説明

リポソーム複合体の安定性および使用期限を改良するための方法

【課題】リガンドおよび治療用のもしくは診断用の薬剤をカプセル化する陽イオン性リポソームを含む安定な複合体を作製する方法の提供。
【解決手段】リガンドおよび治療用のもしくは診断用の薬剤をカプセル化する陽イオン性リポソームを含む安定な細胞標的化複合体を作製するための方法は、(a)複合体を安定化する量のショ糖を含む溶液と混合することおよび(b)生成した溶液を凍結乾燥して、凍結乾燥製剤を得ることを含み;そこでは、再構成時に、製剤はその凍結乾燥前の活性の少なくとも約80%を保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、2003年6月4日に出願された、米国仮出願番号60/475,500(出典明示によりその全体を本明細書の一部とする)の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、リガンドおよび治療用のもしくは診断用の薬剤をカプセル化する陽イオン性リポソームを含む安定な複合体を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
本明細書中で引用される全ての参考資料は、全体的な出典明示により本明細書の一部とする。
【0004】
陽イオン性リポソームは、正に荷電した脂質二重層から成り、そして生じた複合体が正味の正電荷を有するように、脂質およびDNAを単に混合することにより負に荷電した、裸のDNAと複合体化することができる。複合体は、中程度に良好なトランスフェクション効率で培養液中の細胞に結合してかつ細胞により取り込まれ得る。陽イオン性リポソームは、インビボの遺伝子送達に安全でかつ効率的であると立証されている。
【0005】
リポソームを使用して、リポソームをそれらが腫瘍細胞にそれらのペイロードを選択的に送達するように修飾することにより、腫瘍細胞に標的化することができる。表面の分子を使用して、腫瘍細胞の外部を装飾する分子の型および/もしくは数が正常の細胞のそれらとは異なるので、リポソームを腫瘍細胞に標的化することができる。例えば、リポソームがその表面上にフォレート分子もしくはトランスフェリン(Tf)分子を有するならば、それは、正常の細胞より高いフォレート受容体もしくはトランスフェリン受容体のレベルを有する、がん細胞に帰するであろう。
【0006】
腫瘍細胞上の受容体により認識されるリガンドの使用に加えて、特異的な抗体がまたリポソームの表面に付着することができて、それらを特異的な腫瘍表面抗原(限定するものではないが、受容体を含む)へ指向させることを可能にする。これらの“免疫リポソーム”は、治療用の薬物を特定の細胞集団に送達することができる。例えば、リポソームに結合した抗HER−2モノクローナル抗体(Mab)のFabフラグメントは、HER−2を過剰発現する乳がん細胞株、S−BR−3に特異的に結合することができることが見出されている(Park, J.W., et al. PNAS 92:1327-1331 (1995))。免疫リポソームは効率的に内在化されることが見出されて、抗HER−2のFabフラグメントの固着はそれらの阻害効果を増強した。陽イオン性リポソーム−遺伝子転移および免疫リポソーム技法の組合せは、標的遺伝子治療のための前途有望なシステムであるように見える。
【0007】
選択的な腫瘍の標的化および高いトランスフェクション効率を有するDNA遺伝子治療のためのリガンド−標的リポソーム送達システムは、本分野で記述されている。Xu, L., et al. Human Gene Therapy 8:467-475 (1997); Xu, L., et al., Human Gene Therapy 10:2941-2952 (1999);およびXu, L., et al., Tumor Targeting 4:92-104 (1999)。このシステムは、複合体の中の標的化リガンドとしての抗トランスフェリン受容体単鎖(TfRscFv)の抗体フラグメントの使用により改良されている(Xu, L., et al. Molecule Medicine 7:723-734 (2001); Xu, L., et al. Molecular Cancer Therapeutics 1:337-346 (2002))。TfRscFvは、軽鎖および重鎖からの成分VHおよびVLの可変ドメインを、それぞれ、適切にデザインされたリンカーペプチドと結合することにより形成される。リンカーは、第一の可変領域のC−末端および第二のN−末端を架橋して、VH−リンカー−VLもしくはVL−リンカー−VHのいずれかとして配列される。scFvの結合部位は、その親抗体の結合部位の親和性および特異性の両方を複製することができる。
【0008】
がんの従来の処置は化学療法のおよび/もしくは放射線の処置を伴う。これらの従来のがん治療法の中に、化学療法のもしくは放射線の治療法に対する腫瘍の感作をもたらす新しい成分を組み込むことは、大きな臨床関連性を有して、両方の型の抗がん療法の有効投与量を下げ、そしてこれらの処置にしばしば関連する重篤な副作用を相当して低減する。
【0009】
上述のようなリポソーム複合体での初期の試験は、複合体は診断用もしくは治療用薬剤を興味のある標的細胞に送達するのに効率的であることを示している。複合体をそれらの作製の直後に患者に投与することは非実用的である。凍結乾燥および2〜8℃、−20℃もしくは−80℃での保存で少なくとも6ヶ月間は安定のままであって、活性の著しい損失無しに再構成され得る標的リポソーム複合体を提供することが望ましいであろう。
【0010】
以前の報告は、二成分の複合体(脂質およびDNA、しかし標的化リガンドもしくはタンパク質なし)は単糖類もしくは二糖類の存在下で凍結乾燥されて、それらの生物活性および遺伝子療法に適する粒子径をさらに維持することができたことを示している(Li, B., et al., Journal of Pharmaceutical Sciences 89:355-364 (2000) and Molina, M.D.C. et al. Journal of Pharmaceutical Sciences 90:1445-1455 (2001); Allison, S.D., et al. Biochemical et Biophysical Acta 1468:127-138 (2000))。加えて、PEGを通してPEI−DNAポリプレックスに結合されたTfは、凍結および解凍後に幾らかの生物活性を保持していた(Kursa, M. et al., Bioconjugate Chemistry 14:222-231 (2003))。この複合体は凍結乾燥されないで、保存の可能な長さもしくは条件は何も指示されないで、砂糖(グルコース)が、含まれるならば、解凍後に加えられたことに注意することが重要である。このポリマー複合体は、TfをPEG分子を通してポリマーに結合させることを必要とする。
【発明の概要】
【0011】
リガンドおよび治療用もしくは診断用薬剤またはレポーター遺伝子をカプセル化する陽イオン性リポソームを含む安定な複合体を作製するための方法は:
リガンドおよび治療用もしくは診断用薬剤またはレポーター遺伝子をカプセル化する陽イオン性リポソームを含む複合体を安定化する量のショ糖を含む溶液と混合すること;および
複合体およびショ糖の生じた溶液を凍結乾燥して、凍結乾燥製剤を得ることを含み;
そこでは、再構成時に、製剤はその凍結乾燥前の活性の少なくとも約80%を保持する。
【0012】
好ましい実施態様では、製剤は、その凍結乾燥前の活性の少なくとも約85%を、そしてさらに好ましくは、その凍結乾燥前の活性の少なくとも約90%を保持する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、5%デキストロースもしくは5%ショ糖を含有する新たに作製されたおよび凍結乾燥された複合体(Tf−LipA−LucおよびTfRscFv−LipA−Luc)のサイズ(nm)を示す。
【図2】図2Aおよび2Bは、DU145ヒト前立腺細胞の中に5%デキストロースもしくは5%ショ糖を含有する新たに作製されたおよび凍結乾燥された複合体(Tf−LipA−LucおよびTfRscFv−LipA−Luc)の、μgタンパク質当り相対的な光単位(RLU)として示される、インビトロのトランスフェクション効率を示す。
【図3】図3は、DU145ヒト前立腺がん細胞の中に5%のもしくは10の%ショ糖を含有する新たに作製されたおよび凍結乾燥されたTfRscFv−LipA−Luc複合体のインビトロのトランスフェクション効率(RLU/μgタンパク質)の比較を示す。
【図4】図4Aおよび4Bは、それぞれ、凍結乾燥されたリガンド−リポソームプラスミドDNA複合体による、DU145前立腺およびPANCI膵臓異種移植腫瘍の標的化を示す。
【図5】図5は、10%ショ糖で実験室で作製されたTfRscFv−LipA−p53複合体の腫瘍の標的化能力が凍結乾燥および2℃〜8℃で6ヶ月までの間の保存後に維持されることを、ヒト前立腺がん(DU145)異種移植マウスモデルにおいて立証する。
【図6】図6は、DU145異種移植マウスモデルにおいて10%ショ糖で凍結乾燥されたTfRscFv−LipA−p53複合体のバッチ間の腫瘍の標的化およびトランスフェクション効率の一貫性を示す。
【図7】図7は、DU145異種移植マウスモデルにおいて10%ショ糖で五つの異なる商業的に作製されて凍結乾燥されたTfRscFv−LipA−p53のバッチの腫瘍の標的化およびトランスフェクション効率を示す。
【図8】図8は、非変性ゲル電気泳動により評価された、種々の新たに作製されたおよび凍結乾燥されたTfRscFv−LipA−p53複合体の中の複合体化されていないTfRscFvのパーセントを示す。
【図9】図9は、MDA−MB−435乳がん細胞の中で凍結乾燥されたおよび新たに作製されたTfRscFv−LipA−AS−HER−2複合体の間の細胞増殖阻害のインビトロでの比較を示す。
【図10】図10は、新たに作製されたかもしくは凍結乾燥されたTfRscFv−LipA−AS HER−2複合体によるPANC−1化学感作のインビトロでの比較を示す。
【図11】図11は、凍結乾燥および2℃〜8℃で6ヶ月までの間の保存の後に10%ショ糖を含むTfRscFv−LipA−AS HER−2によるMDA−MB−435ヒト乳がん細胞の中でHER−2発現のインビトロでの下方調節を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明の詳細な説明
本発明にしたがって、リガンドおよび治療用のもしくは診断用の薬剤をカプセル化する陽イオン性リポソームの凍結乾燥された複合体の安定性を、凍結乾燥前に複合体を安定化する量のショ糖を含む水溶液と混合することにより増加させることができる。ショ糖の溶液はショ糖水溶液のみであり得るか、またはPBS、HEPES、TRISもしくはTRIS/EDTAのような緩衝剤を含むことができる。典型的には、ショ糖の溶液は、約1%〜約80%のショ糖、典型的には、1%〜約10%、20%、30%もしくは40%のショ糖のような、1%〜約50%のショ糖、好ましくは約5%〜10%のショ糖、そして最も好ましくは約10%のショ糖の最終濃度に複合体と混合される。凍結乾燥製剤は、約2〜8℃から約−80℃の範囲内で少なくとも6ヶ月の期間の間に著しい活性を損失すること無しに、安定である。好ましくは、製剤は、少なくとも6〜12ヶ月の期間の間、安定である。再構成時に、複合体は、それらの凍結乾燥前の活性の少なくとも約80%、好ましくはそれらの凍結乾燥前の活性の少なくとも約85%、そして最も好ましくはそれらの凍結乾燥前の活性の少なくとも約90〜95%を保持する。
【0015】
以前の報告は、脂質およびDNAの混合物は単糖類もしくは二糖類の存在下で凍結乾燥されて、生物活性を維持することができたことを示している(Li, B., et al., Journal of Pharmaceutical Sciences 89:355-364 (2000) and Molina, M.D.C. et al. Journal of Pharmaceutical Sciences 90:1445-1455 (2001); Allison, S.D., et al. Biochemical et Biophysical Acta 1468:127-138 (2000))。しかしながら、1)抗体もしくは抗体フラグメント(例えば、抗トランスフェリン受容体単鎖抗体フラグメント、TfRscFv)であるタンパク質さえも含んで、タンパク質(例えばトランスフェリン);2)リポソームおよび3)治療用の核酸分子(例えば、プラスミドDNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド分子もしくはsiRNA分子さえ)から成る三成分の複合体がまた、凍結乾燥されて、再構成後にそのサイズおよび生物活性を保持することができたことは予想外である。
【0016】
リポソーム複合体は典型的に静脈内投与される。静脈注射のために、50%デキストロース溶液が、5%の最終濃度にリガンド−リポソーム複合体に便利に加えられている。新たに作製された(即ち、長くて約1〜約24時間経った複合体)リガンド−リポソーム複合体を、デキストロースよりむしろ、ショ糖の溶液と混合することにより、三成分の複合体(抗原標的化要素を持つそれらを含む)の凍結乾燥および再構成後の活性ならびに使用期限を著しく増加させることができることが、本発明により驚くべきことに見出された。
【0017】
三成分の複合体を凍結乾燥前にショ糖溶液と単に混ぜることができる。典型的には、溶液は、重量で約50〜約100%のショ糖、好ましくは重量で約50%のショ糖を含む。凍結乾燥は、複合体の水分を約1.3%以下に減少させる任意の従来の手順にしたがうことができる。一つの好ましい手順は、複合体を含有する溶液を−50℃〜−60℃、20〜50ミリトール、好ましくは25ミリトールで12〜60時間、好ましくは20〜48時間の間、凍結乾燥し、次いで、凍結乾燥製剤を約2〜8℃から約−80℃の間で保存することを含む。もう一つの好ましい手順において、複合体の溶液を含有するバイアルを市販型の凍結乾燥機の中に周囲温度で装填し、次いで、温度を1時間にわたり−45℃±3℃に下げていって、その温度で三時間保持する。次いで、冷却器を−80℃もしくはさらに低温に冷却して、真空を50ミクロンHgにセットする。棚の温度を1時間にわたり−35℃±3℃に上げていって、そこで一度この温度で約36〜72時間、好ましくは約48時間保持する。次いで、棚の温度を4時間にわたり−20℃±3℃に上げていって、この温度で約6〜約48時間、好ましくは約12時間保持する。この処理法の最後に、チャンバーの圧力を窒素(適切な滅菌微生物拘束フィルターを通して通過させた)で大気圧へ復元してバイアルに栓をする。
【0018】
凍結乾燥された複合体を、凍結乾燥前の溶液の容積に等しい無菌の、エンドトキシン不含有水の添加により再構成することができる。乾燥された複合体は、穏やかな揺動で迅速に溶解する。複合体のサイズもしくはゼータ電位の認められ得る変化は凍結乾燥または保存に因り何も起こらない。
【0019】
ショ糖溶液と混合し、凍結乾燥して再構成することができる適当な複合体は、疾患を処置するかもしくは診断するのに使用するための種々の型の治療用のまたは診断用の分子の細胞を標的にした、全身的送達の能力がある細胞を標的化するリガンド/リポソーム/治療用、レポーターまたは診断用分子の複合体である。標的細胞は好ましくは、がん細胞であるが、同様に非がん細胞であり得る。好ましいがん標的細胞には、前立腺の、膵臓の、乳房の、頭および首の、卵巣の、肝臓のおよび脳のがんならびに黒色腫が含まれる。限定するものではないが、上で列挙したものを含む、大抵の型のがん細胞は、トランスフェリンおよびフォレートのための受容体を過剰発現することならびにこれらの受容体はまたがん細胞の中で迅速に再利用することは、当業者に周知である(Li, H., and Qian, Z.M., Medicinal research Reviews 2(3):225-250 (2000); Qian, Z.M., et al., Pharmacological Reviews 54(4):561-587 (2002); gosselin, M.A., and Lee, P.J., Biotechnology annual Reviews 8:103-131 (2002))。
【0020】
望ましくは、治療用の分子は、遺伝子、ポリヌクレオチド、例えばプラスミドDNA、DNAフラグメント、オリゴヌクレオチド、オリゴデオキシヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、キメラRNA/DNAオリゴヌクレオチド、RNA、siRNA、リボザイム、ウイルス粒子、成長因子、サイトカイン、免疫調節剤、または、発現したときに、免疫系を刺激するかもしくは抑制する抗原を提供するタンパク質を含む、他のタンパク質である。好ましい治療用の薬剤は、核酸分子、好ましくはDNAもしくはsiRNA分子、である。好ましいDNA分子は、野生型p53分子、Rb94分子、アポプチン分子、EGFG分子もしくはアンチセンス分子のような、遺伝子をコード化するものである。好ましいHER−2アンチセンスオリゴヌクレオチドは、HER−2遺伝子に対するもので、配列の5'-TCC ATG GTG CTC ACT-3'を有する。好ましいsiRNA分子は、HER−2 mRNAに対して作用するものである。他の好ましい治療用の分子は、必要以上の実験無しに当業者により決定され得る。
【0021】
上で言及したように、標的細胞はこれに代えて非がん細胞であり得る。好ましい非がん標的細胞には、樹状細胞、血管の内皮細胞、肺細胞、乳房細胞、骨髄細胞および肝細胞が含まれる。良性の前立腺過形成細胞、過敏性甲状腺細胞、脂肪腫細胞、ならびに、関節炎、狼瘡、重症筋無力症、扁平上皮化生、異形成症等に関与する抗体を生成するB細胞のような、自己免疫疾患に関連する細胞のような、望ましくないが、良性の細胞を標的化することができる。
【0022】
これに代えて、薬剤は、投与後にインビボで検出の能力のある診断用の薬剤であり得る。例示的な診断用の薬剤には、電子高密度物質、磁気共鳴造影剤および放射性医薬品が含まれる。造影に有用な放射性核種は、同位元素の64Cu、67Cu、111In、99mTc、67Gaもしくは68Gaを含む、銅、ガリウム、インジウム、レニウムおよびテクネチウムの放射性同位元素を含む。米国特許5,688,488(出典明示により本明細書の一部とする)の中でLow等により開示された造影剤は、本明細書中で説明されるリポソーム複合体において有用である。
【0023】
リガンドは、それに対して標的細胞上で差次的に発現される受容体の任意なリガンドであり得る。例には、トランスフェリン、フォレート、他のビタミン、EGF、インスリン、ヘレグリン、RGDペプチドまたはインテグリン受容体、抗体もしくはそれらのフラグメントに反応性の他のポリペプチドが含まれる。好ましい抗体フラグメントは、抗体の単鎖Fvフラグメントである。
【0024】
抗体もしくは抗体フラグメントは、標的細胞の表面上の受容体に、および好ましくは、標的細胞上で差次的に発現される受容体に、結合するものである。一つの好ましい抗体は、抗TfRモノクローナル抗体であり、そして好ましい抗体フラグメントは、抗TfRモノクローナル抗体に基づくscFvである。もう一つの好ましい抗体は、抗HER−2モノクローナル抗体であり、そしてもう一つの好ましい抗体フラグメントは、抗HER−2モノクローナル抗体に基づくscFvである。
【0025】
リガンドは、室温でおよび約1:0.001〜1:500(μg:nmol)、好ましくは約1:10〜約1:50(μg:nmol)の範囲のリガンド:リポソーム比でリポソームと混合される。治療用の薬剤は、室温でおよび約1:0.1〜約1:50(μg:nmol)、好ましくは約1:10〜約1:24(μg:nmol)、の範囲の薬剤:脂質比で陽イオン性リポソームと混合される。例えば、その中でリガンドがトランスフェリンであって、治療用の薬剤がプラスミドDNAである複合体では、治療用の薬剤:リポソーム:リガンドの有用な比は典型的には、約1μg:0.1〜50nmol:0.1〜100μg、好ましくは1μg:5〜24nmol:6〜36μg、最も好ましくは約1μg:10nmol:12.5μgの範囲内にある。リガンドがTfRscFvであるならば、リガンド:リポソームの有用な比は典型的には、約1:5〜1:40(μg:μg)、好ましくは1:30(μg:μg)の範囲内にあり、そしてプラスミドDNA:リポソームの比は典型的には、約1:6〜1:20(μg:μg)、好ましくは1:14(μg:μg)の範囲内にある。治療用の薬剤が、プラスミドDNAよりむしろオリゴヌクレオチド(ODN)であるならば、リガンド、リポソームおよびODNの典型的な比は、0.1nmol対36nmol(ODN:リポソーム)および0.1μg対100μg(リガンド:リポソーム)、好ましくは0.5nmol対20nmol(ODN:リポソーム)および0.5μg対50μg(リガンド:リポソーム)、最も好ましくは1nmol対15nmol(ODN:リポソーム)および1μg対30μg(リガンド:リポソーム)である。治療用の薬剤がsiRNAであるならば、成分の有用な比は、0.1μg対30nmol(siRNA:リポソーム)および0.1μg対100μg(TfRscFv:リポソーム)、好ましくは、1μg対7nmol(siRNA:リポソーム)および1μg対30μg(TfRscFv:リポソーム)であり得る。
【0026】
広範ないろいろの陽イオン性リポソームが複合体の作製に有用である。公開PCT出願WO99/25320(出典明示により本明細書の一部とする)は、数個の陽イオン性リポソームの作製を記述している。望ましいリポソームの例は、リン酸ジオレオイルトリメチルアンモニウム(DOTAP)ならびにジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)および/もしくはコレステロール(chol)の混合物、または臭化ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDAB)ならびにDOPEおよび/もしくはコレステロールの混合物を含むものを含む。脂質の比は、特定の標的細胞型に対して治療用の分子の摂取の効率を最適化するように変動され得る。リポソームは、一つもしくはそれ以上の陽イオン性脂質および一つまたはそれ以上の中性のもしくはヘルパーの脂質の混合物を含み得る。陽イオン性脂質(複数を含む):中性もしくはヘルパー脂質(複数を含む)の望ましい比は、約1:(0.5〜3)、好ましくは1:(1〜2)(モル比)である。
【0027】
一つの実施態様では、複合体化するために使用されるリポソームは、立体的に安定化されたリポソームである。立体的に安定化されたリポソームは、その中にPEG、ポリ(2−エチルアクリル酸)もしくはポリ(n−イソプロピルアクリルアミド)(PNIPAM)のような、親水性ポリマーが組み込まれているリポソームである。そのような修飾されたリポソームは、治療用もしくは診断用薬剤と複合体化されるときに、それらが典型的にはそのように修飾されていない匹敵するリポソームほど迅速には細網内皮細胞システムにより血流から取り除かれないので、特に有用であり得る。第二の実施態様では、複合体を形成するために使用されるリポソームは、ヒスチジンおよびリシン(枝分かれのもしくは線状のいずれか)から成るペプチドにまた結合されて、そこではペプチドは、少なくとも約10個のアミノ酸長、典型的には約10〜100個のアミノ酸長であって、5〜100%のヒスチジンおよび0〜95%の非ヒスチジンアミノ酸から成り;好ましくは、少なくとも10%の非ヒスチジンアミノ酸はリシンである。最も好ましくは、ペプチドは約31個のアミノ酸であり、そのおよそ20%はヒスチジンであって、そのおよそ80%は非ヒスチジンである。これらの中で、少なくとも75%はリシンであって、少なくとも一つは末端システインである。好ましいペプチドは、5'-K[K(H)-K-K-K]5-K(H)-K-K-C-3'の構造を有して、リポソームの中の末端システインおよびマレイミド基を通してリポソームに共有結合的に結合され得る。そのような複合体では、成分の比は典型的には、以下のようであり得る:1:5〜1:40のリガンド対HK−リポソーム(μg:μg)、好ましくは、1:30そして1:1〜1:20のDNA対HK−リポソーム(μg:nmol)、好ましくは、1:14。
【0028】
複合体を、リガンド−リポソームおよび治療用もしくは診断用薬剤を一緒に混合して、生じた溶液を多数回ゆっくりと反転させるかもしくは、溶液の中に約10秒〜約10分、好ましくは15秒〜約2分にまたがる期間の間に渦巻きが丁度形成する速度で溶液を攪拌することにより作製することができる。
【0029】
複合体を、放射線剤もしくは化学療法剤のいずれかのような、もう一つの治療用薬剤との組合せで投与することができる。治療用薬剤、または治療用薬剤の組合せを、複合体の投与の前にもしくは後で、例えば約12時間〜約7日以内に投与することができる。化学療法剤には、限定するものではないが、例えば、ドキソルビシン、5−フルオロウラシル(5FU)、シスプラチン(CDDP)、ドセタキセル、ゲムシタビン、パクリタキセル、ビンブラスチン、エトポシド(VP−16)、カンプトテシア(camptothecia)、アクチノマイシン−D、ミトキサントロンおよびマイトマイシンCが含まれる。放射線療法には、ガンマ放射、X線、紫外線照射、マイクロ波、電子放射等が含まれる。
【0030】
本発明は、例示的目的のために提供されて、限定するものではない以下の実施例により例示される。
【実施例】
【0031】
実施例1
新たに作製されたおよび凍結乾燥された、炭水化物との複合体の作製ならびに活性およびサイズのインビトロでの評価
初期の実験は、凍結乾燥の前後で炭水化物で作製されたリガンド−リポソーム−核酸複合体のサイズならびにインビトロでのトランスフェクション効率の両方を試験するために実施された。二つの別々なリガンド、TfおよびTfRscFvが試験された。複合体は、米国特許出願09/601,444ならびに公開米国特許出願09/914,046および10/113,927[Xu, L., et al. Human Gene Therapy 10:2941-2952 (1999); Xu, L., et al., Human Gene Therapy 13:469-481 (2002); and Xu, L., et al., Molecular Cancer Therapeutics 1:337-346 (2002)をまた参照]の中に記述されている方法論を用いて作製された。それぞれの複合体では、リポソームは、本明細書中でリポソームA(LipA)として確認される、1:1比のDOTAP:DOPEであった。使用されるDNAは、ホタルのルシフェラーゼ遺伝子をコード化する遺伝子を保持するプラスミドであった。全ての場合で、炭水化物溶液を、複合体の作製で最後の工程として加えた。
【0032】
一連の8個の複合体を作製した。四つは、リガンドとしてTfを(1μg:10nmols:12.5μgのDNA:LipA:Tfの比で)を含有して;四つは、リガンドとしてTfRscFvを(1μg:14nmols:0.34μgのDNA:LipA:TfRscFvの比で)を含有した。リガンド−リポソームおよびDNAを含有する溶液を一緒に混合し、10回ゆっくりと反転させて、生じた溶液を、5%の最終濃度にデキストロースの水溶液もしくは水中のショ糖の添加の前に、室温で15分間保持した。それぞれの生じた混合液を10回反転させて、次いで、凍結乾燥もしくはトランスフェクションの前に、室温で15分間保持した。
【0033】
凍結乾燥される溶液は、Virtis Benchtop 3L凍結乾燥機を用いて、25ミリトールで24時間、−55℃で凍結乾燥されて、次いで、再構成の前に−80℃で一夜保存された。凍結乾燥の前の溶液の容積と等しい容積の水で再構成の後で、それぞれの溶液を保持する容器を10回ゆっくりと反転させて、室温で60分間保持した。この時間後に、再構成された複合体を2℃〜8℃で24時間までの間保つことができた。凍結乾燥前後の複合体のサイズをMalvern Zetasizer 3000Hを用いる動的レーザー光散乱により測定した。
【0034】
サイジング(数平均)の結果を図1に示す。Tfがリガンドであったときには、5%デキストロースの存在下での凍結乾燥の後でおよそ10倍のサイズの増加があった。5%ショ糖での新鮮な複合体のサイズは5%デキストロースでのそれより僅かにさらに大きかった一方で、ショ糖の存在下での凍結乾燥の前/後で本質的に何の変化も無かった。同様なパターンは、TfRscFvをリガンドとして用いたときに、観察された。ここではまた、5%ショ糖の使用ははるかにさらに良好な凍結乾燥後の結果を与えた。
【0035】
新鮮なおよび凍結乾燥された複合体をまた、ヒトの前立腺腫瘍細胞株DU145におけるそれらのトランスフェクション効率について評価した。再構成時の凍結乾燥された複合体(TfおよびTfRscFvを持つ)および同一の複合体の相当する新たに作製された溶液のトランスフェクション効率を比較した。凍結乾燥の前のおよび後のトランスフェクション効率の結果を図2Aおよび2Bに示す。リガンドがTfであったときには、効率は凍結乾燥後に、5%デキストロースを含有する製剤のために新たに作製された複合体の約60%に低下したのに対して、5%ショ糖を含有する凍結乾燥製剤はその最初の活性の約80%を保持した。パターンはTfRscFvリガンドで同様であった。5%デキストロースを含有する凍結乾燥された複合体は新鮮な活性の約50%に低下したのに対して、約90%の活性が、5%ショ糖を使用したときに、保持された(図2B)。かくして、ショ糖はデキストロースよりさらに多く効率的な安定化剤である。
【0036】
砂糖/複合体比を、安定性を改良して粒子形を維持するためにさらに最適化した。5%および10%ショ糖での複合体を比較した。プラスミドDNAの量をまた20μg、下で議論されるインビボでの試験で単回注射に慣習的に使用される量に増加した。上述のような凍結乾燥の後では、10%ショ糖を含有する複合体のトランスフェクション効率は5%デキストロース溶液で従来の方式で作製された新鮮な複合体で見られるものの約95%であった。図3は、5%および10%ショ糖で作製された複合体の間のトランスフェクション効率の比較を示す。インビトロでのトランスフェクション効率は、10%ショ糖を含有する凍結乾燥された複合体で最良であった。これは、タンパク質もしくは抗体フラグメントが標的化リガンドとして使用されたか否かに無関係に真実であると見出された。10%ショ糖を含有する複合体のサイズを上で示した条件で凍結乾燥前後に評価した。5%デキストロースで従来の新たに作製された複合体と比較して、凍結乾燥前後のいずれかで、10%ショ糖で作製された複合体のサイズの間に著しい差は何も無かった。ここでまた、これは、標的化リガンドと無関係な場合であると見出された。
【0037】
かくして、再構成されたリポソーム複合体製剤の中の10%ショ糖の存在は、5%デキストロースもしくは5%ショ糖のいずれかを含有する匹敵する再構成された製剤で得られるものより生物活性およびサイズのさらに高い維持をもたらす。
【0038】
実施例2
2〜8℃で一週間保存後の凍結乾燥された複合体によるインビボでのヒト前立腺腫瘍の標的化
10%ショ糖でのリポソーム複合体(新たに作製されたかもしくは凍結乾燥されて、2〜8℃で1週間保存された)のインビボでの腫瘍の標的化を、複合体の中でレポーター遺伝子として増強緑蛍光タンパク質(EGFP)を用いて試験した。複合体は、リポソームAがDOTAP:DOPE(1:1)である、TfRscFv−リポソーム A−pEGFPであった。三つの成分の比は0.3μg:14nmols:1μg(TfRscFv:リポソーム:DNA)であった。複合体を、実施例1で上述したように、作製して凍結乾燥した。凍結乾燥後に、複合体を2〜8℃で一週間冷蔵して保存した。試料を、実施例1で記述されたように、凍結乾燥前の容積に等しい容積にエンドトキシン不含有水の添加により再構成した。
【0039】
少なくとも50mmのDU145異種移植腫瘍を持つマウスを、種々の複合体(全てがTfRscFvを標的化リガンドとして、5%デキストロースで新たに作製された製剤;10%ショ糖で新たに作製された製剤および再構成前に2〜8℃で1週間冷蔵して保持されてきていた再構成された、10%ショ糖での凍結乾燥製剤)で24時間にわたり3回静脈注射した。48時間後に、動物を屠殺し、腫瘍および肝臓を切除し、タンパク質を分離して、ウエスタン分析を抗EGFP Ab(COVANCE)を用いて実施した。図4Aに示すように、10%ショ糖で凍結乾燥されて再構成された複合体は、新たに作製された複合体のいずれに比較して、匹敵するレベルの遺伝子発現を有した。さらに有意義には、高レベルの外因性遺伝子発現が腫瘍で明白であった一方で、殆どのEGFPは何もマウスの肝臓で発現されなかったことで、複合体の腫瘍特異性性質、ならびにこの腫瘍標的特異性が凍結乾燥、2〜8℃で少なくとも一週間の保存および再構成の後で維持されたことを立証する。
【0040】
実施例3
−80℃で一ヶ月間保存後の凍結乾燥された複合体によるインビボでのヒト膵臓腫瘍の標的化
凍結乾燥された複合体の安定性をまた、膵臓がん異種移植腫瘍への標的化により−80℃で一ヶ月保存後に試験した。複合体(実施例2で上述したのと同一の複合体および比)を10%ショ糖で作製し、そして、実施例1で記述したように、凍結乾燥した。凍結乾燥の後に、試料を−80℃で一ヶ月間保存し、次いで、実施例1で記述したように、エンドトキシン不含有水で再構成した。
【0041】
図4Bに示すように、24時間の期間にわたり3回静脈注射された(上の実施例2におけるように)マウスからの腫瘍は、新たに作製された複合体での注射後に見出されたよりもなおさらに高いレベルのEGFP遺伝子発現を示した。一方、非常に僅少の発現が肝臓で見られたか、もしくは見られなかった。
【0042】
実施例4
サイズおよびインビトロでのトランスフェクション効率により評価されたように、2〜8℃で保存された凍結乾燥複合体の長期安定性
実行可能な臨床治療剤として我々のTfRscFv−リポソーム−DNA複合体の潜在能力を増加させるために、その安定性を増加させる手段を開発して、かくしてその腫瘍の標的化能、および使用期限を維持した。我々の試験の幾らかは、添加物として10%ショ糖で凍結乾燥された複合体は、−20℃、−80℃もしくは2〜8℃のいずれかで、成功裏に保存されることができたことを示している。診療所での使用の便利性のために、好ましい保存方法は2〜8℃である。時間の長さを決定するために、凍結乾燥された複合体を2〜8℃で生物活性の損失無しに保存することができて、凍結乾燥されて、1,4および6ヶ月間2〜8℃で保存された複合体のインビトロでのトランスフェクション効率を評価した。複合体は、リポソームAがDOTAP:DOPE(1:1)である、TfRscFv−リポソーム A−p53であった。三つの成分の比は、0.34μg:10μg:1μgと同等である0.3μg:14nmols:1μg(TfRscFv:リポソーム A:DNA)であった。10%ショ糖を添加物として使用した。複合体の中のDNAは、ヒト野生型p53をコード化する約1.7KbのcDNA配列を含有するプラスミドベクターであった。複合体を作製し、凍結乾燥して、実施例1で記述したように、2〜8℃で保存後の適切な時に再構成した。サイズ(数のパラメーター)およびゼータ電位をMalvern 3000H Zetasizerを用いて測定した。機能性活性をルシフェラーゼ共トランスフェクションアッセイを用いて評価した。ヒト前立腺がんDU145細胞を、BP100プラスミドDNAでおよび複合体で共トランスフェクトした。BP100プラスミドは、wtp53誘導性プロモーターの制御下にルシフェラーゼ遺伝子を保持する。かくして、トランスフェクトされた細胞の中の機能性p53のレベルは、ルシフェラーゼ活性のレベルにより反映される。トランスフェクションの24時間後に、細胞を溶菌して、ルシフェラーゼ活性を、Promegaルシフェラーゼ試薬を用い製造プロトコルにしたがって、アッセイした。表1に示すように、複合体のルシフェラーゼ活性、サイズおよびゼータ電位は、新たに作製された複合体および凍結乾燥されて、2〜8℃で6ヶ月までの間に保存された複合体との間で一貫している。
【表1】

【0043】
実施例5
2〜8℃で保存後に全身的に投与された凍結乾燥複合体のインビボでの腫瘍特異的標的化
新鮮なならびに作製され、1ヶ月、4ヶ月もしくは6ヶ月間2〜8℃で保存されて、次いで実施例4に記載された試験のために再構成された凍結乾燥複合体を、全身的な(静脈)投与後にヒト前立腺異種移植腫瘍に到達してトランスフェクトするそれらの能力についてインビボでまた試験した。少なくとも100mmの皮下ヒト前立腺腫瘍細胞株DU145異種移植腫瘍を持つ無胸腺ヌードマウスを、0.8mLの最終容積で注射当り40μgのDNAと同等な量で、複合体(新鮮なもしくは凍結乾燥されて、再構成された)で24時間にわたり3回静脈注射した。最後の注射の48時間後に、動物を人道的に安楽死させ、器官を取り出し、タンパク質を単離して、発現をXu, L. et al., Tumor Targeting 4:92-104 (1999)により記述されたようにウエスタン分析により測定した。当分野で普通に知られている他の方法を、これに変えて使用することができた。全タンパク質溶菌液80μgを12%SDS−ポリアクリルアミドゲルのレーン上に装填した。ゲルを操作した後に、タンパク質をニトロセルロース膜へ転移しそして抗p53マウスモノクローナル抗体(Oncogene Research製品)のプローブと反応させた。
【0044】
マウス中のインビボでの腫瘍の標的化の結果を図5に示す。p53発現のレベルは、新たに作製された複合体を受領する動物からの腫瘍の中のレベルおよび凍結乾燥後6ヶ月さえの凍結乾燥された複合体のそれぞれを受領する動物からのそれらとの間で同様であった。全ての腫瘍の中のp53発現のレベルは、肝臓中のそれらより著しくさらに高かったことで、静脈投与後の腫瘍特異性が2〜8℃で6ヶ月保存後でさえ維持されることを立証する。
【0045】
実施例6
バッチ間の一貫性および凍結乾燥後の安定性
同一の日の異なる時間に作製されて、凍結乾燥された、ならびに異なる日に作製されて、凍結乾燥された、複数のバッチの複合体が同様なサイズおよびトランスフェクション効率のレベルを有することを確立することは重要である。リポソームAがDOTAP:DOPE(1:1)である、複合体TfRscFv−リポソーム A−p53を、作製し、凍結乾燥し、保存して、実施例1に記載されたように、再構成した。成分およびp53DNAの比は実施例4に記載されたようであった。
【0046】
新たに作製されたかもしくは凍結乾燥されたかのいずれかの複数のTfRscFv−リポソームA−p53複合体の機能的発現を前立腺がんDU145細胞の中で評価した。インビトロでの活性をBP100プラスミドおよびルシフェラーゼアッセイを、実施例4に上記されたように、用いて評価した。5つの異なる日に、少なくとも二つの独立した試料を作製して、凍結乾燥した。2〜8℃で2週間保存された後に、試料を実施例1のように再構成して、インビトロおよびインビボで試験した。インビトロでは、ルシフェラーゼ活性(RLU/μg:細胞中のタンパク質のμg当り相対的な光単位)を、Promegaルシフェラーゼ試薬を用い製造プロトコルに記載されたように、アッセイして、そしてそれぞれのバッチのゼータ電位および粒子径(数のパラメーター)をMalvern 3000H Zetasizer上でまた測定した。表2に示すように、数のパラメーターにより、製剤の大多数のサイズは、400〜700nmの範囲の中に収まって、ゼータ電位は正の範囲に全てある。かくして、異なる日に作製された異なる複合体は一貫した行動を有する。
【表2】

【0047】
試料はまた、実施例5で記述されたように、DU145異種移植を持つ無胸腺ヌードマウスにおいてインビボで評価されている。標的化要素としてTfRscFvを使用するリガンド−リポソーム−DNA複合体が腫瘍特異性を維持していることを立証するために、ウエスタン分析を使用した(図6)。TfRscFv−LipA−p53複合体のこれらの独立したバッチを、DU145ヒト前立腺皮下異種移植マウスモデルにおいて試験した。約50〜100mmのDU145腫瘍を保持するヌードマウスを、複合体(40μgDNA/注射)で24時間の期間にわたり3回静脈注射した。最後の注射の二十四時間後に、動物を屠殺して、腫瘍および肝臓を取り出した。タンパク質を分離した。全タンパク質溶菌液80μgを12%SDS−ポリアクリルアミドゲルのレーン上に装填した。ゲルを操作した後に、タンパク質をニトロセルロース膜へ転移し、そして抗p53マウスモノクローナル抗体(Oncogene Research製品)のプローブと反応させた。等しい装填を立証するために、膜をGAPDHレベルについて引き続いてプローブと反応させた。高度のp53発現レベルは、種々のバッチのそれぞれを含有する複合体を受領するマウスからの腫瘍において明白である(図6)。p53発現の同様なレベルが、新たに作製されたかもしくは凍結乾燥されたTfRscFv複合体のいずれかとの腫瘍の中で観察された。対照的に、非常に低いp53発現が、複合体で処置されていないマウス中で観察される。瘍腫の特異性は、肝臓中の非常に低い発現レベルにより立証される。全ての例において、腫瘍と肝臓との発現に5〜10倍の相違がある。非処置の腫瘍の中のp53のレベルに比較して、全ての製剤は、処置されたマウスの腫瘍の中で強いp53シグナルを示したが、同一のマウスの相当する肝臓の中には示さなかった。それ故に、これらの試験は、完全な複合体の凍結乾燥が実行可能であって、安定性および使用期限の問題を克服することが可能であり得る。
【0048】
実施例7
商業的製造業者による凍結乾燥:インビトロおよびインビボでの試験
ヒトの患者を処置するのに有用である凍結乾燥された複合体については、10%ショ糖の存在下における複合体の作製の加工法が、移行されて、商業的製造実体により大規模で成功裏に実施されることができたことを示すことが必要である。複合体を、委託および秘密保持の合意の下に、Cardinal Health, Albuquerque, NMによって攪拌により作製した。DNA溶液を、渦巻きが溶液の中に30秒〜1分の間丁度形成しつつあった、速度で攪拌する一方で、TfRscFv:リポソーム溶液に加えた。この溶液を室温で10〜20分間保持した後で、50%ショ糖の水溶液を30秒〜1分の間上のように攪拌しながら10%の最終濃度に加えて、室温で10〜20分間保持した。商業的に作製されたバッチは、50〜1000mlのサイズに分布した。この商業的施設でHull凍結乾燥機を用いる凍結乾燥プロトコルは以下のようであった:
・10%ショ糖での複合体5mLをそれぞれ含有する、10mLのバイアルを環境温度で装填した。
・棚の温度を1時間にわたり−45℃に下げていった。一旦棚の温度が−45±3℃に達すると、生成物を3時間保持した。
・この点で、冷却器を−55℃もしくはさらに低温に冷却して、真空を50ミクロンHgにセットした。
・次いで、棚の温度を1時間にわたり−35℃に上げていった。
・一旦棚の温度が−35℃に達すると、生成物を48時間保持した。
・棚の温度を4時間にわたり20℃に上げていって、生成物を12時間保持した。
・このサイクルの最後に、チャンバーの圧力を窒素で大気圧に復元し、適切な滅菌微生物拘束フィルターを通してNFろ過した。
・生成物に栓をし、ラベルを貼って、2〜8℃で保存した。
【0049】
五つの異なるバッチのTfRscFv−LipA−p53複合体を商業的実体により作製した。代表的な商業的に作製されたバッチのインビトロでのルシフェラーゼ活性、サイズおよびゼータ電位を表3に示す。商業的に作製されて、凍結乾燥された複合体のサイズ、ゼータ電位およびルシフェラーゼ活性は、実験室で新たに作製された複合体のそれらと匹敵した。
【表3】

【0050】
五つのバッチを比較するために、DU145異種移植を持つマウスを、実施例5で記述されたように(0.8mLの中で40μgのDNA/注射で)、処置した。それぞれのマウスは、24時間にわたり三回の静脈注射を受領した。最後の注射の四十八時間後に、動物を屠殺して、器官を収穫した。全ての五つのバッチは、新たに作製された複合体のそれと匹敵して、非処置の腫瘍もしくは肝臓のいずれかの中で観察されたものより著しくさらに高い、ウエスタン分析による高レベルのp53発現を示す(図7)。それ故に、この技術は商業的製造業者に成功裏に移行されることができる。
【0051】
実施例8
凍結乾燥された複合体における未完のTfRscFvレベルのパーセントの一貫性
凍結乾燥された複合体の安定性をさらに評価するために、複合体化されていないリガンドの量を2〜8℃で6ヶ月までの間保存後に測定した。TfRscFv−LipA−p53複合体の中の複合体化されていないTfRscFvの量を評価するために、4%〜20%グラジエントの非変性のかつ非還元のポリアクリルアミドゲル電気泳動に引き続くウエスタン分析を当業者に普通に知られる方法を用いて使用した(図8)。TfRscFvタンパク質に対するポリクローナルウサギ抗体を第一の抗体(Animal Pharm, Healdsburg, CAにより製造された)として使用して、HRP−標識マウス抗ウサギモノクローナル抗体(Sigma)を二次抗体として使用した。それぞれの中にTfRscFv134ngを含有する、新たに作製されたかもしくは凍結乾燥された複合体を、実施例1で記述されたように、作製して凍結乾燥した。凍結乾燥された試料を2〜8℃で1ヶ月、4ヶ月、もしくは6ヶ月の間保存した後に、それらを、実施例1でのように、再構成した。一旦リポソームに複合体化されると、TfRscFvタンパク質はPAGEゲルには入ることができないであろう。それ故に、複合体化されていない遊離のTfRscFvのみが検出されるであろう。非変性のかつ非還元の条件下では、遊離のTfRscFvの単量体の量を正確に測定することは困難である。かくして、13.4ng(複合体のそれぞれの中のものの10%)、26.8ng(20%)もしくは40.2ng(30%)の単一薬剤のTfRscFvを含有する、複合体化されていない試料を、試験複合体のそれぞれの中の複合体化されていないTfRscFvの量の粗い評価のための濃度標準として同一のゲルの中でまた操作した。
【0052】
結果は、初めに複合体の中に入れられたTfRscFvのおよそ10%もしくはそれ以下が、種々の新鮮なもしくは2〜8℃で6ヶ月間の保存後でさえ凍結乾燥された、TfRscFv−LipA−p53複合体の製剤の中で遊離のTfRscFvとして存在することを指示した。これらのデータは、遊離の、複合体化されていないTfRscFvの量が全ての製剤で全く一貫していること、ならびにこのレベルが凍結乾燥および2〜8℃で少なくとも6ヶ月間の保存後で変化しないことを示唆する。
【0053】
実施例9
アンチセンスHER−2オリゴヌクレオチドを含有するリガンド−リポソーム−核酸複合体の凍結乾燥
上の試験は、複合体の中でプラスミドDNAを用いた。プラスミドDNAおよびオリゴヌクレオチドは必ずしも相互交換可能ではなく、そして異なる化学を有し得るので、凍結乾燥手順がオリゴヌクレオチド(ODN)を含有するリガンド−リポソーム複合体に適用できたことを立証するために、実験をまた行った。使用されたODNは、5’-TCC ATG GTG CTC ACT-3’の配列を持つHER−2遺伝子(AS HER−2)の開始コドン領域に相補的な15マーのホスホロチオエート化配列に特異的なアンチセンスHER−2ODNであった。アッセイシステムとしてMDA−MB−453ヒト乳がん細胞株を用いて、TfRscFv−LipA−AS HER−2複合体による細胞致死を、増加するODN濃度での異なる砂糖との凍結乾燥後に評価した。複合体は、実施例1で記述されたように、作製され、そして1nmol対15nmol(ODN:リポソーム)および1μg対30μg(TfRscFv:リポソーム)の比で、TfRscFv、リポソームA(1:1でDOTAP:DOPE)ならびにODNから成った。
【0054】
凍結乾燥される複合体を、5%デキストロースもしくは10%ショ糖のいずれかを含有するように作製して、10%ショ糖を含む新たに作製された匹敵する複合体製剤と比較した。複合体を、実施例1で記述されたように、凍結乾燥し、2〜8℃で一夜保存して、実施例1で記述されたように、エンドトキシン不含有水中に再構成した。5×10のMDA−MB−453細胞を、96穴プレートのウエルの中に接種した。24時間後に、細胞を、新たに作製されたかもしくは凍結乾燥され、再構成された複合体のいずれかでトランスフェクトした。細胞生存度XTTベースの細胞毒性アッセイ(XTT=3'−(1−フェニル−アミノ−カルボニル)−3,4−[テトラゾリウム]−ビス(4−メトキシ−6−ニトロ)ベンゼンスルホナート)をトランスフェクションの48時間後に三つ組(triplicate)で実施した。図9に示すように、0.25μM以上のAS−HER−2ODN濃度において、10%ショ糖を含有する凍結乾燥されて、再構成された複合体は、細胞致死への最大の効果を有した。さらに高いODN濃度において、新鮮なおよび再構成された10%ショ糖を含有する複合体の両方は、5%デキストロースでのより格段に優れていて、そして凍結乾燥は、複合体に含有されたHER−2アンチセンスODNの細胞致死能力への悪影響を何も有しなかった。
【0055】
10%ショ糖の存在下での凍結乾燥および再構成が複合体の有効性に有害でなかったことを確認するために、ヒト膵臓がん(PANC)1細胞の中でジェムザールに対する化学感作のレベルを評価するXTTアッセイを実施して、新たに作製された複合体を、実施例1で記述されたように、凍結乾燥されて、再構成された匹敵する複合体に対して比較した。複合体の中の成分の比は、1nmol:15nmol(ODN:リポソーム)および1μg:30μg(TfRscFv:リポソーム)であった。4×10のPANC−1細胞を、96穴プレートのウエルの中に接種して、24時間後に、新たに作製されたかもしくは10%ショ糖を与えるようにショ糖と混合されて、凍結乾燥され、終夜2〜8℃で冷蔵して保存されて、再構成されたTfRscFv−LipA−AS HER−2(0.25μM ODN)複合体とトランスフェクトした。化学療法薬のジェムザールを24時間後に加えた。細胞生存度XTTベースのアッセイを薬物添加の72時間後に三つ組で実施した。結果を図10に図示する。示されるように、試料の生存曲線は事実上同一であった。加えて、複合体のIC50(50%の細胞を致死する薬物の濃度)値は、5%デキストロースで新たに作製された複合体を用いて以前に測定されたより、さらに低くないとしても、同一である。かくして、本発明の作製および保存方法はまた、標的遺伝子が処理法に対して無関係であるので、任意のアンチセンスオリゴヌクレオチドとの使用に適している。
【0056】
これらの試験は、完全な複合体の凍結乾燥が実行可能であることならびに、ODNを治療分子として使用するときに、安定性および使用期限での以前の困難が克服され得ることを指示する。
【0057】
実施例10
AS ODNを保持する複合体の凍結乾燥および6ヶ月の保存後のサイズ、ゼータ電位ならびに有効性の維持
AS HER−2ODNを含有して、10%ショ糖で作製されたリガンド−リポソーム−核酸複合体のサイズ、ゼータ電位およびトランスフェクション活性を、凍結乾燥の前後に検査した。複合体のサイズは、凍結乾燥および−20℃で6ヶ月までの間の保存の前後で本質的に同一であると見出された。例えば:凍結乾燥前で、新鮮なおよび、実施例9で記述されたように作製された、6ヶ月凍結乾燥複合体についての強度、容積ならびに数平均によるサイズ(nm)の値は、それぞれ、410(I)、454(V)および368(N)対339(I)、427(V)および397(N)であった。加えて、HER−2レベル(SC-ODN_ (5’-CTA GCC ATG CTT GTC-3’)に影響しないもう一つのオリゴヌクレオチドを、同一の比でまた複合体化し、凍結乾燥し、−20℃で6ヶ月まで間に保存して、実施例9におけるように再構成した。ここでまた、凍結乾燥および保存は、複合体のサイズもしくはゼータ電位に著しい効果を何も有しなかった。かくして、任意のODNを複合体化して、凍結乾燥することができる。
【0058】
ゼータ電位は、6ヶ月保存後で−43.8(新鮮な)および−47.7(凍結乾燥された)であった。10%ショ糖で凍結乾燥された複合体のトランスフェクション効率を、TfRscFv−LipA−AS HER−2のインビトロでのHER−2発現を下方調整する能力を評価することにより、測定した。作製、凍結乾燥(実施例4におけるように)、および−20℃で6ヶ月までの間の保存の後で、二つの異なる濃度(0.3もしくは0.6μM)における複合体のAS HER−2ODNまたは0.6μMにおけるSC−ODNを使用して、ヒト乳がん細胞株のMDA−MB−435細胞をトランスフェクトした。AS HER−2もしくはSC−ODNを保持する新たに作製された複合体を対照として用いた。SC−ODNは凍結乾燥の前後のいずれでも何も効果を有しなかった。しかしながら、−20℃で6ヶ月の保存後でさえ、新たに作製されたおよび凍結乾燥された複合体(図11)の両方による、AS HER−2ODN用量依存性のHER−2発現の下方調整があった。SC−ODNは何も効果を有しなかったので、観察された下方調整は、複合体の凍結乾燥に因るいずれの一般的な細胞毒性の結果でなかった。
【0059】
実施例11
siRNAを保持する複合体の凍結乾燥後のサイズおよびゼータ電位の維持
10%ショ糖でのTfRscFv、リポソームAおよびsiRNAの複合体の凍結乾燥の後の安定性を、凍結乾燥の前後で複合体のサイズおよびゼータ電位を測定することにより評価した。複合体は、33.3μgにおけるTfRscFv、リポソームA(1:1のモル比ででDOTAP:DOPE)およびsiRNAから成った。複合体の全容積は500μLであった。成分の比は、1μg対7nmol(siRNA:リポソーム)および1μg対30μg(TfRscFv:リポソーム)であった。ショ糖を10%の最終濃度に複合体へ加えた。複合体を、実施例1で記述されたように、作製して、凍結乾燥した。凍結乾燥の後に、複合体を、実施例1で記述されたように、再構成して、サイズおよびゼータ電位をMalvern Zetasizer 3000Hを用いて測定した。結果を表4に示す。
【表4】

それ故に、凍結乾燥後にサイズおよびゼータ電位に著しい変化は何も無かった。どちらかと言えば、強度および容積によるサイズは凍結乾燥後にさらに小さくさえあって、インビボでの使用に複合体をさらに大きく効率的にする。
【0060】
実施例12
ペプチド−リポソームで作製された複合体の凍結乾燥後のサイズの維持
本発明の一般的な性質をさらに立証するために、修飾リポソームを含んだ複合体をまた作製した。複合体を形成するために使用されたリポソームをペプチドに結合した。ペプチドは、ヒスチジンおよびリシンを含んで、長さで31個のアミノ酸の枝分かれしたペプチドであって、構造(5’-K[K(H)-K-K-K]5-K(H)-K-K-C-3’)を持つヒスチジンおよび非ヒスチジンアミノ酸の組合せから成った。この試験におけるリポソームはDOTAP:DOPE(1:1)から成った。HKペプチドは、末端システインおよびリポソーム中のマレイミド基を介してリポソームに共有結合で結合された。複合体は、TfRscFv−HK−リポソーム−DNAから成って、そこでは成分の比は以下のようであった:1μg:30μgのTfRscFv対HK−リポソーム(μg:μg)および1μg:14nmolのDNA対HK−リポソーム(μg:nmol)であった。使用されたDNAは、複合体の全容積300μLについて18μgのp53DNA(実施例4を参照)であった。10%ショ糖は最終の複合体の中に含まれた。複合体を、実施例1で記述されたように、作製して、凍結乾燥した。凍結乾燥の後に、複合体を2〜8℃で3日間保存して、次いで、実施例1で記述されたように、再構成した。凍結乾燥の前のおよび2〜8℃で三日間保存後の複合体のサイズをMalvern Zetasizer 3000H上で測定した。凍結乾燥の前には、サイズ(数平均)は601nmであった。保存および再構成の後では、それは588であった。かくして、もう一度、10%ショ糖を用いる複合体の凍結乾燥は、HKペプチドの包含をもってしても、複合体のサイズに如何なる著しい変化をもたらさなかった。
【0061】
実施例13
異なる治療的遺伝子(RB54)を保持する複合体の凍結乾燥および2〜8℃で保存後でのインビトロおよびインビボでの評価
ルシフェラーゼ遺伝子、増強緑蛍光タンパク質をコード化する遺伝子およびp53遺伝子に加えて、他のプラスミドDNAを保持するリポソーム複合体を凍結乾燥して、サイズおよび生物活性を保持することができる。さらに立証するために、もう一つの治療的遺伝子、腫瘍サプレッサー遺伝子RB94を保持するこの複合体をまた作製した。複合体は、リポソームAがDOTAP:DOPE(1:1)である、TfRscFv−リポソーム A−RB94であった。三つの成分(TfRscFv:リポソーム:DNA)の比は0.34μg:10μg:1μgであった。複合体はまた、10%ショ糖と共に、0.5μLの全容積でRB94プラスミドDNAの30μgを含有した。実施例1で記述したように、複合体を作製して、サイズおよびゼータ電位の試験のために実施例1で記述した方法を用いて凍結乾燥したかもしくはインビトロおよびインビボでの標的化試験に使用のためにCardinal Healthにより実施例7におけるように作製した。
【0062】
サイズおよびゼータ電位
実施例1におけるように作製されて、凍結乾燥され、2〜8℃で4日間保存されて、実施例1におけるように、再構成された複合体のサイズおよびゼータ電位を、凍結乾燥および保存の前後でMalvern Zetasizer 3000Hを用いて比較した。凍結乾燥の前では、サイズ(nm)は、283(強度)および392(容積)であったが、一方では後でそれは303(強度)および347(容積)であると見出された。かくして、10%ショ糖が含まれるときには、凍結乾燥および4日間2〜8℃で保存の後では、サイズに著しい変化は何も無かった。同様に、ゼータ電位は何も主要な相違を示さないで、両方は+20〜+30の範囲[19(前)および30.7(後)]にあった。
【0063】
インビトロおよびインビボでの標的化
腫瘍細胞を特異的に標的にして、凍結乾燥および2〜8℃で長期間の間の保存の後でそれらを効率よくトランスフェクトする複合体の能力を、ヒト前立腺細胞株DU145およびヒト膀胱がん腫細胞株HTB−9を用いて細胞培養液の中でまた試験した。両方の細胞株を、新たに作製された複合体かもしくは商業的受託者により作製されて、凍結乾燥されて(実施例7)、実施例1におけるような再構成の前におよそ4ヶ月間2〜8℃で保存されてきていた複合体のいずれかを用いて、インビトロでトランスフェクトした。細胞の中のRB94タンパク質発現のレベルを、当業者に既知の標準的プロトコルを用いるウエスタン分析により測定した。新たに作製されたかもしくは凍結乾燥された複合体でのトランスフェクションの後に検出されたタンパク質の量の間にいずれのヒト腫瘍細胞株において著しい相違は何も無かった。
【0064】
ヒト膀胱がん腫HTB−9異種移植腫瘍を保持するマウスを、新たに作製された複合体かもしくは、実施例1におけるように、攪拌により10%ショ糖で作製されて、凍結乾燥されて(実施例7)、実施例1での再構成の前に殆ど5ヶ月間2〜8℃で保存されてきていた複合体で全身的に(尾静脈を介して静脈で)注射した。マウスは、24時間にわたって合計三回の静脈注射(注射当り0.67mL中でDNAの40μg)を受領した。最後の注射のおよそ48時間後に、動物を人道的に屠殺し、腫瘍および肝臓を取り出し、タンパク質を得て、Xu, L., et al., tumor Targeting 4:92-104 (1999)により記述されたような普通の手順により抗RB94モノクローナル抗体(QED Biosciences, Inc)を用いるウエスタンブロット法により分析した。インビトロでの試験については、新鮮なもしくは凍結乾燥された複合体を受領する動物からの腫瘍の中で明白なRB94タンパク質のレベルに著しい相違は何も無かった。どちらかと言えば、発現は、凍結乾燥された複合体で注射されたマウスからの腫瘍の中でさらに高くさえあった。さらに、いずれの群で肝臓の中では事実上何の発現が無かったことで、複合体の腫瘍の標的化能力は、10%ショ糖の存在下での凍結乾燥および2〜8℃で少なくとも5ヶ月間の保存の後で維持されたことを立証した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体または抗体フラグメントではないリガンドおよび治療用薬剤、レポーター遺伝子もしくは診断用薬剤をカプセル化する陽イオン性リポソームを含む安定な細胞標的化複合体を製造する方法であって、
抗体または抗体フラグメントではないリガンドおよび治療用薬剤、レポーター遺伝子もしくは診断用薬剤をカプセル化する陽イオン性リポソームを含む複合体を提供すること;
当該リポソーム複合体を本質的に水中または緩衝液中のショ糖の溶液と、ショ糖最終濃度1%〜80%で混合すること;および
リポソーム複合体およびショ糖の当該溶液を凍結乾燥して、凍結乾燥製剤を得ること:を含み、
当該製剤が−80℃〜8℃の範囲内の温度で少なくとも6ケ月間安定であり、かつ、再構成時に、当該製剤がその凍結乾燥前の活性の少なくとも80%を保持している、
方法。
【請求項2】
当該リガンドがトランスフェリンである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
当該リガンドがフォレートである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
再構成時に当該製剤がその凍結乾燥前の活性の少なくとも90%を保持する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
当該複合体がショ糖の溶液とショ糖最終濃度1%〜20%で混合される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
当該陽イオン性脂質がリン酸ジオレオイルトリメチルアンモニウム(DOTAP)もしくは臭化ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDAB)を含み、そして当該中性またはヘルパー脂質がジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)もしくはコレステロール(chol)を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
リポソームが少なくとも10個のアミノ酸のペプチドにも結合し、当該ペプチドが5〜100%のヒスチジンおよび0〜95%の非ヒスチジン残基から成る、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
当該ペプチドが5'-K[K(H)-K-K-K]5-K(H)-K-K-C-3'の構造を有する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
当該治療用の薬剤が遺伝子、プラスミドDNA、オリゴヌクレオチド、オリゴデオキシヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチドもしくはsiRNAを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
−80℃〜8℃の範囲内の温度で少なくとも6ヶ月間安定であり、その間、少なくとも80%の活性を保持している、抗体または抗体フラグメントではないリガンドおよび治療用薬剤、レポーター遺伝子もしくは診断用薬剤をカプセル化する陽イオン性リポソームの複合体を含む凍結乾燥製剤であって、当該製剤が当該複合体の安定性を増加させるために1〜80%のショ糖を含む、凍結乾燥製剤。
【請求項11】
1%〜20%のショ糖を含む、請求項10に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項12】
再構成時にその凍結乾燥前の活性の少なくとも90%を保持する、請求項10に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項13】
当該治療用薬剤が遺伝子、プラスミドDNA、オリゴヌクレオチド、オリゴデオキシヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチドもしくはsiRNAを含む、請求項10に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項14】
当該陽イオン性脂質がリン酸ジオレオイルトリメチルアンモニウム(DOTAP)もしくは臭化ジメチルジオクタデシルアンモニウム(DDAB)を含みそして当該中性もしくはヘルパー脂質がジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)もしくはコレステロールを含む、請求項10に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項15】
リポソームが少なくとも10個のアミノ酸のペプチドに結合し、そこでは当該ペプチドが5〜100%のヒスチジンおよび0〜95%の非ヒスチジン残基から成る、請求項10に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項16】
当該ペプチドが5'-K[K(H)-K-K-K]5-K(H)-K-K-C-3'の構造を有する、請求項15に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項17】
当該リガンドがトランスフェリンである、請求項10に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項18】
当該リガンドがフォレートである、請求項10に記載の凍結乾燥製剤。
【請求項19】
当該溶液が、本質的に、PBS緩衝液、HEPES緩衝液、TRIS緩衝液、またはTRIS/EDTA緩衝液中のショ糖の溶液である、請求項1に記載された方法。
【請求項20】
当該診断用薬剤が、電子高密度物質、磁気共鳴造影剤または放射性医薬品を含む、請求項1に記載された方法。
【請求項21】
当該診断用薬剤が、電子高密度物質、磁気共鳴造影剤または放射性医薬品を含む、請求項15に記載された凍結乾燥製剤。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−121885(P2012−121885A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−281918(P2011−281918)
【出願日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【分割の表示】特願2006−515186(P2006−515186)の分割
【原出願日】平成16年6月4日(2004.6.4)
【出願人】(594140915)ジョージタウン・ユニバーシティ (11)
【氏名又は名称原語表記】GEORGETOWN UNIVERSITY
【Fターム(参考)】