説明

リポプロテインリパーゼ活性促進剤および脂質異常症改善剤

【課題】リポプロテインリパーゼ活性促進剤および脂質異常症改善剤の提供。
【解決手段】下記式(1):


で示されるレスベラトロール誘導体、その薬学的に許容可能な塩、エステルおよびエーテルからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レスベラトロール誘導体を含有するリポプロテインリパーゼ活性促進剤および脂質異常症改善剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在の社会生活においては、過剰なストレスや食物摂取、運動不足が蔓延している。これらが原因となるメタボリックシンドロームが大きな社会問題になっている。メタボリックシンドロームとは、内蔵脂肪型肥満に加えて高血糖、高血圧、脂質異常のうち二つ以上を併せ持った状態であり、動脈硬化のリスクが高くなる。脂質異常症は、血液中に含まれる脂質が過剰もくしは不足している状態を指し、これまで高脂血症と呼ばれていた疾患である。脂質異常症が発症すると、血中のLDLコレステロール濃度の増加(高コレステロール血症)、HDLコレステロール濃度の低下(低コレステロール血症)、中性脂肪などの脂質の増加(高トリグリセリド血症)により、動脈硬化のリスクが高くなることが知られている。
【0003】
リポプロテインリパーゼ(LPL)は、主に脂肪細胞で合成・分泌される酵素である。脂肪細胞から分泌されたLPLは、血管内皮細胞表面に局在し、血液中の中性脂肪(トリグリセリドなど)をグリセロールと遊離脂肪酸に分解し、遊離脂肪酸を脂肪細胞中に取り込ませる働きを有する。脂肪細胞では、LPLにより分解されて取り込まれた遊離脂肪酸は、アシル−CoAを経て、中性脂肪に再合成され、貯蔵される。
【0004】
LPLと脂質異常症との関わりはよく知られており、たとえばI型家族性脂質異常症の場合にはLPLの機能不全によることが原因であることが明らかになっている。そのため、LPLの活性化に着目した治療薬も開発されている。たとえば、脂質異常症の治療薬であるデキストラン硫酸エステルナトリウムは、LPLの活性化により血中トリグリセリド濃度を減少させることで、脂質異常症の一つである高トリグリセリド血症を抑える効果がある。
【0005】
このように血中トリグリセリド濃度を減少させることが脂質異常症に有効なことから、複数の先行技術が報告されている。例えば、細辛を配合することを特徴とする高脂血症予防剤および治療剤(特許文献1)、イコサペント酸を有効成分とする脂質異常症の改善または治療薬(特許文献2)、新規スピロピペリジン誘導体を有効成分として含有する高トリグリセリド血症の治療のための医薬(特許文献3)、ビフェニルカルボキサミド誘導体を有効成分とする高トリグリセリド血症の予防・治療剤である医薬組成物(特許文献4)などが知られている。
【0006】
一方、レスベラトロールは植物が病原菌から自己を守るファイトアレキシンとして存在する抗菌作用を有する化合物であり、ブドウ果皮に多く含まれることが知られている。最近の研究で、レスベラトロールは哺乳動物に対しても有用な効果を有していることが明らかになりつつある。いわゆる「フレンチパラドックス」と言われる赤ワインの有用な生理効果は、レスベラトロールの抗酸化能を始めとして各種の生理活性機能が一因であるとされている。さらに、レスベラトロールには多くの疾病に効果があることが明らかにされつつあり(非特許文献1)、その一つにレスベラトロールは強い抗癌作用を有することが報告されている(非特許文献2)。またレスベラトロールにも中性脂肪を減少させる報告がなされている(非特許文献3)。
また、これまでに多くのレスベラトロール誘導体が単離・構造決定されており、天然にはレスベラトロールの重合体、例えばε−ビニフェリン(二量体)、α−ビニフェリン(三量体)、バチカノールC(四量体)等が報告されている。非天然型のレスベラトロール誘導体についての報告もある(特許文献5)が、これらにはLPL活性促進剤はもちろん、脂質異常症改善作用があることは報告がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−132835号公報
【特許文献2】特開2010−229099号公報
【特許文献3】特開2009−269850号公報
【特許文献4】特開2004−175739号公報
【特許文献5】再表2008/136173号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Drug Discovery,2006,5:493−506
【非特許文献2】Science,1997、275(10):218−220
【非特許文献3】Nat Rev Drug Discov., 2006,5(6):493−506
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、前記の状況を鑑みて、新規な脂質異常症改善剤として、LPL活性促進作用に着目し、このような作用を有する化合物についての探索を行った。その結果、新たに作製したレスベラトロール誘導体類が、レスベラトロールより優れたLPL活性促進作用を有する化合物であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
したがって、本発明は、レスベラトロールより優れたLPL活性促進剤および脂質異常症改善剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の要旨は、
〔1〕下記式(1):
【0012】
【化1】

【0013】
で示されるレスベラトロール誘導体、その薬学的に許容可能な塩、エステルおよびエーテルからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有することを特徴とするLPL活性促進剤、
〔2〕前記式(1)で示されるレスベラトロール誘導体、その薬学的に許容可能な塩、エステルおよびエーテルからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有することを特徴とする脂質異常症改善剤、
に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の脂質異常症改善剤は、レスベラトロールより優れたLPL活性促進作用を有していることから、新規の脂質異常症改善剤として有用である。また、本発明のLPL活性促進作用は、低濃度でも脂肪細胞より分泌されるLPLの活性を促進させることができることから、新規の脂質異常症改善剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、実施例1で得られたクロマトグラムを示す。本発明品であるUHA1028を矢印で示す。
【図2】図2は実施例2で行ったLPL活性測定の結果を示す。レスベラトロール、UHA1028で処理した脂肪細胞培養液中のLPL活性を相対値で示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のLPL活性促進剤および脂質異常症改善剤(以下、本発明の脂質異常症改善剤等と略す)は、下記式(1):
【0017】
【化2】

【0018】
で示されるレスベラトロール誘導体、その薬学的に許容可能な塩、エステルおよびエーテルからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有することを特徴とする。
【0019】
本発明において、「LPL活性促進剤」または「脂質異常症改善剤」は、いずれもヒトまたは非ヒト動物の脂肪細胞より分泌されるLPLの活性を増強できる薬剤をいう。
ヒトまたは非ヒト動物の脂肪細胞が分泌するLPLの活性は、具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定することで確認することができる。
【0020】
前記新規レスベラトロール誘導体において、炭素−炭素2重結合は、トランスまたはシスであってよく、新規レスベラトロール誘導体としてはシス体とトランス体との混合物を含む。
【0021】
前記新規レスベラトロール誘導体の薬学的に許容可能な塩としては、例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩;アルミニウムヒドロキシド塩等の金属ヒドロキシド塩;アルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、トリアルキルアミン塩、アルキレンジアミン塩、シクロアルキルアミン塩、アリールアミン塩、アラルキルアミン塩、複素環式アミン塩等のアミン塩;α−アミノ酸塩、ω−アミノ酸塩等のアミノ酸塩;ペプチド塩またはそれらから誘導される第1級、第2級、第3級若しくは第4級アミン塩等が挙げられる。これらの薬理的に許容し得る塩は、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0022】
前記新規レスベラトロール誘導体の薬学的に許容可能なエーテルまたはエステルとは、ヒドロキシ基(−OH)の1個または2個以上がエーテル化またはエステル化ヒドロキシ基であるものをいう。これらのエーテル化またはエステル化ヒドロキシ基は、非置換のまたは置換された1〜26個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖アルキル基、または非置換のまたは置換された1〜26個の炭素原子を有する直鎖または分枝鎖脂肪族、芳香脂肪族または芳香族カルボン酸に由来してもよい。エーテル化ヒドロキシ基はさらにグリコシド基であってもよく、エステル化ヒドロキシ基はさらにグルクロニドまたは硫酸基であってもよい。これらの薬理的に許容し得るエーテルまたはエステルは、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0023】
以上のような構造を有する本発明の新規レスベラトロール誘導体は、当該分野で周知の方法に従って化学合成することも可能ではあるが、反応工程が複雑であり、有害な試薬や工程を必要とする。また、化学合成では不純物を除去する煩雑さもあり、さらに安全性の観点から、新規レスベラトロール誘導体の精製を徹底する必要もあり、工業的には不向きな方法である。
【0024】
そこで、本発明者らは、鋭意検討した結果、レスベラトロールとシナピン酸を金属塩存在下で加熱処理することで、前記の化学合成法のように有害な試薬や工程を必要とせずに、新規レスベラトロール誘導体を効率的で安全に製造することができることを見出した。以下に、新規レスベラトロール誘導体の製造方法について具体的に説明する。
【0025】
前記製造方法では、前駆体としてレスベラトロールを用いる。レスベラトロールにはトランス体とシス体の構造異性体が存在するが、加熱や紫外線によってトランス体とシス体の変換が一部生じる。したがって、レスベラトロールとしては、トランス体でもシス体でも、あるいはトランス体とシス体の混合物であってもよい。レスベラトロールは、ブドウ果皮から抽出・精製した天然由来のものであっても、化学合成された純度の高い化成品であっても良い。天然由来のレスベラトロールを用いる場合は、完全に精製されたものである必要はなく、後述のように所望の生成反応が進み最終的に本発明で用いる新規レスベラトロール誘導体が得られるから、レスベラトロール以外の成分を含む混合物も使用できる。また、レスベラトロールには、塩、エーテル、エステル等の誘導体もあるが、前記製造方法では、これらの誘導体も原料として使用することができる。
ただし、新規レスベラトロール誘導体の回収率の観点からは、レスベラトロール換算で1重量%以上含有された混合物が原料として望ましい。
前記レスベラトロールとしては、ブドウ果皮、ピーナッツ等の原料からの抽出物、凍結乾燥品等を使用してもよい。
【0026】
また、前記製造方法では、前駆体としてシナピン酸も必要である。シナピン酸は、天然由来のものであっても、化学合成された純度の高い化成品であっても良い。天然由来のシナピン酸を用いる場合は、完全に精製されたものである必要はなく、後述のように所望の生成反応が進み最終的に本発明で用いる新規レスベラトロール誘導体が得られるのであれば、シナピン酸以外の成分を含む混合物も使用できる。
ただし、新規レスベラトロール誘導体の回収量の観点からは、シナピン酸換算で5重量%以上含有された混合物が原料として望ましい。このような原料としては、例えば、リンゴ果実、穀物等の原料からの抽出物、凍結乾燥品等を使用してもよい。
【0027】
前記製造方法では、レスベラトロール、シナピン酸、またはレスベラトロールとシナピン酸との混合物を適切な溶媒に溶解させる。この際、溶媒が水のみであれば、レスベラトロールやシナピン酸の水への溶解度が著しく低いために、水と有機溶媒の混合液や、有機溶媒のみに溶解させればよい。水と有機溶媒の配合比や、有機溶媒の種類については特に制限はなく、レスベラトロールやシナピン酸が十分に溶解すれば良い。中でも、メタノールやエタノールのみの溶媒や、水とメタノール、水とエタノール等の混合液を使用することが、安全性やコスト面から好ましい。新規レスベラトロール誘導体を含む反応後組成物に対して最終的な精製を十分に適用せずにその組成物を食品に使用する場合には、安全性や法規面から溶媒としてエタノールや含水エタノールを使用することが望ましい。
得られるレスベラトロール、シナピン酸、またはレスベラトロールとシナピン酸との混合物を含有する溶液中のレスベラトロールおよびシナピン酸の濃度について特に制限はないが、それぞれの濃度が高いほど、溶媒使用量が少ない等のメリットもあるため、レスベラトロールおよびシナピン酸の濃度は各々の溶媒に対しレスベラトロールおよびシナピン酸がそれぞれ飽和する濃度近くが好ましい。
また、レスベラトロール、シナピン酸は前記溶液中において生成反応前に完全に溶解していなくともよい。例えば、レスベラトロール含有溶液とシナピン酸含有溶液とを混合する場合、それぞれの溶液中のレスベラトロール濃度、シナピン酸濃度がともに飽和濃度以上であっても、混合液とした場合には、飽和濃度近くになるように調整しておけばよい。
【0028】
次に、前記レスベラトロールおよびシナピン酸を含有する溶液(以下、レスベラトロール、シナピン酸含有溶液)のpHを8未満に調整することが好ましい。調整方法として、例えば、レスベラトロール、シナピン酸含有溶液を調製した後にpH調整剤を添加してpHを調整しても良いし、前記溶液の調製時に前もって溶媒のpHを調整しておいても良い。レスベラトロール、シナピン酸含有溶液の反応開始時のpHは8.0以上であれば、他の反応や目的化合物の分解も一方で生じるために最終的な新規レスベラトロール誘導体の回収量が低下する。したがって、反応開始時のpHは3以上8未満が望ましい。
【0029】
前記製造方法では、前記レスベラトロール、シナピン酸含有溶液中に金属塩を添加する。前記金属塩としては、酸性塩、塩基性塩、正塩のいずれでもよく、また、単塩、複塩、錯塩のいずれでもよい。さらに、金属塩は1種類であっても、複数種類の混合物であってもよい。金属塩の例としては、食品添加物として認可されているものが安全性の面で好ましい。例えば、食品に添加することが認められているマグネシウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、亜鉛塩、銅塩等が挙げられる。
また、前記金属塩の混合物としては、例えば、ミネラルプレミックス(田辺製薬株式会社、グルコン酸亜鉛、クエン酸鉄アンモニウム、乳酸カルシウム、グルコン酸銅、リン酸マグネシウムを主成分としたミネラル混合物)のように金属塩を数種類含む物質が挙げられる。また、複数の金属塩を含む混合物として、ミネラルウォーターも挙げることができる。
なお、前記金属塩の含有量としては、新規レスベラトロール誘導体を生成可能な量であればよく、特に限定はない。
【0030】
次に、金属塩存在下で、レスベラトロール、シナピン酸含有溶液を加熱処理する。この加熱処理により、新規レスベラトロール誘導体の生成反応を行う。生成反応を効率的に進ませるために、レスベラトロール、シナピン酸含有溶液の加熱温度は110℃以上に調整することが好ましい。また、使用する溶媒の沸点から考え、加圧加温が望ましい。例えば、開放容器にレスベラトロール、シナピン酸含有溶液を入れ、溶媒の沸点を超える高温で前記容器を加温する、密閉容器にレスベラトロール、シナピン酸含有溶液を入れて前記容器を加温する、レトルト装置やオートクレーブを用いて加圧加温する等、少なくとも部分的に溶液温度が110℃以上に達するように加熱することが好ましい。回収効率面から、溶液温度が均一に110℃〜150℃になることが、さらに好ましい。加熱時間も加熱温度と同様に限られたものではなく、効率的に目的の反応が進行する時間条件とすればよい。特に、加熱時間は加熱温度との兼ね合いによるものであり、加熱温度に応じた加熱時間にすることが望ましい。例えば、130℃付近で加熱する場合は、5分〜120分の加熱時間が望ましい。また、加熱は、一度でも良いし、複数回に分けて繰り返し加熱しても良い。複数回に分けて加熱する場合、蒸発した溶媒を補うために溶媒を新たに追加して行うことが好ましい。
【0031】
前記加熱処理による新規レスベラトロール誘導体の生成反応の終了は、例えば、HPLCによる成分分析により新規レスベラトロール誘導体の生成量を確認して判断すればよい。
【0032】
得られる反応液中には、本発明で原料として用いる新規レスベラトロール誘導体が含有されている。
また、安全な原料のみを用いた工程で新規レスベラトロール誘導体を製造した場合には、前記新規レスベラトロール誘導体を含む混合物の状態で食品、医薬品または医薬部外品に使用することが可能である。例えば、天然由来のレスベラトロール、シナピン酸を含水エタノール溶媒に溶解し、ミネラルウォーターやミネラルプレミックスを添加して加熱処理した場合には、得られる反応液を食品原料の一つとして使用することが可能である。
【0033】
また、風味面での改良やさらなる高機能化を望む場合は、前記反応液を濃縮して新規レスベラトロール誘導体の濃度を高める、あるいは前記反応液を精製し新規レスベラトロール誘導体の純品を得ることができる。濃縮、精製は、公知の方法で実施可能である。例えば、クロロホルム、酢酸エチル、エタノール、メタノール等を用いた溶媒抽出法や炭酸ガスによる超臨界抽出法等で抽出して新規レスベラトロール誘導体を濃縮できる。また、カラムクロマトグラフィーを利用して濃縮や精製を施すことも可能である。再結晶法や限外ろ過膜等の膜処理法も適用可能である。
【0034】
また、前記反応液から式(1)で表される新規レスベラトロール誘導体を分離して回収する場合には、カラムクロマトグラフィー、HPLC等を用いてもよい。
【0035】
前記濃縮物や精製物を、必要に応じて、減圧乾燥や凍結乾燥して溶媒除去することで、粉末状の新規レスベラトロール誘導体を得ることができる。
【0036】
また、得られた新規レスベラトロール誘導体は、必要に応じて、当該分野で公知の方法により、新規レスベラトロール誘導体の塩としたり、新規レスベラトロール誘導体のヒドロキシ基をエーテル化またはエステル化してもよい。
【0037】
前記の新規レスベラトロール誘導体は、レスベラトロールよりも優れたLPL活性促進作用を有する。
したがって、本発明は、前記新規レスベラトロール誘導体を有効成分として含有することで、優れたLPL活性促進剤および脂質異常症改善剤を提供することができる。
【0038】
本発明の脂質異常症改善剤等は、有効成分として前記新規レスベラトロール誘導体のみからなるものであってもよいが、例えば、散剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤等の固形製剤、水剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、ゲル剤等に配合される場合にはそれぞれの剤形に応じた任意成分をさらに含有してもよい。また、錠剤、丸剤、顆粒剤、顆粒を含有するカプセル剤の顆粒は、必要により、ショ糖等の糖類、マルチトール等の糖アルコールで糖衣を施したり、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等でコーティングを施したりすることもできる。また、胃溶性または腸溶性物質のフィルムで被覆してもよい。また、製剤の溶解性を向上させるために、公知の可溶化処理を施すこともできる。常法に基づいて、注射剤、点滴剤に前記新規レスベラトロール誘導体を配合して使用してもよい。
【0039】
本発明の脂質異常症改善剤等を使用する場合、例えば、前記新規レスベラトロール誘導体の摂取量は、所望の効果が得られるような量であれば特に制限されず、通常その態様、患者の年齢、性別、体質その他の条件、疾患の種類並びにその程度等に応じて適宜選択される。前記レスベラトロール誘導体換算で、1日当たり約0.1mg〜1,000mg程度とするのがよく、これを1日に1〜4回に分けて摂取することができる。
【0040】
また、前記新規レスベラトロール誘導体は、安全性に優れたものであるので、ヒトに対してだけでなく、例えば、非ヒト動物、例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジー等の哺乳類、鳥類、両生類、爬虫類等の治療剤または飼料に配合してもよい。飼料としては、例えばヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ニワトリ等に用いる家畜用飼料、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、ウナギ、タイ、ハマチ、エビ等に用いる魚介類用飼料、イヌ、ネコ、小鳥、リス等に用いるペットフードが挙げられる。
【0041】
次に、本発明を実施例に基いて詳細に説明するが、本発明はかかる実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
(実施例1:UHA1028の生成および単離・精製)
トランス−レスベラトロール1g、シナピン酸(和光純薬(株)社製)1gをエタノール20mLに溶解し、ミネラルウォーター20mLを加えて、レスベラトロール、シナピン酸含有溶液(pH=4.9)を得た。このレスベラトロール、シナピン酸含有溶液をオートクレーブにて130℃、90分間加熱した。得られた反応溶液のうち1mLをメタノールにて50mLにメスアップし、このうち10μLをHPLCにより分析し、UHA1028の生成を確認した。
【0043】
HPLC分析は以下条件にて行った。
カラム:逆相用カラム「Develosil(登録商標)C−30−UG−5」(4.6mmi.d.×250mm)
移動相:A・・・H2O(0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)), B・・・アセトニトリル(0.1%TFA)
流速:1mL/min
注入:10μL
検出:254nm
勾配(容量%):80%A/20%Bから20%A/80%Bまで30分間、20%A/80%Bから100%Bまで5分間、100%Bで10分間(全て直線)
【0044】
得られたクロマトグラムを図1に示す。得られた反応物の中からUHA1028を分取HPLCにより精製し、常法により乾燥したところ、褐色粉末状の物質であった。
【0045】
高分解能電子イオン化質量分析法にてUHA1028の分子量を測定したところ、測定値は408.4436であり、理論値との比較から、以下の分子式を得た。
理論値C24H24O6(M+):408.4438
分子式C24246
【0046】
次に、前記UHA1028を核磁気共鳴(NMR)測定に供し、1H−NMR、13C−NMRおよび各種2次元NMRデータの解析から、前記UHA1028が前記式(1)で表される構造を有することを確認した。
【0047】
また、UHA1028の物理化学的性状は、以下のようになった。
(性状)
褐色粉末
(溶解性)
水:難溶
メタノール:溶解
エタノール:溶解
DMSO:溶解
クロロホルム:溶解
酢酸エチル:溶解
【0048】
(実施例2:LPL活性促進作用の検証)
LPL活性促進作用を評価するために、3T3−L1細胞(マウス由来脂肪前駆細胞)を用いて評価を行った。
【0049】
試料にはレスベラトロール、本発明品であるUHA1028の2種類を用いた。各試料をジメチルスルホキシド(DMSO、和光純薬工業(株)社製)に4mM、2mMの濃度で溶解させて試験に使用した。
【0050】
培養は、10%ウシ胎児血清(Foetal Bovine Serum:FBS Biological industries社製)、1%アンチバイオティック−アンチマイコティック(「Antibiotic−Antimycotic」、ギブコ(GIBCO)社製)を含む「Dulbecco’s modified Eagle medium」(DMEM、商品名、Sigma社製)を用いていった。試験に使用する脂肪細胞は定法に従って調整した。つまり、細胞培養用6wellディッシュ(日本BD社製)に3T3−L1細胞を5×104cells/mLで2mL播種して37℃、5%CO2条件下で48時間培養し、100%コンフルエントしたものを毎日培地交換しながらさらに48時間培養した。その後、培地を「AdipoInducer Reagent」(商品名、タカラバイオ(株)社製)付属のインスリン、デキサメタゾン、イソブチルメチルキサンチンをそれぞれ1%、0.5%、0.1%添加した分化用DMEM2mLに交換し、37℃、5%CO2条件下で48時間分化・培養したものを使用した。
【0051】
試験は以下のように行った。分化させた脂肪細胞の培地を、インスリン1%を含むDMEM(維持培地)に交換し、これに各試料を10μL(終濃度20μM、10μM)添加し、2日おきに培地交換(化合物含有維持培地)しながら21日間培養した。なお、溶媒であるDMSOのみを0.5%添加したものをコントロールとした。
【0052】
培養終了後、培地を回収して「CONFLUOLIPTM Continuou Fluorometric Lipase Test」(商品名、PROGEN社製)を用いてLPL活性測定を行った。
測定は付属の取扱説明書に準じて行った。以下括弧内に記載する試薬名はキット中の名称とする。方法は、リパーゼ基質(LS−A)1バイアルにリパーゼ緩衝液(LP−A)16mLを添加し、これを基質溶液とした。96ウェルアッセイブラックプレート(コーニングジャパン(株)社製)の各ウェルに培地20μL、上記基質溶液180μLを混合した。プレートにシールし、プレートシェーカー(BioShaker M・BR−022 TAITEC(株)社製)で完全に混和させた。暗所で30分反応させた後に、蛍光検出器「Thermo Fluoroskan Ascent」(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製)にて励起波長355nm、測定波長460nmで測定した。得られたデータをもとに、コントロールであるDMSOを添加した条件の活性を100%とし、各試料を添加した条件の活性を算出した。これらの結果を図2に示した。
【0053】
図2に示す結果より、UHA1028においてレスベラトロールより優れたLPL活性促進作用が確認された。
したがって、UHA1028を有効成分として含有する薬剤は、ヒトまたは非ヒト動物の脂肪細胞より分泌されるLPLの活性促進剤として使用できることがわかる。また、前記薬剤は、優れたLPL活性促進作用を有することから、公知の脂質異常症の治療薬であり、LPL活性促進作用を有するデキストラン硫酸エステルナトリウムと同様に、ヒトまたは非ヒト動物の血中の血中トリグリセリド濃度を低減させる脂質異常症改善剤として使用できることがわかる。
【0054】
また、前記実験に使用した脂肪細胞には、変異や異常は見られないことから、UHA1028を有効成分として含有する薬剤は安全性にも優れていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】

で示されるレスベラトロール誘導体、その薬学的に許容可能な塩、エステルおよびエーテルからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有することを特徴とするリポプロテインリパーゼ活性促進剤。
【請求項2】
下記式(1):
【化2】

で示されるレスベラトロール誘導体、その薬学的に許容可能な塩、エステルおよびエーテルからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含有することを特徴とする脂質異常症改善剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−47194(P2013−47194A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186054(P2011−186054)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(390020189)ユーハ味覚糖株式会社 (242)
【Fターム(参考)】