説明

リポソーム含有製剤の製造方法およびリポソーム含有製剤

【課題】
内包率が高いだけではなく、内包薬剤の濃度も高く、しかも、安定性に問題がなく、しかも長期保存も可能なリポソームの製造方法を提供する。
【解決手段】
圧力容器内で、45〜60℃の温度条件下、リポソーム膜構成成分と、水溶性薬剤水溶液と、超臨界二酸化炭素とを混合したのち、該圧力容器内を減圧して二酸化炭素を排出することにより水溶性薬剤が内包されたリポソームの水性分散液を調製し、
ついで該分散液に、調製時に使用した水溶性薬剤水溶液よりも濃度の高い水溶性薬剤水溶液(高濃度水溶性薬剤水溶液)を混合したのち、0.1〜1μmの孔径を有する濾過膜で、50〜90℃の温度条件下、および0.01〜0.8MPaの圧力下に濾過することを特徴とする、リポ
ソーム含有製剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超臨界二酸化炭素を用いたリポソーム含有製剤の製造方法、およびリポソーム含有製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リポソームは、リン脂質によって形成される二分子膜の閉鎖小胞体であり、生体膜と類似の構造や機能を有するため、従来から様々な研究材料として用いられてきている。このリポソームは、水溶性の薬剤をその内部に有する水相に、油溶性の薬剤を二分子膜の内部に保持されるという、いわゆるカプセル構造を有している。このため、リポソームは、診断、治療、化粧などの様々な分野で用いられてきている。さらに、近年では、薬物送達システム(DDS)を利用したリポソーム含有製剤が盛んに研究されている。
【0003】
薬物などを内包しているリポソームを調製する場合、従来からBangham法、逆相蒸発法
(REV法)などが用いられている。これらの方法に基づき、生体膜類似の脂質から構成さ
れ、低い抗原性ゆえに素材としての安全性が高く、しかも生体内で適度な分解性を有するリポソームが製造されていたが、製造過程においてリン脂質などを溶解する溶剤として、有機溶媒、特にクロロホルム、ジクロロメタンといったクロル系溶剤が使用されていた。このため、従来の製造方法では、残存する溶剤の毒性という問題点があった(例えば、特許文献1および2参照)。
【0004】
また、特開2003-119120号公報(特許文献3)では、薬効成分を内包したリポソームを
、超臨界二酸化炭素を用いて製造する方法が開示されている。しかしながら、この方法では、エタノール等の助溶剤の使用が望まれることが示唆されており、助溶剤を使用せずに内包率の高いリポソームを作製することは困難であった。また、得られたリポソームも、安定性が低く、内包物が時間経過とともに外部へ漏出することもあるなど問題点が多い。
【0005】
従来より提案されていた方法では、薬物をリポソーム内に必ずしも充分に内包させることができず、すなわち内包率が低いという問題点があった。このため、リポソーム含有製剤を大量に投与する必要があり、患者に過度の負担となる問題があった。
【0006】
リポソーム含有製剤の投与量を少なくするためには、内包率を高めるとともに、リポソームに内包する薬剤の濃度を高くできれば、リポソームの必要量を少なくすることができる。
【0007】
ところで、リポソームは、脂質膜により内包薬剤が完全に密封されているのではなく、少なくとも脂溶性の非極性薬剤化合物は、脂質膜を出たり入ったりすることが可能であり、リポソーム内部の内包非極性薬剤と外部のその薬剤とは濃度平衡を保つようになっている。他方、極性薬剤でも、リポソームの製造時の薬剤水溶液の濃度を高くすれば、それだけ、内包された薬剤の濃度も濃くすることができると考えられていた。
【0008】
しかしながら、単に製造時の薬剤水溶液の濃度を高くしても、内包された薬剤が時間経過とともに外部へ漏出したり、あるいは高濃度薬剤の存在下では、得られるリポソームそのものが不安定であるという問題点もあった。また、製造後に高濃度薬剤水溶液に分散させて、浸透圧により内包率を高めることは極性薬剤の場合、事実上不可能であった。
【0009】
さらに、薬剤濃度を濃縮することでも内包率を高めることができるものの、限外濾過や溶媒蒸散などの更なる工程が必要となるなど、プロセスが煩雑化するという問題点があっ
た。
【0010】
このため、内包率が高くできるだけではなく、従来より提案されていたものに比べて高濃度の薬剤水溶液をリポソーム内に内包させることが可能なリポソーム含有製剤を効率的に製造する方法が望まれていた。また、内包率および内包薬剤の濃度を高くできれば、リポソーム含有薬剤の使用量を減らすことが可能となり、その結果、患者の苦痛を軽減することが可能となるなど、その技術的意義は大きい。
【特許文献1】特開平6-315624号公報
【特許文献2】特表平9-502644号公報
【特許文献3】特開2003-119120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記したように、内包率が高いだけではなく、内包薬剤の濃度も高く、しかも、安定性に問題がなく、しかも長期保存も可能なリポソーム含有製剤の製造方法を提供することが望まれていた。
【0012】
しかしながら、上記のようにリポソーム作製時に封入する物質の内包率を上げるため、リポソーム形成の条件を調整、方法の案出には限界があった。
そこで、本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、新たなリポソームの製造方法として、脂質膜成分と超臨界もしくは亜臨界状態の二酸化炭素とを混合したのち、ついで減圧して二酸化炭素を排出することにより、リポソームを調製したのち、高濃度薬剤水溶液を加えて特定条件下で濾過処理すると、内包率とともに、内包薬剤の濃度の高いリポソーム含有製剤を製造できることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らはさらに検討を重ねて、以下の本発明を完成するに至った。
[1]圧力容器内で、45〜60℃の温度条件下、リポソーム膜構成成分と、水溶性薬剤水溶液
と、超臨界二酸化炭素とを混合したのち、該圧力容器内を減圧して二酸化炭素を排出することにより水溶性薬剤が内包されたリポソームの水性分散液を調製し、
ついで該分散液に、調製時に使用した水溶性薬剤水溶液よりも濃度の高い水溶性薬剤水溶液(高濃度水溶性薬剤水溶液)を混合したのち、0.1〜1μmの孔径を有する濾過膜で、50〜90℃の温度条件下、および0.01〜0.8MPaの圧力下に濾過することを特徴とする、リポ
ソーム含有製剤の製造方法。
[2]前記高濃度水溶性薬剤水溶液を添加した後のリポソーム水性分散液中の水溶性薬剤濃
度(X2)と、添加前のリポソーム水性分散液中の水溶性薬剤濃度(X1)との比(X2/X1)が、1.1以上であることを特徴とする[1]のリポソーム含有製剤の製造方法。
[3]前記のリポソーム調製時に最初に使用される水溶性薬剤水溶液の濃度(M1)と、後で添
加される高濃度水溶性薬剤水溶液の濃度(M2)との比(M2/M1)が、1.2以上であることを特徴とする[1]または[2]のリポソーム含有製剤の製造方法。
[4]濾過を、静圧式押し出し濾過装置を用いて行う[1]〜[3]のリポソーム含有製剤の製造
方法。
[5][1]〜[4]の製造方法で製造されてなるリポソーム含有製剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明のリポソーム含有製剤の製造方法によれば、内包率とともに、内包薬剤の濃度を高めることができる。また得られたリポソーム含有製剤も従来のものと異なり、安定性も高い。さらに、薬剤の使用量を減らすことができるので、患者の苦痛を軽減することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳しく説明する。なお、本明細書では、「超臨界」および「亜臨界」をまとめて「超臨界」という場合がある。また「リポソーム」は、通常、脂質膜、すなわち脂質二分子膜から形成からなるリポソーム膜により形成される構造物である。本明細書では、リポソーム膜を「脂質膜」と言及することもある。リポソーム内に「内包」されるとは、リポソームの脂質膜と会合しているか、または脂質膜内部に閉じ込められている水相(内部水相)中に存在している状態の両方を含むものとする。
【0016】
本発明に係るリポソーム含有製剤の製造方法は、リポソーム分散液を調製するリポソーム調製工程と、得られたリポソームを処理する濾過処理工程とから構成される。
<リポソーム調製工程>
圧力容器内で、45〜60℃の温度条件下、リポソーム膜構成成分と、水溶性薬剤水溶液と、超臨界二酸化炭素とを混合したのち、該圧力容器内を減圧して二酸化炭素を排出することにより水溶性薬剤が内包されたリポソームの水性分散液を調製する。
【0017】
まず、各成分について説明する。
超臨界二酸化炭素または亜臨界二酸化炭素
本発明による製造方法は、有機溶媒を使用せずに、超臨界二酸化炭素もしくは亜臨界二酸化炭素を用いて上記リポソームを作製する。二酸化炭素は、臨界温度が31.1℃、臨界圧力が7.38MPaと比較的扱いやすく、不活性なガスゆえ残存しても人体に無害であり、高純
度流体が安価で容易に入手できる。本発明の製造方法で使用する超臨界状態(亜臨界状態を含む)の二酸化炭素の温度は、通常25〜200℃、好ましくは31〜100℃、さらに好ましくは35〜80℃である。好適な圧力は、通常4.9〜49MPa、好ましくは9.8〜39MPaの範囲である。
【0018】
なお、本発明では、超臨界状態もしくは亜臨界状態の二酸化炭素は、超臨界二酸化炭素流体を使用してもよく、また、液体二酸化炭素を充填したのち、特定条件に加圧・加熱して、超臨界状態にしてもよい。本発明では、取り扱いのしやすさなどの点で液体二酸化炭素を使用することが望ましい。
リポソーム膜構成成分
本発明で使用されるリポソーム膜構成成分としては、少なくともリン脂質、糖脂質、ステロール類、カチオン性脂質などが含まれる。本発明では、一般にリン脂質および/または糖脂質が好ましく使用される。
【0019】
好ましい中性リン脂質として、大豆、卵黄などから得られるレシチン、リゾレシチンおよび/またはこれらの水素添加物、水酸化物の誘導体を挙げることができる。
その他のリン脂質として、卵黄、大豆またはその他の動植物に由来するか、または半合成のホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、合成により得られるホスファチジン酸、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジミリストリルホスファチジルコリン(DMPC)、ジオレイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジステアロイルホスファチジルセリン(DSPS)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール(DPPI)、
ジステアロイルホスファチジルイノシトール(DSPI)、ジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)、ジステアロイルホスファチジン酸(DSPA)などを挙げることができる。
【0020】
本発明のリポソームを構成するリン脂質類には、転移温度を有するリン脂質が少なくとも含まれていることが望ましい。リン脂質の「(相)転移温度」とは、リン脂質がとり得るゲルと液晶との両状態間の相転移を生じる温度である。その測定は、示差走査熱量計(
DSC)を使用する示差熱分析による。相転移点を有するリン脂質として、ジミリストイルホスファチジルコリン(転移温度、以下同じ、23〜24℃)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(41.0〜41.5℃)、水素添加大豆レシチン(53℃)、水素添加大豆ホスファチジルコリン(54℃)、ジステアロイルホスファチジルコリン(54.1〜58.0℃)などが例示される。
【0021】
カチオン性脂質は、1、2−ジオレオイルオキシ−3−(トリメチルアンモニウム)プロパン(DOTAP)、N、N−ジオクタデシルアミドグリシルスペルミン(DOGS)、ジメチ
ルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、N−[1−(2、3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N、N、N−トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、2、3−ジ
オレイルオキシ−N−[2(スペルミン−カルボキサミド)エチル]−N、N−ジメチル−1−プロパンアミニウムトリフルオロアセテート(DOSPA)およびN−[1−(2、3
−ジミリスチルオキシ)プロピル]−N、N−ジメチル−N−(2−ヒドロキシエチル)アンモニウムブロミド(DMRIE)、ホスファチジン酸とアミノアルコールとのエステル、
例えばジパルミトイルホスファチジン酸(DPPA)もしくはジステアロイルホスファチジン酸(DSPA)とヒドロキシエチレンジアミンとのエステルなどが挙げられる。
【0022】
これらのカチオン性脂質は全脂質量に対し0.1〜5質量%、好ましくは全脂質量に対し0.3〜3質量%、より好ましくは全脂質量に対し0.5〜2質量%の割合で含有するように添加すればよい。なお、全脂質とは、後述するヒドロキシル基を有する脂質の場合を含む。
【0023】
これらのリン脂質は通常、単独で使用されるが、2種以上併用してもよい。ただし2種以上の荷電リン脂質を使用する場合には、負電荷のリン脂質同士または正電荷のリン脂質同士で使用することが、リポソームの凝集防止の観点から望ましい。中性リン脂質と荷電リン脂質を併用する場合、重量比として通常、200:1〜3:1、好ましくは100:1〜4:1、より好ましくは40:1〜5:1である。
【0024】
糖脂質としては、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド硫酸エステルなどのグリセロ脂質、ガラクトシルセラミド、ガラクトシルセラミド硫酸エステル、ラクトシルセラミド、ガングリオシドG7、ガングリオシドG6、ガングリオシドG4などのスフィンゴ糖脂質などを挙げることができる。
【0025】
リポソーム膜構成成分として、上記脂質の他に、脂質膜安定化剤として作用するステロール類を含む。ステロール類としては、例えばコレステロール、ジヒドロコレステロール、コレステロールエステル、フィトステロール、シトステロール、スチグマステロール、カンペステロール、コレスタノール、またはラノステロールなどが挙げられる。また1−O−ステロールグルコシド,1−O−ステロールマルトシドまたは1−O−ステロールガラクトシドといったステロール誘導体もリポソームの安定化に効果がある(特開平5-245357号公報参照)。これらの中で、特にコレステロールが好ましい。
【0026】
リポソーム膜中のコレステロールは、ポリアルキレンオキシド導入用のアンカーにもなり得る。特開平09−3093号公報には、ポリオキシアルキレン鎖の先端に、種々の機能性物質を共有結合により固定化することができ、リポソーム形成用の成分として利用することができる新規なコレステロール誘導体が開示されている。
【0027】
ステロール類の使用量として、リン脂質(後述するPEG-リン脂質を含まず)/ステロール類のモル比が100/60〜100/90、好ましくは100/70〜100/85である。モル比が100/60未満であると混合脂質の分散性を向上させるステロール類による安定化が充分に発揮されない。
【0028】
本発明では、上記以外にリポソーム膜構成成分として、負荷電物質であるジセチルホスフェートといったリン酸ジアルキルエステルなど、正電荷を与える化合物であるステアリルアミンといった脂肪族アミンなどを含んでいてもよい。
【0029】
上記ステロール類の他にリポソーム膜の構成成分として、グリコール類を加えてもよい。リポソームを作製する際に、リン脂質などともにグリコール類を添加すると、リポソーム内での水溶性抗がん性化合物の保持効率が上昇する。グリコール類として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4-ブタンジオールなどが挙げられる。グリコール類の使用量として、脂質全質量に対して0.01〜20質量%、好ましくは0.5〜10質量%の割合が望ましい。
【0030】
本発明では、リポソーム膜構成成分として、高分子鎖であるポリアルキレンオキシド基を有するリン脂質または化合物を使用してもよい。該化合物を使用すると、ポリアルキレンオキシド鎖がリポソーム膜表面に導入される。その結果、崩壊、凝集といったリポソーム自体の不安定性が解決され、保存中の経時安定性も改善される。
【0031】
ポリアルキレンオキシド基としては、−(AO)n−Y(AOは炭素数2〜4のオキシア
ルキレン基を表す。nはオキシアルキレン基の平均付加モル数であり、1〜2000、好まし
くは10〜500、さらに好ましくは20〜200の整数である。また、Yは、水素原子、炭素数1〜5の、分岐していてもよいアルキル基または機能性官能基を示す。
【0032】
機能性官能基は、ポリアルキレンオキシド鎖の先端に糖、糖タンパク質、抗体、レクチン、細胞接着因子といった「機能性物質」を付するためのもので、例えばアミノ基、オキシカルボニルイミダゾール基、N-ヒドロキシコハク酸イミド基といった反応性に富む官
能基が挙げられる。先端に「機能性物質」を含んでいると、例えば「認識素子」として特定臓器指向性、癌組織指向性などの作用が充分に発揮される。
【0033】
ポリアルキレンオキシド基を有するリン脂質または化合物は、一種類を単独で使用することができ、あるいは二種以上のものを組み合わせて使用することもできる。その含有量は、リポソーム膜構成成分の合計量に対し、0.001〜50モル%、好ましくは0.01〜25モル
%、より好ましくは0.1〜10モル%である。
【0034】
本発明では、これらのなかでも、ポリエチレングリコール基を有する脂質、具体的にはポリエチレングリコール基を有するリン脂質が望ましい。ポリエチレングリコール基を有する脂質は、リポソーム膜の構成成分であるのみならず、リポソームを調製する際の溶解助剤としても機能する。すなわち、ポリエチレングリコール(PEG)基を有する脂質を用いると、リポソーム膜構成成分と、薬剤水溶液、および超臨界二酸化炭素と混合する際に、必ずしもエタノールなどの有機溶媒を使用する必要がない。
【0035】
本発明で使用されるポリエチレングリコール(PEG)基を有する脂質は、ポリエチレングリコール基の分子量300〜20000であり、好ましくは400〜18000、さらに好ましくは450〜15000の範囲にあるものが望ましい。
【0036】
また、リポソーム膜構成成分として、ポリエチレングリコール(PEG)基を有する脂質、好ましくはPEG-リン脂質を含んでいると、PEG基がリポソーム膜表面に導入され、PEG化されたリポソームほど免疫系から認識されにくくなる(「ステルス化」された状態
である)効果が期待できる。
【0037】
リポソーム膜構成成分のリン脂質(ポリエチレングリコール基を有する脂質を含まず)
/ポリエチレングリコール基を有する脂質のモル比が100/1〜100/15、好ましくは100/1.5
〜100/10の範囲にあることが望ましい。この範囲にあれば、ポリエチレングリコール基を有するリン脂質の溶解助剤としての効果も高く、さらにステルス化の効果も期待できる。
【0038】
水溶性薬剤の水溶液
本発明で用いられる水溶性薬剤の水溶液(薬剤水溶液)は、水溶性薬剤を所定量の水性媒体に、従来公知の方法で溶解させることにより調製される。
【0039】
水溶性薬剤の濃度は、薬剤の溶解度、製造条件に応じて適宜選択される、通常、0.001mg/mL以上、好ましくは0.001〜10mg/ml以上の濃度であればよい。
水性媒体には、蒸留水、局方注射用水、純水などの水のほか、生理食塩水、各種緩衝液、塩類などを含む水溶液などが用いられる。
【0040】
水溶性薬剤は、リポソームの膜内の水相に内包させる薬物類であり、具体的には、造影物質、抗がん性物質、抗真菌物質、抗酸化性物質、抗菌性物質、抗炎症性物質、血行促進性物質、美白物質、肌荒れ防止物質、老化防止物質、発毛促進性物質、保湿性物質、ホルモン剤、ビタミン類、色素、およびタンパク質類などの水溶性薬剤が挙げられる。本発明のリポソーム含有製剤は、薬剤として造影性物質、または抗がん性物質を用いることが好ましい。また、疎水性の薬剤を用いることもできる。
【0041】
造影物質としては、水溶性ヨウド化合物を用いることができる。水溶性ヨウド化合物は、造影性があればイオン性、非イオン性を問わず、特に規定されない。一般的には非イオン性ヨウド化合物の方が、イオン性ヨウド化合物よりも浸透圧が低く、投与された人体に対する負荷が小さいためにより望ましい。水溶性の非イオン性ヨウド化合物としてヨウ化フェニルを含み、例えば2,4,6−トリヨードフェニル基を少なくとも1個有する非イオン性ヨウド化合物が好適である。
【0042】
そのような非イオン性ヨウド化合物として、具体的には、イオパミドール(Iopamidol
)、イオメプロール(Iomeprol)、イオヘキソール(Iohexol)、イオペントール(Iopentol)
、イオプロミド(Iopromide)、イオシミド(Iosimide)、イオベルソール(Ioversol)、イ
オトロラン(Iotrolan)、イオタズル(Iotasul)、イオジキサノール(Iodixanol)、イオデシノモール(Iodecimol)などが挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよく、あるい
は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
本発明のリポソーム含有製剤をX線検査用造影剤として用いる場合、好適なヨウド化合物としては、高度に親水性であり、かつ高濃度でも浸透圧が高くならないイオメプロール、イオパミドール、イオトロラン、イオジキサノールが好ましい。特にイオトラン、イオジキサノールといった二量体非イオン性ヨウド化合物では、同一ヨウド濃度の造影剤を調製しても全体のモル数が低いために浸透圧をさらに低下させる利点がある。
【0044】
また、水溶性の抗がん化合物としては、具体的には、タキソール、シスブラチン、カルボブチランなどが挙げられる。これらの化合物は単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
また、水溶性薬剤には、上記化合物の他に製剤助剤を含有していてもよい。この「製剤助剤」とは、リポソームの製剤化に際し、造影物質、抗がん性化合物などとともに添加される物質である。
【0046】
製剤助剤として具体的には、生理学的に許容される各種の緩衝剤、EDTANa2−Ca、
EDTANa2などといったエデト酸系のキレート化剤、薬理的活性物質(例えば血管拡張
剤、凝固抑制剤など)、さらには浸透圧調節剤、安定化剤、抗酸化剤(例えばα‐トコフェロール、アスコルビン酸)、粘度調節剤、保存剤なども挙げられる。
【0047】
また製剤助剤として、水溶性アミン系緩衝剤およびキレート化剤などを使用することもできる。pH緩衝剤としては、アミン系緩衝剤および炭酸塩系緩衝剤が好ましく用いられるが、特に好ましくはアミン系緩衝剤であり、中でもトロメタモールが望ましい。キレート化剤としては、好ましくは、EDTANa2−Ca(エデト酸カルシウム2ナトリウム)で
ある。
【0048】
さらに水溶性薬剤には溶解助剤を含んでいてもよい。溶解助剤としてはヒドロキシル基を有する少なくとも1種の化合物が挙げられる。溶解助剤を含んでいると、リポソーム膜
構成成分を液体二酸化炭素中に良好に分散させ、溶解させることができる。
【0049】
ヒドロキシル基を有する化合物(すなわちヒドロキシル基含有化合物)には、例えば、ヒドロキシル基、ポリオール基、ポリアルキレングリコールエーテル基、またはポリオール/ポリグリコールエーテル基などの組み合わせを、親水性基として有する化合物が含まれる。実際に溶解助剤として使用できるヒドロキシル基含有化合物としては、リン脂質、コレステロールなどといった脂質膜成分と親和性を示し、これらと混合するものが望ましい。さらに、脂質膜成分を極性の液体二酸化炭素中に良好に分散させ、溶解させるためには、適度の親水性と疎水性を兼ね備えた両親媒性のものが好適である。上記のヒドロキシル基を有する化合物において、さらに残存する溶解助剤の毒性をも懸念する場合には、安全性の観点から、低級アルコールなどを用いないことが望ましい。
【0050】
好ましい溶解助剤は、ポリエチレングリコールまたはポリエチレングリコール基を有する化合物である。具体的にはポリエチレングリコール基を有する化合物として、ポリエチレングリコール基を有する脂質が好ましく、より好ましくは、PEG−リン脂質である。そのオキシエチレン単位が10〜3500、好ましくは100〜2000のポリエチレングリコールが
望ましい。さらにPEG−リン脂質のなかでも、転移温度が45〜65℃の範囲にあるPEG−リン脂質が好ましい。このような転移温度を有するPEG−リン脂質を用いることにより、生体内での安定性に優れたリポソームを調製することができる。
【0051】
溶解助剤として、ヒドロキシル基を有する化合物は、超臨界状態もしくは亜臨界状態にする二酸化炭素の0.01〜1質量%、好ましくは、0.1〜0.8質量%の割合で使用されること
が望ましい。ヒドロキシル基を有する化合物が、ポリエチレングリコール基を有する脂質である場合、前記したように、溶解助剤とともに、リポソーム膜構成成分としても機能するので、前記したように、リン脂質(PEG-リン脂質を含まず)/ポリエチレングリコール基を有する脂質のモル比が100/1〜100/15であることが望ましい。なお、このモル比は
、PEG-リン脂質を除くリン脂質量を基準としている。
【0052】
[各成分の混合]
耐圧容器に、上記した成分を充填し、45〜60℃の温度条件下、ヒドロキシル基を有する少なくとも1種の化合物の存在下に、リポソーム膜構成成分と、水溶性薬剤の水溶液と、
超臨界二酸化炭素とを混合する。
【0053】
混合順序としては特に制限されるものではないが、たとえば、
・圧力容器内で、リポソーム膜構成成分と超臨界二酸化炭素とを混合したのち、得られた懸濁液に、薬剤水溶液を混合する
・圧力容器内で、リポソーム膜構成成分と、薬剤水溶液とを混合したのち、得られた懸濁液に液化二酸化炭素を供給し、前記温度で、加圧して液化二酸化素を超臨界状態二酸化炭素とする
などが例示される。
【0054】
混合する超臨界二酸化炭素とリポソーム膜構成成分との重量比は、二酸化炭素1質量部に対して、0.01〜0.3質量部、好ましくは0.03〜0.1質量部の範囲にあることが望ましい。この範囲にあると、リポソーム膜構成成分と超臨界二酸化炭素とを混合しやすく、また比較的に均一なリポソームを調製することができる。
【0055】
薬剤水溶液の量は特に制限されるものではなく、目的や用途に応じて適宜選択される。通常、混合する薬剤水溶液体積とリポソーム膜構成成分重量との比が、20〜150mg-膜構成成分/ml-水溶液、より好ましくは35〜100mg-膜構成成分/ml-水溶液の範囲にあることが望ましい。前記量比で混合すると、リポソーム膜構成成分、超臨界二酸化炭素、薬剤水溶液を均一に混合することができる。
【0056】
攪拌・混合手段は、リポソーム膜構成成分を均一に分散・混合できれば特に制限されるものではないが、公知の攪拌・混合装置を特に制限無く採用することが可能であり、たとえばマグネチックスターラー、ホモジナイザー、ホモミキサー、ウルトラミキサーなどが例示される。特に混合し難い場合は、強攪拌の条件を用いてもよい。
【0057】
最終的に塊状の脂質集合物が存在しないように充分に撹拌しながら混合すると、超臨界二酸化炭素が水溶性薬剤中に乳化分散して、二酸化炭素/水相エマルション(CO2/Wエマルション)を形成する。このエマルション系においてリポソーム膜構成成分、特に、リン脂質やコレステロール類は、超臨界二酸化炭素および水の双方ともに溶解しにくいので、CO2/水の界面に脂質が配列して脂質単分子膜が形成され、ミセル状となり、脂質単分子膜を構成していると推定される。
【0058】
次に、系内を減圧して二酸化炭素を排出する。その結果、脂質単分子膜から2分子膜へ
転換して、水溶性薬剤を内包するリポソームが分散している水性分散液が生成する。
本発明の製造方法によれば、主として2〜10枚程度、好ましくは数枚膜(例えば、3枚
、4枚、5枚または6枚の膜)の多重層膜からなるリポソームが得られる。
【0059】
その理由は明確ではないものの、本発明では、リポソーム調製時に溶解助剤としてヒドロキシル基を有する化合物を使用し、エタノールなどの低級アルコールを使用していないことによるものと考えられる。通常、従来の超臨界法で推奨されているようにエタノールなどを使用すると、エタノールは脂質の超臨界二酸化炭素への溶解を促進させることから、脂質が超臨界二酸化炭素に溶解して一枚膜のリポソームがリポソームの大半を占める形で形成される。これに対して、本発明では、リン脂質は超臨界二酸化炭素に溶解しておらず、攪拌によって乳化されているので、リポソーム生成時に多重に積層した膜が形成されていると考えられる。
【0060】
上記リポソームの構造は、凍結かつ断(Freeze fracture)レプリカ法による透過型電
子顕微鏡(TEM)による観察において、レプリカが概ね1つの層として認められるリン
脂質二重層によりリポソームが構成されているものを一枚膜リポソームという。すなわち、観察したカーボン膜に残された粒子の跡について段差がないものが一枚膜と判定され、2つ以上の段差が認められるものは「多重層膜」と判定される。二枚膜以上の数枚膜のリポソームは、一枚膜リポソームより強度が増しているとともに、長期安定性も高い。得られるリポソームでは、全リポソームのうち、80%以上、好ましくは90%以上が10枚以下の膜から構成される。
【0061】
得られたリポソームの水性分散液を、該リポソーム膜を構成する脂質成分のリン脂質の転移温度〜該転移温度+10℃で、0.1〜3時間、好ましくは10〜60分間、インキュベートし
てもよい。上記条件でインキュベーションを行うことにより、たとえば、凝集して塊状になったリポソームの離反、分散が促される。このような追加操作によって、必要に応じて行う次工程の加圧濾過処理の間に、流動性が増した脂質分子の脂質膜内での再配置が起こって、安定な膜構造が形成されるとともに、水溶性薬剤の内包が促される。
<濾過処理工程>
得られたリポソーム分散液に、リポソームの調製時に使用した水溶性薬剤水溶液よりも濃度の高い水溶性薬剤水溶液(高濃度水溶性薬剤水溶液)を混合したのち、0.1〜1μmの
孔径を有する濾過膜で、50〜90℃の温度条件下、および0.01〜0.8MPaの圧力下で濾過する。
【0062】
濾過処理工程で使用される高濃度水溶性薬剤水溶液は、好ましくは前記した薬剤水溶液と同じ薬剤を含むものが使用される。
高濃度水溶性薬剤水溶液を添加した後のリポソーム水性分散液中の水溶性薬剤濃度(X2)と、添加前のリポソーム水性分散液中の水溶性薬剤濃度(X1)との比(X2/X1)が、1.1以上、好ましくは1.25以上、さらに好ましくは1.5以上とすることが望ましい。この範囲にあれ
ば内包率および内包薬剤の濃度を高くすることができる。
【0063】
高濃度薬剤水溶液を添加した後のリポソーム水性分散液中の水溶性薬剤濃度(X2)は、薬剤の種類、投与量、検査方法の種類、意図する製剤の投与経路および臨床上の指標、生体からの制約といった諸要因を勘案して決まるが、従来の製造方法では困難であった濃度まで高くすることもできる。
【0064】
用いる上記高濃度水溶性薬剤水溶液の濃度(M2)としては、上記濃度(X2)に調整できる濃度であれば特に制限されないが、リポソーム調製時に最初に使用される水溶性薬剤水溶液の濃度(M1)と、後で添加される高濃度水溶性薬剤水溶液の濃度(M2)との比(M2/M1)が、1.2以上、好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2以上とすることが望ましい。この範囲にあれば濃度調整が容易となる。高濃度水溶性薬剤水溶液の濃度として具体的には、0.01〜800mg/mL、好ましくは0.05〜800mg/mLの範囲にあることが望ましい。
【0065】
従来、内包薬剤の濃度を高くするには、リポソーム分散液を濃縮するなどの操作が必要であったが、本発明ではそのような煩雑な操作を必要としない。さらに、単にリポソーム調製時に薬剤水溶液の濃度を高めても、得られるリポソームの内包率は必ずしも高くなると限らなかったが、本発明では、濾過操作により、安定でかつ内包率の高く、しかも内包された薬剤の濃度が高いリポソームが得られる。さらに、上記高濃度水溶性薬剤水溶液の量を調整すれば、濃度調整も容易に行うことができる。
【0066】
次に該リポソーム分散液を、0.1〜1μmの孔径を有する濾過膜で、50〜90℃の温度条件
下、および0.01〜0.8MPaの圧力下に、濾過する。
濾過は公知の加圧濾過方法で行うことができる。好適には、ポリカーボネート、セルロース系のフィルターを装着した押出し濾過装置が望ましい。
【0067】
使用されるフィルターの孔径としては、0.1〜1.0μm、好ましくは0.1〜0.8μmの範囲にあるものが好ましい。さらに最終的な所望の粒径に応じて、さらに、0.1〜0.5μm、0.1〜0.3μmの孔径を有するフィルターを用いてもよい。
【0068】
濾過装置としては、各種静圧式押し出し装置、「エクストルーダー」(商品名、日油リポソーム製)、「リポナイザー」(商品名、野村マクロサイエンス製)などの静圧式押し出し装置が好適に使用される。
【0069】
濾過操作は1段で行っても、2段以上の多段で行ってもよい。あるいは、濾過操作を繰り
返してもよい。
濾過は、50〜90℃、好ましくは55〜85℃で、0.01〜1.0MPa、好ましくは0.01〜0.8MPaの圧力下で行われる。加熱するとリポソームの流動性が高くなり、濾過効率が向上する。特に、上記温度範囲またはそれより低い温度で、転移温度を有するリン脂質を使用している場合、加熱することによって、ゾル化状態となり、リポソームの流動性を高めることができる。
【0070】
圧力は前記範囲にあれば、効率的に濾過を行うことができる。なお圧力は高くしすぎると、リポソーム自体を破壊し、内包率を低下させてしまうことがある。
このような条件での濾過によって、リポソームが再配列して、長期安定なものが得られるとともに、高濃度の水溶性薬剤を内包することができる。
【0071】
以上の条件で、濾過を行うと、リポソームの大きさが比較的均一な分布となるだけではなく、濾過前のリポソーム内包率よりも濾過後のリポソームの内包率を高くすることができる。具体的には濾過前の内包率に対し濾過後の内包率を1.001〜1.5倍程度まで上げることができる。
【0072】
その理由は明確ではないものの、本発明の方法で製造されたリポソームは、前記したように多重層膜が多く存在し、これが、濾過によって、多重層膜の外殻層が破壊されて剥がれ落ちたり、あるいは、リポソーム自体が破壊されても、はがれた膜の断片同士が接合して、再度リポソームを構成しているものと考えられる。
【0073】
また、濾過時にリポソーム全体が破壊されても、リポソームを構成していた膜の断片同士が接合して、複数の新たなリポソームを形成しているものと考えられる。
このようなリポソーム膜の構造の再構築、脂質分子の再編成が起こる間に、高濃度の水溶性薬剤水溶液が存在していると、該薬剤は、効率的にリポソームに内包されると考えられる。また、リポソーム膜構成成分と超臨界二酸化炭素とからリポソームを調製する時のようにエマルションを構成しないので、濃度を高くしても水溶性薬剤の影響が少ないと考えられる。
【0074】
その結果、濾過前に比べて、濾過後のリポソームでは、内包率が向上するとももに、内包した薬剤の濃度を高くすることができると考えられる。また、濾過前のリポソームに比べて、濾過後のリポソームは、多重層膜の積層枚数が少なくなっていると推測される。
【0075】
本発明の製造方法では、濾過する際に、必要に応じて、リポソーム水性分散液に前記リポソーム膜構成成分を追加してもよい。リポソーム膜構成成分の添加方法は、リポソーム分散液が濾過される時点で、リポソーム水性分散液と混合しうる方法であれば特に制限されるものではなく、たとえば、濾過前のリポソーム分散液にあらかじめリポソーム膜構成成分を混合して分散させてもよく、また、濾過時に、リポソーム分散液に添加し、同時に濾過するようにしてもよい。このようにリポソーム膜構成成分を添加して上記の濾過操作を行うと、さらに水溶性薬剤のリポソームへの内包率をさらに高めることができる。
【0076】
濾過後のリポソーム分散液は、必要に応じて、濃縮したり、滅菌処理してもよい。
濃縮操作としては特に制限されるものではなく限外濾過、遠心分離、ゲル濾過などが挙げられる。このような濃縮操作によってもさらに内包率を高めることができる。
【0077】
また、調製物は保存のため凍結乾燥に付してもよく、乾燥製剤は使用直前に水性媒体中に再懸濁して分散液とすることもできる。
以上のような本発明の製造方法によれば、生成するリポソーム含有製剤におけるリポソームの生成率、封入薬剤の内包率が高く、さらに工業的スケールでの応用も可能となる。
【0078】
リポソーム含有製剤
本発明に係るリポソーム含有製剤は、上記方法で製造されるリポソームを含むとともに、リポソームの脂質膜内部の水相およびリポソームを懸濁する水性媒体中に前記水溶性薬剤および必要に応じて製剤助剤を含有している。
【0079】
リポソームの平均粒径は、その使用目的などに応じて適宜設定できる。具体的に平均粒径は0.05〜10μmの範囲にあることが望まれ、赤血球より小さい0.05〜5μm、肺の血管な
どで塞栓を起こすことを回避できる0.05〜2μm、細網系内皮細胞による捕獲の対象になりにくい0.1〜0.5μmなど、使用状況に応じて平均粒径を適切に設定することが望ましい。
【0080】
リポソームの平均粒径の調整は、各成分の処方または製造のプロセス条件を変更することにより行うことができる。例えば、上記の超臨界状態の圧力を大きくすると形成されるリポソームの粒径は小さくなる。また、濾過時にフィルターの孔径をより小さくすれば、粒径の小さいリポソームを得ることができる。
【0081】
得られたリポソーム内に封入された水溶性薬剤(製剤助剤も含む)の量(すなわち内包率)は、リポソーム含有製剤の投与経路および使用量などに応じて適宜設定されるが、通常5〜95質量%、好ましくは5〜90質量%、より好ましくは5〜70質量%である。この範囲の内包率であれば、水溶性薬剤の保持安定性は損なわれることがない。また、本発明の製造方法によれば従来に比べて内包率の高いリポソーム製剤を調製することができる。
【0082】
本発明で調製されたリポソーム製剤に含有されるリポソームは、実質的に一枚膜もしくは数枚膜からなるリポソームであることが望ましい。数枚膜の比率は、濾過などの製造条件にもよるが、本発明では、全リポソームのうち、70〜95%、好ましくは75〜90%が数枚膜から構成される。なお本発明に係る製造方法でも得られるリポソーム中には、一枚膜から構成されるものも含まれていると考えられる。
【0083】
一般に、リポソーム製剤では、リポソームの膜脂質の重量が多くなると製剤の粘度が大きくなり、往々にしてターゲット部位への送達効率が低下することがある。また膜脂質の重量が少なくなると、リポソームの構造が不安定となるが、より小粒子化して内包割合が低下する。これに対し本発明の製造方法では、一枚膜よりも相対的に安定な数枚膜のリポソームが主として形成され、しかも上述のように内包率を高くすることができる。
【0084】
具体的には、本発明では、水溶性薬剤の量がリポソーム膜脂質に対して(薬剤量/脂質
重量)、1〜35、好ましくは5〜25、より好ましくは7〜15の重量比で含有されている。この範囲であればリポソームが安定であるとともに、長期安定性に優れ、しかも製剤の粘度も低くすることができる。
【0085】
このようにして調製された内包率の高いリポソーム製剤は、内包物質の体内滞留性を向上させて、その効率的な送達ならびにターゲティングの実現を図ることができるとともに、薬剤自体の使用量を減らすことも可能となる。
【0086】
また内包する薬剤の種類により、本発明のリポソーム含有製剤は、造影剤、抗がん剤、抗真菌剤、抗酸化剤、抗菌剤、抗炎症剤、血行促進剤、美白剤、肌荒れ防止剤、老化防止剤などとして使用できる。
[実施例]
以下、本発明を具体な例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定的に解釈されるものではない。
[比較例1] (Bangham法)
ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)552.6mgと、コレステロール221.1mg、PEG−リン脂質(PEG基の分子量は2000)167.3mgの混合物をクロロホルムとエタノールと水との混合物(重量比 100:20:0.1)10mLをメスフラスコ中で混合した。この混合物を
湯浴(50℃)上で加熱し、溶液をロータリー・エバポレータで溶媒を蒸発させた。残渣をさらに2時間、真空乾燥して、脂質フィルムを形成させた。ここに、さらに造影剤溶液(A)13mLを混合し、この混合物を50℃に加熱しながらミキサーで約10分間撹拌した。さらに
撹拌することにより造影剤溶液を含有するリポソームの分散液を得た。
【0087】
この試料に高濃度造影剤溶液(イオヘキソール溶液798.1mg/mL(ヨウド含有量370mgI/mL)、トロメタモールを1mg/mL、エデト酸カルシウム2ナトリウム(EDTA Na
2-Ca)0.1mg/mLを含有し、適量の塩酸および水酸化ナトリウムでpHを7前後に調整)13mL
を混合し、80℃まで加熱し、アドバンテック社製のポリカーボネートフィルター、0.80μmで加圧濾過した。続いて、同様に、80℃まで加熱し、アドバンテック社製のポリカーボ
ネートフィルター、0.40μmで加圧濾過して、試料を得た。なお、造影剤溶液(A)としては、イオヘキソール溶液323.6mg/mL(ヨウド含有量150mgI/mL)、トロメタモールを1mg/mL
、エデト酸カルシウム2ナトリウム(EDTA Na-Ca)0.1mg/mLを含有し、適量の塩酸および
水酸化ナトリウムでpHを7前後に調整したものを使用した。
[比較例2]
ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)552.6mgと、コレステロール221.1mgと、PEG−リン脂質(PEG基の分子量は2000)167.3mgとの混合物をステンレス製の特製オートクレーブに仕込み、オートクレーブ内を50℃に加熱し、ついで、液体二酸化炭素13g
を加えた。攪拌を行ないながら、50kg/cm2であったオートクレーブ内の圧力を、オートクレーブ内の体積を減ずることにより、120kg/cm2まで上げて、二酸化炭素を超臨界状態に
し、攪拌しながら脂質膜を分散・溶解させた。攪拌しながら、さらに造影剤溶液(イオヘキソール溶液323.6mg/mL(ヨウド含有量150mgI/mL)、トロメタモールを1mg/mL、エデト
酸カルシウム2ナトリウム(EDTA Na-Ca)0.1mg/mLを含有し、適量の塩酸および水酸化ナ
トリウムでpHを7前後に調整)13mLを定量ポンプで連続的に注入した。注入終了後、系内
を減圧して二酸化炭素を排出し、造影剤溶液を含有するリポソームの分散液を得た。
【0088】
この試料を80℃まで加熱し、アドバンテック社製のポリカーボネートフィルター、0.80μmで加圧濾過した。続いて、同様に90℃まで加熱し、アドバンテック社製のポリカー
ボネートフィルター、0.40μmで加圧濾過した。
[実施例1]
ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)552.6mgと、PEG−リン脂質(PEG基の分子量は2000)167.3mgとの混合物をステンレス製の特製オートクレーブに仕込み、オー
トクレーブ内を50℃に加熱し、ついで、液体二酸化炭素13gを加えた。攪拌を行ないな
がら、50kg/cm2であったオートクレーブ内の圧力を、オートクレーブ内の体積を減ずることにより、120kg/cm2まで上げて、二酸化炭素を長臨界状態にし、攪拌しながら脂質膜を
分散・溶解させた。攪拌しながら、さらに造影剤溶液(イオヘキソール溶液517.7mg/mL(ヨウド含有量370mgI/mL)、トロメタモールを1mg/mL、エデト酸カルシウム2ナトリウム(EDTA Na-Ca)0.1mg/mLを含有し、適量の塩酸および水酸化ナトリウムでpHを7前後に調整
)13mLを定量ポンプで連続的に注入した。注入終了後、系内を減圧して二酸化炭素を排出し、造影剤溶液を含有するリポソームの分散液を得た。
【0089】
この試料に高濃度造影剤溶液(イオヘキソール溶液798.1mg/mL(ヨウド含有量370mgI/mL)、トロメタモールを1mg/mL、エデト酸カルシウム2ナトリウム(EDTA Na-Ca)0.1mg/mLを含有し、適量の塩酸および水酸化ナトリウムでpHを7前後に調整)13mLを混合し、80
℃まで加熱し、アドバンテック社製のポリカーボネートフィルター、0.80μmで加圧濾過
した。続いて、同様に90℃まで加熱し、アドバンテック社製のポリカーボネートフィルタ
ー、0.40μmで加圧濾過した。
【0090】
この試料にこの試料に高濃度造影剤溶液(イオヘキソール溶液798.1mg/mL(ヨウド含有量370mgI/mL)、トロメタモールを1mg/mL、エデト酸カルシウム2ナトリウム(EDTA Na-Ca)0.1mg/mLを含有し、オートクレーブで21℃、圧力0.21MPaで15分間処理して、リポソー
ム含有造影剤を得た。得られた試料について、内包ヨウド量を測定した。
[実施例2〜3、比較例3]
内包化合物および造影剤濃度を表1に記載のように変更した以外は、実施例1と同様にして実施例2および3を、比較例2と同様にして比較例3を作製し、リポソーム含有造影剤を調製した。
【0091】
その結果を表1および表2に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
表中、経時分散安定性の評価は以下のようにして行った。
<経時分散安定性の評価>
得られたリポソーム造影剤を20mLの小瓶に入れ、蓋をして、蓋の周囲をシールテープで密閉した。そのサンプルを23℃、湿度55%の雰囲気で、6ヶ月間、暗所保管した。
【0094】
以下の基準で目視評価(ランク付け)を行った。
5:全く沈殿がなく、作製時と変化がない。
4:うっすらと濁りが有るように見えるが、分離・沈殿物が認められない。
3:濁りは増しているが、分離・沈殿物は認められない。
2:沈殿物が発生している。
1:透明な液と白色沈殿とが完全に分離している。
【0095】
表1からもわかるように、本発明により、内包ヨード量が増加し、さらに経時の分散安定性が良好なことがわかる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力容器内で、45〜60℃の温度条件下、リポソーム膜構成成分と、水溶性薬剤水溶液と、超臨界二酸化炭素とを混合したのち、該圧力容器内を減圧して二酸化炭素を排出することにより水溶性薬剤が内包されたリポソームの水性分散液を調製し、
ついで該分散液に、調製時に使用した水溶性薬剤水溶液よりも濃度の高い水溶性薬剤水溶液(高濃度水溶性薬剤水溶液)を混合したのち、0.1〜1μmの孔径を有する濾過膜で、50〜90℃の温度条件下、および0.01〜0.8MPaの圧力下に濾過することを特徴とする、リポ
ソーム含有製剤の製造方法。
【請求項2】
前記高濃度水溶性薬剤水溶液を添加した後のリポソーム水性分散液中の水溶性薬剤濃度(X2)と、添加前のリポソーム水性分散液中の水溶性薬剤濃度(X1)との比(X2/X1)が、1.1以上であることを特徴とする請求項1に記載のリポソーム含有製剤の製造方法。
【請求項3】
前記のリポソーム調製時に最初に使用される水溶性薬剤水溶液の濃度(M1)と、後で添加される高濃度水溶性薬剤水溶液の濃度(M2)との比(M2/M1)が、1.2以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のリポソーム含有製剤の製造方法。
【請求項4】
前記濾過を、静圧式押し出し濾過装置を用いて行うことを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のリポソーム含有製剤の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法で製造されてなるリポソーム含有製剤。


【公開番号】特開2006−298842(P2006−298842A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−124073(P2005−124073)
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】