(W2)を除去し、水相液(W3)を添加して、リポソーム製剤を調製する工程である。この水相置換工程は、水相液(W2)に含まれることがある乳化剤(R)を除去することを主な目的としている。ただ、本発明では、この水相置換工程において、除去する水相液(W2)の量よりも、添加する水相液(W3)の量を少なくする場合がある。そのような場合、この水相置換工程は、実質的に濃縮工程としての性格をも有する。
【0102】
ここで、水相液(W2)の除去は、リポソームが破壊されない限り特に方法のいかんを問うものではないが、例えば、上記工程(3)を経て得られたリポソーム分散液を超遠心分離に付すあるいは限外濾過に付すことにより行うことができる。少量製造の場合には超遠心分離が、大量製造の場合には限外濾過が有効と考えられる。
【0103】
また、水相液(W3)は、上記「水相液(W1)・(W2)・(W3)」の項で上述したように、水性溶媒(w1)と同一の、あるいは本発明の作用効果を阻害しない範囲で水性溶媒(w1)とは異なる水性溶媒(w3)からなる。ここで、水相液(W3)として用いられる水性溶媒(w3)は、緩衝液としての組成などその他の条件において水性溶媒(w1)と同一であればよく、水相液(W3)には内包対象薬剤(D)を溶解させる必要はない。
【0104】
水性溶媒(w3)の添加量は、目的とするリポソーム含有製剤の薬剤濃度に応じて調整することができる。薬剤濃度を高めたい場合には、水性溶媒(w3)の添加量を極力少なくすればよい。実質的には、内水相W1を含む微粒子リポソームが分散状態になるために必要最小限の水性溶媒(w3)の添加が必要となり、その添加量はW1の量と等しいかそれ以上と考えられる。したがって、本工程で得られるリポソーム含有製剤の薬剤濃度は、内水相W1に含まれる薬剤濃度の半分あるいはそれ以下になると考えられる。
【0105】
この水相置換工程(4)を経て得られるリポソーム含有製剤は、内包対象薬剤(D)を内包するリポソームが水性溶媒(w1)中に分散した形態をとる。実質的に全ての内包対象薬剤(D)はリポソームに内包された状態にある。
【0106】
以上の工程(1)〜(4)を含む本発明に係る単胞リポソームを製造する方法によれば、医療用のリポソーム製剤として好適に使用可能な体積平均粒径50nm以上200nm以下の単胞リポソームを得ることができる。ここで、本発明においては、水相置換工程(4)を得て得られるリポソーム含有製剤が、リポソームを構成する脂質成分(F)に対する内包対象薬剤(D)の重量比(D/F)が大きいものとすることができ、例えば、この重量比(D/F)が0.05以上、好ましくは0.5以上のリポソーム含有製剤を調製することが可能である。
【0107】
(5)その他の工程
上記工程(1)〜(4)のほか、本発明において必要に応じて行われるその他の工程としては、たとえば分離工程、整粒工程や乾燥粉末化工程が挙げられる。
【0108】
分離工程は、乳化剤とリポソームとを分離し、リポソーム分散液中から乳化剤を除去するための工程であり、所要により、前記溶媒除去工程(3)の後水相置換工程(4)の前に行われる。たとえば、精密濾過膜(MF膜,孔径50nm〜10μm程度)または限外濾過膜(UF膜,孔径2〜200nm程度)を用いれば、リポソームと自己による分子集合体(たとえば体積平均粒径10nm以下)を形成した乳化剤とを効率よく分離することができる。なお、製品の用途に鑑みて、乳化剤とリポソームとを分離しなくとも問題がない場合には、この分離工程は設けなくともよい。
【0109】
整粒工程により、調製されたリポソームの粒径を所望の範囲に調整することができる。たとえば、孔径0.1〜0.4μmのポリカーボネート膜またはセルロース膜をフィルターとして装着した静圧式押出し装置(日油リポソーム社製「エクストルーダー」、野村マイクロサイエンス社製「リポナイザー」など)を用いることにより、中心粒径が50〜200nm程度のリポソームが効率よく得られる。上記「エクストルーダー」等を用いれば、W1/O/W2エマルションから副次的に形成された多胞リポソームをばらして単胞リポソームにすることができる。
【0110】
また、リポソームの分散液を凍結乾燥などにより乾燥粉末化し、使用するまでの間の保管に適した形態にすることも望ましい。凍結乾燥は従来のリポソームを製造する場合と同様の手段や装置を用いて行うことができる。たとえば、間接加熱凍結方法、冷媒直膨方法、熱媒循環方法、三重熱交換方法、重複冷凍方法などに従い、適切な条件下(温度:−120〜−20℃、圧力:1〜15Pa、時間:16〜26時間など)で凍結乾燥を行えばよい。このようにして得られた凍結乾燥物を水中に投入すれば、再びリポソームの分散液を調製することができる。
【0111】
なお、本発明の好適な態様においては、上記工程(1)〜(5)に記載したすべての工程を5−10℃で実施することができる。このような態様の下では、蛋白質など熱に弱い物質を内包対象薬剤(D)として用いたリポソームを製造することも可能となる。特に製造管理の厳しい医薬品グレードの製造では、内包する薬剤の劣化はわずかであっても問題視されるので、低温での製造は劣化防止の有効な対策になりえる。
【実施例】
【0112】
(W1/Oエマルションおよびリポソームの粒度分布の測定方法)
W1/Oエマルションはヘキサン/ジクロロメタン混合有機溶媒(体積比:1/1)で10倍に希釈した後、一方リポソーム分散液はそのまま、動的光散乱式ナノトラック粒度分析計(UPA−EX150、日機装株式会社)を用いて粒度分布を測定した。その結果に基づき、W1/Oエマルションまたはリポソームの体積平均粒径を算出した。
【0113】
(内包率の算出)
各実施例および比較例において、W1に溶解している水溶性薬剤(シタラビン、siRNA)を以下のように定量した。すなわち、一次乳化工程で得られたW1/OエマルジョンにおいてW1に溶解している薬剤、二次乳化工程で得られたW1/O/W2エマルジョンにおいてW1に溶解している薬剤、および溶媒除去工程で得られたリポソームの内水相W1に溶解している薬剤は、超遠心装置を用いてO相と分離されたW1相、W2相と分離されたW1/Oエマルジョン、および外水相(上澄)と分離されたリポソーム(固形分)をそれぞれ分析してその量を決定した。
【0114】
水溶性薬剤(D)がシタラビンの場合にはHPLC(カラム:VarianPolaris C18-A(3μm, 2x40mm))を用いて定量し、siRNAの場合にはHPLC(カラム:Develosil ODS-UG-5(6x150mm))を用いて定量した。
【0115】
各粒子のW1相に存在している水溶性薬剤の量(a)および水溶性薬剤の仕込み量(b)から、計算式a/b×100[%]により算出される値を、上記各水溶性薬剤の内包率とした。
【0116】
なお、以下の記載において、「水相液」および「油相液」を、それぞれ「水分散相」および「有機溶媒層」と呼ぶ場合がある。例えば、下記の記載にいう「水分散相(W1)」は、「水相液(W1)」に相当する。
【0117】
≪非結晶性の脂質成分(FN)を添加する効果≫
以下の比較例1−1,1−2および1−3並びに実施例1−1および1−2により、非結晶性の脂質成分(FN)が添加された水相液を水相液(W2)として用いる効果について検討した。ここで、実施例1−2においては、非結晶性の脂質成分としてフィルム状脂質を用いている。
【0118】
[比較例1−1]
本比較例では、非結晶性の脂質成分(FN)を用いることなく、脂質成分(F1)を用いてリポソームの製造を行った。
【0119】
(一次乳化工程によるW1/Oエマルションの製造)
ホスファチジルコリン(DPPC, 日油株式会社)0.3g、コレステロール(Chol, 日油株式会社)0.152gおよびオレイン酸(OA)0.108gを含むヘキサン15mLを油相液(O)とし、シタラビン(0.4mM:分子量243.22)を含むトリス−塩酸緩衝液(pH8、50mmol/L)5mLを内水相用の水相液(W1)とした。50mLのビーカーにこれらの混合液を入れ、直径20mmのプローブをセットした超音波分散装置(UH−600S、株式会社エスエムテー)により、25℃にて15分間超音波を照射し(出力5.5)、乳化処理を行った。上記方法に従って測定したところ、この一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションは体積平均粒径約168nmの単分散W1/Oエマルションであることが確認された。このW1/Oエマルションにおけるシタラビンの内包率は55%であった。
【0120】
(二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造)
続いて、半径16mmの攪拌子を用いたマグネチックスターラーにより、0.1%プルロニックを含むトリス−塩酸緩衝液(pH8、50mmol/L)である水相液(W2)を強く撹拌しているところに(回転数1000rpm)、上記一次乳化工程により得られたW1/Oエマルションの一部を供給し、W1/OとW2の容積比が1:3となる比率で混合撹拌してW1/O/W2エマルションを製造した。その結果、微細で粒度分布が正規分布を示すリポソーム粒子の分散液が得られ、この粒子内にはシタラビンが含まれていることが確認された。このW1/O/W2エマルションにおけるシタラビンの内包率は48%であった。
【0121】
(溶媒除去工程によるリポソームの製造)
次に、上記W1/O/W2エマルションを蓋のない開放ガラス製容器に移し替え、室温下で約20時間、攪拌子により撹拌し、ヘキサンを揮発させた。溶媒除去後のシタラビンの内包率は46%であった。
【0122】
(水相置換工程によるリポソーム製剤の調製)
得られたリポソーム溶液を超遠心分離に付し、上澄みの水相液(W2)を除去しながら、水相液(W3)としてトリス−塩酸緩衝液(pH8、50mmol/L)を添加して、水相液(W2)に含まれるシタラビンを排除した。最終的に内水相用の水相液(W1)5mLの倍の体積である、10 mLのリポソーム製剤を調製した。得られたリポソーム製剤におけるリポソームの体積平均粒径は、165nmであった。
【0123】
この製剤中にシタラビンは100%リポソームに内包されている。すなわち、このリポソ−ム製剤中には、仕込みのシタラビンの46%(0.4mM×5mL×243.22×0.46×1.00=0.22mg)を内包するリポソームが含有されている。また、薬剤重量比(D/F)は、0.22[mg]/(300+152+108)[mg]=0.22/560=0.0004である。
【0124】
超遠心分離時に、白い結晶が沈降していることが確認され、添加したが未溶解状態であったホスファチジルコリン(DPPC, 日油株式会社)およびコレステロール(Chol)の結晶であることが確認された。
【0125】
[比較例1−2]
本比較例では、非結晶性の脂質成分(FN)を用いることなく、脂質成分(F1)および脂質成分(F2)を用いてリポソーム製剤の調製を行った。
【0126】
具体的には、上記ホスファチジルコリンおよび上記コレステロールの添加量をそれぞれ半量の0.15gおよび0.075gとし、且つ、
外水相用の水相液(W2)として、上記ホスファチジルコリンおよび上記コレステロールの添加量をそれぞれ半量の0.15gおよび0.075gをさらに添加したものを用いたことを除いて、上記比較例1−1で行った方法と同じ条件を用いて、一次乳化工程によるW1/Oエマルションの製造、二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造、溶媒除去工程によるリポソームの製造、および、水相置換工程によるリポソーム製剤の調製の各工程を行うことにより、リポソーム製剤を調製した。得られたリポソーム製剤におけるリポソームの体積平均粒径は、169nmであった。
【0127】
ここで、シタラビンの内包率は、W1/Oエマルションにおいては55%であり、W1/O/W2エマルションにおいては48%であり、溶媒除去後においては45%であった。この一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションは体積平均粒径約160nmの単分散W/Oエマルションであることが確認された。超遠心分離後の製剤中にシタラビンは100%リポソームに内包されている。すなわち、このリポソ−ム製剤中には、仕込みのシタラビンの45%(0.4mM×5mL×243.22×0.45×1.00=0.22mg)を内包するリポソームが含有されている。また、薬剤重量比(D/F)は、0.22[mg]/(300+152+108)[mg]=0.22/560=0.0004である。
【0128】
[実施例1−1]
本実施例では、脂質成分(F2)に代えて非結晶性の脂質成分(FN)を用いるとともに、脂質成分(F1)も用いてリポソーム製剤の調製を行った。
【0129】
すなわち、上記ホスファチジルコリンおよび上記コレステロールの添加量をそれぞれ半量の0.15gおよび0.075gとし、
外水相用の水相液(W2)として、特開平2−167218号公報記載の方法に従ってホスファチジルコリンおよびコレステロールがそれぞれ0.15gおよび0.075g含まれるように調製された多孔質状の脂質をさらに添加したものを用いたことを除いて、上記比較例1−1で行った方法と同じ条件を用いて、一次乳化工程によるW1/Oエマルションの製造、二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造、溶媒除去工程によるリポソームの製造、および、水相置換工程によるリポソーム製剤の調製の各工程を行うことにより、リポソーム製剤を調製した。得られたリポソーム製剤におけるリポソームの体積平均粒径は、154nmであった。
【0130】
ここで、シタラビンの内包率は、W1/Oエマルションにおいては55%であり、W1/O/W2エマルションにおいては55%であり、溶媒除去後においては55%であった。この一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションは体積平均粒径約160nmの単分散W/Oエマルションであることが確認された。超遠心分離後の製剤中にシタラビンは100%リポソームに内包されている。すなわち、このリポソ−ム製剤中には、仕込みのシタラビンの55%(0.4mM×5mL×243.22×0.55×1.00=0.26mg)を内包するリポソームが含有されている。また、薬剤重量比(D/F)は、0.26[mg]/((150+75+108)+(150+75))[mg]=0.22/558=0.0004である。
【0131】
超遠心分離時に、白い結晶の沈降は認められなかった。
なお、実施例1−1および比較例1−1における二次乳化工程を撹拌乳化に代えてSPG膜乳化で実施した場合にも同様の結果が得られた。
【0132】
[実施例1−2]
本実施例では、非結晶性の脂質成分(FN)として、多孔質状の脂質に代えてフィルム状脂質を用いてリポソームの製造を行った。ここで、本実施例では、シタラビンに代えてsiRNAを内包対象薬剤として用いている。
【0133】
(一次乳化工程によるW1/Oエマルションの製造)
siRNA(ランダム配列:分子量13000)10mgを等張PBS溶液0.25mL溶解させて内水相用の水相液(W1)とし、DPPC(ジパルミトイルホスファチジルコリン、「MC-6060」、日油株式会社)50mg、およびDPPG(ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、「COATSOME MG-6060LA」、日油株式会社)10mgを含むヘキサン1.25mLを油相液(O)とした。3.5mLのサンプル瓶にこれらの混合液を入れ、φ7mmのプローブをセットした超音波分散装置(UH−600S、株式会社エスエムテー)により、20℃にて15分間超音波を照射し乳化処理を行うことにより、W1/Oエマルションを得た。この一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションは体積平均粒径約102nmの単分散W1/Oエマルションであることが確認された。このW1/OエマルションにおけるsiRNAの内包率は67%であった。
【0134】
(二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造)
あらかじめDPPCおよびDPPGがそれぞれ25 mgおよび5 mg含まれるように調製しておいたフィルム状脂質および0.1%のプルロニックF68を含む等張PBS溶液を水相液(W2)として用いた。この水相液(W2)15mL中に、上記一次乳化工程によって得られたW1/Oエマルションを供給しながら、半径16mm(すなわち、0.016m)の攪拌子を用いて回転数1000rpmで15分間撹拌して、W1/O/W2エマルションを製造した。このW1/O/W2エマルションにおけるsiRNAの内包率は67%であった。
【0135】
なお、フィルム状脂質は、DPPCおよびDPPGそれぞれ25 mgおよび5 mgをクロロフォルムに完全溶解してナスコルに入れ、エバポレーターでゆっくりとクロロフォルムを留去し、ナスコル壁面に配列した脂質膜を回収することで用意した。この回収方法は古典的リポソーム製造法であるバンガム法の一工程として知られている。
【0136】
(溶媒除去工程によるリポソームの製造)
得られたW1/O/W2エマルションを密閉容器に移し替え、20℃・500mbarの減圧条件下で約8時間攪拌し、次いで20℃・180mbarの減圧条件下で約8時間撹拌し、段階的に溶媒を揮発させた。得られたリポソーム分散液は半透明の黄色であり、この粒子内にはsiRNAが含まれていることが確認された。リポソームのsiRNAの内包率は66%であった。
【0137】
(水相置換工程によるリポソーム製剤の調製)
得られたリポソーム溶液を超遠心分離に付し、上澄みの水相液(W2)を除去しながら、水相液(W3)として等張PBS溶液を添加した。最終的に内水相用の水相液(W1)0.25mLの4倍の体積である、1.0mLのリポソーム製剤を調製した。得られたリポソーム製剤におけるリポソームの体積平均粒径は、110nmであった。
【0138】
超遠心分離処理後の製剤中にsiRNAは100%リポソームに内包されている。すなわち、このリポソ−ム製剤中には、仕込みのsiRNAの66%(10mg×0.66×1.00=6.6mg)を内包するリポソームが含有されている。また、薬剤重量比(D/F)は、6.6[mg]/((50+10)+(25+5))[mg]=6.6/90=0.073である。
【0139】
[比較例1−3]
本比較例では、上記実施例1−2に対応する比較例として、非結晶性の脂質成分(FN)を用いることなく、脂質成分(F1)のみを脂質成分として用いてリポソームの製造を行った。
【0140】
すなわち、二次乳化工程においてフィルム状脂質を用いなかったことを除いては、実施例1−2と同じ方法と条件を用いて一次乳化工程によるW1/Oエマルションの製造、二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造、溶媒除去工程によるリポソームの製造、および、水相置換工程によるリポソーム製剤の調製の各工程を行うことにより、リポソーム製剤を調製した。すなわち、本比較例においては、得られたリポソーム製剤におけるリポソームの体積平均粒径は、95nmであった。
【0141】
ここで、siRNAの内包率は、W1/Oエマルションにおいては67%であり、W1/O/W2エマルションにおいては59%であり、溶媒除去後においては51%であった。この一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションは体積平均粒径約99nmの単分散W/Oエマルションであることが確認された。
【0142】
超遠心分離処理後の製剤中にsiRNAは100%リポソームに内包されている。すなわち、このリポソ−ム製剤中には、仕込みのsiRNAの51%(10mg×0.51×1.00=5.1mg)を内包するリポソームが含有されている。また、薬剤重量比(D/F)は、5.1[mg]/(50+10)[mg]=5.1/60=0.085である。
【0143】
[実施例1−1および1−2、並びに比較例1−1、1−2および1−3の結果からの考察]
以上の実施例1−1及び比較例1−1の結果から、添加したが未溶解状態であったホスファチジルコリン(DPPC, 日油株式会社)およびコレステロール(Chol)は、膜形成に関与していないことが推測され、混合した脂質成分の比率どおりに膜構成脂質の比率が形成されていない可能性が高いことが示唆される。
【0144】
また、内包率については、W1/Oエマルションの内包率を比較した場合には、実施例1−1、比較例1−1及び比較例1−2のいずれの場合でも変化が認められなかった。一方、W1/O/W2エマルションおよび溶媒除去後のリポソーム分散液を比較した場合には、比較例1−1及び比較例1−2では内包率が低下していたのに対して、実施例1−1では内包率が維持されていた。これは、二次乳化のプロセスで結晶状態の脂質が悪影響し、内包率が低下していることを意味している。内包率におけるこのような違いは、実施例1−2とこれに対応する比較例1−3との間にも同様に認められた。ここで注目すべきことは、実施例1−1と比較例1−2では、ともに水相液(W2)に脂質成分を添加している点で共通するにもかかわらず、溶媒除去後のリポソーム分散液における内包率に違いが生じていることである。このことは、本発明の製造方法において内包率が維持されるという効果は、単に水相液(W2)に脂質成分を添加したことによるものではなく、水相液(W2)に添加する脂質成分として非結晶性の脂質成分(FN)を用いたことによることを示唆している。
【0145】
また、比較例1−1において、一次乳化の内水相用の水相液(W1)に多孔質状の脂質を添加し、外水相用の水相液(W2)に結晶状脂質を添加した場合には、内包率が低下し、超遠心分離時に、白い結晶の沈降が認められた。このことから、多孔質状の脂質は外水相用の水相液(W2)に加えることで効果があることが分かった。一次乳化でも結晶状態の脂質が速やかになくなるわけではないので、結晶状態の脂質が一次乳化のプロセスでも悪影響を起こすことは容易に想定できるが、そのような悪影響を窺わせるような現象は見られなかった。
【0146】
≪攪拌乳化における攪拌子の半径と回転数による効果≫
上記実施例1−1及び、下記に示す実施例2から4−2および比較例2−1から3−2により、攪拌乳化における攪拌子の半径と回転数による二次乳化への効果について検討した。
【0147】
[実施例2]
本実施例では、一次乳化の内水相用の水相液(W1)および外水相用の水相液(W2)のそれぞれに非結晶性の脂質成分(FN)を添加して、リポソーム製剤の調製を行った。
【0148】
具体的には、一次乳化の内水相用の水相液(W1)に添加する脂質を上記多孔質状の脂質に変更するするとともに、二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造の際に、半径3mm(すなわち、0.003m)の攪拌子を用いて回転数1000rpmで攪拌を行ったことを除いて、実施例1−1と同じ条件でリポソーム製剤を調製した。
【0149】
溶媒除去後のシタラビンの内包率は44%であり、溶媒除去後の粒度分布は正規分布であることが確認された。また、一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションは体積平均粒径約69nmの単分散W/Oエマルションであることが確認された。このW1/Oエマルションの体積平均粒径は、外水相用の水相液(W2)にのみ非結晶性の脂質成分(FN)を添加した上記実施例1−1で得られたW1/Oエマルションの体積平均粒径(約168nm)と比べて小さい。
【0150】
非結晶性脂質を一次乳化の内水相用の水相液(W1)のみに添加した場合に、内包率が低下するというデメリットについては上記考察で述べたとおりである。しかしながら、その場合でもW1/Oエマルションの体積平均粒径が小さくできるのに伴い、最終的に得られるリポソームの体積平均粒径を小さくすることができた。非結晶性脂質を一次乳化の内水相用の水相液(W1)に添加した場合に、体積平均粒径が小さくできる効果は、W1/Oエマルションの生成速度が速くなってエネルギーが効率的に使用された結果であり、それは脂質分子の炭化水素系有機溶媒中での分散性・溶解性が高いことに由来すると考えられる。
【0151】
[実施例3−1〜3−2,比較例3−1〜3−2]
実施例3−1〜3−2,および比較例3−1〜3−2については、二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造において、攪拌子の半径および攪拌時の回転数を表1に示す値としたこと、および、製造容器を相似形として適宜製造スケールを上下させたことを除き、上記実施例1−1と同様の反応条件でリポソーム製剤を調製した。
【0152】
[実施例4−1〜4−2,比較例2−1〜2−2]
実施例4−1〜4−2,および比較例2−1〜2−2については、二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造において、攪拌子の半径および攪拌時の回転数を表1に示す値としたこと、および、製造容器を相似形として適宜製造スケールを上下させたことを除き、上記実施例2と同様の反応条件でリポソーム製剤を調製した。
【0153】
また、実施例3−1、4−2における15分間超音波照射(出力5.5)による一次乳化について、超音波を15分間連続して照射する代わりに、1分間の照射と1分間の非照射とを交互に繰り返すパルス超音波を照射するように変更して実験したところ、溶媒除去後の内包率及び粒度分布は同等の結果が得られ、さらに粒度分布の幅はシャープになる傾向が見られた。
【0154】
【表1】

≪脂質成分(F)に対する内包対象薬剤(D)の重量比(D/F)が0.5以上のリポソーム製剤の製造≫
以下の実施例5−1及び5−2として、脂質成分(F)に対する内包対象薬剤(D)の重量比(D/F)が0.5以上のリポソーム製剤の製造を行った。ここで、実施例5−2は、水相液(W1)として、内包対象薬剤(D)を過飽和状態で溶解させたものを用いた場合に該当する。
【0155】
[実施例5−1]
(一次乳化工程によるW1/Oエマルションの製造)
siRNA(ランダム配列)40mgを等張PBS溶液0.125mL溶解させて内水相(W1)とし、DPPC(ジパルミトイルホスファチジルコリン、「MC-6060」、日油株式会社)25mg、およびDPPG(ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、「COATSOME MG-6060LA」、日油株式会社)5mgを含むヘキサン1.25mLを有機溶媒相(O)とした。3.5mLのサンプル瓶にこれらの混合液を入れ、φ7mmのプローブをセットした超音波分散装置(UH−600S、株式会社エスエムテー)により、20℃にて15分間超音波を照射し乳化処理を行うことにより、W1/Oエマルションを得た。この一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションは体積平均粒径約131nmの単分散W/Oエマルションであることが確認された。このW1/OエマルションにおけるsiRNAの内包率は71%であった。
【0156】
(二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造)
あらかじめDPPCおよびDPPGがそれぞれ12.5 mgおよび2.5 mg含まれるように調製しておいた多孔質脂質(日本精化社製)および0.1%のプルロニックF68を含む等張PBS溶液を水相液(W2)として用いた。この水相液(W2)15mL中に、上記一次乳化工程によって得られたW1/Oエマルションを供給しながら、半径16mm(すなわち、0.016m)の攪拌子を用いて回転数1000rpmで室温下15分間撹拌して、W1/O/W2エマルションを製造した。このW1/O/W2エマルションにおけるsiRNAの内包率は71%であった。
【0157】
(溶媒除去工程によるリポソームの製造)
得られたW1/O/W2エマルションを密閉容器に移し替え、20℃・500mbarの減圧条件下で約8時間攪拌し、次いで20℃・180mbarの減圧条件下で約8時間撹拌し、段階的に溶媒を揮発させた。得られたリポソーム分散液は半透明の黄色であり、この粒子内にはsiRNAが含まれていることが確認された。リポソームのsiRNAの内包率は70%であった。
【0158】
(水相置換工程によるリポソーム製剤の調製)
得られたリポソーム溶液を室温下超遠心分離に付し、上澄みの水相液(W2)を除去しながら、水相液(W3)として等張PBS溶液を添加した。最終的に内水相用の水相液(W1)0.125mLの4倍の体積である、1.0mLのリポソーム製剤を調製した。得られたリポソーム製剤におけるリポソームの体積平均粒径は、133nmであった。
【0159】
超遠心分離処理後の製剤中にsiRNAは100%リポソームに内包されている。すなわち、このリポソ−ム製剤中には、仕込みのsiRNAの70%(40mg×0.70×1.00=28mg)を内包するリポソームが含有されている。また、薬剤重量比(D/F)は、28[mg]/((25+5)+(12.5+2.5))[mg]=6.6/45=0.62である。
【0160】
[実施例5−2]
(一次乳化工程によるW1/Oエマルションの製造)
シタラビン(1000mM)の等張PBS溶液0.25mLを内水相(W1)とし、DPPC(ジパルミトイルホスファチジルコリン、「MC-6060」、日油株式会社)25mg、コレステロール(Chol, 日油株式会社)7.3mgおよびDSPE-PEG2000(ジステアロイルホスファチジルエタノールアミンポリエチレングリコール、日油株式会社)11mgを含むヘキサン1.25mLを有機溶媒相(O)とした。3.5mLのサンプル瓶にこれらの混合液を入れ、φ7mmのプローブをセットした超音波分散装置(UH−600S、株式会社エスエムテー)により、20℃にて15分間超音波を照射し乳化処理を行うことにより、W1/Oエマルションを得た。この一次乳化工程で得られたW1/Oエマルションは体積平均粒径約112nmの単分散W/Oエマルションであることが確認された。このW1/Oエマルションにおけるシタラビンの内包率は58%であった。
【0161】
(二次乳化工程によるW1/O/W2エマルションの製造)
あらかじめDPPCおよびコレステロールがそれぞれ12.5mgおよび3.7mg含まれるように調製しておいた多孔質脂質および0.1%のプルロニックF68を含む等張PBS溶液を水相液(W2)として用いた。この水相液(W2)15mL中に、上記一次乳化工程によって得られたW1/Oエマルションを供給しながら、半径16mm(すなわち、0.016m)の攪拌子を用いて回転数1000rpmで15分間撹拌して、W1/O/W2エマルションを製造した。このW1/O/W2エマルションにおけるシタラビンの内包率は58%であった。
【0162】
(溶媒除去工程によるリポソームの製造)
得られたW1/O/W2エマルションを密閉容器に移し替え、20℃・500mbarの減圧条件下で約8時間攪拌し、次いで20℃・180mbarの減圧条件下で約8時間撹拌し、段階的に溶媒を揮発させた。得られたリポソーム分散液は半透明の黄色であり、この粒子内にはシタラビンが含まれていることが確認された。リポソームのシタラビンの内包率は55%であった。
【0163】
(水相置換工程によるリポソーム製剤の調製)
得られたリポソーム溶液を超遠心分離に付し、上澄みの水相液(W2)を除去しながら、水相液(W3)として等張PBS溶液を添加した。最終的に内水相用の水相液(W1)0.25mLの4倍の体積である、1.0mLのリポソーム製剤を調製した。得られたリポソーム製剤におけるリポソームの体積平均粒径は、103nmであった。
【0164】
超遠心分離処理後の製剤中にシタラビンは100%リポソームに内包されている。すなわち、このリポソ−ム製剤中には、仕込みのシタラビンの55%(1000mM×0.25mL×243.22×0.55×1.00=33.4mg)を内包するリポソームが含有されている。また、薬剤重量比(D/F)は、33.4[mg]/((25+7.3+11)+(12.5+3.7))[mg]=33.4/59.5=0.56である。
【0165】
[実施例5−3]
一次乳化工程、二次乳化工程、溶媒除去工程および水相置換工程の全てを低温で行うことができるかどうかを確認するため、上記実施例5−1に示した製造方法を低温で実施した。
【0166】
具体的には、上記実施例5−1の一次乳化工程において、20℃にて15分間超音波を照射し乳化処理を5〜10℃に変更して実施し、二次乳化工程において室温下15分間撹拌する部分を5〜10℃に変更して実施し、溶媒除去工程において20℃の減圧条件下で攪拌する部分を5〜10℃に変更して実施し、水相液(W2)の除去において室温下超遠心分離に付している部分を5〜10℃に変更して実施した。すなわち、すべての工程を5〜10℃で実施した。
その結果、上記実施例5−1と同等の結果を得ることができた。
【0167】
[実施例5−4]
プルロニックF68以外の乳化剤を用いることができるかどうかを確認するため、上記実施例5−2の二次乳化工程においてプルロニックF68(分子量9600)を添加する代わりに、ゼラチン(新田ゼラチン、コラーゲンペプチド2000、分子量2000)を0.5%濃度で添加したことを除き、実施例5−2に示した通りの製造方法を実施した。
その結果、上記実施例5−2と同等の結果を得ることができた。
【0168】
[実施例5−5]
プルロニックF68以外の乳化剤を用いることができるかどうかを確認するもう一つの実施例として、上記実施例5−2の二次乳化工程においてプルロニックF68(分子量9600)を添加する代わりに、デキストラン60000(和光純薬、分子量60000)を3%濃度で添加したことを除き、実施例5−2に示した通りの製造方法を実施した。
その結果、上記実施例5−2と同等の結果を得ることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記工程(1)〜(4)を含む、体積平均粒径50nm以上200nm以下の単胞リポソームを製造する方法
(1)脂質成分(F1)を揮発性の炭化水素系有機溶媒(o)に溶解または分散した揮発性の油相液(O)と、内包対象薬剤(D)を水性溶媒(w1)に溶解して得られる水相液(W1)とを混合乳化することによりW1/Oエマルションを調製する一次乳化工程;
(2)上記工程(1)を経て得られたW1/Oエマルションと、非結晶性の脂質成分(FN)を添加した水相液(W2)とを混合乳化することによりW1/O/W2エマルションを調製する二次乳化工程;
(3)上記工程(2)を経て得られたW1/O/W2エマルションから炭化水素系有機溶媒(o)を除去することによりリポソーム分散液を調製する溶媒除去工程;
(4)上記工程(3)を経て得られたリポソーム分散液から水相液(W2)を除去し、水相液(W3)を添加して、リポソーム製剤を調製する水相置換工程。
【請求項2】
前記工程(1)において脂質成分(F1)の代わりに非結晶性の脂質成分(FN)を用いるか、あるいは、前記工程(2)において非結晶性の脂質成分(FN)を添加した水相液(W2)と混合乳化する前にW1/Oエマルションに非結晶性の脂質成分(FN)を添加する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記工程(2)における二次乳化を下記式(e1)の条件を満たす撹拌乳化により実施する、請求項1または2記載の方法:
0.02385 <r×n/L' < 0.1431 (e1)
上記式(e1)において、rは攪拌子の半径[m],L'はW1/Oエマルションの粒径[nm],nは攪拌子の毎分回転数[rpm]を表す。
【請求項4】
前記工程(4)を経て得られるリポソーム含有製剤が、リポソームを構成する脂質成分(F)に対する該内包対象薬剤(D)の重量比(D/F)が0.05以上であるものである、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記リポソーム含有製剤における前記重量比(D/F)が0.5以上である請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記工程(1)において、水性溶媒(w1)に上記内包対象薬剤(D)が過飽和状態で溶解した水相液(W1)を用いる、請求項4および5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記工程(2)において、乳化剤(R)が溶解した水相液(W2)を用いる、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記工程(1)〜(4)のすべての工程を5−10℃の範囲の温度で実施する、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記工程(1)における混合乳化をパルス超音波で実施する、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−22482(P2013−22482A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156770(P2011−156770)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】