説明

リポペプチド類の脱アシル化の方法

本発明は、リポペプチドの側方脂肪酸鎖を分離することによる、リポペプチド類を対応する核へと酵素的に脱アシル化するための改良方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
リポペプチド類は、発酵によって得ることができるシクロヘキサペプチドであり、そしてそれらによる真菌細胞壁生合成の鍵となる酵素である(1,3)−β−D−グルカン合成酵素の阻害を伴う全身性の抗真菌活性を有する。リポペプチド類はまた抗細菌活性も有する(Exp. Opin. Invest Drugs 2000, 9, 1797−1813)。リポペプチド類は、水中でのわずかの溶解性またはアルカリ性溶液中での不安定性のような好ましくない物理化学的な性質を有していることが知られている。さらに、天然のリポペプチド類は、静脈性内皮細胞の傷害、組織の破壊および炎症、または投与部位における局所的な毒性作用のような重篤な副作用を示す。
【背景技術】
【0002】
したがって、改良された薬物力学的および化学療法的性質と共に毒性のより低い新規なリポペプチド類を合成する必要性が存在している。そうした半合成的改良は、一般に、分子構造へ酸性または塩基性基を導入すること、および、天然の脂肪族側鎖酸を芳香族のアシル成分で置換することから成っている。脂肪酸側鎖(N−アシル側鎖)の改良は、特に、リポペプチド類の部分的合成において最も重要である。これは、一般に、広い基質特異性の天然の細胞結合性または組換え脱アシル化酵素を用いた酵素的手段により、リポペプチド類のN−アシル側鎖を除去し、そして得られた、核(nucleus)と呼ばれるペプチド環を、改質した活性酸により再アシル化することによって行われる(例えばEP1189932;EP1189 933)。
【0003】
欧州特許出願公報EP 0 460 882は、精製したエキノカンジンBデシクラーゼを用いたリポペプチド類の脂質性アシル位の脱アシル化反応を記載している。この酵素はアクチノプラネス・ウタヘンシス(Actinoplanes utahensis)(NRRL12052)の発酵により製造され、この酵素は発酵後細胞に結合した形態で存在しており、そして、こうして得られた溶解酵素は8工程の方法で精製する前に、最初に塩処理により細胞から引き剥がされる。
【0004】
リポペプチド類からの側鎖の酵素的除去は一般に、広い基質特異性の脱アシル化酵素を産生する微生物の培養物または培養上清と、精製したリポペプチドとを混合することによって行われる。これは天然のアクチノプラネス・ウタヘンシス株(例えば、NRRL12052;WO00/75177およびWO00/75178)または、例えば組換え改良型ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)株のような組換え脱アシル化酵素生産株であって良い。さらなる別法は精製した脱アシル化酵素を精製したリポペプチドの溶液または懸濁液に加えることである。側鎖を除去した後、反応上清から不溶性成分を除き、そして濾過液中に存在する水溶性核が精製される。
【0005】
精製または半精製した基質を用いたこうした方法は、時間消費的でありそして工業規模では適用できない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、リポペプチド類からN−アシル側鎖を酵素的に除去して対応する核を生成するための方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この方法は、
(a)リポペプチドを発酵により調製し、このリポペプチドはバイオマスの細胞に結合しており、そしてこのバイオマスを付着するリポペプチドと共に取り出し;
(b)付着するリポペプチドを有する発酵工程(a)のバイオマスを水性系中に再懸濁し;
(c)工程(b)からのバイオマスの懸濁液に、適切な脱アシル化酵素を溶解したかまたは固形物の形態で添加し、そして対応する核を生成させ、そして
(d)この核を場合により分離しそして精製し、
ここで、工程(a)において発酵して得られたリポペプチドは、発酵の終了後にさらに精製することなしに、細胞結合バイオマスとして、工程(c)における脱アシル化酵素と直接反応させ、それによりアミド結合を介して結合しているN−アシル鎖が取り除かれる。
【0008】
場合により、さらに工程(e)で、この核を酸誘導体と反応させて、それから得られたフェニル−(C5−C8)ヘテロアリール−フェニル、C(O)−ビフェニルまたはC(O)−テルフェニル基で置換されているアミド基を有する式の半合成リポペプチドを生成する。
【0009】
本発明はさらに、式(I):
【化1】

[式中、
R1はH、OHまたはNRxRyであり、ここで
RxおよびRyは独立してそれぞれHまたは(C1−C6)アルキルであり、
R2=H、OH、NH(CH2)2NH2
R3=H、OH、
R4=H、Me、NH2、−NH−C(=NH)NH2
R5=H、Me、CH2−C(=O)NH2、CH2CH2NH2
R6=H、OH、
R7=H、OH、
R8 =H、OSO3H、OSO3Na、NH−C(=O)CH2NH2
R9=Me、
R10=H、OH、そして、
R11=C(O)−(C6−C24)アルキル基、C(O)−(C6−C24)アルケニル基、C(O)−(C6−C24) アルカジエニル基、またはC(O)−(C6−C24) アルカトリエニル基である]のリポペプチド類からN−アシル側鎖R11を酵素的に除去して、式(II):
【化2】

[式中、R1〜R10は、式(I)について記載した意味を有し、そして式(I)および(II)の化合物中に存在するアルキル、アルケニル、アルカジエニルおよびアルカトリエニル基は、分枝鎖であってもまたは直鎖であっても良い]の対応する核を生成するための方法に関し、この方法において、
(a)式(I)のリポペプチドを発酵により調製し、このリポペプチドはバイオマスの細胞に結合しており、そしてこのバイオマスを付着するリポペプチドと共に取り出し;
(b)付着するリポペプチドを有する発酵工程(a)のバイオマスを水性系中に再懸濁させ;
(c)工程(b)からのバイオマスの懸濁液に、適切な脱アシル化酵素を溶解したまたは固形物の形態で添加し、そして対応する核を生成させ、そして
(d)この核を場合により分離しそして精製し、
ここで、工程(a)において発酵で得られたリポペプチドは、発酵の終了後にさらに精製することなしに、細胞結合バイオマスとして、工程(c)における脱アシル化酵素と直接反応させ、それによりアミド結合を介して結合しているN−アシル鎖が除去されるものとする。
【0010】
本発明はさらに、式(III):
【化3】

[式中、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、RxおよびRyは、独立してそれぞれHまたは(C1−C6)アルキルであり、そして
R20=C(O)−CH(CH2COR21)−NH−CO−(C6−C24)アルキル基、
C(O)−CH(CH2COR21)−NH−CO−(C6−C24)アルケニル基、
C(O)−CH(CH2COR21)−NH−CO−(C6−C24)アルカジエニル基、または
C(O)−CH(CH2COR21)−NH−CO−(C6−C24)アカトリエニル基であって、ここでR21はOHまたはNH2である]のリポペプチド類からN−アシル側鎖R20を酵素的に除去して、式(IV):
【化4】

[式中、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、RxおよびRyは、式(III)について記載した意味を有し、そして式(III)および(IV)の化合物中に存在するアルキル、アルケニル、アルカジエニルおよびアルカトリエニル基は、分枝鎖であってもまたは直鎖であっても良い]の対応する核を生成するための方法に関し、この方法において、
(a)式(III)のリポペプチドを発酵により調製し、このリポペプチドはバイオマスの細胞に結合しており、そしてこのバイオマスを付着するリポペプチドと共に取り出し;
(b)付着するリポペプチドを有する発酵工程(a)のバイオマスを水性系中に再懸濁させ;
(c)工程(b)からのバイオマスの懸濁液に、適切な脱アシル化酵素を溶解したまたは固形物の形態で添加し、そして対応する核を生成させ、そして
(d)この核を場合により分離しそして精製し、
ここで、工程(a)において発酵で得られたリポペプチドは、発酵の終了後にさらに精製することなしに、細胞結合バイオマスとして、工程(c)における脱アシル化酵素と直接反応させ、それによりアミド結合を介して結合しているN−アシル鎖が除去されるものとする。
【0011】
場合により、核(IV)がさらなる工程(e)で酸誘導体と反応させられて、式(III')(式中、R20基は、C(O)−フェニル−(C5−C8)−ヘテロアリール−フェニル、C(O)−ビフェニルまたはC(O)−テルフェニル基である)の半合成リポペプチドを生成する。
【0012】
(C1−C6)アルキルは、1、2、3、4、5または6個の炭素原子を有する炭化水素基を意味する。(C1−C6)アルキル基の例には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル(1−メチルエチル)、n−ブチル、イソブチル(2−メチルプロピル)、sec−ブチル(1−メチルプロピル)、tert−ブチル(1,1−ジメチルエチル)、n−ペンチル、イソペンチル、tert−ペンチル、ネオペンチル、ヘキシルが挙げられる。
【0013】
(C6−C24)アルキルは、相応して、6から24個の炭素原子を有する炭化水素基を意味する。アルキル基は直鎖であってもまたは分枝鎖であってもよい。好ましい(C6−C24)アルキルの例には、脂肪酸残基、例えばヘキシル、オクチル、デカニル、ウンデカニル、ドデカニル、トリデカニル、テトラデカニル(ミリスチル)、ペンタデカニル、ヘキサデカニル、ヘプタデカニル、オクタデカニル(ステアリル)、ノナデカニル、エイコサニル、ジコサニル、9,11−ジメチルトリデカニル、11−メチルトリデカニルが挙げられる。
【0014】
この方法では、バイオマスに結合するリポペプチドを直接に脱アシル化工程で用いるために、リポペプチド出発物質の予めの分離および手間のかかる精製が避けられる。本発明の方法は、それゆえに、工業規模に適している。本方法の工程(a)の複雑な栄養溶液中に存在する不純物および副産物は簡単なやり方、例えば、本方法の工程(b)で脱アシル化を行う前に、濾過または遠心分離を行うことにより、除去できる。不純物および副産物の例は、培地成分、この微生物系統の代謝産物または酵素である。
【0015】
本方法の工程(a)で得られる付着性リポペプチドを有するバイオマスは、場合により、本方法の工程(b)での再懸濁化の前に、水で洗浄される。
【0016】
本発明の方法の工程(b)における細胞結合性リポペプチドの再懸濁化のための水性系は、水または水性緩衝液であり、これは好ましくはpHが7.2から4.5のもの、特に好ましくは6.0から5.0のもの、特定的に好ましいのはpH5.5のものである。使用できる緩衝溶液は当業者に知られているそうした溶液の全てである。続く脱アシル化反応は、pHが4から9の範囲で;好ましくはpH4.6からpH7.8で、この酵素作用に最適のpH6〜6.5で行うことができる。
【0017】
本発明の方法は、好ましくは、式(I)の化合物であって、
R11 が、
【化5】

である化合物に関している。
【0018】
式(I)のリポペプチドの出発物質は、発酵により得ることができる。
式(I)のリポペプチド類の例には:
− アクレアシン(US4212858)
− デオキシムルンドカンジン(EP438813)
− エキノカンジン誘導体、例えば、エキノカンジンB、CまたはD(EP1189933; FEBS Letters 1984, 173(1), 134−138)
− FR901379 (Biochim. Biophys. Acta 2002, 1587, 224−233)
− ムルンドカンジン(Bioorg. Med. Chem. Lett. 2004, 14, 1123−1128)
− シリンゴマイシン(FEBS Letters 1999, 462, 151−154)
が挙げられる。
【0019】
本発明の方法において、デオキシムルンドカンジン、エキノカンジンBまたはムルルンドカンジンを基質として用いることが可能であり同時に好ましい。
【0020】
式(II)の脱アシル化化合物の提供は、改良された薬理学的、薬物動態学的または化学療法的特性を有する半合成リポペプチド(I')の製造を可能にし、この核(II)はさらなる工程(e)で、酸誘導体、例えばジメチルホルムアミド(DMF)中のジメチルアミノピリジン(DMAP)の存在下で適切な酸により再アシル化される(J.Antibiot. 1999, 52(7), 674−676)。例えば、FK463は、対応する核FR179642を介してFR901379アシラーゼを用いて脱アシル化され、続いてイソオキサゾリル含有ベンゾイル側鎖によるアシル化されることにより、FR901379から得ることができる(Biochim. Biophys. Acta 2002, 1587, 224−233)。
【0021】
本発明の方法で脱アシル化される式(I)の半合成的に調製された化合物が、対応する式(II)の化合物を与えることもまた可能である。
【0022】
半合成リポペプチド(I')は、式(I)ではあるがただし基R11の定義が異なる化合物に対応している。半合成リポペプチド(I')中の、基R1−R10は式(I)で定義されたとおりであり、そして基R11は、C(O)−フェニル−(C5−C8) ヘテロアリール−フェニル、C(O)−ビフェニル、またはC(O)−テルフェニル基であって、ここでフェニル、ビフェニル、テルフェニルまたはヘテロアリール基は非置換であるかまたは、(C1−C10)アルキルもしくはO(C1−C10)アルキルの基から選択された1もしくは2つの基で置換されているものとして、定義される。式(I')のフェニル基は非置換でありうるかまたは、1またはそれ以上、例えば1回、2回もしくは3回、同一もしくは異なった基で置換されうるものである。単置換のフェニル基の置換基は、位置2、位置3または位置4におかれてもよい。二置換のフェニル基は、位置2,3、位置2,4、位置2,5、位置2,6、位置3,4または位置3,5で置換されてもよい。三置換のフェニル基の置換基は、位置2,3,4、位置2,3,5、位置2,4,5、位置2,4,6、位置2,3,6または位置3,4,5におかれてもよい。(C5−C8) ヘテロアリール基は総計で5、6、7または8個の原子を有する芳香族環化合物であり、この中で1またはそれ以上の環原子は酸素原子、硫黄原子または窒素原子、例えば、1、2もしくは3個の窒素原子、1もしくは2個の酸素原子、1もしくは2個の硫黄原子、または各種のヘテロ原子の組合せ、例えば、1個の窒素および1個の酸素原子である。ヘテロアリール基は全ての位置を介して、例えば位置1、位置2、位置3、位置4、位置5、位置6、位置7、または位置8を介して結合してよい。ヘテロアリール基は非置換または1またはそれ以上の同一または異なった基で置換されてよい。ヘテロアリールは、例えば、フラニル、チエニル、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、インドリル、インダゾリル、キノリル、イソキノリル、フタラジニル、キノキサリニル、キナゾリニルおよびシンノリニルを意味している。イソオキサゾリルは、ヘテロアリール基として特に用いられる。
【0023】
式(I')の化合物は、例えば、欧州特許出願公開EP1189933に記載されている。
【0024】
式(I')の半合成リポペプチド類の例には:
− A−1720132 (Antimicrob. Agents Chemother. 1998, 42, 389−393)
− A−192411.29 (Antimicrob. Agents Chemother. 2000, 44, 1242−1246)
− カスポフンジン(MK−0991; Antimicrob. Agents Chemother. 1997, 41, 2326−2332)
− FK463 (Antimicrob. Agents Chemother. 2000, 44, 57−62)
− ニューモカンジン、例えばニューモカンジンAまたはB(Tetrahedron Lett. 1992, 33(32), 4529−4532)、
が挙げられる。
【0025】
さらに、本発明の方法を用いて、原則的に発酵によりリポペプチド類(I)の脱アシル化/再アシル化により得られる、他のリポペプチド類を製造することも可能である。
【0026】
特に好ましいリポペプチド(I)の例は、デオキシムルンドカンジン(V)であり、
【化6】

ここで、デオキシムルンドカンジン核(VI):
【化7】

は、本発明の方法において、デオシムルンドカンジン(V)から出発する脱アシル化反応によって調製される。
【0027】
式(III)のリポペプチド類は、欧州特許出願公開EP629636およびEP1068223で開示されている。
【0028】
本発明の方法は、好ましくは、式(III)の化合物に関しており、ここでR12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、RxおよびRyはHに等しい。
【0029】
本発明の方法はさらに好ましくは、R20が、
【化8】

である式(III)の化合物に関する。
【0030】
特に好ましいリポペプチド(III)の例は、式(VII):
【化9】

の化合物であり、ここで、対応する核(VIII):
【化10】

は脱アシル化により調製される。
【0031】
本発明の方法の一つの利点は、まだバイオマスに付着している不純なリポペプチド(I)または(III)を、脱アシル化反応の基質として水性懸濁液中で使用し、出発材料の精製が不要であり、したがって、核(II)または(IV)の製造が工業規模で可能なことである。
【0032】
広い作用範囲を有する天然酵素を、精製したまたは部分的に精製した形態で、脱アシル化反応のために用いた。脱アシル化酵素の例は、アクチノプラーネス・ウタヘンシス(Actinoplanes utahensis)種の培養によって得られるエキノカンジンB(ECB)脱アシル化酵素であり、(LaVerne等、J.Antibiotics 1989, 42, 382−388)、またはポリミキシン脱アシル化酵素(161−16081 脂肪性アシル化酵素(Fatty Acylase)、精製品;164−16081脂肪性アシル化酵素、粗製品; 和光純正化学工業株式会社)である。アクチノプラーネス・ウタヘンシス由来のECB脱アシル化酵素は、同様にクローン化され、そしてストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)中で発現される。広い基質特異性を有する組換え酵素を、形質転換したストレプトマイセス・リビダンス株で調製することが、この方法で達成できる著しく高い酵素収量の故に、好ましい。脱アシル化酵素は分離した形態で溶液または固形物として、工程(c)のリポペプチド発酵のバイオマスへと加えることができ、そして好ましくは前もって調製しそして別々に濃縮される。アクチノプラーネス・ウタヘンシス由来のリポペプチド脱アシル化酵素を精製するための方法は、文献(EP460882を参照)で開示されている。脱アシル化反応は、標準的な方法により行われる。例えば、脱アシル化反応は、Yasuda等、Agric. Biol. Chem., 53, 3245 (1989) およびKimura, Y.等、Agric. Biol. Chem., 53,497 (1989)に記載されているように、ポリミキシン脱アシル化酵素を用いて行われる。
【0033】
〔実施例1〕
組換え脱アシル化酵素生産株の調製
脱アシル化酵素をコードするDNA断片をアクチノプラーネス・ウタヘンシスNRRL12052株から単離した。この断片はクローン化し(プラスミドpCS1)そしてサブクローン化し(プラスミドpCS2)、次いでこのプラスミドpCS2をS.リビダンス株中に転移(transformed)させた。胞子懸濁液を、組換えS.リビダンス株の単一コロニーから調製しそしてアンプル中で−20℃で保管した。
【0034】
脱アシル化酵素のクローン化:アクチノプラーネス・ウタヘンシスNRRL12052から染色体DNAを単離し、EcoRIおよびBglIIで消化し、そしてアガロースゲル上で分離し、そして7−9kb長のDNA断片を単離し、プラスミドpUC19中にクローン化した(EcoRI/BamHI切断部位)。この結合生成物で大腸菌(E.coli)中に転移させ、得られた250個のアンピシリン耐性クローン(50μg/ml)をPCRで調査した。プライマーは、報告されている脱アシル化酵素のDNA配列を基に合成した(ジーンバンクのヌクレオチド配列データベース、受入番号D90543;J. Inokoshi等、Gene 1992, 119, 29−35を参照)。
【0035】
プラスミドpCS2は、A.ウタヘンシスNRRL12052から得られた8kb EcoRI/BglII断片を含んでいる。これはまたこの断片の制限酵素消化および文献データとの比較により確認されていた(J.Inokoshi等、Gene 1992, 119, 29-35を参照)。プラスミドpCS1をEcoRI/HindIIIで消化し、そして脱アシル化酵素をコードする8kb断片をプラスミドpWHM3中にクローン化し(EcoRI/HindIII 切断部位; J.Vara等、J. Bacteriology 1989, 171, 5872−5881を参照)、そして大腸菌中に転移させた。この形質転換株をアンピシリン(50μg/ml)で選択した。得られたプラスミドpCS2は、脱アシル化酵素をコードする8kb EcoRI/HindIII断片を含んでいる。
【0036】
このプラスミドpCS2は次に、ポリエチレングリコール(PEG)プロトプラスト形質転換法により、R2YE培地上で平板培養(plated out)したストレプトマイセス・リビダンスTK64 JT46株中に転移させ(Kieser等、「実践的ストレプトマイセス遺伝学」、ザ・ジョン・イネス・ファンデーション、2000年、頁408)、次いで、クローンを24時間後にチオストレプトン(20μg/ml)で選択した。得られたチオストレプトン耐性形質転換株を単離し(培地1上で)そしてそれらの生産性を振盪フラスコ中のTSB培地中で調査した。胞子懸濁液を次に陽性クローン(培地1)から調製し、そして20%グリセロール中で−20℃で保管した。一般的な分子生物学的方法(結合、形質転換、PCR、制限酵素分解、アガロースゲル)は、Sambrook等(「分子クローニング」、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー出版社、第二版、1989年、ISBN 0−87969−906−6、より)を参照でき、そして放線菌からの染色体DNAの単離方法、およびストレプトマイセス・リビダンスの形質転換、放線菌由来のDNAの特異的なPCR方法、ならびにプロトプラストの再生はHopwood等(「実践的ストレプトマイセス遺伝学」、ザ・ジョン・イネス・ファンデーション、2000年、ISBN 0−7084−0623−8、より)を参照できる。
【0037】
前述の培地1は以下の成分を含んでいる:
麦芽エキス 10g/L
酵母エキス 4g/L
グルコース 4g/L
寒天 15g/L
pH 7.2
【0038】
〔実施例2〕
発酵による脱アシル化酵素の調製
実施例1で述べた組換えストレプトマイセス・リビダンスを、酵素を生産するために使用した。このような菌株は、バッチ中または供給バッチ(fed−batch)発酵中で、培養できる。正常の工程系は、振盪フラスコ中で、28℃および220rpmで3日間インキュベートする、前培養(TSB培地)を含んでいた。このフラスコは、2000Lまでの発酵槽への直接の接種に使用できる(0.15−6%v/vの接種)。また、別法として、接種量を増加させることで、主工程での最初の成長速度を上昇させるために、10−50L規模の二次前培養を、工程系の中に挿入することも可能である。
【0039】
発酵による酵素の調製:アンプルチューブをゆっくりと解凍することによって、胞子を再活性化した。得られた200μlの懸濁液を、500mlの以下の培地[10μg/mlのチオストレプトン(50mg/ml DMSO)を加えた]を含むエルレンマイヤー・フラスコの無菌的植付けのために使用した:
【0040】
前培養用培地:TSB培地(ダイズ−カゼイン分解培地、米国薬局方;調製済培地;OXOID LTD、英国;製造番号CM129)
【表1】

【0041】
pH:7.3±0.02、
無菌化処理:20分、121℃、1bar、
インキュベーション:3日間;28℃および220rpm(偏位:2.5cm)。
【0042】
前培養の終了時に、この述べた接種量を、以下の培地を含む発酵槽中に移した:
主培養用培地
【表2】

【0043】
主培養用培地に加えたミネラル塩溶液1は以下の組成を有する;
【表3】

【0044】
培地は、蒸気を直接当ててまたはオートクレーブ中(121−125℃および1.1−1.2barにて)で滅菌できる。滅菌後のpHは約pH6.5であった。炭素源は無菌条件下で別に加えられ、それによりpHはさらに約pH6まで下がった。培地を所望の体積まで調製した後、以下の発酵条件を発酵の間維持した:
温度:25−33℃、好ましくは28℃、
圧:0.5−1bar、好ましくは0.5bar、
攪拌チップ速度:1−2m/秒、
給気:0.25−1.5vvm、好ましくは0.5vvm、
pO2:>10% (制御下)、
pHは、リン酸および/または水酸化ナトリウム溶液を用いて6.5−7.2、好ましくはpH7.0(制御下)に制御された。
【0045】
消泡剤を場合により用いることができ、その例には、ヒドロキシ基を含む分枝鎖ポリエステル、好ましくはデスモフェン(R)(バイエル・マテリアル・サイエンス、レーバークーセン、ドイツ)が挙げられる。
【0046】
炭素源は、約100時間後には消費され、そして50−150U/Lの間で発酵溶液中に存在していた。
【0047】
それらのパラメーターを設定しそして所望の接種体積で接種した後、最大の生産性は72−120時間後に到達した。酵素の発現は、増殖と共役しており誘導は必要としない。酵素の発現および生産は、酵素活性の測定のためのオフラインの迅速アッセイ(実施例3を参照)を用いてモニターした。発酵は最大の生産性が得られた時間に停止した。供給バッチ方法を用いて、生産性および空間−時間収量をかなり増加させることが可能であった。この目的で、攪拌速度(pO2 制御>10%)を介しての入力の同時増加を伴う、供給バッチ方法における、グルコース溶液(1−5g/L*時)の使用が好ましい。
【0048】
〔実施例3〕
脱アシル化酵素活性の測定
発酵による脱アシル化酵素を生産する間、酵素を単離する間、または、デオキシムルンドカンジンのようなリポペプチドから酵素的に側鎖を除去する間の、酵素活性をモニターするために、以下の酵素的迅速アッセイを用いた:
【0049】
脱アシル化酵素を含有する20μLの試料を、200mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)中に、2.5g/Lのデオキシムルンドカンジン(V)、0.5% v/v Brij 35を含み、60℃まで予め加熱した溶液の500μLに加えた。溶液を60℃で10分間振盪しながらインキュベートした。次いで、脱アシル化反応を、0.85% v/vリン酸の480μLを加えて停止させた。
【0050】
遠心分離し不溶性成分を除去した後、生成したデオキシムルンドカンジン核(VI)を、付属のHPLC分析により測定する。この目的のために、この溶液の5μLをメルク・ピューロスフェア・スターRPカラム(4*55mm)に注入し、そして、0.1% v/vリン酸で酸性化したアセトニトリルの3分間の4→20% v/v直線勾配にて、2.5ml/分の流速で溶出した。検出はλ=220nmで行う。この核は、1.4分の保持時間を有する。定量は外部標準を用いて行う。
【0051】
脱アシル化酵素活性の1単位(U)は、上記の分析条件下で、1分間にデオキシムルンドカンジン核の1μmolを生成するために必要な酵素量として定義される。
【0052】
高度に濃縮された酵素試料、例えば、脱アシル化酵素の単離の間に得られるものを、200mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)で、酵素アッセイにおいて正確に定量できる5−200U/mLの濃度まで希釈する。デオキシムルンドカンジンまたはデオキシムルンドカンジン核を含有する酵素試料のために、類似の基質、例えば化合物(VII)を迅速アッセイで用いる。得られた核(VIII)は2.4分の保持時間で検出される。
【0053】
〔実施例4〕
脱アシル化酵素の単離
酵素を単離するために、上記のように調製した培養溶液の上清を、それ自体公知の方法、好ましくは遠心分離により分離し、そして次に、例えば限外濾過で濃縮した。例えば、発酵が終了した後、組換えストレプトマイセス・リビダンス株の培養溶液(約2000L)を適切な場合は適当な殺菌剤で殺菌処理し、そして酵素を含有する上清をセパレーター(例えば、ウエストファリアSC35型)で、1000−1300L/時の処理量で分離した。分離したバイオマスは廃棄した。固体−液体分離の品質は、透明な排出液中でλ=540nmで光学密度を測定して調べられる。好ましくは、浄化した上清は、名目上10−50kDa、好ましくは20kDaのカットオフ値を有するポリエーテル−スルホン膜を用いて、その当初の体積に比して約10−20倍の濃縮係数で濃縮される。循環流速は、2.5−3.5barの膜貫通圧で4500L/時であり、透過液の流速は濾過の間に、当初の20−30L/hm2から4−10L/hm2まで低下した。透過液は廃棄した。
【0054】
水性酵素濃縮物(残留物)はこの形態で冷却して保存でき、そして直接にリポペプチドの脱アシル化反応に用いることができた。
【0055】
これの別法として、2−プロパノールを最終濃度40−60% v/v、好ましくは50−55%v/vで加えることによって、酵素を沈殿させることも可能であった。この沈殿は、0−25℃の温度範囲で、好ましくは4−10℃の範囲、特に好ましくは6℃で行うことができる。脱アシル化酵素は、2−プロパノールの代わりにアセトンを用いても沈殿するが、1−プロパノールは沈殿剤としてはあまり適切ではなかった。この上清を除き、そして次に、沈殿が終了した後、酵素を残余の懸濁液から遠心分離により取りだし(例えば、CEPAチューブ遠心分離を用いて)、そして湿潤形態で使用時まで冷却して保管した。
【0056】
ペレットとして得られた、湿った酵素を適切な濃度でリン酸緩衝液に溶解した。不溶性成分は濾別する。透明な濾液を、活性測定後、直接デオキシムルンドカンジンの脱アシル化に使用した。
【0057】
この沈殿物は、予め、塩(例えば、硫酸アンモニウム)、糖類(例えば、グルコース)または糖アルコール(例えば、ソルビトールもしくはマンニトール)のような添加物を加えることで、凍結乾燥形態でより長期にわたって安定に保管することも可能である。酵素沈降物の使用は、ストレプトマイセス・リビダンス発酵培地成分がこのようにして、側鎖除去の前に、除くことができるので、好ましい。
【0058】
〔実施例5〕
発酵によるリポペプチドの調製
核とも呼ばれる、式(II)の環状ペプチドは、関連する微生物を培養して基質として用いる式(I)の適切なリポペプチド(核の環外N−アシル誘導体)を、予め発酵させて得て調製した。例えば、バイオマスに付着する水不溶性のデオキシムルンドカンジン(V)は、欧州特許公開公報0438813A1に記載されそして以下に再掲される、アスペルギルス・シドウイイ(Aspergillus sydowii)を培養して得られる:
【0059】
デオキシムルンドカンジンは、アスペルギルス・シドウイイの生産株、好ましくは慣用の株の改良により選択された生産株を、バッチ発酵工程で増殖させることによって製造された。デオキシムルンドカンジンは、発酵が約3日間続いた後に初めて生成される古典的な二次代謝物である:
【0060】
デオキシムルンドカンジン産生アスペルギルス・シドウイイ株をエルレンマイヤー・フラスコ中で前培養として増殖させた。アンプルから胞子懸濁液の1mlを直接フラスコに植付けた。以下のパラメーターを維持した:
T=28℃;240rpm, 48−72時間。
【0061】
使用した前培養培地は以下のようであった:
【表4】

【0062】
滅菌後の培地のpHはpH6.9であり、そして培養終了時にはpH7−7.5であった。PMV(菌糸体体積%)は15と20%の間であった。工業的工程のために、二次前培養を同じ条件下および同じ培地で発酵させた。
【0063】
主培養槽は、振盪培養または前培養槽から1−6%の接種量で接種され、そして以下の培地を含んでいた:
【0064】
主培養用培地(MF3)
【表5】

【0065】
培養のパラメーター:
接種密度:0.5〜6%、好ましくは1〜2%;
温度:25〜33℃、好ましくは27〜30℃;
換気:0〜1.5vvm、好ましくは0.5〜0.8vvm;
攪拌用チップ速度:1.4m/秒(使用した攪拌装置に依存する)。
【0066】
培養は、T=25−35℃、好ましくは28−32℃で行った。わずかなゲージ圧0.2−1barを付し、そして溶解酸素濃度を連続的に>30%に制御した。この目的のために、好ましくは、段階的に増加させた、攪拌装置の速度(開始時は、95rpmでチップ速度は1.2m/秒)および換気速度(開始時は、0.2N/m3)を用いた。培養中にpHを制御することは不必要であった。しかしながら、これはこの工程の堅牢性を改善するために役立った。このpHは5.5〜7の範囲であり、好ましくは6.2−6.5であった。このpHは24〜30時間から先では硫酸を用いてpH6.5に制御した。発砲を防ぐために各種の消泡剤を用いることができるが、好ましいのはデスモフェン3600またはホダッグAFM−5である。デオキシムルンドカンジンの製造のために、培養工程を通して好ましい形態学的特性が望ましい。この小さなペレット状の増殖は、攪拌装置の選択により影響され、デスク型攪拌装置が、ペレット状増殖のためには特に適切である。
【0067】
培養全体の時間は240時間以上であって良く、ここで生成物の生成速度は長時間にわたって合理的に定常であり、そして培養の完了は、付随するオフラインの分析により定められる。培養完了時の生成物の濃度は、デオキシムルンドカンジンが800−1200mg/lの範囲であった。
【0068】
バイオマスを採取する前に、pHを、デオキシムルンドカンジンの最適な安定性が得られる、pH6.5から5.5、好ましくはpH6.0に調節した。
【0069】
〔実施例6.1〕
リポペプチドから対応する核(1)への脱アシル化反応
培養が完了した後、培養液を、培養上清およびバイオマスに分離した。各種の慣用的な濾過および分離技術をこの目的のために使用できる。加圧濾過装置が好ましく使用される。バイオマスは、必要な場合は、水で一度、加圧濾過装置上で洗浄し、そして脱アシル化反応のために反応容器中に移した。濾過液および洗浄液は廃棄した。
【0070】
このバイオマスを次に、水中で、付着しているリポペプチドと一緒に、好ましくは水の1〜2倍量で、再懸濁した。例えば、デオキシムルンドカンジン培養が完了した後、湿重量が30−50kgのバイオマスを水100−150L中に再懸濁し、脱アシル化反応のための当初のデオキシムルンドカンジンの濃度は0.5−1.5g/Lであった。懸濁液は、均質なペーストが得られるまで攪拌された。
【0071】
懸濁液を所望のpHに調節した。側鎖除去のために、次に脱アシル化酵素の溶液を、リポペプチドのグラム当り20−50単位の酵素、好ましくは25−40U/g、これは25−150U/Lに等しく、好ましくは25−80U/Lの量で、反応混合物中に加えた。
【0072】
リン酸緩衝液中で酵素を溶解した後、20−80℃の温度で、脱アシル化工程はそれ自身で進行し、この温度範囲は20−40℃が好ましく、30−35℃が特に好ましい。より高い温度は、環の開環および/または脱水反応のような、副産物生成を増加させるだろう。200Lの培養槽中での攪拌装置の速度は100−250rpm、好ましくは120−180rpmであった。
【0073】
脱アシル化酵素は、pH4から9のpH範囲、好ましくはpH4.6からpH7.8の範囲で、用いることができ、酵素反応の最適pHは5.2−6.2である。より高いpH値は、この場合、式(IX)および(X)の開環反応または脱水反応の副生成物の生成もまた増加するために、避けなければならない:
【化11】

【0074】
脱アシル化反応の反応時間は変化し、そして選択されたpHおよび選択された温度に大きく依存する。側鎖酸の酵素的除去の終結は、付随する分析用HPLCを用いて、反応上清中の核生成の測定を介して、決定される。例えば、200L規模でのデオキシムルンドカンジンの脱アシル化反応において、脱アシル化反応は20〜30時間後に完了した。
【0075】
〔実施例6.2〕
リポペプチドの対応する核(2)への脱アシル化反応
デオキシムルンドカンジンの脱アシル化反応を、実施例6.1のように行った。デオキシムルンドカンジンの菌糸体を濾過し、そして水で洗浄した。この後、等量の水で再懸濁し、そしてpH5.5および30℃で核へ脱アシル化反応を行った:
培養濾過液:160L
培養濾過液の純度:72.3面積% (HPLC)
負荷:3.8g/L
主要画分:55L
主要画分純度:95.1面積% (HPLC)
凍結乾燥核:34.1g(収率30%)
凍結乾燥物純度:88.0面積% (HPLC) − 78.4% w/w(対内部標準)。
【0076】
〔実施例7〕
核の単離および精製
脱アシル化反応が完了した後、アスペルギルス・シドウイイのバイオマスを、遠心分離または濾過により、必要な場合は濾過補助剤を加えて、除去した。除去したバイオマスは廃棄した。水溶性の核を含有する、透明な濾過液を、次いでカラムクロマトグラフィーにより精製した。ポリスチレン・ビニルベンゼン共重合体、ポリアクリレートまたはポリメタクリレートのような疎水性重合体を、固定相として用いた。これの代替物として、核はまた陽イオン交換クロマトグラフィーにより精製できる。固定相としてポリスチレン・ビニルベンゼン共重合体上のカラムクロマトグラフィーによる精製が好ましい。
【0077】
水を溶出液(移動相)として用い、有機酸およびアルコールを、選択性を増加させるための共溶媒として加えた。好ましい移動相は、少量の酢酸および1−または2−プロパノールを含有する水である。酸を、開環または脱水化合物のような、存在する不純物を標的にして除去するために加えた。
【0078】
溶出液を分画して回収し、そして核を含有する画分を、付随する分析HPLCで定量した後、合体し、次にナノ濾過(nanofiltration)により濃縮した。ナノ濾過のために用いる膜は、50−70%の塩化ナトリウム、好ましくは50% NaClを保持する(retain)ことができた。
【0079】
得られた核濃縮物(保持物)を、次に凍結乾燥または噴霧乾燥した。得られた固体核は、直接にそして追加の精製なしに、活性化芳香族側鎖酸による再アシル化反応の出発物質として、使用できた。
【0080】
工業規模でのデオキシムルンドカンジン核の分離と精製
【0081】
酵素的側鎖除去が完了した後、1000Lの脱アシル化反応混合物を、加圧濾過により濾過した。取り除いたバイオマスを、加圧濾過上で、水で洗浄し、そして廃棄した。濾過液および洗浄液を合体して、レイヤー(ザイツK−200型)を通す濾過により、再度精製した。濾過液は6〜6.5のpHを有しなければならない。pHは、必要な場合には、2M 酢酸または2M水酸化ナトリウム溶液を用いて、再調節しなければならない。
【0082】
デオキシムルンドカンジン核を500−700mg/L含むことができる、透明溶液の750Lを、固定相としてアンバークロム(R)CG161mの25Lを詰めたクロマトグラフィーカラム上に、100−200cm/時のリニア流速で、負荷した。固定相床の高さは26cmであり、そしてカラム内径は35cmである。溶液の伝導度は重要ではない。
【0083】
クロマトグラフィーが進行している間、λ=280nmでの吸光度、pHおよび伝導度を連続的に測定し記録する。カラムのフロースルー液を1つの画分に回収し、HPLC試験の後で廃棄する。
【0084】
負荷が完了した後、固定相を、100−150cm/時のリニア流速で、カラムからの流出液中で連続的に測定している吸光度がほぼベースラインに達するまで、精製水で洗浄する。洗浄溶液を1つの画分に回収し、HPLC試験の後で廃棄する。
【0085】
洗浄が完了した後、デオキシムルンドカンジン核を、100−150cm/時のリニア流速で、10倍の床体積を用いて、無勾配溶離的に溶出する。脱着のために用いる水に、0.1% v/v酢酸および2% v/v 2−プロパノール(または1−プロパノール)を、選択性を増加させるために加える。溶出液を5−25Lの画分に回収し、この画分の大きさは、吸光度を測定し連続的に記録することにより制御される。
【0086】
画分の全てからアリコットを採取し、そしてその中のデオキシムルンドカンジン核の純度および含量を、付随するHPLC分析により測定する。>90面積%の純度を有する、核含有画分を合体させる。全溶出液(50−100L)を次に、塩化ナトリウム保持が50%である膜
を用いるナノ濾過により、2〜5倍濃縮する。
【0087】
得られる核保持物(nucleus retentate)を、濾過により無菌化し、そして続いて凍結乾燥または噴霧乾燥する。カラムクロマトグラフィーによるデオキシムルンドカンジン核の精製由来の周辺画分は再利用できる。
【0088】
乾燥後、得られるデオキシムルンドカンジン核を、HPLC分析後、適切なプラスチック容器に移される。この容器はさらに使用されるまで、−25℃で保存される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)リポペプチドを発酵により調製し、このリポペプチドはバイオマスの細胞に結合しており、そしてこのバイオマスを付着するリポペプチドと共に取り出し;
(b)工程(a)からの付着するリポペプチドを有するバイオマスを水性系中に再懸濁し;
(c)工程(b)からのバイオマスの懸濁液に、適切な脱アシル化酵素を溶解したかまたは固形物の形態で添加し、そして対応する核を生成させ、そして
(d)この核を場合により分離しそして精製し、
ここで、工程(a)において発酵により得られたリポペプチドは、発酵の終了後にさらに精製することなしに、細胞結合バイオマスとして、工程(c)における脱アシル化酵素と直接反応させ、それによりアミド結合を介して結合しているN−アシル鎖が取り除かれる、
リポペプチド類からN−アシル側鎖を酵素的に除去して対応する核を生成する方法。
【請求項2】
リポペプチドは、式(I):
【化1】

[式中、
R1は、H、OHまたはNRxRyであり、ここで
RxおよびRyは、独立してそれぞれHまたは(C1−C6)アルキルであり、
R2は、H、OH、NH(CH2)2NH2であり、
R3は、H、OHであり、
R4は、H、Me、NH2、−NH−C(=NH)NH2であり、
R5は、H、Me、CH2−C(=O)NH2、CH2CH2NH2であり、
R6は、H、OHであり、
R7は、H、OHであり、
R8は、H、OSO3H、OSO3Na、NH−C(=O)CH2NH2であり、
R9は、Meであり、そして
R10は、H、OHであり、
R11は、C(O)−(C6−C24)アルキル基、C(O)−(C6−C24)アルケニル基、C(O)−(C6−C24)アルカジエニル基、またはC(O)−(C6−C24)アルカトリエニル基である]
を有し、
式(II):
【化2】

[式中、R1〜R10は、式(I)について記載した意味を有し、そして式(I)および(II)の化合物中に存在するアルキル、アルケニル、アルカジエニルおよびアルカトリエニル基は、分枝鎖であってもまたは直鎖であっても良い]
の対応する核を生成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
核(II)がさらに工程(e)で酸誘導体と反応して、式(I')(式中、R1〜R10は、式(I)について記載した意味を有し、そしてR11基は、C(O)−フェニル−(C5−C8)−ヘテロアリール−フェニル、C(O)−ビフェニルまたはC(O)−テルフェニル基である)の半合成リポペプチドを生成する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
化合物(I)のR11基中の(C6−C24)アルキルが、n−ヘキシル、n−オクチル、n−デカニル、n−ウンデカニル、n−ドデカニル、n−トリデカニル、n−テトラデカニル、n−ペンタデカニル、n−ヘキサデカニル、n−ヘプタデカニル、n−オクタデカニル、n−ノナデカニル、n−エイコサニル、n−ジコサニル、9,11−ジメチルトリデカニル、または11−メチルトリデカニルである、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
化合物(I)のR11基が、
【化3】

である、請求項2〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
化合物のデオキシムルンドカンジン(V):
【化4】

が工程(a)で製造され、
そして、デオキシムルンドカンジン核(VI):
【化5】

が工程(c)で生成する、請求項2〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
リポペプチドが式(III):
【化6】

[式中、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、RxおよびRyは、独立してそれぞれ、Hまたは(C1−C6)アルキルであり、そして
R20は、C(O)−CH(CH2COR21)−NH−CO−(C6−C24)アルキル基、
C(O)−CH(CH2COR21)−NH−CO−(C6−C24)アルケニル基、
C(O)−CH(CH2COR21)−NH−CO−(C6−C24)アルカジエニル基、または
C(O)−CH(CH2COR21)−NH−CO−(C6−C24)アルカトリエニル基であって、ここでR21はOHまたはNH2である]
を有し、
式(IV):
【化7】

[式中、R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、RxおよびRyは、式(III)について記載した意味を有し、そして式(III)および(IV)の化合物中に存在するアルキル、アルケニル、アルカジエニルおよびアルカトリエニル基は、分枝鎖であってもまたは直鎖であっても良い]
の対応する核を生成する、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
R12、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、RxおよびRyがHである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
R20が、
【化8】

である、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
化合物(VII):
【化9】

が工程(a)で製造され、
そして化合物(VIII):
【化10】

が工程(c)で生成する、請求項7〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
脱アシル化酵素が、アクチノプラネス・ウタヘンシスの培養で得られる、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
脱アシル化酵素が、形質転換したストレプトマイセス・リビダンスの培養で組換え技術的に得られる、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。

【公表番号】特表2008−523789(P2008−523789A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−545925(P2007−545925)
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【国際出願番号】PCT/EP2005/013336
【国際公開番号】WO2006/063783
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(397056695)サノフィ−アベンティス・ドイチュラント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (456)
【Fターム(参考)】