説明

リポソーム組成物、並びにそれを用いた化粧料、皮膚外用剤及びその製造方法

【課題】経時安定性に優れる新規なリポソーム組成物の提供。
【解決手段】(A)リン脂質及び(B)コレステロールから構成されるリポソームであって、リポソームの内水層に成分(C)カルボキシビニルポリマー及び/又はアルキル変性カルボキシビニルポリマーを含有し、かつ、25℃におけるpHが3〜5.5であることを特徴とするリポソーム組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性領域においても安定なリポソーム組成物、その製造方法、並びにそれを含有する化粧料及び皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リン脂質を利用して形成されたリポソームが種々提案されている。しかし、酸性領域においても安定性の高いリポソームを調製することは困難であり、酸性領域では、リポソームが壊れたり、凝集する等の問題がある。一方、医薬や化粧料の有効成分には酸性物質も多く、また酸性領域でしか安定に配合できない物質も存在し、酸性領域においても安定なリポソーム組成物の提供が望まれている。
【0003】
リン脂質を利用したリポソーム組成物としては、特許文献1〜3に開示があるが、酸性領域におけるリポソームの安定性が改善されたものについては提案されていない。酸性領域における安定性が改善された水中油型エマルションが、特許文献4に開示されている。特許文献4に開示の水中油型エマルションでは、所定の性質の界面活性剤を複数組み合わせることで、安定なラメラ液晶被覆による油性小球を形成する技術に関し、リン脂質を利用してリポソームを形成する技術ではない。また、特許文献5には、広いpH領域、特に低pH下において、分散安定性に優れたリン質を含有する化粧料が提案されている。しかし、当該特許文献では、リン脂質の分散安定性は確認されているが、リポソームの形成は確認されておらず、その酸性領域における安定性についても確認されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−291035号公報
【特許文献2】特開2008−94809号公報
【特許文献3】特開2008−94808号公報
【特許文献4】特開2010−143903号公報
【特許文献5】特開平10−251117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、酸性領域においても安定なリポソーム組成物、その簡易な製造方法、並びにそれを利用した化粧料及び皮膚外用剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
リン脂質は両性界面活性剤であり、酸性領域では電荷が小さくなり、親水・親油のバランス・界面活性能が変化することが知られている。本発明者が鋭意検討した結果、このリン脂質の性質の酸性領域における諸特性の変化に起因するリポソームの不安定性を解決するためには、リン脂質とともに所定の成分を含有し、且つリポソーム形成時の条件、具体的には分散処理時のpHが重要であるとの知見を得た。この知見に基づきさらに検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0007】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1] 以下の成分(A)及び(B)
(A)リン脂質
(B)コレステロール
から構成されるリポソームであって、リポソームの内水層に成分(C)カルボキシビニルポリマー及び/又はアルキル変性カルボキシビニルポリマーを含有し、かつ、25℃におけるpHが3〜5.5であることを特徴とするリポソーム組成物。
[2] リポソームの平均粒径が100〜400nmである[1]のリポソーム組成物。
[3] 成分(C)がアルキル変性カルボキシビニルポリマーである[1]又は[2]のリポソーム組成物。
[4] 成分(C)が、アクリル酸及び/又はメタクリル酸:95.42〜97.48質量%、炭素数18〜24であるアクリル酸アルキルエステル及び/又はメタクリル酸アルキルエステル:2.43〜4.30質量%、エチレン性不飽和基を2個以上有する化合物:0.08〜0.29質量%とを重合して得られるアルキル変性カルボキシビニルポリマーである[1]〜[3]のいずれかのリポソーム組成物。
[5] 更に、成分(D)としてアニオン性界面活性剤を含有する[1]〜[4]のいずれかのリポソーム組成物。
[6] 成分(D)がポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩である[5]のリポソーム組成物。
[7] 成分(A)の含有量が0.1〜10質量%である[1]〜[6]のいずれかのリポソーム組成物。
[8] 成分(A)と成分(B)との含有質量比が、1:0.01〜1:1である[1]〜[7]のいずれかのリポソーム組成物。
[9] 成分(A)と成分(C)との含有質量比が、1:0.001〜1:1である[1]〜[8]のいずれかのリポソーム組成物。
[10][1]〜[9]のいずれかのリポソーム組成物を配合してなる化粧料又は皮膚外用剤。
[11] 以下の成分(A)〜(C)及び水
(A)リン脂質
(B)コレステロール
(C)カルボキシビニルポリマー及び/又はアルキル変性カルボキシビニルポリマー
を含有する組成物をpH3〜5.5の範囲内で高圧処理することを特徴とするリポソーム組成物の製造方法。
[12] 70〜300MPaの圧力で処理することを特徴とする[11]のリポソーム組成物の製造方法。
[13] 平均粒径が100〜400nmである[11]又は[12]のリポソーム組成物の製造方法。
[14] 成分(A)〜(C)及び水を含有する組成物に、更に成分(D)としてアニオン性界面活性剤を配合する[11]〜[13]のいずれかのリポソーム組成物の製造方法。
[15] 成分(A)の含有量が0.1〜10質量%である[11]〜[14]のいずれかのリポソーム組成物の製造方法。
[16] 成分(A)と成分(B)との含有質量比が、1:0.01〜1:1である[11]〜[15]のいずれかのリポソーム組成物の製造方法。
[17] 成分(A)と成分(C)との含有質量比が、1:0.001〜1:1である[11]〜[16]のいずれかのリポソーム組成物の製造方法。
[18] 以下の成分(A)〜(C)及び水
(A)リン脂質
(B)コレステロール
(C)カルボキシビニルポリマー及び/又はアルキル変性カルボキシビニルポリマー
を含有する組成物をpH3〜5.5の範囲内で高圧処理してリポソーム組成物を調製し、次いで、前記リポソーム組成物と25℃でのpH差が1.0以下の化粧料又は皮膚外用剤用組成物とを混合することを特徴とする化粧料又は皮膚外用剤の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、酸性領域においても安定なリポソーム組成物、その簡易な製造方法、並びにそれを利用した化粧料又は皮膚外用剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1で調製したリポソーム組成物の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
1.リポソーム組成物
本発明は、以下の成分(A)及び(B)
(A)リン脂質
(B)コレステロール
から構成されるリポソームであって、少なくともリポソームの内水層に成分(C)カルボキシビニルポリマー及び/又はアルキル変性カルボキシビニルポリマーを含有し、かつ、25℃におけるpHが3〜5.5であることを特徴とするリポソーム組成物に関する。
【0011】
リン脂質は両性界面活性剤であり、酸性領域では電荷が小さくなり、親水・親油のバランス・界面活性能が、中性領域とは変化する。従来、この変化が、リン脂質を利用したリポソームの不安定性の一因となっていた。本発明では、成分(A)リン脂質とともに、所定の成分(B)及び(C)をリポソーム膜形成成分として利用することで、酸性領域におけるリポソームの安定性を改善している。本発明のリポソーム組成物は、酸性領域でも安定性を維持できるので、酸性領域でのみ安定な有効成分等、配合できる物質の選択肢の幅が広がり、用途に応じた最適な組成を実現することができる。また、本発明のリポソーム組成物は安定性のみならず、使用感にも優れている。
なお、本発明のリポソーム組成物では、成分(C)は、リポソーム膜形成成分であるが、成分(C)はリポソーム膜中に含有されている必要はなく、本発明では、少なくとも内水層中に含有されていればよい。勿論、リポソーム膜中に、成分(A)及び(B)とともに含有されていてもよい。
【0012】
以下、本発明のリポソーム組成物の製造に用いられる各成分、及び製造方法について詳細に説明する。
・成分(A)リン脂質
本発明のリポソーム組成物は、成分(A)リン脂質をリポソーム膜中に含有する。使用するリン脂質については特に制限はない。一般的に、リン脂質は、大きく分けてグリセリンを骨格とするグリセロリン脂質と、スフィンゴシンを骨格とするスフィンゴリン脂質の2種に分類される。本発明では、いずれを用いてもよいし、これらの混合物を用いてもよい。使用可能なリン脂質の例には、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸、リゾホスファチジン酸、リゾホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジルセリン、及びこれらの2種以上の混合物が含まれる。また、使用可能なリン脂質の例には、卵黄リン脂質、大豆リン脂質、並びにそれらの精製物及び/又はそれらの水素添加物も含まれる。
成分(A)の好ましい一例は、水素添加大豆リン脂質である。
【0013】
・成分(B)コレステロール
本発明のリポソーム組成物は、成分(B)コレステロールをリポソーム膜中に含有する。コレステロールは、リン脂質からなるリポソームの安定性の向上に寄与する。一般的に、コレステロールは天然物から精製されている。本発明では、いずれの天然物から精製されたコレステロールも利用することができる。なお、本発明では、成分(B)として、コレステロール中のヒドロキシ基の一部に脂肪酸が結合したエステル体等の不純物が混合しているものも使用することもできる。また市販品を使用することもできる。
【0014】
・成分(C)カルボキシビニルポリマー及び/又はアルキル変性カルボキシビニルポリマー
本発明のリポソーム組成物は、成分(C)カルボキシビニルポリマー及び/又はアルキル変性カルボキシビニルポリマーを少なくとも内水層中に含有する。成分(C)は、リポソーム膜中に含有されていてもよい。成分(C)はリポソーム組成物の安定性向上に寄与する。ここで、「カルボキシビニルポリマー」とは、重合性ビニル基と、カルボキシル基又はアルキル変性カルボキシル基とを少なくとも有する重合性モノマーを構成単位として含む重合体の総称である。本発明では、成分(C)として、カルボキシビニルポリマー又はアルキル変性カルボキシビニルポリマーを用いることができる。中でもアルキル変性カルボキシビニルポリマーが好ましい。ここで、「アルキル変性」とは、カルボキシル基の一部又は全部がアルキルエステル化していることをいい、例えば、少なくとも1種のアクリル酸エステル類又はメタクリル酸エステル類を構成モノマーとして含む重合体は、アルキル変性されたカルボキシビニルポリマーの例に含まれる。アルキル変性のアルキル基の炭素数は、限定されるものではないが、10以上30以下が好ましく、18以上24以下がより好ましい。
【0015】
アルキル変性されたカルボキシビニルポリマーの好ましい一例は、特開2010−235469号公報に記載されている成分(a)の水溶性高分子を挙げることができ、(c1)アクリル酸又はメタクリル酸と、(c2)アクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステルと、(c3)エチレン性不飽和基を2個以上有する化合物と、が少なくとも結合した共重合体である。
前記共重合体中の(c1)アクリル酸又はメタクリル酸(以下、「(メタ)アクリル酸」と称する。)の構成比は、その特性を損なわない限り特に限定されず、自由に設定することができる。例えば、95.42質量%(以下、単に「%」とする。)以上97.48%以下が好ましく、95.47%以上97.46%以下がより好ましく、95.97%以上96.94%以下が更に好ましい。
【0016】
(c2)アクリル酸アルキルエステル又はメタクリル酸アルキルエステル(以下「(メタ)アクリル酸アルキルエステル」と称する。)の種類については特に制限はない。アルキルエステル部のアルキル基の炭素数が、18以上24以下であることが好ましい。アルキル基の炭素数が18〜24である(メタ)アクリル酸アルキルエステルとは、(メタ)アクリル酸と、アルキル基の炭素数が18〜24である高級アルコールとのエステルをいい、例えば、(メタ)アクリル酸とステアリルアルコールとのエステル、(メタ)アクリル酸とエイコサノールとのエステル、(メタ)アクリル酸とベヘニルアルコールとのエステル及び(メタ)アクリル酸とテトラコサノールとのエステル等を挙げることができる。これらは単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0017】
この中でも、(c2)成分としては、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸エイコサニル、メタクリル酸ベヘニル、及びメタクリル酸テトラコサニルが好ましく、少なくともメタクリル酸ベヘニルを50%以上含有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが更に好ましい。なお、アルキル基の炭素数が18〜24である(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば日本油脂株式会社製の商品名ブレンマーVMA70等の市販品を用いてもよい。
【0018】
前記共重合体中の(c2)(メタ)アクリル酸アルキルエステルの構成比は、特に限定されず、自由に設定することができる。本発明では特に、2.43%以上4.3%以下が好ましく、2.91%以上3.84%以下がより好ましい。
【0019】
前記共重合体中の(c2)(メタ)アクリル酸アルキルエステルのより詳しい構成比としては、アルキル基の炭素数が18以上24以下である(メタ)アクリル酸アルキルエステルを2.43%以上4.3%以下含有させることが好ましい。より具体的には、例えば、アルキル基の炭素数が18以上24以下の1種の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを2.43%以上4.3%以下含有させてもよく、アルキル基の炭素数が18以上24以下の2種以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの混合体を2.43%以上4.3%以下含有させてもよい。
【0020】
(c3)エチレン性不飽和基を2個以上有する化合物の種類は、特に限定されないが、本発明においては、例えば、エチレン性不飽和基がアリル基である化合物を好適に用いることができる。具体的には、ペンタエリトリトールジアリルエーテル、ペンタエリトリトールトリアリルエーテル、及びペンタエリトリトールテトラアリルエーテル等のペンタエリトリトールアリルエーテルや、ジエチレングリコールジアリルエーテル、ポリエチレングリコールジアリルエーテル並びにポリアリルサッカロースが特に好ましい。なお、これらエチレン性不飽和基を2個以上有する化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を併用してもよい。
【0021】
前記前記共重合体中の(c3)エチレン性不飽和基を2個以上有する化合物の構成比は、その特性を損なわない限り特に限定されず、自由に設定することができる。本発明では特に、0.08%以上0.29%以下が好ましく、0.11%以上0.24%以下がより好ましく、0.15%以上0.19%以下が更に好ましい。エチレン性不飽和基を2個以上有する化合物の構成比が0.08%未満の前記前記共重合体を用いると、リポソームの安定化向上作用が得られない場合がある。
【0022】
前記共重合体の製造方法については特に制限はない。公知の重合方法を利用することができる。例えば、前記(c1)〜(c3)の構成成分を、不活性ガス雰囲気下、溶媒中で攪拌し、重合開始剤を用いて重合させる方法等の通常の方法を用いることができる。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガスやアルゴンガス等を挙げることができる。
【0023】
重合に用いる溶媒も特に限定されないが、前記(c1)〜(c3)の構成成分を溶解するが、得られる前記共重合体を溶解しないものであって、当該重合反応を阻害しないものであれば特に限定されない。溶媒の具体例としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロペンタン、及びシクロヘキサン等の炭化水素溶媒が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。これらの中でも特に、n−ヘキサン、及びn−へプタンを好適に用いることができる。また、これら炭化水素溶媒は、ケトン、エステル、エーテル、及び飽和アルコール等の有機溶媒と組み合わせて使用することもできる。好ましい有機溶媒の具体例としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、プロピオン酸ブチル、シクロヘキサノン等が挙げられる。
【0024】
重合に用いる前記溶媒の量は、攪拌操作性を向上させる観点及び経済性の観点から、(c1)(メタ)アクリル酸100質量部に対して、300〜5000質量部であることが好ましい。
【0025】
重合に用いる重合開始剤も特に限定されないが、例えば、ラジカル重合開始剤を好適に用いることができる。具体例としては、α,α'−アゾイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル及び2,2'−アゾビスメチルイソブチレート等を挙げることができる。これらの中でも特に、高分子量の前記共重合体を得るためには、2,2'−アゾビスメチルイソブチレートを用いることが好ましい。
【0026】
重合に用いる前記重合開始剤の量は、重合開始剤の使用量は、(c1)(メタ)アクリル酸1モルに対して0.00003〜0.002モルであることが好ましい。重合開始剤の使用量が0.00003モル未満の場合、反応速度が遅くなるため経済的でなくなるおそれがある。逆に、重合開始剤の使用量が0.002モルを超える場合、重合が急激に進行し、反応の制御が困難になるおそれがあるからである。
【0027】
重合における反応温度は、目的の前記共重合体が得られれば、特に限定されないが、50℃以上90℃以下で行うのが好ましく、55℃以上75℃以下で行うのがより好ましい。反応温度が50℃未満の場合、反応溶液の粘度が上昇し、均一に攪拌することが困難になるおそれがある。逆に、反応温度が90℃を超える場合、反応が急激に進行し、反応の制御が困難になるおそれがあるからである。反応時間は、反応温度によって適宜設定することができるが、通常、0.5〜5時間で行うことが好ましい。
【0028】
反応終了後、反応溶液を例えば80℃以上130℃以下で加熱して前記溶媒を揮散除去することにより、前記水溶性高分子を得ることができる。加熱温度が80℃未満の場合、乾燥に長時間を要するおそれがあり、130℃を超える場合、得られる前記共重合体の水への溶解性を損なうおそれがあるからである。
【0029】
前記(c1)〜(c2)を構成成分とする共重合体は、水溶性高分子であるのが好ましい。中でも、水で膨潤させてゲル状とした後、電解質を添加することにより、粘度増加を生じる水溶性高分子であると、リポソームの安定性向上作用に優れるので好ましい。アルキル変性されたカルボキシビニルポリマーは、高分子中に導入されたアルキル基が、水溶液中で会合体を形成するため、電解質を添加しても高分子の凝集・収縮が生じ難く、増粘性が増す傾向にある。従って、本発明では、成分(C)として、アルキル変性されたカルボキシビニルポリマーであって、その水溶液に電解質を添加した場合に、増粘する水溶性高分子を用いるのが好ましい。当該作用を示す水溶性高分子の例には、(メタ)アクリル酸95.42〜97.48%、アルキル基の炭素数が18〜24である(メタ)アクリル酸アルキルエステル2.43〜4.30%およびエチレン性不飽和基を2個以上有する化合物0.08〜0.29%である(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体が含まれる。
ここで、電解質の添加による増粘性の増減は、試料であるポリマーの1%水溶液(温度25℃)に塩化ナトリウム1%を添加した際の増粘性の増減で判断するものとする。
【0030】
成分(C)として市販品を用いてもよい。成分(C)として利用可能な市販品の例には、CARBOPOL940(LUBRIZOL ADVANCED MATERIALS社製)、CARBOPOL980(LUBRIZOL ADVANCED MATERIALS社製)、CARBOPOL1342(LUBRIZOL ADVANCED MATERIALS社製)、CARBOPOL1382(LUBRIZOL ADVANCED MATERIALS社製)が含まれる。なお、CARBOPOL940およびCARBOPOL980はカルボキシビニルポリマーであり、CARBOPOL1342およびCARBOPOL1382はアルキル変性カルボキシビニルポリマーである。これらのポリマーをそれぞれ1%含む中和粘稠水溶液は、塩化ナトリウム1%を添加することにより水溶液の粘度が低下する作用があり、これらと比較すると、好ましい例として挙げた、(メタ)アクリル酸95.42〜97.48%、アルキル基の炭素数が18〜24である(メタ)アクリル酸アルキルエステル2.43〜4.30%およびエチレン性不飽和基を2個以上有する化合物0.08〜0.29%である前記(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体は、リポソームの安定性向上作用の点でより優れている。
【0031】
・成分(D)アニオン性界面活性剤
本発明のリポソーム組成物は、成分(D)アニオン性界面活性剤をさらに含有するのが好ましい。成分(D)アニオン性界面活性剤は、リポソームの安定性向上に寄与する限り、その種類については特に制限はない。例えばリン酸系、硫酸系、スルホン酸系、カルボン酸系のものが挙げられ、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルリン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルカルボン酸塩などが挙げられる。中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸類(ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸及びその塩を含む意味で用いる)から選択されるアニオン性界面活性剤が好ましい。ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩は、ポリオキシエチレンモノアルキルエーテルリン酸塩(RO(CH2CH2O)mPO(OH)OM+で表すことができ、Rはアルキル基、mは正の数、及びM+はカチオンを意味する)であっても、ポリオキシエチレンジアルキルエーテルリン酸塩(R1O(CH2CH2O)mPO(O(CH2CH2O)n2)OM+)で表すことができ、R1及びR2はそれぞれアルキル基、m及びnはそれぞれ正の数、並びにM+はカチオンを意味する)であってもよい。成分(D)として利用するポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩としては、炭素原子数12〜18のアルキル基を有するものが好ましく、m及びnがそれぞれ4〜10であるポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩が好ましい。カチオンについては特に制限はなく、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン等が挙げられる。成分(D)として利用するポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩の好ましい例には、ポリオキシエチエチレン(4モル)ラウリルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチエチレン(4モル)セチルエーテルリン酸塩等が含まれる。
【0032】
・その他の成分
本発明のリポソーム組成物は、前記成分(A)〜(C)、及び所望によりさらに成分(D)を含有し、これらの成分以外に、リポソームを分散含有する液状媒体を含有する。液状媒体は、精製水等の水であるのが好ましいが、リポソームの安定性に影響を与えない範囲で、エチルアルコール等の親水性有機溶媒を含んでいてもよい。また、リポソームを形成する過程で、前記成分(A)〜(C)(特に成分(A)及び(B))の分散性を良好に維持する必要があり、各成分の分散性改善を目的として、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、ジプロピレングリコール等の多価アルコールを媒体中に添加してもよい。さらに、pHを所望の範囲3〜5.5に調整するために、pH調整剤のいずれも添加することができる。使用可能なpH調整剤の例には、クエン酸とクエン酸ナトリウムとの混合系等が含まれる。
【0033】
本発明のリポソーム組成物は、例えば、油剤、粉体(顔料を含む)、着色料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、香料等を本発明の効果を妨げない範囲で配合することができる。これらの任意成分のうち、油剤としては、動物油、植物油、合成油等、その起源や、固形油、半固形油、液体油、揮発性油等、その性状を問わず、炭化水素類、油脂類、ロウ類、硬化油類、エステル油類、脂肪酸類、高級アルコール類、シリコーン油類、フッ素系油類、ラノリン誘導体類、油性ゲル化剤類等が挙げられる。
【0034】
・各成分の割合
本発明のリポソーム組成物における、前記成分(A)〜(C)の含有量は、使用する成分の種類等に応じて、適切な範囲に決定することができる。
安定なリポソーム組成物を得るためには、成分(A)の含有量は、0.1%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましく、1%以上がさらに好ましく;また成分(A)の含有量は、10%以下が好ましく、7%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましい。例えば、成分(A)の含有量は、0.1〜10%であるのが好ましい。
【0035】
また、安定なリポソーム組成物を得るためには、成分(B)の含有量は、0.05%以上が好ましく、0.1%以上がより好ましく、0.2%以上がさらに好ましく;また成分(B)の含有量は、7%以下が好ましく、5%以下がより好ましく、3%以下がさらに好ましい。例えば、成分(B)の含有量は、0.05〜7%であるのが好ましい。
【0036】
また、安定なリポソーム組成物を得るためには、成分(C)の含有量は、0.005%以上が好ましく、0.01%以上がより好ましく、0.02%以上がさらに好ましく;また成分(C)の含有量は、5%以下が好ましく、3%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましい。例えば、成分(C)の含有量は、0.005〜5%であるのが好ましい。
なお、成分(C)は、あらかじめ、水で膨潤させアルカリで中和した後に用いることが好ましい。中和に用いるアルカリ性物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を用いることができる。膨潤に用いる水の量は、成分(C)の質量に対して、100〜500倍程度であるのが好ましく、また含有されるアルカリ性物質の割合は、成分(C)の質量に対して0.1〜2倍程度であるのが好ましいが、但し、この範囲に限定されるものではない。
【0037】
また、成分(A)と成分(B)の質量比、及び成分(A)と成分(C)との質量比も、リポソームの安定性に影響する場合があるので、適切な範囲に調整するのが好ましい。
本発明では、リポソームの安定性の観点では、成分(A)を成分(B)と比較して質量比で同等以上含有するのが好ましく、より多く含有するのがより好ましい。成分(A)が成分(B)と比較して質量比で、1.1倍以上であるのが好ましく、1.5倍以上であるのがより好ましく、2倍以上であるのがさらに好ましく;また成分(A)が成分(B)と比較して質量比で、100倍以下であるのが好ましく、10倍以下であるのがより好ましく、6倍以下であるのがさらに好ましい。例えば、成分(A)と成分(B)との質量比が、1:0.01〜1:1であるのが好ましい。
【0038】
また、本発明では、リポソームの安定性の観点では、成分(A)を成分(C)と比較して質量比で同等以上含有するのが好ましく、より多く含有するのがより好ましい。成分(A)が成分(C)と比較して質量比で、1.1倍以上であるのが好ましく、10倍以上であるのがより好ましく、20倍以上であるのがさらに好ましく;また成分(A)が成分(C)と比較して質量比で、1000倍以下であるのが好ましく、500倍以下であるのがより好ましく、200倍以下であるのがさらに好ましい。例えば、成分(A)と成分(C)との質量比が、1:0.001〜1:1であるのが好ましい。
【0039】
成分(D)を含有する態様では、成分(D)の添加量が少な過ぎると、安定化効果が得られず、一方多過ぎると使用感に不具合が生じる傾向がある。これらの観点から、成分(D)の含有量は、0.001〜1%であるのが好ましく、0.01〜0.5%であるのがより好ましく、0.05〜0.2%であるのがさらに好ましい。
【0040】
本発明のリポソーム組成物中の液状媒体(好ましくは水)の割合は、特に制限はない。一般的には、前記成分(A)〜(C)の合計に対して質量比で、10倍以上であるのが好ましく、30倍以上であるのがより好ましく;また200倍以下であるのが好ましく、100倍以下であるのがさらに好ましい。但しこの範囲に制限されるものではない。
【0041】
2. リポソーム組成物の特性
本発明のリポソーム組成物は、そのpHが3〜5.5であり、酸性のリポソーム組成物である。従来は、リン脂質を利用したリポソームは、酸性領域においてリン脂質の電荷が小さくなり、親水・親油のバランス・界面活性能が変化するため、それに起因して、リポソームの一部が破壊・変形等し、良好な球状を維持できないという問題があった。本発明のリポソーム組成物は、pHが3〜5.5の酸性領域であっても、ほぼ球状の安定なリポソーム構造を維持するという特徴がある。
【0042】
この良好な状態は、調製した直後のみならず、長期保存時にも維持される。具体的には、本発明のリポソーム組成物は、40℃で一ヶ月静置した後も、リポソームの形状は維持され、凝集がほとんど観察されないという、経時安定性を示す。
【0043】
本発明のリポソーム組成物は、リポソームの平均粒径が100〜400nm(より好ましくは平均粒径は150〜300nm)であるのが好ましい。この範囲の平均粒径を示すリポソームは、例えば、化粧料又は皮膚外用剤に配合した場合に、皮膚への浸透性に優れ、皮膚適用時にはべたつきがなく、しかも良好な保湿効果も得られるといった、使用感に優れるものである。さらに本発明では、二分子膜が、薄い水層をはさんで何重にも重なった多重膜リポソームが得られる場合もある。多重膜リポソームは、例えば、化粧料又は皮膚外用剤に配合した場合に、皮膚への浸透性が良好で、有効成分の皮膚への徐放性の点で優れている。
なお本明細書では、リポソームの平均粒径は、コールターカウンター(ベックマン・コールター株式会社製:サブミクロン粒子アナライザーN5)を用いた測定によって決定される平均粒径をいうものとする。
【0044】
本発明のリポソーム組成物は、pHが3〜5.5の酸性領域において分散安定性に優れ、凝集がほとんどないという特徴もある。
【0045】
3.リポソーム組成物の製造方法
本発明のリポソーム組成物の製造方法の一例は、以下の通りである。
前記成分(A)〜(C)及び水、所望によりさらに成分(D)、を含むpH3〜5.5の混合物を調製すること、及び
pH3〜5.5の前記混合物を高圧分散処理すること、
を少なくとも含むリポソーム組成物の製造方法である。
本発明の上記方法は、リポソーム形成時の条件、具体的には分散処理時の圧力を高圧とし、及び分散処理時のpHを3〜5.5に調整することを特徴とする。この方法により製造された本発明のリポソーム組成物は、形状、粒径及び分散性の観点で特に優れている。
以下、この方法について詳細に説明する。
【0046】
まず、前記成分(A)〜(C)及び水、所望によりさらに成分(D)、を含むpH3〜5.5の混合物を調製する。一例は、以下の通りである。
成分(A)及び(B)を混合して第1の混合物を調製する。第1の混合物中には、グリセリン、1,3−ブチレングリコール等の多価アルコールを添加して、成分(A)及び(B)の分散性を改善して、混合を促進してもよい。別途、成分(C)及び媒体となる水を混合して第2の混合物を調製する。第2の混合物調製時には、上記した通り、成分(C)をあらかじめ水で膨潤させアルカリで中和させてから用いるのが好ましい。また、所望により添加される成分(D)は、高圧分散処理時に存在させれば、安定化効果を得られるが、第2の混合物中に添加するのが好ましい。それぞれ調製した第1及び第2の混合物を混合し、所望により酸性物質又はpH調整剤を添加して、pHを3〜5.5に調整する。pH調整剤等は、第2の混合物中に添加するのが好ましい。
【0047】
次に、pH3〜5.5の前記混合物を高圧分散処理する。高圧分散処理の一例は、混合物を加圧下でチャンバー内の流路に導入し、該混合物を高圧下、該流路内の平面部に衝突させるか、あるいは高圧下該流路内で該混合物同士を衝突させることにより分散させる処理である。このようにして高圧分散処理することにより、リポソーム組成物の安定性を高めることができる。
【0048】
上記高圧分散処理方法は、70〜300MPaの圧力下で行われるのが好ましく、
100〜200MPaの圧力下で行われるのが好ましい。70MPa以上の高圧分散処理は、高いせん断力と衝撃力を用いることで分散と粉砕を行う一般的な高圧ホモジナイザー構造を有する超高圧ホモジナイザーにより実施することができる。前記超高圧ホモジナイザーとしては、マイクロフルイダイザー(みづほ工業(株)製)、アルティマイザー((株)スギノマシン製)等を挙げることができる。
高圧分散処理の温度および時間は、機器の種類や大きさ、調製するリポソーム組成物の量等に応じて、好ましい範囲に設定することができる。
【0049】
上記方法により調製した本発明のリポソーム組成物は、そのままで、又は種々の有効成分等と混合されて、種々の用途に利用される。また、上記方法でリポソーム組成物を調製した後に、用途に応じて所望により、上記任意の他の成分を添加してもよい。リポソーム組成物の安定性を良好に維持するという観点では、高圧分散処理時の混合物のpHと、その後、所望により任意の成分を添加された後のリポソーム組成物のpHとの差は、小さいほうが好ましく、1.0以下であるのが好ましい。また、同観点から、高圧分散処理時の混合物のpHと、その後、所望により添加される任意の成分のpHとの差も小さいほうが好ましく、1.0以下であるのが好ましい。但し、この範囲に限定されるものではない。
【0050】
4.リポソーム組成物の用途
本発明のリポソーム組成物の用途に関しては特に制限はない。化粧料、皮膚外用剤(例えば、医薬品及び医薬部外品用の皮膚外用剤)、食品等種々の用途の組成物の調製に用いることができる。これらの組成物は、最終的に、液状、半液状、固体等いずれの形態であってもよい。本発明のリポソーム組成物が達成する粒度は、皮膚浸透性に優れるという特徴があり、その観点では、化粧料又は皮膚外用剤の調製に用いるのが好ましい。特に、本発明のリポソーム組成物はpHが3〜5.5であり、酸性であるので、酸性の有効成分を含む等の酸性の化粧料又は皮膚外用剤の調製に利用するのに適している。pHが中性領域に調整されたリポソーム組成物中に酸性有効成分を添加したり、また有効成分の効能を発揮させるために酸性に調整された化粧料又は皮膚外用剤中に配合すると、pHのギャップにより、リポソームが破壊等されてしまうことがしばしば起こる。本発明のリポソーム組成物は、元々酸性領域において良好な安定性を維持しているので、酸性の化粧料又は皮膚外用剤の調製に用いても、リポソームの破壊等は生じ難く、酸性の化粧料又は皮膚外用剤においても安定なリポソーム構造、及び分散安定性を維持する。
【0051】
本発明のリポソーム組成物を利用した化粧料又は皮膚外用剤の製造方法の一例は、以下の通りである。
上述の本発明の方法によりリポソーム組成物を調製すること、及び
前記リポソーム組成物と、少なくとも有効成分とを混合すること、
を少なくとも含む化粧料又は皮膚外用剤の製造方法である。
【0052】
調製される化粧料又は皮膚外用剤のpHについては特に制限はないが、上記リポソーム組成物調製時のpHと最終的に調製される化粧料又は皮膚外用剤のpHとの差が小さいほうが好ましく、具体的にはその差が1.0以下であると、化粧料又は皮膚外用剤においてもリポソームの球状が維持され、分散性及び経時分散性が良好に維持される。また、同観点から、高圧分散処理時の混合物のpHと、その後、所望により添加される任意の成分のpHとの差も小さいほうが好ましく、1.0以下であるのが好ましい。但し、この範囲に限定されるものではない。
【0053】
本発明に利用可能な化粧料又は皮膚外用剤の有効成分の例には、酸性アミノ酸、ビタミンCエチル、グリチルリチン酸ジカリウム、サリチル酸、コウジ酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、コハク酸、酒石酸、dl−ピロリドンカルボン酸、安息香酸、及びこれらの塩が含まれる。組成物の用途に応じて、これらの有効成分の1種又は2種を、適量添加することができる。
【0054】
本発明の化粧料及び皮膚外用剤の剤型については特に制限はない。液状、半液状(ゲル状及びペースト状を含む)、固体状等いずれであってもよい。その例として、乳液、クリーム、化粧水、美容液、パック、洗顔料、メーキャップ化粧料、軟膏等、種々の化粧料又は皮膚外用剤が挙げられる。また、本発明の化粧料及び皮膚外用剤には、本発明のリポソーム組成物以外に、化粧料及び皮膚外用剤に通常使用される各種の成分、即ち、水、アルコール、油剤、界面活性剤、増粘剤、粉体、キレート剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、植物・微生物由来の抽出物、保湿剤・抗炎症剤・細胞賦活剤等の各種薬効剤、香料等を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜加えることができる。
【0055】
本発明の化粧料又は皮膚外用剤におけるリポソームの効能についても特に制限はない。リン脂質からなるリポソームであって、皮膚浸透性が高く、保湿効果に優れるという特徴がある。従って、本発明のリポソーム組成物を含有する化粧料又は皮膚外用剤は、併用される有効成分に由来する効能とともに、良好な保湿効果を肌に与える。また、有効成分をリポソームに内包させてもよく、その態様では、上記効能とともに、有効成分の徐放性による効果も得られるであろう。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
[実施例1〜9、比較例1〜4]
下記表に示す処方および下記製法により、リポソーム組成物を調製し、調製した各組成物について、以下の評価をそれぞれ行った。各例の組成製法、及び評価結果を下記表にそれぞれ示す。
【0057】
<製法> あらかじめNo.1〜4の成分を混合しておき、No.5〜15の成分を混合した後、それらを混合し、マイクロフルイダイザー(みづほ工業(株)製)で高圧分散処理した。高圧分散処理時の加圧は100MPaであった。その後、No.16〜22を添加混合してリポソーム組成物を得た。
【0058】
<評価>
イ. リポソームの形状(電子顕微鏡にて観察)
◎:球状のリポソームが確認された。
○:一部が欠けた球状のリポソームが確認された。
△:球状ではない変形したリポソームが確認された。
×:リポソームが確認されなかった。
ロ. リポソームの平均粒径
前記リポソーム組成物の原液を、1cm×1cmのPMMA製セルに入れ、コールターカウンター(ベックマン・コールター株式会社製:サブミクロン粒子アナライザーN5)を用いて、光源レーザーの波長が632.8nmでの平均粒子径を測定した。
◎:平均粒径は150〜300nmであった。
○:平均粒径は100nm以上150nm未満、もしくは300nmを超えて400nm以下であった。
△:リポソームの凝集がかなり見られた。
×:リポソームが凝集しており、単一なリポソームがほとんど見られなかった。
った。
ハ. リポソームの分散性(電子顕微鏡にて観察)
◎:リポソームの凝集が全く見られず、単一なリポソームとして存在していた。
○:リポソームの凝集がわずかに見られた。
△:リポソームの凝集がかなり見られた。
×:リポソームが凝集しており、単一なリポソームがほとんど見られなかった。
ニ. 経時安定性(電子顕微鏡にて観察)
各試料について40℃1ヶ月静置した後に、イと同様の評価判定基準によりそれぞれ評価した。
ホ. 使用感(リポソーム組成物を15名の化粧品評価専門パネルを用い、浸透感を評価)
◎:12名以上が浸透感を感じたと判定
○:8〜11名が浸透感を感じたと判定
△:5〜7名が浸透感を感じたと判定
×:浸透感を感じたと判定した人が4名以下
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
上記表に示す結果から、成分(A)〜(C)を含有する実施例のリポソーム組成物はいずれも、リポソームの形状、粒径及び分散性が良好であり、その結果、使用感にも優れていた。
また、実施例のリポソーム組成物はいずれも、調製後初期のリポソームの状態が良好であるだけでなく、酸性であるにも係わらず、長期保存後もリポソームの状態は良好であり、経時安定性にも優れていた。
【0062】
一方、成分(C)を含有しない比較例1では、リポソームの球状性が失われ、粒径も適切な範囲から変動してしまい、さらに分散性も悪化してしまったため、使用感に劣るものとなった。成分(C)の代わりに他の水溶性高分子を含有する比較例2及び3では、さらにリポソームの安定性が悪化し、その結果、使用感にも劣っていた。また、成分(B)を含有しない比較例4も同様であり、リポソームの球状性が失われ、粒径も適切な範囲から変動してしまい、さらに分散性も悪化してしまったため、使用感に劣るものとなった。
【0063】
実施例1のリポソーム組成物の顕微鏡写真を図1に示す。図1に示す通り、本発明の実施例では、平均粒径が100〜400nmの球状であり、多層膜構造を有する多重膜リポソームが調製できたことが理解できる。この様な形態のリポソームは皮膚浸透性もよく、肌に対する使用感にも優れるものである。
【0064】
次に、上記製法を以下の製法B又はCに代えた以外は、実施例1と同様の組成のリポソームを調製した(参考例1及び2)。即ち、参考例1(製法B)では、リポソーム形成時、即ち高圧分散処理時に成分(C)を存在させず、後に他の成分とともに添加し、参考例2(製法C)では、さらに高圧分散処理を全く行わなかった。
また、実施例1において、クエン酸又はクエン酸ナトリウムを添加せず、高圧分散処理時のpHを5.8にかえた以外は、実施例1と同様にしてリポソーム組成物を調製した(参考例3)。
・製法B
A. No.1〜5の成分を混合した後、マイクロフルイダイザー(みづほ工業(株)製)で高圧分散処理した。高圧分散処理時の加圧は100MPaであった。
B. No.6〜22の成分を混合した後、Aを添加し均一に混合した。
・製法C
A. No.1〜5の成分を混合した。
B. No.6〜22の成分を混合した後、Aを添加し均一に混合した。
【0065】
成分(A)〜(C)を混合した後に、高圧分散処理した実施例1は、高圧分散処理時に成分(C)が存在しなかった参考例1や、高圧分散処理を全く行わなかった参考例2と比較して、均一な形状且つ均一な粒径のリポソームが得られ、リポソーム分散性が特に高かった。また、成分(A)〜(C)を混合した後に、高圧分散処理しても、高圧分散処理時のpHが5.5を超えていた参考例3と比較しても、リポソーム分散性に優れていた。
この様に、成分(A)〜(C)を混合した後に、pH3〜5.5で高圧分散処理する本発明の方法によれば、形状、粒径、及び分散性の観点で特に優れたリポソーム組成物が得られることが理解できる。
【0066】
以下に、本発明の実施例のリポソーム組成物を用いて、皮膚外用剤を調製した例を示す。
[実施例10](軟膏)
(成分) (%)
1.モノステアリン酸ポリエチレングリコール(40モル) 2
2.親油型モノステアリン酸グリセリル 2
3.ベヘニルアルコール 2
4.セトステアリルアルコール 2.5
5.マカデミアンナッツ油 8
6.スクワラン 8
7.1,3−ブチレングリコール 10
8.グリセリン 5
9.グリチルリチン酸ジカリウム 0.1
10.精製水 残量
11.キサンタンガム 0.05
12.クエン酸 0.1
13.クエン酸ナトリウム 0.1
14.水素添加大豆リン脂質 1.2
15.コレステロール 0.3
16.グリセリン 4
17.1,3−ブチレングリコール 6
18.クエン酸 0.01
19.クエン酸ナトリウム 0.01
20.ポリオキシエチレン(4モル)ラウリルエーテルリン酸ナトリウム
0.04
21.精製水
22.アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体 注1 0.02
23.水酸化ナトリウム 0.02
【0067】
(製法)
A. あらかじめNo.14〜17の成分を混合しておき、No.18〜23の成分を混合した後、それらを混合し、マイクロフルイダイザー(みづほ工業(株)製)で高圧分散処理した。高圧分散処理時の加圧は70MPaで、且つpHは4.9であり、高圧分散処理後のpHも4.9であった。
B. 加熱混合したNo.1〜6の成分に加熱混合したNo.7〜13を添加し均一に分散した後、室温まで冷却した。
C. A.とB.を均一に混合しpHが4.5の軟膏を得た。
【0068】
実施例10の軟膏は、リポソームの形状、粒径(平均粒径は100〜400nmの範囲内)及び分散性が良好であり、その結果、使用感にも優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(A)及び(B)
(A)リン脂質
(B)コレステロール
から構成されるリポソームであって、リポソームの内水層に成分(C)カルボキシビニルポリマー及び/又はアルキル変性カルボキシビニルポリマーを含有し、かつ、25℃におけるpHが3〜5.5であることを特徴とするリポソーム組成物。
【請求項2】
リポソームの平均粒径が100〜400nmである請求項1に記載のリポソーム組成物。
【請求項3】
成分(C)がアルキル変性カルボキシビニルポリマーである請求項1又は2に記載のリポソーム組成物。
【請求項4】
成分(C)が、アクリル酸及び/又はメタクリル酸:95.42〜97.48質量%、炭素数18〜24であるアクリル酸アルキルエステル及び/又はメタクリル酸アルキルエステル:2.43〜4.30質量%、エチレン性不飽和基を2個以上有する化合物:0.08〜0.29質量%とを重合して得られるアルキル変性カルボキシビニルポリマーである請求項1〜3のいずれか1項に記載のリポソーム組成物。
【請求項5】
更に、成分(D)としてアニオン性界面活性剤を含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載のリポソーム組成物。
【請求項6】
成分(D)がポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩である請求項5に記載のリポソーム組成物。
【請求項7】
成分(A)の含有量が0.1〜10質量%である請求項1〜6のいずれか1項に記載のリポソーム組成物。
【請求項8】
成分(A)と成分(B)との含有質量比が、1:0.01〜1:1である請求項1〜7のいずれか1項に記載のリポソーム組成物。
【請求項9】
成分(A)と成分(C)との含有質量比が、1:0.001〜1:1である請求項1〜8のいずれか1項に記載のリポソーム組成物。
【請求項10】
前記請求項1〜9のいずれか1項に記載のリポソーム組成物を配合してなる化粧料又は皮膚外用剤。
【請求項11】
以下の成分(A)〜(C)及び水
(A)リン脂質
(B)コレステロール
(C)カルボキシビニルポリマー及び/又はアルキル変性カルボキシビニルポリマー
を含有する組成物をpH3〜5.5の範囲内で高圧処理することを特徴とするリポソーム組成物の製造方法。
【請求項12】
70〜300MPaの圧力で処理する請求項11に記載のリポソーム組成物の製造方法。
【請求項13】
平均粒径が100〜400nmである請求項11又は12に記載のリポソーム組成物の製造方法。
【請求項14】
成分(A)〜(C)及び水を含有する組成物に、更に成分(D)としてアニオン性界面活性剤を配合する請求項11〜13のいずれか1項に記載のリポソーム組成物の製造方法。
【請求項15】
成分(A)の含有量が0.1〜10質量%である請求項11〜14のいずれか1項に記載のリポソーム組成物の製造方法。
【請求項16】
成分(A)と成分(B)との含有質量比が、1:0.01〜1:1である請求項11〜15のいずれか1項に記載のリポソーム組成物の製造方法。
【請求項17】
成分(A)と成分(C)との含有質量比が、1:0.001〜1:1である請求項11〜16のいずれか1項に記載のリポソーム組成物の製造方法。
【請求項18】
以下の成分(A)〜(C)及び水
(A)リン脂質
(B)コレステロール
(C)カルボキシビニルポリマー及び/又はアルキル変性カルボキシビニルポリマー
を含有する組成物をpH3〜5.5の範囲内で高圧処理してリポソーム組成物を調製し、次いで、前記リポソーム組成物と25℃でのpH差が1.0以下の化粧料又は皮膚外用剤用組成物とを混合することを特徴とする化粧料又は皮膚外用剤の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−206948(P2012−206948A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71750(P2011−71750)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000145862)株式会社コーセー (734)
【Fターム(参考)】