説明

リポタンパク質リカナンターゼで実質的に構成されているバイオリーチングのための添加物、及びこの添加物が銅回収率を増大するために添加されるバイオリーチングプロセス

本発明は、バイオリーチングのための添加物であって、それが、硫化鉱からの銅回収率を増大することを可能にする添加物を開示する。そこにおいて、この添加物は、実質的にリポタンパク質リカナンターゼとpHが0.8〜3の硫酸溶液とにより構成される。リポタンパク質リカナンターゼは、配列番号1に示される配列と少なくとも50%の相同性を有するアミノ酸配列を有し、または配列番号2に示される配列と少なくとも50%の相同性を有するヌクレオチド配列の翻訳産物である。また、改良されたバイオリーチングプロセスが保護され、それは、本発明に記載された通りの鉱石バイオリーチングプロセスの間に当該添加物を添加することと;および、慣習的なプロセスを継続し、5〜20%に増大された同回収率を得ることとを含む。

【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
発明の目的
本発明は、バイオリーチングシステムにおける銅の回収率を増大することができるバイオリーチング添加物を開示する。そこにおいて、この添加物は、実質的にリポタンパク質リカナンターゼとpH0.8〜3での硫酸とで構成される。リポタンパク質リカナンターゼは配列番号1に定義される配列について少なくとも50パーセントの相同性を有するアミノ酸配列を有し、または配列番号2に定義される配列について少なくとも50パーセントの相同性を有するヌクレオチド配列の翻訳産物である。
【0002】
それはまた、改良されたバイオリーチング方法であって、バイオリーチングシステムを提供すること、本発明で定義される通りのバイオリーチングのための添加物を添加すること;および慣習的なバイオリーチングプロセスを継続し、銅回収率の増大を達成することを含む。
【0003】
背景技術
硫化銅鉱の処理は、現在、鉱石の破砕、磨鉱および浮遊選鉱と、それに続く、精鉱の溶融−変換および金属の電解精錬に関連するに物理的および化学的プロセスに基づいた技術に支えられている。実際には、80パーセント以上の銅は、前述の慣習的な方法として公知の製錬ルートに続く鉱石処理により生産され、それは鉱石堆積物および処理プラントの特定の特徴に依存して、高および中純度の鉱石に制限されている。このため、従来の製錬方法では経済性が見込めず、未だ有効な技術が開発されておらず、手付かずの比較的低品位な硫化銅鉱石が未使用資源として膨大な量残っている。
【0004】
一方、鉄酸化細菌、硫黄酸化細菌を用いた硫化銅鉱の可溶化はバイオリーチングという名称で定着している(Rawlings DE; Biomineralization of metal-containing ores and concentrates, TRENDS in Biotechnology, Vol.21 No.1, p38-42, 2003)。
【0005】
バイオリーチングとは酸性環境において微生物を直接、もしくは間接的に利用し母材から金属を溶出させる方法である。これらの処理にはバクテリア界および古細菌界に属し、且つ好酸性、独立栄養性を有する微生物が適用可能である。具体的にバイオリーチングに適用可能な微生物種としてはアシジフィリウム(Acidiphilium)種、レプトスピリルム(Leptospirillum)種、スルホバシルス(Sulfobacillus)種、およびアシジチオバシルス・フェルロオキシダンス(Acidithiobacillus ferrooxidans)種、アシジチオバシルス・チオオキシダンス(Acidithiobacillus thiooxidans)種並びにこれらの近縁種、古細菌ではアシジアヌス(Acidianus)種、フェルロプラスマ(Ferroplasma)種、メタロスファエラ(Metallosphaera)種、スルホロブス(Sulfolobus)種、セルモプラスマ(Thermoplasma)種およびその近縁種が挙げられる。
【0006】
上記微生物種の中でも最も重要な微生物はアシジチオバシルス・フェルロオキシダンス(Acidithiobacillus ferrooxidans)種およびアシジチオバシルス・チオオキシダンス(Acidithiobacillus thiooxidans)種である。
【0007】
バイオリーチングプロセスにおける微生物の集積が金属の回収に直接若しくは間接的にかかわっていると提唱されてきた(Rawlings DE. Characteristics and adaptability of iron- and sulphur-oxidizing microorganisms used for the recovery of metals from minerals and their concentrates. Microb Cell Fact. 2005 May 6;4(1):13)。
【0008】
例えば、アシジチオバシルス・フェルロオキシダンスおよびアシジチオバシルス・チオオキシダンスは酸素を電子受容体として利用し、還元型硫黄、例えば亜硫酸、元素硫黄、チオン酸イオンの酸化を触媒し、最終産物として硫酸を産生することができる。また代謝中間物として亜硫酸、チオ硫酸塩を還元することができる。これら反応の過程によって直接的そして間接的に鉱石中の硫化鉱を可溶化できる。間接的には硫化鉱表面の硫黄皮膜が抑え、酸化剤と反応可能な面積が増大する。また直接的には微生物生体を産生するため硫化鉱に含まれる元素硫黄を酸化し元素硫黄を電子受容体として利用する。また、アシジチオバシルス・フェルロオキシダンスは酸素を電子受容体とし鉄(II)イオンを鉄(III)イオンに酸化することが可能である。強力な酸化剤である鉄(III)イオンは硫化鉱および酸化が必要とされるその他の硫化物も酸化することが可能である。
【0009】
バイオリーチングプロセスにおける今までの実施形態は鉱石に酸、通常硫酸を添加し、溶媒抽出と電解精錬を伴い金属を回収するというものであった。バイオリーチングの浸出形態はカラム、ガビオン(コンクリート製6mカラム)、ヒープ(大規模な鉱石積層体)、タンクリーチングである。
【0010】
従来法のバイオリーチングを促進若しくは改善するため、いくつかのプロセスが
提案されている。例えば米国特許US6.110.253(Kohr et al., 2000)ではヒープの温度を少なくとも50℃まで上昇させるという手法が提案されいる。その他にも、加熱の代わりにヒープに炭素元である二酸化炭素、炭酸塩鉱石、有機炭素を添加するという既報もあるWO2005/073414(Du Plessis and De Kock, 2005)。
【0011】
その他の手法として特定の微生物を添加する方法がある。例えば、特許CL44.546および出願US11/256,221では強い鉄酸化能力をもつWenelen アシジチオバシルス・フェルロオキシダンスDSM 16786株を使用している。同様に出願CL2101−2005および出願US11/506,031でも強い鉄酸化能力を持つLicanantay アシジチオバシルス・チオオキシダンスDSM 17318株を添加している。これら二つの発明はチリ共和国のバイオシグマ社により開発された。
【0012】
本発明は、何れかのバイリーティングシステムにおいて鉱石からの銅回収を最適化するという技術的課題にアプローチし、それを、「何れかのバイオリーチングシステムに対して添加され」、このバイオリーチングプロセスの銅回収効率を改善する添加剤により達成する。従って、本発明は、既に存在するバイオリーチングシステムの効率を増大するための他の何れの戦略を補足する。
【0013】
本発明の添加物は前述のように、実質的にpH0.8〜3の硫酸溶液とリポタンパク質リカナンターゼとのバイオリーチングプロセスに対する添加からなる。既存の手法に本発明と類似した添加物はなく、機能および組成の何れにおいても類似した技術は存在しない。リポタンパク質リカナンターゼは、バイオシグマ社のバイオリアクターにおいて純粋培養されたアシジチオバシルス・チオオキシダンスまたはアシジチオバシルス・チオオキシダンスとアシジチオバシルス・フェルロオキシダンスを組み合わせて培養した際の培養液上清において初めて発見され;発案者らは、それを単離し、配列決定し、本発明の添加物としての使用を確立した。
【0014】
このタンパク質は、現在、論文などには公開されておらず、最も近いものがZhangらによって公表されており(Trans Nonferrous Met. Soc. China 18 (2008)1398-1402)、それは、A.フェルロオキシダンスが熱酸性水で細胞沈殿物を処理した後に単離されたため、A.フェルロオキシダンスのリポタンパク質は細胞外部に関連していると記載する。この論文は今回見出されたリポタンパク質の機能を割り当てるものではなく;それは、ペプチドマス研究(ペプチドマスフィンガープリント)により分類し、発見されたペプチドの可能な機能性をコンピューター分析するのみである。一方、本発明は、驚くべきことに、1つのタンパク質、特に、リカナンターゼがバイオリーチングシステムにおいて銅回収量を増加する添加物において使用できることを確立した。
【0015】
発明の説明
この本発明は、バイオリーチングシステムにおいて銅回収量を増加できるバイオリーチングのための添加物を開示する。そこにおいて、この添加物は、バイオリーチング条件において、実質的にpH0.8から3の硫酸溶液とリポタンパク質リカナンターゼとで構成され、そこにおいて、リポタンパク質リカナンターゼは、配列番号1に示される配列について少なくとも50パーセントの相同性を有するアミノ酸配列を有する、または配列番号2に示される配列について少なくとも50パーセントの相同性を有するヌクレオチド配列の翻訳産物である。
【0016】
本発明の添加物は、5から99パーセントのリポタンパク質リカナンターゼを含み、1から95パーセントのpH0.8から3の硫酸溶液を含む。このタンパク質はクローニングによって得られたセクレトームからの総抽出物から濃縮することにより生産されてもよく、または現在存在する入手可能な他のタンパク質生産技術を用いて生産されてよい。
【0017】
本発明の第2の側面は、バイオリーチングプロセスの改善に焦点を当てるものであり、それは、バイオリーチングシステムを提供すること、本発明に示されるようなバイオリーチングのための添加物を添加すること;および5〜20%までバイオリーチングシステムにおける同回収率を増大する慣習的なバイオリーチングプロセスを継続することを含む。
【0018】
本発明の添加物中の活性物質であるリポタンパク質リカナンターゼは、アシジチオバシリ(Acidithiobacilli)に属するバクテリア中でも特にアシジチオバシルス・フェルロオキシダンス種とアシジチオバシルス・チオオキシダンス種の分泌タンパク質またはセクレトームにおいて見出される。
【0019】
バイオリーチングプロセスは、バクテリアと鉱石の接触面における相互作用を含み、それは、主にエキソポリサッカロイド細胞外マトリックスによって構成され、そこにおいて細胞は、タンパク質やその他の代謝産物を生産し、それらは重要な役割を果たす。一方、細胞外膜および周辺質に位置するタンパク質、例えば輸送タンパク質、および酵素は、硫化物及び鉄の酸化において非常に重要な因子であり、鉱石からの銅の放出を可能にする。この基本的な相互作用は、バクテリア−ミネラル境界面において生じ、それは、バクテリア接着プロセスおよび恐らくバイオリーチングを誘導する電子の交換を含む。本発明者らは、バイオリーチング株が、純粋培養または混合培養において、ある特定のグループのタンパク質を分泌し、それが潜在的に硫化鉱のバイオリーチングを可能にする上で重要な役割を果たすことを発見した。
【0020】
上記に基づき、本発明者らは、唯一のエネルギー源として硫黄元素中で増殖されたアシジチオバシルス・フェルロオキシダンス、アシジチオバシルス・チオオキシダンスの純粋培養(セクレトーム)において、およびこれらの2つのバクテリアの混合培養(メタセクレトーム)において細胞外空間に分泌されたタンパク質を特徴付けた。これは、タンパク質を同定するためのものであり、それは水不溶性基質との相互作用と、バクテリア−ミネラル相互作用の理解に寄与することを可能にし、それらはバイオリーチングプロセスを制御する。
【0021】
A. チオオキシダンス種を用いた培養においてのみ分泌タンパク質が検出され、後期対数増殖期(約1.0×10cells/ml)において得られる総分泌タンパク質量は0.5〜2mg/Lの範囲であることが判明した。A.フェルロオキシダンス種を用いた純粋培養では分泌タンパク質は発見されておらず、A.チオオキシダンス種とA.フェルロオキシダンス種を混合培養した場合にはA.チオオキシダンス(thiooxidans)種の純粋培養のセクレトームのタンパク質とは異なるメタセクレトームのタンパク質が検出された。これらはA.フェルロオキシダンス種はA.チオオキシダンス種と相互作用するタンパク質を分泌している、若しくはA.フェルロオキシダンス種によりA.チオオキシダンス種の分泌タンパク質が変化していることを示す。
【0022】
本発明において見られた分泌タンパク質の濃度は0.5から2mg/Lと他の種の分泌タンパク質濃度の例と比較すると低い。バシルス(Bacillus)種では200mg/Lに近い濃度が報告されている。
【0023】
まず、本発明のバイオリーチングに対して添加剤を用いるという目的で、得られたセクレトームを5倍に濃縮し、これらの濃縮物を用いて試験を行い、バイオリーチングにおけるそれらの効果を観察した。
【0024】
アシジチオバシルス・フェルロオキシダンス(Acidithiobacillus ferrooxidans)種とアシジチオバシルス・チオオキシダンス(Acidithiobacillus thiooxidans)種に属するバクテリアの特徴の一つとして好酸性であり、pHが1〜3、またはもっと低いpH領域で増殖するということが挙げられる。実際に試験では培地のpHは1.6であった。よって、このpH範囲内で、これらのバクテリアのセクレトーム、および例えば、リカナンターゼなどを構成するタンパク質が安定であることがを期待できる。従って、全ての試験はこのpHを維持して行われ、試験に用いられた材料もこのpHを維持して行われた。また、材料のpH調整には硫酸が用いられた。それは、硫酸は脱プロトン化された酸であるために、それ自体が所望の範囲内にpHを維持する緩衝剤となるためである。
【0025】
驚くべきことに、A.フェルロオキシダンス(ferrooxidans)種とA.チオオキシダンス(thiooxidans)種を播種したバイオリーチングシステムに対して添加したときに、A.チオオキシダンスのセクレトームと、A.フェルロオキシダンスおよびA.チオオキシダンスのメタセクレトームの両方ともに、6〜8パーセントの銅の回収率が有意に増加し、そこにおいて銅鉱石は黄銅鉱を主体とする鉱石を用いた。一方で分泌タンパク質を添加したにも関わらず、積層体に含まれる微生物群には有意な差は見られなかった。この知見はバイオリーチングプロセスにおいて銅回収率向上という点で、非常に経済的に重要である。なぜならこの知見はこのバイオリーチング技術である本発明のプロセスが特異的且つ直接的に影響を与え、バイオリーチングが促進され微生物が増加している間に銅の浸出が進んでいることを示唆しているからである。
【0026】
第二にセクレトームの画分用いた試験を行った。この目的はセクレトームのタンパク質全てが銅回収向上に必要であるのか、それともそのうちのいくつかまたは1つが必要であるのかを明快にすることである。分泌タンパク質のうち3.5kDaから30kDaの画分と30kDa以上の画分を用いて試験を行った。同試験より分泌タンパク質のうち3.5kDaから30kDaの画分が積層体からの銅回収向上を可能にすることが分かった。一方30kDa以上の画分は効果を示さなかった。
【0027】
分泌タンパク質の銅浸出促進活性を有する画分が特定されたのち、同活性画分のタンパク質を精査したところ同活性画分の大部分がリポタンパク質リカナンターゼというタンパク質で占められていることが判明した。よって、リポプロテインリカナンターゼが前述のバイオリーチングにおける銅回収率向上の原因であると示唆された。
【0028】
同リポプロテインリカナンターゼは当バイオシグマのバイオリアクターから単離されたタンパク質である。そのアミノ酸配列とヌクレオチド配列がすでに明らかにされており、アミノ酸配列を配列番号1に、ヌクレオチド配列を配列番号2に示す。
【0029】
これらアミノ酸配列及びヌクレオチド配列はアメリカ合衆国のNational Center for Biotechnology Information(NCBI, EEUU)のデータベース、The Universal Protein Resource Knowledgebase (UniProtKB)のデータベース比較に用い、BLAST (Basic Local Alignment Search Tool)の公開情報を利用することで決定された。
【0030】
アミノ酸配列の決定において、NCBIとUniProtKBのデータベースにおいて二つ似た配列が公開されていることが判明した。NCBIではref|YP_002220838.1|というコードで、UniProtKBではB7J904_ACIF2というコードで登録されている。ref|YP_002220838.1|はアシジチオバシルス・フェルロオキシダンス(Acidithiobacillus ferrooxidans)ATCC53993株の想定リポタンパク質として、B7J904_ACIF2はアシジチオバシルス・フェルロオキシダンス(Acidithiobacillus ferrooxidans)ATCC23270株の想定リポタンパク質として。この二つの配列はそれぞれ配列番号1に示す配列と96パーセトの相同性を有しいる。これらのタンパク質アシジチオバシルス・フェルロオキシダンス(Acidithiobacillus ferrooxidans)ATCC53993株のリポタンパク質は右記公表(DOE Joint Genome Institute, EEUU)基ており、アシジチオバシルス・フェルロオキシダンス(Acidithiobacillus ferrooxidans)ATCC23270株のリポタンパク質は右記(Valdes et al., 2008 en BMC Genomics 9 (1), 597)に基ている。これらの論文では遺伝的な情報から同想定リポタンパク質遺伝子に注釈がつけられているだけで、再現実験やタンパク質の合成などは行っていない。一方、NCBIのデータベースから得られたATCC 23270株のリポタンパク質ヌクレオチド鎖GenBank:CP001219.1とATCC53993のリポタンパク質GenBank:CP001132.1は100パーセント一致した。これら二つのDNA鎖をBLAST検索によって得られたヌクレオチド鎖配列番号2と比較するとその相同性は87パーセントであった。これは一つの遺伝子が似た配列で公表されていることを示すものである。
【0031】
前述した通り、本発明はまた、次の工程を含むバイオリーチングプロセスを改善することを目的とする;
a)バイオリーチングシステムの提供を提供すること;
b)酸中に10から99パーセントのリポタンパク質リカナンターゼから構成されるバイオリーチング添加物を添加すること、そのリポタンパク質リカンターゼは、配列番号1に示す配列について少なくとも50パーセントの相同性を有するアミノ酸配列を有し、配列番号2に示す配列について少なくとも50パーセントの相同性を有するヌクレオチド配列によりコード化される;
c)通常のバイオリーチングを継続すること。
【0032】
バイオリーチングシステムはガビオンカラム、ダンプ、若しくは反応容器内での攪拌が知られている。0.01から100mg/Lの同添加物を添加することで、上記b)工程を含まないプロセスよりも5から20パーセントの銅回収率増加を得ることが可能である。
【0033】
一方、リポタンパク質リカナンターゼがこれら銅回収率増加の原因であるが、我々のデータからセクレトーム中にそのほかのタンパク質が同時に存在しても、その活性は、減少しないことが判明した。よって同分泌タンパク質の3.5kDaから30kDa画分若しくは分泌タンパク質全てを加えても、銅回収率において同じ結果が得られた。
【0034】
前述のようにリポタンパク質リカナンターゼは配列番号1に示される配列番号について少なくとも50パーセントの相同性を有するアミノ酸配列を有し、または配列番号2に示される配列について少なくとも50パーセントの相同性を有するヌクレオチドの翻訳産物である。本発明の若干の好ましい選択肢において、リポタンパク質リタカナンターゼは、配列番号1に示される配列番号について、少なくとも60%または70%または80%の相同性を有するアミノ酸配列を有すると定義され、または配列番号2に示される配列番号について、少なくとも60%または70%または80%の相同性を有するヌクレオチド配列によりコード化されると定義される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】15パーセント変性ポリアクリルアミドゲルにおいてA.チオオキシダンスの培養液のセクレトームを濃縮して得られたリポタンパク質リカナンターゼを電気泳動した図。
【図2】試験に用いた黄銅鉱の鉱物学的解析を示す。全ての鉱物のなかの85.5パーセントが黄銅鉱であり、銅を含む鉱物種は99パーセント以上が黄銅鉱である。
【図3】図3では異なる画分から得られた分泌タンパク質を用いた際のバイオリーチング銅回収率が示されている3つのグラフを示す。
【0036】
図3A.1は、A.チオオキシダンス由来のセクレトームを添加した際のバイオリーチング銅回収率を示す。
【0037】
図3B.1は、A.チオオキシダンスとA.フェルロオキシダンスの混合培養によって得られたセクレトームを添加した際のバイオリーチング銅回収率を示す。A.チオオキシダンスとA.フェルロオキシダンスの混合培養によって得られたセクレトームを添加することで有意に銅回収率が増加していることがわかる。
【0038】
図3C.1は、A.チオオキシダンス由来のセクレトームの3.5から30KDaの画分を用いた際のバイオリーチングにおける銅回収率の推移を示す。A.チオオキシダンス由来のセクレトームの3.5 から 30 KDaの画分を添加することで有意に銅回収率が増加していることがわかる。
【0039】
図3A.2は、A.チオオキシダンス培養によって得られたセクレトームを添加した際のA.チオオキシダンスとA.フェルロオキシダンスの微生物量の推移を示す。
【0040】
図3B.2は、A.チオオキシダンスとA.フェルロオキシダンスの混合培養によって得られたセクレトームを添加した際のA.チオオキシダンスとA.フェルロオキシダンスの微生物量の推移を示す。
【0041】
図3C.2は、A.チオオキシダンス由来のセクレトームの3.5から30KDaの画分を用いた際のA.チオオキシダンスとA.フェルロオキシダンスの微生物量の推移を示す。
【0042】
我々は、A.チオオキシダンス培養によって得られたセクレトーム、A.チオオキシダンスとA.フェルロオキシダンスの混合培養によって得られたセクレトーム、A.チオオキシダンス由来のセクレトームの3.5から30KDaの画分どれを用いた際でもバイオリーチング試験の通常の微生物培養に影響を与えていないことが観察した。
【図4】図4では15パーセント変性ポリアクリルアミドゲル上でクローニング後大腸菌タンパク質発現システムより生産したリポタンパク質リカナンターゼを電気泳動した際の電気泳動像を示す。放射性同位体を用い、ケミカルルミネセンスにより可視化している。
【発明を実施するための形態】
【0043】
例.1リカナンターゼ濃縮とその分析の手段
1.1 バイオリーチング試験のためのリカナンターゼの濃縮アシジチオバシルス・チオオキシダンス(Acidithiobacillus thiooxidans)は左記無機培地(990mg/L(NHSO、145mg/LのNaHPO・HO、52mg/LのKHPO、100mg/LのMgSO・7HO、21mg/LのCaCl、pH1.6)に元素硫黄が1パーセント(g/v)を添加し、培養された。30℃、回転振とうにて攪拌、培養した後、1分間、50パーセントの強度で超音波処理を行った(WiseClean、Daihan)。超音波処理後、5.000xg、15分間、4℃で遠心分離を行った。
【0044】
1.1.1 5倍のセクレトームの生産
上記遠心分離後の上精液を同じ条件で遠心分離を再び行い、穴径が0.2μmのフィルターを用い、ろ過を行った。100mLから10000mLのろ過後の培養液を減圧遠心器を用い40℃、100mbarにて濃縮した。(RapidVap concentrator equipment (Labconco))最終的に、培養液を10分の1から5分の1の体積まで削減し、培養液に含まれるタンパク質の濃度は5から10mg/Lに達した。体積が減ることで水素イオンも濃縮され培養液のpHが下がる。そのためpHが1以下にならないよう、適宜1MのNaOHを添加した。
【0045】
得られた濃縮液は蒸留水と硫酸で調製したpH1.6の希硫酸を用い、4℃で一晩透析を行った。透析膜には3.5kDaのメンブランを用いた。(SnakeSkin(登録商標)、Thermo Fisher Scientific)。
【0046】
1.1.2 セクレトームの異なる画分の産生
リカナンターゼを多く含む画分を試験する為に、透析処理液を30kDaの穴径を持つフィルターでろ過を行った。(Amicon(登録商標) Ultra-15, Millipore)フィルターには3.5から30kDaのリカナンターゼを多く含む画分が残り、硫酸を用いpH1.6調製されたにろ液には30kDaより大きな画分が残る。
【0047】
1.2 リカナンターゼの分析と同定。
【0048】
前述のフィルター処理によって得られたフィルター画分を市販のタンパク質沈殿キット(2D-Cleanup kit、GE Helathcare)を用い沈殿させた。沈殿を尿素7M、チオウレア2M、CHAPS4%w/vおよびTrizma baseの20mMを含む溶液に添加し再攪拌、溶解を行った。最後にタンパク質の濃度はブラッドフォード法にて595nmの吸光度を用い定量された。
【0049】
5から20μgのタンパク質が15パーセント変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動に用いられた。10〜15kDaの間に見られるバンドがリカナンターゼに相当する。
【0050】
同バンドを切り出し、市販のタンパク質抽出キット(In-Gel tryptic digestion kit, Pierce)を用いバンドに含まれるタンパク質を抽出した。同サンプルを液クロマトグラフィーと質量分析計(Orbitrap XL Mass Spectrometer ,Thermo Fisher Scientific)に供し、分析を行い、ペプチド鎖の結果が判明した。
【0051】
質量分析計によって得られたスペクトルはXcalibur software(Thermo Scientific)というソフトを用いて解析された。同ソフトはNCBIの公開データベースに従って、ペプチドのリストの作成が可能である。本発明では当バイオシグマが所有するA.フェルロオキシダンスDSM16786株とA.チオオキシダンスDSM17318株のゲノムデータを用いた。
【0052】
上記方法の最初の検索でペプチド鎖ADAAQSTANEALAK;ANAAQSTATDALSKANAAQSTADQとAEEANEKVERが100パーセント、リカナンターゼペプチドであると同定された。
【0053】
配列番号1と配列番号2に示す配列はショットガンシーケンスと呼ばれる方法にて得られた。
【0054】
A.チオオキシダンスDSM17318のヌクレオチド配列解読と注釈はアメリカのAgenCourt社にて行われた。
【0055】
2. バイオリーチング試験
バイオリーチング試験は常にフラスコ系にて行われた。それぞれのフラスコには100mLのpH1.6の無機培地:990mg/L(NHSO、145mg/LのNaHPO・HO、52mg/LのKHPO、100mg/LのMgSO・7HO、21mg/LのCaCl、1.5g/LのFe(III)、2.5g/LのFe(II)が1%p/vの黄銅鉱の精鉱の存在下で添加された。同精鉱の鉱物比率は図2に示すように85.5パーセント以上が黄銅鉱であり、銅鉱物の99パーセント以上が黄銅鉱である。
【0056】
鉱物学的解析は光学偏光法を以って行われた。光学偏光法ではそれぞれのサンプル3gを埋没させ、薄片を作成、偏光顕微鏡で偏光を観察し鉱物を特定および計上する。
【0057】
バイオリーチング試験にあたって、試験開始時にA.チオオキシダンスとA.フェルロオキシダンスがそれぞれ1.00×10cell/mLで播種された。
【0058】
バイオリーチング試験では二つのコントロールが実施された。一つは無機培地のみで微生物の播種を行わないものである(WITHOUT/INOCULUM)。これは化学的に浸出された銅量を明確にする為である。二つ目は無機培地を用い、微生物の播種の播種を行い、添加物を添加しない条件である(WITHOUT/ADDITIVE)。これは通常のバイオリーチングで浸出される銅量を明確にする為のものであり、本発明の添加物が添加された改善されたバイオリーチングと比較する為の試験区である。
【0059】
上記バイオリーチング試験においてフラスコは30℃で培養され、21日間攪拌を行い、週の平日に全細胞数、全鉄濃度、鉄(II)イオン濃度、銅(II)イオン濃度などの分析を行った。分析には以下の技術を用いた。
【0060】
2.0.1 全細胞数計数
バイオリーチング試験においてA.チオオキシダンスとA.フェルロオキシダンスの細胞数の計数はトーマ血球計数板を用いて光学顕微鏡で観察することで行われた。
【0061】
2.0.2 銅濃度及び各種鉄濃度の測定
銅(II)イオン濃度と全鉄濃度の測定は原子吸光度を用い測定された(Perkin Elmer Aanalyst 400 model)。また、鉄(II)イオン濃度はo−フェナントロリン酸を用い、吸光度を測定することで導かれた。
【0062】
2.1 セクレトームの完全なタンパク質画分の添加
まず最初に、試験を行い、そこにおいて、A.チオオキシダンス(図3B.1)とA.チオオキシダンスとA.フェルロオキシダンス(図3B.1)の混合物の両方のセクレトームの5倍に濃縮物され、約5mgの総タンパク質/LをpH1.6で含む完全なタンパク質画分を添加した。A.チオオキシダンスのセクレトームおよびA.チオオキシダンスおよびA.フェロオキシダンスの混合物のメタセクレトームの両方が有意な銅の回収率における増大を示すことが観察できた。
【0063】
図3A.1は、5倍に濃縮されたA.チオオキシダンスのセクレトームが添加されたときの銅化収率のパーセンテージを示す。
【0064】
図3A.2は、5倍のA.チオオキシダンスのセクレトームが直接にバイオリーチングプロセスに影響することを我々が結論できるように、両方のアッセイにおいて同様に維持されたバイオマスを示す。
【0065】
図3B.1は、5倍濃縮されたA.チオオキシダンスおよびA.フェルロオキシダンスの混合物のメタセクレトームを添加したときの銅回収率のパーセンテージを示す。我々は、21日目に、添加物なしの通常のバイオリーチングよりも同回収率が6%よりも高いことを観察した。われわれは図3B.2において、両方の試験においてバイオマスが同様に維持されたことが観察でき、従って、われわれは、A.チオオキシダンスおよびA.フェルロオキシダンスの混合物のメタセクレトームの5倍濃縮物がバイオリーチングプロセスに直接影響することを結論付けることができる。
【0066】
2.2 A.チオオキシダンスのセクレトームの異なる画分の添加
1.1.2の例に従い、バイオリーチング試験はA.チオオキシダンスのセクレトームの中でもリカナンターゼが多く含まれる3.5〜30KDaの画分を用いて行われた。また同時にA.チオオキシダンスのセクレトームの30kDa以上の画分をもちいてバイオリーチング試験が行われた。図.3C.1に同試験の結果が見られる。A.チオオキシダンスのセクレトームの中でもリカナンターゼが多く含まれる3.5〜30KDaの画分を用いた条件にて有意に銅回収率が増加している。
【0067】
図.3C.1では異なる濃度でA.チオオキシダンスのセクレトームを添加し、そのときの銅回収率の推移を示している。5倍に濃縮したA.チオオキシダンスのセクレトームの3.5〜30kDaの画分を添加した条件では試験開始から21日が経過した時点で添加物なしの通常のバイオリーチングと比較して5パーセント銅回収率が高い。一方30kDa以上の画分を用いた条件では添加物なしのコントロールと比較して有意な銅回収率向上は見られなかった。図.3C.2では微生物量がコントロールも含めた上記3つの条件において近似していることが分かる。よって、5倍に濃縮したA.チオオキシダンスのセクレトームの3.5〜30kDaの画分がバイオリーチングに対して直接影響を与えていると結論付けることが可能である。
【0068】
3.リカナンターゼのクローニング
リポタンパク質リカナンターゼがバイオリーチングに影響を与えていると結果が出たのち、同タンパク質の配列解読に取り掛かった。解読されたアミノ酸配列は配列番号1に示される。
【0069】
A.チオオキシダンス種の中でもLicanantayDSM17318株のゲノム体系化はタンパク質を用いて行われた。同LicanantayDSM17318株はバイオシグマが所有する微生物である(特許出願中CL 2101-2005およびUS11/506,031)。同作業中に配列番号2に示されるリカナンターゼの遺伝子が発見された。
【0070】
同リカナンターゼのヌクレオチド配列を有する遺伝子は当バイオシグマにて開発されたpBM4 pnit histag vector(特許出願中 CL 2115-2007 and US12/174,374)にクローニングされ、大腸菌BL21株に下記方法で導入された。
【0071】
3.1遺伝子の増幅
同リカナンターゼのヌクレオチド配列を有する遺伝子はPCR法にて増幅された。PCR法では5’HindIII末端、3’NotI末端の制限酵素サイトとヒスチジンタグを持つプライマーを用いて行われた。末端ヒスチジンタグは同タンパク質を過剰発現したのち単離する為に導入した。
【0072】
増幅の条件は以下の通り。開始94℃1分、DNA変性94℃45秒、DNAアニーリング52度45秒、DNA伸長72度1分30秒、DNA変性からDNA伸長までを10サイクル行い引き続きDNA変性90℃45秒、DNAアニーリング52度45秒、DNA伸長72度1分30秒、DNA変性からDNA伸長までを25サイクル行った。最終サイクルのDNA伸長は72℃、10分間実施された。増幅されたDNA断片は4℃で保存され、PCR産物の精製キット(QIAquick, QIAGEN)を用いて精製された。
【0073】
3.2リカナンターゼ遺伝子クローニング
本発明においてクローニングに用いられたpBM4 pnit histagプラスミドはHindIII/NotIの制限酵素によって6時間37℃で切り出され、続いて65℃、10分間の熱処理を行いそれら制限酵素を失活した。続いてエタノール沈殿により切断されたプラスミドを沈殿させ、同沈殿を蒸留水中に再びけん濁した。PCR法で増幅されたDNA断片、及び制限酵素によって切断されたプラスミドの定量はNanoDrop equipmentを用いて行われた。増幅DNA溶液1に対し切断プラスミドを20倍等量加え20℃、3時間培養しDNAライゲーションを行った。大腸菌BL21と上記ライゲーション後のプラスミドを用いて形質転換を行った。形質転換には電気窄穴法が用いられた。
【0074】
3.3大腸菌によるリカナンターゼの発現
形質転換した大腸菌の選択にはカナマイシンが用いられた。また同時にPCR法を用いて形質転換されているか、プラスミドに遺伝子が挿入されているか確かめた。
【0075】
リカナンターゼ遺伝子が挿入されたプラスミドで形質転換されていると確認された大腸菌を0.2パーセントのグルコース、カナマイシンを添加したLB培地に播種して培養を行った(LeMaster DM & Richards FM; Preparative-Scale Isolation of Isotopically Labeled Amino Acids, Analytical Biochemistry, Vol.122, No.2,p238-247, 1982)。対数増殖期まで培養したのち、遠心分離を行い(10.000rpm、10分間、4℃)分離後の上澄みを穴径0.2μmのニトロセルロースフィルターでろ過し、減圧濃縮を行った。同時に残った大腸菌を燐酸緩衝液PBSで2回洗浄しタンパク質再けん濁液を用い再けん濁を行い全タンパク抽出物が得られた。上記上澄み液とタンパク抽出物を15パーセント変性ポリアクリルアミドゲルに装填し150V、1時間電気泳動を行った。電気泳動後、同変性ゲルに400mV、1時間垂直に電圧をかけニトロセルロースメンブランに移した。移動後、ニトロセルロースメンブランをHis−Prob−HRPに浸しブロッキング処理を行った。その後化学蛍光試薬であるSuperSignal(登録商標) West Pico(登録商標)(Pierce)を添加、培養した後、放射性写真のフィルムに暴露した。
【0076】
上記試験の結果は図.4にて示され、上記試験にて大腸菌内でリカナンターゼが発現したことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオリーチングのための添加物であって、
a)5〜99%のリポタンパク質リカナンターゼと、
ここで、リポタンパク質リカナンターゼは配列番号1に示される配列について少なくとも50%の相同性を有するアミノ酸配列を有する;
b)1〜95%のpHが0.8〜3の硫酸溶液と;
を含むことを特徴とする添加物。
【請求項2】
請求項1に記載のバイオリーチングのための添加物であって、リポタンパク質リカナンターゼが配列番号2に示される配列について少なくとも50%の相同性を有するヌクレオチド配列によりコード化されることを特徴とする添加物。
【請求項3】
バイオリーチングプロセスであって、この方法が以下の工程を含むことを特徴とするバイオリーチングプロセス;
a)バイオリーチングシステムを提供すること;
b)請求項1〜2の何れか1項に記載のバイオリーチングのための添加物を添加すること;および
c)習慣的なバイオリーチングプロセスを継続すること。
【請求項4】
請求項3に記載のバイオリーチングプロセスであって、添加物が、0.01〜100mg/Lの濃度で添加されることを特徴とするバイオリーチングプロセス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−502453(P2013−502453A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526152(P2012−526152)
【出願日】平成22年8月13日(2010.8.13)
【国際出願番号】PCT/IB2010/053673
【国際公開番号】WO2011/024096
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(505393463)バイオシグマ・エス・エー (5)
【Fターム(参考)】