説明

リポソーム製剤の製造方法

【課題】能動的薬物封入方法により高い薬物封入効率を有するリポソーム製剤を製造する。
【解決手段】トリテルペン配糖体および/またはそのアグリコンの塩を内水相に含む空のリポソームを形成するリポソーム形成工程と、当該リポソーム形成工程の後に、当該リポソームの内水相に薬物を導入する薬物封入工程とを備えるリポソーム製剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラッグデリバリーシステムに有用なリポソーム製剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微粒子を担体とするドラッグデリバリーの開発が近年盛んに行なわれている。特にリポソームは最も注目されている微粒子担体の一つであり、既に多くのリポソーム製剤が市販されている。リポソーム製剤は、薬物の選択的な標的部位への送達および非選択的な体内分布の抑制を可能とする。そのため、治療効果の向上および副作用の低減につながり、患者のQuality of Life(QOL)の向上に寄与している。
【0003】
リポソームは、リン脂質を主な膜構成成分とし、生体膜同様に脂質二重膜構造を有する。リポソームに薬物を封入する場合、一般的に、脂質二重膜と親和性の高い脂溶性の薬物は脂質二重膜内に、水溶性の薬物は脂質二重膜内の水相(内水相)に局在する。脂質二重膜に薬物が局在する場合、薬物封入効率は、リン脂質の種類およびリポソームの粒子径に依存する。一方、内水相に薬物が局在する場合、薬物封入効率は、リポソーム膜構成成分の組成および内水相組成に影響される。これは、膜構成成分組成や内水相組成により、脂質二重膜に対する薬物の透過性が変化するためである。
【0004】
リポソームへの薬物封入方法は、リポソーム形成時に薬物を封入する受動的薬物封入方法と、リポソーム形成後に薬物を封入する能動的薬物封入方法との二つの方法に大別される。一般的に、受動的薬物封入方法は脂溶性の高い薬物や膜透過性の低い薬物において採用される封入方法であり、リポソーム内水相あるいはリポソーム二重膜内への単純分配に依存する方法であるため、薬物封入効率は低い。従って、薬剤封入効率を向上させるためには能動的薬物封入方法を用いることが望まれるが、そのためには、薬物として水溶性の薬物を選択し、リポソーム形成後に外液に添加された薬物が脂質二重膜を透過し、さらに内水相に保持されることが必要である。
【0005】
能動的薬物封入方法として、硫酸アンモニウムや硫酸マグネシウム等の水溶液を内水相溶液としてリポソームを形成し、リポソーム外液を中性緩衝液に置換することで、リポソーム内外でpH勾配を形成し、pH勾配による駆動力を利用して薬物を封入させる方法がある(特許文献1)。この方法によれば、リポソーム外で膜透過形態(分子型)として存在する薬物がpH勾配に従って脂質二重膜を透過し、リポソーム内に移動したとき、pHの変化によって非膜透過形態(イオン型)へと変換され、イオン型へと変換された薬物は再度リポソーム外へ拡散することなく内水相に保持される。従って、高い薬物封入効率が得られるとともに、リポソーム製剤製造後においても生体外および生体内において高い薬物保持力を持つリポソーム製剤が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−196713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
能動的薬物封入方法においては、リポソームの内水相が非常に重要な役割を果たす。これまでに、上述の硫酸アンモニウム、硫酸マグネシウム等を内水相として使用する例のほかに、デキストラン硫酸およびその誘導体を用いる例が報告されている。しかしながら、能動的薬物封入方法に用いることのできる内水相の組成の報告は少ないのが現状である。そこで、本発明は、能動的薬物封入方法に用いることのできる内水相の組成について検討し、能動的薬物封入方法により高い薬物封入効率を有するリポソーム製剤を製造するための方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、能動的薬物封入方法に用いることのできる内水相の組成について鋭意検討を重ねた結果、トリテルペン配糖体および/またはそのアグリコンの塩を内水相に含むと、能動的薬物封入方法により高い薬物封入効率を有するリポソーム製剤を製造することができることを知得し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は以下に掲げる(1)〜(3)を提供する。
(1)トリテルペン配糖体および/またはそのアグリコンの塩を内水相に含むリポソームを形成するリポソーム形成工程と、
前記リポソーム形成工程の後に、前記リポソームの内水相に薬物を導入する薬物封入工程と
を備えるリポソーム製剤の製造方法。
(2)上記薬物が、ドキソルビシン(DXR)、ビンクリスチン(VCR)、シプロフロキサシン(CFX)およびビノレルビン(VNR)からなる群から選択されるいずれか1つである、上記(1)に記載の製造方法。
(3)上記トリテルペン配糖体および/またはそのアグリコンの塩が、グリチルリチン酸のアンモニウム塩またはカリウム塩である、上記(1)または(2)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い薬物封入効率を有し、かつ担体からの薬物放出を制御しうるリポソーム製剤を製造することができ、薬物の副作用を低減するとともに治療効果を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、実施例3、4および比較例5の、ラット血漿中におけるリポソーム製剤からのビンクリスチン(VCR)放出挙動を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、トリテルペン配糖体および/またはそのアグリコンの塩を内水相に含むリポソームを形成するリポソーム形成工程と、当該リポソーム形成工程の後に、当該リポソームの内水相に薬物を導入する薬物導入工程とを備えるリポソーム製剤の製造方法(以下「本発明のリポソーム製剤の製造方法」という場合がある。)を提供する。
【0013】
上記リポソーム形成工程により形成されるリポソームは、上記薬物封入工程により薬物を封入すると、高い薬物封入効率をもつリポソーム製剤を製造することができ、このリポソーム製剤を患者の治療に用いると、薬物の副作用を低減するとともに治療効果を高めることができる。
【0014】
[リポソーム製剤]
リポソーム製剤とは、薬物が封入された状態のリポソームをいう。
【0015】
1.リポソーム
リポソームは、リン脂質二重膜で形成される閉鎖小胞であり、その小胞空間内に水相(内水相)を含む。リポソームは、通常、膜を隔てて、閉鎖小胞内の水相(内水相)と閉鎖小胞外の水相(外水相)とが存在する懸濁液の状態で存在する。リポソームの膜構造は、脂質二重膜の1枚層からなるユニラメラ小胞(Unilamellar Vesicle)および多重ラメラ小胞(Multilamellar Vesicle,MLV)、またユニラメラ小胞としてSUV(Small Unilamellar Vesicle)、LUV(Large Unilamellar Vesicle)などが知られている。本発明では、膜構造は特に制限されない。
本発明においては、特に断らない限り、「リポソーム」は、リン脂質二重膜および内水相のいずれにも薬物(例えば、抗がん剤、抗生物質その他の薬物をいう。)が導入されていないリポソーム、すなわち空リポソームをいうものとする。
【0016】
(1)リポソーム膜構成成分
リン脂質は、一般的に、分子内に長鎖アルキル基より構成される疎水基とリン酸基等で構成される親水基を持つ両親媒性物質である。リン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン(レシチン)、ホスファチジルグリセロール、フォスファチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリンおよびホスファチジルイノシトールのようなグリセロリン脂質、スフィンゴミエリンのようなスフィンゴリン脂質、カルジオリピンのような天然または合成のジホスファチジル系リン脂質およびこれらの誘導体、さらには、これらを常法に従って水素添加したもの(例えば、水素添加大豆ホスファチジルコリン(HSPC))等を用いることができる。これらのうちでも、HSPC等の水素添加されたリン脂質、スフィンゴミエリン等が好ましい。
【0017】
リポソームは、上記リン脂質とともに、その構造を保持し得る限りにおいて、その他の膜構成成分を含むことができる。当該その他の膜構成成分としては、例えば、コレステロールや飽和・不飽和脂肪酸などのリン脂質以外の脂質およびその誘導体が挙げられる。さらには、リポソームの細胞内輸送を促進するために、標的細胞表面に存在する受容体に対して特異的に結合するための基質あるいはリガンドを含むことができる。
【0018】
リン脂質の量は、リポソームの膜を構成する脂質全体中、通常、20〜100mol%であり、好ましくは40〜100mol%である。また、その他の膜構成成分の量は、通常、0〜80mol%であり、好ましくは0〜60mol%である。
【0019】
本発明において、上記成分から構成されるリポソーム膜は、親水性高分子によりリポソーム表面が修飾されることが好ましい。リポソーム表面を修飾するために用いられる親水性高分子としては、特に限定されないがポリエチレングリコール類、ポリポロピレングリコール類、ポリグリセリン類、フィコール、ポリビニルアルコール、スチレン−無水マレイン酸交互共重合体、ジビニルエーテル−無水マレイン酸交互共重合体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルメタアクリルアミド、ポリメタアクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリヒドロキシプロピルメタアクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアスパルトアミド、合成ポリアミノ酸などが挙げられる。
【0020】
これらの中でも、リポソーム製剤の血中滞留性を改善する効果が高いものとして、ポリエチレングリコール類、ポリグリセリン類、ポリプロピレングリコール類が好ましく、中でもポリエチレングリコール(PEG)は最も汎用されており、特に好ましい。PEGの分子量は、特に限定されないが、通常、500〜10,000ダルトン、好ましくは1,000〜7,000ダルトン、より好ましくは2,000〜5,000である。なお、このような親水性高分子は、片末端がアルコキシ化(例えば、メトキシ化、エトキシ化、プロポキシ化)されているものが、保存安定性に優れることから好ましい。
【0021】
親水性高分子脂質誘導体の脂質(疎水性部分)としては、たとえばリン脂質、長鎖脂肪族アルコール、ステロール、ポリオキシプロピレンアルキル、またはグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。具体的に、親水性高分子がPEGである場合には、PEGのリン脂質誘導体またはコレステロール誘導体が挙げられる。このリン脂質は、ホスファチジルエタノールアミンが好ましく挙げられ、そのアシル鎖は通常、C14−C20程度の飽和脂肪酸、たとえばジパルミトイル、ジステアロイルあるいはパルミトイルステアロイルなどが挙げられる。たとえばPEGのジステアロイルホスファチジルエタノールアミン誘導体(PEG-DSPE)などは、入手容易な汎用化合物である。
親水性高分子によるリポソーム修飾率は、膜(総脂質)に対する親水性高分子量の割合として、通常0.1〜10mol%、好ましくは0.1〜5mol%、より好ましくは0.2〜3mol%である。
本発明において、上記のような外表面選択的な親水性高分子による表面修飾率は、リポソーム膜成分の脂質全量に対する比率で、通常0.1〜20mol%、好ましくは0.1〜5mol%、より好ましくは0.5〜5mol%である。
【0022】
(2)内水相
上記内水相は、トリテルペン配糖体および/またはそのアグリコンの塩を含む溶液(本発明において、特に断りがない場合、「溶液」は「水溶液」をいうものとする。)である。
上記溶液は、上記塩を適当な溶媒に溶解して調製することができる。
上記溶媒としては、生体に適用実績があり、所定濃度のトリテルペン配糖体および/またはそのアグリコンの塩を溶解できるものであれば特に限定されない。このような溶媒としては、具体的には、例えば、酢酸塩水溶液、リン酸塩水溶液、炭酸塩水溶液、酢酸緩衝液、生理的重炭酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等が挙げられる。
【0023】
上記トリテルペン配糖体および/またはそのアグリコンの塩は、トリテルペン配糖体の塩およびトリテルペン配糖体のアグリコンの塩からなる群から選択される少なくとも1つであれば特に限定されない。
トリテルペン配糖体は、いわゆるサポニン、より詳細にはトリテルペンサポニンである。
トリテルペン配糖体の塩としては、具体的には、例えば、グリチルリチン酸(グリチルリチンともいう。);ジンセノシドRb1、ジンセノシドRb2、ジンセノシドRc、ジンセノシドRd、ジンセノシドRe、ジンセノシドRf、ジンセノシドRg1、ジンセノシドRg2等のジンセノシド類;のナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等の第一級〜第四級アンモニウム塩;などが挙げられる。
トリテルペン配糖体の塩としては、より具体的には、例えば、グリチルリチン酸モノナトリウム、グリチルリチン酸ジナトリウム、グリチルリチン酸モノカリウム、グリチルリチン酸ジカリウム、グリチルリチン酸モノアンモニウム、グリチルリチン酸ジアンモニウム等が挙げられる。
本発明においては、トリテルペン配糖体および/またはそのアグリコンの塩として、上記したもの等から、1種類を単独で、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
2.薬物
薬物は特に限定されないが、両親媒性薬物が好ましい。具体的には、例えば、ドキソルビシン(DXR)、ビンクリスチン(VCR)、ビノレルビン(VNR)、ニムスチン等の抗がん剤;シプロフロキサシン(CFX)等の抗生物質(抗がん性抗生物質を除く);などが挙げられる。
上記薬物は、リポソームの内水相に導入され、リポソーム製剤の内水相に含まれる。
【0025】
本発明に係るリポソーム製剤は、既に形成されているリポソームの内水相に、外水相からリポソーム膜を透過して薬物を導入することにより製造されるものである。
【0026】
[リポソーム製剤の製造方法]
本発明のリポソーム製剤の製造方法は、製造工程として、リポソーム形成工程と薬物封入工程とを含み、さらに、所望により、均一化工程、不要成分除去工程、無菌化工程等を含んでもよい。
【0027】
1.リポソーム形成工程
本発明のリポソーム製剤の製造方法におけるリポソーム形成工程は、内水相として、トリテルペン配糖体および/またはそのアグリコンの塩を含む溶液を使用することを特徴とする。
【0028】
リポソーム形成工程とは、リポソーム膜構成成分に水相(内水相)を加えることにより粒子径の整っていない粗リポソームを形成すること(粗リポソーム形成工程)と、その後に、粗リポソームを所望の粒子径に制御(整粒化)すること(整粒化工程)とを含み、リポソームを形成する工程である。
【0029】
(1)粗リポソーム形成工程/整粒化工程
粗リポソームの一般的な形成方法としては水和法(Bangham法)、超音波処理法、逆相蒸発法などを用いた方法が既に報告されている。また、工業レベルでの実用化を指向したスケールでの製造方法としては、加温法、脂質溶解法などがある。また、内水相に保持する薬物量を多くするための方法として、DRV法(Dehydrated/Rehydrated Vesicles)や凍結融解法なども報告されている。
【0030】
粒子径制御は、膜乳化および剪断力の持続を含む様々な公知の技術を用いて行うことができる。より具体的には、フィルターを複数回強制通過させる膜乳化法、高圧吐出型乳化機により高圧吐出させる高圧乳化法などがある。
何れの製造法もG.Gregoriadis編「Liposome Technology Liposome Preparation and Related Techniques」2nd edition, Vol.I−III、CRC Pressにおいて公知であり、この記載を引用して本明細書に記載されているものとする。
【0031】
近年、新しい製造法としては、超高圧による圧縮からの速度変換を利用し、液相下でのジェット流により剪断乳化を行う方法(ジェット流乳化)や超臨界二酸化炭素を利用したリポソーム調製技術がある。また、粒子径制御工程を簡便化する改良型エタノール注入法などが知られている。本発明においてリポソーム形成工程は特に限定されず、上記のような公知の粗リポソーム形成方法および粒子径制御方法を組み合わせて用いることができる。
【0032】
(2)親水性高分子修飾工程
リポソーム形成工程は、さらに、親水性高分子修飾工程を含むことができる。
親水性高分子のリポソーム表面の修飾方法には、均一化工程時に親水性高分子を膜構成脂質と均一化し、リポソーム形成工程においてリポソーム表面に親水性高分子を修飾する方法と、リポソーム形成工程におけるリポソームの粒子径制御以降のリポソームに対して親水性高分子を修飾する方法があり、いずれの方法も本願発明に用いることができる。
【0033】
粒子径が制御され、整粒化されたリポソームの表面修飾をするために親水性高分子修飾工程を行う場合には、表面修飾は、具体的には、整粒化リポソーム分散液と、表面修飾剤溶液とを混合し、リポソーム膜構成成分に含まれるリン脂質の相転移点以上の温度で混合する。整粒化リポソーム分散液と親水性高分子溶液の混合は、整粒化工程終了直後から可能であり、混合までの時間は、工程上、許容される限り短い時間であることが好ましい。
【0034】
2.薬物封入工程
薬物封入工程では、リポソーム形成後に適切な溶媒に溶解した薬物溶液をリポソーム形成工程後のリポソームの外水相に添加し、リポソームのリン脂質膜の相転移点以上に加温して薬物を封入する。本発明では、このように、既に形成されているリポソームに薬物を封入する方法を、能動的薬物封入方法という。これに対して、リポソームの形成時に薬物を封入する方法を、受動的薬物封入方法という。
【0035】
本発明では、薬物はリポソームの内水相に導入される。
リポソームに封入できる薬物量の指標である薬物封入効率は、リポソーム膜構成成分のうちリン脂質(HSPC等)に対する封入薬物の質量比(薬物/リン脂質)で表すことができる。この数値が大きいほど薬物封入効率が高く、より多量の薬物を封入することができる。
【0036】
3.均一化工程
均一化工程は、リポソーム膜構成成分を有機溶媒などで溶解し、各成分の分散状態を均一化する工程であり、通常リポソーム形成工程の前に行われる。膜構成成分として、リン脂質に加え、コレステロールなどの他の膜構成成分を含有する場合、脂質の不均一化を避けるため均一化工程をとる。単一の脂質を用いる場合、均一化工程は必須ではないが、均一化工程をとることが望ましい。
【0037】
本発明において、均一化工程で用いられる均一化方法は特に限定されない。このような均一化方法としては、クロロホルムなどの有機溶媒を用いて完全溶解させ、真空乾燥することにより均一化する薄膜法や溶解後の液を凍結乾燥することにより均一化する方法が知られている。さらに、上述とは別にメタノールやエタノールなどのアルコール類に脂質を溶解して脂質を均一化する方法が知られている。
【0038】
4.不要成分除去工程
不要成分除去工程とは、リポソーム外に存在する最終的に不必要な成分を除去する工程である。不要成分としては、例えば均一化工程において用いられるアルコール類等の有機溶媒、リポソーム形成時に使用する内水相、薬物導入後にリポソーム外液に残存する薬物などが挙げられる。
【0039】
不要成分除去工程は、製造方法の違いにより工程が複数になる場合があるが、これら除去工程は、リポソームと不要成分の分子量や粒子の大きさの違いを利用した方法が用いられ、具体的な手段としては、透析膜、ゲルろ過、限外濾過などが広く用いられている。
【0040】
本発明において、トリテルペン配糖体および/またはそのアグリコンの塩を内水相としてリポソーム形成工程を行った後、当該塩を除去するため、リポソーム形成工程後に不要成分除去工程を行うことが好ましい。
【0041】
5.無菌化工程
無菌化工程では、リポソーム製剤の滅菌を、通常、ろ過滅菌法によって行う。この無菌化の方法は、製剤に熱をかけずに無菌化できるので、製剤を安定な状態のまま無菌化することができる。ろ過は、最終的に孔径0.22μm程度のメンブレンフィルターによって行われる。ただし、ろ過滅菌法が困難である場合は、無菌的に製造を行なうか、製剤の品質に影響しないように熱をかけて、滅菌する場合もある。
【0042】
不要成分除去工程が複数回実施される場合(例えば、リポソーム形成後に外液置換と、薬物封入工程後に未封入薬物除去とを行う場合等がある。)、あるいは、上記製造工程に凍結乾燥工程(リポソームまたはリポソーム製剤を凍結乾燥する工程をいう。)等を組み込む場合があるが、工程の重複および目的とする製剤を調製するために必要な工程追加により本発明は影響を受けるものではない。
【0043】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
本実施例では、リポソーム製剤を製造し(実施例1〜4、比較例1〜5)、各リポソーム製剤について薬物封入効率の評価試験を実施した。さらに、薬物封入効率が高いリポソーム製剤の一部(実施例3、4、比較例5)について、血漿中における薬物保持力の評価試験も実施した。
【0045】
[リポソーム製剤の製造]
1.試薬、試液等
(1)リポソーム形成用試薬等
・リン酸緩衝生理食塩水(PBS)タブレット: Sigma-Aldrich Corporation, MO
・酢酸アンモニウム: Kanto Chemical Co., Ltd., Japan
・グリチルリチン酸ジカリウム: Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Japan
・グリチルリチン酸モノアンモニウム−n水和物: Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Japan
・水素添加大豆ホスファチジルコリン(HSPC): Lipoid GmbH, Germany
・コレステロール: Solvay Pharmaceuticals, B.V., Belgium
・無水エタノール: Wako Pure Chemical Industries, Ltd., Japan
・PEG5000−DSPE: NOF Corporation, Japan
(2)封入薬物
・ビンクリスチン(VCR): Changzhou LEO Chemical Co., Ltd., China
・ドキソルビシン(DXR): RPG Life Sciences Ltd., India
・シプロフロキサシン(CFX): Zhejiang Jiashan Chengda Pharm & Chem Co., Ltd., China
・ビノレルビン(VNR): Shanghai Anticancer Phytochemistry Co., Ltd., China
【0046】
2.製造方法
一般的な製造方法を以下に説明する。
本実施例では、「2−1.能動的薬物封入方法によるリポソーム製剤の製造方法」または「2−2.受動的薬物封入方法によるリポソーム製剤の製造方法」に記載した一般的な製造方法に従って、実施例1〜4および比較例1〜5のリポソーム製剤を製造した。
リポソームの内水相の組成、封入した薬物その他の各実施例・比較例に固有の事項については、「3.製造例」の該当箇所で説明をする。
【0047】
2−1.能動的薬物封入方法によるリポソーム製剤の製造方法
(1)均一化工程
HSPCおよびコレステロールを、それぞれ、0.56g、0.23g遠沈管に量りとった。この遠沈管にエタノール1mLを加えて、70℃の水浴中で加温溶解した。
(2)リポソーム形成工程
内水相9mLを70℃の水浴中で加温した。均一化工程で得られた脂質溶液に加温した内水相を加えて、70℃の水浴中で5分以上加温した。加温後、エクストルーダー法により整粒化を行った。なお、整粒化時のフィルターはポリカーボネート製メンブランフィルター(ワットマン社製)の孔径0.1μmおよび0.2μmを使用し、各フィルターにおける整粒化回数は、0.2μmでは3回、0.1μmについては10回とした。この得られたリポソームに65℃の水浴中で予め加温したPEG−5000DSPE溶液(0.30mg/mLの水溶液)2mLを加えて、引き続き30分間加温し、PEG修飾リポソームを得た。
(3)不要成分除去工程1(外液置換)
本工程は、ゲルろ過法を用いて行った。ゲル(Sepharose(R) 4 Fast Flow,GEヘルスケア社製)をカラムに充填した後、水で洗浄した。さらに、PBS(外水相)でゲルを洗浄した後、PEG修飾リポソームをアプライし、PBSを溶出液として用い、リポソーム画分を回収した。
(4)薬物封入工程
薬物を水で溶解して10mg/mLに調整する。調製した薬物溶液を、上記リポソーム画分2mLをとり、HSPCに対して所定の質量比(薬物/HSPC)で薬物を添加し、60℃、60分間加温し、薬物導入リポソームを得た。
(5)不要成分除去工程2(未封入薬物除去)
本工程は、ゲルろ過法を用いて行った。ゲル(Sepharose(R) 4 Fast Flow,GEヘルスケア社製)をカラムに充填した後、水で洗浄した。さらに、PBSでゲルを洗浄した後、薬物導入リポソームをアプライし、PBSを溶出液として用い、リポソーム画分を回収した。
【0048】
2−2.受動的薬物封入方法によるリポソーム製剤の製造方法
(1)均一化工程
HSPCおよびコレステロールを、それぞれ0.28g、0.115g遠沈管に量りとった。この遠沈管にエタノール0.5mLを加えて、70℃の水浴中で加温溶解した。
(2)リポソーム形成工程
薬物を含む内水相5mLを70℃の水浴中で加温した。均一化工程で得られた脂質溶液に加温した内水相を加えて、70℃の水浴中で5分以上加温した。加温後、Extruder T10にて整粒化を行った。なお、整粒化時のフィルターはポリカーボネート製メンブランフィルター(ワットマン社製)の孔径0.1μmおよび0.2μmを使用し、各フィルターにおける整粒化回数は、0.2μmでは3回、0.1μmについては10回とした。この得られたリポソームに65℃の水浴中で予め加温したPEG−5000DSPE溶液(0.30mg/mLの水溶液)1mLを加えて、引き続き30分間加温し、PEG修飾薬物導入リポソームを得た。
(3)不要成分除去工程1(未封入薬物除去)
本工程は、ゲルろ過法を用いて行った。ゲル(Sepharose(R) 4 Fast Flow,GEヘルスケア社製)をカラムに充填した後、水で洗浄した。さらに、外水相でゲルを洗浄した後、PEG修飾薬物導入リポソームをアプライし、外水相を溶出液として用い、リポソーム画分を回収した。
【0049】
3.製造例
実施例1〜4、比較例1、2および5については、「2−1.能動的薬物封入方法によるリポソーム製剤の製造方法」に従って、比較例3、4については、「2−2.受動的薬物封入方法によるリポソーム製剤の製造方法」に記載した一般的な製造方法に従って、それぞれ、リポソーム製剤を製造した。
以下、リポソームの内水相の組成、封入した薬物その他の各実施例・比較例に固有の事項について説明をする。
【0050】
〈実施例1〉
実施例1は、酢酸アンモニウム水溶液にグリチルリチン酸モノアンモニウムを溶解した水溶液(GLZA/AcS)を内水相とするリポソームに、能動的薬物封入方法によって薬物を封入した例である。
(1)内水相溶液の調製
酢酸アンモニウム3.86gをとり、水を加えて溶かし200mLとして、酢酸アンモニウム水溶液を調製した。
調製した酢酸アンモニウム水溶液50mLに、グリチルリチン酸モノアンモニウム−n水和物2.1gを加えて溶解し、グリチルリチン酸モノアンモニウム/酢酸アンモニウム水溶液(GLZA/AcS)を調製した。
(2)能動的薬物封入方法によるリポソーム製剤の製造
上記「2−1.能動的薬物封入方法によるリポソーム製剤の製造方法」に従ってリポソーム製剤を製造した。
ただし、リポソーム形成工程において、内水相として、本例の(1)で調製したGLZA/AcSを用い、薬物封入工程において、薬物として、ドキソルビシン(DXR)、ビンクリスチン(VCR)、シプロフロキサシン(CFX)およびビノレルビン(VNR)を、それぞれ単独で用い、HSPCに対して「薬物/HSPC(質量比)」=0.10の割合で添加した。
【0051】
〈実施例2〉
実施例2は、酢酸アンモニウム水溶液にグリチルリチン酸ジカリウムを溶解した水溶液(GLZK/AcS)を内水相とするリポソームに、能動的薬物封入方法によって薬物を封入した例である。
(1)内水相溶液の調製
酢酸アンモニウム3.86gをとり、水を加えて溶かし200mLとして、酢酸アンモニウム水溶液を調製した。
調製した酢酸アンモニウム水溶液50mLに、グリチルリチン酸ジカリウム2.25gを加えて溶解し、グリチルリチン酸ジカリウム/酢酸アンモニウム水溶液(GLZK/AcS)を調製した。
(2)能動的薬物封入方法によるリポソーム製剤の製造
上記「2−1.能動的薬物封入方法によるリポソーム製剤の製造方法」に従ってリポソーム製剤を製造した。
ただし、リポソーム形成工程において、内水相として、調製したGLZK/AcS溶液を用い、薬物封入工程において、薬物として、ドキソルビシン(DXR)、ビンクリスチン(VCR)、シプロフロキサシン(CFX)およびビノレルビン(VNR)を、それぞれ単独で用い、HSPCに対して「薬物/HSPC(質量比)」=0.10の割合で添加した。
【0052】
〈実施例3〉
実施例3は、酢酸アンモニウム水溶液にグリチルリチン酸モノアンモニウムを溶解した水溶液(GLZA/AcS)を内水相とするリポソームに、能動的薬物封入方法によってビンクリスチン(VCR)を封入した例である。実施例1とは、製造スケールおよび薬物封入工程での薬物添加量(濃度)が異なる。
(1)内水相溶液の調製
酢酸アンモニウム0.97gをとり、水を加えて溶かし50mLとして、酢酸アンモニウム水溶液を調製した。
調製した酢酸アンモニウム水溶液20mLに、グリチルリチン酸モノアンモニウム−n水和物0.42gを加えて溶解し、グリチルリチン酸モノアンモニウム/酢酸アンモニウム水溶液(GLZA/AcS)を調製した。
(2)能動的薬物封入方法によるリポソーム製剤の製造
上記「2−1.能動的薬物封入方法によるリポソーム製剤の製造方法」に従ってリポソーム製剤を製造した。
ただし、リポソーム形成工程において、内水相として、本例の(1)で調製したGLZA/AcSを用い、薬物封入工程において、薬物として、ビンクリスチン(VCR)を用い、HSPCに対して「薬物/HSPC(質量比)」=0.15の割合で添加した。
【0053】
〈実施例4〉
実施例4は、酢酸アンモニウム水溶液にグリチルリチン酸ジカリウムを溶解した水溶液(GLZK/AcS)を内水相とするリポソームに、能動的薬物封入方法によってビンクリスチン(VCR)を封入した例である。実施例2とは、製造スケールおよび薬物封入工程での薬物添加量(濃度)が異なる。
(1)内水相溶液の調製
酢酸アンモニウム0.97gをとり、水を加えて溶かし50mLとして、酢酸アンモニウム水溶液を調製した。
調製した酢酸アンモニウム水溶液20mLに、グリチルリチン酸ジカリウム0.45gを加えて溶解し、グリチルリチン酸ジカリウム/酢酸アンモニウム水溶液(GLZK/AcS)を調製した。
(2)能動的薬物封入方法によるリポソーム製剤の製造
上記「2−1.能動的薬物封入方法によるリポソーム製剤の製造方法」に従ってリポソーム製剤を製造した。
ただし、リポソーム形成工程において、内水相として、本例の(1)で調製したGLZK/AcSを用い、薬物封入工程において、薬物として、ビンクリスチン(VCR)を用い、HSPCに対して「薬物/HSPC(質量比)」=0.15の割合で添加した。
【0054】
〈比較例1〉
比較例1は、酢酸アンモニウム水溶液(トリテルペン配糖体の塩もトリテルペン配糖体のアグリコンの塩も含まない)を内水相とするリポソームに、能動的薬物封入方法によって薬物を封入した例である。
(1)内水相溶液の調製
酢酸アンモニウム3.86gをとり、水を加えて溶かし200mLとして、酢酸アンモニウム水溶液(AcS)を調製した。
(2)能動的薬物封入方法によるリポソーム製剤の製造
上記「2−1.能動的薬物封入方法によるリポソーム製剤の製造方法」に従ってリポソーム製剤を製造した。
ただし、リポソーム形成工程において、内水相として、本例の(1)で調製した酢酸アンモニウム水溶液(AcS)を用い、薬物封入工程において、薬物として、ドキソルビシン(DXR)、ビンクリスチン(VCR)、シプロフロキサシン(CFX)およびビノレルビン(VNR)をそれぞれ単独で用い、HSPCに対して「薬物/HSPC(質量比)」=0.10の割合で添加した。
【0055】
〈比較例2〉
比較例2は、硫酸アンモニウム水溶液(トリテルペン配糖体の塩もトリテルペン配糖体のアグリコンの塩も含まない)を内水相とするリポソームに、能動的薬物封入方法によって薬物を封入した例である。
(1)内水相溶液の調製
硫酸アンモニウム0.33gをとり、水を加えて溶かし20mLとして、硫酸アンモニウム水溶液(AS)を調製した。
(2)能動的薬物封入方法によるリポソーム製剤の製造
上記「2−1.能動的薬物封入方法によるリポソーム製剤の製造方法」に従ってリポソーム製剤を製造した。
ただし、リポソーム形成工程において、内水相として、本例の(1)で調製した酢酸アンモニウム水溶液(AcS)を用い、薬物封入工程において、薬物として、ドキソルビシン(DXR)、ビンクリスチン(VCR)、シプロフロキサシン(CFX)およびビノレルビン(VNR)をそれぞれ単独で用い、HSPCに対して「薬物/HSPC(質量比)」=0.10の割合で添加した。
【0056】
〈比較例3〉
比較例3は、酢酸アンモニウム水溶液にグリチルリチン酸モノアンモニウムを溶解した水溶液(GLZA/AcS)を内水相とするリポソームに、受動的薬物封入方法によって薬物を封入した例である。
(1)内水相溶液の調製
酢酸アンモニウム3.86gをとり、水を加えて溶かし200mLとして、酢酸アンモニウム水溶液を調製した。
調製した酢酸アンモニウム水溶液50mLに、グリチルリチン酸モノアンモニウム−n水和物2.1gを加えて溶解し、グリチルリチン酸モノアンモニウム/酢酸アンモニウム水溶液(GLZA/AcS)を調製した。
調製したグリチルリチン酸モノアンモニウム/酢酸アンモニウム水溶液各5mLに、ドキソルビシン(DXR)、ビンクリスチン(VCR)、シプロフロキサシン(CFX)またはビノレルビン(VNR)をそれぞれ単独で28mgずつ溶解し、薬物含有GLZA/AcSを調製した。
(2)受動的薬物封入方法によるリポソーム製剤の製造
上記「2−2.受動的薬物封入方法によるリポソーム製剤の製造方法」に従ってリポソーム製剤を製造した。
ただし、リポソーム形成工程において、薬物を含む内水相として、本例の(1)で調製した各GLZA/AcSを用い、HSPCに対して「薬物/HSPC(質量比)」=0.10の割合であった。
【0057】
〈比較例4〉
比較例4は、酢酸アンモニウム水溶液にグリチルリチン酸ジカリウムを溶解した水溶液(GLZK/AcS)を内水相とするリポソームに、受動的薬物封入方法によって薬物を封入した例である。
(1)内水相溶液の調製
酢酸アンモニウム3.86gをとり、水を加えて溶かし200mLとして、酢酸アンモニウム水溶液を調製した。
調製した酢酸アンモニウム水溶液50mLに、グリチルリチン酸ジカリウム2.25gを加えて溶解し、グリチルリチン酸ジカリウム/酢酸アンモニウム水溶液(GLZK/AcS)を調製した。
調製したグリチルリチン酸ジカリウム/酢酸アンモニウム水溶液各5mLに、ドキソルビシン(DXR)、ビンクリスチン(VCR)、シプロフロキサシン(CFX)またはビノレルビンをそれぞれ単独で28mgずつ溶解し、薬物含有GLZK/AcSを調製した。
(2)受動的薬物封入方法によるリポソーム製剤の製造
上記「2−2.受動的薬物封入方法によるリポソーム製剤の製造方法」に従ってリポソーム製剤を製造した。
ただし、リポソーム形成工程において、薬物を含む内水相として、調製した各GLZK/AcSを用い、HSPCに対して「薬物/HSPC(質量比)」=0.10の割合であった。
【0058】
〈比較例5〉
比較例5は、硫酸アンモニウム水溶液(トリテルペン配糖体の塩もトリテルペン配糖体のアグリコンの塩も含まない)を内水相とするリポソームに、能動的薬物封入方法によってビンクリスチン(VCR)を封入した例である。比較例2とは、薬物封入工程での薬物添加量が異なる。
(1)内水相溶液の調製
硫酸アンモニウム0.33gをとり、水を加えて溶かし20mLとして、硫酸アンモニウム水溶液(AS)を調製した。
(2)能動的薬物封入方法によるリポソーム製剤の製造
上記「2−1.能動的薬物封入方法によるリポソーム製剤の製造方法」に従ってリポソーム製剤を製造した。
ただし、リポソーム形成工程において、内水相として、本例の(1)で調製した硫酸アンモニウム水溶液(AS)を用い、薬物封入工程において、薬物としてビンクリスチン(VCR)を用い、HSPCに対して「薬物/HSPC(質量比)」=0.15の割合で添加した。
【0059】
[リポソーム製剤の薬物封入効率の評価試験]
本発明の製造方法により製造されたリポソーム製剤(実施例1〜4)およびその他のリポソーム製剤(比較例1〜5)について、薬物(DXR、VCR、CFXまたはVNR)の濃度およびHSPC濃度をそれぞれ測定して薬物封入効率を算出し、比較を行った。
1.方法
(1)実施例1〜4、比較例1〜5において製造したリポソーム製剤(本評価試験において、以下「試料」という。)を準備した。
(2)全試料について、リン脂質(HSPC)濃度を測定した。
HSPC濃度(mg/mL)の測定は、リン脂質C−テストワコー(和光純薬社製)を用いて、キット添付文書に記載された使用方法に従って行った。
(3)実施例1、2、比較例1〜4に係る試料について、ドキソルビシン(DXR)濃度を測定した。
DXR濃度の測定は、次の方法により行った。
試料100μLをとり、メタノール2mLを加えて試料溶液とした。
別に、DXRを水で溶解した液(濃度:0.01〜1.0mg/mL)を100μLとり、メタノール2mLを加えて、標準溶液を調製した。試料溶液および標準溶液につき、下記測定条件に従い、測定を行い、DXR濃度(mg/mL)を算出した。
(測定条件)
測定機器:高速液体クロマトグラフィー
検出器:紫外吸光光度計(測定波長 254nm)
カラム:Inertsil(R) ODS−2(4.6×250mm,粒子径 5μm;ジーエルサイエンス社製)
カラム温度:40℃
流速:1mL/min
移動相:ラウリル硫酸ナトリウム1.5gを希釈したリン酸緩衝生理食塩水(7→5,000)500mLに溶かした液に、アセトニトリル500mLを加えた。
(4)全試料について、ビンクリスチン(VCR)濃度を測定した。
VCR濃度の測定は、次の方法により行った。
試料100μLをとり、メタノール2mLを加えて試料溶液とした。
別に、VCRを水で溶解した液(VCR濃度:0.01〜1.0mg/mL)を100μLとり、メタノール2mLを加えて、標準溶液とした。試料溶液および標準溶液につき、下記測定条件に従い、測定を行い、VCR濃度(mg/mL)を算出した。
(測定条件)
測定機器:高速液体クロマトグラフィー
検出器:紫外吸光光度計(測定波長 298nm)
カラム:Inertsil(R) C8(4.6×250mm,粒子径 5μm;ジーエルサイエンス社製)
カラム温度:40℃
流速:1mL/min
移動相:水/ジエチルアミン混液(59/1)にリン酸を加えてpH7.5と調製した液300mLにメタノールを700mL加える。
(5)実施例1、2、比較例1〜4に係る試料について、シプロフロキサシン(CFX)濃度を測定した。
CFX濃度の測定は、次の方法により行った。
試料100μLをとり、メタノール2mLを加えて試料溶液とした。
別に、CFXを水で溶解した液(濃度:0.01〜1.0mg/mL)を100μLとり、メタノール2mLを加えて、標準溶液を調製した。試料溶液および標準溶液につき、下記測定条件に従い、測定を行い、CFX濃度(mg/mL)を算出した。
(測定条件)
分析機器:高速液体クロマトグラフ
検出器:紫外吸光光度計(測定波長 278nm)
カラム:Inertsil(R) ODS−2(4.0×250mm,粒子径 5μm;ジーエルサイエンス社製)
カラム温度:40℃
流速:1.0mL/min
移動相:リン酸二水素ナトリウム・二水和物 3.120 gとり、水を加えて1000mLとし、リン酸を加えてpH3.0に調整する。この液870mLとり、アセトニトリル130mLを加えた。
(6)実施例1、2、比較例1〜4に係る試料について、ビノレルビン(VNR)濃度を測定した。
VNR濃度の測定は、次の方法により行った。
試料100μLをとり、メタノール2mLを加えて試料溶液とした。
別に、VNRを水で溶解した液(濃度:0.05〜1.0mg/mL)を100μLとり、メタノール2mLを加えて、標準溶液を調製した。試料溶液および標準溶液につき、下記測定条件に従い、測定を行い、VNR濃度(mg/mL)を算出した。
(測定条件)
分析機器:高速液体クロマトグラフ
検出器:紫外吸光光度計(測定波長 267nm)
カラム:Inertsil(R) ODS−3(4.6×150mm,粒子径 5μm;ジーエルサイエンス社製)
カラム温度:40℃
流速:1.5mL/min
移動相:1−デカンスルホン酸 1.22gをメタノール640mLに溶解する。この液に、リン酸二水素ナトリウム二水和物7.8gとり、水を加えて溶解し、pH4.2に調整し、さらに水を加えて1000mLとした液360mLを加える。
(7)各試料について、薬物封入効率を下記式により算出した。
薬物封入効率=薬物濃度/HSPC濃度
【0060】
2.結果
表1に算出した薬物封入効率を示す。
【表1】

【0061】
3.まとめ
表1に示すように、グリチルリチン酸塩を含む水溶液を内水相とするリポソームに、能動的薬物封入方法により薬物を封入したリポソーム製剤(実施例1〜4)の薬物封入効率は、グリチルリチン酸塩の溶媒として用いた酢酸アンモニウム水溶液のみを内水相とするリポソームに、能動的薬物封入方法により薬物を封入したリポソーム製剤(比較例1)と比較していずれの薬物においても高い薬物封入効率をもつことが明らかとなった。
【0062】
比較例2、5は、硫酸アンモニウム水溶液を内水相とするリポソームに、能動的薬物封入方法により薬物を封入したリポソーム製剤の例である。
多種類の薬物について非常に高い薬物封入効率が得られるため、硫酸アンモニウムはリポソームへの能動的薬物封入方法において汎用される内水相処方である。
硫酸アンモニウムは、リポソーム内水相内で硫酸イオンとアンモニウムイオンに解離し、さらに、解離したアンモニウムイオンはアンモニアと平衡状態にある。この平衡状態にあるアンモニアはリポソーム膜を容易に通過できるためリポソーム外へと拡散する。この反応が連続的起こるため、結果としてリポソーム内水相のpHは酸性にシフトする。このようにリポソーム内外で形成されたpH勾配により、リポソーム外から内に取り込まれた薬物はイオン化するため、リポソーム外への再拡散が抑制されるため本実施例に示すように非常に高い薬物封入効率が達成される。
【0063】
本発明のリポソーム製剤の製造方法により製造したリポソーム製剤(実施例1〜4)は、いずれも、高い薬物封入効率が得られるが、特に、内水相にグリチルリチン酸モノアンモニウムを含むリポソーム製剤(実施例1、3)では、比較例2で得られる薬物封入効率とほぼ同等の薬物封入効率を得ることができた。
【0064】
グリチルリチン酸塩の溶媒として、実施例1〜4、比較例1では酢酸アンモニウム水溶液を用いた。酢酸アンモニウムは、内水相でその一部が酢酸イオンとアンモニウムイオンに解離し、解離したアンモニウムイオンはさらにアンモニアとプロトンに解離し、アンモニアがリポソーム外へと拡散すると考えられる。この機構は硫酸アンモニウムを内水相に含む場合と同様である。
しかし、比較例1で示したようにいずれの薬物においても薬物封入効率は、硫酸アンモニウムを内水相に有するリポソーム(比較例2、5)と比較して明らかに低い値であった。
これは、酢酸アンモニウムの電離度が硫酸アンモニウムに比べて低いことや、酢酸アンモニウムではpH勾配によってリポソーム外から透過した薬物がリポソーム内で保持できない、つまり、内水相に到達した薬物がイオン化せず、分子形態のままリポソーム外に再拡散するため、高い薬物封入効率が得られないことが原因であると考えられる。
【0065】
その一方で、酢酸アンモニウム溶液にグリチルリチン酸塩を溶解した内水相では酢酸アンモニウムのみと比較して高い薬物封入効率が得られることが表1の結果より明らかとなった。これは、グリチルリチン酸が内水相に存在することによって薬物が内水相内に保持できる環境が形成される、つまり、リポソーム内へ移行した薬物がグリチルリチン酸と共存することによって薬物のリポソーム外への再拡散が抑制されることを示唆している。
【0066】
本実施例の比較例3および4は、受動的薬物封入方法、すなわちグリチルリチン酸塩および薬物をリポソーム形成時に添加してリポソーム製剤を製造したものである。その結果、受動的薬物封入効率である比較例3および4の薬物封入効率は、能動的薬物封入方法である実施例1〜4のどれよりも低く、酢酸アンモニウム水溶液(溶媒)のみを内水相とした比較例1とほぼ同等であった。
【0067】
[血漿中における薬物保持力の評価試験]
1.方法
(1)実施例3、4および比較例5において製造した、ビンクリスチン(VCR)を封入したリポソーム製剤(本評価試験において、以下「血漿中VCR放出検討用製剤」という場合がある。)を準備した。
(2)各血漿中VCR放出検討用製剤について、平均粒子径、VCR濃度およびHSPC濃度の測定を行った。
2.1)平均粒子径の測定
平均粒子径(nm)の測定は、Zetasizer(R) Nano ZS90(マルバーン社製)を用いて行った。平均粒子径は動的光散乱法による測定値である。
2.2)VCR濃度の測定方法
各血漿中VCR放出検討用製剤から100μLずつとり、それぞれにメタノール2mLを加えて試料溶液とした。
別に、VCRを水で溶解した液(VCR濃度:0.01〜1.0mg/mL)を100μLとり、メタノール2mLを加えて、標準溶液とした。試料溶液および標準溶液につき、下記測定条件に従い、測定を行い、VCR濃度(mg/mL)を算出した。
(測定条件)
測定機器:高速液体クロマトグラフィー
検出器:紫外吸光光度計(測定波長 298nm)
カラム:Inertsil(R) C8(4.6×250mm,粒子径 5μm;ジーエルサイエンス社製)
カラム温度:40℃
流速:1mL/min
移動相:水/ジエチルアミン混液(59/1)にリン酸を加えてpH7.5と調製した液300mLにメタノールを700mL加える。
2.3)HSPC濃度の測定方法
HSPC濃度(mg/mL)の測定は、リン脂質C−テストワコー(和光純薬社製)を用いて、キット添付文書に記載された使用方法に従って行った。
(3)ラット血漿(凍結品,コスモバイオ社製)を融解した後、200μLをとり、血漿中VCR放出検討用製剤20μLを加え、試料とした。
(4)この試料を37℃の恒温槽中で加温した。
(5)加温開始後、1時間、2時間および4時間の時点で試料を取り出し、VCR濃度(mg/mL)の測定を次の方法に従って行った。
5.1)リン酸二水素ナトリウム・二水和物3.12gを1000mLとなるように水を加えて溶解し、さらに、リン酸を加えてpH3.0に調整し、リン酸緩衝液を調製した。
5.2)試料200μLにこのリン酸緩衝液2mLを加えて、超遠心分離(29,400rpm×120分、10℃)を行った。
5.3)超遠心分離後の上清1mLをとり、メタノール1mLを加えた。この液を遠心分離(3,000rpm×10分、10℃)し、上清を試料溶液とした。
5.4)別に、VCRを水で溶解した液(濃度:0.001〜0.1mg/mL)100μLをとり、リン酸緩衝液1mLを加えた。この液1mLをとり、メタノール1mLを加えて検量線用の標準溶液を作成した。
5.5)試料溶液および標準溶液につき、下記測定条件に従い、測定を行い、VCR濃度を算出した。
(測定条件)
測定機器:高速液体クロマトグラフィー
検出器:紫外吸光光度計(測定波長 298nm)
カラム:Inertsil(R) C8(4.6×250mm,粒子径5μm;ジーエルサイエンス社製)
カラム温度:40℃
流速:1mL/min
注入量:20μL
移動相:水/ジエチルアミン混液(59/1)にリン酸緩衝生理食塩水を加えてpH7.5と調製した液300mLにメタノールを700mL加えた。
(6)血漿中VCR濃度を算出した後、下記式に従い、血漿中VCR放出率(%)を算出した。
血漿中VCR放出率(%)=(血漿中VCR量/100%VCR放出量)×100
(7)試料ごとに、時間(hr)を横軸に、血漿中VCR放出率(%)を縦軸にとってプロットした(○:実施例3、△:実施例4、□:比較例5)。
【0068】
2.結果
2−1.血漿中VCR放出検討用製剤の平均粒子径、VCR濃度およびHSPC濃度を表2に示す。
【表2】

【0069】
2−2.血漿中におけるリポソーム製剤からの薬物放出挙動
プロットを図1に示す(○:実施例3、△:実施例4、□:比較例5)。
【0070】
3.まとめ
内水相にグリチルリチン酸の塩を含む実施例3、4のリポソーム製剤は、硫酸アンモニウム水溶液を内水相として製造した比較例5のリポソーム製剤と比較して、薬物放出がより強く抑制されることが示唆された。また、放出の抑制は、内水相にグリチルリチン酸のアンモニウム塩を含む実施例3で、内水相にグリチルリチン酸のカリウム塩を含む実施例4よりも強く見られた(図1参照、○:実施例3、△:実施例4、□:比較例5)。
【0071】
ラット血漿におけるリポソーム製剤からの薬物の放出には、血漿タンパクによる膜不安定化ならびにリポソーム内水相特性の変化が影響しているものと考えられる。本実施例で調製したリポソーム膜構成成分は同一であることため、血漿タンパクが惹起するリポソーム膜不安定化による薬物透過性はほぼ同等であることから、本結果で認められた薬物放出性の違いは、薬物の保持力によるものと推測される。つまり、本発明の製造方法によって製造されたリポソーム製剤は、生体内においても薬物保持力が高いことが示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリテルペン配糖体および/またはそのアグリコンの塩を内水相に含むリポソームを形成するリポソーム形成工程と、
前記リポソーム形成工程の後に、前記リポソームの内水相に薬物を導入する薬物封入工程と
を備えるリポソーム製剤の製造方法。
【請求項2】
前記薬物が、ドキソルビシン(DXR)、ビンクリスチン(VCR)、シプロフロキサシン(CFX)およびビノレルビン(VNR)からなる群から選択されるいずれか1つである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記トリテルペン配糖体および/またはそのアグリコンの塩が、グリチルリチン酸のアンモニウム塩またはカリウム塩である、請求項1または2に記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−63923(P2013−63923A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202836(P2011−202836)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】